2019.07.22

『鬼滅の刃』 第十六話「自分ではない誰かを前へ」

 那田蜘蛛山に潜む鬼に操られる鬼殺隊士たちに襲われる炭治郎と伊之助。卑劣かつ非情な敵に怒りを燃やして進む二人の前に、首を持たない怪物が現れる。炭治郎の的確な指示で怪物を倒した二人は、その余勢を駆って母鬼をも倒すのだが……

 敵に操られる隊士たちの襲撃を受けた炭治郎と伊之助(善逸はへたれて置いてけぼり)が、その敵の居場所を看破して――というところで終わった前回。しかし目の前には操られた隊士たちが立ち塞がって――というところでいきなり男を見せたのは、モブ隊士の村田さんであります。「ここは俺に任せて先に行け!」とやたらと格好良い台詞で二人を送り出します。
 が、すぐに二人の前に立ち塞がったのは、操られるその他の隊士たち。肉体の限界を超え、体を損壊しつつも攻撃してくる者や、既に体中がずたずたになって殺してくれと訴えてくる者と、もう大変な鬱展開なのですが――ここでめげる炭治郎ではありません。

 攻撃できず、そして糸を斬ってもすぐ繋げられてしまう状態――それなら糸を斬らずに動きを封じることができれば、というわけで、相手を捕まえて樹の上に投げ上げ、枝に糸を絡ませてしまおうという炭治郎の策は大成功。こういう変わったことには目がない伊之助も大喜びでチャレンジして成功、これで隊士たちを助けられる――と思いきや、怒った母鬼の手で隊士たちは全員首を捻られて……
 さすがの伊之助も黙るほど怒りのオーラを漂わせる炭治郎。決意も新たに先に進む二人の前に現れたのは――母鬼の切り札、首のない肉体に、肘から先を昆虫めいた奇怪な刃に変えた異形の「人形」であります。冷静に考えれば鬼じゃないのだから首がなくてもまあ何とかなる気もしますが、しかし伊之助は急所が無ェと、ちょっとびっくりするほど大慌て。そこで炭治郎は冷静に、袈裟斬りにしてみてはどうかと提案するのでした(これはこれで怖い子だな)。

 そこまで聞いていきなり突っ込む伊之助。しかし蜘蛛に動きを封じられ、身動きできずに目の前に迫る敵の刃――というところで割って入ったのはもちろん炭治郎。危機一髪のところを助けられて好感度ゲージがホワホワ上がる(まあ、より正確には人間との関係性ゲージなのだと思いますが)伊之助にダメ押しするように、炭治郎は力を合わせた攻撃を提案、さらに自分を踏み台にして跳べと促すのでした。
 そして炭治郎が相手の足を斬れば、大ジャンプした伊之助は相手の巨体を袈裟斬りに――この見事なコンビネーションの源が、俺が俺がではなく、戦いの流れを見ている炭治郎にあるとと、さすがの伊之助もついに認めるのでした。(しかしこの「人形」、斬られるとボロボロになって消えたというのは鬼の死体を人形にしたということなのか?)

 が、ここで素直になれない伊之助は、炭治郎を捕まえると上にぶん投げ、そのまま炭治郎は母鬼のところへ一気に到達。突然目の前に現れた炭治郎に、母鬼は反撃を――しない。もはや奥の手も尽きたのもさることながら、父鬼からことあるごとにDVを受け、他の家族からも白眼視されていた彼女にとっては、もはや死こそが救いだったのであります。
 そして自ら首を差し出した母鬼の動きを察知し、咄嗟に繰り出す技を伍ノ型 干天の慈雨に変えた炭治郎。例によってナレーションが入らないためにわかりにくいかもしれませんが、この型は相手に苦痛を与えない慈悲の剣撃であります。母鬼はむしろ暖かさすら感じたまま崩れ去るのでした。その間際に、この慈悲を与えた炭治郎に対し、十二鬼月がいると言い残して。

 そしてその頃善逸は、ちゅん太郎をお供におっかなびっくり山の中に歩を進めるのですが、その後ろには……


 一話丸々、母鬼との戦いであった今回。上で述べたように、操られて襲いかかる仲間を救えるかと思いきや結局救えない鬱展開の上に、鬼側ではDVが行われている(またこの時の会話が妙にリアリティのある厭な描写)という、冷静に考えると非常に気の滅入る内容なのですが、比較的その印象が薄いのは、炭治郎と伊之助の関係性の変化を丁寧に描いていたためでしょうか。
 考えてみればなし崩し的に行動を共にしているものの、鼓屋敷での蛮行はやはりドン引きものの上に、結局炭治郎とはぶつかってばかりの伊之助。その伊之助が、真に炭治郎と仲間になったのは、今回からと言えるのではないでしょうか。

 まあ、その時暴力を振るった相手の善逸はここにはいないのですが……


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 『鬼滅の刃』 第五話「己の鋼」
 『鬼滅の刃』 第六話「鬼を連れた剣士」
 『鬼滅の刃』 第七話「鬼舞辻無慘」
 『鬼滅の刃』 第八話「幻惑の血の香り」
 『鬼滅の刃』 第九話「手毬鬼と矢印鬼」
 『鬼滅の刃』 第十話「ずっと一緒にいる」
 『鬼滅の刃』 第十一話「鼓の屋敷」
 『鬼滅の刃』 第十二話「猪は牙を剥き 善逸は眠る」
 『鬼滅の刃』 第十三話「命より大事なもの」
 『鬼滅の刃』 第十四話「藤の花の家紋の家」
 『鬼滅の刃』 第十五話「那田蜘蛛山」

