ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第14巻 新九郎、社会的に色々と成長す!?
借財という大敵を何とか退け、そしてついに無役から脱出して三冠王を返上した新九郎。さらに新九郎の身に大きな変化が訪れることになります。しかしその間にも世の状況はめまぐるしく動き、関東でも決定的な変化が……
膨らみ続ける借財を前に、一度は伊勢家解散の危機に陥ったものの、分一徳政を使って心ならずも借財をクリアした新九郎。さらに将軍義尚の奉公衆、それも申次の役に就き――と、無位・無冠・無役の三冠王からついに脱出であります。
そして、新九郎の身の上はまだ動き続けます。それは嫁取り――ついに新九郎も妻を迎えることになったのです。しかし、職にもついたし、次は嫁でも――などという軽い(?)ノリではないのが本作らしいところであります。何しろそこには、義尚の屈託、そして義政との軋轢があるのですから。
ようやく将軍位に就いたものの、その上にはなお義政の存在が厳然として存在する義尚。若い彼にとってその状況は楽しいはずはもちろんありませんが、それが彼の乱行に繋がれば、周囲の者も穏やかではいられません。
彼に寵愛(意味深)され引き立てられた元猿楽師・広沢彦次郎尚正への周囲の反発(細川政元のリアクションには爆笑)、義尚の奉公方と、大御所に近い奉行衆の対立――そんな状況下で、娘のぬいを義尚に仕えさせるよう求められていた小笠原政清は、新九郎に声をかけ……
と書くと政略結婚、というより押しつけのようですが、しかし新九郎にとってもこれは願ってもない、いや自ら望んだ婚姻。新九郎自身の想いだけでなく、ぬいはこれまでもその明るさと拘りのなさで、伊勢家の郎党たちに絶大な人気を得ていたのですから。
かくて結ばれた新九郎とぬい。生真面目で細かい新九郎と、鷹揚でアバウトなぬいと――似てないからこそぴったりと合う、そんな微笑ましい夫婦の姿には、不穏な展開が続くからこそ、ホッとさせられます。
しかしこの辺りの、新九郎の家庭事情と、幕府の状況を絡め、有機的に物語を描いてみせる手法は、これまでも同様ではあるのですが――ようやく社会的に一人前になってきた新九郎の結婚という人生の一大イベントと重ね合わせる形で(というかそのイベントのみを描くのではなく)、平時においても内部では嵐の予兆渦巻く幕府の状況を描くのには、ただただ、巧いなあと嘆息させられるのです。
(巧いといえばこの巻の表紙――ただ一つの絵で二人の関係性を感じさせるのもまた実に巧い)
しかし、そんな中で、生真面目だった新九郎の中にも、徐々に「黒い」部分が窺われるようになります。
これまで世知に長けた相手に翻弄されるばかりだった従兄弟の盛頼に対しても対等に渡り合い、そして伊勢家の所領を巡っても、彼自身が驚くような黒い内容を呟き――彼もまた乱世の申し子と、後の「活躍」を思わせる姿は、頼もしいと喜ぶべきか、スレたと悲しむべきか、複雑な気持ちになります。
そして、その「活躍」の舞台となる関東も、激動前夜というべき状況となります。
前巻で堀越公方・足利政知が下したある決断が、京の状況と結びついたことで後の波乱を予感させ(ここで描かれるあるキャラの表情がまた絶品!)、そしてやはり前巻での新九郎の仕掛けが遠因となったか、彼にとって越えられない壁であった太田道灌がついに……
新九郎の出番はもう少し先ではありますが、しかしもう一つの物語の舞台として、全く目が離せない関東の情勢。さらに次巻ではそこに、再び駿河の状況が描かれるというのですから――身を固めたとはいえ、新九郎の周囲はこれまで以上に慌ただしくなることは間違いないのであります。
『新九郎、奔る!』第14巻(ゆうきまさみ 小学館ビッグコミックススペシャル) Amazon
関連記事
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第1巻 ややこしい時代と世界を描く「漫画」の力
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第2-3巻 応仁の乱の最中のホームドラマが生み出す「共感」
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第4巻 地方から見る応仁の乱の空間的、時間的広がり
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第5巻 「領主」新九郎、世の理不尽の前に立つ
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第6巻 続く厄介事と地方武士の「リアル」
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第7巻 室町のパンデミックと状況を変えようとする意思
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第8巻 去りゆく人々、そして舞台は東へ
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第9巻 新九郎戦国に立つ!?
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第10巻 舞台は駿河から京へ そして乱の終わり
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第11巻 想い出の女性と家督の魔性
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第12巻 家督問題決着!? そして感じる主人公の成長と時間の経過
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』第13巻 ついに借財ゼロ、三冠王返上!?
| 固定リンク
