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2023.12.23

松原利光&青崎有吾『ガス灯野良犬探偵団』第1巻 推理対決、名探偵vs浮浪児!?

 作品が次々とアニメ化・ドラマ化と、最近波に乗っている青崎有吾原作の、ユニークなミステリ漫画であります。19世紀末のロンドンを舞台に、シャーロック・ホームズの「猟犬」となった浮浪児の少年・リューイが、ホームズを激しく憎み、張り合いながらも、難事件に挑むことになります。

 靴磨きをして暮らす浮浪児・リューイは、持ち前の観察眼から、相手の靴から様々なことを見抜く力を持つ少年。しかしその力を活かす機会もなく日々を送る彼の生活は、ある日突然大きく変わることになります。
 彼よりも遙かに腕の立つ、姉貴分的存在だったニナ――最近は割りのいい仕事を見つけ街から犯罪をなくす手伝いをしていると語っていた彼女が、何者かに刺されて命を落としたのであります。

 ニナが手にしていたボタンを唯一の手がかりに、必死に犯人を追い、ついに突き止めたリューイ。彼の復讐の刃が犯人に向けられたに見えたとき、横合いから突然現れた男が……

 というわけで、図らずもかのシャーロック・ホームズと張り合うこととなったリューイ。
 ニナを雇っていたのもホームズであると知った彼は、自分たち下層階級を「野良犬」と呼び、人間扱いしないホームズに激しい敵意を抱くのですが――ホームズのやり方を全て盗み、その上で殺すため、ホームズの猟犬として雇われることになります。


 さて、ホームズと浮浪児といえば、ファンなら当然思い浮かぶのはベイカー街不正規連隊でしょう。ホームズが自分や警察では手に入らないような情報を浮浪児たちを使って集める姿は、彼のデビュー作である『緋色の研究』で描かれていましたが、本作がそれをベースにしていることはまず間違いないでしょう。
 しかし原典で「スコットランドヤードの警官一ダースよりも有用」とある種賞賛しているのに対し、本作のホームズはそんな言葉とはまったく裏腹の人物であります。何しろ、浮浪児たちを人間扱いせずに犬と呼び――それどころか、リューイの靴磨きの客として初めて現れた時、彼が自分の靴から推理をしたのを不快に思ってか、いきなり彼の顔を蹴りつけているのですから。
(まあ、原典の時点でけっこう浮浪児たちに偉そうな態度ではあるのですが)

 もとよりホームズは奇矯で気難しい人物ではありますが、しかしこれはあまりにも――と憤るのは、既に作者の術中に嵌まっているということなのでしょう。いうまでもなく、本作でシャーロック・ホームズと名乗る人物は、あくまでも本作ならではのホームズなのですから。
(だからたぶん、後に生首探偵とともにルパンや怪物団と対決したりはしない――いやもちろん、世界観が違うわけですが)。

 というより、少なくとも本作のホームズは、明らかにアングロサクソンではない造形の人物。単純にデザイン的にそう見えるだけかと思いきや、ある人物に出身を問われて、「国籍は英国だよ」と答えているところを見れば、なにやらこの辺り、色々とありそうですが……


 と、ホームズのことばかり触れてしまいましたが、本作の主人公はあくまでもリューイであります。
 少なくとも靴についてはホームズに負けぬ観察眼を持ち、そして浮浪児ならではの知識と処世術を持つリューイ。そんな彼が、ある意味ニナの仇であるホームズを乗り越えるためにも、その猟犬として奔走する――本作はそんな物語なのですから。

 そんな構造の物語の中で面白いのは、一つの真実に対し、リューイとホームズが、それぞれの立場から推理を行い、それぞれに正しい(そしてそれぞれに足りていない)という点であります。
 決して口には出さないものの、ホームズなりにリューイを認めていると思しきところもあり、そんな二人の推理と緊張関係が、本作の一番の魅力と呼んでよいのではないでしょうか。
(しかし、二人のキャラがそれぞれ推理を行うという、それだけ手間となる趣向をやってのけるのには感心するほかありません)

 もちろんホームズ譚として見ても、作中で描かれる「タールトン殺人事件」「アルミニウムの松葉杖」と、原典中の語られざる事件をふまえたものであったりと――そして先に述べたようになにやら曰くがあるらしい「シャーロック・ホームズ」の存在も含めて――実に楽しい本作。
 まだこの第一巻の時点では、「探偵団」といいつつもリューイ一人の状態ですが、果たして、この先彼に仲間が現れるのかどうかも含めて、期待するしかない物語です。


『ガス灯野良犬探偵団』第1巻(松原利光&青崎有吾 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon

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