2018.01.21

「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)

 今年も充実のスタートの『コミック乱ツインズ』誌、2月号の紹介の続きであります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 いつ果てるとも知れない吉原からの刺客との戦いに苦戦する聡四郎。同門の弟弟子である俊英・玄馬を家士とした聡四郎ですが、はじめての人斬りに玄馬は目からハイライトがなくなって……
 という上田作品ではお馴染みの展開ですが、こういう時体育会系の聡四郎は役に立たない。では誰が――といえば当然この人! というわけで紅さんがその煽りスキルをフル活用。煽りの中に聡四郎への惚気を交えるという高等テクニックで玄馬の使命感を奮い立たせ、見事復活させることになります。

 そして白石からの催促に決戦を決意した二人は、師・入江無手斎に最後の稽古をつけてもらうことに――というわけで後半は無手斎無双。紅と無手斎、さらに玄馬と、聡四郎以外のキャラの活躍も増えてきたのが嬉しいところであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 犬神娘の悲恋を描く物語の後編――一族を失い、ようやく愛する人との平穏な暮らしを手に入れた犬神使いの少女・なつ。しかし彼女の夫となった元一領具足の甚八は、新領主である山内一豊の卑劣なだまし討ちにより、仲間共々命を落とすことになります。怒りと怨念に燃えるなつの犬神は鬼と化して……

 というわけで前編を読んだ時の不吉な予感は半分当たり半分外れて、鬼と化したのはなつ自身ではなく犬神の方。しかし鬼殺すマンにとっては見過ごせる事態ではなく、久々になつの前に現れた鬼切丸の少年は、彼女に刃を向けることとなります。
 しかし人間への不信と怨念に燃えるなつに対して、誰も恨むことなく命を擲った自分の母の話をする少年はちょっと悪手。予想通り、火に油を注ぐことになるのですが――しかし母への想いが、人間に怨みは向けないという少年の行動原理となっているのは面白いところです。

 なにはともあれ、最悪の事態は避けられたものの、かつて愛しあった相手に対しても、犬神使いとしての使命を果たさざるを得なかったなつを何と評すべきか。しかしそうすることこそが、相手が愛してくれた自分だと、しっかりと二本の足で立つなつの姿は、哀しくも一つの強さを感じさせます。
 とはいえ、ラストの山内一豊の妻の言葉のおかげで、「まこと女子は業が深い」という少年の言葉でオチとなってしまうのは、正直なところちょっと残念ではあります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 年齢も境遇もバラバラながら、西へ東へ放浪を続ける用心棒稼業という点のみ共通する三人の男を描く新連載の第2回。
 終活、仇討、鬼輪(いつの間にかこれが渾名に)とそれぞれを呼び合う三人のうち、今回は仇討――海境坐望の主役回となります。

 三人分の宿代のための用心棒仕事に急ぐ坐望が、その途中で出会った、これから仇討ちの決闘に向かうという兄弟。まだ幼いその姿にかつての兄と自分の姿を見た彼は、一度は見過ごしながらも、とって返して助太刀を買ってでることに……
 と、物語的には定番の内容ながら、絵の力で大いに読まされてしまう本作。坐望が、自分の稼業を擲ってまで兄弟のもとに駆けつけるまでの心の動きの描写もさることながら、何よりも、吹雪の中での決闘シーンが10ページに渡ってほとんど無音(擬音なし)で描かれるのが素晴らしいのであります。

 それにしても海境坐望という名前は原典がありそうですが――わからない自分の浅学ぶりがお恥ずかしい。


 その他、『エンジニール』は、ドイツ出張中でほとんど登場しない島の代わりに、その子・秀雄が主役となるエピソード。当時の都電の弱点を解消するための実験が、後の彼の偉大な業績に繋がるという展開は、面白くはありますが、さすがに逆算めいたものになっているのは残念。
 また、『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)は、芦名家の跡継ぎを巡る各勢力の思惑の描写がメインで、合戦続きだった最近に比べれば動きは少ない回ですが、兄への複雑な想いを覗かせる伊達小次郎の描写はさすがであります。(夫を亡くした悲しみからの義姫の復活方法もさすが)


 次号は久々に『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)が復活。今号の新連載のようにすっ飛ばす一方で、人気小説の漫画化作品も着実に掲載するのが、本誌の強みだと今更ながらに感じます。


『コミック乱ツインズ』2018年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年2月号 [雑誌]


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2018.01.20

「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)

 今年最初の『コミック乱ツインズ』は、連載再開の『鬼役』が表紙ですが、なんと言っても注目は巻頭カラーで新連載の『カムヤライド』。この作品をはじめとして今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介していきましょう。

『カムヤライド』(久正人)
 というわけで最注目の新連載の本作、独特のビジュアルとアイディアで熱狂的なファンを持つ作者は、これがもちろん本誌初登場ですが、物語の舞台も、これまた本誌初であろう古墳時代。そして主人公は鎧装ヒーローという、実際にその目で見てみなければ信じられない作品です。

 200年前の天孫降臨(という名の巨大隕石落下?)によって、九州を離れたヤマト族が、列島の中心に強大なクニを樹立した畿内を中心とする国家を樹立した4世紀。しかし各地ではヤマトへの反乱が相次ぎ、ヤマトの皇子・オウスは、九州を騒がす熊襲の王・カワカミタケルの討伐に向かうことになります。

 しかしオウスの前に現れたタケルは、巨大な蜘蛛が入り交じったような異形の怪物。その恐るべき力にオウスは配下を皆殺しにされ、追い詰められることになります。
 と、そこに現れたのは、オウスが旅の途中で出会った、道ばたで埴輪なる人形を売っていた奇妙な男・モンコ――そしてモンコは、鎧をまとった戦士・神逐人(カムヤライド)の姿に変身して……!

