2018.01.20

「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)

 今年最初の『コミック乱ツインズ』は、連載再開の『鬼役』が表紙ですが、なんと言っても注目は巻頭カラーで新連載の『カムヤライド』。この作品をはじめとして今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介していきましょう。

『カムヤライド』(久正人)
 というわけで最注目の新連載の本作、独特のビジュアルとアイディアで熱狂的なファンを持つ作者は、これがもちろん本誌初登場ですが、物語の舞台も、これまた本誌初であろう古墳時代。そして主人公は鎧装ヒーローという、実際にその目で見てみなければ信じられない作品です。

 200年前の天孫降臨(という名の巨大隕石落下?)によって、九州を離れたヤマト族が、列島の中心に強大なクニを樹立した畿内を中心とする国家を樹立した4世紀。しかし各地ではヤマトへの反乱が相次ぎ、ヤマトの皇子・オウスは、九州を騒がす熊襲の王・カワカミタケルの討伐に向かうことになります。

 しかしオウスの前に現れたタケルは、巨大な蜘蛛が入り交じったような異形の怪物。その恐るべき力にオウスは配下を皆殺しにされ、追い詰められることになります。
 と、そこに現れたのは、オウスが旅の途中で出会った、道ばたで埴輪なる人形を売っていた奇妙な男・モンコ――そしてモンコは、鎧をまとった戦士・神逐人(カムヤライド)の姿に変身して……!

 というわけで、古代を舞台とした変身ヒーローアクションとも言うべき本作。最近はスーパー戦隊ものにデザイナーとして参加しているから、というわけではないと思いますが、外連味のたっぷり効いた台詞回しとアクションには、濃厚な特撮風味が漂います。

 かつて封印されたものの今また眠りから覚めた異形の国津神、そしてそれを封印する者・神逐人という設定も面白いのですが、しかしどこかで見たようなクマめいた外観の国津神、オウスはいきなり緊縛触手責め、そして、モンコの「芸術(わざすべ)は爆発だ(はぜたちぬ)!!」などという怪台詞ありと、第1話から飛ばしっぱなし。
 それでいて「俺の立つここが境界線だ!」「ここより人の世 神様立ち入り禁止だ」という決め台詞(?)から繰り出す封印キックは、ギミックも含めて実に格好良く、まずは快調な滑り出しであります。

 本誌の読者層とマッチするかはさておき、個人的には大歓迎の作品であります。


『薄墨主水地獄帖 獣の館)(小島剛夕)
 今号も登場の小島剛夕の名作復刻特別企画は、作者が昭和44年から46年にかけて発表した、地獄から来た男と嘯く謎の素浪人・薄墨主水を主人公とする連作シリーズの一編です。

 主水が訪れた城下町で跳梁する婦女暴行殺人鬼。その怪人と剣を交えた主水は、残された着物の切れ端を手がかりに、ある名家を訪ねることになります。そこに暮らすのは気弱そうな青年と、彼を溺愛する美しい母、そして二人にかしずく青年の妻。屋敷に泊まった主水は、そこで三人の異常な関係を目の当たりにするのですが……

 どことなく柴練ヒーローを思わせる着流し総髪のニヒルな浪人の主水ですが、ユニークなのは、彼が白面の美形などではなく、むしろ悪相の不気味な男であること。
 そんな彼だからこそ、本作で描かれる奇怪な人間関係を断ずるに相応しい――と感じさせる一方で、彼の、そして読者の予想を遙かに上回る異常な精神の存在を描く結末に驚かされるのです。

 ちなみに本作、当然のような顔をして主水が登場するのですが、実はシリーズ第1話とのことで、こちらにも驚かされました。


『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 公儀の隠密仕事を請け負う美人姉妹・桃香と桜紅の活躍を描く物語の第二話です。
 前回、旗本の長男・佑馬と花魁・黄瀬川の恋路を助けるため、二人の間を裂くという依頼を無視して黄瀬川を助けた桃香。これで一件落着かと思いきや、まだやることがあるという彼女の真意は……

 というわけで今回描かれるのは、佑馬サイドの物語対面を重んじる父によって座敷牢に入れられた佑馬の元に忍んだ桃香が、彼に対して与えたモノとは……という展開は予定調和的ではありますが、自分で手を下せば簡単なものを、敢えて回り道することで男の真意を試すというのは、なるほど女性主人公ならではの視点というべきでしょうか。。

 相変わらず主人公の公儀隠密としての設定は謎ですが、魅力的な物語ではあります。


 残りの作品はまた明日。


『コミック乱ツインズ』2018年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年2月号 [雑誌]


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2018.01.19

廣嶋玲子『妖怪の子預かります 5 妖怪姫、婿をとる』 新たな子預かり屋(?)愛のために大奮闘!

 最近は少数精鋭となった感のある妖怪時代小説の一つ――妖怪の子預かり屋になってしまった少年・弥助と、その育て親で実は元・大妖怪の千弥を中心とする騒動を描く本シリーズも本作で第5弾。今回は、しかし弥助ではなく、意外な人物が主役を務めることになります。遊び人のボンボン・久蔵が……

 貧乏長屋に二人で暮らす弥助と千弥ですが、弥助が妖怪の世界と関わり合うようになり、千弥の正体を知る前から――すなわち彼らが世間とほとんど接触せず、ひっそりと暮らしていた頃から、強引に関わってきた久蔵。
 これがもう、いいところのボンボンで両親が甘いのをいいことに、放蕩三昧の遊び人――彼の方は何故か千弥と弥助を気に入っているものの、特に弥助の方はいい加減な久蔵のことを毛嫌いしている状態であります。

