2018.01.21

「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)

 今年も充実のスタートの『コミック乱ツインズ』誌、2月号の紹介の続きであります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 いつ果てるとも知れない吉原からの刺客との戦いに苦戦する聡四郎。同門の弟弟子である俊英・玄馬を家士とした聡四郎ですが、はじめての人斬りに玄馬は目からハイライトがなくなって……
 という上田作品ではお馴染みの展開ですが、こういう時体育会系の聡四郎は役に立たない。では誰が――といえば当然この人! というわけで紅さんがその煽りスキルをフル活用。煽りの中に聡四郎への惚気を交えるという高等テクニックで玄馬の使命感を奮い立たせ、見事復活させることになります。

 そして白石からの催促に決戦を決意した二人は、師・入江無手斎に最後の稽古をつけてもらうことに――というわけで後半は無手斎無双。紅と無手斎、さらに玄馬と、聡四郎以外のキャラの活躍も増えてきたのが嬉しいところであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 犬神娘の悲恋を描く物語の後編――一族を失い、ようやく愛する人との平穏な暮らしを手に入れた犬神使いの少女・なつ。しかし彼女の夫となった元一領具足の甚八は、新領主である山内一豊の卑劣なだまし討ちにより、仲間共々命を落とすことになります。怒りと怨念に燃えるなつの犬神は鬼と化して……

 というわけで前編を読んだ時の不吉な予感は半分当たり半分外れて、鬼と化したのはなつ自身ではなく犬神の方。しかし鬼殺すマンにとっては見過ごせる事態ではなく、久々になつの前に現れた鬼切丸の少年は、彼女に刃を向けることとなります。
 しかし人間への不信と怨念に燃えるなつに対して、誰も恨むことなく命を擲った自分の母の話をする少年はちょっと悪手。予想通り、火に油を注ぐことになるのですが――しかし母への想いが、人間に怨みは向けないという少年の行動原理となっているのは面白いところです。

 なにはともあれ、最悪の事態は避けられたものの、かつて愛しあった相手に対しても、犬神使いとしての使命を果たさざるを得なかったなつを何と評すべきか。しかしそうすることこそが、相手が愛してくれた自分だと、しっかりと二本の足で立つなつの姿は、哀しくも一つの強さを感じさせます。
 とはいえ、ラストの山内一豊の妻の言葉のおかげで、「まこと女子は業が深い」という少年の言葉でオチとなってしまうのは、正直なところちょっと残念ではあります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 年齢も境遇もバラバラながら、西へ東へ放浪を続ける用心棒稼業という点のみ共通する三人の男を描く新連載の第2回。
 終活、仇討、鬼輪(いつの間にかこれが渾名に)とそれぞれを呼び合う三人のうち、今回は仇討――海境坐望の主役回となります。

 三人分の宿代のための用心棒仕事に急ぐ坐望が、その途中で出会った、これから仇討ちの決闘に向かうという兄弟。まだ幼いその姿にかつての兄と自分の姿を見た彼は、一度は見過ごしながらも、とって返して助太刀を買ってでることに……
 と、物語的には定番の内容ながら、絵の力で大いに読まされてしまう本作。坐望が、自分の稼業を擲ってまで兄弟のもとに駆けつけるまでの心の動きの描写もさることながら、何よりも、吹雪の中での決闘シーンが10ページに渡ってほとんど無音(擬音なし)で描かれるのが素晴らしいのであります。

 それにしても海境坐望という名前は原典がありそうですが――わからない自分の浅学ぶりがお恥ずかしい。


 その他、『エンジニール』は、ドイツ出張中でほとんど登場しない島の代わりに、その子・秀雄が主役となるエピソード。当時の都電の弱点を解消するための実験が、後の彼の偉大な業績に繋がるという展開は、面白くはありますが、さすがに逆算めいたものになっているのは残念。
 また、『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)は、芦名家の跡継ぎを巡る各勢力の思惑の描写がメインで、合戦続きだった最近に比べれば動きは少ない回ですが、兄への複雑な想いを覗かせる伊達小次郎の描写はさすがであります。(夫を亡くした悲しみからの義姫の復活方法もさすが)


 次号は久々に『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)が復活。今号の新連載のようにすっ飛ばす一方で、人気小説の漫画化作品も着実に掲載するのが、本誌の強みだと今更ながらに感じます。


『コミック乱ツインズ』2018年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年2月号 [雑誌]


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2018.01.07

横山光輝『伊賀の影丸 由比正雪の巻』 質量ともにベストエピソード!?

 『伊賀の影丸』全エピソード紹介、第二番は「由比正雪の巻」――実は生き延きていた由比正雪を追って、影丸たち公儀隠密と正雪を守る忍者たちが死闘を繰り広げる、シリーズ最長にして、個人的には最高傑作と考えているエピソードであります。

 由比正雪といえば、言うまでもなく浪人たちを率いて幕府転覆を目論んだ、いわゆる慶安の変の首謀者。史実では事前に企てが露見、事破れて自害したのですが――しかしこの物語は、その正雪の死から始まります。
 自害したかに見えたものが、実は替え玉であった正雪。これを知った松平伊豆守は、五代目半蔵に対し、秘密裏に正雪を抹殺するよう命じるのですが――しかし最初に派遣された公儀隠密たちは、正雪を守る陰流忍者たちによって瞬く間に全滅させられてしまいます。

 これに対し、第二波として派遣されることになった影丸たち六人の精鋭。大坂で再起せんとする正雪を追う影丸たちと守る陰流忍者たち――双方は次々と犠牲を出しつつ、東海道で死闘を繰り広げていくことになります。
 そんな中、若葉城を巡る戦いで影丸に敗れた不死身の忍者・阿魔野邪鬼が出現、影丸を狙う彼の登場により、事態はより一層混迷の度合いを深めることに……


