2017.09.25

入門者向け時代伝奇小説百選 戦国(その一)

 入門者向け伝奇時代小説百選、今回は戦国ものその一。戦国ものといえば歴史時代小説の花形の一つ、バラエティに富んだ作品が並びます。

61.『魔海風雲録』(都筑道夫)
62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝)
63.『信長の棺』(加藤廣)
64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明)
65.『太閤暗殺』(岡田秀文)


61.『魔海風雲録』(都筑道夫) 【忍者】 Amazon
 ミステリを中心に様々なジャンルで活躍してきた才人のデビュー作たる本作は、玩具箱をひっくり返したような賑やかな大冒険活劇であります。

 主人公は真田大助――退屈な日常を嫌って九度山を飛び出した彼を待ち受けるのは、秘宝の謎を秘めるという魔鏡の争奪戦。奇怪な山大名・紅面夜叉と卒塔婆弾正、異形の忍者・佐助、非情の密偵・才蔵、豪傑、海賊、南蛮人――個性の固まりのような連中が繰り広げる物語は、木曾の山中に始まってあれよあれよという間に駿府に飛び出し、果ては大海原へと、止まる間もなく突き進んでいくのです。

 古き酒を新しき革袋に、を地で行くような、痛快かつ洒脱な味わいの快作です。


62.『剣豪将軍義輝』(宮本昌孝) 【剣豪】 Amazon
 壮大かつ爽快な物語を描けば右に出るもののない作者の代表作にして、作者に最も愛されたであろう英雄の一代記です。

 タイトルの義輝は言うまでもなく室町第13代将軍・足利義輝。若くして松永久秀らに討たれた悲運の将軍にして、その最期の瞬間まで、塚原卜伝から伝授を受けた剣を降るい続けたまさしく剣豪将軍であります。

 その義輝を、本作は混沌の世を終息させるという青雲の志を抱いた快男児として活写。将軍とは思えぬフットワークで活躍する義輝と頼もしい仲間たちの、戦乱あり決闘あり、友情あり恋ありの波瀾万丈の青春は、結末こそ悲劇であるものの、悲しみに留まらぬ爽やかな後味を残すのです。
 そして物語は『海王』へ……

(その他おすすめ)
『海王』(宮本昌孝) Amazon
『ドナ・ビボラの爪』(宮本昌孝) Amazon


63.『信長の棺』(加藤廣) Amazon
 今なお謎多き信長の最期を描いた本作は、「信長公記」の著者・太田牛一を主人公としたユニークな作品です。

 上洛の直前、信長からある品を託された牛一。しかし信長は本能寺に消え、牛一も心ならずも秀吉に仕えることになります。時は流れ老いた牛一は、信長の伝記執筆、そして信長の遺体探しに着手するのですが……

 戦国史上最大の謎である本能寺の変。本作はそれに対し、ある意味信長を最もよく知る男である牛一を探偵役に据えたのが実に面白い。
 秀吉の出自など、伝奇的興趣も満点なのに加え、さらに牛一の冒険行を通じ、執筆者の矜持、そして一人の男が自分の生を意味を見つめ直す姿を織り込んでみせるのにも味わい深いものがあります。

(その他おすすめ)
『空白の桶狭間』(加藤廣) Amazon


64.『黎明に叛くもの』(宇月原晴明) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 常人にはできぬ悪事を三つも成したと信長に評された戦国の梟雄・松永弾正久秀。その久秀を、歴史幻想小説の雄が描いた本作は、もちろんただの作品ではありません。
 本作での松永久秀は、波斯渡りの暗殺術を操る美貌の妖人。敬愛する兄弟子・斎藤道三(!)と、それぞれこの国の東と西を奪うことを誓って世に出た久秀は、奇怪な術で天下を窺うのであります。

 戦国奇譚に、作者お得意の海を越えた幻想趣味をたっぷりと振りかけてみせた本作。様々な事件の背後に蠢く久秀を描くその伝奇・幻想味の豊かさはもちろんのこと、輝く日輪たる信長に憧れつつも、しかし遂に光及ぶことのない明けの明星たる久秀の哀しみを描く筆に胸を打たれます。

(その他おすすめ)
『天王船』(宇月原晴明) Amazon


65.『太閤暗殺』(岡田秀文) 【ミステリ】 Amazon
 重厚な歴史小説のみならず、奇想天外な趣向の歴史ミステリの名手として名を高めた作者。その奇才の原点ともいえる作品です。

 本作で描かれるのは、タイトルのとおり太閤秀吉暗殺の企て。そしてその実行犯となるのが、生きていた石川五右衛門だというのですからたまりません。
 しかしもちろん厳重に警戒された秀吉暗殺は至難の業。果たしてその難事を如何に成し遂げるか、という一種の不可能ミッションものとしても非常に面白いのですが、何よりも本作の最大の魅力はそのミステリ性です。

 何故、太閤が暗殺されなくてはならなかったのか――ラストに明かされる「真犯人」の姿には、ただ愕然とさせられるのです。

(その他おすすめ)
『本能寺六夜物語』(岡田秀文) Amazon
『秀頼、西へ』(岡田秀文) Amazon



今回紹介した本
魔海風雲録 (光文社文庫)剣豪将軍義輝 上 鳳雛ノ太刀<新装版> (徳間文庫)信長の棺〈上〉 (文春文庫)黎明に叛くもの (中公文庫)太閤暗殺 (双葉文庫)

関連記事
 入門者向け時代伝奇小説百選

 「剣豪将軍義輝」 爽快、剣豪将軍の青春期
 加藤廣『信長の棺』 信長終焉の真実と記述者の解放と
 太閤暗殺

| | トラックバック (0)

2017.09.21

『コミック乱ツインズ』2017年10月号(その一)