 そんな彼がある日出会ったのは、初音という美少女――姿の妖怪、それも見目麗しさと気位の高さで知られる華蛇族の姫君。
 恋に恋する高飛車娘だった初音は、かつて千弥を初恋の相手に選んだものの、(弥助一筋である)千弥から手酷くはねつけられて意気消沈していたところに久蔵と出会い、彼の心の優しさに惹かれたのであります。

 久蔵もいつにない真面目さで彼女に応え、結婚の約束まで交わした二人ですが……

 というところで前作の引き、千弥と弥助のところに「許嫁がさらわれた! 取り返すから手を貸してくれ」と、久蔵が飛び込んでくる場面から、この物語は始まります。

 妖怪たちに連れ去られたという初音を連れ戻すため、妖怪である千弥(しっかり正体に気付いていたという、意外な久蔵の切れ者ぶりも楽しい)たちを頼ってきた久蔵。
 嫌々ながら(ほんの少し)手を貸すこととなった二人の紹介で、初音姫の親友であり厄介事好きの妖猫族の姫・王蜜の君の力を借りて、初音姫の後を追った久蔵ですが、実は初音をさらったのは、彼女の乳母であり、やはり華蛇族の萩乃だったのです。

 人間などと夫婦になるなどとんでもないと、初音を閉じこめた萩乃ですが、久蔵の思わぬ大胆さとしぶとさ、そして初音の想いの強さに手を焼き、それならばと久蔵に三つの試練を課すことに……


 シリーズタイトルにあるとおり、「妖怪の子預かり屋」が中心となる本作。今回は久蔵が実質的に主人公ということで番外編的な趣向のように思えますが――しかしその要素は、今回もしっかりと物語の中心に据えられることとなります。
 と言えば、鋭い方であればおわかりでしょう。そう、久蔵に課せられた三つの試練とは――というわけで、ここに新たな(!?)妖怪の子預かり屋が誕生するのです。

 しかし元々完全に嫌がらせであるだけに、今回登場する妖怪たちは、子供とはいえ強烈な連中揃い。心身どころか身上までまで痛めつける妖怪たちの容赦のなさは(特に二番手の不気味さ・妖しさは、さすがはこの作者ならではというべきでしょう)、これまでのシリーズでも屈指のものかもしれません。

 しかし――これまでの作品同様、本作は妖怪の子供と人間との、恐ろしくも愉しい攻防戦にのみ留まるものでは決してありません。
 ここで描かれるものは、それまで出会ったことのないような異界の存在と出会うことで、自分を見つめ直し、人間として生まれ変わる一人の男の成長譚と、その原動力となる愛の強さ・貴さなのですから。


 妖怪ものの魅力というのは、決して妖怪そのものの――いわばキャラクターとしての魅力にのみあるものではありません。
 妖怪ものを真に魅力的なものとするのは、(人間臭い面をある程度持ちつつも)人間とは大きく異なる存在である妖怪と、我々人間が出会った時に生まれる化学反応――特に人間側のそれ――の存在でしょう。

 言い換えれば、自分とは異なるレイヤーに生きる存在と出会った時に、ある種の多様性と接した時に、人は何を想い、何を為すのか――それこそが、妖怪を題材とする物語の魅力であり、醍醐味ではないでしょうか。
 本作は、欠点だらけながらもある意味人間味に溢れた人間である久蔵を主人公にすることにより、そして彼がある意味極めて「純粋な」妖怪の子供たちと接する姿を描くことにより、これまで以上にその要素を濃厚に感じさせるものとなっているのです。

 人間と妖怪はあくまでも異なる存在――時に互いが害となる存在ですらあります。しかしそれでも、人間は、妖怪は変わることができる。そしてそこに生まれるものがある……
 恐ろしくも愉しく、そして甘々で幸せな本作は、それを何よりも雄弁に描く物語なのであります。


『妖怪の子預かります 5 妖怪姫、婿をとる』(廣嶋玲子 創元推理文庫) Amazon
妖怪姫、婿をとる (妖怪の子預かります5) (創元推理文庫)


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2018.01.03

細谷正充『少女マンガ歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』で芳醇な奥深い世界へ

 昨年刊行された時代小説関連書籍の中でも群を抜いてユニークかつ極めて内容が濃い一冊であった『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』。その姉妹編とも言うべき書籍が登場しました。タイトルのとおり、少女マンガの中の歴史・時代ものの100人100作を紹介するガイドブックです。

 おそらくはいま時代小説の解説を、最も多く書いている人物である著者は、実は大の――という言葉では足りないほどの漫画愛好家でもあります。
 本書はその著者が、少女漫画(本書のラインナップ的にはレディースコミックも含めた「女性向けの漫画」と考えていただければよいかと思います)の歴史・時代ものに限定して紹介するガイドブック。漫画のガイドブク自体は最近ではあまり珍しくありませんが、このような単一ジャンルに絞ったものは、非常に珍しいことは間違いありません。

 ……いえ、単一と申し上げましたが、一口に歴史・時代ものといっても、その内容は多岐にわたることは言うまでもありません。本書も以下のように、幾つかの地域と時代に分類した内容となっています。

Ⅰ 日本(古代―戦国時代/江戸時代―新選組/明治・大正・昭和) 51作品
Ⅱ フランス(ルネッサンスからバロック、ロココへ/フランス革命―ナポレオン戦争期/近代) 12作品
Ⅲ ヨーロッパ(中世―ルネッサンス期/近世/近代) 16作品
Ⅳ ロシアとアメリカ(ロシア/アメリカ) 7作品
Ⅴ アラブ・インド(エジプト、オリエント/インド) 5作品
Ⅵ 中国・西域(中国/西域) 9作品

