2018.09.17

「コミック乱ツインズ」2018年10月号


 今月の『コミック乱ツインズ』は、表紙が『軍鶏侍』、巻頭カラーが『勘定吟味役異聞』。特別読切等はなしの、ほぼ通常運転のラインナップです。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 上に述べたとおり巻頭カラーの本作ですが、主人公のチャンバラは今回なし。というより、今回のエピソードに関わる各勢力の思惑説明回という趣であります。シリーズ名物の上役から理不尽な命を下される(そして聡四郎を逆恨みする)役人も登場、文章で読むとさほどでもありませんが、絵でみるとかなり可哀想な印象が残ります(普通のおじさんなので)。

 さて、今回聡四郎の代りに活躍するのは、相模屋の職人頭の袖吉。これまでも何かと聡四郎をフォローしてきた袖吉ですが、今回は潜入・探索要員として寛永寺に潜入して重要な情報を掴むという大金星であります。すごいな江戸の人入れ屋……


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 久々の登場となった印象のある本作ですが、面白いことに今回の主役は軍鶏侍こと岩倉源太夫ではなく、彼が家に作った道場に通う少年・大村圭二郎。父が横領で腹を切った過去を持ち、鬱屈した日々を追る彼は、ある日、淵で主のような巨大な鯉と出会って……

 と、少年の一夏の冒険を描く今回。周囲の人間とうまく係われずにいた圭二郎が大鯉と対峙する姿を、時に瑞々しく、時に荒々しく描く筆致の見事さは作者ならではのものと言うほかありません。
 師として、大人として、圭二郎を見守る源太夫の立ち位置も実に良く(厭らしい言い方をすれば、若い者に格好良く振舞いたいという読者の要望にも応えていて)、彼の命で圭二郎を扶ける老僕の権助のキャラクターも味わいがあり、良いものを読むことができました。


『カムヤライド』(久正人)
 出雲編の後編である今回は、出雲国主の叛乱に乗じて復活した国津神・高大殿(タカバルドン)との決着が描かれることとなります。
 真の姿を現した高大殿の前に、流石のモンコ=神逐人(カムヤライド)も追い詰められることになるのですが……
 変身ヒーローのピンチ描写では定番の、そして大いに燃えるマスク割れも出て、クライマックス感満点であります(ここでサラリとモンコのヒーロー意識を描いてくれるのもいい)。

 ここでカムヤライドの攻撃も通用しない強敵を前に、モンコが用意する対抗手段も意外かつユニークなのですが、盛り上がるのはそのためにモンコがヤマトタケルを対等の相棒として協力を求めるシーン。自分の王家の血にはそんな特別な力はない、と躊躇うヤマトタケルに対するモンコのセリフは、もう殺し文句としかいいようのないもので、大いに痺れます。
(この出雲編では、冒頭から「王家の血」の存在が様々な形で描かれていただけに、モンコがそれをバッサリと切り捨ててみせるのが、実にイイのです)

 そしてラストでは意外な(?)次回へのヒキも用意され、大いに気になるところであります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 冒頭のセリフ「酷暑(あつ)い…」が全てを物語る、ひたすら暑い強烈な日差しの下で男たちが過剰に汗を流しながら繰り広げられる今回の主人公は、冒頭のセリフの主である海坂坐望。「仇討」の仇名のとおり、兄の仇を追って長きに渡る旅を続けている坐望ですが……

 川で流されていた少女を助けのがきっかけで、その父である髭浪人・左馬之助と出会った坐望。竜水一刀流の遣い手である左馬之助と語るうちに、かつて主命によって望まぬ人斬りを行い、藩を捨てたという彼の過去を知る坐望ですが、それは彼と無縁ではなく――というより予想通りの展開となります。
 そしてクライマックス、町のヤクザ同士の出入りの助っ人として対峙することとなる坐望と左馬之助。坐望の心の中に既に恨みはなく、左馬之助は坐望の過去を知らず――ただ金のためという理由で向き合う二人の姿は、武士の、用心棒という稼業の一つの姿を示しているようで実に哀しい。

 その哀しさを塗りつぶすかのように過剰にギラギラ照りつける日差しと、ダラダラ流れ続ける汗の描写も凄まじく、息詰まる、という表現がふさわしい今回のクライマックス。
 ラストでちょっと一息つけるものの、これはこれで気になる展開ではあります。


「コミック乱ツインズ」2018年10月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年10月号[雑誌]


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2018.08.17

「コミック乱ツインズ」2018年9月号

 お盆ということでか今月は少々早い発売であった「コミック乱ツインズ」誌の2018年9月号。表紙は『仕掛人藤枝梅安』、新連載は星野泰視『宗桂 飛翔の譜』であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介していきましょう。

『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視 監修:渡辺明)
 『哲也 雀聖と呼ばれた男』の星野泰視による新連載は、江戸時代に実在した将棋名人・九代目大橋宗桂の若き日の活躍を描く物語であります。

 1775年、十数年前から「名人」が空位となっている時代。亀戸の将棋会所を営む桔梗屋に敗れた不良侍・田沼勝助が、家宝の大小を奪われる場面から物語は始まります。
 初段の免状を笠に着て、対局相手に高額の対局料を要求するという博打めいたやり口の桔梗屋から刀を取り戻すため、茶屋で出会った若い侍の大小を盗んだ勝助。その大小をカタに再戦を望む勝助ですが、彼を追ってきた侍が代わって桔梗屋と対局することに……

