2018.05.18

柴田錬三郎『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』 登場、名探偵狂四郎!?


 あの時代小説史上に残るニヒリスト剣客・眠狂四郎を、なんとミステリという切り口から扱った作品集であります。確かに柴錬先生の作品にはミステリもありますが、それにしても――と思いきや、これが実に面白く、興味深い一冊なのであります。

 異国人のころび伴天連が武士の娘を犯して生まれたという陰惨な出自を持ち、妖剣・円月殺法を操る異貌の剣客・眠狂四郎。
 襲いかかる敵は容赦なく斬り捨て、女性に落花狼藉も躊躇わない――それでいてこの世の全てに倦み疲れたような虚無の影を背負って放浪する、この世に恃むところのない、まさしく無頼の徒であります。

 さて、1956年に「週刊新潮」誌上で第1作『眠狂四郎無頼控』の連載がスタートし、以降実に20年近くに渡って活躍してきた狂四郎ですが、その(特に第1作の)特徴は、連作短編スタイルであること。
 週刊誌での連載であることから、毎回一話完結を志向した内容は、短いページ数の中で起承転結を収め、さらに長編としての大きな物語も進行させていく――という離れ業をものしてきたのが本シリーズなのであります。

 と、そんな眠狂四郎ものの中から、ミステリ色の強い作品を集めたのが本書。全21編のうち、第3作『殺法帖』からの1編、中短編集の『京洛勝負帖』からの3編を除けば、全て『無頼控』からの収録であります。
 その収録作は以下のとおり――

『雛の首』『禁苑の怪』『悪魔祭』『千両箱異聞』『切腹心中』『皇后悪夢像』『湯殿の謎』『疑惑の棺』『妖異碓氷峠』『家康騒動』『毒と虚無僧』『謎の春雪』『からくり門』『芳香異変』『髑髏屋敷』『狂い部屋』『恋慕幽霊』『美女放心』『消えた兇器』『花嫁首』『悪女仇討』
 いずれもタイトルを見ただけでドキドキさせられる作品揃いであります。

 さすがにこれらの作品を一話ずつ紹介はいたしませんが、収録作はどれも「らしい」作品揃い。大きな物語として見るとかなり間があいているため、混乱させられる点もあるかもしれませんが、基本的にどこから読んでも楽しめる内容であります。


 ……と、それよりも注目すべきは「ミステリ」であります。
 本書は、編者の言を借りれば「密室殺人、雪の密室、呪われた屋敷、山中の怪異、重要書類の消失、雪の密室、首切り殺人など」ミステリ要素の強いエピソードを集めた一冊であり、もちろん探偵役は狂四郎です。

 正直なところ、ミステリプロパーの作者でもなければ、元々の作品がミステリというわけでもないわけで、ガチガチのミステリを期待すれば、さすがに少々拍子抜けの印象は否めないでしょう。
 また使われているトリックなども(特に『消えた兇器』など)ちょっと驚くほどプリミティブなものもあるのも事実です。

 しかしそこまで堅いことを言わなければ、そして広義のミステリというものを含めて考えれば、本書はなかなかの高水準の作品が並んでいると感じられます。
 例えば、美人比べの候補者が次々と無惨な最期を遂げるという事件以上に、サイコスリラーめいた犯人の動機の異常性が際だつ『皇后悪夢像』。
 三幅も現れた家康直筆の天照大神画の真贋を巡り人間心理の綾を巧みに突いてみせる『家康騒動』。
 消えた宝玉の行方を巡り、いかにも本作らしいエロティシズムが漂う『芳香異変』(宝玉の隠し所はすぐ見当がつくものの、それを暴く手段が、裏腹に雅趣に富んだものなのが面白い)。

 そして特に表題作である『花嫁首』は、新婚初夜の花嫁の首が無惨にも奪われ、代わりに凶悪な面相の罪人の首が据えられていたという、猟奇色濃厚な事件のインパクトにまず驚かされるエピソード。
 犯人の企て自体はそれほどでもないのですが(というよりかなり強引ではあります)、そこにさらにある思惑が加わって事件の様相が変わるという展開の妙、そして狂四郎が真相に気付く証拠のユニークさなど、表題作に相応しい内容と感じます。


 それにしても、よく考えてみれば狂四郎は、ヒーローでもなく悪党でもなく――つまりは使命感も目的もなく、ただ自分の興味の惹いたものに首を突っ込む人物。
 そんな人物だからこそ、その『もの』が謎であった時、彼は探偵として活躍するのであり――本書はそんな狂四郎の特異なキャラクターがあってこそ成立したものと言えるのではないでしょうか。

 そんな狂四郎の立ち位置についても改めて考えさせられる本書、シリーズファンにも初読の方にもおすすめできる一冊です。


『花嫁首 眠狂四郎ミステリ傑作選』(著:柴田錬三郎 編:末國善巳 創元推理文庫) Amazon
花嫁首 (眠狂四郎ミステリ傑作選 ) (創元推理文庫)

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2018.04.30

さとみ桜『明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業 三』 優しい嘘に浮かぶ親の愛


 新聞社のグータラ記者・久馬と役者崩れの美男子・艶煙、そして明るく真っ直ぐな少女・香澄のトリオが、妖怪を題材とした新聞記事で人助けを行う姿を描くシリーズもこれで三作目。今回はこれまで謎だった艶煙の過去が語られることに……

