2018.07.16

「コミック乱ツインズ」2018年8月号

 今月の「コミック乱ツインズ」誌は、連載10周年記念で『そば屋幻庵』がスペシャルゲストを迎えて表紙&巻頭カラー。また、ラズウェル細木の『文明開化めし』が新連載となります。それでは、特に印象に残った作品を今回も一作ずつ紹介していきましょう。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今月は『そば屋幻庵』と二作掲載の作者ですが、こちらはいつもながらがらりと作風を変えたアクションと政治劇が満載です。

 前回自分たちを(前田家の人間と間違えて)襲撃した刺客たちの正体が、尾張徳川家の人間だったことを知った聡四郎。しかし何故尾張が前田家を襲うのか――その謎が今回明かされることになります。その背後には聡四郎に表舞台を追われたはずのあの男が……
 一方、江戸城内では間部詮房と新井白石が相変わらず対立とも協調ともつかぬ微妙な関係。鍋松(徳川家継)の服喪の儀に関して、詮房に知恵を貸して恩を売る白石ですが――ここで聡四郎の前で白石がほとんど初めて人間臭さを見せるのが印象に残ります。

 そしてラスト、玄馬と離れて一人となった聡四郎を襲う刺客の群れ。逃れんと橋の上を走る聡四郎の前に現れた黒覆面黒装束の謎の剣士は、初対面と名乗りつつも何故か一放流のことを知っているのでした。「お主を倒すのは拙者だ」とツンデレっぽいことを言いながら助太刀してくれるその正体は……
 ツンデレといえば紅さんは名前のみの登場で残念ですが、名前のみの登場といえば、ついに今回、徳川吉宗の名が登場。顔は陰になっていて見えないのですが、果たしてどのような姿なのか――猛烈に気になります。


『カムヤライド』(久正人)
 出雲編中編の今回、中心となるのは謎の男・イズモタケル。出雲国主ホムツワケの叛乱の尖兵となった土蜘蛛たちを倒す力を持つ彼の正体は――ヤマトタケルの大ファンでした(本当)。
 ヤマトタケルに憧れ、偶然手に入れた土蜘蛛を倒す力を持つ剣を手に、捕らえられた人々を助けたいと熱っぽく語るイズモタケル。そんな彼を前に、ヤマト王家の者としてその名に鬱屈を抱えるヤマトタケルはその名を名乗ることができず……

 モンコが完成された人格に見えのに対し、人間味のある、成長代のあるキャラクターとして描かれるヤマトタケル。自分の実像を知らず、理想の人物として目標にするイズモタケルを前に揺れる彼の心の動きを、ホムツワケの高殿に急ぐ三人のシルエットに重ねて描く場面は、実に作者らしく格好良い名シーンであります。
 そしてカムヤライドしたモンコの前に現れた国津神の意外な正体は、そして彼らの戦いを見守る久々に登場した謎の旅人の動きは――次回出雲編完結です。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 伊達家包囲網に苦しむ伊達家に襲いかかる佐竹・芦名連合軍。この危機に、政宗の母・義姫が――という前回の引きを受けての今回、母が自分のために動いてくれたと浮かれる政宗の姿が微笑ましくも痛ましいのですが、如何にドシスコンであっても最上義光が譲るはずもありません。かえって(シスコンをこじらせた)義光が動き出し、思わぬことで景綱と義光の陰険……いや知将対決が勃発することになります。

 が、そこに義姫が割って入り――と、史実の時点でメチャクチャ漫画っぽいエピソードをこの作品は如何に料理するのか。ある意味これまでで一番の山場かもしれません。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 東海道は川崎宿にやってきた三人組が今回巻き込まれるのは、大店の娘の連続誘拐殺人事件。宿の米問屋の娘の警護に雇われた三人ですが、はたして娘は何者かに攫われ、百五十両の身代金の要求が届けられることに……

 凶悪な拐かしと、米問屋の父娘の軋轢を絡めて展開する職人芸的面白さの今回、ここのところ重めの話が続いていただけにホッとさせられる内容が嬉しいところです。
 そして基本的にカッコイイ担当だった坐望は、今回夏風邪を押して賭場に出かけてスッテンテンになった挙句風邪をこじらせるという実に微妙な役どころなのですが、それを吹き飛ばすようにクライマックスの乱闘でもんのすごくヒドい啖呵とともに登場(つられて夏海もスゴいことを)。静かな殺陣が多い本作には珍しく、豪快な「音」入りの剣戟を見せてくれました。


 そして『そば屋幻庵』のスペシャルゲストは――この人が良さそうで腰が低くてものわかりがいい人は誰!? という印象。今の読者はわかるのかしら、というのは野暮な心配ですね。


「コミック乱ツインズ」2018年8月号(リイド社) Amazon


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2018.06.28

かたやま和華『笑う猫には、福来る 猫の手屋繁盛記』 宗太郎が得るべき世界、作るべき世界


 ひょんなことから巨大な白猫に姿を変えられてしまった青年・宗太郎が猫の手屋として奮闘する姿を描くシリーズも、順調に巻を重ねてこれで5作目。今回は過去の作品に登場したキャラクターたちが再登場、これまで以上に賑やかな一冊であります。

 酔っぱらって猫又の長老をふんずけたばかりに、巨大な白猫に姿を変えられてしまった遠――いや近山宗太郎。こんな姿では父母に迷惑がかかると家を出た彼は、裏長屋で困った人を助ける猫の手屋を開業し、人間の姿に戻るために百の善行を重ねるために奮闘の毎日であります。
 人間の頃は石部金吉だった宗太郎ですが、裏長屋で様々な人情、いや猫情や妖情と触れあううちにだいぶ丸くなり、成長した様子。それでもまだまだ彼の丸い手には余る事件があって――というわけで第一話「琴の手、貸します」は、宗太郎がお見合い騒動に巻き込まれることになります。

