2018.07.17

上田秀人『検断 聡四郎巡検譚』 江戸城を出た聡四郎の出会う人々


 『勘定吟味役異聞』『御広敷用人大奥記録』と活躍してきた水城聡四郎ものの第3シリーズ、その第2巻であります。ただ旅しているだけで厄介事に巻き込まれていく聡四郎主従ですが、旅先で出会う者は敵もそれ以外も様々。一方、彼らが旅立った江戸でも、とんでもない動きが……

 御広敷用人としての任務を終え、娘も生まれて一時の休息を得た聡四郎。しかし主君たる吉宗が、「使える」人間を放っておくわけがありません。久々に吉宗に召し出された聡四郎が任じられたのは、「道中奉行副役」なる新しい役職――とりあえずは三ヶ月世の中を見てこいというアバウトな命に、右腕と言うべき大宮玄馬と二人、ひとまず東海道を京に向かった聡四郎ですが……

 そんな形で始まった物語ですが、彼らが向かう京では前シリーズの宿敵・天英院の実家が刺客を用意して待ち受け、そしてその途中には、これまで10巻以上に渡り聡四郎と暗闘を繰り広げてきた(一方的に絡んできた)伊賀があります。
 さらに、聡四郎を使って自分の改革への抵抗勢力を炙り出してやろうという吉宗の思惑が見事に(?)当たり、聡四郎の役目が自分たちの権益を侵すと考えた目付・中野が暗躍を開始。徒目付を使い、目付では先輩に当たる駿府町奉行を利用して聡四郎を旅先で始末しようと企むのであります。

 いやいや、それはさすがに無理があるのでは、と言いたくなる中野の策ですが、聡四郎にとってはこれが最初の厄介事。しかしこれはむしろ、その手駒に使われそうになった徒目付と駿府町奉行こそいい迷惑であります。
 油断すれば他人に――特に上司に乗じられる役人の世界。利用されるだけ利用されて弊履の如く捨てられる、などというのも珍しくない話であります。今回もまた、上田作品ではこれまで無数に描かれてきた役人残酷物語(中野の指示状が、自分の名前を書いていないというどこかで聞いたような厭らしさに嘆息)のように見えたのですが……

 しかしこの状況を打開するため、彼らが聡四郎が全く預かり知らぬところで取った行動が、物語に大きな動きを与えるというのが面白い。
 これまで本シリーズでは聡四郎の味方か敵か(そしてほとんど後者)しかいなかったという印象もある役人たちですが、もちろん実際にはそれ以外の人間がほとんどなのは言うまでもありません。そして本作においては、こうした人々に、これまで以上に目が向けられている印象があります。

 そんなそれ以外の(それは役人に限ったことではなく)人々が登場するのは、物語が「旅」を舞台としていることによることは言うまでもありません。そしてそれは、吉宗が聡四郎を送り出した際に密かに期待したことでもあります。
 江戸城を飛び出し、旅に出ることによってて、聡四郎が何を見て、誰と出会うのか――それが今更ながらに楽しみになります。


 と、その一方で敵と出会ってしまうのがまた聡四郎の運命。先に述べたように、聡四郎の宿敵とも言うべき伊賀の忍びたちが、この巻では決戦を挑んでくることになります。
 任務の上で仲間が殺されれば、その仇を討つまで戦いを止めないという、厄介極まりない掟を持つ伊賀。その掟がある限り聡四郎と伊賀の戦いは終わらないはずなのですが……

 正直なところ、この戦いの先に待つ結末は想定外のもの。詳細は伏せますが、なるほどこう来るか! と言いたくなるような、それでいて実に「らしい」展開に大いに感心させられました。
 そしてそこにあるカラクリを的確に見抜いてみせた聡四郎の洞察力の深さが、彼の成長を強く感じさせてくれるのも、また嬉しいところであります。

 そしてもう一つ嬉しいと言えば、前作同様、本作においても、生臭い政治の世界の対極にあるような純粋な剣の世界が描かれるのがいい。
 といっても今回二人が駿府で訪れた剣術道場は、一放流の道場に慣れた二人にとってはいささかならずとも拍子抜けの――要するに「今どきの」剣術道場。道場主が食っていくにはそれも必要と言うべきかもしれませんが――しかしそんな中でも、剣に心を燃やす者がいます。

 いささか変則的な形で挑んできた挑戦者に対して、聡四郎が、玄馬が何を語るのか――やはり純粋に剣の道に励む者の姿は、一服の清涼剤として実に心地よく感じられます。


 と、様々な形で物語の広がりを感じさせてくれた本作。ラストには尾張徳川家の無謀にもほどがある計画が発動してヒキとなりますが――こちらの結末も含め、次巻も楽しみなシリーズであります。


『検断 聡四郎巡検譚』(上田秀人 光文社文庫) Amazon
検断: 聡四郎巡検譚(二) (光文社時代小説文庫)


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2018.07.14

宇野比呂士『天空の覇者Z』第12巻 富士に甦る剣、帰ってきた天空の覇者

 激闘の末に首尾よくT鉱を奪還した一行は、華奈の言葉から、流星の剣を打った刀鍛冶に出会うため富士に向かう。そこで剣が打ち上がるのを待つ中、来襲した日本軍を迎え撃つ天馬たち。華奈の犠牲で剣は復活したものの、日本軍の秘密兵器Yが出現して窮地に陥ったその時、新たなZが降臨する……

 いよいよ日本編もクライマックス、天馬&Jとヴァルキュリア隊の二人との再戦から始まり、流星の剣の復活、日本軍の驚天動地の秘密兵器の登場にZとの対決と盛りだくさんの巻であります。

 西郷に奪われたT鉱のインゴットを追って、相次いで横須賀の海軍秘密工場に潜入/突入した天馬たち。真っ先に捕らえられたキリアンがあわやというところに天馬が真っ正面から突っ込み、さらに先を越されたJとアンジェリーナが……と全員勢揃いしたところで天馬とJが残り、二人を逃がすことになります。
 そして始まるJ対マルセイユ、天馬対リップフェルトの戦い――共に異能の持ち主ですが、こちらは最強メンバー。Jは兵器工場に誘い込んだマルセイユを翻弄、予測偏差射撃を完封した上に命を助けるという完封を見せます。そして天馬はリップフェルトの超加速能力を上回る剣技を見せてこちらも圧勝!