 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第4巻 尖って歪んだ少年活劇


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2019.07.20

京極夏彦『巷説百物語』(その二) 「妖怪」が解決する不可能ミッション


 ついに新作が発表された『巷説百物語』シリーズ、その」第一作の紹介の後編であります。今回は全七篇のうち、残る四篇をご紹介いたします。


『芝右衛門狸』
 村に人形浄瑠璃が来た晩、何者かに惨殺された淡路の長者・芝右衛門の孫娘。気落ちした芝右衛門は、庭にやって来た狸を可愛がるようになるのですが、ある日その狸だと名乗る老人が現れたではありませんか。
 一方、故あって高貴な身分らしい若侍を預かることとなった人形浄瑠璃一座の座長の屋敷では、夜な夜な怪異が起きて……

 又市や百介といった一味以外のゲストキャラクターの視点から物語が語られることが多い『巷説百物語』のスタイルが、ある意味一番良く出ているのが本作かもしれません。
 人間に化けたという狸と、謎の若侍、座長の屋敷での怪異――三題噺のようなこれらの要素がどう繋がっていくのかは、読み進めていれば容易に予想はつくのですが、さてこれをどう妖怪の仕業として収めるのか? かなり直球ではありますが、本作らしいエピソードであります。


『塩の長司』
 放下師一座の座長・四玉の徳次郎が信州で拾った記憶をなくした少女。彼女が加賀の馬飼長者・長次郎の娘ではないかと考えた徳治郎は、旧知の又市に調べを依頼するのでした。
 12年前に凶悪な盗賊・三島の夜行一味に一家全員を殺されたという長次郎は、その時に一味の頭領兄弟の一人を無我夢中で殺し、それ以来復讐を怖れてか人前に出なくなったというのですが……

 その後も本シリーズ等に顔を見せる徳次郎のデビュー作である本作。彼の特技は幻術――刀や馬を飲み込んでみせるなどお手の物の徳次郎ですが、しかし本シリーズのような仕掛けものでは、こうした何でもありの技は興を削ぎかねません。
 しかし本作で驚かされるのは、そんな禁じ手を、彼や又市が挑む長者の謎に絡めて生かしてみせる、その巧みな語り口であります。塩の長司だけでなく、夜行や提馬といった、馬関連の妖怪(の名前)を織り込んでみせるのも楽しいエピソードです。


『柳女』
 見事な柳の木で知られる北品川宿の老舗旅籠・柳屋の主人・吉兵衛の後添いに迎えられることになったという、おぎんの幼馴染み。しかし吉兵衛には、柳に祟られ、そのために過去に幾人もの妻や子を失ったという噂がありました。
 おぎんの依頼を受けて、その真相を探ることになった又市が知った真実とは……

 前話同様、又市の仲間が頼み手となる本作。先祖代々祀られていた祠を打ち壊したことがきっかけで、柳に呪われたとしか思えない男が――という謎の正体自体は、正直なところ予想するのは難くありません。
 しかし本作の面白さは、祝言が三日後に迫る中、不幸な半生を送ったおぎんの幼馴染みを傷つけずに事を収めるという、不可能ミッションめいた条件設定にあります。あちらを立てればこちらが立たず、という状況を、妖怪を利用して解決してみせる――本作の魅力の一つが横溢したエピソードです。


『帷子辻』
 一年ほど前から、何度も女性の腐乱死体が何処からか現れるという京の帷子辻。既に下手人の大体の見当はついているものの、故あって表沙汰にできないというこの一件の始末を、腐れ縁の悪党・靄船の林蔵から依頼され、不承不承引き受けた又市ですが……

 又市の悪友であり、後に『西巷説百物語』の主役を務めることになる林蔵。その他、今後も何度か顔を見せる又市のかつての相棒・玉泉坊初登場となる本作は、あらすじから察せられるように、本書の中でも最もおどろおどろしい物語であります。
 本作も林蔵が語るように犯人(とその動機)はすぐに予想がつくのですが、見所はルチオ・フルチ映画のような気合いの入った仕掛け――ではなく、随所で描かれる、又市の内面を窺わせる描写でしょう。

 一種全能の狂言回しのような立場でいて、その実、様々な過去を背負った人間でしかない又市。その彼が冒頭で九相図を見ながら語る言葉、そして結末の一言は、人間・又市の発露として、強く印象に残るのであります。
(その一方で、百介と接している時とは全く違う、玉泉坊や林蔵との生き生きとした掛け合いもまた楽しい)


 本作と対を成す構成の『続巷説百物語』は、近日中にご紹介いたします。


『巷説百物語』(京極夏彦 角川文庫) Amazon
巷説百物語 (角川文庫)

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2019.07.19

京極夏彦『巷説百物語』(その一) 又市一味、初のお目見え


 先日、最新作『遠巷説百物語』がスタートした『巷説百物語』シリーズ。しかし考えてみればこれまで漫画版の紹介はしたものの、原作小説の紹介はしておりませんでした。そこでこれを機に、原作の全話紹介に挑戦してみたいと思います。まずはもちろんシリーズ第一作、『巷説百物語』から……

 まだ妖怪たちの存在が当然のように人々に受け容れられていた江戸時代を舞台に、裁くに裁けぬ外道、暴くに暴けぬ人の闇を、妖怪の仕業に託して始末をつける小悪党一味の活躍を描く『巷説百物語』シリーズ。
 その第一弾である本作は、口八丁の御行の又市、妖艶な山猫廻しのおぎん、老獪な事触れの治平という裏社会のメンバーに、戯作者志望の考物の百介が協力する(させられる)形で展開していくこととなります。

 以下、一話ずつ紹介していくことといたしましょう。

『小豆洗い』
 越後の山中で、嵐を避けるために小屋に集まった人々。その一人である旅の僧・円海の前で、退屈しのぎに人々は怪談話――百物語を始めることになります。

 嫁入り直前に姉が山猫に魅入られた末、山の中に作った小屋の中で息絶えたという山猫廻しの女。誰も信用できず知恵の足りない小僧に店を譲ると宣言した結果、小僧が殺され、以来周囲で小豆洗いの怪事が起こるようになったと語る江戸の商人。
 それらの怪談を聞く中、円海は不審な態度を見せるようになるのですが……

