2018.01.21

「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その二)

 今年も充実のスタートの『コミック乱ツインズ』誌、2月号の紹介の続きであります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 いつ果てるとも知れない吉原からの刺客との戦いに苦戦する聡四郎。同門の弟弟子である俊英・玄馬を家士とした聡四郎ですが、はじめての人斬りに玄馬は目からハイライトがなくなって……
 という上田作品ではお馴染みの展開ですが、こういう時体育会系の聡四郎は役に立たない。では誰が――といえば当然この人! というわけで紅さんがその煽りスキルをフル活用。煽りの中に聡四郎への惚気を交えるという高等テクニックで玄馬の使命感を奮い立たせ、見事復活させることになります。

 そして白石からの催促に決戦を決意した二人は、師・入江無手斎に最後の稽古をつけてもらうことに――というわけで後半は無手斎無双。紅と無手斎、さらに玄馬と、聡四郎以外のキャラの活躍も増えてきたのが嬉しいところであります。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 犬神娘の悲恋を描く物語の後編――一族を失い、ようやく愛する人との平穏な暮らしを手に入れた犬神使いの少女・なつ。しかし彼女の夫となった元一領具足の甚八は、新領主である山内一豊の卑劣なだまし討ちにより、仲間共々命を落とすことになります。怒りと怨念に燃えるなつの犬神は鬼と化して……

 というわけで前編を読んだ時の不吉な予感は半分当たり半分外れて、鬼と化したのはなつ自身ではなく犬神の方。しかし鬼殺すマンにとっては見過ごせる事態ではなく、久々になつの前に現れた鬼切丸の少年は、彼女に刃を向けることとなります。
 しかし人間への不信と怨念に燃えるなつに対して、誰も恨むことなく命を擲った自分の母の話をする少年はちょっと悪手。予想通り、火に油を注ぐことになるのですが――しかし母への想いが、人間に怨みは向けないという少年の行動原理となっているのは面白いところです。

 なにはともあれ、最悪の事態は避けられたものの、かつて愛しあった相手に対しても、犬神使いとしての使命を果たさざるを得なかったなつを何と評すべきか。しかしそうすることこそが、相手が愛してくれた自分だと、しっかりと二本の足で立つなつの姿は、哀しくも一つの強さを感じさせます。
 とはいえ、ラストの山内一豊の妻の言葉のおかげで、「まこと女子は業が深い」という少年の言葉でオチとなってしまうのは、正直なところちょっと残念ではあります。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 年齢も境遇もバラバラながら、西へ東へ放浪を続ける用心棒稼業という点のみ共通する三人の男を描く新連載の第2回。
 終活、仇討、鬼輪(いつの間にかこれが渾名に)とそれぞれを呼び合う三人のうち、今回は仇討――海境坐望の主役回となります。

 三人分の宿代のための用心棒仕事に急ぐ坐望が、その途中で出会った、これから仇討ちの決闘に向かうという兄弟。まだ幼いその姿にかつての兄と自分の姿を見た彼は、一度は見過ごしながらも、とって返して助太刀を買ってでることに……
 と、物語的には定番の内容ながら、絵の力で大いに読まされてしまう本作。坐望が、自分の稼業を擲ってまで兄弟のもとに駆けつけるまでの心の動きの描写もさることながら、何よりも、吹雪の中での決闘シーンが10ページに渡ってほとんど無音(擬音なし)で描かれるのが素晴らしいのであります。

 それにしても海境坐望という名前は原典がありそうですが――わからない自分の浅学ぶりがお恥ずかしい。


 その他、『エンジニール』は、ドイツ出張中でほとんど登場しない島の代わりに、その子・秀雄が主役となるエピソード。当時の都電の弱点を解消するための実験が、後の彼の偉大な業績に繋がるという展開は、面白くはありますが、さすがに逆算めいたものになっているのは残念。
 また、『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)は、芦名家の跡継ぎを巡る各勢力の思惑の描写がメインで、合戦続きだった最近に比べれば動きは少ない回ですが、兄への複雑な想いを覗かせる伊達小次郎の描写はさすがであります。(夫を亡くした悲しみからの義姫の復活方法もさすが)


 次号は久々に『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)が復活。今号の新連載のようにすっ飛ばす一方で、人気小説の漫画化作品も着実に掲載するのが、本誌の強みだと今更ながらに感じます。


『コミック乱ツインズ』2018年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年2月号 [雑誌]


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2018.01.20

「コミック乱ツインズ」2018年2月号(その一)

 今年最初の『コミック乱ツインズ』は、連載再開の『鬼役』が表紙ですが、なんと言っても注目は巻頭カラーで新連載の『カムヤライド』。この作品をはじめとして今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介していきましょう。