 素晴らしいタッチのかどたひろし『勘定吟味役異聞』を中心に、『軍鶏侍』『仕掛人藤枝梅安』『鬼役』と原作付き作品四作品の主人公が配された、えらく男臭い表紙の「コミック乱ツインズ」2017年10月号。内容の方もこの四作品を中心に素晴らしい充実ぶりであります。

 以下、印象に残った作品を一作ずつ紹介いたします。

『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 来月単行本第1巻・第2巻が同時発売することとなった武村版梅安は巻頭カラー。小杉十五郎の初登場編である「梅安蟻地獄」の後編であります。

 仕掛けの相手である宗伯と見間違えたことで梅安と知り合うこととなった小杉。一方、梅安の仕掛け相手であった伊豆屋長兵衛は宗伯の兄であったことから、協力することとなった二人ですが、相手の側も小杉を返り討ちしようと刺客を放って……
 というわけで梅安・彦次郎・小杉揃い踏みとなった今回。本作では彦さんがかなり若く描かれているだけに、正直小杉さんとの違いはどうなるのかな……と思いましたが、三人が揃って見ると、彦さんはタレ目で細眉のイケメン、小杉さんは眉の太い正統派熱血漢という描き分けで一安心(?)であります。

 などというのはさておき、今回のハイライトは、橋の上で梅安が長兵衛を仕掛けるシーンでしょう。ダイナミックな動きからの針の一撃を描いた見開きシーンは、まさに武村版ならではのものであると感じます。


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 連載第2回となった今回は最初のエピソード「軍鶏侍」の後編。園瀬藩内の暗闘に巻き込まれた隠居侍・岩倉源太夫が、江戸の藩主のもとに家老の行状を記した告発状を届けることになって――というわけで、当然ながら源太夫の前に刺客が立ちふさがることになるのですが、ここで一捻りがあります。

 家老方に雇われた、いかにもなビジュアルの三人の刺客――と思いきや、仲間割れからそのうちの年長の一人が残る二人を斬殺! 実はこの刺客と源太夫の間にはある因縁が……
 と、この辺りは定番の展開ではありますが、しかし既に老境に近づいた源太夫たちの姿をしみじみと描く筆致はさすがと言うべきでしょう。
 物語を終えてのもの悲しくもどこか爽やかな後味も、この描写あってのこと。隠居侍が再起する物語として、相応しいファーストエピソードであったかと思います。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 今回からは幻の豪華列車を巡るエピソード。鉄道技術者として活躍し、九州鉄道の社長を務めた仙石貢が、物語の中心となります。

 ある日、島と雨宮のもとに仙石から舞い込んできた依頼。それは仙石が九州鉄道の社長時代にアメリカに発注した豪華車両のお披露目運転でした。
 輸送力増強のために奔走する島から見れば、豪華列車は仙石が趣味で買ったような代物。そんなものをごり押しで、しかも高速で走らせようとする仙石に反発する島ですが……

 前編で状況の説明と事件の発生を描き、後編でその背後の事情や解決を描くスタイルが定着してきた本作。その点からすれば、次回のキーとなるのは、「豪華さ」と「スピード」の両立を追求する仙石の真意であることは間違いありません。
 主人公が島であることを考えれば、何となくその先はわかるように思えますが――さて。


 以下、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年10月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年10月号 [雑誌]


関連記事
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年2月号
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』2017年5月号
 『コミック乱ツインズ』 2017年6月号
 『コミック乱ツインズ』2017年7月号
 『コミック乱ツインズ』2017年8月号
 『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その二)

| | トラックバック (0)

2017.08.18

天野純希『信長嫌い』 「信長」という象徴との対峙

 最近は戦国時代を中心に次々と作品を発表している作者が、戦国時代最大の有名人ともいうべき織田信長を題材にしつつ、しかし信長本人ではなく、彼に敗れた人々を主人公に描く、極めてユニークな短編集であります。

 歴史小説で最も題材となっている戦国大名ではないかと思われる織田信長。言い換えれば信長はそれだけ手垢の付いた題材ということになりますが――しかし、本書はその信長を遠景におくことにより、彼に振り回され、歴史に埋没していった人々の姿を、時にシニカルに、時にユーモラスに描き出します。。

 そんな本書は全七話構成。一話ごとに変わる主人公は、今川義元・真柄直隆・六角承禎・三好義継・佐久間信栄・百地丹波・織田秀信――いやはや、今川義元(一部の人にとっては百地丹波も)を除けば、失礼ながらマイナー武将揃いであります。
 いや、その義元も、後世の人々に芳しからざるイメージを持たれていることは言うまでもありません。余裕ぶって油断をした挙げ句、信長に首を取られた公家武将――などと。

 しかし本書はそんな義元の、いやその他六人の武将――信長に苦しめられ、信長に囚われ、信長に敗れた武将たちそれぞれにも、考えてみれば当然のことながら、望みが、夢が、そして人生があったことを、丹念に描き出します。

 例えば第一話「義元の呪縛」で描かれるのは、一度は仏門に入ったものの、兄弟子である太原雪斎に導かれるままに還俗し、今川家の当主として京を目指す義元の姿であります。
 雪斎亡き後もその教えのままに京を目指す義元。その前に現れた、あたかも雪斎に教えを受けたかのような戦いぶりを見せる信長に妬心を抱いたことから、彼の運命の歯車が狂っていく様が描かれるのであります。

