南部の忍び、金山の謎に挑む? 桜井真城『雪渡の黒つぐみ』
江戸時代初期の東北を舞台に、隠密たちのサスペンスフルな暗闘を描く、ユニークな活劇です。伊達家の黒脛巾組の暗躍を探るため、金山に潜入することになった南部家の隠密・間盗組の景信。伴天連門徒や謎の邪教集団も絡み、複雑怪奇な状況の中で、いまいち頼りない彼の活躍やいかに?
城代の娘の侍女・紫野が黒脛巾組の隠密と知り、密会相手を捕えるべく待ち伏せた、間盗役の望月景信。間盗役でも唯一の声色使いである彼は、紫野に化けて密会場所に出向くものの、相手に見破られた上、捕えようとした相手は自害してしまうという失策をしてしまうのでした。
陰険な上役の浅沼にここぞとばかりに責め立てられた景信は、苦し紛れに紫野を転向させ、彼女と共に潜入先である鹿角に向かうことになります。
南部領随一の金山であり、諸国から逃れてきた伴天連門徒が大勢いるという鹿角の白根金山。そこで何かが行われていると睨む景信ですが、紫野が何者かに殺され、後から助っ人としてやってきたという豆助と共に、金山に向かうことになります。
その金山の麓の町で、景信は、父が東北を騒がす邪教・大眼宗に関わって出奔したため金山にいられなくなり、女郎になるという娘・鈴音と出会い、強く惹きつけられます。
そして、堀子だった鈴音の父と働いていたという金名子(堀子たちの取り纏め役)の重蔵と知り合った景信と豆助は、彼の口利きで金山で働くことになるのでした。
実は伝道師の助手を務めるという重蔵をはじめ、山の人々から伴天連宗の情報を集める二人。しかしその周囲は俄にきな臭くなっていきます。
豆助も本当に信頼できるのか定かではない状況で、景信は鈴音に接近して伴天連宗、そして大眼宗の謎を追うのですが……
どうしても知名度が高く、何かと動きの派手な伊達家の陰に隠れがちな南部家ですが、しかし東北の戦国時代を生き抜いて江戸時代を迎えただけあって、なかなかどうして面白いエピソードを持つ大名家です。
本作は、そんな南部家がかつての強敵――そして今は油断ならぬ隣人である伊達家と繰り広げる諜報戦を描いた物語ですが、その題材として、金山とそこに集まる伴天連門徒(キリスト教徒)を扱うのが趣向です。
この時代は既に禁教令が全国に広まっていたものの、金山は治外法権。そこに伴天連門徒が集まって――というのは、必ずしも本作の創作ではなく、史実に基づいたものです。
さらにいえば、本作の冒頭で描かれる、大眼宗が出羽の横手城を襲撃し、囚われた大導師を奪還したという、あまりにフィクションさながらの事件も、そしてこの大導師と本作に登場するある人物との関わりも……
こうした、実に面白い題材ながら取り上げられることの少なかった、東北の伴天連宗門と大眼宗を題材にしたのは、見事な着眼点というべきでしょう。
そしてそれを背景に、南部家と伊達家の諜報戦が展開され、誰が味方で誰が敵かわからない暗闘が繰り広げられる――というのも面白いのですが、引っかかるのは主人公である景信のキャラクターです。
声色使いとしてあらゆる声を真似できるという、唯一無二の能力を持つ景信。しかしそのメンタリティは隠密というにはあまりに未熟で、諜報戦の中で右往左往する姿が目立ちます。
特にヒロインの一人である鈴音に対してはほとんど執着としかいえない態度を見せ、かなりいきあたりばったりに行動する姿は、物語の緊迫感を大きく削ぎかねない(それはそれで一種の緊迫感を生むといえばいえますが……)と感じます。
声色使いの能力も、終盤のある場面で非常に面白い使い方をするものの、それ以外ではあまり活用されていると言い難く状態です。もちろんその未熟さが、逆に物語をスリリングなものとしているといえないこともありませんが、彼が作中で大きく成長するわけでもなく、もう少しプロらしくしても、というのが正直な印象です。
さらにいえば、当時の伴天連門徒が置かれた状況に対して物語がほとんど無頓着なのも、(これはこれで一つの書き方ではありますが)もう少し描きようがあったのではないかと感じます。
題材としてはまだまだ珍しい(といっても絶無ではないのですが)だけに、色々と勿体ない作品だと感じたところです。
『雪渡の黒つぐみ』(桜井真城 講談社) Amazon
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