2019.01.15

「コミック乱ツインズ」2019年2月号


 今年初の「コミック乱ツインズ」誌、2019年2月号であります。表紙は『用心棒稼業』、巻頭カラーは『そば屋幻庵』――今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『そば屋幻庵』(かどたひろし&梶研吾)
 というわけで、『勘定吟味役異聞』がお休みの間、三号連続で掲載の本作。ある晩、幻庵の屋台の隣にやってきた天ぷら屋兄弟の屋台。旨いそば屋の横で商いすると天ぷら屋も繁盛すると商売を始めた二人ですが、やって来た客たちは天ぷら蕎麦にして食べ始め、幻庵の蕎麦の味つけが天ぷらに合わないと文句を付け始めて……

 もちろんこの騒動には黒幕が、というわけなのですが、それに対する幻庵の親爺こと玄太郎の切り返しが実にいい。「もう食べる前から旨いに決まっている!!」という登場人物の台詞に、心から共感であります。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明)
 今回から新展開、本家から失われた初代・大橋宗桂の棋譜集を求めて、長崎に向かった宗桂。追いかけてきた平賀源内の口利きで、その棋譜集の今の持ち主であるオランダ商館長・イサークと対面した宗桂ですが、イサークは将棋勝負で勝てば返してやると……

 というわけで、ゲーム漫画ではある意味お馴染みの展開の今回。表紙で薔薇の花を手にしているイサークを見て感じた悪い予感通り、彼がオネエで宗桂の体を狙ってくる――という展開は本当にどうかと思いましたが、イサークの意外な強豪っぷりは、漫画的な設定でなかなか楽しい。
 何よりも、将棋に慣れていないというイサークが要求した八方桂(桂馬が前だけでなく八方向に桂馬飛びできる)という特殊なルールを活かしたバトルは、本作ならではの新鮮な面白さがあり、これなら源内も満足(?)。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「梅安迷い箸」の後編。料理茶屋での梅安の仕掛けを目撃しながらも、偽りの証言で結果的に梅安を救った女中・おとき。彼女の口を封じるか迷った梅安は、医者の方の仕事で、彼女の弟を治療することになるのですが……
 と、完璧に針のムシロの状況のおとき。すでに梅安の方は彼女を見逃すことに決めていたわけですが、そうとは知らぬ彼女にはもう同情するほかありません。(自分と)梅安のことを邪魔する奴は殺すマンとなった彦さんも久々に裏の住人っぽい顔をしているし。

 結末は梅安の私的制裁ではないか――という気もしますが、梅安・おとき・彦さんの微妙な(?)すれ違いがなかなか面白くもほろ苦いエピソードでした。


『カムヤライド』(久正人)
 連載1周年の今回も、主人公はヤマトタケル状態、謎の男・ウズメとの死闘の最中に彼が思い出すのは、熊襲平定軍の副官となった武人・ウナテのことであります。自分以外の皇子はほとんど皆敵の状態で、仲の悪い兄に仕えるウナテのことを疑っていたタケルですが……

 第1話で土蜘蛛と化したクマソタケルに惨殺された兵たちにこんなドラマが!? という印象ですが、しかしウズメの奥の手の前にはそんな感傷も効果なし。ひとまず水入りとなった戦いですが、タケルにはまだ秘められた力が――?
 ウズメの求めるものも仄めかされましたが、これはもしかして巨大ヒーローものにもなるのでは、と妄想を逞しくしてしまうのでした。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 今回の主人公は、本誌の表紙を飾った仇討浪人の海坂坐望。兄の仇を討ち、その遺児・みかんを連れて故郷に帰ってきた坐望ですが、そこはみかんにとっても故郷であります。
 彼女と別れ、実家に帰った坐望を待っていたのは、彼とは絵のタッチまで違うぼんやりした顔立ちの妹婿。既に居場所はなくなった実家に背を向けて旅に出ようとする坐望ですが、義弟の思わぬ噂を聞きつけて……

 片田舎が舞台となることが多い印象の本作ですが、久々に賑やかな町の風情が描かれる(坐望の若き日の放蕩ぶりがうかがわれるのが愉快。張り合おうとする雷音も)今回。しかしそこでも待ち受けるのは憂き世のしがらみと悪党であります。降りしきる雪の中、無音で繰り広げられる大殺陣の最中、終始憂い顔の坐望の姿が印象に残るエピソードでした。

 物語的にはあまり生かされているとは思えなかったみかんも今回で退場か、と思われましたが――しかし彼女の存在は、全てをなくした坐望にとっては一つの希望と考えるべきなのでしょう。


「コミック乱ツインズ」2019年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年2月号 [雑誌]


関連記事
 「コミック乱ツインズ」2019年1月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2019年1月号(その二)

| | トラックバック (0)

2019.01.12

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第14巻 死闘の中に浮かぶ柱二人の過去と現在


 アニメもこの春からスタート、連載中の本編の方も決戦に突入と追い風に乗りまくる本作。この単行本最新巻では、刀鍛冶の里編がいよいよクライマックスに突入、前巻では炭治郎と玄弥の同期コンビが奮戦しましたが、この巻では二人の柱がついにその真の力を見せることになります。

 鬼殺隊の日輪刀を打つ刀鍛冶の里の位置を突き止め、襲撃してきた上弦の伍・玉壺と上弦の肆・半天狗。偶然里に居合わせた炭治郎・玄弥・禰豆子と、霞柱の無一郎は迎撃に向かうものの、やはり上弦の名は伊達ではありません。
 一見非力な老人のような外見ながら、四体もの分身を創り出した半天狗に苦しめられる炭治郎たち。一方、謎の刀を研ぐことに没頭する鋼鐵塚らを襲う玉壺に立ち向かった無一郎ですが、脱出不能の水玉・水獄鉢に閉じ込められて絶体絶命のピンチに……


 この刀鍛治の里編の冒頭で、その無神経とも冷徹とも傲慢とも言うべきキャラクターをいきなり披露し、あの炭治郎をして妹絡み以外で反感を抱かせた無一郎。
 しかしその一方で、彼には記憶の欠落――それもリアルタイムでの――があることが折に触れて描かれ、その過去には相当複雑なものがあることがほのめかされてきました。