『カムヤライド』(久正人)
 というわけで最注目の新連載の本作、独特のビジュアルとアイディアで熱狂的なファンを持つ作者は、これがもちろん本誌初登場ですが、物語の舞台も、これまた本誌初であろう古墳時代。そして主人公は鎧装ヒーローという、実際にその目で見てみなければ信じられない作品です。

 200年前の天孫降臨(という名の巨大隕石落下?)によって、九州を離れたヤマト族が、列島の中心に強大なクニを樹立した畿内を中心とする国家を樹立した4世紀。しかし各地ではヤマトへの反乱が相次ぎ、ヤマトの皇子・オウスは、九州を騒がす熊襲の王・カワカミタケルの討伐に向かうことになります。

 しかしオウスの前に現れたタケルは、巨大な蜘蛛が入り交じったような異形の怪物。その恐るべき力にオウスは配下を皆殺しにされ、追い詰められることになります。
 と、そこに現れたのは、オウスが旅の途中で出会った、道ばたで埴輪なる人形を売っていた奇妙な男・モンコ――そしてモンコは、鎧をまとった戦士・神逐人(カムヤライド)の姿に変身して……!

 というわけで、古代を舞台とした変身ヒーローアクションとも言うべき本作。最近はスーパー戦隊ものにデザイナーとして参加しているから、というわけではないと思いますが、外連味のたっぷり効いた台詞回しとアクションには、濃厚な特撮風味が漂います。

 かつて封印されたものの今また眠りから覚めた異形の国津神、そしてそれを封印する者・神逐人という設定も面白いのですが、しかしどこかで見たようなクマめいた外観の国津神、オウスはいきなり緊縛触手責め、そして、モンコの「芸術(わざすべ)は爆発だ(はぜたちぬ)!!」などという怪台詞ありと、第1話から飛ばしっぱなし。
 それでいて「俺の立つここが境界線だ!」「ここより人の世 神様立ち入り禁止だ」という決め台詞(?)から繰り出す封印キックは、ギミックも含めて実に格好良く、まずは快調な滑り出しであります。

 本誌の読者層とマッチするかはさておき、個人的には大歓迎の作品であります。


『薄墨主水地獄帖 獣の館)(小島剛夕)
 今号も登場の小島剛夕の名作復刻特別企画は、作者が昭和44年から46年にかけて発表した、地獄から来た男と嘯く謎の素浪人・薄墨主水を主人公とする連作シリーズの一編です。

 主水が訪れた城下町で跳梁する婦女暴行殺人鬼。その怪人と剣を交えた主水は、残された着物の切れ端を手がかりに、ある名家を訪ねることになります。そこに暮らすのは気弱そうな青年と、彼を溺愛する美しい母、そして二人にかしずく青年の妻。屋敷に泊まった主水は、そこで三人の異常な関係を目の当たりにするのですが……

 どことなく柴練ヒーローを思わせる着流し総髪のニヒルな浪人の主水ですが、ユニークなのは、彼が白面の美形などではなく、むしろ悪相の不気味な男であること。
 そんな彼だからこそ、本作で描かれる奇怪な人間関係を断ずるに相応しい――と感じさせる一方で、彼の、そして読者の予想を遙かに上回る異常な精神の存在を描く結末に驚かされるのです。

 ちなみに本作、当然のような顔をして主水が登場するのですが、実はシリーズ第1話とのことで、こちらにも驚かされました。


『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 公儀の隠密仕事を請け負う美人姉妹・桃香と桜紅の活躍を描く物語の第二話です。
 前回、旗本の長男・佑馬と花魁・黄瀬川の恋路を助けるため、二人の間を裂くという依頼を無視して黄瀬川を助けた桃香。これで一件落着かと思いきや、まだやることがあるという彼女の真意は……

 というわけで今回描かれるのは、佑馬サイドの物語対面を重んじる父によって座敷牢に入れられた佑馬の元に忍んだ桃香が、彼に対して与えたモノとは……という展開は予定調和的ではありますが、自分で手を下せば簡単なものを、敢えて回り道することで男の真意を試すというのは、なるほど女性主人公ならではの視点というべきでしょうか。。

 相変わらず主人公の公儀隠密としての設定は謎ですが、魅力的な物語ではあります。


 残りの作品はまた明日。


『コミック乱ツインズ』2018年2月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年2月号 [雑誌]


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2018.01.16

友藤結『影に咲く花』 影獣との戦いの中で結びつく二人の救い

 時は江戸時代初期、人々は「影獣」と呼ばれる物の怪に苦しめられていた。公儀の手も及ばぬ中で影獣と異能を以て戦う影祓師を父に持つ少女・樋花は、ある日、武力で以て影獣と戦う影狩人の青年・黒門鶫と出会う。凄まじい力を持ちつつも、体内に救う影獣に苦しむ鶫に対して樋花は……

