2017.02.22

『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)

 乱ツインズの3月号は、新連載やゲスト作品はありませんが(強いて言えば『勘定吟味役異聞』と同時掲載の『そば屋幻庵』がゲスト?)、その掲載作品はむしろ充実の一言。印象に残った作品を挙げるだけで、相当な分量になってしまいました。

『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)
 水野忠邦を暗殺しようとした相手が、旧知の甲府勤番だった男・矢代田平内と知った蔵人介ですが、平内の仇と勘違いされ、ドテっ腹を刺されて……

 という前回を受けての後編、事件の黒幕があまりにも短慮で、いかにもな悪人なのは、まあこの作品らしいのかもしれませんが、平内を友と呼んで仇討ちに向かう蔵人介の姿はやはりグッとくるものがあります。
(しかし明らかにどうしようもない悪人とはいえ、形の上は蔵人介の独断に任せる上役もどうかと……)

 それにしても、刺されても軽傷だったからと、自分で傷を縫いながら毒味役を務める蔵人介にはこちらもビックリ。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 関西鉄道の命運を賭けた高性能機関車・早風を導入したものの、その扱いに苦慮する島安次郎が出会った機関士・雨宮。扱いの難しい早風を滑らかに発車させる雨宮の技の秘密を知ろうとする安次郎ですが……

 と、日本の鉄道技術者の元祖ともいうべき安次郎を主人公とした連載第2回。前回は人命よりも定刻を重視する雨宮の姿に、正直全くついていけなかったのですが、今回の機関車発車を巡る展開は、きっちりと理詰めの内容が面白く、素直に感心しました。
 おまけページの様々な機関車に関する蘊蓄も楽しく、なかなか面白い存在になりそうです。

 しかしラストの主人公の選択は、仕方はないとはいえどうなのかなあ……


『鬼切丸伝』(楠桂)
 連載再開となった今回の題材は信長と本能寺の変。信長についてはこれまで連載化第1回に比叡山焼き討ちを、そして最近、天正伊賀の乱を題材に描いてきましたが、今回は後者のB面にして続編とでも言うべき内容であります。

 かつて伊賀の百地三太夫により、死して鬼と化す秘術を掛けられた少女・蓮華。彼女は鬼切丸の少年と出会い、一時の安らぎを得たものの、その秘術を求める信長により非業の死を遂げることとなりました。

 そして今回描かれるのは、その三太夫がそれとほぼ同時期に仕掛けた呪い――信長に対して無私の忠誠心を抱く森蘭丸は、死してなお信長に仕えるために、三太夫の誘いに乗ったのであります。
 そして訪れた本能寺の変。深手を負い、信長の眼前で鬼と化した蘭丸と少年は対峙するのですが――

 人間が人間を殺し、人間のものを奪う……ある意味人間と鬼の境目が現代以上に薄かった、戦国時代を中心とした過去の時代を舞台とする本作。その中でも信長は、一際鬼に近い存在として描かれてきました。
 しかし今回のエピソードのラストで信長が見せた想い、それはまさしく人間ならではのものであり、人間を冷笑し、鬼を斬る少年をして愕然とさせるものでありました。

 ラストの少年の表情が強く心に残る本作、冒頭に述べたとおり充実の今号においても、個人的に最も印象に残った作品であります。


 長くなりますので続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年3月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年3月号 [雑誌]


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2017.02.20

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その一)

 入門者向け時代伝奇小説百選、今回は剣豪に並び伝奇ものの華である忍者を主人公とした作品の紹介。古今の名作のうち、5作品をまず紹介いたします。
16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎)
17.『赤い影法師』(柴田錬三郎)
18.『風神の門』(司馬遼太郎)
19.『真田十勇士』(笹沢佐保)
20.『妻は、くノ一』シリーズ(風野真知雄)

16.『甲賀忍法帖』(山田風太郎) 【江戸】 Amazon
 忍者もの一番手は、忍者といえばこの方、という山田風太郎の忍法帖の第1作であります。

 家光か忠長か、徳川三代将軍を決するためのゲームの駒として選ばれた甲賀卍谷と伊賀鍔隠れ、各十名の死闘を描いた本作は、奇怪極まりない――それでいて医学的合理性を備えた――忍者たちのトーナメントバトルという、忍法帖の一つのスタイルを作った記念すべき作品。
 しかし本作が千載に名を残すのは、忍者たちの忍法合戦の面白さもさることながら、その非人間的な戦いの中で、権力者たちに翻弄される甲賀と伊賀の恋人たちの姿をも描き出した点でしょう。

 近年、『バジリスク』のタイトルで漫画化・アニメ化され、今なお愛されている不滅の名作であります。

(その他おすすめ)
『信玄忍法帖』(山田風太郎) Amazon
『忍者月影抄』(山田風太郎) Amazon


17.『赤い影法師』(柴田錬三郎) 【江戸】【剣豪】 Amazon
 柴錬が昭和30年代の忍者ブームに参戦した本作は、実に作者らしい、剣豪ものの側面も色濃く持つ作品であります。

 三代将軍家光の御前で行われたという寛永御前試合。この十番勝負に出場した二十人の武芸者たちの死闘が本作の縦糸ですが、横糸となるのは、その勝者を襲って拝領の太刀を奪う謎の忍者の存在であります。
 その正体は、伝説の忍者「影」の娘と、服部半蔵の間に生まれた若き天才忍者「若影」。ただ己の腕のみを頼みとし、強者との戦いの中にのみ己の存在を見出す彼の姿は、いかにも柴錬らしい独特の乾いた美意識に貫かれています。