 そして今回、玉壺戦の中で描かれる――彼が思い出す――過去は、予想通り凄絶極まりないもの。彼が柱となるまでに何があったのか、いや何を失ってきたのか――その痛切な物語が、実に本作らしい形で、容赦なく描かれることになります。
 しかしそこにあるのは、喪失の物語だけではありません。同時に描かれるのは再生の物語――過去と直面し、失われた記憶を甦らせた無一郎が、ついに全き人間として立つ姿は、この巻最高の名場面であることは間違いありません。
(特に彼の名前に込められたものが語られるシーンはただ涙……)

 これはこれまで何度も何度も繰り返してきたことではありますが、本作はキャラクターの――ほとんどの場合ネガティブな――第一印象を、その過去を描くことによって一気にひっくり返してみせるのが非常に巧みな作品であります。
 それはこちらも十分承知していたはずですが、しかし今回もしてやられた――と、もちろん大喜びしながらひっくり返った次第であります。
(そしてそんなシリアスなシーンの直後に、すっとぼけたギャグを投入してくる呼吸にも脱帽)


 そして後半に描かれるのはもう一人の柱、恋柱・甘露寺蜜璃。半天狗の四分身が合体して登場した第五の分身・憎珀天に圧倒される炭治郎たちの前に駆けつけた蜜璃は、たちまち柱の力を発揮して彼らの窮地を救うのですが――しかし分身といえども、攻撃力的には憎珀天は実質半天狗の本体であります。
 一瞬の隙を突かれ、憎珀天の攻撃をまともに食らった蜜璃は……

 と、この巻の表紙で笑顔で決めている蜜璃ですが、ビジュアル的にも、「恋」という謎の呼吸法的にも、そしてゆるふわなキャラ造形も、本作では明らかに異質なキャラクター(この巻のおまけページでもその面白キャラぶりはたっぷりと……)。
 一歩間違えれば賑やかしの色物になりかねないところですが――そんな読者の目をエピソード一つで変えてみせるのが、やはり本作の恐ろしいところであります。

 大ダメージを受けた彼女の走馬燈の形で描かれる回想――そこで描かれるものは、他の登場人物とは少々違う形ながら、やはり自分が自分として生きることができる場を求めて、鬼殺隊にたどり着いた者の真摯な姿にほかなりません。
 それは無一郎のそれとはあまりにベクトルの違うものではありますが、己の過去を背負い、それを乗り越えるべく懸命な者の姿を描いて、こちらの心を大いに揺り動かすのであります。


 さて、柱二人が奮起したとあれば、炭治郎たちも負けているわけにはいきません。蜜璃の援護の下、半天狗の本体を追う炭治郎たちですが――あまりのしぶとさに玄弥がブチ切れるほどの半天狗を倒すことができるのか。
 かなり長きに渡ってきた戦いだけに、そろそろ決着といってほしいものであります。


『鬼滅の刃』第14巻(吾峠呼世晴 集英社ジャンプコミックス) Amazon
鬼滅の刃 14 (ジャンプコミックスDIGITAL)

関連記事
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第1巻 残酷に挑む少年の刃
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第2巻 バディであり弱点であり戦う理由である者
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第3巻 ついに登場、初めての仲間……?
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第4巻 尖って歪んだ少年活劇
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第5巻 化け物か、生き物か
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第6巻 緊迫の裁判と、脱力の特訓と!?
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第7巻 走る密室の怪に挑む心の強さ
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第8巻 柱の強さ、人間の強さ
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第9巻 吉原に舞う鬼と神!(と三人組)
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第10巻 有情の忍、鬼に挑む!
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第11巻 遊郭編決着! その先の哀しみと優しさ
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第12巻 新章突入、刀鍛冶の里での出会い
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第13巻 物語を彩る二つのテクニック、そして明らかになる過去

| | トラックバック (0)

2018.12.31

このブログが選ぶ2018年ベストランキング(単行本編)

 今年の締めくくり、一人で選んで一人で発表する2018年のベストランキング、大晦日の今日は単行本編であります。2017年10月から2018年12月末発刊までの作品について6作品挙げます。

1.『童の神』(今村翔吾 角川春樹事務所)
2.『敗れども負けず』(武内涼 新潮社)
3.『大友の聖将』(赤神諒 角川春樹事務所)
4.『虎の牙』(武川佑 講談社)
5.『さよ 十二歳の刺客』(森川成美 くもん出版)
6.『恋の川、春の町』(風野真知雄 KADOKAWA


 第1位は角川春樹小説賞受賞に輝き、そして直木賞候補ともなった作品。平安時代を舞台に、鬼や土蜘蛛と呼ばれたまつろわぬ者たち「童」の戦いを描く大作であります。
 本作で繰り広げられる安倍晴明や頼光四天王、袴垂といった平安オールスター戦の楽しさはもちろんですが、何より胸を打つのは、自由を――自分たちが人間として認められることを求めて戦う童たちの姿であります。痛快なエンターテイメントであると同時に、胸を打つ「反逆」と「希望」の物語で。

 第2位は、昨年辺りから伝奇ものと並行して優れた歴史小説を描いてきた作者の収穫。上杉憲政、板額、貞暁――戦いには敗れたものの、人生において決して負けなかった者たちの姿を描く短編集であります。
 各話それぞれに趣向を凝らした物語が展開するのはもちろんのこと、そこに通底する、人間として望ましい生き様とは何かを希求する視点が実に作者らしい、内容豊かな名品です。

 そして第3位は、大友ものを中心とした戦国ものを引っさげて彗星のように現れた作者の快作。悪鬼のような前半生を送りながらも、周囲の人々の叱咤と愛によって改心し、聖人として落日の大友家を支えた「豊後のヘラクレス」の戦いを描く、戦国レ・ミゼラブルとも言うべき作品です。
 まさしく孤軍奮闘を繰り広げる主人公が、運命の理不尽に屈しかけた周囲の人々の魂を救うクライマックスには、ただ感涙であります。

 そして第4位は、これまた昨年から歴史小説シーン活躍を始めた新鋭のデビュー作。武田信虎という、これまで悪役として描かれがちだった人物の前半生を描く物語は、戦国時代の「武士」というものの姿を浮き彫りにして目が離せません。
 そして何よりも、その物語の主人公になるのが、信虎の異母弟である山の民――それも山の神の呪いを受けた青年――という伝奇味が横溢しているのも嬉しいところです。

 第5位は児童文学から。義経に一門を滅ぼされ、奇跡的に生き延びて奥州に暮らす平家の姫君が、落ち延びてきた義経を狙う姿を描くスリリングな物語であります。
 平家を単なる奢れる敗者として描かない視点も新鮮ですが、陰影に富んだ義経の姿を知って揺れる少女の心を通じて、人間性への一つの希望を描き出すのが嬉しい。大人にも読んでいただきたい佳品です。