 少女漫画の中の時代伝奇漫画を探す中で出会った作品――奇怪な魔物が跳梁する世界での一風変わったボーイ・ミーツ・ガールを描く物語であります。

 その名の通り、野獣の影のような姿を持ち、人間を襲う凶暴な「影獣」が出没し、多くの被害が出ていた江戸時代初期。
 幕府や藩が対処のために置いた同心たちによる駆除も限定的なものでしかなく、その手から漏れた地で人々を救うのは、影祓師や影狩人といった在野の者たちでした。

 影獣との戦いの中で帰らぬ人となった影祓師の父を持つ樋花は、父の仇である影獣たちに無鉄砲にぶつかるものの、その力はまだまだ影獣を一瞬押さえるくらいの微弱なもの。その彼女を危機から救ったのは、流浪の影狩人・鶫でありました。

 実は幼い頃に心を食らう影獣に襲われ、姉が身代わりとなったことで、己の心を保ったまま影獣をその身に宿す鶫。いつ己の中の影獣に取って代わられるかわからぬまま戦いを続ける鶫を前に、樋花はある決意を固めて……


 という第1話に始まり、全3話構成の本作。以降、鶫の中の影獣を抑えるために共に旅に出た樋花が、彼の力になるべく奮闘する第2話。鶫を影獣として付け狙う影狩人の出現に揺れ動く樋花の心を描く第3話と、物語は続いていくことになります。

 (一見)無愛想な戦士と、一本気な少女のペアというのは、これは鉄板の組み合わせ。こうしたシチュエーションでは、ほとんどの場合、戦士が少女を庇護しながらも、少女の存在に心を救われて――というのが定番ですが、本作においては、鶫が文字通りの意味で心を救われるというのが特色でしょう。

 その身に巣くった影獣に、いつ心を喰らい尽くされ、体を奪われるかわからない鶫(この辺りの設定を掘り下げた第3話はなかなかに興味深い)。
 休んでいる時も寝ている時も、心の安まらる時のない彼の唯一の救いは、樋花が持つ影祓師としての能力――影獣の力と動きを抑える力なのであります。

 そしてまた、樋花にとっても鶫の存在は救いとなります。
 影祓師であり尊敬していた父を喪ってから、己の身の危険も省みず、影獣に立ち向かってきた樋花。その半ば自暴自棄の行動の理由は、自分の無力さに対する苛立ちと、そんな自分が誰にも必要とされないのではないか――その想いからであります。

 そんな彼女を指して、作者自らが「強気ネガティブ主人公」と評するのは、さすがと言うべきか非常にマッチしているのですが、そんな彼女にも、いや彼女にしかできないこと――言うまでもなく鶫の影獣を抑えること――があるというのは、大いなる救いなのであります。

 一歩間違えればもたれ合いになりかねないこの二人の関係を、本作は影獣との戦いというアクセントをうまく利用することにより、起伏に富んだ――そして何よりも、初々しく美しく描くことに成功していると感じます。


 正直なところ、本作の舞台が江戸時代初期である必然性はかなり薄く、別の時代でも支障はないように見える――物語に官製影狩人である同心などが絡んでくればまた違ったと思うのですが――という、大きな弱点はあります。

 しかし、本作が初単行本とは思えぬ作者の筆――特にアクション描写はなかなか達者な印象――も相まって、わずか3話ではありながらも、いやそれだからこそ、この先の二人が見たい、とも思わされる作品ではありました。

 本作は2011年の作品、そして作者は現在別の作品を連載中と、その想いが叶うことはまずないのだとは思いますが……


『影に咲く花』(友藤結 白泉社花とゆめコミックス) Amazon
影に咲く花 (花とゆめCOMICS)

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2017.12.31

このブログが選ぶ2017年ベストランキング(単行本編)

 自分一人でやってます2017年のベストランキング、今日は単行本編。2016年10月から2017年9月末までに刊行された作品の中から、6作品を挙げます。単行本はベスト3までは一発で決まったもののそれ以降が非常に難しいチョイス――正直に申し上げて、4位以降はほぼ同率と思っていただいて構いません。

1位『駒姫 三条河原異聞』(武内涼 新潮社)
2位『敵の名は、宮本武蔵』(木下昌輝 KADOKAWA)
3位『天の女王』(鳴神響一 エイチアンドアイ)
4位『決戦! 新選組』(葉室麟・門井慶喜・小松エメル・土橋章宏・天野純希・木下昌輝 講談社)
5位『さなとりょう』(谷治宇 太田出版)
6位『大東亜忍法帖』(荒山徹 アドレナライズ)

 今年ダントツで1位は、デビュー以来ほぼ一貫して伝奇アクションを描いてきた作者が、それを一切封印して描いた新境地。あの安土桃山時代最大の悲劇である三条河原の処刑を題材としつつも、決して悲しみだけに終わることなく、権力者の横暴に屈しない人々の姿を描く、力強い希望を感じさせる作品です。
 作者は一方で最強のバトルヒロインが川中島を突っ走る快作『暗殺者、野風』(KADOKAWA)を発表、ある意味対になる作品として、こちらもぜひご覧いただきたいところです。