 ある事件がきっかけで久馬と艶煙と出会い、悩める人々からの秘密の依頼を受けて、その悩みの源を、妖怪の仕業として片付けてしまうという彼らの裏稼業を知った香澄。
 その裏稼業の片棒を担いだのをきっかけに二人の仲間となった彼女は、様々な事件を経て二人とも絆を深め、特に久馬とは何となくイイムードになったりしながら、今日も奔走するのであります。

 そんなわけで今回も全三話構成の本作。今回も表沙汰にできない悩みを抱える人々を、妖怪の仕業になぞらえて助けることになるのですが――しかし本作の重要なバックグラウンドとなるのは、艶煙の過去なのです。
 普段は浅草の芝居小屋の花形役者として(しかし結構適当に)活躍する艶煙。久馬とは昔からの付き合いで、町奉行所の与力だった彼の父のことも知る仲、そして芝居小屋の面々も彼らの裏稼業を知り、しばしば積極的に協力してくれる関係にあります。

 そんな様々な顔を持つ艶煙ですが、しかしその過去は、香澄にとって、すなわち読者にとってこれまで謎に包まれていました。それが今回語られるのですが――そのきっかけとなるのが、第一話「雲外鏡の怪」の依頼人である彼の昔馴染み・藤治郎との再会です。

 これまで様々な苦労を重ね、そして艶煙たちに助けられて、今では自分の小間物屋を持つまでになった藤治郎。しかしかつては自分を何かと助けてくれた菓子屋の主人が、今では自分のことを疫病神呼ばわりして、周囲にも悪い噂を広げているというのです。
 しかしそれはむしろ菓子屋の評判を下げて店を傾ける有様。主人の変貌が、妻を亡くしてからだと知る藤治郎は、何とか主人を昔に戻してほしいと願っていたのでした。

 そんなちょっと厄介な依頼も、三人のチームワークで見事に解決するのですが――しかしそこで艶煙の過去の一端に触れた香澄に、艶煙は第二話「鬼火の怪」でその全容を語ることになります。

 まだ徳川の世であった頃、ある事件で父を亡くし、遊び人のように女物の衣装で浅草をぶらついていた艶煙を、姉と間違えて声をかけた藤治郎。同じ店に奉公していた姉が姿を消してしまったという彼の話に興味を持った艶煙は店を探ることになります。
 そこで彼が見たのは、店に町の鼻つまみ者の破落戸・定七が出入りする姿。そしてこの定七こそは……

 その先は詳しくは語りませんが、ここで語られるのは、艶煙がどのような家庭に生まれ、何故芝居の世界に入ったのか。そして何より、何故裏稼業を始めるに至ったのか――その物語であります。
 そう、ここで描かれるのはいわばエピソードゼロ。こうしたエピソードの楽しさは、本編で確立しているスタイルがどのように生まれたかが描かれることにありますが、本作においても、なるほどこういうことかと、シリーズ読者には興味深い内容となっています。


 そして幼なじみから嫁にと望まれながら何故か断ってしまった奉公人の少女と、店のお嬢様の友情を描く第三話の「嘆きの面の怪」もまた、艶煙の過去と関わってくるのですが――しかし本作の全三話には、もう一つ通底するテーマがあります。
 それは子に対する親の愛――それも特に、今は亡き親の愛であります。

 親が子よりも先に逝くのはこの世の定め、避けられないことではあります。しかし残された子にとっては、定めだからと納得できるものではありません。もっと生きていて欲しかった、自分を見守って欲しかった――そんな気持ちになるのが当然でしょう。
 本作で描かれる物語に共通するのは、そんな親を喪った子の姿であり、その悲しみを抱えながらも懸命に生きる人々の姿なのです。

 そして、悲しみを抱えた人を助けるのが裏稼業であることは言うまでもありません。
 本作において久馬たちは、そんな子たちの想いに対してそれとは表裏一体の想い――子を残して逝く親の想い、子を気遣う親の心残りを、怪異として甦らせ、人々を救ってみせるのです。

 妖怪や怪異を通じて描かれるもの――そこには、真実がそのままの形で明らかになってはならないものだけでなく、それを通じてしか語れないものも含まれます。
 そんないわば優しい嘘を語ってみせる本作。本シリーズの最大の魅力である物語の暖かさ、心地よさは、そんな妖怪たちの在り方と結びついて、本作において特に強く感じられると、僕は感じます。


『明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業 三』(さとみ桜 メディアワークス文庫) Amazon
明治あやかし新聞 三 怠惰な記者の裏稼業 (メディアワークス文庫)


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2018.04.23

芝村涼也『討魔戦記 3 魔兆』 さらなる戦い、真実の戦いへ


 人間が異形の鬼に変わっていく世界を舞台に、鬼たちを狩る者たち・討魔衆に加わることとなった少年・一亮の戦いも、この第3作目で最初のクライマックスを迎えることになります。結界の中から人間たちを襲う鬼に対し、精鋭集団・弐の小組と共に挑む一亮たちの小組たちの戦いの行方は?

