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2023.10.22

士貴智志『どろろと百鬼丸伝』第9巻 死霊と異邦人の愛の結末 そして物語は「岬」へ

 いよいよ単行本二桁も目前となった新どろろ、この巻の冒頭で鯖目との戦いは決着して物語は新たな展開を迎えます。どろろの背中の地図に描かれた地を前に、どろろと百鬼丸の前に現れた者たちとは――新たな戦いの予感が漂います。

 旅の最中、尼僧の幽霊と巨大な赤子の妖怪に導かれ、皆同じ顔の女たちと百姓が暮らす不気味な村にたどり着いたどろろと百鬼丸。領主の死んだ目のような男・鯖目とその妻・舞姫に歓待される二人ですが、やがて鯖目と舞姫は驚くべき正体を現します。
 百鬼丸の体を奪った死霊の一人である鯖目と、宇宙から漂着した異邦人である舞姫――故郷に帰ろうとする舞姫、そして彼女と結んで世界を制覇しようとする鯖目と、百鬼丸は激闘を繰り広げることになります。

 しかし鯖目との戦いは前巻でほぼ決着し、この巻の冒頭で描かれるのは、鯖目と舞姫の物語のエピローグというべき内容であります。百鬼丸に敗れた鯖目の前で、宇宙からの迎えが訪れた舞姫。しかし彼女たちに殺された子供たちの幽霊は、舞姫を斬れと百鬼丸とどろろに求めます。はたして二人の選択は……

 と、これは前巻でも描かれていましたが、原作ではむしろ村人を扇動して、幽霊たちとともに、舞姫の子である尼僧たちを殺しにかかっていたのとは対照的に、どろろは舞姫たちに情けをかけようとします。
 もちろん犠牲者である幽霊たちにとって、舞姫とその眷属は憎んでもあまりある存在であり、第三者であるどろろが、その是非を判断できるものではないかもしれません。しかし故郷に帰りたいと嘆く存在を前に、非情にはなれないという想いもまた、どろろには相応しいと感じられるのです。

 これまでも、原作で悲劇に終わった内容を(時に完全でないものの)回避し、より希望ある物語を描いてきた本作。だとすればここで描かれる鯖目と舞姫の愛の結末も、本作に相応しいものというべきなのでしょう。


 そして「鯖目の伝」に続くのは、疫病で滅びかけた村の池に潜む怪を描くオリジナルストーリー「水に潜みしものの伝」。腹を膨らませ、制止されても憑かれたように水を飲み続ける村人たちと、その村人たちを支配する「水」、そしてそこに潜む存在など、怪奇色濃厚な展開は、これはこれで実に「らしい」と感じます。

 が、その正体がメジャーすぎてインパクトが小さいのが残念なところで、ある意味本筋に関わらない、番外編的な印象も強い内容ではあります。(本編の「未来」を舞台にしたプロローグとエピローグも、効果的とは言い難い印象)
 もっとも、この章のメインは、水に見せられた幻覚の中でどろろが思い出す母との思い出と、そこから抜け出したどろろに百鬼丸がかける言葉なのかもしれませんが……


 そしてこの巻の後半でスタートする「背負いしさだめの伝」では、季節は変わり、いつの間にか百鬼丸も三十三匹の死霊を斬ったことが語られます。
 残すところあと十五匹と、二人の旅も佳境に入ったことが窺われますが――ここで二人が見つけたのは、どろろの背中に描かれた地図の風景。そしてそこに現れたのは、そこに隠された財宝を狙う、どろろの父の部下だった男・イタチ……

 と、原作では後半の一つの山場であった「無情岬」のエピソードにいよいよ突入することになります。野盗たちの首領でありながら妙に人の良いところのあるイタチ、不気味な存在感を放つ少年・不知火と、早くも役者が揃ってきましたが、しかし本作ではそこに新たな人物が加わる様子であります。

 それは多宝丸――本作においては生き延び、そして百鬼丸とは和解した彼が、この巻のラストでは、自分の生き方を見つめなおした末に、すっかりいい顔の男になって再登場。なんだか百鬼丸よりも主役らしい雰囲気すら得た彼が、この先物語にどのように絡むのか、大河ドラマならではの楽しみがあります。


『どろろと百鬼丸伝』第9巻(士貴智志&手塚治虫 秋田書店チャンピオンREDコミックス)

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