三萩せんや『大正陰陽師 屍鬼の少年と百年の復讐』
最近はライトノベル・ライト文芸で大人気の大正時代ですが、本作はその大正の東京に、陰陽師が活躍するユニークな作品。表向き世間から姿を消した陰陽師を養成する学び舎設立のため東京に向かった陰陽師の青年が、金色の髪を持つ少年姿の鬼と出会ったことから、思わぬ事件に巻き込まれます。
明治に入り陰陽寮が廃止され、表向きは姿を消した陰陽師。しかし文字通りこの世の裏側に潜んでいた彼らは、その命脈を保つため、帝都に陰陽師養成の学び舎を立てようとしていたのであります。
その先触れとして選ばれたのは、奔放な言動によって土御門一門の異端児と見なされていた青年・安倍晴雪。一門を束ねる叔父には頭の上がらぬ彼は、嫌々ながら東京に向かうことになります。
とある華族の屋敷の離れに居を定めた晴雪は、早速学び舎設置に相応しい場所を探して東京を巡るのですが――そこで見たのは、維新の動乱の影響か、結界がほころびかけ、妖が闇に潜む帝都の姿でした。
さらに、街で「金色夜叉」なる妖の噂を聞きつけ、目撃場所に向かった晴雪は、そこで金色の髪を持つ少年姿の鬼と遭遇することになります。
強力な鬼を辛うじて制した晴雪ですが、菊丸と名乗るその鬼は、意外な申し出をしてきます。かつては人間だったものが、百年以上前に謎の陰陽師たち「道摩の血脈」の術によって、鬼に変えられたという菊丸。これまで道摩の血脈を一人ずつ屠ってきた彼は、
晴雪の式神となる代わりに、行方をくらました最後の一人探しに協力してほしいというのであります。
帝都の結界の異変が、道摩の血脈の仕業と見て、菊丸と協力することにした晴雪。しかし人間の常識を知らない菊丸に手を焼くことに……
今なおフィクションの世界では根強い人気を持ち、次々と作品が発表されている陰陽師もの。しかしその舞台のほとんどは平安時代であり、明治以降の近代を舞台とする作品は、非常に少ない状況にあります。
それもそのはず、上で触れたように陰陽寮は明治の初期に廃止、そして陰陽道は迷信として禁止されたため、それ以来「陰陽師」は公的には存在しないことになったのですから。
しかし、だとすればそれまで存在した陰陽師たちはどこに消えたのか? というのはある意味当然の疑問でしょう。それに対して、陰陽師たちはこの世の裏側の世界――一種の異界に身を潜め、密かにこの世を守護していた、という答えを用意してみせたのが、本作のまずユニークな点であります。
その一方で、本作は大正の陰陽師だけでなく、もう一人の主人公として、江戸時代から生き続ける鬼――それも生まれついての(?)鬼ではなく、術によって人間から変えられた鬼を設定しているのが目を惹きます。
人間と人間以外のコンビというのは、バディものでは定番の一つ、陰陽師が「鬼」を連れるのも違和感はありません。しかし陰陽師と鬼がある意味対等の関係で手を組むのが(そして鬼の側が年齢は経ているけれどもその外見同様に無邪気な存在なのが)面白いところであります。
物語的にはこの晴雪・菊丸コンビが、謎の陰陽師・道摩の血脈に挑むのがメインとなっていき、学び舎設立が背景となってしまうのがいささか残念ではありますし、道摩の血脈についても、存分に描かれたわけではないという印象があります。
その意味では、今後続編を期待したいところですが――しかし物語の中で陰陽師と鬼が互いを少しずつ理解していく姿はなかなか魅力的ですし、何よりもその中で浮かび上がる晴雪の屈託が、クライマックスのかなり意外などんでん返しに繋がっていくのは、大いに読ませるところであります。
(また、物語中盤の意外なビッグネームの登場にも驚かされました)
なお、本作は現代を舞台とした同じ作者の『陰陽師学園』の前史に当たる物語とのこと。私は恥ずかしながらそちらは読んでおりませんでしたが、読んでいればさらに楽しめるのかもしれません。
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