 ちなみに本作には、大坂の陣を生き延び隠棲している真田幸村と猿飛佐助も登場。そのカッコ良さはファン必見です。

(その他おすすめ)
『猿飛佐助 真田十勇士』(柴田錬三郎) Amazon


18.『風神の門』(司馬遼太郎) 【戦国】 Amazon
 その活動初期に伝奇的な作品を発表していた司馬遼太郎。本作は忍者ブームに発表された、天才忍者・霧隠才蔵の活躍を描く長編です。

 徳川と豊臣の決戦が迫る中、どちらにつくでもなく飄々と暮らす才蔵。ある時、人違いから襲撃を受けた彼は、それがきっかけで東西の忍者たちの暗闘の世界に巻き込まれることになります。
 そんな中、才蔵はかつては宿敵であった猿飛佐助の主君・幸村と出会い、己の主と仰ぐのですが――

 才蔵を己の技を売って生きる自由闊達な男と設定し、痛快な活躍を描く本作ですが、そんな彼の自由は孤独と背中合わせ。自由であることの光と陰を背負った彼の姿は、同時に極めて現代的であり、だからこそ魅力的なのです。

(その他おすすめ)
『梟の城』(司馬遼太郎) Amazon


19.『真田十勇士』(全5巻)(笹沢左保) 【戦国】 Amazon
 大河ドラマの題材にもなり、今なお人気の真田幸村と、その配下・十勇士。そんな十勇士を描いた中でも決定版が本作です。

 智将・真田幸村一の臣である猿飛佐助が、幸村の股肱の臣たるべき勇士を求めて諸国を巡る発端から、十勇士集結、豊臣・徳川の開戦、そして凄絶な決戦からその結末に至るまでを描いた本作。
 設定自体は極めてオーソドックスではありますが、しかし十勇士たちをはじめとするキャラクターの個性、そして物語展開は、名手ならでは、というべきさすがの内容。何よりも、十勇士たち一人一人が背負った過去、あるいは彼らが出会う事件それぞれが、みな実に伝奇色濃厚で、さながら戦国意外史の感すらある作品です。


20.『妻は、くノ一』シリーズ(全10巻)(風野真知雄) 【江戸】 Amazon
 市川染五郎と瀧本美織主演でドラマ化もされた作者の代表作にして、一味も二味も違うユニークな忍者活劇であります。

 たった一月の新婚生活の後に姿を消した妻・織江を追って江戸にやってきた、ちょっと変わり者の平戸藩士・雙星彦馬。
 実は織江は藩を探る公儀のくノ一、任務で彦馬に近づいたのですが、そうと知らず彦馬は彼女を探す毎日。そして彦馬を愛してしまった織江も、やがて抜け忍となることを決意して――

 彦馬が出会う市井の事件の謎解きを縦糸に、織江が忍びとして繰り広げる苦闘を横糸に、濃厚な伝奇風味を隠し味とした本作。愛し合うカップルの苦難に満ちた冒険が、どこかユーモラスで、そして暖かい、作者ならではの筆致で描かれる名品です。

(その他おすすめ)
『消えた十手 若さま同心徳川竜之助』(風野真知雄) Amazon
『私が愛したサムライの娘』(鳴神響一) Amazon


今回紹介した本
甲賀忍法帖  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)赤い影法師 (新潮文庫)風神の門 (上) (新潮文庫)真田十勇士 巻の一 (光文社文庫)妻は、くノ一 (角川文庫)


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 「風神の門」上巻 自由人、才蔵がゆく
 「風神の門」下巻 自由児の孤独とそれを乗り越えるもの
 「妻は、くノ一」 純愛カップルの行方や如何に!?

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2017.02.05

吉川景都『鬼を飼う』第2巻 異形の人情譚と骨太の伝奇物語と

 昭和初期の薄暗い時代を舞台に、この世のものならざる「奇獣」の存在を巡り、帝大生・鷹名をはじめとする様々な人々の運命が交錯するユニークな物語の第2巻であります。奇獣商・四王天と、彼と行動を共にする美少女アリスの正体は、鷹名との因縁は……その一端がここで明かされることとなります。

 不思議な美少女・アリスに誘われ、本郷の「四王天鳥獣商」なる店に足を踏み入れた鷹名と友人の司。そこで扱われているのは、通常の鳥獣とは異なる存在――神話や伝説に登場するような妖怪・精霊・神獣の類である「奇獣」でありました。
 鷹名は、そこで主の四王天から「鬼」を飼うのを勧められたのをきっかけに、司とともに奇獣を巡る様々な事件に巻き込まれていくことになります。

 その一方で、東京で頻発する奇獣絡みの事件の頻発に新聞記者が興味を持ち、さらにその背後では奇獣の対処に当たる特高の特殊部隊の暗躍が――


 という基本設定を見れば、なかなかにハードな伝奇物語を想像させられますが、そうした色彩は持ちつつも、それだけに留まらず、本作は同時に様々な顔を見せることになります。
 現在のところ、本作では短編連作的スタイルで奇獣にまつわるエピソードが展開していくのですが、そこで描かれるのは、時に恐ろしく、時に哀しく、そして時に微笑ましく、時にすっとぼけた、バラエティに富んだ物語なのです。

 そもそも、「奇獣」自体がバラエティに富んだ存在。一口に奇獣とまとめられていても、実体を持たぬ存在もいれば、生物としての生態を持つものもおり、自分の意思を持つかも怪しい存在もいれば、あたかも人間のように考え行動する者もいるのですから。
 それだけに奇獣たちにまつわる物語は千差万別。特にこの巻に収録された、間の抜けた化け狐・葛の枝のエピソードなど、むしろ作者が得意としてきた猫や動物もののコメディに通じる楽しさがあります。

