2018.09.18

福田悠『本所憑きもの長屋 お守様』 連続殺人の影に呪いの人形あり!? どんでん返しの時代ミステリ


 第16回 『このミステリーがすごい! 』大賞の隠し玉作品に選出された本作は、一見妖怪時代小説のようなタイトルでありつつも、その実かなりストレートな時代ミステリ。晴らせぬ恨みを晴らせると噂の人形を巡って起きる連続殺人と、その陰に潜む意外な人の情を描く物語であります。

 江戸で続発する殺人事件。いずれも人から強い恨みを受ける悪党が殺されたものの、被害者同士に繋がりはなく、いずれも達人と思しき相手に一刀のもとに斬られているという謎多き事件であります。
 その調べに当たる岡っ引きの甚八は、殺人が起きる前に、いずれも被害者に恨みのある女性がある人形に願掛けをしていたことを知るのですが――それはなんと、甚八が暮らす徳兵衛長屋の奥の祠に祀られた「お守様」と呼ばれる人形だったのです。

 お守り様に願をかければ天誅が下されるという噂を流している何者かがいると、その後を追う甚八は、やがて自分と姉のおしの、幼馴染の武士の子・柳治郎の子供時代にも、お守様にまつわる事件があったことを思い出します。
 果たしてお守様は呪いの人形なのか、そしてお守様にまつわる因縁とは何か。何故お守り様への願い通りに悪人が殺されていくのか。ついに甚八が掴んだその真相と、犯人の正体とは――

 『このミス』大賞の隠し玉といえば、これまでも『もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ』や『大江戸科学捜査 八丁堀のおよう』といった、時代ミステリも――それも、一筋縄ではいかない作品を送り出してきた枠であります。
 それ故、ジャンルとしては同じ時代ミステリもまた、どんな作品が飛び出してくるか、と身構えていたのですが、これが意外なまでに(といっては失礼に当たりますが)端正で、それでいて一ひねりが効いた作品でありました。

 物語の主な舞台はタイトルどおりに本所の裏長屋、主人公はその長屋に出戻りの姉と暮らす岡っ引きと、いかにも文庫書き下ろし時代小説の王道の一つ、ミステリ風味の人情もの的スタイルですが、丁寧な文体と物語構成で描かれる物語は、やがて少々意外な姿を現していくことになるのです。

 実は本作は、物語の随所に犯人の視点からのパートが挿入されます。個人的にはこの趣向は、直接的ではないものの、犯人の正体や狙いの一端を明かしているようで、最初は違和感があったのですが――しかしやがてこのパートで描かれるものは、こちらがそうであろうと予想していたことから少しずつ離れていくことになります。
 そしてそれが全く異なるもう一つの姿を浮かび上がらせていくことに気付いた時には、もう物語にすっかり引き込まれていたのです。


 正直なところ、犯人はかなり早い段階で予想がついてしまうのですが、その犯人像は、本作が真っ向からの時代小説として成立しているからこそ意外なもの。
 そしてその先に描かれるもの、広義のホワイダニットと申しましょうか――犯人の存在と密接に関わり合う「お守様」誕生のきっかけもまた、なるほどと感心させられます。

 そしてこれらの物語のピースがぴたりぴたりとあるべきところに嵌まっていった末に、物語は結末を迎えるのですが――その先にもう一つどんでん返しが用意されているというのもいい。
 ミステリとしての面白さはもちろんのこと、あるの人物の抱えてきた想いが、その無念のほどが、これでもかと言わんばかりに描かれていただけに、この結末は大きなカタルシスを与えてくれるのであります。


 このレーベルの作品が得意とする(印象もある)大仕掛けがあるわけでもなく、キャラクターたちも少々地味なきらいはあります。先に述べたとおり(その詳細はともかく)、犯人がすぐにわかってしまうのも勿体ないところではあります。

 物語的にも、もう一山ほしかったような印象はありますが――しかし丁寧な物語運びと、そこから生まれるどんでん返しの味わいには、捨てがたい魅力がある作品であります。

『本所憑きもの長屋 お守様』(福田悠 宝島社文庫「このミス」大賞シリーズ) Amazon
本所憑きもの長屋 お守様 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

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2018.09.17

「コミック乱ツインズ」2018年10月号


 今月の『コミック乱ツインズ』は、表紙が『軍鶏侍』、巻頭カラーが『勘定吟味役異聞』。特別読切等はなしの、ほぼ通常運転のラインナップです。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 上に述べたとおり巻頭カラーの本作ですが、主人公のチャンバラは今回なし。というより、今回のエピソードに関わる各勢力の思惑説明回という趣であります。シリーズ名物の上役から理不尽な命を下される(そして聡四郎を逆恨みする)役人も登場、文章で読むとさほどでもありませんが、絵でみるとかなり可哀想な印象が残ります(普通のおじさんなので)。

 さて、今回聡四郎の代りに活躍するのは、相模屋の職人頭の袖吉。これまでも何かと聡四郎をフォローしてきた袖吉ですが、今回は潜入・探索要員として寛永寺に潜入して重要な情報を掴むという大金星であります。すごいな江戸の人入れ屋……


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 久々の登場となった印象のある本作ですが、面白いことに今回の主役は軍鶏侍こと岩倉源太夫ではなく、彼が家に作った道場に通う少年・大村圭二郎。父が横領で腹を切った過去を持ち、鬱屈した日々を追る彼は、ある日、淵で主のような巨大な鯉と出会って……