 2位は、時代小説としてある意味最もメジャーな題材の一つである宮本武蔵を、彼に倒された敵の視点から描くことで新たに甦らせた連作。その構成の意外性もさることながら、物語が進むにつれて明らかになっていく「武蔵」誕生の秘密とその背後に潜むある人物の想いは圧巻であります。
 ある意味、作者のデビュー作『宇喜多の捨て嫁』とは表裏一体の作品――人間の悪意と人間性、そして希望を描いた名品です。

 デビュー以来一作一作工夫を凝らしてきた作者が、ホームグラウンドと言うべきスペインを舞台に描く3位は、今この時代に読むべき快作。
 支倉使節団の中にヨーロッパに残った者がいたという史実をベースに、無頼の生活を送る二人の日本人武士を主人公とした物語ですが――信仰心や忠誠心を失いながらも、人間として決して失ってはならないもの、芸術や愛や理想といった人間の内心の自由のために立ち上がる姿には、大きな勇気を与えられるのです。

 4位は悩んだ末にアンソロジーを。今年も幾多の作品を送り出した『決戦!』シリーズが戦国時代の合戦を題材とするのに対し、本書はもちろん幕末を舞台とした番外編とも言うべき一冊。
 合戦というある意味「点」ではなく、新選組の誕生から滅亡までという「線」を、隊士一人一人を主人公にすることで描いてみせた好企画でした。

 そして5位は、2017年の歴史・時代小説の特徴の一つである、数多くの新人作家の誕生を象徴する作品。千葉さなとおりょうのバディが、坂本竜馬の死の真相を探るという設定の時点で二重丸の物語は、粗さもあるものの、ラストに浮かび上がる濃厚なロマンチシズムがグッとくるのです。

 6位は不幸な事情から上巻のみで刊行がストップしていた作品が転生――いや転送(?)を遂げた作品。明治を舞台に『魔界転生』をやってみせるという、コロンブスの卵もここに極まれりな内容ですが、ここまできっちりと貫いてみせた(そしてラストで思わぬひねりをみせた)のはお見事。
 ただやっぱり、敵をここまで脳天気に描く必要はあったのかな――とは思います(あと、この世界での『武蔵野水滸伝』の扱いも)

 ちなみに6位は電子書籍オンリー、今後はこうしたスタイルの作品がさらに増えるのではないでしょうか。


 なお、次点は幽霊を感じるようになってしまった長屋の子供たちを主人公としたドタバタ怪談ミステリ『優しき悪霊 溝猫長屋 祠之怪』(輪渡颯介 講談社)。事件の犠牲者である幽霊の行動の理由が焦点となる、死者のホワイダニットというのは、この設定ならではというほかありません。

 そのほか小説以外では、『幕末武士の京都グルメ日記 「伊庭八郎征西日記」を読む』(山村竜也 幻冬舎新書)が出色。キャッチーなタイトルですが、あの「伊庭八郎征西日記」の現代語訳+解説という一冊です。


 ――というわけで今年も毎日更新を達成することができました。来年も毎日頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 良いお年を!


今回紹介した本
駒姫: 三条河原異聞敵の名は、宮本武蔵天の女王決戦!新選組さなとりょう大東亜忍法帖【完全版】


関連記事
 武内涼『駒姫 三条河原異聞』(その一) ヒーローが存在しない世界で
 木下昌輝『敵の名は、宮本武蔵』(その一) 敗者から見た異形の武蔵伝
 鳴神響一『天の女王』(その一) 欧州に駆けるサムライたち
 『決戦! 新選組』(その一)
 谷治宇『さなとりょう』 龍馬暗殺の向こうの「公」と「私」

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2017.12.30

このブログが選ぶ2017年ベストランキング(文庫書き下ろし編)

 今年は週刊朝日のランキングに参加させていただきましたが、やはり個人としてもやっておきたい……ということで、2017年のベストランキングであります。2016年10月から2017年9月末発刊の作品について、文庫書き下ろしと単行本それぞれについて、6作ずつ挙げていくところ、まずは文庫編であります。

 これは今年に限ったことではありませんが、普段大いに楽しませていただいているにもかかわらず、いざベストを、となるとなかなか悩ましいのが文庫書き下ろし時代小説。
 大いに悩んだ末に、今年のランキングはこのような形となりました。

1位『御広敷用人大奥記録』シリーズ(上田秀人 光文社文庫)
2位『義経号、北溟を疾る』(辻真先 徳間文庫)
3位『鉄の王 流星の小柄』(平谷美樹 徳間文庫)
4位『宿場鬼』シリーズ(菊地秀行 角川文庫)
5位『刑事と怪物 ヴィクトリア朝エンブリオ』(佐野しなの メディアワークス文庫)
6位『妖草師 無間如来』(武内涼 徳間文庫)

