2017.05.23

玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第2巻 復讐の果てに待つ「システム」の姿

 親友と信じていた男に全てを奪われた男・怨ノ介が、人の命を食らう魔刀の化身である美少女とともに繰り広げる、復讐と魔刀狩りの物語の完結編であります。怨敵の潜む地にたどり着いた怨ノ介を待っていた意外な真実――日本刀の起源にまつわる怨念のメカニズムと対峙することとなった怨ノ介の運命は?

 かつてはとある藩の藩主でありながら、親友と信じていた男・多々羅玄地に欺かれて身分を、国を、全てを奪われた末に無残に年老いた怨ノ介。
 死を目前とした時、美しい少女が憑いた謎の刀・不破刀を手にした彼は、怨念により「冥府魔刀」と化した刀とその持ち主を斬ることと引き換えに一時的に若さを取り戻し、その力で以って玄地を追う旅に出ることになります。

 そんな本作の第2巻で描かれるのは、玄地が故郷である津軽に潜むことを知り、決着を着けるために一路北に向かう怨ノ介の姿。
 しかしもちろん、その途中の旅も平穏無事で済むわけがありません。病で倒れたところを不破刀を盗まれ、上意討ちで揺れるさる藩の暗部に巻き込まれ、強者を求めて悪事を働く破天荒な男に絡まれ――と、トラブルの連続であります。

 そんな単発エピソードの連続である前半を経て、後半では、いよいよ怨ノ介と玄地の対峙が描かれることになるのですが――しかし、そこで物語は、思いもよらぬ姿を見せることになります。

 津軽に入る直前、津軽の巌鬼山神社に魔刀を封じるという月山鍛冶の一団と出会い、彼らが奉じる全ての刀鍛冶の祖・鬼王丸こそが多々羅玄地であることを知った怨ノ介。
 しかし神社で彼を待っていたのは、「多々羅玄地」と、不破刀と瓜二つの姿を持つ玄地の娘――ここに至り、物語は怨ノ介個人の復讐行から、日本刀の起源に、そしてそこから始まる恐るべき怨念と復讐の連鎖を語るものへと変貌していくのであります。


 全てを奪われた男の復讐行というのは、古今東西の物語に幾度も現れるモチーフであり、時代劇においても数多く描かれてきたことは言うまでもありません。
 本作もその系譜に属するものではありますが――しかし本作は、その物語のためのガジェットと思われた魔刀の存在に光を当てることで、ある種の歴史ものとしての真の顔を見せることになります。

 そもそも本作において、(一種メタな視点での)最初の、最大の疑問は、何故怨ノ介が老人として登場するのか――言い換えれば、復讐に着手するまでに長いブランクがあるのか、ということでした。
 それはもちろん、怨ノ介が不破刀を手に魔刀使いと戦い、相手の命を奪うための理由付けではあるのですが、しかし本作は怨ノ介が「玄地」と対峙するクライマックスにおいて、長き時間に渡る怨念の存在を、全く意外な形で繰り返し、裏返して見せるのです。

 この壮大などんでん返しは、ぜひ実際にご覧いただきたいのですが、ここで浮かび上がるのは、一種の「システム」とでも言うべきもの。連載時に本作を追ってきた身であっても、その凄まじい構図は、圧巻と言うほかありません。

 そしてそれを踏まえて読み返してみれば、改めて様々な発見がある物語であります。
 たとえば、このクライマックスに至るまでの単発エピソードの多くにおいて描かれてきたのは、形こそ違え「システム」に囚われ、磨り潰されていく者たちであったこと。そしてそれだからこそ、本作のラストを飾る人物は「彼」であるべきことなど……


 わずか2巻という分量にもかかわらず、その中でジャンルの定型を超えた物語を描いてみせた本作。この作者ならではの、精緻な、そして壮大な物語であります。


『怨ノ介 Fの佩刀人』第2巻 (玉井雪雄 リイド社SPコミックス) Amazon
怨ノ介 Fの佩刀人 2 (SPコミックス)


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 玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第1巻 復讐鬼と刀剣女子の死闘旅……?

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2017.05.09

入門者向け時代伝奇小説百選 SF

 入門者向け時代伝奇小説百選、今回紹介するのはSF編。いずれもその作品ならではの独自の世界観を持つ、個性的な顔ぶれです。
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

36.『寛永無明剣』(光瀬龍)【江戸】【剣豪】 Amazon
 大坂の陣の残党を追う中、何故か柳生宗矩配下の襲撃を受けた北町奉行所同心・六波羅蜜たすく。一つの集落そのものを消し去り、幕府要人たちといつの間にかすり替わっているという謎の強大な敵の正体とは……

 と、歴史改変テーマの時代SFを数多く発表してきた作者の作品の中でも、完成度と意外性という点で屈指の本作。
 奇怪極まりない陰謀に巻き込まれた主人公の活躍だけでも、時代小説として実に面白いのですが、しかしそれだけに、中盤に物語の真の構図が明らかになるその瞬間の、一種の世界崩壊感覚は、本作ならではのものであります。

 そしてその先に待つのは、あまりにも途方もないスケールの秘密。まさに「無明」と呼ぶほかないその虚無感と悲哀は、作者ならではの味わいなのであります。

(その他おすすめ)
『多聞寺討伐』(光瀬龍) Amazon


37.『産霊山秘録』(半村良)【戦国】【江戸】【幕末-明治】 Amazon
 時代伝奇SF、いや伝奇SFの巨人とも言うべき作者の代表作である本作は、長き時の流れの中で、強大な超能力を持つ「ヒ」一族の興亡を連作形式で描く壮大な年代記であります。