 なかなかユニークな区分とも思えますが、実際のラインナップを見ればそれも納得。この区分そのものが、「少女漫画」における歴史・時代ものの対象の分布になっていると言うのも、本書のユニークな点でしょう。

 それはさておき、本書に取り上げられているのは、大御所の作品からフレッシュな若手の作品まで、非常にバラエティに富んだ内容であります。
 例えば『日出処の天子』(山岸凉子)、『はいからさんが通る』(大和和紀)、『ベルサイユのばら』(池田理代子)、『キャンディ・キャンディ』(いがらしゆみこ)、『王家の紋章』(細川智栄子)など、あまりにメジャーすぎて、そういえば歴史・時代ものであったかと再確認してしまうような作品が並ぶかと思えば、この数年間にスタートした作品も数多く含まれているのが、本書のユニークで魅力的な点であります。

 非常に個人的なことを言えば、『子どもと十字架』(吉川景都)を取り上げ、連載は完結しているにもかかわらず、単行本が上巻しか刊行されていないことに憤るなど、まさに我が意を得たりであります。
 いや、これは本当に個人的な感想で恐縮ですが、このように非少女漫画誌に連載された、決して恵まれた扱いとは言い難い作品も取り上げている辺り、著者の目配りの広さ、確かさが感じられるではありませんか。

 ちなみに本書で取り上げられた100作品のうち、私が本書の内容を目にする前に読んでいたものは、わずか15,6作品、それも日本を舞台とした作品のみ。
 作品名はおろか、作者名も存じ上げなかった作品も数多くあったのですからお恥ずかしい限りですが、それだけ未知の作品を知ることができたのですから、これは大いに喜ぶべきでしょう。

 内容の方も、作品内容の紹介はもちろんのこと、作者自身の紹介や作品の成立過程の紹介も行われている充実ぶり。
 1作品あたり2ページと、分量的には決して多くはないものの、誠に当を得た内容は、先に述べたように数多くの解説を執筆してきた著者ならではのものでしょう。


 そんな本書において、敢えて難点を上げれば、現在では入手困難な作品が幾つか含まれている点と、長編の場合でもデータとして総巻数が記載されていない(本文中で言及されているものはあり)ことでしょうか。
 特に後者については、連載期間が長期に渡ることも少なくない漫画という媒体を扱うだけに、実際に作品を読む際の大きな参考データとなるだけに、少々残念ではあります。

 とはいえ、それももちろん小さなことであることは間違いありません。
 本書が、「少女漫画」の中の歴史・時代ものという、極めて芳醇な、そして奥深い世界に分け入る唯一無二の、そしてもちろん極めて優れたガイドであることは間違いないのですから――

 この先しばらく、このブログで少女漫画を取り上げる頻度が増えたとすれば、それは本書の影響であることは間違いありません。


『少女マンガ歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』(細谷正充 河出書房新社) Amazon
少女マンガ歴史・時代ロマン決定版全100作ガイド


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2017.12.30

このブログが選ぶ2017年ベストランキング(文庫書き下ろし編)

 今年は週刊朝日のランキングに参加させていただきましたが、やはり個人としてもやっておきたい……ということで、2017年のベストランキングであります。2016年10月から2017年9月末発刊の作品について、文庫書き下ろしと単行本それぞれについて、6作ずつ挙げていくところ、まずは文庫編であります。

 これは今年に限ったことではありませんが、普段大いに楽しませていただいているにもかかわらず、いざベストを、となるとなかなか悩ましいのが文庫書き下ろし時代小説。
 大いに悩んだ末に、今年のランキングはこのような形となりました。

1位『御広敷用人大奥記録』シリーズ(上田秀人 光文社文庫)
2位『義経号、北溟を疾る』(辻真先 徳間文庫)
3位『鉄の王 流星の小柄』(平谷美樹 徳間文庫)
4位『宿場鬼』シリーズ(菊地秀行 角川文庫)
5位『刑事と怪物 ヴィクトリア朝エンブリオ』(佐野しなの メディアワークス文庫)
6位『妖草師 無間如来』(武内涼 徳間文庫)

 第1位は、既に大御所の風格もある作者の、今年完結したシリーズを。水城聡四郎ものの第2シリーズである本作は、正直に申し上げて中盤は少々展開がスローダウンした感はあったものの、今年発売されたラスト2巻の盛り上がりは、さすがは、と言うべきものがありました。
 特に最終巻『覚悟の紅』の余韻の残るラストは強く印象に残ります。

 そして第2位は、非シリーズものではダントツに面白かった作品。明治の北海道を舞台に、天皇の行幸列車を巡る暗闘を描いた本作は、設定やストーリーはもちろんのこと、主人公の斎藤一をはじめとするキャラクターの魅力が強く印象に残りました。
 特にヒロインの一人である狼に育てられたアイヌの少女など、キャラクター部門のランキングがあればトップにしたいほど。さすがはリビングレジェンド・辻真先であります。

 第3位は、4社合同企画をはじめ、今年も個性的な作品を次々と送り出してきた作者の、最も伝奇性の強い作品。「鉄」をキーワードに、歴史に埋もれた者たちが繰り広げる活躍には胸躍らされました。物語の謎の多くは明らかになっていないこともあり、続編を期待しているところです。
 また第4位は、あの菊地秀行が文庫書き下ろし時代小説を!? と驚かされたものの、しかし蓋を開けてみれば作者の作品以外のなにものでもない佳品。霧深い宿場町に暮らす人々の姿と、記憶も名もない超人剣士の死闘が交錯する姿は、見事に作者流の、異形の人情時代小説として成立していると唸らされました。