 と、少年の一夏の冒険を描く今回。周囲の人間とうまく係われずにいた圭二郎が大鯉と対峙する姿を、時に瑞々しく、時に荒々しく描く筆致の見事さは作者ならではのものと言うほかありません。
 師として、大人として、圭二郎を見守る源太夫の立ち位置も実に良く(厭らしい言い方をすれば、若い者に格好良く振舞いたいという読者の要望にも応えていて)、彼の命で圭二郎を扶ける老僕の権助のキャラクターも味わいがあり、良いものを読むことができました。


『カムヤライド』(久正人)
 出雲編の後編である今回は、出雲国主の叛乱に乗じて復活した国津神・高大殿(タカバルドン)との決着が描かれることとなります。
 真の姿を現した高大殿の前に、流石のモンコ=神逐人(カムヤライド)も追い詰められることになるのですが……
 変身ヒーローのピンチ描写では定番の、そして大いに燃えるマスク割れも出て、クライマックス感満点であります(ここでサラリとモンコのヒーロー意識を描いてくれるのもいい)。

 ここでカムヤライドの攻撃も通用しない強敵を前に、モンコが用意する対抗手段も意外かつユニークなのですが、盛り上がるのはそのためにモンコがヤマトタケルを対等の相棒として協力を求めるシーン。自分の王家の血にはそんな特別な力はない、と躊躇うヤマトタケルに対するモンコのセリフは、もう殺し文句としかいいようのないもので、大いに痺れます。
(この出雲編では、冒頭から「王家の血」の存在が様々な形で描かれていただけに、モンコがそれをバッサリと切り捨ててみせるのが、実にイイのです)

 そしてラストでは意外な(?)次回へのヒキも用意され、大いに気になるところであります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 冒頭のセリフ「酷暑(あつ)い…」が全てを物語る、ひたすら暑い強烈な日差しの下で男たちが過剰に汗を流しながら繰り広げられる今回の主人公は、冒頭のセリフの主である海坂坐望。「仇討」の仇名のとおり、兄の仇を追って長きに渡る旅を続けている坐望ですが……

 川で流されていた少女を助けのがきっかけで、その父である髭浪人・左馬之助と出会った坐望。竜水一刀流の遣い手である左馬之助と語るうちに、かつて主命によって望まぬ人斬りを行い、藩を捨てたという彼の過去を知る坐望ですが、それは彼と無縁ではなく――というより予想通りの展開となります。
 そしてクライマックス、町のヤクザ同士の出入りの助っ人として対峙することとなる坐望と左馬之助。坐望の心の中に既に恨みはなく、左馬之助は坐望の過去を知らず――ただ金のためという理由で向き合う二人の姿は、武士の、用心棒という稼業の一つの姿を示しているようで実に哀しい。

 その哀しさを塗りつぶすかのように過剰にギラギラ照りつける日差しと、ダラダラ流れ続ける汗の描写も凄まじく、息詰まる、という表現がふさわしい今回のクライマックス。
 ラストでちょっと一息つけるものの、これはこれで気になる展開ではあります。


「コミック乱ツインズ」2018年10月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年10月号[雑誌]


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2018.09.15

畠中恵『つくもがみ貸します』(つばさ文庫版) 児童書版で読み返す名作


 現在アニメ放送中の『つくもがみ貸します』、アニメ紹介のためには原作も再読しなければ――と思ったのですが、以前紹介した作品をただ再読してもつまらない、というわけで、角川つばさ文庫版を再読いたしました。

 角川つばさ文庫はKADOKAWAの児童文学レーベル――他社の児童文庫同様、新書サイズの書籍に大きめのフォントとふりがなの本文、豊富なイラストというスタイルのレーベル。オリジナルの作品だけでなく、過去に一般向けに刊行されたSF・推理小説、ライトノベルのリライトも数多く(個人的な感覚では他社の児童文庫よりも多い印象)収録されています。
 それだけにこの『つくもがみ貸します』の収録も特に意外ではないのですが、しかし物語的には男女の関係の機微が中心にあるだけに、大丈夫なのかな――と思えば、ほとんどそのままの内容となっていたのには好感が持てました。(ちなみに対象年齢は「小学校高学年から」)

 ただ一箇所すぐ気付いたところでは、第1話に登場する深川の遊女・おきのの説明が「深川の旅籠で働いている女性」となっていた辺りは、苦労というか限界というかを感じましたが……


 さて、そんなわけで内容的には原著と全く変更のない本書。すなわち、深川の損料屋兼古道具屋・出雲屋を営むお紅と清次の姉弟が、店の気難しくも好奇心旺盛なつくもがみたちとともに、つくもがみや古道具絡みの事件に挑む以下の全5話が収録されています。

 格上の家に婿入りすることになった武士から、先方より譲られた根付けが足を生やして逃げ出したという事件の背後に潜む人の情を描く「利休鼠」
 料理屋を開こうとする男が居抜きで買った家に出没する幽霊。出雲屋のつくもがみ・裏葉柳は、その幽霊が自分の恋人ではないかと言い出して……「裏葉柳」
 お紅に想いを寄せる若旦那・佐太郎が別の女性から譲られたものの、いつの間にか消え失せ、佐太郎がお紅のために売ったと噂になった蘇芳の香炉。その手掛かりを掴んだ清次が、かつての謎を解く「秘色」
 かつて嫁入りしたくば佐太郎に贈られた櫛を使って大店を立て直すほどの金を用意してみせろと、佐太郎の母に挑まれたお紅。お紅と助ける清次、佐太郎の過去が語られる「似せ紫」
 四年ぶりに江戸に帰ってきたものの、お紅の前に現れず、行方不明となった佐太郎を探す清次。煮え切らない男たちに対するお紅の想いの行方が明かされる最終話「蘇芳」

 いずれのエピソードも、人間の起こした事件につくもがみが関わり、そして清次がつくもがみを利用してそれを解決するミステリ仕立ての内容。
 しかし清次とつくもがみが、単純な友人関係ではなく、ましてや使役される間柄でもないというのが、読み返してみても実に面白いところであります。