 戦国時代に始まり、江戸時代、幕末、そして第二次大戦前後に至るまで……強大な異能を活かして、歴史を陰から動かしてきたヒの一族。高皇産霊尊を祖と仰ぐ彼ら一族の血を引くのは、明智光秀、南光坊天海、猿飛佐助、坂本竜馬、新選組……と錚々たる顔ぶれ。
 そんなヒの一族が如何に歴史に絡み、動かし、そして滅んでいくのかを描いた物語は、まさに伝奇ものの興趣横溢。最後にはアポロの月面着陸まで飛び出す奇想天外な展開には、ただ圧倒されるばかりなのです。

 そしてそんな物語の中に、生命とは、生きることとは何か、という問いかけを込めるのも作者ならではであります。


38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)【江戸】【ミステリ】 Amazon
 アニメ界の生きる伝説であり、同時にミステリ、ジュブナイルを中心に活躍してきた作者が描いたジャンルクロスオーバーの快作であります。

 22世紀の未来から、享保年間にやってきた五人の高校生+顧問の航時部。彼らは、江戸に到着早々、二つの密室殺人事件に巻き込まれることになります。それぞれ個性的な能力を持つ彼らは特技を活かして事件解決に乗り出すのですが――
 とくれば、未来人が科学知識を活かして江戸時代で事件捜査を行う一種の時代ミステリになると思われますが、その先に待ち受けているのは、様々なジャンルが入り混じり、謎が謎呼ぶ物語。

 「過去」と「未来」が交錯するその先に、思わぬ形で開く「現在」への風穴にはただ仰天、齢八十を超えてなお意気衰えぬ作者が現代の若者たちに送る、まさしく時代を超えた作品であります。

(その他おすすめ)
『戦国OSAKA夏の陣 未来S高校航時部レポート』 Amazon


39.『大帝の剣』(夢枕獏)【江戸】【剣豪】 Amazon
 伝奇バイオレンスで一世を風靡した作者が、時代伝奇小説に殴り込みをかけてきた、記念すべき大作であります。

 主人公は日本人離れした容姿と膂力を持ち、背中に大剣を背負った巨漢・万源九郎。その剣を頼りに諸国を放浪する彼が出会ったのは、奇怪な忍びに追われる豊臣家の娘・舞。しかし彼女の体には、異星からやってきた生命体・ランが宿っていたのであります。
 かくて源九郎の前に現れるのは、徳川・真田両派の忍びに切支丹の妖術師、宮本武蔵ら剣豪、そして不死身の宇宙生物たち……!

 無敵の剣豪が強敵と戦うのは定番ですが、その敵が宇宙人というのはコロンブスの卵。そしてそこに「大帝の剣」を含む三種の神器争奪戦が絡むのですから、面白くないはずがありません。終盤には人類の歴史にまで物語が展開していく実に作者らしい野放図で豪快な物語です。

(その他おすすめ)
『天海の秘宝』(夢枕獏) Amazon


40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)【幕末-明治】 Yahoo!ブックストア
 ハチャハチャSFを得意としながらも、同時に古典SF研究家として活動し、さらに明治時代を舞台としたSFを描いてきた作者。本作はその作者の明治SFの中心人物である実在のSF作家・押川春浪と、その弟子筋の若き小説家・鵜沢龍岳(こちらは架空の人物)を主人公とした短編集であります。

 明治時代の新聞の切り抜きを冒頭に掲げ、春浪自身が経験した、あるいは耳にした、この記事にまつわるエピソードを龍岳が聞くという聞くというスタイルの短編12篇を納めた本書は、いずれも現実と地続きの世界で起きながら、この世の者ならぬ存在がひょいと顔を出す、すこしふしぎな(まさにSF)物語ばかり。
 内容的にはあっさり目の作品も少なくないのですが、ポジでもネガでもない明治を、SFという観点から掘り起こしてみせたユニークな作品集です。

(その他おすすめ)
『火星人類の逆襲』(横田順彌) Amazon



今回紹介した本
寛永無明剣 (角川文庫)産霊山秘録 上の巻<産霊山秘録> (角川文庫)未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団 (講談社ノベルス)大帝の剣 1 (角川文庫)押川春浪回想譚 (ふしぎ文学館)


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 入門者向け時代伝奇小説百選

 「寛永無明剣」 無明の敵、無明の心
 『未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団』 未来の少年少女が過去から現在に伝えるもの
 夢枕獏『大帝の剣 天魔望郷編』 15年ぶりの復活編
 「押川春浪回想譚」 地に足の着いたすこしふしぎの世界

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2017.05.04

入門者向け時代伝奇小説百選 怪奇・妖怪(その二)

 初心者向け時代伝奇小説百選、怪異・妖怪ものの紹介の後半は、これまで以上にユニークで新鮮な作品が並びます。

31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)
32.『妖草師』シリーズ(武内涼)
33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)
34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)
35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)


31.『素浪人半四郎百鬼夜行』シリーズ(芝村涼也)【江戸】【剣豪】 Amazon
 真っ正面から人間と怪異との対決を描いて同好の士を唸らせた作品が本作であります。
 主人公・榊半四郎はある事件がきっかけで主家を捨て江戸に出た青年。絶望から死を選ぼうとした時、不思議な力を持つ老人・聊異斎と謎の小僧・捨吉と出会った彼は、この世を騒がす様々な怪異に挑むことに――

 故あって浪人となった主人公が周囲の人々に支えられ、市井の事件に挑むという本作のスタイルは、文庫書き下ろし時代小説の王道であります。しかし本作はその骨格に時代ホラーを乗せ、しかも非常に高いクオリティで融合させている作品。
 特にそのオリジンも含め驚くほどバラエティに富んでいる怪異の数々は必見です。