 そして第5位はライト文芸、そして英国ものと変化球ですが、非常に完成度の高かった一作。
 狂気の医師の手術によって生み出された異能者「スナーク」を取り締まる熱血青年刑事と、斜に構えた中年スナークが怪事件に挑む連作ですが――生まれも育ちも全く異なる二人のやり取りも楽しいバディものであると同時に、スナークという設定と、舞台となるヴィクトリア朝ロンドンの闇を巧みに結びつけた物語内容は、時代伝奇ものとして大いに感心させられた次第です。

 第6位は悩みましたが、シリーズの復活編であるシリーズ第4弾。今年は歴史小説でも大活躍した作者ですが、ストレートな伝奇ものも相変わらず達者なのは、何とも嬉しいところ。お馴染みのキャラクターたちに加えて新たなレギュラーも登場し、この先の展開も大いに楽しみなところであります。


 その他、次点としては、『京の絵草紙屋満天堂 空蝉の夢』(三好昌子 宝島社文庫)と『半妖の子 妖怪の子預かります』(廣嶋玲子 創元推理文庫)を。
 前者は京を舞台に男女の情の機微と、名刀を巡る伝奇サスペンスが交錯するユニークな作品。後者は妖怪と人間の少年の交流を描くシリーズ第4弾として、手慣れたものを見せつつもその中に重いものを内包した作者らしい作品でした。


 単行本のベストについては、明日紹介させていただきます。


今回紹介した本
覚悟の紅: 御広敷用人 大奥記録(十二) (光文社時代小説文庫)義経号、北溟を疾る (徳間文庫)鉄の王: 流星の小柄 (徳間時代小説文庫)宿場鬼 (角川文庫)刑事と怪物―ヴィクトリア朝エンブリオ― (メディアワークス文庫)妖草師 無間如来 (徳間文庫)


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 平谷美樹『鉄の王 流星の小柄』 星鉄伝説! 鉄を造る者とその歴史を巡る戦い
 菊地秀行『宿場鬼』 超伝奇抜きの「純粋な」時代小説が描くもの
 佐野しなの『刑事と怪物 ヴィクトリア朝エンブリオ』 異能が抉る残酷な現実と青年の選択
 武内涼『妖草師 無間如来』 帰ってきた妖草師と彼の原点と

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2017.12.23

藤田和日郎『黒博物館 キャンディケイン』 聖夜に博物館を訪れたもの

 これまで『スプリンガルド』『ゴーストアンドレディ』と発表されてきた藤田和日郎の伝奇奇譚、「黒博物館」シリーズが、クリスマスに再びその扉を開くことになりました。「モーニング」誌の35周年読み切り祭りの一つである本作――聖夜に黒博物館に現れた思わぬ来訪者を描いた短編であります。

 スコットランド・ヤードの中に開設された、犯罪の凶器や証拠品を展示した秘密の博物館――黒博物館(ブラック・ミュージアム)。
 一般人には公開されぬ博物館に収められた曰く付きの品々にまつわる奇譚を、金髪で左目を隠した美しい(ちょっと天然の気のある)キュレーターを狂言に描くのが、「黒博物館」シリーズであります。

 そんなシリーズの最新作は、一話限りの掌編。クリスマスの晩に、乱れたドレスのままで黒博物館に駆け込んできた美女にまつわる物語であります。

 本来であれば一般人には――それもクリスマスの晩には――開かれない黒博物館。しかし女性の求めるものが、ここに展示された「狼男」を殺すための銀の弾丸と拳銃とくれば、話は別であります。
 1852年の秋から冬にかけて3名を射殺した男、ジェイコブ・ベイカーの恋人であったという女性が語るには、ベイカーが殺した相手は狼男――銀の弾丸でなければ殺せぬ相手であったというではありませんか。

 いま、その狼男の仲間が自分を追っていると怯える女性を匿うキュレーター。一方その頃、「スコットランドヤードの機関車男」率いるヤードの警官隊は、多くの人間の命を奪った殺人鬼の行方を追っていたのですが……


 わずか22ページと、本当に短い作品である本作。しかし登場する題材やアイテムのおどろおどろしさや、キュレーターの思わぬ側面、そしてタイトルのキャンディケイン(クリスマスの飾りなどに使う杖の形をしたキャンディ)の使い方など、よくできた短編のお手本のような作品であります。

 うるさいことをいえば、狼男が銀の弾丸に弱いというのは20世紀の映画の副産物ですし、ジェイコブ・ベイカーというのは本作の創作ではないかなあと思いますが――小さい小さい。
 懐かしのキャラのゲスト出演というサプライズもあって、ファンにとってはまったくもって嬉しいクリスマスプレゼントというべき作品でありました。


 それにしても連載作品のほとんどが大長編の作者ですが、しかし中編・短編も切れ味の良い作品揃いなのは、ファンであればよくご存じのとおり。
 これからも本作のような作品をもっともっと読んでみたい――と、強く感じます。

 もちろんこれは大長編も並行して読みたい、という非常に強欲な願いなのですが……


『黒博物館 キャンディケイン』(藤田和日郎 「モーニング」2018年2・3号掲載) Amazon
モーニング 2018年2・3号 [2017年12月14日発売] [雑誌]


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2017.12.22

平谷美樹『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束』 謎を解き、心の影から解き放つ物語

 江戸時代の出版業界を舞台とした時代ミステリ連作の快調第3弾であります。頭の回転の早さでは右に出る者がない新米戯作者・鉢野金魚と、残念イケメンの先輩戯作者・本能寺無念をはじめとする草紙屋薬楽堂の賑やかな面々が、今日も怪事件に挑むことになります。さらに今回はおまけエピソードも……

