2018.06.18

「コミック乱ツインズ」7月号(その二)


 「コミック乱ツインズ」誌の今月号、7月号の紹介の後編であります。

『カムヤライド』(久正人)
 スタイリッシュなあらすじページも格好いい本作、今回は出雲編の前編。前回、瀬戸内海に現れた巨大触手型国津神にヤマトタケルが脱がされたりと苦戦の末、かろうじて勝利したモンコとタケル。どうやら水中では全く浮力が生じないなど謎だらけのモンコですが、しかし彼も何故自分がカムヤライドできるのか、そして自分が何者なのか、一年より前の記憶はないと語ります。
(今回の冒頭、意識を失ったモンコの悪夢の形でその過去らしきものが断片的に描かれますが――やはり改造手術が?)

 それはさておき、自分の伯父に当たる出雲の国主・ホムツワケが乱を起こしたと聞き、大和への帰還よりも出雲に急ぐことを選ぶタケル。それはなにも伯父への情などではなく、かつてホムツワケが出雲に追われたように、皇子でも油断できぬ魑魅魍魎の宮中で自分の座を守るための必死の行動なのですが……
 普段は相棒(というかヒロインというか)的立ち位置で明るいタケルの心の陰影を描くように、文字通り陰影を効かせまくったモノトーンの中に浮かび上がるモンコとタケルの姿が強く印象に残ります。

 と、出雲にたどり着いてみれば、やはりと言うべきかそこは土蜘蛛たちが蠢く地。しかしそこで二人を制止して土蜘蛛と戦おうとする男が登場。その名は――イズモタケル! 敵か味方か第二(第三?)のタケル、という心憎いヒキであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 鬼支丹編の後編である今回描かれるのは、前編で処刑された切支丹が変じた鬼を、祈りの力で消滅させたのがきっかけで正体がばれてしまった尼僧――実は金髪碧眼の盲目の少女・華蓮尼が歩む苦難の道であります。

 彼女を棄教させようと、その前で偽装棄教していた村人たちに無惨な拷問を行う尾張藩主。華蓮の悲しみと苦しみを知りながらも、俺は人間は救わない、華蓮も鬼になれば斬ってやると嘯く鬼切丸の少年ですが……
 それでも屈することなき華蓮と、彼女のために死にゆく村人たち。しかしその死が皮肉な形で(藩の側ではむしろ慈悲を与えたつもりなのがまたキツい)辱められた時、巨大な怨念の鬼が出現、少年の出番となるのですが――しかしそこでもまた、少年は華蓮のもたらした奇跡を目にすることになります。

 華蓮の出自も含めて、正直なところ内容的には予想の範囲内であった今回。その辺りは少々勿体なく感じましたが、無意識のうちに華蓮に母を重ねていた少年の心の揺れが描かれる終盤の展開はやはり面白いところです。
 しかしこの『鬼切丸伝』、本誌連載は今号まで。7月より「pixivコミック」にて移籍というのは実に残念であります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 ちゃんと続いていて一安心の本作、三人の過去回も一巡して、今回は通常の(?)エピソードですが――しかしただでは終わらないのが、らしいところであります。

 旅の途中、とある藩で追っ手に追われていた若侍・春之進を救った三人組。悪家老の暴政によって財政が逼迫した藩の窮状を江戸に訴え出ようとする春之進に雇われた三人は、多勢で襲いかかる家老の手の者から逃れるべく戦いを繰り広げるのですが……
 今回も、夜、雨の降りしきる山道という、特殊なシチュエーションで繰り広げられる殺陣が印象的な本作。一歩間違えれば漫画ではなく絵物語になりそうなところを巧みに踏みとどまり、無音の剣戟を展開するのはお見事であります。

 中盤で先の展開が読めてしまうといえばその通りですし、ラストはもう用心棒の仕事から外れているように思えますが、それでも納得してしまうのは、この描写力と、これまで培われてきたキャラクター像があってのことと納得であります。
(リアリストの海坂、人情肌の雷音、理想主義の夏海というのはやはりよいバランスだと、今更ながらに感心)


 その他、今月号では『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』単行本第2巻発売記念として、2Pの特別ショートマンガが掲載されているのが嬉しいところ。
 連載も終わり、寿司屋で静かに酒を酌み交わす島と雨宮の会話の中で、作品内外の雨宮のルーツが語られる番外編を楽しませていただきました。


「コミック乱ツインズ」7月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年7月号 [雑誌]


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2018.06.17

「コミック乱ツインズ」7月号(その一)


 早いもので号数の上ではもう今年も後半に突入した「コミック乱ツインズ7月号」。巻頭カラー&表紙を『鬼役』が飾り、シリーズ連載の『そば屋 幻庵』も久々に登場、小島剛夕の名作復活特別企画も掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介しましょう。

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 江戸で起きる子供たちの神隠しを題材とした「神隠し綺譚」の後編は、全編を通してのアクション編といった印象。人手不足を補うために子供たちを拐かしていた那珂藩に、やはり子供の頃に拐かされ、今はその手先となっていた男・清吉が、江戸で出会った女性・お律とその娘・お鈴のために改心、藩に殴り込みをかけることになります。

 その殴り込みの助っ人を買って出た桃香は、これまでの罪滅ぼしと、止めても聞かない清吉をフォローして、いかにも忍者らしい(?)火薬玉やらをフル装備で大暴れするのですが、しかしこの後、悲劇の連続。子供たちを救い出したはいいものの、清吉が、そして思いも寄らぬ人物までが――という容赦ない展開に驚かされます。
 さらに桃香も、子供たちを人質に取られて藩の追っ手の前にあわやの危機。もちろんそこは豪快な大逆転が待っているのですが――しかしそれにしてもこのような結末になるとは全く予想ができませんでした。