 そして物語は市井の妖怪退治から、どんどんスケールアップ、ラストはある史実を背景に世界の存亡を賭けた戦いが描かれることになります。
 つい先日、大団円を迎えた本作、今一番読んでいただきたい作品の一つです。


32.『妖草師』シリーズ(武内涼)【江戸】 Amazon
 「この時代小説がすごい! 2016」の文庫書き下ろし部門で見事一位を獲得した本作は、この作者ならではのユニークな伝奇活劇です。

 実家を勘当され、京の市井で暮らす庭田重奈雄。彼の真の姿は妖草師――この世に芽吹いた奇怪な能力を持つ常世の草花・妖草を刈る者であります。
 時に人間の強い想いに反応し、時に邪悪な術者に操られてこの世に現れる妖草に対し、重奈雄は同じく妖草を操って戦いを挑むのです。

 デビュー以来、作中に必ずと言ってよいほど豊かな自然の姿を描いてきた作者ですが、本作はそれを一ひねりした異形の植物ホラーとでも言うべき作品。
 登場する様々な妖草の存在と、それに自らも妖草を武器にして挑むと重奈雄の戦いが実にユニークなのですが、彼を助けるのが曾我蕭伯や池大雅ら、当時の一流文化人というのにも注目であります。


33.『古道具屋皆塵堂』シリーズ(輪渡颯介)【江戸】 Amazon
 怪談とミステリを見事に融合させた『浪人左門あやかし指南』シリーズでデビューした作者による本作は、深川のおんぼろ古道具屋を舞台とするユニークな作品です。

 釣り狂いの主人・伊平次が適当に営む皆塵堂は、実は曰く付きの品物ばかり集めている上に、店になる前に住人が惨殺されたというヤバすぎる場所であります。
 そこに修行に出されたのは、生まれつき幽霊が見える体質の太一郎。果たして彼は次から次へと恐ろしい目に遭わされることに……

 エキセントリックな登場人物たちが、様々な幽霊に振り回される姿を描く、恐ろしくもどこかすっとぼけた味わいの本作。それでいてこの第一作以降、皆塵堂で働いた若者は、みな得難い経験をして成長していくというのもユニークです。
 大いに怖くてちょっとイイ話というべき怪作、いや快作です。

(その他おすすめ)
『溝猫長屋 祠之怪』(輪渡颯介) Amazon


34.『人魚ノ肉』(木下昌輝)【幕末-明治】 Amazon
 デビュー作を含む『宇喜多の捨て嫁』でいきなり直木賞候補となった作者の第二作は、真っ正面からの時代伝奇ホラー。食べた者は不死になるという人魚伝説と、坂本竜馬や新撰組を組み合わせた悪夢の世界であります。

 幼い頃、土佐の浜に打上げられた人魚の肉を食べた竜馬が、寺田屋で最期を迎えた時に知った恐るべき不死の正体を皮切りに、短編連作形式で展開する本作。
 そして、その人魚の肉を食べてしまった新撰組の面々を襲うのは、不死どころか、異能・異形の者に変じていくという怪異。 百目鬼、吸血鬼、生ける屍、禁断の儀式、首なし騎士、ドッペルゲンガー……この題材でよくぞここまで! と言いたくなるほどの怪異のオンパレードです。

 しかしそんな地獄絵図の中でも、さらりと人間の強さ、善性を描いてくるのも素晴らしい。刺激的ながら魅力的な短編集であります。


35.『柳うら屋奇々怪々譚』(篠原景)【江戸】 Google Books
 寡作ではあるものの、いずれも味わい深い時代怪異譚を描く作者のデビュー作は、遊郭・柳うら屋を舞台に、そこに生きる遊女たちの哀歓と希望を描く怪異譚です。

 吉原の妓楼・柳うら屋で嵐の晩に殺害された看板遊女・白椿。その遺体を発見した霧野をはじめとする三人の遊女は、それ以来自分たちに不思議な能力が宿ったことに気づきます。
 そして柳うら屋で相次ぐ相次ぐ奇怪な現象の数々。怪事に巻き込まれた三人は、その背後の様々な人の思いを知ることに……

 一種の異能もの的な展開も面白いのですが、本作の最大の魅力は、遊郭の人間模様も、非現実的な怪異も、等しくこの世に在るものとして認め、受け入れる優しい眼差しにあります。そしてさらに、現実からの救いとしての怪異を提示してみせるのには感心させられるばかり。遊郭怪談の名品というのにとどまらず、怪談というジャンルの存在にまで切り込んだ作品です。



今回紹介した本
鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行(一) (講談社文庫)妖草師 (徳間文庫)古道具屋 皆塵堂 (講談社文庫)人魚ノ肉柳うら屋奇々怪々譚 (廣済堂モノノケ文庫)


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 入門者向け時代伝奇小説百選

 「鬼溜まりの闇 素浪人半四郎百鬼夜行」 文庫書き下ろしと怪異譚の幸福な結合
 「妖草師」 常世に生まれ、人の心に育つ妖しの草に挑め
 「古道具屋 皆塵堂」 ちょっと不思議、いやかなり怖い古道具奇譚
 木下昌輝『人魚ノ肉』 人魚が誘う新撰組地獄変
 「柳うら屋奇々怪々譚」 怪異という希望を描く遊郭怪談の名品

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2017.04.19

『コミック乱ツインズ』2017年5月号

 今月も『コミック乱ツインズ』の時期となりました。今月号は、『そば屋幻庵』と『小平太の刃』が掲載されているほかは、レギュラー陣が並びますが、しかしそれが相変わらず粒ぞろい。今回も印象に残った作品を紹介いたします。

