2017.09.20

芝村涼也『鬼変 討魔戦記』 鬼に化す者と討つ者を描く二つの視点

 先に完結した『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズで大いに伝奇時代小説ファン、時代怪異譚ファンを驚かせた作者の新シリーズの登場であります。鬼と化して凶行に走る者たちと、それを討つ者たちの死闘を、作者ならではの視点から描く開幕編です。

 浪人の子であり、父を亡くした後、商家の小僧となった市松。それなりに平穏だった彼の日常は、店の前で行き倒れた物乞い夫婦が、人の良い主人夫婦に保護された日に一変することになります。
 その晩、眠りこけている店の者たちを次々と刺し殺していく何者かの影。間一髪、それに気づき、押入に隠れた市松は、その影が主人夫婦であること、そして物乞い夫婦に身をやつしていた男女が不可思議な技で主人たちを討つ姿を目撃することになるのです。

 自らも口封じに命を絶たれかけたところを、そこに現れた僧に救われ、彼らと同行することとなった市松改め一亮。
 一方、翌朝事件の発生を知り、惨憺たる店の有様を検めた南町奉行所の臨時廻り同心・小磯は、不可解な状況に尋常ならざるものの存在を感じ取り、独自に捜査を始めることになります。

 そして数日後、僧に伴われ、次なる惨劇の現場に立ち会うこととなった一亮。「芽吹いた」者を討つという僧たちは何者なのか。そして何故一亮は彼らに拾われたのか――いつしか一亮は、江戸の命運を左右するという戦いの渦中に身を置くことになるのであります。


 シリーズ開幕編ということでまだまだ謎の多い本作。敵の――いや彼らだけでなく、それに抗する僧たちも――正体や目的の詳細はわからぬまま、物語は展開していくことになります。

 どうやら敵は、いかなる切っ掛けによるものか、「鬼」に変じた、上で述べたように僧たちの言葉でいえば「芽吹いた」人間、そして僧たちは、遙か過去から鬼たちを討ってきた組織の人間……
 そこまではわかるものの、しかし物語を構成する要素の大半は、未だ謎のベールに隠されたままなのであります。

 しかしそれでも、いやそれだからこそ本作は面白い。そう思わせるのは、作者ならではの巧みな物語構成、そして視点設定の妙によるものでしょう。
 それを生み出しているのは、本作が二つの――一つは一亮の、一つは小磯の――視点から語られていくことによるものと感じられます。

 どうやらある種の特殊能力を持っているらしいものの、今のところはごく普通の少年でしかない一亮。そしてベテラン同心としての感覚で、一連の惨事の陰に何かがあるのを察知したものの、その真相を想像するべくもない小磯。
 彼らに共通するのは、それぞれ真相に対する距離に違いはあるものの、今のところは局外者でしかない点であります。すなわち彼らはヒーローでも魔物でもない、ごく普通の人間であり、本作は怪事に巻き込まれたそんな人々の物語なのです。


 この第1巻の時点で見えてくるものを踏まえて考えれば、本作はいわゆる「退魔師」ものであると想像できます。それも、かなりストレートなスタイルのものであると。
 時代ものといわず現代ものといわず、これまで無数に描かれてきた退魔師もの。そのありふれた題材を、本作は局外者の視点から――それも小磯の方は、いわゆる同心ものとしてのフォーマットをきっちり踏まえた上で、描きます。

 そこから生まれるものは、伝奇ものである以前に、時代ものとしての確たるリアリティ――鬼や超人が跋扈する世界を、我々常人の目からは隠された、しかし確かに我々の世界の隣に存在するものと思わせる手触りであります。

 虚実の皮膜ギリギリで展開する物語――それこそが時代伝奇ものの興趣の源であることは間違いありません。
 かつて『半四郎百鬼夜行』シリーズにおいてそれを見事に成し遂げた作者ですが、その手腕は、本作においてもしっかり健在であると言うことができるでしょう。

 この先、この世界で何が起こるのか、一亮と小磯が何を見ることになるのか――興味と期待は尽きない、新たなる芝村伝奇の幕開けであります。


『鬼変 討魔戦記』(芝村涼也 祥伝社文庫) Amazon
鬼変 討魔戦記 (祥伝社文庫)

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2017.09.05

瀬川貴次『百鬼一歌 月下の死美女』 凸凹コンビが追う闇と謎

 ユニークなラインナップが並ぶ講談社タイガに、平安京を舞台とした作品を得意とする瀬川貴次が参戦しました。舞台となるのは長い戦乱が終わったばかりの京の都。和歌狂いの青年貴族と、怪異譚を集める少女が、その都の闇に蠢く怪異と謎を追う物語の開幕であります。

 源平の合戦が終わって数年、世情騒然たる京の都。そんなまだまだ物騒な京の闇の中を開幕早々吟行していたのが、本作の主人公の一人である青年貴族の希家であります。
 和歌をよくする家に生まれ、自らも和歌をこよなく愛する彼は、闇を怖れるでもなく、ひたすら詩作に没頭していたのですが――そんな彼がとある路地で出くわしたのは、花に囲まれた美しい女性の死体だったのです。

 ほどなく彼女を殺した下手人は判明したものの、話に尾ひれが付いて、たちまち怪談めいた物語の目撃者扱いとなってしまった希家。
 その「犯人」は、まだ幼い帝のもとに入内したばかりの中宮に仕える山出しの少女・陽羽。彼女は、中宮が帝の心を掴むために、市井の怪異譚を集めて回っていたのであります。