 というわけで公儀隠密vs陰流忍者vs阿魔野邪鬼の三つ巴の戦いを描くこのエピソードですが、最大の特徴は、慶安の変という史実を背景としている点であります。

 各エピソードにおいて、基本的に公儀隠密と各地で陰謀を企む忍者との戦いが描かれる本作ですが、その大半は、「この頃の江戸時代」を背景としてはいるものの、史実と結びつくことはほとんどないのが事実。
 それがこのエピソードにおいては、慶安の変を題材とすることで、物語に一定の現実味と緊迫度を与える効果を上げているのです。それでいて変の後を舞台とすることで、自在に物語を展開することを可能としているのも、見事というべきでしょう。

 そしてここで展開していくトーナメントバトルがまた素晴らしい。「若葉城の巻」が、敵地への潜入を巡る攻防戦だったのに対し、今回は次々と場所を変え、逃げる敵を追うという一種の道中もの。
 これが物語に独特のスピード感を与えることに成功しているだけでなく、戦いの場も、街道あり山中あり森林あり雪山ありと様々、バトルのシチュエーションもそれによって豊富なものとなっているのです。

 そして登場する敵味方のゲスト忍者も、いずれも「若葉城の巻」以上にキャラクター的にもビジュアル的にも個性派揃い。
 特に味方の公儀隠密は、単なるやられ役ではなく、明確に一人一芸の、影丸と並ぶ戦力として描かれており――つまりは敵と味方の戦いのバリエーションが、それだけ豊富になっているわけであります。

 特に公儀隠密の中でも印象に強く残るのが、前髪立ちの大振袖、盲目で独楽使いの美少年という、属性盛りまくりの左近丸。
 得意技が「蜘蛛糸渡り」という、縄術で相手の動きを封じ、その縄の上に刃付きの独楽を走らせて相手を倒すというある種嗜虐的な忍法なのも相まって、インパクト大なので。

 そしてそんな中に、前回あれだけ影丸を苦しめた阿魔野邪鬼がワイルドカードとして乱入し、散々戦いを引っ掻き回してくれるのですから、面白くならないわけがないのです。


 しかし興味深いのは、今回の敵である陰流忍者が、比較的(忍者漫画としては)オーソドックスな忍法の使い手であることです。
 陰流忍者は、その1/3以上が幻術使いというのが一つの特徴かと思いますが、ここに表れているように、彼らの中には、特異な肉体を武器とする者はおりません。「若葉城の巻」の甲賀七人衆の大半が、その特異な肉体を武器としていたことを思えば、その違いは明らかでしょう。

 そして以前触れたように、その「若葉城の巻」のベースとなったのが山田風太郎の『甲賀忍法帖』であったことを思えば、この敵の能力の変化は、ここで早くも本作が山風忍法帖からの影響を脱して独自の路線を歩み始めた、とも言えるのではないでしょうか。
(もっともそれは、忍者ものとして先祖返りとも言えるのかもしれませんが……)

 そしてそれは、ラストに影丸の前に現れる最大の敵にも表れているように感じられます。この人物、戦闘力でも影丸と互角ながら、その最大の武器は、肉体でも技術でもなく、ある意味究極の忍法なのですから。


 こうした様々な点において独自性を持ち、そして『伊賀の影丸』という物語を特徴づけたこの「由比正雪の巻」。本作の最高傑作と、私が考える所以であります。


『原作愛蔵版 伊賀の影丸』第2巻(横山光輝 講談社KCデラックス) Amazon
原作愛蔵版 伊賀の影丸 第2巻 由比正雪 (2) (KCデラックス)

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2017.12.24

山本 巧次『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ』新機軸! 未来から始まる難事件

 東京と江戸で二重生活を送るヒロインが、怪事件解決に奔走する「八丁堀のおゆう」シリーズ第4弾は、これまでとはいささか趣を変えた物語。現代で発見された葛飾北斎の未発表肉筆画の真贋を巡り、江戸で調査に当たることになったおゆうが、思わぬ連続殺人に巻き込まれることになります。

 祖母が遺した家で江戸時代へのタイムトンネルを見つけたことから、江戸時代での二重生活を送ることになった優佳(おゆう)。
 平凡な元OLの彼女も、持ち前の推理力と、分析ラボを営む友人・宇田川の科学力で名探偵に早変わり、江戸では南町奉行所の定町廻り同心・鵜飼伝三郎に十手を預けられた女親分として活躍するのであります。

 そんな本シリーズですが、今回は意外な場面からスタートすることに――近日オープンする「東京青山美術館」の目玉の一つ、葛飾北斎の未発表の肉筆画に贋作疑惑が持ち上がり、宇田川のラボに持ち込まれたのです。

 売り手が買い主に対して記した由来書きが添付されていたこの画。この画にはかつて贋作が作られたものの、これは本物なので安心してほしい――というような、逆に安心できないこの書き付けがあったことから、この画が本物か贋作か、頭を抱えていた美術館のスタッフ。
 状況から見て、この画が描かれたのはちょうどおゆうが江戸で暮らすのと同時代、だとすれば北斎本人に真贋を確かめることもできるのではないか――そんなずいぶん乱暴な宇田川の発想で、おゆうは江戸に向かうことになります。

 しかしおゆうが調査を始めた途端、画を扱った仲買人が何者かに殺害され、さらに彼と組んで贋作を描いていたという女絵師までもが死体で発見。
 悪いことにどちらもおゆうが関わった直後に殺された上に、何故北斎の画を探っているか、伝三郎にも話せない(話しようがない)おゆうは、伝三郎にまで不信の目で見られ、思わぬ窮地に陥ることになります。