 鬼が引き起こした惨劇から、生来の鬼を感知する能力によって生き残り、討魔衆の僧侶・天蓋によって保護された少年・一亮。
 それ以来天蓋の小組に加わり、糸使いの健作、手裏剣の名手の桔梗と行動を共にすることとなった一亮は、ある任務で東北に向かうことになります。そこで大飢饉の最中、人を鬼に変えるおぞましい企てを進める鬼と戦い、その手中から他者の能力を増幅する力を持つ少女・早雪を救い出すのですが……

 という前作の物語を受けて展開する本作において描かれるのは、一亮たちが東北から連れ帰った早雪を巡って揺れる討魔衆の姿と、シリーズ第1巻から密かに跳梁を続けてきた強大な鬼との対決であります。

 「芽生えた」――鬼の力と本能に目覚めた者たちと人知れず対決し、これを狩ってきた討魔衆。しかし彼らが決して一枚岩ではないのは、これまでの物語の要所要所に挿入されてきた、討魔衆上層部の僧侶たちの会議の模様を見れば明らかであります。
 鬼との戦いと、そのための戦力の維持に向けた方針を巡り、幾度となく討論を続けてきた上層部。彼らは、使い方によっては(というより既にそう使われたのですが)鬼の力を遙かに高める少女の存在に大きく揺れることとなります。

 その一方で、かつて向島で幾人もの人々を殺めた鬼が活動を再開し、今度は水戸街道沿いで数多くの人間が犠牲に。
 異空間に潜んで一度に複数の鬼を繰り出し、襲いかかるその鬼の前に、天蓋たちの小組は圧倒され、一亮も為すすべもなく立ち尽くすのみという窮地――と、そこに駆けつけるのは、討魔衆の実戦部隊、弐の小組!

 無数の紙の蝶を飛ばし、そして扇子から水を放つ――弐の小組の頭である於蝶太夫の技は、そのまま彼女の表芸である浅草奥山の見世物のそれと変わりませんが、しかし死闘において見せるそれがただの芸であるはずもありません。
 一度鬼を前にすれば、華麗な芸がたちまち破邪顕正の技となる――強大な力を持つ鬼たちを前にしては劣勢を強いられがちであった天蓋の小組に対し、太夫をはじめとする弐の小組の強さは爽快ですらあります。

 それもそのはず、弐の小組は、壱・弐と二つしかない討魔衆のエリート戦闘集団の一つ。遊撃隊である(遊撃しか担当できない)天蓋たちに対し、鬼の力に真っ向から対抗できる貴重な存在なのであります。
 壱の小組は以前に顔見せ的に登場しましたが、実際の戦闘部隊がここまで本格的に登場したのは今回が初めて。正直なところ比較的地味な戦いが多かった本作において、その派手な活躍は強く印象に残りますが――それは裏を返せば、鬼との戦いが本格的なものとなったことにほかなりません。

 そしてそれが上に述べた討魔衆内部の動きと結びついた時、新たな悲劇の種が撒かれることとなります。
 結成以来、数百年にわたり鬼と戦ってきた討魔衆。しかし本作において、一亮がその事実の中にある一つの齟齬を指摘することにより、その背後に潜む、巨大かつ慄然たる真実が語られることになります。

 次々と新たな能力を得て、その企ても複雑化していく鬼たち。それはさらなる、真の戦いの始まりなのかもしれません。


 そして一亮たちの物語がいよいよスケールしていく一方で、本シリーズの一方の極である、南町奉行所の老同心・小磯による捜査も着実に進んでいくことになります。
 鬼の存在も討魔衆の存在も知らず、ただ彼らの戦いの痕跡を丹念に追ってきた小磯同心。極めてロジカルに人知を超えた戦いの存在に一歩一歩近づいていく彼の姿は、別の意味で極めてエキサイティングに感じられます。

 今回は比較的一亮たちとは離れた場所に留まっていた印象のある小磯同心ですが、彼の屋敷の間借り人との微笑ましいやりとりも含め、本シリーズに確かなリアリティを与える存在として、もう一方の主役と言うべきでしょう。


 少しずつではありますが、着実に事態は進展し、ついに新たな段階に入ったと言える本作。まさしく「魔の兆し」が現れる中、一亮は、小磯はどこに向かうのか――いよいよ激化する戦いから目が離せるはずもないのであります。


『討魔戦記 3 魔兆』(芝村涼也 祥伝社文庫) Amazon
魔兆 討魔戦記(三) (祥伝社文庫)


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2018.04.18

「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その一)


 今月の「コミック乱ツインズ」誌の巻頭カラーは、ついに「熾火」編が完結の『勘定吟味役異聞』。その他、レギュラー陣に加えて小島剛夕の名作再録シリーズで『薄墨主水地獄帖』が掲載されています。今回も印象に残った作品を一作ずつ紹介いたします。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 上で述べたように、原作第2巻『熾火』をベースとした物語も今回でついに完結。吉原の公許を取り消すべく、神君御免状を求めて吉原に殴り込んだ聡四郎と玄馬は忘八の群れを蹴散らし、ついに最強の敵剣士・山形と聡四郎の一騎打ちに……

 というわけで大いに盛り上がったままラストに突入した今回ですが、冒頭を除けば対話がメインの展開。それゆえバトルの連続の前回に比べれば大人しい展開にも見えますが、遊女の砦を束ねる「君がてて」――当代甚右衛門の気構えが印象に残ります。(そしてもう一つ、甚右衛門の言葉で忘八たちが正気(?)に返っていく描写も面白い)
 しかし結局吉原の扱いは――というところで後半急展開、新井白石の後ろ盾であった家宣が亡くなるという激動の一方で、今回の一件の黒幕たちの暗躍は続き、そして更なる波乱の種が、という見事なヒキで、次号からの新章、原作第3巻『秋霜の撃』に続きます。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 日本に鉄道を根付かせるために奔走してきた男たちを描いてきた本作も、まことに残念なことに今号で完結。道半ばで鉄道院を去ることとなった島安次郎の跡を継ぐ者はやはり……