 結末に一抹の救いは残されているものの、これは明確に桃香の失態で、ちょっとどうなのかなあ――という印象は強くあります。


『薄墨主水地獄帖 狂気の夜』(小島剛夕)
 小島剛夕の名作復活特別企画第6弾は、薄墨主水の3回目の登場。この世の地獄をのぞいて歩くと嘯く主水が、今回も奇怪な人間模様に巻き込まれることになります。

 放浪の末に立ち寄ったとある城下町で、春の夜のそぞろ歩きを楽しんでいた主水。しかしそこで美しい女性・幾代と出会ったことがきっかけで、辻斬りに襲われることになります。実は辻斬りの正体はこの藩の若君・東吾、取り巻きとともに夜毎人々を殺めていた相手に刃を向ける主水ですが、家老が割って入ったことでその場は引くことになります。
 その後、宿を借りた寺で幾代と出会う主水。実は自分に横恋慕してきた東吾に夫を謀殺され、以後もつきまとわれ続けていた彼女は、夫の仇を取るためであればいかなる恥も辞さないと主水にその身を任せようとするのですが……

 冒頭の展開を見た時は、眠狂四郎の『悪女仇討』のような物語かと思いきや、手段は選ばぬものの、まずは貞女(といってもその手段には矛盾があるわけですが)であった幾代。作者の筆が浮き彫りにするそんなー彼女の美しさと危うさが印象に残ります。
 しかし本作はそれで終わらず、最後の最後に彼女のもう一つの表情を描くことになります。その表情を何と評すべきか――そこにも主水が求める地獄の一つがあったのかもしれません。

 それにしてもこれまで以上にキメキメの台詞を連発する主水。こういう皮肉めいた表現は本来は好きではありませんが、柴錬原作であったかと一瞬思うほどでありました。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 冒頭に述べたように、今回は『そば屋 
幻庵』も掲載している作者。しかしコミカルなあちらに比べて、こちらはあくまでもシリアスな展開が続きます。

 何者かに人違いで襲われたことを師匠に報告したら油断を説教されたり、白石から将軍家宣の墓所が増上寺となった裏のからくりを探れと無茶ぶりされたり、相変わらずの聡四郎。墓所の造営にかかる金の動きを知ろうと、久々に相模屋を訪れるのですが――はいお待ちかねの紅さんの登場であります。
 ここのところご無沙汰だったのにお冠の紅さん、あえて普通の武士に対するようなよそよそしい丁寧語を使ってくるのが、怒りの度合いと、それと背中合わせのいじらしさを感じさせるのですが――聡四郎の新たな傷を見て一転あんた馬鹿モードになるのもまた可愛らしいところです。

 しかしそれでももちろん戦わねばならない聡四郎、自分の「人違い」の裏に気付いた彼は、今度は玄馬をお供に再び襲撃してきた相手に大決闘。上田イズム溢れる言動を見せる刺客(ビジュアル的には普通のおじさんたちなのがまた哀愁漂います)を迫力の太刀で撃退して――さて敵の正体は、というところで次回に続きます。


 長くなりましたので次回に続きます。


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コミック乱ツインズ 2018年7月号 [雑誌]


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2018.06.04

吉川景都『鬼を飼う』第4巻 鷹名を待つ試練と彼を見守る者


 この世のものならざる奇妙な能力と姿を持つ存在「奇獣」――帝大生・鷹名を中心に、奇獣を巡り展開してきた本作もいよいよ佳境に入ってきました。奇獣に惹かれる者、奇獣を商う者、奇獣を利用せんとする者――様々な人々の思惑が幾重にも絡みあった先に、ついに己の力を知った鷹名は……

 奇獣商・四王天と不思議な少女(実は奇獣)・アリスと出会ったことをきっかけに、これまで次々と奇獣にまつわる事件に親友の司とともに巻き込まれてきた鷹名。
 実は奇獣を強く惹きつける血を持つという、鷹名自身も知らない(封印されていた)秘密を知った四王天は鷹名を奇獣商にするべく画策し、一方、司はその秘密を胸に秘めて親友を見守ることになります。

 一方、東京では奇獣絡みの事件が次々と発生し、四王天や特高の秘密部隊を翻弄するのですが――それらの陰で糸を引いていたのは、奉天に潜み、奇獣の軍事利用を企む陸軍将校・宍戸なる怪人物。
 四王天や鷹名たちにも目を付けた宍戸の真の狙いは何か、そして四王天の目論みの行方は……


 そんな前巻の展開を受けたこの第4巻のメインとなるのは、四王天によって、本人も知らぬ間に奇獣商になるための試験を受けることとなった鷹名を巡る物語であります。

 人知を遙かに超え、時に(いやしばしば)人の命を危険に晒すほどの異能を持つ奇獣。そんな奇獣を商う者が、常人であるはずもありません。
 確かに、四王天をはじめとして、これまで作中に登場した奇獣商とその関係者は、いずれもただ者ではない連中ばかり(今回も妙なキャラが……)。しかしその血を除けばごく普通の青年である鷹名にその任が勤まるのか――?