 そんな中、御所で夜ごと響く不気味な鵺の声。さらに中宮の女房が烏帽子姿の亡霊を目撃し、ついには希家の同僚が何者かに噛み殺される事件までもが発生。
 帝をはじめとする皆が恐怖におののく中、何とか事態を打開すべく、希家と陽羽は一計を案じるのですが……


 『暗夜鬼譚』『鬼舞』といった陰陽師もの、さらには現在も刊行が続く『ばけもの好む中将』など、平安の都を舞台としたコミカルでちょっと恐ろしい物語を得意としてきた作者。
 本作もその流れに属する作品ではありますが、面白いのは場所は平安の都でありつつも、時代は平安ではなく、鎌倉初頭の物語であるという点でしょう。

 源氏と平氏の激しい戦いは終わったものの、国の政の中心は東国に移り、その一方で帝がおわす都でもう一つの政が行われていた時代。
 殺伐とした空気と雅な空気がブレンドされた、何があっても不思議ではない混沌とした時代――本作はそんな世界で繰り広げられる物語なのです。

 そしてその主人公となる希家と陽羽の凸凹コンビなのですが――この希家の和歌狂い、というより和歌バカなキャラクターがまず楽しい。
 副題である月下の死美女を前にして和歌解釈に夢中になっているうちに検非違使にしょっ引かれ、そこでも講釈を続けるうちに、犯人が勝手に恐れ入って自白してしまう――という物語冒頭など、これぞ瀬川節! と言いたくなるような展開なのであります。

 そしてバディとなる陽羽は、まだ都に出て日が浅い下働きながら、バイタリティに溢れる元気少女。敬愛する中宮のためとはいえ、怪異の出そうなところに積極的に突撃していくのは、なかなか将来が楽しみなキャラクターであります。
 そして、実は○○○の孫という出自も伝奇ファン的には大いに魅力的なのです。


 そんな二人が挑むのが御所の鵺騒動。単なる怪異譚かと思いきや、人死にはでるわ中宮の将来にも関わるわとどんどん広がっていく中で唸らされたのは、事件の鍵となる、ある人物の造形であります。
 その詳細は読んでのお楽しみですが、これが作者の作品も含め、これまでほとんど目にしたことのないようなキャラクター(××好きは以前にも強烈なのがいましたが……)。

 描き方によっては面白おかしい扱いになりそうなところ、しかし本作は決して色物として扱うことなく丁寧に、ある種の現代性すら感じさせる人物として描き出します。
 この辺りは、これまでもエキセントリックな趣向の中に叙情性を織り交ぜた物語を描いてきた作者ならでは――と大いに唸らされた次第です。

 そしてこの人物が抱いてきた切ない夢が、思わぬ形で死者を生んでいく皮肉さ、残酷さにも……


 しかしその一方で主人公コンビはやや地味な印象で、もう少し弾けても良かったのではないかな、という部分も正直なところあります(特に希家は思ったよりも常識人なのが……)。

 もちろん舞台となる時代と場所を踏まえつつ、笑いと怪異と謎を織り交ぜ、そしてさらにはそこに関わる人々の想いを掘り下げてみせる点には見るべき点が多いのも間違いありません。
 まだ完全には明かされていない謎、何よりもドキリとさせられるような結末の描写もあり、おそらくは刊行されるであろう今後の物語を、大いに楽しみにしたいところです。


『百鬼一歌 月下の死美女』(瀬川貴次 講談社タイガ) Amazon
百鬼一歌 月下の死美女 (講談社タイガ)

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2017.09.01

重野なおき『信長の忍び』第12巻 開戦、長篠の戦 信長の忍びvs勝頼の忍び

 本願寺との泥沼の戦いを終えた信長の次なる敵は、戦国最強の呼び名も高い武田家。その戦いの地は設楽ヶ原――いわゆる長篠の戦がついに始まることになります。そしてそこで千鳥は宿敵と再会することに……

 長島での一揆勢撫で切りという凄惨な結果を経て、ひとまずの決着を見た本願寺との戦い。とりあえず危機を脱した信長ですが、しかしまだまだ前途多難、次にその前に立ち塞がるのは、父・信玄亡き後も破竹の勢いをみせる武田勝頼の武田家であります。

 信長の同盟者たる徳川家康の領地を侵す武田家に対し、ついに決戦を決意する信長ですが、しかし武田家は最強の敵。信長は必勝のために幾重にも策を巡らせることになります。
 そんな中、信長の命を受けて千鳥が向かった先の鳶ヶ巣山砦で待っていたのは、かつて自分を捕らえ、瀕死の傷を負わせたくノ一・望月千代女で……

 というわけで、どうにもノレなかった長島編とはうって変わり、正当派の(?)武将と武将の合戦が描かれることとなるこの第12巻で描かれるのは、長篠の戦の前編とも言うべき内容。
 長篠の戦といえば、武田騎馬隊の突進を柵で食い止めた織田軍が鉄砲隊三段撃ちで――というのはもはやフィクションとされているわけですが、この巻では現在の通説を踏まえつつ、巷説などを取り入れてドラマチックに展開していくことになります。

 鳥居強右衛門の命を賭けた知らせ、佐久間信盛の偽りの寝返り、酒井忠次の鳶ヶ巣山砦奇襲――ここで描かれるものは、一つの合戦の勝敗を分けるのが、決してその場での武力のぶつかり合いだけではなく、そこに至るまでの人々の働きであることを示していると言えるでしょうか。

 特に信盛の寝返りと忠次の奇襲は、武田家の主力を織田家に有利な戦場に引っ張り出すという策のための伏線として、直接対決以上に意味を持つものなのですから……
(その一方で、ギャグでもやっぱり感動させられる強右衛門の覚悟)

