2017.03.23

唐々煙『曇天に笑う 外伝』下巻 完結、三兄弟の物語 しかし……

 アニメ化、舞台化、実写映画化と、本編終了から時間が経ってなおも盛り上がる『曇天に笑う』。その外伝である本作もアニメ化が決定とのことですが、物語はこの巻でいよいよ完結となります。。大蛇(オロチ)が滅んでもなおその力を弄ぶ人間たちに対して、曇三兄弟が最後の戦いを挑むことになります。

 かつて政府によって極秘裏に研究されてきた大蛇細胞。大蛇が倒されて以来、破却されたはずの研究が、今なお続けられている……人体実験の被験者と遭遇したことで、この忌まわしい事実を知ってしまった空丸と武田。
 兄・天火のような犠牲者を出さないため、実験施設の存在を探った二人は、そこで自分たちの上司であった「犲」の隊長・安倍蒼世をはじめとするメンバーが企てに関わっていたのを知ることになります。

 大蛇と戦うために存在してきた、そして誰よりも大蛇の脅威を知る蒼世たちの、裏切りにも等しい行為に衝撃を受ける二人。そんな二人と、同行する宙太郎と錦に襲いかかるのは、被験者の最後の生き残りである凶暴な男・虎。
 そして妃子とともに旅を続けていた天火も、(意外な人物から)一連の事件を聞かされ、空丸たちに合流すべく急ぐのですが――


 本編終了後に描かれる前日譚や後日譚という、文字通りの「外伝」としてスタートした本作。その後、中巻辺りから本作はその様相を変え、むしろもう一つの本編、「続編」とも言えるような内容で展開してきました。

 この大蛇細胞実験のエピソードに加え、さらに比良裏と三兄弟の前から姿を消した牡丹のエピソードまで並行して展開し、果たしてあと1巻で完結するのか……と中巻を読んだ時には感じたのですが、中巻よりも約100ページ増量となったものの、ここに大蛇細胞を巡る物語は完結することになります。。

 天火と蒼世との対決、空丸と蒼世との対決、空丸たちと黒幕の対決、空丸と虎の対決……バトルに次ぐバトルの果てに描き出されたのは、天火の跡を継ぎ、曇家の当主として、そして一人の剣士として空丸が立つ姿であります。

 この『曇天に笑う』という物語の本編において、曇家と大蛇の長きに渡る因縁には決着がつきました。その中で空丸の成長も描かれてはきたのですが――
 なるほど、空丸の天火超え、蒼世超えは明確には描かれなかったことを思えば、この外伝は「曇家と大蛇」の物語を踏まえたものでありつつも、「曇家の三兄弟」の物語、特に曇空丸の物語であったと言うべきなのでしょう。

 この巻に入ってからのバトルの釣瓶撃ちはまさにこれを描くためのものであった……そう感じます。

 もっとも、その中で描かれた空丸のある種異常な、危険なまでの捨身ぶり、さらにいえば宙太郎の強さへの想いについては、その先が描かれずに終わった感もあります。
 しかしそれは『曇天に笑う』とはまた別の――大蛇との戦いを描く物語とは離れた――三兄弟自身の物語ということになると思えばいいのでしょう。

 何はともあれ外伝も大団円。これまでの三兄弟の、周囲の人々の過去を振り返りつつ、その先の未来にも希望の光を感じさせる美しいエピローグとともに、本作は完結したのであります。
(以下、本作のある意味核心に踏み込みます)


 ――いや、比良裏と牡丹はどこへ行った?

 そう、本作において牡丹を探す比良裏は、この下巻冒頭でフェードアウト。物語が終盤に近づくにつれ、その不存在が気になって仕方がなかったのですが……まさかそのまま終わるとは。

 これは一体どういうことなのかしら……とさすがに考え込んでしまったのですが、どうやら二人の物語は、『泡沫に笑う』として完結する様子。
 外伝の外伝というのはちょっと驚かされましたが、大蛇に対する存在として、曇家に並んで比良裏と牡丹のカップルが存在することを思えば、この複線化はありえることなのかもしれません。
(この辺り、『煉獄に笑う』では両者の関係をうまくアレンジしていると思いますが)

 何はともあれ、ファンとしては最後までついていくしかありません。長きに渡る物語の最後の最後に何が描かれるのか……それが笑顔であることを疑わず、待ちたいと思います。

『曇天に笑う 外伝』下巻(唐々煙 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
曇天に笑う 外伝 下 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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 唐々煙『曇天に笑う 外伝』中巻 急展開、「その先」の物語

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2017.03.21

北方謙三『岳飛伝 三 嘶鳴の章』 そして一人で歩み始めた者たち

 北方大水滸の第三部たる本作も、開幕したばかりのこの巻において早くも大戦が展開。梁山泊にとっては怨敵である金国の大軍に対し、梁山泊の精鋭たちが挑むことになります。しかしその戦いの先にあるのは意外な展開……そしてその先では南宋が、岳飛がそれぞれ独自の動きを見せることになります。

 数々の痛手から復活しつつも、楊令時代とは異なり、聚義庁の明確な方針なく、各人にその向かう先が委ねられた梁山泊。そんな新・新梁山泊に戸惑う間もなく、兀朮と撻懶率いる金軍二十万が梁山泊に迫ります。

