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2023.10.29

真園めぐみ『やおよろず神異録 鎌倉奇聞』 鎌倉初期に展開する人と神の物語

 鎌倉時代初期を舞台に、人と精霊と神の入り交じる世界で、運命に翻弄される二人の青年を描く物語であります。精霊の恵み豊かな遠谷の地で生まれた幼なじみ同士の真人と颯。しかし遠谷が謎の武士の一団に襲われたことから、二人の運命が大きく動き出します。

 鎌倉幕府二代将軍の時代、神が姿を現し、精霊の恵み豊かな遠谷に生まれ、今は薬の行商で各地を回る青年・真人と、彼の幼なじみで、鎌倉で商人として暮らす颯。村の掟で、村祭りのために帰郷した二人ですが――しかし祭りを目前としたある日に、村を奇怪な物の怪を連れた正体不明の武士が襲撃し、村長の屋敷の人々を殺害するのでした。
 その時、村の神社にいた二人ですが、殺した人間たちの身を使って神域を穢した武士たちは神社の結界の中に入り込み、祀られていた御神刀を奪うのでした。

 精霊神の力を借りて己の力を増すことができる真人は、その場に現れた金色の神の力を借りて物の怪たちを倒したものの、体力を消耗し尽くした末に意識を失うことに。そして意識を取り戻した時、真人は颯が武士たちに連れ去られたと聞かされて……


 源頼朝と北条政子の間に生まれ、鎌倉幕府第二代将軍となりながらも、いわゆる鎌倉殿の13人に実権を奪われた源頼家。本作はその頼家の時代を背景に描かれる時代ファンタジーであります。
 この時代を舞台とするフィクションは決して多いわけではありませんが、その中でも本作が特にユニークなのは、人の世界以上に、神や精霊の世界を描くことでしょう。

 人が暮らす世界の傍らに存在し、時に人に恵みをもたらし、あるいは害をもたらす精霊や神。本作の主人公・真人は、生まれつきそれらの存在を鮮明に見る力を持ち、そしてその力を借りることによって、人並み外れた力を発し、そして物の怪や狂った神を祓い、鎮める力を持つのであります。

 しかしその力故に、真人はその生き方を他者から決められる運命にあります。遠谷の人々の暮らしを支える清香人参を育てるために必要な神の恵み――その神を迎え、送り出すために必要とされる「室守」の役目を背負うことを、村長をはじめとする村人たちから、彼は求められているのです。

 真人が余所者の血を引き、そして既に両親を亡くしているために、室守の役目を押しつけられたと信じる颯。しかし真人は、自分が引き受けなければ颯がその役目を命じられると、甘んじて受けることに――と、二人の想いの微妙なすれ違いもさることながら、神や精霊が当たり前にいる世界でも、微妙にオメラス的な犠牲によって成り立つ閉鎖的な村という生々しさが、妙に印象に残ります。

 と、物語はこの遠谷が謎の武士団の襲撃を受け、真人も室守どころではなくなる辺りから大きく動き出すのですが――ここから真人と颯の運命は、先に触れた頼家と北条家らとの対立と密接に絡んでいくことになります。
 この世界に二本あるという、神を斬る剣。その一本は北条時房が持ち、もう一本は――と、政治の世界とは最も縁遠いように見える神(を斬る剣)が、この時代の政治と関わっていく様はなかなかにユニークです。

 そしてそれ以上に、後半明かされるあるキャラクターの内面がなかなかに重く、そこからどんどん深みにはまっていくドラマが、なかなかに読ませるところであります。


 しかし、正直なところ本作の第一印象は、本作ならではの固有名詞とルールが多い! ということに尽きます。

 精霊・精霊神・凝・怨穢・流れ神・隠れ・淵祇・山神・堕神・和魂・荒魂――全体の二割行かない辺りまででこれだけの本作独自(の使い方の)の用語が登場し、その説明が入るのは、正直にいってついていくのがやっと。
 物語の本筋にはそれほどかからずに入るのですが、そこに至るまでが長く感じられたのは、この固有名詞と説明の多さによるものでしょう。
(あるいは本作、元々は異世界ものだったのでは――などと意地悪な想像をしたくなるほど)

 そのために人によっては冒頭で躓きかねないのが残念なところではありますが、裏を返せば借り物ではない、本作ならではの世界を作り上げているということでもあります。
 真人と颯のドラマは、この上巻の時点で一つの帰結を見るのですが、さて下巻で何が描かれるのか――それはまたいずれ。


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