 そしてそのそれぞれにおいても千鳥は活躍することになるのですが――この巻のラストで忠次の奇襲隊に加わった彼女を待ち受けるのは、信玄の忍び改め勝頼の忍び・望月千代女。
 千鳥とは様々な点で対照的な彼女と、忍び同士の宿命の対決が始まったところでこの巻は幕となるのですが――実のところ、この巻のもう一人の主役は、この千代女、というよりも勝頼をはじめとする武田家の人々という印象があります。


 信長の敵となる者たちを、基本的に単純な「敵」、悪役として描くことは少ない本作。その点からすれば、この戦で信長と激突する武田家の人々の描写が、通り一遍のものではないことは大いに頷けるところであります。

 しかも武田家には、すぐ上で述べたように、信長に対する千鳥とも言うべき千代女の存在があるわけで――彼女の目を通して描かれる勝頼や重臣たち、あと長坂釣閑斎の姿がこれまでの敵以上に生き生きとして見えるのはむしろ当然と言えるでしょう。
(さらに言えば同じ作者の『真田魂』第1巻でもこの戦いが描かれているわけで……しかし釣閑斎、あちらでは良いところもあったのに)

 そして千代女が、(たぶん)色恋抜きで主君のために命を賭けるのも、またグッとくるシチュエーションなのであります。


 ともに戦国において強大な力を――優れた家臣たちを――擁しながらも、(ほとんど)覇者となった者と、なれなかった者。その両者の一種代表となる形で前哨戦を繰り広げることとなった千鳥と千代女。
 その戦いの行方は、両家の運命を象徴するものとなるのでは――そんな気もいたします。

『信長の忍び』第12巻(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
信長の忍び 12 (ヤングアニマルコミックス)


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2017.08.28

西條奈加『猫の傀儡』 探偵猫、人間を動かす!?

 猫を題材にした時代小説、それもファンタジー風味の作品は決して少なくはありませんが、本作はその中でも極めてユニークな作品でしょう。というのも主人公は、人間を傀儡として操り、猫に降りかかった面倒事を解決させる猫・ミスジ。本作はそのミスジの一人称で展開する時代ミステリなのであります。

 江戸でも特に猫が多いことから「猫町」と呼ばれる一角。主人公のミスジは、その猫町でも特別な猫しかなれない「傀儡師」であります。
 先代猫の順松が姿を消したことから、新たな傀儡師に選ばれたミスジは、自分の傀儡である人間の阿次郎――商家の次男坊で自称・狂言作家の、普段は長屋で暇をもてあましている男を操り、猫に降りかかった様々な災難、猫絡みの事件を解決していくのです。

 そんな基本設定の本作は、アンソロジー『江戸猫ばなし』に収録された『猫の傀儡師』と、その後『ジャーロ』誌で連載された6話を収録した全7話の連作集であります。

 その表題作『猫の傀儡師』は、とある商家の隠居が育てていた珍しい変種朝顔の鉢を壊したという濡れ衣を着せられた猫を救うために、ミスジと阿次郎が活躍するエピソード。
 鉢が壊された際の状況に違和感を感じ取った一匹と一人は、やがて事件の背後に、ある想いの存在があることを知るのですが……

 と、アンソロジーで読んだ時も群を抜いて面白く感じられた作品ですが、今回読み返してもその印象は変わりません。
 何しろ、傀儡師として人を操るといっても、ミスジはあくまでも普通の猫。少しばかり人間の世界に詳しく、知恵も回るといっても、人間の言葉を喋ったり、人間を洗脳したりなどということはできないのです。

 とすればどうやって阿次郎を操るのか――といえば、それは彼が事件に興味を持ち、真実にたどり着けるように誘導するのみ。
 探偵役として、先に自分の方が真実にたどり着いてもそれを伝えることができない、そして人間に聞き込みしたり、ましてや裁いたりなどできないミスジが、如何に阿次郎を動かすか――という苦心ぶりがスパイスとなって、ミステリとしても猫ものとしても、実にユニークで楽しい作品となっているのであります。

 そして描かれる事件も、このユニークな設定を踏まえつつ、それに留まらない現代にも通じる事件を描いているのが実に面白い。
 幼い少女と共に行方不明になった猫の捜索から、少女の辛い境遇が明らかになる『白黒仔猫』、老猫を可愛がってきた知的障害者の男にかけられた濡れ衣を晴らす『十市と赤』、次々と猫や烏といった小動物を吹き矢で狙い惨殺する犯人を追う『三日月の仇』……

 どの物語も、「日常の謎」的側面を持つと同時に、いつの時代も変わらぬ、人間の心の暗い部分をも浮かび上がらせているのが、強く印象に残るのであります。


 しかし本作は、残る『ふたり順松』『三年宵待ち』『猫町大捕物』では、その趣を大きく変えることになります。連作エピソードとなっているこの3話で語られるのは、ある意味ミスジ自身にも関わる事件なのですから。

 先に述べたように、先代の順松が行方不明となったことから傀儡師となったミスジ。尊敬する兄貴分であった順松の行方を常に気にかけていた彼は、ある日思わぬことから順松の――その傀儡もまた、行方不明となっていたことを知ることになります。

 元々順松という名は、時雨という名のその傀儡が馴染みの芸者の名を取ってつけたもの。しかし猫の順松と同時期に、時雨も人間の順松も行方をくらましていたのです。
 それを知ったミスジと阿次郎が時雨の過去を探る中、明らかになっていく意外な過去と因縁。果たして一匹と一人は消えた二人を見つけ出すことができるのか……

