2017.04.19

『コミック乱ツインズ』2017年5月号

 今月も『コミック乱ツインズ』の時期となりました。今月号は、『そば屋幻庵』と『小平太の刃』が掲載されているほかは、レギュラー陣が並びますが、しかしそれが相変わらず粒ぞろい。今回も印象に残った作品を紹介いたします。

『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治時代、鉄道の黎明期に命を賭ける男たちを描く本作は今回から新エピソードに突入。島安次郎の懸命の説得に、国鉄に移籍した凄腕機関士・雨宮が、島の依頼で碓氷峠の視察に向かうことになります。

 碓氷峠といえば、その急勾配でつい最近まで知られた難所。現代ですらそうなのですから、蒸気機関車が運行されていたこの時代、その苦労はどれほどほどのものだったか……
 と、事故が相次ぐこの峠で奮闘する人々が登場する今回。雨宮が見せるプロの技が実にいいのですが、むしろ今回の主役はそんな現地の人々と感じさせられます。

 時代が明治、題材が鉄道と、本誌では異色の作品と感じてきましたが、一種の職人ものとして読めば全く違和感がないと、今更ながらに気付かされました。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「梅安晦日蕎麦」の後編。彦次郎が、恩のある田中屋に依頼され、仕掛けることとなった容貌魁偉な武士・石川。その彼を尾行した梅安は、真の事情を知ることになって――
 と、腕利きの武士相手のの仕掛けを頼まれてみれば、その実、彼こそは……という展開は、この前に描かれたエピソード「後は知らない」と重なる点が大きくてどうかなあと思うのですが、これは原作もこうなので仕方がありません。

 しかしその点に目を瞑れば、魁偉な容貌を持つ者が必ずしも凶悪ではなく、優しげな容貌を持つ者が必ずしも善良ではないという物語は、梅安たち仕掛人という裏の「顔」を持つ者たちと重なるのはやはり面白い。
 そしてこの点で、男たちの顔を過剰なほどの迫力で描く作画者の作風とは、今回のエピソードはなかなかマッチしていたと感じます。
(その一方で、一件落着してから呑気に年越し蕎麦をすする二人の表情も微笑ましくていい)


『鬼切丸伝』(楠桂)
 まだまだ続く信長鬼編。今回のエピソードは明智光秀の娘・珠(細川ガラシャ)を主役とした前編であります。
 本能寺の変で鬼と化し、自らを討った光秀とその血族に祟る信長。血肉のある鬼というより、ほとんど悪霊と化した感のある信長は、最後に残された珠に執拗につきまとい、苦しめることに――

 というわけで、冷静に考えれば前々回のラストで鬼になったばかりなのに、何だかえらいしつこい印象のある信長ですが、さすがに魔王と呼ばれただけあって、鬼切丸の少年も、久々登場の鈴鹿御前も、なかなか決定打を繰り出せないのがもどかしい。
 そんな中、口では否定しても少しずつ珠を、人間を守る方向に心を動かしつつある少年の「人間にしかできぬ御技で呪いに打ち勝て!!」という至極真っ当な言葉に感心してみれば、それが事態を悪化させるとは――

 この国の魔はこの国の神仏にしか滅せぬという概念には「えっ!?」という気分になりましたが(『神の名は』『神GAKARI』は……<それは別の作品)、そろそろ信長とも決着をつけていただきたいところです。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 ついに残すところあと2回となった本作ですが、今回はラス前にふさわしい大殺陣というべき展開の連続。敵の本拠とも言うべき金吹き替え所に乗り込んだ聡四郎を待つのは、紀伊国屋文左衛門が雇った11人の殺し屋……というわけで、ケレン味溢れる殺陣が連続するのが実にいい。

 同じ号に掲載された『そば屋幻庵』が静とすればこちらは激しい動、これくらい方向性が異なれば気持ちがいいほどですが、さてその戦いも思わぬ形で妨害を受けて、さあどうなる次号! というところで終わるのは、お約束とはいえ、やはり盛り上がるところであります。


『コミック乱ツインズ』2017年5月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 05 月号 [雑誌]


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2017.04.01

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第5-7巻 彼らの「一所」を巡る戦い

 気がつけばだいぶ間を置いてしまいましたが、『アンゴルモア』単行本第5巻から第7巻の紹介であります。元軍の猛攻に追い立てられる対馬の人々は、長きに渡りこの地に潜んできた「刀伊祓」と合流。この3巻では、彼らと蒙古の将・ウリヤンエデイの軍との死闘が描かれることになります。

 流刑となった対馬で、蒙古軍の襲来に巻き込まれることとなった義経流の遣い手の元御家人・朽井迅三郎。成り行きから流人仲間とともに対馬の宗家の姫君・輝日姫を支えて戦う迅三郎ですが、衆寡敵せず、犠牲を最小限にして撤退を続けるのがやっとの状況であります。
 そんな中、迅三郎が輝日に伴われて対面したのは、彼女の曾祖父でもある、生きていた安徳帝で――

 と、伝奇ファン的に大いに盛り上がる展開で始まった第5巻ですが、ここで帝が刀伊祓に勅を下し、宗家の残党と刀伊祓が手を組む、という展開がまたたまりません。
 はるか以前に九州を襲った刀伊の再来に備えるため、密かにこの地に潜んで生きてきた刀伊祓。その彼らが、いま海の向こうから襲来した元軍に挑むというのですから――