 そしてその他の物語においても――
 朝倉家に迫る信長の脅威に挑もうとする真柄直隆が、その武辺者としての偏屈さから家中で浮き上がっていく姿を描く第二話「直隆の武辺」。
 名門の自負だけを胸に、全く及ばぬ信長に対し(時にほとんどギャグのような姿で)挑み続ける六角承禎の妄執が描き出される第三話「承禎の妄執」。
 将軍弑逆などの汚名を背負いながらも、三好家の当主としてしぶとく立ち回ってきた義継が、最後の最後に自らの矜持に気付く第四話「義継の矜持」。
 織田家の宿老・佐久間信盛を父に持ちながらも戦に馴染めぬ信秀が、茶の湯に傾倒していくも、意外な形で自らの誤算に気付かされる第五話「信栄の誤算」。
 伊賀を滅ぼされるのを止められなかった悔恨から執拗に信長暗殺を狙う百地丹波が、ついに本能寺で信長と対峙する第六話「丹波の悔恨」。
 祖父・信長と瓜二つの容貌を持ち、祖父に強い憧憬を抱く織田秀信(三法師)が、織田宗家の栄光を取り戻すため関ヶ原に臨む第七話「秀信の憧憬」。

 いずれも信長なかりせばまた違った人生を歩んでいたであろう者たち、自らを魔王と称するような男を前にあまりに凡人であった者たちの姿が、ここにはあります。


 さて、これらの物語の中心に屹立するのが信長ですが、しかしその人物像自体は、実はさほど斬新なものではなく、従来の信長像を敷衍したものという印象もあります。
 しかしそれこそが、本作が真に描こうとするものを導き出す仕掛けであるように、私には感じられます。

 本書における信長を見ていると、こう感じられるのです。信長という個人であると同時に、主人公の前に立ち塞がる戦国という時代の混沌を、恐怖を、理不尽を象徴する存在――それこそ「時代」あるいは「天下」そのものを擬人化したような存在ではなかったか、と。
 だからこそ本書の信長はしばしば主人公たちが呆れるほどの強運を以て窮地を切り抜け、圧倒的な力によって戦国に君臨していたのではなかったのでしょうか。

 だとすれば、本書で描かれるのは、信長一個人(だけ)ではなく、戦国時代そのものと対峙した末に、苦しめられ、囚われ、敗れた人間たちの姿なのでしょう。
 そしてそんな彼らの姿は、この時代この舞台でしかあり得ないものでありながらも、だからこそどこか普遍的な共感を以て我々の胸に響くのではないか――と。

 もちろんそれは牽強付会に過ぎるかもしれません。
 しかし少なくとも、本書で描かれた七人が、それぞれの物語の結末において、それぞれ自分自身の生きる道を見出す姿は、我々に対しても、ある種の希望を与えてくれることは間違いないでしょう。


『信長嫌い』(天野純希 新潮社) Amazon
信長嫌い

| | トラックバック (0)

2017.08.16

『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その一)

 「乱ツインズ」誌9月号は、野口卓原作の『軍鶏侍』が連載スタート。表紙は季節感とは無縁の『鬼役』が飾りますが、その隅に、『勘定吟味役異聞』のヒロイン・紅さんがスイカを手にニッコリしているカットが配されているのが夏らしくて愉快であります。今回も印象に残った作品を取り上げます。

『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 というわけで新連載の本作は、原作者のデビュー作にして、現在第6作まで刊行されている出世作の漫画化。
 原作は南国の架空の小藩・園瀬藩を舞台に、秘剣「蹴殺し」を会得した隠居剣士・岩倉源太夫が活躍する連作シリーズですが、12月号で池波正太郎の『元禄一刀流』を見事に漫画化した山本康人が作画を担当しています。

 第1話は、藩内で対立する家老派と中老派の暗闘に巻き込まれながらも、政の世界に嫌気がさして逃げていた主人公が、自分の隠居の背後にあるある事情を知り、ついに剣士として立つことを決意して――という展開。
 どう見ても家老派が悪人だったり、よくいえば親しみやすい、厳しくいえば既視感のある物語という印象ですが、家老の爬虫類的な厭らしさを感じさせる描写などはさすがに巧みなで、今回は名前のみ登場の秘剣「蹴殺し」が如何に描かれるか、次回も期待です。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 新展開第2話の今回は、敵サイドの描写にが印象に残る展開。吉原に潜み、荻原重秀の意向を受けて新井白石の命を狙わんとする紀伊国屋文左衛門、白石に御用金下賜を阻まれ、その走狗と見て聡四郎の命を狙う本多家、そしてそれらの動きの背後に潜んで糸を引く柳沢吉保――と、相変わらずの聡四郎の四面楚歌っぷりが際立ちます。

 そのおかげで(?)、奉行所の同心に絡まれるわ、刺客に襲われるわ、紅さんにむくれられるわと大変な聡四郎ですが、紅さん以外には脅しつけたり煽ったりとふてぶてしく対応しているのを見ると、彼も成長しているのだなあ――と思わされるのでした。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 北海道編の後編。広大な北海道に新たな、理想の鉄道を敷設するために視察に訪れた島と雨宮。そこで鉄道に激しい敵意を燃やし、列車強盗を繰り返す少女率いる先住民たちと雨宮は出会うことになります。

 そして今回は、先住民の殲滅を狙う地元の鉄道員たちが、島が同乗する列車を囮に彼女たちを誘き寄せようと企みを巡らせることに。それに気付いた雨宮は、一か八かの行動に出るものの、それが意外な結果を招くことになるのですが……

 各地の鉄道を訪れた雨宮が、現地の鉄道員たちとの軋轢を経験しつつ、その優れた運転の腕でトラブルを切り抜け、鉄道の明日に道を繋げていく――というパターンが生まれつつあるように感じられる本作。しかしこの北海道編で描かれるものは、一つのトラブルを解決したとしても、大勢を変えることは到底出来ぬほど、根深い問題であります。

 そんな中で描かれる結末は、さすがに理想的に過ぎるようにも感じますが――その一方で、島に対する雨宮の「自分でも気付かないうちに北海道を特別視していませんか?」という言葉、すなわち島の中にも北海道を「未開の地」、自分たちが好きなように扱える地と見なしている部分があるという指摘には唸らされるのであります。


