2018.11.10

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第6章の1『願いの手』 第6章の2『ちゃんちゃんこを着た猫』 第6章の3『潮の魔縁』


 北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く短編シリーズの第6章前半――第6章の1(第31話)から3(第33話)の紹介であります。今回からは、第6章のゲストキャラクターである傳通院の助次郎親分と博徒・不動の長五郎が登場することになります。


『願いの手』
 傳通院の助次郎が開く賭場に顔を出した左吉。しかし丁半博打が始まった時、盆ゴザが突然動き出し、丸く盛り上がると大年増女の腕に変化するという怪異が起こります。
 長五郎の刀の一撃で斬り落とされた腕はい草に戻ったものの、何故そんな怪異が起きたのかはわからぬまま、その後も毎晩のように女の手は出現。音を上げた助次郎は長五郎を通じて百夜に解決を依頼してきたのですが……

 というわけで助次郎と長五郎の初登場回である本作。やくざの親分でありつつもどこかすっとぼけた男の助次郎と上州無宿のクールな渡世人の長五郎と、いかにも本シリーズらしい個性を持った二人であります(ちなみに助次郎に賭場の場所を貸していた住持の人を食ったキャラクターもいい)。

 さて、今回の怪異はそんな二人にふさわしいというべきか、賭場で起きた不可思議な事件。その怪異を、百夜が快刀乱麻を断つ――いや断たないようにして解き明かす真実は、意外かつ、この設定ならではの異形の人情話となっており、強く印象に残ります。


『ちゃんちゃんこを着た猫』
 助次郎が妾の芸者・梅太郎のところに泊まった晩に現れた、紅いちゃんちゃんこを着た虎縞の猫。梅太郎は猫を飼っておらず、しかも密室にもかかわらず猫が出没するようになって以来、彼女の周囲には変事が続くことになります。梅太郎から依頼を受けた桔梗は、この一件が付喪神によるものと見抜くのですが……

 表紙イラストの、恐ろしくもなんだか可愛らしい猫の姿が実に味わいのある本作。今回も助次郎周りの事件となるのですが、そんな状況でも登場するなり「百夜ちゃん」呼ばわりするところが助次郎のキャラの面白さであります。
 それにしてもどうみても化け猫としか思えない今回の怪異の正体は何なのか、そして何故梅太郎のもとに現れ、彼女を害しようとするのか? 百夜の推理が解き明かすその謎は、本作ならではの奇怪な、しかし一種の論理性を以て語られるのですが――しかし猫好きとしては、クライマックスに登場するこの猫の姿が何とも泣かせます。

 ちなみに今回久々にゴミソの鐵次がゲスト出演。百夜とは相変わらずのぶっきらぼうなやりとりですが、しかしそれが実にらしくて良い感じです。。


『潮の魔縁』
 紅柄党の一人の屋敷で開かれていた助次郎の賭場に顔を出した紅柄党の頭目・宮口大学。そこで宮口から強烈な磯のにおいを嗅いだ清五郎ですが、宮口はそれが霊的なものではないかと考え、百夜のもとに事件を持ち込むのですが――百夜は宮口の実家で何かが起きたのではないかと語ります。
 はたして彼の実家では、父の寝所に奇怪なものたち――伸び縮みする棒、巨大な黒い幼虫、凄まじい水飛沫、黒壁と巨大な目が出没していたのですが……

 『内侍所』事件以来久々の登場となった宮口大学。強面という点ではやくざ顔負けの不良旗本子弟の頭目ですが、百夜の前では形無しというのはこれまで通りであります。
 それはさておき、今回登場する怪異は、奇怪な現象が少なくなる本作においても滅多にないようなもの。謎が解き明かされてみればなるほど、となるのですが、正直に言って百夜は何でも知っているなあ――という印象もあります。

 ちなみに本作のラストで、一旦清五郎が江戸を去り、故郷に帰ることになるのですが――そこで清五郎が何を見るのか、それはまた次回、であります。


『百夜・百鬼夜行帖 31 願いの手』『32 ちゃんちゃんこを着た猫』『33 潮の魔縁』(平谷美樹 小学館)

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2018.11.05

平谷美樹『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 月下狐の舞』 江戸の出版界を駆ける個性豊かな彼女たち


 江戸の本屋・草紙屋薬楽堂に集う風変わりな面々が、本や出版にまつわる奇妙な事件に挑むシリーズも本作で第4弾。推当(推理)に冴えを見せる女戯作者・鉢野金魚と残念イケメンの貧乏戯作者・本能寺無念を中心とする面々に加え、今回は新顔も登場していよいよ賑やかな物語が展開されます。

 持ち前の頭の冴えと好奇心、気っぷのよさで様々な事件に首を突っ込んでは解決し、それを題材に戯作を書いてきた金魚。
 そんな彼女が顔を出すのは薬楽堂――大旦那から奉公人に至るまで曲者揃いの上に、金魚とはつかず離れずの間柄の無念、女流文学者の只野真葛、薬楽堂の旦那の娘の天才少女・おけいなど、一癖も二癖もある面々が集う草紙屋であります。

 さて、その薬楽堂に居候する無念を訪ねてきた金魚。自分のアイディアがある戯作者とネタかぶりした憤懣を聞いてもらおうとして来た金魚ですが、無念は無念で自分の戯作で忙しくロクに相手もしてくれない状況におかんむりであります。
 と、そんな中に現れたのが、当の戯作者である千両萬両こと紙くず拾いの千吉。一度死にかけた時に、あの世で故人の戯作者・小野萬了に出会って書いたという作品がヒット中の彼ですが、萬了の孫という武士に脅されて弱っているというのです。