 それでも四王天の企みは着々と進み、鷹名はいつの間にか最終試験に挑むことになるのですが――そこで思わぬアクシデントが発生、鷹名の運命を大きく変えることになるのであります。

 その一方、大陸では、これまで東京で次々と奇獣事件に巻き込まれ、神経衰弱気味の新聞記者・天久が、一連の事件の正体を探ろうと孤軍奮闘する姿が描かれることになります。
 奉天に暮らす貧しい姉弟と知り合った彼は、その繋がりから奇獣の存在に近づき、奉天の奇獣商の存在を知るのですが――これがまた、妖艶な美女というその外見に似合わぬ危険極まりない妖人。

 彼女こそは宍戸の真意を知り、彼に奇獣を与えてきた存在――その意味ではいきなり当たりを引き当てた天久ですが、しかし凶悪な奇獣を前に危機に陥ることに……


 と、鷹名を中心としつつも、これまで同様様々な視点から展開することになるこの第4巻。そこで描かれるのは危険な奇獣を巡る、これまで以上にシリアスな伝奇的な物語が中心であります。

 しかしその一方で、緊迫した物語の合間にも、どこかほのぼのとした、ある種ユルい雰囲気も漂うのが、また本作らしいところでしょう。
 それはあるいは、日常ものやエッセイ漫画を得意とする作者の作風に依るものかもしれませんが――しかし一見本筋の流れとは水と油に見えるそれは、物語に日常の空気を吹き込むことで、奇獣たちの非日常性をより強めるものとして、効果を上げています。

 それはまた、異形の奇獣が跳梁し、そしてその奇獣に様々な形で囚われた人々が数多く登場する物語の中でも、ごく普通の人間の存在が忘れ去られていないということでもあります。
 そしてその普通の人間の代表が、司であることは言うまでもありません。

 何の特殊な能力もなく、ただ鷹名の友人であったというだけで一連の事件に巻き込まれることとなった司。しかし彼は、ただ鷹名の友人であるというだけで、事件の渦中に飛び込み、奇獣と対峙してきました。
 そんな彼の存在がなければ、とうに鷹名は「向こう側」の者となっていたかもしれませんし、少なくとも本作は、今とはずいぶん違った雰囲気の物語となっていたのではないでしょうか。

 ごく普通の人間がいるということが、鷹名にとって、物語にとって、そして我々にとってどれだけ救いとなるか――鷹名が試練の果てに新たな一歩を踏み出し、物語が佳境に入ったと思われる今、改めて再確認させられたところであります。


『鬼を飼う』第4巻(吉川景都 少年画報社ヤングキングコミックス) Amazon
鬼を飼う 4 (ヤングキングコミックス)


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2018.05.20

「コミック乱ツインズ」2018年6月号


 今月の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙&巻頭カラーが『用心棒稼業』(やまさき拓味)。レギュラー陣に加え、『はんなり半次郎』(叶精作)、『粧 天七捕物控』(樹生ナト)が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 先月に続いて鬼輪こと夏海が主人公の今回は、前後編の後編とも言うべき内容です。
 旅の途中、とある窯元の一家に厄介になった夏海。彼らのもとで生まれて初めて心の安らぎを得た彼は、用心棒稼業を抜けて彼らと暮らすことを選ぶのですが――鬼輪番としての過去が彼を縛ることになります。

 夏海の設定を考えれば(いささか意地の悪いことを言えば)この先どうなるかは二つに一つ――という予想が当たってしまう今回。そういう意味では意外性はありませんが、夏海の血塗られた過去と、悲しみに沈む心を象徴するように、雨の夜(今回もあえて描きにくそうなシチュエーション……)に展開する剣戟が実に素晴らしい。
 駆けつけた坐望と雷音の「用心棒」としての啖呵も実に格好良く印象に残ります。

 それにしても最終ページに「終」とあるのが気になりますが……

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 隠密(トラブルシューター)の裏の顔を持つ漢方医・桃香を主人公とした本作、今回の題材は子供ばかりを狙った人攫い。彼女の顔見知りの母子家庭の娘が、人攫いに遭いながらも何故か戻された一件から、桃香は事件の背後の闇に迫るのですが――その闇があまりにも深く、非道なものなのに仰天します。
 この世界のどこかで起きているある出来事を時代劇に翻案したかのような展開はほとんど類例がなく、驚かされます。

 一方、娘を攫った犯人が人間の心を蘇らせる様を(色っぽいシーンを入れつつ)巧みに描いた上で、ラストに桃香の心意気を見せるのも心憎い。前後編の前編ですが、後編で幸せな結末となることを祈ります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今回から原作第3巻『秋霜の撃』に突入した本作。六代将軍家宣が没し、後ろ盾を失ったことで一気に江戸城内での地位が低下した新井白石と、新たな権力者となった間部越前守の狐と狸の化かし合いが始まります。
 その一方、白石がそんな状態であるだけに自分も微妙な立場となった聡四郎は、人違いで謎の武士たちの襲撃を受けるもこれを撃退。しかし相手の流派は柳生新陰流で……

 と第1回から不穏な空気しかない新展開ですが、聡四郎を完全に喰っているのは、白石のくどいビジュアルと俗物感溢れる暗躍ぶり(キャラのビジュアル化の巧みさは、本当にこの漫画版の収穫だと思います)。
 そんな暑苦しくもジメジメした展開の中で、聡四郎を想って愁いに沈んだり笑ったりと百面相を見せる紅さんはまさに一服の清涼剤であります。