 記念すべき第一話は、タイトル通り百物語スタイルで展開していく物語。偶然小屋に集った男女が語る奇妙な怪談(それがこれだけ取り出しても十分に面白いのは流石であります)が、やがて思わぬ形で標的を糾弾して――というのは、それ以降のより直接的なエピソードとは少々趣は異なるものの、やはり本シリーズならではの妖怪の使い方と言えるでしょう。

 まだほとんど顔合わせ状態とはいえ、レギュラー4人もしっかりと顔を見せ、まずは理想的な第一話であります。


『白蔵主』
 かって自分が狐を釣って暮らしていた甲州の狐杜にやってきた弥作。そこで江戸からやって来たというおぎんと出会った彼は、近くの寺で役人の捕り物があったと聞かされることになります。
 どういうわけかそこで意識を失ってしまい、気が付いた百姓家で出会った治平と百介から、狐杜が白蔵主という古狐の墓であること、そしてその狐が長い間寺の住職に化けていたと聞かされた弥作は……

 弥作という男の心理描写を中心に語られる本作では、ある人物の心中を執拗に描いていく作者お得意のスタイルによって、弥作の抱えた闇が少しずつ明らかにされていくことになります。
 途中途中で又市一味が名前そのままで登場してくることで、弥作が標的なのはすぐにわかりますが、さてそれは何故か――結末に明かされる真実は、あまりにも惨く、苦いもの。本シリーズのモチーフの一つである必殺シリーズ――というよりむしろその原点である池波正太郎の暗黒街ものを思わせる味わいであります。


『舞首』
 伊豆の巴が淵に棲みつき、その大力で周囲を荒らし回っては女たちを攫い、好き放題に弄んで死に至らしめる悪漢・鬼虎の悪五郎。
 ある晩、悪五郎によって賭場を滅茶苦茶に荒らされた地元の侠客・黒達磨の小三太は、おぎんに唆され、重傷を負っているという悪五郎を討つことを決意することに。一方、病的な人斬り浪人・石川又重郎も、娘を攫われたという老爺の依頼で、悪五郎を討ちに向かうのですが……

 三つの生首が、口から炎を吐きながら空を飛び、争いあうという強烈なビジュアルの舞首。本作では三人の極悪人が登場して――とくれば、(モチーフとなる妖怪がどのように活かされるかすぐにはわからない他のエピソードに比べて)どのような展開になるかは何となく予想できるかかもしれません。

 しかしそれを一体どうやって――というミステリ的趣向が特に濃厚に漂う本作。簡単に言ってしまえば一種の○○トリックではあるのですが、それを成立させるのが、三つの生首という先入観なのが実に面白いところであります。
 そしてそこに結びつけられたもう一つのトリックは、やがて本シリーズでもまた別の形で使われるのですが――そのプロトタイプと見るのは、牽強付会に過ぎるでしょうか。

 残り4話は次回紹介いたします。


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2019.07.17

「コミック乱ツインズ」2019年8月号(その二)


 「コミック乱ツインズ」誌、2019年8月号の紹介の後編であります。

『武蔵の理』(柴田真秋&永井義男(協力))
 幕末の佐賀藩で、次々と強者に挑戦しては破っていく二刀鉄人流の剣士・牟田文之助。しかし流祖である宮本武蔵の五輪書を重んじる父からはその派手な剣を厳しく咎められ、文之助は不満と悩みを抱えていたのでした。
 そんな中、彼の前に現れた幼馴染みの直心影流の剣士・誠士郎。全国武者修行の権利を賭けて誠士郎と立ち会う文之助ですが……

 非常にインパクトの強い流派名ですが、その「二刀」が示すとおり、宮本武蔵の弟子が創始したと言われる二刀鉄人流。本作の主人公・文之助は、その皆伝者であり、幕末の佐賀にその人ありと知られた実在の剣士であります。
 その青年時代を描く本作では、派手な技に流れまくって、二刀鉄人流の道理=武蔵の理を理解しない文之助が登場するのですが――ライバルに完膚なきまでに敗れて、そこで初めて、というのはお約束ながらやはり盛り上がるところであります。

 ただ、本作で文之助が目覚める場面が、いわゆる「覚醒」的で説得力に欠けるのと、使う技も二刀鉄人流という本作ならではの流派を踏まえたものとして感じられるかというとちょっと苦しいところであります。題材は非常に面白いだけに、少々勿体なく感じたのが正直なところです。


『カムヤライド』(久正人)
 難波での戦いで出会ったオトタチバナに不審者扱いされた末にのされ、連行されてしまった主人公二人は置いておいて、今回は、彼らの敵であり、国津神を各地で目覚めさせてきた謎の男・ウズメを中心に描かれることになります。
 たった一人でモンコ=カムヤライドとヤマトタケルを手玉に取ってみせた怪物・ウズメ。しかしそのウズメには何と仲間が、それも四人も!? という衝撃の事実が、今回明かされることになるのですが――その面子が、また実に作者らしいビジュアルと言動の奇っ怪な連中揃いであります。

 ウズメ一人でも大変なところに、一気に同格が四人も増えてどうなるのか――と心配になりますが、しかし彼らにも弱味と悩みがある様子。それは――と、いうのも大いに気になりますが、モンコたちの運命も気になるところ。そろそろまた格好良い活躍を見せていただきたいものです。


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 芦名氏との戦いに劇的な勝利を収め、奥羽の覇者となった政宗。しかしそれが関白・豊臣秀吉の逆鱗に触れてしまい、政宗は北条家を巻き込みつつ、状況を打開すべく動くことになります。しかし北条家と真田家の激突が、その思惑を狂わせ、そして伊達家の中でもある動きが……