 自分が使おうと思っていたネタを使った奴を助ける必要はねェとけんもほろろな金魚ですが、しかし千吉が何かを隠していることを察した彼女は、騒動の裏にある事情を探ることに――という「千両萬両 冥途の道行」に始まる本作、残る3話も個性的なエピソード揃いであります。

 夜な夜な店に現れる河童に友人が脅かされているという事件を戯作に書こうとするおけいとともに、金魚・真葛が真実を探る 「戯作修業 加賀屋河童騒動」
 写本の書き手との身分違いの恋に悩む呉服屋の娘が狐憑きになったという事件を八方丸く収めるため、金魚と新たな仲間が奔走する「月下狐之舞 つゆの出立」
 薬楽堂の新企画・素人戯作試合の最終選考に残った二人の正体を追う金魚と無念が、思わぬ「殺人事件」に巻き込まれる 「春吉殺し 薬楽堂天手古舞」

 日常の(?)謎あり、怪談の真相暴きあり、人助けあり――バラエティに富んだ各話の趣向が魅力であるのはもちろんですが、それぞれが皆、戯作や江戸の出版業界に絡んだ内容となっているのが実に面白い。
 特にラストのエピソードは、江戸の新人賞ともいうべき素人戯作試合の応募者の正体探しというシチュエーション自体が非常に楽しく、推理に関してはほとんど無敵だった金魚が初めて外した!? という興味も相まって、ファンには様々な意味で必見の作品です。


 そしてまた、本作の魅力は物語の内容自体には留まりません。上に述べたように、薬楽堂に集う面々の個性も大きな魅力なのですが――特に本作においては、新顔をはじめとして、女性陣のキャラクターが際立って感じられます。

 その新顔とは、葛飾応為ことお栄――あの葛飾北斎の娘であり、自身も優れた絵師であった女性であります。もちろんお栄は実在の人物ですが、本作では金魚の戯作に興味を持って薬楽堂を訪れ、たちまち金魚と意気投合。その勢いで狐憑き事件の解決にともに奔走することになります。

 このお栄は、小説のみならず映像作品などでも最近様々に題材となっていますが、本作では金魚以上にあけっぴろげでさっぱりした性格の持ち主――それでいて優れた芸術的感性の持ち主として描かれているのが面白い。
 金魚とお栄の感性がシンクロして、月下に舞う妖しい狐の姿を幻視する場面は、本作随一の名場面と呼んで良いかと思います。

 そして面白いのは、そんな金魚とお栄、さらに真葛やおけいといった面々の、その個性を説明するのに、「不思議」に対する態度で表現するのも、またユニークなところでしょう。
 頭っから信じない金魚、信じている真葛、自分で見たことがないものは判断しないおけい、あった方が世の中面白いというお栄――キャラクターの描き分けという点において、このような視点を用意してみせるのもまた、本作らしい巧みさと感じます。


 と、またもや女性キャラクターが増えたことで「少しは活躍させてもらえねぇと、影が薄くなっちまうじゃねぇか」とボヤく無念ですが――その彼と金魚の距離が微妙に、いやかなり近づきつつあるのもまたニヤニヤとさせられる本作。
 この先の作品世界の広がり同様、二人の行き先もまた大いに気になるシリーズなのであります。


『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 月下狐の舞』(平谷美樹 だいわ文庫)

草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 月下狐の舞 (だいわ文庫)

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2018.11.03

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第5章の4『蛇精』 第5章の5『聖塚と三童子』 第5章の6『侘助の男』


 北から来た盲目の美少女修法師・百夜の活躍を描く短編シリーズの第5章後半、第5章の4(第28話)から6(第30話)の紹介であります。第5章を貫く謎――昌平橋のたもとに侘助の裏地の着物を着て現れ、彼女を誘う謎の色男と、ついに百夜は対峙することになります。

『蛇精』
 ある晩、婚儀を間近に控えた荏原の大庄屋の娘を襲った怪異。夜中に畳が何かを擦る音で目覚めてみれば、彼女の周囲を這い回るのは蟒蛇――それも笑い声を上げ、髪を生やした物の怪だったのであります。
 依頼を受けた百夜は、「蛇精に気をつけな」という侘助の男の託宣を背に調伏に向かうのですが、娘から感じたのは嫉妬と人ならぬモノの気配。そして娘の母も、かつて同様に奇怪な目に遭っていたことがわかり……

 冒頭、寝ていた娘を蟒蛇が襲うシーンの怪談めいた描写(特に蟒蛇に髪が生えていることに気付くくだりが良い)が中々に恐ろしい本作。しかし真に恐ろしいのは、中盤で語られるある人物の情念の存在でしょう(尤も、そこにきちんと救いが用意されているのもいいのですが)。

 事件は百夜の景迹によって比較的あっさりと解決するのですが――ある意味真のクライマックスはその先。再び百夜の前に現れた侘助の男は、何と百夜を――という表紙の場面がインパクト絶大であります。
 百夜が失明した時も側にいたという侘助の男。百夜を共に行こうと誘い、従わないのであれば別の者を連れていくと語る男の正体は果たして……