 そこで北斎の娘・阿栄の思わぬ助けを得たおゆうは、疑いを晴らし、真贋を解き明かすために事件を追うのですが……


 これまでは、江戸時代に訪れていたおゆうが事件に巻き込まれるという導入であった本シリーズ。正直なところ、スタート時には目新しかったこのスタイルも、巻を重ねてくると当たり前になってしまった感があったのですが――なるほどこう来たか、と本作の導入は好印象です。

 過去からではなく、現代の(つまり過去から見れば未来の)出来事がきっかけで始まる事件というのは、これは本作のような設定でなくては描けない物語。
 しかもそれが理由で、おゆうが伝三郎に真実を語りたくても語れず、シリーズ始まって以来の窮地に陥るという展開になるのが、実に面白いのであります。

 さらにこれまでのシリーズでは、現代の科学力で謎を解き明かしたとしても、それを
江戸でいかに辻褄が合うように説明してみせるか――という面白さがあったのですが、本作ではそれとは逆パターンの展開。
 江戸で明らかになった真実を如何に現代で説明するか(しかもえらい豪快なアイディアでそれを解決!)、非常に新鮮な気持ちで最後まで読むことができました。

 そして本作に用意されている更なる新機軸は、阿栄とその父の北斎という、歴史上の人物が物語に大きく関わることでしょう。

 これまで、江戸時代を舞台としつつも、歴史上の人物や史実とはほとんど関わってこなかった本シリーズ(設定年代が明記されたのも初めてでは……?)。それはそれで理由があることかと思いますが、しかし折角(?)のタイムスリップなのだから、という気持ちがあるのは否めません。

 それが今回は、当然と言えば当然ながら、北斎の存在が大きく関わる内容なのが実に面白い。さらに阿栄の、おゆうとある意味対等に話せる人物というこれまでいなかったキャラクター造形が実に魅力的なのであります。

 そして贋作にまつわる事件の二転三転する謎解き、さらに事件を引き起こした複雑でそしてもの悲しい人間の心の綾なども印象的で――正直に申し上げて、これまでのシリーズで最も魅力的な作品であったと感じます。


 これも毎回恒例の、ラストで明かされる伝三郎の胸中が、こちらは今ひとつ盛り上がらないのが少々残念ではありますが、タイムスリップ時代ミステリとして、本作がシリーズに新たな魅力をもたらしたことは言うまでもありません。
 読み終わった後、カバーを見返してまたにっこりとできる――そんな快作であります。


『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ』(山本巧次 宝島社文庫『このミス』大賞シリーズ) Amazon
大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


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2017.12.19

「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)

 今年最後の、そしてカウント上は来年最初の「コミック乱ツインズ」誌は、創刊15周年記念号。創刊以来王道を征きつつも、同時に極めてユニークな作品を多数掲載してきた本誌らしい内容であります。今回も、印象に残った作品を一作ずつ紹介していきます。

『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 新連載第一弾は、流浪の用心棒たちが主人公の活劇もの。
 用心棒といえば三人――というわけかどうかは知りませんが、自分の死に場所を探す「終活」中の老剣士、仇を追って流浪の旅を続ける「仇討」中の剣士、そしてお人好しながら優れた忍びの技を操る青年と、それぞれ生まれも目的も年齢も異なる三人の浪人を主人公とした物語であります。

 連載第一回は、宿場町を牛耳る悪いヤクザと、昔気質のヤクザとの対立に三人が巻き込まれて――というお話で新味はないのですが(でっかいトンカチを持った雑魚がいるのはご愛嬌)、端正な絵柄で手慣れた調子で展開される物語は、さすがにベテランの味と言うべきでしょう。

 ……と、今回驚かされたのは、忍びの青年が「鬼輪番」と呼ばれることでしょう。作中の言葉を借りれば「天下六十余州をまわり幕府に抗おうとする大名たちの芽を摘む」のが任務の忍びたちですが――しかし、ここでこの名が出るとは!
 『優駿の門』の印象が強い作者ですが、デビュー作は小池一夫原作の『鬼輪番』。その名がここで登場するとは――と、大いに驚き、そしてニンマリさせられた次第です。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 吉原という底知れぬ相手を敵に回すことになったものの、同門の青年剣士・大宮玄馬を家士として味方につけた聡四郎。今回は早くもこのコンビが、ビジュアル的にも凄い感じの刺客・山形をはじめとする刺客団と激闘を繰り広げることになります。
 死闘の末に刺客たちを退けたものの、はじめて人を殺してしまった玄馬は、その衝撃から目からハイライトが消えることに……

 というわけで上田作品お馴染みの、はじめての人斬りに悩むキャラクターという展開ですが、体育会系の聡四郎はいまいち頼りにならず――というか、紅さんが話してあげてと言っているのに、竹刀でぶん殴ってどうするのか。この先が、江戸城内の不穏な展開以上に気になってしまうところであります。


『大戦のダキニ』(かたやままこと)
 特別読み切りとして掲載された本作は、なんと太平洋戦争を舞台とするミリタリーアクション。といっても、主人公は日本刀を片手に太腿丸出しで戦う戦闘美少女というのが、ある意味本誌らしいのかもしれません。
 作者のかたやままこと(片山誠)は、ここしばらくはミリタリーものを中心に活動していたのようですが、個人的には何と言っても會川昇原作の時代伝奇アクション『狼人同心』が――というのはさておき。

