« 真園めぐみ『やおよろず神異録 鎌倉奇聞』 鎌倉初期に展開する人と神の物語 | トップページ | 高田崇史『江ノ島奇譚』 稚児ヶ淵の真実 高田流時代奇譚 »

2023.10.30

藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第6巻 大団円 そして「怪物」たちが選んだ道

 『黒博物館』シリーズ第三弾も、これにて完結であります。ついに開催されたヴィクトリア女王のプランタジネット舞踏会に現れる六人の美しき暗殺者――これに挑むはただ一人、エルシィのみ。はたして血戦の行方は、そして戦いが終わった時、エルシィとメアリーは――いま、物語は大団円を迎えます。

 プランタジネット舞踏会で女王の命を狙う〈7人の姉妹〉と戦うために生み出された「人造人間」エルシィ。その誕生に隠された重大な秘密を知ったメアリーはエルシィを戦いの運命から解き放とうとするのですが――時同じくして自分の記憶を取り戻したエルシィは、己の使命を果たすため、かつての姉妹たちに宣戦布告するのでした。
 メアリーとエルシィ、そして彼女たちを見守るパーシーやエイダ、ジャージダ――様々な人々の想いと共に、いま舞踏会が始まります。

 かくてこの最終巻では、舞踏会に向かうエルシィとティモシー卿邸のメイドたちの別れから始まり、後はラストまでほとんど全てが舞踏会――すなわち、エルシィと姉妹たちの血戦がほぼ全編に渡って描かれることになります。

 〈悲哀〉〈陰気〉〈冷血〉〈憂鬱〉〈執着〉〈嘆き〉――ついにその姿を現した姉妹たち(一人一人のコスチュームが素晴らしい!)を前に、見事なまでのかませ犬っぷりを発揮した近衛兵の皆さんに替わり、ただ一人、女王を守るために立ちふさがったエルシィ。かくてここからはエルシィと妹たちの舞踏――いや闘いの時間であります。

 基本となる回転剣術は同じながら、それぞれ手にする得物と戦法は異なる六人相手に繰り広げられる闘いは、まさしく作者の真骨頂。装飾を凝らした衣装をまとっての激しく複雑な動きの闘いを、ここまできっちりと「見える」形で描いてみせるのは、これはもう作者ならではというほかありません。

 そしてバトルだけでなく、その妹たち――かつての同門としてまさしく姉妹同然に育った者たちとの対峙の中で、エルシィと彼女たちを分けたものが、言い換えればエルシィの成長が描かれるのも泣かせるところであります。

 メアリーとの出会いがなければ、彼女もまたその中にいたであろう姉妹たち。エルシィと妹たちとの違いは、真っ暗な宇宙の中で、地球を、すなわち自分の生の中心とすべき者を見つけることができたか否か――言い換えれば己が命の遣り取り以外で他者と結びつくことができたか否かの違いなのだと感じます。
(連載当時はちょっと違和感のあった、最終回でエルシィが女王に返した言葉の意味も、今であれば納得できます)


 というわけで、闘いの盛り上がりととそれを繰り広げる者の高ぶりがシンクロして、まさに本作のクライマックスに相応しい内容となったこの最終巻なのですが――敵が六人というのは、ちょっと多かったかな、というのが正直な印象ではあります。
(何だかちょっと強引じゃない!? という仕掛けを用意する敵もいたりして……)
 これは仕方ないことではありますが、バトルの間はメアリーたちが完全に驚き役にならざるを得ず、それが連続するのは――と、ひねくれた読者としては言いたくなってしまうのです。

 しかしそんなひねくれた読者も号泣必至なのが結末であります。
 舞踏会にまつわる物語を語り終えたメアリーと、それから七年後に語られる後日譚――それが描くもののは、物語が皆の期待どおりの結末を迎えたことと同時に、「怪物」と呼ばれた女性たちがその「怪物」とどのように向き合ったか、でした。

 自分が自分らしくあるために生き、そのために「怪物」と呼ばれた女性たち。しかしそれでも、いやそれだからこそ私は私らしく生きていく――そう高らかに謳い上げる姿は、本作の結末に誠に相応しいというほかありません。


 犯罪や事件にまつわる証拠品という、時代の暗部の象徴をモチーフとしながら、人の心の最も輝かしい部分を描き出してきたこの『黒博物館』シリーズ。その現時点で最大長編の結末に相応しい幕切れであります。


『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第6巻(藤田和日郎 講談社モーニングコミックス) Amazon

関連記事
藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第1巻 彼女たち二人の冒険の始まり
藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第2巻 あの夜、彼女が夢見た「人間創造」
藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第3巻 奇妙な即席コンビと、新たな奇人の登場と
藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第4巻 過去からの刺客と怪物の表情と
藤田和日郎『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』第5巻 今明かされる衝撃の真実 そしてフランケンシュタインという物語

|

« 真園めぐみ『やおよろず神異録 鎌倉奇聞』 鎌倉初期に展開する人と神の物語 | トップページ | 高田崇史『江ノ島奇譚』 稚児ヶ淵の真実 高田流時代奇譚 »