2019.07.06

蓮生あまね『去にし時よりの訪人』 室町の謎の中で過去と向き合う人々


 近頃何かと話題の室町時代――それも応仁の乱前夜を舞台とした本作は、能の観世小次郎信光とその謎めいた弟子を中心に様々な人間群像を描く、ミステリ味も濃厚な連作であります。京の闇を騒がす事件の背後に潜む存在とは……

 かの世阿弥が足利将軍の不興を買った後に能の世界の中心となった音阿弥の七男である小次郎信光。その名を挙げてもすぐにはわからない方も多いかもしれませんが、「羅生門」「紅葉狩」「舟弁慶」といった、現代まで残る名作を残した人物です。
 本作に登場する小次郎はまだ青年時代――才気は溢れながらもどこか暢気で飄々とした人物。そしてその小次郎の弟子として近くに仕えるのが、小次郎と並んで(そしてほとんど彼以上に)主人公格である那智であります。

 観世座に拾われるまでは何をやっていたのか不明ながら、頭は切れるし腕っ節は立つ那智。師である小次郎を師とも思わぬようなぶっきらぼうな言動を見せると思えば、連れ子である幼い少年・天鼓は過剰に大切にするという、なかなかユニークな男であります。
 本作はそんな那智と小次郎を中心に、応仁の乱も間近な京を舞台に起きる奇妙な事件の数々を描く連作集です。

 観世座出入りの能面師が、顔に火傷を負い、生きたまま野辺送りされた娘を拾ってきたことから始まる『鬼女の顔』。
 貧乏貴族のところに出入りしていた小次郎が、貴族の庭の見事な桜を巡る争いに巻き込まれたことをきっかけに、都の闇に跳梁する者たちと出くわす『桜供養』。

 そして、そんなプロローグ的短編2話を踏まえて展開するのが、表題作である中編『去にし時よりの訪人』であります。

 とある妓楼での宴席に招かれた際に、その妓楼の近くで起きた辻斬りの下手人として囚われてしまった那智。被害者の持ち物が彼の荷物から出てきたためですが、もちろん那智には身に覚えなどあるはずがありません。
 那智の無実を証明するために奔走する小次郎たちですが、しかしこの時代、一度罪を問われればそうそう簡単に解放されることはありません。

 それでも那智を救うために調べを続ける小次郎たちは、やがて都の土倉(金貸し)が何者かに相次いで襲われ死者も多数出ていること、その一方で貧乏貴族たちの屋敷から秘蔵の宝物が次々と盗まれていることを知るのでした。
 何者かの手引きで牢を脱した那智自身も交え、謎に迫る小次郎たち。やがて一連の事件の背後には、数年前に吉野で起きたある惨劇が関わっていることが明らかになるのですが……


 冒頭でミステリ味も濃厚、という表現を使いましたが、本作のエピソードは、いずれも提示された大小様々な謎の解明が中心となって展開する物語であります。

 その意味では本作は時代ミステリに区分されるのかもしれませんがしかし実際に読んでみれば、そのようなジャンルの枠に囚われない――強いていえば「室町小説」とも言うべき内容であることがわかります。
 そう、本作で謎を通じて描かれるものは、応仁の乱も間近――というのはもちろん登場人物たちにはわからないのですが――の、ほとんど無法とも言える混沌たる京の姿であり、そしてその中で生きる人々の姿なのであります(脇役で若き日の伊勢新九郎が登場するのもちょっと楽しい)。

 帝や貴族とといった既存の権威が衰え始め、その後を襲った将軍や幕府ですら、時代の波に飲み込まれつつある時代。その一方で、まさに能に代表される新たな芸術が育っていく時代――そんな厳しく混沌とした時代の中で、人々は現在を懸命に生きることになります。
 しかしその現在を生きようとする人々を縛るものの姿が、本作では描かれることになります。それこそは過去――すなわち「去にし時」、ある者は隠しある者は忘れようとしながらも――決して逃れられない過去なのです。

 その過去と如何に向き合うのか、それはもちろん人によって様々ですが、その向き合う姿、向き合おうともがく姿こそが、本作の最大の魅力なのではないか――そう感じます。


 ……と、本作の最大の仕掛け(これがまた非常に伝奇的なんですが!)を伏せたおかげで抽象的な表現が多くなってしまいましたが、これがデビューとは思えぬ筆致で、時代と人間と謎の姿を描いてみせた本作が、優れた物語であることは間違いありません。
 終盤にちらりと登場した黒幕の正体も気になるところ、是非とも続編を――すなわち、彼らの未来の姿を――期待したいところであります。


『去にし時よりの訪人』(蓮生あまね 双葉社) Amazon
去にし時よりの訪人

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2019.07.01

廣嶋玲子『妖怪の子預かります 8 弥助、命を狙われる』 逆襲の女妖、そして千弥の選択の行方


 先日ご紹介したように漫画版の第1巻も刊行された『妖怪の子預かります』シリーズ、原作の方は何とこれで8巻目であります。物語の方は前作ラストの展開を受けて、危険極まりない妖怪に弥助が狙われることになるのですが――物語は思わぬ方向に展開し、千弥が思わぬ行動に……?

