2017.03.20

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』4月号の掲載作品の紹介の後編であります。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『エイトドッグス 忍法発見伝』(山口譲司&山田風太郎)
 木は森に、の例えの如く、現八が用心棒を務める吉原西田屋に隠れることとなった村雨姫と信乃。しかし敵もさるもの、半蔵配下のくノ一のうち、椿と牡丹が遊女志願を装って西田屋に現れます。
 現八はこれを単身迎え撃つことに――

 といってもここで繰り広げられるのは閨の中での睦み合い。しかしそれが武器を取っての殺し合い以上に凄惨なものとなりえるのは、忍法帖読者であればよくご存知でしょう。
 かくて今回繰り広げられるのは、椿の「忍法天女貝」、現八の「忍法蔭武者」、牡丹の「忍法袈裟御前」と、いずれ劣らぬ忍法合戦。詳細は書くと色々とマズいので省きますが、この辺りの描写は、まさにこの作画者のためにあったかのように感じられます。

 そして壮絶な戦いの果てに倒れる現八。原作を読んだ時は男としてあまりに恐ろしすぎる運命に慄然とさせられたこのくだり、あまり真正面から描くと、ギャグになってしまう恐れもありますが……
 しかし本作においては、前回語られたように村雨姫にいいところを見せるために戦いながらも、決して彼女には見せられない姿で死んでいくという悲しさを漂わせた画となっているのに、何とも唸らされた次第です。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 時代と場所を次々と変えて描かれる本作ですが、今回のエピソードは前回から続き、本能寺の変の最中からスタート。蘭丸を失った悲しみから鬼と化した信長は、変を生き残り(と言ってよいものか?)自我を失うことなく、怨みと怒りを漲らせながら、光秀とその血族に襲いかかることになります。
 それを阻むべく信長の後を追う、鬼斬丸の少年ですが、さしもの彼も鬼と化した信長には苦戦を強いられて――

 これまではどんな人物であっても、一度鬼と化せば理性を失い、人間を襲ってその血肉を喰らうしかない姿が描かれてきた本作。そんな中で、言動はまさしく「鬼」のそれであっても、明確に己の意志で動く信長はさすがというべきでしょうか。
 そして生前の彼を、この世に鬼を呼び込む怪物と見て弑逆に走った光秀もまた、その本質を正しく見抜いていたと言えますが……しかしそんな彼であっても、信長に家族が襲われるという煩悶から鬼となりかけるというのが哀しい。

 人が鬼を生み、鬼が鬼を生む地獄絵図の中、人がどうなっても構わぬと明言しつつも、その行動が結果的に人を救うことになる少年の皮肉も、これまで以上に印象的に映ります。
 そして物語はさらに続くことに――


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 父・輝宗を殺され、怒りに逸るままに力押しを仕掛けて失敗した政宗。今回はそんな彼が己を取り戻すまでが描かれることとなります。

 悲しみのあまりとはいえ、景綱ですら止められぬほどに我を忘れて暴走する政宗。その怒りは、必死に彼を止めようとする愛姫にまで向けられ……と、姫に刀を向ける姿にはさすがに引きますが、しかし何となく「ああ、政宗だからなあ……」と納得してしまうのがちょっと可笑しい。

 もちろんこの辺りの描写にふんだんにギャグが散りばめられていることもあるのですが、変にフォローが入らない方が、かえって人物への好感を失わないものだな、と再確認しました。


 その他もう一つの新連載は『よりそうゴハン』(鈴木あつむ)。長屋に妻と暮らす絵師が料理をする姿を通じて描く人情もののようですが、展開はベタながら、今回の料理である焼き大根、確かにおいしそうでありました。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年4月号 [雑誌]


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2017.03.19

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)

 今月もやってきました『コミック乱ツインズ』。今月号の表紙&新連載は、叶精作の『はんなり半次郎』であります。

『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
 というわけで京は御所近くの古道具屋「求善賈堂」を舞台とする本作。タイトルロールの半次郎はその店主、男名前ですが代々継がれている名であり、当代の半次郎は三十路半ばの女性であります。

 その求善賈堂に半次郎を訪ねてきた盲目の少年・幸吉。同じ古道具屋であった親を押し込み強盗に殺され、自分も視力を奪われた彼は、店から奪われた品物が求善賈堂に出たと聞いて、江戸からはるばるやってきたのであります。
 残念ながらその品は既に売れた後だったものの、事情を聞いた半次郎は幸吉に対してある行動に出るのですが……

 古道具の目利きにしてしたたかな商売人、剣の達人にして腕利きの蘭方医、そしてもちろん美女、といささか盛りすぎにも見える半次郎。
 しかしこの第1話では、銘刀を売りに来た武士とのやりとり、そして幸吉の目の治療と、流れるようにその特徴の数々を示してみせ、終盤にちょっとしたどんでん返しも挟んでみせるのは、さすが、としか言いようがありません。