 寒い風が吹き始めた頃、珍しくも風邪を引いてしまった宗太郎。そんな時猫の手屋に、上野でちょっと遅い紅葉狩りにかこつけて行われる、大店同士のお見合いの立ち会いの依頼が入ってしまいます。
 体調不良でも、そして自分には無縁の世界の話でも、仕事はこなすのが猫の手屋――と頑張ろうとする宗太郎ですが、そこに琴姫が居合わせたことから騒動が始まります。

 シリーズ第三弾『大あくびして、猫の恋』の「男坂女坂」に登場した彼女は、大身旗本のお嬢様にして宗太郎の許嫁。姫君らしからぬアクティブな方ですが、何かの修行と称して消息不明(ということになっている)の宗太郎をいつまでも待ち続けるといういじらしい娘さんでもあります。
 それが思わぬ因縁で猫の手屋の宗太郎と知り合い、彼が許婚のなれの果てとも(たぶん)知らずにすっかり気に入ってしまった彼女がたまたま宗太郎の長屋に顔を出していたばかりに、今回の顛末となってしまったという状況であります。

 宗太郎が本調子ではないのを良いことに(?)、彼に成り代わって猫の手を、いや琴の手を貸すと変装して立ち会い役を買って出た彼女は、首尾よく見合いを終わらせたかに見えたのですが、それが騒動の始まりに……


 そんな愉快かつ微笑ましい第一話に続く「田楽の目、貸します」は、今度は宗太郎の「子」として猫の手屋になろうと奮闘する子猫・田楽の姿を描くお話。
 シリーズ第二弾『化け猫、まかり通る』の「晩夏」で、宗太郎に拾われた猫の孤児・田楽。そのエピソードで目の見えない大店の娘・お絹に飼われることになった田楽は、猫の手屋として彼女を扶けるべく、彼女の目の代わりになって、思い出の景色を再現すべく奔走することになります。

 そしてラストの「あすなろ」は、とある長屋の偏屈な観相師・あすなろ先生が次々と彫る木彫りの面――同じ長屋の住民たちに気味悪がられている――を何とか処分するよう依頼された宗太郎が、先生の抱える事情を知ることになるというお話であります。
 かつて愛妻を失い、残った息子を健康に育てようと思うあまり、かえって子供を苦しめ、家出させる過去を持っていた先生。その息子が猫の姿で帰ってきたと思い込んだ彼を、何とかなだめようとする宗太郎ですが、さらに幽霊騒ぎまで持ち上がって……

 と、どのエピソードも、シリーズでは既にお馴染みの鉄板ギャグ、天丼ギャグを交えつつ展開する、微笑ましくもほろ苦く、温かい物語ばかり。正直なところ、ものすごく斬新、という内容ではないのですが、しかし宗太郎という特異過ぎるキャラクターと彼が存在する世界観を交えることで、独特の味わいを生み出しているのは間違いありません。
 特に「あすなろ」の、白黒をきっちりとつけるのではなく、余韻を――余白を残した結末は素晴らしく、ある意味これまでの宗太郎であれば選べなかったであろう結末として、印象に残ります。


 そう、考えてみれば宗太郎が石部金吉であったということは、ある意味、他人と――周囲の世界に対して、頑なに己のやり方で接してきた、と言えるのではないでしょうか。本シリーズは、そんな彼が猫になり、猫の手屋となることによって、周囲の人々と共に生きることを学んでいく物語であると感じられます。

 考えてみれば本作に登場するのは「許嫁(すなわち将来の妻)」「子供」、そして他所様ではありますが「親」――人間にとって最もミニマムな「世界」であります。
 宗太郎が、果たしてこの先人間に戻って、この世界を得ることができるのか。そしてその時どのような世界を作るのか――楽しみにしたいと思います。


『笑う猫には、福来る 猫の手屋繁盛記』(かたやま和華 集英社文庫) Amazon
笑う猫には、福来る 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)


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2018.06.19

久賀理世『倫敦千夜一夜物語 あなたの一冊、お貸しします。』 この時代、この舞台ならではの本と物語のミステリ


 『英国マザーグース物語』や、先日ご紹介した『ふりむけばそこにいる』など、イギリスを舞台とした作品を得意とする久賀理世。その作者が、ヴィクトリア朝のロンドンで貸本屋を営むちょっと訳ありの兄妹を主人公に描く、優しく暖かく、時にほろ苦い連作ミステリであります。

 時は19世紀末――ライヘンバッハの滝に消えたホームズがいまだ帰還せず、読者たちを嘆かせていた頃。ロンドン郊外の町に、若く美しい兄妹――アルフレッドとサラが営む貸本屋「千夜一夜」がありました。
 ある事情を抱えて周囲には身分を隠して暮らす二人ですが、しかし無数の本に囲まれての暮らしはなかなか快適。そんなある日、幼い二人の弟を連れた青年貴族・ヴィクターが店に現れて――という形で、第1話「紳士淑女のタイムマシン」は始まります。

 ヴィクターは、弟が公園で友だちから聞いたという女の子と犬が冒険を繰り広げるという物語を探していたのですが――しかし本にかけては人並みならぬ知識を持つサラも、その内容には心当たりがありません。
 それでもヴィクターの語る内容に興味を引かれ、その本を探すサラ。そんな中、アルフレッドは乏しい手がかりから本の正体を見抜きます。さらに、そこに秘められたある事情までも……


 子供があやふやな記憶で語る内容というごくごくわずかな手がかりから、古今の物語にまつわる知識と観察眼、そして何よりも見事な洞察力で、本の正体という謎を解き明かしてみせるこの第1話。
 いや、本だけではなくその本の内容を子供に教えたのは誰か、さらにここでは一種の「信頼できない語り手」として機能する子供が、何故そのように語らなければならなかったのか――という更なる謎まで鮮やかに解決してみせる、その切れ味に驚かされます。