『鬼切丸伝』(楠桂)
 今回はぐっと時代は下って江戸時代前期、尾張での切支丹迫害(おそらくは濃尾崩れ)を描くエピソードの前編。幕府や大名により切支丹が無残に拷問され、処刑されていく中、その怨念から切支丹の鬼が生まれることになります。
 切支丹であれ鬼を滅することができるのは鬼切丸のみ――のはずが、その慈愛と赦しで鬼になりかけた者を救った伴天連と出会った鬼切丸の少年。それから数十年後、再び切支丹の鬼と対峙した少年は、その鬼を滅する盲目の尼僧・華蓮尼と出会うこととなります。

 鬼が生まれる理由もその力も様々であれば、その鬼と対する者も様々であることを描いてきた本作。今回は日本の鬼除けの札も通じない(以前は日本の鬼に切支丹の祈りは通じませんでしたが)弾圧された切支丹の怨念が生んだ鬼が登場しますが、それでも斬ることができるのが鬼切丸の恐ろしさであります。
 しかし今回の中心となるのは、少年と華蓮尼の対話でしょう。己の母もまた尼僧であったことから、その尼僧に複雑な感情を抱く少年に対し、彼の鬼を斬るのみの生をも許すと告げる華蓮ですが……

 しかし鬼から人々を救った尼僧の正体は、金髪碧眼の少女――頭巾で金髪を、目を閉じて碧眼を隠してきた(これはこれで豪快だなあ)彼女は、役人に囚われることに……
 禁忌に産まれたと語る尼僧の過去――は何となく予想がつきますが、さて彼女がどのような運命を辿ることになるのか? いつものことながら後編を読むのが怖い作品です。

 その他、今号では『カムヤライド』(久正人)、『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)が印象に残ったところです。

「コミック乱ツインズ」2018年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年6月号 [雑誌]

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2018.05.13

夏乃あゆみ『暁の闇』第4-5巻 過去と対峙し、乗り越えた先の結末


 その才気で知られながらも、故あって朝廷を追われた悲劇の皇子と、幼い頃の才を失い、皇子と再会することで力を取り戻した陰陽師の姿を描く平安ファンタジーのラスト2巻であります。現世・幽世双方において朝廷に不穏な空気が漂う中、封印された二つの真実がついに明らかにされることに……

 かつて宮中で乱行に及び、一度は流刑に処され、今は洛外で逼塞する惟喬親王。ふとしたことから親王の屋敷を訪れた陰陽師の青年・加茂依亨は、その出会いをきっかけにかつての力の一端を取り戻し、親王の復権を願う人々の一人として動くことを決意します。

 その一環として疫神調伏を行うことになった依亨は、奇怪な双子陰陽師の妨害に遭って術が暴走。親王の力により、辛うじて己を取り戻すことに成功します。
 そして依亨らの奔走もあって、ついに宮中に返り咲くこととなった親王。しかし今上帝を背後から操る左大臣一派は親王を除くために暗躍し、一方、その左大臣に追われて比叡山に上った最延法親王も、親王を支えつつも何ごとかを企む様子であります。

 そんな中、疫神調伏妨害の証拠を掴んだ親王たちに対し、ついに実力行使に出る左大臣一派。さらに法親王も延暦寺の僧兵を動かす混乱の中、宮中から「鏡」が消えるという変事が発生することになります。
 鏡の消失ことは大異変の前触れであることを知り、自分自身の力が暴走することも構わず、鏡を取り戻そうと異界に赴く依亨。そしてついに親王と依亨、二人の封印された過去が明らかになるのですが……


 史実では皇位を継ぐことができず、隠棲のうちにその生涯を終えたという惟喬親王。本作はその親王をモチーフにして(と述べる理由は後述)、その復権を巡る人々の動きを、政治の世界と陰陽道の世界――すなわち此岸と彼岸の双方に軸足を置いて描く物語であります。
 その構造はこの終盤においても変わることなく、そのそれぞれを代表するとも言うべき二人の主人公――親王と依亨は、それぞれの前に立ち塞がる試練と対峙し、そして同時に、自分たちが封印してきた/されてきた過去に向き合うことになります。

 物語冒頭から仄めかされてきた二人の秘められた過去――宮中で忌まわしい乱行に及び、それがために廃太子され、配流という厳しい罰を受けた親王。幼い頃は強大な霊力を持ち、将来を嘱望されていたのが、いつしかその力を全て失ってしまった依亨。
 本作は、共にこうした過去を背負った二人が出会い、支え合い、成長していく物語と言うことができますが――だとすれば、その結末はその過去を乗り越えた先にあるのはむしろ当然でしょう。

 もちろんそれには大きな痛みを伴うことになります。知らなければ苦しむこともなかった過去、知ったとしてももう取り戻せない過去――その過去と向き合わなければならないのですから。
 それでもなお、その痛みを受け入れつつも過去を乗り越え、その先に進む二人の姿を描く結末は、哀しくも清々しいものを感じさせてくれます。


 と、それなりに盛り上がった本作ですが、個人的にどうしても残念な点が二つ。

 一つは、結局左大臣が全ての悪事の源ということで収まってしまったこと――それ自体はさておき、左大臣が親王と対峙するには魅力のない悪役のための悪役であったのがもったいない。
 おかげで終盤は親王側の一方的な勝ち戦的ムードもあり(まさかあのキャラまでも味方になるとは……)、逆転のカタルシスに欠けた点は否めません。

 そしてもう一つは、ラストで親王が○○したことで、完全に歴史が変わってしまったことであります。
 これは物語の流れ的にこれ以外の結末はないことは早い段階で予想できましたが、やっぱり歴史上の人物の名を使うのであれば、もうちょっと――というのは、完全に僕の趣味の問題ではあるかもしれませんが。


