2018.08.03

霜島けい『あやかし行灯 九十九字ふしぎ屋商い中』 一級の怪異と人情と、思わぬ過去の秘密と


 絶好調の妖怪時代小説の最新作――いわくつきの品物を扱う九十九字屋で働くヒロイン・るいと店主の冬吾、そしてるいの父親でぬりかべの作蔵が奇妙な事件に挑むシリーズ第四弾であります。本作ではついにあの人物の過去が判明、何やら嵐の予感が……

 酔っぱらって土壁に頭を打って死んだ拍子にぬりかべになってしまった作蔵とともに、九十九字屋で暮らすこととなった霊感少女・るい。無愛想な主の冬吾や騒々しい作蔵とともに、いわくつきの品に込められた人の想いに触れて成長していく彼女の姿を、本シリーズは描いてきました。

 本作もこれまでのフォーマットを踏まえた内容ですが、第一話の「迷い子の守」では、迷子を預かることとなったるいの奮闘が描かれます。るいと大喧嘩して家出した作蔵が拾ってきた幼児。おちせという自分の名前以外は何もわからない状態の子供を家に返そうと奔走するるいですが、しかし一向に手がかりは掴めません。

 そんな彼女に、不承不承といった調子で、辰巳神社に行ってみろと言う冬吾。その言葉に従って神社に向かったるいは、迷子捜しに霊験のあるという境内の母子石の前で、お壱と名乗る老婆と出会います。手を繋いだ相手が見ていたものを見る力があという彼女に、おちせの心を覗いてもらうことにしたるい。しかしお壱とは一体何者なのか、そして冬吾との関係は……

 という人情話の第一話に続き、第二話「不思議語り」は、好事家の旦那衆が開催する怪談会に冬吾とともに招かれたるいが、同じく招かれていた辰巳神社の神主・周音から、とある商人とその別宅にまつわる悍ましい物語を聞かされるひたすら恐ろしいエピソード。

 そしてラストの表題作『あやかし行灯』は、再びグッとくる人情話であります。夫が亡くなって以来、夜毎独りでに灯るようになったという行灯を持ち込んできた吝嗇な女・お七とその娘・お仙。行灯に夫の亡霊が取り憑いたと語るお七ですが、それだけでなく、お仙に縁談が来るたびにその亡霊が現れ、ぶち壊しにするというのですが……


 霊感少女といわくつきの品物専門の道具屋――だけでなく、そこにぬりかべ親父が加わって他では類を見ないユニークな設定の本作。しかしその設定の面白さだけに頼ることなく、人情ものとしても怪異譚としても一級なのは、これまで通りであります。

 とにかく、描かれる怪異そのものの面白さ、恐ろしさはもちろんのこと、ちょっとした怪異描写が実にうまい。たとえば第一話でお壱が子供の心を覗く場面で、彼女がさらりと発する言葉一つで、心を覗くという不思議な行為が一気に具体性と現実性を帯びる辺りなどはベテランの技というほかありません。
 また、表題作の『あやかし行灯』の怪異は、行灯に亡夫の霊が憑くという、冷静に考えればかなり奇妙な内容ながら、作蔵の存在を考えればこれもアリか、と感じさせられるのがうまい。そしてその怪異が灯す明かりが、物理的なものに限らない――というのが、実に泣かせるのであります。


 しかし本作の見どころはそれだけではありません。本作ではついに、九十九字屋の由来、そして九十九字屋主人の冬吾の過去が明かされるのです。
 なるほど、あやかしに縁を持った人間でなければ入ることができない九十九字屋も、主としてその店を取り仕切る力を持つ冬吾も、明らかに普通ではない存在。果たしてこの店はいつ誰が作ったのか、そして冬吾は何故そのような力を持ち、そして主となったのか――冷静に考えればわからないことだらけであります。

 その一端が本作で明かされることになるのですが――といってもその詳細は読んでのお楽しみ。ここでは伏せることとしましょう。
 しかし一つだけ言えるのは、この巻の新キャラクター・周音が冬吾と大きく関わるということ。お互い顔見知りでありながら、犬猿の中の二人の過去に何があったのか?

 この巻では全てが語られるわけではありませんが、どうやらこの先、この二人の関係性が物語をグイグイ引っ張っていくことになるのではないか――そんな予感がいたします。そしてそこでるいがどのような役割を果たすのか、大いに気になるではありませんか。
(しかしこの周音、かなりシリアスなキャラのようでいて、よく見ると結構面白キャラなのがまた楽しい)


 『のっぺら あやかし同心捕物控』の復刊も決まり、絶好調の作者。この先も本シリーズでどのような怪異と人情が描かれるのか、そしてるいと冬吾、作蔵の物語はどのような先行きを迎えるのか――大いに期待しているところであります。


『あやかし行灯 九十九字ふしぎ屋商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon
あやかし行灯: 九十九字ふしぎ屋商い中 (光文社時代小説文庫)


関連記事
 霜島けい『ぬり壁のむすめ 九十九字ふしぎ屋商い中』 おかしな父娘の心の絆
 霜島けい『憑きものさがし 九十九字ふしぎ屋商い中』 ユニークな怪異と、普遍的な人情と
 霜島けい『おもいで影法師 九十九字ふしぎ屋 商い中』 これぞ妖怪時代小説の完成形!?

| | トラックバック (0)

2018.07.29

中原裕『江戸っ子エド公』 金髪忍者は有名人の子孫!?