『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治時代、鉄道の黎明期に命を賭ける男たちを描く本作は今回から新エピソードに突入。島安次郎の懸命の説得に、国鉄に移籍した凄腕機関士・雨宮が、島の依頼で碓氷峠の視察に向かうことになります。

 碓氷峠といえば、その急勾配でつい最近まで知られた難所。現代ですらそうなのですから、蒸気機関車が運行されていたこの時代、その苦労はどれほどほどのものだったか……
 と、事故が相次ぐこの峠で奮闘する人々が登場する今回。雨宮が見せるプロの技が実にいいのですが、むしろ今回の主役はそんな現地の人々と感じさせられます。

 時代が明治、題材が鉄道と、本誌では異色の作品と感じてきましたが、一種の職人ものとして読めば全く違和感がないと、今更ながらに気付かされました。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「梅安晦日蕎麦」の後編。彦次郎が、恩のある田中屋に依頼され、仕掛けることとなった容貌魁偉な武士・石川。その彼を尾行した梅安は、真の事情を知ることになって――
 と、腕利きの武士相手のの仕掛けを頼まれてみれば、その実、彼こそは……という展開は、この前に描かれたエピソード「後は知らない」と重なる点が大きくてどうかなあと思うのですが、これは原作もこうなので仕方がありません。

 しかしその点に目を瞑れば、魁偉な容貌を持つ者が必ずしも凶悪ではなく、優しげな容貌を持つ者が必ずしも善良ではないという物語は、梅安たち仕掛人という裏の「顔」を持つ者たちと重なるのはやはり面白い。
 そしてこの点で、男たちの顔を過剰なほどの迫力で描く作画者の作風とは、今回のエピソードはなかなかマッチしていたと感じます。
(その一方で、一件落着してから呑気に年越し蕎麦をすする二人の表情も微笑ましくていい)


『鬼切丸伝』(楠桂)
 まだまだ続く信長鬼編。今回のエピソードは明智光秀の娘・珠(細川ガラシャ)を主役とした前編であります。
 本能寺の変で鬼と化し、自らを討った光秀とその血族に祟る信長。血肉のある鬼というより、ほとんど悪霊と化した感のある信長は、最後に残された珠に執拗につきまとい、苦しめることに――

 というわけで、冷静に考えれば前々回のラストで鬼になったばかりなのに、何だかえらいしつこい印象のある信長ですが、さすがに魔王と呼ばれただけあって、鬼切丸の少年も、久々登場の鈴鹿御前も、なかなか決定打を繰り出せないのがもどかしい。
 そんな中、口では否定しても少しずつ珠を、人間を守る方向に心を動かしつつある少年の「人間にしかできぬ御技で呪いに打ち勝て!!」という至極真っ当な言葉に感心してみれば、それが事態を悪化させるとは――

 この国の魔はこの国の神仏にしか滅せぬという概念には「えっ!?」という気分になりましたが(『神の名は』『神GAKARI』は……<それは別の作品)、そろそろ信長とも決着をつけていただきたいところです。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 ついに残すところあと2回となった本作ですが、今回はラス前にふさわしい大殺陣というべき展開の連続。敵の本拠とも言うべき金吹き替え所に乗り込んだ聡四郎を待つのは、紀伊国屋文左衛門が雇った11人の殺し屋……というわけで、ケレン味溢れる殺陣が連続するのが実にいい。

 同じ号に掲載された『そば屋幻庵』が静とすればこちらは激しい動、これくらい方向性が異なれば気持ちがいいほどですが、さてその戦いも思わぬ形で妨害を受けて、さあどうなる次号! というところで終わるのは、お約束とはいえ、やはり盛り上がるところであります。


『コミック乱ツインズ』2017年5月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 05 月号 [雑誌]


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 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)
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2017.04.01

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第5-7巻 彼らの「一所」を巡る戦い

 気がつけばだいぶ間を置いてしまいましたが、『アンゴルモア』単行本第5巻から第7巻の紹介であります。元軍の猛攻に追い立てられる対馬の人々は、長きに渡りこの地に潜んできた「刀伊祓」と合流。この3巻では、彼らと蒙古の将・ウリヤンエデイの軍との死闘が描かれることになります。

 流刑となった対馬で、蒙古軍の襲来に巻き込まれることとなった義経流の遣い手の元御家人・朽井迅三郎。成り行きから流人仲間とともに対馬の宗家の姫君・輝日姫を支えて戦う迅三郎ですが、衆寡敵せず、犠牲を最小限にして撤退を続けるのがやっとの状況であります。
 そんな中、迅三郎が輝日に伴われて対面したのは、彼女の曾祖父でもある、生きていた安徳帝で――

 と、伝奇ファン的に大いに盛り上がる展開で始まった第5巻ですが、ここで帝が刀伊祓に勅を下し、宗家の残党と刀伊祓が手を組む、という展開がまたたまりません。
 はるか以前に九州を襲った刀伊の再来に備えるため、密かにこの地に潜んで生きてきた刀伊祓。その彼らが、いま海の向こうから襲来した元軍に挑むというのですから――

 そして第5巻の後半で刀伊祓のリーダー・長嶺判官の出迎えを受けた迅三郎たちは、彼らの山城である金田城に依るのですが……しかしそこに来襲するは、一見温厚な外見の中に得体の知れぬものを感じさせる蒙古の王族にして千戸将軍・ウリヤンエデイ。

 金田城に依る兵は百数十名、対する蒙古軍は一千強……古くからの地の利を持つ者が勝つか、はたまた十倍近い兵力を持つ者が勝つか? ここから描かれる一進一退の攻防には、まさしく本作の醍醐味に溢れているのですが――
 しかしここから第6巻、そして第7巻にかけて、その合戦の面白さと平行して描かれるのは、本作のもう一つの魅力……鎌倉時代という時代、そして戦という極限状況の中で浮き彫りとなる人間の姿であります。


