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2023.10.03

藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第5巻 今明かされる衝撃の真実 そしてフランケンシュタインという物語

 雑誌連載の方は一足先に大団円を迎えましたが、単行本の方は今こそクライマックス。ついにメアリーがエルシィの「正体」を知った一方で、エルシィもまた、己が何者であったか思い出すことになります。はたして舞踏会を目前に、二人は何を選ぶのか……

 女王陛下のプランタジネット舞踏会に送り込まれる〈7人の姉妹〉を迎え撃つため、その一人の身体と村娘の頭を繋ぎ合わせて生まれたエルシィと、彼女の貴婦人修行の教師に選ばれたメアリー・シェリー。
 本番前の予行として参加した舞踏会で、暗殺者の末妹であるジャージダの襲撃を受け、追い込まれたエルシィは、あることをきっかけに別人のような動きを見せてジャージダを撃退――一方メアリーは、息子のパーシーとエルシィの接近に悩みつつも、エルシィの「正体」に疑問を抱き、その真実を探ることを決意するのでした。

 そしてある疑惑を深めたメアリーは、エルシィの生みの親であるディッペル博士の研究室に乗り込むのですが――というわけで、ここからがこの巻の最初のクライマックス。メアリーの小説のフランケンシュタインよろしく死体からエルシィを生み出した博士に、メアリーはある「事実」を突きつけることになります。
 その「事実」についてはここでは述べません。しかし物語当初から微かに違和感を感じていたにもかかわらず、設定的に何となく納得していた点を一気にクローズアップしてみせた時――ほとんどミステリのトリックが明かされた瞬間のような衝撃を受けることは、間違いありません。

 しかし衝撃を受けるのはそれだけではありません。そこで明かされた「犯人」のあまりに非道な行為は、読んでいる我々も、それを聞いたメアリーと同じような表情になるほどのものなのですから。
 しかし、そこからのメアリーの行動は、これまでの彼女の奮闘と苦しみを見てきたからこそ、喝采を上げたくなるのもまた、間違いありません。
(尤も、暴を以て暴に易うが自立の証と読めなくもないのは――もちろん誤読なのですが――どうにもモヤモヤするところですが)


 さて、メアリーが真実に直面する一方で、エルシィもまたほぼ同時期に、己の真実を知ることになります。その時、彼女が何を選ぶのか――本作はその重要極まりない場面を、本作を構成するもう一つの要素と結びつけることで、この上なく感動的に描きます。
 真実を知ったものの、はたしてエルシィに如何に向き合うべきか、答えのないままに帰ってきたメアリー。かつて『フランケンシュタイン』を発表した時の世間の態度を思い出し、迷い続けるメアリーが、そこで見た光景とは……

 いうまでもなく、本作の重要なモチーフであり、作中で様々な意味を持たされている『フランケンシュタイン』という物語。それは人造人間エルシィのイメージの原点であり、メアリーがエルシィと関わるきっかけであり、そしてすぐ上で触れたようにメアリーにとっての大きな成果にしてトラウマであります。
 そしてここで『フランケンシュタイン』にもう一つ、新たな意味が加わります。ここで与えられた意味とは……

 これまた詳細は触れませんが、ここでどうしても思い出してしまうのは、誰もが知る物語を新たな角度から見つめ直し、語り直してみせた作者の『月光条例』。あちらでは物語の登場人物を一度狂わせることでその物語の意味を問うてみせたわけですが、本作は「人造人間」自身に人造人間の物語を触れさせることで、それと同じ効果を挙げてみせたと感じます。
(そしてそれが共に陰の存在である「月」をモチーフにしているのは実に興味深い――というのは蛇足ですが)


 いずれにせよメアリーは、そしてエルシィもまた、自分の意志で決断し動き始めました。その決断の先にある結末は――次巻、バッキンガム宮殿に舞台を移して、いよいよ最終章であります。


『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第5巻(藤田和日郎 講談社モーニングコミックス) 

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