 しかしその中で共通するのは、奇獣と人間の関わりであることは間違いありません。その意味で本作は一種の人情もの的側面を持つのですが、その人間たちも、また千差万別であります。
 そして鷹名たちが登場せず、全く別個の登場人物たちが奇獣とか関わるエピソードも少なくなく、彼らと奇獣の関わりもまた本作の魅力であります(特に、大人の粋な女を気取りながらもお人好しさが抜けない女給さんのキャラクターなど実にイイ)。


 そうした物語を描きつつも、本作は次第にそれらを貫く背骨の存在を明らかにしていくこととなります。
 上で述べたように、あまりにも千差万別の存在である「奇獣」。しかし、その奇獣たちに一つの共通点があるとすれば……この巻で描かれる、鷹名の里帰りのエピソードでは、思わぬ形でその秘密が明らかにされることとなります。

 裏世界に通じ、未だに得体の知れぬ存在である四王天。しかしそんな彼と常に行動を共にするアリスもまた、あどけない美少女であるだけに、より一層、得体の知れぬ存在でもあります。
 そんなアリスに懐かれている鷹名が背負った思いもよらぬ過去と因縁……その中身は読んでのお楽しみですが、ここに来て本作のタイトルに、全く別の新たな意味が与えられたことには興奮を隠せません。


 そしてそんな秘密が明かされる一方で、静かに進行していく何者かの思惑。奇獣を狙い、奇獣を用いるその何者かに引き寄せられるように、鷹名と司が、四王天とアリスが、そして特高が新聞記者が、それぞれに動き、そして近づいていく――
 この巻の時点ではまだ決定的なものは見られないものの、いずれ彼らの運命が大きく交錯していくことは必定。その時にこの奇獣を巡る物語がどのような全貌を現すのか?

 奇獣にまつわる、バラエティに富んだ異形の人情譚と、謎と秘密に彩られた骨太の伝奇物語と……そのどちらの顔も魅力的で、どちらの顔も気になる物語であります。


『鬼を飼う』第2巻(吉川景都 少年画報社ヤングキングコミックス) Amazon
鬼を飼う 2巻 (ヤングキングコミックス)


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2017.01.17

『コミック乱ツインズ』 2017年2月号

 リイド社の『コミック乱ツインズ』誌の2月号は、新連載が池田邦彦『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』、連続企画の池波正太郎時代劇スペシャルは原秀則『恋文』という、なかなか意外性のある内容。今回も、印象に残った作品を一作品ずつ紹介していきたいと思います。

池波正太郎 時代劇スペシャル『恋文』(原秀則&篁千夏&池波正太郎)
 というわけで毎回作品と、それ以上に作画者のチョイスに驚かされる企画ですが、今回はその中でも最大クラスの驚きでしょう。ラブコメ・恋愛ものを得意としてきた原秀則が初めて時代漫画を描くのですから。

 ある日、想いを寄せていた足袋問屋の娘・おそのから付け文を受け取った丁子屋奉公人の音松。親の縁談を嫌がり、自分を連れて逃げて欲しいという内容に、待ち合わせ場所に向かった音松ですが、しかしいつまでも彼女はこない。
 それもそのはず、その付け文は、店の同僚とその仲間が音松をからかうために書いた偽物。しかし、真に受けた音松が店の掛取り金を持ち逃げしていたことから、思わぬ惨劇が……

 という前半から、後半のおそのの復讐劇と大きく動いていく物語を、作画者はこれが初時代漫画とは思えぬ達者な筆致で描写。特にキャラクター一人ひとりのデザイン、そして浮かべる表情が実に「らしい」のに感心させられます。
 特に絶品なのは、後半の主人公となるおそのの描写。思わぬ運命の変転に巻き込まれた彼女、無口な箱入り娘に過ぎなかった彼女が見せる思わぬ強さ、怖さ、逞しさを、浮かべる表情一つ一つの変化で浮かび上がらせるのには、お見事としか言いようがありません。


『エイトドッグス  忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 トーナメントバトルの華ともいうべき敵味方のリスト(死亡者に×印がつく)が表紙でいよいよテンションがあがる忍法合戦。そのリストから里見方・服部方二名づつが消え、八玉も二つまでが村雨姫の手に戻ったものの、まだまだ圧倒的に不利な状況。
 追い詰められた村雨姫の前に現れたのは、胡散臭い香具師の男と、娘姿の美青年で――

 というわけで登場した当代の犬山道節と犬塚信乃ですが、他の八犬士同様、この二人もお家に対する忠義心は薬にしたくともない奴らですが……いや、彼らにないのはあくまでも「お家に対する」忠義心。再び村雨姫を追い詰める服部忍軍の外縛陣に対し、道節が立ち上がることとなります。

 ここで驚かされるのは原作では無名だった道節の忍法に名前が付いた点で……というのはさておき、これは原作どおりの名セリフとともに道節が必死の働きを見せるシーンは、彼がなんともすっとぼけた表情だけに、大いにインパクトがあったところです。


『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 武士として仇討をするため、不破刀と別れを告げた末、ついに怨敵・多々羅玄地の潜む巌鬼山神社に到着した怨ノ介。その前に現れたのは、不破刀とは瓜二つの少女――当代の玄地の娘でありました。
 父に代わり仇討ちを受けて立つという娘とは戦うことができず逃げ出した怨ノ介の前に現れたのは、以前出会った無頼漢・倦雲で……

