士貴智志『どろろと百鬼丸伝』第10巻 海に潜むもの、その名と姿は
名作を長編物語として本作ならではの解釈で描いて来た『どろろと百鬼丸伝』も、ついに十巻に到達しました。どろろの背中に描かれた地図が示す地――白骨岬に向かおうとする人々の前に現れる新たな死霊。その死霊を操る不知火の真意とは、そして岬に向かうための手段とは……
土地の領主となっていた死霊・鯖目と宇宙からやって来た舞姫らとの戦いをはじめ、これまで数々の死霊と戦い、己の身体を取り戻してきた百鬼丸。ついに残すところはあと十五匹となった百鬼丸ですが、旅の途中、彼はどろろの背中の地図に描かれた場所――どろろの父・火袋が遺した莫大な黄金が眠る地を発見します。
しかしそこに、かつて火袋の手下であり、今は野盗の頭領であるイタチが現れて――ということで、この巻では原作でも後半のクライマックスだった、白骨岬を巡るエピソードが描かれます。
(ちなみに、表紙に描かれている醍醐景光と謎の生人形は、冒頭の間奏曲的エピソードに登場するのみ。多宝丸は登場なし)
イタチに黄金の在処を教える代わりに、自分と一緒に火袋の意思を継ぎ、その黄金を世の中に役立てるよう頼むどろろ。それを受けたイタチですが、しかし収まらないのは子分たちであります。イタチを出し抜こうとする彼らの前に現れたのは、土地の娘・不知火――イタチには道案内に雇われていた彼女は、子分たちを岬に案内するというのですが……
不知火(しらぬい)が女性!? というのはさておき、この不知火は、原作でも強烈な印象を残したキャラクターです。何しろ、子分たちを渡してやると称して、彼らを自分が可愛がっているサメの餌に――ってサメじゃない!?
本作で不知火とともに現れるのは海坊主。真っ黒な丸い頭に巨大な二つの目を光らせて海の中から現れ、舟ごと人々を呑み込む――古式ゆかしい(?)この海坊主もまた死霊の一体のようですが、不知火はどこでこの海坊主と出会い、そして何故人を喰わせているのか。そしてこの海坊主の海を越えて、白骨岬に渡ることはできるのか……
という、海坊主と不知火を巡る謎がメインとなるこの巻。例によって百鬼丸を残して突撃したどろろを通じて、その真実が描かれることになります。
それはある意味、原作の悲劇性を回避したifの世界を描いてきた本作らしい内容なのですが――個人的には原作から離れすぎたかな、という印象があります。
上に少し触れたように、原作のしらぬいは、自分が可愛がっているサメに餌として人間を喰わせていた少年。そこには一応彼なりのロジックはあるものの、ほとんど狂気としかいいようのないそれは、だからこそ舞台となる時代の、一種の象徴ともいえないでもありません。
一方で本作の不知火は、他人を犠牲にする点は同じでも、それはそれで一つの明確の理由があり、(それも戦国らしい殺伐さではあるものの)あくまでも人間的な動機として感じられます。
そんな本作の不知火が、サメに人を喰わせるというのは違和感――ということなのかもしれませんが、原作のしらぬいの狂気が印象に残っていた人間としては、ちょっとマイルドにしすぎてはないかなあ、と感じてしまったところではあります。
何故海坊主がこの海に現れたのか、という理由はなかなかビジュアル的に面白いのですが……
(面白いといえば、海坊主に呑まれたどろろが、百鬼丸に助けを求める方法が、非常に「漫画的」で面白い)
何はともあれ、ようやく岬に渡る方法が明らかになり、岬に向かう一行。そこで彼らを何が待つのか、そして海坊主と不知火の行動は――原作ではこの先にさらなるクライマックスがあったわけですが、本作ではどうなるのか。
ここまででは大きく異なる道を進んだ物語ですが、それだけにこの先の展開が気になります。
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