 しかし、それに勝るとも劣らぬほど魅力的なのは、そのあまりにも切なく悲しい真相と、それに対する暖かで優しい「裁き」であります。
 ここで白状してしまえば、そのくだりを読んだときには、思わずボロボロと涙が――いや、いい年して本当に恥ずかしいお話ではありますが、しかし単なる興味本位でもなく無機質でもない、本作ならでは心温まる謎解きとその語り口の見事さに、この第1話の時点でKOされてしまったのです。

 そして実はヴィクターとアルフレッドの間には浅からぬ因縁があったという意外な真実が語られ、さらにそこからアルフレッドとサラの抱える複雑で危険な事情、そしてそこから作品を通じて追いかけられるであろう謎が提示されるという構成の妙には、ただ唸らされ続けるほかありません。


 というわけでこの先の物語は、アルフレッドとサラ、そしてヴィクターを加えた三人を中心に展開していくことになります。
 ヴィクターがパブリック・スクール時代の図書室で目撃した不可思議な儀式にまつわる謎を描く「春と夏と魔法の季節」、ヴィクターたちの友人が謎めいた死を遂げた陰に、恐るべき邪悪な企みが蠢く「末の世とアラビア夜話」と、全3話で構成されています。

 第1話が優しく温かい味わいだとすれば、第2話はほろ苦く切なく、第3話は恐ろしくもひどく苦い――ここで描かれるのは、それぞれ本と物語を題材としつつも、全く異なる味わい。
 完璧超人のアルフレッドと、優しく聡明で、それでいて(それだからこそ)ちょっとニブいサラ、そしてそんな二人の間で一生懸命の「忠犬」ヴィクター――物語を彩るそんな三人の関係性も実に楽しく、読書と物語の楽しさを満喫させてくれる作品であります。

 そしてもう一つ、ヴィクトリア朝のイギリスの文化風物を、丁寧にかつ自然に物語に盛り込んでくれるのも嬉しい。特に店でサラが客に出す菓子の数々など、物珍しくも実においしそうで――この時代、この舞台ならではの空気感を作り出すのに、大きな役割を果たしていると感じます。

 ……そう、本作に詰まっているのは、この時代、この舞台ならではの物語。単純に舞台背景だけでなく、その独自性が物語に密接に結びつき、大いなる必然性をもってそこでは描かれているのであります。
 そしてその象徴となるのが、「本」であるのは言うまでもありません。

 (貸)本屋とミステリというのは最近の流行であるかもしれませんが、決してそれに乗ったわけでないと感じさせてくれる、本作ならでは、この作者ならではの物語――ミステリの形を取りつつ、読書の楽しみを思い出させてくれる「本」であります。


『倫敦千夜一夜物語 あなたの一冊、お貸しします。』(久賀理世 集英社オレンジ文庫) Amazon
倫敦千夜一夜物語 あなたの一冊、お貸しします。 (集英社オレンジ文庫)


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2018.06.18

「コミック乱ツインズ」7月号(その二)


 「コミック乱ツインズ」誌の今月号、7月号の紹介の後編であります。

『カムヤライド』(久正人)
 スタイリッシュなあらすじページも格好いい本作、今回は出雲編の前編。前回、瀬戸内海に現れた巨大触手型国津神にヤマトタケルが脱がされたりと苦戦の末、かろうじて勝利したモンコとタケル。どうやら水中では全く浮力が生じないなど謎だらけのモンコですが、しかし彼も何故自分がカムヤライドできるのか、そして自分が何者なのか、一年より前の記憶はないと語ります。
(今回の冒頭、意識を失ったモンコの悪夢の形でその過去らしきものが断片的に描かれますが――やはり改造手術が?)

 それはさておき、自分の伯父に当たる出雲の国主・ホムツワケが乱を起こしたと聞き、大和への帰還よりも出雲に急ぐことを選ぶタケル。それはなにも伯父への情などではなく、かつてホムツワケが出雲に追われたように、皇子でも油断できぬ魑魅魍魎の宮中で自分の座を守るための必死の行動なのですが……
 普段は相棒(というかヒロインというか)的立ち位置で明るいタケルの心の陰影を描くように、文字通り陰影を効かせまくったモノトーンの中に浮かび上がるモンコとタケルの姿が強く印象に残ります。

 と、出雲にたどり着いてみれば、やはりと言うべきかそこは土蜘蛛たちが蠢く地。しかしそこで二人を制止して土蜘蛛と戦おうとする男が登場。その名は――イズモタケル! 敵か味方か第二(第三?)のタケル、という心憎いヒキであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 鬼支丹編の後編である今回描かれるのは、前編で処刑された切支丹が変じた鬼を、祈りの力で消滅させたのがきっかけで正体がばれてしまった尼僧――実は金髪碧眼の盲目の少女・華蓮尼が歩む苦難の道であります。

 彼女を棄教させようと、その前で偽装棄教していた村人たちに無惨な拷問を行う尾張藩主。華蓮の悲しみと苦しみを知りながらも、俺は人間は救わない、華蓮も鬼になれば斬ってやると嘯く鬼切丸の少年ですが……
 それでも屈することなき華蓮と、彼女のために死にゆく村人たち。しかしその死が皮肉な形で(藩の側ではむしろ慈悲を与えたつもりなのがまたキツい)辱められた時、巨大な怨念の鬼が出現、少年の出番となるのですが――しかしそこでもまた、少年は華蓮のもたらした奇跡を目にすることになります。

 華蓮の出自も含めて、正直なところ内容的には予想の範囲内であった今回。その辺りは少々勿体なく感じましたが、無意識のうちに華蓮に母を重ねていた少年の心の揺れが描かれる終盤の展開はやはり面白いところです。
 しかしこの『鬼切丸伝』、本誌連載は今号まで。7月より「pixivコミック」にて移籍というのは実に残念であります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 ちゃんと続いていて一安心の本作、三人の過去回も一巡して、今回は通常の(?)エピソードですが――しかしただでは終わらないのが、らしいところであります。