 そして第5巻の後半で刀伊祓のリーダー・長嶺判官の出迎えを受けた迅三郎たちは、彼らの山城である金田城に依るのですが……しかしそこに来襲するは、一見温厚な外見の中に得体の知れぬものを感じさせる蒙古の王族にして千戸将軍・ウリヤンエデイ。

 金田城に依る兵は百数十名、対する蒙古軍は一千強……古くからの地の利を持つ者が勝つか、はたまた十倍近い兵力を持つ者が勝つか? ここから描かれる一進一退の攻防には、まさしく本作の醍醐味に溢れているのですが――
 しかしここから第6巻、そして第7巻にかけて、その合戦の面白さと平行して描かれるのは、本作のもう一つの魅力……鎌倉時代という時代、そして戦という極限状況の中で浮き彫りとなる人間の姿であります。


 迅三郎と同じ元武士の流人であり、馬上打物を得意とする武人・白石和久。一癖も二癖もある流人たちの中で、数少ない常識人に見えた彼ですが、しかし彼は蒙古軍と内通し、金田城に敵を導き入れることになります。

 自国が侵略される中、敵国に通じ、自分は生き延びようとする……最も唾棄すべき裏切りを見せる白石。
 しかし本作で描かれるのは、その彼が何故裏切りを選んだのか、選ばなければならなかったのかの過程であり、そしてそもそも彼が何故流人となったのかという過去であります。そしてそれは言い換えれば、彼が何故戦うかの理由にほかなりません。

 正直なところ、本作の蒙古軍については、ほとんど単純に侵略者としての姿が描かれている(それは全く正しくはあるのですが)のに食い足りない部分はありました。襲ってくるのが、感情移入できない憎むべき敵としてのみ描かれているという点で。
 その点を、この白石の物語は大いに補ってくれたという印象があります。

 しかし、ここで白石の背負ってきたものを見れば、一つの疑問が浮かびます。それでは、迅三郎の戦う理由は何なのだろう……と。

 もちろんそれは、自分が生き延びるためのそれであることは間違いありません。しかし、比較的似たような境遇にあった白石と彼と、大きく道を違えることとなった原因は何だったのか?
 その答えの一端と思われるものが、第7巻において描かれることとなります。

 義経流を会得するため、厳しい修行を続けていた幼い日の迅三郎。その命がけの修行の中で彼が知ったのは、人間のみならず、おそらくはあらゆる生き物に備わる想い――「一所懸命」でありました。
 そしてその言葉は、奇しくも第5巻の冒頭で、安徳帝が口にした言葉でもあります。

 既に家族を、帰るべき場所を失った迅三郎。その彼が、縁もゆかりもない対馬のために戦うとすれば、それはおそらくは今この時いる場所こそが、彼にとっての「一所」ということなのでしょう。
 かつて存在した場所、ここではないどこかではなく――


 以前から登場した元側の義経流の使い手も再び登場し、まだまだ波乱が続きそうなこの物語。蒙古が対馬を去るまであと四日……しかし金田城に迫るのはこれまでとは比べ物にならぬほどの大軍であります。
 迅三郎の、対馬の人々の一所を巡る戦いはまだまだ続くのであります。


『アンゴルモア 元寇合戦記』第5-7巻(たかぎ七彦 カドカワコミックス・エース) 第5巻 Amazon/ 第6巻 Amazon/第7巻 Amazon
アンゴルモア 元寇合戦記(5)<アンゴルモア 元寇合戦記> (角川コミックス・エース)アンゴルモア 元寇合戦記(6)<アンゴルモア 元寇合戦記> (角川コミックス・エース)アンゴルモア 元寇合戦記(7)<アンゴルモア 元寇合戦記> (角川コミックス・エース)

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2017.03.12

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、忍者ものの紹介の後編は、忍者ものに新風を吹き込む5作品を取り上げます。
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

21.『風魔』(宮本昌孝) 【戦国】【江戸】 Amazon
 後世にその名を知られた忍者の一人である風魔小太郎。本作は、颯爽とした男たちの物語を描いたら右に出る者がいない作者による痛快無比な忍者活劇であります。

 小田原の北条家に仕え、常人離れした巨躯と技で恐れられたという小太郎。本作はその逸話を踏まえつつ、しかしその後の物語を描き出します。
 何しろ本作においては北条家は早々に滅亡。野に放たれた小太郎は、豊臣と徳川が天下を巡って暗闘を繰り広げる中、自由のための戦いを繰り広げるのです。

 戦国が終わり、戦いの中に暮らしてきた者たちの生きる場がなくなっていく中、果たして小太郎たちはどこに向かうのか? 誰に縛られることなく、そして誰を傷つけることなく生き抜く彼の姿が本作の最大の魅力です。


22.『忍びの森』(武内涼) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 発表した作品の大半が忍者ものという、当代切っての忍者作家のデビュー作である本作は、もちろん忍者もの……それも忍者vs妖怪のトーナメントバトルという、極め付きにユニークな作品であります。