 そして第6位は、文庫書き下ろしで大活躍してきた作者が、恋川春町の最後の日々を描いた連作。戯作者としての、そして男としてのエゴとプライドに溺れ、のたうち回る主人公の姿は、一種私小説的な凄みさえ感じさせますが――しかし何よりも注目すべきは、権力に対する戯作者の意地と矜持を描いてみせたことでしょう。
 デビュー以来常に弱者の側に立って笑いとペーソスに満ちた物語を描いてきた作者の、一つの到達点というべき作品です。


 さて、そのほかに強く印象に残った一冊として、操觚の会によるアンソロジー『幕末 暗殺!』を挙げておきます。書き下ろしのテーマアンソロジー自体は珍しくありませんが、本書はタイトル通り、幕末史を彩った暗殺を題材としているのが面白い。
 奇想天外な幕末裏面史として、そして本年も大活躍した歴史時代小説家たちの豪華な作品集として大いに楽しめる一冊です。


 というわけで、駆け足となりましたが、今年の一年をベストの形で振り返りました。もちろんあくまでもこれは私のベスト――決して同じ内容の人はいないであろうベストですが、これをきっかけに、この二日間採り上げた作品に興味を持っていただければ幸いです。

 それでは、来年も様々な、素晴らしい作品に出会えることを祈りつつ……


童の神

今村翔吾 角川春樹事務所 2018-09-28
売り上げランキング : 7281
by ヨメレバ
敗れども負けず

武内 涼 新潮社 2018-03-22
売り上げランキング : 60452
by ヨメレバ
大友の聖将

赤神諒 角川春樹事務所 2018-07-12
売り上げランキング : 101634
by ヨメレバ
虎の牙

武川 佑 講談社 2017-10-18
売り上げランキング : 337198
by ヨメレバ
さよ 十二歳の刺客 (くもんの児童文学)

槙 えびし,森川 成美 くもん出版 2018-11-03
売り上げランキング : 453951
by ヨメレバ
恋の川、春の町

風野 真知雄 KADOKAWA 2018-06-01
売り上げランキング : 322379
by ヨメレバ

関連記事
 今村翔吾『童の神』(その一) 平安を舞台に描く日本版水滸伝
 今村翔吾『童の神』(その二) 反逆と希望の物語の果てに
 武内涼『敗れども負けず』(その一) 様々な敗者の姿、そして残ったものの姿
 武内涼『敗れども負けず』(その二) 彼らは何故、何に負けなかったのか?
 赤神諒『大友の聖将』(その一) 悪鬼から聖将へ――戦国レ・ミゼラブル!
 赤神諒『大友の聖将』(その二) ただ大友家を救うためだけでなく
 武川佑『虎の牙』(その一) 伝奇要素濃厚に描く武田信虎・信友伝
 武川佑『虎の牙』(その二) 伝奇の視点が映し出す戦国武士の姿と一つの希望
 森川成美『さよ 十二歳の刺客』 人として少女が掴んだ一つの希望
 風野真知雄『恋の川、春の町』 現代の戯作者が描く、江戸の戯作者の矜持と怒り

 このブログが選ぶ2017年ベストランキング(単行本編)

| | トラックバック (0)

2018.12.22

「コミック乱ツインズ」2019年1月号(その一)


 発売でいえば2018年最後の、号数でいえば2019年最初の『コミック乱ツインズ』は、創刊16周年特別記念号ということもあってか、なかなかに充実の内容。『鬼役』を中心に、本誌の連載陣が並ぶ表紙はなかなか賑やかなのですが、その中には何とゲゲゲの鬼太郎の姿が……!?

『ゲゲゲの鬼太郎』(水木プロダクション)
 というわけで創刊16周年記念プレミアム読切として巻頭に掲載されるのは、まさかの『ゲゲゲの鬼太郎』の完全新作。それも、江戸時代を舞台とした歴とした時代ものです。
 八百屋お七の事件の直後から、江戸を騒がす奇怪な妖怪たち。訝しむ鬼太郎たちですが――その一方でねずみ男は骨女の術中に陥り、太郎坊なる存在の企みの片棒を担がされることになります。そして江戸に出現する巨大妖怪との死闘を経て、謎の太郎坊と対峙する鬼太郎ですが、思わぬ強敵の前に苦戦を強いられることに……

 というわけで、鬼太郎・目玉おやじ・ねずみ男・猫娘・砂かけばばあ・子泣きじじい・ぬりかべ・一反もめんと、鬼太郎一家総出の賑やかなスペシャルエピソードである本作。
 何の説明もなく鬼太郎たちが江戸で暮らしている辺りが実におおらかですが(さすがに鬼太郎と猫娘はどうなのかなあと思わないでもないですが)、しかし砂かけばばあが大家をしている通称おばけ長屋に彼らが住みついているという設定はなかなか楽しいところです。

 内容的には鬼太郎が意外と活躍していない(というかかなり苦戦)する印象があるのですが、それはそれで何となく「らしい」かなあといったところ。ちょっとアダルトな(?)方面で頑張った挙げ句に大変なことになるねずみ男の姿も実にオカチイのであります。
 何よりも、妖怪たちが普通に暮らしていた(?)時代における鬼太郎たちの姿はなかなか楽しく、また時代劇版の鬼太郎も見てみたいな、という気分になります。そしてまた、水木しげる先生の怪奇時代劇画の再録も……

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 隔月連載の本作、今回は、とある大店に奉公を始めたばかりの少年・栗吉の体に突然謎の痛みが生じたことを発端に、漢方医としての顔を持つ桃香が、思わぬ事件に絡むことになります。
 栗吉の体にびっしりと生じた黒い斑点を見て、血相を変えて栗吉の治療に当たる桃香の師匠・竹造。一方で桃香は、捨て子たちを引き取っては育てていると評判の栗吉の両親を調べに向かうことになるのですが……