 かつて妖怪奉行・月夜公に横恋慕し、自分に振り向かせるために彼の両親を惨殺、長年氷牢に閉じ込められていた女妖・紅珠。
 奉行所の烏天狗の一人を籠絡して牢から脱出した彼女は、かつて月夜公の心を奪った(と彼女が信じている)白嵐=千弥を苦しめるため、今の彼にとって宝物に等しい弥助の命を奪うことを宣言したのでした。

 このヤンデレにもほどがある地雷女を捕らえるため総力を挙げる妖怪奉行所ですが、しかし杳として知れないその行方。当然千弥の方も厳戒態勢で弥助にべったりなのですが、当の弥助の方はそんな状態に飽き飽きして、いつも通りの子預かり屋として働き始めるのでした。
 しかしはじめのうちは順調に見えた子預かり屋ですが、そこにも陰を落とす紅珠の存在。そして周到な罠がついに弥助を捕らえた時、千弥は……


 ここしばらくは久蔵や王蜜の君、烏天狗兄弟と、他のキャラクターにスポットが当たっていた感のある本シリーズ。それがこの巻では久しぶりに弥助と千弥が主役になることになります。
 が、今回の二人はヤンデレ女妖の復讐(それも完全に八つ当たり)のターゲットという、非常にありがたくない役回り。しかも結構早い段階で弥助は敵の毒牙にかかってしまうのですが――実はここから本作は凄まじい形で盛り上がっていくことになります。

 弥助のことになると途端にメロメロになるものの、他者に対してはかなり冷淡な千弥が窮地に陥った時にとったのは――あまりにも意外かつ、エモさ満点の行動。
 冷静に考えればそれほどおかしな行動ではないのかもしれませんが、普段の彼からすれば、そして何よりも彼の来し方を考えれば、こ、ここでこう来るか! と、ある種の感動すら覚えます。

 そしてさらなる紅珠の卑劣な罠に追いつめられた千弥が選んだ道は――これもこれしかない選択ではあるものの、しかしシリーズ読者にとっては驚きと感慨なしには見られないものであります。
 未読の方のために詳細を書けないのが非常に歯がゆいのですが、ここで描かれるのは、本シリーズには比較的珍しい大バトルであり――そしてかつて本シリーズで最もエモかったあのエピソードの、リプライズとも言うべき物語なのであります。

 もちろん最後は収まるべきところに全ては収まるのですが――いやはや、ある意味本シリーズで一番ドキドキさせられた物語でありました。


 そして巻末に併録されているのは、本作の後日談ともいうべき短編。シリーズのサブレギュラーである付喪神と人間の仲人屋・十郎が主人公のエピソードであります。
 紅珠騒動の中で壊れてしまった付喪神を直すため、奉行所の武具師・あせびのもとを訪れ、彼女の手伝いをすることなった十郎。その作業の最中に彼が思いだしたのは、彼が人間であった時の記憶だったのですが……

 という本作で描かれるのは、紅珠とはまた別の形で実に暗くおぞましい人の心の存在。十郎が今に至るまでにひどく暗いものを見てきたことは以前にもほのめかされていましたが、本作を読めばなるほど――と思うほかありません。
 だからこそラストの十郎の姿には、笑顔で声援を送りたくなってしまうのですが――こうしてみると、シリーズが始まってから、人間(妖怪)関係もだいぶ動いてきたものだと感慨深くなります。

 少なくとも10巻までは刊行が決まっているという本シリーズ、その先に何があるのか――これまで同様、温かくも恐ろしく、深い闇と明るい光が共に存在する物語を期待したいと思います。


『妖怪の子預かります 8 弥助、命を狙われる』(廣嶋玲子 創元推理文庫) 
弥助、命を狙われる (妖怪の子預かります8) (創元推理文庫)


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 森野きこり『妖怪の子預かります』第1巻 違和感皆無の漫画版

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2019.06.06

『妖ファンタスティカ』(その三) 日野草・誉田龍一・谷津矢車


 操觚の会の「書き下ろし伝奇ルネサンス・アンソロジー」『妖ファンタスティカ』の紹介の第三弾であります。

『遠夜』(日野草)
 養子に出された後に職を転々とし、今は手習い指南所の師匠として静かに暮らす青年・京悟。ある晩、「首(おびと)」とだけ名乗る傷だらけの男を助け、匿った京悟ですが、男は謎めいた言葉を残して姿を消すのでした。
 その翌日、遺恨から不良武士たちと果たし合いをすることとなった京悟。相手の刃が彼に迫ったまさにその瞬間、首が現れ……

 結成以来、驚くほどの勢いでメンバーを増やしてきた操觚の会ですが、作者は最も新しいメンバーの一人であり――そしてミステリをホームグラウンドとしている作家です。

 その物語で主役を務めるのは、いかにも時代小説らしい手習い所の師匠の好青年。しかし彼の前に謎めいた人物が現れそして消え、そして剣戟の場に彼が立たされた時――隠された数々の真実が明かされ、そして物語は思わぬ方向に向かっていくこととなります。
 青年が抱えていた屈託と、罪の記憶。しかしそれよりも遙かに深い闇と対峙した時、彼は何を思うのか……

 ミステリの手法を用いて揺れる青年の心の揺らぎを描き、そしてホラーとしてそれをちっぽけな感傷とあざ笑うような怪異を叩きつける――作者の実力のほどをうかがわせる作品です。


『血抜き地蔵』(誉田龍一)
 大学時代の友人から久々に呼び出された語り手。そこで彼を待っていたのは、二人が学生時代に出会った、とある寺院に伝わる血抜き地蔵の伝承の証拠とも言うべきものでした。
 それに関わった者は、悉く体内から赤い血を失い、苦しみ抜いて息絶えたといわれる血抜き地蔵。彼らが知ったその正体とは……

