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2024.03.06

松浦だるま『太陽と月の鋼』第8巻

 奪われた妻を求める武士の追跡行と、異能の通力使いたちの戦いが交錯する『太陽と月の鋼』、第八巻では夜刀川兄妹との死闘を終え、ついに鋼之助と月が再会するのですが――そこで次々と明らかになる新事実。一方、己の悲惨な半生を思い起こした卜竹は……

 土御門家晴雄配下の通力使いたちに攫われた愛妻・月を追い、明・卜竹とともに旅を続けてきた竜土鋼之助。那須でついに月に追いついた鋼之助一行ですが、そこに水を操る瞠介と火を操る刮の夜刀川兄妹が立ちふさがります。
 月が封印を解いた殺生石の力により、通力の力が上がっていく中、卜竹そして明の助けにより、ついに兄妹を斬った鋼之助。しかしその時、刮の中に在った古代の女神・カガツヒメの魂が復活、恐るべき力を振るい……

 という絶体絶命の窮地を迎えた鋼之助ですが、彼が振るう刀の「像」の通力を目の当たりにしたカガツヒメは、何を思ったか攻撃を止め、去っていくことになります。鋼之助の通力こそは、土御門晴雄が恐れる力、呪を断ち切る力であり、そしてその力はやがて恐ろしい厄災を引き起こすと言い残して。

 こうして窮地を逃れ、月を再びその手に抱いた鋼之助ですが、しかし激闘の爪痕はあまりに深く残ります。そこでただ一人意識のあった明は、様子を見にやってきた卜竹の相棒・斬念の力を借りて、猪苗代の殺生石に飛ぶのでした。
 そこで彼女が頼ったのは、彼女の故郷であり、巫女ばかりが住む弓呼村――通力使いと一般人がごく普通に共存する村であります。

 そこで「大ワカの婆さま」の呪で傷を直してもらった一行ですが――実は婆さまこそは十二天将の一人・「天后」の猪守。彼女は、二本中の殺生石の封印が解かれて通力使いたちの力が増せば、通力使いが差別される世が変わるのではないかと語り、月を土御門に差し出すか否か悩んでいると告げて……


 通力使い同士の激しい能力バトルが繰り広げられた末に、古代の神までが出現した前巻。それに比べれば、激しい戦いのないこの巻は、凪といってもよいかもしれません。。

 しかしそれはもちろん、内容が薄いということでは決してありません。冒頭のカガツヒメの言葉からして、物語の根幹にガンガンと切り込む(しかし肝心なところは絶妙に伏せられている)ものでありますし、それに加えてサラッと(?)晴雄の中に眠る魂の正体が語られたりと、相当の情報量なのですから。
 そしてこれまでにその意外過ぎる正体の一端が語られた月と、さらにその能力の謎が深まった鋼之助の関係も、いよいよ不穏さを増していくばかりなのですから。

 そんな物語の中心にあるのは、通力とそれを持つ者たちの存在であることは間違いありません。これまで作中には敵味方様々な通力使いが登場してきましたが、共通するのは、己の力に苦しみ、そして人らしい暮らしをすることが認められてこなかったことであります。

 そしてこの巻のある意味メインとなる卜竹――実は十二天将の一人・「貴人」に当たる彼の壮絶な過去は、まさに彼ら通力使いが辿ってきた悲惨な運命の象徴というべきかもしれません。
 仮にその運命から逃れることができるとすれば――それを思えば婆さまの言葉を非難することはできません。そして卜竹が弓呼村の平穏な暮らしに、ある種の疑いを持ってしまうのも、理解できるところでもあります。

 しかしその一方で、そんな世界を変える鍵である月が、この巻のラストで語る彼女の選択もまた、人として強く頷くことができるものであります。
 通力を、強すぎる通力を持ちながらも、人は人として生きることができるのか――この物語において鋼之助と月が示しているのは、その問いかけなのではないかと、今更ながらに気付かされた次第です。


 しかし少なくとも今のところはまだ、それが難しいのは間違いありません。この巻も猛烈に気になるところに終わり、またもこの先は嵐が待ち受けている予感であります。


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