 が、このコンビだと……と思った通り、間に入るサービスシーンが強引すぎて、いやいやいや、いくらなんでも! とツッコミを入れざるを得ません。それも期待されているのだとは思いますが、いかがなものかなあ。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治を舞台に日本の鉄道の曙を描く本作も、はや第3話。関西鉄道から官営鉄道に移籍することを決意した島安次郎は、同じ関西鉄道の凄腕機関手・雨宮にも移籍を持ちかけるのですが……もちろんというべきか、職人気質の雨宮が肯んじるわけがありません。
 そして時は流れ、いよいよ私鉄国有化の流れが決定的になった中、引退を目前とした雨宮の前に現れた島は――

 島と雨宮、管理運行側と現場という立場の違いはあれど、それぞれの立場から鉄道に深い愛情を注ぐ二人の交流を中心に描いてきた本作。
 島が雨宮を口説き落とせるかが今回の眼目ですが、ある意味お約束とも言える展開ながら、二人の真っ直ぐな想いが交錯し、そして合流する様はやはり胸を熱くさせるものがあります。

 雨宮の後継者たちの成長を示す描写も見事で、回を追うごとに楽しみになってきた作品です(そして今回もおまけページが愉快。確かにそれは難題だと思いますが……)。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 よく見たら表紙に「全10回」と記載されていた本作、今回は第8回ですので、ラスト3回ということになります。

 今回はまさしく決戦前夜といったところ、柳沢吉保・荻原重秀側からは絡め手の引き込みが、新井白石からは温かみの欠片もない命令と板挟みの状況を一挙に打開すべく、自ら虎口に飛び込むことを決意した聡四郎。
 しかしその聡四郎の役に立ちたいと無謀にも敵方の牢人の跡を付けた紅が――

 と、決戦に向けてどんどん盛り上がっていく……というより聡四郎が追い込まれていく状況。
 しかしこうして改めて見ると、紅の行動は今日日嫌われるヒロインのそれ以外のなにものではないのですが、不快感を感じないのは、これは画の力――有り体に言えば、紅が非常に可愛らしく描けているからに他ならないと感じます。

 改めて画の力というものを感じた次第です。


 以降、長くなりますので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年4月号 [雑誌]


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2017.03.18

平谷美樹『江戸城 御掃除之者!』 物と場所、そして想いを綺麗に磨くプロの技

 2,4,5,6月と文庫化も含めた新刊が並び、四社合同企画でプッシュされている平谷美樹の時代小説。その第1弾が本作……タイトルのとおり、江戸城の掃除を担当する御掃除之者たちの活躍をユーモアを交えて描く、作者らしい独創性に富んだな作品であります。

 御掃除之者とはまたあまりにストレートなネーミングですが、歴とした徳川幕府の役職。江戸城の御殿の清掃をメインに、その他物資の運搬なども行ったお役目であります。
 身分は御家人ですが、ランク的には黒鍬者と同じと言えば、失礼ながら下から数えた方が早いとわかるでしょう。

 身分は低く、もちろん薄給で、来る日も来る日も(しかも世襲で)掃除……というのはなかなか厳しいものですが、しかしどんな仕事もそうであるように、彼らの仕事にもまた、それぞれにやりがいと誇りがあります。
 そして本作で描かれるのは、そんな仕事に日々奮闘する男たちの姿なのです。

 本作の主人公は、御掃除之者組頭(例えれば係長クラス?)の山野小左衛門。全部で三つある江戸城御掃除之者の組の一つをまとめ、家に帰れば妻と二人の息子が待っている(でも色々と肩身が狭い)人物であります。

 その小左衛門が、ある日上司から命じられたのは、何と大奥の掃除。もちろん大奥は男子禁制、普段は内部の女性たちが掃除しているわけですが、何年も局に篭もり、ゴミを溜め込んでいるという御年寄の部屋を掃除して欲しいという依頼があったのであります。
 かくて腹心の六人の部下……いずれも一芸に秀でた膳兵衛・浩三朗・金吾とその弟子たち庄輔・新之介・謙助を連れ、大奥に乗り込んだ小左衛門。しかしそこで待ち受けていたのは、何としても部屋を掃除させまいとする女中たちの防衛戦で――


 そんな奇想天外な第1話「音羽殿の局御掃除の事」をはじめとして、本作は全3話で構成されています。
 採薬使からの依頼で、長崎からやってきた将軍の象……の糞を運ぶことになった小左衛門たちが思わぬ危機に巻き込まれる第2話「象道中御掃除の事」。
 そして第1話を受けて、今度はあの人物の亡魂が徘徊するという大奥の開かずの間の掃除をすることになった小左衛門たちの奮闘が描かれる第3話「御殿向 開かずの間御掃除の事 『亡魂あり』」。

 いずれも本作でなければお目にかかれないような、常に凡手を嫌う作者らしい個性的なエピソード揃いであります。

 そして、どんなシリアスな内容でも、どこかにユーモアが感じられる作者の作品らしく、小左衛門と仲間たちのやりとりに、ユルくすっとぼけた味わいがあるのが楽しい。
 特に何故か手製の水鉄砲を毎回持ってくる金吾、同じく手製の御掃除人形(いわば江戸時代版ルンバ)を持ってくる浩三朗とのやりとりは実におかしいのであります(特に第3話には思わず吹き出しました)