 現代人が語り手という思わぬスタイルの本作は、しかし彼の目を通じて、江戸時代の山村を襲った土俗的怪異の存在を語るという、変格の時代伝奇というべき物語。
 もちろん語り手が血抜き地蔵の奇怪な伝承を知るのは、古文書を通じてなのですが――過去という遠くに存在し、彼らに関わるはずもなかった怪異が、気付けば目の前にあるという、一種の遠近法的怪異描写は、なかなかにスリリングであります。

 あ実に豪快な怪異の正体や、(語り手にとっては)理不尽極まりない結末といい、どこか懐かしい伝奇ホラーの味わいを漂わせる佳品です。


『生き過ぎたりや』(谷津矢車)
 「生き過ぎたりや廿五 逸兵衛」と鞘に大書された太刀を手に、江戸のかぶき者たちを束ねてきた大鳥逸兵衛の耳に入ってきた奇怪な噂。それは江戸に彼と瓜二つの男が出没して、派手に暴れ回っているというものでした。
 もちろん彼にとっては覚えのない話――噂の主を捕らえるべく江戸を奔走し、ついに出会った逸兵衛は、まさに自分と瓜二つの相手が奇怪な存在であると知るのですが……

 本書のトリを務めるのは、『伝奇無双』では巻頭を飾った作者の作品。そしてこれが実に作者らしさに溢れた作品であります。

 開府直後の江戸で、主に中間や小者たちを束ね、武士たちの向こうを張って暴れ回った実在のかぶき者・大鳥逸兵衛(逸平)。
 タイトルにもなっている刀の文字に表れているように、明日を考えぬ勢いで生き、そしてその通りに死んでいった人物ですが――しかし本作はその彼が巻き込まれたドッペルゲンガー騒動を通じて、彼の隠された心中を描き出すのです。

 デビュー以来、能力を持ちながらも社会という壁にぶつかり、あがきながら生きる(あるいは死ぬ)若者の姿を多くの作品で描いてきた作者。
 そんな彼らの姿は作者自身に通じるものを感じる――というのはさておき、本作もまた、怪異という鏡を通じて、彼らの姿を、痛烈に浮かび上がらせているといえます。

 ……と、実はこの辺りは作者自身の言葉にもはっきりと表れているのですが、いずれにせよ、短編ながら実に作者らしい作品と申し上げた所以であります。


 次回(最終回)に続きます。


『妖ファンタスティカ 書き下ろし伝奇ルネサンス・アンソロジー』(書苑新社ナイトランドクォータリー別冊) Amazon
妖(あやかし)ファンタスティカ?書下し伝奇ルネサンス・アンソロジー (ナイトランド・クォータリー (別冊))


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2019.06.05

『妖ファンタスティカ』(その二) 坂井希久子・新美健・早見俊


 操觚の会の「書き下ろし伝奇ルネサンス・アンソロジー」『妖ファンタスティカ』の紹介の第二弾であります。

『万屋馬込怪奇帖 月下美人』(坂井希久子)
 金もなければ女にももてない万屋を営む浪人・馬込慎太郎。そんな彼のもとに久々に舞い込んだ依頼は、さる人形絵師が作った、豪商の亡き愛娘に生き写しの人形を壊して欲しいというものでした。
 折しも江戸では、健康な男が一晩で干からびて死ぬという事件が発生、その事件は思わぬ形で馬込の仕事と繋がって……

 総勢十三人、様々な作家が居並ぶ本書の中で、ある意味最も意外なのは本作ではないでしょうか。時代小説としては「居酒屋ぜんや」シリーズが代表作となる作者ですが、おそらく本書のメンバーの中で最も伝奇というイメージが薄いのですから。
 そんな作者が描く本作は、万屋の浪人と、江戸の夜に徘徊する危険極まりない妖女との対決を描く時代ホラーなのですから、さらに驚きであります。

 ……が、そこに「艶笑」の二文字が付くとなれば、一転して作者らしいと感じられます。
 正直なところ、怪異の正体はこれ以外ない、という存在であって、意外性はないのですが――しかしクライマックスでの馬込のぬけぬけとした(しかししっかり伏線がある)大逆転には、もう脱帽するしかありません。この路線でシリーズを読みたいものです。


『妖しの歳三』(新美健)
 禁門の変を経て、京洛にその名を轟かせた新選組。しかし近頃京では、怪鳥の声とともに現れる辻斬りが出没、ついに隊士の一人が斬られたことから、土方は自ら対決を決意することになります。
 山南や一夜を共にした島原の太夫らの、この事件には京の都に潜む魔が関わっているという言葉を一笑に付して、犯人と対峙する土方。彼が見た犯人の姿は……

 言うまでもなく歴史時代小説界では衰えることのない人気を誇る新選組。伝奇小説ゲリラにして冒険小説残党を名乗る作者も、デビュー作『明治剣狼伝』では(明治の)斎藤一を、『幕末蒼雲録』では芹沢鴨らを描くなど、折に触れて新選組を題材としてきましたが――本作はその新選組を通して、幕末という時代の裂け目に吹き出した魔性の姿を描く作品であります。

 多摩の田舎道場から、幕末の混乱の中で時流を掴み、京の治安を守る武士集団に成り上がった新選組。そんな彼らの存在は、ある意味、京の歴史の陰に潜んできた魔とは対になる存在とも感じられます。
 クールに野望に燃える土方のキャラクターもよいのですが、京の魔に憑かれたように変貌していく山南や、謎めいた存在感の太夫なども面白く、この先の物語も読んでみたいと思わされる作品です。


