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2024.03.19

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第108話「金属の風車」/第109話「明け方の風」

 盲目の美少女修法師が、付喪神をはじめとする怪異に挑む連作シリーズの新章であります。ここ最近は、異国の呪法に端を発したスケールの大きな物語が続いていましたが、今回ご紹介する二話は、原点回帰と言うべき内容となっております。

 異国の呪法により、新たな神となる運命を背負った少女・むつとの北への旅を終え、江戸に帰ってきた百夜と左吉。
 前章では、神仏からの試練や未来から来た男との遭遇など、スケールの大きな事態に巻き込まれてきた百夜ですが、江戸に帰ってからはこれまで通りの修法師としての仕事を――というわけで、年の瀬の彼女のもとに持ち込まれた二つの事件が描かれます。


「金属の風車」
 とある蝋燭問屋で続発する、親指と他の指がくっついて離れなくなってしまうという奇妙な障り。障り自体は数日で治るものの、さらに体に布を巻きつけた南蛮人らしき亡魂が現れ、それに加えて、金属の風車らしき謎の物体が現れるというのです。
 顔馴染みの女修験者・桔梗に紹介された百夜は、まず問屋と南蛮人の関わりを調べるのですが……

 江戸の庶民のもとで奇妙な事件が起こり、その解決に百夜が招かれる――そんな、シリーズの定番というべきスタイルの本作。そんな中での付喪神が引き起こした事件が多い本シリーズにおいては、力押しで解決することは少なく、その正体を解き明かし、その想いを汲み取ることこそが、解決策となります。
 その意味ではミステリ的な色彩の強いシリーズであるわけですが、特に今回は全く関係のなさそうな三つの怪異が絡むのが、ユニークな点でしょう。

 しかしさらにユニークなのは、実は怪異を起こしている存在自体は、物語の中盤で明らかになることであります。そこから先で描かれるのは、いかにしてその怪異の想いを汲み取り、「カミアガリ」させるか、ということなのです。
 そしてその先に浮かび上がるのは、古今東西を問わず存在する職人の魂――それが付喪神と共鳴する結末には不思議な爽やかさがあります。


「明け方の風」
 部屋で寝ていると、毎早朝、顔に風がふうっと当たるという奇妙な現象に悩まされてる茶問屋の主人。さらに事態は進み、風が当たると同時に部屋中が真っ赤に染まるに至り、彼は溜まりかねて百夜の元に依頼に来たのでした。
 店で夜明かしをして同様の現象に出くわした百夜は、怪異の源が茶道具蔵の地下に眠っていると気付くのですが……

 怪異の内容はもちろん全く異なるものの、そこから辿る展開は実は前話とかなり重なるものがある本作。また異なるのは、折角百夜が見抜いた怪異の源を、金惜しさに無視してしまう人間の存在ですが――まあ、そういう人間が手痛いしっぺ返しを受けるのは当然でしょう。

 しかしそれ以上に印象に残るのは、怪異が起こす現象と、その正体の繋がりであります。正直なところ、(前話同様に)その姿を知っても予備知識がなければほとんど全く正体不明の存在なのですが、それが明らかになった時、怪奇現象に綺麗に平仄が合うのは、やはりミステリ的な快感があります。


 というわけで、展開的にはかなり近いものがあるものの、それぞれに味わいが異なるこの二話。この先のエピソードも原点回帰となるかはわかりませんが、江戸に帰ってきた百夜の、普段着の活躍を楽しみにしたいと思います。


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