 徳川家康に仕え、外交顧問として活躍した三浦按針ことウィリアム・アダムズ。その子孫が八代将軍吉宗が治める日本に来日し、忍術修行に勤しむという、極めてユニークな連作時代漫画であります。

 漂流の末、戦国時代末期の日本にたどり着き、徳川家康と出会ってその外交顧問として三浦按針の名を与えられたウィリアム・アダムズ。
 本作の主人公は、その子孫であるエドワード・アダムズ――通称エド。日本の忍者に憧れて来日し、忍術修行のために江戸に暮らすこととなった彼は、その人目につく金髪の姿も意に介することなく、今日も忍術修行と称して騒ぎを起こす毎日であります。

 そんな中、番町皿屋敷の伝説のある旗本邸で、主が腰元・お涼を手篭めにしようとして返り討ちにされるという事件が発生。しかし井戸に身を投げたお涼は忽然と姿を消し、数日後に幽霊となって井戸から現れたというのであります。
 事件に興味を抱き、調査に向かったエドは、そこで出会った屋敷の井戸番の老人・伊助の秘密を見抜き、彼とともに、お涼を救うために活躍を繰り広げることに……


 この第1話に続き、エドと伊助、お涼、そして大岡忠相らが、江戸を騒がす奇怪な事件に遭遇する姿を描く本作。
 全8話で構成される物語の中で、この後もエドは次々と事件と謎に挑み、さらに終盤では、お涼のあまりにも意外な出生の秘密、さらには三浦按針が残した秘宝などが描かれるなど、バラエティ豊かな物語が展開されることになります。

 特に個人的に面白かったのは、自らを「月光西照権現」と名乗り、徳川家への恨みを語る家康の亡霊を描く第2話や、見たものはたちどころに命を奪われるという奇怪な石神の探索に向かったエドと伊助が、自分たちの分身と出会う第6話であります。
 どちらもトリック自体はさほど入り組んだものではないのですが、第2話は背後にあの有名な巷説を絡めて一気に伝奇度が上がったり(そしてそれを思わぬ形で裏書きしてしまうオチが楽しい)、第6話はちょっと唐突な展開に見えたものに「ドッペルゲンガー」が絡んで一気に時代ものとして重くなるのが、実にいいのであります。


 それにしても、江戸時代もど真ん中の将軍吉宗の時代に、金髪のイギリス人が江戸で忍術修行、という本作の基本設定は、それこそが肝ではあるものの、ずいぶん豪快なアイディアだと驚かされたのですが……
 しかしそこに、「三浦按針の一族は、子々孫々まで厚遇せよ」という家康の遺訓があったという設定を用意して、風穴を開けてしまうのが何とも痛快でいい。そして吉宗自身もそういう話を大いに面白がりそう、というイメージをうまく使っているのも面白いところです。

 そしてそのエド(ちなみに母国での彼の学問の師はアイザック・ニュートン!)自身も、いわゆる日本かぶれの面白外国人的な造形ではあるものの、しかし極めて陽性かつ素直で正義感の強い人物として描かれており、好感の持てるキャラクター像であります。

 とはいえ、作中で描かれる事件はかなりシビアなものばかり。身分の差や社会制度による理不尽、権力の裏側に関わるため塗りつぶされた秘密など――この時代ならではのものが、本作では次々と描かれることになります。
 そしてそんな理不尽に対して、様々な意味で外側の人間としてエドが見せる想いの発露――そしてそれは多くの場合、現代の我々の視点とも重なるわけですが――が、実は本作の最大の魅力、見どころであると言っても過言ではないと感じるのであります。
(そしてそれは必ずしも「正しい」ものとは言えず、現実を知らぬ理想的なものに過ぎないこともあるのですが、そこにきちんと別の視点がぶつけられるのもいいのです)


 実のところ、エドは思ったほど活躍せず、むしろ師匠に当たる伊助の方が活躍している印象もあるのですが、そこはまあ、修行中の身ということで……

 単行本全1巻と、分量自体は多くないのですが、なかなかに面白い物語であることは間違いない作品であります。


『江戸っ子エド公』(中原裕&高橋遠州 小学館ビッグコミックス) Amazon
江戸っ子エド公

| | トラックバック (0)

2018.07.26

DOUBLE-S『イサック』第4巻 宿敵大暴走!? 混沌の防衛戦終結


 欧州に渡った日本の銃士・イサックの戦いはまだまだ続き、ローゼンハイム市防衛戦もいよいよ佳境。不倶戴天の敵であるロレンツォの狙撃によりほとんど行動不能となり、スピノラ軍の攻撃を前に追い詰められるイサックたちに生存の目はあるのか。そして事態はあまりにも意外な方向に……

 その凄まじい狙撃の腕によって幾度となくフックスブルク城のプリンツ・ハインリッヒを救い、ついにアルフォンソ王太子とスピノラ将軍を退けたイサック。
 次いでプリンツとともにローゼンハイム市防衛に向かったイサックですが、その前に彼の仇敵であり、欧州に渡った理由であるロレンツォが立ち塞がることになります。

 スピノラ方に加わり、ローゼンハイム市に籠城した人々を次々と狙撃していくロレンツォ。一方のイサックは片腕を負傷して銃の扱いもままならぬ状況ですが、ロレンツォを封じないことには攻撃も防御もできない状況であります。
 そこでイサックを助けるのは、彼と行動をともにしてきた少女・ゼッタ――イサックに代わって彼女が引き金を引いた銃弾はロレンツォを捕らえるのか!?