 これまでが単発ものであった中、3話構成ということもあって、なかなかに入り組んだ物語が描かれるこのエピソードですが、しかしここで描かれるのは、ミステリとしての面白さだけではありません。
 ここにあるのは、これまでの物語で積み上げられてきた猫と人間の関係性の、ポジティブな結び付きの姿。そしてそれが本作の締めくくりとして、実にイイのであります。


 一般に猫は犬に比べて薄情だと申します。なるほど、本作においては人間を傀儡に使ってしまおうというくらいですが、しかしそれでも互いの間にはきっと情がある、あって欲しい――そんな願いが、本作には込められているといえるでしょう。

 ユニークな時代ミステリとして、猫と人間の関わりを描く物語として――まだまだこの先の物語を読みたい、そんなことを思わせる快作の誕生であります。


『猫の傀儡』(西條奈加 光文社) Amazon
猫の傀儡(くぐつ)


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2017.08.23

杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第10巻 知りたい、と想う気持ちが暴く秘密

 じゃじゃ馬女学生・菊乃と元伊賀忍びの清十郎のもどかしい恋模様を描いてきた本作も、ついに二桁の大台に達しました。この巻では、清十郎のことを少しでも知りたい菊乃が、清十郎とともに彼の実家の旧知行地に足を運んだことから来る騒動が描かれますが、それが思わぬところに波及することに……

 散々紆余曲折を経た果てに、互いの間に契約などではない真実の愛情があることを確かめ合った菊乃と清十郎。
 元々婚約を交わしていることですし、二人の間に障害はない――と言いたいところですが、しかし菊乃にとっては(そして読者にとっても)まだまだ清十郎のことはわからないことだらけでありますす。

 かくてこの巻のメインとなるのは、清十郎が、彼の旧知行地である荻窪村の庄屋の婚礼に招かれたのを良い機会に、少しでも彼のことを知りたいと同行を申し出た菊乃が巻き込まれる騒動の数々。
 そもそも今でこそ東京で住みたい街として人気の荻窪ですが、この時代では全く以て地方の部類、そんな旧弊が大手を振って通用している土地に開化の先頭を行く女学生たる菊乃が顔を出して、ただですむわけがありません。

 土地の人々の好奇の目やいびりで済むならマシな部類、密室のはずの彼女の部屋で物が動く怪現象が起きたり、どこかで見たような老人の下で花嫁修業をする羽目になったり……
 それだけならまだしも、村が、近隣の農民と不平士族による蜂起のターゲットにされたりと、騒動に次ぐ騒動の連続なのであります。


 というわけで、この巻でもある意味相変わらずの菊乃と清十郎(の周囲)ですが、今回も感心させられるのは、まず、時代背景をきっちりと踏まえた物語展開やガジェットであります。
 特に一揆のエピソードで、庄屋という一揆に狙われる側の視点から描かれる物語に加えて、その一揆が「(旧幕の頃の)作法を知らない一揆」(それ故行動が予測できず恐ろしい)というのが、実に面白いのではありませんか。

 しかしそれ以上に注目すべきは、これもこれまでも同様、明治初期という舞台ならではの時代ものとしての面白さと、何時の時代も普遍的な恋愛ものとしての面白さを、きっちり両立――いや双方を生かした物語作りが為されている点でしょう。

 大好きな相手のことは何でも知りたい、全てを知っておきたい――おそらくは、恋した人間であれば誰にでも共通するであろうこの想い。その想いが、今回菊乃を突き動かしているのは上で述べたとおりですが……
 しかしそれが、これまで清十郎がひた隠してきた彼の最大の秘密――すなわち「清十郎が清十郎になる前の過去」、言い換えれば「清十郎が実は清十郎ではないこと」の証拠暴きに繋がっていくのですから、たまりません。

 この数巻ばかりで少しずつ読者に明かされてきたこの秘密は、間違いなく清十郎にとっては最も菊乃に知られたくないはずのもの。
 己が人に、いや菊乃に愛されることにいまだ馴れない清十郎が、今の自分の名と過去――すなわち今の彼の存在までもが偽りであると菊乃に知られることを怖れていることは間違いありません。

 それが図らずも、愛する人のことは何でも知りたいという乙女心によって揺るがされるとは――清十郎だけでなく、こちらも予想だにしなかった、しかし本作ならではのものと頷くほかない、見事な展開であります。


 しかし時代は、二人の周囲の状況は、あるいは時が解決したかもしれないそんな秘密の存在を巻き込んで、否応なく動いていきます。
 これまで物語の遠景として幾度となく描かれてきた不平士族の反乱。その最大のものが――すなわち西郷の反乱が、いよいよ勃発したのですから。

 清十郎が清十郎になる前の過去を知り、そしてその頃から彼を縛ってきた男「若」によって、その時代のうねりに巻き込まれることとなる清十郎。
 ここで一端が明かされた彼の過去からすれば、絶望的なこの状況から、彼が生還することができるのか。そして何よりも、彼は過去を断ち切り、未来を掴むことが出来るのか……

 ついに「若」の軛から逃れることを決意した清十郎。彼と菊乃の物語の結末もそう遠くはない――そう感じられます。


『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第10巻(杉山小弥花 秋田書店ボニータCOMICSα) Amazon
明治失業忍法帖~じゃじゃ馬主君とリストラ忍者~(10) (ボニータ・コミックスα)


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 杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第7巻 それぞれの欠落感と不安感の中で
 杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第8巻 清十郎を縛る愛と過去
 杉山小弥花『明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第9巻 清十郎の初めての恋!?