 旅の途中、とある藩で追っ手に追われていた若侍・春之進を救った三人組。悪家老の暴政によって財政が逼迫した藩の窮状を江戸に訴え出ようとする春之進に雇われた三人は、多勢で襲いかかる家老の手の者から逃れるべく戦いを繰り広げるのですが……
 今回も、夜、雨の降りしきる山道という、特殊なシチュエーションで繰り広げられる殺陣が印象的な本作。一歩間違えれば漫画ではなく絵物語になりそうなところを巧みに踏みとどまり、無音の剣戟を展開するのはお見事であります。

 中盤で先の展開が読めてしまうといえばその通りですし、ラストはもう用心棒の仕事から外れているように思えますが、それでも納得してしまうのは、この描写力と、これまで培われてきたキャラクター像があってのことと納得であります。
(リアリストの海坂、人情肌の雷音、理想主義の夏海というのはやはりよいバランスだと、今更ながらに感心)


 その他、今月号では『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』単行本第2巻発売記念として、2Pの特別ショートマンガが掲載されているのが嬉しいところ。
 連載も終わり、寿司屋で静かに酒を酌み交わす島と雨宮の会話の中で、作品内外の雨宮のルーツが語られる番外編を楽しませていただきました。


「コミック乱ツインズ」7月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年7月号 [雑誌]


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2018.06.17

「コミック乱ツインズ」7月号(その一)


 早いもので号数の上ではもう今年も後半に突入した「コミック乱ツインズ7月号」。巻頭カラー&表紙を『鬼役』が飾り、シリーズ連載の『そば屋 幻庵』も久々に登場、小島剛夕の名作復活特別企画も掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介しましょう。

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 江戸で起きる子供たちの神隠しを題材とした「神隠し綺譚」の後編は、全編を通してのアクション編といった印象。人手不足を補うために子供たちを拐かしていた那珂藩に、やはり子供の頃に拐かされ、今はその手先となっていた男・清吉が、江戸で出会った女性・お律とその娘・お鈴のために改心、藩に殴り込みをかけることになります。

 その殴り込みの助っ人を買って出た桃香は、これまでの罪滅ぼしと、止めても聞かない清吉をフォローして、いかにも忍者らしい(?)火薬玉やらをフル装備で大暴れするのですが、しかしこの後、悲劇の連続。子供たちを救い出したはいいものの、清吉が、そして思いも寄らぬ人物までが――という容赦ない展開に驚かされます。
 さらに桃香も、子供たちを人質に取られて藩の追っ手の前にあわやの危機。もちろんそこは豪快な大逆転が待っているのですが――しかしそれにしてもこのような結末になるとは全く予想ができませんでした。

 結末に一抹の救いは残されているものの、これは明確に桃香の失態で、ちょっとどうなのかなあ――という印象は強くあります。


『薄墨主水地獄帖 狂気の夜』(小島剛夕)
 小島剛夕の名作復活特別企画第6弾は、薄墨主水の3回目の登場。この世の地獄をのぞいて歩くと嘯く主水が、今回も奇怪な人間模様に巻き込まれることになります。

 放浪の末に立ち寄ったとある城下町で、春の夜のそぞろ歩きを楽しんでいた主水。しかしそこで美しい女性・幾代と出会ったことがきっかけで、辻斬りに襲われることになります。実は辻斬りの正体はこの藩の若君・東吾、取り巻きとともに夜毎人々を殺めていた相手に刃を向ける主水ですが、家老が割って入ったことでその場は引くことになります。
 その後、宿を借りた寺で幾代と出会う主水。実は自分に横恋慕してきた東吾に夫を謀殺され、以後もつきまとわれ続けていた彼女は、夫の仇を取るためであればいかなる恥も辞さないと主水にその身を任せようとするのですが……

 冒頭の展開を見た時は、眠狂四郎の『悪女仇討』のような物語かと思いきや、手段は選ばぬものの、まずは貞女(といってもその手段には矛盾があるわけですが)であった幾代。作者の筆が浮き彫りにするそんなー彼女の美しさと危うさが印象に残ります。
 しかし本作はそれで終わらず、最後の最後に彼女のもう一つの表情を描くことになります。その表情を何と評すべきか――そこにも主水が求める地獄の一つがあったのかもしれません。

 それにしてもこれまで以上にキメキメの台詞を連発する主水。こういう皮肉めいた表現は本来は好きではありませんが、柴錬原作であったかと一瞬思うほどでありました。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 冒頭に述べたように、今回は『そば屋 
幻庵』も掲載している作者。しかしコミカルなあちらに比べて、こちらはあくまでもシリアスな展開が続きます。

 何者かに人違いで襲われたことを師匠に報告したら油断を説教されたり、白石から将軍家宣の墓所が増上寺となった裏のからくりを探れと無茶ぶりされたり、相変わらずの聡四郎。墓所の造営にかかる金の動きを知ろうと、久々に相模屋を訪れるのですが――はいお待ちかねの紅さんの登場であります。
 ここのところご無沙汰だったのにお冠の紅さん、あえて普通の武士に対するようなよそよそしい丁寧語を使ってくるのが、怒りの度合いと、それと背中合わせのいじらしさを感じさせるのですが――聡四郎の新たな傷を見て一転あんた馬鹿モードになるのもまた可愛らしいところです。

 しかしそれでももちろん戦わねばならない聡四郎、自分の「人違い」の裏に気付いた彼は、今度は玄馬をお供に再び襲撃してきた相手に大決闘。上田イズム溢れる言動を見せる刺客(ビジュアル的には普通のおじさんたちなのがまた哀愁漂います)を迫力の太刀で撃退して――さて敵の正体は、というところで次回に続きます。