 そしてサイドカーに乗ったアンジェリーナとキリアンは山本五十六にタイヤアタックを食らわしてT鉱を奪還に成功します。行く手に立ち塞がる西郷がサイドカーの結合部を日本刀ですれ違いざまに叩き斬るという無茶を見せるものの、キリアンはT鉱の特徴――強い衝撃を与えると臨界反応を起こし、反重力場を発生させるという性質を利用したブラフで西郷を翻弄し、見事逃げおおせるのでした。
 一方華奈は家に残されていた記録から、流星の剣を打った刀匠の一族が富士に住んでいることを知り天馬たちに合流。その刀匠――石堂透徹のもとを訪れます。実は石堂家の血を引いていた華奈は透徹の相方として手伝うことになりますが――前述の如く衝撃を与えれば臨界に達するT鉱で刀を打つとは、考えてみれば恐ろしい話。それを可能にするのが達人の技ですが、それが三日間不眠不休で打ち続けるというのは流石に無茶としか言いようがありません。

 その間待つしかない天馬ですが――しかし三日目の夕方にT鉱を追って日本軍が襲来。山本五十六が指揮を執り、戦車まで繰り出してくる無茶苦茶ぶりですが、しかし戦車のキャタピラを叩き斬ったり、上から岩を落としたりする天馬たちの方がさらに無茶であります。それでも多勢に無勢、仲間たちに後を任せて華奈たちの元に急いだ天馬が見たものは、力尽きた透徹と、それでも必死に刀を研ぐ華奈の姿。刀は形となったものの、未だに流星の剣の証である透き通った刀身とならない――そう涙ながらに研ぎ続ける華奈も力尽きたか突然喀血! その血を浴びた刀身は……
 そして完全包囲された中、華奈を抱いて現れる天馬。夕日を浴びる中、彼が掲げた刀身は、その血を吸うように透き通った姿に――!

 冷静に考えればよくわからない理屈ですが(そもそも華奈は何故吐血したのか――というのは肺炎だったようですが)、しかしこの場面は作中屈指の名シーン。しかしその直後に更なる迷シーン、いや迷メカが!
 そう、その場に飛来したのはかねてより日本軍が開発していた秘密兵器「Y」――YAMATO! 空中戦艦大和であります。そしてそのビジュアルは、大和を上下逆さにしたもの――艦橋や砲塔を下にした戦艦が空を飛んでいるのはとんでもないインパクトであります。
 しかしここで真打ち登場――折良く改修の終了したZ――ネオ・カイザーツェッペリン改が富士に飛来! 強敵GのG砲を左舷に取り付けた凶悪なデザインは、頼もしいことこの上なしであります。

 そして双方が乗り組んだ(華奈と西郷は成り行きでZに搭乗)上で始まるZ対Yの決戦。しかしYの世界最大口径46センチ砲の砲撃をエーテルガスで無力化したZは、ウェル発明の誘導ミサイル・Vロケット(VはVergeltungではなくVictoryのV!)でYに大打撃を与えます。そこで最後(早い)の力を振り絞ってZの上方に上昇したYは、艦首衝角で特攻を仕掛けるのですが――そこでZ左舷のGユニットが動き、上方を向く! そしてそこから放たれるのはZ砲――ではなく拡散Z砲。スプレー状に反重力ガスを噴射することによってYを分解し、そして山本五十六をはじめとする乗組員たちも、反重力場に包まれて無事地上に軟着陸するのでした。


 と、Yの攻撃を完封した上に乗組員の生命を気遣いつつ撃破という完璧な横綱相撲を見せたZ。「最強だねZ!!!」と、天馬たちが大喜びするのもむべなるかな、であります。

 流星の剣、そしてZが復活し、体勢は万全。いよいよ次巻から最終章に突入であります。


『天空の覇者Z』第12巻(宇野比呂士 講談社少年マガジンコミックス) Amazon
天空の覇者Z 12 (少年マガジンコミックス)


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2018.07.11

岡田屋鉄蔵『MUJIN 無尽』第5巻 八郎が見た剣の道の陽と陰


 伊庭の小天狗こと伊庭八郎の青春を描く本作も順調に巻を重ねてこれで第5巻であります。この巻の前半で描かれるのは、試衛館での出稽古で賑やかな毎日を過ごす八郎の姿。そして後半では一転、八郎が人生初めて経験する修羅場が描かれることになります。そしてそこでは意外な人物との出会いが……

 かつて縁のあった吉原の花魁の死をきっかけに、同じ講武所に通う旗本の子弟・富長が攘夷浪士と繋がっていたことを知った八郎。そして講武所の中にも彼らと繋がる者が潜むことに、八郎は大きな衝撃を受けることになります。
 さらには富長が何者かによって斬殺され、にわかにきな臭くなってきた八郎の周囲。まだまだ自分の剣技を磨く必要があると考えた八郎は、かねてより縁があった試衛館に出稽古に出ることになります。

 さて、言うまでもなく試衛館は近藤・土方・沖田をはじめとする、後の新選組の中核メンバーが集った道場。この時点はまだ浪士組結成前であり(近藤が講武所参加を断念した件はこの巻でも触れられますが)、今はまだ、青雲の志を抱いた青年たちが集う梁山泊のごとき様相を呈している状況です。
 以前試衛館では沖田と名勝負を繰り広げたこともあり、ほとんど同門扱いの八郎は、たちまちのうちに彼らと馴染むのですが……