 物語は、江戸時代に流刑島であった孤島に上陸した日本軍を単身壊滅させた少女・ダキニが、唯一心を開いた老軍人・亀岡とともに、ニュージョージア島からの友軍撤退作戦に参加することに――という内容。
 銃弾をも躱す美少女が、日本刀で米軍をバッサバサというのは、今日日ウケる題材かもしれませんが、ダキニが異常なおじいちゃん子というのは、それが狙いの一つとは思いつつも、あまりにアンバランスで乗れなかったというのが正直なところであります。
(見間違いしたかと思うような無意味な特攻描写にも悪い意味で驚かされました)


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 日本の鉄道の広軌化を目指す中で、現場の技術者たちとの軋轢を深めることとなってしまった島。それでも現状を打開し、未来にも役立てるための新たな加熱装置を求め、島はドイツに渡ったものの……

 という今回、主人公が二年もの長きに渡り日本を、すなわち物語の表舞台を離れるということになってしまいましたが、後任が汚職役人で――という展開。
 これを期に雨宮たち現場の技術者も島の存在の大きさを再確認する――という意味はあるのですが、あまりに身も蓋もない汚職役人の告白にはひっくり返りました。

 そして未来に夢の超高速鉄道を開発することになる少年も色々と屈託を抱えているようで、こちらも気になるところであります。


 長くなりましたので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2018年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年 01 月号 [雑誌]


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2017.12.16

輪渡颯介『欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪』 パターン破りの二周目突入!?

 コミカルで、そしておっかない時代怪談を書かせたら右に出る者がいない作者の人気シリーズも三作目。幽霊を「嗅いで」「聞いて」「見て」しまう溝猫長屋の悪ガキ四人組が、今回も様々な幽霊騒動に巻き込まれることになるのですが――今回は何と「二周目」アリ!?

 大量にいる猫が溝にはまって寝ていることから「溝猫長屋」と呼ばれる長屋にある祠。
 溝猫長屋では、かつてある事件で亡くなった女の子・お多恵を祀るこの祠に、毎年最年長の子供がこの祠に詣でるしきたりがあったのですが――お参りをした子供は、なんと幽霊に出くわすようになってしまうのでした。

 今年この順番に当たったのは、忠次、銀太、新七、留吉の四人組。しかし銀太を除く三人は、同じ幽霊に対して、それぞれ分担する形で「嗅いで」「聞いて」「見て」しまうようになってしまい、さらにそれが順繰りでやってくることになってしまいます。そして仲間はずれの形となった銀太には、最後に三つの感覚がまとめて襲いかかることに……

 と、おかしな形で幽霊に出くわす形になってしまった子供たちの冒険を描く本シリーズですが、今回はちょっと変化球。
 上の基本設定ゆえに、これまで全四話構成(三つの感覚が忠次・新七・留吉で一周+三つまとめて銀太)だった本シリーズですが、今回はなんと七話構成なのです。

 つまり二周目が――というわけなのですが、その理由が、冒頭で銀太が銭を入れた巾着袋をなくしたのを、お多恵ちゃんのおかげで幽霊に出くわしたからと嘘をつこうとした上に、毎回パターンに忠実なお多恵ちゃんのことを「芸がない」と罵ったからというのが、何ともすっとぼけていておかしい。
 おかげで本物の幽霊に出くわした上に、二周目という新パターンにまで突入され――と、今回も四人組は大いに幽霊に振り回されることになるのです。


 シリーズの毎回の物語展開に定番のパターンがあるというのは、うまくいけばその安定感に心地よさを感じるものですが、同時にワンパターンに陥りかねないという諸刃の剣でもあります。それも、そのパターンが特殊であればあるほど、その危険性が高まると感じられます。
 しかし本作においては、その危険性を逆手にとって、パターン破りを一つの題材としてしまう点に、何とも人を食った面白さがあります。

 実際、本作では作中で登場人物たちが「いつもだったらここで○○が出て来て……」とか「いつもだったら一連の出来事が実は裏で繋がってるはず」などと言い出す、メタ一歩手前の発言を連発。
 危険球スレスレではありますが、物語構造を逆手にとっての半ば捨て身の展開は実に楽しい。キャラクター造形や会話の妙も相まって、これまで以上に、読みながら幾度となく吹き出してしまった――というのは決して大げさな表現ではありません。

 もちろんその一方で、怪談としてもキッチリ成立しているのも本作の魅力であることは間違いありません。
 話数――すなわち怪異の数がこれまでの倍近いということは、そのバラエティもまた同様というわけで(特に二周目は一種の縛りもなくなったということもあって)これまで以上に楽しませていただきました。

 そして怖いだけでなく、切ない怪異があるのもまた本シリーズの魅力。
 本作で描かれた固く締め切られているはずの無人の長屋で人の生活の気配が――というエピソードなどは、その真相も相まって、温かみすら感じさせてくれる、ある意味本シリーズらしい人情怪談であります。


 とはいうものの、やはりパターン破りを売りにするというのは、シリーズとしては一度限りの大ネタ、窮余の一策という印象は否めません。
 内容的にも、毎度お馴染みの、あるキャラクターの「活躍」がおまけのようになってしまったりと(結果としてそのキャラの異常性をより浮き彫りにしているようにも感じますが)、マイナスの影響も感じます。

 本作の中で何度かほのめかされているように、いよいよ四人組とも別れの時が近いのかもしれませんが、いずれにせよ次回が正念場となることだけは間違いないでしょう。
 その時が来るのが楽しみなような怖いような――そんな気分なのであります。


『欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪』(輪渡颯介 講談社) Amazon
欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪


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2017.11.26

入門者向け時代伝奇小説百選 拾遺その一

 先日地味に作品紹介を終了した初心者向け伝奇時代小説百選ですが、作品選定が拡散するのを避けるために条件をつけた結果、百選に入れたいのにどうしても入らない作品が出てしまいました。あまりに残念なので、ここにまとめて紹介いたします。まずは、いま入手可能なのに入れられなかった10作品……