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2017.08.21

紗久楽さわ『あだうち 江戸猫文庫』 ブレイクした作者の原点たる作品集

 つい最近『百と卍』でブレイクした紗久楽さわの、デビュー当初から今に至るまでの作品を収録した一冊であります。私は『百と卍』は未読ではありますが、本書に収録された作品が「お江戸ねこぱんち」誌に掲載された頃から大いに気になる作家だっただけに、今回の短編集刊行は実に嬉しいところです。

 全8編が収録されている本書ですが、「おとなのねこぱんち」誌掲載の2作品を除けば、いずれも「お江戸ねこぱんち」誌に掲載されていた作品。一番古い作品が2010年発表、最新は2017年ですから、実に7年間に渡る作者の歩みが収録されていることになります。

 以下、駆け足となりますが、収録作品を紹介いたします。

 『あだうち』は、主の親の仇を50年待ち続けて年老いた男を描く物語。中間であった彼は、身分を超えた友情で結ばれた主と、その弟とともに旅を続けていたものの、主は病で倒れ、さらに弟も仇討ちを止めることを望んで……
 そんな過去を抱える彼の前に現れた者とは、彼の悔恨と執念を洗い流すものとは――互いが相手を想い合いながらもすれ違う悲しみを描いた上で、それが昇華される姿を美しく描いてみせた本作は、表題作に相応しい作品と言って間違いないでしょう。
(そして初読時に色々と考えさせられた主の弟の言葉は、やっぱり……)

 続く『にゃんだかとってもいい日和』は、若い夫婦と猫の騒々しくも温かい日常を描く掌編。
 また『とらとらとら』は、「傾城反魂香」を題材に、なかなか芽が出ずに悩む国芳門下の若き絵師と、恋に恋する年頃の大店の少女の触れ合いを瑞々しく描く物語。文句を言いながらも二人のために骨折りするイケメン手代がイイ味を出しています。

 『しばふね』は、雪見舟に乗った二人の青年の他愛もないやり取りに、思うに任せぬ青春の切ないアレコレを交えて描かれる物語。
 青年の一人が妙に猫に絡まれるという、その理由がまた可笑しくも切ないのです(そしてあとがきを読んで、二人の名前に納得)。

 『かがやくひのみや』は、己を捨てた母を探す旅の途中、おかしな縁から宿場町の女郎屋に一夜の宿を借りた青年僧と、彼の前に現れた子を孕んだ天真爛漫な遊女の物語。
 内容的にはある程度予測できるものの、それでも親を探す子と、子を待つ親の想いが胸を打つのは、作者の時に柔らかさを強く感じさせる絵柄ならではでしょう。結末で描かれる一つの奇蹟が、この上なく美しく感じられる名品です。

 また、妻子を置いて江戸勤番となった青年武士を主人公とする『ふるさと戀し』は、彼の先輩藩士たちの呑気な暮らしぶりがまず楽しい一編。
 そしてその空気に馴染めずにいた青年の前に、やはり勤番であった父を知るという若衆が現れたことから、いつも明るく振る舞っていた父の心中を彼が知り、それが彼を――というのが泣かせるのです。

 あとがきによれば「江戸版『綿の国星』」という『きんととととと』は、なるほど猫耳少女のととが主人公の物語。
 猫でありながら生まれつき人の姿に変じることができる(ただしサイズは猫大で、人間の目には猫にしか見えない)彼女の冒険が、姉猫のきんととの目を通じて微笑ましく描かれます。

 そしてラストの『にゃんだかとっても江戸日和』は、題名から察せられるように『にゃんだかとってもいい日和』の7年後の続編。
 作中でもそれだけの時間が経ったものか、子供が生まれた夫婦と年老いた猫の日常が、温かく描き出される掌編ですが、お歯黒いうこの時代の当然を、違和感なく漫画の絵としてアレンジしているのにも感心します。


 以上、非常に駆け足で紹介しましたが、江戸時代の風俗や古典芸能等を踏まえつつも、時にシャープな線で、時に柔らかい線で描かれる物語の数々は、何度読んでも、何時読んでも魅力的に感じられます。
(ただ、ディフォルメされた猫のビジュアルには違和感があるかもしれません)

 冒頭に述べたとおり、ブレイクした作者の原点として(ちなみに匂わせる以外はBL要素はありません)、是非ご覧いただきたい逸品揃いであります。


『あだうち 江戸猫文庫』(紗久楽さわ 少年画報社ねこぱんちコミックスねこの奇本) Amazon
あだうち 江戸猫文庫 (ねこぱんちコミックス ねこの奇本)

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2017.08.10

入門者向け時代伝奇小説百選 鎌倉-室町

 初心者向け時代伝奇小説、今回は日本の中世である鎌倉・室町時代。特に室町は最近人気だけに要チェックです。
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子) 【ミステリ】 Amazon
 鎌倉時代の京を舞台に、「新古今和歌集」の歌人・藤原定家と、藤原頼長の孫・長覚が古今伝授の謎に挑む時代ミステリであります。
 古今伝授は「古今和歌集」の解釈に纏わる秘伝ですが、本作で描かれるのは、その中に隠された天下を動かす大秘事。父から古今伝授を受けるための三つの御題を出された定家がその謎に挑み、そこに様々な陰謀が絡むことになるのですが……
 ここで定家はむしろワトソン役で、美貌で頭脳明晰、しかし毒舌の長覚がホームズ役なのが面白い。時に極めて重い物語の中で、二人のやり取りは一服の清涼剤ともなっています。