 と、言うまでもなくこの若侍こそが大橋宗桂。素人をカモにする悪徳勝負師を主人公が叩き潰すというのは、ある意味ゲームものの第一話の定番と言えますが、今回はラストに宗桂が勝負を行った本当の理由がほのめかされるのが興味を引きます。
 ちなみに田沼勝助は、かの田沼意次の三男。後世に事績はほとんど残っていない人物ですが、それだけに今後の物語への絡み方も楽しみなところです。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 宿敵たちの陰謀で尾張徳川家に狙われることとなった聡四郎。橋の上でただ一人、多数の刺客に狙われるという窮地に、謎の覆面の助っ人が現れ――というところから始まる今回、冒頭からこれでもかと派手な血闘が描かれることになります。
 己に勝るとも劣らない剣士の出現に、敢えて一放流の奥義を見せる聡四郎と、それに応えて自らも一伝流なる剣の秘技を見せる謎の男。二人の今後の対決が早くも気になるところですが――しかしその因縁は、師・入江無手斎の代から続くものであることが判明します。

 かつて廻国修行の最中、浅山一伝斎なる剣客と幾度となく試合を行った無手斎。いずれも僅差で無手斎が勝負を収めたものの、いつしか一伝斎は剣士ではなく剣鬼と化し、無手斎の前に現れて……
 こうしたエピソードは剣豪ものであればさまで珍しいものではありませんが、一種の官僚ものとも言うべき本作に絡んでくると、途端に異彩を放ちます。あの無手斎までもが恐れる一伝流に対し、紅さんのためにも一歩も引かず戦うと決めた聡四郎――いよいよこの章も佳境に突入でしょうか。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 政宗最大の危機とも言うべき、伊達家包囲網と最上義光との対決。そんな中で政宗の母であり、義光の妹である義姫は、戦を止めるために単身戦場のど真ん中に乗り込んで――と、漫画みたいな(漫画です)前回ラストから始まる今回は、なんと主人公の一人である政宗不在で進むことになります。

 もちろんその代わりとして物語の中心にいるのは義姫。無茶苦茶のようでいて意外としたたかな行動を見せる彼女の姿を、振り回される周囲の人々も含めて浮かび上がらせ、その先に彼女が動いたただ一つの理由を描くのは、もう名人の技と言いたくなるような印象であります。
 そんな中で、義光の口から真に恐るべき相手――豊臣秀吉の名を出して今後に繋げるのも巧みなところ。……秀吉? かつて描かれた(というか今も描かれている)秀吉は、やたら体が頑丈で、奥さんの料理が殺人級の人物でしたが、さて。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 あてどなく旅を続ける浪人三人組の物語、今回は終活こと雷音大作の主役回。御炭納戸役を辞して炭焼きとなった旧友を十年ぶりに訪ねてみれば、その旧友は……
 というわけで、今回は暴利を貪る御炭奉行と炭問屋から、炭焼きたちが焼いた備長炭を守るために戦う三人組。正直に申し上げて今回の悪役の類型ぶりはちょっと驚くほどなのですが、その悪役たちに対して怒りを爆発させる雷音の表情は衝撃的ですらあります。

 激流を下る小舟の上での殺陣といういつもながらに趣向を凝らした戦いの末、悪役を叩き潰した雷音の決め台詞も、ちょっとそれはいかがなものかしらと思わないでもありませんが、これはこれでインパクト十分で良し、であります。


「コミック乱ツインズ」2018年9月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年9月号 [雑誌]


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2018.08.08

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第12巻 新章突入、刀鍛冶の里での出会い


 連載本誌の方でも快調に飛ばす『鬼滅の刃』ですが、単行本の方では、長い長い死闘を繰り広げた遊郭編も前巻で大団円を迎え、この第12巻からは新展開に突入。ついに全ての上弦の鬼が集結し、一方で炭治郎が向かった刀鍛冶の里では、次々と新たな出会いが描かれ――と見所だらけの一冊であります。

 遊郭に潜む二身一体の強敵、上弦の陸こと妓夫太郎と堕姫を、ギリギリの死闘の末に倒して全員生還した炭治郎たち。百年ぶりの敗北に対し、鬼の首魁・鬼舞辻無惨は、怒りに燃えて残る上弦全員を召集することになります。
 そして登場するのは玉壺・半天狗・猗窩座・童磨・黒死牟――いずれも上弦に相応しい異形の姿を持ち、狂気を漂わせる五人であります。強敵たちの勢揃いはそれだけで大いに盛り上がるものですが、しかしそこで一切の反論を許さぬブラック企業さながらの追い込みをかける無惨様と、チームワーク皆無のギスギスさを見せる上弦たち(というか猗窩座)。本当に恐ろしい連中であります。

 その一方で、ようやく復活した炭治郎が向かうことになったのは、鬼殺隊の隊士たちの用いる日輪刀を打つ刀鍛冶の里。
 隊士たちの刀、すなわち鬼にとっては何よりも恐ろしい武器を作り、直すだけにその存在はトップシークレットのこの里に、一人炭治郎が向かうそのわけは――毎回戦いで刀にダメージを与える炭治郎に激烈な怒りを燃やす刀鍛冶・鋼鐵塚(今回、非常に可愛らしい本名が判明)が、刀を打つことを放棄したため、というのが、またらしいというか何というか……

 何はともあれ、直談判のために里を訪れた炭治郎の前には、新登場――ではないものの、これまでほとんど顔見せのみだったキャラたちが、次々と登場することになります。
 そのビジュアルと言動、何よりも流派名が衝撃的な恋柱・甘露寺蜜璃、あの宇随天元をして化物と言わしめた霞柱・時透無一郎、そして炭治郎の同期最後の一人でありながらこれまでほとんど出番がなかった謎の男・不死川玄弥。

 これがまた、どいつもこいつも期待以上のキャラの濃さで、そこに新キャラクターの純粋毒舌少年・小鉄、おなじみの三十七歳児・鋼鐵塚と絡んでくるのですからたまりません。バトルシーンはかなり少ないものの、次々と登場する(ほとんど)新キャラクターたちのやりとりだけでも本当に楽しいのであります。
 これまで毎回書いてきたように、物語の緩急の付け具合が絶妙な本作ですが、この巻は言ってみれば「緩」。どこかズレたキャラクターたちのやりとりは、ギャグ漫画としても成り立つ――というよりほとんどそのもので、特に満を持して(?)の鋼鐵塚登場シーンはもはや衝撃映像クラスと言うほかありません。