 鉄道院技監(現代のものから類推すればナンバー2)の立場に就きながらも、悲願である鉄道広軌化は政争に巻き込まれて遅々と進まない状況の安次郎。ついに鉄道院を飛び出すこととなった安次郎の背中を見てきた息子・秀雄は、ある決断を下すことになります。
 そして安次郎が抜けた後も現場で活躍してきた雨宮も、安次郎のもう一つの悲願の実現を期に――というわけで、常に物語の中心に在った二人のエンジニールの退場を以て、物語は幕を下ろすことになります。

 役人にして技術者であった安次郎と、機関手にして職人であった雨宮と――鉄道という絆で深く結ばれつつも、必ずしも同じ道を行くとは限らなかった二人の姿は、最終回においても変わることはありません。それは悲しくもありつつも、時代が前に進む原動力として、必要なことだったのでしょう。
 彼らの意思を三人目のエンジニールが受け継ぐという結末は、ある意味予想できるところではありますが、しかしその後の歴史を考えれば、やはり感慨深いものがあります。本誌においては異色作ではありますが、内容豊かな作品であったと感じます。


『カムヤライド』(久正人)
 快調に展開する古代変身ヒーローアクションも早くも第4回。今回の物語は菟狭(宇佐)から瀬戸内へ、海上を舞台に描かれることになります。天孫降臨の地・高千穂で国津神覚醒の謎の一端を見たモンコとヤマトタケル。その時の戦いでモンコから神弓・弟彦公を与えられたヤマトタケルは絶好調、冒頭から菟狭の国津神を弟彦公で一蹴して……

 というわけでタケルのドヤ顔がたっぷりと拝める今回。開幕緊縛要員だったくせに! というのはさておき、そうそううまくいくことはないわけで――というわけで「国津神」の意外な正体も面白い展開であります。
 ただ、まだ第4回の時点で言うのもいかがと思いますが、バトル中心の物語展開は、毎回あっと言う間に読み終わってしまうのが少々食い足りないところではあります。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 ついに動き出した伯父・最上義光によって形成された伊達包囲網。色々な意味で厄介な相手を迎えて、政宗は――という今回。最初の戦いはあっさりと終わり、まずはジャブの応酬と言ったところですが、正直なところ(関東・中部の争いに比べれば)馴染みが薄い東北での争いを、ギャグをきっちり交えて描写してみせるのはいつもながら感心します。
 そんな大きな話の一方で、義光の妹であり、政宗の母である義姫が病んでいく様を重ねていくのも、らしいところでしょう。

 そして作者のファンとしては、一コマだけ(それもイメージとして)この時代の天下人たるあの人物が登場するのも、今後の展開を予感させて大いに楽しみなところです。
(しかし包囲網といえばやっぱり信長包囲網が連想されるなあ――と思いきや、思い切り作中で言及されるのも可笑しい)


 長くなりましたので次回に続きます。


「コミック乱ツインズ」2018年5月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年5月号 [雑誌]


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2018.04.10

重野なおき『信長の忍び』第13巻 決戦、長篠に戦う女たちと散る男たち


 この4月から第3期『姉川・石山篇』もスタートと勢いが衰えることのない『信長の忍び』、原作の最新巻は前巻から引き続き長篠の戦が描かれることになります。忍びは忍びの、武将は武将の戦いを繰り広げる中、ついに決着の時が……

 父を超えるべく進撃を続ける武田勝頼の攻撃が迫る三河。同盟相手である徳川家康を脅かす武田に対して、ついに信長は決戦を決意することとなります。
 佐久間信盛の偽投降、酒井忠次の鳶ヶ巣山砦奇襲と布石を積み重ね、「その時」を待つ織田・徳川連合軍。その陰で、千鳥(と助蔵)もまた、因縁重なる宿敵である勝頼の忍び・望月千代女との決戦に臨むことに……


 そんなわけで冒頭からいきなりクライマックスの第13巻。以前、千代女には文字通り死ぬような目に遭わされた千鳥ですが、しかし今回は負けるわけにはいかない戦いであります。
 しかしそんな覚悟を固めてもなお、千代女は強い。本当に強い。再びあわやのところまで千鳥が追いつめられた時、彼女を救ったのが誰であったか――意外で、しかしこの人物しかいないというその名を言うまでもないでしょう。

 忍びとして主に向けた想いの強さは互角、戦闘力としては千代女の方が上。しかしそれでも千鳥には千代女に勝る点があります(そもそも、それがあったこそここで再戦に挑むことができたわけで)。
 それはたった一人ではない、強い絆の存在――忍びとしてはもしかしたら不要かもしれないそれが、確かな力となって千鳥を支える展開は、特に物語を冒頭から読んでいる者にはグッとくるものがあります。お前、本当に頑張るなあ……と。

 と、思わず忍者漫画のように(いや、忍者漫画でもありますが)盛り上がってしまう展開ですが、しかし戦はこれからが本番。決戦の地で死闘を繰り広げる男たちの姿が、この先ひたすらに描かれていくことになります。

 鳶ヶ巣山砦争奪戦のくだりのように、そんな死闘の中でもきっちりとギャグが――それも史実に絡めて――描かれるのにはいつものことながら感心させられますが、しかしそんな中でもシリアスにならざるを得ない時がやってきます。
 武田家の猛攻を前に、一歩も引かず、いやむしろ前に出て行く信長と配下たち。その圧倒的な力の前に、ついに武田家を支えてきた猛将たちも一人、また一人散っていくのであります。