 対する梁山泊軍は八万、数こそ倍以上の差がありますが、しかし兀朮といえば間接的とはいえ楊令の死の原因を作った相手。これこそ仇討ちの好機と、勇躍迎え撃つのは、呼延凌・秦容・蘇琪・山士奇そして史進と、現時点のベストメンバーであります。

 そして繰り広げられる戦いはまさしく一進一退。正面からの激突あり、奇襲あり、探り合いあり、突撃あり……多大な犠牲を払い、ありとあらゆる手を尽くした後に、梁山泊はほぼ勝ちに等しい引き分けを掴むことになります。
(ここで最後の一撃となった攻撃が、全盛期の梁山泊的というか、実に痛快極まりないもので実にイイ)

 しかしこの時点で本書はまだ四分の一程度、これだけ見れば随分とあっさり終わったようですが、しかしある意味真の戦いはここから始まることになります。

 この機を捉えて、金に講和を結ぶ決定を下した梁山泊。その全権を任せられたのは宣凱……聚義庁に入ってまだ日の浅い若き文官であり、そして同様に金との交渉の最中に、父・宣賛を殺された青年であります。
 いきなり呉用からの指名でこの重責を担わされた宣凱は、悩み、苦しみ、恐れながらも、金国に乗り込んでいくことに――


 第3巻のMVPを挙げるとすれば、間違いなくこの宣凱ということになるでしょう。かつて父が命を奪われた金国に乗り込み、父の命を奪った相手と交渉に挑む。それもほぼ自分一人のみで。
 それを超人的な活躍で見事に成し遂げた彼には驚かされるばかりですが、しかし無事に帰ってきてから呼延凌に飲めない酒を飲んで絡む姿など、実に人間的な顔を見せるのも、楽しいところであります。

 そして、好むと好まざるとにかかわらず、一人で歩み始めた者は彼一人ではありません。

 恋に燃えて韓世忠の造船所で笛を吹く王清も、西域貿易の最中で慢心から思わぬ深手を負うことになった王貴も、そして何よりも、軍を退役して遠く南方の開拓に向かった秦容も――
 皆、一人ひとり、自分自身の考えで、これまでの梁山泊であれば考えられなかったような行動を取っているのです。

 しかしこれは言うまでもなく、前巻で語られた「志」の在り方、梁山泊の在り方と密接に関係するものであり……そしてそれはまた、これまで『水滸伝』『楊令伝』で描かれてきた物語の先にあるものであります。

 国を倒し、国を造ったその先にあったもの……それが個人個人の心の中にある自由、自主自律というべきものであった、というのはもちろん結論を急ぎすぎではありますが、現代の我々には非常に納得できるところではあります。
(そしてそんな国の在り方を模索していたと思われる楊令は、やはりあまりにも早すぎる人物であったとも……)


 しかしそれでも、一人では生きられぬ人々、土地とともに生きる人々は存在します。そしてそのために戦う者も。
 それこそが本作の主人公である岳飛ですが、彼は本書においても、一見マイペースな生き方を貫いているように見えます。
(兀朮にどうせ「つまらないこと」に燃えているのだろうと予想されたら、全くその通りだったのには思わず噴き出しましたが)

 一大勢力の長でありつつもフットワークが軽く、そしてどこかいじられキャラ的な彼の人物像は実に魅力的なのですが、しかしそれが彼の一面に過ぎないこともまた事実。
 これまではいわば雌伏の時であったわけですが……しかしこの巻のラストではいよいよ兀朮との戦が始まります。

 歴史を揺るがす戦いの行方は、そしてその中で明らかになるであろう岳飛の姿とは……こちらも注目であります。


『岳飛伝 三 嘶鳴の章』(北方謙三 集英社文庫) Amazon
岳飛伝 三 嘶鳴の章 (集英社文庫)


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2017.03.20

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』4月号の掲載作品の紹介の後編であります。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『エイトドッグス 忍法発見伝』(山口譲司&山田風太郎)
 木は森に、の例えの如く、現八が用心棒を務める吉原西田屋に隠れることとなった村雨姫と信乃。しかし敵もさるもの、半蔵配下のくノ一のうち、椿と牡丹が遊女志願を装って西田屋に現れます。
 現八はこれを単身迎え撃つことに――

 といってもここで繰り広げられるのは閨の中での睦み合い。しかしそれが武器を取っての殺し合い以上に凄惨なものとなりえるのは、忍法帖読者であればよくご存知でしょう。
 かくて今回繰り広げられるのは、椿の「忍法天女貝」、現八の「忍法蔭武者」、牡丹の「忍法袈裟御前」と、いずれ劣らぬ忍法合戦。詳細は書くと色々とマズいので省きますが、この辺りの描写は、まさにこの作画者のためにあったかのように感じられます。