『聖塚と三童子』
 陸奥で修行中の桔梗が百夜の危機を察知し、立ち上がる――という冒頭から、クライマックスの近さを感じさせる本作。
 それはさておき、百夜は日野のとある村の入り口にある聖塚――百年ほど前に上人が入定して即身成仏となった地――の麓に、三人の童子が現れるという怪異の調伏を依頼されることになります。

 尖った髪で、左右の童子は直立した真ん中の童子の方に上半身を傾けて現れるという三人。これだけなら別におかしなことはありませんが、真ん中の童子が西瓜でも丸呑みできるほどに口を大きく開き、中で舌を蠢かす――というのは、三人が目撃されるのが夕刻ということもあってなかなかに不気味ではあります。
 しかし有徳の上人が眠る地に、何故このような怪異が起こるのか、そして何故今起きるようになったのか――この辺りの謎解きが、本作の一番の面白さでしょう。

 物語的には小品という印象は否めませんが、クライマックスには思わぬ人物(?)の登場もあり、ちょっと民話めいた味わいもある楽しい一編であります。


『侘助の男』
 そして第5章のラストでは、ついにあの侘助の男を巡る事件が描かれることとなります。

 ある真冬の日、大伝馬町の呉服屋の庭で狂い咲きした侘助の木の傍らに倒れていた店の娘・桃代。一方、原因不明の衰弱状態に陥った百夜は、瓦版でその狂い咲きを知ると、左吉と桔梗に支えられて呉服屋を訪れ、変事の存在を知るのでした。

 そしてその前に現れる侘助の男。自分は百夜が遠い昔に産み落とした存在だと語るその正体は。そして何故今になって彼女の前に現れたのか。烏帽子に狩衣姿の男が夢に現れたと桃代から聞かされた百夜が、たどり着いた真実とは……

 冒頭にも述べたとおり、この第5章において一貫して謎として存在してきた侘助の男。男女間の情とは全く無縁にも見えてきた百夜が、彼の誘いを拒絶しながらも明らかに娘らしく心を動かすという、意外な(?)描写がこの章では繰り返し描かれてきました。
 本作はその解決編、いわば侘助の男との決戦とも言うべき内容なのですが――決して派手な戦いとはなるのではなく、しかし心の深い部分に刺さる展開となるのが、本作らしいところでしょう。

 その詳細はここでは伏せます。しかしこれまで断片的に語られてきた百夜の過去が改めて語られ、そしてその中で――という、いわば過去との対峙編でありつつも、そこに少女修法師が付喪神に挑むという、本作の基本構造を踏まえた物語が生み出されているのが、実に素晴らしいのであります。
 第5章は正直なところ比較的小粒なエピソードが多い印象でしたが、このクライマックスはそれを補って余りある名品と言ってもよいかと思います。


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2018.10.23

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第5章の1『三姉妹』 第5章の2『肉づきの面』 第5章の3『六道の辻』


 侍言葉の盲目の美少女イタコ・百夜が、付喪神が引き起こす奇怪な事件に挑む『百夜・百鬼夜行帖』シリーズの第5章の紹介、今回はその前半である第5章の1(第25話)から3(第27話)をご紹介いたします。

『三姉妹』
 呉服屋のドラ息子・仙太郎のもとに毎夜現れる三人の芸者姿の妖。ちーんという金属の音とともにどこからともなく現れる彼女たちは、歯も舌もない真っ赤な口を開けて仙太郎に襲いかかり、どこかへ連れて行こうというのであります。
 依頼を受けた百夜は、仙太郎が怪異が始まる直前に、十二社の池の畔で騒ぎを起こしたことに注目するのですが……

 第5章の開幕編は、何といっても登場する怪異の不気味さが印象に残る一編。見た目は人間ながら、一部分だけ明らかに人外というのは――しかもそれが三人、家に押しかけてくるというのはインパクト絶大であります。
(正体を明かされてみれば、ははぁ……という感じなのですが)

 そして本作で注目は、昌平橋のたもとで百夜の前に現れた謎の色男。彼女に何故か懐かしいものと、胸のときめきを感じさせるこの男は、彼女に水難の相があると警告するのですが――侘助の裏地の着物を来たこの男の正体は何者なのか、それがこの第5章を通じての謎となります。


『肉づきの面』
 江戸を騒がす相模の権兵衛一味。押し入った店の者を皆殺しにするというこの凶賊が、日本橋の紙問屋に入ったものの、蔵にあった「痩せ男」の面を一つ奪っただけで退散したというのですが――その面が、いわゆる肉づきの面のように、権兵衛の顔に張り付いてしまったというのであります。
 そして百夜のもとを訪れる油問屋の手代を名乗る男たち。主の顔から面が離れなくなってしまい、祓うために百夜を招きたいというこの依頼は、どう考えても権兵衛一味からのものとしか思えないのですが……

 肉づきの面といえば、越前吉崎観音の嫁威し説話が思い浮かびますが、本作はそれを題材にしたもの――と思いきや、全く意外な角度から肉づきの面を描くのが面白い0。
 凶賊が盗みに入った先でかぶった面が顔に張り付いて――というだけでもユニークですが、この面を作ったのが元盗賊の面作りという因縁が、本作を幾重にも入り組んだものとしています。

 本シリーズは有名な逸話やそこに登場する存在を題材にした怪異を描きつつも、それをそのままでなく、ワンクッション置くことで独自性を見せるエピソードが少なくありません(例えばこれまで紹介した中では『内侍所』『猿田毘古』がそれに当たります)。
 その構図がまた伝奇的――というのはさておき、本作もまたそんな面白さを持つ作品であります。

