2017.05.23

玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第2巻 復讐の果てに待つ「システム」の姿

 親友と信じていた男に全てを奪われた男・怨ノ介が、人の命を食らう魔刀の化身である美少女とともに繰り広げる、復讐と魔刀狩りの物語の完結編であります。怨敵の潜む地にたどり着いた怨ノ介を待っていた意外な真実――日本刀の起源にまつわる怨念のメカニズムと対峙することとなった怨ノ介の運命は?

 かつてはとある藩の藩主でありながら、親友と信じていた男・多々羅玄地に欺かれて身分を、国を、全てを奪われた末に無残に年老いた怨ノ介。
 死を目前とした時、美しい少女が憑いた謎の刀・不破刀を手にした彼は、怨念により「冥府魔刀」と化した刀とその持ち主を斬ることと引き換えに一時的に若さを取り戻し、その力で以って玄地を追う旅に出ることになります。

 そんな本作の第2巻で描かれるのは、玄地が故郷である津軽に潜むことを知り、決着を着けるために一路北に向かう怨ノ介の姿。
 しかしもちろん、その途中の旅も平穏無事で済むわけがありません。病で倒れたところを不破刀を盗まれ、上意討ちで揺れるさる藩の暗部に巻き込まれ、強者を求めて悪事を働く破天荒な男に絡まれ――と、トラブルの連続であります。

 そんな単発エピソードの連続である前半を経て、後半では、いよいよ怨ノ介と玄地の対峙が描かれることになるのですが――しかし、そこで物語は、思いもよらぬ姿を見せることになります。

 津軽に入る直前、津軽の巌鬼山神社に魔刀を封じるという月山鍛冶の一団と出会い、彼らが奉じる全ての刀鍛冶の祖・鬼王丸こそが多々羅玄地であることを知った怨ノ介。
 しかし神社で彼を待っていたのは、「多々羅玄地」と、不破刀と瓜二つの姿を持つ玄地の娘――ここに至り、物語は怨ノ介個人の復讐行から、日本刀の起源に、そしてそこから始まる恐るべき怨念と復讐の連鎖を語るものへと変貌していくのであります。


 全てを奪われた男の復讐行というのは、古今東西の物語に幾度も現れるモチーフであり、時代劇においても数多く描かれてきたことは言うまでもありません。
 本作もその系譜に属するものではありますが――しかし本作は、その物語のためのガジェットと思われた魔刀の存在に光を当てることで、ある種の歴史ものとしての真の顔を見せることになります。

 そもそも本作において、(一種メタな視点での)最初の、最大の疑問は、何故怨ノ介が老人として登場するのか――言い換えれば、復讐に着手するまでに長いブランクがあるのか、ということでした。
 それはもちろん、怨ノ介が不破刀を手に魔刀使いと戦い、相手の命を奪うための理由付けではあるのですが、しかし本作は怨ノ介が「玄地」と対峙するクライマックスにおいて、長き時間に渡る怨念の存在を、全く意外な形で繰り返し、裏返して見せるのです。

 この壮大などんでん返しは、ぜひ実際にご覧いただきたいのですが、ここで浮かび上がるのは、一種の「システム」とでも言うべきもの。連載時に本作を追ってきた身であっても、その凄まじい構図は、圧巻と言うほかありません。

 そしてそれを踏まえて読み返してみれば、改めて様々な発見がある物語であります。
 たとえば、このクライマックスに至るまでの単発エピソードの多くにおいて描かれてきたのは、形こそ違え「システム」に囚われ、磨り潰されていく者たちであったこと。そしてそれだからこそ、本作のラストを飾る人物は「彼」であるべきことなど……


 わずか2巻という分量にもかかわらず、その中でジャンルの定型を超えた物語を描いてみせた本作。この作者ならではの、精緻な、そして壮大な物語であります。


『怨ノ介 Fの佩刀人』第2巻 (玉井雪雄 リイド社SPコミックス) Amazon
怨ノ介 Fの佩刀人 2 (SPコミックス)


関連記事
 玉井雪雄『怨ノ介 Fの佩刀人』第1巻 復讐鬼と刀剣女子の死闘旅……?

| | トラックバック (0)

2017.05.22

風野真知雄『歌川国芳猫づくし』 老いたる国芳を通して描かれたもの

 近年では猫を得意とした浮世絵師としてすっかり知名度が上がった感がある歌川国芳。当然、フィクションへの登場回数も高まっているのですが、本作はその中でもなかなかユニークかつ内容豊かな作品。国芳が巻き込まれた様々な事件を通じて、晩年の彼の姿を描く連作であります。

 様々なスタイルの作品を意欲的に書き続けている作者ですが、その中で最も大きなウェイトを占めるのは、江戸の町を舞台にユーモアとペーソス溢れるタッチで描かれるライトミステリであります。本作も当然、その路線に属するもの……と思いきや、それは半分当たり、半分はずれというべきでしょうか。

 まず本作の基本設定を見てみれば、舞台となるのは黒船が来航した嘉永6、7年――国芳の生涯から考えれば晩年というべき時期。
 本作の国芳は既に浮世絵師として確たる名を挙げ、多くの弟子を抱えつつも、病気の妻を抱え、そして何よりも自分自身の絵師としての衰えぬ熱意から、今も絵を描き続ける毎日を送る人物として描かれます。

 体力など自らの衰えを認め、自分がこの世を去る日が遠くないことを予感しつつも、なおも血気盛んで極めて人間臭い、そして相変わらず猫大好きの国芳。本作は、そんな彼の周囲で起きた事件を描く7つの物語から構成されています。