 そして壮絶な戦いの果てに倒れる現八。原作を読んだ時は男としてあまりに恐ろしすぎる運命に慄然とさせられたこのくだり、あまり真正面から描くと、ギャグになってしまう恐れもありますが……
 しかし本作においては、前回語られたように村雨姫にいいところを見せるために戦いながらも、決して彼女には見せられない姿で死んでいくという悲しさを漂わせた画となっているのに、何とも唸らされた次第です。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 時代と場所を次々と変えて描かれる本作ですが、今回のエピソードは前回から続き、本能寺の変の最中からスタート。蘭丸を失った悲しみから鬼と化した信長は、変を生き残り(と言ってよいものか?)自我を失うことなく、怨みと怒りを漲らせながら、光秀とその血族に襲いかかることになります。
 それを阻むべく信長の後を追う、鬼斬丸の少年ですが、さしもの彼も鬼と化した信長には苦戦を強いられて――

 これまではどんな人物であっても、一度鬼と化せば理性を失い、人間を襲ってその血肉を喰らうしかない姿が描かれてきた本作。そんな中で、言動はまさしく「鬼」のそれであっても、明確に己の意志で動く信長はさすがというべきでしょうか。
 そして生前の彼を、この世に鬼を呼び込む怪物と見て弑逆に走った光秀もまた、その本質を正しく見抜いていたと言えますが……しかしそんな彼であっても、信長に家族が襲われるという煩悶から鬼となりかけるというのが哀しい。

 人が鬼を生み、鬼が鬼を生む地獄絵図の中、人がどうなっても構わぬと明言しつつも、その行動が結果的に人を救うことになる少年の皮肉も、これまで以上に印象的に映ります。
 そして物語はさらに続くことに――


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 父・輝宗を殺され、怒りに逸るままに力押しを仕掛けて失敗した政宗。今回はそんな彼が己を取り戻すまでが描かれることとなります。

 悲しみのあまりとはいえ、景綱ですら止められぬほどに我を忘れて暴走する政宗。その怒りは、必死に彼を止めようとする愛姫にまで向けられ……と、姫に刀を向ける姿にはさすがに引きますが、しかし何となく「ああ、政宗だからなあ……」と納得してしまうのがちょっと可笑しい。

 もちろんこの辺りの描写にふんだんにギャグが散りばめられていることもあるのですが、変にフォローが入らない方が、かえって人物への好感を失わないものだな、と再確認しました。


 その他もう一つの新連載は『よりそうゴハン』(鈴木あつむ)。長屋に妻と暮らす絵師が料理をする姿を通じて描く人情もののようですが、展開はベタながら、今回の料理である焼き大根、確かにおいしそうでありました。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年4月号 [雑誌]


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2017.03.19

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)

 今月もやってきました『コミック乱ツインズ』。今月号の表紙&新連載は、叶精作の『はんなり半次郎』であります。

『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
 というわけで京は御所近くの古道具屋「求善賈堂」を舞台とする本作。タイトルロールの半次郎はその店主、男名前ですが代々継がれている名であり、当代の半次郎は三十路半ばの女性であります。

 その求善賈堂に半次郎を訪ねてきた盲目の少年・幸吉。同じ古道具屋であった親を押し込み強盗に殺され、自分も視力を奪われた彼は、店から奪われた品物が求善賈堂に出たと聞いて、江戸からはるばるやってきたのであります。
 残念ながらその品は既に売れた後だったものの、事情を聞いた半次郎は幸吉に対してある行動に出るのですが……

 古道具の目利きにしてしたたかな商売人、剣の達人にして腕利きの蘭方医、そしてもちろん美女、といささか盛りすぎにも見える半次郎。
 しかしこの第1話では、銘刀を売りに来た武士とのやりとり、そして幸吉の目の治療と、流れるようにその特徴の数々を示してみせ、終盤にちょっとしたどんでん返しも挟んでみせるのは、さすが、としか言いようがありません。

 が、このコンビだと……と思った通り、間に入るサービスシーンが強引すぎて、いやいやいや、いくらなんでも! とツッコミを入れざるを得ません。それも期待されているのだとは思いますが、いかがなものかなあ。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治を舞台に日本の鉄道の曙を描く本作も、はや第3話。関西鉄道から官営鉄道に移籍することを決意した島安次郎は、同じ関西鉄道の凄腕機関手・雨宮にも移籍を持ちかけるのですが……もちろんというべきか、職人気質の雨宮が肯んじるわけがありません。
 そして時は流れ、いよいよ私鉄国有化の流れが決定的になった中、引退を目前とした雨宮の前に現れた島は――

 島と雨宮、管理運行側と現場という立場の違いはあれど、それぞれの立場から鉄道に深い愛情を注ぐ二人の交流を中心に描いてきた本作。
 島が雨宮を口説き落とせるかが今回の眼目ですが、ある意味お約束とも言える展開ながら、二人の真っ直ぐな想いが交錯し、そして合流する様はやはり胸を熱くさせるものがあります。

 雨宮の後継者たちの成長を示す描写も見事で、回を追うごとに楽しみになってきた作品です(そして今回もおまけページが愉快。確かにそれは難題だと思いますが……)。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 よく見たら表紙に「全10回」と記載されていた本作、今回は第8回ですので、ラスト3回ということになります。

 今回はまさしく決戦前夜といったところ、柳沢吉保・荻原重秀側からは絡め手の引き込みが、新井白石からは温かみの欠片もない命令と板挟みの状況を一挙に打開すべく、自ら虎口に飛び込むことを決意した聡四郎。
 しかしその聡四郎の役に立ちたいと無謀にも敵方の牢人の跡を付けた紅が――