 信長に滅ぼされた伊賀から脱出した八人の忍者。脱出の途中、彼らが一夜の宿を借りた山中の廃寺こそは、強大な力を持つ五体の妖怪が封じられた地だったのです。
 空間歪曲により寺から出られなくなった八人は、持てる力の全てを振り絞って文字通り決死の戦いに挑むことになります。

 忍者の鍛え抜かれた忍術が勝つか、妖怪の奇怪な妖術が勝つか? 敵の能力の正体もわからぬ中、果たして人間に勝利はあるのか……空前絶後の忍者活劇であります。

(その他おすすめ)
『戦都の陰陽師』(武内涼) Amazon


23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 映画化された『完全なる首長竜の日』になど、SF作家・ミステリ作家として知られる作者は、同時に奇想に富んだ時代小説の書き手でもあります。

 川中島の戦で召喚され、多大な死をもたらしたという兇神・御左口神。武田の歩き巫女・小梅は、謎の忍者・加藤段蔵に襲われたことをきっかけに、自分がこの兇神と深い関わりを持つことを知ります。
 武田の武士・武藤喜兵衛(後の真田昌幸)とともに、小梅は兇神を狙う段蔵の野望に挑むことに……

 初時代小説である『忍び外伝』も驚くべきSF的展開を披露した作者ですが、本作も実は時代小説にとどまらない内容の作品。果たして御左口神の正体とは……これは「あの世界」の物語だったのか!? と驚愕必至であります。

(その他おすすめ)
『忍び外伝』(乾緑郎) Amazon


24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道龍一朗) 【戦国】 Amazon
 忍者が活躍した戦国時代において、一際奇怪な存在として知られる飛び加藤こと加藤段蔵。本作はその段蔵を、悪人ならぬ悪忍として描いたピカレスクロマンであります。

 伊賀と甲賀の秘技を極めながらも、その双方を敵に回し、自分自身の力のみで戦国を渡り歩く段蔵。一向一揆で揺れる北陸を次の仕事場に選んだ段蔵は、朝倉家に潜り込むことになります。
 そこで段蔵の前に現れるのは、名うての武将、武芸者、そして忍者たち。そして段蔵にも隠された過去と目的が――

 強大な力を持つ者たちを向こうに回して暴れ回る段蔵の活躍が善悪を超えた痛快さを生み出す本作。ラストで明かされる、思わず唖然とさせられるほどの豪快な真実に驚け!

(その他おすすめ)
『乱世疾走 禁中御庭者綺譚』(海道龍一朗) Amazon


25.『嶽神』(長谷川卓) 【戦国】 Amazon
 奉行所ものなどでも活躍する作者の原点が、「山の民」ものというべき作品群――里の人々とは異なる独自の掟と生活様式を持ち、山中の自然と共に暮らす人々の活躍を描く物語であります。

 そして本作はその代表ともいうべき作品。掟を破って追放された山の民・多十が、武田勝頼の遺児と、一族を虐殺された金堀衆の少女を連れ、逃避行に復讐に宝探しにと奮闘する大活劇です。
 殺戮のプロとも言うべき追っ手の忍者集団を向こうに回し、母なる大自然を武器として戦いを挑む多十。山の民殺法とも言うべき技の数々は、本作ならではの豪快な魅力に溢れています。

 様々な欲望が剥き出しとなる戦国に、ただ信義のために命を賭ける多十の姿も熱い名品です。

(その他おすすめ)
『嶽神伝』シリーズ(長谷川卓) Amazon


今回紹介した本
風魔(上) (祥伝社文庫)忍びの森 (角川文庫)塞の巫女 甲州忍び秘伝 (朝日文庫)悪忍 加藤段蔵無頼伝(双葉文庫)嶽神(上) 白銀渡り (講談社文庫)


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 「風魔」 小太郎が往く自由の中道
 「忍びの森」 忍びと妖怪、八対五
 「忍び秘伝」 兇神と人、悪意と善意
 「悪忍 加藤段蔵無頼伝」 無頼の悪党、戦国を行く

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2017.03.04

竹内清人『躍る六悪人』(その二) 本当の悪人は誰であったか?

 新進気鋭の作家による初時代小説『躍る六悪人』の紹介の後編であります。時代アクションとしてはなかなかに新鮮かつ豪快な内容で楽しめる本作なのですが……しかし、不満がないわけではありません。

 例えばすぐ上で触れたケイパーもの、クライムアクションとしての顔ですが、本作はかなりのところその定番に忠実な展開だけに、このキャラは実は○○で、このキャラも○○してないな……など、ある程度先の展開が読める部分が少なくないのが惜しいところではあります。

 また、最大の見せ場であるキャラクターたちがそれぞれの特技で活躍するシーンも、突貫斎が頑張りすぎて他の面々が霞んだという印象は否めません。
(特に直侍は、それだけで一本描けるほどの過去を持っているだけに、もっと前面に押し出しても良かったのではないかという印象もあります)

 しかし……個人的に一番もったいなかったと感じるのは、作中に登場する「悪人」たちの「悪人」たる所以を、もう少し突っ込んで描いて欲しかった、という点であります。


 実は本作のようなケイパーものをエンターテイメントとして成立させるためには、一つの鉄則があると言えます。
 それは、主人公たちのターゲットとなるのも悪人……それも主人公たち以上の巨大な悪人であることです。