 いやはや、ここで描かれる試衛館組の姿が実にいい。現時点から大人物ぶりを発揮する近藤、バラガキそのものの土方、傍若無人な剣術馬鹿の沖田、ほかにも山南、永倉、平助――その誰もが、ビジュアルといい言動といい、実に「らしい」。新選組好きとしては実にたまらないものがあります。
 もちろん本作は伊庭八郎の物語、彼らはいわば脇役にすぎないと言えばその通りではあります。それでも八郎と同年代の、同じ青春を過ごす彼らの姿が生き生きと描かれるということは、それだけ八郎の姿も鮮明に描かれるということにほかなりません。

 本作の魅力の一つは、八郎の青春時代の爽やかさ、眩しさにあると思いますが、このエピソードにはそれが非常に濃厚に現れていると感じます。


 しかしそんな彼らの切磋琢磨の姿が、剣の道の陽の面を示すものとすれば、その陰の面――すなわち真剣での殺し合いがこの巻の後半で描かれることになります。

 江戸から故郷に帰るという馴染みの女郎への餞に、二人で芝居を見に行くことになった八郎。しかし芝居茶屋で一服した帰り、八郎たちは三人の刺客に襲われることになります。(まさか前の巻でサラリと振られた芝居見物の話がこんな形で展開するとは……)
 富長の件で八郎を逆恨みした攘夷浪士たちの襲撃に、八郎は生まれて初めての真剣勝負を経験することになるのです。

 言うまでもなく八郎は心形刀流の麒麟児、亡き父から子供の頃から真剣で稽古をつけられていたほどの超一流の剣士であります。しかしそんな彼をしても真剣での、それも一対多数の勝負は勝手が違います。
 経験者である永倉(と、ここで彼がピックアップされるのがいい)から聞いていたことを活かす間もなく、窮地に陥る八郎ですが……

 そこに思わぬ助けが入って逆転、そして初めての人斬りを経験する八郎。その人斬りのインパクトもさることながら、ここで驚かされるのは、救い主というのがあの名優・三世沢村田之助であることです。
 実はその日に八郎が見た芝居に出ていたのが田之助――ただそれだけの縁のはずが、偶然彼が浪士たちの企みを知ったことで、救い主を買って出ることになったのです。

 こうした展開は定番といえば定番ですが、しかしそれが沢村田之助というのが面白い。確かに田之助は幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎役者、その壮絶な晩年については様々な作品の題材となっているところですが――この時期の物語に、それも八郎と絡めてというのはかなり珍しい(少なくとも後者は初めて?)のではないでしょうか。

 果たしてこの出会いが、物語においてこの先どのような意味を持つのか。あるいは一時のすれ違いに過ぎないのかもしれませんが――それはそれで面白い趣向であったことは間違いありません。


 さて、剣の道の陽と陰を経験することによって、更なる強さを求めることを決意した八郎。折しも世情はさらに不安定になる中、彼の剣は何のために使われることとなるのか――時はまだ1861年、彼が本格的に世に出るまではまだ間があります。
 それまでに、そしてその先に何が描かれるのか、この先も楽しみにしたいと思います。

(しかしこの巻のラストエピソードは少々文字と理屈が多すぎな印象が……)


『MUJIN 無尽』第5巻(岡田屋鉄蔵 少年画報社ヤングキングコミックス) Amazon
MUJIN~無尽~ 巻之5 (ヤングキングコミックス)


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2018.07.07

宇野比呂士『天空の覇者Z』第11巻 日本編開幕! 故郷で天馬を待つもの

 流星の剣を復活させるため日本に向かった天馬。しかしその鍵を握る華奈は記憶を失っていた。彼女を回復させるために両国の川開きに連れ出した天馬だが、そこにヴァルキュリア戦隊の二人が襲撃。さらに乱戦の中で奪われたT鉱を取り戻そうとしたキリアンが、日本軍の秘密工場に捕らわれてしまう……

 この巻からスタートの日本編。既に天馬の過去自体はカラクーム・オッフェンバルクの最中に描かれていますが、その過去を乗り越えるための物語が始まることになります。

 実はT鉱から作られていた流星の剣を復活させるため、故郷である日本に向かう天馬と、アンジェリーナ・J・キリアンの一行。宇野漫画お得意のご当地グルメ描写の後、意気揚々と懐かしい北辰一刀流の道場を訪れる天馬ですが――しかし道場は無人の状態で、天馬の許嫁であった華奈も見当たりません。
 しかしこれはどう考えても天馬に無理があった話、一番の高弟が師匠を斬殺して逃走した流派が残っている――少なくとも自分を迎えてくれる方がおかしい。そのことを天馬に叩きつけたのはかつての同門――今は帝国海軍軍人の新キャラ・西郷志郎であります。師の仇である天馬に切りかかってきた(そして折れた流星の剣を見て激昂した)志郎ですが、アンジェリーナが割って入ったことで引き、その場には今更ながらにショックを受けた天馬が残されるのでした。

 そして悲しみの中、師の墓を詣でる天馬ですが――そこで出会ったのは何と探していた華奈。しかし様子がおかしい、と思いきや、彼女は恋人が父を斬殺した衝撃で、記憶喪失となっていたのであります。何としても彼女の記憶を取り戻すと誓う天馬ですが――その頃、宿敵ヴァルキュリア戦隊のリップフェルトとマルセイユも日本に到着。
 ナチスと手を組んでY計画なる秘密計画を進める山本五十六の出迎えをスルーする態度のデカい二人を案内するのは志郎――これはただですむはずがありません。