 消えた猫の一匹を探すうちに、国芳の身近な人物の思わぬ秘密が浮かび上がる「下手の横好き」
 かつて描いた金魚の船頭の絵を執拗に欲しがる男に国芳が振り回される「金魚の船頭さん」
 ある日家に転がり込んできた北斎の娘・お栄を巡る切ない物語「高い塔の女」
 持病があると国芳を避ける義母と、国芳の間の複雑な想いを描く「病人だらけ」
 若き日の芳年と円朝が夜毎の下駄の足音に悩まされる姿を描く「からんころん」
 殺人事件に出くわした国芳と広重が思わぬ形で探偵対決することとなる「江ノ島比べ」
 自殺した八代目団十郎の幽霊騒ぎの中で、絵師と役者、それぞれの業が描かれる「団十郎の幽霊」

 ご覧いただければおわかりかと思いますが、ここで描かれる七つの物語は、いずれも「事件」と「謎」が描かれるものの、いわゆるミステリのそれとは少々異なる趣を持ちます。
 事件性が小さい、あるいは「日常の謎」的な内容がほとんどなこともありますが、実は本作で重点が置かれているのは、謎解きではありません(必ずしも国芳が謎を解くわけでもなく、ましてや謎が完全に解けないエピソードすらあります)。本作において描かれるのは、これらの事件と謎を前にして様々な感慨を抱く、老いたる国芳の姿なのですから。

 いかにも江戸っ子らしく喧嘩と火事を愛し、御政道に逆らうような作品を幾つも描いてきた鼻っ柱の強さを持つ国芳。その一方で、自分の周囲にお上の手の者がうろつけば心配になり、義母との複雑な関係に悩んだり、若い女弟子に鼻の下を伸ばしたりと人間としての弱さを同時に持つ人物として、彼は描かれることになります。
 絵師として、人間として、男として……そのゴールが近づく彼の姿を、本作は、一風変わった事件と謎を通じて浮き彫りにするのであります。

 そこに漂うのは、先に述べたとおり、作者ならではのユーモアとペーソス。その二つを味付けに、国芳だけでなく、この世に生きる人間たち全てがついついやってしまう愚行を、ついつい見せてしまう弱さを、作者は優しく描き出すのです。
 そんな作者のまなざしは、作者が得意とするライトミステリにおいて描かれるそれと寸分も違うことはありません。半分当たり、半分外れというのはこうした意味においてのものなのであります。


 国芳という人間臭い男を中心に、お栄や広重、芳年や円朝といった実在の人物、そしてその他の架空の人物を通じて、この時代の空気を描き出す。それと同時に、いつの時代にも変わらぬ人間の世界のほろ苦さと暖かさを描く……
 そしてそれに加え、おそらくは作者自身の姿にも重なり合う、芸術家の業、誇り、そして喜びをも描き出す本作。歴史作家としての作者の地力を感じさせてくれる一冊であります。


『歌川国芳猫づくし』(風野真知雄 文春文庫) Amazon
歌川国芳猫づくし (文春文庫)

| | トラックバック (0)

2017.05.18

『コミック乱ツインズ』 2017年6月号

 私は本や雑誌の発売日で日にちや曜日をカウントしてしまうところがあるのですが、この雑誌が出れば月も半ば、『コミック乱ツインズ』誌の6月号であります。巻頭カラーは叶精作『はんなり半次郎』、橋本孤蔵『鬼役』が連載四周年とのことですが、ここでは個人的に印象に残った作品を取り上げます。

『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 死闘の末、四つの珠を取り戻したものの、犬士も残すところわずか四人。しかも村雨姫までもが半蔵側の手に落ちたところで、最強の犬士・犬江親兵衛登場! となった本作。
 いかにも作者らしいイケメンの親兵衛は、最強の名に相応しい破天荒な力の持ち主(もっとも、やはり姫の前では形無しなのですが)。しかし彼をしても、姫が捕らえられてはその力を存分に振るえず――

 という状況で、さらに敵側の奸策により、八珠献上の日が一気に前倒しとなり、絶体絶命となった里見家。しかしここで大角の忍法により信乃が思わぬ人物に姿を変え、そしてついに最後の犬士・犬川荘助登場……と、物語はガンガン盛り上がっていきます。
 ラストページなど、テンションが一気に上がるのですが、さて次回の犬士の活躍は如何に……いよいよクライマックスであります。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 碓氷峠編の後編となる今回、島の説得で国鉄に移籍した凄腕機関士・雨宮が視察に向かったのは、急勾配で知られる日本一の難所・碓氷峠。そこで昔ながらの蒸気機関車で峠を越えることを誇りとする機関手・山村とその息子に雨宮は出会うのですが……

 鉄道という題材を扱いつつも、職人肌の雨宮を主人公の一人とすることで、一種の職人もの、人情ものとして成立している本作ですが、今回描かれる山村を巡る物語はまさにその味わいに満ちたエピソードであります。
 かつて愛妻を峠の列車事故で失いながらも、その妻の魂が見守ってくれると信じて蒸気機関車を走らせる彼にとって、島が計画する電気化は到底受け入れられないもの。しかし息子までもが、電気化に賛成してしまう彼の姿は、時代の流れというもので切り捨てられないものがあります。

 その彼の想いを誰よりも理解しつつも一つの選択を迫る雨宮と、彼らの前に現れる小さな奇蹟と……もの悲しい物語ではありますが、結末に描かれる小さな希望の姿が、その悲しみを癒してくれるのです。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 長かった信長鬼編も(おそらく)今回でラスト。といっても今回の主役は、前回同様、細川珠……そう、細川ガラシャであります。
 自分を討った光秀の血族を苦しめた末に根絶やしにすべく、最後の生き残りである珠のもとに出没し、彼女を鬼に変えんとする信長鬼。辛うじて踏みとどまってきた彼女も、ある事件がきっかけで鬼となりかけて――