 長くなりましたので次回に続きます。


「コミック乱ツインズ」7月号(リイド社) Amazon
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2018.06.14

賀来ゆうじ『地獄楽』第2巻 地獄に立つ弱くて強い人間二人


 不老不死の仙薬を求め、孤島で繰り広げられる死罪人たちと山田浅ェ衛門たちのデスゲームを描く死闘絵巻、待望の第2巻であります。死罪人同士の潰し合いがエスカレートする中、ついに牙を剥く島に潜むモノたち。誰が味方で誰が敵かもわからぬ混沌の中、画眉丸と佐切の戦いの行方は……

 不老不死の仙薬が眠ると言われ、極楽浄土とも呼ばれる南海の孤島。しかし幕府が送り込んだ調査隊は一人を残して全滅、その一人も植物とも生物ともつかぬ奇怪な存在に変化していたのであります。
 そこで幕府が新たに送り込むこととしたのは、いずれも恐るべき力を持つ十人の死罪人。それぞれ一人ずつの山田浅ェ衛門――首斬り浅ェ衛門の名を許された門弟たち――を監視役としてつけられた彼らは、無罪放免と引き替えに「極楽浄土」に送り込まれたのです。

 しかしいずれも凶悪な死罪人たちが、黙って命令を受け入れるはずもありません。死罪人同士殺し合う者、浅ェ衛門に襲いかかる者――そんな中で、本作の主人公たる最強の忍び・がらんの画眉丸と山田浅ェ門の娘・佐切も、時に互いに刃を向けあう危ういバランスで結びついた状態で先に進むことになります。

 そんな中、突如現れたのは奇怪な怪物――人間を花に変える毒を持つ蟲たちや、神や仏をグロテスクに真似たような巨人たちこの世のものとは思えぬような怪物たちの群れとの戦いを余儀なくされる二人ですが……

 不老不死の秘薬と自由という、ただ一人しかたどり着けないゴール目指して始まった死罪人たちのデスゲーム。しかしこの第2巻で描かれるのは、彼らの敵は同じ死罪人(あるいは監視役の山田浅ェ衛門たち)だけでないという恐るべき事実であります。

 人間同士であれば幾人殺してもケロリとしているような死罪人たち――人間社会においては怪物と言うべき彼らですが、しかし本物の怪物と出会ったとしたら?
 人間社会からはみ出した死罪人という怪物と、自然界の法則を逸脱したような異形の怪物――いささか悪趣味かもしれませんが、その戦いには、やはり強く目を引きつけられます。

 そんな地獄めいた世界ですが、しかし送り込まれたのは面々のしぶとさは尋常ではありません。
 画眉丸と佐切の前に現れ、ひとまず手を組むこととなった全く油断ならぬ死罪人のくノ一・杠。実は山田一門に潜入した弟と仙薬獲りに動き出した賊王・亜左弔兵衛。一度は島を抜けようとした際の死闘で心を繋い山の民のヌルガイと山田浅ェ門典坐(さらに、前巻であっさり死んだかと思われた二人も)……

 いずれ劣らぬ強者揃い――ひとまず休戦した者、元々グルだった者、新たに絆を結んだ者と様々ですが、しかし戦闘力だけであればそうそう不覚を取る面々ではありません。
 ……が、そんな中でただ一人、己の本能のみで動き回るのが、死罪人の中でも最大の巨体を持つ備前の大巨人・陸郎太。自分の浅ェ門を文字通り粉砕した彼が、画眉丸と佐切の新たな敵として立ち塞がることになります。

 しかし佐切はその前の怪物たちとの戦いで傷を負い、他の浅ェ門からは戦力外通告を受けた状態。そもそも、この島に渡った後に画眉丸と対決した際に、既に彼女は惨敗を喫しているのであります。
 そもそも人を斬ることに対して、深い屈託を抱えてきた佐切。それでは彼女は弱いのか、弱肉強食のこの島の理の前に屈するしかないのか――答えは否であります。

 ここで描かれるのは、彼女の持つ「強さ」とは何か――その在り方は、そしてその源は何なのか、その答えであります。
 そしてそれは、かつては無敵でありながら、今は人を殺めることに迷いを抱く画眉丸の「弱さ」と、一対のものであることは言うまでもありません。その「強さ」と「弱さ」を繋ぐものが、「人間性」であることもまた。

 そんな弱くて強い人間二人が、共通の敵のために力を合わせる展開に胸が熱くならないわけがありません。今ここに二人は真の相棒としてこの地獄に立つことになったのですから……

 そして死闘の果てに現れた、この島の新たな顔。果たしてそれがこの地獄の謎を解き明かす鍵となるのか――まだまだ先は見えません。そしてそれはもちろん、こちらの楽しみが尽きないということでもあります。

 今はただ、画眉丸と佐切が戦いの果てに、己が掴みかけたものの、その先を見ることができるように祈るのみであります。

『地獄楽』第2巻(賀来ゆうじ 集英社ジャンプコミックス) Amazon
地獄楽 2 (ジャンプコミックス)

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2018.06.12

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第11巻 遊郭編決着! その先の哀しみと優しさ


 ついにアニメ化決定、連載中の新章も絶好調と、脂の乗り切った状態の本作。この第11巻では、ついに真の姿を現した上弦の陸と、炭治郎・善逸・伊之助そして宇髄の死闘の決着が描かれることになります。長い長い戦いの末に生き残った者は、そしてそこに残ったものは……