 そんな中、一人でシリアス――というか異質な空気を漂わせているのが時透無一郎であります。
 炭治郎よりも小柄で年下ながら、日輪刀を手にしてわずか数ヶ月で柱になったという怪物――には似合わぬ儚げな美少年の時透ですが、その言動は冷徹とも無神経とも高飛車とも言うべきもの。悪意はないものの、柱としての立場からの強烈な合理性で周囲を圧し、子供に暴力を振るうことも躊躇わない姿は、悪い意味で意外性満点であります。

 あの温厚な炭治郎が、「こう…何かこう…すごく嫌!! 何だろう配慮かなぁ!? 配慮が欠けていて残酷です!!」と困惑混じりに激昂するのもむべなるかな、と言うほかない造形で、時折記憶が曖昧になることも含め、まだまだ得体の知れないキャラクターなのです。(その印象が後にガラリとひっくり返されるのが本作なのですが――それはまたのお楽しみ)

 しかしそれでも鬼殺隊としては頼もしい戦力であることは間違いのないお話。この巻の終盤では刀鍛冶の里に上弦の伍・玉壺と上弦の肆・半天狗が襲来、一人でも(分裂しましたが)あれだけ苦戦した上弦が二人、それも完全な奇襲という絶望的な状況で、彼の本領が発揮されるか!? と思ったら――と相変わらず油断できない展開ですが、ダークホースとも言うべき玄弥が登場し、なかなかに気になるヒキで次巻に続くことになります。


 ……しかしこの玄弥、相変わらず感じのいい炭治郎の挨拶に対して、いきなり「死ね!」と返す意味不明の荒くれぶりを発揮するものの、おまけページで純情過ぎる姿をバラされるには思わず爆笑。
 本当にどこまでも油断できない作品であります。


『鬼滅の刃』第12巻(吾峠呼世晴 集英社少年ジャンプコミックス) Amazon
鬼滅の刃 12 (ジャンプコミックス)


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2018.08.01

サックス・ローマー『骨董屋探偵の事件簿』 怪人探偵、夢見によって謎を解く


 以前から何度か申し上げていますが、私は探偵もの、それもオカルト探偵ものが大の好物。今回ご紹介するのもその探偵の一人――20世紀初頭のロンドンを舞台に、空間に刻み込まれた思念を読み取ることで事件を解き明かす、骨董屋にして夢見探偵、モリス・クロウの活躍を描く事件簿であります。

 名探偵といえば、その源流の時点から、明晰な頭脳を備えることはもちろんのこと、ある種の「怪人性」を備えていることもまた、一種の必要条件のように感じられます。その意味では、本作の名探偵クロウは、その条件を十二分に満たした怪人と言えます。

 ロンドンの貧民街に、その地にふさわしい極めた雑然とした骨董屋を構えるクロウ。
 幾多の小動物が飼われ、オウムが「モリス・クロウ! モリス・クロウ! 悪魔ガアナタヲ迎エニ来タヨ!」と素晴らしいセリフで出迎える店で暮らすクロウは、しかし同時に世界各地を巡った冒険家であり、幽霊屋敷の研究で名著を残した研究者であり、そして何よりもその独特の手法で次々と怪事件を解き明かす素人探偵なのであります。

 その彼の唱える理論は二つ――一つは、犯罪は必ず時を経て周期的に行われるという「周期の科学」。そしてもう一つは、人間の強烈な思念は、その発せられた場に留まり続けるという「思念の科学」であります。そして彼の奇妙な探偵術は、実にこの後者に従って行われます。そう、彼は事件の犯行現場で「寝る」ことにより、彼が言うところの感光板である彼の頭脳に、犯人あるいは被害者の思念を焼き付けるのです!
 その思念を、娘であり助手であるイシスの手を借りて現像(絵画化)することによって、事件解決に結びつける――いわばクロウは、サイコメトリー探偵の先駆とも言うべき存在なのであります。

 そんなクロウは汚れた羊皮紙めいた色合いの肌の年齢不詳の人物。普段は古めかしい茶色の山高帽に黒い外套、金縁の鼻眼鏡という出で立ちで、ビジュアル的にも怪人度高しではないでしょうか(山高帽の中にバーベナのスプレーを入れていて、ことあるごとに自分に吹きかけるのも面白い)。
 一方でイシスは、一体どこで手に入れてきたのかパリの最新モードに身を固めた出で立ちで、クレオパトラめいたしなやかな肢体の傲岸な黒髪美女という、こちらも強烈なキャラクターであります。

 そんな二人が語り手である私ことサールズ氏、他人を利用することでは天才的なグリムズビー警部補らとともに、10の怪事件に挑む物語が、本作には収録されています。

 博物館のギリシャの間で警備員が相次いで奇怪な死を遂げる『ギリシャの間の悲劇』
 古代エジプトの秘宝が刻まれた陶片を狙って怪人が暗躍する『アヌビスの陶片』
 没落貴族の屋敷を奪った札付きの成金が屋敷の斧で頭蓋を割られた謎『十字軍の斧』
 高価な装飾品をまとった美女の彫像が密室のアトリエから消失する『象牙の彫像』
 ロンドン市が購入したインドの宝石が、契約の場から消え失せる『ブルー・ラージャ』
 かつて不審死が相次いだ幽霊屋敷で、夜毎ポプラ並木から呼び声が響く『囁くポプラ』
 扼殺された芸術家の死体に残された巨大な手の痕が殺人犯に導く『ト短調の和音』
 ロンドンで次々とミイラの首が切り落とされる怪事件の真相を描く『頭のないミイラ』
 夜毎悪鬼の哄笑が響く幽霊屋敷の謎に挑むクロウが危機に瀕する『グレンジ館の呪い』
 古代エジプトの秘法に憑かれた男の禁断の実験が招く恐怖の一夜『イシスのヴェール』