 という史実どおりの、そして非常に緊迫した状況を、四コマ漫画でギャグを絡めつつ描いてみせるのに相変わらず驚かされる本作。
 今回は前半部分に「その後の」秀吉が出ずっぱりで、シリアスなのに妙におかしい――というのはさておき、そりゃあ第二の○○○を期待したくなるだろうなあ、と伊達家に同情させられるというものです。

 ちなみに先月号ラストの四コマに冠されたタイトルは「終章の幕開け」。政宗にとって「最大の危機にして最悪の事件」の存在がここで予告されるのですが――間違いなくそれが指すのはあの出来事だとは思うものの、それが本作のラストとなるのか? それはそれでキリは良いとは思いますが――とこれは先のことを気にしすぎですね。


 来月号はやまさき拓味『用心棒稼業』が巻頭カラー&最終回とのこと。これまで様々な剣戟シーンを楽しませていただいただけに残念ですが、最後まで見届けたいと思います。


「コミック乱ツインズ」2019年8月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年8月号 [雑誌]


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 「コミック乱ツインズ」2019年4月号
 「コミック乱ツインズ」2019年5月号
 「コミック乱ツインズ」2019年6月号

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2019.07.16

「コミック乱ツインズ」2019年8月号(その一)


 一ヶ月空いてしまいましたが、「コミック乱ツインズ」誌の最新号、8月号の紹介であります。表紙は武村勇治『仕掛人藤枝梅安』、巻頭カラーは橋本孤蔵『鬼役』、特別読み切りで柴田真秋『武蔵の理』が掲載されています。今回もまた、印象に残った作品を一つずつ取り上げましょう。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 七代将軍・家継宣下が近づく中でいよいよ激しくなっていく権力者の暗闘。新井白石は長崎奉行減員の噂を聞き、その背後に柳沢吉保の影を知ることになります。
 ここで聡四郎に代わり白石の手足となった徒目付の前に立ち塞がるのは、同じ徒目付でありながら柳沢の下についた永渕。そして二人が激突を繰り広げる場に現れた怪漢の正体は……

 というわけで、白石に逆らって聡四郎が閑職に置かれ、今回はほとんど驚き役となっている一方で、どんどん展開していく物語。これまでも物語の陰で暗躍してきた一伝流の達人・永渕ですが、今回ついにその師が登場することになります。
 その師というのがまた、剣鬼という存在を絵にしたような――本当に本作は「厭な人間」の顔を描くのが上手い――実に恐ろしい相手。そしてその存在が、聡四郎たちを思わぬ因縁に引きずりこんでいくことになるのですが――その前に聡四郎の前に再び紀文が、というところで次回に続きます。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明(監修))
 散逸した初代大橋宗桂の棋譜七冊のうち、長崎までの旅で二冊を手にした宗桂。残る五冊を、宗桂と彼の周囲の人々は、それぞれの思惑を秘めて探すことになります。
 そして今回の中心となるのは、宗桂の従姉妹であり、将棋御三家・伊藤家の生まれながら女である故に将棋に触れることを許されなかったお香。宗桂のもとに調べに向かった彼女は、そこで思わぬ相手に出くわして……

 宗桂・お香・田沼勝助と、これまで将棋を通じて結びついてきた仲間たちが、それぞれに背負ったもののために道を少しずつ違えていく姿を最近描いている本作。その中でも最も印象に残るのは、女というだけで差別され続け、好きなように将棋を打つという自由を掴むためにスパイ紛いの行為を余儀なくされるお香の姿でしょう。
 今回もその彼女の複雑な心中が描かれることとなりますが――その一方で相変わらずの鉄面皮なのが宗桂。思惑が一番わからないのが主人公というのもすごい話ですが、しかし今回彼が明かした棋譜の秘密の一端は、そうならざるを得ないようなとんでもない背後があることをうかがわせます。

 果たして今回明かされた人物の名前が如何なる意味を持つのか――これは気になります。


『土忍記 剣と十字架』(小島剛夕)
 小島剛夕の名作復活特別企画の第十一回は、先月に引き続き、抜忍たちの孤独な旅と戦いの姿を描く連作『土忍記』からの採録であります。

 放浪の果てにやって来た九州で激しいキリシタン弾圧を目の当たりにした抜忍・多羅尾平八。ふとしたことからそんなキリシタンの村の一つに身を寄せることとなった平八は、両親を処刑されたばかりの娘・香代らとともに、そこで開墾に勤しむことになります。
 キリシタンの教えを理解できぬものの、香代と語らううちに、神の存在を信じるようになっていく平八。彼がようやく平和と幸せを掴もうとしたその時、村の人間の醜い嫉妬が……

 抜忍+キリシタンという、これはもうどう転んでも悲惨なことにしかなりそうもないという予感のとおり、何ともやりきれない物語が展開する本作。決して辛苦だけでなく、小さな希望の姿が描かれるだけに、その辛さは幾層倍にもなって刺さるのであります。
 アクションシーンは非常に少ないのですが、凝縮されたそれが、(一歩間違えるとかなり無理矢理な場面なのですが)主人公の悲痛な想いの爆発として描かれる様も印象的な作品であります。


 長くなりましたので二回に分けたいと思います。


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2019.07.15

『鬼滅の刃』 第十五話「那田蜘蛛山」

 先の戦いの傷も完全に癒えた炭治郎・善逸・伊之助に下された新たな任務――それは那田蜘蛛山に急ぎ向かえというものだった。先に派遣された十人もの隊士たちが行方不明になっていたその山で、先発の隊士たちから襲われる炭治郎たち。彼らは皆、蜘蛛の糸に操られていた……