 遊郭に潜む鬼を求め、宇髄の指揮の下に潜入した炭治郎たち三人。はたしてそこに潜んでいたのは遊女に化けた上弦の陸・堕姫――彼女に単身挑む炭治郎は、禰豆子の助けもあって、宇髄が駆けつけるまで奮闘を続けます。
 しかし堕姫の中から現れたのは、もう一人の、そして真の上弦の陸・妓夫太郎! 堕姫の兄であり、彼女を遥かに上回る戦闘力を持つ相手に宇髄も大苦戦、善逸と伊之助が駆けつけても、圧倒されるばかり。桁外れの相手に徐々に追いつめられていく四人の運命は……

 前巻の紹介でも述べましたが、とにかく戦いの長さと敵の底知れぬ強さに驚かされるばかりだったこの遊郭編。堕姫一人にあれだけ苦戦したと思いきや、さらにもう一人、それ以上の力を持つ妓夫太郎が出現というのは、もう反則と言いたくなるほどであります。
(特に妓夫太郎の攻撃手段が、一撃くらったら即死の猛毒というのがズルい)

 何しろ堕姫戦が始まったのは第9巻から。それからこの第11巻のほとんど全てを使ってようやく決着がついたのですから、その戦いの激しさを思うべし。
 読んでいるこちらも大変だったのですから、戦っている方はもっと大変だったに違いない――という変な感想はさておき、雑誌連載を追っていた時は、まだ続くのか、今度こそ誰か(具体的には宇髄)死ぬんじゃないかと最後の最後までひたすらハラハラさせられ通しでありました。

 それでも飽きることなく読まされてしまう――雑誌連載時でもこの単行本でも――のは、やはり刻一刻変わっていく状況を巧みに捉えて描いてみせる画の力が一つ。
 そしてそれ以上に、戦いに加わっている者たちの感情の揺れを掴み、読者の心に叩きつけてくる人物造形と描写の妙によるところが大きいと感じます。

 特にこの戦いの終盤――鬼殺隊側がほとんど全滅状態となった中からの大逆襲は、それまでの絶望が大きかっただけに、それでもなお立ち上がり、突っ走る面々の気合いがビビッドに伝わってくる名シーン。
 いかにも少年漫画らしい展開ではありますが、やはりこちらが見たかったものをきっちりと見せてくれるのは、実に気分のいいものであります。

 しかし、この巻において描かれるものは、戦いのみではありません。戦いがようやく終わった後――その後にこそ、本作の本作たる所以の物語が待ち受けているのですから。
 死闘の末についに倒れた妓夫太郎と堕姫。首を断たれ、もはや崩壊を待つのみの状態で、敗北の責任を擦り付けあう二人の前に立った炭治郎の行動とは、言葉とは……

 本作の主人公である炭治郎の魅力は、その心身の強さだけではありません。彼を彼たらしめるものは、その優しさ――憎むべき鬼すら、その最期において悼んでみせる、その想いの広さであります。
 これまで幾度も炭治郎の優しさに泣かされてきたものですが――今回もその優しさ、というよりそれを媒介して描かれる妓夫太郎と堕姫の過去がこちらの心に響くのです。

 遊郭で生まれ、育ち、鬼と化した二人。その彼らの過去に何があったか?
 その詳細は伏せるとして、決して許せぬ彼らの所業をこれまで嫌というほど目にしてなお、彼らに対する悲しみを覚えるほどの内容であることは間違いありません。
(それにしてもこの回想シーン冒頭、堕姫の本名とその由来が明かされた時には、頭を一撃されたような衝撃を感じたものです)

 彼らの所業に共感することはできません。しかし何故彼らがそうせざるを得なかったのか――それを理解することはできます。
 炭治郎の真っ直ぐな瞳を通じて、人でいられなかった鬼たちの悲しみを描いてきた本作は、ここでもそれを鮮烈に浮き彫りにしてみせるのであります。

 ……と、そんな感動をもたらす一方で、あんまりといえばあんまりな描写で笑いを取ってくる振れ幅のとんでもない大きさも、本作の油断のならないところ。
 その一方でラストでは鬼の首魁・鬼舞辻無惨の居城に舞台が移り――と、そこで猗窩座が登場する時点で変な笑いがこみ上げてくるのですが、それはさておき――まだまだこの先も盛り上がりは続くのであります。

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2018.05.25

君塚祥『ホムンクルスの娘』 兵器として作り出された者たちの向かう先に

 昭和9年、軍の秘密機関・洩矢機関への所属を突然命じられた青年・羽田九二郎。未来を予言するという宗教団体に潜入することとなった彼は、そこで水中の中で眠る少女・月子と出会う。かつて洩矢機関から奪い去られた「呪物」の一つ、ホムンクルスであった月子を守りつつ、怪事件に挑む九二郎だが……

 昭和初期という時代、そして軍という組織には、何があってもおかしくないというムードがあるのでしょうか、しばしば伝奇ものの題材となっている印象があります。
 まさにその直球ど真ん中である本作に登場するのは、第11帝国陸軍技術部研究所特務・洩矢機関。様々なオカルト的な存在「呪物」を収集し、その軍事利用を目指すという、実に怪しげな秘密機関であります。

 そんな本作の舞台は、浅草に浅草十三階が聳える(!)昭和9年。その浅草で破落戸同然の暮らしを送っていた青年・羽田九二郎が、その洩矢機関にスカウトされたことから、この物語は始まります。
 何もわからぬまま、ほとんど拉致同然に突然機関に加わることとなった九二郎。彼の運命は、初任務である宗教団体への潜入でホムンクルスの娘・月子と出会ったことで、大きく動き出すことになるのであります。

 ホムンクルス――科学や呪術によって作り出された人造人間。科学者であった九二郎の祖父・九太郎によって作り出されたという月子は、かつて何者かの手によって他の「呪物」同様に機関より奪い去られていたのです。
 機関のトップシークレットでありその記憶と力の一部を失なった月子を、地霊を操る鬼道使い・火ノ島、古の水神の血を引く阿曇ら機関の先輩たちとともに守ることとなった九二郎。やがて彼らは、呪物を奪い、様々な能力者を集めて奇怪な事件を次々と引き起こす怪人党なる一団と対峙することになります。