 しかしもちろん、本作で描かれるのは面白おかしい物語だけではありません。
 先に述べたとおり、幕府の役人の中では下の方の彼らは、それだけに世間の風の厳しさを知る身の上。特に小左衛門の息子たちは、御掃除之者を継ぐのを嫌い、そんな役目に汲々とする父に白い目を向けてくるのですから、何とも身につまされるものがあります。

 そして彼らが掃除しようとする相手・モノにも、それぞれの事情があります。
 溜め込まれたゴミ、そしてそのゴミが溜め込まれた場所……そこには単なるモノ、単なる場所があるだけではなく、簡単には捨てられない想いも篭もっているのですから。

 それを理解し、そしてその上できっちりと綺麗に磨いてみせるのがプロの矜持というもの。特に、自分たちも色々と溜め込んでいる身であればなおさらであります。
 だからこそ本作で描かれる小左衛門たちの掃除は、単に物理的だけでなく、精神的に周囲を美しく変えていくものとなります。そしてそんな実に小気味よい小左衛門の掃除は、読んでいる我々たちの心もまた、爽やかに元気付けてくれるのです。

 しかし残念ながらそんな小左衛門の掃除の素晴らしさを、まだまだ彼の息子たちはわかってくれないようではあります。
 それでもいつかはわかって欲しい、そしてもちろん、その日が訪れるまで小左衛門たちの活躍をもっともっと読んでみたい……そんな気持ちになる作品です。


 ちなみに第2話は作者の『採薬使佐平次 将軍の象』の外伝。本作にも顔を出す佐平次が、象を守って格好良く活躍している間に、こんな事件が……というファン必見の内容であります。


『江戸城 御掃除之者!』(平谷美樹 角川文庫) Amazon
江戸城 御掃除之者! (角川文庫)


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 「将軍の象 採薬使佐平次」 象の道行きがえぐり出したもの

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2017.03.12

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、忍者ものの紹介の後編は、忍者ものに新風を吹き込む5作品を取り上げます。
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

21.『風魔』(宮本昌孝) 【戦国】【江戸】 Amazon
 後世にその名を知られた忍者の一人である風魔小太郎。本作は、颯爽とした男たちの物語を描いたら右に出る者がいない作者による痛快無比な忍者活劇であります。

 小田原の北条家に仕え、常人離れした巨躯と技で恐れられたという小太郎。本作はその逸話を踏まえつつ、しかしその後の物語を描き出します。
 何しろ本作においては北条家は早々に滅亡。野に放たれた小太郎は、豊臣と徳川が天下を巡って暗闘を繰り広げる中、自由のための戦いを繰り広げるのです。

 戦国が終わり、戦いの中に暮らしてきた者たちの生きる場がなくなっていく中、果たして小太郎たちはどこに向かうのか? 誰に縛られることなく、そして誰を傷つけることなく生き抜く彼の姿が本作の最大の魅力です。


22.『忍びの森』(武内涼) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 発表した作品の大半が忍者ものという、当代切っての忍者作家のデビュー作である本作は、もちろん忍者もの……それも忍者vs妖怪のトーナメントバトルという、極め付きにユニークな作品であります。

 信長に滅ぼされた伊賀から脱出した八人の忍者。脱出の途中、彼らが一夜の宿を借りた山中の廃寺こそは、強大な力を持つ五体の妖怪が封じられた地だったのです。
 空間歪曲により寺から出られなくなった八人は、持てる力の全てを振り絞って文字通り決死の戦いに挑むことになります。

 忍者の鍛え抜かれた忍術が勝つか、妖怪の奇怪な妖術が勝つか? 敵の能力の正体もわからぬ中、果たして人間に勝利はあるのか……空前絶後の忍者活劇であります。

(その他おすすめ)
『戦都の陰陽師』(武内涼) Amazon


23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 映画化された『完全なる首長竜の日』になど、SF作家・ミステリ作家として知られる作者は、同時に奇想に富んだ時代小説の書き手でもあります。

 川中島の戦で召喚され、多大な死をもたらしたという兇神・御左口神。武田の歩き巫女・小梅は、謎の忍者・加藤段蔵に襲われたことをきっかけに、自分がこの兇神と深い関わりを持つことを知ります。
 武田の武士・武藤喜兵衛(後の真田昌幸)とともに、小梅は兇神を狙う段蔵の野望に挑むことに……

 初時代小説である『忍び外伝』も驚くべきSF的展開を披露した作者ですが、本作も実は時代小説にとどまらない内容の作品。果たして御左口神の正体とは……これは「あの世界」の物語だったのか!? と驚愕必至であります。

(その他おすすめ)
『忍び外伝』(乾緑郎) Amazon


24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道龍一朗) 【戦国】 Amazon
 忍者が活躍した戦国時代において、一際奇怪な存在として知られる飛び加藤こと加藤段蔵。本作はその段蔵を、悪人ならぬ悪忍として描いたピカレスクロマンであります。

 伊賀と甲賀の秘技を極めながらも、その双方を敵に回し、自分自身の力のみで戦国を渡り歩く段蔵。一向一揆で揺れる北陸を次の仕事場に選んだ段蔵は、朝倉家に潜り込むことになります。
 そこで段蔵の前に現れるのは、名うての武将、武芸者、そして忍者たち。そして段蔵にも隠された過去と目的が――

 強大な力を持つ者たちを向こうに回して暴れ回る段蔵の活躍が善悪を超えた痛快さを生み出す本作。ラストで明かされる、思わず唖然とさせられるほどの豪快な真実に驚け!