 これまで、ただいま売り出し中の女戯作者・金魚が世話になっている草紙屋・薬楽堂に集う一癖も二癖もある面々が、幽霊の仕業としか思えぬような事件に挑む様を描いてきた本シリーズ。
 (この時代の)常識では計りきれないような事件に男たちが右往左往しているのを尻目に、リアリストの金魚姐さんの推当(推理)が、その背後の人間の企みを一刀両断するのが、何とも楽しい連作であります。

 そんなシリーズの最新作である本作は、全3話構成。
 金魚の長屋に、彼女が昔世話になっていた旦那の幽霊が訪れるという怪異に薬楽堂の面々が挑む「盂蘭盆会 無念の推当」
 金魚の新作のために用意した特製の表紙紙が、刷物師のもとから百枚だけ消え失せた謎の先に、思わぬ人間関係が垣間見える「唐紅 気早の紅葉狩り」
 毎年師走に数日姿を消す無念を追っていた金魚が、彼の哀しい過去と、思わぬ現在の苦境を知る「無念無惨 師走のお施餓鬼」

 タイトルから察せられるように、夏・秋・冬とそれぞれの季節の情景も楽しいエピソード揃いですが、今回それ以上に印象に残るのは、その中で掘り下げられる登場人物たちの心象風景であります。
 一見、苦しくもそれぞれ賑やかに楽しく生きているように見える薬楽堂の面々ですが、しかしもちろん、金魚や無念たちには――決して楽しいばかりではない――積み重ねてきた過去があり、そして現在があります。

 たとえば、金魚の前歴は実は女郎。そこから身請けされて妾となったものの、愛する旦那を早くに失い、正妻に追い出された過去の持ち主であります。
 一方、その金魚が何かと気になって仕方ない無念の方は、これまで過去が伏せられてきたのですが、しかし彼にも重く哀しい過去が――そして彼の現在のある癖(?)に繋がるものが――あることが、今回描かれるのです。

 そう、こうした重い過去や、現在の仕事と家族の間での悩みなど、当たり前といえば当たり前かもしれませんが、登場人物たちはみなそれぞれに悩みや悲しみを抱える身。
 もちろんほとんどの本作の登場人物たちが大人なだけに、それを無神経につつくようなことはありません。しかし何かの拍子に姿を見せるそれは、普段の彼らの姿が明るいだけに、鋭くこちらの胸に突き刺さるのです。

 そして――本作で描かれる謎の数々、事件の数々は、見方を変えれば、そんな登場人物たちが抱えた過去や現在にまつわる心の影から生まれるものと言うことができるでしょう。
 だとすれば、その謎を解き明かし、事件を解決するということは、その影からの解放に等しいとも言えるのではないでしょうか。たとえ今は完全に解決はしなくとも、そこに向けての始まりとなるような……

 本作のサブタイトル『唐紅色の約束』の由来であろう第2話など、江戸の製本・装丁事情というなかなか珍しい題材だけでも非常に面白いエピソードなのですが――この心の影からの解放という点においても、特に印象に残る物語。なるほど、ある意味表題作として相応しいと感じさせられる内容なのです。


 そして本作は、実はこの3話のみでは終わりません。各話の後にそれぞれもう3話、「聞き書き薬楽堂波奈志」と題する掌編が収録されているのです。
 薬楽堂の小僧・松吉と竹吉が、それぞれ藪入りに対して抱える屈託を描く「藪入り」
 元・御庭之者で読売りの貫兵衛が、突如謎の強敵の襲撃を受ける「名月を盃に映して」
 薬楽堂の隠居・長兵衛が、前作に登場した只野真葛の『独考』出版に向けて苦闘する「生姜酒」

 これらはそれぞれ謎解き要素はほとんどないのですが――しかしやはりそれぞれに心の中に抱えたものを浮き彫りにするエピソード揃い。
 ほとんど忍者アクションものの貫兵衛のエピソードなど、本編ではなかなかできない内容であったりして、実に楽しい(そして内容は実にもどかしい)のであります。

 本シリーズはレギュラー陣も結構な人数となるだけに、こうした形の掘り下げは実にありがたいサービス(?)であります。


 第3話で語られた薬楽堂一大イベントの顛末など、この先も気になる本シリーズ。謎を解き明かし、心の影から人を解き放つ物語を、この先も末永く読んでいきたいものです。


『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束』(平谷美樹 だいわ文庫) Amazon
草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束 (だいわ文庫 I 335-3)


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2017.12.20

「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)

 創刊15周年記念号の「コミック乱ツインズ」2018年1月号の紹介の後編であります。新連載あり名作の再録あり、バラエティに富んだ誌面であります。

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 今号もう一つの新連載は、約1年前に読み切りで本誌に登場した原秀則のヒロインもの。前回登場時も達者であった筆致は今回も健在であります。

 主人公・桃香は腕利きの漢方医として吉原にも出入りするお侠な美女――ながらその裏の顔は将軍から裏の仕事を受ける隠密。これまでも様々なトラブルを陰で処理してきた、という設定であります。
 今回彼女が挑むのは、武家の嫡男が吉原の花魁・黄瀬川に入れあげた末にプレゼントしてしまった家宝の印籠を取り戻すというミッション。しかし黄瀬川は桃香の患者、しかも真剣に二人は惚れあっていて……