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2018.05.11

『いとをかし 板橋しゅうほう奇想時代劇漫画集』 異才の描くバラエティ豊かな時代漫画集


 以前にも似たようなことを申し上げましたが、最近の電子書籍は、書籍の電子化のみならず、単行本未収録の作品がオリジナルの単行本として発売されるようになったのが嬉しいところであります。本書もその一つ――副題通り、板橋しゅうほうの時代漫画を集めた短編集です。

 板橋しゅうほう(現在は「SYUFO」名義で活動)と言えば、早くからアメコミの画風・作風の影響を受けたSF漫画家――という印象が強い作家。
 そのため、恥ずかしながら本書を手にするまで、作者の時代漫画を読んだことがなかったのですが――ここに収録されているのは、いずれも「奇想」の名にふさわしい、五編の時代漫画であります。

 以下、簡単に内容を紹介すれば――

『人斬り雀』(SYUFO侍異聞)
 虫も殺せぬ男と言われながらも、不義密通した新妻の相手をあっさりと斬ってのけた青年武士・田中雀三郎。しかし相手は旗本の長男で幼馴染みの兄、仇討ちに出てきた旗本たちを相手に雀三郎の剣が唸る!

『喰らうは地獄』(SYUFO怪異譚)
 二百人以上の極悪人を素手で殺したという怪僧・赤蓮。殺した者の魂を背負った彼の次の標的は、自分に逆らった相手を一家皆殺しにした殺人鬼・石黒三兄弟だった……

『江伝のうなぎ』(SYUFO怪笑譚)
 十年前に家を出た父を探して江戸に出てきた茂太郎は、ある晩夢の中で父に「壺に鰻を入れるんや」と告げられる。鰻屋でその壺を手に入れた茂太郎は、父の生まれ変わりだという鰻と出会い、その言葉通りに江戸中を巡ってみれば……

『赤鰯(レッド・サーディン)』(SYUFO妖刀譚)
 見かけは赤鰯ながら、その正体は相手の魂を斬り、六道輪廻を断つという妖刀「六道斬」。鳴海敬之進は、対立する一門から辱めを受け、復讐のために妖刀を手にして狂った師と対峙する。

『開けるべからず』(忍びの者異聞)
 居酒屋で「穴があったら入りてえ」とぼやく男・半助。さる武士の屋敷に二十年間入り込んでいた忍びの者だという彼は、ある理由から、山田浅右衛門に挑もうとしていた……


 上記のカッコ内は各作品のタイトルページに付された角書ですが、それに相応しいバラエティに富んだ作品揃いの本書。

 作者の独特の濃い画風は想像以上に時代劇にマッチしていたものの、正直なところアクション描写は時代劇特有のテンポとはちょっと食い合わせがよろしくない……
 という印象はありますが、『人斬り雀』『江伝のうなぎ』のような独特のすっとぼけたユーモアが感じられる作品はなかなか魅力的であります。

 しかし本書で一番の収穫は巻末の『開けるべからず』ではないでしょうか。
 とある武家に忠僕として仕えつつも、その実、武家の害になる任務を強いられてきた忍びが、ついに武士を辞めるという主の最後の名誉を守るために一肌脱いで――という展開も十分ユニークなのですが、凄まじいのが結末の展開。

 徒手で首斬り浅右衛門を相手にすることになった彼が、浅右衛門を圧倒し、主の名誉を守り、そして己の身を処すのにいかなる手段を取ったか――実に時代もの・忍者もの的に見事な内容に納得しつつも、その凄まじさに絶句するほかない、忍者漫画の名品であります。


 作者の少々意外な側面を見ることができる本書、Kindle Unlimitedに収録されていることもあり(というより作者の作品は現在かなりの数がUnlimited化されているのですが)、興味をお持ちの方はぜひご覧いただければと思います。

『いとをかし 板橋しゅうほう奇想時代劇漫画集』(板橋しゅうほう 三栄書房) Amazon
いとをかし 板橋しゅうほう奇想時代劇漫画集

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2018.05.09

『京の縁結び 縁見屋の娘』(漫画版) 小説から漫画へ――縁見屋再誕


 第15回『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞にして時代伝奇小説である『縁見屋の娘』の漫画版(の第1巻)であります。作画を担当するのは『ホムンクルスの娘』『上海白蛇亭奇譚』と昭和初期を舞台とした和風ファンタジーを描いてきた君塚祥――納得の人選であります。

 天明年間の京都を舞台に、タイトルどおり口入れ屋「縁見屋」の娘・お輪を主人公として展開する本作。
 「縁見屋の娘は男子を産まずに26歳で死ぬ」という祟りによって、三代続いて女性が死に、そして自分もいつかは――と恐れを抱くお輪の前に、謎めいた行者・帰燕が現れたことから始まる、奇怪な因縁とその解放を描く物語であります。

 本書には、原作全395ページのうち、160ページ辺りまでと、約四割分が収録されているのですが、基本的な物語展開はほぼ完全に原作のまま。
 お輪の悩みと帰燕との出会い、お輪を愛する幼馴染み・徳次との微妙なすれ違い、曾祖父が残した火伏堂に隠された天狗の秘図面の謎、そして縁見屋の過去にまつわる忌まわしい因縁――こうした物語が描かれていくわけですが、その語り口の流れがなかなか良いのです。

 たとえ同じ物語を描くにしても、小説と漫画は異なる――というのは当たり前ですが、その差を違和感なく埋めるというのは、簡単なようでいて実に難しい。
 特に時代ものにおいては、どうしても説明文が多くなるのは仕方のないことで、しかしそれをそのまま漫画で描くにもいかないわけで――と、こう書いてみれば当然に必要なことではあるのですが、しかしそれをさらりと実現してみせているのには素直に感心いたします。