 迅三郎と同じ元武士の流人であり、馬上打物を得意とする武人・白石和久。一癖も二癖もある流人たちの中で、数少ない常識人に見えた彼ですが、しかし彼は蒙古軍と内通し、金田城に敵を導き入れることになります。

 自国が侵略される中、敵国に通じ、自分は生き延びようとする……最も唾棄すべき裏切りを見せる白石。
 しかし本作で描かれるのは、その彼が何故裏切りを選んだのか、選ばなければならなかったのかの過程であり、そしてそもそも彼が何故流人となったのかという過去であります。そしてそれは言い換えれば、彼が何故戦うかの理由にほかなりません。

 正直なところ、本作の蒙古軍については、ほとんど単純に侵略者としての姿が描かれている(それは全く正しくはあるのですが)のに食い足りない部分はありました。襲ってくるのが、感情移入できない憎むべき敵としてのみ描かれているという点で。
 その点を、この白石の物語は大いに補ってくれたという印象があります。

 しかし、ここで白石の背負ってきたものを見れば、一つの疑問が浮かびます。それでは、迅三郎の戦う理由は何なのだろう……と。

 もちろんそれは、自分が生き延びるためのそれであることは間違いありません。しかし、比較的似たような境遇にあった白石と彼と、大きく道を違えることとなった原因は何だったのか?
 その答えの一端と思われるものが、第7巻において描かれることとなります。

 義経流を会得するため、厳しい修行を続けていた幼い日の迅三郎。その命がけの修行の中で彼が知ったのは、人間のみならず、おそらくはあらゆる生き物に備わる想い――「一所懸命」でありました。
 そしてその言葉は、奇しくも第5巻の冒頭で、安徳帝が口にした言葉でもあります。

 既に家族を、帰るべき場所を失った迅三郎。その彼が、縁もゆかりもない対馬のために戦うとすれば、それはおそらくは今この時いる場所こそが、彼にとっての「一所」ということなのでしょう。
 かつて存在した場所、ここではないどこかではなく――


 以前から登場した元側の義経流の使い手も再び登場し、まだまだ波乱が続きそうなこの物語。蒙古が対馬を去るまであと四日……しかし金田城に迫るのはこれまでとは比べ物にならぬほどの大軍であります。
 迅三郎の、対馬の人々の一所を巡る戦いはまだまだ続くのであります。


『アンゴルモア 元寇合戦記』第5-7巻(たかぎ七彦 カドカワコミックス・エース) 第5巻 Amazon/ 第6巻 Amazon/第7巻 Amazon
アンゴルモア 元寇合戦記(5)<アンゴルモア 元寇合戦記> (角川コミックス・エース)アンゴルモア 元寇合戦記(6)<アンゴルモア 元寇合戦記> (角川コミックス・エース)アンゴルモア 元寇合戦記(7)<アンゴルモア 元寇合戦記> (角川コミックス・エース)

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2017.03.12

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、忍者ものの紹介の後編は、忍者ものに新風を吹き込む5作品を取り上げます。
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

21.『風魔』(宮本昌孝) 【戦国】【江戸】 Amazon
 後世にその名を知られた忍者の一人である風魔小太郎。本作は、颯爽とした男たちの物語を描いたら右に出る者がいない作者による痛快無比な忍者活劇であります。

 小田原の北条家に仕え、常人離れした巨躯と技で恐れられたという小太郎。本作はその逸話を踏まえつつ、しかしその後の物語を描き出します。
 何しろ本作においては北条家は早々に滅亡。野に放たれた小太郎は、豊臣と徳川が天下を巡って暗闘を繰り広げる中、自由のための戦いを繰り広げるのです。

 戦国が終わり、戦いの中に暮らしてきた者たちの生きる場がなくなっていく中、果たして小太郎たちはどこに向かうのか? 誰に縛られることなく、そして誰を傷つけることなく生き抜く彼の姿が本作の最大の魅力です。


22.『忍びの森』(武内涼) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 発表した作品の大半が忍者ものという、当代切っての忍者作家のデビュー作である本作は、もちろん忍者もの……それも忍者vs妖怪のトーナメントバトルという、極め付きにユニークな作品であります。

 信長に滅ぼされた伊賀から脱出した八人の忍者。脱出の途中、彼らが一夜の宿を借りた山中の廃寺こそは、強大な力を持つ五体の妖怪が封じられた地だったのです。
 空間歪曲により寺から出られなくなった八人は、持てる力の全てを振り絞って文字通り決死の戦いに挑むことになります。

 忍者の鍛え抜かれた忍術が勝つか、妖怪の奇怪な妖術が勝つか? 敵の能力の正体もわからぬ中、果たして人間に勝利はあるのか……空前絶後の忍者活劇であります。

(その他おすすめ)
『戦都の陰陽師』(武内涼) Amazon


23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 映画化された『完全なる首長竜の日』になど、SF作家・ミステリ作家として知られる作者は、同時に奇想に富んだ時代小説の書き手でもあります。

 川中島の戦で召喚され、多大な死をもたらしたという兇神・御左口神。武田の歩き巫女・小梅は、謎の忍者・加藤段蔵に襲われたことをきっかけに、自分がこの兇神と深い関わりを持つことを知ります。
 武田の武士・武藤喜兵衛(後の真田昌幸)とともに、小梅は兇神を狙う段蔵の野望に挑むことに……

 初時代小説である『忍び外伝』も驚くべきSF的展開を披露した作者ですが、本作も実は時代小説にとどまらない内容の作品。果たして御左口神の正体とは……これは「あの世界」の物語だったのか!? と驚愕必至であります。