 というわけで、古代を舞台とした変身ヒーローアクションとも言うべき本作。最近はスーパー戦隊ものにデザイナーとして参加しているから、というわけではないと思いますが、外連味のたっぷり効いた台詞回しとアクションには、濃厚な特撮風味が漂います。

 かつて封印されたものの今また眠りから覚めた異形の国津神、そしてそれを封印する者・神逐人という設定も面白いのですが、しかしどこかで見たようなクマめいた外観の国津神、オウスはいきなり緊縛触手責め、そして、モンコの「芸術(わざすべ)は爆発だ(はぜたちぬ)!!」などという怪台詞ありと、第1話から飛ばしっぱなし。
 それでいて「俺の立つここが境界線だ!」「ここより人の世 神様立ち入り禁止だ」という決め台詞(?)から繰り出す封印キックは、ギミックも含めて実に格好良く、まずは快調な滑り出しであります。

 本誌の読者層とマッチするかはさておき、個人的には大歓迎の作品であります。


『薄墨主水地獄帖 獣の館)(小島剛夕)
 今号も登場の小島剛夕の名作復刻特別企画は、作者が昭和44年から46年にかけて発表した、地獄から来た男と嘯く謎の素浪人・薄墨主水を主人公とする連作シリーズの一編です。

 主水が訪れた城下町で跳梁する婦女暴行殺人鬼。その怪人と剣を交えた主水は、残された着物の切れ端を手がかりに、ある名家を訪ねることになります。そこに暮らすのは気弱そうな青年と、彼を溺愛する美しい母、そして二人にかしずく青年の妻。屋敷に泊まった主水は、そこで三人の異常な関係を目の当たりにするのですが……

 どことなく柴練ヒーローを思わせる着流し総髪のニヒルな浪人の主水ですが、ユニークなのは、彼が白面の美形などではなく、むしろ悪相の不気味な男であること。
 そんな彼だからこそ、本作で描かれる奇怪な人間関係を断ずるに相応しい――と感じさせる一方で、彼の、そして読者の予想を遙かに上回る異常な精神の存在を描く結末に驚かされるのです。

 ちなみに本作、当然のような顔をして主水が登場するのですが、実はシリーズ第1話とのことで、こちらにも驚かされました。


『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 公儀の隠密仕事を請け負う美人姉妹・桃香と桜紅の活躍を描く物語の第二話です。
 前回、旗本の長男・佑馬と花魁・黄瀬川の恋路を助けるため、二人の間を裂くという依頼を無視して黄瀬川を助けた桃香。これで一件落着かと思いきや、まだやることがあるという彼女の真意は……

 というわけで今回描かれるのは、佑馬サイドの物語対面を重んじる父によって座敷牢に入れられた佑馬の元に忍んだ桃香が、彼に対して与えたモノとは……という展開は予定調和的ではありますが、自分で手を下せば簡単なものを、敢えて回り道することで男の真意を試すというのは、なるほど女性主人公ならではの視点というべきでしょうか。。

 相変わらず主人公の公儀隠密としての設定は謎ですが、魅力的な物語ではあります。


 残りの作品はまた明日。


『コミック乱ツインズ』2018年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年2月号 [雑誌]


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2018.01.17

都戸利津『嘘解きレトリック』第3-5巻 人の中の嘘と本当を受け止める少女の成長

 昭和初期を舞台に、人の嘘を聞き分ける能力を持つ少女・鹿乃子と貧乏探偵・左右馬のコンビが様々な事件の中の嘘を解いていく連作シリーズの第3巻から第5巻の紹介であります。左右馬とともに様々な人々と出会う中、鹿乃子にも変化が……

 人の言葉の中の嘘を聞き分ける力故に、周囲から嫌悪の目に晒されてきた鹿乃子。両親に迷惑をかけまいと九十九夜町に出てきた彼女が出会ったのは、貧乏だが驚くべき洞察力を持つ青年・祝左右馬でした。
 成り行きから一緒に事件を解決した鹿乃子は、自分の能力を知り、そしてそれを自然に受け容れてくれた左右馬の助手として探偵事務所に住み込むことになるのでした。

 というわけで、鹿乃子が左右馬を助けて難事件を次々と解決していく姿を描く本作――と言いたいところですが、二人が真面目に事件に挑むエピソードが少ないのが、むしろちょっと楽しい。

 何しろ左右馬は貧乏のくせに大の怠け者で、その月の家賃さえ払えれば後は働きたくないという男。そのため、偶に来た依頼にも(家賃を払った後は)露骨にイヤな顔をするという困った人物なのであります。
 それゆえ、二人が巻き込まれる事件も、いきおい「日常の謎」的なものが多くなるのですが――しかしそれが本作の緩やかで温かいムードとよく似合います。


 が、そんな二人が珍しく大事件に挑むことになるのが、第3巻に収録された長編「人形殺人事件」であります。

 両親を亡くし、人里離れた屋敷で、自分の成長に合わせて作られた人形たちと暮らす少女。その屋敷の女中が崖から落ちて死んだのですが――彼女は死の直前、人形を殺してしまったと怯えていたのでした。
 家賃が払えず夜逃げの途中、左右馬の親友の姉で雑誌記者の雅と出くわしたことから、彼女の助手として屋敷を訪れた二人は、そこで事件の真相を追うことに……

 と、人里離れた屋敷・奇怪な風習・謎の美少女と、ザ・探偵小説的なこのエピソード。
 正直なところ事件自体はかなり豪腕な真相なのですが、それを嘘を見抜くはずの鹿乃子の能力が逆にミスリードするという展開が実に面白いのです(そして左右馬が気付く真相の伏線がまたフェアなのが素晴らしい)。

 そして何よりも、事件を解決した後に明かされる真相を生み出した巨大な「嘘」と、そこから救済の姿が、実に本作らしい清々しさなのであります。(特にラスト1ページに描かれた嘘からの解放の美しさ!)