 あくまでも人間は人間、つくもがみはつくもがみ――両者は厳然と分かたれているものの、しかし同じ世界に住む隣人同士。面倒な間柄をどうクリアして事件の謎を解くか、という関係性の面白さは、そのまま清次とお紅という人間同士、いや男と女の関係性に重なっていくというのが、本作の何よりの魅力でしょう。

 もちろんこの児童文庫版の読者がその構図をストレートに読みとれるかはわかりません。
 しかし単純に妖怪ものとして見ても、身の回りの(もちろん江戸時代の、という限定付きですが)品物がつくもがみとなって動き、話し出すというのはやはり楽しく、一種マスコット的なつくもがみたちのキャラクターを見ているだけで、十分以上に楽しめるのではないでしょうか。

 少なくとも、大の妖怪好きだった(これは現在進行形ですが)子供の頃の自分が読んだらさぞかし夢中になったに違いない――そう感じます。


 ちなみに、本作は全5話のうち、半分以上の3話が、佐太郎と蘇芳の香炉にまつわるエピソード。第2話のラストから蘇芳が登場することを考えれば、物語の大半がこのエピソードに繋がることになります。
 これはもちろん、本作がそういう作品であるということであり、初読の時は全く気にならなかったのですが、今読み返してみると、それだけで終わるには勿体ない設定とキャラクターであったと感じます。

 現在放送中のアニメ版は、かなりのエピソードがオリジナルなのですが、原作の話数が少ないという以上に、原作の可能性を広げるという意味で、これも正しい方向性だな――と再確認した次第です。


『つくもがみ貸します』(畠中恵 角川つばさ文庫) Amazon
つくもがみ貸します (角川つばさ文庫)

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 『つくもがみ貸します』 第一幕「利休鼠」
 『つくもがみ貸します』 第二幕「梔子」
 『つくもがみ貸します』 第三幕「撫子」
 『つくもがみ貸します』 第四幕「焦香」
 『つくもがみ貸します』 第五幕「深川鼠」
 『つくもがみ貸します』 第六幕「碧瑠璃」
 『つくもがみ貸します』 第七幕「裏葉柳」

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2018.08.18

東村アキコ『雪花の虎』第6巻 川中島直前 去る命、集まる命


 掲載誌の休刊という奇禍に見舞われたものの、無事に移籍した女長尾景虎(上杉謙信)伝の最新巻であります。北上を企てる武田晴信との決戦を控えつつ、にわかに慌ただしさを増していく景虎の周囲。そんな中、彼女の最愛の存在が、ついにその命を燃やし尽くすことに……

 武田晴信との思いも寄らぬ遭遇を乗り越え、いずれ来るであろう彼との激突を腕を撫して待つ景虎。しかし天文21年は無事に明け景虎は春日山城の者たち、そして嫁いだ姉・綾、そして景虎との家督争いに敗れた形で隠居した兄・晴景とともに、一時の平和な時間を過ごすことになります。

 しかしそんな中でも不穏な影は彼女たちに迫ります。晴景の近くに潜んでいた武田家の草――山本勘助によって送り込まれた忍びが、景虎が女姿で晴景のもとを訪れたことを知ってしまったのであります。
 一人これを察知した晴景は、病身にも関わらず、単身これを阻もうとするのですが……


 長尾景虎が女性、という奇想天外かつキャッチーなアイディアがまず印象に残る本作ですが、同時に、景虎と彼女の周囲の家族の姿を、一種ホームドラマ的に描く点もまた、特徴と言うべきではないか――私はそう感じてきました。

 その要素は、景虎が武将として独り立ちし、長尾家の当主となったことで薄れてきた面は否めませんが、しかしそれでももちろん、肉親との関係が断ち切られるわけではありません。
 特に「男」同士であり、心ならずとはいえ家督を争うことになった兄・晴景との関係は、(他の作品で描かれる)他の戦国武将の兄弟関係とは、また大きく異なるものとして描かれていた印象があります。

 戦国時代の「家」というシステムに規定されざるを得ない彼女たちであった――それゆえにまさに二人は家督争いを「演じ」ざるを得なかったのですが――ものの、しかしそこにあったのは、どこまでも文弱ながら心優しき兄と、剛健にしてしかし時に不安定な立場に揺れる妹が、互いに気遣う姿。
 そんな二人が互いを想い、そして自らの身の上を想う姿は、本作を大きく特徴づけるものであったと感じます。そしてこの巻において、兄が妹に遺したものを見れば、それが最後まで全うされたというほかありません。


 さて、長尾家がそのような状況である一方で、「外」の世界では戦国の激動がいよいよ本格化。
 北条氏康の圧力に押された関東管領・上杉憲政が国を捨てて越後に落ち延び、さらに武田晴信を二度にわたり大敗させた(そして景虎と出会うきっかけを作った)村上義清もまた越後に走り――否応なしに長尾家と越後は戦乱の真っ只中に置かれることになるのであります。

 この辺りの窮鳥を懐に匿ってしまう景虎の態度を、彼女の女性性から来る優しさの表れとして描くのは、個人的には違和感がないでもないのですが、ギャグも交えつつ描かれる(これは作品の全般に渡るところではあります)その姿は妙な説得力がある――と言えるかもしれません。
 何はともあれ、武田の村上攻めの報を受けた家臣たちが「虎様…それは…」「また来ますぞ。」という辺りなどの呼吸は実に楽しく、緩急の付け方のうまさはやはりこの作者ならではなのだなあと、もう何度目かになる確認をした次第であります。