 そしてそれを支えるのは、本作の「画」の力、特にキャラクターのビジュアルの力はないでしょうか。勝ち気そうな中に揺れる想いを秘めたお輪、ひたすら謎めいたイケメンの帰燕、脳天気ながらお輪の想いは本物とわかる徳次(ただ、髪型だけはどうかなあ)……
 メインの3人を始めとして、本作のキャラクターのビジュアルには、原作読者として違和感がありません。

 原作ではこの先描かれる部分で、お輪の抱く想いにちょっと違和感を感じてしまったのですが、このビジュアルであればそれも納得できる――というのは言いすぎかもしれませんが。

 ちなみに違和感といえば、原作初読の際にはミステリとばかり思い込んでいたために、物語の内容に色々と違和感があったのですが、それを知った上でこうして漫画で追体験してみればそれも問題なし。
 作中に散りばめられた謎が少しずつ明らかになっていく終盤の展開も面白く、まずは良くできた因縁譚と感じられます。


 ただ唯一驚いたのは、どこにも「第1巻」と書かれていないにもかかわらず、物語が思い切り続いている点。
 もっとも掲載サイトでは既に単行本収録分の先のエピソードも公開されており、ぜひとも完結まで続けていただきたいと思います。

 改めて読み返してみれば、実に漫画映えする物語でもあるだけに……

『京の縁結び 縁見屋の娘』(君塚祥&三好昌子 宝島社このマンガがすごい!Comics) Amazon
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2018.05.08

『お江戸ねこぱんち ほおずき編』


 驚いたことに通算でもう19号の『お江戸ねこぱんち』の最新号――「ほおずき編」というのは少々気が早い気もいたしますが、それはさておき今回もなかなか面白い作品揃い。以下、印象に残った作品を紹介します。

『猫と左官職人志願』(北見明子)
 働く女性が主人公の作品が多い本誌の中でも、個人的に一番楽しめたのが、題名どおり左官を目指す少女を主人公とした本作です。
 左官職人だった兄を喪い、代わりに自分がその道を目指すお葉。兄の親方には弟子入りを許されたものの、兄弟子たちの目は厳しく、なかなか認めてもらえずに落ち込む毎日であります。そんな中、ようやく兄弟子に作品を作ってみせろと言われたお葉は……

 という物語は定番ですが、明るさを感じさせる絵柄もあって気持ちよく読むことができる本作。何よりも、本誌に掲載される条件とも言うべき「猫」の存在が、物語にきっちりと絡んでくるのがいいのです。
 お葉の作品の仕掛けも楽しく、猫+女性職人ものとしてよくできた作品でしょう。


『平賀源内の猫』(栗城祥子)
 毎回史実との絡みと一ひねりを加えた物語で楽しませてくれる本作、今回、源内と猫の「えれきてる」、そして文緒が出会うのは、工藤平助の娘・あや子であります(と、ここでニヤリとする方もいるでしょう)。

 仙台藩の江戸常勤藩医という関わりもあって、伊達家の重臣に嫁入りを望まれたあや子。しかし相手の家は家格を鼻にかけた印象で、学問を愛するあや子にとってはどうにも馴染めない相手であります。
 それでも娘のことを思い、縁談を進めようとする平助に対し、相手が嫁入りを望んだ最大の理由が「お石様」のお告げだと知った源内は一計を案じて……

 悩める人に対して、源内がその蘭学の知識で一肌脱ぐ(そしてえれきてると文緒がフォローする)という基本フォーマットも楽しい本作ですが、やはり印象に残るのは、父に禁じられながらも漢学を愛し、学問を究めたいと願うあや子のキャラクターでしょう。
 娘を想いつつも「女性らしさ」という枠をはめてしまう平助と、そんなあや子の「自分らしさ」を認める源内の対比も巧みです。

 そして源内の計らいもあって、学問を続けることを決意したあや子。彼女が後にあの曲亭馬琴をも唸らせる学者になるかと思えば、こちらも笑顔になる結末です。


『猫江戸ものがたり』(山野りんりん)
 本誌の中ではかなり珍しい異世界ものの本作――猫が人間のように暮らすパラレルお江戸を舞台とした一幕であります。
 猫江戸の治安を守る見回り同心・猫野のダンナの一日を描く本作で描かれるのは、浮世絵から抜け出してきたように人間同然の暮らしを送る猫たちの元気な姿。それも単純に人間のパロディではなく、いかにも猫らしい描写になっているのが実に楽しいのです。

 その代表が、後半の舞台となる湯屋。湯屋といっても湯はおまけのようなもので、そこには何も入っていない箱がいくつも置かれていて、猫たちはそこに入って喜んでいるというのが、何とも「らしい」ではないですか。
 ダンナの娘のお侠なキャラも可愛らしく、シリーズ化して欲しい作品です。


『のら赤』(桐村海丸)
 今回ものんべんだらりと暮らす遊び人の赤助を狂言回しにした本作ですが、今回の主役は赤助の友人の女絵師・キヨ。これが粋でカッコいいお姐さんなのですが、感覚が斬新過ぎるのが玉にきず。描いた作品が斬新すぎて師匠をはじめて誰にも理解されず――
 と、そこで赤助の行動がもとで瓢箪から駒、という展開になるのですが、ちょっとトントン拍子にいきすぎの感はあるものの、ちょっと落語めいた明るい味わいは相変わらず魅力的です。