 月子を執拗に狙う怪人党の真の狙いは何か。失われた月子の記憶の正体は。そして何の能力もないにもかかわらず、何故九二郎は洩矢機関にスカウトされたのか。
 数々の謎を秘めた物語は、やがて浅草十三階でカタストロフィを迎えることになるのであります。

 予言者やくだん、帝都地下の大空洞といったガジェットの数々、そして様々な異能を持つ能力者を散りばめて展開する本作。
 九二郎・月子・火ノ島・阿曇の四人が異能を武器に怪事件に挑むその様は、一種の特殊チームものとも言えますが、物語そのものの背景となるのが、彼らの母体である洩矢機関であることは言うまでもありません。

 しかしそこに所属する主人公たちが、人々を苦しめる怪事件解決のために活躍するとはいえ、やはり「呪物」の軍事利用というのは如何にも怪しく、そのためには人体実験、さらにはホムンクルスの製造までを行っていたといれば、到底「正義」の機関とは思えません。
 そもそも九二郎は破落戸同然だったとはいえ、一本気で正義感の強い、昔気質の若者。成り行きから機関に加わり、月子を守ることになった彼が、機関の本来の行動に賛同するはずもないのであります。

 もっともそのあたりの相克が意外と表に出てこないのが少々残念ではありますが、しかし物語が、機関に作り出された存在同士――兵器として作り出され、利用されてきた者たち同士の戦いとなるのはある意味当然の帰結と言えるでしょう。
 そして最終的に、その最たるものとも言うべき月子を中心として物語が展開するのもまた……

 果たして「その時」九二郎が何を語り、何を選ぶのか――そこで本作のタイトルを今一度振り返る時、何ともいえない想いが湧き上がるのであります。

 単行本全2巻と、正直なところ分量としては多くない本作。呪物等の題材は様々にあったであろうことを考えると、もっともっと描けたのではないかと、いささかもったいなく感じます。
 しかし、戦争・軍隊と伝奇というある意味マクロな題材を描きつつ、「人間」とは何か、その幸せとは何かというミクロな物語を織り上げてみせた結末としては、これ以外のものはないでしょう。

 解放感とある種の切なさを残す結末の味わいは、なかなかに得難いものがあったと感じます。

『ホムンクルスの娘』(君塚祥 一迅社ZERO-SUMコミックス全2巻) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
ホムンクルスの娘: 1 (ZERO-SUMコミックス)ホムンクルスの娘: 2 (ZERO-SUMコミックス)

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2018.05.22

梶川卓郎『信長のシェフ』第21巻 極秘ミッション!? 織田から武田、上杉の遠い道のり


 その過去も明かされ、西洋料理の封印も解かれて、戦国生活も新たな段階に入ったケン。信長も最前線に出ることもなくなりましたが、まだまだ彼とケンの行方は波瀾万丈であります。この巻では、ついに動き出した謙信に対し、直接の会見を望んだ信長のため、ケンは決死の試みに出ることに……

 というわけで、「わしは謙信に会ってみようと思う」「よっておぬし(ケン)武田勝頼に捕まってこい」と、いきなり衝撃的なことを言い出した信長。
 久々に(?)人の一歩も二歩も先を行く信長の命令が飛び出した印象ですが、突然命令されてしまったケンも、それを聞いてしまった柴田勝家も面食らうどころではありません。

 しかし勝家がツッコんだように、これから合戦中の大将同士が会談するなどという前代未聞な試みを行うのであれば、正規ルートで話を通せるはずもありません。
 そもそも、織田軍は上杉方に攻められる七尾城救援のため、能登を目指している状況。一方、七尾城が陥落すれば、上杉軍は織田軍と対決するために一気に南下を始めることになります。そしてその七尾城では、親上杉方が力を持ち、落城は目前の状況……

 そんな中で、仮に大将同士が会談を望んだとしてもそれが円満に進むはずもありません。そして密使を送ろうにも伝手がなく、また地理的にも潜入は難しい――というわけでケンの出番となるわけであります。
 武将でも官僚でもなく、しかし信長の意を最も良く知るケン。その彼を、上杉とは現在同盟関係にある武田に捕らえさせ、陣中見舞いの名目で上杉に送らせる――いやはや、無茶苦茶ですが、実に本作らしい作戦でしょう。

 そしてそのための細い細い伝手が、以前ケンが協力した織田信忠と勝頼の妹・松姫の恋仲。この無茶な案のために使えるものは何でも使おうという信長の中に、謙信であれば自分の目指すところを理解できるのではないか――と期待する信長の孤独を見て、ケンが協力を決意するという展開も、また本作らしくて良いのであります。

 しかし考えれば考えるほど無茶なこの作戦、そもそも信忠と松姫の仲は秘密である上に、そこから勝頼との面談に持っていく手段がない。
 そして仮に勝頼と対面したとしても、ケンとはやたらに因縁のある彼が、素直に頼みを聞いて上杉に送ってくれるとは限らない。そして上杉に入ったとしても、どうやって謙信と対面し、彼だけに信長の意を伝えて納得させるのか……

 いやはや、あまりの不可能ミッションぶりに、こうして挙げていて逆に楽しくなってきましたが、この難題の数々を料理の力でクリアしていくのこそ本作の真骨頂。
 前巻ではケンの料理シーンが少なかったのが少々不満でしたが、この巻の後半では材料も不十分な中で、機転とテクニックで次々と難関を乗り越えていくケンの姿が存分に味わえるのも嬉しいところであります。
(そして作中で妙に美味しそうに見えたあの料理が、巻末で紹介されているのにも納得)