『忍びの者』(村山知義) 【忍者】【戦国】
『吉原螢珠天神』(山田正紀) 【SF】【江戸】
『黄金の犬 真田十勇士』(犬飼六岐) 【戦国】【忍者】
『大江戸剣聖一心斎』シリーズ(高橋三千綱) 【江戸】【剣豪】
『闇の傀儡師』(藤沢周平) 【江戸】
『山彦乙女』(山本周五郎) 【江戸】
『花はさくら木』(辻原登) 【江戸】
『大奥の座敷童子』(堀川アサコ) 【幕末-明治】【怪奇・妖怪】
『鈴狐騒動変化城』(田中哲弥) 【児童】【怪奇・妖怪】
『風の王国』(平谷美樹) 【中国もの】【古代-平安】

 忍者ものの『忍びの者』(村山知義)は、百地三太夫と藤林長門守という対立する二人の上忍に支配された伊賀を舞台に、歴史に翻弄される下忍たちに姿を描いた作品。50年代末から60年代初頭にかけての忍者ブームの一角を担い、後世の忍者ものに与えた影響も大きいマスターピースであります

 SFものでは『吉原螢珠天神』(山田正紀)は、元御庭番の殺し屋が、吉原に代々伝わるという不可思議な玉を巡って死闘を繰り広げるSF時代小説の名品。時代小説として面白いのはもちろんのこと、家康の御免状どころか何と――という凄まじい発想に唸らされます。

 戦国時代ものの『黄金の犬 真田十勇士』(犬飼六岐)は、真田十勇士を、忠誠心の欠片もない流浪の十人のプロフェッショナルとして描いた痛快な作品であります。

 激戦区だった江戸時代ものでは、まず『大江戸剣聖一心斎』シリーズ(高橋三千綱)は、奇妙な風来坊剣士・中村一心斎が、歴史上の偉人たちを自分勝手な言動で振り回しながらも、いつしかその悩みを解決してしまう味わい深い作品であります。

 また、『闇の傀儡師』(藤沢周平)は、ある意味人情もの的側面の強い作者が、秘密結社・八嶽党と、それと結んだ田沼意次に立ち向かう剣士の戦いを描いた正調時代伝奇。
 一方『山彦乙女』(山本周五郎)は、禁断の地に踏み入って発狂した末に行方を絶った叔父の遺品というホラーめいた導入部から、山中異界を巡る冒険が展開されていく、これも作者には珍しい作品です。

 さらに『花はさくら木』(辻原登)は、改革者たる田沼意次と謎の海運業者との暗闘が、皇位継承を巡るある企てと思わぬ形で絡み合い、切なくも美しい結末を迎える佳品であります。

 そして幕末-明治ものでは、大奥に消えたという座敷童子を探す少女を主人公にした『大奥の座敷童子』(堀川アサコ)。いわゆる大奥もののイメージとはひと味異なる、バイタリティ溢れる楽しい作品です。

 児童ものでは『鈴狐騒動変化城』(田中哲弥)。作者の新作落語をベースに、バカ殿に目をつけられたヒロインを救うために町の若者たちと狐が奮闘するナンセンス大活劇。読みながら「むははははは」と笑い転げたくなる作品であります。

 そして中国ものでは大作『風の王国』(平谷美樹)。幻の渤海王国の興亡を舞台に、東日流に生まれ育った男が大陸で繰り広げる壮大な愛と戦いの物語。悲劇を予感させる冒頭で描かれたものの意味が明かされる結末には、ただただ感動させられる名作です。


 というわけで非常に駆け足でありますが10作品――何故選から漏れることになったかはご勘弁いただきたいと思いますが、いずれもギリギリまで悩んだ作品揃い、こちらも併せてお読みいただければ、これに勝る喜びはありません。



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 犬飼六岐『黄金の犬 真田十勇士』 十勇士、天下の権を笑い飛ばす
 「大江戸剣聖一心斎 黄金の鯉」 帰ってきた剣聖!
 「闇の傀儡師」 闇の中で嗤うもの
 「山彦乙女」 脱現実から脱伝奇へ
 辻原登『花はさくら木』 人を真に動かすものは
 堀川アサコ『大奥の座敷童子』 賑やかな大奥の大騒動
 『鈴狐騒動変化城』 痛快コメディの中に浮かび上がる人の情
 「風の王国 1 落日の渤海」 二つの幻の王国で

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2017.11.19

山本巧次 『開化鐵道探偵』 端正な明治ものにしてミステリ、しかし

 ユニークな時代ミステリ『八丁堀のおゆう』シリーズで人気を博した作者が、本来のホームグラウンドというべき鉄道の世界を――それも、明治初期の創成期を舞台に、鉄道工事の妨害工作に挑む元八丁堀同心の活躍を描く作品であります。

 明治12年、京都ー大津間の鉄道建設が佳境にさしかかる中、難所・逢坂山トンネルの工事現場で続発する、測量結果の改竄や落石事故などの不審な出来事。
 政治的にも微妙な状況の中、あるいは妨害工作かと事態を重くみた鉄道局長にして長州五傑の一人・井上勝は、技手見習の小野寺に命じて、元八丁堀同心の草壁賢吾を探偵役に招こうとします。

 八丁堀では切れ者として知られ、その才を評価する者も多いにもかかわらず、新政府からは距離をおいて市井に暮らす草壁。
 しかし井上の熱意に押された彼は、小野寺を助手に、逢坂山の工事現場に向かうのですが――待ち受けていたのは、工事を請け負う藤田商店の社員が鉄道から転落死したという知らせでした。