 ちなみに女性性といえば、景虎が女性と知れば途端に口説きにかかる村上義清の気持ち悪さは(いかに外見はナイスミドルとはいえ)実に印象的で、いかにもありそう――と思いつつ、この先彼女が晴信らとはまた別に戦っていかなければならないものの大きさを垣間見せてくれたのも出色と言うべきでしょうか。


 さて、この巻のラストでは、その義清の登場をきっかけにいよいよ第一次川中島の戦いが勃発。武将としての景虎と晴信の関係性が如何に描かれ、変化していくのか――今後も楽しみな作品であります。


『雪花の虎』第6巻(東村アキコ 小学館ビッグコミックススペシャル) Amazon
雪花の虎 (6) (ビッグコミックススペシャル)


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 東村アキコ『雪花の虎』第5巻 肉体のリアルを乗り越えるために

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2018.08.17

「コミック乱ツインズ」2018年9月号

 お盆ということでか今月は少々早い発売であった「コミック乱ツインズ」誌の2018年9月号。表紙は『仕掛人藤枝梅安』、新連載は星野泰視『宗桂 飛翔の譜』であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介していきましょう。

『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視 監修:渡辺明)
 『哲也 雀聖と呼ばれた男』の星野泰視による新連載は、江戸時代に実在した将棋名人・九代目大橋宗桂の若き日の活躍を描く物語であります。

 1775年、十数年前から「名人」が空位となっている時代。亀戸の将棋会所を営む桔梗屋に敗れた不良侍・田沼勝助が、家宝の大小を奪われる場面から物語は始まります。
 初段の免状を笠に着て、対局相手に高額の対局料を要求するという博打めいたやり口の桔梗屋から刀を取り戻すため、茶屋で出会った若い侍の大小を盗んだ勝助。その大小をカタに再戦を望む勝助ですが、彼を追ってきた侍が代わって桔梗屋と対局することに……

 と、言うまでもなくこの若侍こそが大橋宗桂。素人をカモにする悪徳勝負師を主人公が叩き潰すというのは、ある意味ゲームものの第一話の定番と言えますが、今回はラストに宗桂が勝負を行った本当の理由がほのめかされるのが興味を引きます。
 ちなみに田沼勝助は、かの田沼意次の三男。後世に事績はほとんど残っていない人物ですが、それだけに今後の物語への絡み方も楽しみなところです。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 宿敵たちの陰謀で尾張徳川家に狙われることとなった聡四郎。橋の上でただ一人、多数の刺客に狙われるという窮地に、謎の覆面の助っ人が現れ――というところから始まる今回、冒頭からこれでもかと派手な血闘が描かれることになります。
 己に勝るとも劣らない剣士の出現に、敢えて一放流の奥義を見せる聡四郎と、それに応えて自らも一伝流なる剣の秘技を見せる謎の男。二人の今後の対決が早くも気になるところですが――しかしその因縁は、師・入江無手斎の代から続くものであることが判明します。

 かつて廻国修行の最中、浅山一伝斎なる剣客と幾度となく試合を行った無手斎。いずれも僅差で無手斎が勝負を収めたものの、いつしか一伝斎は剣士ではなく剣鬼と化し、無手斎の前に現れて……
 こうしたエピソードは剣豪ものであればさまで珍しいものではありませんが、一種の官僚ものとも言うべき本作に絡んでくると、途端に異彩を放ちます。あの無手斎までもが恐れる一伝流に対し、紅さんのためにも一歩も引かず戦うと決めた聡四郎――いよいよこの章も佳境に突入でしょうか。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 政宗最大の危機とも言うべき、伊達家包囲網と最上義光との対決。そんな中で政宗の母であり、義光の妹である義姫は、戦を止めるために単身戦場のど真ん中に乗り込んで――と、漫画みたいな(漫画です)前回ラストから始まる今回は、なんと主人公の一人である政宗不在で進むことになります。

 もちろんその代わりとして物語の中心にいるのは義姫。無茶苦茶のようでいて意外としたたかな行動を見せる彼女の姿を、振り回される周囲の人々も含めて浮かび上がらせ、その先に彼女が動いたただ一つの理由を描くのは、もう名人の技と言いたくなるような印象であります。
 そんな中で、義光の口から真に恐るべき相手――豊臣秀吉の名を出して今後に繋げるのも巧みなところ。……秀吉? かつて描かれた(というか今も描かれている)秀吉は、やたら体が頑丈で、奥さんの料理が殺人級の人物でしたが、さて。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 あてどなく旅を続ける浪人三人組の物語、今回は終活こと雷音大作の主役回。御炭納戸役を辞して炭焼きとなった旧友を十年ぶりに訪ねてみれば、その旧友は……
 というわけで、今回は暴利を貪る御炭奉行と炭問屋から、炭焼きたちが焼いた備長炭を守るために戦う三人組。正直に申し上げて今回の悪役の類型ぶりはちょっと驚くほどなのですが、その悪役たちに対して怒りを爆発させる雷音の表情は衝撃的ですらあります。

 激流を下る小舟の上での殺陣といういつもながらに趣向を凝らした戦いの末、悪役を叩き潰した雷音の決め台詞も、ちょっとそれはいかがなものかしらと思わないでもありませんが、これはこれでインパクト十分で良し、であります。


「コミック乱ツインズ」2018年9月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年9月号 [雑誌]


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2018.08.15

響ワタル『琉球のユウナ』第2巻 二人にとってのもっともやりにくい「敵」!?