 禰豆子だけでなく、炭治郎まで頭上にお花を浮かべて追いかけ回す善逸の姿から始まる今回。このアニメ版特有の(?)原作のナレーションは再現しない仕様のおかげで、禰豆子が炭治郎の妹だと知ったくだりが描かれず、とうとう善逸が色々と見境がなくなったように見えないでもないのが困りものですが、何はともあれ炭治郎・善逸・伊之助の三人組は、今回も実に賑やかであります。
 そんなこんなで傷も完治したと思えば、早速鎹鴉が指令を携えてやってくるブラックな職場の鬼殺隊、今度の任務地は那田蜘蛛山だそうですが……

 他人に無償の好意を向けられるのに全くもって馴れていない伊之助が、藤の花の家紋の屋敷のお婆さんが手向けの言葉を贈ってくれたことを理解できず炭治郎に絡んだり、うまく説明できなかった炭治郎がダッシュしてごまかしたり――と、相変わらず男子中学生の日常のような微笑ましい三人組なのですが、しかし辿り着いた那田蜘蛛山は見るからにヤバげなムードであります。
 例によってへたれぶりを発揮した善逸が腰を抜かしているところに現れたのは、鬼殺隊の隊士。しかし助けを求めてきたその隊士は、炭治郎たちの眼前で、謎めいた言葉を残して、文字通り山の中に引き戻されてしまったではありませんか。

 かくて、善逸を置いてけぼりにして山中に分け入った炭治郎と伊之助ですが――そこで彼らが出会ったのは、いかにもモブい感じの隊士・村田さん。炭治郎たちの前に、総勢10名でこの山に派遣された村田さんたちですが、突然隊員たちは同士討ちをスタートしたというのであります。
 ……という話が終わるのを待っていたかのように現れるゾンビっぽい隊士の皆さん。早速襲いかかってくる隊士たち(ここで、隊員同士でやり合うのが御法度と知らないなんて馬鹿だぜ、と得意気な伊之助がアホカワイイ)。彼らが何者かに操られていることに早速気付く炭治郎ですが――その正体は、隊員たちの体につけられていた糸だったのでした。

 早速糸を切る炭治郎ですが、しかしこの糸は、周囲に無数に蠢く蜘蛛たちがつけたもの。切っても切ってもすぐにつけ直される上に、炭治郎たちの体にまで隙あらばつけようとするのですから恐ろしい。これではラチがあかないと、伊之助は鋭敏な触覚で遠方の存在をも察知できる獣の呼吸・漆の型 空間識覚――伊之助のわりには攻撃技ではないのが面白い――で、蜘蛛たちを操る鬼を発見するのですが……

 隊士たちの危機にお屋形様の命を受けて出撃する二人の柱・義勇としのぶ、炭治郎が禰豆子を連れていったことを思い出しておっかなびっくり山に足を踏み入れた善逸、操り人形の糸を操る鬼、そしてその鬼を「母さん」と呼び、張り巡らされた糸の上から炭治郎たちの戦いを見つめる少年鬼――かつてない規模の戦いは、まだ始まったばかりであります。


 というわけで、これまでは一対一、せいぜい敵味方二、三人同士の戦いであったものが、敵味方ほとんど団体戦のような様相を呈する那田蜘蛛山の戦い。冒頭のわちゃわちゃと楽しい炭治郎たち三人組の姿からはうって変わった地獄絵図ですが、この落差の激しさこそが『鬼滅の刃』であります。

 そして今回初登場したのは二人目の柱・しのぶさん。冷静に考えれば義勇さんが柱ということがこれまで言及されたのか、そもそも柱って何だっけ? という気もしますが、それはさておき――ほとんどのキャラは初登場の時悪人かサイコパスに見える本作(言いすぎ)らしく、にこやかな態度の中にも昏さが見える瞳が印象的であります。

 今回はもう一つ、善逸の雀・チュン太郎の本名が「うこぎ」だったという事実が判明したのがマニアには嬉しい……か?


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 『鬼滅の刃』 第十二話「猪は牙を剥き 善逸は眠る」
 『鬼滅の刃』 第十三話「命より大事なもの」
 『鬼滅の刃』 第十四話「藤の花の家紋の家」

 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第4巻 尖って歪んだ少年活劇


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2019.07.10

鳴神響一『凶嵐 おいらん若君徳川竜之進』 クライマックス目前!? 立ち塞がる思わぬ「敵」


 尾張徳川家のご落胤ながら、故あって吉原の花魁・篝火として暮らす徳川竜之進の冒険もこの第4弾でいよいよ佳境に入りました。娘の生き肝を食らう河童の跳梁に怒りを燃やし、黒幕に迫る竜之進。しかしその先に待ち受けていたのは、思いも寄らぬ大陰謀で……

 生まれ落ちてすぐに藩の政争に巻き込まれて命の危険に晒された末、五人の甲賀忍びによって救い出され、吉原に潜んで成長した徳川竜之進。
 木を隠すには森の中――その身を隠すために花魁・篝火に身をやつした竜之進は、決して客とは同衾しない花魁として名を馳せつつ、裏では江戸を騒がす許せぬ悪を成敗してたのであります。

 そんな七夕の晩、気に染まぬ花魁稼業の憂さ晴らしに吉原を抜け出し、いつもの仲間たちが集う煮売り屋に向かった竜之進。そこで、娘たちが河童によって無惨に殺され、生き肝を奪われているという噂を聞いた竜之進は、あまりにも無惨な所業に激しく怒りを燃やすのでした。
 そして町娘に扮し、自らを囮に河童が出没するという赤坂の溜池近くの山王社に向かった竜之進。果たして現れた悪党たちに、破邪顕正の刃を振るう竜之進ですが……


