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2024.04.23

川原正敏『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』第20巻 新章開始 鬼と修羅と人と

 平安ものが何かと元気な昨今ですが、久々登場の『修羅の刻』も舞台は平安時代、それも題材はあの酒呑童子であります。「辟邪の武」として京を守護するする源頼光が伊吹山で出会った異形の少年・庚。やがて陸奥を名乗る彼の登場によって物語が動き出します。

 京で鬼が跋扈するという噂が流れる十世紀後半、帝の出家に備えるという名目で、近江に出かけた源頼光主従。その彼らが足柄山の辺りで目撃したのは、童子髪の少年が熊と相撲を取る――いや、熊を襲う姿でした。

 鬼の子であると語るその少年・庚に興味を持ち、勝手に彼を金太郎と名付けると、自分の家礼になれと持ちかける頼光。それを断る庚に対し、頼光は自分の四天王に勝てば認めると、強引に勝負を仕掛けます。
 巨漢で豪力の碓井貞光、弓の名手・卜部季武をあっさりと退けた庚。しかしそれでも全く悪びれない頼光に毒気を抜かれたか、庚は飯を食わせてもらったら困った時には合力してやると言う言葉を残すと姿を消して……


 というわけで、この巻の前半で頼光の前に登場したのが、今回の主人公である(であろう)庚。金太郎と呼ばれたり坂田金時と呼ばれたり、この時点では姓がなかったものが後で陸奥を名乗ったりとややこしいですが、なるほど、この時代の陸奥として「彼」が登場するのは納得できます。
 伝説でのその特異な出自ゆえか、特に最近の頼光四天王もの(?)では、鬼たちに近い側の存在として描かれることが多い坂田金時。その意味では、鬼とも修羅とも言われる陸奥を名乗るのは、相応しいように思えます。

 しかし庚は陸奥圓明流千年の歴史でも珍しい「実在の」人物(後は百数十年後に登場する鬼一くらいでしょうか)ですが、しかし「熊に跨がりお馬の稽古」が、「熊を裏投げ気味に投げた後に喉元に膝を叩き落として絶命フィニッシュ」になるとは、あまりの陸奥らしいアレンジに絶句であります。
 その一方で、食い物に釣られて厄介を背負いやすいのも、これまた実に陸奥らしいのですが……


 しかし、頼光四天王といえばもう一人、そしてフィクションではしばしば金時とコンビを組むのが渡辺綱。では本作では――と思えば、これが金時以上に意外な登場をすることになります。

 庚との出会いから八年後、「勇士武略之長」と呼ばれる藤原保昌と夜語りしているうちに、ゆこうゆこうと、鬼が出没するという羅生門に出向くことになった頼光。
 そこで現れたのは、見るからに只者ではない水干姿の若者(水干で袖に腕を通さないという格好を漫画で見るのは珍しい)。怪しの者と挑みかかる保昌と刀で打ち合い、取りひしいでみせた若者は、綱と名乗り、頼光の家礼になると告げるのでした。

 庚と似た雰囲気ながら庚ではない綱に戸惑い顔の頼光ですが、庚は弟と聞かされ納得。陸奥の名を継いだ弟には敵わないと、色々あった末に士官することにしたという綱を喜んで受け入れる頼光ですが、そこに恐ろしいまでの気を放ち、「鬼」を自称する巨漢と、鬼の面を被った者が現れ……

 と、なんと庚の縁者として登場した綱。ここでは伏せるものの、さらにもう一ひねり、とんでもない設定が加わっている綱ですが、小さめの体躯といい、飄々とした減らず口といい、やはり陸奥の血筋と納得させられます。
 しかし自分は陸奥ではない陸奥、鬼でも修羅でもない人と名乗るのがちょっとややこしいのですが、そこにさらに「鬼」を名乗る奴が現れるのですからややこしい。

 まだこの巻の時点では名乗っていないこの男が酒呑童子――かどうかはわかりませんが、鬼と修羅と人とが、この先入り乱れることになるのでしょう。


 庚と綱と、図らずもとてつもない力を抱えることになった頼光が「辟邪の武」として戦う相手は、この鬼たちなのか。「酒呑童子編」は全三巻とのこと、まだ物語は始まったばかりで、どこに向かうかはまだわかりません。


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