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2024.10.11

出現、美しき魔物、最悪の敵! 松浦だるま『太陽と月の鋼』第9巻

 愛する妻・月を取り戻してもまだまだ鋼之助の苦闘は続きます。戦いで負ったダメージを明の故郷で癒す一行ですが、そこに襲いかかる新たな刺客の影。卜竹とも深い因縁を持つその相手は、美しく無邪気な姿に恐るべき魂を隠した恐るべき相手なのです。

 那須での死闘を辛うじて生き延び、猪苗代に飛んだ鋼之助一行。そこで頼った明の故郷・弓呼村は、通力使いと一般人が共存する村でした。
 それぞれ十二天将の一人であった大ワカの婆さま、そして卜竹が、通力使いとして複雑な胸中を覗かせる中、通力使いたちの未来を握るという月は、人としての想いを貫くと語ります。

 そんな人々の想いが交錯する中、突然新たな刺客が明を襲います。いや、その刺客は明もよく知る村の人々――それだけでなく、鋼之助までもが、突如として周囲に刃を向けたではありませんか。
 単に得物を振るうだけでなく、通力使いはその通力を使って襲いかかる――そんな異常事態に自分も翻弄されながらも、卜竹は敵の正体に気付きます。

 それはかつて自分と同じ高山嘉津間の弟子だった娘、そして十二天将の一人・太陰の鬨。彼女はあどけなく美しい外見とは裏腹に、恐るべき通力と、何よりも純粋な邪悪というべき魂の持ち主だったのです……


 というわけで、デビューしたその巻で表紙を飾った美しき魔物・鬨との戦いと、卜竹が語る彼女の過去の所業が、この巻では語られることになります。
 新たな通力使いの能力描写と、その(基本的に悲惨な)過去が語られる――というのは本作の、というより超能力バトルものの定番の流れではあり、この巻もそれを忠実に踏まえたものといってもいいでしょう。しかし今回の場合、その内容の強烈さが全てを持っていった感があります。

 誰かを操って刺客に早変わりさせる――敵の存在を予見できない恐ろしさと、反撃したくとも反撃できない厄介さ(そして敢えて反撃した時に生まれる悲劇的なドラマ)から、様々な作品に登場する能力ですが、鬨のそれは、文字通り犠牲者を「心酔」させるものである点が、不気味かつ悍ましい。
 無理やり体を操るわけではないためか、相手の通力まで使えるという特性は、通力使いたちが集う弓呼村においては最適かつ最悪のものといえるでしょう。

 しかし真の最悪は、彼女の存在そのものであることを、卜竹は語ります。かつて彼女が姉弟弟子として高山嘉津間の下にいた時、嘉津間が巡っていた二つの村で何が起きたのか? この巻でかなりの割合を割いて描かれるその物語こそは、この巻のクライマックスであると言ってよいように感じます。
 もちろんそこで描かれるのは彼女の通力の恐ろしさなのですが、しかし真に恐ろしいのは彼女の心、いや心の中――ある意味漫画だからこそ描けるそれは、前巻で月が語った人の心の在り方と対極にあるものとすら言えるのかもしれません。


 とはいえ、鬨との戦いを通じて、この『太陽と月の鋼』という物語の本筋がほとんど全く進まなかったように感じられるのは、ちょっと辛いところではあります。
 ついに反撃が――こちらも恐るべきものとなることが予感される反撃が始まった今、この鬨のエピソードがいかなる結末を迎えるのか、そして全体の物語とどのように繋がるのか、次巻の展開が気になります。


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