 これは実は至極当たり前の話で、主人公たちが自分たちよりも格下の悪人を相手にしても仕方ありませんし、ましてや一般庶民の富を奪っても単なる弱い者いじめにしかなりません。
 悪人がより巨大な悪人に鉄槌を下す……トリックや仕掛けの楽しさもさることながら、このカタルシスがケイパーものの最大の魅力ではないでしょうか。

 そして本作にも、大悪人たちが幾人も登場します。中野碩翁、水野忠邦、鳥居耀蔵、そして忠邦と結ぶ悪徳商人にして宗俊とある因縁を持つ・森田屋清蔵、大塩の乱の残党にして貧民を使った爆弾テロを指揮する飯島玄斎――

 実は「六悪人」が誰を指すかを敢えて明記していない本作。彼らに河内山を加えた六人もまた「六悪人」ではないかとも思えるのは、なかなか面白い点ではあります。
 しかし宗俊を除いた彼ら大悪人のキャラクターを、もう少し掘り下げて欲しかった、もっと彼らの恐ろしさ・巨大さを、そして彼らならではの悪の在り方を見せて欲しかった、という印象が残るのです。

 それこそが、時代ものとしての本作の真の独自性にも繋がってくるのではないか、さらに言えば、なぜ「いま」河内山宗俊なのかという点をさらに明確にできたのではないか……そう感じられた次第です。


 と、長々と厳しいことを書いてしまいましたが、これも作者と本作への期待ゆえ……というのは言い訳かもしれませんが、それだけ語りたくなるだけのものを持っているのは間違いない作品なのであります。。


『躍る六悪人』(竹内清人 ポプラ社) Amazon
躍る六悪人

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2017.03.03

竹内清人『躍る六悪人』(その一) 六花撰、強奪ミッションに挑む!?

 『戦国自衛隊1549』『キャプテンハーロック』の脚本家による初のオリジナル小説は、天保年間を舞台に六人の悪人たちが活躍するクライムアクション……河内山宗俊たちが、権力を嵩にやりたい放題の更なる悪人を向こうに回して大暴れする、痛快な大活劇であります。

 大飢饉と悪政で貧富の差が広がり、窮民が溢れた江戸。そこで強請りたかりを生業に暮らす茶坊主・河内山宗俊と仲間の片岡直次郎、暗闇の丑松は、ある日、首尾よく一仕事片づけた後、思わぬ罠にはめられて捕らえられることになります。
 そして彼らの前に現れたのは老中・水野忠邦とその腹心・鳥居耀蔵。宗俊は、忠邦からある取引を持ちかけられることになります。

 それは放免と引き替えに、大御所・家斉の側近として大名や老中もひれ伏す権力者・中野碩翁が屋敷に隠した不義の財宝十万両を奪うこと――
 逼迫した幕府の財政を救い、そして改革を阻む政敵である碩翁一派を追い落とすため、悪人には悪人をと、忠邦は宗俊たちに目を付けたのであります。

 自由のため、大金のため、そして権力者の鼻を明かすため……この大仕事を引き受けた宗俊。
 しかし碩翁の屋敷は厳重に警護されている上、十万両が収められた蔵は、天才からくり師・国友一貫斎による仕掛けの数々に守られた、難攻不落の要塞とも言うべき存在であります。

 一貫斎の息子・突貫斎を仲間に引っ張り込み、直次郎や丑松、謎の花魁・三千歳、密偵として屋敷に送り込まれた武家娘・波路らと綿密な強奪計画を練る宗俊。
 しかし仲間さえも油断できない状況に加え、漁夫の利を狙う連中も次々と現れて計画はアクシデントの連続。果たして最後に笑う者は――


 河竹黙阿弥の歌舞伎『天衣紛上野初花』などで知られる河内山宗俊ら六人の悪人・天保六花撰。彼らの物語は、現代に至るまで様々な媒体で、その時々に相応しい装いで描かれてきました。
 本作が、その現代版のアップデートであることは言うまでもありません。そしてその装いは……なんとケイパー(強奪)ものなのであります。

 莫大な財宝や巨大な秘密を盗み出すため、いずれも一癖も二癖もあるプロフェッショナルたちがチームを組み、幾重にも張り巡らされた罠をかいくぐって、見事逃れおおせてみせる――
 こうしたスタイルの物語は、『オーシャンズ11』や『グランド・イリュージョン』など現代を舞台とした作品ではお馴染みですが、それを時代小説で、それも天保六花撰でやってしまうとは……! コロンブスの卵と言うべきでしょうか、まず目の付け所に脱帽であります。

 しかもこの六人、本作ならではの一ひねりが加わっているのが面白い。
 宗俊・直侍・丑松・三千歳といったオリジナルメンバー(?)に加え、突貫斎や波路ら本作独自のメンバーが加わったことで、物語の展開に幅が広がっているのが、何とも楽しいのであります。
(そして、残りのオリジナル六花撰もまた、別の立ち位置で登場するのもまた意表を突いた展開)

 そして彼らが挑む「悪事」も、クライマックスのケイパーだけでなく、大仕掛けな詐欺にいかさま賭博、銃撃戦、さらには思わぬ乗り物を使っての逃走劇など、何でもありありで実にユニーク。
 この辺り、映像にした時のイメージから逆算したのかな、という印象もありますが、出し惜しみなし、ちょっとやりすぎ感すらある活劇は、まさにド派手なケイパー映画のクライマックスを見ているような楽しさがあります。