 そして前回同様登場する侘助の男は、百夜に剣難の相があると警告。しかし本シリーズでは比較的珍しいセクハラ発言を受けて、「男が近づかぬと言った奴、こっちへ来い!」「お前だけは斬り殺してくれる!」と激高する百夜を見ると、それは相手の方では――と思ってしまったり。


『六道の辻』
 侘助の男の「闇夜の辻は気をつけなよ」という警告から始まる本作の舞台となるのは横山同朋町の小さな辻。その辻に毎月一度、化け物が現れて人を追いかけるというのですが――その姿が凄まじい。
 首は細長く、一つ目に牛のような胴体、短い翼を羽ばたかせ、細長い尻尾に四本の足があるというその姿は、もうほとんどクリーチャーといった代物。これが夜道で人間を追いかけるというのですから、その辻が「六道の辻」と呼ばれてしまうのもむべなるかな、であります。

 もちろん本作では、百夜が依頼を受けてこの怪物と対決することになるのですが――その先で明らかとなったその正体はなるほど、と思うもののいささか拍子抜けではあります。
 これはこれで、いわゆる「化物寺」の問答をビジュアル化したようなもので、付喪神との対決を描く本シリーズのコンセプトに則ったものではあるかとは思いますが……


『百夜・百鬼夜行帖 25 三姉妹』『26 肉づきの面』『27 六道の辻』(平谷美樹 小学館)

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2018.10.17

「コミック乱ツインズ」2018年11月号


 月も半ばのお楽しみ、「コミック乱ツインズ」2018年11月号の紹介であります。今月の表紙は『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)、巻頭カラーは『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)――今回もまた、印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 単行本第1巻発売ということもあってか巻頭カラーの本作。今回中心となるのは、桃香と公儀のつなぎ役ともいうべき八丁堀同心・安達であります。

 ある日、安達の前に現れ、大胆不敵にも懐の物を掏ると宣言してみせた妖艶な女。その言葉を見事に実現してみせた女の正体は、かつて安達が説教して見逃してやった凄腕の女掏摸・薊のお駒でした。しかしお駒は十年以上前に江戸を離れ、上方で平和に暮らしていたはず。その彼女が何故突然江戸に現れ、安達を挑発してきたのか……
 という今回、お駒の謎の行動と、上方からやってきた掏摸一味の跳梁が結びついたとき――と、掏摸ならではの復讐譚となっていくのが実に面白いエピソードでした。

 桃香自身の出番はほとんどなかったのですが、これまであまりいい印象のなかった安達の人となりが見えたのも良かったかと思います(しかし、以前の子攫い回もそうですが、何気に本作はえぐい展開が多い……)


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 将軍の寵臣の座を巡る間部越前守と新井白石の暗闘が将軍家墓所選定を巡る裏取引捜査に繋がっていく一方で、尾張徳川家の吉通が不穏な動きを見せて――と、その双方の矢面に立たされることとなった水城聡四郎。今回は尾張家の刺客が水城家を襲い、ある意味上田作品定番の自宅襲撃回となります。

 この尾張の刺客団は、見るからにポンコツっぽい吉通のゴリ押しで派遣されたものですが、その吉通は紀伊国屋文左衛門に使嗾されているのですから二重に救いがありません。もちろん、襲われる聡四郎の方も白石の走狗であるわけで、なんとも切ないシチュエーションですが――しかしもちろんそんな事情とは関係なしに、繰り広げられる殺陣はダイナミックの一言。。
 勝手知ったる我が家とはいえ、これまで幾多の死闘を乗り越えてきた聡四郎が繰り出す実戦戦法の数々はむしろ痛快なほどで、敵の頭目相手に一放流の真髄を発揮するクライマックスもお見事であります。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 伊達家包囲網との対決も一段落ついたところで、今回はいよいよあの男――豊臣秀吉が本格登場。ページ数にして全体の2/3を占拠と、ほとんど主役扱いであります。
 既にこの時代、天下人となっている秀吉ですが、ビジュアル的には『信長の忍び』の時のものに泥鰌髭が生えた状態。というわけで貫禄はさっぱり――なのですが、芦名家との決戦前を控えた政宗もほとんど眼中にないような言動は、さすがと言うべきでしょうか。
(そして残り1/3を使ってデレデレしまくる嵐の前の静けさの政宗と愛姫)


『孤剣の狼』(小島剛夕)
 名作復活特別企画第七回は『孤剣の狼』シリーズの「仇討」。諸国放浪を続ける伊吹剣流の達人・ムサシを主人公とする連作シリーズの一編であります。
 旅先でムサシが出会った若侍。仇を追っているという彼は、しかし助太刀を依頼した浪人にタカられ続け、音を上げて逃げてきたのであります。今度はムサシに頼ろうとする若侍ですが、しかしムサシは若侍もまた、仇討ちを売り物にして暮らしていることを見抜き、相手にせずに去ってしまうのですが……

 武士道の華とも言うべき仇討ちを題材にしながらも、味気なく残酷なその「真実」を描いてみせる今回のエピソード。ドライな言動が多いムサシは、今回もまたドライに若侍を二度に渡って突き放すのですが――その果てに繰り広げられるクライマックスの決闘は、ほとんど全員腹に一物持った者の戦いで、何とも言えぬ後味が残ります。
(ちなみに本作の前のページに掲載されている連載記事の『実録江戸の真剣勝負』、今月の内容は宮本武蔵が指導した少年の仇討で、ちょっとおかしな気分に)