 山県昌景、内藤昌豊、馬場信春――武田家四天王と謳われた名将たちの実に三人までもが散っていく姿は、やはりその直前まで本作らしいギャグでデコレートされているものの、最期の瞬間はどこまでも真面目でドラマチックなのもまた、本作らしいと言うべきでしょう。
 特に馬場が勝頼に託したものと、それを受けての勝頼の姿は、織田方と武田方、どちらが主人公サイドかわからなくなるほどで――この辺り、『真田魂』に重なるわけですが――こうして敗者にも光を当てるのが、本作が長らく愛される理由の一つなのでしょう。


 さて、一つの大戦は終わったものの、まだ信長の戦が終わったわけではもちろんありません。
 この先、信長の道を阻まんとする第二次信長包囲網が形作られるわけですが――しかし既に信長が戦の前面に出る時期ではなくなったことは、史実が示すところであります。

 そんなわけでこの巻の後半から描かれるのは、明智光秀の丹波攻略。信長による方面軍構想により、織田家一の出頭人として丹波攻略の主将に命じられた光秀に、ようやく傷の癒えた千鳥と助蔵はつき従うことになるのですが……
 が、ここで鬼のようなナレーションにより「光秀挫折編」というワードが語られることになります。

 言うまでもなく光秀といえば信長を――というわけですが、さてその源流であろうこの戦いがどのように描かれるのか。
 その後の光秀の姿がちらりと描かれた『黒田官兵衛伝』の官兵衛も登場し、相変わらずの目薬屋っぷりを見せるクロスオーバー(と言ってよいのかしら)も楽しい本作、信長同様に、まだまだ勢いは衰えそうにありません。


『信長の忍び』第13巻(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
信長の忍び 13 (ヤングアニマルコミックス)


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2018.03.20

「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」2018年4月号の紹介の後編であります。

『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 ドイツ留学からようやく帰ってきた島安次郎。しかし日本の鉄道は前途多難、今日も雨宮運転手の力を借りつつ奔走する島ですが、しかしここで彼には全く予想もつかぬ事態が起きることになります。
 それは第一次世界大戦――島にとっては恩人とも言うべきドイツと日本が開戦、中国で日本軍に敗れたドイツ人捕虜の護送を鉄道で行うことになった島は、その中に留学時代の友を見つけることになります。そして吹雪の中を走る鉄道にトラブルが発生した時、島の選択は……

 鉄道にかける島の熱意、そしてその途上に起きる鉄道でのトラブルを解決する雨宮の活躍を中心に描かれてきた本作。今回もそのフォーマットを踏まえたものですが――しかし戦争という切り口を本作で、このような切り口で描くか、となかなか意外な展開に驚かされます。
 ある種の民族性を強調するのはあまり好みではありませんし、理想的に過ぎると言えばそうかもしれませんが、しかしクライマックスで描かれる島の想いもまた真実でしょう。苦い現実の中の希望という、ある意味本作らしい結末であります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 宇和島の牛鬼編の後編である今回、中心となるのは犬神使いのなつが遺した双子の八重と甚壱――特に八重。幼い頃から人の死期などを視る力を持った八重は、なつの使役していた三匹の犬神を受け継ぎ、憑かれたように宇和島城に向かうことになるのですが……
 その宇和島城で繰り広げられるのは、牛鬼による虐殺の宴。ついにその正体を表した牛鬼に、八重と甚壱、そして鬼切丸の少年が挑むことになります。

 と、今回はほとんど脇役の少年ですが、犬神に襲いかかられて、なつの犬神を斬るわけにはいかないと焦りの表情を浮かべたり、双子の姿から、短い生を生きる人から人へ受け継がれるものに想いを馳せたりと、なかなか人間臭い顔を見せているのが印象に残ります。

 ただ残念だったのは、「子を守って命を落とした母/母から受け継がれた命を繋いでいく子供」と、「子供を失って鬼と化した者」という面白い対比があまり物語中で機能していなかった点であります。
 共に仇討ちのために力を振るうという共通点を持つ両者を分かつものがなんであったのか――それは上に述べたとおりだと思うのですが、牛鬼が弱すぎたせいもあってそれがぼやけてしまったのはもったいなく感じました。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 今回もほとんど完全に芦名家メインの本作。佐竹家の次男から芦名家の新当主となった義広の姿が描かれるのですが――いかにもお家乗っ取りのように見えて、実は彼には彼なりの事情と想いが、と持っていくのがいい。
(……というより、それを引き出すのが小杉山御台とのわちゃわちゃというのが実に微笑ましい。)

 この辺りの呼吸は、作者の漫画ではお馴染みのものではありますが、やはりさすがは――と感じさせられます。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「闇の大川橋」の中編、御用聞き・豊治郎が殺された現場に居合わせたために、刺客たちの襲撃を受けて窮地に陥った梅安(どれだけゴツくでも、複数の相手に真正面から襲われると危ない、というのは当たり前ですが面白い)。
 彦さんの家に転がり込んだ梅安は、嬉しそうに二人で一つの布団にくるまって(当然のようにそれは提案する梅安)――というのはさておき、自分が襲われたこと自体よりも、豊治郎を助けただけで襲われた、すなわち人助けもできない世の中になったことになったことに憤る姿が、強く印象に残ります。

 予想通りのビジュアルだったおくらもお目見えして、次回いよいよ決着であります。

 ……にしても、これは全くの偶然なのですが、今回の悪役の名前、連呼されるとドキドキするなあ。


 次号は『用心棒稼業』(やまさき拓味)、『小平太の刃』(山口正人)が登場とのこと。連載陣が充実しすぎてフルメンバーが揃わないという、贅沢過ぎる悩みも感じられます。


『コミック乱ツインズ』2018年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年4月号 [雑誌]