 全てが骨董品絡みというわけでも、オカルト絡みというわけでもなく、それどころか事件性も薄いものもある(逆に完全にオカルトものも一編ある)のですが、どの作品もクロウの怪人ぶりが遺憾なく発揮されたユニークなエピソード揃い。
 正直なところ、ミステリとして現代の目から見ると、トリックなどかなり苦しく、拍子抜けな点があるのは否めないのですが、反則技に見えるクロウの探偵術が、実際にはロジカルな推理に裏付けられている(ものもある)こともあり、ご都合主義だけで終わらないのも良いと思います。

 個人的には、豪快なトリックながら犯人の造形が楽しい『象牙の彫像』、奇怪な事件もさることながらクロウのすっとぼけた個性がいい『頭のないミイラ』、トリック自体はすぐに気付くもののクライマックスの追い込みが印象に残る『グレンジ館の呪い』、直球ど真ん中の禁断の儀式ものの『イシスのヴェール』が印象に残ったところです(ただ、最後の作品は、クロウの娘の方のイシスが絡まなかったのが残念)。

 生真面目なミステリファンの方やお仕事小説的内容を期待された方(これは訳題が……)にはどうかと思いますが、好事家は必見の作品かと思います。


『骨董屋探偵の事件簿』(サックス・ローマー 創元推理文庫) Amazon
骨董屋探偵の事件簿 (創元推理文庫)


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2018.07.27

横田順彌『風の月光館 新・秘聞七幻想探偵譚』 晩年の春浪を描く明治のキャラクター小説!?


 先日、長編『惜別の祝宴』とともに復刊された横田順彌の明治SF連作「秘聞 七幻想探偵譚」の第三弾にしてラストの作品であります。本書では、春浪の晩年に近い明治末期を舞台とした物語が描かれることに……

 日本SFの祖・押川春浪と、その愛弟子である青年科学小説家・鵜沢龍岳、そして彼の恋人の女学生・黒岩時子とその兄で警視庁刑事の四郎を主人公とした連作集である本書。これまで同様、全7話の奇譚・怪異譚・幻想譚で構成されています。
 以下に簡単に本書の収録作品を紹介しましょう。

『骨』 浅草の演芸館で米国人が見世物にしていた類人猿「アダム」。航時機で過去から連れてきたと称するアダムの姿は、ジャワ原人に酷似していた。
『恩』 不治の病の母のために、病に効くという猫の肉を食べさせたいという吉岡信敬の友人。一計を案じ、牛肉を猫と偽って食べさせた龍岳たちだが、病が治ってしまい……
『福』 何一つ不自由ない家に暮らしながら、突然失踪した娘。楽琵琶を弾くという彼女を探す龍岳たちは、失踪前に恵比寿のような顔の太った男と会っていたことを知る。
『奇』 巾着切りの指がへし折られるという事件が続発、その元締めも元妻の家で変死を遂げた。元締めは妊娠した元妻に暴力を振るい、流産させていたというが……
『妖』 男と女の声色を使い分けて暮らすという飛田穂洲の隣家の男。二重人格と思われた男は、「妻」との間に子が出来たと語るが。
『虚』 神木を切り倒して以来、かまいたちが頻発するという神社。調査に向かった龍岳は、被害者の少年たちが奇怪なものを目撃していたのを知る。
『雅』 神経衰弱の春浪を養生させるため、等々力での静養を勧めた龍岳。春浪を驚かせて治そうと、天女出現の芝居を打つ龍岳たちだが……


 以上7編、正直に申し上げれば、全2冊以上に、ちょっと扱いに困る作品が多いという印象があります。
 物語で描かれた事件が、(全て)解決されることなく結末を無迎える――というのは、これは短編怪奇小説などでお馴染みの趣向であり、この点はどうということもありません。そうではなく、ここで描かれる怪異や謎が、さすがにちょっと――と言いたくなるような、素材そのままの生煮え感があるのです。

 もちろんこれは個人の趣味嗜好によるところが大であることは間違いありません。私は本書でもある意味最もSF的な「理」が描かれる(ほのめかされる)『奇』と『虚』が一番好印象でしたが、その他の作品が良かった、という方ももちろんいらっしゃるでしょうから……

 ちなみに上記に挙げた2編のうち、特に『奇』は、アイディア的には類作がないわけではありませんが、その明治の日本ならではのシチュエーションを活かした面白さ不気味さにおいて屈指の作品。
 まずSFホラーの佳品といっても差し支えないと、(両極端の感想で恐縮ですが)感じます。


 しかし、厳しいことを言いつつも、結局本書を貪るように一気読みしてしまったのは、これはもう作者の術中にはまったとしか言いようがありません。
 明治の(庶民の)世界の描写の巧みさ、登場人物たちの面白さ、親しみやすさ――特に後者は、これまで短編14編・長編2編の蓄積があるとはいえ、やはり巧みの一言で、明治を舞台とした一種のキャラクター小説として、確かに成立していると言えます。

 そしてそんな本書の見所の一つが、冒頭でも触れた晩年に近い春浪の姿であります。その詳細はここでは触れませんが、『冒険世界』誌の編集を辞して『武侠世界』誌の立ち上げに向かった当時の春浪の姿が、本書に収録された7編を読めば、自然に伝わってくるのです。
 もちろんそれは文字通りのバックグラウンドストーリーであって、ラストの『雅』を除けば、ほとんど直接的に物語に絡んでくることはないのですが――本作がSF小説、幻想小説である以前に明治小説であり、春浪とその仲間たちを描く小説であるとすれば、その試みについて大いに成功していると言えるでしょう。