 その他、『用心棒稼業』(やまさき拓味)は、前回から一行に加わった少女・みかんを中心に据えた物語。クライマックスの殺陣は、本作にしてはちょっと漫画チックな動きも感じられるのですが、今回の内容には似合っているかもしれません。

 そして来月号は『鬼役』が巻頭カラーですが――新顔の作品はなし。そろそろ新しい風が欲しいところですが……


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2018.10.15

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の5『白狐』、第4章の6『猿田毘古』


 北からやって来た盲目の美少女イタコが付喪神に挑む時代伝奇ミステリ『百夜・百鬼夜行帖』シリーズの第4章も今回紹介する2話で完結。この章は、付喪神だけでなく神とも対峙することが多かった百夜ですが、今回もまた……

『白狐』
 日暮里の外れの村で祖父母と暮らす少女・おけい。彼女が数ヶ月前から狐憑きとなり、大の男が数人がかりでようやく押さえつけられるほどの力で暴れて弱っている――という依頼を受けた百夜。
 左吉、桔梗といつものトリオで出かけた百夜ですが、彼女には何かの目算がある様子。はたして、彼女が対面したおけいの周囲には、何体もの狐の霊と、一人の男の亡霊が居たのであります。

 果たして男の霊の正体は、そしておけいの狐憑きの真相とは――事件の背後の思わぬ絡繰りを百夜が解き明かすことになります。


 古今の怪異譚ではお馴染みの――というよりお馴染み過ぎて逆に最近ではお目にかかるのが難しい――狐憑き。その狐憑きの少女が、大の男三人を薙ぎ倒す姿から始まる本作ですが、もちろんただの狐憑きが登場するはずがありません。

 冒頭で描かれるおけいの暴れっぷりを男たちから聞き、その中のある行動からこの狐憑きが尋常でないことを見破る百夜ですが――この辺りの謎解きが実に楽しい。
 この尋常でない狐憑きの正体についても、百夜だからこそ見破ることができるものなのも面白く、お話的には比較的シンプルながら、一ひねりの効いた内容の作品です。

 ちなみに本当に珍しく、左吉の推理が的中したエピソードでもあったり……


『猿田毘古』
 かつて『義士の太鼓』事件(文庫第2巻『慚愧の赤鬼』所収)で百夜と対決した不良武士集団・紅柄党の頭目・宮口大学。宮口家の所領である多摩群大平村の別宅を訪れた彼は、その晩、この世のものならぬ怪異と遭遇することになります。
 金属が鳴るような音と共に奥座敷に現れたモノ――それは奇妙な面を被り高下駄を履いた、伝承に言う猿田毘古神そのままの姿をしていたのであります。

 大学の一刀によって面を割わられ、姿を消した猿田毘古ですが、その下から溢れ出したのは強烈な光と熱。翌日、村の神社の宝物庫に収められていた猿田毘古の面が両断されていたことを知った大学は、百夜のもとを訪れることになります。
 不在の彼女に代わり大平村に向かった桔梗は、再び現れた猿田毘古と対決し、これが神だと断じるのですが……


 斜に構えた不良侍ながら、一本筋の通った言動と、百夜と互角以上の剣の腕を持つ大学。先の対決では彼女の仕込みの刃をへし折り、その刃を前差に仕立て直して腰に差しているという、癪に障るほどのカッコイイキャラクターであります。
 しかしそんな彼でも今回の怪異には手を焼いて――という展開となりますが、なるほど今回の怪異も大物。何しろ猿田毘古といえば、紀記の天孫降臨のくだりに登場した由緒ある神なのですから。

 これまで何故か付喪神絡みの事件ばかりに遭遇する百夜ですが、冒頭に述べたように、この第4章においては、何故か神絡みの事件に遭遇することになります。
 それはこの章から桔梗のせいではないか――などと口の悪い左吉は言うわけですがそれはさておくとして、しかしこの怪異、そうそう単純な正体ではないというのがまた本作らしいところであります。

 高い鼻に赤く光り輝く目をもつという何とも謎めいた存在である猿田毘古。
 ここで百夜が語るその解釈は、何やら作者の最近の作品に繋がるものもあって興味深いのですが、百夜の存在こそが……という、大げさにいえば後期クイーン的問題を思わせるひねりも印象に残ります。。

 さほど活躍しないまま桔梗が一端退場というのは残念ですが、この章の掉尾を飾るにはまず相応しい内容だったと言うべきでしょうか。


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2018.10.07

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の3『わたつみの』、第4章の4『内侍所』


 北から来た美少女修法師・百夜が付喪神に挑む連作伝奇シリーズ『百夜・百鬼夜行帖』の紹介、今回は左吉が思わぬ危機に陥る第4章の3(第21話)『わたつみの』、ある意味シリーズ最強の相手が登場する第4章の4(第22話)『内侍所』を紹介いたします。

『わたつみの』
 使いで沼津に出かけた左吉が帰ってこないと心配して、百夜のもとを訪れた左吉の主・倉田屋徳兵衛。途中の女郎屋にでも引っかかっているのだろうとにべもない百夜ですが、徳兵衛は、実は左吉は自分の隠し子だと衝撃の告白をいたします。
 流石に放ってもおけず、呪法で居場所を占う百夜ですが、しかし術が何者かに妨害されたことから、桔梗、徳兵衛とともに西へ旅立つことになるのでした。