 細川忠興に嫁ぎ、彼から深く愛されつつも、その一種偏執的な愛情に苦しみ、キリスト教に救いを求めた珠。この夫婦については、夫からお前はまるで蛇のようだと言われて「鬼の妻には蛇が相応しいでしょう」と答えたという有名な逸話がありますが、本作においては、その「鬼」という言葉に、重い意味が加わることとなります。
 何しろ本作の忠興は、点のように異様に小さい瞳孔という、明らかにヤバげな人物。むしろこちらが蛇なのでは……というこちらの印象は、しかし見事に裏切られることとなります。人であろうと鬼であろうと変わらぬ愛を描き出すことによって。

 しかし鬼の運命はなおも彼女に迫ります。。これも有名なその最期の時、ガラシャを襲ったあまりにも無惨な変化の前に、彼女もついに……と思われた時、さらに意外な展開が描かれることとなります。
 今回もラストで少年が見せる、驚愕と悲しみ、決意と様々な感情が入り混じった表情……それはかつての冷然とした表情とは全く異なるものであります。鬼に抗する人が見せた一つの奇蹟を前に、彼の心は変わっていくのか? 大いに気になるところです。


 そのほか、『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)は今回で最終回。前回の一大剣戟の末、辛うじて勝利を掴んだ聡四郎を待つ者は……ツンデレの恋人、ではなくて続編。再来月から次なる物語が開始とのことで、実にめでたいことであります。

 また、『はんなり半次郎』は、相変わらずの叶節。いくら何でもあれは自分が怪我するのではないでしょうか。どうでもいいですが。


『コミック乱ツインズ』2017年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年6月号 [雑誌]


関連記事
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』2016年12月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2016年12月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年2月号
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年5月号

| | トラックバック (0)

2017.05.17

鳴神響一『影の火盗犯科帳 3 伊豆国の牢獄』 「常世の国」に潜む悪を討て

 火付盗賊改役にして、甲賀忍び・影火盗組を配下とする山岡景之の活躍を描くシリーズ第3弾であります。江戸から消えた数多くの男女の行方を追う影火盗組が知った驚くべき陰謀。邪悪な企てを粉砕すべく死闘を繰り広げた影火盗組ですが、真の悪の正体は――

 年明け早々、江戸で流れる奇妙な噂を耳にした景之。出入りの豆腐屋、菓子屋の女将、うどん屋の娘……一見共通点の全くない人々が、同じ「常世の国」という言葉を残して姿を消したというのであります。
 探索に当たった影火盗組の面々が掴んだのは、様々な理由で人生に絶望した人々の前に謎の僧侶が現れ、何処かへ誘っていたという事実。早速、影火盗組の雄四郎と渚は、駆け落ち者を装って僧侶を誘き出し、「常世の国」に向かう船に乗り込むのですが、その先には恐るべき罠が。

 孤立無援の戦いを強いられることとなった雄四郎と渚を救うべく、後を追う光之進ら影火盗組。一方、江戸に残った景之は、側用人・大岡忠光から、大名や旗本に対し、法外に「安い」利息で金を貸す謎の商人の正体を追うことになるのですが、二つの事件は思わぬ形で交差して――


 火付盗賊改を主役に据えた作品は数多くある中で、独自の内容の魅力を持つ本シリーズ。それは、三つの要素から成り立っていると言えます。
 ほとんど伝奇的と言ってよいような大仕掛けの怪事件。忍び集団である影火盗組のメンバーのキャラ描写。そして法で裁けぬ悪に対し爆発する景之の怒り……本シリーズでなければお目にかかれないようなこれらの要素は、本作でも健在であります。

 まず第一の要素については、これはサブタイトルの時点である程度見えてしまうのですが、なかなか普通の火盗もの、奉行所ものでは登場しないような大掛かりな悪事に驚かされます。社会から身を隠すことを望む人間を食い物にする外道たち……という、それほど珍しくはないシチュエーションから、このような展開に持って行くとは、と感心しました。
 そしてその陰謀を粉砕するために影火盗組が繰り広げる戦いが、忍びならではのものでありつつも、しかし同時にきっちり派手な内容であるのも楽しいのです

 そして第二の要素として、本作で描かれるのは、影火盗組の若手・雄四郎のドラマであります。まだまだ術も心構えも他のメンバーに比べれば一枚劣る雄四郎が、光之進らへの劣等感を抱え、悩み苦しむ姿が、悪との戦いと平行して描かれていくことになります。
 まだまだ若いだけに弱さと悩みを抱えた雄四郎。彼の存在は、江戸の安寧のために活動する忍びといういかにもヒーロー然とした影火盗組が、決して超人ではなく、我々同様の人間であることを描き出す効果を挙げていると感じます。

 そして最後の要素ですが……火盗改役として現場に出張ることはあっても、配下に比べれば一歩引いた立場となる景之。しかし彼には、彼にしかできない戦いがあります。
 それは、将軍自ら声をかけられた火盗改役としての彼の立場を使っての戦い……それは時に政治的な腹の探り合いの場合もありますが、しかしラストではそんな配慮を抜きしての怒りを見せてくれるのがいい。

 もちろん、怒り任せに相手を叩き斬るような無法を行うわけではありませんが、しかし本作においては、景之の座右の銘と言うべき言葉が、思わぬ形で、しかしこの相手なればこそという形で相手の心を折るという展開で、思わず唸らされた次第です。


 と、そんな本作ならではの物語を楽しませていただいた一方で、いささか残念な点も二つほどあります。

 一つは、物語の派手さと入り組み具合に押されてか、雄四郎の物語が食い足りない印象であった点。もちろん彼の悩みが簡単に解決するものではないのは明らかですが、もう少し前に進ませてあげても良かったのでは……とは感じます。