 というわけでクライマックスも目前となった本作、前回描かれた日本刀そもそもの由来にまつわる物語……伝説の刀鍛冶・鬼王丸の物語が再び思わぬ形でクローズアップされ、怨ノ介と多々羅玄地の因縁に繋がっていくのには驚かされますが、しかし真に驚かされるのはその先にある、玄地の真実。
 何故彼が怨ノ介の家を滅ぼしたのか……一見通俗的な時代劇めいた御家騒動に見えたその背後にあった真実の無常さ、異常さを何と評すべきでしょうか。

 というわけでここに来て一気に物語の構図が逆転したのにはただただ絶句させられますが、それだけに最後に描かれる当代玄地の姿はちょっと残念なところ。……いや、それもこの異常な「機関」が生み出したものというべきでしょうか。この永久継続の地獄にいかに怨ノ介が挑むのか。結末が楽しみです。
(そして今回もさらりと深いことを呟く倦雲がまたイイのです)

 その他、新連載の『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)は、鉄道黎明期の私鉄という非常にユニークな題材の物語ですが、個人的にはちょっと登場人物の思考についていけないものがあった……という印象。
 また『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治)は、原作の「後は知らない」の漫画化。依頼の金額の大きさから標的の強さを悟り、闘志を燃やす梅安というのは、この作画者ならではのビジュアルだなあ……と感心いたしました。


『コミック乱ツインズ』2017年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 02 月号 [雑誌]


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2017.01.11

畠中恵『おおあたり』 嬉しくも苦い大当たりの味

 『しゃばけ』シリーズも昨年末で15周年、そして本作で15作目……その記念すべき作品であります。「兄や達の心配も絶好調」という公式サイトの言葉はちょっとどうかと思いますが、しかし今回もやっぱり病弱な若だんなを中心に、そ今回は様々な「大当たり」をテーマに、5つの物語が描かれるます。

 今日も今日とて病弱の若だんな。しかし何とか自分の父の、店の仕事を手伝うべく頑張ろうとするものの、兄や達は若だんなを心配して過保護にするばかり。
 そんな中、若だんなの周囲でおかしな事件、妖絡みの事件が起きて……

 というのが本シリーズの大まかなシチュエーションですが、本作も基本的には同様の展開。しかしここしばらくの作品に通じるスタイルとして、一冊を貫くモチーフ、テーマが設定されています。
 それがタイトルともなっている「大当たり」なのですが……もちろん、その意味するところは様々であり、それが収録作品のバラエティに繋がっていることも言うまでもありません。

 第一話『おおあたり』で描かれるのは、若だんなの親友・栄吉の大当たりであります。
 菓子屋の跡取りとして生まれながら、菓子作りの腕は壊滅的な栄吉。そんな彼にも許嫁ができ、店を継ぐために他の店で修行中だったのですが、甘味ではなくあられを作ってみたらこれが美味いと大当たり。しかしこれがきっかけで、色々と面倒な出来事が――

 作る菓子のあまりの不味さが、最近ではほとんどネタ的な扱いをされていた(実は本作のラストでそれは最高潮に達するのですが)栄吉。その彼が、目指すところとは少々ずれているとはいえ、ようやく大当たりを掴んだとくれば、これは喜ぶべきことでしょう。
 しかし、それが喜びだけではなく――いやそれどころかむしろ逆のものを――連れてくるという展開に表れているのは、決して甘いばかりではない本シリーズの一つの側面。冒頭からガツンと重い一発を食らわされた印象であります。


 以降、第二話以降も、様々な形の、決して嬉しいばかりではない「大当たり」が描かれていくことになります。

 獏が化けた落語家・場久が高座で語った大当たりの悪夢――何者かに追われる男の夢が現実を侵食するように、彼や日限の親分が何者かに追われる『長崎屋の怪談』
 貧乏神の金次が偶然手に入れた富くじの引札が三百両の大当たり、それに周囲の人々が群がってきた上に、実はその引札に偽物疑惑までもが持ち上がる『はてはて』
 幼い若だんなの守役として子供姿で遣わされた仁吉と佐助が、ギクシャクしながらも事件に巻き込まれた若だんなを救うため協力する過去の物語『あいしょう』
 長崎屋の客人を接待するため、猫股が持ってきた怪しげな秘薬を飲んで頑張ろうとする若だんなと、その供に誰がついていくかで妖たちが大騒動を引き起こす『暁を覚えず』

 正直なところ、「あいしょう」のみはどの辺りが「大当たり」かわかりづらく、本書の中では異彩を放っているのですが、ここは若だんなと兄やたち、兄やたちと長崎屋の妖たちの出会いを描くエピソード0的性格の番外編と考えるべきでしょうか。

 それはさておき、本作で様々な形で現れる「大当たり」――一見めでたいものと感じられる言葉が、様々な意味をもって物語に現れ、人と妖を振り回していく様に満ちている賑やかさ・楽しさ、そして皮肉さ・苦さは、このシリーズの味わい、魅力をこれ以上なく浮かび上がらせていると感じます。


 15周年を迎えても作中時間の流れ方は緩やかである本シリーズ。それでも着実に時が流れていることは、シリーズに登場する若者たち――若だんな、栄吉、松之助の三人を見ればわかります。
 本作においてはそれぞれの形で時間の流れを経験し、体現した若だんなたちですが、この先彼らがどのようにこの先の時を過ごしていくのか。

 変わらないのが良いのか、変わっていくのが良いのか……そんなことを感じさせる本作の内容は、一つの節目の年、節目の作品に、あるいはふさわしいものと言うべきかもしれません。