『ダビデの刃傷』(早見俊)
 赤穂浪士の討ち入りから数年後、ただ一人生き残った寺坂吉右衛門を襲う謎の武士団。窮地の吉右衛門を救ったのは、吉良の旧臣を名乗る野村という浪人でありました。
 未だに謎が残る松の廊下の刃傷の真相を知るため、大石内蔵助の書付を探しているという野村。彼に引き込まれ、ともに手がかりを求めて赤穂に向かった吉右衛門は、赤穂のとある神社に眠る思わぬ因縁の存在を聞かされることに……

 タイトルからおそらく忠臣蔵ものと想像できるものの、しかしあまりにそれとは不釣り合いな言葉が冠されていることに驚かされる本作。
 しかしこれまで(時代伝奇もので)様々に描かれた松の廊下の真実の中でも、屈指の奇怪な真実を描く本作を結末まで読めば、このタイトルは全く以て正しかった、と納得させられます。

 何を書いても物語の興を削ぎかねず、なかなか内容を紹介しにくい作品なのですが、ある意味本書において最も「伝奇」を――伝奇ものならではの飛躍感を――感じさせてくれる作品である、と述べれば、そのインパクトは伝わるでしょうか。


 次回に続きます。


『妖ファンタスティカ 書き下ろし伝奇ルネサンス・アンソロジー』(書苑新社ナイトランドクォータリー別冊) Amazon
妖(あやかし)ファンタスティカ?書下し伝奇ルネサンス・アンソロジー (ナイトランド・クォータリー (別冊))


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2019.06.01

速水時貞『蝶撫の忍』第4巻 「斑猫」半坐、本領発揮! しかし……


 本能寺から失われた信長の首を巡る甲賀と伊賀の争奪戦から始まった、昆虫の異能を持つ忍者たちの十対十のトーナメントバトル。『蝶撫の忍』第4巻においてもそのバトルは、いつ終わるともなく続くことになります。そしてその渦中に巻き込まれた鱗と半坐の運命は……

 本能寺から信長の首を守って落ち延び、仲間であった甲賀も、敵対する伊賀も向こうに回し、一人孤独に戦う甲賀忍・「胡蝶」鱗。
 そして師・服部半蔵に騙される形で鱗に接近し、一度は彼女を捕らえた伊賀忍・「斑猫」半坐もまた、鱗を助けるために伊賀と甲賀の双方を敵に回すことになります。

 死闘と逃避行の連続の末、色里に身を潜めた二人。しかし甲賀最強の甲賀十忍衆、伊賀の精鋭・伊賀忍十座もそこに集結、かくして始まるのは、甲賀と伊賀の全面戦争……
 というわけで、鱗と半坐の戦いが拡大する形で、前巻から始まったのは、みんな大好き異能の忍者同士のトーナメントバトル。そこに参加するのは、以下の二十名であります。

甲賀十忍衆
「鬼ヤンマ」鬼多川無法・「噛斬蟲」天牛・「百足」蓮柔郎・「泡吹」伊呂波・「華潜」厳臓・「御器噛」巡魅・「ヤゴ」彦左衛門・「羽衣」嘉納菊之介・「鞭蠍」更紗・「蛍」灯

伊賀忍十座
「螻蛄」服部半蔵・「蟻地獄」獅子丸・「蝉」服部針蔵・「蜘蛛」綾乃・「糞転」蘭・「田鼈」燕・「刺椿象」亀十郎・「蠅」旻七・「米搗虫」鵯・「大蚊」百地丹波

 鵯を除いては既に前巻までに名前と姿が登場していたところですが、この巻でついに全員の二つ名が登場。もちろんいずれも昆虫の名から取られたものであります。

 これまでの巻の紹介でも述べてきたとおり、本作の最大の特徴は、登場する忍びの能力・忍法・戦法が、いずれも実在する昆虫の、実在する能力をモチーフにしたものであること。 そしてその昆虫たちの名が全て登場したということは、その能力もまた登場したということにほかなりません(正確にはまだ能力を見せてない者も何人かおりますが……)。

 忍たちの奇想天外な能力が登場するたびに解説される、昆虫たちの恐るべき生態。昆虫がその能力を持つからといって人間が持つとは限らない――などというのは野暮の極みで、もうこの解説が来るたびに「来た来た!」と嬉しくなってしまうのであります。
 ちなみにこの巻では、齢二百歳とも言われながら外見は幼女という甲賀の首魁・「蛍」灯のその姿までも蛍になぞらえて解説されていたのですが――まさかそんなところまで昆虫モチーフになるとは、ただただ驚くほかありません。


 さて、そんな最強クラスの面々の潰し合いになっては、鱗はともかく半坐は見劣りするのでは――などと思ってしまいそうになりますが、この巻において彼の本領がついに描かれることになります。

 以前にも描かれた彼の「斑猫」たる由縁――それは比較的「静」の部類に属する内容でしたが、ここで甲賀でも屈指の腕利き・「鞭蠍」更紗を向こうに回して発揮されるのは、その「動」の力。
 その能力の凄まじさ・格好良さは、そしてこの巻を含めて作中の随所で描かれる彼の好漢ぶりと相まって、本作のもう一人の主人公と呼ぶに相応しいものなのですが――それが大変な事態を招くことになります。