 もはや第4弾ともなればシリーズのスタイルも固まったというべきでしょうか、仲間たちと飲んでいるところで江戸を騒がす怪異じみた事件の存在を聞きつけ、竜之進が成敗に乗り出す――という展開を今回も敷衍する本作。
 誰かから依頼されたわけでも、犠牲者に関連があるわけでもなく、直接竜之進には関連のない事件に正義感のみで乗り出すのは、世を忍ぶご落胤としてはいかがなものか――という気もいたしますが、それがヒーローというものでしょうか。

 それはさておき、「河童」の目的を察知した(ここで登場するゲストキャラがなかなかの存在感)竜之進は、悪党成敗に向かうのですが――ちょっと展開が急なのでは、と思いきや、ここから物語は思わぬ方向に走り始めることになるのです。


 ここから先の展開について、未読の方の興を削がぬように紹介するのはなかなか難しいところであります。
 しかし、事件の背後に潜んでいたものが思わぬ存在であり、そしてそれがまた、さらに思わぬ形で、竜之進自身の存在に繋がっていく――と述べることは許されるかと思います。

 冒頭に述べたとおり、尾張徳川家の御家騒動の中で危うく命を奪われかけ、江戸に逃れた竜之進。その彼がいまだに吉原に潜み、こともあろうに花魁に身をやつしているのは、彼の身に迫る危険がいまだ去っていないことを意味します。
 だとすれば、いずれは尾張徳川家を
向こうに回した物語を――と予想できるのですが、いやはや、それを思わぬ、それも絶妙な形でひねった展開が待ち受けているとは……

 これも詳細を述べられないのが非常に心苦しいのですが、ここで竜之進の前に立ちはだかるのは、ちょっと意外な、しかし史実を見ればまさしく彼の敵とするに相応しい存在であります。
 実は時代物では比較的メジャーな人物ではあるのですが、この時期に登場するのはかなり珍しいのでは――というのは語り過ぎかもしれませんが、定番の物語かと思えば、この落差十分の変化球には、大いに唸るしかありません。

 そして繰り広げられる、シチュエーション的にもスケール的にもシリーズ屈指の大殺陣だけでも楽しいところに、さらに「えっ!?」というような展開から「ええっ!!」という結末に――いやはや、完全に作者の掌の上で転がされました。


 はたしてこの先に竜之進を待ち受けるものは何か。はたして彼は己の正義を貫き、そして平穏な日常を手に入れることができるのか――クライマックスは目前であります。


『凶嵐 おいらん若君徳川竜之進』(鳴神響一 双葉文庫) Amazon
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2019.07.09

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第16巻 哀しき巨人・岩柱の過去 そして最終決戦の幕上がる!


 このブログでも毎週何だかんだ言いつつ取り上げているようにアニメも好調に放送中の『鬼滅の刃』ですが、原作の方は鬼殺隊総出の柱稽古を経て、この巻からいよいよ最終決戦に突入することになります。鬼舞辻無惨たち鬼の本拠地である無限城で、絡み合う因果因縁とは……

 禰豆子がついに日の光を克服したことで、鬼殺隊と鬼、それぞれにとって新たな局面に入った戦い。いよいよ決戦が近いことを予感した鬼殺隊は、柱たちを中心とした大特訓・柱稽古を開始することになります。
 義勇さんのコミュ障ぶりが明らかになったり、不死川兄弟の兄弟喧嘩に皆が迷惑したりと、色々と賑やかに(キャラの掘り下げが)展開していった末――次に炭治郎と善逸は、岩柱・悲鳴嶼行冥のもとに向かうのですが、しかし……

 と、この巻の冒頭で描かれるのは、滝行に丸太背負い、岩押しと、ある意味最も修行らしい岩柱の特訓。しかし強烈なビジュアルだらけの柱たちの中でも一際目立つ風体の悲鳴嶼がそこに加わると、異次元の風景という感があります。
 さらに久々に登場した感のある伊之助も加わって、賑やかな(しかしやる側は笑い事ではない)特訓風景を楽しんでいたものが、しかしここで一転、シリアスで重い物語が語られることになります。

 それは悲鳴嶼の過去――かつては僧として孤児たちと寺に暮らしていた彼が、何故鬼殺隊に加わり、柱にまでなったのか? ここで描かれるのは、他の柱(恋柱とか例外もいますが)――いや炭治郎たち同様、鬼によって運命を狂わされ、辛酸を舐めた者の悲痛な叫びなのであります。

 先に述べたとおりその強烈なビジュアルといい、ことあるごとに数珠を爪繰りながら涙を流すその言動といい(あと玄弥が弟子だったり)、他の柱が評する通りどうにも得体の知れなかった悲鳴嶼。
 しかしたった一つのエピソードで、キャラクターのイメージをマイナスからプラスに変えてみせるのは本作の最も得意とするところであり――ここでも、悲鳴嶼が一気に哀しくも頼もしい勇者に見えてきたのですから、さすがと言うべきでしょう。


 しかし(衝撃の不死川兄の秘密暴露を挟んで)ここから一気に物語は展開していくことになります。
 ついに鬼殺隊の長・産屋敷の居場所を突き止め、その前に現れた無惨。実は同族の出だったという二人の対話によって、鬼と人間の違い――それはこれまで物語の中で語られてきたものの延長線上にあるのですが――が語られるのもイイのですが、まさかここから決戦の烽火が、あまりに思い切った形で上がるとは!