『おおあたり』(畠中恵 新潮社) Amazon
おおあたり


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 しゃばけ
 「ぬしさまへ」 妖の在りようと人の在りようの狭間で
 「みぃつけた」 愉しく、心和む一冊
 「ねこのばば」 間口が広くて奥も深い、理想的世界
 「おまけのこ」 しゃばけというジャンル
 「うそうそ」 いつまでも訪ね求める道程
 「ちんぷんかん」 生々流転、変化の兆し
 「いっちばん」 変わらぬ世界と変わりゆく世界の間で
 「ころころろ」(その一) 若だんなの光を追いかけて
 「ころころろ」(その二) もう取り戻せない想いを追いかけて
 「ゆんでめて」 消える過去、残る未来
 「やなりいなり」 時々苦い現実の味
 「ひなこまち」 若だんなと五つの人助け
 「たぶんねこ」 若だんなと五つの約束
 『すえずえ』 若だんなと妖怪たちの行く末に
 畠中恵『なりたい』 今の自分ではない何かへ、という願い

 『えどさがし』(その一) 旅の果てに彼が見出したもの
 『えどさがし』(その二) 旅の先に彼が探すもの
 「しゃばけ読本」 シリーズそのまま、楽しい一冊

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2016.12.28

廣嶋玲子『妖怪の子預かります 3 妖たちの四季』 大き過ぎる想いが生み出すもの

 ふとしたことから妖怪たちの子供の預かり屋となってしまった人間の少年・弥助を描くシリーズも、好評を反映してかかなりのペースで刊行され、もう第3弾。この巻では弥助はちょっと脇に回り、彼を取り巻く妖怪や人間たちを主役とした短編集といったスタイルで物語は展開します。

 妖怪たちの子を預る妖怪・うぶめの住処を壊したため、罰としてうぶめの代わりに子預かり屋となり、その努力が認められて正式に子預かり屋となった弥助。
 引っ込み思案だった性格も妖怪相手にはだいぶ改善され、前作ではあまりにも哀しく辛い事件もあったものの、養い親である元大妖怪の千弥に見守られ(というか溺愛され)、元気に暮らしております。

 と、そんな弥助と千弥が、夏も近い時期に花見に誘われて……というのが第一話「桜の森に花惑う」。前作で登場した、人間の魂大好きの妖猫姫・王蜜の君の持つ異界の山に咲き乱れる桜見物に行くことになった二人ですが、そんな彼らの後を人間の若者・久蔵がついてきてしまって――

 と、第一話の主人公の一人は、弥助たちに何かとちょっかいを出してくる脳天気な久蔵が主人公。どうしようもないドラ息子で弥助からは毛嫌いされながらも、根は善人の久蔵が、どんなおっかない目に遭わされるのかと思いきや……なんとそこで彼を待っていたのは思わぬロマンス。
 あまりに意外な組み合わせに(特に久蔵の身の上が)心配になりつつも、何とも微笑ましく、思わずニヤニヤしてしまいたくなるような甘い甘い展開が楽しい物語です。

 この第一話と、弥助大好きの子供妖怪・津弓と梅吉の他愛ない意地の張り合いが妖怪奉行・月夜公の屋敷で大騒動を引き起こす第二話「真夏の夜に子妖集う」と、コミカルなエピソードが続き、本作はこの方向性で行くのかな、と思いきや、正反対のベクトルなのが第三話「紅葉の下に風解かれ」であります。

 弥助のことを母のように姉のように何くれとなく気遣う兎の妖・玉雪。小妖ながら彼女が立派な栗林がある山を持っているのは何故か、彼女の過去とともに語られるのですが――ここで描かれるのは、ある意味実に作者らしい、悍ましくも恐ろしく、しかし切なくも暖かい物語なのであります。

 凶悪な妖に襲われた子供を捜して彷徨う玉雪が山で出会った少年。たった一人孤独に暮らす彼には、周囲の人間を次々と不幸にしていく力があったのです。
 果たしてその力の源は何なのか。少年を救うべく奔走する玉雪が見たものは、凄まじくも哀しい因縁と愛の姿でありました。

 時に容赦なくこの世界の、そこに生きる者の負の側面をえぐり出し、読者の前に突きつけてみせる作者の作品。
 しかしそこにあるのは、悪趣味に、面白半分に恐怖を扱うのではなく、その中にどうにもならぬ人の業と、大き過ぎる想いが生み出した悲しみを見つめ、そしてその中に小さな希望を見出そうという姿勢であります。

 この第三話も、もちろんその系譜に属するもの。玉雪の物語がより大きな物語に重なる結末も美しく、個人的には本作の中で最も好きな物語です。

 そして大きすぎる想いのすれ違いが生み出した悲劇といえば、第四話「冬の空に月は欠け」を忘れるわけにはいきません。このエピソードで描かれるのは、千弥と月夜公の過去――かつては無二の親友であった二人の出会いと決別を描く物語なのですから。

 共に妖の世界で屈指の力と美しさを持ち、それ故に他者を拒絶し孤独に生きてきた二人。そんなある意味似たもの同士であった二人が如何にして互いを認め合い、己にとって欠くべからざる存在として想い合うようになったのか。
 そしてその二人が何故激しく憎み合い、その果てに千弥は己の力の源たる眼を捨て、月夜公は癒えぬ傷を負うことになったのか――

 ここで描かれるのは、他者が決して及ばぬほどの力を持ちながらも、それ故に大きすぎる哀しみを背負う者たちの姿であり、そしてそこに秘められた美しい真情の姿であります。
 人とはかけ離れた妖の妖たる存在にも、人にも負けぬ想いがある……それは哀しくも、一つの救いでもあるように感じられるのです。