 しかし……というところで次回に続きます。


『躍る六悪人』(竹内清人 ポプラ社) Amazon
躍る六悪人

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2017.03.01

戸土野正内郎『どらくま』第5巻 乱世を求める者と新たな道を求めるものの対決

 凄いのか凄くないのか謎の守銭奴・真田源四郎と、伝説の忍びの秘術を受け継ぐ凄腕・九喪、犬猿の仲と言うも生ぬるい迷コンビが大坂の陣直後の世界で大暴れする物語も、もう第5巻。奥州で忍びたちの暗闘の渦中に巻き込まれた二人を待つものは……

 心ならずも徳川家に手を貸すことになった二人が向かった先、それは軒猿十王の一人・天雄が暗躍するという奥州。
 伊達家の隠し財産を狙い、外道の医学薬学で人間を改造して操る天雄に対し、二人は天雄を仇と狙う大獄丸、九喪の元同僚の天才忍者・シカキン、そして伊達家の忍び・黒脛巾組と共に挑むことになります。

 狡猾な罠をかいくぐり、連携プレーの末についに天雄を仕留めたかに見えた源四郎たちですが、しかしその天雄は替え玉。そして二人は味方であったはずのシカキンと黒脛巾組に刃を向けられ、捕らえられることとなります。
 徳川家に深い恨みを抱くシカキン。そして彼が守る少女・木毎が狙う仇とは、彼女の父・幸村を手に掛けた源四郎……!


 というわけで、収録されたほとんど全話に、冒頭で過去の回想エピソードが入ることからもわかるように、各人が隠してきた過去が次々と明らかになり、絡み合っていくこの巻。
 そんなキャラクターたちの中心の一つは、もちろんというべきか源四郎であります。

 真田家当主・信之の甥――すなわち幸村の子である源四郎。しかし彼は信之の命で大坂城に入り、幸村を討ったという過去がありました。
 その真意が奈辺にあるかはいまだにわかりませんが、しかし幸村に身を寄せた者にとって、彼は不倶戴天の仇であることはまちがいありません。……彼の妹である木毎を含めて。

 そしてもう一つの中心となるのが天雄であります。
 かつて上杉家に仕え、今は徳川の下に付いた軒猿最強の十王の中でも、最悪の存在として知られる天雄――彼の所業の全てが明かされたわけではありませんが、静かなる巨人・大獄丸が憤怒を以て臨むという点だけで、それはある程度想像がつくというものでしょう。

 そしてさらに天雄を狙って現れるのは十王最強、言葉だけで人を殺せるという超絶の忍び・髑髏――そして今回、髑髏と大獄丸の過去の関わり、そして髑髏の意外すぎる正体の一端(よく見たら前巻にもその姿が……)がほのめかされるのであります。

 源四郎と天雄、二人を中心とした人間関係はこじれまくり、そもそもそれぞれはどこの陣営で、誰の味方であったのか、そもそも皆何のために戦っていたのか……と混乱してくるのですが、しかし後半、この戦いの背後にある巨大な陰謀と、そしてその原動力となる一つの想いが露わになることになります。

 かつてこの国で、百年以上続いた戦国乱世。本作は源四郎以外の登場人物はほとんど全員忍者という印象ですが、その忍者こそは、乱世においてその真価を発揮する、乱世の申し子であります。
 そしてその申し子たちから、乱世が……戦いが奪われようとする時、彼らは何を思うのか。それは言うまでもないでしょう。

 どれだけ矛盾と狂気に満ちたものに見えたとしても、自分が自分らしくあろうとすること、そうあることができる場所を求めるのは人の性であります。
 そうだとすれば、それを止めることができる者は、自分も同じ存在であると知りつつも、それでもその世界を捨て、新たな道を求めることができる者ではないでしょうか。

 そして前者の代表が天雄であり、後者の代表が源四郎であることは言うまでもありません。両者の対決は、乱世の終わりにいかなる道を選ぶのか、その選択に繋がる戦いでもあるのです。


 そしてその対決の先に何が見えるのか。たとえ天雄を倒したとしても源四郎に赦しの日は来るのか? シカキンの悲しみは、大嶽丸の怒りは癒える時が来るのか?

 忍者同士の秘術合戦の面白さもさることながら、それを支える登場人物の物語が、人生がどこに向かうのか……それを想像するだけでワクワクが止まらなくなってくる作品であります。


『どらくま』第5巻(戸土野正内郎 マッグガーデンBLADE COMICS) Amazon
どらくま 5 (BLADE COMICS)


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2017.02.24

谷口ジロー『柳生秘帖 柳生十兵衛 風の抄』 名手が描いた時代活劇

 先日、惜しまれながらもこの世を去った谷口ジローが描いた数少ない時代活劇の一つが本作。柳生十兵衛を主人公に、幕府の存在にも関わる秘文「風の抄」と、天下を巡る争いを描いた物語であります。以前文庫化の際にも取り上げましたが、その際は触り程度の紹介だったため、改めて紹介させていただきます。