 という非常に緊迫した場面から始まるこの第4巻ですが――ここで予想外の姿を晒したロレンツォ。詳しくは述べませんが、一ページブチ抜きで描かれたそれは、あまりにも衝撃的というか、一言で言ってキモい。変態以外の何ものでもありません。

 ……何はともあれこの銃弾によって戦意を失い、彼を気に入ったアルフォンソ王太子とともに後方に下がることになったロレンツォ。が、そこに、プリンツの要請に応えて明日の夜にはイギリス軍の援軍が市に到着するとの一報が入ることになります。
 それを知ったスピノラは、援軍到着までに決着をつけるべく、総攻撃を決意。それに対してイサックも背水の陣、いや背火の陣とも言うべき構えで決戦を挑みます。

 一方、アルフォンソに招かれたロレンツォですが、戦場の混沌を求めてやまない彼と、さっさと戦争を終えて遊び暮らしたいと言わんばかりの王太子は水と油。王太子の言葉に怒りを燃やしたロレンツォは……


 これまではイサックが狙撃のみならず武術の腕、そして戦術の冴えで大暴れしてきた本作ですが、この巻をかき回したのは完全にロレンツォ。
 先に述べた変態ぶりだけでも驚かされますが、まさかそれ以上の驚きが待っているとは――いやはや、ある意味、戦いを始め、終わらせたのは彼と言っても過言ではありません。

 正直なところ、設定や描写などは非常にリアルであるだけに(この巻で描かれた、地縁社会と密着した当時の傭兵団の在り方には感心)、一人のキャラクターによって歴史が左右されるかのような展開はどうかなあ、とは思いますが、ここはギリギリ許容範囲と言うべきでしょうか。
 あのイサックと真っ正面から対峙し、そして彼を圧倒するのであれば、これくらいのキャラクターでなければならないのは間違いないのですから。

 そしてひとまず終結したローゼンハイム市防衛戦ですが――しかし二人の対決は終わりません。思わぬ窮地に陥ったプリンツを救うため死地に飛び込むイサックと、待ち受けるロレンツォ。己の義のため、ついに死を覚悟したイサックの刀はロレンツォを捕らえるのか!?
 もうこのまま結末に突入してもおかしくない勢いで次巻に続きます。


『イサック』第4巻(DOUBLE-S&真刈信二 講談社アフタヌーンKC) Amazon
イサック(4) (アフタヌーンコミックス)


関連記事
 DOUBLE-S『イサック』第1巻・第2巻 恩と仇討ちを背負った日本人、三十年戦争を行く
 DOUBLE-S『イサック』第3巻 語られた過去と現在の死闘

| | トラックバック (0)

2018.07.24

小松エメル『一鬼夜行 鬼の嫁取り』 「小春とは何者なのか」の答えと理由


 閻魔顔の若商人・喜蔵と、居候の自称大妖怪・小春のコンビが様々な妖怪騒動に挑む『一鬼夜行』シリーズも、ついに本作で第二部完結であります。再び東京の水妖を騒がす事件に巻き込まれた二人。事件の背後に潜むものは、そして誰が誰を嫁取りするのか……?

 弟である猫股の長者との死闘の末、妖怪としての力をほとんど失った小春。喜蔵の家に居候を決め込んだ彼が勝手に妖怪相談処の看板を出したことで、喜蔵まで妖怪絡みの様々な事件に巻き込まれることになります。
 そして今回彼らのもとに来たのは、顔馴染みの河童の棟梁・弥々子の依頼。以前東京に出現し、水妖たちが争奪戦を繰り広げた謎の妖怪・アマビエの鱗を探して欲しいというのであります。

 といっても幻の妖怪の鱗が簡単に見つかるはずもなく、家に帰る喜蔵が途中に出会ったのは、彼が密かに想いを寄せる綾子が、額に傷を持つ男に食ってかかられる姿。
 実は綾子は飛縁魔なる女妖に憑かれ、これまで前夫をはじめとして数々の男性に災いを齎してきたという女性。もちろん喜蔵もそれは知っての上ですが、彼女の過去を知るらしい男の出現に、冷静ではいられません。その場に、彼らにつきまとう妖怪・百目鬼が現れたとあればなおさら……

 一方弥々子の態度に不審なものを感じた小春は、親友の妖怪・かわその力を借りて、河童たちの動向を探ろうとするのですが――彼の前にも百目鬼は現れ、小春は奇怪な世界に消えることになります。

 そして頻発する小火騒ぎをはじめ、東京で怪現象が相次ぐ中、次から次へと意外な方向に転じていく事態。そしてその果てに恐るべき魔が姿を現すことになります。果たして魔を倒すことはできるのか。そして喜蔵の想いの行方は、失われた小春の力は……


 と、いかにも本シリーズ、いや作者の作品らしく、謎めいた序章から始まり、過去と現在、夢と現が複雑に入り乱れて展開していく本作。その中で大きな役割を果たすのは、二体の強大な妖怪であります。

 その一妖は言うまでもなく飛縁魔。シリーズ初期にその存在と因縁が語られたものの、綾子の身に深く眠っていたかに見えた女妖が、ついにその姿を見せることになります。
 男に傷つけられ、裏切られ尽くした末に妖怪と化した女の怨念は深く、綾子が――そして彼女が想いを寄せる喜蔵が幸せを掴むのに最大の障害と思われた飛縁魔。しかも怨念のみならず、名に「ひ」がつくように、強大な炎を操るこの妖怪に、喜蔵たちは苦しめられることになります。

 そしてもう一妖は――これは飛縁魔以上に物語の内容に深く関わるためにその名を挙げるわけにはいきませんが、「こいつがいたか!」と言いたくなるような強敵中の強敵。しかもその能力といい由来といい登場人物との因縁といい、あらゆる点で飛縁魔と対になる存在であるのには唸るほかありません。


 こうした強敵たちが揃ったからには、小春の奮闘に期待するしかないのですが――しかし先に述べたとおり、未だ彼は力を失った状態。そればかりか、平気な様子で振る舞っているために忘れがちですが、百目鬼に片目を奪われたままでもあります。

 猫の経立「二」として生まれ、強大な猫股「三毛の龍」に変じながらもその力を捨て、猫股鬼「小春」となり――幾度もその名と姿を、その在り方を変えてきた小春。そのいずれにおいても、彼は強力な妖怪でした。
 それではその強大な妖怪の力を失ったいま、小春は一体何者なのでしょうか。作中で小春のこれまでが追体験される中で、小春はその問いに直面することになります。

 しかし――我々はその答えを知っています。その理由を知っています。喜蔵と小春の縁がもたらしたそれを。そしてそれがこの先にもたらすものを。


 正直に申し上げれば、結果を描いてから原因を描く作者独特のスタイルが多様されすぎているきらいはあり、小説としてはかなり粗い印象がないわけではありません。
 それでも、これまで長きに渡りシリーズを見守ってきたファンの誰もが笑顔になる結末が、ここにはあります。