(その他おすすめ)
『乱世疾走 禁中御庭者綺譚』(海道龍一朗) Amazon


25.『嶽神』(長谷川卓) 【戦国】 Amazon
 奉行所ものなどでも活躍する作者の原点が、「山の民」ものというべき作品群――里の人々とは異なる独自の掟と生活様式を持ち、山中の自然と共に暮らす人々の活躍を描く物語であります。

 そして本作はその代表ともいうべき作品。掟を破って追放された山の民・多十が、武田勝頼の遺児と、一族を虐殺された金堀衆の少女を連れ、逃避行に復讐に宝探しにと奮闘する大活劇です。
 殺戮のプロとも言うべき追っ手の忍者集団を向こうに回し、母なる大自然を武器として戦いを挑む多十。山の民殺法とも言うべき技の数々は、本作ならではの豪快な魅力に溢れています。

 様々な欲望が剥き出しとなる戦国に、ただ信義のために命を賭ける多十の姿も熱い名品です。

(その他おすすめ)
『嶽神伝』シリーズ(長谷川卓) Amazon


今回紹介した本
風魔(上) (祥伝社文庫)忍びの森 (角川文庫)塞の巫女 甲州忍び秘伝 (朝日文庫)悪忍 加藤段蔵無頼伝(双葉文庫)嶽神(上) 白銀渡り (講談社文庫)


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 「風魔」 小太郎が往く自由の中道
 「忍びの森」 忍びと妖怪、八対五
 「忍び秘伝」 兇神と人、悪意と善意
 「悪忍 加藤段蔵無頼伝」 無頼の悪党、戦国を行く

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2017.03.04

竹内清人『躍る六悪人』(その二) 本当の悪人は誰であったか?

 新進気鋭の作家による初時代小説『躍る六悪人』の紹介の後編であります。時代アクションとしてはなかなかに新鮮かつ豪快な内容で楽しめる本作なのですが……しかし、不満がないわけではありません。

 例えばすぐ上で触れたケイパーもの、クライムアクションとしての顔ですが、本作はかなりのところその定番に忠実な展開だけに、このキャラは実は○○で、このキャラも○○してないな……など、ある程度先の展開が読める部分が少なくないのが惜しいところではあります。

 また、最大の見せ場であるキャラクターたちがそれぞれの特技で活躍するシーンも、突貫斎が頑張りすぎて他の面々が霞んだという印象は否めません。
(特に直侍は、それだけで一本描けるほどの過去を持っているだけに、もっと前面に押し出しても良かったのではないかという印象もあります)

 しかし……個人的に一番もったいなかったと感じるのは、作中に登場する「悪人」たちの「悪人」たる所以を、もう少し突っ込んで描いて欲しかった、という点であります。


 実は本作のようなケイパーものをエンターテイメントとして成立させるためには、一つの鉄則があると言えます。
 それは、主人公たちのターゲットとなるのも悪人……それも主人公たち以上の巨大な悪人であることです。

 これは実は至極当たり前の話で、主人公たちが自分たちよりも格下の悪人を相手にしても仕方ありませんし、ましてや一般庶民の富を奪っても単なる弱い者いじめにしかなりません。
 悪人がより巨大な悪人に鉄槌を下す……トリックや仕掛けの楽しさもさることながら、このカタルシスがケイパーものの最大の魅力ではないでしょうか。

 そして本作にも、大悪人たちが幾人も登場します。中野碩翁、水野忠邦、鳥居耀蔵、そして忠邦と結ぶ悪徳商人にして宗俊とある因縁を持つ・森田屋清蔵、大塩の乱の残党にして貧民を使った爆弾テロを指揮する飯島玄斎――

 実は「六悪人」が誰を指すかを敢えて明記していない本作。彼らに河内山を加えた六人もまた「六悪人」ではないかとも思えるのは、なかなか面白い点ではあります。
 しかし宗俊を除いた彼ら大悪人のキャラクターを、もう少し掘り下げて欲しかった、もっと彼らの恐ろしさ・巨大さを、そして彼らならではの悪の在り方を見せて欲しかった、という印象が残るのです。

 それこそが、時代ものとしての本作の真の独自性にも繋がってくるのではないか、さらに言えば、なぜ「いま」河内山宗俊なのかという点をさらに明確にできたのではないか……そう感じられた次第です。


 と、長々と厳しいことを書いてしまいましたが、これも作者と本作への期待ゆえ……というのは言い訳かもしれませんが、それだけ語りたくなるだけのものを持っているのは間違いない作品なのであります。。


『躍る六悪人』(竹内清人 ポプラ社) Amazon
躍る六悪人

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2017.03.03

竹内清人『躍る六悪人』(その一) 六花撰、強奪ミッションに挑む!?