『猫鬼の死にぞこない』(晏芸嘉三)
 任務中に半身大怪我を負い、何者かによって猫の力を与えられた(元)隠密・彪真の活躍を描く本作ですが、今回は伝奇要素なし。隠密時代の仕事が原因で、彪真を付け狙う相手が現れ――と、彼の過去のエピソードが中心となります。

 (悪役が類型的ではあるものの)それはそれでなかなか面白いのですが、しかし本作最大の特徴にして魅力の「変身」なしはやはり残念。このままこの路線になってしまったら――と少々心配にもなります。すっとぼけたオチは何とも愉快なのですが……


 次は10月1日と既に発売日も決まっている本誌。約半年先ではありますが、安定した刊行ペースとなったのはありがたいことです。


『お江戸ねこぱんち ほおずき編』(少年画報社にゃんCOMI廉価版コミック) Amazon
お江戸ねこぱんちほおずき編 (にゃんCOMI廉価版コミック)


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2018.04.21

平谷美樹『江戸城 御掃除之者! 玉を磨く』 役人たちの矜持と意地を見よ!


 今年に入ってからわずか数ヶ月の間に『義経暗殺』『鍬ヶ崎心中』と力作を送り出してきた作者の次なる作品は、江戸城の掃除を担当する御掃除之者たちを描くユーモア時代小説の第3弾。今回もまた、御掃除者たちが思いも寄らぬ厄介事に巻き込まれては奮闘を繰り広げることになります。

 江戸城の掃除を担当する御家人・江戸城御掃除之者を束ねる組頭の一人である山野小左衛門。自分たちの地味な仕事にプライドを持ち、日々掃除に精を出してきた彼と配下たちですが、最近はおかしな事件に巻き込まれてばかりなのが悩みの種であります。
 どの事件も掃除に関わるものではありますが、どう考えても本来業務外の――それでも断るに断れない――仕事を押しつけられ、時に文字通り命懸けで奔走する羽目になったり、時に将軍吉宗と対面したりと、小左衛門たちの毎日はまことに波瀾万丈なのです。。

 そして今回彼らが巻き込まれる最初の案件は、江戸町奉行所――大岡忠相から持ち込まれたもの。生前、勝手方勘定衆として務め、役目を離れた後に大量のゴミを集めた末に亡くなった旗本・小野忠兵衛の屋敷の掃除を依頼されたのです。
 いかに掃除とはいえ、旗本屋敷の掃除は明らかに担当外。とはいえ、今をときめく江戸町奉行から持ち込まれた案件を断るわけにはいかない――と、小左衛門たちは芥屋敷の片付けに駆り出されるのでした。

 しかし奉行所からの依頼が、ただの掃除であるはずがありません。忠兵衛が役を離れた後も勘定衆時代の上役が彼の面倒を見ていたこと、禄に見合わぬ茶道楽に耽っていたことから、小左衛門たちは忠兵衛がある秘密を隠していたのではないかと考えるのですが……

 そんな第一話「小野忠兵衛様御屋敷御掃除の事」は、何ともタイムリーに感じられるエピソード。忠兵衛は上役の秘密をどこに隠したのか? あるいはそんな秘密などなく、忠兵衛は単に曖昧になっただけなのか? 次から次へと変わる状況に、小左衛門らは頭を悩ますことになります。
 そのミステリとしての面白さ、そして複雑な状況に頭を悩ます小左衛門を支える配下たちの暖かさと、見所は様々ですが、しかし何よりも印象に残るのは、全てが明かされた後に小左衛門が忠相にぶつける言葉でしょう。

 自分たち役人だって人間だ、勝手に上の意志を忖度させられた責任まで押しつけられて、そうそう黙ってられるものか!
 ……とまでは言わないまでも、そんな想いが込められた言葉は、我々現代の勤め人にとって、いやこの社会に生きる者にとって、何とも痛快に感じられるのであります。


 そして前後編的性格の、残る二話――「戸山御屋敷御掃除の事」「寛永寺双子堂御掃除合戦の事」も実に楽しいエピソードです。
 前者では小左衛門たちが戸山の尾張藩下屋敷に掃除指南に出向き、後者では江戸城の掃除担当の座を賭けて民間の相似業者と掃除勝負に挑むのですが――しかしその双方の背後に潜むのは尾張徳川家の思惑なのです。

 これまで管轄外の仕事ばかり押しつけられ、何とか解決してきた小左衛門たちを、こともあろうに尾張家は吉宗直属の凄腕隠密集団と誤認。その化けの皮を剥がし、恥をかかせんと尾張の隠密・御土居下組を用いて小左衛門たちを狙ってきたのであります。
 もちろんこれは勘違い以外の何者でもないのですが、勝手に疑心暗鬼に陥った尾張家は、小左衛門たちの一挙手一投足に警戒し、驚かされる羽目に……

 いやはや、ごくごく普通の人間が大物と誤解されて、周囲に振り回されたり振り回したり――というのはコメディのパターンの一つですが、それが本作ではエスカレートした末に、普通の掃除人vs忍者の攻防戦にまで展開してしまうのが実に楽しい。
 しかもそれだけに終わらずに、行政のアウトソーシングという問題を扱ったり(そしてそれに対する吉宗の回答も素晴らしい)、本シリーズの背骨ともいうべき、小左衛門の二人の息子を巡る面倒な状況が絡んできたりと、一ひねりも二ひねりもある展開を、最後まで楽しませていただきました。