 早速これが事故ではなく殺人であることを見抜いた草壁ですが、犯人が何者で、何故殺人を犯したかは五里霧中の状態。
 工事現場では線路工夫たちとトンネル工事の鉱夫たちが対立し、さらに鉄道工事に批判的な地元住民との軋轢が強まる中、なおも不審な事件は続き、さらなる殺人までもが……


 そんな本作の印象を表せば、ミステリとしても明治ものとしても、「端正」という一言であります。
 『八丁堀のおゆう』が、タイムスリップで現代と江戸の二重生活を送るヒロインという意表を突いた内容であったのに対し、本作は、あくまでもこの明治初期の鉄道を取り巻く状況を丹念に語り、そしてそこで起きる事件の姿を丁寧に描きます。

 特にミステリ面については、事件の内容もトリックも飛び抜けて意外なものではないのですが、そのいずれもが実にフェアと言うべきもの。
 「名探偵 皆を集めてさてと言い」を地で行くクライマックスで一つ一つ解き明かされていくる真相も、どれも納得がいくものであったと思います。

 また、時代ものとしても、西南戦争直後の、勢力が衰えた薩摩が巻き返しを図っている時期、そして諸外国の影響や干渉下から何とか日本が逃れようとしている時期という時代背景が物語と密接に関わっているのが嬉しい。
 このご時世には受けそうなくすぐりもあり、まず時代ミステリとしてはよくできた作品であると言ってもよいかと思います。


 ……が、残念ながらそれが物語として面白いかといえば、素直に頷けるわけではないと、個人的には感じます。

 物語設定的にはやむを得ないとはいえ、物語がほとんど工事現場とその周辺のみで展開するために、物語に広がりと起伏が感じにくい(ラスト近くまで事件ー聞き込みの繰り返しに見えてしまう)のがまず大きな点ではありますが、キャラクターに魅力を感じにくいのも残念なところであります。

 高官であるにもかかわらず現場で工夫に混じって体を動かす井上勝や、無愛想で強面ながら人間味のある外国人機関手はなかなか面白いのですが、主人公たる草壁がそれほど強烈なキャラクターではないのがつらい。(彼が新政府に出仕しない理由は非常に面白いのですが……)
 助手の小野寺がお供以上の存在感がないのも苦しく、その他の登場人物も、少々数が多すぎるのではないか――という印象があります。


 と、結果としてかなり厳しい評価をすることとなってしまいましたが、先に述べたとおり、光る部分も数多いのは間違いないことでもある本作。

 まだまだ明治期の鉄道は興味深い題材だらけの宝の山であるはず。本作の魅力を踏まえた、更なる作品を楽しみにしたいと思います。

『開化鐵道探偵』(山本巧次 東京創元社ミステリ・フロンティア) Amazon
開化鐵道探偵 (ミステリ・フロンティア)


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2017.11.15

入門者向け時代伝奇小説百選 中国もの

 入門者向け時代小説百選、ラストはちょっと趣向を変えて日本人作家による中国ものを紹介いたします。どの作品もユニークな趣向に満ちた快作揃いであります。
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)

96.『僕僕先生』(仁木英之) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 唐の時代、働きもせずに親の財産頼みで暮らす無気力な青年・王弁。ある日出会った美少女姿の仙人・僕僕に気に入られて弟子となった王弁は、彼女とともに旅に出ることになります。世界はおろか、天地を超えた世界で王弁が見たものは……

 実際に中国に残る説話を題材としつつも、それをニート青年とボクっ娘仙人という非常にキャッチーな内容に生まれ変わらせてみせた本作。現代の我々には馴染みが薄い神仙の世界をコミカルにアレンジしてみせた面白さもさることながら、旅の中で異郷の事物に触れた王弁が次第に成長していく姿も印象に残ります。
 作者の代表作にして、その後シリーズ化さえて10年以上に渡り書き続けられることとなったのも納得の名作です。

(その他おすすめ)
『薄妃の恋 僕僕先生』(仁木英之) Amazon
『千里伝』(仁木英之) Amazon


97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都) 【ミステリ】 Amazon
 デビュー以来、中国を舞台とした歴史ミステリを次々と発表してきた作者が、唐の則天武后の時代を舞台に描く連作ミステリです。

 則天武后の洛陽城に宦官として献上された怜悧な美少年・馮九郎と、天真爛漫な双子の妹・香連。九郎は複雑怪奇な権力闘争が繰り広げられる宮中で、次々と起きる奇怪な事件を持ち前の推理力で解決していくのですが、権力の魔手はやがて二人の周囲にも……

 探偵役が宦官という、ユニークな設定の本作。収録された物語が、いずれもミステリとして魅力的なのはもちろんですが、則天武后の存在が事件の数々に、そして主人公たちの動きに密接に関わってくるのが実に面白い。結末で明かされる、史実との意外なリンクにも見所であります。

(その他おすすめ)
『十八面の骰子』(森福都) Amazon
『漆黒泉』(森福都) Amazon


98.『琅邪の鬼』(丸山天寿) 【ミステリ】 Amazon
 中国史上初の皇帝である秦の始皇帝。本作は、その始皇帝の命で不老不死の研究を行った人物・徐福の弟子たちが奇怪な事件に挑む物語であります。

 徐福が住む港町・琅邪で次々と起きる怪事件。鬼に盗まれた家宝・甦って走る死体・連続する不可解な自死・一夜にして消失する屋敷・棺の中で成長する美女――超自然の鬼(幽霊)によるとしか思えない事件の数々に挑むのは、医術・易占・方術・房中術・剣術と、徐福の弟子たちはそれぞれの特技を活かして挑むことになります。