 という今回、「公儀隠密」と「将軍から裏の仕事を受ける隠密」の微妙な違いや、そもそも(おそらくは旗本が)自分の家の不祥事の後始末をそんな家の人間に託してしまってマズくはないのか、などと気になる点はありますが、喜怒哀楽表情豊かなキャラクターたちが飛び回るだけでも十分楽しい内容であります。
 一件落着かと思いきや、ラスト一コマで次回へ引いてみせるのも巧みなところでしょう。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 宇多田ヒカルもオススメの本作、今回の舞台は関ヶ原後の土佐。どこかで見たような少女が――と思いきや「戦国武将列伝」連載時の本作に登場した犬神娘・なつの再登場であります。
 その術で土佐を鬼から守ってきたものの、長宗我部元親によって一族を滅ぼされ、ただ一人残された犬神使いのなつ。今も一人戦い続けてきた彼女は、一領具足組の生き残りである青年・甚八と巡り合い、幸せを手に入れたのですが……

 浦戸一揆から続く、新領主である山内一豊に対する長宗我部の一領具足組の抵抗を背景とした今回。鬼切丸の少年の出番はごくわずかで、完全になつが主人公の回なのですが――彼女が幸せになればなるほど不安が高まるのが本作であります。
 今回は前編、後編で何が起こるのか――もうタイトルも含めた今回の内容全てがフラグとしか思えないのが胸に痛い。病みキャラっぽいビジュアルの山内一豊の妻の存在も含めて、次回が気になります。


『柳生忍群』(小島剛夕)
 前回小島剛夕の『孤狼の剣』が再録された「名作復活特別企画」、巻末に収録された第二回・第三回は、同じく小島剛夕が昭和44年という雑誌での活動初期に発表した『柳生忍群』から「使命」「宿命」を掲載。
 タイトルにあるように、柳生新陰流を徳川幕府安定のために諸大名を監視する、柳生十兵衛をトップとした忍者集団として描いた連作集であります。

 半年に一度の柳生忍群の会合を舞台に、復讐のために会合に潜入した者、武士として自分の任務に疑問を持った者らの姿を通じて、柳生忍群の非情極まりない姿を描く「使命」(シリーズ第1作?)。
 自分が柳生忍群の草であることを突然知らされた某藩の青年武士が、恋人との婚礼を間近に控えた中、柳生忍群から藩取り潰しのための密命を受けて悩み苦しむ「宿命」。

 どちらも、無情・無惨としかいいようのない地獄めいた武士の――いや隠密の世界を描いてズンと腹に堪える内容で、ある意味巻末にに相応しい、非常に重い読後感の二作品であります。
 ちなみに本作、記憶ではまだ単行本化されていなかったはずですが――これを期にどこかでまとめてもらえないものか、と強く思います。


 というわけで充実した内容だった今号(まことに失礼ながら、小島剛夕の作品が埋め草的に見えてしまうほどの……)。

 今号では2作品がスタートした新連載ですが、次号でも1作品スタート。しかしそれが、あの久正人の古代ヒーローファンタジーというのには、猛烈に驚かされました。 15周年を過ぎても変わらない、いやそれ以上の凄まじい攻めの姿勢には感服するほかありません。


『コミック乱ツインズ』2018年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年 01 月号 [雑誌]


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2017.12.09

響ワタル『琉球のユウナ』第1巻 異能の少女と伝説の王が抱えた孤独感

 琉球、それも15世紀のいわゆる古琉球期を舞台とした、ユニークな少女漫画――朱色の髪と不思議な力を持つヒロインが、後に琉球の黄金時代を築いたと言われる尚真王と出会ったことから始まる、ちょっと不思議で実に甘いラブコメディであります。

 時は1482年の琉球、主人公は朱色の髪を持ち、人ならざるものと交信する力を持つことから、幼い頃より周囲の人々から時に利用され、時に忌避されてきた少女・ユウナ。
 二匹のシーサー以外友達もなく、極度の引っ込み思案だったユウナが、今日もまたその力を利用しようとする者たちに絡まれていた時――そこに現れたのは、なんとお忍びでやってきた時の琉球王・尚真王だったのです。

 実は何者かの呪いにより、体中に奇怪な模様を浮かび上がらせていた尚真王。それが何者かの生き霊によることを見抜いたユウナに、尚真王は自分の即位が偽りの神託によって成され、そのために一度は王位についた叔父が命を落としたことを語ります。
 幼い頃から王として生きざるを得なかった尚真王に自分と同じ孤独を見たユウナは、彼を救うために一大決心をすることに……


 琉球を舞台とした物語は、もちろん決して少なくありませんが、しかしその大半は、薩摩に征服された、17世紀以降の琉球を描いたものではないでしょうか。
 それに対して本作は、それ以前の琉球(古琉球)を舞台とするのが、まず大きく興味をそそります。

 本作の舞台となる15世紀末は、第二尚氏王朝の時代(琉球王国を樹立した尚氏をいわばクーデターで除いた、臣下による王朝のため「第二」)。
 そして本作のもう一人の主人公である尚真王は、わずか12歳で即位した後、実に50年間に渡り統治を行い、中央集権体制を固めたという、なかなかにドラマチックな人物であります。

 本作に登場するのは17歳の頃の尚真王ですが、その存在及びビジュアルは、文字通りの「王子様」。美形で優しく、そして身分と力を持った人物――まず非の打ち所のないキャラクターに見えます。
 が、本作を面白くしているのは、ちょっとチャラめの彼が、しかしその実、王として深い孤独感に苛まれている人物として描かれることでしょう。