 江戸で実際に起きたある事件を題材とした今回のエピソード。実に重い内容なのですが、それでも、作者の良い意味でマンガチックな絵に救われた印象があります(特に一見、鬼のような商人の素顔など……)。
 しかし悪い意味で驚かされるのは桃香の未熟ぶりで、クライマックスの展開に繋げるためとはいえ、さすがにこれはちょっとどうかなあ――という印象。以前の子供の神隠し事件といい、肝心なところでモヤモヤさせられる主人公であります。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 第3章というべき「秋霜の撃」編の最終回である今回。間部越前守の不正の証を手に入れるため、芝増上寺に潜入した聡四郎・玄馬・袖吉の三人ですが、その前に不気味な気配を漂わせる四人の墨衣の僧兵たちが……
 というわけで、思わぬ強敵との戦いから始まる今回ですが、これまで様々な敵が登場してきた本作でも、僧兵というのはおそらく初めて。ということは彼らが得物とする錫杖との対決も初めてということで、聡四郎と玄馬は思わぬ苦戦を強いられることになります。

 そしてその果てに聡四郎が手にした権力者の秘密――その内容もさることながら、それに対する聡四郎の処し方が、ある意味今回のクライマックスと言えるでしょう。そこで描かれるものは、権力を前にしていかに振る舞うべきかを悩んできた聡四郎の、一つの成長の証と感じられます。
 しかしそれはもちろん新たな戦いの始まり。権力に固執する白石は、ある人物と手を組むことを考え始めるのですが――と、ここで、シリーズの陰の主人公と言うべきあの人物(の顔)がついに登場、盛り上がったところで新章に続くことになります。

 その新章は4月号から、というのが残念ですが、今後の展開も楽しみであります(しかし、イメージしていたよりも善い人っぽい顔だったなあ……)

 ちなみに今号では16周年記念プレゼントということで人気作家サイン色紙プレゼントという企画があるのですが、本作の色紙に描かれた聡四郎のイラストがえらく格好良くて思わず応募したくなりました。


 長くなりましたので、次回に続きます。


「コミック乱ツインズ」2019年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年1月号[雑誌]


関連記事
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年6月号
 「コミック乱ツインズ」7月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」7月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年8月号
 「コミック乱ツインズ」2018年9月号
 「コミック乱ツインズ」2018年10月号
 「コミック乱ツインズ」2018年11月号
 「コミック乱ツインズ」2018年12月号

| | トラックバック (0)

2018.12.05

君塚祥『上海白蛇亭奇譚』 人間と妖の真の共存を求めて


 時は1927年、所は魔都「上海」――そこで茶館・白蛇亭を営む少女・花琳と、ちょっと変わった茶館の下宿人たちが、様々な妖絡みの事件に挑む連作漫画であります。

 先の大戦の後に列強が鎬を削る中で、自治権を持った都市として反映する「上海」。主人公・花琳は、白蛇亭の看板娘兼主人として忙しく働く毎日であります。
 上の階が下宿として貸し出されている白蛇亭で暮らすのは、女装タロット占い師の菫雲、引きこもりの画家のダリオ、いつも妖しげなガラクタばかりを買い込んでいる謎の男・壱岐島など変わり者ばかり。さらに常連の怪しげな伊達男・リチャードも含めて、ある意味この街らしい面々です。

 そんな白蛇亭に舞い込んでくるのは、この世の物ならぬ奇怪な事件の噂。恋する相手を求めて上海に現れた人魚のミイラ、街を騒がす怪火と幽霊屋敷の怪、小さな女の子の姿をした芸術の女神、人を吸い込む不思議なのぞきからくり――そんな事件を次々と解決していく花琳と壱岐島ですが、二人にはそれぞれ秘密があります。

 花琳は伝説の大妖・女カと人間の男の間に生まれ、強大な母の力を引き継ぐ半妖。そして鬼道に通じる壱岐島は、そんな彼女の監視役――失われた女カの力を巡り列強が暗躍する中、花琳たちは否応なしに巨大な運命の中に巻き込まれることに……


 「上海」と言われたら、「魔都」と頭に付けたくなるようなイメージがありますが、様々なフィクションの中に登場するそんな上海の中でも、本作はかなりユニークな印象があります。
 何しろ、この「上海」には世界各国の人間が住み着いているだけではなく、この世のものならざるモノたちも――そしてこの世のものならざる力を操る者たちも――様々に存在しているのですから。

 しかしその姿は、本作の暖かみのある絵柄――その最たるものは、主人公たる花琳のビジュアルだと思いますが――で描かれることで、恐ろしさや猥雑さというネガティブなイメージよりも、むしろ活力や陽気さというイメージを与えてくれるのがいい。
 妖しさもさることながら、全てを包み込むような懐の深さを感じさせてくれる――そんな印象があります。

 しかしそんな世界においても、人間と人間ならざる妖の共存――単に同じ世界にいるというだけでなしに――は、容易なことではありません。
 同じ人間同士が激しく争った、そして争い続けている世界において、生まれついての種や拠って立つ理を異にする者たちが共存することがどれだけ難しいか――それは我々の世界に存在する様々な伝説が証明しているといえるでしょう。

 さらに本作の中盤以降は、その人間と妖の関係性に加えて、人間と人間の争いの中に、妖たちが巻き込まれていく姿がクローズアップされていくことになります。

 何しろ本作の世界観の根底をなすルールこそが、白蛇協定――命を失い、引き裂かれてもなお強大な力を持つ女カの、すなわち花琳の母の遺骸を巡る列強の中立協定なのですから凄まじい。
 そして花琳もまた、その母の力を継ぐ者として、様々な者たちに狙われることとなるのであります(その中には、女カといえば――と言うべき者までもが紛れているのですから実にややこしくも面白い)。

 それでは人間と妖の真の共存は幻なのか――それは決してそうではないことは、花琳の存在自身が証明していることは言うまでもありません。単に彼女が人間と妖の間に生まれたというだけでなく、彼女の営む白蛇亭に集った人々と彼女の間に培われた絆の存在でもって……
 作者の作品では、比較的近い時代、近い設定の『ホムンクルスの娘』が思い浮かぶところですが、そちらとはまた異なる方向性の結末は、印象に残るところであります。


 もっとも、背景となる神話伝説がこの世のものである一方で、登場する国家名が架空のものに差し変わっているのが――例えば上海が存在するのは夏楠国、壱岐島の母国は倭国という設定――ほとんど全く機能していない点が残念ではあります。が、これはまあ置いておきましょう(理由も何となく察せられるところではあります)。

 全3巻と巻数は決して多くはないものの、それだけによくまとまった、人と妖の絆を描く愛すべき物語。本作はそんな物語なのですから……


『上海白蛇亭奇譚』(君塚祥 新潮社BUNCH COMICS 全3巻)



関連記事
 君塚祥『ホムンクルスの娘』 兵器として作り出された者たちの向かう先に

| | トラックバック (0)

2018.11.26

黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第15巻 闘いの獣、死闘の果てに


 ついに近藤が去り、どんどんと寂しくなっていく『PEACE MAKER鐵』。土方が絶望に沈む中も戦いは続き、この巻では大敵・伊地知正治とあの男が激突することになります。新選組十番隊隊長・原田左之助が!