 そしてもう一つは、シリーズ第三弾の本作が、「三部作完結編」とアナウンスされていること。いよいよ本シリーズならではのスタイルを確立してきたところで、ここで全体の完結ということであれば、それは大いに勿体ないと感じます。
 景之と影火盗組の更なる活躍を期待したい、まだまだ食い足りない……と言うほかありません。


『影の火盗犯科帳 3 伊豆国の牢獄』(鳴神響一 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
影の火盗犯科帳(三) (ハルキ文庫 な 13-5)


関連記事
 鳴神響一『影の火盗犯科帳 1 七つの送り火』 火盗にして忍者の捕物帳開幕!
 鳴神響一『影の火盗犯科帳 2 忍びの覚悟』 太平の世の忍び、正義の忍びの在り方

| | トラックバック (0)

2017.05.09

入門者向け時代伝奇小説百選 SF

 入門者向け時代伝奇小説百選、今回紹介するのはSF編。いずれもその作品ならではの独自の世界観を持つ、個性的な顔ぶれです。
36.『寛永無明剣』(光瀬龍)
37.『産霊山秘録』(半村良)
38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)
39.『大帝の剣』(夢枕獏)
40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)

36.『寛永無明剣』(光瀬龍)【江戸】【剣豪】 Amazon
 大坂の陣の残党を追う中、何故か柳生宗矩配下の襲撃を受けた北町奉行所同心・六波羅蜜たすく。一つの集落そのものを消し去り、幕府要人たちといつの間にかすり替わっているという謎の強大な敵の正体とは……

 と、歴史改変テーマの時代SFを数多く発表してきた作者の作品の中でも、完成度と意外性という点で屈指の本作。
 奇怪極まりない陰謀に巻き込まれた主人公の活躍だけでも、時代小説として実に面白いのですが、しかしそれだけに、中盤に物語の真の構図が明らかになるその瞬間の、一種の世界崩壊感覚は、本作ならではのものであります。

 そしてその先に待つのは、あまりにも途方もないスケールの秘密。まさに「無明」と呼ぶほかないその虚無感と悲哀は、作者ならではの味わいなのであります。

(その他おすすめ)
『多聞寺討伐』(光瀬龍) Amazon


37.『産霊山秘録』(半村良)【戦国】【江戸】【幕末-明治】 Amazon
 時代伝奇SF、いや伝奇SFの巨人とも言うべき作者の代表作である本作は、長き時の流れの中で、強大な超能力を持つ「ヒ」一族の興亡を連作形式で描く壮大な年代記であります。

 戦国時代に始まり、江戸時代、幕末、そして第二次大戦前後に至るまで……強大な異能を活かして、歴史を陰から動かしてきたヒの一族。高皇産霊尊を祖と仰ぐ彼ら一族の血を引くのは、明智光秀、南光坊天海、猿飛佐助、坂本竜馬、新選組……と錚々たる顔ぶれ。
 そんなヒの一族が如何に歴史に絡み、動かし、そして滅んでいくのかを描いた物語は、まさに伝奇ものの興趣横溢。最後にはアポロの月面着陸まで飛び出す奇想天外な展開には、ただ圧倒されるばかりなのです。

 そしてそんな物語の中に、生命とは、生きることとは何か、という問いかけを込めるのも作者ならではであります。


38.『TERA小屋探偵団 未来S高校航時部レポート』(辻真先)【江戸】【ミステリ】 Amazon
 アニメ界の生きる伝説であり、同時にミステリ、ジュブナイルを中心に活躍してきた作者が描いたジャンルクロスオーバーの快作であります。

 22世紀の未来から、享保年間にやってきた五人の高校生+顧問の航時部。彼らは、江戸に到着早々、二つの密室殺人事件に巻き込まれることになります。それぞれ個性的な能力を持つ彼らは特技を活かして事件解決に乗り出すのですが――
 とくれば、未来人が科学知識を活かして江戸時代で事件捜査を行う一種の時代ミステリになると思われますが、その先に待ち受けているのは、様々なジャンルが入り混じり、謎が謎呼ぶ物語。

 「過去」と「未来」が交錯するその先に、思わぬ形で開く「現在」への風穴にはただ仰天、齢八十を超えてなお意気衰えぬ作者が現代の若者たちに送る、まさしく時代を超えた作品であります。

(その他おすすめ)
『戦国OSAKA夏の陣 未来S高校航時部レポート』 Amazon


39.『大帝の剣』(夢枕獏)【江戸】【剣豪】 Amazon
 伝奇バイオレンスで一世を風靡した作者が、時代伝奇小説に殴り込みをかけてきた、記念すべき大作であります。

 主人公は日本人離れした容姿と膂力を持ち、背中に大剣を背負った巨漢・万源九郎。その剣を頼りに諸国を放浪する彼が出会ったのは、奇怪な忍びに追われる豊臣家の娘・舞。しかし彼女の体には、異星からやってきた生命体・ランが宿っていたのであります。
 かくて源九郎の前に現れるのは、徳川・真田両派の忍びに切支丹の妖術師、宮本武蔵ら剣豪、そして不死身の宇宙生物たち……!

