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2024.03.14

さいとうちほ『輝夜伝』第14巻 決戦、月の女王 そして少女の決別と自立

 天女を巡って長きにわたり繰り広げられてきた謎と戦いと愛の物語も、ついに終わりの時を迎えます。一度は月の使者を撃退したものの変貌してしまったかぐや。そのかぐやを、そして自分を迎えに来る月の使者を撃退せんと、月詠は都の人々とともに満月の夜に戦いを挑みます。はたして決戦の行方は……

 満月の夜、かぐやを迎えに来る月の使者に対し、替玉を立てることで月の使者を騙そうという企て。しかしそれは治天の妨害と、その場にかぐやが現れたことで失敗、さらに彼女は不死の薬を飲まされ、別人のような性格に変貌してしまうという結末を迎えます。
 月の使者は、繭から復活した月詠の力で撃退したものの、しかし満月のたびに使者はやって来ます。そして月の女王は、地上で生まれた天女であり強い力を持つ月詠を、己のものにしようと企み……

 「竹取物語」ラストでの、人間的な感情を失ってしまったかぐや姫という、冷静に考えれば非常に恐ろしい描写。それをなぞったように、本作のかぐやもまた、別人のように変貌してしまうことになります。
 最愛の人であった帝を忘れ去ってしまっただけでなく、強き戦士として月詠を慕い、彼女の妨害を阻むためにとんでもない奇行(帝もドン引き)に走る――後者は彼女に憑いた月の女王の為したこととはいえ、これまで物語の原動力であった、彼女の帝への愛とそれを貫こうという意志が失われてしまったのは、大きな喪失感を感じさせます。

 もちろん、人間たちも黙って月の使者に屈しているだけではありません。死んだ月の使者が変化する日輪石が、彼女たちの弱点であることを知った八咫烏と北面は、それを武器に加工して決戦に備えます。
 冷静に考えれば人倫に悖る行為にも思えますが、なりふりは構っていられない――そして月詠もまた、同じ素材で作られた刀・日月天女剣(武侠もの的ネーミングで実に格好良い)を手に、戦う決意をいよいよ高めます。

 そして彼女を守る男たち――もはや月詠と相思相愛で目の毒な竹速、そしてそんな二人に複雑な想いを抱きながらも、大神もまた命をかけて月詠を守る覚悟を固めます。
 そして一致団結し、天からやってくる月の使者を待ち受ける凄王や北面たち、金鵄率いる八咫烏、さらには陰陽師たち。しかし敵は思わぬところから現れることに……


 前巻まででほぼ全ての謎が明かされたこともあり、決戦の準備、そしてついに訪れた決戦のゆくえが、ほとんど全編に渡り描かれた感がある最終巻。

 地上の人間と月の天女――姿は近くとも、その生態もメンタリティも大きく異なる者同士、もはや戦うしかないというのは、残念ではありますがやむを得ないことなのでしょう。
 かくて決戦に相応しい総力戦が繰り広げられるのですが(そんな中で月側が披露する意外な攻撃方法が面白い)、しかしたとえ月使者たちに大打撃を与えたとしても、月がそこにある限り、敵はまた現れます。だとすれば、この戦いは人間側の負けで終わるしかないのか?

 ……ってそこで出てくるのがあなた方か!
 と、半分思わぬ結末を迎えるこの戦い。半分と書いたのは、うち一人の行動はある程度予想できたものの、それに伴うもう一人の行動は流石に想像を絶していて――というわけで、いやはや最後の最後までこの人たちは好き放題動いたな! という印象はありますが、しかしこれで全てが収まるところに収まったのも事実でしょう。


 そして本作は、「竹取物語」で描かれたものを敷衍しつつも、また本作ならではの味わいを加えた結末を向かえることになります。それは一つの決別の形でもあり――なるほど本作は少女の自立、特に親からの自立を描く物語でもあった、と改めて感じ入った次第です。

 あるいは、これは根本的な解決ではないかもしれません(特に月はあの後大丈夫なのかしら……)。しかしここで描かれた結末が、少なくとも今のときは全てが収まるべきところに収まった、大団円であることは間違いありません。
 まさしく夜に輝く満月のような……


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