 そして続く第4巻・第5巻は日常の謎を描く短編エピソードが主体で、コミカルさとハートウォーミングさのブレンドも絶妙な、キャラクターものとしても楽しいお話揃い。
 その一方で、孤島での殺人事件や、老婦人の生き別れの孫探しといった、比較的ストレートなミステリもキッチリ用意されているのも心憎いところであります。

 しかし、そんなバラエティに富んだ物語に共通するのは、人の心の中の嘘と本当の存在――そしてそれを受け止め、人を信じることの意味を鹿乃子が学んでいく姿であります。

 嘘を見抜く能力があるということは、本当を知ることができるのイコールではありません。そしてその能力があるからといって、相手を信じられるわけでもありません。
 それは事件に対する鹿乃子の能力の位置づけにも当てはまるものですが――同時に事件に挑む中で、そのことを知り、向き合うことによって鹿乃子が少しずつ成長していく姿が、本作の最大の魅力であると感じます。

 そしてそんな鹿乃子の成長譚の集大成が、第5巻に収録された、彼女の母との再会のエピソードであります。

 冒頭に述べたように、両親のためにも家を出た鹿乃子ですが、それは彼女が親を捨てたわけでも、その逆でもありません。
 むしろ互いを思うが故の行動だったのですが――しかしもしその想いが嘘であったら、それを知ってしまったらという悩みが、両者の間に、微妙な距離を開けていたのです。

 しかしこのエピソードにおいて、鹿乃子が、その母親が知ったものは――それを巧みに導く左右馬の存在もまた実にいい――ここで鹿乃子の物語は一区切りと言ってよいのではないかとも思います。


 その一方、第5巻のラストでは、鹿乃子の能力に気付いているらしい謎の美青年「史郎」が登場。果たして彼の正体は――と、一つの大きな物語としても、この先が気になるところです。


『嘘解きレトリック』第3-5巻(都戸利津 白泉社花とゆめCOMICS) 第3巻 Amazon/ 第4巻 Amazon/ 第5巻 Amazon
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 都戸利津『嘘解きレトリック』第1-2巻 嘘を知ること、人の内面を知ること

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2018.01.11

都戸利津『嘘解きレトリック』第1-2巻 嘘を知ること、人の内面を知ること

 先日このブログでご紹介した『少女マンガ歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』で知ることができた作品――昭和初年を舞台に、他人の嘘を聞き分ける能力を持った少女と、頭は極めて切れるが貧乏な探偵のコンビが様々な事件に挑む、人情味の強いミステリであります。

 幼い頃から、他人が嘘をついた時にその声が固くぶれて聞こえるという不思議な能力を持ち、そのために周囲から忌避されてきた少女・浦部鹿乃子。他者が自分に向ける嫌悪の視線と、それによって母親が傷つくことに耐えきれなかった彼女は、生まれ故郷を出て九十九夜町に出て来るのでした。
 しかし職も行く宛もなく、行き倒れてしまった彼女を助けたのは、町で探偵事務所を開く貧乏探偵の祝左右馬。彼の行きつけの和食屋に連れて行かれた鹿乃子は、成り行きから、店の子供の行方不明事件を左右馬とともに追うことになって……

 というエピソードから始まる本作ですが、その最大の特徴が、他人の嘘を聞き分けることができる鹿乃子の能力の存在であることは言うまでもありません。
(ちなみに彼女がこの能力を発揮する時、その嘘の言葉のフキダシの色に、斑になったようなエフェクトがかかるという漫画ならではの描写となっているのがまず楽しい)

 事件捜査の上で、誰が嘘をついているかを聞き分けることができるというのは、もちろん大きな武器であることは間違いありません。しかしそれは同時に、(主に作品の構造的な点で)一歩間違えれば諸刃の剣となりかねないものでもあります。
 何故ならば、まさしく直感的に相手の嘘を見抜くことができるのであれば、そこに推理の余地はなくなってしまうのですから。

 しかしもちろん、本作にはそこに大きな工夫があります。これは第2話で左右馬によって明確に示されるのですが、この能力は隠れた真実がわかるのではなく、発言者の嘘の意識がわかる――すなわち、思い込みや勘違いでも、相手が嘘だと思っていないことは嘘とわからない――ものに過ぎないのであります。
 つまりこの力は謎を解く上で大きなヒントになることはもちろんですが、しかしそれには大きな制限と、解釈の余地があるのです。そこに本来の意味での名探偵である左右馬の活躍の余地があり、さらに左右馬と鹿乃子がコンビを組む意義があるのです。

 そしてそれ以上に、この制限には大きな意味があります。鹿乃子が嘘を聞き分けることができるということは、決してそれ以上でもそれ以下でもなく――彼女はある意味表層に出ている部分のみを感知しているだけであり、その内面、言い換えれば相手がなぜ嘘をついているのかまではわからないのです。
 そしてまた、その嘘が相手にとって、そして周囲の人間にとってどんな意味を持つかも……


 実に本作でミステリとして側面と並んで大きく描かれるのは、こうした能力を持ったことから他人以上にナイーブな心を抱えることとなった鹿乃子の成長物語であります。

 人が嘘をつくこととそれを知ることは、言い換えれば他者の心に触れ、そして自分の心の内面と向き合うことであります。
 誰かの嘘を暴くことは、自分や人の心身を守ることに繋がることが多いのはもちろんですが――しかしそれは必ずしも正しい行為となるわけではありません。幼い頃の彼女がそうしてしまったように、嘘を暴くことが誰かを傷つけることも少なくないのですから。