 さて、かつての最愛の人であり、流星の剣を打った刀鍛冶のことを知るらしい華奈の記憶を取り戻すべく、二人の思い出での両国の川開きに連れ出した天馬一行。屋形船でつかの間楽しい時間を過ごす一行ですが――そこにマルセイユとリップフェルトが襲来!
 人間の思考の動きを「青い影」として見ることができるマルセイユと、人間離れした超加速能力を持つリップフェルト。ヒトラー直々に獣性細胞を与えられた「純血種」である二人は、戦闘機を降りても凄まじい戦闘力で襲いかかります。

 リップフェルトはJが迎え撃ったものの、流星の剣が使えない天馬はマルセイユの予測偏差射撃に大苦戦。何故か「青い影」を見ることができるキリアンがフォローするものの、さらに志郎までが現れ、天馬は深手を負わされることになります。
 が――その時、満月の光を浴びてアンジェリーナの力が覚醒します。以前とは姿を大きく変えた――より人間離れした、しかし美しい姿と圧倒的な力で敵を一周する獣鬼アンジェリーナ。彼女の活躍で敵は撃退できたものの、そこに日本軍の潜水艦が出現、敵を回収して撤退する混乱の中で、流星の剣の材料として天馬たちが持ち込んだT鉱のインゴット入りの鞄が志郎に奪われてしまいます。そしてキリアンは、鞄を追って潜水艦もろとも消えることに……

 意識を失った天馬を手当しながら、アンジェリーナに対して恐怖と憤りをぶつける華奈。しかしアンジェリーナはその言葉を静かに受け止めると天馬を彼女に任せ、自分はJとともにキリアンを追って飛び出します。小型T鉱レーダーが指し示す目的地は横須賀――そこには海軍の秘密基地があったのであります。そこに一足先に忍び込んだキリアンですが――志郎から鞄を奪おうとして失敗、捕らえられてしまうのでした。
 そしてマルセイユに痛めつけられるキリアン。何故か自分と同じ能力を持つキリアンに苛立つマルセイユの銃弾がキリアンを貫いたかに思われた時――一瞬遅れて飛び込んだJとアンジェリーナが見たものは、復活して正面から殴り込んだ天馬の姿であります。果たしてインゴットを奪還して脱出なるか――というところで次巻に続きます。


 Zは大破、新・天翔馬号も置いてきたという状況のため、等身大戦のみの日本編。しかし戦闘機なしでも十分に強いヴ隊の二人、そして何よりもアンジェリーナの覚醒によって、この巻ではかなり盛り上がるバトルが展開されることになります。もっとも、天馬自身は愛刀を折られてほとんど戦力外で、二度もアンジェリーナに救われる有様ですが……
 しかしこれはむしろ、これまで同様、いやそれ以上にアンジェリーナのイイ女ぶりを素直に受け止めるべきなのでしょう。何しろ、あのJが認めるのですからかなりのものです。

 しかし読み返してみると、唐突感のあったキリアンの能力も伏線が張ってあったと感心。Jの恋人については――どうなのかなあ。


『天空の覇者Z』第11巻(宇野比呂士 講談社少年マガジンコミックス) Amazon
天空の覇者Z 11 (少年マガジンコミックス)


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2018.07.04

岡田鯱彦『薫大将と匂の宮』 名探偵・紫式部、宇治十帖に挑む!?


 源氏物語のいわゆる「宇治十帖」、光源氏の子・薫大将とその親友・匂の宮を巡る物語には続編が、それも奇怪な連続殺人を描く物語があった――そんな奇想天外な着想で、しかも作者たる紫式部と、清少納言を探偵役として描かれる、時代ミステリの古典にして名品であります。

 紫式部が描いた宇治十帖。それは、理想的すぎる人物として光源氏を描いてしまった反省から、より人間的な存在として、実在のモデルに忠実な人物として、薫大将と匂の宮を描いた物語でありました。
 しかしそのあまりの生々しさに辟易とした紫式部は中途で筆を置き、二人の物語は宙に浮いた形で完結することなったのですが――そこに思わぬ事件が起きます。

 薫大将と匂の宮の間で揺れた女性・浮舟。二人の間で苦しみ、一度は出家したものの、いまは還俗して薫の妻となっていた彼女が、死体となって川から上がったのであります。
 水死かと思いきや、しかし水を飲んだ形跡はなく、額をぱっくりと割られた惨たらしい姿で発見された浮舟。そしてややあって、今度は匂の宮の妻であり、浮舟の姉の中君が、同じような死体となって発見されることになります。

 薫大将と匂の宮に深い関わりを持つ二人の女性の怪死に、騒然となる宮中。しかし匂の宮は、これが薫大将の仕業と決めつけます。その証拠は薫の名の由来となった薫香――極めて鋭敏な匂の宮のみがかぎ分けられる薫の香りが、匂の宮の恋人たちから、そして中君から発していたというのです。
 これすなわち、浮舟の死を恨む薫が、匂の宮への嫌がらせのため、次々と匂の宮の恋人と中君を手込めにしていった証拠である――そう主張する匂の宮。

 しかし薫はどちらかといえば優柔不断、出家遁世を願っているような温和しい人物であり、そんな彼がそのような行為に及ぶものか――式部はそう考えるものの、今度は第三の、思いも寄らぬ人物の死体が同じ形で発見されるに至り、薫は決定的に追いつめられることになります。

 思わず薫の弁護を買って出た式部ですが、彼女にも具体的な証拠はありません。さらに彼女をライバル視する清少納言が式部の推理に挑戦状を叩きつけ、宮中引退を賭けた推理対決が繰り広げられることに……


 有名人探偵ものは時代ミステリの定番の一つ、それもその有名人の事績に関わる事件が――というのも定番中の定番ですが、しかし紫式部が、薫大将が被疑者となった事件に挑む(さらに乱入してくる実に嫌な造形の清少納言)というのは、これは驚くべき奇想としか言いようがありません。

 そもそも紫式部は物語の作者、薫大将らはその登場人物なのですから、そのシチュエーションだけであり得ない。
 それを、実は宇治十帖は実在のモデルに忠実に書いていました、というある意味直球ど真ん中でクリアしているのは痛快ですらあるのですが――しかし本作の魅力は、こうした設定以上に、ミステリそのものの面白さにあることは間違いないのであります。

