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2024.06.23

川原正敏『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』第22巻 決戦、修羅と鬼 そして人と鬼を繋ぐ者

 『修羅の刻』現時点で最も古い時代を描く「陸奥庚の章 酒呑童子編」、全三巻もこの巻でいよいよ完結となります。都を騒がす鬼たちに対し、辟邪の武を振るうべく大枝山に向かう源頼光と四天王。その一人・陸奥庚と酒呑童子――修羅と鬼がついに激突します。

 都を騒がし、関白を次々と暗殺していく酒呑童子一党。彼らと様々な形で因縁を結ぶこととなった源頼光と源綱は、頼光邸を襲った鬼たちと対決、その場に綱の弟・陸奥庚(坂田金時)も駆けつけます。
 酒呑童子は綱を妻にしようとし、酒呑の娘である茨鬼はこれに反発し、庚はその茨鬼を妻にしようとし――何だか都を守る(というのは建前とはいえ)辟邪の武が、昭和編みたいなノリになってきましたが、陸奥側には酒呑童子たちとあまり因縁はなかったので、これはこれで必要な展開かもしれません。

 そして綱と茨鬼の再戦が意外な結果と終わり、金時も欠いた状態で酒呑童子と対面した一行。そこで頼光は、おもむろに懐から酒を取り出し、酒呑に勧めるのですが……


 というわけで、(作者の律儀さから出ないはずはないにせよ)この流れでどのように出すのかと思っていた神変鬼毒酒のエピソードも描かれ、酒呑童子伝説を踏まえて展開していく物語。しかしもちろんその先にあるのは、伝説にはない戦い――鬼たる酒呑童子と、修羅たる陸奥庚との激突であります。

 見るからに只者ならぬ巨人・酒呑童子と、物語冒頭で熊を素手で狩ってみせた庚と――その戦いは、決してページ数自体は多くはないものの、正面からのぶつかり合いは迫力十分。結末は意外とあっけないようですが、しかしここは実際には奥義クラスでなくとも十分殺人技たり得る陸奥圓明流らしいフィニッシュというべきでしょう。

 そしてそれと並行して描かれる頼光のキャラクターもまた巧みです(――特に「酒」の使い方のうまさには驚かされます)。ラストの一見身も蓋もない発言がしかし――という辺り、彼こそが権力者から鬼とされた人々と都人を繋ぎ、古い物語に新たな価値観を加えてみせた本作を象徴する存在であった感じるのです。


 とはいえ、全三巻という決して少なくない分量を費やしたにもかかわらず、本作は食い足りない印象が大きいのもまた事実です。
 酒呑童子の強さが途中でほとんど示されなかったためにラストバトルが盛り上がりにくかったというのもあるのですが、やはり庚と綱、二人の陸奥(綱は形の上で陸奥ではないというのは置いておくとして)がうまく機能していなかったという印象があります。

 特に綱が、人である頼光、修羅である庚、鬼である酒呑童子――どのどれでもなく、しかしそのどの立場も理解できる存在としてドラマ上重要な位置付けにあった一方で、庚はあまりにシンプルな存在で深みに欠けたきらいがあります。
 もちろんそれこそが修羅であり、そしてそんな修羅が一種の狂言回しとして『修羅の刻』は描かれてきた側面も確かにあるのですが、皮肉にも綱という存在があったために、庚の物足りなさが際立ってしまったように感じます。
(その一方で、綱の複雑さも、物語でうまく機能していたと言い難いとも感じるのですが……)

 さらにいってしまば、鬼と修羅とか、庚と金時と金太郎とか、ワードの妙な複雑さが引っかかったという点もあるのですが……


 なにはともあれ、物語も登場人物も魅力的でありながら、微妙な物足りなさが残った本作。これはどうもまだ語られていない部分があるのではないか――と思いきや、本作の続編(あるいは前史?)として「安倍晴明編」が予定されているとのこと。

 本作でも如何にも意味ありげに登場しながらも、そのまま終わってしまった安倍晴明。その名を冠するということは、はたして――2025年初春ということで、まだだいぶ先ですが、もちろん楽しみに待ちたいと思います。


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