 と、決戦に向けてどんどん盛り上がっていく……というより聡四郎が追い込まれていく状況。
 しかしこうして改めて見ると、紅の行動は今日日嫌われるヒロインのそれ以外のなにものではないのですが、不快感を感じないのは、これは画の力――有り体に言えば、紅が非常に可愛らしく描けているからに他ならないと感じます。

 改めて画の力というものを感じた次第です。


 以降、長くなりますので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
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2017.03.16

片山陽介『仁王 金色の侍』第2巻 彼が来る理由、彼が去る理由

 コーエーテクモの時代アクションゲームを原作とした漫画版『仁王』の第2巻であります。大事な「家族」を奪った男を追ってこの国にやってきた金色の侍ことウィリアム・アダムスの冒険は続き、ついに彼は徳川家康との対面を果たすことになるのですが――

 1600年、日本に漂着した異国船リーフデ号に乗っていた男、ウィリアム・アダムス。折しもこの国の各地に出没する魑魅魍魎を唯一倒す力を持つ彼は、服部半蔵正就に誘われて中津城を襲った魑魅魍魎と戦う中、自分の「家族」である精霊シアーシャを奪った男・ケリーの手がかりの一端を掴むことに……

 そんな第1巻を受けて物語も本題に入った印象もある本作ですが、ウィリアム――人呼んで「按針」――の戦いはまだまだ前途多難。石田方に助勢し、家康を狙うケリーと対峙する胃べく家康の元に向かうウィリアムですが、半蔵の口添えがあるとはいえ、家康に対面することは容易いことではありません。
 そしてここでウィリアムの人物を見極めるために現れたのは、家康に古くから仕える老将・鳥居元忠であります。

 1600年に鳥居元忠といえば、浮かぶのはただ一つの史実ですが、ウィリアムと元忠が出会ったのは6月の時点。しかし彼はこの先の運命を知るかのごとく、ウィリアムに対してビシビシと稽古をつけることになります。
 そしてその果てにようやく家康と対面したウィリアムですが、やがてついに開戦する東軍と西軍の決戦。そのいわば囮となった元忠を救うため、ウィリアムは伏見城へ急ぐのですが――


 というわけで、もっと史実に構わずガンガンいくのかな、と思いきや、意外と史実を押さえてきた展開の第2巻。
 そんなこの巻の陰の主役は、何と言っても鳥居元忠であるわけですが、家康との心の通じ合い方など、ベタではあるものの、味のあるキャラクターとなっている印象です。

 そしてここでのウィリアムとの交流が、彼を伏見城に向かわせる理由、そして彼を伏見城から退去させる理由として機能しているのも、堅実ながら好印象。
 そしてそれが、家康の側にいる必要はあるものの極端なことをいえば他人事、異国の戦である関ヶ原において、彼を戦わせる大きな理由付けとなっているのは巧みなところです。


 しかしこうした展開がしっかりしていると、逆に本作オリジナルの部分――というよりゲーム由来であろう部分が浮いてしまうのも事実。例えば物語の途中、信貴山城や本能寺といった地を舞台とした魑魅魍魎との戦いが入りますが、「ああ、ゲームのステージなんだなあ……」と感じてしまうところはあります。
 また、伏見城戦も人間との戦いがメインとなっているため、魑魅魍魎はもういらないんじゃないかな、という印象もなくはないのは痛し痒しですが……

 こうした点はゲームの漫画化としてプラスなのかマイナスなのかは悩ましいところですが、この辺りも含めて、いよいよ関ヶ原の決戦に突入する次の巻にも期待するとしましょう。


『仁王 金色の侍』第2巻(片山陽介&コーエーテクモゲームス 講談社週刊少年マガジンKC) Amazon
仁王 ~金色の侍~(2) (講談社コミックス)


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 片山陽介『仁王 金色の侍』第1巻 海から来た侍、その名は……

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2017.03.12

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、忍者ものの紹介の後編は、忍者ものに新風を吹き込む5作品を取り上げます。
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

21.『風魔』(宮本昌孝) 【戦国】【江戸】 Amazon
 後世にその名を知られた忍者の一人である風魔小太郎。本作は、颯爽とした男たちの物語を描いたら右に出る者がいない作者による痛快無比な忍者活劇であります。

 小田原の北条家に仕え、常人離れした巨躯と技で恐れられたという小太郎。本作はその逸話を踏まえつつ、しかしその後の物語を描き出します。
 何しろ本作においては北条家は早々に滅亡。野に放たれた小太郎は、豊臣と徳川が天下を巡って暗闘を繰り広げる中、自由のための戦いを繰り広げるのです。

 戦国が終わり、戦いの中に暮らしてきた者たちの生きる場がなくなっていく中、果たして小太郎たちはどこに向かうのか? 誰に縛られることなく、そして誰を傷つけることなく生き抜く彼の姿が本作の最大の魅力です。


22.『忍びの森』(武内涼) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 発表した作品の大半が忍者ものという、当代切っての忍者作家のデビュー作である本作は、もちろん忍者もの……それも忍者vs妖怪のトーナメントバトルという、極め付きにユニークな作品であります。