 長くなりましたので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年9月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年9月号 [雑誌]


関連記事
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年2月号
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』2017年5月号
 『コミック乱ツインズ』 2017年6月号
 『コミック乱ツインズ』2017年7月号
 『コミック乱ツインズ』2017年8月号

| | トラックバック (0)

2017.08.15

樹なつみ『一の食卓』第5巻 斎藤一の誕生、そして物語は再び明治へ

 明治時代、築地の外国人居留地のパン屋に身を寄せる藤田五郎(斎藤一)と、パン職人の少女・明を主人公に描く本作、この第5巻の前半で描かれるのは、前の巻から引き続き、新選組に加わる前の斎藤の物語。明治の彼に至る前に何があったのか――その一端が描かれることになります。

 築地のパン屋・フェリパン舎に、ある日ふらりと現れた藤田。今は新政府の密偵として働く彼は、フェリパン舎を起点にして様々な事件を解決、一方、明も謎めいた藤田に惹かれつつ、パン職人として懸命に奮闘する毎日を送ることに……
 という本作ですが、第4巻のラストから展開しているのは藤田の――すなわち斎藤一の過去編。いや、ここで描かれているのは彼がまだ山口一だった時代、いわば斎藤一誕生編とも言うべき物語であります。


 貧乏御家人の次男坊として鬱屈した毎日を送る山口一は、退屈しのぎに破落戸から賭場の借金の取り立てを請け負い、とある道場に向かうことに。そこで彼は、売り言葉に買い言葉の末に、生意気な少年と立ち会うことになります。

 一方、その頃、山口の父親のもとを訪れる会津藩の人間。実は会津藩の人間であった父親は、不始末から藩を抜け、それを見逃される代わりに会津藩の「草」として御家人となっていたのであります!
 そして会津藩が京都守護職を任じられたことから、新たな「草」として山口家の人間を京都に送り込もうとする藩の意向を受け、父親が白羽の矢を立てたのは……


 フィクションの世界などではすっかりこの時代の有名人ながら、特に新選組参加以前の経歴は今ひとつはっきりしない斎藤一。
 試衛館組とは江戸にいたころから交流がありつつも、浪士組募集には参加せず、京で合流するという少々変わったルートを辿っていたり、そもそもその頃には旗本を斬って江戸から京に逃げていたりと、なかなかドラマチックな前半生であります。

 この江戸編では、その「史実」をベースに、本編ではほとんど完成された人格である――明からは仰ぎ見られる存在である――斎藤の、悩める青年時代を描き出します。
 自分の未来が、居場所が、やるべきことが見いだせず、ただ焦燥感に駆られるばかりの毎日。そんな誰にでも経験のありそうな青春の姿を、本作は瑞々しくも微笑ましく、そして物悲しく描くのであります。

 もちろんそれだけでなく、斎藤の父にに関する伝奇的秘密を絡めることで、その後の斎藤の人生にも関わる物語を垣間見せ、そして件の「旗本斬り」についても、本作ならではの切ないドラマを用意してみせる点など、とにかく物語運びの巧さが光ります。
 江戸編が前後編できっちりと終わるのも、明治の物語を食わず、良い意味の物足りなさを感じさせるという、何とも心憎いところであります。


 そして後半では、再び舞台は明治に戻り、一話完結のスタイルで、明を主人公とする物語が描かれることとなります。
 一つ目のエピソードは、通詞を目指して築地の外国人による英語塾の門を叩いた男装の少女の物語。実家が横浜で外国人相手の商人を営む彼女と意気投合した明ですが、しかしまだまだ夢は遠く……

 「女だてらに」という言葉が、当たり前に使われていたこの時代。明と彼女は、その言葉の対象にされるという共通点を持ちます。
 そんな二人の姿と、それを見守る藤田という構図は、これまで描かれてきた物語の延長線上ではありますが、その一方で、明が決して一人ではない、ということを別の方向から描いた物語と言えるかもしれません。

 そして二つ目のエピソードでは、とある大店から大口の注文が舞い込み、フェリパン舎は他店の職人も加わって大わらわの状況に。
 実は大店の跡取り息子は、藤田のことを知っているようなのですが、藤田は彼のことを無視。そんな中パンに異物が混入して――という大事件が発生して……

 と、ストーリー的にはある程度読めるのですが、明の物語と藤田の物語が平行して描かれ、相互作用することでポジティブな方向に変わっていくのが、実に本作らしい展開であるこのエピソード。
 特に物語冒頭から繰り返し描かれてきた悩みを、今回の経験を踏まえて明が乗り越える姿が、実に気持ちの良い展開であります。


 というわけで江戸から明治に戻って続く物語。いまだ遠景ではありますが廃刀令や不平士族の動きも描かれ、藤田と明の関係性に加え、この時代のこれからがそこにどのように絡むのか、気になるところであります。


『一の食卓』第5巻(樹なつみ 白泉社花とゆめCOMICS) Amazon
一の食卓 5 (花とゆめCOMICS)


関連記事
 『一の食卓』第1巻 陽の料理人見習いと陰の密偵と
 樹なつみ『一の食卓』第2巻 第三の極、その名は原田左之助!?
 樹なつみ『一の食卓』第3巻 五郎の過去と明の未来の交わるところ
 樹なつみ『一の食卓』第4巻 明の奮闘、そして一の過去へ

| | トラックバック (0)