 半坐の戦いぶりに、彼を喰いたくなった――性的な意味で――灯。その術中にまんまと陥った半坐は、こう、ついに……

 こんな形で念願を叶えてよいのか――いやそれどころではない大変な状態になってしまった半坐。そして鱗もまた、強敵を前に苦戦を強いられることになります。
 さらに秀吉が動き、忍びたちの内部もきな臭い状況となってきたいま、物語のクライマックスは、いやカタストロフィは遠くないように感じられます。

 その時に生き残るのは誰か――いよいよ正念場であります。


『蝶撫の忍』第4巻(速水時貞&村田真哉 スクウェア・エニックスガンガンコミックスJOKER) Amazon
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2019.05.21

「コミック乱ツインズ」2019年6月号


 元号が改まって最初の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙と巻頭カラーが橋本孤蔵『鬼役』。その他、叶精作『はんなり半次郎』が連載再開、原秀則『桜桃小町』が最終回であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 新年早々、宿敵・紀伊国屋文左衛門の訪問を受けた聡四郎。後ろ盾の新井白石と袂を分かった不安、自分の振るった剣で多くの者が主家から放逐されたことなどを突かれた上、自分と組んで天下を取ろうなどと突拍子もない揺さぶりを受けるのですが――そんな紀文の精神攻撃の前に、彼が帰った後も悩みっぱなし。ジト目の紅さんのツッコミを受けるほどでありますす(このコマが妙におかしい)。

 その一方で紀文は、その聡四郎に敗れたおかげで尾張藩を追われた当のリストラ武士団の皆さんに資金投下して煽りを入れたり暗躍に余念がありません。聡四郎が悩みあぐねている間に、主役級の活躍ですが――その上田作品名物・使い捨て武士団に下された命というのは、次期将軍の暗殺であります。これはどうにも藪蛇感が漂う展開ですが――さて。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明)
 大橋家から失われた七冊の初代宗桂の棋譜を求めてはるばる長崎まで向かった宗桂と仲間たち。ようやく二冊まで手に入れた一行は更なる手掛かりを求めて長崎の古道具屋に辿り着くのですが――そこで待ち受けるは、インスマス面の店主による心理試験で……

 と、将棋要素は、心理試験に使われるのが異国の将棋の駒というくらいの今回。むしろ今回は長崎編のエピローグといったところで、旅の仲間たちが、楽しかった旅を終えてそれぞれ家に帰ってみれば、その家に縛られ、自分の行くべき道を自分で選ぶこともできない姿が印象に残ります。
 そんな中、ある意味一番家に縛られている宗桂が見つけたものは――というところで、次回から新展開の模様です。


『カムヤライド』(久正人)
 難波の湊に出現した国津神の前に立ちふさがり、相手の攻撃を受けて受けて受けまくるという心意気の末に国津神を粉砕した新ヒーロー、オトタチバナ・メタル。しかし戦いを終えた彼女に対し、不満げにモンコは突っかかっていって……
 と、早くも二大ヒーロー揃い踏みの今回、オトタチバナ・メタルとすれ違いざまにカムヤライドに変身するモンコの姿が非常に格好良いのですが、傍若無人なまでのオトタチバナのパワーの前に、文字通り彼も悶絶することになります。

 ヒーロー同士が誤解や立場の違いから衝突する、というのは特撮ヒーローものの一つの定番ですが、しかし気のせいか最近のモンコはいいとこなしの印象。そしてガチムチ女性がタイプだったらしいヤマトタケルは、その彼女に後ろから抱きつかれて――いや、この展開はさすがにない、という目に遭わされることになります。
 そして緊縛要員の彼のみならず、モンコまで縛られ、二人の運命は――というピンチなんだけど何だかコメントに困る展開で次回に続くのでした。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 今回は「かまいたち愛」編の後編――江戸でとある大店に用心棒として雇われた三人ですが、夏海が心惹かれた店の女中・おりんは、実は極悪非道な盗賊・かまいたちの首領の女で……。と、夏海にとってはショッキングな展開で終わった前回を受けて、今回はさらに重くハードな物語が展開します。

 おりんの口から、そのあまりに過酷な半生を聞かされた夏海。かまいたちにしばられた彼女を救うため、店を狙うかまいたちを倒し、おりんが愛する男と結ばれるのを助けようとする夏海ですが――しかし物語はここから二転三転していくことになります。
 薄幸の女・おりんを巡る幾人もの男。その中で彼女を真に愛していたのは誰か、そして彼女の選択は……

 本作名物の剣戟シーンは抑えめですが、クライマックスである人物が見せる「目」の表情が圧巻の今回。無常しかない結末ですが、これを見せられれば、これ以外のものはない――そう思わされるのであります。


 その他、今回最終回の『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)は、江戸を騒がす火付けの濡れ衣を着せられた友人の許婚を救うため、桃香が活躍するお話。絵は良いけれども何か物足りない――という作品の印象は変わらず、やはり「公儀隠密」という桃香の立ち位置が最後まですっきりしなかった印象は否めません。


「コミック乱ツインズ」2019年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年6月号[雑誌]


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 「コミック乱ツインズ」2019年5月号

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2019.05.03

久正人『カムヤライド』第1巻 見参、古代日本の特撮ヒーロー


 ヤマト朝廷による統一が進む時代に復活した国津神を人の世から放逐するヒーローの活躍を描く特撮風味濃厚の古代変身アクション『カムヤライド』の第1巻であります。「コミック乱ツインズ」の紹介の中で毎回触れてきたので今更の感もありますが、作品単体として、一度きちんと紹介いたします。