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2018.03.18

さちみりほ『花宵奇談』 豪腕女房と天然陰陽師が挑んだもの

 秋田書店やハーレクインで長らく活躍してきた作者による耽美な平安ホラー――に見せかけておいて、その実、霊感少女と天然陰陽師が怪事件解決のために奔走する、コミカルで時々泣かせる連作集であります。

 内裏に宮仕えに上った少女・玉響。彼女の目的はただ一つ、玉の輿に乗ること! ……であったのですが、一人の美青年に目を奪われたことから、彼女の運命は大きくわき道に逸れていくことになります。
 その青年こそは、かの安倍晴明から五代目の子孫であり、指神子の異名を持つ安倍播磨守泰親。しかしこの泰親、美青年でありながら、今一つアバウトで天然気味のどうにも頼りない人物だったのです。

 そんな折り、宮中では幼い三の宮がもののけに襲われるという事件が発生。実は霊感体質だった玉響は、無理矢理泰親に引っ張りこまれ、もののけ退治を手伝うことになるのですが……


 そんな第1話を皮切りとして、宮中や貴族の周辺で起きるもののけ騒動に玉響と泰親が挑む全4話構成の本作(後半2話は続き物)。
 泰親という有名人がメインキャラということもあり、いわゆる陰陽師ものに分類できる本作ですが、しかしそれが普通の陰陽師ものとも、ましてや平安ラブコメとも異なるのは、玉響のキャラクターによるところが大であります。

 何しろ玉響は、一見美しいの外見に似合わぬ強烈なキャラクター。決して幸福ではない生い立ちを背負いながらも、それをバネにして幸せを掴むべく猪突猛進、それを邪魔する奴は実力行使で叩き潰す! という精神的にも物理的にも猛烈にパワフルな女性なのであります。

 それが何の因果か泰親に(艶っぽくない意味で)見込まれ――というか利用され、もののけ退治に駆り出されては暴れ回るのですから、本人には申し訳ないのですが実に面白い。
 すっとぼけながらもおいしいところだけ持っていく泰親のキャラクターも相まって、この二人が一緒にいるだけで楽しくなってしまうのです。


 しかし、本作の魅力はそれだけではありません。本作の真の魅力は、登場するもののけたちと、その対極にある玉響の存在にあると言えるのですから。

 少々内容に踏み込んでしまいますが、本作に登場するもののけたちは、いずれも天然自然の妖魔というわけではありません。
 本作のもののけたちは、いずれも人の心が生み出した魔。その「心」とは、家族の愛に満たされない想い、満たされたいという想い――ここで描かれるのは、いずれもねじれた家族関係から生まれた哀しみや苦しみ、迷いから生まれたもののけたちなのです。

 そしてそこに、玉響が本作でもののけ退治役を務める真の理由があります。
 かつて両親の愛は美しい姉姫が一身に受け、自分は下女同様の暮らしを強いられてきた玉響。故あって姉の代わりに宮仕えに上がることになったものの、今もなお両親は自分に愛を向けることはない――そんな過去を背負う彼女は、しかしそれに押し潰されることなく、パワフルに今を生きているのです。

 そんな、親に愛されぬ哀しみを知り、そしてそれを乗り越えた彼女だからこそ、霊感の有無など抜きにして、もののけを祓うことができる――そんな本作の構図は、人間の強さ、たくましさと美しさというものを、これ以上なく感じさせてくれます。


 美麗な絵の中に唐突に挿入されるディフォルメされた絵柄、現代の事物や言葉を入れ込んだ表現など、純粋に平安ものを楽しみたい方にはちょっと敬遠される作品かもしれません。
 しかしここにはあるのは本作ならではのワンアンドオンリーの魅力。わずか単行本1巻ではありますが、微笑ましい結末も含めて、何とも好もしい作品であります。


 ……ちなみに本作の泰親、以前作者が岡本綺堂の『玉藻の前』を漫画化した『伝奇絵巻 玉藻の前』に登場したのと同じビジュアル(ご丁寧にあちらに登場した弟子二人も登場)。この辺りの遊び心も、何とも楽しいところであります。


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2018.02.27

杉山小弥花 『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第11巻 大団円、そして新たな時代と物語へ

 開化の世に夢を膨らませるじゃじゃ馬女学生・菊乃と、元伊賀忍び(?)の清十郎、二人のいささか不穏な恋模様を描いてきた本作も、ついにこの巻にて完結。菊乃に秘め隠してきたもう一つの顔の存在を知られた末、姿を消した清十郎。果たして彼の正体は、そして二人は再会できるのか――!?

 清十郎の実家の旧知行地に足を運んだ際、そこにあった清十郎の手形が、現在の彼のものと異なることを偶然知ってしまった菊乃。清十郎は清十郎ではないのか、それでは彼は本当は何者なのか?
 そんな中、清十郎の方も周囲が大きく動き出します。太政官監部課が清十郎の調査を始め、そして何よりも清十郎の過去を知り、支配する男・杠こと栗栖靱負が出現、清十郎を追い詰めることになります。

 西郷の挙兵により事態は風雲急を告げる中、ついに栗栖に連れ去られる清十郎。菊乃に、清十郎にそれぞれ危機が迫る中、果たして二人の愛の行方は……


 と、何とも気になり過ぎる展開から始まったこの最終巻、前半は本作におけるもう一組のカップルの想いの行方、土佐の楡大尉を頼った菊乃の前に現れる強烈な新キャラ(?)と、ある意味通常運転の展開が続くことになります。