2017.08.10

入門者向け時代伝奇小説百選 鎌倉-室町

 初心者向け時代伝奇小説、今回は日本の中世である鎌倉・室町時代。特に室町は最近人気だけに要チェックです。
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子) 【ミステリ】 Amazon
 鎌倉時代の京を舞台に、「新古今和歌集」の歌人・藤原定家と、藤原頼長の孫・長覚が古今伝授の謎に挑む時代ミステリであります。
 古今伝授は「古今和歌集」の解釈に纏わる秘伝ですが、本作で描かれるのは、その中に隠された天下を動かす大秘事。父から古今伝授を受けるための三つの御題を出された定家がその謎に挑み、そこに様々な陰謀が絡むことになるのですが……
 ここで定家はむしろワトソン役で、美貌で頭脳明晰、しかし毒舌の長覚がホームズ役なのが面白い。時に極めて重い物語の中で、二人のやり取りは一服の清涼剤ともなっています。

 政の中心が鎌倉に移ったことで見落とされがちな、この時代の京の政争を背景とするという着眼点も見事な作品であります。

(その他おすすめ)
『華やかなる弔歌 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子) Amazon
『月蝕 在原業平歌解き譚』(篠綾子) Amazon


57.『彷徨える帝』(安部龍太郎) Amazon
 南北朝時代の終結後、天皇位が北朝方に独占されることに反発して吉野などに潜伏した南朝の遺臣――いわゆる後南朝は、時代伝奇ものにしばしば登場する存在です。
 本作はその後南朝方と幕府方が、幕府を崩壊させるほどの呪力を持つという三つの能面を求めて暗闘を繰り広げる物語であります。

 この能面が、真言立川流との関係でも知られる後醍醐天皇ゆかりの品というのもグッと来ますが、舞台が将軍義教の時代というのも実に面白い。
 ある意味極めて現実的な存在たる義教と、伝奇的な存在の後醍醐天皇を絡めることで、本作は剣戟あり、謎解きありの伝奇活劇としての面白さに加え、一種の国家論、天皇論にまで踏み込んだ骨太の物語として成立しているのです。

(その他おすすめ)
『妖櫻記』(皆川博子) Amazon
『吉野太平記』(武内涼) Amazon


58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 混沌・殺伐・荒廃という恐ろしい印象の強い室町時代。本作は、それとは一風異なる室町時代の姿を、妖術師と使用人のカップルを主人公に描く物語です。

 南都(奈良)で金貸しを営む青年・楠葉西忍こと天竺ムスル。その名が示すように異国人の血を引く彼には、妖術師としての顔がありました。そのムスルに、借金のカタとして仕えることになった少女・葉月は、風変わりな彼に振り回されて……

 「主人と使用人」もの――有能ながらも風変わりな主人と、彼に振り回されながらも惹かれていく使用人の少女というスタイルを踏まえた本作。
 それだけでなく、「墓所の法理」など、この時代ならではの要素を巧みに絡めて展開する、極めてユニークにして微笑ましくも楽しい作品であります。


59.『妖怪』(司馬遼太郎) Amazon
 室町時代の混沌の極みであり、そして続く戦国時代の扉を開いた応仁の乱。最近一躍脚光を浴びたその乱の前夜とも言うべき時代を描く作品です。

 熊野から京に出てきた足利義教の落胤を自称する青年・源四郎。そこで彼は、八代将軍義政を巡る正室・日野富子と側室・今参りの局の対立に巻き込まれることになります。それぞれ幻術師を味方につけた二人の争いの中で翻弄される源四郎の運命は……

 どこかユーモラスな筆致で、源四郎の運命の変転と、奇妙な幻術師たちの暗躍を描く本作。しかしそこから浮かび上がるのは、この時代の騒然とした空気そのもの。「妖怪」のように掴みどころのない運命に流されていく人々の姿が印象に残る、何とも不思議な感触の物語であります。


60.『ぬばたま一休』(朝松健) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 最近にわかに脚光を浴びている室町時代ですが、この20年ほど、伝奇という切り口で室町を描いてきたのが朝松健であり、その作品の多くで活躍するのが、一休宗純であります。

 とんち坊主として知られてきた一休。しかし作者は彼を、優れた禅僧にして明式杖術の達人、そして諧謔味と反骨精神に富んだ人物として、その生涯を通じて様々な姿で描き出します。

 悍ましい妖怪、妖術師の陰謀、奇怪な事件――室町の闇が凝ったようなモノたちに対するヒーローとして活躍してきた一休。
 その冒険は長編短編多岐に渡りますが、シリーズタイトルを冠した本書は、バラエティに富んだその作品世界の入門編にふさわしい短編集。室町の闇を集めた宝石箱のような一冊であります。

(その他おすすめ)
『一休破軍行』(朝松健) Amazon
『金閣寺の首』(朝松健) Amazon



今回紹介した本
藤原定家●謎合秘帖 幻の神器 (角川文庫)彷徨える帝〈上〉 (角川文庫)南都あやかし帖 ~君よ知るや、ファールスの地~ (メディアワークス文庫)新装版 妖怪(上) (講談社文庫)完本・ぬばたま一休


関連記事
 入門者向け時代伝奇小説百選

 『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(その一) 定家、古今伝授に挑む
 『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(その二) もう一つの政の世界の闇
 仲町六絵『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』 室町の混沌と豊穣を行く青年妖術師
 「ぬばたま一休」 100冊の成果、室町伝奇の精華

| | トラックバック (0)

2017.07.30

石ノ森章太郎『新変身忍者嵐』 もう一つの恐るべき結末

 石ノ森章太郎の漫画版『変身忍者嵐』紹介、今回はいわゆる『希望の友』版、約20年前に『新変身忍者嵐』のタイトルで単行本化された作品です。先日2回にわたってご紹介した『週刊少年マガジン』連載版に比べるとはるかにTV版に近い内容ですが、しかしこちらも衝撃の結末が……

 父・嵐鬼十の編み出した化身忍者の法を悪用し、父を殺した血車党を滅ぼすため、同じ法を用いて嵐に変身する青年・ハヤテの戦いを描く本作。
 設定的には本作やTV版と同一ながら完全に独自路線を行ったハードな変身ヒーローものであった少年マガジン版に比べれば、本作は遥かにTV版に近い内容と言えます。