 信長に滅ぼされた伊賀から脱出した八人の忍者。脱出の途中、彼らが一夜の宿を借りた山中の廃寺こそは、強大な力を持つ五体の妖怪が封じられた地だったのです。
 空間歪曲により寺から出られなくなった八人は、持てる力の全てを振り絞って文字通り決死の戦いに挑むことになります。

 忍者の鍛え抜かれた忍術が勝つか、妖怪の奇怪な妖術が勝つか? 敵の能力の正体もわからぬ中、果たして人間に勝利はあるのか……空前絶後の忍者活劇であります。

(その他おすすめ)
『戦都の陰陽師』(武内涼) Amazon


23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 映画化された『完全なる首長竜の日』になど、SF作家・ミステリ作家として知られる作者は、同時に奇想に富んだ時代小説の書き手でもあります。

 川中島の戦で召喚され、多大な死をもたらしたという兇神・御左口神。武田の歩き巫女・小梅は、謎の忍者・加藤段蔵に襲われたことをきっかけに、自分がこの兇神と深い関わりを持つことを知ります。
 武田の武士・武藤喜兵衛(後の真田昌幸)とともに、小梅は兇神を狙う段蔵の野望に挑むことに……

 初時代小説である『忍び外伝』も驚くべきSF的展開を披露した作者ですが、本作も実は時代小説にとどまらない内容の作品。果たして御左口神の正体とは……これは「あの世界」の物語だったのか!? と驚愕必至であります。

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『忍び外伝』(乾緑郎) Amazon


24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道龍一朗) 【戦国】 Amazon
 忍者が活躍した戦国時代において、一際奇怪な存在として知られる飛び加藤こと加藤段蔵。本作はその段蔵を、悪人ならぬ悪忍として描いたピカレスクロマンであります。

 伊賀と甲賀の秘技を極めながらも、その双方を敵に回し、自分自身の力のみで戦国を渡り歩く段蔵。一向一揆で揺れる北陸を次の仕事場に選んだ段蔵は、朝倉家に潜り込むことになります。
 そこで段蔵の前に現れるのは、名うての武将、武芸者、そして忍者たち。そして段蔵にも隠された過去と目的が――

 強大な力を持つ者たちを向こうに回して暴れ回る段蔵の活躍が善悪を超えた痛快さを生み出す本作。ラストで明かされる、思わず唖然とさせられるほどの豪快な真実に驚け!

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『乱世疾走 禁中御庭者綺譚』(海道龍一朗) Amazon


25.『嶽神』(長谷川卓) 【戦国】 Amazon
 奉行所ものなどでも活躍する作者の原点が、「山の民」ものというべき作品群――里の人々とは異なる独自の掟と生活様式を持ち、山中の自然と共に暮らす人々の活躍を描く物語であります。

 そして本作はその代表ともいうべき作品。掟を破って追放された山の民・多十が、武田勝頼の遺児と、一族を虐殺された金堀衆の少女を連れ、逃避行に復讐に宝探しにと奮闘する大活劇です。
 殺戮のプロとも言うべき追っ手の忍者集団を向こうに回し、母なる大自然を武器として戦いを挑む多十。山の民殺法とも言うべき技の数々は、本作ならではの豪快な魅力に溢れています。

 様々な欲望が剥き出しとなる戦国に、ただ信義のために命を賭ける多十の姿も熱い名品です。

(その他おすすめ)
『嶽神伝』シリーズ(長谷川卓) Amazon


今回紹介した本
風魔(上) (祥伝社文庫)忍びの森 (角川文庫)塞の巫女 甲州忍び秘伝 (朝日文庫)悪忍 加藤段蔵無頼伝(双葉文庫)嶽神(上) 白銀渡り (講談社文庫)


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 「忍び秘伝」 兇神と人、悪意と善意
 「悪忍 加藤段蔵無頼伝」 無頼の悪党、戦国を行く

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2017.03.05

菊地秀行『人造剣鬼 隻眼流廻国奇譚』 もう一つの人間たちへのまなざし

 隻眼の剣豪・柳生十兵衛が、諸国を旅する中で様々な怪異と対決する「隻眼流廻国奇譚」の長編第2弾です。前作で十兵衛が対決したのは異国の吸血鬼でしたが、本作で彼の前に現れるのは、人間が造り出した人間――そう、あの「怪物」。それも恐るべき剣技を身につけた、まさしく剣鬼であります。

 とある田舎道場で容赦なく殺人剣を振るう魔剣士・蘭堂不乱、そしてその妹を名乗る謎の美女・富士枝と出会った十兵衛。
 それから数日後、刺客団に襲われた美女を助けた十兵衛は、彼女が遠丈寺藩の大目付の娘であることを知ります。藩主が進めるある計画を知った大目付は討たれ、彼女にも刺客が差し向けられたというのですが――

 その計画とは、死者の体を繋ぎ合わせた不死身の兵士を作り、幕府を転覆させるというもの。普通であれば到底信じられないようなとんでもない話ですが、しかしこの世ならぬ者の存在を知るのが十兵衛であります。
 一人遠丈寺藩に向かった十兵衛が見たものは、間近に迫った藩を挙げての武芸試合のため、全国から集まった腕自慢の群れ。

