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2023.10.18

細川忠孝『アダバナ 仇花』 新選組の「人斬り」 その知られざる青春

 先日、新選組マンガ『ツワモノガタリ』が大団円を迎えた作者が、2016年に「ヤングキング」誌に連載した作品であります。新選組で人斬り鍬次郎と恐れられ、龍馬を斬ったとされる男・大石鍬次郎。その鍬次郎の秘められた物語とは……

 一橋家の近習番として仕えてきた大石家の嫡男・金之助(鍬次郎)は、「武士は弱きを助ける者」という父の教えを守り生きてきた腕自慢の青年。ようやく父の跡を継ぎ、出仕することになった鍬次郎ですが――しかしその直後、自分を慕う近所の子供たちが一橋家の家老に無礼討ちで斬られるという事件が起きます。
 上役による無礼討ちという状況に、口を噤んだ父に対し、自分の信念のもとに立ち上がり、家老を斬った鍬次郎。しかしそれが元で父は処刑、妹ら一家は離散し、自分は役人に追われることになるのでした。

 追っ手の一人で小太刀を得意とする狂的な男・佐々木只三郎に追い詰められ、あわやというところ鍬次郎を助けた男――坂本龍馬は、鍬次郎を同志に誘い、同郷の友人だという岡田以蔵と引き合わせるのですが……


 人斬り集団・新選組の中であえて「人斬り鍬次郎」と呼ばれて恐れられた大石鍬次郎。監察という役目に就き、暗殺にその刃を振るった――伊東甲子太郎暗殺も彼の仕業だった――というダーティなイメージから、フィクションの世界でもしばしばネガティブな姿で描かれる印象が強い人物であります。坂本龍馬が暗殺した際に実行犯として疑われ、拷問を受けたというのも、このイメージが災いしてという気がしないでもありません。

 そんな鍬次郎ですが、本作は彼は「武士は弱きを助ける者」という信念を愚直に守る青年として造形し、そしてそれ故に次々と窮地に陥る姿を描くことになります。
 なんの罪科もない子供を殺した家老を叩き斬り(これはこれで大概ですが)、佐々木只三郎に殺されかかる。龍馬と知遇を得たかと思いきや、今度は岡田以蔵に命を狙われる……

 いずれも源を辿れば彼の愚直な生き様が招いたものではありますが、しかしそのたびに凄絶な剣戟を繰り広げ、ボロボロになりつつも必死に生き延びる姿には、これはこれで大丈夫の生き様――というのは言い過ぎにしても、従来のダーティなイメージとは全く異なる、ある種の清々しさすら感じさせる姿であります。

 その一方で、彼の前に現れる連中はいずれも曲者揃いであります。自分より大きい相手の前では異常にビビるのに、小太刀を手にすると異様なテンションで暴れる佐々木只三郎。一見「いつもの」キャラのようでいて、この巻の終盤でその真の顔を見せる龍馬(これはこれで実に「らしい」と思います)。その中では以蔵が一番「いつもの」キャラを感じさせますが、その殺意が向けられる相手は――と、独自性を感じさせるのが面白いところです。

 その以蔵はさておき、後に命のやり取りという点でいささか複雑な関係となる鍬次郎と只三郎と龍馬の三者の因縁が、この時点でなんとなく察せられるのもまた、本作ならではでしょう。

 とはいえ本作は単行本に第一巻と記されているものの(ただし電子書籍版は販売サイトに巻数が表記されていない)、その後約七年間にわたり、動きがない状態であります。
 本書がなかなか面白いところで終わっており、また『ツワモノガタリ』の存在もあって、続きを読んでみたいところではありますが……


 なお、本書の巻末には、連載前に掲載された読み切り版の『アダバナ 仇花』が収録されています。
 こちらはより強烈かつストレートな形での鍬次郎と龍馬の因縁の始まりとその結末が描かれていますが、あるいは連載版もここに向かっていたのかもしれない――と想像してみるのは、なかなか面白いものではあります。


『アダバナ 仇花』(細川忠孝 少年画報社ヤングキングコミックス) Amazon

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