藤堂裕『Xinobi 乱世のアウトローたち』第1巻
忍者は時代漫画の中でも様々な時代、様々な形で描かれてきましたが、本作は忍者たちが最も活躍した戦国時代を舞台に、しかし決して派手でも颯爽ともしていない生の姿を描いた作品。漫画版『信長を殺した男』の作者による、北条家に仕えた悪党(アウトロー)・風間一党の物語の開幕です。
諸勢力が激しく争う戦国時代の関東でも、特に諸勢力の激突する戦場となってきた、武蔵国のとある村――一年前、合戦に巻き込まれて父と母を失い、妹を攫われた少年・善太は、今また合戦で北条方の国衆に、残った家まで壊されてしまうのでした。
激高して食らいついたものの、もちろん敵うはずなく殺されかけた善太は、しかしそこに割って入った一人の飄々とした男に救われることになります。
彼が率いるのは、合戦で様々な裏の仕事に携わる悪党(アウトロー)たち。北条家に仕える彼らは、長尾家との合戦で、北条家の武士たちが到着するよりも早く、敵方の城を落としてのけます。
その男――風間出羽守小太郎に憧れ、仲間入りを望む善太。しかしまだ子供だと相手にされず追い払われかけた彼は、思わぬ事態に巻き込まれて……
忍者が諸流ある中でも、その活躍の華々しさと剽悍ぶりが記録に残っていることで知られている風間(風魔)の忍び。本作は、この最も戦国時代の忍びらしい忍びを題材としています。
しかし、これだけメジャーである故に、風魔忍びは、これまでフィクションの世界では様々な形で描かれてきました。それをいま、敢えて主役に据えるに当たり、本作はその姿を「リアル」に描くというアプローチを取ります。
超人的な身体能力を持つわけでも、人智を超えた技を用いるわけでもない。武士が陽だとすれば陰、いや闇として、汚れ仕事を請け負ってきた者たち――そんな悪党として、本作は忍者を描きます。
この辺り、一歩間違えれば非常に地味な、あるいは泥臭い内容になりかねませんが、それを忍びでも武士でもない、ごく普通の少年のニュートラルな視点から描くことにより、リアリティとドラマ性を両立させているのは、本作の特徴の一つでしょう。
この時代、農民は(特に善太のように庇護してくれる者もない者は)、支配階級である武士と武士の間の争いに巻き込まれ、ひたすら翻弄されるほかありません。
そんな身の上から脱出するために、善太が忍びという世の則から外れた存在に加わろうとする導入も、それなりに説得力があるといえるでしょう。
(説得力といえば、小太郎レベルでも、腕利きの忍び数人を同時に相手にすれば危ない、というパワーバランスにも、不思議な説得力があります)
もっとも、既存の社会制度で底辺にあった人間が、アウトローたちの中に入って成長していく――という構図自体は、特に青年誌においては定番パターンの一つではあり、その意味では新味は少ないかもしれません。
しかし時代設定、舞台設定の面白さは、それを補ってあまりあるものがあります。
というのも、本作の舞台となるのは桶狭間の戦から四ヶ月後――北条・今川・武田の三者間の同盟で取られていたバランスが一気に崩れ、長尾家(上杉家)が北条領に侵攻し、武田も信頼できないという状況にあるのですから。
そしてそんな混沌とした状況下だからこそ、忍びの活躍の余地があります。はたしてその中で風魔忍びたちは、そして善太はどう戦い抜くのか。この先、本作ならではの物語が描かれることに期待したいと思います。
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