 第1位は、既に大御所の風格もある作者の、今年完結したシリーズを。水城聡四郎ものの第2シリーズである本作は、正直に申し上げて中盤は少々展開がスローダウンした感はあったものの、今年発売されたラスト2巻の盛り上がりは、さすがは、と言うべきものがありました。
 特に最終巻『覚悟の紅』の余韻の残るラストは強く印象に残ります。

 そして第2位は、非シリーズものではダントツに面白かった作品。明治の北海道を舞台に、天皇の行幸列車を巡る暗闘を描いた本作は、設定やストーリーはもちろんのこと、主人公の斎藤一をはじめとするキャラクターの魅力が強く印象に残りました。
 特にヒロインの一人である狼に育てられたアイヌの少女など、キャラクター部門のランキングがあればトップにしたいほど。さすがはリビングレジェンド・辻真先であります。

 第3位は、4社合同企画をはじめ、今年も個性的な作品を次々と送り出してきた作者の、最も伝奇性の強い作品。「鉄」をキーワードに、歴史に埋もれた者たちが繰り広げる活躍には胸躍らされました。物語の謎の多くは明らかになっていないこともあり、続編を期待しているところです。
 また第4位は、あの菊地秀行が文庫書き下ろし時代小説を!? と驚かされたものの、しかし蓋を開けてみれば作者の作品以外のなにものでもない佳品。霧深い宿場町に暮らす人々の姿と、記憶も名もない超人剣士の死闘が交錯する姿は、見事に作者流の、異形の人情時代小説として成立していると唸らされました。

 そして第5位はライト文芸、そして英国ものと変化球ですが、非常に完成度の高かった一作。
 狂気の医師の手術によって生み出された異能者「スナーク」を取り締まる熱血青年刑事と、斜に構えた中年スナークが怪事件に挑む連作ですが――生まれも育ちも全く異なる二人のやり取りも楽しいバディものであると同時に、スナークという設定と、舞台となるヴィクトリア朝ロンドンの闇を巧みに結びつけた物語内容は、時代伝奇ものとして大いに感心させられた次第です。

 第6位は悩みましたが、シリーズの復活編であるシリーズ第4弾。今年は歴史小説でも大活躍した作者ですが、ストレートな伝奇ものも相変わらず達者なのは、何とも嬉しいところ。お馴染みのキャラクターたちに加えて新たなレギュラーも登場し、この先の展開も大いに楽しみなところであります。


 その他、次点としては、『京の絵草紙屋満天堂 空蝉の夢』(三好昌子 宝島社文庫)と『半妖の子 妖怪の子預かります』(廣嶋玲子 創元推理文庫)を。
 前者は京を舞台に男女の情の機微と、名刀を巡る伝奇サスペンスが交錯するユニークな作品。後者は妖怪と人間の少年の交流を描くシリーズ第4弾として、手慣れたものを見せつつもその中に重いものを内包した作者らしい作品でした。


 単行本のベストについては、明日紹介させていただきます。


今回紹介した本
覚悟の紅: 御広敷用人 大奥記録(十二) (光文社時代小説文庫)義経号、北溟を疾る (徳間文庫)鉄の王: 流星の小柄 (徳間時代小説文庫)宿場鬼 (角川文庫)刑事と怪物―ヴィクトリア朝エンブリオ― (メディアワークス文庫)妖草師 無間如来 (徳間文庫)


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 辻真先『義経号、北溟を疾る』(その一) 藤田五郎と法印大五郎、北へ
 平谷美樹『鉄の王 流星の小柄』 星鉄伝説! 鉄を造る者とその歴史を巡る戦い
 菊地秀行『宿場鬼』 超伝奇抜きの「純粋な」時代小説が描くもの
 佐野しなの『刑事と怪物 ヴィクトリア朝エンブリオ』 異能が抉る残酷な現実と青年の選択
 武内涼『妖草師 無間如来』 帰ってきた妖草師と彼の原点と

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2017.12.28

野田サトル『ゴールデンカムイ』第12巻 ドキッ! 男だらけの地獄絵図!?