 柳生の菩提寺・芳徳寺を襲撃し、本尊の中に隠された「風の抄」を強奪した謎の一団。急報を受けた父・宗矩から派遣された十兵衛は、その背後に後水尾上皇の存在を知ることになります。

 皇位にあった頃から幕府と熾烈な対立を続けてきた上皇。幕府の存立に関わる秘事が記された風の抄を手にした彼は、都を脱出すると、各地の有力大名、そして様々な階層の人々に檄を飛ばし、幕府との戦いを呼びかけます。
 一歩間違えればこの国を二分する大戦となりかねぬ中、十兵衛は上皇方の怪剣士・夜叉麿と、幾度となく死闘を繰り広げることに――


 明治時代、隠居して久しい勝海舟が、自分の江戸城無血開城と幕府瓦解にまつわる秘話を語り始める……という、何とも気になる冒頭から始まる本作。

 正直に申し上げれば、古山寛の原作によるストーリー展開自体はかなりオーソドックスと申しましょうか、裏柳生や八瀬童子といったガジェットも、時代伝奇ものとしては見慣れたものが多く用いられています。
 その意味では物語的にそこまで意外性に富んだものではないのですが、しかしそれは面白くないということとイコールなどでは、もちろんありません。

 十兵衛の前に次々と現れる、夜叉麿をはじめとする強敵との対決。京を脱出し、後醍醐帝をなぞらえるように吉野に篭もった上皇一派との戦。そして風の抄に隠された意外な家康の言葉――本作には伝奇時代活劇として描かれるべきものがきっちりと描かれています。


 しかし本作の最大の魅力が、谷口ジローによる絵の力にあることは言うまでもありません。

 作者一流の緻密な情景描写は様々に舞台を変えて繰り広げられる戦いを巧みに彩って飽きさせませんが、何よりも印象に残るのは、時代劇最大の見所――剣戟シーンであります。

 柳生新陰流をはじめとして、作中に次々と登場する登場する様々な武器や武術、剣術流派。その丹念な描写は、格闘描写にも定評のあった作者らしいものと言えるでしょう。
 特に十兵衛のライバルとなる夜叉麿の、古代剣法とも言うべき独特の技の描写は、本作ならではとしか言いようがありません。

 そしてこうした武術・剣術描写の頂点が、ラストに描かれる十兵衛の活人剣であります。一見奇妙に見えるその技の動きに説得力を与え、そしてその中に十兵衛の「思想」を見せる――そしてその境地に至るまでの心の遍歴が、そのまま本作の物語に重なるクライマックスには、何度読んでも唸らされるのです。


 「風の抄」の正体の一部はかなり早い段階でわかってしまいますし、残る部分も蓋を開けてみれば……という印象はあり、ちょっと勿体ない部分はあるものの、再読でも十分以上に楽しめた本作。

 作者の作品の中ではあまり知名度の高い部類ではないかと思いますが、しかし、不世出の漫画家は時代活劇においても確かな実力を有していたことがよくわかる佳品です。


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柳生秘帖~柳生十兵衛 風の抄~ (SPコミックス)

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2017.02.23

『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』3月号の感想の続きであります。

『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 今回は『そば屋幻庵』と同時掲載となった本作ですが、絵・物語ともその影響は感じられぬ確かなもの。いよいよクライマックス目前であります。

 新井白石からの催促が厳しく迫る中、柳沢・荻原サイドからの縁談という干渉を受けることとなった聡四郎。刺客だけでなく、こうした搦め手の攻撃というのが実に上田作品的ですが、追いつめられた聡四郎は、自らの身を囮に勝負を決意することになります。
 そして訪れた道場で待っていた師が聡四郎に語るのは……という今回、上田作品名物の師匠の説教が描かれるのですが、そこでの描写、具体的には聡四郎と対峙した師の放つ圧力の描写が素晴らしい。

 内容的にも聡四郎が己にとって真に大事なもの、剣を振るう理由を悟るというシーンだけに、重みのある描写は嬉しくなってしまいます。嬉しいといえば、聡四郎の頼もしい配下、いや仲間となる玄馬の初登場も嬉しいところであります。


『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 道節一世一代の香具師忍法により窮地を脱したかに見えた村雨姫と信乃。しかし服部忍軍の外縛陣がなおも迫った時、現れたのは……葭原は西田屋の遊女たちを連れた女郎屋の用心棒・現八でありました。
 姫と信乃を遊女の中に隠すという奇策でその場を脱出したものの、しかし服部のくノ一もまた葭原に――

 というわけで今回は嵐の前の静けさ的な会ではあったのですが、敵味方で美女美少女が入り乱れるのはこの作者らしい華やかな画面造りで印象に残ります。
 が、今回の最大の見所は、信乃、現八、そして合流した角太郎が、既に散った三人を偲びつつも、彼らを含めた自分たちが何のために戦うか再確認するシーンでしょう。

 忠義のために戦った祖先とは違い、ただ一人の女人にいいところを見せるためだけに戦う……その心意気が泣かせるのであります。


『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 自分の国を奪った男・多々羅玄地への復讐のために旅を続けてきた怨ノ介の物語も今回で最終回。自分の仇は既に亡く、その名を継いだ当代の玄地と対決というのは、ちょっと最後の対決として盛り上がらないのでは……と前回思いましたが、しかしそれこそが本作の恐ろしさ。
 既に怨念を晴らすための、そして生み出すための一種のシステムと化した多々羅玄地「たち」に対して、復仇という概念は意味はないのですから――