 先に触れたように、本来は叔父(先王の弟)が王位に就いていたものが、母の画策による偽りの神託により、王に選ばれることとなった尚真王。
 それ故に在位当初から暗い影を背負うことになった上に、その父の行動を見ればわかるように、いつその座を覆されるかもわからない――そんな彼が、自分を一人と感じ、幼い頃から本心を韜晦する人物となったのはむしろ当然でしょう。

 ……と、尚真王のことばかり書いてしまいましたが、ユウナの方もその異能によって過酷な過去を重ねてきたことから、深い孤独を抱えてしまった少女であります。
 つまり本作の主役カップルは共に深い孤独感を抱えたキャラクターであり、一見どれだけ甘々に見えようとも、二人が互いの傷を慮り、癒しあう姿は、どこか切なくそして暖かく感じられるのです。

 実は尚真王には、側室が天女の子だった(那覇に伝わる羽衣伝説)という説があるそうですが、作者によればユウナの設定はそれを踏まえてのものとのこと。
 極めてロマンチックでファンタジー的なその伝承を踏まえつつも、どこか現代的なキャラクター造形となっているのが、なかなか興味深いところであります。


 そんななかなかに個性的な本作ですが、しかしその一方で、物語的には少々おとなしめ(上で紹介した第1話は、尚真王の史実とリンクして面白いのですが)という印象は否めません。

 また、これは残存する資料の関係等もあるかと思いますが、描かれる琉球の姿は、あくまでもファンタジーの中の琉球、琉球の記号的なものと、意地悪に見れば言えるかもしれません。
 もちろんその点を差別化するのが尚真王の史実であることは間違いありませんが、もう少し史実(伝承としてのそれ)に絡めてきてもよいのかな、と感じてしまうのは、これはマニアの視点ではありますが……

 何はともあれ、本作は一端完結したものが、好評により来春から連載開始、早くも単行本2巻の刊行も決まっているとのこと。
 であれば、この先、二人が互いの孤独感を癒し、新たな歴史を作っていく姿を期待して続巻を楽しみにするとしましょう。それだけのポテンシャルはある作品なのですから……


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2017.12.08

平谷美樹『江戸城 御掃除之者! 地を掃う』 掃除のプロ、再び謎と怪事件に挑む!?

 発表した作品の数とその個性という点では、平谷美樹は今年有数の活躍を見せた時代小説家ではないでしょうか。その個性を象徴するようなシリーズ――江戸城の掃除を担当する御掃除之者たちの活躍をコミカルに、ペーソス豊かにに描く物語、待望の第2弾の登場であります。

 その名のとおり江戸城の御殿の清掃等を担当した御掃除之者。その職務から察せられるように下から数えた方がよいような身分の御家人であります。
 本作はその一人、江戸城御掃除之者組頭の山野小左衛門とその配下たちの活躍を描く連作シリーズ。毎回のように掃除絡みで発生する意外な事件や厄介事に対し、彼らが持ち前の御掃除技とプロ意識で難題を解決していく姿が描かれることになります。

 例えば本作の最初のエピソード「楓山秘閣御掃除御手伝の事」の舞台は、楓山秘閣――将軍家の図書館、後世に言ういわゆる紅葉山文庫であります。
 そこに所蔵された本が紛失され、担当の御掃除之者が疑われかねない事態となったことから、前作で様々な事件を解決してきた小左衛門に紛失本捜索の指示が下ったのです。

 それが掃除之者の任かどうかは別として、同じ御掃除之者たちの運命がかかっているとくれば、無視するわけにもいきません。かくて、普通であれば全く無縁の紅葉山文庫の掃除を経験できるという職業的な興味もあって、小左衛門と6人の配下は紛失本捜索に乗り出すことに……


 ファンにとっては今更言うまでもありませんが、実はかなりの割合でミステリ的な趣向の作品を手がけている作者。前作もそうでしたが、特にこのエピソードは、ミステリ味が強い内容となっております。

 紛失本は、シリーズものの途中2冊のみが抜けた漢籍と、内容もわからない蘭書という、何とも共通性のなさそうな代物。果たしてそれらには何が書かれているのか。そして誰が、何のために持ち出したのか……
 その謎を、一つ一つロジカルに解き明かしていく様は、まさしくミステリの魅力に溢れています。

 そして書物の、何ともあちゃーな内容と、意外な持ち出し主の正体を解き明かしたその先で、事を荒立てぬための思いやりに満ちた作戦が展開されるのもいい。
 掃除之者をライバル視する黒鍬者との対決も絡んでくるのも楽しく、本作の約半分を占めるだけはある、ユニークにして爽やかな後味の一編です。


 そして本作の残る二つのエピソードも実に面白いのは言うまでもありません。

 まず「浜御殿御掃除御手伝いの事」で小左衛門が巻き込まれることになるのは、タイトル通り浜御殿(今の浜離宮)の掃除。
 江戸城担当の彼らからすればこれまた所轄外の事案ですが、既に掃除絡みの事件とくれば小左衛門、となっているために巻き込まれるのがなんとも哀しくも可笑しいのです。

 この浜御殿でうち続く魚の減少という怪事の解明を求められた小左衛門たちですが、謎の偉丈夫や怪生物が出没、何とも不穏な展開が繰り広げられることになります。
 そんな騒動の末に、この時代が舞台であればいつか出てくると思っていたあの人が登場、全てを攫っていくのもまた愉快なのであります。

 そしてラストの「中奥煤納めの事」は、これまでのエピソードと些か趣を変えた物語が描かれることとなります。

 日頃懸命に掃除を行い、時に怪事件を解決してと外では大活躍の小左衛門ですが、家に変えれば二人の息子との関係が悩みのタネ。
 そろそろ家を継いでもおかしくない年頃の彼らですが、しかし彼らは御掃除之者の役目に不満を抱き、小左衛門に対して反抗的だったり冷笑的だったり――という状況なのです。