 とにかく起きる事件の異常さと、登場人物の個性が楽しい本作。本当に合理的に解けるのかと心配になるほどの謎を鮮やかに解き明かす人物の正体が明かされるラストも仰天必至の作品です。

(その他おすすめ)
『琅邪の虎』(丸山天寿) Amazon
『邯鄲の誓 始皇帝と戦った者たち』(丸山天寿) Amazon


99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬) 【ミステリ】 Amazon
 遙かな昔、黄帝が悪を滅するために地上に下したという「銀牌」。本作は、様々な時代に登場する銀牌を持つ者=銀牌侠たちが、江湖(官に対する民の世界)で起きる怪事件の数々に挑む武侠ミステリであります。

 本書に収録された四つの物語で描かれるのは、武術の奥義による殺人事件の謎。日本の剣豪小説同様、中国の武侠小説でも達人の奥義の存在と、それを如何に破るかというのは作品の大きな魅力ですが、本作ではそれがそのまま謎解きとなっているのが、実にユニークであります。

 そしてもう一つ、ラストの中編『悪銭滅身』の主人公が浪子燕青――「水滸伝」の豪傑百八星の一人なのにも注目。水滸伝ファンの作者らしい、気の利いた趣向です。

(その他おすすめ)
『もろこし紅游録』(秋梨惟喬) Amazon
『黄石斎真報』(秋梨惟喬) Amazon


100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州) 【児童】【怪奇・妖怪】 Amazon
 時代伝奇小説の遠い祖先とも言える中国四大奇書。その一つ「西遊記」の作者――とも言われる呉承恩を主人公とした奇譚です。

 父との旅の途中、みすぼらしい少女・玉策に出会って食べ物を恵もうとした作家志望の少年・承恩。しかし玉策の食べ物は何と書物――実は彼女は、泰山山頂の金篋から転がり落ちた、人の運命を見抜く力を持つ存在だったのです。
 玉策の力を狙う者たちを相手に、承恩は思わぬ冒険に巻き込まれることに……

 「西遊記」などの中国の古典を児童向けに(しかし大人も唸る完成度で)リライトしてきた作者。本作もやはり本格派かつ個性的な味わいを持った物語ですが、同時に物語の持つ力や意味を描くのが素晴らしい、「物語の物語」であります。

(その他おすすめ)
『封魔鬼譚』シリーズ(渡辺仙州) Amazon



今回紹介した本
僕僕先生 (新潮文庫)双子幻綺行―洛陽城推理譚琅邪の鬼 (講談社文庫)もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)(P[わ]2-1)文学少年と書を喰う少女 (ポプラ文庫ピュアフル)


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 入門者向け時代伝奇小説百選

 「僕僕先生」
 「双子幻綺行 洛陽城推理譚」(その一) 事件に浮かぶ人の世の美と醜
 「琅邪の鬼」 徐福の弟子たち、怪事件に挑む
 「もろこし銀侠伝」(その一) 武侠世界ならではのミステリ
 渡辺仙州『文学少年と運命の書』 物語の力を描く物語

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2017.11.06

横山光輝『伊賀の影丸 若葉城の巻』(その二) 乾いたハードさに貫かれた死闘の中で

  忍者漫画の金字塔ともいうべき『伊賀の影丸』の最初のエピソード「若葉城の巻」の紹介の後編であります。超人と超人的人間と、二つの忍者の死闘を描いたこのエピソードですが、そこにはどうしても触れないわけにはいかない話題があります。

 それは、忍者ものとしてのある作品との類似性――前回紹介した甲賀七人衆の能力をご覧いただければ察しがつくのではないかと思いますが、山田風太郎の『甲賀忍法帖』との類似性であります。

 本作の3年前に発表された忍法帖シリーズの第1作である『甲賀忍法帖』。その中には、周囲の風景に同化して襲いかかる、口からの液体を蜘蛛糸のように操る、不死身の肉体で再生するといった忍者たちが登場します。
 それだけでなく、不死身の邪鬼の能力によって、変装能力を持つ忍者、口から武器を吐く忍者(本作の場合この両者は同一人なのですが)が倒されるというシチュエーションも、ほとんど同一のものがあるのには、さすがに驚かされるところであります。

 と、この辺りはどう考えても今であれば色々とややこしいことになるのではないかと思いますが――当時と今の感覚の違いというものはあるのではないかと思いますし、この点について、これ以上ここで触れるのは本意ではありません。

 それよりもここで触れたいのは、こうした類似性はあるものの、物語から受ける印象が全く異なる点であります。
 もちろん、本作ではそれ以外の物語設定や展開が全く異なることを考えれば、それはむしろ当然であるかもしれません。しかしそれ以上に本作は、忍者ものとして、影丸のキャラクター設定から生まれるハードさを色濃く感じさせるのであります。

 忍者同士のトーナメントバトルを描く作品である本作。しかし影丸はその中でヒーローとして存在するキャラクターであり、敵も味方も次々と死んでいく中で唯一生き残る、生き残らざるを得ない存在です。
 死によって退場していく敵味方の中でただ一人残される影丸――そんな彼は、ある意味邪鬼に並ぶ不死者といえるかもしれませんが、所詮は悪役として、敗北して退場せざるを得ない邪鬼よりも、さらに強い孤独を背負っていると感じさせられるのであります。

 そしてそれと同時に、影丸は敵を倒し、自分が生き残るためには全く容赦しない人物として描かれます。
 特に彼が姫宮村に潜入するくだりでは、自らが窮地から逃れるために(当人がそれを望んだとしても)人の死体を使ったり、村の小屋に火をつけたりと、その行動はかなりヒドい。それはヒーローである以前に公儀隠密である彼としてはむしろ当然なのかもしれませんが、やはりどこか一線超えた印象があるのは否めません。