 『戦国自衛隊1549』『キャプテンハーロック』の脚本家による初のオリジナル小説は、天保年間を舞台に六人の悪人たちが活躍するクライムアクション……河内山宗俊たちが、権力を嵩にやりたい放題の更なる悪人を向こうに回して大暴れする、痛快な大活劇であります。

 大飢饉と悪政で貧富の差が広がり、窮民が溢れた江戸。そこで強請りたかりを生業に暮らす茶坊主・河内山宗俊と仲間の片岡直次郎、暗闇の丑松は、ある日、首尾よく一仕事片づけた後、思わぬ罠にはめられて捕らえられることになります。
 そして彼らの前に現れたのは老中・水野忠邦とその腹心・鳥居耀蔵。宗俊は、忠邦からある取引を持ちかけられることになります。

 それは放免と引き替えに、大御所・家斉の側近として大名や老中もひれ伏す権力者・中野碩翁が屋敷に隠した不義の財宝十万両を奪うこと――
 逼迫した幕府の財政を救い、そして改革を阻む政敵である碩翁一派を追い落とすため、悪人には悪人をと、忠邦は宗俊たちに目を付けたのであります。

 自由のため、大金のため、そして権力者の鼻を明かすため……この大仕事を引き受けた宗俊。
 しかし碩翁の屋敷は厳重に警護されている上、十万両が収められた蔵は、天才からくり師・国友一貫斎による仕掛けの数々に守られた、難攻不落の要塞とも言うべき存在であります。

 一貫斎の息子・突貫斎を仲間に引っ張り込み、直次郎や丑松、謎の花魁・三千歳、密偵として屋敷に送り込まれた武家娘・波路らと綿密な強奪計画を練る宗俊。
 しかし仲間さえも油断できない状況に加え、漁夫の利を狙う連中も次々と現れて計画はアクシデントの連続。果たして最後に笑う者は――


 河竹黙阿弥の歌舞伎『天衣紛上野初花』などで知られる河内山宗俊ら六人の悪人・天保六花撰。彼らの物語は、現代に至るまで様々な媒体で、その時々に相応しい装いで描かれてきました。
 本作が、その現代版のアップデートであることは言うまでもありません。そしてその装いは……なんとケイパー(強奪)ものなのであります。

 莫大な財宝や巨大な秘密を盗み出すため、いずれも一癖も二癖もあるプロフェッショナルたちがチームを組み、幾重にも張り巡らされた罠をかいくぐって、見事逃れおおせてみせる――
 こうしたスタイルの物語は、『オーシャンズ11』や『グランド・イリュージョン』など現代を舞台とした作品ではお馴染みですが、それを時代小説で、それも天保六花撰でやってしまうとは……! コロンブスの卵と言うべきでしょうか、まず目の付け所に脱帽であります。

 しかもこの六人、本作ならではの一ひねりが加わっているのが面白い。
 宗俊・直侍・丑松・三千歳といったオリジナルメンバー(?)に加え、突貫斎や波路ら本作独自のメンバーが加わったことで、物語の展開に幅が広がっているのが、何とも楽しいのであります。
(そして、残りのオリジナル六花撰もまた、別の立ち位置で登場するのもまた意表を突いた展開)

 そして彼らが挑む「悪事」も、クライマックスのケイパーだけでなく、大仕掛けな詐欺にいかさま賭博、銃撃戦、さらには思わぬ乗り物を使っての逃走劇など、何でもありありで実にユニーク。
 この辺り、映像にした時のイメージから逆算したのかな、という印象もありますが、出し惜しみなし、ちょっとやりすぎ感すらある活劇は、まさにド派手なケイパー映画のクライマックスを見ているような楽しさがあります。


 しかし……というところで次回に続きます。


『躍る六悪人』(竹内清人 ポプラ社) Amazon
躍る六悪人

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2017.02.23

『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』3月号の感想の続きであります。

『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 今回は『そば屋幻庵』と同時掲載となった本作ですが、絵・物語ともその影響は感じられぬ確かなもの。いよいよクライマックス目前であります。

 新井白石からの催促が厳しく迫る中、柳沢・荻原サイドからの縁談という干渉を受けることとなった聡四郎。刺客だけでなく、こうした搦め手の攻撃というのが実に上田作品的ですが、追いつめられた聡四郎は、自らの身を囮に勝負を決意することになります。
 そして訪れた道場で待っていた師が聡四郎に語るのは……という今回、上田作品名物の師匠の説教が描かれるのですが、そこでの描写、具体的には聡四郎と対峙した師の放つ圧力の描写が素晴らしい。

 内容的にも聡四郎が己にとって真に大事なもの、剣を振るう理由を悟るというシーンだけに、重みのある描写は嬉しくなってしまいます。嬉しいといえば、聡四郎の頼もしい配下、いや仲間となる玄馬の初登場も嬉しいところであります。


『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 道節一世一代の香具師忍法により窮地を脱したかに見えた村雨姫と信乃。しかし服部忍軍の外縛陣がなおも迫った時、現れたのは……葭原は西田屋の遊女たちを連れた女郎屋の用心棒・現八でありました。
 姫と信乃を遊女の中に隠すという奇策でその場を脱出したものの、しかし服部のくノ一もまた葭原に――