 特に後者は、ようやく長男が心を開いて御掃除者見習いとなった一方で、次男の方は相変わらず父の仕事を嫌って反抗期、兄弟同士も微妙な空気に――と何とも身につまされる人も多そうな展開。

 それが今回も動きがあるのですが――いやはや、雨降って地固まるとはなかなかいかないものです。
 果たしてこの先、小左衛門たちを如何なる厄介事が待ち受けているのか。そして二人の子供との関係は――小左衛門には申し訳ありませんが、彼の奮闘ぶりが楽しくて仕方ないシリーズであります。


『江戸城 御掃除之者! 玉を磨く』(平谷美樹 角川文庫) Amazon
江戸城 御掃除之者! 玉を磨く (角川文庫)


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2018.04.19

「コミック乱ツインズ」2018年5月号(その二)


 今月の「コミック乱ツインズ」誌の紹介のその二であります。

『薄墨主水地獄帖』(小島剛夕)
 「地獄の入り口を探し求める男」薄墨主水が諸国で出会う事件を描く連作シリーズ、今回は第3話「無明逆手斬り」を収録。

 とある港町に夜更けに辿り着いた主水が、早速町の豪商・唐津屋のもとに忍び込んだ盗賊・七助と出会い、見逃してやったと思えば、無頼たちにあわや落花狼藉に遭わされかけていた娘・富由を救うために立ち回りを演じて、と冒頭からスピーディーな展開の今回。
 唐津屋の客人となっている父を訪ねて来たものの追い返され、襲われることとなった富由のため、主水の命で再度忍び込んだ七助がそこで見たものは……

 タイトルの「無明」とは、上で述べた富由を救った際、相手を斬ったものの目潰しを受けて一時的に失明した主水を指したもの。その主水が、襲い来る唐津屋の刺客に対して、敢えて不利を晒し、逆手抜刀術で挑む場面が本作のクライマックスとなっています。
 が、悪役の陰謀が妙に大仕掛けすぎること、何よりも非情の浪人である(ように見える)主水が、口では色々言いつつも盗賊を子分にしたり薄幸の娘のために一肌脱ぐというのは、ちょっと普通の時代劇ヒーローになってしまったかな――という印象があるのが勿体ないところではあります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 これまでしばらく戦国時代を舞台としてきた本作ですが、今回は一気に時代は遡り、鬼切丸の少年が生まれてさほど経っていない平安時代を舞台としたエピソード。題材となるのは、かの絶世の美女の末路を題材とした卒塔婆小町であります。

 かつて絶世の美女として知られた小野小町。数多の貴族から想いを寄せられながらも決して靡くことのなかった小町は、その一人である深草少将に百夜通ってくることができれば心に従うと語るも、彼はその百夜目に彼女のもとに向かう途中、息絶えてしまうことに。
 無念の少将の怨念は小町を老いても死ねぬ体に変え、やがて彼女は仏僧の説法も効かぬ鬼女と化すことに……

 と、「卒塔婆小町」と各地の鬼婆伝説をミックスしたかのような内容の今回。妙にその両者がしっくりとはまり、違和感がないのも面白いのですが、鬼小町の真実が語られるクライマックスの一捻りもいい。
 本作の一つの見どころは、鬼と人間の複雑な有り様に触れた少年が最後に残す言葉とその表情だと感じますが、今回は人の色恋沙汰に踏み込んでしまった彼のやってられるか感が溢れていて、ちょっとイイ話ながら微笑ましい印象もある、不思議な余韻が残ります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 老年・壮年・青年の三人の浪人が、用心棒稼業を続けながら、それぞれの目的を果たすため諸国を放浪する姿を描く本作。これまで過去2回では「終活」こと雷音大作、「仇討」こと海坂坐望の過去を踏まえたエピソードが描かれましたが、今回はある意味最も気になる男「鬼輪」の主役回となります。
 かつて御公儀探索方鬼輪番の一人でありながら、嫌気がさしてその役目を捨て、気ままな用心棒旅を送っている青年、「鬼輪」こと夏海。スリにあった角兵衛獅子の少女のために、もらったばかりの用心棒代を全て渡してしまうほどのお人好しの彼ですが、しかし鬼輪番たちは「鬼」たることを辞めた彼を見逃すことなく、海上を行く船の上で夏海と大作・坐望に襲いかかることに……

 作者のデビュー作である小池一夫原作の『鬼輪番』を連想させる(というかそのまま)のワードの登場で大いに気になっていた「鬼輪」が、やはり鬼輪番、それもいわゆる抜け忍であったことが明かされた今回。その名前は夏海と、作者単独クレジットの『鬼輪番NEO』の主人公と同じなのもグッとくるところであります(もっともあちらとは出生も舞台となる時代も異なる様子)。
 そのためと言うべきか、お話的にはラストの一捻りも含め、いわゆる抜け忍もののパターンを踏まえた内容ではありますが、暗い過去に似合わぬ夏海の明るいキャラクターと、二人の仲間との絆が印象に残ります。

 そして本作の最大の見どころであるクライマックスの大立ち回りの描写ですが、今回は鬼輪番たちとの海中での死闘を、1ページ2コマを4ページ連続するという手法で描いてみせるのが素晴らしい。海中ゆえ戦いの様子がよく見えないという、一歩間違えれば漫画としては致命的になりかねない手法が、かえって戦いの厳しさと激しい動きを感じさせるのにはただ唸るばかりであります。


 次号はその『用心棒稼業』が巻頭カラー。カラーでどのような画を見せてくれるのか、今から楽しみであります。


「コミック乱ツインズ」2018年5月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年5月号 [雑誌]


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