 しかも藩を訪れた中には、あの不乱が、その妹・富士枝が、そして二人を討つために追ってきた弟・賢祇の姿が――実は彼らもまた、人間によって作り出された者だったのであります。次々と襲い来る死人の剣に挑む十兵衛の運命は――


 冒頭に述べたとおり、前作の吸血鬼に続き、本作の題材となっているのは、かの「フランケンシュタインの怪物」――生命創造の妄執に取り憑かれたフランケンシュタイン博士が死体から生んだ怪物であります。
 あとがきによれば、本シリーズは作者がこよなく愛するハマー・フィルムの怪物たちのオマージュであるとのことですが、なるほど……とというチョイスであす。

 しかしこのある意味定番のホラーモンスターも、名手の筆に依れば、新たな命を得ることになります。
 本作で描かれる「怪物」は、それぞれに個性的かつ超人的な力を持つ三兄弟であり、そして奇怪な技によって生み出された死人武士団なのですから。そう、本作に登場するのは、まさしく人造の剣鬼の群れなのであります。

 実は宮本武蔵や益田四郎、柳生友矩が登場した前作に比べると、本作は十兵衛以外の歴史上の人物はほとんど登場しないのですが、しかしそれでも不足感がないのは、実にこの敵の陣容によるところが大きいでしょう。
 とにかく冒頭からラストまで、ほとんど絶えることなく剣戟また剣戟――十兵衛が、死人たちが、そして諸流派の達人たちが絶え間なく繰り広げる激突は、本作の大きな魅力であることは間違いありません。


 しかしそれと同時に、本作は実に作者らしいある問いを投げかけてくることになります。我々人間と「彼ら」と……一体両者のどこが異なるのか、と?

 確かに彼らは、人間の手により死体を繋ぎ合わせてこの世に生み出された醜い存在であり、そしてその多くは知性を持たないか、あるいは破綻したこころの持ち主ではあります。
 しかし――人間とそれ以外を分かつのは、生まれる手段なのか、外見の美醜なのか、正常なこころの有無なのか……?

 思えばフランケンシュタインの怪物の特異性は、吸血鬼のように人間とは別個の種族ではなく、人間が人間から、人間と同等の存在として生み出したという点にあるのではないでしょうか。
 だとすれば……そんな存在が人間らしく生きることを、扱われることを望むのを誰が咎められるでしょうか。

 デビュー以来、400冊という驚異的な作品を送り出してきた中で、そのほとんどで、人ならざるものを描いてきた作者。そしてまたその多くにおいて、作者はそうした存在に、優しいとも言える眼差しを向けてきました。
 その眼差しは、先に述べた問いかけとともに、本作においても健在であると感じます。

 もっとも、こうした要素はあくまでも味付けであり、過度に触れることは誤解を招くかもしれません。本作の基本はあくまでも時代伝奇小説であり、剣豪小説なのですから。
 その意味では本作はまず水準の作品という印象。前作よりもさらに人間味の増した十兵衛(囲碁シーンは実に可笑しい)のキャラクターも楽しく、肩の凝らない作品であることは間違いありません。。


 さて、隻眼流が次に挑む相手はいかなる怪物か……何しろ相手も多士済々、今から期待は膨らむのであります。
(しかし、何というか編集はもう少ししっかりチェックしていただきたいものではありますが――)

『人造剣鬼 隻眼流廻国奇譚』(菊地秀行 創土社) Amazon
人造剣鬼 (隻眼流廻国奇譚)


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2017.02.27

木原敏江『白妖の娘』第2巻 復讐という「意思」、それぞれの「意思」

 塚に封印されていた白い妖狐を巡り、復讐のために妖狐にその身を差し出した少女・十鴇と、妖狐を倒すために陰陽師となった青年・葛城直を中心に描かれる時代ロマンの続巻であります。妖狐の力で貴族たちの間に食い込んでいく十鴇がついに見つけた憎き仇。それは姉を弄んだ貴族で――

 都の貴族に捨てられた姉が首を吊り、父も悲憤のうちに亡くなった少女・十鴇。生きる気力を無くした彼女を救うため、直はかつて先祖が禁足地の塚に封じた妖狐「お塚様」の封印を解き、お塚様は十鴇の身に宿ることになります。

 妖狐に身を差し出す代わりにその力を借りて復讐を誓う十鴇と、妖狐を復活させたことを悔い、封印するために術道の修行に励む直。
 ともに惹かれ合い、想い合いながらも、敵対することとなった二人は、それぞれ京に向かうことになって――

 と、美しき復讐鬼として男たちを手玉に取っていく十鴇と、陰陽師として内に眠る力に目覚めていく直と、二人の主人公がそれぞれ京で本格的に動き出したこの第2巻。

 第1巻の紹介でも触れましたが、妖狐に憑かれた少女と陰陽師の若者を中心とする本作の物語のベースにあるのは、岡本綺堂の『玉藻の前』だと思われます。
 しかし本作は、この第2巻から決定的にそちらと異なる要素の存在を前面にしていくこととなります。その要素とは復讐――姉を奪った貴族と、そんな貴族たちによる社会に対する十鴇の復讐であります。