(その他おすすめ)
『忍び外伝』(乾緑郎) Amazon


24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道龍一朗) 【戦国】 Amazon
 忍者が活躍した戦国時代において、一際奇怪な存在として知られる飛び加藤こと加藤段蔵。本作はその段蔵を、悪人ならぬ悪忍として描いたピカレスクロマンであります。

 伊賀と甲賀の秘技を極めながらも、その双方を敵に回し、自分自身の力のみで戦国を渡り歩く段蔵。一向一揆で揺れる北陸を次の仕事場に選んだ段蔵は、朝倉家に潜り込むことになります。
 そこで段蔵の前に現れるのは、名うての武将、武芸者、そして忍者たち。そして段蔵にも隠された過去と目的が――

 強大な力を持つ者たちを向こうに回して暴れ回る段蔵の活躍が善悪を超えた痛快さを生み出す本作。ラストで明かされる、思わず唖然とさせられるほどの豪快な真実に驚け!

(その他おすすめ)
『乱世疾走 禁中御庭者綺譚』(海道龍一朗) Amazon


25.『嶽神』(長谷川卓) 【戦国】 Amazon
 奉行所ものなどでも活躍する作者の原点が、「山の民」ものというべき作品群――里の人々とは異なる独自の掟と生活様式を持ち、山中の自然と共に暮らす人々の活躍を描く物語であります。

 そして本作はその代表ともいうべき作品。掟を破って追放された山の民・多十が、武田勝頼の遺児と、一族を虐殺された金堀衆の少女を連れ、逃避行に復讐に宝探しにと奮闘する大活劇です。
 殺戮のプロとも言うべき追っ手の忍者集団を向こうに回し、母なる大自然を武器として戦いを挑む多十。山の民殺法とも言うべき技の数々は、本作ならではの豪快な魅力に溢れています。

 様々な欲望が剥き出しとなる戦国に、ただ信義のために命を賭ける多十の姿も熱い名品です。

(その他おすすめ)
『嶽神伝』シリーズ(長谷川卓) Amazon


今回紹介した本
風魔(上) (祥伝社文庫)忍びの森 (角川文庫)塞の巫女 甲州忍び秘伝 (朝日文庫)悪忍 加藤段蔵無頼伝(双葉文庫)嶽神(上) 白銀渡り (講談社文庫)


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2017.03.04

竹内清人『躍る六悪人』(その二) 本当の悪人は誰であったか?

 新進気鋭の作家による初時代小説『躍る六悪人』の紹介の後編であります。時代アクションとしてはなかなかに新鮮かつ豪快な内容で楽しめる本作なのですが……しかし、不満がないわけではありません。

 例えばすぐ上で触れたケイパーもの、クライムアクションとしての顔ですが、本作はかなりのところその定番に忠実な展開だけに、このキャラは実は○○で、このキャラも○○してないな……など、ある程度先の展開が読める部分が少なくないのが惜しいところではあります。

 また、最大の見せ場であるキャラクターたちがそれぞれの特技で活躍するシーンも、突貫斎が頑張りすぎて他の面々が霞んだという印象は否めません。
(特に直侍は、それだけで一本描けるほどの過去を持っているだけに、もっと前面に押し出しても良かったのではないかという印象もあります)

 しかし……個人的に一番もったいなかったと感じるのは、作中に登場する「悪人」たちの「悪人」たる所以を、もう少し突っ込んで描いて欲しかった、という点であります。


 実は本作のようなケイパーものをエンターテイメントとして成立させるためには、一つの鉄則があると言えます。
 それは、主人公たちのターゲットとなるのも悪人……それも主人公たち以上の巨大な悪人であることです。

 これは実は至極当たり前の話で、主人公たちが自分たちよりも格下の悪人を相手にしても仕方ありませんし、ましてや一般庶民の富を奪っても単なる弱い者いじめにしかなりません。
 悪人がより巨大な悪人に鉄槌を下す……トリックや仕掛けの楽しさもさることながら、このカタルシスがケイパーものの最大の魅力ではないでしょうか。

 そして本作にも、大悪人たちが幾人も登場します。中野碩翁、水野忠邦、鳥居耀蔵、そして忠邦と結ぶ悪徳商人にして宗俊とある因縁を持つ・森田屋清蔵、大塩の乱の残党にして貧民を使った爆弾テロを指揮する飯島玄斎――

 実は「六悪人」が誰を指すかを敢えて明記していない本作。彼らに河内山を加えた六人もまた「六悪人」ではないかとも思えるのは、なかなか面白い点ではあります。
 しかし宗俊を除いた彼ら大悪人のキャラクターを、もう少し掘り下げて欲しかった、もっと彼らの恐ろしさ・巨大さを、そして彼らならではの悪の在り方を見せて欲しかった、という印象が残るのです。

 それこそが、時代ものとしての本作の真の独自性にも繋がってくるのではないか、さらに言えば、なぜ「いま」河内山宗俊なのかという点をさらに明確にできたのではないか……そう感じられた次第です。


 と、長々と厳しいことを書いてしまいましたが、これも作者と本作への期待ゆえ……というのは言い訳かもしれませんが、それだけ語りたくなるだけのものを持っているのは間違いない作品なのであります。。


『躍る六悪人』(竹内清人 ポプラ社) Amazon
躍る六悪人

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2017.03.03

竹内清人『躍る六悪人』(その一) 六花撰、強奪ミッションに挑む!?