 一方、神奈川宿近くで「蓬莱屋」なる遊郭を見つけ、思わず足を踏み入れていた左吉。見世の花魁・乙ノ前太夫に見初められた左吉ですが、彼の周囲では次々と奇怪な現象が起きることになります。
 それでも床入りにこぎ着けた左吉ですが、彼の前で太夫が見せた姿とは……

 百夜の後ろ盾である倉田屋と百夜の繋ぎとして、弟子とも助手ともつかぬ位置づけの左吉。何とも頼りないお調子者ですが、今回なんともリアクションに困る出生の秘密が語られることになります。
 そんな彼が巻き込まれるのは、いかにも彼らしい事態なのですが――しかし今回登場するのは、かなり不気味かつ洒落にならない相手。何となくピンチ担当となった感もある桔梗が大苦戦するその敵の正体は――ここからどうやって付喪神に繋げるのだろう、と思いきや、なるほどと感心させられます。

 にしても左吉が遊郭で体験する怪現象描写は、その理不尽さと、それと裏腹の妙なリアリティなど、実話怪談作家としても活躍した作者らしいものを感じます。


『内侍所』
 同じ長屋の住人がもらってきた琵琶の引き取りを徳兵衛に依頼した百夜。しかし琵琶の買い手となった大店・高砂屋では、光る亡魂を目撃した者が鼻血を出し、目を病むという怪事が続発していたのであります。
 調査に向かった百夜と桔梗は、目を病んだ使用人たちから、神罰・仏罰のような気配を感じるのですが――しかし逆に高砂屋からは、土地神も稲荷も気配がない、すなわち逃げだしていたことに気づくのでした。

 この奇怪な現象の陰に潜むものはなにか――犠牲者がいずれも蔵の近くで亡魂を目にしていることに気付いた桔梗は、蔵の中に高砂屋が京で手に入れたある品物が入っていることを知ったのですが、その正体は何と……

 これまでも毎回のように申し上げているように、単純に怪事を引き起こすモノを調伏するのではなく、そのモノの正体をまず突き止める――すなわちフーダニットの要素があるミステリ風味が楽しい本シリーズ。
 今回はその中でも、近づいた者に奇怪な障りを引き起こし、他の神仏が逃げ出すほどの存在という、何とも気になるモノの正体探しとなるのですが――いやはや、解き明かされたその正体には驚くしかありません。

 ここで詳細に触れることはできませんが、冒頭の琵琶で百夜が平家物語を語るという場面が伏線となっているという――そして実は最初からそのものズバリを語っているのですが――ある意味フェアな謎解きに感心しつつ、この相手にはさすがに百夜でも敵うはずがないと納得であります。

 しかしその先のある意味身も蓋もない結末には二度驚くのですが――人間、自分の力でどうにも出来ないものに手を出した時の処分というものは、いつの時代も変わらないと言うべきでしょうか。

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九十九神曼荼羅シリーズ 百夜・百鬼夜行帖21 わたつみの 百夜・百鬼夜行帖シリーズ九十九神曼荼羅シリーズ 百夜・百鬼夜行帖22 内侍所(ないしどころ) 百夜・百鬼夜行帖シリーズ


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2018.09.29

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の1『狐火鬼火』、第4章の2『片角の青鬼』


 電子書店で1話ずつ発表されている美少女修法師・百夜の活躍譚『百夜・百鬼夜行帖』――以前『修法師百夜まじない帖』のタイトルで小学館文庫から3巻が刊行されたこのシリーズを、これから数話ずつ紹介していきたいと思います。今回は、文庫版の続きとなる第19話、第20話を紹介いたします。

 盲目ながら強い力を持つイタコの美少女・百夜。同じ作者の『ゴミソの鐵次調伏覚書』シリーズの主人公・鐵次の妹弟子である彼女は、鐵次同様に北の地から江戸に出て、修法師稼業を始めることになります。
 この百夜が、江戸に出てすぐの事件で出会った薬種問屋・倉田屋の手代でお調子者の青年・左吉を助手に、次々と起きる付喪神絡みの事件に挑む――というのが本シリーズの基本設定であります。

 以下、各話の紹介と参りましょう。


『狐火鬼火』
 四谷近辺で頻発する奇妙な小火騒ぎ。どうやらこれが現実の火ではなく、鬼火らしいと知った顔見知りの町奉行所同心の依頼を受け、百夜は調べに向かうことになります。
 鬼火が出たという三軒を調べるうちに、ある共通点に気づいた百夜。そこから怪異の原因を察知した彼女は、怪異を鎮めるために品川のとある村に向かうことになりますが――はたしてその村でも怪異は起こっていたのであります。

 しかし一足先に、村に雇われていた女修験者・桔梗。果たしてイタコと女修験者、二人は如何にして怪異を鎮めるのか……

 『百夜・百鬼夜行帖』の第四章の開幕編である本作(第三章までの各章は、それぞれこれまで刊行された文庫版が該当)は、新レギュラーである女修験者の桔梗の初登場エピソードであります。
 侍言葉で喋る(江戸弁で喋るために侍の霊を憑かせている)盲目の美少女という濃いキャラである百夜。その彼女に並び立つことになる桔梗ですが――これが色黒で、すぐにでも人を殺しそうなほど強い眼光の尼削ぎ(おかっぱ)の若い女性という、これまた濃いキャラクターであります。

