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2024.10.02

ついに終結! 文永の戦い たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記 博多編』第10巻

 長きにわたる戦いも、ついに終わりの時が訪れます。一致団結した日本武士団の逆襲の中、ついに蒙古軍の大将を討ち取った朽木迅三郎。情勢が大きく変わり、撤退に向けて動き出した蒙古軍ですが、その機に乗じて暴発する者が現れます。追撃する迅三郎たちがそこで見たものは……

 一時は太宰府撤退を余儀なくされたものの、なおも抵抗を続ける迅三郎と大蔵太子たち。奇襲作戦は失敗したものの、各地の援軍が駆けつけたことにより、日本軍は互角の情勢まで盛り返します。
 そして、少弐景資のもとに初めて一致団結した日本軍は、ついに蒙古軍との全面対決に突入。当然ながらその先頭に立って切り込んだ迅三郎は、見事に敵の大将・ガルオスを討ち取ったのでした。

 形勢が一気に逆転したかに見えた日本軍ですが、蒙古軍にはまだ幾人もの将が残っているはず。しかし彼らにとって何よりも恐ろしいのは、風の吹く方向――これから冬にかけていよいよ北西の風が強くなれば、海を越えて帰ることは不可能になるのです。
 日本軍との戦いよりも、敵地である日本に取り残される方が恐ろしい。蒙古軍の中には、征服されて戦いに駆り出された高麗や女真の兵も多いのですから、その恐れはなおさらです。

 侵攻の早さもさることながら、引き際の早さも蒙古の兵法とばかりに、撤退を決定する東征軍元帥・クドゥン。しかし勝ちの勢いに乗る日本軍が、その隙を見逃すはずがありません。
 追撃が迫る中、戦いの途中での撤退に不満を抱いた高麗軍の金侁は、蒙古に反旗を翻し暴走を始めます。これに対し、クドゥンの腹心として両蔵は金侁を討たんとするのですが……


 というわけで、前巻の決戦によって戦の趨勢はほぼ決し、蒙古軍の撤退戦が描かれるこの巻。迅三郎も攻撃前夜に随分余裕のあるところを見せますし、どこか消化試合という感もあります。
 そもそも侵略してきたのは向こうとはいえ、逃げる相手に追い打ちをかけるのはあまり気分のいいものではありませんが――しかしそこに倒すべき敵を設定するのは、作劇上の工夫というものでしょうか。

 しかもその相手というのが、迅三郎とは博多編冒頭からの因縁の相手というべき金侁――ヒステリックで卑怯かつ悪辣、しかも蒙古に逆心を抱くという、まさに悪役に相応しい人物です。
 ここでも最後の最後まで憎々しい姿を見せる金侁――といいたいところですが、ここでは彼の別の一面もうかがわれるのが、少々意外なところです。

 確かに相変わらず卑怯でヒステリックな言動ながら、その一方で、彼は高麗人として、侵略者であり支配者である蒙古への逆襲の機会を待ち、ついに立ち上がった――そう書くと何やらヒロイックにすら感じられます。
 これまでも幾度となく描かれ、この巻でもクローズアップされた蒙古軍内の不協和音――蒙古軍の中での征服者と被征服者の上下関係は、攻められる日本側にとってはいい面の皮ですが、物語としては興味深い題材です。せめて金侁が典型的な悪役に描かれていなければ、もう少しこの点は面白い要素になったのではないか、と感じます。
(もっとも、本作の蒙古側のキャラクターは、大体においてあまり魅力的に描かれていないわけですが……)


 何はともあれ、そもそもの目的を果たして迅三郎は対馬に「帰還」し(ある種の余裕か大蔵太子は天草に去って)、ついに物語は平和を取り戻したといえます。
 しかし、クドゥンが語るように、征服するまで何度も繰り返すのが蒙古の兵法であり――そして蒙古軍の侵略がこれで終わりでないことを、我々は知っています。

 かくして、物語は第十一巻、弘安の戦いへと続きます。(「弘安編」にならないのは少々意外ですが……)


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