 そんな千弥の唯一の救いである弥助が、こともあろうに彼のことを忘れてしまうという大変な物語であるラストの「忘れじの花菓子」が、ちょっとあっさりしすぎた内容なのが少々勿体ないのですが、本作がシリーズの、そして作者の魅力が一杯に詰まった作品集であることは間違いありません。
 まだまだシリーズは続くとのこと、この先も大いに期待できそうです。


『妖怪の子預かります 3 妖たちの四季』(廣嶋玲子 創元推理文庫) Amazon
妖たちの四季 (妖怪の子預かります3) (創元推理文庫)


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2016.12.27

山口貴由『衛府の七忍』第3巻 新章突入、南海の守護者と隻腕の武士と

 治国平天下大君として天下に圧政を敷き、まつろわぬ民たちを駆り立てる家康の「覇府」に対して立ち上がった七人の「衛府」よりの使者・怨身忍者たちの活躍を描く本作も、はや単行本第3巻。葉隠谷のカクゴと現人鬼・波裸羅、二人の宿命の激突の行方は、そして南海に出現する新たなまつろわぬ民とは――

 真田の遺臣の娘・伊織を守り、家康に戦いを挑むため旅を続けるカクゴ。怨身忍者・零鬼の力を持つ彼に対して幕府が刺客として差し向けたのは、常人を超えた美貌と暴力性を備えた両性具有の怪人、現人鬼・波裸羅であります。
 カクゴ同様、霞鬼に変身する力を持ちながらも家康に与する彼は、自らを囮にカクゴらを誘き寄せる策(しかも全裸の女に化けて牛裂きの刑にかけられるという無茶すぎる策)に出ることになります。

 まんまとその罠にはまったカクゴは、幕府の忍者と壮絶な忍法合戦を繰り広げた末にこれを退けたものの、正体を現した波裸羅の圧倒的な力に追い詰められることに。
 そしてさらに二人に迫るは、やはり家康に与する吉備津彦命の配下、お伽話の登場人物(?)たちから取られた外見と能力を持つ奇怪な累人たちの群れ。圧倒的な力を持つ敵の前に二人が絶体絶命となる中、波裸羅の行動は――


 いきなりラスボス級の存在である波裸羅様の登場、それもある意味因縁の相手であるカクゴとの対決と、見どころ満載となったこの「霞鬼編」。
 「衛府の七忍」の一人であることは間違いないものの、これまで(?)以上に奔放無頼の存在と化した波裸羅様、それもあろうことか権力側に与してしまった彼が、本当に衛府の同志となるのか?

 これまで以上に先が読めないエピソードですが、蓋を開けてみれば、強大かつ奇怪な敵とカクゴが繰り広げる死闘を存分に描きつつ、波裸羅の凄みと、彼の変身いや変心を説得力を持って描く展開に大いに納得であります。(それにしても、今日び「頭に”忍法”って付いているから忍法なの!」的な技の数々を見ることができるとは……)

 特に波裸羅が終盤で取る行動については、その理由をあからさまに描くことなく、それでいて彼ならばこそと思わせてくれるのが素晴らしい。
 彼ならではの孤高の美学と、それ以上に彼もまたまつろわぬ民、人々に圧政を敷く者と、その下でさらに弱き者たちを虐げる者たちによって虐げられてきた者の一人なのだと……そのキャラクターを崩すことなく描いてみせたのには脱帽であります。

 もっとも、だからといって彼がおとなしくカクゴや伊織と行動と志を共にするとも考えられないのですが……それはこの先のお楽しみでしょう。


 そしてこの巻の後半からスタートするのは第五章というべき「霹鬼編」。「霹」といえば、本作のモチーフである『エクゾスカル零
』においては美少年・九十九猛が装着した強化外骨格の名ですが――
 本作に登場するのはその姿を一変させた野性味溢れる美青年、琉球の九十九御城の護り手、ニライカナイの戦士たる猛丸であります。

 ……なるほど、これまで時の権力に虐げられる数々のまつろわぬ民たちを描いてきた本作ですが、この時代の琉球人ほどそれに相応しい――という表現を使ってよいのかは悩ましいところですが――人々はいないでしょう。
 本作における最大の敵たる徳川幕府(だけ)ではなく、島津家の圧政の下にあった琉球。本作はその琉球の民を描くに当たり、さらなるドラマを用意しています。

 本作の舞台は大坂の陣の直後。これまでの章でも豊臣家残党を巡る物語が幾度となく描かれてきましたが、今回登場するのはその首魁ともいうべき豊臣秀頼……生きていた秀頼が薩摩に落ち延びたという説は有名ですが、本作はさらにその先の琉球にまで到着していたという設定であります。
 そして何よりも驚かされるのは、その秀頼に仕える隻腕の武士の存在。その名は犬養幻之介――そう、あの『シグルイ』の藤木源之助をモチーフとした青年武士であります。

 いわゆるスターシステムを採っている本作において、源之助の登場は意外ではないと言えばその通りですが、しかしやはり元作品で彼の辿った運命を考えれば、気にならないわけがありません。それも、今回も仕える主君が明らかに暗君と来れば――

 この巻における猛丸との出会いが、果たして幻之介に何をもたらすことになるのか……そして猛丸に何をもたらすのか。今から次の巻が大いに気になるではありませんか。


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衛府の七忍(3)(チャンピオンREDコミックス)