 しかしまだ物語そのものの結末が訪れたわけではありません。作者の予告によれば、幻の『くらぼっこ』を含めて最低でも六作が予定されているというのですから!
 前作までに描かれた(特に個人的には前作ラストで炸裂した爆弾が……)伏線の数々が、如何に解決するのか――大いに気になるところですが、しかしその先に待つものが、本作を上回る笑顔と感動であることを、私は心から信じているところなのです。

『一鬼夜行 鬼の嫁取り』(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
(P[こ]3-11)一鬼夜行 鬼の嫁取り (ポプラ文庫ピュアフル)


関連記事
 「一鬼夜行」 おかしな二人の絆が語るもの
 「鬼やらい 一鬼夜行」上巻 再会の凸凹コンビ
 「鬼やらい 一鬼夜行」下巻 鬼一人人間一人、夜を行く
 「花守り鬼 一鬼夜行」 花の下で他者と交流すること
 「一鬼夜行 枯れずの鬼灯」 近くて遠い他者と共にあるということ
 「一鬼夜行 鬼の祝言」(その一) 最も重く、最も恐ろしく
 「一鬼夜行 鬼の祝言」(その二) 最も美しく、最も切なく
 『一鬼夜行 鬼が笑う』の解説を担当しました
 小松エメル『一鬼夜行 雨夜の月』(その一) 三兄弟の挑んだ試練
 小松エメル『一鬼夜行 雨夜の月』(その二) そこに居た「人間」たち
 小松エメル『鬼の福招き 一鬼夜行』 鬼と鬼との力が招いた希望
 小松エメル『一鬼夜行 鬼姫と流れる星々』 天狗たちの戦いの先の謎と恋情

 『一鬼夜行』第1巻 イケメン喜蔵登場!? 良い意味で漫画的な一作
 森川侑『一鬼夜行』第2巻 隠れさた相手の姿、己の姿
 森川侑『一鬼夜行』第3巻 彼らの内側の世界と外側の世界に

| | トラックバック (0)

2018.07.01

石川ローズ『あをによし、それもよし』第1巻 ミニマリスト、奈良時代を満喫!?


 私も色々なタイムスリップ時代劇に触れてきましたが、これだけユニークな漫画はちょっとないのではないでしょうか。現代のミニマリストが奈良時代にタイムスリップし、「あをによし奈良の都は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり」と読んだ小野老と共同生活を始めるというのですから……

 ある日突然、奈良時代にタイムスリップしてしまった現代のサラリーマン・山上。人のいい役人の小野老と出会い、彼の家にやっかいになることになった山上は、物もない、電気もない奈良時代に大いに戸惑――わない。むしろ大喜びなのです。
 実は山上はミニマリスト、物がない生活はむしろ大歓迎、そして衣食住全てが天然素材100%のこの時代は、彼にとっては理想郷なのであります。

 というわけで本作では、大いに奈良時代をエンジョイする山上と、彼の行動がきっかけで何となく出世してしまう老のユルくも楽しい奈良スローライフがコミカルに描かれていくことになります。


 本作のタイトルにも使われている「あをによし(青丹よし)」は「奈良」の枕詞。冒頭に引用した和歌で用いられ、作中で奈良と聞いた山上が思わず呟いてしまったように、「奈良」と言えば「あをによし」と自然に浮かんできます。
 が(これも作中でツッコまれているように)そもそも「あをによし」とは如何なる意味なのか、そしてこの和歌を詠んだのは誰なのか、ご存じない方も多いのではないでしょうか?

 かく言う私が知らなかったのですが、そんな知っているようでほとんど知らない――教科書にほんの少し載っていた程度しかしらない奈良時代の姿を、本作はタイムスリップした現代人の目を通じて浮かび上がらせます。

 それにしてもユニークなのは、普通、現代人が過去の時代にタイムスリップした場合、何とか現代に帰ろうとしたり、あるいは自分にとって都合がいいように歴史を変えようとしたりするものですが――本作の主人公の場合、あっさりと奈良時代に適応し、すっかり安住してしまうことであります。
 その理由に、彼がミニマリストだったから、というロジックを持ち出してくるのがまた実に楽しいのですが、何しろ本作はナンセンスギャグ、そのユルさこそが魅力の一つと言うべきでしょう。

 そしてその山上のツッコミを交えて描かれる奈良時代像は、彼同様にごく一般的な知識しか持ち合わせていない我々現代の読者にとっても「あるある」感満載で、実に楽しいのであります。


 さて、山上という主人公の名の時点でお気付きの方も多いと思いますが、実は主人公こそは、これまた歴史の教科書に必ず載っているあの歌を詠んだ人物、という設定。
 読むだけで気の滅入るほどリアルなあの歌ですが、しかしミニマリスト視点から見ればどうなのか――この巻の時点ではまだ描かれていませんが、大いに楽しみになるところであります。

 そしてもう一つ、タイムスリップ時代劇にはつきものの、もう一人の――もこの巻のラストに登場。
 それがまたとんでもない人物の名を名乗っているのに驚かされますが、図らずもこの人物と対立することになった山上の運命はどうなるのか……

 などと、真剣に心配するようなトーンの作品ではありませんが、こちらも気になるところなのです。

『あをによし、それもよし』第1巻(石川ローズ 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon
あをによし、それもよし 1 (ヤングジャンプコミックス)

| | トラックバック (0)

2018.06.25

銅大『アンゴルモア 異本元寇合戦記』 良質で良心的な小説版、もう一つのアンゴルモア


 ついにこの夏からアニメも開始の『アンゴルモア 元寇合戦記』。そのノベライゼーションが本作であります。副題には「異本」とありますが、内容自体は原作に忠実な本作。しかしそこから受けるイメージは、原作からほんの少し異なったものがある、まさしく副題通りの作品であります。