 近藤を救うために宇都宮城で死闘を繰り広げた土方ら新選組の面々。一方、一度は野村利三郎とともに新政府軍の陣から脱出した近藤ですが、追いつめられた土方を救うため、自らの命を笑って投げ出すのでありました。
 近藤の死を知り、廃人状態と化した土方を献身的に世話する鉄之助ですが、しかし土方に復活の兆しはなく……

 と、地獄模様の中始まったこの巻の冒頭に久々に登場するのは、小せー人こと永倉。史実では決別したっきりの人間がこうして登場してくれるのは嬉しいところですが、しかし永倉とくれば、もう一人欠かすことができない男がいるはずであります。
(それにしても、永倉に解説されるまで、いま自分たちが何のために戦っていたかわかっていなかった鉄はマズすぎませんか)

 その頃、近藤の体を取り戻した野村に迫る、野村と近藤にとっては因縁の大熊(本当のクマ)。この野獣と、野村史上に残る激闘を繰り広げる野村ですが、しかし人間と熊ではあまりに分が悪い。彼が絶体絶命の状態に陥った時――凄まじい一撃が熊を貫いた!
 その一撃を放ったのは、誰であろう原田左之助。永倉と別れ、京に晒されていた近藤の首を一人奪取した彼は、今度は近藤の体を取り戻そうとしていたのであります。

 瀕死の深手を負った野村から、彼が近藤の体を取り戻してくれたと聞いて喜ぶ原田。しかしその彼の前に現れたのは、薩摩の豪勇・伊地知正治――白河城攻めを目前に控えながらも、原田の強さに魅せられた彼は、余人を交えぬ一騎打ちを望むのでした。
 かくてここに激突するは、ともに槍一本に命を賭けてきた武士二人。その決着の日は慶応4年5月17日……


 というわけで、新選組ファン、原田左之助ファンにとっては、日にちを見ただけで血が引きそうになるこの第15巻。斎藤改め山口と同じ力を持つ「きせきみの巫女」篠田やそが語る運命の日――5月17日と30日の、その一方がここに訪れることになります。

 原田は、史実ではこの時に彰義隊に加わり、上野戦争に参加したと言われますが――しかしその前後の足取りが今一つ定かでないことから、その後大陸に渡って馬賊となったという、何とも夢のある話が残っているのも有名でしょう。
 それが本作においては、近藤の体を取り戻すために北に馳せ散じるというのは、これもまた胸躍る展開ですが――ここで彼を迎え撃つのが伊地知というのがたまりません。

 この北上編の当初から、いかにも強敵、ボスキャラ然とした存在感を見せていた伊地知。史実では白河城攻めを指揮し、寡兵でもって大勝利を収めたことが知られていますが――寡兵も寡兵、たった一人で原田と戦っていたとは!
 この伊地知は幼い頃から片目片足が不自由であったと言われていますが、本作の伊地知はそれをハンデとも思わぬ怪物。特に片足の義足の中には二本の刃を仕込み、地に刺した槍を軸に回転大キックを放つとくれば、もうどこの世界の人間かわかりませんが――しかしそれがいい。

 重い展開が続く史実にぽっかりと開いた、いや強引に開いた隙間で描かれる豪傑二人のバトルは、これまでの鬱屈を吹き飛ばしてくれるような壮絶な名勝負。ともに戦闘狂の二人の戦いは、いつ果てるとも知れないマラソンバトルとなるのですが――しかしやはり史実は残酷、というほかありません。

 この物語の始まりから、一貫して脳天気で、豪快で、ある意味武士らしい武士として大暴れしてきた「死にぞこない」の原田左之助。そんな彼の姿が、死闘の中に現れるという「闘いの獣」を求めてきた伊地知に対してどう映ったか――それは言うまでもないでしょう。

 そしてその生き様は、人の生死を弄んでいる気になっている鈴ごときでは到底理解できないような、激しくも尊いものであったことも。


 ……そんな死闘が繰り広げられているとも知らず、泥酔してモブおじさんたちに路地裏に引っ張り込まれて着物をはだけられたり、相変わらず大変な土方は果たしていつ復活するのか。
 そしてもう一つの予言の日、5月30日を本作はどのように描くのか――まだまだ地獄は終わりませんが、しかしその中でも新選組の面々が、強烈な生の輝きを放ってくれることを期待したいのです。


『PEACE MAKER鐵』第15巻(黒乃奈々絵 マッグガーデンビーツコミックス) 

関連記事
 「PEACE MAKER鐵」第6巻 歴史への絶望と希望
 「PEACE MAKER鐵」第7巻 北上編開始 絶望の中に残るものは
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第8巻 史実の悲劇と虚構の悲劇と
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第9巻 数々の新事実、そして去りゆくあの男
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第10巻 なおも戦い続ける「新撰組」の男たち
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第11巻 残酷な史実とその影の「真実」
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第12巻 逃げる近藤 斬る土方 そして駆けつけた男
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第13巻 無双、宇都宮城 そして束の間の……
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第14巻 さらば英雄 そして続出する病んだ人

| | トラックバック (0)

2018.11.22

「コミック乱ツインズ」2018年12月号


 号数上は今年最後となるコミック乱ツインズ12月号は、単行本第1巻が発売となった『用心棒稼業』が表紙、巻頭カラーは『鬼役』であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介したします。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 前回、尾張藩主・徳川吉通が放った刺客団を自宅で迎え撃ち、壊滅させた聡四郎。しかし十数人もの死体はそこに残ったわけで、その後始末が――と、いきなり現実的な(?)問題が発生することになります。どうするかと思えば、聡四郎が声をかけたのは相模屋と西田屋。口入れ屋と女郎屋が淡々と遺体を処理していく姿には、政治経済の闇よりももっと深い闇を見てしまった気が……