 無敵の剣豪が強敵と戦うのは定番ですが、その敵が宇宙人というのはコロンブスの卵。そしてそこに「大帝の剣」を含む三種の神器争奪戦が絡むのですから、面白くないはずがありません。終盤には人類の歴史にまで物語が展開していく実に作者らしい野放図で豪快な物語です。

(その他おすすめ)
『天海の秘宝』(夢枕獏) Amazon


40.『押川春浪回想譚』(横田順彌)【幕末-明治】 Yahoo!ブックストア
 ハチャハチャSFを得意としながらも、同時に古典SF研究家として活動し、さらに明治時代を舞台としたSFを描いてきた作者。本作はその作者の明治SFの中心人物である実在のSF作家・押川春浪と、その弟子筋の若き小説家・鵜沢龍岳(こちらは架空の人物)を主人公とした短編集であります。

 明治時代の新聞の切り抜きを冒頭に掲げ、春浪自身が経験した、あるいは耳にした、この記事にまつわるエピソードを龍岳が聞くという聞くというスタイルの短編12篇を納めた本書は、いずれも現実と地続きの世界で起きながら、この世の者ならぬ存在がひょいと顔を出す、すこしふしぎな(まさにSF)物語ばかり。
 内容的にはあっさり目の作品も少なくないのですが、ポジでもネガでもない明治を、SFという観点から掘り起こしてみせたユニークな作品集です。

(その他おすすめ)
『火星人類の逆襲』(横田順彌) Amazon



今回紹介した本
寛永無明剣 (角川文庫)産霊山秘録 上の巻<産霊山秘録> (角川文庫)未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団 (講談社ノベルス)大帝の剣 1 (角川文庫)押川春浪回想譚 (ふしぎ文学館)


関連記事
 入門者向け時代伝奇小説百選

 「寛永無明剣」 無明の敵、無明の心
 『未来S高校航時部レポート TERA小屋探偵団』 未来の少年少女が過去から現在に伝えるもの
 夢枕獏『大帝の剣 天魔望郷編』 15年ぶりの復活編
 「押川春浪回想譚」 地に足の着いたすこしふしぎの世界

| | トラックバック (0)

2017.05.03

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第10巻 内憂外患に豪快に挑め!

 ついに単行本も二桁の大台に乗った本作。しかしまだまだ信長の目指すところは遠いどころか、内憂外患で尾張の命運は風前の灯火であります。迫る今川軍をいかに退けるか、そして乱れに乱れた織田家をいかに治めるか……そしてこの巻では、あの有名な逸話が本作らしい豪快さで描かれることになります。

 大洋での大冒険を終え、尾張に帰ってきた信長を待っていたもの。それはいよいよ尾張侵攻に乗り出さんとする今川義元と、父・信秀亡き後の家督を狙って動き出した弟・信勝と土田御前……すなわち尾張を巡る内憂外患であります。
 こんな状況にも動じぬ信長は、尾張の情勢視察に美濃の斎藤道三から送り込まれた明智光秀とともに、迫る今川軍に挑むのですが――


 その底抜けのカリスマと行動力で次々と不可能を可能にしていく信長ですが、絶対的な戦力差を、物量の違いをひっくり返すのはさすがに難しい。
 しかも国境を任せられた山口教継・教吉父子は、密かに今川家と内通を……と、これまた大変な状況ですが、しかしそれでもどうにかしてしまうのが、本作の信長の信長たる所以であります。

 光秀からあるものを借り受けた信長は、それを用いて一世一代の大芝居。山口父子に対しても、お前の心底はわかっていると言わんばかりに、しかし人を食った形で一睨み効かせるという、何とも豪快かつ爽快な形でこの危機を切り抜けるのであります。
 この辺り、冷静に考えると意外と小技を効かせた対応なのですが、それをそれと感じさせないのが作者の画の力。そしてもう一つ、敵方の見届け人として思わぬ男が登場したことが、かなりのアクセントとなっていることもあるでしょう。

 その男、義元の懐刀と呼ばれるその男の名は……岡部元信!
 なるほど、義元が今川家を継ぐ時から彼を支え、そして(ある意味ネタバレになりますが)その彼が討たれた後も、味方が総崩れになる中でただ一人織田軍に立ち向かい、痛撃を与えたこの人物ほど、懐刀と呼ぶに相応しい人物はいないでしょう。

 しかし本作の元信は、これがまた何とも人を食った男。飄々とした態度を崩さず、美しい娘を供に連れ、そして彼女といちゃつきながらも(本作に珍しいエロシーン)、不敵な眼差しを隠さない、これはこれで男の中の男というべきキャラクターなのであります。


 そんな将来の好敵手に見つめられつつも、意気揚々と引き上げてきた信長の次の相手は、家督を狙って暗躍を続ける織田家の魑魅魍魎ども。
 父・信秀の(影武者の)死に乗じて動き出した連中に、父の理想を汚されてなるものか! と決意を固めた信長のいわば宣戦布告が、葬儀の場で繰り広げられるのです。
(ちなみにここで語られる信秀の理想は、現代人の目から見た理想像過ぎてちょっと……)

 信長が父の葬儀で如何なる行動をとったか……これを知らない方は少ないでしょう。葬儀の場に相応しくない傾いた形で現れるや、祭壇に抹香を投げつけたというアレであります。
 ある意味、いかにも信長らしい逸話ですが、それを本作は如何に描いたか? 傾いた形は当然のこと、抹香も投げつけるのですが、その相手は、そして投げ方は……

 いやはや、これは是非実際にビジュアルで見ていただきたいのですが、なるほど本作であればこれくらいはやるだろう、というほかないビジュアルインパクト。
 凄すぎて笑ってしまうというのは、作者の作品にはままあることですが、今回ほどそれが当てはまる展開はない、としか言いようがありません。
(ビジュアルといえば、デカすぎる柴田勝家のインパクトも凄まじい)

 そして絵に描いたようなドヤ顔を見せる信長がその直後に向かうのは、もう一つの葬儀。その相手が誰かは伏せますが、こういう泣かせるシーンをさらりと入れてくるから、本作は好きなのであります。


 決戦の時まであと10年、まだまだ長い時間ではありますが、さてその間にどれだけ信長の豪快な大暴れが見られるのか。
 そしてそのエピソードをどう本作流に料理してくれるのか……ある意味油断のならない作品であります。

『いくさの子 織田三郎信長伝』第10巻(原哲夫&北原星望 徳間書店ゼノンコミックス) Amazon
いくさの子 ~織田三郎信長伝~ 10 (ゼノンコミックス)