 15世紀末の琉球を舞台に、人ならざるものと交流する力を持つ朱色の髪の少女・ユウナと、後に琉球王朝の黄金時代を築く尚真王・真加戸の交流を描くユニークな漫画の第2巻であります。王として日々奔走する真加戸の力になるべく奮闘するユウナですが、二人の前に思わぬ「敵」が現れて……

 その容貌と力から、幼い頃より周囲に疎まれ、二匹のシーサーの他は友達もなく孤独に暮らしてきたユウナ。そんなある日、お忍びで城を抜け出してきた真加戸と出会ったことから、彼女の運命は大きく変わることになります。
 王位継承時の因縁から、何者かの呪いを受けていた真加戸をその力で救ったユウナは、真加戸に気に入られ、半ば強引に都で暮らすことに。大切な「友達」である真加戸のためにユウナも奮闘するうち、二人の距離は徐々に縮まって……

 と、実に甘々な(しかしユウナがコミュ障のためになかなか進展しない)二人の姿を描く本作。
 尚真王・真加戸は実在の人物であり、薩摩の侵略を受ける以前の古琉球において、50年にも渡り王位にあって黄金時代を築いたと言われる人物ですが、本作はその彼が王位についたばかりの時代、まだ十代の少年王の姿を自由に脚色して描くことになります。

 文字通り少女漫画の「王(子)様」である真加戸ですが、まだ年端もいかぬうちに、当初王になるはずであった叔父を心ならずも押しのける形で王となったこともあり、その心の中には巨大な孤独を抱える人物。
 高い身分にありながらも孤独な人物を、特殊な力を持ち天真爛漫な女性が支えるというのは古今東西の物語で見られる構図ですが、それをこの時代の琉球を舞台に設定してみせることで独自性を生み出してみせる物語には、相変わらず感心させられます。

 琉球王家と言えば、王を神力で支える聞得大君という女性の存在が思い浮かびますが、それはまさに尚真王の時代に誕生した制度――ということで、その初代となる(であろう)人物も登場。
 しかし、もしかしてユウナのライバル!? と思いきや、これがちょっと切なくも微笑ましい人物造形で、これも本作らしいアレンジとなっているのが楽しいところです。


 しかし楽しいばかりではいられないのが王という身分であります。

 先に触れたように、本来であれば王位につけなかったかもしれない(少なくとも違う形でついたと思われる)だけに、真加戸はより相応しい王たらんと、懸命に振る舞ってきたことが語られます。
 しかしこの物語の時代の琉球は、強大な力を持った貴族が各地に存在し、王といえども彼らの力を借りねば統治できない状況。そもそも、彼の父である初代王は、同じ尚姓を持つ先代王家から簒奪する形で王となった(第二尚氏王朝)のですから……

 そんな不安定な状況においては、いかに王といってもそうそう好きには振る舞えません。ましてや人間だけでなく、人ならざる妖怪や神霊が存在するこの世界においてはなおさらでしょう。
 こうした状況だからこそ、ユウナの活躍の余地もあるのですが――しかしこの巻においては、二人の前に思わぬ「敵」が立ちふさがることになります。

 ある時は奸臣と結び、またある時は妖怪を操り――ことあるごとに真加戸の治世に横やりを入れ、王の器にあらずと民衆を扇動する謎の男・ティダ(「太陽」の意)と、彼に協力する術者・白澤。
 この巻を通じての「敵」であり、ラストで明かされるこのティダの正体は――なるほどこうきたか、と思わされるようなある種の説得力を持つ存在であります。

 そんな真加戸の存在を揺るがしかねない相手であると同時に、「敵」であっても「悪人」とは思えない彼らの姿、彼らなりの事情をユウナが知ってしまうという――という展開が実にうまいところで、とにかく、二人にとっては最もやりにくい存在と言うべきでしょう。

 真加戸の権威も、ユウナの神力も純粋さも通用しない――そんな相手にいかに立ち向かうのか? 最大の武器は二人の絆、のはずですが、まだまだ波乱は続きそうであります。


『琉球のユウナ』第2巻(響ワタル 白泉社花とゆめコミックス) Amazon
琉球のユウナ 2 (花とゆめCOMICS)


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2018.07.18

廣嶋玲子『妖怪の子預かります 6 猫の姫、狩りをする』 恐ろしくも美しき妖猫姫の活躍


 妖怪の子供専門の子預かり屋になってしまった少年・弥助を主人公とする妖怪時代小説シリーズ、絶好調の第6弾であります。しかし本作では弥助は脇に回り、意外なキャラクターが主役を務めることになります。それは王蜜の君――美しき妖猫族の姫が人間界で巻き込まれた(首を突っ込んだ)事件とは……

 子供の世話に苦労するのは人間も妖も同じ、時には誰かの手を借りたくなるもの――というわけで今日も今日とて妖怪の子預かり屋として奮闘する弥助。すっかり妖たちの間では有名人となった彼の周囲には、時に大妖クラスの妖が現れることがあります。
 その一人が王蜜の君――見かけは美しい少女ながら、気まぐれで騒動好き、そして何よりも悪人の魂をコレクションするのが趣味という、剣呑極まりない猫妖の姫であります。

 これまでも時折弥助と同居人の元・大妖の千弥の前に現れていた王蜜の君ですが、今回は、配下の猫(妖)たちが人の側にいたがることに興味を抱き、人とはそれほどに良いものかと、猫に化けて人間界に現れることに。
 そして彼女が強引に押し掛けたのは――そう、弥助の長屋。千弥には猛烈に嫌な顔をされても一向に構うことなく、猫生活をエンジョイする王蜜の君ですが、しかしその頃、江戸では猫にまつわる悍ましい事件が続発していたのであります。

 それは猫首なる呪い。猫塚に猫四匹の首を捧げれば、何でも望みを叶えることができる。憎い憎い相手を破滅させることも――そんな、はじめは町の片隅で囁かれていた噂が、やがて町中に広がり、ついには猫首の呪いによる犠牲者が出るようになのであります。
 しかしそんな状況を――いや、その生贄とされるのが猫という状況を――猫の守り手たる王蜜の君が見逃せるはずもありません。

