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2024.07.21

安田剛士『青のミブロ』第14巻 そして芹沢の死が開いた道へ

 この数巻、物語をグイグイ盛り上げてきた芹沢暗殺編がついに終わり、エピローグとも言うべき内容が描かれる第14巻。心に深い傷を負ったにおと太郎をはじめ、生き残ったミブロたちは、この先をどう生きるのか――第一部が大団円を迎えます。

 土方と沖田との対決で深傷を負いつつも、におの手引きで逃れ、念願だった近藤と刀を交えた芹沢。近藤こそが真の武士と想いの丈を伝えた後、近藤をその場から去らせた芹沢に対し、におは大きな役目を背負うことになります。
 一方、芹沢の下に駆けつけようとした太郎と、彼を止めようとするはじめとの対決は、永倉直伝の燕と、はじめの居合の激突の末に、双方痛み分けに終わるのでした。

 かくて暗殺の夜は明け、芹沢の死は長州による暗殺として処理された(ここで監察がこの処理を受け容れる理由が本作ならではのものなのがちょっと印象的)末に、残された者たちは新たな一歩を踏み出すのですが――当然、それが自他ともに平らかなものであるはずもありません。

 自分の信念を貫いた結果とはいえ、初めて人を斬ったにお。複雑な敬慕の念を抱く芹沢を喪った太郎。その太郎が芹沢の下に行くのを力づくで止めたはじめ。この三人の少年の心の傷とわだかまりは決して浅いものではありません。
 しかし大人たちの変化は、それ以上に大きく、むしろ苛烈というべきでしょう。

 これまでのクールさが「鬼」の方向に加速した土方(芹沢暗殺直後の行動は本当に怖い)はある意味納得ですが、元試衛館組の中でも最も脳天気に見えた原田が間者に取った行動は、彼の普段のイメージとは全く異なるだけにただただ恐ろしく感じられます。
 そんな原田のもう一つの顔に驚き、そしてともすれば過激に走る周囲を止めようとした山南も、事に及んでは全く躊躇うこともなく――もとより肚の据わった面々ではあったものの、後の新選組のイメージの一つをなぞるような果断ぶりには、このまま彼らが突き進んでしまうのではないかと不安になります。


 しかし――少なくとも少年たちは、決して立ち止まったままでも、間違った道を歩もうとしているわけではありません。それを示したのは、意外にもというべきか太郎――芹沢の件で沈んでいるところに、間者の処断に利用されてさらに項垂れるにおの前に現れた太郎は、におに語りかけます。

 本作の中心となる三人の少年の中で、これまで最もパッとしない印象であった太郎。におのような心の強さ・正しさや才知があるわけでもなく、はじめのような剣の腕があるわけでもない。常に死んだ魚のような目で、暴力には怯え、裏では毒を吐く――彼はそんなキャラクターでした。
 しかしこの芹沢暗殺編では、彼こそが芹沢の暴力に怯えつつも、人の知らない芹沢の苦悩を知り、だからこそ最期の時を共にしようと願う姿が――そして芹沢もまた、密かに太郎を息子のように思っていたことが描かれました。

 そんな彼らの想いは叶うことなく、それどころかミブロで最も近い者によって芹沢は介錯された――それが彼にとって、どれだけの衝撃であるか想像に難くありません。正直なところ、芹沢の死とともに彼はこの物語から、少なくともミブロから退場するのではないか――そう思ったほどでした。

 しかし、ここで太郎がにおに語りかけた言葉は、そして彼が見せた表情は、彼が過去に執着しているのでも、怨念に駆られているのでもなく――それどころか、芹沢の死を正面から乗り越え、新しい自分へ、よりよい明日へ向かおうとしていることを示すものでした。
 そしてそれを可能としたのは、太郎とにおを友として案じ、そのために自らの手を汚すことを恐れないはじめの存在であり――そんな二人の友の存在が、におを再び立ち上がらせるのです。


 芹沢が遺した「誠」の旗印――そこに込められたものは様々でしょう。そしてその受け継ぎ方も一つではありません。
 その中で武士の生き様を近藤が継ぎ、それを支える最も苛烈なやり方を土方が継ぎ――そしてまた、理想を真っ直ぐに目指す心性を三人の少年が継いだ。この巻の物語から、そして第一部の結末からは、そんな印象を受けました。

 もちろん、芹沢の死によって開かれたその道が、綺麗なものでも、平坦なものでもあるはずがありません。
 しかしミブロに、新選組に身を置く者たちは、それでも誠の旗印の下に、真っ直ぐ進んでいくのだろう――そしてその姿を見てみたいと、そう思わされる見事な一つの結末でした。


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