 そんな嘘と、そしてそれを知ってしまう自分自身とどう向き合うか――探偵という隠された物事を暴き、それと対峙する役割は、その営為と極めて似たものであり、彼女が左右馬の探偵助手を務めることは、同時に彼女がそれを身につける道筋にほかならないのです。
 そしてそれが本作がミステリである意味の一つなのでしょう。

 そしてそんな本作をより感動的なものとしているのは、そんな鹿乃子を信じ、見守り、導く左右馬の存在にあることは間違いありません。

 貧乏でセコく、金に汚い左右馬でありますが、彼は深い洞察力を持つ有能な探偵であり――そして何よりも、人間として非常に温かい心を持つ人物です。
 そんな彼の存在が、悩める鹿乃子を優しく受け止める姿にはこちらまで嬉しくなってしまうのですが――それが人間の数々の嘘を描きつつも、本作の読後感を極めて爽快で暖かく、感動的なものとしているのであります。

 実は私が現時点で読んでいるのは単行本が第9巻まで出ているうちの第2巻まで。ほんの序盤の段階でこのように結論めいたことを申し上げるのは恐縮ですが――この印象に嘘はないと、これは自身を持って言うことができるのです。


『嘘解きレトリック』第1-2巻(都戸利津 白泉社花とゆめCOMICS) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
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2018.01.07

横山光輝『伊賀の影丸 由比正雪の巻』 質量ともにベストエピソード!?

 『伊賀の影丸』全エピソード紹介、第二番は「由比正雪の巻」――実は生き延きていた由比正雪を追って、影丸たち公儀隠密と正雪を守る忍者たちが死闘を繰り広げる、シリーズ最長にして、個人的には最高傑作と考えているエピソードであります。

 由比正雪といえば、言うまでもなく浪人たちを率いて幕府転覆を目論んだ、いわゆる慶安の変の首謀者。史実では事前に企てが露見、事破れて自害したのですが――しかしこの物語は、その正雪の死から始まります。
 自害したかに見えたものが、実は替え玉であった正雪。これを知った松平伊豆守は、五代目半蔵に対し、秘密裏に正雪を抹殺するよう命じるのですが――しかし最初に派遣された公儀隠密たちは、正雪を守る陰流忍者たちによって瞬く間に全滅させられてしまいます。

 これに対し、第二波として派遣されることになった影丸たち六人の精鋭。大坂で再起せんとする正雪を追う影丸たちと守る陰流忍者たち――双方は次々と犠牲を出しつつ、東海道で死闘を繰り広げていくことになります。
 そんな中、若葉城を巡る戦いで影丸に敗れた不死身の忍者・阿魔野邪鬼が出現、影丸を狙う彼の登場により、事態はより一層混迷の度合いを深めることに……


 というわけで公儀隠密vs陰流忍者vs阿魔野邪鬼の三つ巴の戦いを描くこのエピソードですが、最大の特徴は、慶安の変という史実を背景としている点であります。

 各エピソードにおいて、基本的に公儀隠密と各地で陰謀を企む忍者との戦いが描かれる本作ですが、その大半は、「この頃の江戸時代」を背景としてはいるものの、史実と結びつくことはほとんどないのが事実。
 それがこのエピソードにおいては、慶安の変を題材とすることで、物語に一定の現実味と緊迫度を与える効果を上げているのです。それでいて変の後を舞台とすることで、自在に物語を展開することを可能としているのも、見事というべきでしょう。

 そしてここで展開していくトーナメントバトルがまた素晴らしい。「若葉城の巻」が、敵地への潜入を巡る攻防戦だったのに対し、今回は次々と場所を変え、逃げる敵を追うという一種の道中もの。
 これが物語に独特のスピード感を与えることに成功しているだけでなく、戦いの場も、街道あり山中あり森林あり雪山ありと様々、バトルのシチュエーションもそれによって豊富なものとなっているのです。

 そして登場する敵味方のゲスト忍者も、いずれも「若葉城の巻」以上にキャラクター的にもビジュアル的にも個性派揃い。
 特に味方の公儀隠密は、単なるやられ役ではなく、明確に一人一芸の、影丸と並ぶ戦力として描かれており――つまりは敵と味方の戦いのバリエーションが、それだけ豊富になっているわけであります。

 特に公儀隠密の中でも印象に強く残るのが、前髪立ちの大振袖、盲目で独楽使いの美少年という、属性盛りまくりの左近丸。
 得意技が「蜘蛛糸渡り」という、縄術で相手の動きを封じ、その縄の上に刃付きの独楽を走らせて相手を倒すというある種嗜虐的な忍法なのも相まって、インパクト大なので。

 そしてそんな中に、前回あれだけ影丸を苦しめた阿魔野邪鬼がワイルドカードとして乱入し、散々戦いを引っ掻き回してくれるのですから、面白くならないわけがないのです。


 しかし興味深いのは、今回の敵である陰流忍者が、比較的(忍者漫画としては)オーソドックスな忍法の使い手であることです。
 陰流忍者は、その1/3以上が幻術使いというのが一つの特徴かと思いますが、ここに表れているように、彼らの中には、特異な肉体を武器とする者はおりません。「若葉城の巻」の甲賀七人衆の大半が、その特異な肉体を武器としていたことを思えば、その違いは明らかでしょう。

 そして以前触れたように、その「若葉城の巻」のベースとなったのが山田風太郎の『甲賀忍法帖』であったことを思えば、この敵の能力の変化は、ここで早くも本作が山風忍法帖からの影響を脱して独自の路線を歩み始めた、とも言えるのではないでしょうか。
(もっともそれは、忍者ものとして先祖返りとも言えるのかもしれませんが……)

