« 山本功次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 抹茶の香る密室草庵』 シリーズ初、待望の(?)密室殺人!? | トップページ | 青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第8巻 三人の別れ、歴史の分岐点!? »

2023.11.21

高橋留美子『MAO』第18巻 遭遇、華紋と白眉 そして新御降家の若者の歩む道

 土の術者・大吾の「復活」を期に、千年前に御降家で起きたことの一端が、次々と明らかになっていく『MAO』。その一方で、白眉率いる新御降家の術者たちも、様々な動きを見せます。この巻では、御降家と新御降家の面々の対峙が様々な形で描かれることになります。

 一千年前の御降家の後継者争いで、真っ先に命を奪われたはずが、奇怪な形で大正の世に復活した大吾。その大吾の五体を集めていた夏野、そして大吾の死に絶望した紗那と、様々な形で大吾はその後の出来事に影響を及ぼしていたことが判明するのですが――まだ全貌がわかるのは先のようであります。

 そんな中、世間を騒がす連続一家皆殺し事件。その真犯人は、手にした人間を妖に変え、周囲の者たちを襲わせる呪具・化生の匣でした。
 かつて御降家で白眉が管理していたものが、御降家崩壊の混乱の中で失われた化生の匣。封印から解かれて次々と犠牲者を出す匣を再び封じようとする摩緒たちと、再び掌中に収めようとする白眉の命で匣を追う新御降家の蓮次と流石と――この両者と匣との、三つ巴の戦いが繰り広げられることになります。

 ここで印象に残るのは、なんといっても化生の匣の悍ましさでしょう。人を妖に変えるという恐るべき力を持つ呪具というだけでなく、己の意志すら持ち、犠牲者を増やすために取り憑く相手を選んで行動する――そしてその気になれば人間だけでなく、様々な生物を操るその姿は、まさしく怪物と呼ぶに相応しい存在感があります。
(そして戦いの舞台である女子寮での描写が実に厭で怖い……)

 この匣を巡り、摩緒・菜花・華紋・百火と、蓮次・流石そして白眉の対峙する様がまた面白い。それぞれの術を活かしてのバトルもいいのですが、何よりも、意外にも大正では初顔合わせだった華紋と白眉の会話の中で、それぞれのキャラクターが浮き彫りになっていく様が、まさしく「白眉」というべきであります。
 そして千年経っても、敵味方になっても、先輩と話す時には一応「さま」をつける、御降家の人間関係が妙におかしい……
(もっとも「敬語でめちゃくちゃディスってくる」のですが)


 さて、そんな御降家の面々がそれぞれの自己を強烈に確立しているのに対して、まだまだ術の面でも人格の面でも危なっかしいのが新御降家の面々。それをある意味最もよく象徴しているのが、針を使った金の術の遣い手・かがりであります。

 御降家の流れを汲む呪い屋の名門(?)に生まれながらも、自分を遙かに上回る姉・綾女にコンプレックスを持ち、白眉の下についたかがり。そのむしろ幼いといってよい性格と中途半端に物騒な術には、何をしでかすかわからない怖さがあったのですが――強さと、そして自己承認を求める心に逸る彼女の矛先は、ついに姉に向けられることになります。
 芽生の人間蠱毒の邪気を利用して己の針をパワーアップさせ、ついに姉を倒したかがり。そして綾女の治療に訪れた摩緒と菜花は、図らずも姉妹の争いの間に挟まることになります(姉妹の言い争いに、冷静にツッコミを入れる二人の姿が妙におかしい)。

 精神性が完成されているという点ではむしろ摩緒たちに近い綾女に対して、目先の安易な力(人間蠱毒でパワーアップした針はその象徴でしょう)に飛びつくかがり。
 本作の新御降家の面々の多くは、それぞれ程度の差はあれ普通の若者であったものが、御降家と関わりあったために徐々に、そして強く呪いの世界に踏み込んでいく姿が描かれていきますが――今回、かがりは後戻りできない一歩に踏み出してしまったというべきでしょう。

 物語全体の謎に絡むものではありませんが、物語に関わるキャラクター像を描く上で、印象に残るエピソードであります。


 さて、この巻の終盤からは、大正になっても陰惨な人身御供の風習を続ける村を舞台に、流石と摩緒・菜花の対峙が描かれることになります。

 上で述べた新御降家の面々の中でも、例外的に生まれつき呪術に触れ、それが逆に不気味なほどあっけらかんとした精神性をもたらしている流石。
 金のためであれば平然と人を傷つける流石は、ある意味御降家の人間の在るべき姿なのかもしれませんが、それが摩緒とは正反対の立ち位置であることは言うまでもありません。両者の対決の行方は、次巻に続きます。


『MAO』第18巻(高橋留美子 小学館少年サンデーコミックス) Amazon

関連記事
高橋留美子『MAO』第1-2巻 少女が追う現代と大正と結ぶ怪異
高橋留美子『MAO』第3巻 解けゆく菜花の謎と、深まる摩緒の謎
高橋留美子『MAO』第4巻 現代-大正-平安 1000年を結ぶ謎と呪い
高橋留美子『MAO』第5巻 謎が謎呼ぶ三人目と四人目の兄弟子?
高橋留美子『MAO』第6巻 深まりゆくなぞ そして五人目……?
高橋留美子『MAO』第7巻 最後の弟子 そして運命を狂わされた者たちの戦い
高橋留美子『MAO』第8巻 激突する獣たち 菜花大奮闘!
高橋留美子『MAO』第9巻 夏野の過去、幽羅子の過去、菜花のいま
高橋留美子『MAO』第10巻 幽羅子の罠、白眉の目的
高橋留美子『MAO』第11巻 菜花の新たなる力? なおも続く白眉一派との戦い
高橋留美子『MAO』第12巻 菜花のパワーアップ、そして右腕のゆくえ
高橋留美子『MAO』第13巻 彼女の死の謎 彼女の復讐の理由
高橋留美子『MAO』第14巻 摩緒と菜花と三つの事件
高橋留美子『MAO』第15巻 幽羅子の真実、あの男の存在?
高橋留美子『MAO』第16巻 本当の始まりはここから? 復活した最初の男
高橋留美子『MAO』第17巻

|

« 山本功次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 抹茶の香る密室草庵』 シリーズ初、待望の(?)密室殺人!? | トップページ | 青木朋『天上恋歌 金の皇女と火の薬師』第8巻 三人の別れ、歴史の分岐点!? »