 いずれにせよ、本作、特にこのエピソードで描かれるものは、忍者たちが己の技術を競い合う他に生きる意味を持てない山風忍法帖の虚しさや、歴史や社会体制と密接に結びついた状況から生まれる白土作品の残酷さとは全く異なる――むしろ乾いた非情さというものを感じさせる、独自のハードさなのであります。
(上記の類似性があるからこそ、よりそれが際立つ、というのはもちろん牽強付会にもほどがありますが……)

 そしてこの辺りの感情移入を排除するかのようなハードさ(の中で繰り広げられる潰し合い)というのは、本作の、このエピソードのみのものではなく、横山作品(特にバビル2世)においてしばしば底流に流れているものではないか、とまで言ってしまえば、いささか脱線したお話になってしまいますが……


 冒頭のエピソードからいきなり結論を書いてしまった印象もありますが、この辺りは、シリーズとしての格好が固まる以前だったからこそ感じられるものもあることでしょう。
 この印象が大きく異なることになるのかどうか……その点も含めて、この先、影丸の各話を取り上げていくのが自分でも楽しみになっているところです。


 ちなみに増援陣が今ひとつ目立たない中、後半の影丸の相棒となる彦三が、糸目の垂れ目という横光漫画の兄貴キャラビジュアルも相まって異常に格好良く見えるのですが――地面に突き立てた刃を蹴り上げるという得意技は、これはこれでちょっとギリギリ感ありますね。


『原作愛蔵版 伊賀の影丸』第1巻(横山光輝 講談社KCデラックス) Amazon
原作愛蔵版 伊賀の影丸 第1巻 若葉城の秘密 (1) (KCデラックス)

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2017.11.05

横山光輝『伊賀の影丸 若葉城の巻』(その一) 超人「的」忍者vs超人忍者

 忍者漫画の原型の一つとも言うべき名作『伊賀の影丸』。今回からしばらく、その各章(○○の巻)を紹介したいと思います。まずは記念すべきファーストエピソード「若葉城の巻」――若葉城の秘密を巡り、影丸とその永遠のライバル・阿魔野邪鬼が早くも激突するエピソードであります。

 時は江戸時代前期、公儀隠密総帥・5代目服部半蔵の下で、様々な陰謀に立ち向かう若きエース・影丸の活躍を描くこの『伊賀の影丸』。昭和36年から41年まで連載された本作の冒頭を飾るのが、この「若葉城の巻」であります。

 将軍(この時点では家光?)が御成りになることになった若葉城。しかし若葉城主・若葉右近には将軍家に対する謀反の疑いがあり、それを探りに向かった公儀隠密たちが姿を次々と消したことから、新たに影丸が送り込まれることとなります。
 若葉藩到着早々、影丸を襲う常識では計り知れぬ特殊な肉体を持つ忍者たち。彼ら甲賀七人衆に苦戦する影丸は、途中増援に駆けつけた仲間たちと共に戦うものの、不死身の体を持つ七人衆のリーダー・阿魔野邪鬼に幾度も苦しめられることになります。

 邪鬼をはじめとする七人衆の秘密を探るため、彼らの故郷である姫宮村に向かう影丸。その間にも若葉城の普請は進み、いよいよ将軍御成りは目前に迫るのですが……


 というわけで、若葉城主の企みを探るという目的はあるものの、基本的なストーリーとしては影丸ら公儀隠密と甲賀七人衆のトーナメントバトルという、極めてシンプルな内容となっているこのエピソード。

 その中で見事なのは、影丸ら今までの忍者漫画の中で一般的であった忍者、すなわち手裏剣やマキビシなどの忍具と体術で戦う隠密と、甲賀七人衆ら人外の域まで達するような特異な肉体を持つ忍者と――その両者の戦いを、少年漫画のフォーマット上で描いたことではないでしょうか。
(もちろん、特異な肉体を持つ忍者という点では、この数年前に登場した同じ名前の主人公を持つ作品、白土三平『忍者武芸帳』の影一族がいるわけですが、あちらは貸本の長編漫画の登場人物ということで……)

 ここで甲賀七人衆のメンバーと能力を見てみましょう。
阿魔野邪鬼:殺されても再生する不死身の肉体を持つ
十兵衛:カメレオンのように周囲の景色に体色を同化させる
くも丸:口から強烈な粘性を持つ唾を吐く
犬丸:強力な嗅覚を持ち、犬を操る
五郎兵衛:刃も弾く非常に硬い肉体を持つ
半太夫:分身と催眠術を得意とし、相手を自決に追い込む
半助:水中に長時間潜ることができる
 いずれも忍者というよりも超能力者と言ってもいいようなレベルの存在――いわば超人であります。

 そんな彼らと、常人を凌ぐとはいえあくまでも超人「的」な人間(影丸の切り札である木の葉隠れの術も、あくまでも「技術」のレベル)との対決を描くことで、本作はヒーローものとしての側面と、忍法バトルの側面を両方持たせることに成功したといえるのではないでしょうか。

 もっともこのバトル、七人衆が残り二名となった中盤以降でスピード感がガクンと落ち、舞台が若葉藩を離れてしまうのには違和感は否めませんし、影丸の仲間たちのキャラクター性もそれほど高くないため、やられ役としての印象が強いのも残念なのですが……)


 しかし――こうした点以上に、このエピソードを語る上でどうしても触れないわけにはいかない点があるのですが、それについては長くなりますので次回に続きます。


『原作愛蔵版 伊賀の影丸』第1巻(横山光輝 講談社KCデラックス) Amazon
原作愛蔵版 伊賀の影丸 第1巻 若葉城の秘密 (1) (KCデラックス)

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