さいとうちほ『VSルパン』第7巻 『八点鐘』開幕 紳士と美女、対等な冒険の始まり
前巻で「緑の目の令嬢」編が完結した『VSルパン』は、この巻から「八点鐘」編に突入。薄幸の美女・オルタンスとルパンを思わせる快男児・レニーヌ伯爵が、八つの謎に挑むことになります0。はたして廃墟に響く時計の鐘が意味するものとは……
狂人の夫と結婚した上、持参金は夫の叔父・エーグルロッシュ伯爵に奪われ、駕籠の鳥の状態の美女・オルタンス。自棄になってつまらぬ男と駆け落ちをしようとしたオルタンスですが――その前に青年貴族レニーヌ公爵が現れ、駆け落ちを妨害するのでした。
そのまま、彼女を近くの廃墟・アラングル荘に誘うレニーヌ。彼の巧みな手腕で二十年間放置されていた屋敷に入り込んだ二人ですが、突然古時計が動き出し、八時の鐘が鳴り響いたではありませんか。
そして古時計の中に隠されていた望遠鏡を見つけたレニーヌは、見晴らし台の銃眼から、数百メートル先の塔を覗いてみるのですが、そこにあった恐ろしいものとは……
不幸な結婚に苦しむ美女と、謎めいた冒険家の紳士、そして怪奇なムード漂う事件――と、冒頭からびっくりするくらいルブラン風味濃厚な第一話「塔のてっぺんで」。
ここでレニーヌとオルタンスが見つけたのは、無惨にも白骨化した二人の死体。その死体の謎を鮮やかに解いてみせるレニーヌですが、それは同時に、オルタンスの身を自由にすることでもあって――と、ここから『八点鐘』という物語が真にスタートすることになります。
あまりに鮮やかなレニーヌの手並みを目の当たりにして、一体何者なのかと問うオルタンスに対し、単なる冒険家だと語るレニーヌ。
しかしレニーヌはそれだけでなく、オルタンスを冒険に誘うのです。
「今日の冒険はあなた自身の人生に関することでした でも他人のためにする冒険だって感動的です」
「救いを求める人があったら力を合わせて救い 犯罪の匂いや苦痛の叫びに気付いたら出かけていくんです」
もちろんそんな誘いに疑いを抱くのが当然ですが、それに対してもきっちりと「契約」を交わすのがレニーヌの紳士たる由縁です。
最初の冒険で古時計が八時を打った――すなわち八点鐘を鳴らしたのにちなんで、今後三ヶ月の間に、今日のものも含めて八つの冒険をしましょう。もちろん途中で面白くなくなれば抜けて結構。しかし最後まで付き合ってくれたなら、最後に自分の願い(と言って彼女の唇をじっと見つめる)を聞き届けて欲しい、と……
いやはや、全八話の連作短編のスタートして、これ以上のものはないくらい魅力的な滑り出しではありませんか!
しかし本作で真に感動的なのは、レニーヌがオルタンスを「救い出す」のでもなく、「彼女のために」冒険する(してあげる)のでもなく、彼女を冒険に誘うことでしょう。
ここでレニーヌが「ぼくの相棒におなりなさい」と誘い、いやになったといつでも抜けて良いと語るのに明らかなように、彼とオルタンスはあくまでも対等な関係であり、彼女の主体性・自主性をどこまでも重んじているといえます。
それは駕籠の鳥として自由を奪われ、そして寄ってくるのも贅沢な生活を送らせる=何かを与えてやるという男だった彼女にとって、何よりの救いであり、その死にかけていた心を甦らせたのではないでしょうか。
原作の時点で非常にロマンチックで、前章の『緑の目の令嬢』とは別の意味で少女漫画向きの『八点鐘』。しかしこうして本作で読み返してみると、原作で描かれていたものは、今なお全く古びていない、いや新たな輝きを放って感じるのです。
と、第一話の時点でテンションが上がりまくってしまいましたが、その後のエピソードももちろん魅力的な内容揃いであります。
カフェで叫び声を上げた男と出会ったことから、無実の男を救うために事態が二転三転、最後は思わぬトリックも飛び出して緊迫したサスペンスが展開する「水瓶」
オルタンスの妹・ローズが出演する映画を観たレニーヌが、ローズに異常な視線を向ける端役に注意を惹かれる「映画があばく恋」
元々原作はミステリとしても高く評価されている作品ですが、各話毎に全く趣向の異なる物語を楽しませていただきました。
そしてこの冒険は残すところあと五つ、少しでも早く次なる冒険を見たいというのが、偽らざる心境であります。
(ちなみに「映画があばく恋」は原作では第四話だったのですが、本来の第三話は次巻に収録されるようで一安心)
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