 流人として対馬に流された元御家人の朽井迅三郎。対馬で意外な歓待を受けた迅三郎たち流人ですが、しかしすぐに元軍が対馬目前まで迫っていること、自分たち流人がその戦いの駒として用意されたことを知ることになります。
 ほどなくして対馬に来襲する無数の元軍。地頭代の宗助国をはじめ、迎え撃った対馬の兵たちは善戦するも、初めて目にする元軍の戦法・兵器、そして何よりも物量の前に瞬く間に潰走する羽目となるのでした。

 そんな中、奇策を以て元軍に挑み、痛撃を与えた迅三郎と流人たち。しかし彼らをしても元軍の動きを一時的に抑えることができたのみ、対馬の難民たちとともに、迅三郎たちは絶望的な撤退戦を繰り広げることに……


 そんな原作序盤――単行本でいえば第5巻の冒頭、迅三郎がある人物と対面するまでを描くこの小説版。先に述べましたが、「異本」とは言い条、その内容は驚くほど原作に忠実で、物語展開はもちろんのこと、キャラクターの動きや情景描写、台詞のひとつ一つまで、原作を再現したものとなっています。

 もちろん本作で初めて『アンゴルモア』という物語に触れる読者にとってはそれで良いと思いますが、しかしそれでは原作読者はわざわざ本作を読む必要はないのか――と思われるかもしれませんが、その答えは否。むしろ原作を読んだ人間ほど楽しめるのではないか――そんな印象すらあります。
 しかし原作に忠実なのに新たに楽しめるとはいかなる理由か? それは本作が小説として再構成される際に、新たに付け加えられたもの、補われたものによります。

 その一つは、史実に基づく、史実に関するデータや解説の補足であります。
 作中で描かれる数々の史実や、独自の用語や事物――特に兵器の数々。それらは、もちろん原作でも説明はされているのですが、漫画という作品のスタイルを考えれば、それにも限界があることは言うまでもありません。

 それを本作は、地の文できっちりと補っていきます。例えば原作冒頭で「アンゴルモア」の意味を語る際に描かれたポーランド軍と元軍の戦い――そのポーランド軍がいかに戦い、そして敗れた後に何があったのか。本作はそれを簡潔かつ丁寧に語り、より物語の輪郭を明確に浮かび上がらせるのです。

 そしてもう一つ、個人的にはより大きな意味を持つものとして感じられるのが、登場人物たちの心理描写の補強であります。
 こちらももちろん原作では様々な形で描かれているところですが――しかしその内面を事細かに描くわけにはいきません。

 しかし小説であれば、それを――漫画では見えなかった部分まで――不自然さなく、丹念に描くことが可能になります。もちろんそれはあくまでも補強に過ぎませんが、しかし「ああこの時、この人物はこんなことを考えていたのか!」と(違和感なく)感じさせてくれるのが実に大きいと感じます。
 特に序盤、宗助国が迅三郎に郎党たちの面前で面罵されるくだり――それ自体は原作にもありますが、ここで助国が無表情な外見の内側で「――よし、殺そう。」と思っていたという描写など、実に中世武士らしくて良いではありませんか。

 そしてこの内面描写の影響を最も大きく受けているのは、やはり迅三郎でしょう。戦場での獰猛さと裏腹に、平時は飄々とした人物であるだけに、内面が比較的見えにくい人物だから――という点はもちろんありますが、しかしそれだけではありません。
 原作の、特に序盤ではかなり色濃く感じられる迅三郎のヒロイズム。絶望的な戦いの中でのそれが作品の魅力の一つであるのはもちろんですが、時に超人的なヒーローに見えてしまった彼の姿を、本作は良い意味で抑え、人間として再構築してみせていると感じます。

 それは同時に、原作を読んでいた時に常に頭の片隅にあった、侵略戦争を――それも自分の国でかつて確かに行われたものを――エンターテイメントとしていかに描くか、という問いへの答えともなっている、というのはいささか考えすぎかもしれませんが……


 しかしいずれにせよ、ノベライゼーションとして、本作がかなり良質で良心的なものであることは間違いありません。
 先に述べたとおり原作半ばまでで終わっている本作ですが、この続きもぜひ読んでみたいと感じさせられる一冊であります。


『アンゴルモア 異本元寇合戦記』(銅大&たかぎ七彦 KADOKAWA Novel 0) Amazon
アンゴルモア 異本元寇合戦記 (Novel 0)


関連記事
 『アンゴルモア 元寇合戦記』第1巻 「戦争」に埋もれぬ主人公の戦い始まる
 たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第2巻・第3巻 敵を破る痛快さと蹂躙される悲惨さと
 たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第4巻 史実と虚構の狭間の因縁
 たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第5-7巻 彼らの「一所」を巡る戦い
 たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第8巻 戦いの理由、それぞれの理由

| | トラックバック (0)

2018.06.18

「コミック乱ツインズ」7月号(その二)


 「コミック乱ツインズ」誌の今月号、7月号の紹介の後編であります。

『カムヤライド』(久正人)
 スタイリッシュなあらすじページも格好いい本作、今回は出雲編の前編。前回、瀬戸内海に現れた巨大触手型国津神にヤマトタケルが脱がされたりと苦戦の末、かろうじて勝利したモンコとタケル。どうやら水中では全く浮力が生じないなど謎だらけのモンコですが、しかし彼も何故自分がカムヤライドできるのか、そして自分が何者なのか、一年より前の記憶はないと語ります。
(今回の冒頭、意識を失ったモンコの悪夢の形でその過去らしきものが断片的に描かれますが――やはり改造手術が?)