 時は4世紀――ヤマト朝廷が畿内を中心として列島の支配を進めつつも、しかし周辺各地にはまつろわぬ者もいまだ多く、反乱が続発していた時代。そんな反乱の一つである九州を騒がす熊襲の王・カワカミタケルの討伐に向かうヤマトの皇子・オウスは、途中、奇妙な男・モンコと出会うことになります。

 自分が作った埴輪なるものを広めるために旅しているというモンコから、埴輪を手渡されたオウス。その出会いから一週間後、カワカミタケルと対峙したオウスは、常人とは思えぬ力を前に配下を皆殺しにされた末、異形の化け物と化した相手に襲われるのですが――その時、モンコの埴輪に触れた化け物は、粉々に吹き飛ぶのでした。
 そこに現れ、カワカミタケルは力を与えられて人の境をはみ出した存在・土蜘蛛と化したこと、彼に力を与えたのがこの地に眠る国津神であることを語るモンコ。そして姿を現した巨大な国津神を前に、モンコは足元の土を身にまとい、鎧姿の戦士へとその身を変えます。戦士――人と神の境で門を閉じる者・神逐人(カムヤライド)に!


 ……というわけで、日本が誇る特撮変身ヒーローの世界を、古代を舞台に漫画の世界に巧みに移植してみせた本作。

 移植といっても、一歩間違えれば単なるもどきに終わりかねない特撮変身ヒーロー「風」キャラの漫画化ですが、しかし本作はまずデザインの時点で、最初のハードルをクリア(作者は近年スーパー戦隊もののデザインに参加しているので、ある意味当然かもしれませんが)。
 それだけでなく、変身直後の「俺の立つここが境界線だ!」や、国津神に必殺技を決めての「ここより人の世 神様立ち入り禁止だ」といった決め台詞の格好良さ、そしてその必殺技のギミックなど、ヒーローものとしてのフォーマットの存在が、実に「らしい」のが素晴らしいところであります。

 そしてそれらの要素が、ヤマトタケルという古代の超有名人の事績と結びつけて語られることによって、絶妙なバランスをもって一つの物語として成立している点にも注目すべきでしょう。
 一種(どころではなく)混沌とした世界観を、作者ならではのスタイリッシュな絵と、「史実」の事物を自身の作品世界に取り込む一種の伝奇センスによって、豪快に成立させてみせる――そんな作品構造は、実に作者らしいというほかありません。


 そしてそうした派手な部分だけでなく、唯一国津神を封印する力を持つ謎めいたモンコと対比される副主人公として、ヤマトタケルが配置されているのもまた巧みといえます。

 先に述べた通り、古代日本の最大のヒーローであるヤマトタケル。そのヒロイックな神話の内容とは裏腹に、本作の彼は、ヤマトの皇子という身分でありながら、いささか頼りない少年として登場します。
 しかし、そんな彼だからこそ、神話の怪物たちを前に、一人の人間として無力感を味わい、そしてその中で成長していく姿が、実にヒロイックに感じられます。既に完成されたヒーローであるモンコに対して、未完成のヤマトタケルもまた、異なる形のヒーローに感じられるのです。

 そう、本作はモンコとヤマトタケルと、虚実(?)二人の「ヒーロー」もの。古代という半ば神話というファンタジーのベールに包まれた世界を、特撮という現代のファンタジーと掛け合わせることによって、新たなヒーロー物語を生み出してみせたのが本作なのであります。


 そしてこの巻の終盤では、神話に登場するもう一人の「タケル」であるイズモタケルが登場。その物語が本作でどのようにアレンジされるのか――請うご期待であります。
(そして雑誌連載の方では、ヤマトタケルとは切っても切れないあの人物が、とんでもないアレンジで登場して……いやはや、どこまでいくのでしょうか)


『カムヤライド』第1巻(久正人 リイド社乱コミックス) Amazon
カムヤライド 1 (乱コミックス)

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2019.04.16

「コミック乱ツインズ」2019年5月号


 「コミック乱ツインズ」2019年5月号の表紙は山本康人『軍鶏侍』。そして巻頭カラーは、今号から連載再開、新章突入のかどたひろし『勘定吟味役異聞』であります。今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介しましょう。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 というわけで今回から第四部『相剋の渦』に突入することとなった本作。第三部のラストで、間部越前守の密約の証を独断で焼き捨てたことで新井白石の怒りを買った水城聡四郎ですが、まあそれでもとりあえず身分は保障されているのは公務員のありがたいところであります。
 しかしそんな中で発生した、間部越前守襲撃事件。それにヒントを得た尾張藩主・徳川吉通は、実力で越前守を排除して自分が七代将軍の座に就こうと考え、そのために紀伊国屋文左衛門を動かすことになります。そしてそれが聡四郎に思わぬ影響を……

 と、第一回は間部越前守を襲う刺客たちと護衛の忍びの戦いは描かれたものの、主人公の殺陣はなし。しかし銃弾のような勢いで繰り出される棒手裏剣の描写などは、素晴らしい迫力であります。
 そして権力亡者たちが陰険な(あるいは浅はかな)企みを巡らせる一方で、聡四郎は着飾った紅さんと新年を祝ってめでたいムードですが――しかしそこでとんでもない年始回り(?)現れて、早くも波乱の雰囲気で続きます。


『いちげき』(松本次郎&永井義男)
 永井義男の『幕末一撃必殺隊』の漫画化である本作は、相楽総三率いる薩摩の御用盗に対して、勝海舟が秘密裏に集めた百姓たち「一撃必殺隊」が繰り広げるゲリラ戦を描く物語。
 これまで「コミック乱」誌の方で連載されていたものが今回から移籍、それも内容の方は、一撃必殺隊乾坤一擲の相良暗殺作戦という佳境からのスタートであります。