 というわけで今回は嵐の前の静けさ的な会ではあったのですが、敵味方で美女美少女が入り乱れるのはこの作者らしい華やかな画面造りで印象に残ります。
 が、今回の最大の見所は、信乃、現八、そして合流した角太郎が、既に散った三人を偲びつつも、彼らを含めた自分たちが何のために戦うか再確認するシーンでしょう。

 忠義のために戦った祖先とは違い、ただ一人の女人にいいところを見せるためだけに戦う……その心意気が泣かせるのであります。


『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 自分の国を奪った男・多々羅玄地への復讐のために旅を続けてきた怨ノ介の物語も今回で最終回。自分の仇は既に亡く、その名を継いだ当代の玄地と対決というのは、ちょっと最後の対決として盛り上がらないのでは……と前回思いましたが、しかしそれこそが本作の恐ろしさ。
 既に怨念を晴らすための、そして生み出すための一種のシステムと化した多々羅玄地「たち」に対して、復仇という概念は意味はないのですから――

 しかしそれでは本当に怨ノ介の戦いに意味はないのか、という想いに、見事に応えてみせたクライマックスが実にいい。さらにそこから、数々の魔刀の中で何故怨ノ介の持つ不破刀のみが女性の姿を持つのかという、「言われてみれば……」という謎にきっちり答えを出してみせるのも泣かせます。

 なるほど彼にはこういう役割があったのね、という結末も微笑ましく、まずは大団円というべきでしょう。


『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 前髪立ちの少年・久馬を守る豪剣士・又蔵相手の仕掛のはずが、又蔵が自害してしまい……という「後は知らない」の後編。

 意外な展開から、真相を知った梅安たちの仕掛けが描かれることとなりますが、印象に残るのは、梅安と彦次郎、久馬と又蔵、そして悪人たちといった登場人物たちの感情の起伏の大きさであります。
 特に久馬と又蔵の絆、二人の武士としての矜持は、テンションの高い画風ならではのインパクトと言うべきでしょう。

 それを受け止める梅安の、姿はゴツいけれども口調は妙に丁寧なところも含めて、好みが分かれるところかもしれませんが、私はこの作者の「梅安」として、さらに突き詰めてもらいたいと感じているところです。


『コミック乱ツインズ』2017年3月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年3月号 [雑誌]


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2017.02.22

『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)

 乱ツインズの3月号は、新連載やゲスト作品はありませんが(強いて言えば『勘定吟味役異聞』と同時掲載の『そば屋幻庵』がゲスト?)、その掲載作品はむしろ充実の一言。印象に残った作品を挙げるだけで、相当な分量になってしまいました。

『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)
 水野忠邦を暗殺しようとした相手が、旧知の甲府勤番だった男・矢代田平内と知った蔵人介ですが、平内の仇と勘違いされ、ドテっ腹を刺されて……

 という前回を受けての後編、事件の黒幕があまりにも短慮で、いかにもな悪人なのは、まあこの作品らしいのかもしれませんが、平内を友と呼んで仇討ちに向かう蔵人介の姿はやはりグッとくるものがあります。
(しかし明らかにどうしようもない悪人とはいえ、形の上は蔵人介の独断に任せる上役もどうかと……)

 それにしても、刺されても軽傷だったからと、自分で傷を縫いながら毒味役を務める蔵人介にはこちらもビックリ。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 関西鉄道の命運を賭けた高性能機関車・早風を導入したものの、その扱いに苦慮する島安次郎が出会った機関士・雨宮。扱いの難しい早風を滑らかに発車させる雨宮の技の秘密を知ろうとする安次郎ですが……

 と、日本の鉄道技術者の元祖ともいうべき安次郎を主人公とした連載第2回。前回は人命よりも定刻を重視する雨宮の姿に、正直全くついていけなかったのですが、今回の機関車発車を巡る展開は、きっちりと理詰めの内容が面白く、素直に感心しました。
 おまけページの様々な機関車に関する蘊蓄も楽しく、なかなか面白い存在になりそうです。

 しかしラストの主人公の選択は、仕方はないとはいえどうなのかなあ……


『鬼切丸伝』(楠桂)
 連載再開となった今回の題材は信長と本能寺の変。信長についてはこれまで連載化第1回に比叡山焼き討ちを、そして最近、天正伊賀の乱を題材に描いてきましたが、今回は後者のB面にして続編とでも言うべき内容であります。

 かつて伊賀の百地三太夫により、死して鬼と化す秘術を掛けられた少女・蓮華。彼女は鬼切丸の少年と出会い、一時の安らぎを得たものの、その秘術を求める信長により非業の死を遂げることとなりました。

 そして今回描かれるのは、その三太夫がそれとほぼ同時期に仕掛けた呪い――信長に対して無私の忠誠心を抱く森蘭丸は、死してなお信長に仕えるために、三太夫の誘いに乗ったのであります。
 そして訪れた本能寺の変。深手を負い、信長の眼前で鬼と化した蘭丸と少年は対峙するのですが――

