忍者バトルの中の陰のドラマ性 白土三平『カムイ外伝』第一部
先日何となく読み返したので、今回は白土三平の『カムイ外伝』から第一部を紹介します。大作『カムイ伝』のスピンオフであり、同作のメインキャラクターの一人である抜け忍カムイの孤独な逃避行を描く、忍者漫画の名品です。
『カムイ伝』において、非人部落・夙谷に生まれ、自由のために強くなる道として忍びとなり、しかしその非人間的な掟に失望して抜け忍となったカムイ。忍びとしての天才的な能力と、変移抜刀霞斬りや飯綱落しといった必殺の秘術によって、彼は次々と現れる刺客を倒していきます。しかし、彼の求める自由はどこに行っても得られず、そして追っ手もまた執拗に彼に迫る――と、いうのが、全編を貫く設定となります。
ちなみに、今回わざわざ第一部と区切っているのは、第一部(1965-67年に「週刊少年サンデー」に不定期連載)と第二部(1982-1987年に「ビッグコミック」に連載)の間に大きく時間的な隔たりがあり、そして作者の作風・画風の変化と、後述する物語の方向性等、ある意味別作品といってもよい違いがあるからにほかなりません。
(身も蓋もないことを言えば、第一部は全二十回と手頃な分量な点もありますが……)
さて、基本設定は先に述べたとおりですが、第二部が(掲載誌の違い等もあって)忍者ものというよりも、カムイを狂言回しに、身分制度など社会の在り方に苦しむ様々な階層の人々を描く歴史劇という趣きが強いのに対して、第一部はカムイと追っ手の対決をメインとした忍者バトルものの性格がメインとなっています。
先に挙げた発表時期には、作者は平行して『ワタリ』『サスケ』、そして(個人的に大好きな)『真田剣流』『風魔』といった忍者アクションを矢継ぎ早に少年誌に連載しており、本作もまた、この作者の少年忍者漫画の名作群の一角を担うものであることは間違いありません。
特にカムイは、左右どちらの手で抜くかわからせぬまま、すれ違いざまに逆手抜刀を一閃する変移抜刀霞斬り、空中で相手の体を捕らえ、もろともに逆さに落下して相手の脳天を砕く飯綱落しと、実にヒロイックな必殺技(飯綱落としなど、特に後世のゲームでは忍者の体術のアイコンとなった感があります)を持っているのが大きな特徴といえます。
作者の少年漫画として円熟した筆も相まって、ここで繰り広げられる内容は、今の目で見てもバトルものとしての醍醐味を十二分に感じさせるものであることは、改めて驚かされました。
しかし、それは、決して本作がドラマ性の薄い、バトルのみの作品であることを意味するわけではありません。先に述べた第二部とは方向性の違いはあれど、非人出身にして抜け忍という、この時代、二重の重荷を背負わされたカムイの旅路はどこまでも重く、索漠としたものがあります。
時に視力を失い農村に身を寄せても下人として奴隷のように扱われ(そして村人たちのために戦えばその力を忌避され)、時に誰が追っ手かわからぬ疑心暗鬼の中で不要な犠牲者を出し……
もちろん、旅の中で知り合った漂白の技術者集団である黒鍬者の親方のように理解者はいるものの(しかしこの辺りは『カムイ伝』の展開を考えると、作者がどこに理想を抱いていたか感じられるように思います)、その使う技とは裏腹に、どこまでもヒーローたり得ない逃亡者であるカムイの物語の苛烈さは、少年漫画のフォーマットの中にあるからこそ、より鈍く重い光を放つと感じられます。
(普通こういう時に彼を支えてくれそうな鳥や犬といった動物の供も、容赦なくどんどん退場していく……)
そして、その陰のドラマ性とでもいいたくなる部分は、敵役である追っ手たちにおいても存分に描かれており――特に序盤に登場し、飯綱落とし破りを狙うものの、それぞれ悲惨な結末を辿る姉弟忍者、中盤の山場である追っ手集団の一員であり、一度はカムイの助けで抜け忍となったものの、神経をすり減らして暴走する若い下忍など、強く印象に残ります。
抜け忍という概念(名称ではなく)がいつからあるかはわかりませんが、少なくともその抜け忍を主人公とした物語の上流にあると同時に、その代名詞的な作品であることは間違いありません。
そしてやはりここまで来たら第二部も(全編ではないにせよ)いずれ紹介したいと思います。個人的に好きな「剣風の巻」など……
『カムイ外伝』第一部(白土三平 小学館ビッグコミックススペシャル『カムイ伝全集 カムイ外伝』第1-2巻所収) Amazon
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