 人でごった返した金杉橋の上で、白昼堂々相良たちを襲撃する一撃必殺隊。降りしきる雨の中、柄袋をつけたままだったり、手がかじかんでそれを外せなかったりと、相手が混乱する中で襲いかかるという超実戦派のバトルが面白いのですが――その一方で、無数の庶民が巻き添えを食らって無惨に死んでいく描写がきっちりと描かれるのが凄まじい。
 テロvsカウンターテロの泥沼の戦いの行方は――いきなりクライマックスであります。


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 妻と子二人とともに平和に暮らしていた「軍鶏侍」こと岩倉源太夫の前に現れたおかしな浪人・武尾福太郎。源太夫の秘剣「蹴殺し」を見たいという武尾は、源太夫の長子・市蔵を拐かしてまで立ち会いを望んで……

 というわけで、今回は秘剣に取り憑かれた男の物語の後編。作品冒頭からその存在が語られながらも、ついぞ使われず仕舞いだった「蹴殺し」については、武尾ならずとも気になるところでしたが――今回ついにその一端が明かされることになります。
 その剣理たるや、なるほど! と感心させられるものでありましたし、養子である市蔵を巡る源太夫の老僕の怖い思惑なども面白いのですが、しかしいかにも温厚篤実な人格者然とした源太夫に対して、あまりにも武尾のビジュアルが――というのが前回から気になったところ。

 ちょっと残酷すぎるのではないかなあ、と見当違いなところが気になってしまった次第です。


『カムヤライド』(久正人)
 百済からの交易船に化けて難波に現れた新たな国津神に立ち向かうヤマトの黒盾隊。さしもの黒盾隊も「神」を前にしては分が悪い――という時に隊長のオトタチバナ(!)が切り札として鋼の鎧に魂を遷し、新たな戦士が……

 という衝撃の展開となった今回、何が衝撃ってどう見てもメタルヒーローなその外見(と名前)もさることながら、ファイティングスタイルが回避を一切拒否、全て受けて受けて受けまくるという、板垣恵介のキャラみたいなのには、驚くというより困惑であります。
 もっとも、結局は定番通り(?)目が光って光線剣でシルエットになってフィニッシュなのですが――それはともかく、旧き土の力で国津神を封じるカムヤライドに対して、黒金で国津神に抗するというのは、これはこれで平仄のあった考え方になっているのが、これはさすがと言うべきでしょう。

 今回はほとんど驚き(というかツッコミ)役だったモンコですが、果たして新たな戦士の登場に、彼は何を想うのか――いよいよ盛り上がってきました。


「コミック乱ツインズ」2019年5月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年5月号 [雑誌]


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2019.04.14

響ワタル『琉球のユウナ』第3巻 ややこしい琉球の、ややこしい人間関係


 15世紀の琉球、後に伝説の王となる尚真王・真加戸の若き日を題材に、不可思議な力を持つ朱色の髪の少女・ユウナの成長を描く『琉球のユウナ』の第3巻であります。互いに惹かれ合いながらも、何かと邪魔が入るユウナと真加戸の前に現れた新たなるキャラクターとは、そしてユウナの想いの行方は……

 その力のために忌避されてきた自分を受け入れてくれた真加戸に思慕の念を抱くユウナと、若き王としての孤独感を受け止めてくれたユウナに惹かれる真加戸と――ほとんど両思い状態の二人の前に現れた思わぬ障害。
 それは、真加戸の父である第二尚氏の初代王によって王位を簒奪された、先代王家・第一尚氏の生き残りを名乗る男・ティダでありました。

 ユウナと同じ、いや彼女を遙かに上回る力を持つ謎の男・白澤とともに、第二尚氏への復讐を企むティダの手に落ちたユウナ。決して悪人ではないにもかかわらず、しかし真加戸とは決して相容れないティダを前にして、彼女の心は千千に乱れることになります。

 ティダの手からは、真加戸とシーサーたちの奮闘によって救い出されたユウナですが――しかし相変わらずコミュ障気味の彼女は、妙に意識してしまって真加戸との間もぎこちなくなるばかり。
 そんなところに、真加戸の許嫁だという破天荒な先王の娘・居仁が登場し、いよいよますますユウナの気まずさは増すことになります。

 そんな中で明らかになる琉球の聖地・琉球開闢七御嶽の異変。御嶽の力が失われたことは、すなわち王家にその資格がないとされかねない状況で、御嶽のことを調べようとするユウナは、思わぬ形でティダと再会することに……


 (薩摩に攻められるまでは)平和な王国というイメージがあるものの、決してそんなことはない琉球王国。
 真加戸が王の座を次いだ第二尚氏は、第一尚氏の王位を簒奪したものであり、そして真加戸自身、先王であった叔父を結果として追い落とす形で王となったものであり――古今東西を問わず、何処の国でも変わらぬ、権力を巡る争いがそこにあります。

 そしてそんな第二尚氏の王国も決して一枚岩ではなく、なおも王に服さぬ諸侯たちの存在が――と、これはいずれもこれまでの物語で描かれてきたことではありますが、いずれも若い二人の微笑ましさとは対極にあるような、血なまぐさく生々しい状況であることは間違いありません。
 そしてその状況を象徴するように、第二尚氏の真加戸、第一尚氏のティダに加えて真加戸に追われた先王の娘・居仁まで登場して――と、この巻ではそんな琉球のややこしい状況が、そのまま人間関係に落とし込まれたような展開が描かれることになります。