 少年マガジン版では冒頭しか登場しなかったタツマキ親子は、レギュラーとして約半数のエピソードに登場。ハヤテやタツマキ親子のコスチュームもほぼTV版と同じものとなっています(映像では……だった格好が漫画で見ると全く印象が変わるのに感心)。

 何よりも、こちらでは1エピソードを除き嵐がきちんと(?)登場。TV版の変身台詞の「吹けよ嵐、嵐」や秘剣影うつしも、一度だけではありますが(「吹け嵐 嵐よ」とちょっと異同はありますが)しっかり登場し、変身しないエピソードも作中で一回のみと、まずはヒーロー漫画と呼んで違和感のない内容です。

 もっとも、TV版の完全なコミカライズというわけではなく、物語は完全にオリジナル。
 基本的には旅を続けるハヤテらに襲いかかる化身忍者の戦い、あるいは化身忍者の陰謀を砕くためにハヤテが戦いを挑むという展開ですが、登場する化身忍者も、かまいたち以外は皆漫画オリジナルの存在であります。

 また、他の版ではあまり詳しくは述べられなかった印象のある化身忍者の法も、脳に針を打ち込むことでその一部を異常に活性化させるという説明が行われるのも興味深いところです。(そしてラストでこれが思わぬ意味を……)

 内容の方も怪奇性強めで、文字通り人間の皮を被った化身忍者が登場したり、人間が無数の虫に襲われて骨のみを残して食い殺されたりとインパクトの大きなシーンも少なくありません。
 特に後者が登場するエピソード『虫愛ずる姫』は、その「敵」の正体の悲劇性とおぞましさ、救いのなさで、作中屈指であります。

 ちなみにTV版の方は、幾度となく大きな路線変更が行われ、戦う敵も変わったりもしましたが、本作はもちろん(?)それはなし。
 しかし後半にタツマキ親子が登場しなくなったり、狼男やミイラ男などが登場するようになったのは、TV版の影響があるのかもしれません。(ちなみにこちらの狼男やミイラ男は国産で、時代劇としての設定を崩さずに登場させているのに感心いたします)


 しかし本作の最大の独自性は、最終話『さらば変身一族』で明かされる化身忍者の正体、物語の核心に関わる大ドンデン返しであることは間違いでしょう。
(以下、物語の核心に触れますのでご寛恕下さい)

 ある晩、天を過ぎった流れ星を追い、ある山を訪れたハヤテ。その山に潜んでいた化身忍者たちを蹴散らし山頂に向かったハヤテの前に現れたがいこつ丸は、流れ星の正体が空飛ぶ円盤であったことを明かします。

 それだけでも驚く展開ですが、しかし真に驚かされるのはここからであります。実は化身忍者たちは宇宙から地球にやってきた一族、20年ほど前に円盤が故障して地球に着陸し、円盤を修理するために人間社会に潜伏し、力を蓄えていたというのです。
 そして嵐鬼十が編み出した化身の法も、人間を他の生物に化身させるのではなく、元々化身する能力を持つ彼らを人間の姿に留めておくためであったと……

 いやはや、ハヤテでなくとも唖然とするほかない展開、化身忍者の設定については、冷静に考えると色々と首を傾げる点があるのですが、しかしここで一気に世界観を覆してみせる豪腕には驚くほかありません。
(あるいはTV版に登場した空飛ぶ円盤からの連想か?)

 物語を通じて変身ヒーローと怪人の戦いを同族殺しとして描き、最終回でそれを救いようのない形で明確化してみせた少年マガジン版に比べれば、これは確かに唐突な印象は否めません。
 しかしここで描かれる、化身忍者こそが彼らの真の姿であったという価値観の逆転もまた、同様に変身ヒーローものに対する強烈なカウンターとして記憶すべきものと言えるのではないでしょうか。

 いや、どうかなあ……


『新変身忍者嵐』(石ノ森章太郎 秋田文庫) Amazon
新変身忍者嵐 (秋田文庫 (5-36))


関連記事
 石ノ森章太郎『変身忍者嵐』第1巻 怪人たちの中の「人間性」を描いて
 石ノ森章太郎『変身忍者嵐』第2巻 ヒーローと怪人という「同族」

| | トラックバック (0)

2017.07.29

『週刊読書人』で『日雇い浪人生活録』(上田秀人 ハルキ文庫)を紹介しました

 最近のお仕事の紹介であります。『週刊読書人』の7月28日号で、上田秀人『日雇い浪人生活録』(ハルキ文庫)の紹介を担当させていただきました。

 今回執筆の機会をいただいたのは、『週刊読書人』の「わが社のロングセラー」という特集。出版各社がタイトルの通り一社一タイトルずつ自社のロングセラータイトルを挙げ、それを作家自身あるいは評論家が解説するという毎年の恒例企画であります。

 十数社分が掲載されるということで、一タイトルあたりの文章量は少ない(千文字強)のですが、しかしロングセラーというだけあって、紹介される作品は名著名作揃い、さらに執筆陣も――と、読み応え十分の企画であります。

 そんな中に私が出ていくのも恐縮ですが、これまでなかなか書かせていただく機会のなかった(あってもワンオブゼム的な扱いだった)上田作品の解説、それも愛読しているシリーズということで、気合を入れて書かせていただきました。

 この『日雇い浪人生活録』シリーズ、タイトル通り日雇いで暮らしてきた親の代からの浪人を主人公とした物語――というと人情とペーソスに満ちた作品のように見えますが、上田作品がそんなありきたりの展開となるわけもありません。
 思わぬことから若き日の田沼意次に目をつけられた彼は、幕府の行方を左右するような暗闘に巻き込まれて――という作者の新機軸であります。