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2016.12.25

真田丸ロスに送る時代小説5選+α

 このブログで取りあげることこそありませんでしたが、私も毎週楽しみにしていた大河ドラマ『真田丸』。先週ついに最終回を迎えてしまったため、真田丸ロス状態の方もいらっしゃるかと思いますが、そんな方のために時代小説・歴史小説のオススメ5選+αを紹介いたします。

 まず取りあげたいのは①『真紅の人 新説・真田戦記』(蒲原二郎)。
 大坂の陣で信繁の下に加わり、真田丸で戦った少年・佐助の目から見た大坂の陣を描いた作品であります。

 本作は物語・キャラクター自体の面白さもさることながら、特筆すべきは作中で描かれた道明寺の戦い(後藤又兵衛の最後)の新解釈が、ドラマの方でも同様の解釈が採用された点でしょう。
(ちなみに主人公、実はドラマでも人気だったあの武将の子であります)


 続いてはドラマでも明確には描かれなかった大坂の陣の「その後」を意外な切り口で描いた②『秀頼、西へ』(岡田秀文)。
 幸村が秀頼を連れて薩摩に逃れたという有名な伝説を題材に、秀頼とともに薩摩に向かう真田大助の逃避行を描く一種の歴史ミステリです。
 歴史小説と同時にミステリの方面でも評価の高い作者だけに、誰も信じられなくなる終盤のどんでん返しの連続はただ圧巻であります。

 なお、秀頼生存説については百数十年後を舞台にその真実を描いた『真田手毬唄』(米村圭伍)、また大坂の陣から数十年後の真田家(信之)と幕府の暗闘を描いた活劇『斬馬衆お止め記』(上田秀人)も面白い作品です。


 そしてドラマでも幸村とともに大活躍した後藤又兵衛の壮絶な戦いを描いたのが③『生きる故 「大坂の陣」異聞』(矢野隆)。
 生きるために大坂城に入った孤独な少年と又兵衛の交流から、死に花を咲かせるために戦いを繰り広げる最後の武人の姿が鮮烈に浮かび上がります。

 ちなみに本作、ドラマの方を意識していると明言されていますが、登場する幸村は、なるほどドラマのキャラクターのネガ像ともいうべき存在でなかなか強烈です。

 また、同じく五人衆を描いた作品としては、毛利勝永を主人公とした数少ない作品である『真田を云て、毛利を云わず 大坂将星伝』(仁木英之)も必読です。


 残る2作品は、せめてフィクションの世界では真田の痛快な活躍を読みたい、というところで伝奇性の強い作品を。

 まず④『柴錬立川文庫』(柴田錬三郎)は短編連作形式で九度山隠棲時代から大坂の陣に至るまでの真田幸村と勇士たち、そして周囲の英傑たちの姿を一人一話で描いてみせた名作。
 有名な史実・巷説を題材にしつつ、それを大胆に脚色して描き、短編ながらそれぞれ長編並みの密度を持つ作品であります。

 ちなみに同じ作者の『赤い影法師』は、その十数年後の寛永御前試合を舞台にした忍者ものですが、「実は生きていた」幸村と佐助が登場、またこれがえらく格好良いのでおすすめ。

 最後にドラマ(というかプロモーション)の方ではダメな感じながら、最終回で奇跡の出演を遂げた十勇士を描いた作品を。
 フィクションでは異能のヒーローとして描かれる彼らが大暴れするのが⑤『黄金の犬 真田十勇士』(犬飼六岐)であります。

 これまでも様々な作品で描かれてきた十勇士ですが、本作の彼らは忠誠心はどこへやら、戦国を自由気ままに放浪する一人一芸の豪傑たちという設定。
 とんでもない報酬と引き替えに大坂方(幸村)に手を貸す彼らの姿には、反骨のヒーローとしての真田(十勇士)像の最新アップデート版と言うべきものとして感じられます。


 おまけ。面白いけど真田丸ファンが読んだら卒倒しそうな作品の双璧は『徳川家康(トクチョンカガン)』(荒山徹)と『わが恋せし淀君』(南條範夫)でしょう。

 影武者家康が引き起こす大波乱を描く前者に登場する幸村は歴史に名を残すことに凝り固まった一種のサイコパス。大坂の陣の頃にタイムスリップしてしまった現代人を主人公とした後者に登場する淀君はほとんどサークルクラッシャー……
 と、ドラマをはじめ従来の人物像を粉砕する描写にひっくり返ること必至であります(が、もしかして……とも思わされたりもあったりして)


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 「真田手毬唄」 手毬唄に浮かぶ希望
 「斬馬衆お止め記 御盾」 抜かれた伝家の宝刀

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 南條範夫『わが恋せし淀君』 ギャップの先のリアリティ

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2016.12.20

『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』誌2017年1月号の作品紹介のその二であります。

『すしいち!』(小川悦司)
 今回は鯛介はお休みで、おりんが主役を務めるエピソード。かつて亡き父に連れられて来ていた浅草寺の御開帳に来た彼女が、晩年仲違いしてしまった父のことを思い出しているうちに不思議な寿司屋と出会って……という物語であります。

 その寿司屋の名は「聖寿司」。そして職人の眉間には膨らみが……と、まさか○○様が寿司を! という展開にはひっくり返りました。
 が、既にこの物語の時点で浅草では採れなくなっていた浅草海苔が……というのは物語的にも料理的にもうまい絡め方で、またそれがおりんと父の思い出に繋がっていくのには、ただお見事というべきでしょう。


『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 村雨姫の懇請に応え、奪われた八玉を奪還するために始まった犬士たちと、服部のくノ一たちの忍法合戦第一番の後半戦が描かれる今回。
 己を影に変える忍法「摩羅蝋燭」で二人のくノ一を打ち、このまま一気に全員を抜くか……という勢いの犬坂毛野の活躍が描かれることとなりますが、いや、やはりハッタリの効いた忍法合戦は良いものです。