 本書にカップリングされた長編最終作『惜別の祝宴』についても、近日中にご紹介いたします。


『風の月光館 新・秘聞七幻想探偵譚』(横田順彌 柏書房『風の月光館・惜別の祝宴』所収) Amazon
風の月光館・惜別の祝宴 (横田順彌明治小説コレクション)


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2018.07.17

上田秀人『検断 聡四郎巡検譚』 江戸城を出た聡四郎の出会う人々


 『勘定吟味役異聞』『御広敷用人大奥記録』と活躍してきた水城聡四郎ものの第3シリーズ、その第2巻であります。ただ旅しているだけで厄介事に巻き込まれていく聡四郎主従ですが、旅先で出会う者は敵もそれ以外も様々。一方、彼らが旅立った江戸でも、とんでもない動きが……

 御広敷用人としての任務を終え、娘も生まれて一時の休息を得た聡四郎。しかし主君たる吉宗が、「使える」人間を放っておくわけがありません。久々に吉宗に召し出された聡四郎が任じられたのは、「道中奉行副役」なる新しい役職――とりあえずは三ヶ月世の中を見てこいというアバウトな命に、右腕と言うべき大宮玄馬と二人、ひとまず東海道を京に向かった聡四郎ですが……

 そんな形で始まった物語ですが、彼らが向かう京では前シリーズの宿敵・天英院の実家が刺客を用意して待ち受け、そしてその途中には、これまで10巻以上に渡り聡四郎と暗闘を繰り広げてきた(一方的に絡んできた)伊賀があります。
 さらに、聡四郎を使って自分の改革への抵抗勢力を炙り出してやろうという吉宗の思惑が見事に(?)当たり、聡四郎の役目が自分たちの権益を侵すと考えた目付・中野が暗躍を開始。徒目付を使い、目付では先輩に当たる駿府町奉行を利用して聡四郎を旅先で始末しようと企むのであります。

 いやいや、それはさすがに無理があるのでは、と言いたくなる中野の策ですが、聡四郎にとってはこれが最初の厄介事。しかしこれはむしろ、その手駒に使われそうになった徒目付と駿府町奉行こそいい迷惑であります。
 油断すれば他人に――特に上司に乗じられる役人の世界。利用されるだけ利用されて弊履の如く捨てられる、などというのも珍しくない話であります。今回もまた、上田作品ではこれまで無数に描かれてきた役人残酷物語(中野の指示状が、自分の名前を書いていないというどこかで聞いたような厭らしさに嘆息)のように見えたのですが……

 しかしこの状況を打開するため、彼らが聡四郎が全く預かり知らぬところで取った行動が、物語に大きな動きを与えるというのが面白い。
 これまで本シリーズでは聡四郎の味方か敵か(そしてほとんど後者)しかいなかったという印象もある役人たちですが、もちろん実際にはそれ以外の人間がほとんどなのは言うまでもありません。そして本作においては、こうした人々に、これまで以上に目が向けられている印象があります。

 そんなそれ以外の(それは役人に限ったことではなく)人々が登場するのは、物語が「旅」を舞台としていることによることは言うまでもありません。そしてそれは、吉宗が聡四郎を送り出した際に密かに期待したことでもあります。
 江戸城を飛び出し、旅に出ることによってて、聡四郎が何を見て、誰と出会うのか――それが今更ながらに楽しみになります。


 と、その一方で敵と出会ってしまうのがまた聡四郎の運命。先に述べたように、聡四郎の宿敵とも言うべき伊賀の忍びたちが、この巻では決戦を挑んでくることになります。
 任務の上で仲間が殺されれば、その仇を討つまで戦いを止めないという、厄介極まりない掟を持つ伊賀。その掟がある限り聡四郎と伊賀の戦いは終わらないはずなのですが……

 正直なところ、この戦いの先に待つ結末は想定外のもの。詳細は伏せますが、なるほどこう来るか! と言いたくなるような、それでいて実に「らしい」展開に大いに感心させられました。
 そしてそこにあるカラクリを的確に見抜いてみせた聡四郎の洞察力の深さが、彼の成長を強く感じさせてくれるのも、また嬉しいところであります。

 そしてもう一つ嬉しいと言えば、前作同様、本作においても、生臭い政治の世界の対極にあるような純粋な剣の世界が描かれるのがいい。
 といっても今回二人が駿府で訪れた剣術道場は、一放流の道場に慣れた二人にとってはいささかならずとも拍子抜けの――要するに「今どきの」剣術道場。道場主が食っていくにはそれも必要と言うべきかもしれませんが――しかしそんな中でも、剣に心を燃やす者がいます。

 いささか変則的な形で挑んできた挑戦者に対して、聡四郎が、玄馬が何を語るのか――やはり純粋に剣の道に励む者の姿は、一服の清涼剤として実に心地よく感じられます。


 と、様々な形で物語の広がりを感じさせてくれた本作。ラストには尾張徳川家の無謀にもほどがある計画が発動してヒキとなりますが――こちらの結末も含め、次巻も楽しみなシリーズであります。


『検断 聡四郎巡検譚』(上田秀人 光文社文庫) Amazon
検断: 聡四郎巡検譚(二) (光文社時代小説文庫)


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2018.07.16

「コミック乱ツインズ」2018年8月号

 今月の「コミック乱ツインズ」誌は、連載10周年記念で『そば屋幻庵』がスペシャルゲストを迎えて表紙&巻頭カラー。また、ラズウェル細木の『文明開化めし』が新連載となります。それでは、特に印象に残った作品を今回も一作ずつ紹介していきましょう。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今月は『そば屋幻庵』と二作掲載の作者ですが、こちらはいつもながらがらりと作風を変えたアクションと政治劇が満載です。