 そしてそれは、ラストに影丸の前に現れる最大の敵にも表れているように感じられます。この人物、戦闘力でも影丸と互角ながら、その最大の武器は、肉体でも技術でもなく、ある意味究極の忍法なのですから。


 こうした様々な点において独自性を持ち、そして『伊賀の影丸』という物語を特徴づけたこの「由比正雪の巻」。本作の最高傑作と、私が考える所以であります。


『原作愛蔵版 伊賀の影丸』第2巻(横山光輝 講談社KCデラックス) Amazon
原作愛蔵版 伊賀の影丸 第2巻 由比正雪 (2) (KCデラックス)

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2017.12.30

このブログが選ぶ2017年ベストランキング(文庫書き下ろし編)

 今年は週刊朝日のランキングに参加させていただきましたが、やはり個人としてもやっておきたい……ということで、2017年のベストランキングであります。2016年10月から2017年9月末発刊の作品について、文庫書き下ろしと単行本それぞれについて、6作ずつ挙げていくところ、まずは文庫編であります。

 これは今年に限ったことではありませんが、普段大いに楽しませていただいているにもかかわらず、いざベストを、となるとなかなか悩ましいのが文庫書き下ろし時代小説。
 大いに悩んだ末に、今年のランキングはこのような形となりました。

1位『御広敷用人大奥記録』シリーズ(上田秀人 光文社文庫)
2位『義経号、北溟を疾る』(辻真先 徳間文庫)
3位『鉄の王 流星の小柄』(平谷美樹 徳間文庫)
4位『宿場鬼』シリーズ(菊地秀行 角川文庫)
5位『刑事と怪物 ヴィクトリア朝エンブリオ』(佐野しなの メディアワークス文庫)
6位『妖草師 無間如来』(武内涼 徳間文庫)

 第1位は、既に大御所の風格もある作者の、今年完結したシリーズを。水城聡四郎ものの第2シリーズである本作は、正直に申し上げて中盤は少々展開がスローダウンした感はあったものの、今年発売されたラスト2巻の盛り上がりは、さすがは、と言うべきものがありました。
 特に最終巻『覚悟の紅』の余韻の残るラストは強く印象に残ります。

 そして第2位は、非シリーズものではダントツに面白かった作品。明治の北海道を舞台に、天皇の行幸列車を巡る暗闘を描いた本作は、設定やストーリーはもちろんのこと、主人公の斎藤一をはじめとするキャラクターの魅力が強く印象に残りました。
 特にヒロインの一人である狼に育てられたアイヌの少女など、キャラクター部門のランキングがあればトップにしたいほど。さすがはリビングレジェンド・辻真先であります。

 第3位は、4社合同企画をはじめ、今年も個性的な作品を次々と送り出してきた作者の、最も伝奇性の強い作品。「鉄」をキーワードに、歴史に埋もれた者たちが繰り広げる活躍には胸躍らされました。物語の謎の多くは明らかになっていないこともあり、続編を期待しているところです。
 また第4位は、あの菊地秀行が文庫書き下ろし時代小説を!? と驚かされたものの、しかし蓋を開けてみれば作者の作品以外のなにものでもない佳品。霧深い宿場町に暮らす人々の姿と、記憶も名もない超人剣士の死闘が交錯する姿は、見事に作者流の、異形の人情時代小説として成立していると唸らされました。

 そして第5位はライト文芸、そして英国ものと変化球ですが、非常に完成度の高かった一作。
 狂気の医師の手術によって生み出された異能者「スナーク」を取り締まる熱血青年刑事と、斜に構えた中年スナークが怪事件に挑む連作ですが――生まれも育ちも全く異なる二人のやり取りも楽しいバディものであると同時に、スナークという設定と、舞台となるヴィクトリア朝ロンドンの闇を巧みに結びつけた物語内容は、時代伝奇ものとして大いに感心させられた次第です。

 第6位は悩みましたが、シリーズの復活編であるシリーズ第4弾。今年は歴史小説でも大活躍した作者ですが、ストレートな伝奇ものも相変わらず達者なのは、何とも嬉しいところ。お馴染みのキャラクターたちに加えて新たなレギュラーも登場し、この先の展開も大いに楽しみなところであります。


 その他、次点としては、『京の絵草紙屋満天堂 空蝉の夢』(三好昌子 宝島社文庫)と『半妖の子 妖怪の子預かります』(廣嶋玲子 創元推理文庫)を。
 前者は京を舞台に男女の情の機微と、名刀を巡る伝奇サスペンスが交錯するユニークな作品。後者は妖怪と人間の少年の交流を描くシリーズ第4弾として、手慣れたものを見せつつもその中に重いものを内包した作者らしい作品でした。


 単行本のベストについては、明日紹介させていただきます。


今回紹介した本
覚悟の紅: 御広敷用人 大奥記録(十二) (光文社時代小説文庫)義経号、北溟を疾る (徳間文庫)鉄の王: 流星の小柄 (徳間時代小説文庫)宿場鬼 (角川文庫)刑事と怪物―ヴィクトリア朝エンブリオ― (メディアワークス文庫)妖草師 無間如来 (徳間文庫)


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 武内涼『妖草師 無間如来』 帰ってきた妖草師と彼の原点と

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2017.12.25

三好昌子『京の絵草紙屋満天堂 空蟬の夢』 絡み合う人情と伝奇サスペンス

 『縁見屋の娘』で第15回『このミステリーがすごい! 大賞』優秀賞を受賞した作者の第二作――過去を捨て名を捨て、今は京で戯作者として暮らす男が、迫る過去の影から己と己の大切な者を守るために奔走する、伝奇風味も漂う時代サスペンスの佳品です。