 それはさておき、自分の伯父に当たる出雲の国主・ホムツワケが乱を起こしたと聞き、大和への帰還よりも出雲に急ぐことを選ぶタケル。それはなにも伯父への情などではなく、かつてホムツワケが出雲に追われたように、皇子でも油断できぬ魑魅魍魎の宮中で自分の座を守るための必死の行動なのですが……
 普段は相棒(というかヒロインというか)的立ち位置で明るいタケルの心の陰影を描くように、文字通り陰影を効かせまくったモノトーンの中に浮かび上がるモンコとタケルの姿が強く印象に残ります。

 と、出雲にたどり着いてみれば、やはりと言うべきかそこは土蜘蛛たちが蠢く地。しかしそこで二人を制止して土蜘蛛と戦おうとする男が登場。その名は――イズモタケル! 敵か味方か第二(第三?)のタケル、という心憎いヒキであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 鬼支丹編の後編である今回描かれるのは、前編で処刑された切支丹が変じた鬼を、祈りの力で消滅させたのがきっかけで正体がばれてしまった尼僧――実は金髪碧眼の盲目の少女・華蓮尼が歩む苦難の道であります。

 彼女を棄教させようと、その前で偽装棄教していた村人たちに無惨な拷問を行う尾張藩主。華蓮の悲しみと苦しみを知りながらも、俺は人間は救わない、華蓮も鬼になれば斬ってやると嘯く鬼切丸の少年ですが……
 それでも屈することなき華蓮と、彼女のために死にゆく村人たち。しかしその死が皮肉な形で(藩の側ではむしろ慈悲を与えたつもりなのがまたキツい)辱められた時、巨大な怨念の鬼が出現、少年の出番となるのですが――しかしそこでもまた、少年は華蓮のもたらした奇跡を目にすることになります。

 華蓮の出自も含めて、正直なところ内容的には予想の範囲内であった今回。その辺りは少々勿体なく感じましたが、無意識のうちに華蓮に母を重ねていた少年の心の揺れが描かれる終盤の展開はやはり面白いところです。
 しかしこの『鬼切丸伝』、本誌連載は今号まで。7月より「pixivコミック」にて移籍というのは実に残念であります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 ちゃんと続いていて一安心の本作、三人の過去回も一巡して、今回は通常の(?)エピソードですが――しかしただでは終わらないのが、らしいところであります。

 旅の途中、とある藩で追っ手に追われていた若侍・春之進を救った三人組。悪家老の暴政によって財政が逼迫した藩の窮状を江戸に訴え出ようとする春之進に雇われた三人は、多勢で襲いかかる家老の手の者から逃れるべく戦いを繰り広げるのですが……
 今回も、夜、雨の降りしきる山道という、特殊なシチュエーションで繰り広げられる殺陣が印象的な本作。一歩間違えれば漫画ではなく絵物語になりそうなところを巧みに踏みとどまり、無音の剣戟を展開するのはお見事であります。

 中盤で先の展開が読めてしまうといえばその通りですし、ラストはもう用心棒の仕事から外れているように思えますが、それでも納得してしまうのは、この描写力と、これまで培われてきたキャラクター像があってのことと納得であります。
(リアリストの海坂、人情肌の雷音、理想主義の夏海というのはやはりよいバランスだと、今更ながらに感心)


 その他、今月号では『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』単行本第2巻発売記念として、2Pの特別ショートマンガが掲載されているのが嬉しいところ。
 連載も終わり、寿司屋で静かに酒を酌み交わす島と雨宮の会話の中で、作品内外の雨宮のルーツが語られる番外編を楽しませていただきました。


「コミック乱ツインズ」7月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年7月号 [雑誌]


関連記事
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年6月号

| | トラックバック (0)

2018.06.17

「コミック乱ツインズ」7月号(その一)


 早いもので号数の上ではもう今年も後半に突入した「コミック乱ツインズ7月号」。巻頭カラー&表紙を『鬼役』が飾り、シリーズ連載の『そば屋 幻庵』も久々に登場、小島剛夕の名作復活特別企画も掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介しましょう。

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 江戸で起きる子供たちの神隠しを題材とした「神隠し綺譚」の後編は、全編を通してのアクション編といった印象。人手不足を補うために子供たちを拐かしていた那珂藩に、やはり子供の頃に拐かされ、今はその手先となっていた男・清吉が、江戸で出会った女性・お律とその娘・お鈴のために改心、藩に殴り込みをかけることになります。

 その殴り込みの助っ人を買って出た桃香は、これまでの罪滅ぼしと、止めても聞かない清吉をフォローして、いかにも忍者らしい(?)火薬玉やらをフル装備で大暴れするのですが、しかしこの後、悲劇の連続。子供たちを救い出したはいいものの、清吉が、そして思いも寄らぬ人物までが――という容赦ない展開に驚かされます。
 さらに桃香も、子供たちを人質に取られて藩の追っ手の前にあわやの危機。もちろんそこは豪快な大逆転が待っているのですが――しかしそれにしてもこのような結末になるとは全く予想ができませんでした。

 結末に一抹の救いは残されているものの、これは明確に桃香の失態で、ちょっとどうなのかなあ――という印象は強くあります。


『薄墨主水地獄帖 狂気の夜』(小島剛夕)
 小島剛夕の名作復活特別企画第6弾は、薄墨主水の3回目の登場。この世の地獄をのぞいて歩くと嘯く主水が、今回も奇怪な人間模様に巻き込まれることになります。

 放浪の末に立ち寄ったとある城下町で、春の夜のそぞろ歩きを楽しんでいた主水。しかしそこで美しい女性・幾代と出会ったことがきっかけで、辻斬りに襲われることになります。実は辻斬りの正体はこの藩の若君・東吾、取り巻きとともに夜毎人々を殺めていた相手に刃を向ける主水ですが、家老が割って入ったことでその場は引くことになります。
 その後、宿を借りた寺で幾代と出会う主水。実は自分に横恋慕してきた東吾に夫を謀殺され、以後もつきまとわれ続けていた彼女は、夫の仇を取るためであればいかなる恥も辞さないと主水にその身を任せようとするのですが……