 が、もちろんこれは細かな伏線の積み重ね。後半、ついに清十郎の真実にたどり着いた菊乃は、思わぬ形で彼と再会して――と、ここからが怒涛の盛り上がりであります。

 物語の核心に触れてしまうため、詳細を語るわけにはいかないのが全くもって弱ってしまうのですが、しかし、ここで描かれたある「トリック」があまりにも素晴らしかった、ということはできます。
 これまで、様々な形でほのめかされてきた清十郎の過去。それが本作の後半部の物語を様々な形で引っ張ってきたわけですが、ここで明かされるその真実のどんでん返しぶりが凄まじい。これはよほどの歴史好きでなければ気づかないのでは――と思わされる見事な仕掛けには大きく嘆息させられます。

 元々全編に渡ってミステリ味が強かった本作ですが、ここに至り時代ミステリ史上に残る作品になったのではないか――というのは少々大げさに聞こえるかもしれませんが、これは偽りのない思いであります。
(このトリック、かなり前から考えていたものと思いますが、果たしてどこから思いついたものか……感心)


 しかしもちろん、本作の根本はもどかしい二人のラブロマンス。西南戦争の混沌の中に男たちが飲み込まれていく中、残された菊乃を待つものは――と、こちらもこれまた見事な大団円。全ての因縁に決着をつけた上で物語はこれ以上ない結末を迎えることになります。

 武士たちの最後の戦いが終わり、維新の立役者たちが去った後――真に旧幕が終わり、明治が始まった時、菊乃が問われて答えた言葉は、物語の全てを受け止め、そしてその上で新たな扉を開く、非常に素晴らしいものであり、思わず本当に良かった――とホロリ。
 これまでの巻の紹介でも繰り返し繰り返し述べてまいりましたが、歴史・時代ものと、恋愛・ラブコメものが非常に高いレベルで融合していた本作。その本作の魅力は、最後の最後まで変わることなく、見事に昇華されたと自信を持っていうことができます。

 この後に続く新たな物語、幸福な物語の内容を笑顔で想像することができる――そんな素晴らしい作品でした。

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2018.02.22

「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その二)

 「コミック乱ツインズ」誌3月号掲載作品の紹介その2であります。今回はオリジナル作品メインの紹介となります。

『カムヤライド』(久正人)
 前号で衝撃のスタートを切った古墳時代変身アクション・ファンタジー、今回は設定紹介編という趣もありますが、その尖った画面作りと設定の面白さは健在であります。

 前回、カムヤライドに変身したモンコに助けられたオウスの皇子。一度は姿を消したモンコを見つけたオウスは、彼に国津神の正体を問います。そこでモンコが語るのは、200年前の天孫光臨とヤマト王家の真実、そして国津神とカムヤライドの関係……
 と、一見奇想天外ながらも筋の通った設定・物語展開を得意とする作者らしく、伝奇ものとして実に面白く思わず納得させられる設定が描かれる今回。「神」誕生のメカニズムとそれに抗するカムヤライドの力などの「らしさ」には感心させられます。

 その一方で、「神」復活を目論む謎の旅人も、出番は少ないながらもその描写が実に面白い。彼が復活させた新たな国津神の微妙なネタっぽさも楽しいところであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 前回、犬神娘・なつの悲恋を描いた本作、これで四国編は完結かと思いきや、何と引き続き今回も四国が舞台――それもなつの子供たちが新たに登場することになります。

 相変わらず鬼を斬り続ける少年の前に現れたなつ。犬神で鬼を狩り続けてきた彼女は、宇和島に出現した鬼を斬って欲しいと願います。宇和島藩の御家騒動でその子もろとも無惨に殺され、妻も後を追ったという山家清兵衛。その怨霊が化したと言われる鬼――牛鬼と対峙したなつは、しかし己の二人の子供に気を取られて……

 と、今回驚かされたのは、牛鬼という強敵感溢れる相手(巨大な蜘蛛の体に牛の頭というビジュアルはやはり凄まじい)もさることながら、それが山家清兵衛事件――和霊騒動と結びつけて語られる点。
 なるほど、宇和島近辺では牛鬼の伝承が多く、何よりも清兵衛が祀られる和霊神社では牛鬼の山車などがあるのですが、この両者を結びつけた作品はほとんどなかったはずであります。しかもこの宇和島の牛鬼と対決するのが土佐の犬神というのはある意味ドリームマッチではありませんか。

 なつの悲痛な想いに応えて牛鬼との対決を決意する少年ですが、同時になつの子供たち(これがまたビジュアル等なかなかのキャラ立ち)も動きだし、後編に向けて盛り上がる物語。構造的に牛鬼の正体はおそらく――ですが、さてそれに対峙した少年は、なつの子供たちは何を想うのか、今から楽しみであります。(ただ、浦戸一揆が1600年、和霊騒動が1620年なので微妙に年が合わないという気がしないでも――とこれは蛇足)


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 前回から引き続き、芦名家の当主を巡る佐竹家と伊達家の争いを描いた回なのですが、驚かされるのはその大半が芦名家内の評定である点であります。
 (物理的な)動きのない評定シーン、それもそこに加わっているのは誠に失礼ながらあまり有名ではない面々と、漫画として盛り上げるのが大変そうな要素ばかりなのですが、しかしそれが実に面白いのです。それも四コマギャグ漫画としても。