 お塚様の手引きで京に出るや、名門の御曹司である五葉織草を魅了し、貴族の世界への第一歩を歩み出した十鴇。宮中に出仕することとなった彼女が出会ったのは、憎き姉の仇・雲居小路内麿でありました。

 名門の出身であることを鼻にかけた放蕩三昧、咎められれば自慢の美しい涙でごまかしてしまう内麿(あの悪左府・頼長すら煙に巻いてしまうのだからすごい)。
 しかし、姉が養っていた少女・螢から、内麿の涙の秘密を知った十鴇は素性を隠して内麿に接近。織草、螢の力を借りて、恐るべき復讐を遂行することに――

 宮中での出世物語&復讐譚というのは、古今東西のエンターテイメントで枚挙がありません。その意味ではこの第2巻での展開も(そのあまりに鮮やかな復讐は、痛快ですらあるほど見事なものなのですが)、こうした物語の系譜に属する物語ではあります。

 しかし、ここで注目すべきは、十鴇の復讐という強烈な「意志」であります。そう、彼女はお塚様に憑かれながらも、あくまでも自分の意志を持って復讐しようとしているのです。

 実は、先に挙げた『玉藻の前』においては、ヒロインの意志は妖狐に奪われ(あるいは乗っ取られ)、ほとんど消滅した状態にありました。
 しかし本作の十鴇とお塚様は、明確に別の人格として存在し、互いを利用する関係にあります。すなわち、十鴇は単純に妖狐の哀れな犠牲者というわけではないのです。

 そしてその明確な「意志」の存在は、ひとり十鴇だけのことではありません。十鴇=妖狐を知りつつも彼女に寄り添い続ける織草、彼女に仕える螢――彼らもみな、自分たちの意思を持って、妖狐と接しているのです。
 彼女たちの意志の存在が、本作において希望なのか絶望なのか……それはまだわかりませんが、物語の方向性を左右する要素となるだろう、と言うことはできるでしょう。

 そして、彼女たちに意志があるということは、彼女たちが様々な過去を背負い、そこから生まれた想いを抱いた、「生きた」存在であることをも意味します。
 それはまた、彼女たち妖狐サイドの登場人物に限るものではありません。直はもちろんのこと、彼の後ろ盾であり織草の友人でもある藤原玄雪、そして内麿にすら、それぞれの人生の存在が浮かび上がるのです。

 それが本作の物語に、一層の陰影と魅力を与えていることは言うまでもありません。


 内麿への復讐を果たした十鴇。しかしそれは実はまだ始まりにすぎません。彼女の復讐の対象は、彼のような貴族の横暴を許す貴族社会そのものなのですから。
 己の意志でもってそれを為そうとする十鴇と、それを止めようとする直、そしてそれを見つめるお塚様……三者の物語はどこに向かうのでしょうか。

 「妖狐の物語」ではなく、「妖狐と人間の物語」としての姿をはっきりと見せた本作からは、もう目が離せません。


『白妖の娘』第2巻(木原敏江 秋田書店プリンセス・コミックス) Amazon
白妖の娘 2 (プリンセスコミックス)


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2017.02.25

片山陽介『仁王 金色の侍』第1巻 海から来た侍、その名は……

 実に13年前に第一報が出て以来、発売されることなく時は流れ、ついに今年発売に至った際には公式がネタにしたほどの(正直それはどうかと思いますが)ゲーム『仁王』。本作はその漫画版――日本に漂着した金毛碧眼の侍・ウィリアムと魑魅魍魎との戦いを描く物語です。

 時は1600年、徳川家康と石田三成の間の緊張が爆発寸前の頃に日本に漂着した一隻の異国船。「愛」を意味する名のその船に乗っていた金髪の大男・ウィリアムは、海に投げ出され、岸に漂着したところを、漁村の少女に救われます。

 折しも漁村は野武士の一団に蹂躙され続け、少女も、かつて彼らに逆らった父を殺されたという過去の持ち主。そして今また来襲した野武士に対し、ウィリアムが立ち上がる――

 と、この第1話の展開は、もはや懐かしいような典型的バイオレンスもののそれ。ヒャッハーな連中に蹂躙される弱き者を救うため、正体不明の来訪者が一人戦いを挑む……というあれです。

 しかし本作が独自の展開を見せ始めるのは、ウィリアムと野武士の長が激突した時からであります。
 常人離れした力でもって野武士たちを叩き伏せるウィリアムに対し、長が見せた奥の手。それはアムリタなる秘薬の力により、我が身を奇怪な鬼と変えることだったのです。

 しかしウィリアムにとってそれは、意外ながらも望んだ展開。実は彼は、そのアムリタを用いて他者を怪物とする者を追って、この日本にやってきたのですから。
 そして両者の戦いを見つめる忍び、その名も服部半蔵正就(!)の思惑とは――


 冒頭に述べたとおり、ゲームを原作としている本作。私は今のところゲームの方は未プレイですが、本作はそんな人間でも問題なく楽しめる(時折、これはゲームに登場する用語なのだろうな、というものはありますが、それも気にならず)、一個の作品として成立しております。

 何よりも気に入ったのは、主人公「ウィリアム」の存在。
 彼とその船の名、そして日本を訪れた年からすれば、彼が何者なのかはほぼ明らかですが、しかしまさかあの人物が――そもそも主人公になるのも珍しいのに――これほどのバイオレンス伝奇ヒーローになるとは! と大いに驚かされました。