 冒頭の展開を見た時は、眠狂四郎の『悪女仇討』のような物語かと思いきや、手段は選ばぬものの、まずは貞女(といってもその手段には矛盾があるわけですが)であった幾代。作者の筆が浮き彫りにするそんなー彼女の美しさと危うさが印象に残ります。
 しかし本作はそれで終わらず、最後の最後に彼女のもう一つの表情を描くことになります。その表情を何と評すべきか――そこにも主水が求める地獄の一つがあったのかもしれません。

 それにしてもこれまで以上にキメキメの台詞を連発する主水。こういう皮肉めいた表現は本来は好きではありませんが、柴錬原作であったかと一瞬思うほどでありました。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 冒頭に述べたように、今回は『そば屋 
幻庵』も掲載している作者。しかしコミカルなあちらに比べて、こちらはあくまでもシリアスな展開が続きます。

 何者かに人違いで襲われたことを師匠に報告したら油断を説教されたり、白石から将軍家宣の墓所が増上寺となった裏のからくりを探れと無茶ぶりされたり、相変わらずの聡四郎。墓所の造営にかかる金の動きを知ろうと、久々に相模屋を訪れるのですが――はいお待ちかねの紅さんの登場であります。
 ここのところご無沙汰だったのにお冠の紅さん、あえて普通の武士に対するようなよそよそしい丁寧語を使ってくるのが、怒りの度合いと、それと背中合わせのいじらしさを感じさせるのですが――聡四郎の新たな傷を見て一転あんた馬鹿モードになるのもまた可愛らしいところです。

 しかしそれでももちろん戦わねばならない聡四郎、自分の「人違い」の裏に気付いた彼は、今度は玄馬をお供に再び襲撃してきた相手に大決闘。上田イズム溢れる言動を見せる刺客(ビジュアル的には普通のおじさんたちなのがまた哀愁漂います)を迫力の太刀で撃退して――さて敵の正体は、というところで次回に続きます。


 長くなりましたので次回に続きます。


「コミック乱ツインズ」7月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年7月号 [雑誌]


関連記事
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年6月号

| | トラックバック (0)

2018.06.04

吉川景都『鬼を飼う』第4巻 鷹名を待つ試練と彼を見守る者


 この世のものならざる奇妙な能力と姿を持つ存在「奇獣」――帝大生・鷹名を中心に、奇獣を巡り展開してきた本作もいよいよ佳境に入ってきました。奇獣に惹かれる者、奇獣を商う者、奇獣を利用せんとする者――様々な人々の思惑が幾重にも絡みあった先に、ついに己の力を知った鷹名は……

 奇獣商・四王天と不思議な少女(実は奇獣)・アリスと出会ったことをきっかけに、これまで次々と奇獣にまつわる事件に親友の司とともに巻き込まれてきた鷹名。
 実は奇獣を強く惹きつける血を持つという、鷹名自身も知らない(封印されていた)秘密を知った四王天は鷹名を奇獣商にするべく画策し、一方、司はその秘密を胸に秘めて親友を見守ることになります。

 一方、東京では奇獣絡みの事件が次々と発生し、四王天や特高の秘密部隊を翻弄するのですが――それらの陰で糸を引いていたのは、奉天に潜み、奇獣の軍事利用を企む陸軍将校・宍戸なる怪人物。
 四王天や鷹名たちにも目を付けた宍戸の真の狙いは何か、そして四王天の目論みの行方は……


 そんな前巻の展開を受けたこの第4巻のメインとなるのは、四王天によって、本人も知らぬ間に奇獣商になるための試験を受けることとなった鷹名を巡る物語であります。

 人知を遙かに超え、時に(いやしばしば)人の命を危険に晒すほどの異能を持つ奇獣。そんな奇獣を商う者が、常人であるはずもありません。
 確かに、四王天をはじめとして、これまで作中に登場した奇獣商とその関係者は、いずれもただ者ではない連中ばかり(今回も妙なキャラが……)。しかしその血を除けばごく普通の青年である鷹名にその任が勤まるのか――?

 それでも四王天の企みは着々と進み、鷹名はいつの間にか最終試験に挑むことになるのですが――そこで思わぬアクシデントが発生、鷹名の運命を大きく変えることになるのであります。

 その一方、大陸では、これまで東京で次々と奇獣事件に巻き込まれ、神経衰弱気味の新聞記者・天久が、一連の事件の正体を探ろうと孤軍奮闘する姿が描かれることになります。
 奉天に暮らす貧しい姉弟と知り合った彼は、その繋がりから奇獣の存在に近づき、奉天の奇獣商の存在を知るのですが――これがまた、妖艶な美女というその外見に似合わぬ危険極まりない妖人。

 彼女こそは宍戸の真意を知り、彼に奇獣を与えてきた存在――その意味ではいきなり当たりを引き当てた天久ですが、しかし凶悪な奇獣を前に危機に陥ることに……


 と、鷹名を中心としつつも、これまで同様様々な視点から展開することになるこの第4巻。そこで描かれるのは危険な奇獣を巡る、これまで以上にシリアスな伝奇的な物語が中心であります。

 しかしその一方で、緊迫した物語の合間にも、どこかほのぼのとした、ある種ユルい雰囲気も漂うのが、また本作らしいところでしょう。
 それはあるいは、日常ものやエッセイ漫画を得意とする作者の作風に依るものかもしれませんが――しかし一見本筋の流れとは水と油に見えるそれは、物語に日常の空気を吹き込むことで、奇獣たちの非日常性をより強めるものとして、効果を上げています。

 それはまた、異形の奇獣が跳梁し、そしてその奇獣に様々な形で囚われた人々が数多く登場する物語の中でも、ごく普通の人間の存在が忘れ去られていないということでもあります。
 そしてその普通の人間の代表が、司であることは言うまでもありません。

