和夏弘雨『粛清新選組』第2巻 異形の山﨑烝と異形の物語 新選組譚の極北、完結
新選組の監察方を題材としつつ、隊規に背いて粛清された隊士たちの姿を描く、新選組漫画数ある中でもある意味極北の作品――その第二巻にして最終巻であります。士道不覚悟を処断する山崎烝と林信太郎、彼らの非情のルーツとは……
幕末最強の武闘派集団である一方で、粛清により多くの隊士が命を落とすことになった新選組。その粛清をある意味支えた存在が、隊士たちの監視・不正の摘発等を行った諸士調役兼監察、いわゆる監察方であります。
本作はその監察方として後世に名を残す山﨑烝、そして彼の従弟である林信太郎の視点から描かれた物語――彼ら二人によって粛清の対象となった隊士たちを描く、いわば負の新選組隊士列伝というべき物語です。
鋭敏な頭脳と記憶力を持ちながらも、スキンヘッドにひん剥いた四白眼、冷淡で皮肉な態度と、一目見たら絶対忘れられない強烈なキャラクターである本作の山﨑。
そしてその彼が、隊士たちを冷徹に調査し、時に罠に嵌めてまで裁く姿はそれ以上に強烈で、悪事を働いた隊士の外道ぶりも相まって、ほとんどトラウマもののインパクトを残す――そんな作品であります。
この巻の冒頭で描かれるのは前巻から続く「国事探偵方」後編、そして今弁慶と異名を取った松原忠司のエピソード。そして残りの分量約3/4では時系列を遡り、林信太郎・山崎烝の入隊秘話、そして新選組とほぼ同時に誕生することになった監察方の初期の、そして最大の粛清を描くことになります。
その対象は芹沢鴨――いうまでもなく新選組の前身である壬生浪士組の筆頭局長にして、その傍若無人ぶりから近藤一派に暗殺された芹沢は、なるほど『粛清新選組』という作品の結末にして始まりを飾るに、これ以上の適任はいないでしょう。
かくて在りし日の芹沢の姿を描きつつ、佐々木愛次郎・佐伯又三郎(登場する時はほとんどワンセットで描かれ、そしてイヤな気分になる話の多い二人)、そして新見錦のエピソードを経て、芹沢の最期が描かれるのですが――しかしこの一連のエピソードで描かれる芹沢像が、「いかにも」な悪役ではないのが、実に本作らしく面白いのです。
確かに本作の芹沢も、狷介な性格であり、酒が入ればさらに粗暴になる人物ではありますが――しかしその欠点を除けば一軍の将に相応しい大人物(しかも子供好き)。ほとんどのフィクションでは犬猿の仲である土方が、むしろ心酔するほどの人物であり、それは非情の山﨑ですら同様なのであります。
思えば本作は、粛清という行為を招く人間の昏い部分を描きつつも、それだけに留まらない複雑な心理の在り方を描いてきました。そして同時に、粛清という結末(を予感させる言葉)があるからこそ、その裏を行くような意外性のあるエピソードをも幾つも描いてきた作品でもあります。
そしてこの芹沢鴨の粛清は、そうした本作の総決算というべき内容となっていることは間違いありません。暴走する芹沢の胸中にある想いは何か、そしてその芹沢の想いを、土方は、山﨑は如何に受け止めるのか?
ここで山﨑は芹沢暗殺には加わっていない――という史実をこう話に活かしてくるか、と驚かされるような、まさに「鬼」のような展開も見事であります。
しかしそこからさらに一歩踏み込んで最後の最後に示されるものは、まさに本作の結末に相応しいものであったといえるでしょう。
隊士の死――それも仲間に与えられる死である粛清を描きつつも、その時だからこそ浮かび上がる命の姿を生々しく描く。主人公の山﨑同様、異形でありつつも、その中に人の情を感じさせる物語であります。
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