 いよいよ2018年4月からアニメ放映スタートと、秒読み段階に入った『ゴールデンカムイ』の最新巻であります――が、この巻で繰り広げられるのは、およそアニメ化できない(されても嬉しくない)ようなエピソードの連続。変態と男の裸体が乱舞する、悪夢のような展開が繰り広げられることになります。

 黄金争奪戦の全ての始まりとなった怪人のっぺら坊――網走監獄で厳重に監視される彼こそが、実はアシリパの父ではないかという疑惑を確かめるため、網走に向かうこととなった杉元・土方混成チーム。
 色々あってメンバーをシャッフルしたまま二チームに分裂した彼らを追ってきた谷垣が、土地のアイヌから動物たちを汚したという濡れ衣を着せられたため、杉元とアシリパはその真犯人を追うことに……

 という前の巻を受けて始まるこの巻ですが、杉元たちが追うことになるのは、刺青囚人の一人・姉畑支遁。動物学者である彼は、自分の愛情の赴くまま、動物たちを追っては獣k――あ、いや、ウコチャヌプコロを繰り返していたのであります。
 そしていま、ヒグマに恋してしまった支遁が、ヒグマ相手にウコチャヌプコロしようとして食い殺される(刺青が失われる)ことを恐れた杉元たちは、必死に彼を止めようとするのですが……

 と冒頭から「もうやだこのマンガ」な展開ですが、何とか谷垣もチームに合流し、いい話的に終わって一安心、釧路に出て海で一時の平穏とグルメ展開を――と思いきや、そのグルメが次なる大波乱を招くことになるから恐ろしい。

 思わぬ蝗害の発生に番屋に閉じ込められたチームの男衆が、空腹を癒すためにラッコの肉を煮てみれば――その煮える臭いに欲情を刺激する成分が含まれていたために、一触即発のムードに……!
 と、本当にもう、この漫画をどこに連れていきたいのか、という大変な展開であります。(しっかりとめておいたはずの谷垣のシャツのボタンが吹っ飛び「このマタギ……スケベ過ぎる!!」という白石のリアクションは爆笑)

 しかしそれと並行して、インカラマッの口からアシリパに対して、のっぺら坊の正体とアシリパの父・ウイルクの死の「真実」が語られ、それが新たなサスペンスに繋がっていくのですから、まったく油断できません。
 そしてその中で、幼い頃にウイルクと出会ったというインカラマッの想い、さらにアシリパがそれに自分と杉元を重ね合わせるなど、キャラクターの心理描写も相変わらず上手い。

 そしてその末にチーム内に、そして何よりもこれから自分たちが向かう網走に待つものに疑念を抱かせるという展開も、見事というほかないのであります。
(もっとも、大変な展開のきっかけになった蝗害が、今のところその前フリにしかなっていなかったのには悪い意味で驚きますが……)


 それでもなんとか、杉元の一同ドン引きのキラージョークに紛らわせて旅は続き、塘路湖を訪れた杉元一行が知ったのは、近辺を荒らし回るという全員盲目の盗賊団の存在。そしてその頭目の身体には奇妙な入れ墨が……
 と、ここで新たな強豪刺青囚人が登場、網走を前にしてまた盛り上がる展開が! と思いきや、何故かチームの男衆による温泉回が繰り広げられ(見開きで何故か全員カメラ目線の衝撃)、最後の最後までアニメ目前とは思えないこの巻なのであります。


 しかしその一方で、網走監獄では典獄の犬童四郎助と鶴見中尉一派との暗闘が早くもスタートし、その一方で土方と永倉は、釧路新聞社で記者をしていた石川啄木(!!)と接触――と、物語は着々と進行。
 いよいよ次巻では杉元たちも網走監獄に到着するようですが、あるいは杉元・鶴見・土方に加えて犬童一派の四つ巴の戦いが展開されるのか!? 

 そして本作では比較的珍しい実在人物、そして何よりもナニっぷりでは本作のキャラクターに勝るとも劣らぬ石川啄木登場の意味は……
 色々言いつつも、この先の展開を展開して、胸躍らせているところであります。


『ゴールデンカムイ』第12巻(野田サトル 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon
ゴールデンカムイ(12): ヤングジャンプコミックス


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 『ゴールデンカムイ』第2巻 アイヌの人々と強大な敵たちと
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 野田サトル『ゴールデンカムイ』第5巻 マタギ、アイヌとともに立つ
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第6巻 殺人ホテルと宿場町の戦争と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第7巻 不死の怪物とどこかで見たような男たちと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第8巻 超弩級の変態が導く三派大混戦
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第9巻 チームシャッフルと思わぬ恋バナと
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第10巻 白石脱走大作戦と彼女の言葉と
 野田サトル『ゴールデンカムイ』第11巻 蝮と雷が遺したもの

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2017.12.23

藤田和日郎『黒博物館 キャンディケイン』 聖夜に博物館を訪れたもの

 これまで『スプリンガルド』『ゴーストアンドレディ』と発表されてきた藤田和日郎の伝奇奇譚、「黒博物館」シリーズが、クリスマスに再びその扉を開くことになりました。「モーニング」誌の35周年読み切り祭りの一つである本作――聖夜に黒博物館に現れた思わぬ来訪者を描いた短編であります。

 スコットランド・ヤードの中に開設された、犯罪の凶器や証拠品を展示した秘密の博物館――黒博物館(ブラック・ミュージアム)。
 一般人には公開されぬ博物館に収められた曰く付きの品々にまつわる奇譚を、金髪で左目を隠した美しい(ちょっと天然の気のある)キュレーターを狂言に描くのが、「黒博物館」シリーズであります。

