「眠り猫 奥絵師・狩野探信なぞ解き絵筆」 奥絵師探偵、幽霊を追う
将軍家斉の御前で描く題材に悩んでいた奥絵師・狩野探信の元に持ち込まれた一幅の幽霊画。絵の祟りで怪死したという作者が、かつて淡い想いを寄せた娘の父だと知った探信は、彼女のために真相を探るが、その先には、ある歌舞伎役者を巡る怪事件があった…
狩野探信、鍛冶橋狩野家の七世にして、世には「守道探信」と呼ばれた(二世にも探信がいたため区別してこう呼ばれます)この人物は、当代切っての名手と呼ばれた絵師。この探信を探偵役に据えた時代ミステリが、本作であります。
本作で描かれる探信のキャラクターは、ただ伝統の絵を手本として臨模(模写)するばかりの画風や、一門の間で繰り広げられる権力闘争に辟易して、お守り役で幼なじみの小平太と共にしょっちゅう家を飛び出して遊び歩いては、先代たる父に雷を落とされているというちょっと締まらない人物。
しかし既存の地位に拘泥しない、そして自由な心を持った探信のキャラクターは、本作のような一風変わった時代ミステリの探偵役としては、なかなか似合いであります。
その探信がここで挑むことになるのは、凄惨な幽霊画を遺して怪死した絵師の謎。探信も驚くほどの緻密な、まるで「本物」を模写したような絵は、どのようにして描かれたのか。そして絵師の死は、この絵と関係しているのか。
謎はこれだけに留まらず、三年前に芝居茶屋で起きた殺人事件や、ある演目の度に不思議な失敗を見せる歌舞伎役者と、彼を狙う謎の影の出没まで絡んで、複雑怪奇な様相を見せることになります。
一見無関係に見えるこれらの事件に共通するのは「幽霊」の存在――もちろん本作はあくまでも合理的なミステリ、不思議の陰には揺るぎない真実があります。
…正直なところ、事件そのものはそれほど凄いトリックを使っているというわけではないのですが、しかし一枚の絵が過去を真実を暴き出し、そしてそれが新たなる事件の引き金となるというのは、やはりうまいものだな、と感心いたします。
ミステリの世界では、芸術家探偵というのは少なからず存在するかと思いますが、江戸時代の奥絵師が探偵役というのは相当に珍しいようにも感じられます。
個人的には各章辺りのページ数が少なく、その分場面展開が頻繁なのに些か違和感を感じましたが、その点を除けば、本作はまずはよくできた時代ミステリ。キャラよし設定よし、続編に期待したいところです。
「眠り猫 奥絵師・狩野探信なぞ解き絵筆」(翔田寛 幻冬舎文庫) Amazon

| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)






















最近のコメント