 そう、本作の中核にあるのは、極めて特異なアリバイ(不在証明)――いや存在証明。
 薫大将がそこにいたかどうか、そしてその行為に及んだのかどうか――本来であれば実証不可能なそれを、薫だからこそ、匂の宮だからこそ証明できてしまうという、本作でしかできない謎の設定には、成る程! と膝を打たされるのであります
(さらに、紫式部の当時の女性としての倫理観が、探偵としての活動に縛りをかけるというのも見事です)


 もっとも、文体(これも現代語訳してあるというエクスキューズはあるわけですが)や物語展開が、あまりに「探偵小説」しすぎているという点が少々ひっかからないでもないのですが――これはもう、執筆年代を、そして作者の嗜好を考えれば仕方がないことでしょう。

 何よりももう一つの作者の嗜好、国文学者というもう一つの作者の顔が、その謎を支えていること、そしてその謎を生み出した登場人物たちの実に「らしい」心の動きを生み出していることを考えれば――やはり本作は奇跡的なバランスの上に成り立った作品であると、今更ながらに感心させられるのです。

『薫大将と匂の宮』(岡田鯱彦 扶桑社文庫) Amazon
薫大将と匂の宮―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

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2018.07.03

碧也ぴんく『星のとりで 箱館新戦記』第2巻 辿り着いた希望の砦に集う綺羅星


 箱館戦争で五稜郭に依って戦った、土方歳三をはじめとする旧幕府軍の男たちを描く『星のとりで』、待望の第2巻であります。蝦夷地に上陸し、五稜郭を目指す旧幕府軍。その中に加わった幼い新選組隊士たちが知ることとなる戦場の現実とは……

 鳥羽伏見の戦で大打撃を受け、将軍が恭順の意を示しても、なお闘志を失わなず、北へ北へとその戦場を移していった旧幕府軍の侍たち。
 その最中に新選組に加わった四人の隊士――市村鉄之助、田村銀之助、玉置良蔵、上田馬之丞は、元服をしたかしないかの年齢ながら、土方を信じて行動を共にすることになります。

 北上の最中、陸軍隊や額兵隊、さらには唐津藩の残存兵などを加えた一行は、仙台を経て、蝦夷地に上陸。鷲ノ木浜から箱館を目指す土方と大鳥圭介は、二手に分かれて進軍することになるのですが……


 ついに土方や少年たちが、物語の真の舞台である五稜郭にたどり着くこの第2巻。そこで彼らがいかなる戦いを繰り広げることになるか――実はそれはまだまだ先の話であります。
 この巻で描かれるのは、新天地に希望を抱く彼らの姿――自分たちを謀反人ではなく、対等の交戦国として胸を張ってこの北の地に立とうとする、希望に燃える彼らの姿なのです。

 そしてまさしく「星のとりで」である五稜郭に集った彼らの姿は、まさしく綺羅星というべき輝きを放ちます。
 第1巻でもその俊英ぶりを発揮した星殉太郎、胸に複雑なものを抱えつつも一心に戦う野村利三郎&相馬肇、さらに今回初登場(のはず)の古屋佐久左衛門など――見ているだけで胸躍るような豪傑・英傑ぶりであります。

 正直なところ、土方たちに比べれば知名度という点では劣る彼らではありますが、しかし史実でのその姿を見れば、一人一人が物語の主人公になれそうな人間ばかり。
 そんな面々の姿を見ることができるだけでも、本作を読む価値はあると――いささか大げさかもしれませんが、思ってしまうのです(特にこの巻では、古屋佐久左衛門と高松凌雲兄弟のキャラの濃さには感心いたします)。

 そしてそんな彼らを束ねるのが土方ですが――現時点ではまとめ役に徹しているというか、一歩引いた「大人」の立場で要所要所を締めているという印象。
 それはもちろん、物語が少年たちの視点から描かれていることによるところは大きいのだと思いますが――かつての「鬼」の副長が、五稜郭では「慈母」のように慕われていたという、この時期の土方の姿を巧みに浮き彫りにしていると感じられます。

 もっともこの巻のラストでは「蜥蜴」呼ばわりされてしまうのですが、それはさておき……


 しかし、あくまでも彼らが居るのは戦場であります。箱館に、五稜郭に入る直前の戦いで、少年たちは悲しい別れを経験。さらに一人が病で倒れることになります。
 そして、松前藩を説得すべく向かった松前でも戦闘が行われた末、少年たちは思わぬ危機に見舞われることになります。

 希望が一転危機に変わる戦場。そこで少年たちが何を見るのか、そしてそんな少年たちに、土方ら大人たちはどのように接するのか?
 そして、この先待ち受ける真の「戦争」において、彼らが如何に戦うのか――物語はこれからが本番というべきなのでしょう。


 ちなみにこの巻には、番外編として旧幕府軍に参陣する直前の星殉太郎と細谷十太夫の物語が収録されています。

 仙台藩において鴉組こと衝撃隊を率いて活躍しつつも、仙台藩降伏を目前に殉太郎とは道を違えた十太夫。なおも華々しい戦いを求めた殉太郎を支え、十太夫は闇に沈む道を選ぶのですが……
 しかしついに五稜郭に入ることはなかった彼もまた、綺羅星の一つであったことを浮き彫りにしてみせる本作は、まさしく『星のとりで』という物語の番外編に相応しい内容と感じます。

 「星」の陰の闇夜の「鴉」――男と男の熱い友情が胸に響く好編です。

『星のとりで 箱館新戦記』第2巻(碧也ぴんく 新書館ウィングス・コミックス) Amazon
星のとりで~箱館新戦記~(2) (ウィングス・コミックス)


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2018.07.01

石川ローズ『あをによし、それもよし』第1巻 ミニマリスト、奈良時代を満喫!?


