横山起也『編み物ざむらい 二 一つ目小僧騒動』 伝奇ホラーミステリ!? 奇想天外な新たな絵柄の物語
メリヤス編みが取り柄の青年・感九郎を主人公とした奇想天外な時代小説――第12回歴史時代作家協会文庫書き下ろし新人賞受賞前作に続くシリーズ第二弾であります。感九郎が思わぬ成り行きで参加した、悪党を懲らしめる「仕組み」の仲間の一人で、人気戯作者のコキリが失踪。一つ目小僧に攫われたという噂も流れる中、彼女を探して向かった先で感九郎たちを待つものは……
持ち前の生真面目さが災いし、不正を告発しようとしてかえって主家と生家から追われてしまった黒瀬感九郎。偶然出会った御前・ジュノ・コキリといった奇妙な面々に誘われた彼は、「仕組み」なる裏稼業に加わり、唯一の取り柄である編み物を活かして悪党を退治するのでした。その中で彼は、自分の中に眠る能力――人の心中にあるわだかまりを解く力に目覚めることに……
という前作の後もジュノたちの暮らす屋敷に転がり込んで、内職に精を出していた感九郎ですが、本作の冒頭では、突然にコキリが姿を消してしまったことが語られます。
前作の事件で、コキリと因縁を持つという悪徳医師・久世を制裁しながらも、結局は取り逃がす形となり、それが失踪の原因ではないかと内罰的に気に病んでいた感九郎。そんなこともあって、彼はジュノと共にコキリの行方を探すことになります。
彼女が一つ目小僧に攫われたらしいという奇妙な噂も流れる中、ようやく彼女が武蔵国五日市宿の大旅籠の離れにいると突き止めた二人。成り行きからついてきた感九郎の許嫁・真魚とともに宿に向かった感九郎とジュノですが、しかしコキリはまたも一つ目小僧に攫われたと騒動になっていたのであります。
コキリが滞在していた山中の離れ――様々な趣向を凝らした温泉宿で歓待される一行。しかしそこでも次々と奇妙な、そして思わぬ出来事が起きます。離れの隣に立つ「迷い家」という異名で呼ばれる山中の屋敷、辺りから響く異様な叫び声、倒れていく仲間たち、失われた帰り道――その果てに感九郎たちが知る、あまりに意外な真実とは……
というわけで、一種のクローズドサークルもの的な物語が展開する本作。前作はいわゆる仕事人もの、あるいは不可能ミッションものというテイストであっただけに――そして引き続き感九郎はそこでの仲間たちと行動を共にするだけに――今回も同様の趣向で描かれるとばかり思ってみれば、まさかホラー色、伝奇色も漂うミステリだったとは! と驚かされます。
特に中盤の、次から次に怪事件が起こり、一体何が起こっているのかわからないままに感九郎たちが翻弄される辺りは、この先一体どこに向かっているのかも全くわからず、(良い意味の)不安にさせられます。
そしてそんな物語におけるキーパーソンが、コキリであります。前作ではジュノ・感九郎とトリオで「仕組み」を実行した彼女は、どう見ても年若い娘ながら、人気戯作者・乱津可不可の正体と名乗るだけでなく、かつて人魚の肉を食わされたおかげで不老不死になったと自称する、奇妙な人物であります。
しかし彼女のいうことをどこまで真に受けて良いかは前作の段階では迷うところであります。内容的には(感九郎の「能力」周りの描写はあるものの)比較的地に足のついた世界観の物語だけに、これは眉唾物だと思っていたのですが――ここにきて、彼女の言葉の真実が語られることになります。
その詳細については伏せますが、その衝撃的な告白に留まらず、さらに――という仕掛けの巧みさには感嘆させられるところで、そこに漂う濃厚な伝奇性も含めて、大いに楽しませていただきました。
その一方で、○○かと思ったら実は××でした、と腰砕けなオチに終わる展開も多かったり、何よりもコキリの物語のインパクトが大きすぎるためか、感九郎の側の物語の印象が弱まってしまうのは、いささか残念なところではあります。
特に後者は、感九郎自身だけでなく、コキリへの一つの救いへと繋がっていく要素であるだけに勿体ないと感じさせられます。コキリの過去の重さに比べればを思えば無理もないところではあり、そしてそのどこかアンバランスな物語展開も一つの魅力ではあるのですが……
そんな部分はありつつも、ある意味普遍的なテーマ――本作においては自分とはなにか、過去と今とはなにかという――を奇想天外な物語の中に織り込み、そして物語が完成した時、それが美しい一つの絵柄として浮かび上がるという前作同様のスタイルは、変わらず魅力的であることは間違いありません。
さて、第一作を見ていれば、ジュノにもなにやら重い過去がある様子。おそらくは次はそれが描かれるのではないかと思いますが――そんな予想を軽々と超えていくような予感も強くあります。
今はただ本作の余韻を味わいつつ、次なる物語の絵柄を楽しみにするとしましょう。
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