関連記事
 「いくさの子 織田三郎信長伝」第1巻
 「いくさの子 織田三郎信長伝」第2巻 あまりにも原哲夫な…
 「いくさの子 織田三郎信長伝」第3巻 父と子の涙!
 「いくさの子 織田三郎信長伝」第4巻 風雲児、海へ!
 「いくさの子 織田三郎信長伝」第5巻 意外なヒロインと伝説の宝と
 『いくさの子 織田三郎信長伝』第6巻 立ちすぎたキャラクターの善し悪し
 原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第7巻 加速する現代の講談
 原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第8巻 さらばひげ船長! そして新たなる戦いへ
 原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第9巻 内憂外患、嵐の前の静けさ?

| | トラックバック (0)

2017.04.25

劇団ヘロヘロQカムパニー『犬神家の一族』 関智一の金田一だからこそできたもの

 先週末、劇団ヘロヘロQカムパニーの『犬神家の一族』を観劇してきました。言うまでもなく横溝正史の金田一耕助もの、かつて市川崑の映画版が大ヒットした、あるいは最も有名な金田一耕助もの……その原作を見事に舞台化した作品であります。

 これまで座長の関智一を金田一耕助役として、『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』『獄門島』と上演してきた劇団ヘロヘロQカムパニー(以下、「ヘロQ」)。残念ながら私はこれらの作品は観ていない……というよりヘロQ自体これが二度目の観劇なのですが、以前観た『魔界転生』がかなりの完成度だっただけに、期待を寄せていました。

 そしてまず結論を申し上げれば、これがかなりの完成度。決して短くはない原作を、3時間弱という上演時間の中でテンポよく消化し、過不足なく再現して見せてくれた快作であります。

 犬神佐兵衛翁の臨終の場面と、金田一のもとに依頼が届く場面を同じ舞台上で見せるという、いかにも演劇的な演出で始まる本作。
 その後のヒロイン珠世受難に代表されるような映像の投影を多用したケレン味たっぷりの演出も楽しいのですが、金田一役の関智一をはじめとする出演陣の演技もいい。

 私でも知っているようなメジャー声優の方々がメインを固めている舞台でしたが、声の演技とはまた異なる演技というものを、堪能させていただきました。
(特に三石琴乃は、登場してもしばらく気付かず驚かされました)

 その中でも関智一の金田一は、飄々とした浮き世離れした面と、明るい人懐っこさを感じさせる面がうまく同居しており、はまり役という印象。
 基本的にラストまで謎に振り回される(舞台の構造としては謎の整理役というべき)役どころながら、いるだけで不思議な安心感と好感を感じさせるのは、さすがは座長と言うべきでしょうか。


 それ以上に感心させられたのは、市川崑の映画版では省略された原作の要素の多くを、きっちりと再現している点です。
 その最たるものは、犬神家での第二の殺人のトリック(経緯)を省略せずに描いている点と、第三の殺人の犯行手段と見立ての説明でしょう。その他にも、クライマックスのある人物の逃走劇や、その人物が正体を隠していた理由なども、丹念に拾って再現しているのには、大いに好感が持てます。

 その一方で面白いのは、本作が映画版を思わせる演出を随所に取り込んでいる点でしょう。
 音楽や、特に佐清のマスクと喋りに代表されるキャラクターのビジュアルや芝居、さらにはとにかく走り回る金田一(目の前の通路を使うというのでそんな場面があったかな、と思いきや……)など、原作の展開と併存させる形で、使用しているのであります。

 原作への拘りからすると、この辺りは一見奇妙に見えるかもしれません。しかし『犬神家の一族』という物語のパブリックイメージの大半を形作っている映画版のそれに寄せることで、それしか知らない、あるいはパロディ等でしか本作を知らない方も入り込みやすい舞台を目指しているのではないか……という印象を私は受けました。
(この辺りは、『魔界転生』でも感じたところです)


 そして何よりも印象に残るのが、ラストシーンであります。本作のラストにおいては、やはり映画版を踏まえつつも、金田一と珠世の会話を通じ、物語の構造を――物語の中心となるある人物の想いを浮かび上がらせつつも、そこからの解放と未来への希望を明確に描き出すのです。

 金田一が、固陋な因習の、閉鎖的な共同体の破壊者であるというのは、しばしば言われるところではあります。

 本作はその構造を踏まえつつも、ラストシーンにおいてそれらを生み出したものの存在を浮き彫りにし、そしてそこからの解放を支える者としての金田一を描き出すことで、原作の描いていたものを、より明確に描いてみせたと言えるでしょう。
 そしてそれは、関智一の金田一だからこそできたもの……というように感じられます。


 さすがにラストの推理シーンは(事件の構造のためでもあるのですが)そこまでの快調なテンポが落ちる点、章立てながら休憩なしという点など、引っかかる部分が皆無ではないのですが――
 しかしそれを補ってあまりある舞台であった本作。これまでの作品も、そしてこれからの金田一ものも観てみたいと感じさせられた作品であります。


関連サイト
 公式ブログ

関連記事
 舞台「魔界転生」 おいしいとこ取りの魔界転生

| | トラックバック (0)

2017.04.24

霜月かいり『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 乙女幻遊奇』 丹翡の目から見た懐かしき好漢・悪党たち

 本編第二期に外伝の映像化と、この先の展開も楽しみな『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』。本作にはそれらの映像作品だけでなく、周辺作品にも気になるものが幾つも存在します。その一つがこの『乙女幻遊奇』……霜月かいりの美麗な絵により、「乙女」の視点から描かれた物語です。

 大悪人・蔑天骸により兄を討たれ、先祖代々守護してきた天刑劍を奪われた少女・丹翡。彼女が謎多き美青年・朱鳥こと凜雪鴉、そして西の果てから来た風来坊・殤不患と出会ったことから、この東離劍遊紀という物語は始まります。
 そして本作はその丹翡……すなわち乙女の視点から再構成された物語なのです。