 もっとも内容的には桔梗は顔見せの要素も大きく、メインとなるのは四谷に出没した鬼火の正体。怪異を鎮める前に、それを何者が引き起こしているかを探るミステリ風味の展開が本シリーズの特色ですが、今回の謎解きはこの時代ならではの風物を使ったものであるのが実に面白いところです。
 さらにクライマックスには思わぬ活劇も用意されており、なかなかに豪華な一編であります。


『片角の青鬼』
 前話の一件で百夜に心服した桔梗が挨拶代わりに持ち込んできた一件――それは、深川の料理屋に、巨大な青鬼が出現したという事件でした。
 店の先代の七回忌の法要が行われた後の宴席に、突如響き渡った轟音――いや咆哮。そこには身の丈九尺、一本角に恐ろしい形相の青鬼が突如出現していたというのです。

 座敷の中を涙を流しながら暴れまわり、やがて姿を消した青鬼。翌晩、料理屋の主人の依頼で調伏に向かった桔梗の前にも青鬼は出現し、彼女の山刀の一撃で姿を消したのですが――その正体を追った桔梗は、店の蔵で角の折れた青鬼が描かれた桃太郎の絵を見つけて……

 というわけで新レギュラーの桔梗が本格的に活躍する本作。あるいは百夜のライバルキャラになるのかな――と思った桔梗が百夜に弟子入り志願というのはちょっと勿体ない気もしますが(ほとんど名ばかりの弟子とはいえ既に左吉がいることもあり)、しかし本作では彼女の存在が良いアクセントとなっているといえます。

 前話の紹介でも触れたように、怪異の正体を巡る謎解きが特色となっている本シリーズ。
 これまでは百夜が名探偵役として快刀乱麻を断つ如く謎を解いてきたわけですが、そこに彼女に負けぬ力を持ちつつも、謎解きという点では一歩譲る桔梗を設定することで、一種のミスリーディングを無理なく行える――というのが面白いのであります。

 はたして桔梗の謎解きではどうしても解き明かせぬ謎が残り、現場に足を運んだ百夜が真実を解き明かす――というひねりが面白い本作。
 恐ろしげな怪異が、ちょっとイイ話に落着するのも、ある意味定番ではありますがホッとさせてくれます。


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2018.09.26

平谷美樹『伝説の不死者 鉄の王』 伝説再臨 鉄を巡る驚愕の伝奇SF開幕


 昨年刊行され、作者ならではの鉄を巡る壮大な伝奇世界を描いてみせた『鉄の王 流星の小柄』。本作はその外伝にして前日譚、そして新たなる物語の始まり――前作に登場した謎の女、歩き蹈鞴衆の多霧の少女時代の冒険を描く、驚天動地の時代伝奇SFであります。

 歩き蹈鞴衆の一つ、橘衆の村下(頭)の長女である多霧。鉄を求めて一人山中を探索していた彼女は、越後山野領の山中で、別の蹈鞴衆が何者かに虐殺された現場に遭遇することになります。
 その場で生き延びていたのは、瀕死の深手を追った青年一人のみ。必死に青年の手当をする多霧ですが、しかし目を離した隙に、動ける状態でなかったはずの青年は「俺に関わるな」の言葉を残して姿を消してしまったのでした。

 消えた青年の身を案じながらも、一族のもとに帰った多霧。しかしそれを機に、橘衆は謎の武士たちの監視を受けることとなります。そしてついに始まる武士たちの襲撃――その混乱の中で、多霧は母と兄の一人を喪うこととなります。
 家族の仇を討つべく、怒りに燃えて城下に潜入した多霧。やがて彼女は、全てが伝説の不死の者・無明衆を求めての企てであることを知るのでした。

 そして生き残った橘衆たちとともに、仇の武士たちに決戦を挑む多霧。しかしその最中に、事態は全く予想もしなかった方向に動き出すことになります。
 山野領を揺るがす大異変の正体とは……


 前作においては、鉄と蹈鞴衆にまつわる陰謀を追う浪人・鉄澤重兵衛の前に現れ、彼を時に助け、時に導く形で暗躍した多霧と橘衆。
 その約10年前を舞台とする本作は、まだ多霧が13歳の少女であった時代――鼻っ柱は強く、負けず嫌いでありながら、まだ本当の修羅場を知らない多霧の姿が描かれることになります。

 実は作者の作品には、女性が主人公の作品、女性が活躍する作品が少なくないのですが、本作の多霧もその系譜に属するキャラクターであることは間違いありません。

 決して恵まれた生まれや暮らしでなくとも、その身に誇りを持ち、己の想いに真っ正直に生きる多霧。その姿は紛うことなき平谷ヒロインといえます。
 そんな彼女の活躍は、決して明るいばかりではない――それどころか、もしかすれば作者の作品でも屈指の量の血が流れる――本作に、大きな躍動感を与えていると言えるでしょう。
(もっとも、その少女時代の一つの終わりもまた、本作は描くのですが……)


 しかし本作はそれ以上に、凄まじいまでのスケールを持つ時代伝奇、いや伝奇SFでもあります。

 多霧たち蹈鞴衆――すなわち、製鉄の技を継ぐ者の間に語り継がれる伝説。それはかつて高天原から転がり落ちた神の鉄に触れて鉄の秘密と不老不死の体を手に入れ、人々に鉄を授けたという無明衆の伝説でありました。
(前作において、傷の治りが異常に早い重兵衛に、多霧が大きく心を動かす場面があるのですが、なるほど――と感心)