 政の中心が鎌倉に移ったことで見落とされがちな、この時代の京の政争を背景とするという着眼点も見事な作品であります。

(その他おすすめ)
『華やかなる弔歌 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子) Amazon
『月蝕 在原業平歌解き譚』(篠綾子) Amazon


57.『彷徨える帝』(安部龍太郎) Amazon
 南北朝時代の終結後、天皇位が北朝方に独占されることに反発して吉野などに潜伏した南朝の遺臣――いわゆる後南朝は、時代伝奇ものにしばしば登場する存在です。
 本作はその後南朝方と幕府方が、幕府を崩壊させるほどの呪力を持つという三つの能面を求めて暗闘を繰り広げる物語であります。

 この能面が、真言立川流との関係でも知られる後醍醐天皇ゆかりの品というのもグッと来ますが、舞台が将軍義教の時代というのも実に面白い。
 ある意味極めて現実的な存在たる義教と、伝奇的な存在の後醍醐天皇を絡めることで、本作は剣戟あり、謎解きありの伝奇活劇としての面白さに加え、一種の国家論、天皇論にまで踏み込んだ骨太の物語として成立しているのです。

(その他おすすめ)
『妖櫻記』(皆川博子) Amazon
『吉野太平記』(武内涼) Amazon


58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 混沌・殺伐・荒廃という恐ろしい印象の強い室町時代。本作は、それとは一風異なる室町時代の姿を、妖術師と使用人のカップルを主人公に描く物語です。

 南都(奈良)で金貸しを営む青年・楠葉西忍こと天竺ムスル。その名が示すように異国人の血を引く彼には、妖術師としての顔がありました。そのムスルに、借金のカタとして仕えることになった少女・葉月は、風変わりな彼に振り回されて……

 「主人と使用人」もの――有能ながらも風変わりな主人と、彼に振り回されながらも惹かれていく使用人の少女というスタイルを踏まえた本作。
 それだけでなく、「墓所の法理」など、この時代ならではの要素を巧みに絡めて展開する、極めてユニークにして微笑ましくも楽しい作品であります。


59.『妖怪』(司馬遼太郎) Amazon
 室町時代の混沌の極みであり、そして続く戦国時代の扉を開いた応仁の乱。最近一躍脚光を浴びたその乱の前夜とも言うべき時代を描く作品です。

 熊野から京に出てきた足利義教の落胤を自称する青年・源四郎。そこで彼は、八代将軍義政を巡る正室・日野富子と側室・今参りの局の対立に巻き込まれることになります。それぞれ幻術師を味方につけた二人の争いの中で翻弄される源四郎の運命は……

 どこかユーモラスな筆致で、源四郎の運命の変転と、奇妙な幻術師たちの暗躍を描く本作。しかしそこから浮かび上がるのは、この時代の騒然とした空気そのもの。「妖怪」のように掴みどころのない運命に流されていく人々の姿が印象に残る、何とも不思議な感触の物語であります。


60.『ぬばたま一休』(朝松健) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 最近にわかに脚光を浴びている室町時代ですが、この20年ほど、伝奇という切り口で室町を描いてきたのが朝松健であり、その作品の多くで活躍するのが、一休宗純であります。

 とんち坊主として知られてきた一休。しかし作者は彼を、優れた禅僧にして明式杖術の達人、そして諧謔味と反骨精神に富んだ人物として、その生涯を通じて様々な姿で描き出します。

 悍ましい妖怪、妖術師の陰謀、奇怪な事件――室町の闇が凝ったようなモノたちに対するヒーローとして活躍してきた一休。
 その冒険は長編短編多岐に渡りますが、シリーズタイトルを冠した本書は、バラエティに富んだその作品世界の入門編にふさわしい短編集。室町の闇を集めた宝石箱のような一冊であります。

(その他おすすめ)
『一休破軍行』(朝松健) Amazon
『金閣寺の首』(朝松健) Amazon



今回紹介した本
藤原定家●謎合秘帖 幻の神器 (角川文庫)彷徨える帝〈上〉 (角川文庫)南都あやかし帖 ~君よ知るや、ファールスの地~ (メディアワークス文庫)新装版 妖怪(上) (講談社文庫)完本・ぬばたま一休


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 仲町六絵『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』 室町の混沌と豊穣を行く青年妖術師
 「ぬばたま一休」 100冊の成果、室町伝奇の精華

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2017.08.06

せがわまさき『十 忍法魔界転生』第11巻 浅ましき「敵」との戦いの末に

 原作通りの天草四郎のあっけない最期と、原作にはない意外なゲストキャラの登場が描かれた前巻。しかし四郎の残した呪いの言葉に衝撃を受けた十兵衛を含め、プレイヤーが入り乱れた状態で道中双六はなおも続きます。そしての果てに待つのは、その十兵衛の最も恐れる相手であります。

 粉河寺での決闘の末、お品を喪い、そして四郎を倒した十兵衛。しかし四郎が今際の際に十兵衛に告げたのは、残りの転生衆の中に、彼の父・宗矩がいることでした。
 仮に父が加わっているとすれば、紀州大納言・頼宣の陰謀を明らかにするわけにはいかない。悩んだ末に十兵衛は、密書を託した弥太郎を柳生十人衆の二人に追わせ、自分たちは、なおもお雛を捕らえた頼宣一行を追うことになります。

 というわけで、和歌山から柳生にかけて入り乱れる敵味方は、
・十兵衛と柳生十人衆(いわば本隊)
・頼宣一党と転生衆三名
・弥太郎
・弥太郎を追う十人衆
・弥太郎を追う根来衆
となかなかにややこしい状況。