 私も色々なタイムスリップ時代劇に触れてきましたが、これだけユニークな漫画はちょっとないのではないでしょうか。現代のミニマリストが奈良時代にタイムスリップし、「あをによし奈良の都は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり」と読んだ小野老と共同生活を始めるというのですから……

 ある日突然、奈良時代にタイムスリップしてしまった現代のサラリーマン・山上。人のいい役人の小野老と出会い、彼の家にやっかいになることになった山上は、物もない、電気もない奈良時代に大いに戸惑――わない。むしろ大喜びなのです。
 実は山上はミニマリスト、物がない生活はむしろ大歓迎、そして衣食住全てが天然素材100%のこの時代は、彼にとっては理想郷なのであります。

 というわけで本作では、大いに奈良時代をエンジョイする山上と、彼の行動がきっかけで何となく出世してしまう老のユルくも楽しい奈良スローライフがコミカルに描かれていくことになります。


 本作のタイトルにも使われている「あをによし(青丹よし)」は「奈良」の枕詞。冒頭に引用した和歌で用いられ、作中で奈良と聞いた山上が思わず呟いてしまったように、「奈良」と言えば「あをによし」と自然に浮かんできます。
 が(これも作中でツッコまれているように)そもそも「あをによし」とは如何なる意味なのか、そしてこの和歌を詠んだのは誰なのか、ご存じない方も多いのではないでしょうか?

 かく言う私が知らなかったのですが、そんな知っているようでほとんど知らない――教科書にほんの少し載っていた程度しかしらない奈良時代の姿を、本作はタイムスリップした現代人の目を通じて浮かび上がらせます。

 それにしてもユニークなのは、普通、現代人が過去の時代にタイムスリップした場合、何とか現代に帰ろうとしたり、あるいは自分にとって都合がいいように歴史を変えようとしたりするものですが――本作の主人公の場合、あっさりと奈良時代に適応し、すっかり安住してしまうことであります。
 その理由に、彼がミニマリストだったから、というロジックを持ち出してくるのがまた実に楽しいのですが、何しろ本作はナンセンスギャグ、そのユルさこそが魅力の一つと言うべきでしょう。

 そしてその山上のツッコミを交えて描かれる奈良時代像は、彼同様にごく一般的な知識しか持ち合わせていない我々現代の読者にとっても「あるある」感満載で、実に楽しいのであります。


 さて、山上という主人公の名の時点でお気付きの方も多いと思いますが、実は主人公こそは、これまた歴史の教科書に必ず載っているあの歌を詠んだ人物、という設定。
 読むだけで気の滅入るほどリアルなあの歌ですが、しかしミニマリスト視点から見ればどうなのか――この巻の時点ではまだ描かれていませんが、大いに楽しみになるところであります。

 そしてもう一つ、タイムスリップ時代劇にはつきものの、もう一人の――もこの巻のラストに登場。
 それがまたとんでもない人物の名を名乗っているのに驚かされますが、図らずもこの人物と対立することになった山上の運命はどうなるのか……

 などと、真剣に心配するようなトーンの作品ではありませんが、こちらも気になるところなのです。

『あをによし、それもよし』第1巻(石川ローズ 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon
あをによし、それもよし 1 (ヤングジャンプコミックス)

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2018.06.30

宇野比呂士『天空の覇者Z』第10巻 決着、Z対G! そして天馬新たなる旅立ち

 世界変容の終了直後、ネモ最後の策でGに特攻を仕掛けるZ。互いに艦橋を狙った末に対峙するネモとクブリックだが、ZとGは共に墜落することになる。Zが修理される間、日本に向かう天馬。見送るネモは、ギヌメールに自分とヒトラー、竜崎博士の因縁を語る。一方、深い傷を負ったヒトラーは……

 一冊丸々、異世界で繰り広げられる天馬とヒトラーの戦いが描かれた後、久々に現実世界に戻って繰り広げられるこの第10巻。読者としてみれば、まさにZとゴグマゴグの決戦寸前に一時停止していたようなものですが――しかし停止前と異なるのは、眼下のラルカナルタが全盛期の姿を取り戻していたことであります。さらに死んでいたはずの巨大なT鉱隕石が再活性化し、その反重力作用で周囲の運河の水が浮遊、濃密な霧が周囲を包む中、Zは霧海の中に消えます。
 思わぬ奇跡に助けられましたが、元々ネモはZの主砲を地下水脈に打ち込んで同じ現象を起こそうとしていたのでこれは計算のうち。しかしいくら隠れても、浮上した時にG砲を喰らえばおしまいなのですが――クブリックがある迷いを抑えて発射したG砲は、浮上したZをすり抜けた!? 実は浮上したかに見えたのは水空現象で空気中の水滴に映ったZの鏡像。まさしく「砂漠の蜃気楼」でクブリックの裏をかいたネモの最後の策は――突撃!

 衝角でGを串刺しにしたZから、一気に艦橋を占拠すべく突入したJ率いるZ陸戦隊ですが、逆にクブリックは愛犬とともにZの艦橋を急襲、ネモに銃を突きつけます――しかし、そこでクブリックの前に立ったのはエリカ。実は(読者にはわかっていましたが)彼女はリヒトホーフェンの妹であり、クブリックの許嫁だったのであります。さらに、許嫁の乗った艦にG砲を撃ったのかというウェルのツッコミにクブリックもたじろぎ(なんか乱入してきたベイルマンも取り押さえられて)、この場は完全にZ側の勝ちかと思いきや――なんとクブリックは囮、この隙にZのT鉱炉を襲撃した配下によって炉心がパージされ、Zは質量を取り戻して墜落することに……
 しかし最後の意地でウェルがハープーンを打ち込んだことでGも巻き添えとなり、よりによってT鉱隕石の上に墜落。アンジェリーナの励ましで何とか力を取り戻した天馬の先導で辛うじてZは不時着したものの大破し、その最中にクブリックはどこかに姿を消すのでした。