 前回自分たちを(前田家の人間と間違えて)襲撃した刺客たちの正体が、尾張徳川家の人間だったことを知った聡四郎。しかし何故尾張が前田家を襲うのか――その謎が今回明かされることになります。その背後には聡四郎に表舞台を追われたはずのあの男が……
 一方、江戸城内では間部詮房と新井白石が相変わらず対立とも協調ともつかぬ微妙な関係。鍋松(徳川家継)の服喪の儀に関して、詮房に知恵を貸して恩を売る白石ですが――ここで聡四郎の前で白石がほとんど初めて人間臭さを見せるのが印象に残ります。

 そしてラスト、玄馬と離れて一人となった聡四郎を襲う刺客の群れ。逃れんと橋の上を走る聡四郎の前に現れた黒覆面黒装束の謎の剣士は、初対面と名乗りつつも何故か一放流のことを知っているのでした。「お主を倒すのは拙者だ」とツンデレっぽいことを言いながら助太刀してくれるその正体は……
 ツンデレといえば紅さんは名前のみの登場で残念ですが、名前のみの登場といえば、ついに今回、徳川吉宗の名が登場。顔は陰になっていて見えないのですが、果たしてどのような姿なのか――猛烈に気になります。


『カムヤライド』(久正人)
 出雲編中編の今回、中心となるのは謎の男・イズモタケル。出雲国主ホムツワケの叛乱の尖兵となった土蜘蛛たちを倒す力を持つ彼の正体は――ヤマトタケルの大ファンでした(本当)。
 ヤマトタケルに憧れ、偶然手に入れた土蜘蛛を倒す力を持つ剣を手に、捕らえられた人々を助けたいと熱っぽく語るイズモタケル。そんな彼を前に、ヤマト王家の者としてその名に鬱屈を抱えるヤマトタケルはその名を名乗ることができず……

 モンコが完成された人格に見えのに対し、人間味のある、成長代のあるキャラクターとして描かれるヤマトタケル。自分の実像を知らず、理想の人物として目標にするイズモタケルを前に揺れる彼の心の動きを、ホムツワケの高殿に急ぐ三人のシルエットに重ねて描く場面は、実に作者らしく格好良い名シーンであります。
 そしてカムヤライドしたモンコの前に現れた国津神の意外な正体は、そして彼らの戦いを見守る久々に登場した謎の旅人の動きは――次回出雲編完結です。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 伊達家包囲網に苦しむ伊達家に襲いかかる佐竹・芦名連合軍。この危機に、政宗の母・義姫が――という前回の引きを受けての今回、母が自分のために動いてくれたと浮かれる政宗の姿が微笑ましくも痛ましいのですが、如何にドシスコンであっても最上義光が譲るはずもありません。かえって(シスコンをこじらせた)義光が動き出し、思わぬことで景綱と義光の陰険……いや知将対決が勃発することになります。

 が、そこに義姫が割って入り――と、史実の時点でメチャクチャ漫画っぽいエピソードをこの作品は如何に料理するのか。ある意味これまでで一番の山場かもしれません。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 東海道は川崎宿にやってきた三人組が今回巻き込まれるのは、大店の娘の連続誘拐殺人事件。宿の米問屋の娘の警護に雇われた三人ですが、はたして娘は何者かに攫われ、百五十両の身代金の要求が届けられることに……

 凶悪な拐かしと、米問屋の父娘の軋轢を絡めて展開する職人芸的面白さの今回、ここのところ重めの話が続いていただけにホッとさせられる内容が嬉しいところです。
 そして基本的にカッコイイ担当だった坐望は、今回夏風邪を押して賭場に出かけてスッテンテンになった挙句風邪をこじらせるという実に微妙な役どころなのですが、それを吹き飛ばすようにクライマックスの乱闘でもんのすごくヒドい啖呵とともに登場(つられて夏海もスゴいことを)。静かな殺陣が多い本作には珍しく、豪快な「音」入りの剣戟を見せてくれました。


 そして『そば屋幻庵』のスペシャルゲストは――この人が良さそうで腰が低くてものわかりがいい人は誰!? という印象。今の読者はわかるのかしら、というのは野暮な心配ですね。


「コミック乱ツインズ」2018年8月号(リイド社) Amazon


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2018.07.04

岡田鯱彦『薫大将と匂の宮』 名探偵・紫式部、宇治十帖に挑む!?


 源氏物語のいわゆる「宇治十帖」、光源氏の子・薫大将とその親友・匂の宮を巡る物語には続編が、それも奇怪な連続殺人を描く物語があった――そんな奇想天外な着想で、しかも作者たる紫式部と、清少納言を探偵役として描かれる、時代ミステリの古典にして名品であります。

 紫式部が描いた宇治十帖。それは、理想的すぎる人物として光源氏を描いてしまった反省から、より人間的な存在として、実在のモデルに忠実な人物として、薫大将と匂の宮を描いた物語でありました。
 しかしそのあまりの生々しさに辟易とした紫式部は中途で筆を置き、二人の物語は宙に浮いた形で完結することなったのですが――そこに思わぬ事件が起きます。

 薫大将と匂の宮の間で揺れた女性・浮舟。二人の間で苦しみ、一度は出家したものの、いまは還俗して薫の妻となっていた彼女が、死体となって川から上がったのであります。
 水死かと思いきや、しかし水を飲んだ形跡はなく、額をぱっくりと割られた惨たらしい姿で発見された浮舟。そしてややあって、今度は匂の宮の妻であり、浮舟の姉の中君が、同じような死体となって発見されることになります。

 薫大将と匂の宮に深い関わりを持つ二人の女性の怪死に、騒然となる宮中。しかし匂の宮は、これが薫大将の仕業と決めつけます。その証拠は薫の名の由来となった薫香――極めて鋭敏な匂の宮のみがかぎ分けられる薫の香りが、匂の宮の恋人たちから、そして中君から発していたというのです。
 これすなわち、浮舟の死を恨む薫が、匂の宮への嫌がらせのため、次々と匂の宮の恋人と中君を手込めにしていった証拠である――そう主張する匂の宮。