 かくて、王蜜の君は、一連の事件を引き起こした者を捕らえ、裁きを与えるべく「狩り」に乗り出すことに……


 個性的な妖が幾人も登場する本シリーズですが、その中でも私が個人的に最も注目していたのが、今回の主役・王蜜の君でした。いえ、単に自分が猫好きだからというのではなく――(これは以前にも何度か申し上げたかもしれませんが)彼女にはモチーフとなったと思われるキャラクターがいるからなのです。

 作者の比較的初期の作品に、『鬼が辻にあやかしあり』という児童文学のシリーズがあります。江戸の魔所・鬼が辻に潜む強大な妖が、人間の訴えに応えて、凶悪な悪人たちを退治するという物語なのですが――しかしこの妖は別に正義の味方ではなく、その目当ては悪人の魂。悪人の魂を集め、愛でることこそが、この妖――妖猫の姫・白蜜の君の目的なのです。

 そう、明言されているわけではありませんが、本作の王蜜の君のモチーフとなっているのは、間違いなく白蜜の君(何しろ本作で王蜜の君が猫に化ける時の名は「白蜜」なのですから……)。
 惜しくも3作しか発表されていない『鬼が辻にあやかしあり』ですが、その児童文学らしからぬ(そして実に作者らしい)ホラーぶりが大好きだっただけに、本シリーズに王蜜の君が登場した時には、私は小躍りしたくなったくらいなのであります。


 と、個人的な話が長くなってしまいましたが、とにかく主役を張るだけのポテンシャルは十二分に備えている王蜜の君。
 「猫」に対する我々人間のイメージ――可愛らしさ、しなやかさ、気ままさ、残酷さ、神秘性などなど――を何百倍にも凝縮したような彼女の存在は実に魅力的であります。いや彼女だけでなく、本作に幾匹となく登場する猫たちもまた……

 そして猫たちが魅力的であればあるほど、その猫たちを虐げ、傷つける人間たちの身勝手さ、非道さには、怒りを覚えざるを得ません。この辺りは人間の負の側面を描くに存分に筆の冴えを見せる作者ならではというべきでしょう。
 ラストに明かされる、ある意味実に皮肉で、そして悍ましい猫首の呪いの真実にもまた、その負の側面はこれでもかと込められているのであります

 しかしご安心を。全ては因果応報、そんな人間たちに罰を下し、悪人を狩る存在が、本作にはいるのですから……


 そしてラストには、前作の主役であり、めでたく華蛇族の姫君と結ばれた久蔵のその後の姿を描く前作と本作共通の後日譚が収められているのも嬉しいところ。
 既に第7弾の刊行も決まっているとのことですが、まだまだ面白くも恐ろしく、魅力的な妖と人の物語を楽しませていただけそうです。


『妖怪の子預かります 6 猫の姫、狩りをする』(廣嶋玲子 創元推理文庫) Amazon
猫の姫、狩りをする (妖怪の子預かります6) (創元推理文庫)


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2018.07.16

「コミック乱ツインズ」2018年8月号

 今月の「コミック乱ツインズ」誌は、連載10周年記念で『そば屋幻庵』がスペシャルゲストを迎えて表紙&巻頭カラー。また、ラズウェル細木の『文明開化めし』が新連載となります。それでは、特に印象に残った作品を今回も一作ずつ紹介していきましょう。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今月は『そば屋幻庵』と二作掲載の作者ですが、こちらはいつもながらがらりと作風を変えたアクションと政治劇が満載です。

 前回自分たちを(前田家の人間と間違えて)襲撃した刺客たちの正体が、尾張徳川家の人間だったことを知った聡四郎。しかし何故尾張が前田家を襲うのか――その謎が今回明かされることになります。その背後には聡四郎に表舞台を追われたはずのあの男が……
 一方、江戸城内では間部詮房と新井白石が相変わらず対立とも協調ともつかぬ微妙な関係。鍋松(徳川家継)の服喪の儀に関して、詮房に知恵を貸して恩を売る白石ですが――ここで聡四郎の前で白石がほとんど初めて人間臭さを見せるのが印象に残ります。

 そしてラスト、玄馬と離れて一人となった聡四郎を襲う刺客の群れ。逃れんと橋の上を走る聡四郎の前に現れた黒覆面黒装束の謎の剣士は、初対面と名乗りつつも何故か一放流のことを知っているのでした。「お主を倒すのは拙者だ」とツンデレっぽいことを言いながら助太刀してくれるその正体は……
 ツンデレといえば紅さんは名前のみの登場で残念ですが、名前のみの登場といえば、ついに今回、徳川吉宗の名が登場。顔は陰になっていて見えないのですが、果たしてどのような姿なのか――猛烈に気になります。


『カムヤライド』(久正人)
 出雲編中編の今回、中心となるのは謎の男・イズモタケル。出雲国主ホムツワケの叛乱の尖兵となった土蜘蛛たちを倒す力を持つ彼の正体は――ヤマトタケルの大ファンでした(本当)。
 ヤマトタケルに憧れ、偶然手に入れた土蜘蛛を倒す力を持つ剣を手に、捕らえられた人々を助けたいと熱っぽく語るイズモタケル。そんな彼を前に、ヤマト王家の者としてその名に鬱屈を抱えるヤマトタケルはその名を名乗ることができず……

