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2024.01.08

岡村星『テンタクル』第5巻 武士を離れた自由の境地へ

 黒船来航直前の時代を舞台に、九州独立の企てを巡る暗闘を描いてきた本作もこの第五巻で完結であります。藩側と蜂起側の全面衝突の中で、自分自身の道を選び、藩を捨てる形となった津春。そのまま蜂起の首謀者である周子とともに佐賀に急ぐ彼を待つものは……

 幕末の福岡藩で繰り広げられてきた暗闘――前藩主と皇族の女性の間に生まれた二刀流の達人・周子を奉じて九州独立を目指す一党と、それを阻もうとする藩側との戦い。その中で親友と師を失った医学生・長岡津春は、周子を仇と狙いつつも、本当に正しい道は何なのか、迷うことになります。
 そして両派の全面衝突の最中、周子の幼い弟・仁緒が深手を負わされたのを見た津春は、戦うことしか知らぬ周囲に反発。仁緒を治療した津春は、成り行きから周子、そして自らの師である真木田とともに逃れることに……

 という意外な展開を経て、これまでの宿敵であった周子と共に佐賀に向かうことになった津春。途中、因習村ならぬ阿片村に踏み込んだ津春は、真木田と仁緒とはぐれることになるのですが――そこで思わぬ成り行きから医術の腕を振るうことになり、己の将来向かうべき道を強く認識することになります。
(そしてその中で周子からの好感度もアップ)

 そして武士の世をひっくり返そうとする商人・深川新左の配下たちに助けられ、無事に佐賀に入った二人。ついに周子の望みが叶うまであと一歩かと思われたものの、福岡藩と通じた佐賀藩の武士たちによって周子の身の証となる刀は奪われてしまいます。そして二人の前には、津春の元上司というべき福岡藩の大目付・曾我が現れ……


 物語の冒頭から、宿敵として相まみえてきた津春と周子。立場は勿論のこと、夢想権之助の杖術と宮本武蔵の二刀流という、用いる武術の流派同士も因縁を持っていた二人が、この物語の終盤に来て行動を共にすることになるわけですが――それは意外ながらも、何故か納得できるものがあります。
 それは人を殺す武士である以前に人を救う医学の徒たらんとする津春と、過去の経験から武士という存在に絶望した周子と――それぞれに、武士という軛から逃れようとするという共通点を持っていたからなのでしょう。

 思えば本作の登場人物には、武士の世を拒否する者たち、あるいは武士でありつつもそこからはみ出した者たち(本作における津春と周子の最強の敵というべき、寺内&十和カップルはその最たるものでしょう)が数多く登場してきました。
 その意味で本作で描かれたのは、似た者同士たちが相争う姿だったのかもしれません。

 しかし多くの者たちがその戦いを当然のものとして、あるいはやむを得ないものとして受け容れた中で、ただ一人それを拒否してみせた者が津春であったことは間違いありません。そしてそれだからこそ、本作の結末はこのような形となったのでしょう。


 正直なことをいえば、かなり駆け足となった感は否めません(新左の配下たちや阿片村の元締め、そして真木田など、面白そうなキャラクターたちがほとんど活躍できなかったのは残念)。そのためもあってか、この最終巻は、登場人物たちが思想をぶつけ合って終わった感もあります。

 そしてまた、ラストシーンの年代を考えれば、まだこれから激しい戦いが彼らを待ち受けていることとなるのですが――それであったとしても、彼らがたどり着いた一つの自由の境地へは、これはこれで美しい結末であることは間違いないのでしょう。


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