 彼らこそは本作のタイトルである「伝説の不死者」、本作の全ては、すなわち多霧の戦いは、その力を手に入れんとした者たちの暴挙から始まったと言えるのですが――しかし物語後半で、本作は驚くべき真実を描き出すことになります。
 その詳細はさすがにここで述べるわけにはいかないのですが、しかし登場人物たちのほとんどが、そしてもちろん我々読者が、真実のごく一端しか見ていなかったことを示す展開は驚天動地の一言。終盤のカタストロフィは、ここまでやるか!? と言いたくなってしまうほどのスケールであります。

 前作を紹介した際に作者のサイエンス・テクノロジー志向/嗜好について触れましたが、本作で描かれるのはSF作家としてスタートした作者が、その初期作品で描いてきたものに繋がるものである――そう言ってもよいのではないでしょうか。


 少女の成長と痛快な活劇(多霧の父が橘衆の根城を「梁山泊」と評するのにもニヤリ)、そして壮大な世界観――紛れもなく作者の作品でありながら、さらに新しい段階に踏み込んだことを感じさせる、壮大な物語の始まりであります。


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伝説の不死者: 鉄の王 (徳間時代小説文庫)


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2018.09.18

福田悠『本所憑きもの長屋 お守様』 連続殺人の影に呪いの人形あり!? どんでん返しの時代ミステリ


 第16回 『このミステリーがすごい! 』大賞の隠し玉作品に選出された本作は、一見妖怪時代小説のようなタイトルでありつつも、その実かなりストレートな時代ミステリ。晴らせぬ恨みを晴らせると噂の人形を巡って起きる連続殺人と、その陰に潜む意外な人の情を描く物語であります。

 江戸で続発する殺人事件。いずれも人から強い恨みを受ける悪党が殺されたものの、被害者同士に繋がりはなく、いずれも達人と思しき相手に一刀のもとに斬られているという謎多き事件であります。
 その調べに当たる岡っ引きの甚八は、殺人が起きる前に、いずれも被害者に恨みのある女性がある人形に願掛けをしていたことを知るのですが――それはなんと、甚八が暮らす徳兵衛長屋の奥の祠に祀られた「お守様」と呼ばれる人形だったのです。

 お守り様に願をかければ天誅が下されるという噂を流している何者かがいると、その後を追う甚八は、やがて自分と姉のおしの、幼馴染の武士の子・柳治郎の子供時代にも、お守様にまつわる事件があったことを思い出します。
 果たしてお守様は呪いの人形なのか、そしてお守様にまつわる因縁とは何か。何故お守り様への願い通りに悪人が殺されていくのか。ついに甚八が掴んだその真相と、犯人の正体とは――

 『このミス』大賞の隠し玉といえば、これまでも『もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ』や『大江戸科学捜査 八丁堀のおよう』といった、時代ミステリも――それも、一筋縄ではいかない作品を送り出してきた枠であります。
 それ故、ジャンルとしては同じ時代ミステリもまた、どんな作品が飛び出してくるか、と身構えていたのですが、これが意外なまでに(といっては失礼に当たりますが)端正で、それでいて一ひねりが効いた作品でありました。

 物語の主な舞台はタイトルどおりに本所の裏長屋、主人公はその長屋に出戻りの姉と暮らす岡っ引きと、いかにも文庫書き下ろし時代小説の王道の一つ、ミステリ風味の人情もの的スタイルですが、丁寧な文体と物語構成で描かれる物語は、やがて少々意外な姿を現していくことになるのです。

 実は本作は、物語の随所に犯人の視点からのパートが挿入されます。個人的にはこの趣向は、直接的ではないものの、犯人の正体や狙いの一端を明かしているようで、最初は違和感があったのですが――しかしやがてこのパートで描かれるものは、こちらがそうであろうと予想していたことから少しずつ離れていくことになります。
 そしてそれが全く異なるもう一つの姿を浮かび上がらせていくことに気付いた時には、もう物語にすっかり引き込まれていたのです。


 正直なところ、犯人はかなり早い段階で予想がついてしまうのですが、その犯人像は、本作が真っ向からの時代小説として成立しているからこそ意外なもの。
 そしてその先に描かれるもの、広義のホワイダニットと申しましょうか――犯人の存在と密接に関わり合う「お守様」誕生のきっかけもまた、なるほどと感心させられます。

 そしてこれらの物語のピースがぴたりぴたりとあるべきところに嵌まっていった末に、物語は結末を迎えるのですが――その先にもう一つどんでん返しが用意されているというのもいい。
 ミステリとしての面白さはもちろんのこと、あるの人物の抱えてきた想いが、その無念のほどが、これでもかと言わんばかりに描かれていただけに、この結末は大きなカタルシスを与えてくれるのであります。


 このレーベルの作品が得意とする(印象もある)大仕掛けがあるわけでもなく、キャラクターたちも少々地味なきらいはあります。先に述べたとおり(その詳細はともかく)、犯人がすぐにわかってしまうのも勿体ないところではあります。

 物語的にも、もう一山ほしかったような印象はありますが――しかし丁寧な物語運びと、そこから生まれるどんでん返しの味わいには、捨てがたい魅力がある作品であります。

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本所憑きもの長屋 お守様 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

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