 モンコが完成された人格に見えのに対し、人間味のある、成長代のあるキャラクターとして描かれるヤマトタケル。自分の実像を知らず、理想の人物として目標にするイズモタケルを前に揺れる彼の心の動きを、ホムツワケの高殿に急ぐ三人のシルエットに重ねて描く場面は、実に作者らしく格好良い名シーンであります。
 そしてカムヤライドしたモンコの前に現れた国津神の意外な正体は、そして彼らの戦いを見守る久々に登場した謎の旅人の動きは――次回出雲編完結です。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 伊達家包囲網に苦しむ伊達家に襲いかかる佐竹・芦名連合軍。この危機に、政宗の母・義姫が――という前回の引きを受けての今回、母が自分のために動いてくれたと浮かれる政宗の姿が微笑ましくも痛ましいのですが、如何にドシスコンであっても最上義光が譲るはずもありません。かえって(シスコンをこじらせた)義光が動き出し、思わぬことで景綱と義光の陰険……いや知将対決が勃発することになります。

 が、そこに義姫が割って入り――と、史実の時点でメチャクチャ漫画っぽいエピソードをこの作品は如何に料理するのか。ある意味これまでで一番の山場かもしれません。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 東海道は川崎宿にやってきた三人組が今回巻き込まれるのは、大店の娘の連続誘拐殺人事件。宿の米問屋の娘の警護に雇われた三人ですが、はたして娘は何者かに攫われ、百五十両の身代金の要求が届けられることに……

 凶悪な拐かしと、米問屋の父娘の軋轢を絡めて展開する職人芸的面白さの今回、ここのところ重めの話が続いていただけにホッとさせられる内容が嬉しいところです。
 そして基本的にカッコイイ担当だった坐望は、今回夏風邪を押して賭場に出かけてスッテンテンになった挙句風邪をこじらせるという実に微妙な役どころなのですが、それを吹き飛ばすようにクライマックスの乱闘でもんのすごくヒドい啖呵とともに登場(つられて夏海もスゴいことを)。静かな殺陣が多い本作には珍しく、豪快な「音」入りの剣戟を見せてくれました。


 そして『そば屋幻庵』のスペシャルゲストは――この人が良さそうで腰が低くてものわかりがいい人は誰!? という印象。今の読者はわかるのかしら、というのは野暮な心配ですね。


「コミック乱ツインズ」2018年8月号(リイド社) Amazon


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2018.06.29

速水時貞『蝶撫の忍』第2巻 さらなる昆虫忍者登場 頂上決戦勃発寸前!?


 覇王の首を巡り、昆虫を模した能力を持つ忍びたちが激突する忍者アクションの第2巻であります。思いも寄らぬ裏切りの前に捕らえられた覇王の首を守る甲賀のくノ一・鱗に
迫る、恐るべき伊賀の拷問。そしてついに姿を現した甲賀と伊賀、それぞれの最強メンバーの動きは……

 幼い頃から甲賀で過酷極まりない修行を重ねた末、生まれついての鋭敏な指先の感覚を極限まで研ぎ澄まし、「蝶」の生態を模した忍法を会得した鱗。やがて織田信長のもとに刺客として送り込まれた彼女は信長に信頼され、彼が本能寺で最期を遂げるまで行動を共にすることになります。
 そして覇王の首を守るため、甲賀に逆らって姿を消した鱗。京の色街に隠れた彼女ですが、甲賀の追っ手はそこにも迫り、客として訪れていた伊賀のDT忍び・斑猫の半坐を巻き込んで激しい戦いが始まることになります。

 死闘の末に辛うじて逃れる二人ですが、しかしその前には鱗の師を含む最強の面々・甲賀十忍衆が出現。その一番手の忍法から辛うじて逃れた鱗の一瞬の隙を突いたのは何と半坐――彼こそは伊賀の頭領・服部半蔵の弟子であり、鱗を捕らえるために接近したのであります。
 半蔵の手により「数珠髭の間」なるおぞましい拷問部屋に送り込まれる鱗。一方、鱗を奪回せんとする十忍衆は伊賀に迫るのですが……


 誰が敵で誰が味方か、油断できないのは戦国の――そして忍者のならい。特に本作のように、昆虫の能力を模した超絶の忍法を用いる忍者たちが跳梁する物語であればなおさらですが――しかしそれでもさすがに驚かされたのは第1巻ラストの半坐の裏切りです。
 確かに伊賀の忍びではあるものの、直情径行でお人好し、DTで美女に弱いという、ある意味非常にわかりやすい人物に見えた彼の行動は、誰一人として信用できぬ本作という物語の一つの象徴とすら感じられるのであります。
(それでもまあ、その直後に――となるのですが、それもまた彼らしい)

 しかしそんなことに感心している間に、鱗は鬼畜エロ漫画みたいな拷問部屋に放り込まれ、色々な意味で風前の灯火。そこから思わぬ――というかやっぱりな救い主によって助け出されたものの、彼女たちを襲うのは今度は伊賀最強の忍びたち――伊賀忍十座。
 面をつけて忍忍言ってる半蔵とその弟、ニョホニョホ笑う「番犬」と、ちょっとどうかと思う面子ではありますが、言うまでもなくその実力は折り紙付きであります、

 そしてもちろん甲賀十忍衆も黙っているはずもなく、ここに鱗と覇王の首を巡り、甲賀対伊賀の頂上決戦が勃発寸前に――いやはや、忍者好きとしてはたまらない展開です。


 何しろこれまで繰り返し述べてきたように、本作に登場する忍者たちは、敵も味方も、甲賀も伊賀も、いずれも昆虫の能力をモチーフとした忍法使いたち。
 蝶、斑猫、華潜、螻蛄、蟻地獄、さらには御器噛まで――モチーフである程度能力の想像がつくものいれば、全くつかないものまで様々ですが、驚くべき「実在の」昆虫たちの能力に基づいた忍法の数々は、問答無用の説得力を持ちます。