 それはさておき、相模屋では聡四郎・伝兵衛・袖吉と紅さんを加えての作戦会議。再び家が狙われることがないようにするためには権が必要、しかし権を振るえばこれまで自分が戦ってきた権力亡者の仲間入りをしてしまうのではないか――それを恐れる聡四郎に、自分がいるから大丈夫、と笑顔で宣言する紅さんのヒロイン力が最高であります。
 そして袖吉が普請場で目撃した出来事から増上寺の霊廟に秘密があると察し、玄馬・袖吉とともに潜入した聡四郎を待ち受けていたのは4人の僧兵。思わぬ強敵を前に聡四郎たちは――というところで次回に続きます(にしても袖吉は情報収集の上に戦力にまで数えられていて真剣に有能過ぎです)。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視)
 周囲の腫れ物を触るような扱いに不満を募らせていたところに、宗桂にまで対局で手心を加えられ、本気で将棋を指すために江戸城を抜け出した十代将軍家治。相手を求めて足を踏み入れた将棋会所でそうとは知らずに家治にボロ負けした田沼勝助は、強い奴を連れてくると宗桂を呼びに行くのですが、事態はさらにややこしいことになっていて……

 と、ある意味時代劇では定番の、偉い人のお忍びが騒動を起こして――というエピソードである今回。なるほど、考えてみれば宗桂の本職は将軍の将棋の相手であるわけで、なるほどこういう話も本作ではできるのか、とちょっと感心いたしました。
 それにしてもヒロイン(?)お香の物理的なメチャクチャな強さにも驚きますが、やはり今回のハイライトは、家治にはこれまで秘め隠していた「本気」を宗桂が見せる場面でしょう。普段出せないその「本気」を描くために、今回のようなお忍びエピソードが必要だった――と思えば、実に面白い趣向であったと思います。


『カムヤライド』(久正人)
 待望の連載再開となった今回は、出雲編のエピローグ。前回、死闘の末に出雲の国津神・高大殿(タカバルドン)が封印された直後に起きた異変が描かれることとなります。

 土蜘蛛(国津神)を倒す力を持つ謎の剣で、モンコとヤマトタケルを助けた青年・イズモタケル。しかし高大殿が倒された直後、その剣が彼の腕と一体化し、その体の主導権を奪ってヤマトタケルに襲い掛かるではありませんか。しかしカムヤライド=モンコは強敵との戦いの果てに意識を失っており、戦えるのはヤマトタケルのみながら、彼の持つ弓・弟彦公では相手にトドメを刺すことはできません。イズモタケルは、敵を倒すために自分を殺してくれと願うのですが……

 仲間が敵に取り憑かれ、傷つけるわけにいかずに苦悩する――というのはヒーローものの定番パターンの一つですが、そのヒーローたるカムヤライドが戦闘不能となっていることで、さらに絶望的な状況となっている今回。ただ倒すだけでも大変なところに、イズモタケルの命を救うことができるのか、と大いにハラハラさせられるのですが――ここでヤマトタケルがもう一人のヒーローとして立ちあがるのが素晴らしい。
 考えてみればこの出雲編は、大和の王族である自分と、一人の人間である自分との間で悩みながらも、自分の道を――ヒーローであるモンコ、ある意味自分の鏡であるイズモタケルを通じて――ヤマトタケルが掴む物語でありました。だとすればその結末は、彼が決めるのは必然なのでしょう。

 本作のヒーローは一人ではないことを示してくれる、気持ちのよいエピソードでした(しかし活躍するたびに脱がされるヤマトタケル……)。


 その他、『用心棒稼業』(やまさき拓味)は初の連続エピソード。元鬼輪番・夏海の前に、とある藩に草として入り込んでいた彼の旧友にしてライバルが現れて――と、ただでさえ重いエピソードが多い夏海編でも、最も重い内容になりそうな、いや既になっており、次回が気になります。
 しかしその友のことを作中で「同鬼の友」と呼ぶのは、強烈に「らしい」……


「コミック乱ツインズ」2018年12月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年12月号[雑誌]


関連記事
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年6月号
 「コミック乱ツインズ」7月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」7月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年8月号
 「コミック乱ツインズ」2018年9月号
 「コミック乱ツインズ」2018年10月号
 「コミック乱ツインズ」2018年11月号

| | トラックバック (0)

2018.11.21

『忍者大戦 赤ノ巻』(その二) 時代小説ファンとミステリファンに橋を架ける作品集


 本格ミステリ作家たちによる忍者バトルアンソロジー『忍者大戦』の第二弾、『赤ノ巻』の紹介の後編であります。引き続き、収録作品を一作ずつ紹介いたします。

『月に告げる』(羽純未雪)
 信長に見初められ、側に侍ることとなった伏屋家の養女・清夜。口が利けない彼女は、召し出されるまで屋敷の奥の離れで侍女とともに静かに暮らしていたのですが――見張りと侍女が離れたほんのわずかな時間に、離れは血がしぶき、無惨に切り刻まれたモノが転がる地獄絵図と化していたのでした。
 実はその惨劇の背後に潜んでいたのは伊賀でも屈指の腕利きの女忍・紫乃。織田軍の侵攻により大切な人々を奪われた彼女が目論む復讐の行方は……

 本作は、この『忍者大戦』でも数少ない女忍を主人公とした物語。本書でも幾度か題材(遠景)となっている天正伊賀の乱に端を発する復讐譚ですが――それが全く思わぬ形で始まるのが面白く、その先の物語をより印象的なものにしていると感じます。
 とはいえ、紫乃の前に立ち塞がる敵の正体がすぐわかってしまうのは残念なところで、途中で語られる信長○○説の処理が至極あっさりしているのも勿体ないところではあります。


『素破の権謀 紅城奇譚外伝』(鳥飼否宇) 難攻不落の市房城を攻略せんとする梟雄・鷹生龍久に、自分ならば籠城した軍勢を城から誘き出してみせると語った元根来衆の素破・田中無尽斎。自らを含め僅か三人の手勢で向かった無尽斎は、底なし沼と広い堀に囲まれた城に巧みに忍び込むのですが……

 戦国の九州を舞台としたゴシック・ミステリともいうべき『紅城奇譚』――紅城に拠る鷹生龍政とその一族が、次々と奇怪な事件に巻き込まれていく姿を描いた物語の「外伝」と冠された本作は、その鷹生家の龍久に仕える素破を主人公とする物語。
 詳細を述べるわけにはいきませんが、次から次へと策を巡らせ、市房家を陥れていく無尽斎の姿には、一種のケイパーノベルの味わいがあります。