 幸いと言うべきか、この辺りの状況はテンポよく展開していくのですが……ついに柳生に弥太郎がたどり着き、これはこれで一大事――となったところに出現したのはかつての柳生の主・宗矩。
 かつての家臣を、門人たちを無惨に斬り捨て、捕らえた弥太郎を責め苛む宗矩に対し、十兵衛は(自分たちが望んだとはいえ)お縫、おひろをただ二人で敵陣に遣わすという非情の奇策を取るのでした。

 それこそは父・宗矩おびき出しの策。宗矩の父、自分にとっては祖父たる石舟斎が遺した、新陰流正統の秘奥書と三人娘の引き替えを持ちかける十兵衛ですが、しかし魔人と化した宗矩が、それを黙って受け入れるはずもありません。
 かくて、皮肉にも宗矩の墓のある法徳寺を舞台に、父子の禁断の決闘が始まることに……


 というわけで、毎回クライマックスの本作でも特に山場とも言うべき十兵衛と宗矩の決闘。
 同門対決という点では既に如雲斎とのそれが描かれていますが、しかし今回のそれは、それ以上に父と子というより大きな要素が加わっていることで、非常に重いことは言うまでもありません(深作版ではラストバトルなのもむべなるかな)。

 ……が、そのドラマ性も、当の宗矩が変態ツインテじじいとなってしまったことで、だいぶ薄れてしまった印象は否めません。
 確かに漫画的には、精神の怪物性を示す意味でも必要なデコレーションなのだとは思いますが、しかしそれによって、「父と子」が死闘を繰り広げるという悲劇性は薄まり、「ヒーローと敵」の戦いの色がより強くなってしまったようにも感じられます。

 とはいえ、謹厳実直を絵に描いたような人物が、かような変態めいた姿になり、幽冥の境を越えての再会を喜ぶどころか、青筋立てて相伝書をよこせと迫る姿は、ただ浅ましいとしか言いようがありません。
 そんな父を目の当たりにした十兵衛の心中を思えば、胸が塞がるばかりで、決着の後に彼の隻眼に光るものがあったことは、これはもう当然というほかありません。
(それでもなお、一種の「ゲーム」をここで仕掛けるしかなかった非情!)


 しかしそれでもなお、魔界転生衆との戦いは続きます。三人娘奪還は果たせず、心に深い傷を負った十兵衛に何ができるのか。彼女たちに頼宣の毒牙が迫る中、それを止めることができる者はいるのか……

 残る転生衆は荒木又右衛門と宮本武蔵の両巨頭。いよいよクライマックスも近づいてきたと言うべきでしょうか。


 そして頼宣といえば、この第11巻の表紙は頼宣。この巻では魔界転生は不要とすら言い放つ頼宣ですが、彼もまた転生衆並みのビジュアルゆえ、それに妙なおかしみが沸いてしまうのは、これはもちろん個人の感想ですが……

 しかし偶然とはいえ、冒頭とラストの両方で落花狼藉に及ぼうとする姿が描かれるのも、なんとも。


『十 忍法魔界転生』第11巻(せがわまさき&山田風太郎 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon
十 ~忍法魔界転生~(11) (ヤングマガジンコミックス)


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2017.07.21

『お江戸ねこぱんち 夢花火編』 顔ぶれは変わり、そして新しい魅力が

 前回の紹介から非常に間があいてしまった上に、本号の発売からも一ヶ月遅れの紹介ということで誠に恐縮なのですが――久々の『お江戸ねこぱんち』誌の紹介であります。リニューアル後でだいぶ作品の顔ぶれは変わった本書、印象に残った作品を紹介いたします。

『平賀源内の猫』(栗城祥子)
 タイトル通り、あの平賀源内と彼の猫を中心としたシリーズの最新作であります。
 真っ昼間から日本橋通りに物の怪が出るという噂が流れる中、頭でっかちの田沼意知に下々の暮らしを(強引に)体験させるために一肌脱ぐことになった源内。。そこにさらに意知からは白眼視されている、農民から田沼家の用人になった三浦庄司が絡んで……

 と、「日本橋の物の怪」「意知の庶民体験」「三浦という人間の価値」という、あまり関係のなさそうな(そして一つ一つは比較的ありがちな)三つの要素が描かれることなる本作。しかし、ある病の存在を繋ぎとして、やがてそれらがきっちりと絡み合って、一つの大きな物語を作り上げるのには大いに感心させられました。

 ちなみに三浦庄司、作中では農民気質丸出しのユニークな人物として描かれていますが、実在の人物というのが面白いところであります(作中とは全く異なる人物像ですが……)


『雨のち猫晴れ』(須田翔子)
 江戸の人情を題材とした物語が中心、それも想定読者層はある程度の年齢の女性ということもあってか、「長屋の若夫婦と猫」を題材とした作品が非常に多かった本書。
 その中でも本作は、主人公の若妻・お珠の浮き世離れしたキャラクターとやわらかな絵が相まって、印象に残る作品であります。

 長屋の生活で彼女が苦労するたびに、こんな品物があればいいのに……と現代では実用化されている品物(洗濯機とか電話とか)を妄想するという要素は、正直なところそれほど効果的に機能しているとは言い難いものがあります。
 しかし、実は彼女は駆け落ちの身だった(それゆえある意味後がない身の上)という変化球が、物語のよいアクセントになっていたかと思います。


『のら赤』(桐村海丸)
 遊び人の赤助と江戸の人々の日常を、良い意味でダラダラとしたタッチで描く連作シリーズ、今回は馴染みの遊女から信州そばが食べたいとねだられて町に出た赤助が、猫に異様にモテるナルシストの蕎麦屋という珍妙な男と出会って――というお話。