 考えてみれば作者の『信長の忍び』がスタートして早10年、その積み重ねがここにも現れていると言うべきでしょう。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 三人の用心棒の流浪旅を描く本作、今回は己の死に場所を求める老武士・終活の主役回。旅の途中、リストラの肩叩きという憎まれ役を演じながらも自分も閑職に回され、しかし家族のために不平を言うことも叶わない気弱な武士と出会った終活は、その武士の姿に自分の過去を思い出して……

 と、宮仕えの辛さ・味気なさと、それでも生きていかねばならない者の生き様を静かに、しかし力強く描いた今回。相変わらず剣戟シーンが見事(今回も無音で剣戟を描くセンスが冴える)ですが、何よりも印象に残るのは、普段眠ったような糸目の終活が、怒りに目を見開いたシーンの迫力。
 今回、終活の本名が雷音大作というのが明かされるのですが、なるほどあのビジュアルは獅子のたてがみに相応しいものであります。そしてその終活がラストの大立ち回りで決める台詞が、また実に熱く、イイのであります。


 というわけで今月の「コミック乱ツインズ」紹介でありました。

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2018.02.15

シヒラ竜也『バジリスク 桜花忍法帖』第1巻 彼らを「忍者」と呼べるのか

 この1月からアニメの放映も開始された『バジリスク 桜花忍法帖』――『バジリスク 甲賀忍法帖』の続編ともスピンオフとも言うべき物語の漫画版であります。既に第2巻は刊行されておりますが、まずは思うところあってまだ取り上げていなかった第1巻を紹介させていただきます。

 ただ徳川3代将軍を決するためだけに、十対十の死闘を繰り広げることとなった甲賀と伊賀の忍者たちの姿を描く山田風太郎の『甲賀忍法帖』の漫画版である『バジリスク 甲賀忍法帖』を原案とした山田正紀の『桜花忍法帖 バジリスク新章』の漫画版である本作。
 小説と漫画が交錯して非常にややこしいのですが、本作は元祖『バジリスク』の作画者であるせがわまさきはキャラクター原案というクレジットとなっていますが、本作の作画担当のシヒラ竜也もイメージに合った描き手と感じます。


 さて、この漫画版の内容ですが、小説版ともアニメ版ともまた異なる内容。登場人物等、基本的な設定は一部を除いてほとんど変わりませんが、その物語展開は大きく異なります。
 何しろ冒頭で描かれるのは、江戸城で繰り広げられる甲賀五宝連の一人・緋文字火送と侍たちの死闘。主君のために戦う忍びでありながら、その主君の命に逆らって周囲を業火に包むという、ある意味あり得べき場面であります。

 そしてそこまでして彼が守ろうとするのは、もちろん甲賀八郎と伊賀響。本作では公儀隠密を束ねる服部響八郎の子供として育てられたという設定の二人ですが、八郎の方は忍びの掟など全く頭にはなく、愛する響を守ることだけが自分の目的という、忍びらしからぬ少年であります。

 そんな彼の前に現れたのは、火送を屠ってきた成尋衆の4人。甲賀五宝連と伊賀五花撰は他のバージョンよりも遙かにあっさりと倒され(全く忍法を見せる間もなかったキャラもいたほど)、響八郎も倒された時……


 と、驚くほどスピーディーに展開していく本作ですが、そんなことよりも真に驚くべきは、本作での忍びの扱いでしょう。

 先にも触れましたが、冒頭で火送が「主君のために生き主君のために死ぬるを約定した主に尽くす運命の者」と語るように、忍びとは主君の命あっての存在。
 しかしその火送自身が主命に逆らっているように、本作に登場する忍びたちは、主命に殉ずるという頭はない――というより八郎に代表されるように、それよりも己の想いを優先して生きる者として描かれていると感じさせられます。

 それはそれでもちろん尊い行動原理ではありますが、しかしそれを忍びと言ってよいものか? 主を持たず己の目的のために戦う者は、忍びというより能力者と言うべきではないか……そう感じます。

 いや、本作においては異能者=忍者ということなのかもしれません(ある意味それは世間の山風作品に対するイメージの一つの典型ではあります)。
 しかしそうだとすれば、本当の意味のでの異能者である成尋衆と忍者たちの間の差異はどこにあるのか――それがこの漫画版ではぼやけてしまっていると感じます。

 もちろん「忍法」vs「魔術」は夢の対決、そちらに振り切った物語も普段であれば大歓迎であります。
 しかし本作は(ややこしい関係であるとはいえ)、山風忍法帖を――忍者たちが主命のためにその技を浪費し、物のように死んでいく無常無情の様を、そしてその中で逆説的に描かれる人間性を描いた物語の、その流れを汲むものではなかったでしょうか。

 少なくとも、愛し合いながらも殺し合うほかなかった二人の姿『バジリスク 甲賀忍法帖』の続編である本作からは「時代は変わった――」という言葉などでは拭えない強烈な違和感が感じられるのです。
 果たして本作で描かれるのは「忍者」たちの戦いなのかと……

(原作にはこうした印象はなかったので、これは漫画版の演出によるものでしょう)。


 と、正直に申し上げて扱いに困ってしまったこの第1巻なのですが、先に述べたスピーディーな展開(この巻だけで少年編が終わってしまう)は良いと思いますし、漫画版独自の、響を襲う運命の凄まじさには、「こう来たか!」と驚かされたところであります。

 別途ご紹介する第2巻では本格的にバトルも始まり、これはこれで――とようやく割り切りがつきましたので、今回ご紹介した次第です。


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 『バジリスク 桜花忍法帖』 第1話「桜花咲きにけり」
 『バジリスク 桜花忍法帖』 第2話「五宝連、推参す」

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