 ただ作中、*をつけて「好事家のための忍術解説」がこまめに入るのは、物語のテンポを削がずにトリックを解説する手段として面白いのですが、やりすぎに感じる方もいるのではないかな、という印象。
 また、ある意味本作の肝ともいうべき『紅城奇譚』との関連については――外伝は後に読んだ方がよいかな、とだけ申し上げます。


『怨讐の峠』(黒田研二)
 かつては周囲に一目置かれた腕前だったが、織田軍に眼前で最愛の妻を殺されて以来、無気力に生きてきた下忍・音吉。ある日上がった召集の狼煙に何ごとかと駆けつけれみれば、その場にいたのは服部正成――本能寺の変の発生に、三河へと逃れる家康の警護を求めていたのであります。
 自分には無縁の話と無視しようとしたものの、妻を殺した武士の首元にあった髑髏の形の痣が家康にもあることを知った音吉。彼は仇を他の者に討たせるわけにはいかないと、家康を護衛することを決意するのですが……

 本書の掉尾を飾るのは、これも天正伊賀の乱によって運命を狂わされた忍びの物語。伊賀忍者の功績として史上名高い神君伊賀越え秘話ともいうべき作品なのですが、これが幾重にも捻りが加えられた内容なのであります。
 突然服部半蔵に、つまり家康に頼られていい迷惑なはずが、思わぬことから仇と判明した家康を護る――護った上で自分が殺す――ことを決意した主人公の皮肉な立場がまず面白いのですが、そんな状況下で家康に襲いかかる敵との死闘の様も見所です。

 特にクライマックスは戦場、シチュエーションともちょっと珍しいもので、そんな中で殺したい相手を命がけで護るという音吉の苦闘ぶりが際だつのですが――しかし真のクライマックスはその先にあります。
 思わぬ形で明らかになった真実と、さらにその先にあったものとは――いやはや、その度胸といい狸ぶりといい、天下を取る人間は違う、と嘆息するほかありません。この先の物語も見てみたい、と思わされる結末であります。


 以上、忍者ものとしてもミステリとしても、前作『黒ノ巻』以上に粒よりの印象もある全6編。この巻もまた、極めてユニークな企画ながら、それだけに実に読み応えのあるアンソロジーであったと思います。
 是非また、このような時代小説ファンとミステリファンの双方を楽しませてくれる――そして双方に橋をかけてくれるようなアンソロジーを刊行してほしいと、切に願う次第です。


『忍者大戦 赤ノ巻』(光文社文庫)

関連記事
 『忍者大戦 黒ノ巻』(その一) 本格ミステリ作家による忍者大戦始まる
 『忍者大戦 黒ノ巻』(その二) 忍者でバトルでミステリで

 鳥飼否宇『紅城奇譚』 呪われた城に浮かびあがる時代の縮図

| | トラックバック (0)

2018.11.20

『忍者大戦 赤ノ巻』(その一) 再びの忍者ミステリアンソロジー


 本格ミステリ作家たちによる忍者バトル――そんなユニーク極まりないコンセプトのアンソロジー『忍者大戦』の第2弾であります。数少ない例外を除けば、忍者ものはおろか時代ものは初挑戦の執筆陣が、何を生み出すか――それを楽しみに、今回も一作ずつ収録作品を紹介いたします。

『殺人刀』(鏑木蓮)
 宮沢賢治を主人公とする歴史ミステリ『イーハトーブ探偵』をこれまでに発表している作者ですが、本作は一種の剣豪ものの味わいもある忍者ミステリというべき作品です。

 京の公家方から柳生新陰流に叩きつけられた挑戦状。絶対不敗を義務づけられた柳生を陰から守るために呼び出されたのは、密かに育成された新陰流「印」と呼ばれる苦人・集人・滅人・道人の四人であります。
 殺さずに内部を傷つける「くじき」により、試合の際に相手が実力を発揮できないようにしてのける彼らは、これまで同様に仕掛けるのですが――しかし相手が死体となって発見され、仕掛けた道人は柳生の名を辱めたと仲間たちから追われることに……

 五味康祐の柳生ものを彷彿とさせる味わいの本作は、懐かしの三年殺しを思わせる秘技「くじき」の存在を中核とした物語。殺さないはずの技で相手が死んだのは何故か、そして主人公・道人が狙われることとなったのは何故か――二つの謎を巡り、物語は展開していくことになります。
 その真相がちょっとバタバタしてしまった印象はあるものの、剣豪ファンには有名な史実と繋がっていくラストがユニークです。


『忍喰い』(吉田恭教)
 地獄のような飢饉の中で育ち、軒猿の里に拾われた源蔵。腕利きの忍びとなった彼は、くノ一の桔梗と結ばれたものの、彼を敵視する小頭に度重なる嫌がらせを受け、ついに彼を殺害、出奔することになります。
 そして越中に草として入っている桔梗の元に急ぐ源蔵ですが、彼を追うのは抜け忍狩りを専門とする謎の忍・忍喰い。これまで幾多の忍を葬ってきた敵と死闘を繰り広げた末、源蔵を待っていたのは……

 自由を求めて抜け忍となった源蔵と、追っ手の死闘が次々と繰り広げられる本作。源蔵も敵も必殺の忍術を操るものの、しかしそれはあくまでも人間技の範疇で、リアルな忍者たちの姿を描いた本作は、最も忍者同士のバトルが緻密に描かれた、ある意味最も本書のタイトルに相応しい作品かもしれません。
 残念ながら本作の謎ともいうべき部分についてはすぐに察しがついてしまうのですが、その果てに描かれるもの――地獄に生きた非情の忍びが最後に見せたもの、人間としての心情が切ない。それを以て瞑すべし、と言うべきでしょうか。


『虎と風魔と真田昌幸』(小島正樹)
 かつて懇意だった北条家の家臣から真田家に預けられた美女・さゆきを、上杉家まで送り届けることとなった出浦盛清。重臣からの側室の求めを断って逆恨みされ、風魔に狙われる彼女を守るため、盛清は伊賀の凄腕・横山甚吾らを雇い旅に出ることになります。
 しかし途中の宿で護衛役の一人の牢人が毒殺され、さらに峠で迫る風魔六人衆の一人・三久羅道順が。風魔との決戦の前に、なんと甚吾はさゆりを「消し」てみせるのですが……