 そしてGの残骸とT鉱石を利用して、Zの修復に挑むウェル。一時は獣性細胞が暴走したネモも小康状態を取り戻しましたが、ジャン・レノというより黒いタートルネックが似合う元CEOのようなビジュアルに――というのはさておき、訪ねてきたギヌメールに対して、目指すツングースにあるものが「レーベンスボルン」と呼ばれる純獣性細胞であると語ります。ツンドラの下に眠る全ての獣性細胞の根源と呼ばれるそれが如何なる力を持つのか――それはネモにもわかりませんが、しかしヒトラーに渡してはならないと強い決意を語るのでした。
 第一次大戦時、ギヌメールとの空戦の果てに一度は落命したネモに獣性細胞を与えて蘇生させたヒトラー。以降、世界を作り変えるというヒトラーの夢を実現するため、ネモは竜崎博士とともに三人でT鉱と獣性細胞の研究に勤しむのですが――しかし、ヒトラーの体の異変を仄めかいた直後に竜崎夫妻が謎の死を遂げ、さらにミュンハイムの悲劇でZ砲開発のために街一つが消滅したのをきっかけに、ネモはヒトラーと決別し、Z同盟を結成するに至ったのであります。

 一方、そのヒトラーは世界変容中の天馬との死闘で結局瀕死の重症を負い、回復も果たせぬまま、ズタズタの意識不明状態で医療カプセルに収容される状態。そしてその間に実験を握ったのは、影武者であったチョビ髭の男と、謎の怪人物リーフェンシュタール博士――ヒトラーをいわば人質にとった彼らの言うままに、ヴァルキュリア隊は新たな任務に就くことになるのでした。

 片や、「逃げない男になるため」とネモに申し出て、日本に向かう天馬。流星の剣を折られた直後は、これまで一貫して明朗快活、強気だった彼とは思えぬほどの狼狽ぶりを見せた天馬でしたが、アンジェリーナとともに新たな運命を歩むため、彼女(あとJとキリアン)を連れて、日本に向かうことに……


 というわけで中盤の大きな山だったからクーム編も大波乱の末に完結、本当にZとGが同体で墜落した時にはこの漫画も一巻の終わりかとリアルタイムで読んでいた時には思いましたが(ここのところずっと同じようなこと言ってますが)、次巻からは日本編に突入、まだまだ物語はここからが盛り上がることになります。

 にしてもレーベンスボルンという語をこういう形で使ってくるとは――確かに元の意味は「生命の泉」であるわけで、そのセンスに脱帽であります。


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天空の覇者Z 10 (少年マガジンコミックス)


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2018.06.24

ことだま屋本舗EXステージ『戦国新撰組 結』 新たな魂を吹き込まれた物語

 舞台上で声優が舞台上に映し出される漫画の台詞をアフレコするという、LIVEリーディングイベントを観劇(聴劇?)して参りました。ほぼ一年前に上演されたことだま屋本舗EXステージ『戦国新撰組』の続編・完結編であります。

 朝日曼耀 作画、富沢義彦 原作の原作漫画についてはこれまでこのブログでも紹介して参りましたが、タイトルのとおりと言うべきか、戦国時代にタイムスリップしてしまった新撰組の活躍を描く物語であります。
 突然桶狭間の戦直前の時代に放り出され、全く勝手の異なる戦いの中で幾多の犠牲を出しつつも、徐々に頭角を現していく土方らの姿を、佐久間象山の息子・三浦啓之助の目を通じて描く作品です。

 乱戦のどさくさに紛れて啓之助に信長が射殺され(!)、その後釜に濃姫が座るという場面まで――全3巻の原作のうち、第2巻の中盤までが上演された前回。
 今回はこれを受けて残る後半部分――清洲城に来襲した今川義元との決戦、さらに竹中半兵衛が守る斎藤家との死闘が、敵味方同士に分かれた新撰組隊士たち同士の戦いを交えて描かれることになります。

 LIVEリーディングというイベントは、冒頭に述べたとおり漫画の画を(吹き出しは消して)そのままスクリーンに映し出し、それに声を当てていくというものだけに、内容は必然的に原作に忠実にならざるを得ません。
 それだけに内容的には原作既読者には(当たり前ですが)目新しさはない――はずなのですが、しかし声優の声が付いてみると、物語がまた全く異なったものとなって見えてくるのが面白いところであります。

 漫画を読んでいる時に何となく脳内で再生しているのとは異なり、生きている人間一人一人がそれぞれのキャラクターとして喋る――本作のようなキャラクター数がかなり多い作品では、それがある意味物語の輪郭を明確にしていくものだと、再確認させられました。
 実は原作の方は、正直に申し上げて後半はかなり駆け足になった印象があるのですが、それがこのLIVEリーディングでは、違和感や不足感を感じさせず、むしろ状況が刻一刻と変わっていく緊迫感を醸し出していたのも、この声の力に依るところが大きいのでしょう。

 ちなみに主人公の三浦啓之助役は、前回と異なり酒井広大が演じていたのですが、前回にも勝るとも劣らぬ啓之助っぷり――特にラストにこれまでの自分を捨て、新たな道を撰ぼうと踏み出す場面はなかなかに良かったと思います。

(しかし前回もそうだったと思いますが、RDJをモデルにした今川義元の声を、「あの声優」チックに演じるのはズルくも楽しかったです)


 なお、今回は本編の前に同じ原作者の作品(作画 たみ)『さんばか』を同形式で上演。こちらは寛政年間の江戸を舞台に、戯作者を夢見る少年・菊池久徳と、戯作ファンの三人娘が風呂屋を(主な)舞台に繰り広げるお色気多めの時代コメディであります。