 そんなシリーズの最新作は、一話限りの掌編。クリスマスの晩に、乱れたドレスのままで黒博物館に駆け込んできた美女にまつわる物語であります。

 本来であれば一般人には――それもクリスマスの晩には――開かれない黒博物館。しかし女性の求めるものが、ここに展示された「狼男」を殺すための銀の弾丸と拳銃とくれば、話は別であります。
 1852年の秋から冬にかけて3名を射殺した男、ジェイコブ・ベイカーの恋人であったという女性が語るには、ベイカーが殺した相手は狼男――銀の弾丸でなければ殺せぬ相手であったというではありませんか。

 いま、その狼男の仲間が自分を追っていると怯える女性を匿うキュレーター。一方その頃、「スコットランドヤードの機関車男」率いるヤードの警官隊は、多くの人間の命を奪った殺人鬼の行方を追っていたのですが……


 わずか22ページと、本当に短い作品である本作。しかし登場する題材やアイテムのおどろおどろしさや、キュレーターの思わぬ側面、そしてタイトルのキャンディケイン(クリスマスの飾りなどに使う杖の形をしたキャンディ)の使い方など、よくできた短編のお手本のような作品であります。

 うるさいことをいえば、狼男が銀の弾丸に弱いというのは20世紀の映画の副産物ですし、ジェイコブ・ベイカーというのは本作の創作ではないかなあと思いますが――小さい小さい。
 懐かしのキャラのゲスト出演というサプライズもあって、ファンにとってはまったくもって嬉しいクリスマスプレゼントというべき作品でありました。


 それにしても連載作品のほとんどが大長編の作者ですが、しかし中編・短編も切れ味の良い作品揃いなのは、ファンであればよくご存じのとおり。
 これからも本作のような作品をもっともっと読んでみたい――と、強く感じます。

 もちろんこれは大長編も並行して読みたい、という非常に強欲な願いなのですが……


『黒博物館 キャンディケイン』(藤田和日郎 「モーニング」2018年2・3号掲載) Amazon
モーニング 2018年2・3号 [2017年12月14日発売] [雑誌]


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2017.12.22

平谷美樹『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束』 謎を解き、心の影から解き放つ物語

 江戸時代の出版業界を舞台とした時代ミステリ連作の快調第3弾であります。頭の回転の早さでは右に出る者がない新米戯作者・鉢野金魚と、残念イケメンの先輩戯作者・本能寺無念をはじめとする草紙屋薬楽堂の賑やかな面々が、今日も怪事件に挑むことになります。さらに今回はおまけエピソードも……

 これまで、ただいま売り出し中の女戯作者・金魚が世話になっている草紙屋・薬楽堂に集う一癖も二癖もある面々が、幽霊の仕業としか思えぬような事件に挑む様を描いてきた本シリーズ。
 (この時代の)常識では計りきれないような事件に男たちが右往左往しているのを尻目に、リアリストの金魚姐さんの推当(推理)が、その背後の人間の企みを一刀両断するのが、何とも楽しい連作であります。

 そんなシリーズの最新作である本作は、全3話構成。
 金魚の長屋に、彼女が昔世話になっていた旦那の幽霊が訪れるという怪異に薬楽堂の面々が挑む「盂蘭盆会 無念の推当」
 金魚の新作のために用意した特製の表紙紙が、刷物師のもとから百枚だけ消え失せた謎の先に、思わぬ人間関係が垣間見える「唐紅 気早の紅葉狩り」
 毎年師走に数日姿を消す無念を追っていた金魚が、彼の哀しい過去と、思わぬ現在の苦境を知る「無念無惨 師走のお施餓鬼」

 タイトルから察せられるように、夏・秋・冬とそれぞれの季節の情景も楽しいエピソード揃いですが、今回それ以上に印象に残るのは、その中で掘り下げられる登場人物たちの心象風景であります。
 一見、苦しくもそれぞれ賑やかに楽しく生きているように見える薬楽堂の面々ですが、しかしもちろん、金魚や無念たちには――決して楽しいばかりではない――積み重ねてきた過去があり、そして現在があります。

 たとえば、金魚の前歴は実は女郎。そこから身請けされて妾となったものの、愛する旦那を早くに失い、正妻に追い出された過去の持ち主であります。
 一方、その金魚が何かと気になって仕方ない無念の方は、これまで過去が伏せられてきたのですが、しかし彼にも重く哀しい過去が――そして彼の現在のある癖(?)に繋がるものが――あることが、今回描かれるのです。