 この辺りのシチュエーションは、よく考えてみれば(韓流・華流のドラマではお馴染みの)歴史ロマンスの定番中の定番であります。
 しかし本作においては、純情すぎる、そして不安定な力を持ったユウナを中心に置くことで、不思議なバランス感を生み出しているのが面白いところでしょう。

 とはいえ、そんな状況の中でユウナに何ができるのか――というところで、琉球開闢七御嶽の存在が描かれるのもまた面白い。少年漫画であれば、一カ所ずつ巡って番人を倒していく展開になりそうですが、もちろんそうなるはずもなく、本作では思わぬ形でユウナと絡んでいくことになるのですが……


 この巻から登場する居仁も、単純な恋敵などではなく、むしろ真加戸を実力でぶちのめして自由になろうとする男前だったり、琉球音楽史上伝説の人物・赤犬子が思わぬ形で登場したりと、新キャラクターたちの造形も楽しい本作『琉球のユウナ』。
 決して馴染み深い題材というわけではありませんが、それだけに、このややこしい状況を、如何にユウナと真加戸が乗り越えるのかが楽しみになる――そんな物語であります。


『琉球のユウナ』第3巻(響ワタル 白泉社花とゆめコミックス) Amazon
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2019.03.30

『決戦! 賤ヶ岳』(その一) 賤ヶ岳の戦の、その先の屈託


 おなじみ『決戦!』シリーズの第7弾は『決戦! 賤ヶ岳』。ある合戦に参陣した武将たちを、各作家が一人ずつ描く本シリーズですが、今回は少々他とは異なる趣向があります。それは本書に収録されている全7作品が、敵味方それぞれの武将ではなく、賤ヶ岳七本槍たちを主人公としていることであります。

 信長の後継者を巡り、羽柴秀吉軍と柴田勝家軍が激突し、結果として秀吉の天下を招くこととなった賤ヶ岳の戦。ある意味これも天下分け目の戦いではありますが、しかし秀吉と勝家が直接対決したわけではなく、規模も(シリーズの他の戦に比べれば)大きくない一戦であります。
 はっきり言えばスターが少ない賤ヶ岳の戦を、このシリーズでいかに描くかと思えば、それが冒頭に述べたとおり、いわゆる賤ヶ岳の七本槍――この戦で奮闘した秀吉麾下の加藤清正・糟屋武則・脇坂安治・片桐且元・福島正則・平野長泰・加藤嘉明の七人をそれぞれ主人公にして描くというのは、これは実に面白い趣向でしょう。

 といっても七本槍のうち、(武将として)後世によく知られるのは清正・正則・嘉明くらい。その辺りをどう描くのか――と思えば、これもまた、それぞれに趣向を凝らした内容となっているのが実に面白い。以下、本書の中で特に印象に残った作品を紹介しましょう。


『糟屋助右衛門の武功』(簑輪諒):糟屋武則
 別所家の家臣であった兄と袂を分かつ形で織田家に仕えたものの、周囲からは外様で寝返りものと陰口を叩かれてきた助右衛門(武則)。そんな彼にとって武功を挙げるまたとない機会が、賤ヶ岳の戦でありました。
 しかし七本槍に数えられたものの、逆に正則や清正に比べれて自分の限界が見えてしまった助右衛門は、武将としての立身をあきらめてしまうのですが……

 上に述べたとおり、同じ七本槍といっても、その内実は、そしてその後の境遇も大きく異なる彼ら七人。本書では、賤ヶ岳の戦そのものだけでなく、その後の彼らの姿を――その抱えた屈託を描く作品が少なくないのですが、本作はその中でも最も心に残った作品であります。

 成果さえ挙げれば未来が開けると思い詰めていたものが、いざ挙げてみればその行き着く先が見えてしまった――戦国武将ならずとも何とも身につまされるシチュエーションですが、本作はそこで終わりません。
 本作はそんないわば等身大の悩みを抱えた武則の姿を描きつつも、しかしそこでは終わりません。再び魂を燃やし、再起してみせる姿を力強く描いてみせることで――たとえその結果がどうであろうとも――大きな感動を呼ぶのであります。


『しつこい男』(吉川永青):脇坂安治
 その空気を読まないしつこさと、それと裏腹の微妙な実力のために、かねてより朋輩から、いや時には主君の秀吉からも嘲られてきた安治。
 賤ヶ岳七本槍と呼ばれたものの、その後の致命的な失策で秀吉に勘気を被り、いてもいなくてもいい男とまで秀吉に言われてしまった安治は、腹を括って伊賀上野城を寡兵で攻めるのですが……

 関ヶ原で西軍につきながらも、戦場で小早川ともども寝返って友軍を攻めたことで歴史に名を残る安治。そんな何ともしまらない彼を、さらにしまらない姿で描いてしまうのですから、本作は容赦がありません。
 こういう○○人衆の中ではありがちな「数合わせ」呼ばわりによって、ついに堪忍袋の緒を切らした安治。その行き着く先は――いやはや、これはこれで一個の武士と言うべきでしょうか、結末が妙なカタルシスを呼ぶ一編であります。
(そして、先に紹介した『糟屋助右衛門の武功』の結末とも奇妙な対応を見せるのが何とも……)


 思ったよりも長くなったため、次回に続きます。


『決戦! 賤ヶ岳』(天野純希ほか 講談社) Amazon
決戦!賤ヶ岳


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