 そんな本シリーズの最大の特徴は、もちろん主人公が「浪人」である点。浪人というのは文庫書き下ろし時代小説では定番の主人公の職業(?)ですが、しかし上田作品では極めて珍しい存在です。
 そして単に珍しいだけでなく、本シリーズの構造においては、主人公が浪人であることに確かな意味があって――というような(これまでもこのブログで縷縷述べてき)ことを書かせていただきましたので、ご一読いただければ幸いです。

 なお、7月28日号はこの企画のみならず、「真夏の文庫大特集」と銘打って、「森まゆみさんが選んだ文庫23点」「読者へのメッセージ」といった企画で様々な文庫を紹介。
 特に後者は、稲葉稔、鈴木英治、千野隆司、葉室麟といった時代作家の方々による自作紹介が掲載されており、時代小説ファンも必見であります。


 ちなみに、書店ではちょっと見つけにくい『週刊読書人』ですが、電子版も発売されているほか、コンビニの多機能コピー機で購入可能となっています(時代は進んでいる! と大いに感心)。

 ちなみにこの7月28日号、前半と後半に分かれて販売されているのにご注意下さい。
 私も最初気付かずに前半だけ買ってしまい、「載ってない!」と驚いたりしましたので……(後半に載ってました)



関連記事
 上田秀人『日雇い浪人生活録 1 金の価値』 二つの世界を結ぶ浪人主人公
 上田秀人『日雇い浪人生活録 2 金の諍い』 「敵」の登場と左馬介の危険な生活
 上田秀人『日雇い浪人生活録 3 金の策謀』 「継承」の対極にある存在

| | トラックバック (0)

2017.07.28

石ノ森章太郎『変身忍者嵐』第2巻 ヒーローと怪人という「同族」

 石ノ森章太郎による漫画版『変身忍者嵐』の紹介の後編であります。一人孤独に血車党の化身忍者を屠っていくハヤテ。非情に徹した旅の果てに彼を待つ伝説の結末とは……

 というわけで大都社版単行本第2巻の冒頭は第6話『蜜蜂の羽音は地獄の子守唄』。孕み女が次々とさらわれていく事件を追うハヤテが出会ったのは、蜂の力を持つ奇怪な女……
 なのですが、自在に蜜蜂を操ったり蜜蝋で目を潰したりという能力以上に、奪った子供たちを蜂のように変えて操ったり、何よりもハヤテを自分の子にしておかあさんと呼ばせるという、歪んだキャラクターが恐ろしい。

 ここでハヤテは自分の「兄弟」を蹴散らし、母「親」を斬るのですが……この時点で、結末は予告されていたのかもしれません。

 続く第7話『菩薩の牙が霧を裂く』は、ハヤテが珍しく女性の美しさに心を動かされるという描写が登場するものの、内容的にはあまり特筆すべきところはない印象。しかし登場する化身忍者はインパクト絶大です。
 そして第8話『獺祭りの雷太鼓』は、大坂城の火薬庫爆発という、本作には珍しく史実と絡めたエピソード。展開的には先を読みやすいものの、敵を滅ぼすためであれば、他者(幕府という権力)がどうなっても何とも思わない、もはやヒーローとは言い難いハヤテの言動が強烈な印象を残します。(それでいて久々に嵐に変身するのがまた面白い)

 続く3話は、三部構成の連続エピソードというべき内容。まず第9話『虎落笛の遠い夏』は、江戸に出没して人々を惨殺していく虎の化身忍者との対決篇であります。

 この相手の名が李徴子というのはどうかと思いますが(しかしそこに国姓爺伝説が絡むのは面白い)、注目すべきは彼が幼い頃のハヤテとは兄弟同然に育った人物という点。
 家族同然の相手との死闘というのは忍者ものの定番ではありますが、ここでまたもや「兄弟」との戦いを強いられるハヤテは心に大きな傷を負い、それが物語の結末に繋がっていくことになります。

 続く第10話『呪いの孔雀曼陀羅』は、江戸で人々の心を操らんとする血車党の邪教集団の尼僧との対決と、久々に(?)真っ当なアクションものという印象。
 この尼僧たちは基本的には「敵」以上のキャラクターではないのですが、化身忍者に女性が多い理由と、その弱点が、ここである意味ロジカルに描かれるのが面白い。冷静に考えれば女性の孔雀って……という点を逆手に取ったような展開もユニークです。

 そして第11話『血車がゆく、餓鬼阿弥の道』は実質的に血車党との最終決戦。第1話に登場し、唯一生き残った梅雨道軒も再登場、骨餓身丸との死闘も決着と、ラストらしい内容なのですが――しかしこの回は骨餓身丸の存在が全て。
 TV版ではビジュアルこそ奇怪なものの、単なる粗暴な悪役であった彼に悲痛な過去を与え、そしてそれと密接に絡み合った化身忍者としての能力を与えてみせる。その上で描かれるいい意味で後味の悪い結末には、ただ唸らされるのみなのです。


 それでも己の心を殺すように骨餓身丸を倒し、血車党の陰謀を粉砕したハヤテですが――しかし最終話『犬神の里に吠える』の冒頭で描かれるのは、復讐と贖罪という目的を果たしてしまった虚しいハヤテの心の内。
 自分のしてきたことは何だったのか、と鬱々と考えていたところに現れた血車魔神斎の姿に、闘志を奮い立たせるハヤテですが……

 しかし魔神斎を追うハヤテの前に現れたのは、人とも獣ともつかぬ子供たちの群れと、彼らが犬神の子だと告げる裸女。どこかまでも歪んだ世界の中で最後の対決に臨んだハヤテが知った真実とは……
 無情とも無常とも、あるいは無惨とも言うべき結末は(私はあまり好きな表現ではありませんが)屈指のバッドエンドと今なお語り草なのも宜なるかな、であります。