 『戦国自衛隊1549』『キャプテンハーロック』の脚本家による初のオリジナル小説は、天保年間を舞台に六人の悪人たちが活躍するクライムアクション……河内山宗俊たちが、権力を嵩にやりたい放題の更なる悪人を向こうに回して大暴れする、痛快な大活劇であります。

 大飢饉と悪政で貧富の差が広がり、窮民が溢れた江戸。そこで強請りたかりを生業に暮らす茶坊主・河内山宗俊と仲間の片岡直次郎、暗闇の丑松は、ある日、首尾よく一仕事片づけた後、思わぬ罠にはめられて捕らえられることになります。
 そして彼らの前に現れたのは老中・水野忠邦とその腹心・鳥居耀蔵。宗俊は、忠邦からある取引を持ちかけられることになります。

 それは放免と引き替えに、大御所・家斉の側近として大名や老中もひれ伏す権力者・中野碩翁が屋敷に隠した不義の財宝十万両を奪うこと――
 逼迫した幕府の財政を救い、そして改革を阻む政敵である碩翁一派を追い落とすため、悪人には悪人をと、忠邦は宗俊たちに目を付けたのであります。

 自由のため、大金のため、そして権力者の鼻を明かすため……この大仕事を引き受けた宗俊。
 しかし碩翁の屋敷は厳重に警護されている上、十万両が収められた蔵は、天才からくり師・国友一貫斎による仕掛けの数々に守られた、難攻不落の要塞とも言うべき存在であります。

 一貫斎の息子・突貫斎を仲間に引っ張り込み、直次郎や丑松、謎の花魁・三千歳、密偵として屋敷に送り込まれた武家娘・波路らと綿密な強奪計画を練る宗俊。
 しかし仲間さえも油断できない状況に加え、漁夫の利を狙う連中も次々と現れて計画はアクシデントの連続。果たして最後に笑う者は――


 河竹黙阿弥の歌舞伎『天衣紛上野初花』などで知られる河内山宗俊ら六人の悪人・天保六花撰。彼らの物語は、現代に至るまで様々な媒体で、その時々に相応しい装いで描かれてきました。
 本作が、その現代版のアップデートであることは言うまでもありません。そしてその装いは……なんとケイパー(強奪)ものなのであります。

 莫大な財宝や巨大な秘密を盗み出すため、いずれも一癖も二癖もあるプロフェッショナルたちがチームを組み、幾重にも張り巡らされた罠をかいくぐって、見事逃れおおせてみせる――
 こうしたスタイルの物語は、『オーシャンズ11』や『グランド・イリュージョン』など現代を舞台とした作品ではお馴染みですが、それを時代小説で、それも天保六花撰でやってしまうとは……! コロンブスの卵と言うべきでしょうか、まず目の付け所に脱帽であります。

 しかもこの六人、本作ならではの一ひねりが加わっているのが面白い。
 宗俊・直侍・丑松・三千歳といったオリジナルメンバー(?)に加え、突貫斎や波路ら本作独自のメンバーが加わったことで、物語の展開に幅が広がっているのが、何とも楽しいのであります。
(そして、残りのオリジナル六花撰もまた、別の立ち位置で登場するのもまた意表を突いた展開)

 そして彼らが挑む「悪事」も、クライマックスのケイパーだけでなく、大仕掛けな詐欺にいかさま賭博、銃撃戦、さらには思わぬ乗り物を使っての逃走劇など、何でもありありで実にユニーク。
 この辺り、映像にした時のイメージから逆算したのかな、という印象もありますが、出し惜しみなし、ちょっとやりすぎ感すらある活劇は、まさにド派手なケイパー映画のクライマックスを見ているような楽しさがあります。


 しかし……というところで次回に続きます。


『躍る六悪人』(竹内清人 ポプラ社) Amazon
躍る六悪人

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2017.03.01

戸土野正内郎『どらくま』第5巻 乱世を求める者と新たな道を求めるものの対決

 凄いのか凄くないのか謎の守銭奴・真田源四郎と、伝説の忍びの秘術を受け継ぐ凄腕・九喪、犬猿の仲と言うも生ぬるい迷コンビが大坂の陣直後の世界で大暴れする物語も、もう第5巻。奥州で忍びたちの暗闘の渦中に巻き込まれた二人を待つものは……

 心ならずも徳川家に手を貸すことになった二人が向かった先、それは軒猿十王の一人・天雄が暗躍するという奥州。
 伊達家の隠し財産を狙い、外道の医学薬学で人間を改造して操る天雄に対し、二人は天雄を仇と狙う大獄丸、九喪の元同僚の天才忍者・シカキン、そして伊達家の忍び・黒脛巾組と共に挑むことになります。

 狡猾な罠をかいくぐり、連携プレーの末についに天雄を仕留めたかに見えた源四郎たちですが、しかしその天雄は替え玉。そして二人は味方であったはずのシカキンと黒脛巾組に刃を向けられ、捕らえられることとなります。
 徳川家に深い恨みを抱くシカキン。そして彼が守る少女・木毎が狙う仇とは、彼女の父・幸村を手に掛けた源四郎……!


