鶴淵けんじ『峠鬼』第7巻 激突「誓約(うけい)」バトル!そして神という存在の意味
どのような願いでも叶える一言主に会うための旅であったはずが、人と神の複雑な思惑が重なり、大事になってきた役小角・善・妙の旅。一度離散し、ようやく合流した三人ですが、今回その前にとんでもない神が登場します。人間側の事情などおかまいなしの神を抑えるため、妙が立ち上がるのですが……
今は月に棲まうという一言主のもとに向かっていたはずが、アクシデントで散り散りになってしまった役小角・善・妙。
それぞれに思わぬ真実を知り、再び合流した三人ですが、離れ離れの間に明らかになったのは、近江の直宮方と吉野の東宮方の衝突が目前に迫っていること、そして近江方の背後では三世上人が暗躍しているという事実でした。そして上人の計画は、一言主を癒やすために全ての人間を犠牲にしかねないものだったのです。
一方、一言主も語れなかった鬼の秘密を知るという上人。しかし彼と短い間とはいえ旅を共にした妙は、その恐るべき正体に思い当たってしまい……
というわけで、三世上人の存在がいよいよ物語の中心に躍り出てきた感がありますが、この巻では、それがとんでもない神をも引き寄せることになります。
前巻のラストで、様々な神器を簒奪・濫用しているという者を調査するため、天津神と国津神の衆議によって人界に送り出された神。その名は――須佐之男!
確かに人界にも縁の深い神ですが、よりにもよってあの荒ぶる神を――と、作中の神々も人間も、そして我々読者も思ってしまう須佐之男。その不安はもちろん(?)的中し、その凄まじいパワー、そしてそれ以上に他者の話を全く聞かないマイペースぶりは、小角一行を振り回しまくることになります。
お目付け役の思金鐸のおかげで、子供姿には変わったものの、その暴れっぷりは相変わらず。挙げ句の果てに、妙を妻に迎えると言い出した須佐之男に、さすがに堪忍袋の緒が切れた小角と善ですが、二人がかりでも身を守るのがやっとの状態です。
そんな中、思金鐸から入れ知恵された妙は、須佐之男を抑えるために「誓約(うけい)」を申し入れて……
というわけで、この巻のクライマックスとなるのは、妙と須佐之男の「誓約(うけい)」。神話においても(それこそ須佐之男自身も)何度も描かれるこの「誓約(うけい)」は、「×××できたならば、△△△ということである」というような、誓いとも占いともいうべきものです。
しかし、これまで様々な神々と神器を、独特すぎる、そしてSF味とパロディ味の強い描写で料理してきた本作が、ただの誓約を描くはずがありません。
かくて妙と須佐之男が繰り広げる「誓約(うけい)」は、ゴーグルをつけて仮想空間の中で「草」の崇敬を集めてパワーアップ、より多くの崇敬ポイントを集めて戦で相手を倒した方が勝ち――簡単にいってしまえば(古い例えで恐縮ですが)VRポピュラスとでもいったバトルが繰り広げられることになるのです!
草たちのために力を振るい、草たちを繁栄させることで、自分もパワーアップし、その振るった力(が草たちの目に映った姿)によって、姿を変えていく妙。思金鐸の助言を受け、最強のステータスになった妙ですが、その前に現れた須佐之男は――という展開も楽しいのですが、しかし本作の油断できないところは、そこに本作を形作る重要な要素の一つである、「神とは何か」を巧みに織り込んでいる点です。
そう、草すなわち民草を見下ろし、己の力で以て民草を「総体として」繁栄させ、その民草のイメージを反映して姿を変えていく――この「誓約(うけい)」における妙に当たるものこそ、「現実」における「神」にほかなりません。
「誓約(うけい)」勝利のためとはいえ、草相手に無邪気に力を振るっていた妙は、その事実に慄くのですが――しかし同時に、人は神とは異なる、神にはできぬやり方で、力を発揮できることを、本作は示します。
そしてそれは、三世上人が神を甦らせるために為そうとしている企てを思った時、それに対するもう一つの道足り得るのではないか――そんなことすら感じさせられます。
(そして、神と人がそうであるとすれば、鬼ははたして――とも考えさせられるのですが)
三世上人との再びの対峙も近づく中、神と人の関係性を描き直してみせた本作。その上で描かれる、神と人の迎えるべき未来とは――物語のクライマックスも間近というべきでしょう。
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