諸星大二郎『アリスとシェエラザード~仮面舞踏会~』 古式ゆかしい怪奇に挑むレディ二人
ヴィクトリア朝のイギリスを舞台に、霊媒のアリスと助手のシェエラザード、二人のレディが怪奇に挑む連作シリーズの第二集です。今回二人が挑むのは、一筋縄ではいかない怪奇現象に、邪悪な術者の危険な罠――第一集よりもさらに怪奇度の高まった数々の物語が描かれます。
ロンドンで人探しの名手として知られるアリス・ミランダと助手のミス・ホブスン(シェエラザード)。優れた霊感と降霊術で相手を見事に探し当てるアリスと、彼女に危険が迫ったときサーベル片手に猛然と立ち向かうミス・ホブスン――これまでも数々の怪事件に挑んできた二人の活躍は、本書でも変わることはありません。
夢の中に現れた女をモデルにしたいという、さる高名な画家の依頼を受けた二人が、ついに見つけたその女・ジュディスの恐るべき企みを知る「ユディット」
最近評判の霊媒の屋敷で行われる交霊会に、霊媒として参加することになったアリスが奇妙な出来事に巻き込まれる「交霊会の夜」
さる蔵書家が持っていたファウストゥスの魔術書から、悪魔召喚法のページの文字と図だけが盗み出されたのを追う二人が、邪悪な企てに巻き込まれる「四辻の悪魔」
ある絵を贈られて以来、病み疲れ別人のような顔に変貌したミス・ホブスンの友人を救うため、絵を追った二人が再び邪悪な女術者と遭遇する「ユディット再び」
臨終の床にある男から、夜ごとベッドの脇でカードゲームに興じる二人の不気味な男が何者で、何を賭けているか確かめるようアリスが依頼を受ける「5枚のカード」
必ず何か奇妙なことが起こる、あるいは幽霊が混じっているという噂の仮面舞踏会に招かれた二人が、城の血塗られた過去を垣間見る「仮面舞踏会」
ロンドン近郊の農家でいなくなった猫を探すことになったアリスが、周囲で猫が次々と行方不明になっていると知り、交霊会で猫たちを呼び出す「猫の交霊会」
前話で依頼を受けた農家とその親戚が争っている土地の境界に立った小屋を訪れた二人が、不気味な怪物に襲われる「境界の小屋」
アリスの世慣れた性格と霊能力、そのアリスのために大暴れするミス・ホブスンの武闘派ぶり、二人のキャラクターはもうすっかりお馴染みなだけに、どんな事件でも安心して見ていられるのですが――しかし描かれる物語は、前作と少々趣を変えているように思われます。
前作にあった、ドタバタ騒動の奇妙な味わいは薄れ、不気味な黒魔術の企てや不可解な霊現象が前面に描かれる――それは本書から登場した二人の宿敵ともいえる女魔術師ジュディス(これがまた実に作者らしい妖女ぶり!)の存在に拠るところも大きいのかもしれませんが、全体的に古式ゆかしい英国調のホラーに寄せていると感じます。
特にそのテイストを強く感じさせたのは「四辻の悪魔」と「5枚のカード」です。
悪魔召喚という古典的題材を、奇怪な魔術――それも実に漫画的にビジュアル映えするもの――と絡め、四辻近くの廃教会という不気味な舞台でムードたっぷりに描いてみせる前者。
悪魔を思わせる不気味な二人の男が興じるカードゲームが謎めいたままに続き、結末に至り、思いもよらぬ「勝負手」として現れる後者。
どちらもM・R・ジェイムズをはじめとする古典英国ホラーを思わせる巧みなアイディア、そして意外かつフェアな物語展開が印象に残る名品であり、同好の士にはぜひ味わっていただきたいものです。
もちろんその一方で、「猫の交霊会」のような、どこか抜けた味わいの(しかし愛猫家的には全く笑い事ではない内容なのですが)物語があったり、密かにレギュラーになりつつあるドクター・グーリンのすっとぼけた味わいのキャラクターなど、懐古趣味では終わらない、硬軟取り混ぜた味わいがあるのはいうまでもないところではあります。
いずれにせよ本作からは、作者がこの二人と、二人が活躍する怪奇な冒険にすっかり入れ込んでいることがよくわかります。この先も描かれるであう二人の物語も、大いに期待してしまうのです。
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