 しかしそれでは本当に怨ノ介の戦いに意味はないのか、という想いに、見事に応えてみせたクライマックスが実にいい。さらにそこから、数々の魔刀の中で何故怨ノ介の持つ不破刀のみが女性の姿を持つのかという、「言われてみれば……」という謎にきっちり答えを出してみせるのも泣かせます。

 なるほど彼にはこういう役割があったのね、という結末も微笑ましく、まずは大団円というべきでしょう。


『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 前髪立ちの少年・久馬を守る豪剣士・又蔵相手の仕掛のはずが、又蔵が自害してしまい……という「後は知らない」の後編。

 意外な展開から、真相を知った梅安たちの仕掛けが描かれることとなりますが、印象に残るのは、梅安と彦次郎、久馬と又蔵、そして悪人たちといった登場人物たちの感情の起伏の大きさであります。
 特に久馬と又蔵の絆、二人の武士としての矜持は、テンションの高い画風ならではのインパクトと言うべきでしょう。

 それを受け止める梅安の、姿はゴツいけれども口調は妙に丁寧なところも含めて、好みが分かれるところかもしれませんが、私はこの作者の「梅安」として、さらに突き詰めてもらいたいと感じているところです。


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2017.02.17

滝沢聖峰『WHO FIGHTER』 その恐怖は空の高みから

 最近は江戸時代の出版界を舞台とした時代漫画『二兎物語』を発表しているものの、やはり滝沢聖峰といえば航空戦記漫画の第一人者という印象が強くあります。本作はそんな作者の作品の中でも異色中の異色作……太平洋戦争終戦間際の日本上空に現れた謎の発光体を巡る怪異譚であります。

 昭和19年11月、立川を飛び立ち機載レーダーのテストをしていた陸軍航空兵・北山中尉は、夜空に眩い光を放つ正体不明の物体と遭遇、機体の電子部品が全て焼き切れるという奇怪な状況に見舞われます。

 翌日、北山の前に現れたのは、秘密の研究を行っていると噂される登戸研究所からやってきた軍属の男・尾崎。
 発光体について北山の知らぬ情報を握っているらしい尾崎とともに発光体の墜落地点を北山は訪れるのですが、それ以降、彼の周囲では奇怪な現象が相次ぎます。

 内臓を抜き取られた犬の死体、偶然立ち寄った先にかかってくる電話、無理矢理日本語を喋っているような黒衣の男の来訪……
 そして尾崎の案内で、自分以前に発光体と遭遇し、一ヶ月後に帰還した兵士と対面した北山は、その帰りに蛾を思わせる奇怪な生物と遭遇、直後の記憶を失うことになります。

 北山の身に何が起きたのか。空で何が起きているのか。登戸研究所の地下に隠されたモノの存在を知った北山は、尾崎が計画する発光体奪取作戦に志願するのですが――


 タイトルとなっているフー・ファイターとは、第二次大戦中に世界各地で目撃されたという、未確認飛行物体/発光体のこと。
 実際には戦場の緊張が生んだ錯覚によるものが大半だったのではないかという気もしますが、しかし記録を信じるならば、どう考えても後世に言うUFOのことを指していたのでは……というケースもあり、なかなかに不気味な存在であります。

 本作はそのフー・ファイターを題材に、いわゆるUFO都市伝説――キャトル・ミューティレーション、MIB、ミステリー・サークルなど――を取り込んで描いてみせた、異形の軍記漫画であります。
 これらの題材や、登場する発光体の搭乗者の姿など、多分に通俗的なスタイルではあるのですが、しかしその作中での投入の仕方は実に巧みで、特に先に述べた電話の怪のくだりなど、実にゾクゾクさせられます。

 また嬉しかったのは、個人的に最愛のUMAである――UFOやMIBとの関連も噂される――モスマンまで登場してくることで……というのはともかく、いずれにせよ登場する題材は、いずれも実にツボを心得たものであるのがたまらないのです。


 それにしても、UFO都市伝説に、他の都市伝説や実話怪談の類とは異なる不気味さがつきまとうのは、その「わけのわからなさ」に依るところが大ではないでしょうか。
 因果因縁や怨念といった、ある意味人間のロジックでは図りかねる行動原理で動く存在が蠢く物語……それは裏返せば、対処の手段がない、頼るべき存在がないということでもあります。怪異に晒されても救いの手はない……これほどの恐怖があるでしょうか。

 そしてその理不尽な怪異と、戦争というある意味究極の国家の活動――すなわち極めて論理的に実施される(理論上は、ですが)行為が激突した時、何が生まれるか……
 本作は、作者一流の筆致を以て、すなわちどこまでもリアリティを保ちながら、その異次元の世界を描き出すのであります。

 もちろん、壮大なホラ話として楽しむべきものではあるかもしれませんが……しかし出色の戦争ホラー、UFOホラーであることは間違いありません。


 ちなみに単行本は本作のほか、中編『HEARTS OF DARKNESS』を収録。
 こちらはビルマの密林の奥深くで軍の命を離れ、独立王国を築こうとする部隊を処理するため、装甲砲艇で河を遡上する特務機関の中尉を主人公とした物語であります。