 しかし薫はどちらかといえば優柔不断、出家遁世を願っているような温和しい人物であり、そんな彼がそのような行為に及ぶものか――式部はそう考えるものの、今度は第三の、思いも寄らぬ人物の死体が同じ形で発見されるに至り、薫は決定的に追いつめられることになります。

 思わず薫の弁護を買って出た式部ですが、彼女にも具体的な証拠はありません。さらに彼女をライバル視する清少納言が式部の推理に挑戦状を叩きつけ、宮中引退を賭けた推理対決が繰り広げられることに……


 有名人探偵ものは時代ミステリの定番の一つ、それもその有名人の事績に関わる事件が――というのも定番中の定番ですが、しかし紫式部が、薫大将が被疑者となった事件に挑む(さらに乱入してくる実に嫌な造形の清少納言)というのは、これは驚くべき奇想としか言いようがありません。

 そもそも紫式部は物語の作者、薫大将らはその登場人物なのですから、そのシチュエーションだけであり得ない。
 それを、実は宇治十帖は実在のモデルに忠実に書いていました、というある意味直球ど真ん中でクリアしているのは痛快ですらあるのですが――しかし本作の魅力は、こうした設定以上に、ミステリそのものの面白さにあることは間違いないのであります。

 そう、本作の中核にあるのは、極めて特異なアリバイ(不在証明)――いや存在証明。
 薫大将がそこにいたかどうか、そしてその行為に及んだのかどうか――本来であれば実証不可能なそれを、薫だからこそ、匂の宮だからこそ証明できてしまうという、本作でしかできない謎の設定には、成る程! と膝を打たされるのであります
(さらに、紫式部の当時の女性としての倫理観が、探偵としての活動に縛りをかけるというのも見事です)


 もっとも、文体(これも現代語訳してあるというエクスキューズはあるわけですが)や物語展開が、あまりに「探偵小説」しすぎているという点が少々ひっかからないでもないのですが――これはもう、執筆年代を、そして作者の嗜好を考えれば仕方がないことでしょう。

 何よりももう一つの作者の嗜好、国文学者というもう一つの作者の顔が、その謎を支えていること、そしてその謎を生み出した登場人物たちの実に「らしい」心の動きを生み出していることを考えれば――やはり本作は奇跡的なバランスの上に成り立った作品であると、今更ながらに感心させられるのです。

『薫大将と匂の宮』(岡田鯱彦 扶桑社文庫) Amazon
薫大将と匂の宮―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

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2018.06.27

皆川亮二『海王ダンテ』第5巻 今明かされる二人のルーツ、そしてこれからの戦い


 超古代の英知の結晶たる「書」を巡り、若き日のホレイショ・ネルソン(ダンテ)とナポレオン(ナポリオ)が世界を股に掛けて激突する大冒険活劇の最新巻であります。オーストラリアを舞台に幾度めかの激突を繰り広げる二人。その戦いのルーツとは果たして……

 かのジェームズ・クックとともに、任務でオーストラリアに向かったダンテと仲間たち。しかしそこで待ち受けていたのは、一足先にオーストラリアに上陸し、無法の限りを尽くすナポリオたちフランス軍と、ナポリオの兄・ジョゼによって送り込まれた海賊女王アルビダでありました。
 かつての敵にして今は頼もしき友であるオルカとともに辛うじて難敵たちとの戦いをくぐり抜けたダンテ。しかし魔導器を用いた代償は、彼の体に奇怪な痣として残ることになります。

 ダンテとナポリオに超人的な知識と力を与える「書」と魔導器。それはかつて彼らがまだ幼かった頃――コルシカ島に共に暮らす頃に出会ったものでした。
 育ての親であるコロンバス牧師の下、平和に暮らしてきたダンテ。しかしある日、ダンテはコロンバスが密かに隠してきた二冊の「書」のうち、「要素」と魔導器を託されることとなります。

 何者かが現れることを強く恐れるコロンバスは、ダンテに書の主たる資格があることを見届け、南極に眠るというもう一冊の「書」である「生命」を封印するように語るのですが――時すでに遅し。
 コロンバスとは因縁を持つらしい海賊の一団がコルシカ島を襲撃し、略奪と虐殺を繰り広げることとなります。コロンバスも殺され、その混乱の中で、ナポリオも「構成」の書を手にし、その主となるのでした。

 怒りに燃えて魔導器の力を解放したダンテによって海賊は撃退されたものの、「書」を狙う者たちはいずれまた現れるに違いない。これ以上故郷を巻き込まないため、そして(特にナポリオは)「書」の力を広い世界で試すため――ダンテはコロンバスの友人であるイギリスのネルソン家を頼り、そしてナポリオはフランス軍に潜り込むことになります。
 そんな二人の姿を、ジョゼが意味ありげに見つめるとも知らず……


 物語の始まりの時点において、既にそれぞれ「書」の持ち主として登場し、南極で「生命」の書の争奪戦を繰り広げたダンテとナポリオ。そんな二人の過去はこれまで断片的に語られてきましたが、ここでようやく物語冒頭と繋がることになります。
 ジョゼをして「できすぎ」と言わしめる優等生のダンテと、才に優れながらも鬱屈を抱えるナポリオ――と、少年時代から全く変わらない二人の腐れ縁は愉快ですが、しかしそんな二人の日常が一瞬にして奪われる様は、なかなかに痛ましいものがあります。

 もっとも、過去を描くといっても、実は謎はほとんど明かされていないのも事実であります。コロンバスはどこで「書」を手に入れ、何故海賊に追われていたのか。いやそもそも、何故彼は「書」の力と「生命」の書の危険性を知っていたのか。
 前巻においてクックが語るところによれば、「書」はピサロが新大陸から持ち帰り、博物館に収められていたはずなのですが……