 そしてこの結末は、上で述べてきたように、これまでのハヤテの戦いが同族殺し――それも兄弟や母親を含めた――であったことを考えれば、ある意味当然の結末と言うべきかもしれません。

 さらに言えばそれは、変身(改造人間)ものにおけるヒーローと怪人は本質的に同じものではないか――言いかえれば正義と悪の違いは奈辺にあるのかという問いかけの、究極の答えではないでしょうか(ハヤテが嵐に変身して魔神斎と対決するのがまた象徴的)

 そしてそれを、上に述べたように同門との対決というのは忍者ものの定番の中で昇華してみせたのにも痺れる本作。
 変身ヒーローものとして、忍者ものとして……やはり名作というほかない作品と再確認した次第です。


『変身忍者嵐』第2巻(石ノ森章太郎 大都社St comics) Amazon
変身忍者嵐 (2) (St comics)

| | トラックバック (0)

2017.07.27

石ノ森章太郎『変身忍者嵐』第1巻 怪人たちの中の「人間性」を描いて

 故あって、今更ながらに石ノ森章太郎の漫画版『変身忍者嵐』を読み返しました。その衝撃のラストで知られる本作ですが、改めて読み返してみれば、そこに至るまでも実に面白い。というわけで漫画版を紹介――大都社版の単行本をベースとしていますので、今回は全2巻のうち第1巻を取り上げます。

 悪の忍者集団・血車党に、父・嵐鬼十を殺された青年忍者・ハヤテ。父が編み出した法で奇怪な能力を持った血車党の化身忍者たちに、父に術を施されたハヤテは変身忍者嵐に変身して戦いを挑む――
 そんな物語の骨格自体はTV版と同じ本作ですが、しかしそのディテールは大きく異なります。

 その第1話『化身忍群、闇に踊る』は、骨餓身丸(TVの骸骨丸)率いる三人の化身忍者が、さる藩で巡らせる陰謀に対し、ハヤテとタツマキ・カスミ・ツムジ親子が挑むというフォーマットはTV版とほぼ同一ですが、それはこのエピソードのみというのが潔い(タツマキ親子の登場は今回のみ)。
 しかし容赦ない怪奇描写・怪奇描写は迫力満点、嵐の初変身の描写も面白く、この回のみ炸裂する忍法(秘剣にあらず)影うつしも違和感なく、この路線で行っても十分面白かったのでは……という印象はあります。

 そして第2話『青い猫の夜』は、鍋島直茂を苦しめる化け猫の怪を描く内容で、ほとんどそのまま鍋島の猫騒動をなぞった内容ではありますが、奇怪な猫婆に、ハヤテに助力する二人の美女、そして何よりも強力な猫の化身忍者と嵐の忍法対決と見所が多いエピソード(美女の活け作りなどという山風チックなシーンも)。
 しかし何よりも印象的なのはそのラスト。化身忍者の正体はすぐ予想がつくものの、その行動の理由は――! 最終話で描かれる血の因縁に繋がるものも感じられる、切ない真実が刺さります。

 刺さるといえば第3話『白い狐、枯れ野を走る』。こちらも「葛の葉」の伝説をまんまなぞった展開ながら、それを忍者ものに完璧に落とし込み、哀しい化身忍者の宿命を浮き彫りにしているのはただ圧巻であります。

 そして第4話『視よ 蒼ざめたる馬 その名は死』のモチーフは、黙示録のペイルライダー(!)。もっともナレーション(?)で黙示録が引用されるだけですが、狙いを付けた村人の家の前に青い馬の土偶を置く、古代の武人姿の怪人というシチュエーションは、怪奇性濃厚でいい。
 そしてそれ以上に、今回の敵となる山彦海彦兄弟が、出番が少ないながらかなり個性的で、特に兄の方には、血車党にもこういう人間がいるのか……と考えさせられることしきり。その巻き添えを食ったような形の弟も、共感はできないまでも行動原理はそれなりに理解できます。
(ちなみに今回と次の回は、TV版でもやたら登場した、村人をさらって労働力とする血車党が描かれて、これはこれで興味深い)

 そしてこの巻のラスト、『地の底で黄金の牛が鳴く』は、牛頭人身の化身忍者と地底の黄金という題材から、クレタ島のミノタウロスをモチーフにしたと思しきエピソード。
 本作にしては珍しく、化身忍者側の人間性がほとんど描かれず(それが一つの仕掛けですが、有効に機能しているとは言えず……)、むしろ強力かつ謎めいた行動を取る化身忍者打倒に力点を置いた印象があります。

 そしてそんな内容でありつつも、この回ではついに嵐は登場せず、ハヤテは生身で化身忍者に挑むことに……


 と、第1巻の内容を駆け足で見てまいりましたが、改めて驚かされるのは、その内容の豊かさであります。

 何よりも驚かされるのが、ゲスト化身忍者の「人間性」――異形の能力と容姿を持った者たちの中の「心」の描写は鮮烈で、そんな彼ら彼女らを(時に心ならずもとはいえ)屠っていくハヤテの方が非人間的に見えるほど……
(ラストの展開は、決して突然のものではないと改めて確認)

 その一方で、怪奇性濃厚な、奇怪な能力を化身忍者との死闘は、怪奇アクションものとしての忍者ものの可能性をはっきりと見せてくれるもので、こちらの完成度も決して見逃してはならないと感じます。

 そしてこれらの方向性は、物語がさらに進むにつれてさらに先鋭化していくのですが……それはまた次の回に。


『変身忍者嵐』第1巻(石ノ森章太郎 大都社St comics) Amazon
変身忍者嵐 (1) (St comics)

| | トラックバック (0)

より以前の記事一覧