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2024.07.19

天野頌子『晴明の娘 白狐姫、京の闇を祓う』 妖狐の姫の生い立ちと活躍

 陰陽師といえばもはや安倍晴明が代名詞となっていますが、本作はその晴明に娘が、それも祖母譲りの美貌と妖力を持った白狐姫がいたという設定の物語――現代を舞台とした『よろず占い処 陰陽屋シリーズ』の作者が、本物の(?)陰陽師の物語に挑戦した作品です。

 安倍晴明と妻・宣子の間に生まれた待望の娘・煌子――しかし彼女は狐の耳と尻尾を持って生まれてきた妖狐でした。実は晴明の母である信太森の白狐・葛の葉の血が、孫に当たる煌子に現れたというのです。
 煌子を信太森で引き取ろうと安倍家に現れた葛の葉の勧めを、しかし晴明たちは断り、煌子を屋敷の中で育て始めるのでした。

 そして両親と二人の兄の愛を一身に受け、美しくもおてんばに育った煌子。しかし家の中だけでの生活に我慢できない煌子は、父や兄にせがんで、男装で外出するのようになります。
 ところが、生まれながらに強大な妖力を持つために、妖怪たちに狙われる煌子。幾度か危ない目に遭いながらも、彼女はその力を発揮して次々と妖怪たちを従え、自分の式神としていきます。

 やがて彼女は「白狐姫」として、妖怪たちの間でその名を知られるようになって……


 安倍晴明に、吉平と吉昌という二人の息子がいたことは(フィクションで時々取り上げられることもあり)比較的知られているかと思います。
 本作はその二人以外に晴明に子供が、しかも二人の下に妹がいた――というだけでなく、祖母からの隔世遺伝で狐っ娘だった、というユニークなアイディアの物語です。

 しかも煌子の場合、外見だけでなく、その妖力の大きさまで祖母譲りというのも愉快なところで――連れている妖怪も、小は管狐から上は鞍馬山の大天狗(この大天狗が式神になる経緯が愉快)まで、さらに妖怪ではないけれどもあの渡辺綱までお供に、という豪華すぎる顔ぶれです。

 本作はそんな煌子が、妖怪に襲われあわやという状態だった少年・道長を救い出す場面から始まりますが、そこから物語は時間を遡り、煌子の誕生から「いま」に至るまでの過去が描かれるという構成となっています。

 そしてそこでは、煌子の生い立ちや活躍――だけでなく、この時代の様々な文化風俗も織り交ぜて描かれるのがなかなか面白いところです。
 誕生や裳着といったイベントから、陰陽寮/陰陽師の日常、あるいは五節舞のような儀式まで――煌子が成長し、様々なことを学ぶのに合わせて描かれることで、そんな平安独自の要素が、初心者にもわかり易く、そして物語に無理なく織り込まれているのに感心しました。

 そして物語の約2/3を過去編に費やした後、残る1/3では、出産を間近に控えた女御を守るために、煌子のみならず、安倍家が総出で奮闘する姿が描かれます。
 女御のもとに死霊のみならず生霊が現れ、何者かの呪詛が仕掛けられるという混沌とした状況の中、ちょっとしたパニックもの的事態が発生して――というクライマックスは、なかなか盛り上がます。


 ただ個人的に残念だったのは、大天狗や綱、道長、さらには安倍家の男性陣も(そして最後に登場する敵も)含めて、煌子の周囲の男性キャラは結構な人数がいたものの、それぞれあまり強い個性が感じられなかった点です。
 もちろんあくまでも煌子が主人公ではあるために仕方はないのかもしれませんが、皆ネームバリューはそれなり以上にある彼らの存在が、作中で生かされていたかといえば微妙なところです。

 そんなこともあり、煌子の破天荒な暴れぶりは面白いものの、全体を通してどこか物足りない印象が残ったのは、勿体ない話ではあります。


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