 さらに言えばこれらの秘密をジョゼがあらかじめ知っていたかに見えるのも不審でありますし、個人的にはどうもダンテ自身にまだ秘密があるようなのが気になるのですが――いずれにせよ、かえって謎は深まってしまった印象があります。
 これは、見事に作者の掌の上で踊らされてしまっているのだと思いますが――もちろんそれは望むところであります。


 さて、こうして過去の物語は語られたものの、現在の戦いが終わったわけではありません。
 アボリジニの人々が恐れ、「構成」の書が求める「毒」とは何か――それがまだわからぬまま(これはまず間違いなく○○○だと思いますが)、フランス軍の奇襲と囚人たちの反乱の前に、ダンテたちが捕らわれ、さらなる窮地に追い込まれることとなります。

 全てを奪われ、絶望的な状況に陥ったダンテたちを救う者は誰か――この漫画における「大の男どもを千切っては投げ」枠となった感のあるアルビダ様の動向も含めて、先の展開が大いに気になるところです。


 それにしても――ナポリオによって機械仕掛けの体を与えられ、「総司令官」と呼ばれるようになった「構成」の書(の意志)。これ、どう考えてもナポリオが捨てられるフラグのような……


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海王ダンテ 5 (ゲッサン少年サンデーコミックス)


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2018.06.26

野田サトル『ゴールデンカムイ』第14巻 網走監獄地獄変 そして新たに配置し直された役者たち


 放送中のアニメも大人気のようでめでたい『ゴールデンカムイ』ですが、原作漫画の方はこの巻で大きな区切りを迎えることになります。全ての始まりとなったのっぺら坊を巡り、網走監獄に全ての役者が集結して繰り広げられる一大血戦――その先に待ち受ける意外すぎる展開とは?

 アシリパの父・ウイルクではないかと疑われるのっぺら坊を求めて手を組み、網走監獄への旅を続けてきた杉元一派と土方一派。しかし網走監獄は、鬼の典獄・犬童によって要塞同然に防備を固められた場所であります。

 土方に内通していた看守・門倉の手引きや、白石の活躍で何とか内部に潜入した杉元・アシリパ・白石たちですが、しかし見つけたのっぺら坊は偽物。
 さらに土方が不審な動きを見せる一方、鶴見中尉の北鎮部隊が水雷艇を持ち出して監獄に対して攻撃開始!

 かくて杉元・土方・鶴見・犬童の四派の思惑が入り乱れたバトルロイヤルが始まることに……

 というわけで、この巻の8割方を占めるのは、死闘に次ぐ死闘の数々。そもそも網走監獄自体が入るも地獄・出るも地獄の要塞と化していたところに、日露戦争帰りのガチの軍隊――それも半ば狂人が指揮する――数十名が乗り込んでくるのですから、ただで済むわけがありません。
 さらに乱戦の中で収監された700名の凶悪犯が解き放たれたとくれば、そこで展開するのはまさしく血で血を洗う地獄絵図以外にないのであります。

 そしてその中で繰り広げられるのは、杉元vs二階堂、土方vs犬童という因縁の対決。
 特に後者は、長きにわたり捕らえられてきた男と、その男に執着し続ける男という数十年に渡る怨念の激突に留まらず、さらに明治という時代の構図まで重なるのがグッときます。この巻の表紙が、この対決時の土方なのも頷けます。

 さらに彼らの他のレギュラー陣にも、皆それぞれの出番があり――特に出番は少ないながらも強烈なインパクトを見せた○○○先生に拍手――これだけの混戦を見事に捌いてみせる作者の手腕には瞠目するほかありません。


 そして戦いに次ぐ戦いの末、ついに対面する杉元と真ののっぺら坊。はたしてその正体は――なのですが、それを知った杉元が、アシリパのためにぶつける言葉がたまらない。

 目的のためであれば全く躊躇することがない土方。もはや戦い自体が自己目的と化しているかにも見える鶴見。
 望むと望まざるとにかかわらず、すでに修羅の世界に踏み込んでしまった連中は仕方がない。しかし、アシリパだけは、彼女だけはそうなってはならない――そう叫ぶ杉元の言葉は、彼もまた敵に対しては狂的な闘志をむき出しにする一種の怪物だけに、強く胸に刺さるのです。

(そしてそんな好青年と狂戦士の二面性を持った杉元のキャラクター像は、混沌とした本作の主人公にふさわしいと再確認させられます)


 しかし恐るべきクライマックスは、その直後に訪れます。杉元に真実を語ろうとするのっぺら坊――その二人を襲う凶弾。それを放った者、この乱戦の中で巧妙に身を潜め、機を窺っていた者とは……
 あまりといえばあまりの急展開に驚かされる中、怒濤の勢いで動いていく事態。ある者は捕らわれ、ある者は逃れ、ある者は深く傷つき――ここに至り、物語の人物配置図はほとんど全てリセットされ、新たに配置し直されることになるのであります。

 ひねくれた言い方をしてしまえば、まだ黄金の在処を示す刺青人皮が全て揃っていないこの状況で物語が終わるわけはないとは思っていましたが、しかしこう来るか! と悔しさ三割、嬉しさ七割で唸るほかありません。

 そして新たな――これまた意外すぎるチーム編成で、物語は次の局面に突入することになります。更なる北の地で、いかなる物語が描かれることになるのか。そしていかなる秘密が明かされるのことになるのか……
 まだまだまだ、この作品には振り回されることになりそうですが――それがまた、たまらなく嬉しいのであります。


 ……あっ、ラストにはウルヴァリンが乱入!?(嘘は言っておりません)


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ゴールデンカムイ 14 (ヤングジャンプコミックス)


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