 また、久々に対面したケンと勝頼の対話の面白さも、これまでの積み重ねがあってこそのものでしょう(勝頼の「おぬしに飯を作らせるとろくなことがない!!」の言には爆笑)。
 そしてその一方で男として、武将としての器を見せる勝頼の描写も良く、ある意味この巻の裏のMVPは勝頼なのではないか――としら感じた次第です。

 さて、何とか上杉の陣中に入り込み、謙信の前で料理を作ったものの、やっぱり窮地に陥ったケン。
 その一方で織田軍の中では、唯一信長の真意を知る勝家と他の将の軋轢が深まり、ついに秀吉は勝頼と対立した末に離陣――のふりをして、独自に状況を探り始めることになります(なるほど、あの史実をこのように使うか、と感心)。

 そしてこの先に待ち受けているのは、手取川の戦い――謙信が織田軍を圧倒したと言われる合戦ですが、実はその規模や結果については諸説あり、不明な点も多いこの合戦を、本作がどのように扱うのでしょうか。
 前巻辺りからクローズアップしてきた、史実との整合性――歴史は変わってしまうのか否か?――も含めて、先が大いに気になるところであります。

『信長のシェフ』第21巻(梶川卓郎 芳文社コミックス) Amazon
信長のシェフ 21 (芳文社コミックス)

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2018.05.20

「コミック乱ツインズ」2018年6月号


 今月の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙&巻頭カラーが『用心棒稼業』(やまさき拓味)。レギュラー陣に加え、『はんなり半次郎』(叶精作)、『粧 天七捕物控』(樹生ナト)が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 先月に続いて鬼輪こと夏海が主人公の今回は、前後編の後編とも言うべき内容です。
 旅の途中、とある窯元の一家に厄介になった夏海。彼らのもとで生まれて初めて心の安らぎを得た彼は、用心棒稼業を抜けて彼らと暮らすことを選ぶのですが――鬼輪番としての過去が彼を縛ることになります。

 夏海の設定を考えれば(いささか意地の悪いことを言えば)この先どうなるかは二つに一つ――という予想が当たってしまう今回。そういう意味では意外性はありませんが、夏海の血塗られた過去と、悲しみに沈む心を象徴するように、雨の夜(今回もあえて描きにくそうなシチュエーション……)に展開する剣戟が実に素晴らしい。
 駆けつけた坐望と雷音の「用心棒」としての啖呵も実に格好良く印象に残ります。

 それにしても最終ページに「終」とあるのが気になりますが……

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 隠密(トラブルシューター)の裏の顔を持つ漢方医・桃香を主人公とした本作、今回の題材は子供ばかりを狙った人攫い。彼女の顔見知りの母子家庭の娘が、人攫いに遭いながらも何故か戻された一件から、桃香は事件の背後の闇に迫るのですが――その闇があまりにも深く、非道なものなのに仰天します。
 この世界のどこかで起きているある出来事を時代劇に翻案したかのような展開はほとんど類例がなく、驚かされます。

 一方、娘を攫った犯人が人間の心を蘇らせる様を(色っぽいシーンを入れつつ)巧みに描いた上で、ラストに桃香の心意気を見せるのも心憎い。前後編の前編ですが、後編で幸せな結末となることを祈ります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今回から原作第3巻『秋霜の撃』に突入した本作。六代将軍家宣が没し、後ろ盾を失ったことで一気に江戸城内での地位が低下した新井白石と、新たな権力者となった間部越前守の狐と狸の化かし合いが始まります。
 その一方、白石がそんな状態であるだけに自分も微妙な立場となった聡四郎は、人違いで謎の武士たちの襲撃を受けるもこれを撃退。しかし相手の流派は柳生新陰流で……

 と第1回から不穏な空気しかない新展開ですが、聡四郎を完全に喰っているのは、白石のくどいビジュアルと俗物感溢れる暗躍ぶり(キャラのビジュアル化の巧みさは、本当にこの漫画版の収穫だと思います)。
 そんな暑苦しくもジメジメした展開の中で、聡四郎を想って愁いに沈んだり笑ったりと百面相を見せる紅さんはまさに一服の清涼剤であります。

『鬼切丸伝』(楠桂)
 今回はぐっと時代は下って江戸時代前期、尾張での切支丹迫害(おそらくは濃尾崩れ)を描くエピソードの前編。幕府や大名により切支丹が無残に拷問され、処刑されていく中、その怨念から切支丹の鬼が生まれることになります。
 切支丹であれ鬼を滅することができるのは鬼切丸のみ――のはずが、その慈愛と赦しで鬼になりかけた者を救った伴天連と出会った鬼切丸の少年。それから数十年後、再び切支丹の鬼と対峙した少年は、その鬼を滅する盲目の尼僧・華蓮尼と出会うこととなります。

 鬼が生まれる理由もその力も様々であれば、その鬼と対する者も様々であることを描いてきた本作。今回は日本の鬼除けの札も通じない(以前は日本の鬼に切支丹の祈りは通じませんでしたが)弾圧された切支丹の怨念が生んだ鬼が登場しますが、それでも斬ることができるのが鬼切丸の恐ろしさであります。
 しかし今回の中心となるのは、少年と華蓮尼の対話でしょう。己の母もまた尼僧であったことから、その尼僧に複雑な感情を抱く少年に対し、彼の鬼を斬るのみの生をも許すと告げる華蓮ですが……

 しかし鬼から人々を救った尼僧の正体は、金髪碧眼の少女――頭巾で金髪を、目を閉じて碧眼を隠してきた(これはこれで豪快だなあ)彼女は、役人に囚われることに……
 禁忌に産まれたと語る尼僧の過去――は何となく予想がつきますが、さて彼女がどのような運命を辿ることになるのか? いつものことながら後編を読むのが怖い作品です。

 その他、今号では『カムヤライド』(久正人)、『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)が印象に残ったところです。

「コミック乱ツインズ」2018年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年6月号 [雑誌]

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