 この辺り、世のお父さんたちには何とも身につまされる展開ではないかと思いますが――しかしこのエピソードでは、そんな状況に大きな変化が生じることになります。
 その一方で、思わぬことから江戸城の抜け穴の存在を知った凶賊の群れが、江戸城侵入を狙って――と、一見全く関係ない二つの流れが、思わぬ形で合流するクライマックスは、本作の掉尾を飾るに相応しい盛り上がりでしょう(結末の微笑ましさも実にいい)。


 というわけで、ラストで少しだけ未来に踏み出すことになる小左衛門ですが、もちろん彼ら御掃除ものが掃除する相手がなくなることはありません。
 だとすればこの先の物語も――と期待したくなるのが当然の快作であります。


『江戸城 御掃除之者! 地を掃う』(平谷美樹 角川文庫) Amazon
江戸城 御掃除之者! 地を掃う (角川文庫)


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2017.12.07

『水滸伝の豪傑たち 歴史をうつす武勇伝』 北宋史に見る物語と史実の間の皮肉な関係

 久々の水滸伝紹介、今回はなかなかの変わり種――中央公論社から刊行されていた中公コミックス『中国の歴史』のうちの第8巻『水滸伝の豪傑たち 歴史をうつす武勇伝』であります。いわゆる学習漫画シリーズの1冊なのですが、学習漫画で水滸伝!? と思いきや、これがなかなか面白い内容なのです。

 この『中国の歴史』は、今からほぼ30年前の1986年から87年にかけて全12巻刊行されたシリーズ。今から考えるとちょっと驚かされるような企画ですが、監修が陳舜臣と手塚治虫と、なかなか気合いの入っていたようです。
 もっとも、全巻のシナリオは武上純希が担当。アニメや特撮もので活躍してきた脚本家ですが、小説家としても『不死朝伝奇ZEQU』や『古代幻視行』シリーズなどの古代中国を題材とした作品を発表していたことを考えれば、それなりに納得の人選であります。

 このシリーズ、作画担当は各巻で異なるのですが(玄宗皇帝と楊貴妃の巻は小林智美が!)、この巻の作画は堀田あきお。最近ではご夫妻でのアジア紀行ものでの活躍が中心のようですが、このシリーズでは「項羽と劉邦」の巻も担当している模様です。


 さて、こうした背景はともかく、内容を見てみれば、冒頭は百八星解放――は納得として、そこから大きく飛んで、後半のクライマックスということか、呼延灼戦がいきなり描かれているのがなかなか面白いところ。
 その他、原典の内容としては、林冲受難と魯智深の活躍(本作では二竜山に行かずにそのまま梁山泊入り)、武松の虎退治、晁蓋の逃走と林冲のクーデター、江州での宋江(と戴宗)の危機、宋江の頭領就任が描かれています。(ちなみに呉用のうっかりシーンもあり)

 と、これだけであれば非常に粗めのダイジェストといった趣きですが、先に述べた通り本書は中国の歴史の学習漫画。あくまでも架空の物語である水滸伝を描くのは大いに不思議に感じられますが――実は本書の冒頭とラストで、二つの史実が描かれるのであります。

 冒頭で描かれる史実とは、徽宗皇帝の時代の姿――社会の爛熟と花石綱の収奪。そしてラストで描かれる史実は、遼との戦争と、それに続く金の侵攻、北宋の滅亡であります。
 どちらもこの時代の象徴的な出来事ではありますが――注目すべきは、この二つが、水滸伝においても、舞台背景として存在していたことでしょう。

 すなわち、この二つの出来事において、水滸伝という物語と、北宋の史実は重なり合っていたわけであり、この重なり合いを利用して、北宋の歴史を切り取って見せるという本書の趣向はなかなか興味深いものがあります。
(「歴史をうつす武勇伝」という本書のサブタイトルにもそれは表されているでしょう)

 ちなみに冒頭では「史実」の宋江、宋江三十六人の宋江の姿も描かれているのが、また面白いところであります。


 とはいえ、このような本書の構造(あくまでも想像ですが)は面白いものの、やはり本書は中国史の学習漫画としてはいささかアンバランスな内容であることは否めません。

 結局虚構部分(水滸伝部分)は、全体の2/3と決して少なくはない割合を占めるのは、仕方ないとはいえやはり違和感が残ります。
 またエピソードについても、史実との繋がりが薄い(もっとも林冲や宋江も、実在の人物である高キュウや蔡京(の息子)に苦しめられた、という以上のリンクではないですが)武松の虎退治が含まれているのには疑問符がつきます。

 この辺り、宋代に1巻割かないわけにはいかないけれども、他の時代に比べると題材として苦しかったからなのかな、と邪推したくもなるのですが……


 しかし、このようなスタイルだからこそ浮かび上がる構図もあります。
 物語の上では豪傑たちを利用して遼という外敵を除き、豪傑たちも除いて最後まで生きながらえた皇帝や奸臣たちが、豪傑たちが登場しない史実においては、外敵に蹂躙された末に悲惨な末路を迎える……

 水滸伝には、このような物語と史実の間のある種の皮肉が存在することを、浮かび上がらせてくれた本書に対しては、ファンとしてはなかなか愉快な気分になるのであります。

『中国の歴史 8 水滸伝の豪傑たち 歴史をうつす武勇伝』(堀田あきお&武上純希 中央公論社中公コミックス) Amazon

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