 何の特殊な能力もなく、ただ鷹名の友人であったというだけで一連の事件に巻き込まれることとなった司。しかし彼は、ただ鷹名の友人であるというだけで、事件の渦中に飛び込み、奇獣と対峙してきました。
 そんな彼の存在がなければ、とうに鷹名は「向こう側」の者となっていたかもしれませんし、少なくとも本作は、今とはずいぶん違った雰囲気の物語となっていたのではないでしょうか。

 ごく普通の人間がいるということが、鷹名にとって、物語にとって、そして我々にとってどれだけ救いとなるか――鷹名が試練の果てに新たな一歩を踏み出し、物語が佳境に入ったと思われる今、改めて再確認させられたところであります。


『鬼を飼う』第4巻(吉川景都 少年画報社ヤングキングコミックス) Amazon
鬼を飼う 4 (ヤングキングコミックス)


関連記事
 吉川景都『鬼を飼う』第1巻 薄暗い世界の温かい日常
 吉川景都『鬼を飼う』第2巻 異形の人情譚と骨太の伝奇物語と
 吉川景都『鬼を飼う』第3巻 大人サイドと青年サイドで描く二つの奇獣譚

| | トラックバック (0)

2018.05.20

「コミック乱ツインズ」2018年6月号


 今月の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙&巻頭カラーが『用心棒稼業』(やまさき拓味)。レギュラー陣に加え、『はんなり半次郎』(叶精作)、『粧 天七捕物控』(樹生ナト)が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 先月に続いて鬼輪こと夏海が主人公の今回は、前後編の後編とも言うべき内容です。
 旅の途中、とある窯元の一家に厄介になった夏海。彼らのもとで生まれて初めて心の安らぎを得た彼は、用心棒稼業を抜けて彼らと暮らすことを選ぶのですが――鬼輪番としての過去が彼を縛ることになります。

 夏海の設定を考えれば(いささか意地の悪いことを言えば)この先どうなるかは二つに一つ――という予想が当たってしまう今回。そういう意味では意外性はありませんが、夏海の血塗られた過去と、悲しみに沈む心を象徴するように、雨の夜(今回もあえて描きにくそうなシチュエーション……)に展開する剣戟が実に素晴らしい。
 駆けつけた坐望と雷音の「用心棒」としての啖呵も実に格好良く印象に残ります。

 それにしても最終ページに「終」とあるのが気になりますが……

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 隠密(トラブルシューター)の裏の顔を持つ漢方医・桃香を主人公とした本作、今回の題材は子供ばかりを狙った人攫い。彼女の顔見知りの母子家庭の娘が、人攫いに遭いながらも何故か戻された一件から、桃香は事件の背後の闇に迫るのですが――その闇があまりにも深く、非道なものなのに仰天します。
 この世界のどこかで起きているある出来事を時代劇に翻案したかのような展開はほとんど類例がなく、驚かされます。

 一方、娘を攫った犯人が人間の心を蘇らせる様を(色っぽいシーンを入れつつ)巧みに描いた上で、ラストに桃香の心意気を見せるのも心憎い。前後編の前編ですが、後編で幸せな結末となることを祈ります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今回から原作第3巻『秋霜の撃』に突入した本作。六代将軍家宣が没し、後ろ盾を失ったことで一気に江戸城内での地位が低下した新井白石と、新たな権力者となった間部越前守の狐と狸の化かし合いが始まります。
 その一方、白石がそんな状態であるだけに自分も微妙な立場となった聡四郎は、人違いで謎の武士たちの襲撃を受けるもこれを撃退。しかし相手の流派は柳生新陰流で……

 と第1回から不穏な空気しかない新展開ですが、聡四郎を完全に喰っているのは、白石のくどいビジュアルと俗物感溢れる暗躍ぶり(キャラのビジュアル化の巧みさは、本当にこの漫画版の収穫だと思います)。
 そんな暑苦しくもジメジメした展開の中で、聡四郎を想って愁いに沈んだり笑ったりと百面相を見せる紅さんはまさに一服の清涼剤であります。

『鬼切丸伝』(楠桂)
 今回はぐっと時代は下って江戸時代前期、尾張での切支丹迫害(おそらくは濃尾崩れ)を描くエピソードの前編。幕府や大名により切支丹が無残に拷問され、処刑されていく中、その怨念から切支丹の鬼が生まれることになります。
 切支丹であれ鬼を滅することができるのは鬼切丸のみ――のはずが、その慈愛と赦しで鬼になりかけた者を救った伴天連と出会った鬼切丸の少年。それから数十年後、再び切支丹の鬼と対峙した少年は、その鬼を滅する盲目の尼僧・華蓮尼と出会うこととなります。

 鬼が生まれる理由もその力も様々であれば、その鬼と対する者も様々であることを描いてきた本作。今回は日本の鬼除けの札も通じない(以前は日本の鬼に切支丹の祈りは通じませんでしたが)弾圧された切支丹の怨念が生んだ鬼が登場しますが、それでも斬ることができるのが鬼切丸の恐ろしさであります。
 しかし今回の中心となるのは、少年と華蓮尼の対話でしょう。己の母もまた尼僧であったことから、その尼僧に複雑な感情を抱く少年に対し、彼の鬼を斬るのみの生をも許すと告げる華蓮ですが……

 しかし鬼から人々を救った尼僧の正体は、金髪碧眼の少女――頭巾で金髪を、目を閉じて碧眼を隠してきた(これはこれで豪快だなあ)彼女は、役人に囚われることに……
 禁忌に産まれたと語る尼僧の過去――は何となく予想がつきますが、さて彼女がどのような運命を辿ることになるのか? いつものことながら後編を読むのが怖い作品です。

 その他、今号では『カムヤライド』(久正人)、『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)が印象に残ったところです。

「コミック乱ツインズ」2018年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年6月号 [雑誌]

関連記事
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年3月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年4月号(その二)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その一)
 「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その二)

| | トラックバック (0)

より以前の記事一覧