 歴史もの、忍者もの、そしてミステリ――この三つの要素がきっちりと絡み合った本作は、個人的には本書でベストの作品と言ってよいのではないかと感じます。

 本作の舞台となる天正13年は、沼田の帰属を巡り、かつて従属した北条家そして徳川家と手を切って、上杉家に接近していた、第一次上田合戦が起きた年。本作はその時期に一人の女性を設定することで、他の大名家と非常に危ういバランスの間で綱渡りしてきた真田家の姿を浮かび上がらせます。
 そんな中で活躍するのは、本作のタイトルのトップに冠された「虎」こと伊賀の横山甚吾。信長に故郷を滅ぼされたものの、その代わりに自由を手に入れたフリーランスの忍者という設定の彼は、本作のような史実の合間に描かれる物語で活躍するのに相応しい、非情の忍びにして快男児とも言うべきキャラクターとなっています。

 そしてミステリ――一行のうちで唯一毒を見抜くことができない人物が、衆人環視の状況で狙われたように毒殺された謎、そして何よりも決戦目前の人間消失トリックと、本作を彩る二つの謎が、物語と有機的に結びついているのも心憎いところであります。
 結末のすっとぼけたようなオチも面白く、是非ともこの奇妙な三題噺の続編を読んでみたい――そう思わされる一編です。

 後半三作品は次回ご紹介いたします。


『忍者大戦 赤ノ巻』(光文社文庫)

関連記事
 『忍者大戦 黒ノ巻』(その一) 本格ミステリ作家による忍者大戦始まる
 『忍者大戦 黒ノ巻』(その二) 忍者でバトルでミステリで

| | トラックバック (0)

2018.11.12

賀来ゆうじ『地獄楽』第4巻 画眉丸の、人間たちの再起の時!


 不老不死の仙薬を求め、謎の孤島に送り込まれた十人の死罪人と十人の山田浅ェ門が繰り広げる戦いもいよいよ佳境。この島を支配する天仙たちの恐るべき正体とは、そして彼らに手も足も出ずに敗れ去った画眉丸たちの再起のチャンスは……?

 無罪放免を条件に送り込まれた死罪人の一人・画眉丸と山田浅ェ門佐切のコンビ。死罪人たちや怪物たちとの戦いの末、謎の少女・めいと奇怪な木人・ほうこと出会った二人は、ほうこから、この島が仙薬を持つ天仙なる存在に支配されていることを聞かされるのでした。
 そして仙薬を求めて単身動いた画眉丸は、件の天仙と対峙することになるのですが……

 しかし異常な回復力を持ち、不可視の奇怪な攻撃を放つ天仙にさしもの画眉丸も大苦戦。持てる力を振り絞ってようやく倒せたかと思いきや、奇怪な怪物となって復活した天仙の圧倒的な力にあわやのところまで追い詰められることになります。
 そして時をほぼ同じくして、他の死罪人、他の浅ェ門たちの前にも天仙が出現、次々と犠牲者が出ることになるのであります。


 ……と、思わぬ強敵の前に、惨敗することとなった画眉丸たち。如何に規格外の戦闘力と生命力を持つ彼らであったとしても所詮は人間、紛れもなく人外の天仙の力とは比べるべくもありません。

 この巻の冒頭で、めいの不思議な力によって辛うじて天仙から逃れた画眉丸の前に現れたのは、死罪人の中でもおそらくは最強の剣の使い手・民谷巌鉄斎。
 しかし人間としてはほとんど頂上レベルの画眉丸と巌鉄斎(対峙した際に、壮絶な読み合い=一種のイメトレを繰り広げるのが実に面白い)であっても、やはり天仙の前には及ぶべくもないのであります。……今は。

 想像を絶する強敵を前に手を組み、再び戦いを挑もうとする画眉丸と巌鉄斎ですが、しかし休む間もなく、天仙たちが差し向けた、島を徘徊する怪物たちの上位存在――知性を持ち、そして何よりも天仙と同様の力を操る「道士」が画眉丸たちに襲いかかることになります。
 そして彼らの口から、これまでその存在の一切が謎に包まれていためいの正体が明らかになるのですが……

 ここで語られるめいの正体から浮かび上がるのは、天仙がこの島で行っている所業の一端であり、何よりもめいがそこで背負わされた役割。そしてその悍ましさたるや、これに不快感を感じ、怒らなければ人間ではないというべき、というほどのものであります。
 この誰もが共感できる理由と想いが、非情の忍びであった画眉丸の魂にも(いや彼だからこそ)火をつけ、彼が立ち上がる場面は、間違いなくこの巻のクライマックス、本作きっての名場面と言うべきでしょう。

 が、怒りだけでパワーアップできるのであれば苦労はありません。道士の力に翻弄される画眉丸たちに対して、めいの口から、道士の、天仙の操る力の秘密が語られるのですが――その力は、画眉丸とはある意味正反対のものであることが明らかになります。
 同じ力を、同じ力の使い方を得れば、画眉丸にも勝機があるはずですが、しかし――いや、彼にもその力はあった!

 その力の詳細は伏せますが、画眉丸の中にある――彼の中に佐切が見出した――もの、彼の秘められた人間性を描くと思われたものが(それも物語の初期で描かれた)ものが、ここでパワーアップに繋がっていくのが実に熱い。
 この舞台設定(物語を貫く法則)と、キャラクターの精神的成長、そして物理的なパワーアップが直結する構造の巧みさには、ただ感心するほかありません。


 そして画眉丸とはまた異なる形でパワーアップを(あるいはその萌芽を)見せる死罪人と浅ェ門たち。さらに以前から登場が仄めかされていた者たちの参戦と新たなる浅ェ門の登場……
 と、ここに来て一気に「人間」側が盛り返してきた展開ですが、しかしこれでようやく天仙たちと戦うことが可能になった、というレベルでしかないのでしょう。

 この巻のラストではまた思わぬ展開が待ち受けているのですが、さてそこから物語がどう転がっていくのか――まだまだ予測不能の物語は続きます。

『地獄楽』第4巻(賀来ゆうじ 集英社ジャンプコミックス)

地獄楽 4 (ジャンプコミックス)

賀来 ゆうじ 集英社 2018-11-02
売り上げランキング : 517
by ヨメレバ

関連記事
 賀来ゆうじ『地獄楽』第1巻 デスゲームの先にある表裏一体の生と死
 賀来ゆうじ『地獄楽』第2巻 地獄に立つ弱くて強い人間二人
 賀来ゆうじ『地獄楽』第3巻 明かされゆく島の秘密、そして真の敵!?

| | トラックバック (0)

より以前の記事一覧