 懐かしいあのキャラクター(ここに来てさらりと語られるあまりに重い過去に涙)、意外なキャラクターの起用に驚きつつ、ついに長かった戦いもここで決着かと思えば――待ち受けていたのは別の意味での決着戦であります。

 無惨の本拠・無限城を操る存在であり、そして空席となった上弦の肆の座に就いた鳴女の力によって、その無限城に引きずり込まれた鬼殺隊の隊員たち。そして無惨に至る道において彼らの前に立ち塞がるのは上弦の鬼たち――これぞジャンプに脈々と続く死亡遊戯パターン(の変形)と言うべきでしょうか。
 かくて、迷宮という言葉すらも生ぬるい無限城の内部で待ちかまえる下弦クラスの力を持つ無数の異形の鬼と上弦の鬼vs岩・霞・風・蛇・恋・水・蟲の各柱、そして炭治郎や(何故か非常に覚悟を決めた表情の)善逸をはじめとした鬼殺隊の隊士たちの決戦がここで始まるのであります

 敵も味方も役者は揃い、幕開けとなる第一番勝負は蟲柱・胡蝶しのぶ対上弦の弐・童磨――あの猗窩座殿を手玉に取る得体の知れぬ男であり、そして何よりもしのぶの姉・カナエの仇であります。
 奇しくも自分が鬼殺隊に入ったその理由を作った相手と対峙したしのぶですが、全力を尽くした彼女にとっても、相手はあまりに悪い。果たして……

 というところで引きとなるこの第16巻。ここから先は全てが死闘であり名勝負(でも突発的にギャグは入る)、今から次の巻が待ち遠しいのであります。


 ちなみに単行本のおまけページは、これまで以上にキャラの掘り下げや補足が多い印象。去就が気になっていたあのキャラクターにもきちんとフォローが加えられていて、少しだけ安心しました。


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2019.07.07

『鬼滅の刃』 第十四話「藤の花の家紋の家」

 善逸を執拗に痛めつける猪男――嘴平伊之助と激突する炭治郎。素手での激しい戦いは、炭治郎が猛烈な頭突きで伊之助をKOして終わるのだった。その後、指令で休養のために藤の花の家紋の家に向かう三人。騒々しい一日も終わりの夜、炭治郎の箱の中に禰豆子が入っていたことを知った善逸は……

 鬼(禰豆子)の入った炭治郎の箱を必死に守る善逸をボッコボコに痛めつける猪男に激怒する炭治郎、という場面から始まる今回。こちらもいきなりぶん殴ってアバラを折る(しかし腹を殴ってアバラが折れるのか?)というラフファイトに走る炭治郎ですが、彼らしいと言うべきか、怒る理由が禰豆子の箱を刀で突き刺そうとしたからではなく、善逸に暴力を振るったから、というのが素晴らしいところであります。
 しかしこのリアクションに喜んだのは猪男。隊員同士で刀を抜くのはいかんと炭治郎に怒られて、それならばステゴロでいこうともの凄い曲解をすると、今度は炭治郎に襲いかかります。そして繰り広げられる二人のバトルなのですが――この辺り、とにかくやたらとリソースを割いた感のある気合いの入ったアクションが延々と続き、まさかここでこのクオリティのものが見れるとは、と驚かされます。

 そして猪男の、文字通り獣のような下段中心の攻めに苦戦する炭治郎。しかも異常に体の柔らかい猪男は、アバラが折れているというのにキングアラジンの真似までして柔軟アピールであります。体に悪いと心配する炭治郎に、「今この刹那の愉悦に勝るもの無し!」と読み書きできないわりに妙な言い回しを知っている猪男ですが、それはともかくここで炭治郎の隠し必殺技、頭突き炸裂!
 さすがの猪男もよろめいて猪の仮面が外れるのですが――その下の素顔は何と美少女顔。違和感バリバリの中、ここでようやく嘴平伊之助と、これは何となくらしい名前を威勢良く名乗る猪男ですが――そこでようやく頭突きの威力が頭に回り、失神するのでした。

 何はともあれ鼓屋敷での戦いもこれで終了。炭治郎の絶妙の天然ぶりと伊之助の単細胞が噛み合って犠牲者たちの埋葬も終わり、炭治郎たちは清や正一、てる子と別れて山を下りることになります。正一が鬼を倒したと完全に勘違いしている善逸が、正一と離れたくないとダダをこねた末、炭治郎に首筋に手刀を食らう一幕もありましたが……
 そして休息と治療のために三人が向かったのは、「藤の花の家紋の家」。この家紋の家は過去に鬼狩りに命を救われており、鬼狩りに無償奉仕をする家柄ということですが――いざ入ってみれば、異常に手際のよいお婆さんによってこれまた異常においしそうな食事が振る舞われたり、布団が用意されたり医者が手配されたりと、何ともいたれり尽くせりであります。

 しかしおかしいのは、直前まで激しくやりあっていた(というか伊之助が一方的に突っかかった)三人が、一緒の食卓を囲んでわちゃわちゃ騒いだり、布団を並べてうだうだ喋ったりしていることで――君たち修学旅行か! とツッコミたくなる姿なのです。もちろんそれが実に良いのですが……

 しかし、そこでちょっとマジになったのは、善逸であります。(自分がボコられる原因となった)鬼を連れているのは何故か――そう問われて、まずそれを知って箱をかばってくれたことに礼を言う炭治郎は良い子ですが、いい奴と言われて赤面したり、強いと言われたら真顔で正一君と引き離したことは許さないとキレたりたりと、実に善逸は面倒くさい。
 そしてそんなやりとりをしている間に、箱から禰豆子が出てきたのですが――はじめビビっていた善逸も、出てきたのが美少女と知って豹変。お前のリア充生活のために頑張ったわけじゃないとブチ切れると、結婚を止められたのと正一のことも合わせ、炭治郎を粛正すると日輪刀を抜き――という、実にしょうもないオチで次回に続きます。


 というわけで前半のハードな徒手格闘と、後半の修学旅行ぶりと、ある意味実に本作らしい内容だった今回。途中に入る場面転換の演出が非常に気恥ずかしいものがありましたが、やっぱり一人より二人、二人より三人の方が台詞やリアクションに膨らみが出てよいものです。