 その部隊長の名が来留津大佐というのを見るまでもなく、『地獄の黙示録』の第二次大戦版……というより、その原作であるコンラッドの『闇の奥』を原作としてクレジットしている本作。
 もっとも展開的には『地獄の黙示録』の翻案の要素がやはり強いのですが、しかし大戦末期のビルマという舞台から生まれるどうしようもなさ、一種の虚無感は、本作を独自の作品として成立させていることは間違いありません。
(もっとも、もう少し王国側の人間に狂気が欲しかった気はしますが……)


『WHO FIGHTER With heart of darkness』(滝沢聖峰 大日本絵画MGコミック) Amazon
フー・ファイター―With heart of darkness (MGコミック)

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2017.02.13

高井忍『蜃気楼の王国』(その三) 我々の住む国、我々の生きる時間の物語

 高井忍が稗史・偽史の中に浮かび上がる「国」の姿を鋭く浮き彫りにしていく時代ミステリ短編集の紹介その三です。最後に収められた作品は本書の表題作にして、本書が語り続けてきたものを象徴するような物語であります。

『蜃気楼の王国』
 あまりにも有名なペリーの日本来航。しかしペリーは同時に琉球に対しても修好条約の締結を要求していました。日本同様、琉球にも一年後の再来を期したペリーは、琉球に水兵を残していたのですが……その水兵が、琉球の人々に殺されるという事件が本作では描かれることになります。

 本作の主人公となるのは、ハンガリー出身のイギリス人宣教師ベッテルハイム――ペリーの琉球来航の十年近く前に琉球を訪れ、以来布教に努めていた実在の人物であります。
 当時キリスト教を禁教していた琉球王国との対応に苦慮しながらも、琉球の人々と共に暮らし、親しまれたベッテルハイム。この地で娘も生まれた彼が巻き込まれたのが、件の事件だったのです。

 泥酔した水兵の一人が、琉球人の家に押し入り、女性に乱暴しようとしたことから、怒った人々に追われ、頭を石で殴られた末に、溺死しているのが発見された……
 この微妙な時期に致命的とも言える事件の検死に当たり、一つの疑念を抱くベッテルハイム。しかし事件は彼自身の身にも関わる顔を見せることに――

 米兵による婦女暴行(未遂)という、尖った題材を中心と据えた本作。これが実は実際に起きた事件というのには驚かされますが、本作はそこに幾重にも意味を見出す形で、独自の物語を描き出します。
 物語の核心に触れるため、詳細は触れませんが、結末に浮かび上がるもう一つの差別と偏見の構造も含め、事件の謎以上に、そこに関わる人々の心の在り方は、深く心に残ります。

 ……しかし本作で真に驚くべきは、結末でベッテルハイムが知ることとなるもう一つの真実であります。
 そのある意味空前絶後のスケールの「替え玉」トリックに愕然とさせられると同時に、そこから浮かび上がる本作のタイトルに込められたもの、ベッテルハイムらの想いを全て飲み込んで浮かび上がるものの巨大さ・空虚さに、索漠たる想いを抱かざるを得ません。


 ……ここまで、本書に収録されてきた全五話を一話一話紹介させていただきました。

 これまで何度も申し上げたとおり、各話は直接には関係しない、完全に独立した内容となっています。しかしそこで描かれるものは、偽史・稗史を通じて、国という存在のあり方を描くという点で、通底していたと言うことができます。

 もちろんここで描かれたものはいずれも作者の空想……という言い方が良くなければフィクションの物語であります。
 しかしこの中に仮託されたもの、特に琉球と中国の関係に仮託されたものが何を指すか――それは明らかでしょう。最後の作品のタイトルであり、本書のタイトルでもある「蜃気楼の王国」が真に何を指すのかも。

 その意味では紛れもなく本作は、我々の住む国、我々の生きる時間の物語であると言えるのです。


 ここからは個人的な話となりますが、僕は時折、「伝奇」(「稗史」とかなりの部分でイコールかもしれません)と「偽史」の違いについて考えてきました。

 「史実」の陰に隠れた、それとは異なる「もう一つの真実」を描く歴史……その点では共通する両者は、しかしその動機、意図において明確に異なると……そう僕は考えます。
 伝奇があくまでもその「真実」を物語の枠の中で描く一方で、偽史はその「真実」こそが真の歴史であると語ること……その点が両者の決定的な相違点と言えるのではないか、と。

 もちろん、その出発点は共に等しいものでしょう。本書で繰り返し描かれてきたように、人々の願い――歴史の真実の姿はこうあって欲しいという思いが、こうしたもう一つの歴史を生み出すのです。
 しかしそれを物語として、一時の楽しい空想という慰めとして終わらせることと、こちらこそが本物であると史実を塗り替えようとすることは同じではありません。少なくとも伝奇は、その基礎となる確かな史実があってこそ成立するものなのですから。

 僕はあくまでも伝奇を愛し、追いかけていきたい……本書を読んで、その想いを新たにした次第です。


『蜃気楼の王国』(高井忍 光文社文庫) Amazon
蜃気楼の王国 (光文社文庫)

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