 諸国を彷徨った末、京に辿り着いた月夜乃行馬。そこで懇意となった絵草紙屋・満天堂から京の案内本の執筆を頼まれた行馬は、挿絵師として京で一番の人気を誇る女絵師・冬芽に引き合わされることになります。
 目を引くような美貌を持ちながらも、人を寄せ付けぬ雰囲気を持つ冬芽に気圧されながらも、少しずつ打ち解けていく行馬。今度は絵草紙の執筆を依頼された行馬は、再び冬芽と組むことになりますが、やがて彼女の抱えた重い過去と現在を知るのでした。

 そんな中で行馬は、自分を尋ねてきたかつて国元で同じ役目についていた親友から、同じ役目についていた者たちが、次々と何者かに殺害されていると告げられます。
 かつて藩命で無数の命を奪った行馬たち。仲間の殺害はその時の恨みによるものではないかと考えた行馬ですが、やがて一連の事件には、いや彼の過去には大きを秘密が隠されていたことを知ることに……


 前作と同じく京を舞台とした作品、そして人情ものとしての性格を色濃く持ちつつも、同時にそれとは大きく異なる顔を――前作は伝奇ファンタジー、本作はサスペンス・ミステリ――持つ本作。
 その前者――人情ものの要素の中心となるのは、絵草紙屋を舞台に交錯する、行馬と冬芽を中心とする人々の姿であります。

 上で述べたように、刀を振るって数多の人を殺めた過去を持つ行馬と、道ならぬ恋に溺れ、今なおその残り火に苦しむ冬芽。
 その歩んできた道は全く異なりますが――しかしともに深い孤独と傷を抱え、今この時の平穏がかりそめのものでしかないと悟っている点で、二人は大きな共通点を持ちます。

 本作の主題の一つは、この二人の魂が次第に距離を縮め、そして傷を癒やしていく姿であり――それを時に静かに、時に真剣にに、あるいは時に賑やかに見守る周囲の人々の姿なのです(特に、妻に逃げられてアル中になった彫師の存在がなかなか面白い)。
 そしてそんな物語の中でも、個人的に特に印象に残ったのは冬芽の造形であります。

 運命のいたずらとはいえ、女性として、人間として大きな過ちを犯した冬芽。その傷を押し殺しながらも絵師として大成し、しかしその絵師としての未来も長くはないということに内心恐れおののく……
 自立した強い女性としての顔と、脆く弱い女性としての顔――そんな相反するものを抱えた彼女の姿は、ひどく生々しいものではありますが、しかしそれだからこそ非常に魅力的に感じられるのです。

 そしてそんな彼女の人間らしさが、半ば彼岸に踏み出しかけていた行馬を繋ぎとめるという構図もいい。
 特に決戦を前に、行馬が冬芽に残そうとした「もの」など、その内容もさることながらその形(そこに彫師の存在が大きな意味を持つのも巧い!)、そしてそれが必要になる理由ともども、実に泣かせるのです。


 そして、人情ものの部分が冬芽に代表されるとすれば、サスペンスの部分を代表するのは、もちろん行馬を巡る物語であります。
 過去に所属した場で犯した罪とその復讐、そしてそこに隠された秘密と陰謀という展開は、時代ものに限らずある種普遍的なものではありますが、そこに本作は「般若刀」というキーアイテムを設定しているのが面白い。

 かつて名匠が主のために打ちながらも、「斬れない刀」であったために怒りを買い、その刀で殺されたという曰くを持つ般若刀。
 以来、その刃に血を吸わせることを禁じられ、しかし行馬によって無数の血を吸うこととなった(「斬れない刀」を用いるための刀術が編み出されたという設定も、また非常に面白い)この刀は、様々な形で本作の中心に位置することになるのです。

 そしてそこに実は伝奇的な秘密が存在し、それがまた本作の人間ドラマと思わぬところで絡み合って――というのも実に面白い。
 尤も、この辺りは少々風呂敷を広げすぎたきらいもあって(特にその謎解きが少々反則気味だったこともあり)、個人的には大歓迎ながら少々さじ加減を誤ったかな、という点はあるかもしれません。


 そんなマイナス面はあるものの、物語の二つの側面が溶け合う様が実に魅力的な本作。
 正直に申し上げて、第一作を遙かに上回る完成度であり――作者には、このスタイルをさらに洗練させた作品をこの先も書いていって欲しいと、心より感じた次第です。


『京の絵草紙屋満天堂 空蝉の夢』(三好昌子 宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) Amazon
京の絵草紙屋満天堂 空?の夢 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


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2017.12.20

「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その二)

 創刊15周年記念号の「コミック乱ツインズ」2018年1月号の紹介の後編であります。新連載あり名作の再録あり、バラエティに富んだ誌面であります。

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 今号もう一つの新連載は、約1年前に読み切りで本誌に登場した原秀則のヒロインもの。前回登場時も達者であった筆致は今回も健在であります。

 主人公・桃香は腕利きの漢方医として吉原にも出入りするお侠な美女――ながらその裏の顔は将軍から裏の仕事を受ける隠密。これまでも様々なトラブルを陰で処理してきた、という設定であります。
 今回彼女が挑むのは、武家の嫡男が吉原の花魁・黄瀬川に入れあげた末にプレゼントしてしまった家宝の印籠を取り戻すというミッション。しかし黄瀬川は桃香の患者、しかも真剣に二人は惚れあっていて……