 本来であれば、聖地から外の世界に出ることなく、天刑劍を守って暮らしたであろう丹翡。その彼女のお人好しぶり、世間知らずぶりは、本編でもしばしば描写されていました。
 そんな彼女の目に、海千山千の好漢・悪党が、彼らと共に繰り広げてきた冒険の数々がどのように映るものか……それはなかなか興味深いものであります。

 もちろん、こうした構造ゆえ、基本的な内容は本編のそれをなぞる以上のものはないわけですが(尤も、後半にはオリジナル妖魔も登場する本作独自のエピソードもあるのですが)、それはファンにとってはむしろ望むところでしょう。
 凜雪鴉が、殤不患が、捲殘雲が、あるいは殺無生や刑亥が、丹翡の目から見ることによって、おなじみの、それでいてこれまでとは少しだけ違う姿で見えてくるのですから――
(狩雲霄のみほとんど登場しないのは、凜雪鴉を除けば彼のみ真の顔を隠していたからでしょうか)

 そしてそれを描くのが霜月かいりとくれば、これはもう言うことなし。いや、個人的な趣味を言えば、殤不患はもう少しむさく……いや男臭く描いて欲しかったところですが、それはさておき、原作の賑やかですらある美形キャラの群舞を描くのに、これほど適任はおりますまい。
 そして、決して強くはない者が、傷つきながらも強くあろうとする姿、そしてその傍らに在る者が不器用に手をさしのべる姿は、実に作者の作品らしいと感じるのです。

 ただし、原作に強烈に漂っていた武侠ものの香り――己の腕と剣のみを頼りに江湖を渡り、冒険に命を燃やす連中の心意気とでも言うべきものが、やはりほとんど感じられないのは、これもまた本作の構造上全く仕方ないところですが、やはり少々残念ではあります。


 こうした点を踏まえて考えれば、やはり一種のファンアイテムであることは否めませんが……しかし本編終了から半年が過ぎ、少々寂しくなってきた頃に、またあの連中に会えるというのはやはり嬉しいもの。
 新作までの飢えを和らげる作品として、気軽に楽しめる一冊ではあります。

 そしてこの世界のビジュアルとは相性抜群の作者とは、新作の時にも何らかの形で関わって欲しいとも、強く感じた次第です。


『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 乙女幻遊奇』(霜月かいり&Thunderbolt Fantasy Project 秋田書店プリンセス・コミックスDX) Amazon
Thunderbolt Fantasy東離劍遊紀 乙女幻遊奇 (プリンセス・コミックスDX)


関連記事
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第1話「雨傘の義理」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第2話「襲来! 玄鬼宗」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第3話「夜魔の森の女」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第4話「迴靈笛のゆくえ」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第5話「剣鬼、殺無生」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第6話「七人同舟」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第7話「魔脊山」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第8話「掠風竊塵」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第9話「剣の神髄」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第10話「盗賊の矜恃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第11話「誇り高き命」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第12話「切れざる刃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その一)
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その二) と全編を通じて

| | トラックバック (0)

2017.04.19

『コミック乱ツインズ』2017年5月号

 今月も『コミック乱ツインズ』の時期となりました。今月号は、『そば屋幻庵』と『小平太の刃』が掲載されているほかは、レギュラー陣が並びますが、しかしそれが相変わらず粒ぞろい。今回も印象に残った作品を紹介いたします。

『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治時代、鉄道の黎明期に命を賭ける男たちを描く本作は今回から新エピソードに突入。島安次郎の懸命の説得に、国鉄に移籍した凄腕機関士・雨宮が、島の依頼で碓氷峠の視察に向かうことになります。

 碓氷峠といえば、その急勾配でつい最近まで知られた難所。現代ですらそうなのですから、蒸気機関車が運行されていたこの時代、その苦労はどれほどほどのものだったか……
 と、事故が相次ぐこの峠で奮闘する人々が登場する今回。雨宮が見せるプロの技が実にいいのですが、むしろ今回の主役はそんな現地の人々と感じさせられます。

 時代が明治、題材が鉄道と、本誌では異色の作品と感じてきましたが、一種の職人ものとして読めば全く違和感がないと、今更ながらに気付かされました。


『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 「梅安晦日蕎麦」の後編。彦次郎が、恩のある田中屋に依頼され、仕掛けることとなった容貌魁偉な武士・石川。その彼を尾行した梅安は、真の事情を知ることになって――
 と、腕利きの武士相手のの仕掛けを頼まれてみれば、その実、彼こそは……という展開は、この前に描かれたエピソード「後は知らない」と重なる点が大きくてどうかなあと思うのですが、これは原作もこうなので仕方がありません。

 しかしその点に目を瞑れば、魁偉な容貌を持つ者が必ずしも凶悪ではなく、優しげな容貌を持つ者が必ずしも善良ではないという物語は、梅安たち仕掛人という裏の「顔」を持つ者たちと重なるのはやはり面白い。
 そしてこの点で、男たちの顔を過剰なほどの迫力で描く作画者の作風とは、今回のエピソードはなかなかマッチしていたと感じます。
(その一方で、一件落着してから呑気に年越し蕎麦をすする二人の表情も微笑ましくていい)


『鬼切丸伝』(楠桂)
 まだまだ続く信長鬼編。今回のエピソードは明智光秀の娘・珠(細川ガラシャ)を主役とした前編であります。
 本能寺の変で鬼と化し、自らを討った光秀とその血族に祟る信長。血肉のある鬼というより、ほとんど悪霊と化した感のある信長は、最後に残された珠に執拗につきまとい、苦しめることに――