 第1巻同様、この巻でも忍者たちが忍法を放つたびに、毎回1ページ近くを使って忍法解説=昆虫の能力解説が行われるのですが、これがお約束とはいえ実に楽しい。
 異能の忍者のトーナメントバトルの始祖というべき山田風太郎の忍法帖においては、しばしば医学知識に基づいた忍法解説が描かれてきました。これが物語に実にもっともらしい説得力を与えていたことを思えば、本作はその直径――実に「忍者もの」らしい「忍者もの」であると言えるのかもしれません。


 さて、秀吉についた甲賀と、家康に仕える伊賀と――本作で描かれる忍者たちによる覇王の首争奪戦は、そのまま信長の後継者争いにまでつながっていくことになります。
 そんな巨大な歴史の流れの中の戦い、権力者同士の天下を巡る争いの中で、ちっぽけな虫の存在などは、まさしく竜車に向かう蟷螂の斧――ただ踏みつぶされるだけしかないのかもしれません。

 しかし一寸の虫にも五分の魂という言葉もあります。甲賀と伊賀の最強メンバー同士のバトルもさることながら、鱗が、半坐が、この先どんな意地を見せてくれるのか、大いに期待したいと感じさせられるのです。

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2018.06.18

「コミック乱ツインズ」7月号(その二)


 「コミック乱ツインズ」誌の今月号、7月号の紹介の後編であります。

『カムヤライド』(久正人)
 スタイリッシュなあらすじページも格好いい本作、今回は出雲編の前編。前回、瀬戸内海に現れた巨大触手型国津神にヤマトタケルが脱がされたりと苦戦の末、かろうじて勝利したモンコとタケル。どうやら水中では全く浮力が生じないなど謎だらけのモンコですが、しかし彼も何故自分がカムヤライドできるのか、そして自分が何者なのか、一年より前の記憶はないと語ります。
(今回の冒頭、意識を失ったモンコの悪夢の形でその過去らしきものが断片的に描かれますが――やはり改造手術が?)

 それはさておき、自分の伯父に当たる出雲の国主・ホムツワケが乱を起こしたと聞き、大和への帰還よりも出雲に急ぐことを選ぶタケル。それはなにも伯父への情などではなく、かつてホムツワケが出雲に追われたように、皇子でも油断できぬ魑魅魍魎の宮中で自分の座を守るための必死の行動なのですが……
 普段は相棒(というかヒロインというか)的立ち位置で明るいタケルの心の陰影を描くように、文字通り陰影を効かせまくったモノトーンの中に浮かび上がるモンコとタケルの姿が強く印象に残ります。

 と、出雲にたどり着いてみれば、やはりと言うべきかそこは土蜘蛛たちが蠢く地。しかしそこで二人を制止して土蜘蛛と戦おうとする男が登場。その名は――イズモタケル! 敵か味方か第二(第三?)のタケル、という心憎いヒキであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 鬼支丹編の後編である今回描かれるのは、前編で処刑された切支丹が変じた鬼を、祈りの力で消滅させたのがきっかけで正体がばれてしまった尼僧――実は金髪碧眼の盲目の少女・華蓮尼が歩む苦難の道であります。

 彼女を棄教させようと、その前で偽装棄教していた村人たちに無惨な拷問を行う尾張藩主。華蓮の悲しみと苦しみを知りながらも、俺は人間は救わない、華蓮も鬼になれば斬ってやると嘯く鬼切丸の少年ですが……
 それでも屈することなき華蓮と、彼女のために死にゆく村人たち。しかしその死が皮肉な形で(藩の側ではむしろ慈悲を与えたつもりなのがまたキツい)辱められた時、巨大な怨念の鬼が出現、少年の出番となるのですが――しかしそこでもまた、少年は華蓮のもたらした奇跡を目にすることになります。

 華蓮の出自も含めて、正直なところ内容的には予想の範囲内であった今回。その辺りは少々勿体なく感じましたが、無意識のうちに華蓮に母を重ねていた少年の心の揺れが描かれる終盤の展開はやはり面白いところです。
 しかしこの『鬼切丸伝』、本誌連載は今号まで。7月より「pixivコミック」にて移籍というのは実に残念であります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 ちゃんと続いていて一安心の本作、三人の過去回も一巡して、今回は通常の(?)エピソードですが――しかしただでは終わらないのが、らしいところであります。

 旅の途中、とある藩で追っ手に追われていた若侍・春之進を救った三人組。悪家老の暴政によって財政が逼迫した藩の窮状を江戸に訴え出ようとする春之進に雇われた三人は、多勢で襲いかかる家老の手の者から逃れるべく戦いを繰り広げるのですが……
 今回も、夜、雨の降りしきる山道という、特殊なシチュエーションで繰り広げられる殺陣が印象的な本作。一歩間違えれば漫画ではなく絵物語になりそうなところを巧みに踏みとどまり、無音の剣戟を展開するのはお見事であります。

 中盤で先の展開が読めてしまうといえばその通りですし、ラストはもう用心棒の仕事から外れているように思えますが、それでも納得してしまうのは、この描写力と、これまで培われてきたキャラクター像があってのことと納得であります。
(リアリストの海坂、人情肌の雷音、理想主義の夏海というのはやはりよいバランスだと、今更ながらに感心)


 その他、今月号では『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』単行本第2巻発売記念として、2Pの特別ショートマンガが掲載されているのが嬉しいところ。
 連載も終わり、寿司屋で静かに酒を酌み交わす島と雨宮の会話の中で、作品内外の雨宮のルーツが語られる番外編を楽しませていただきました。


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コミック乱ツインズ 2018年7月号 [雑誌]


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