 という今回、「公儀隠密」と「将軍から裏の仕事を受ける隠密」の微妙な違いや、そもそも(おそらくは旗本が)自分の家の不祥事の後始末をそんな家の人間に託してしまってマズくはないのか、などと気になる点はありますが、喜怒哀楽表情豊かなキャラクターたちが飛び回るだけでも十分楽しい内容であります。
 一件落着かと思いきや、ラスト一コマで次回へ引いてみせるのも巧みなところでしょう。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 宇多田ヒカルもオススメの本作、今回の舞台は関ヶ原後の土佐。どこかで見たような少女が――と思いきや「戦国武将列伝」連載時の本作に登場した犬神娘・なつの再登場であります。
 その術で土佐を鬼から守ってきたものの、長宗我部元親によって一族を滅ぼされ、ただ一人残された犬神使いのなつ。今も一人戦い続けてきた彼女は、一領具足組の生き残りである青年・甚八と巡り合い、幸せを手に入れたのですが……

 浦戸一揆から続く、新領主である山内一豊に対する長宗我部の一領具足組の抵抗を背景とした今回。鬼切丸の少年の出番はごくわずかで、完全になつが主人公の回なのですが――彼女が幸せになればなるほど不安が高まるのが本作であります。
 今回は前編、後編で何が起こるのか――もうタイトルも含めた今回の内容全てがフラグとしか思えないのが胸に痛い。病みキャラっぽいビジュアルの山内一豊の妻の存在も含めて、次回が気になります。


『柳生忍群』(小島剛夕)
 前回小島剛夕の『孤狼の剣』が再録された「名作復活特別企画」、巻末に収録された第二回・第三回は、同じく小島剛夕が昭和44年という雑誌での活動初期に発表した『柳生忍群』から「使命」「宿命」を掲載。
 タイトルにあるように、柳生新陰流を徳川幕府安定のために諸大名を監視する、柳生十兵衛をトップとした忍者集団として描いた連作集であります。

 半年に一度の柳生忍群の会合を舞台に、復讐のために会合に潜入した者、武士として自分の任務に疑問を持った者らの姿を通じて、柳生忍群の非情極まりない姿を描く「使命」(シリーズ第1作?)。
 自分が柳生忍群の草であることを突然知らされた某藩の青年武士が、恋人との婚礼を間近に控えた中、柳生忍群から藩取り潰しのための密命を受けて悩み苦しむ「宿命」。

 どちらも、無情・無惨としかいいようのない地獄めいた武士の――いや隠密の世界を描いてズンと腹に堪える内容で、ある意味巻末にに相応しい、非常に重い読後感の二作品であります。
 ちなみに本作、記憶ではまだ単行本化されていなかったはずですが――これを期にどこかでまとめてもらえないものか、と強く思います。


 というわけで充実した内容だった今号(まことに失礼ながら、小島剛夕の作品が埋め草的に見えてしまうほどの……)。

 今号では2作品がスタートした新連載ですが、次号でも1作品スタート。しかしそれが、あの久正人の古代ヒーローファンタジーというのには、猛烈に驚かされました。 15周年を過ぎても変わらない、いやそれ以上の凄まじい攻めの姿勢には感服するほかありません。


『コミック乱ツインズ』2018年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年 01 月号 [雑誌]


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2017.12.19

「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)

 今年最後の、そしてカウント上は来年最初の「コミック乱ツインズ」誌は、創刊15周年記念号。創刊以来王道を征きつつも、同時に極めてユニークな作品を多数掲載してきた本誌らしい内容であります。今回も、印象に残った作品を一作ずつ紹介していきます。

『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 新連載第一弾は、流浪の用心棒たちが主人公の活劇もの。
 用心棒といえば三人――というわけかどうかは知りませんが、自分の死に場所を探す「終活」中の老剣士、仇を追って流浪の旅を続ける「仇討」中の剣士、そしてお人好しながら優れた忍びの技を操る青年と、それぞれ生まれも目的も年齢も異なる三人の浪人を主人公とした物語であります。

 連載第一回は、宿場町を牛耳る悪いヤクザと、昔気質のヤクザとの対立に三人が巻き込まれて――というお話で新味はないのですが(でっかいトンカチを持った雑魚がいるのはご愛嬌)、端正な絵柄で手慣れた調子で展開される物語は、さすがにベテランの味と言うべきでしょう。

 ……と、今回驚かされたのは、忍びの青年が「鬼輪番」と呼ばれることでしょう。作中の言葉を借りれば「天下六十余州をまわり幕府に抗おうとする大名たちの芽を摘む」のが任務の忍びたちですが――しかし、ここでこの名が出るとは!
 『優駿の門』の印象が強い作者ですが、デビュー作は小池一夫原作の『鬼輪番』。その名がここで登場するとは――と、大いに驚き、そしてニンマリさせられた次第です。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 吉原という底知れぬ相手を敵に回すことになったものの、同門の青年剣士・大宮玄馬を家士として味方につけた聡四郎。今回は早くもこのコンビが、ビジュアル的にも凄い感じの刺客・山形をはじめとする刺客団と激闘を繰り広げることになります。
 死闘の末に刺客たちを退けたものの、はじめて人を殺してしまった玄馬は、その衝撃から目からハイライトが消えることに……

 というわけで上田作品お馴染みの、はじめての人斬りに悩むキャラクターという展開ですが、体育会系の聡四郎はいまいち頼りにならず――というか、紅さんが話してあげてと言っているのに、竹刀でぶん殴ってどうするのか。この先が、江戸城内の不穏な展開以上に気になってしまうところであります。


『大戦のダキニ』(かたやままこと)
 特別読み切りとして掲載された本作は、なんと太平洋戦争を舞台とするミリタリーアクション。といっても、主人公は日本刀を片手に太腿丸出しで戦う戦闘美少女というのが、ある意味本誌らしいのかもしれません。
 作者のかたやままこと(片山誠)は、ここしばらくはミリタリーものを中心に活動していたのようですが、個人的には何と言っても會川昇原作の時代伝奇アクション『狼人同心』が――というのはさておき。