 そして次回予告はまさかのキメツ学園物語。本編の方ではしばらくお見限りだった(と言ってももうすぐ出番あるんですが)義勇さん、良かったね登場できて――まあ、本編とは別の意味でポンコツですが……


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 『鬼滅の刃』 第七話「鬼舞辻無慘」
 『鬼滅の刃』 第八話「幻惑の血の香り」
 『鬼滅の刃』 第九話「手毬鬼と矢印鬼」
 『鬼滅の刃』 第十話「ずっと一緒にいる」
 『鬼滅の刃』 第十一話「鼓の屋敷」
 『鬼滅の刃』第十二話 「猪は牙を剥き 善逸は眠る」
 『鬼滅の刃』第十三話 「命より大事なもの」

 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第3巻 ついに登場、初めての仲間……?
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第4巻 尖って歪んだ少年活劇


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2019.07.04

『ご存じ、白猫ざむらい 猫の手屋繁盛記』 ついに実現、待望の父子競演!?


 猫又の呪いで巨大な白猫にされてしまった猫ざむらい・近山宗太郎の奮闘を描く『猫の手屋繁盛記』も快調シリーズ第6弾――今回はいよいよある人物がゲストとして登場することになります。そう、元町奉行の大身旗本であり、若い頃は遊び人だった宗太郎の父が――果たして父子競演の行方は如何に!?

 ふとしたことから猫又の呪いを受け、巨大な白猫の姿に変えられてしまった宗太郎。呪いを解くためには百の善行を積まなければならないという運命に、市井で何でも屋を開業した宗太郎は、その中で様々な人間や猫、動物や幽霊と触れ合ううちに、人間として大きく成長していくことになります。

 そして今日も猫の手屋として市井の人々を助ける宗太郎が、ある日銭湯で出くわした事件を描くのが、巻頭の『昔取った杵柄』です。
 ある日、馴染みの銭湯で思わぬ人物と出会うことになった宗太郎。それは近山銀四郎――自称・用心棒の浪人にして「桜吹雪の銀の字」、そして宗太郎の父であります。

 ……もともと宗太郎の父親は、以前町奉行を務めた大身旗本という設定。そもそも近山という姓自体本名ではなく、父や家に迷惑をかけないための偽名なのであります。
 しかしこのような設定であれば、いずれ父親も登場するのかな――と思えばこの展開。思わずびっくりの直球ですが、息子が猫ざむらいなのを思えば(?)これもOKでしょう。

 かくて思わぬ再会を果たした宗太郎は、父が密かに自分を見守ってくれていたことに感動するのですが――そこに水を差すように起きたのが、思わぬ泥棒騒動。銭湯の二階から、24両もの大金が盗まれたという騒動に、近山父子は二人で挑むことになります。
 しかし父の方は昔取った杵柄とはいえ今はお役目を外れ、一方の宗太郎のほうは猫ざむらい。性格の方も若い頃は遊び人で彫り物までしていたという父と、石部金吉金兜の宗太郎は正反対であります。

 果たしてこの二人のコンビネーションや如何に――と、一種のミステリとしての楽しさに加えて、父子のコミカルなやりとり、そしてたとえ姿は変わっても確かに通じ合っている父子の情がグッとくるお話です。


 そして何だかんだで年末には実家に帰った宗太郎を襲った思わぬ悪夢を描く小編『加牟波理入道、ホトトギス』 に続いて描かれる第3話『すごろく』は、それまでとは一風変わった、何とも不思議な味わいの作品です。

 あまりに放蕩が過ぎたために蔵に押し込められ、それでもまだ行いが収まらず、面当てのように自らの命を絶ったという大店の若旦那・清太。宗太郎とは全く無関係のような話ですが――しかし何でも屋の仕事の帰り道に宗太郎の懐に飛び込んできた子猫には、何と清太の魂が宿っていたのであります。

 首をくくった直後に、その身に近づいた猫に取り憑いたという清太。そんな彼が宗太郎を頼ってきたのは、二世を誓った吉原の遊女のもとに自分を連れていって欲しいと頼むためでありました。
 あまりに自分勝手で脳天気な清太に閉口しつつも、しかし頼まれたらイヤとは言えない宗太郎。しかし彼にとって吉原には最も縁遠い場所と悩んでいるところに、腐れ縁の役者・雁弥と出くわした宗太郎は、彼の力を借りて吉原に向かうのですが……

 テンポよい会話によって、まるで落語のようにおかしなシチュエーションで物語が展開していくのが魅力の一つの本シリーズ。
 その魅力はこのエピソードにおいてももちろんフル回転で、宗太郎以上におかしな境遇ながら太平楽な清太に振り回される宗太郎たちの姿には、幾度も噴き出しそうになります。

 しかしそれだけでは終わらないのも、また本シリーズらしさというもの。苦労の果てに吉原にたどり着いた宗太郎たちが知った真実とは、そしてそれを知った清太の選択は……
 そこまでのおかしさが一変、あまりに苦い真実にギョッとさせられた末に、さらに苦いもう一つ真実を突きつけられる本作。『すごろく』という題名に込められたものに気付かされた後に、何とも言えぬ味わいが残る――本シリーズでなければ描けないような、変格の人情ものであります。


 そんなわけで、本作においても幾つかの善行を積み、そしてそれ以上に大きな経験を積んだ宗太郎。
 そんな彼が百の善行を積んで人間に帰れるのはいつか――は、猫は七つより大きい数を数えられないのでわからないのですが(ひどい)、様々な面白さが詰まった本作を読むと、それはもう少し先でもいいのではないかな、などと思ってしまったりもするのであります。


『ご存じ、白猫ざむらい 猫の手屋繁盛記』(かたやま和華 集英社文庫) Amazon
ご存じ、白猫ざむらい 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)


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