 というわけで、冷静に考えれば前々回のラストで鬼になったばかりなのに、何だかえらいしつこい印象のある信長ですが、さすがに魔王と呼ばれただけあって、鬼切丸の少年も、久々登場の鈴鹿御前も、なかなか決定打を繰り出せないのがもどかしい。
 そんな中、口では否定しても少しずつ珠を、人間を守る方向に心を動かしつつある少年の「人間にしかできぬ御技で呪いに打ち勝て!!」という至極真っ当な言葉に感心してみれば、それが事態を悪化させるとは――

 この国の魔はこの国の神仏にしか滅せぬという概念には「えっ!?」という気分になりましたが(『神の名は』『神GAKARI』は……<それは別の作品)、そろそろ信長とも決着をつけていただきたいところです。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 ついに残すところあと2回となった本作ですが、今回はラス前にふさわしい大殺陣というべき展開の連続。敵の本拠とも言うべき金吹き替え所に乗り込んだ聡四郎を待つのは、紀伊国屋文左衛門が雇った11人の殺し屋……というわけで、ケレン味溢れる殺陣が連続するのが実にいい。

 同じ号に掲載された『そば屋幻庵』が静とすればこちらは激しい動、これくらい方向性が異なれば気持ちがいいほどですが、さてその戦いも思わぬ形で妨害を受けて、さあどうなる次号! というところで終わるのは、お約束とはいえ、やはり盛り上がるところであります。


『コミック乱ツインズ』2017年5月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年 05 月号 [雑誌]


関連記事
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2016年11月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』2016年12月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2016年12月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』2017年1月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年2月号
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年3月号(その二)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)
 『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)

| | トラックバック (0)

2017.04.15

フカキショウコ『鬼与力あやかし控』 内与力、裁けぬ悪を斬る

 古今東西、いつの世も尽きないのは法では裁けない悪人の存在。しかし悪人がいればそれを倒すヒーローもいる……というわけで、表で裁けぬ悪を、妖怪になぞらえて始末する町奉行所の内与力を主人公とした連作シリーズであります。

 江戸南町奉行として江戸の治安を守る根岸鎮衛。その彼が、様々な怪異譚を含む珍談奇談を記した随筆『耳袋』の著者であることをご存じの方も多いでしょう。
 本作の主人公は、その根岸の内与力・鬼山……役人とは思えぬような傾いたなりの優男で、市井で怪事件があれば全て妖怪の仕業にしてほったらかしにしてしまうことで、奉行所内で悪名を轟かせている人物であります。

 しかし昼行灯は仮の姿、真の彼は奉行の指示の下、表だって裁けぬ悪を得意の二階堂平法で始末し、妖怪の仕業として収めていたのです。江戸を騒がす猟奇事件の数々……いずれも美女が無惨に犠牲になった事件の陰に潜む悪に、鬼山の秘剣・心の一方が唸ることに――


 というわけで、タイトルを見れば与力が妖怪退治をする伝奇もののようですが、その実は仕事人ものの本作。
 奉行所の役人が実は……というのは、これは中村主水からの定番ではありますが(ちなみに本作を読みながら森田信吾の『必殺!! 闇千家死末帖』を思い出したのですが、原作者が同じでした)、本作のユニークな点は、主人公が内与力という点でしょう。

 内与力とは、奉行所付きではなく、町奉行個人に仕える与力のこと。奉行所付きの与力がほとんど世襲であり、一応任期のある町奉行にとって必ずしも扱いやすい存在ではなかったことから、いわば秘書官的な立場で任命されたものであります。
 つまり根っからの奉行所の役人としては少々毛色の違う存在であることが、設定上ある程度許され、そして奉行に近しいところにいる存在が内与力。なるほど、本作の鬼山に相応しい立場でしょう。

 尤も、内与力という立場にしては、月代も剃らぬ鬼山はいかがなものか、という印象はあるのですが、この辺りは主人公の記号というべきでしょうか――
 と、この点に限らず、時代ものとしては少々乱暴な描写も散見される本作なのですが、その辺りは無知から来るものではなく、ある程度割り切ったものとなっていることが、作中の描写からは伺えるのもなかなか楽しい。

 例えば終盤、鬼山が井戸の水を浴びて独り言ちるシーンなどは、当時の井戸を踏まえての内容にニヤリとさせられますし、そのほかにも、無茶をやっているようで、舞台設定を踏まえたガジェットが使われているのが、なかなか面白いのです。

 この辺りはおそらく原作者の白川晶の功績ではないかと思いますが、画を担当するフカキショウコの方の功績は、まず毎回登場する美しいゲストヒロインの存在でしょう。
 尤も、本作においては彼女たちはかなりの確率で大変に非道い目に遭うのですが、その美麗な絵柄は、陰惨なイメージを和らげるのに一役買っていたと感じます。


 というわけで、基本的に一話完結ということもあり、エピソード的にはそれほど膨らみはないものの、まずは肩の凝らずに楽しめる痛快時代劇と言うべき本作なのですが……

 しかしいただけないのは、本作の特色である、悪人たちを妖怪になぞらえるという趣向が、ほとんど機能していないように思える点であります。
 この辺り、ベースとなるのが、必ずしも妖怪談集ではない「耳袋」なだけに苦しいところもあったのだろうと思いますが、しかし結局は普通の仕事人ものになってしまっていたのは、何とも残念ではあります。


 ちなみに本作の作者コンビには、『戦国武将列伝』にシリーズ連載されていた『戦女 バテレンお彩』という作品もあるのですが、こちらは未だに単行本化されていない作品。こちらもいつかまとめて読めるようになることをと願う次第です。


『鬼与力あやかし控』(フカキショウコ&白川晶 朝日新聞出版朝日コミックス) Amazon
鬼与力あやかし控 (朝日コミックス)

| | トラックバック (0)

より以前の記事一覧