 物語は、江戸時代に流刑島であった孤島に上陸した日本軍を単身壊滅させた少女・ダキニが、唯一心を開いた老軍人・亀岡とともに、ニュージョージア島からの友軍撤退作戦に参加することに――という内容。
 銃弾をも躱す美少女が、日本刀で米軍をバッサバサというのは、今日日ウケる題材かもしれませんが、ダキニが異常なおじいちゃん子というのは、それが狙いの一つとは思いつつも、あまりにアンバランスで乗れなかったというのが正直なところであります。
(見間違いしたかと思うような無意味な特攻描写にも悪い意味で驚かされました)


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 日本の鉄道の広軌化を目指す中で、現場の技術者たちとの軋轢を深めることとなってしまった島。それでも現状を打開し、未来にも役立てるための新たな加熱装置を求め、島はドイツに渡ったものの……

 という今回、主人公が二年もの長きに渡り日本を、すなわち物語の表舞台を離れるということになってしまいましたが、後任が汚職役人で――という展開。
 これを期に雨宮たち現場の技術者も島の存在の大きさを再確認する――という意味はあるのですが、あまりに身も蓋もない汚職役人の告白にはひっくり返りました。

 そして未来に夢の超高速鉄道を開発することになる少年も色々と屈託を抱えているようで、こちらも気になるところであります。


 長くなりましたので、次回に続きます。


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コミック乱ツインズ 2018年 01 月号 [雑誌]


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2017.12.16

輪渡颯介『欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪』 パターン破りの二周目突入!?

 コミカルで、そしておっかない時代怪談を書かせたら右に出る者がいない作者の人気シリーズも三作目。幽霊を「嗅いで」「聞いて」「見て」しまう溝猫長屋の悪ガキ四人組が、今回も様々な幽霊騒動に巻き込まれることになるのですが――今回は何と「二周目」アリ!?

 大量にいる猫が溝にはまって寝ていることから「溝猫長屋」と呼ばれる長屋にある祠。
 溝猫長屋では、かつてある事件で亡くなった女の子・お多恵を祀るこの祠に、毎年最年長の子供がこの祠に詣でるしきたりがあったのですが――お参りをした子供は、なんと幽霊に出くわすようになってしまうのでした。

 今年この順番に当たったのは、忠次、銀太、新七、留吉の四人組。しかし銀太を除く三人は、同じ幽霊に対して、それぞれ分担する形で「嗅いで」「聞いて」「見て」しまうようになってしまい、さらにそれが順繰りでやってくることになってしまいます。そして仲間はずれの形となった銀太には、最後に三つの感覚がまとめて襲いかかることに……

 と、おかしな形で幽霊に出くわす形になってしまった子供たちの冒険を描く本シリーズですが、今回はちょっと変化球。
 上の基本設定ゆえに、これまで全四話構成(三つの感覚が忠次・新七・留吉で一周+三つまとめて銀太)だった本シリーズですが、今回はなんと七話構成なのです。

 つまり二周目が――というわけなのですが、その理由が、冒頭で銀太が銭を入れた巾着袋をなくしたのを、お多恵ちゃんのおかげで幽霊に出くわしたからと嘘をつこうとした上に、毎回パターンに忠実なお多恵ちゃんのことを「芸がない」と罵ったからというのが、何ともすっとぼけていておかしい。
 おかげで本物の幽霊に出くわした上に、二周目という新パターンにまで突入され――と、今回も四人組は大いに幽霊に振り回されることになるのです。


 シリーズの毎回の物語展開に定番のパターンがあるというのは、うまくいけばその安定感に心地よさを感じるものですが、同時にワンパターンに陥りかねないという諸刃の剣でもあります。それも、そのパターンが特殊であればあるほど、その危険性が高まると感じられます。
 しかし本作においては、その危険性を逆手にとって、パターン破りを一つの題材としてしまう点に、何とも人を食った面白さがあります。

 実際、本作では作中で登場人物たちが「いつもだったらここで○○が出て来て……」とか「いつもだったら一連の出来事が実は裏で繋がってるはず」などと言い出す、メタ一歩手前の発言を連発。
 危険球スレスレではありますが、物語構造を逆手にとっての半ば捨て身の展開は実に楽しい。キャラクター造形や会話の妙も相まって、これまで以上に、読みながら幾度となく吹き出してしまった――というのは決して大げさな表現ではありません。

 もちろんその一方で、怪談としてもキッチリ成立しているのも本作の魅力であることは間違いありません。
 話数――すなわち怪異の数がこれまでの倍近いということは、そのバラエティもまた同様というわけで(特に二周目は一種の縛りもなくなったということもあって)これまで以上に楽しませていただきました。

 そして怖いだけでなく、切ない怪異があるのもまた本シリーズの魅力。
 本作で描かれた固く締め切られているはずの無人の長屋で人の生活の気配が――というエピソードなどは、その真相も相まって、温かみすら感じさせてくれる、ある意味本シリーズらしい人情怪談であります。


 とはいうものの、やはりパターン破りを売りにするというのは、シリーズとしては一度限りの大ネタ、窮余の一策という印象は否めません。
 内容的にも、毎度お馴染みの、あるキャラクターの「活躍」がおまけのようになってしまったりと(結果としてそのキャラの異常性をより浮き彫りにしているようにも感じますが)、マイナスの影響も感じます。

 本作の中で何度かほのめかされているように、いよいよ四人組とも別れの時が近いのかもしれませんが、いずれにせよ次回が正念場となることだけは間違いないでしょう。
 その時が来るのが楽しみなような怖いような――そんな気分なのであります。


『欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪』(輪渡颯介 講談社) Amazon
欺きの童霊 溝猫長屋 祠之怪


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