 というわけで、収録されたほとんど全話に、冒頭で過去の回想エピソードが入ることからもわかるように、各人が隠してきた過去が次々と明らかになり、絡み合っていくこの巻。
 そんなキャラクターたちの中心の一つは、もちろんというべきか源四郎であります。

 真田家当主・信之の甥――すなわち幸村の子である源四郎。しかし彼は信之の命で大坂城に入り、幸村を討ったという過去がありました。
 その真意が奈辺にあるかはいまだにわかりませんが、しかし幸村に身を寄せた者にとって、彼は不倶戴天の仇であることはまちがいありません。……彼の妹である木毎を含めて。

 そしてもう一つの中心となるのが天雄であります。
 かつて上杉家に仕え、今は徳川の下に付いた軒猿最強の十王の中でも、最悪の存在として知られる天雄――彼の所業の全てが明かされたわけではありませんが、静かなる巨人・大獄丸が憤怒を以て臨むという点だけで、それはある程度想像がつくというものでしょう。

 そしてさらに天雄を狙って現れるのは十王最強、言葉だけで人を殺せるという超絶の忍び・髑髏――そして今回、髑髏と大獄丸の過去の関わり、そして髑髏の意外すぎる正体の一端(よく見たら前巻にもその姿が……)がほのめかされるのであります。

 源四郎と天雄、二人を中心とした人間関係はこじれまくり、そもそもそれぞれはどこの陣営で、誰の味方であったのか、そもそも皆何のために戦っていたのか……と混乱してくるのですが、しかし後半、この戦いの背後にある巨大な陰謀と、そしてその原動力となる一つの想いが露わになることになります。

 かつてこの国で、百年以上続いた戦国乱世。本作は源四郎以外の登場人物はほとんど全員忍者という印象ですが、その忍者こそは、乱世においてその真価を発揮する、乱世の申し子であります。
 そしてその申し子たちから、乱世が……戦いが奪われようとする時、彼らは何を思うのか。それは言うまでもないでしょう。

 どれだけ矛盾と狂気に満ちたものに見えたとしても、自分が自分らしくあろうとすること、そうあることができる場所を求めるのは人の性であります。
 そうだとすれば、それを止めることができる者は、自分も同じ存在であると知りつつも、それでもその世界を捨て、新たな道を求めることができる者ではないでしょうか。

 そして前者の代表が天雄であり、後者の代表が源四郎であることは言うまでもありません。両者の対決は、乱世の終わりにいかなる道を選ぶのか、その選択に繋がる戦いでもあるのです。


 そしてその対決の先に何が見えるのか。たとえ天雄を倒したとしても源四郎に赦しの日は来るのか? シカキンの悲しみは、大嶽丸の怒りは癒える時が来るのか?

 忍者同士の秘術合戦の面白さもさることながら、それを支える登場人物の物語が、人生がどこに向かうのか……それを想像するだけでワクワクが止まらなくなってくる作品であります。


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2017.02.24

谷口ジロー『柳生秘帖 柳生十兵衛 風の抄』 名手が描いた時代活劇

 先日、惜しまれながらもこの世を去った谷口ジローが描いた数少ない時代活劇の一つが本作。柳生十兵衛を主人公に、幕府の存在にも関わる秘文「風の抄」と、天下を巡る争いを描いた物語であります。以前文庫化の際にも取り上げましたが、その際は触り程度の紹介だったため、改めて紹介させていただきます。

 柳生の菩提寺・芳徳寺を襲撃し、本尊の中に隠された「風の抄」を強奪した謎の一団。急報を受けた父・宗矩から派遣された十兵衛は、その背後に後水尾上皇の存在を知ることになります。

 皇位にあった頃から幕府と熾烈な対立を続けてきた上皇。幕府の存立に関わる秘事が記された風の抄を手にした彼は、都を脱出すると、各地の有力大名、そして様々な階層の人々に檄を飛ばし、幕府との戦いを呼びかけます。
 一歩間違えればこの国を二分する大戦となりかねぬ中、十兵衛は上皇方の怪剣士・夜叉麿と、幾度となく死闘を繰り広げることに――


 明治時代、隠居して久しい勝海舟が、自分の江戸城無血開城と幕府瓦解にまつわる秘話を語り始める……という、何とも気になる冒頭から始まる本作。

 正直に申し上げれば、古山寛の原作によるストーリー展開自体はかなりオーソドックスと申しましょうか、裏柳生や八瀬童子といったガジェットも、時代伝奇ものとしては見慣れたものが多く用いられています。
 その意味では物語的にそこまで意外性に富んだものではないのですが、しかしそれは面白くないということとイコールなどでは、もちろんありません。

 十兵衛の前に次々と現れる、夜叉麿をはじめとする強敵との対決。京を脱出し、後醍醐帝をなぞらえるように吉野に篭もった上皇一派との戦。そして風の抄に隠された意外な家康の言葉――本作には伝奇時代活劇として描かれるべきものがきっちりと描かれています。


 しかし本作の最大の魅力が、谷口ジローによる絵の力にあることは言うまでもありません。

 作者一流の緻密な情景描写は様々に舞台を変えて繰り広げられる戦いを巧みに彩って飽きさせませんが、何よりも印象に残るのは、時代劇最大の見所――剣戟シーンであります。

 柳生新陰流をはじめとして、作中に次々と登場する登場する様々な武器や武術、剣術流派。その丹念な描写は、格闘描写にも定評のあった作者らしいものと言えるでしょう。
 特に十兵衛のライバルとなる夜叉麿の、古代剣法とも言うべき独特の技の描写は、本作ならではとしか言いようがありません。

 そしてこうした武術・剣術描写の頂点が、ラストに描かれる十兵衛の活人剣であります。一見奇妙に見えるその技の動きに説得力を与え、そしてその中に十兵衛の「思想」を見せる――そしてその境地に至るまでの心の遍歴が、そのまま本作の物語に重なるクライマックスには、何度読んでも唸らされるのです。


 「風の抄」の正体の一部はかなり早い段階でわかってしまいますし、残る部分も蓋を開けてみれば……という印象はあり、ちょっと勿体ない部分はあるものの、再読でも十分以上に楽しめた本作。

 作者の作品の中ではあまり知名度の高い部類ではないかと思いますが、しかし、不世出の漫画家は時代活劇においても確かな実力を有していたことがよくわかる佳品です。


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柳生秘帖~柳生十兵衛 風の抄~ (SPコミックス)

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