 本当に二人が馬鹿話をするだけの内容なのですが、それが妙に、いや非常に楽しいのは、作者の緩くて暖かい絵柄の力によるところ大でしょう。なんだか落語のような皮肉なオチも愉快であります。


『物見の文士外伝 冥土に華の』(晏芸嘉三)
 この世ならざるものが見えてしまう文士を主人公とするシリーズの外伝たる本作は、『物見の文士 柳暗花明』に登場した、彼岸と此岸の間の異界の吉原から始まる物語。
 浮世の未練を抱えた魂がたどり着くこの地の顔役的な存在の女・八千代が、心中に失敗して自分だけ命を落とした岡場所の娘・初の未練を晴らすべく奔走いたします。

 初の心中の相手は厳格な武家の嫡男・重太郎。親の反対で心中を選んだものの、自分一人生き残ってしまった彼がどのような行動を取るか……
 予想通りの行動に対し、現世に干渉できない(それは八千代も同様)初が、いかにして彼を救うか、というクライマックスが――猫を絡めたことでちょっと騒々しくなったものの――読ませてくれます。


 その他、『にゃんだかとっても江戸日和』(紗久楽さわ)は、これも「長屋の若夫婦と猫」ものですが、お歯黒と眉剃りという、この時代の当然を、違和感なく漫画の絵としてアレンジしているのに感心させられます。

 また、『猫と小夜曲』(北見明子)は、比較的シンプルな物語ながら、主人公の盲目の元侍にのみ感じられる猫という存在を絡めることでラストを盛り上げるのが巧みな作品。
 そして『若様とねこのこ』(下総國生)は、タイトル通りの一種の若様もの的な内容はシンプルながら、画という点ではかなりの完成度で……

 と、初期に比べれば執筆陣はそれなりに入れ替わっているものの、それでもこの『お江戸ねこぱんち』が、様々な、新しい魅力のある漫画誌であることは間違いありません。もちろん、今後の展開にも期待であります。


『お江戸ねこぱんち 夢花火編』(少年画報社にゃんCOMI廉価版コミック) Amazon
お江戸ねこぱんち夢花火編 (にゃんCOMI廉価版コミック)


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2017.07.11

ほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第4巻 混迷する少女久秀と世界の運命

 タイムスリップ女子高生ものと、人外信長もの――時代ものでは比較的メジャーな(本当に?)二つを合体させたら大変なことになってしまった本作、松永久秀になってしまった主人公・ひさきと、彼女を愛する吸血鬼・信長が織りなす歴史は、様々な横やりのおかげで混迷を極めることとなります。

 何者かの手によって戦国時代に招かれた現代の女子高生・ひさきと、彼女を庇護した吸血鬼の王・三好長慶によって、瀕死となったところを救われ、吸血鬼となった信長。
 長慶によって、今は行方不明の腹心・松永久秀の名を与えられたひさきは、久秀の実の弟・長頼に支えられながら都で暮らすことになります。

 そんな中、実は戦国のヴァンパイアハンターであった真・久秀によって、三好一族は次々と斃される事件が発生。長慶はいずこに姿を消してしまい、残された吸血鬼と人間のハーフ・三好義継が大暴走して将軍義輝を襲撃、ひさきはその罪を着せられ、そして長頼は瀕死の深手を負うことに……


 と、大筋は合っているにもかかわらず、ディテールでは本当に大変なことになっている本作。

 大変な中でもひさきラブの信長は吸血鬼の瞬間移動能力で彼女にまとわりつき、ひさきと一緒にタイムスリップして家康役になってしまった幼なじみのはじめは、歴オタの知識を活用して彼女を支え……
 と、役に立っているのかいないのか微妙な男どもはさておき、ひさきはこの世界で生き抜き、少しでも犠牲を減らすために、今日も戦いを続けることになります。

 しかしそんな決意を胸にした彼女が演じるのが、よりによって松永久秀というのは運命の皮肉、というより悪意。東大寺での戦いに引きずり込まれた彼女は、歴史通りに大仏を焼いた人間という汚名を着せられることになってしまうのです。
(そんな中で、大仏消火よりも人命救助を優先したり、結果として大仏がなくなって大ショックを受けたりする彼女の姿は、それはそれである種のリアリティがあるかも……と妙な感心をさせられます)

 しかしこの世界を支配する運命は、さらに彼女を、そして信長をはじめとするこの時代の人々を振り回します。
 物語から一度は退場したあの人物この人物が、異なる名を得て再び歴史の表舞台に登場。さらに舞台は近畿と東海だけかと思いきや甲州にも広がり、あの超大物が、妖魔と手を組んで暗躍。そして信長の忠臣かと思われた秀吉もまた……

 と、異形の戦国ものとしても楽しくなってきてしまった本作。
 終盤では長慶改め○○○○が、この手の作品では本当に禁句なことを言い出して「おいっ!」とツッコミたくなりましたが、この辺りの成り行きも含め、想像以上に本作の世界は(もちろん面白い方向に)広がってきたと言わざるを得ません。

 その一方でラストには、そういえばこの人のことを完璧に忘れていた――な濃姫が登場。ひさきと信長との三角関係も気になるところで、本当にあらゆるところで先の読めない、先が楽しみな作品なのです。


 ちなみにこの巻で初登場したキャラクターの一人が、かの服部半蔵。しかしこの半蔵、一応常人ながらキャラの濃さが半端ではなく、こちらも要チェックであります。


『戦国ヴァンプ』第4巻(ほおのきソラ 講談社KCx(ARIA)) Amazon
戦国ヴァンプ(4) (KCx)


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