高橋留美子『MAO』第21巻 三つのエピソードが見せる物語の厚み
少々意外なキャラクターが表紙を飾る『MAO』第21巻は、御降家継承を巡る因縁と謎は小休止となり、御降家の遺産を中心とした短編エピソードの連続となります。
土の術者・大五の復活とその背後の猫鬼の暗躍により、一層混沌としていく御降家の弟子たちと新御降家の戦い。そんな中、幽羅子は摩緒にどこまでが真実かわからぬ「本心」と「真実」を語り、彼を悩ませます。
そんな重苦しい状況で、摩緒は気分転換的に(?)菜花と共に、御降家の呪術を継ぐ宝生家に往診に向かうのですが……
新御降家のかがりの実家であり、以前彼女から呪いを受けた姉・綾女。この巻の表紙を飾る綾女から、摩緒たちは、かつて彼女が受けた呪いの依頼の、いわば後始末を頼まれることになります。
親友でもある使用人の少女を騙す、悪い男にかけた呪いが効かないと再度訪ねてきた令嬢。しかし彼女の家で出会った相手の男は、呪いによって確かに異形に変じていて――という奇妙な状況で描かれるのは、はたして誰が誰を呪ったのか、という謎です。
シチュエーションから考えればその答えはほぼ明白でしょう。しかしかがりの呪いで視力を喪った代わりに綾女が見る力を得た、人の背後の「暗い影」の存在が、このエピソードにアクセントを与えています。
そこで描かれるものは、この呪いを軸とする物語にも、一つの救いがあると示しているように感じられるのです。
続いて描かれるのは、村々で相次ぐ、子供たちの集団行方不明事件――昼日中から子供たちが、大人の制止も振り切ってどこかに引き寄せられるように去ってしまうという、ハーメルンの笛吹きを思わせる事件です。
そして事件の背後にあった御降家の呪具・子寄せの笛を巡り、摩緒と新御降家の蓮次と芽生が激突することに――と、これまで幾度も描かれてきた呪具争奪戦が展開するのですが、ここでは御降家ゆかりの者たちでない、「普通の人間」の悪意が描かれることになります。
そもそも、その名の通り子供を操り、招き寄せるこの笛は、強力ではある(操られて、誘拐を警戒する大人たちに集団で襲いかかる子供たちの姿が凄まじい)ものの、用途は限定的であるはず。
しかしその用途の先にあるものは――と、暗澹たる気持ちになったところに、意外な犯人像と背後関係が明らかになったところから、物語は意外な方向に展開していきます。
そもそも新御降家側から派遣されたのが蓮次と芽生という、ともに幼い頃に大人によって運命を狂わされた二人である点が、一種のヒントでもあるわけですが――このエピソードの結末は、御降家と新御降家がある種の棲み分けを見せると同時に、両者の決して越えられない溝をも示している点が、印象に残ります。
たとえ一部でも通じ合うところがあったとしても、結局はどちらかが倒れるまで戦うしかないのか――物語の本筋には絡まないものの、そこで続く戦いの行方を予感させる意味で、重要なエピソードといえるでしょうか。
そしてこの巻の後半では、奇怪な生人形を巡るエピソードが展開します。
とある男爵が手に入れたという見事な生人形のお披露目に参加した華紋。しかし数日後、男爵は自室であばら骨が何本も折れた姿で発見され、生人形は姿を消していたのでした。そして調査に向かった華紋が現場で感じ取ったのは、強い金の気だったのです。
その後、幾つかの家が生人形を手に入れたと知り、確かめに行った華紋が見たものは、先日見たものとは異なる人形であり、しかもその家の人間も健在――しかしいずれの家も、御降家の人形師から買ったと語っていて……
という謎めいた導入のこのエピソードですが、上で触れた殺人が起きた家と起きなかった家の違いというひねりは面白いものの、真相自体は、ここまで読んできた読者にはある程度予想はつくかと思います。
が、全く予想できなかったのは、その背後に、かつて本作で描かれたある戦いがあったことであります。具体的には第6巻と相当以前ですが、そこで描かれたものがここに繋がってくるというのは、長編漫画だからこその醍醐味というべきでしょうか。
冒頭に触れた通り、本筋にはほとんど触れないエピソードが続く巻でしたが、それはそれで面白いのは、本作の物語としての厚みというものなのかもしれません。
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