 そしてその相棒的存在になるのが、部下にストライキを起こされたことで悪名高き三代目服部半蔵正就というのにも驚かされますが、本作の正就は、そうした史実とは無縁の、人間臭い若者として描かれているのが面白い。
 家康に仕えることは史実通りの彼ですが、その目的・信念は、ウィリアムのようなヒーローとはまた異なる、常人サイドのキャラクターとして描かれていると言えるでしょう。


 さて、この第1巻の後半では、正就に誘われて黒田如水・長政親子が守る豊前中津城を訪れたウィリアム(史実で彼が漂着したのは豊後なのでそれなりに平仄はあっている)が、城を襲う魑魅魍魎の群れと戦うことになります。
 この辺り、魑魅魍魎にまともにダメージを与えられるのはウィリアムのみ、という物語のルールを踏まえて、正就や長政たちが彼らなりの戦いを見せるというのは、なかなか面白いところであります。

 正直に申し上げれば、バトル描写、特に籠城戦のそれにはかなりガチャガチャした印象を受けるのですが、しかしこれまで述べたとおり、史実とのリンク、そして史実との違いが楽しく、それなりに楽しめる本作。

 この先ウィリアムの戦いが、日本にどのような影響を与えていくのか……ゲームとは独立した、もう一つの『仁王』の物語が描かれることに期待したいところです。


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2017.02.23

『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』3月号の感想の続きであります。

『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 今回は『そば屋幻庵』と同時掲載となった本作ですが、絵・物語ともその影響は感じられぬ確かなもの。いよいよクライマックス目前であります。

 新井白石からの催促が厳しく迫る中、柳沢・荻原サイドからの縁談という干渉を受けることとなった聡四郎。刺客だけでなく、こうした搦め手の攻撃というのが実に上田作品的ですが、追いつめられた聡四郎は、自らの身を囮に勝負を決意することになります。
 そして訪れた道場で待っていた師が聡四郎に語るのは……という今回、上田作品名物の師匠の説教が描かれるのですが、そこでの描写、具体的には聡四郎と対峙した師の放つ圧力の描写が素晴らしい。

 内容的にも聡四郎が己にとって真に大事なもの、剣を振るう理由を悟るというシーンだけに、重みのある描写は嬉しくなってしまいます。嬉しいといえば、聡四郎の頼もしい配下、いや仲間となる玄馬の初登場も嬉しいところであります。


『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 道節一世一代の香具師忍法により窮地を脱したかに見えた村雨姫と信乃。しかし服部忍軍の外縛陣がなおも迫った時、現れたのは……葭原は西田屋の遊女たちを連れた女郎屋の用心棒・現八でありました。
 姫と信乃を遊女の中に隠すという奇策でその場を脱出したものの、しかし服部のくノ一もまた葭原に――

 というわけで今回は嵐の前の静けさ的な会ではあったのですが、敵味方で美女美少女が入り乱れるのはこの作者らしい華やかな画面造りで印象に残ります。
 が、今回の最大の見所は、信乃、現八、そして合流した角太郎が、既に散った三人を偲びつつも、彼らを含めた自分たちが何のために戦うか再確認するシーンでしょう。

 忠義のために戦った祖先とは違い、ただ一人の女人にいいところを見せるためだけに戦う……その心意気が泣かせるのであります。


『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 自分の国を奪った男・多々羅玄地への復讐のために旅を続けてきた怨ノ介の物語も今回で最終回。自分の仇は既に亡く、その名を継いだ当代の玄地と対決というのは、ちょっと最後の対決として盛り上がらないのでは……と前回思いましたが、しかしそれこそが本作の恐ろしさ。
 既に怨念を晴らすための、そして生み出すための一種のシステムと化した多々羅玄地「たち」に対して、復仇という概念は意味はないのですから――

 しかしそれでは本当に怨ノ介の戦いに意味はないのか、という想いに、見事に応えてみせたクライマックスが実にいい。さらにそこから、数々の魔刀の中で何故怨ノ介の持つ不破刀のみが女性の姿を持つのかという、「言われてみれば……」という謎にきっちり答えを出してみせるのも泣かせます。

 なるほど彼にはこういう役割があったのね、という結末も微笑ましく、まずは大団円というべきでしょう。


『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 前髪立ちの少年・久馬を守る豪剣士・又蔵相手の仕掛のはずが、又蔵が自害してしまい……という「後は知らない」の後編。

 意外な展開から、真相を知った梅安たちの仕掛けが描かれることとなりますが、印象に残るのは、梅安と彦次郎、久馬と又蔵、そして悪人たちといった登場人物たちの感情の起伏の大きさであります。
 特に久馬と又蔵の絆、二人の武士としての矜持は、テンションの高い画風ならではのインパクトと言うべきでしょう。

 それを受け止める梅安の、姿はゴツいけれども口調は妙に丁寧なところも含めて、好みが分かれるところかもしれませんが、私はこの作者の「梅安」として、さらに突き詰めてもらいたいと感じているところです。


『コミック乱ツインズ』2017年3月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年3月号 [雑誌]


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