 人間が人間を殺し、人間のものを奪う……ある意味人間と鬼の境目が現代以上に薄かった、戦国時代を中心とした過去の時代を舞台とする本作。その中でも信長は、一際鬼に近い存在として描かれてきました。
 しかし今回のエピソードのラストで信長が見せた想い、それはまさしく人間ならではのものであり、人間を冷笑し、鬼を斬る少年をして愕然とさせるものでありました。

 ラストの少年の表情が強く心に残る本作、冒頭に述べたとおり充実の今号においても、個人的に最も印象に残った作品であります。


 長くなりますので続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年3月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年3月号 [雑誌]


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2017.02.20

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その一)

 入門者向け時代伝奇小説百選、今回は剣豪に並び伝奇ものの華である忍者を主人公とした作品の紹介。古今の名作のうち、5作品をまず紹介いたします。
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)

16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎) 【江戸】 Amazon
 忍者もの一番手は、忍者といえばこの方、という山田風太郎の忍法帖の第1作であります。

 家光か忠長か、徳川三代将軍を決するためのゲームの駒として選ばれた甲賀卍谷と伊賀鍔隠れ、各十名の死闘を描いた本作は、奇怪極まりない――それでいて医学的合理性を備えた――忍者たちのトーナメントバトルという、忍法帖の一つのスタイルを作った記念すべき作品。
 しかし本作が千載に名を残すのは、忍者たちの忍法合戦の面白さもさることながら、その非人間的な戦いの中で、権力者たちに翻弄される甲賀と伊賀の恋人たちの姿をも描き出した点でしょう。

 近年、『バジリスク』のタイトルで漫画化・アニメ化され、今なお愛されている不滅の名作であります。

(その他おすすめ)
『信玄忍法帖』(山田風太郎) Amazon
『忍者月影抄』(山田風太郎) Amazon


17.『赤い影法師』(柴田錬三郎) 【江戸】【剣豪】 Amazon
 柴錬が昭和30年代の忍者ブームに参戦した本作は、実に作者らしい、剣豪ものの側面も色濃く持つ作品であります。

 三代将軍家光の御前で行われたという寛永御前試合。この十番勝負に出場した二十人の武芸者たちの死闘が本作の縦糸ですが、横糸となるのは、その勝者を襲って拝領の太刀を奪う謎の忍者の存在であります。
 その正体は、伝説の忍者「影」の娘と、服部半蔵の間に生まれた若き天才忍者「若影」。ただ己の腕のみを頼みとし、強者との戦いの中にのみ己の存在を見出す彼の姿は、いかにも柴錬らしい独特の乾いた美意識に貫かれています。

 ちなみに本作には、大坂の陣を生き延び隠棲している真田幸村と猿飛佐助も登場。そのカッコ良さはファン必見です。

(その他おすすめ)
『猿飛佐助 真田十勇士』(柴田錬三郎) Amazon


18.『風神の門』(司馬遼太郎) 【戦国】 Amazon
 その活動初期に伝奇的な作品を発表していた司馬遼太郎。本作は忍者ブームに発表された、天才忍者・霧隠才蔵の活躍を描く長編です。

 徳川と豊臣の決戦が迫る中、どちらにつくでもなく飄々と暮らす才蔵。ある時、人違いから襲撃を受けた彼は、それがきっかけで東西の忍者たちの暗闘の世界に巻き込まれることになります。
 そんな中、才蔵はかつては宿敵であった猿飛佐助の主君・幸村と出会い、己の主と仰ぐのですが――

 才蔵を己の技を売って生きる自由闊達な男と設定し、痛快な活躍を描く本作ですが、そんな彼の自由は孤独と背中合わせ。自由であることの光と陰を背負った彼の姿は、同時に極めて現代的であり、だからこそ魅力的なのです。

(その他おすすめ)
『梟の城』(司馬遼太郎) Amazon


19.『真田十勇士』(全5巻)(笹沢左保) 【戦国】 Amazon
 大河ドラマの題材にもなり、今なお人気の真田幸村と、その配下・十勇士。そんな十勇士を描いた中でも決定版が本作です。

 智将・真田幸村一の臣である猿飛佐助が、幸村の股肱の臣たるべき勇士を求めて諸国を巡る発端から、十勇士集結、豊臣・徳川の開戦、そして凄絶な決戦からその結末に至るまでを描いた本作。
 設定自体は極めてオーソドックスではありますが、しかし十勇士たちをはじめとするキャラクターの個性、そして物語展開は、名手ならでは、というべきさすがの内容。何よりも、十勇士たち一人一人が背負った過去、あるいは彼らが出会う事件それぞれが、みな実に伝奇色濃厚で、さながら戦国意外史の感すらある作品です。


20.『妻は、くノ一』シリーズ(全10巻)(風野真知雄) 【江戸】 Amazon
 市川染五郎と瀧本美織主演でドラマ化もされた作者の代表作にして、一味も二味も違うユニークな忍者活劇であります。

 たった一月の新婚生活の後に姿を消した妻・織江を追って江戸にやってきた、ちょっと変わり者の平戸藩士・雙星彦馬。
 実は織江は藩を探る公儀のくノ一、任務で彦馬に近づいたのですが、そうと知らず彦馬は彼女を探す毎日。そして彦馬を愛してしまった織江も、やがて抜け忍となることを決意して――