 原作漫画を読んだのはかなり前でしたが、男臭い『戦国新撰組』に比べると、グッと華やかな内容で、女の子たちがわちゃわちゃと騒がしい展開は、これはこれでこの媒体にかなり似合う――という印象。
 映画で言えば本編前の併映の短編といった趣きですが、ちょうど良い塩梅の作品であったと思います。


 何はともあれ、『戦国新撰組』と『さんばか』――漫画で楽しんだ物語をこうして新たな魂を吹き込んだ形で追体験するというのは、なかなか楽しい経験でありました。機会があれば、またぜひ。



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2018.06.23

宇野比呂士『天空の覇者Z』第9巻 世界変容再び! 運命を超えるための死闘

 突如始まった世界変容の中、現れた「最初に扉を開けし者」は、天馬に過去を垣間見せ、新たな因果律の王になれと誘う。しかしそこにヒトラーが出現、アンジェリーナを賭けて死闘が始まる。空間を克服し、攻撃を無効にするヒトラーに苦しめられる天馬。死の運命に屈したかに見えた天馬だが……

 空中戦の最中、突如わけのわからない空間――カラクーム・オッフェンバルグ(世界変容)に飛び込み、読者同様混乱した状態の天馬。その前に現れたのは、あの長髪ボンデージ男――自称「最初に扉を開けし者」。これまで歴史上の様々な覇者を操っていたという彼は、かねてより(要塞島で天馬が流星刀の力を発揮した時から)天馬に注目していたと語り、天馬に辛い過去を見せつけます。

 かつて師・千葉周太郎の道場で剣を磨き、師の娘の華奈とは相思相愛であった天馬。今度の継承の儀式で師を破れば、華奈と結ばれた平和な暮らしが待っていたはずの天馬ですが――見事流星刀で師を破ったものの、師は突如苦しみ、肩の古傷から奇怪な膿の如きものを吹き出したではありませんか。
 実はかつて、竜崎博士夫妻を殺したヒトラーから天馬を救った周太郎は、その際に深手を負い、ヒトラーの獣性細胞に感染していたのであります。流星刀で儂を斬れという師の言葉に、天馬は無我夢中で刃を振るうのですが――しかし師を斬ってしまった彼は、華奈を残して日本から逃げだし、流れ流れて欧州にやってきたのであります。

 そんな彼の運命の最後に待ち受けるのはヒトラーによる死だと未来を見せ、ヒトラーの掌中にあったかのようなこの運命を変えられると、天馬を新たな因果律の王に据えようと誘う「扉を開けし者」。もちろん拒絶する天馬ですが、そこに突如「開けし者」の体を内側から引き裂いてヒトラーが出現、因果の輪を脱する鍵となるというアンジェリーナを奪わんと、天馬に襲いかかります。

 最後の(?)力を振るい、二人を全盛期のラルカナルタに転送する「者」。中央の巨岩をくり抜いて作られた戦士の塔を舞台に死闘を繰り広げる天馬とヒトラーですが――一足早く塔にたどり着いた天馬が仕掛けた天井や床の崩落の罠に巻き込まれても、ヒトラーは岩の破片を時に体を通過させ、時に打ち払って天馬に迫ります。もはや空間の王として空間に扉を作って瞬間移動することを可能とした彼は、自分の体に扉を作ることにより、自在に攻撃を躱せるようになったのです。
 そして最上階、アンジェリーナの前で激突する二人。天馬の渾身の一撃は見事ヒトラーを貫いたかに見えましたが――しかし空間の扉を天馬の体に繋いだヒトラーにより、天馬は自らの体を貫いてしまったのであります。

 攻防一体のヒトラーの前に膝を屈する天馬。「者」が見せたとおり、ヒトラーの一撃が天馬の命を奪うかに見えたとき――天馬のパンチがヒトラーの顔面にクリーンヒット! 実はヒトラーが開ける空間の扉は一枚だけ――一回扉を開いて攻撃を躱したら、その扉を閉じなければ次の扉を開けられないという「ルール」に天馬は気づいたのです。
 こうなってしまえばもう天馬のもの。刀と拳や蹴りの二段三段攻撃を繰り出す天馬にボッコボコにされたヒトラーの前に、死んだはずの「者」が、今度は突然幼女の姿になって現れ、自ら因果律の王の座を降りたお前のミスだと煽りを食らわせます。しかもこの世界変容のリミットは残り60秒と告げる「者」。もう天馬を倒すどころか残り時間を凌ぐしかないヒトラーですが……

 最後の力で塔を崩壊させて逃げたものの、アンジェリーナの遠隔透視能力で追いかけてきた天馬に追いつめられ、今度こそ最後の一撃を食らったかに見えたヒトラー。しかしその時、不思議なことが起こった! 絶体絶命にまで追い込まれたヒトラーは新たな進化を起こし、新たな能力を得たのであります。
 二本の刃に貫かれたまま傲然と笑うヒトラー。そのまま彼の手は流星刀にかかり、その刀身を粉砕! そしてその次の瞬間、世界変容は終了して……次の巻に続きます。


 追い返し地点を過ぎて早々、いきなりヒトラーと激突することとなった天馬。負けイベントかと思いきや、むしろこのまま完結か、と連載時は(あたかも「者」の掌の上で踊らされる二人のように)盛大にハラハラさせられたものですが――しかしさすがはラスボスだけあってしぶといヒトラーであります。

 そしてこの巻の冒頭でついに語られた天馬の過去。華奈という過去を捨て、アンジェリーナという現在を掴んだ天馬ですが、しかし過去を乗り越えなければその先の未来はありません。
 と言いつつも、元の空間に戻ればそこで続くのはZとGの決戦。果たしてそちらの行方は……まだまだ未来は混沌としているのであります。


『天空の覇者Z』第9巻(宇野比呂士 講談社少年マガジンコミックス) Amazon
天空の覇者Z 9 (少年マガジンコミックス)


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