 しかし服部忍軍の総帥たる半蔵の前にはさしもの毛野も苦戦必死、そして多勢に無勢の果てに……という展開は、これもまた忍法帖の美学でしょう。無頼の男たちが、純粋無垢な聖姫のために死地に赴くという本作の基本構造は、今回も美しく描き出されます。

 と、敵味方はイーブンとなったものの、敵の追っ手に追いつめられた村雨姫。そこに救いの手をさしのべたのは、美しい外見に似合わぬ鉄火な口調の美少女(?)と剽げた外見の男で……という、実にニクい引きで次回に続きます。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 政宗の生涯でも最悪の事件である父・輝宗の死を描く一連のエピソードも今回でひとまずのラストとなります。

 畠山義継に捕らえられ、息子の夢を守るために自ら死を選んだ輝宗と、怒りに燃えて敵を鏖殺した政宗(義継への振る舞いにはちょっと引きますが……)。
 それで全てが終わったわけではなく、政宗は、そして畠山方も報復戦を決意。しかしそれ以上に、ようやく和解できたかに見えた政宗の母は、政宗に対して恐るべき疑念を――

 というドシリアスな展開が続くのですが、そんな中でまさしく一世一代のとんでもないギャグをぶちかました輝宗が全てを持って行った感があります。いや、ここでこのネタを持ってくるのにはある意味感心。


 その他、『江戸怪盗記』(大島やすいち&池波正太郎)は、ここしばらく『剣客商売』を漫画化してきた作者が鬼平と外道盗人・葵小僧の対決を描く、というのが目を引く作品。が、葵小僧の造形はなかなか面白いものの、絵的にも構成的にもかなり苦しいというのが正直な印象でした。

 そして次号で池波正太郎を漫画化するのは何と原秀則。いやはや、全く予想もしていなかった組み合わせであります。


『コミック乱ツインズ』2017年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年1月号 [雑誌]


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2016.12.19

『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その一)

 今年最後の(号数で言えば来年最初の)、そして創刊14周年の『コミック乱ツインズ』誌の紹介であります。恒例の池波正太郎原作作品は大島やすいちの『江戸怪盗記』、ゲスト読み切りは速水螺旋人の『鬼と兵隊』と、この雑誌らしいバラエティの豊かさであります。今回も、特に印象に残った作品を紹介しましょう。

『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 父親の商売敵に捕らえられ、あわや落花狼藉のヒロイン・紅を救うべく走る聡四郎は……という緊迫の展開。
 ですが、その結末がいささかすっきりしない上に(原作でもそうだったかしらん)、後半は静かな展開が続くのが、個人的には少々残念な印象であります。

 にしても、怒りに任せて自分から破落戸を叩き斬りに行く主人公や、敵方の豪快な策略など、最近の原作者の作品ではあまり見られない展開で、妙なところで感心してしまいました。


『鬼と兵隊』(速水螺旋人)
 冒頭で紹介した今回の特別読み切りですが、ミリタリー漫画家がどのような作品を……と思いきや、本作もやはりミリタリーもの、しかし何ともゆるくて暢気な味わいの物語です。

 第二次大戦中の中国大陸で、「鬼(おばけ)」に出会ってしまった一人の日本兵。何故か日本軍の砦に行きたいというおばけに対し、彼は自分もおばけだと偽って連れて行くことになります。
 砦に着くや、おばけを捕まえたと大声を上げる兵隊ですが、仲間たちが見たのは――

 という本作、何故おばけが砦にやってきたか、という理由が何ともおかしくもちょっと哀しいのですが、オチも含めて何とも微笑ましい感触。これが時代劇か、いやもはやこの時代の物語も時代劇なのだ、などと堅いことを言うことなく楽しみたい作品です。
 ちなみに本作のベースとなっているのは中国の怪奇小説集『捜神記』の「売鬼」という物語。前半は意外なくらい原典を活かした内容となっており、こちらを知っていると楽しさも倍増であります。


『怨ノ介 Fの佩刀人』(玉井雪雄)
 怨敵・多々羅玄地を北へ北へ追ってきた怨ノ介の旅も、出羽国月山に到着。そこで彼は何者かに追われる刀鍛冶の男と同行することになるのですが、男が持っていた舞草刀も魔刀の一つでありました。
 その男に関わるなという不破刀の言葉も聞かず、逆にこれからは武士の仇討ちだからと不破刀(の魔女)と別れを告げる怨ノ介。そして再び現れた刀鍛冶の追っ手と対峙した彼が知る意外な真実とは――

 これまでのどこかゆるい雰囲気とは一転、ほとんどシリアス一辺倒の今回。初めて不破刀を手にした時にはてんで素人だった怨ノ介も、既にいっぱしの剣士として行動することになるのですが……しかし物語は、彼の復讐譚を超えた域に踏み込んでいく様子を見せます。
 刀鍛冶の男が語る伝説の刀鍛冶・鬼王丸――鬼と刀の物語は何を意味するのか。鬼とは、魔刀とは何なのか。一方でその問いかけは、怨ノ介自身の物語にも深く繋がっていくこととなります。

 朧気ながら敵の真実、巨大な怨念の姿が見えてきたようにも思えますが、果たして魔女と別れた怨ノ介はこの怨念に打ち勝つことができるのか。クライマックスは目前でしょうか。


 またもや長くなってしまいましたので、二回に分けたいと思います。


『コミック乱ツインズ』2017年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年1月号 [雑誌]


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