 彦馬が出会う市井の事件の謎解きを縦糸に、織江が忍びとして繰り広げる苦闘を横糸に、濃厚な伝奇風味を隠し味とした本作。愛し合うカップルの苦難に満ちた冒険が、どこかユーモラスで、そして暖かい、作者ならではの筆致で描かれる名品です。

(その他おすすめ)
『消えた十手 若さま同心徳川竜之助』(風野真知雄) Amazon
『私が愛したサムライの娘』(鳴神響一) Amazon


今回紹介した本
甲賀忍法帖  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)赤い影法師 (新潮文庫)風神の門 (上) (新潮文庫)真田十勇士 巻の一 (光文社文庫)妻は、くノ一 (角川文庫)


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 「風神の門」上巻 自由人、才蔵がゆく
 「風神の門」下巻 自由児の孤独とそれを乗り越えるもの
 「妻は、くノ一」 純愛カップルの行方や如何に!?

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2017.02.05

吉川景都『鬼を飼う』第2巻 異形の人情譚と骨太の伝奇物語と

 昭和初期の薄暗い時代を舞台に、この世のものならざる「奇獣」の存在を巡り、帝大生・鷹名をはじめとする様々な人々の運命が交錯するユニークな物語の第2巻であります。奇獣商・四王天と、彼と行動を共にする美少女アリスの正体は、鷹名との因縁は……その一端がここで明かされることとなります。

 不思議な美少女・アリスに誘われ、本郷の「四王天鳥獣商」なる店に足を踏み入れた鷹名と友人の司。そこで扱われているのは、通常の鳥獣とは異なる存在――神話や伝説に登場するような妖怪・精霊・神獣の類である「奇獣」でありました。
 鷹名は、そこで主の四王天から「鬼」を飼うのを勧められたのをきっかけに、司とともに奇獣を巡る様々な事件に巻き込まれていくことになります。

 その一方で、東京で頻発する奇獣絡みの事件の頻発に新聞記者が興味を持ち、さらにその背後では奇獣の対処に当たる特高の特殊部隊の暗躍が――


 という基本設定を見れば、なかなかにハードな伝奇物語を想像させられますが、そうした色彩は持ちつつも、それだけに留まらず、本作は同時に様々な顔を見せることになります。
 現在のところ、本作では短編連作的スタイルで奇獣にまつわるエピソードが展開していくのですが、そこで描かれるのは、時に恐ろしく、時に哀しく、そして時に微笑ましく、時にすっとぼけた、バラエティに富んだ物語なのです。

 そもそも、「奇獣」自体がバラエティに富んだ存在。一口に奇獣とまとめられていても、実体を持たぬ存在もいれば、生物としての生態を持つものもおり、自分の意思を持つかも怪しい存在もいれば、あたかも人間のように考え行動する者もいるのですから。
 それだけに奇獣たちにまつわる物語は千差万別。特にこの巻に収録された、間の抜けた化け狐・葛の枝のエピソードなど、むしろ作者が得意としてきた猫や動物もののコメディに通じる楽しさがあります。

 しかしその中で共通するのは、奇獣と人間の関わりであることは間違いありません。その意味で本作は一種の人情もの的側面を持つのですが、その人間たちも、また千差万別であります。
 そして鷹名たちが登場せず、全く別個の登場人物たちが奇獣とか関わるエピソードも少なくなく、彼らと奇獣の関わりもまた本作の魅力であります(特に、大人の粋な女を気取りながらもお人好しさが抜けない女給さんのキャラクターなど実にイイ)。


 そうした物語を描きつつも、本作は次第にそれらを貫く背骨の存在を明らかにしていくこととなります。
 上で述べたように、あまりにも千差万別の存在である「奇獣」。しかし、その奇獣たちに一つの共通点があるとすれば……この巻で描かれる、鷹名の里帰りのエピソードでは、思わぬ形でその秘密が明らかにされることとなります。

 裏世界に通じ、未だに得体の知れぬ存在である四王天。しかしそんな彼と常に行動を共にするアリスもまた、あどけない美少女であるだけに、より一層、得体の知れぬ存在でもあります。
 そんなアリスに懐かれている鷹名が背負った思いもよらぬ過去と因縁……その中身は読んでのお楽しみですが、ここに来て本作のタイトルに、全く別の新たな意味が与えられたことには興奮を隠せません。


 そしてそんな秘密が明かされる一方で、静かに進行していく何者かの思惑。奇獣を狙い、奇獣を用いるその何者かに引き寄せられるように、鷹名と司が、四王天とアリスが、そして特高が新聞記者が、それぞれに動き、そして近づいていく――
 この巻の時点ではまだ決定的なものは見られないものの、いずれ彼らの運命が大きく交錯していくことは必定。その時にこの奇獣を巡る物語がどのような全貌を現すのか?

 奇獣にまつわる、バラエティに富んだ異形の人情譚と、謎と秘密に彩られた骨太の伝奇物語と……そのどちらの顔も魅力的で、どちらの顔も気になる物語であります。


『鬼を飼う』第2巻(吉川景都 少年画報社ヤングキングコミックス) Amazon
鬼を飼う 2巻 (ヤングキングコミックス)


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