速水螺旋人『スターリングラードの凶賊』第1巻
第二次世界大戦において、ソ連とドイツが激突し、史上最大の市街戦と呼ばれたスターリングラードの戦い。この凄惨な戦いを背景に、二丁拳銃の美少年殺し屋と、得体の知れぬ東洋人ペテン師のコンビが暴れ回る、何とも奇妙な漫画であります。
1942年、NKVDに処刑されかけていたところを、二丁拳銃の美少年に救われた東洋人の男。ならず者たちだけが住む町・十字路砦の顔役の命で、スターリンがトルコに持ち込む予定だった一万ポンドを狙ってミゲルスクに向かった二人ですが、町は既にドイツ軍に占領された後でありました。
ここで突然、自分は日本軍の特務機関の将校だと名乗り、ドイツ軍に保護を求めた東洋人の男。彼の裏切りで、殺し屋の美少年はドイツ軍に捕らえられてしまうのですが……
と、殺し屋の美少年=ルスランカと、東洋人のペテン師=トーシャ(トシヤ)の二人が、痛快にドイツ軍を出し抜く第一話(このエピソードだけでも独立した作品として楽しめるほどの完成度)に始まる本作。
この後、悪党しかいない十字路砦の住人となったトーシャは、ルスランカとコンビを組んで、様々なトラブルを片づけていくのですが――ドイツ軍の進撃に伴い、十字路砦はスターリングラードに拠点を移すことになります。
しかし、そのスターリングラードにドイツ軍が突入、街を瓦礫に変える激しい市街戦が繰り広げられる中、二人は相変わらず悪党稼業に精を出すのですが……
1942年9月に始まり、翌2月に終結したスターリングラード攻防戦。東進するドイツ軍(枢軸軍)に対してソ連軍が激しく抵抗し、双方併せて200万人の死者を出しただけでなく、スターリングラードの住人も凄まじい犠牲を払った、歴史に残る凄惨な市街戦であります。
本作はその戦いを背景に、凶賊――殺し屋とペテン師のコンビを中心とする悪党たちがしのぎを削る物語であります。
というより登場人物はほとんど全員が悪党か、そうでなければ外道。自分が生きるためであれば、人が死ぬことも、人を殺すことも何とも思わないとんでもない連中(その代表格がルスランカ)が殺し合うのですが――そこに逆に爽快さすら感じられるのは、その背景である戦争が陰惨過ぎるからにほかなりません。
イデオロギーや愛国心といった大義名分の下に、それが当然であるかのように人が人を殺し、殺される戦争。それに比べれば、自分たちの欲望のために悪党が殺し合う姿は、それが自分に正直であるだけに、むしろカラッとしたものに感じられるのです(もちろんそれは一種の錯覚なのですが)。
そしてそんなスタンスを通じて、本作はソ連軍とドイツ軍のどちらかの視点に立つのではなく、そのどちらも――要は戦争するやつはどちらも――等しくク○であると、はっきりと描き出すのです。
(といいつつ、悪党たちが集う十字街もまた、そんな「戦争」と無縁でないことを、本作は第二話でこれでもかとばかりに描いているのですが……)
さらにまた、そんな洒落にならない陰惨な世界を、時にサラリと、時にコミカルに描けるのは、この構造もさることながら、作者のディフォルメの効いた、時に可愛らしい画の力によるところが大きいこともまた、言うまでもありません。
閑話休題、そんな本作に漂う空気は、戦争ものというよりむしろ、マカロニウェスタンのそれに感じられるのですが――実は本作の冒頭には、「二人のセルジオへ。敬意とともに」という言葉が掲げられています。
ここでいう二人のセルジオとは、おそらくコルブッチとレオーネ――共にマカロニウェスタンの巨匠というべき監督のことでしょう。
なるほど、こちらの印象は正しかった――というのはともかく(そういえば各話の合間のページに描かれている、イイ顔の男たちは……)、この先も自分の欲望に正直な悪党たちが、大義名分を振りかざす戦争を後目に大暴れする姿を見ることができそうです。
もっとも、マカロニウェスタンの世界では、そんな連中もまた、あっさりと死んでいくのですが……
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