 そう、こうした重い過去や、現在の仕事と家族の間での悩みなど、当たり前といえば当たり前かもしれませんが、登場人物たちはみなそれぞれに悩みや悲しみを抱える身。
 もちろんほとんどの本作の登場人物たちが大人なだけに、それを無神経につつくようなことはありません。しかし何かの拍子に姿を見せるそれは、普段の彼らの姿が明るいだけに、鋭くこちらの胸に突き刺さるのです。

 そして――本作で描かれる謎の数々、事件の数々は、見方を変えれば、そんな登場人物たちが抱えた過去や現在にまつわる心の影から生まれるものと言うことができるでしょう。
 だとすれば、その謎を解き明かし、事件を解決するということは、その影からの解放に等しいとも言えるのではないでしょうか。たとえ今は完全に解決はしなくとも、そこに向けての始まりとなるような……

 本作のサブタイトル『唐紅色の約束』の由来であろう第2話など、江戸の製本・装丁事情というなかなか珍しい題材だけでも非常に面白いエピソードなのですが――この心の影からの解放という点においても、特に印象に残る物語。なるほど、ある意味表題作として相応しいと感じさせられる内容なのです。


 そして本作は、実はこの3話のみでは終わりません。各話の後にそれぞれもう3話、「聞き書き薬楽堂波奈志」と題する掌編が収録されているのです。
 薬楽堂の小僧・松吉と竹吉が、それぞれ藪入りに対して抱える屈託を描く「藪入り」
 元・御庭之者で読売りの貫兵衛が、突如謎の強敵の襲撃を受ける「名月を盃に映して」
 薬楽堂の隠居・長兵衛が、前作に登場した只野真葛の『独考』出版に向けて苦闘する「生姜酒」

 これらはそれぞれ謎解き要素はほとんどないのですが――しかしやはりそれぞれに心の中に抱えたものを浮き彫りにするエピソード揃い。
 ほとんど忍者アクションものの貫兵衛のエピソードなど、本編ではなかなかできない内容であったりして、実に楽しい(そして内容は実にもどかしい)のであります。

 本シリーズはレギュラー陣も結構な人数となるだけに、こうした形の掘り下げは実にありがたいサービス(?)であります。


 第3話で語られた薬楽堂一大イベントの顛末など、この先も気になる本シリーズ。謎を解き明かし、心の影から人を解き放つ物語を、この先も末永く読んでいきたいものです。


『草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束』(平谷美樹 だいわ文庫) Amazon
草紙屋薬楽堂ふしぎ始末 唐紅色の約束 (だいわ文庫 I 335-3)


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2017.12.19

「コミック乱ツインズ」2018年1月号(その一)

 今年最後の、そしてカウント上は来年最初の「コミック乱ツインズ」誌は、創刊15周年記念号。創刊以来王道を征きつつも、同時に極めてユニークな作品を多数掲載してきた本誌らしい内容であります。今回も、印象に残った作品を一作ずつ紹介していきます。

『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 新連載第一弾は、流浪の用心棒たちが主人公の活劇もの。
 用心棒といえば三人――というわけかどうかは知りませんが、自分の死に場所を探す「終活」中の老剣士、仇を追って流浪の旅を続ける「仇討」中の剣士、そしてお人好しながら優れた忍びの技を操る青年と、それぞれ生まれも目的も年齢も異なる三人の浪人を主人公とした物語であります。

 連載第一回は、宿場町を牛耳る悪いヤクザと、昔気質のヤクザとの対立に三人が巻き込まれて――というお話で新味はないのですが(でっかいトンカチを持った雑魚がいるのはご愛嬌)、端正な絵柄で手慣れた調子で展開される物語は、さすがにベテランの味と言うべきでしょう。

 ……と、今回驚かされたのは、忍びの青年が「鬼輪番」と呼ばれることでしょう。作中の言葉を借りれば「天下六十余州をまわり幕府に抗おうとする大名たちの芽を摘む」のが任務の忍びたちですが――しかし、ここでこの名が出るとは!
 『優駿の門』の印象が強い作者ですが、デビュー作は小池一夫原作の『鬼輪番』。その名がここで登場するとは――と、大いに驚き、そしてニンマリさせられた次第です。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 吉原という底知れぬ相手を敵に回すことになったものの、同門の青年剣士・大宮玄馬を家士として味方につけた聡四郎。今回は早くもこのコンビが、ビジュアル的にも凄い感じの刺客・山形をはじめとする刺客団と激闘を繰り広げることになります。
 死闘の末に刺客たちを退けたものの、はじめて人を殺してしまった玄馬は、その衝撃から目からハイライトが消えることに……

 というわけで上田作品お馴染みの、はじめての人斬りに悩むキャラクターという展開ですが、体育会系の聡四郎はいまいち頼りにならず――というか、紅さんが話してあげてと言っているのに、竹刀でぶん殴ってどうするのか。この先が、江戸城内の不穏な展開以上に気になってしまうところであります。


『大戦のダキニ』(かたやままこと)
 特別読み切りとして掲載された本作は、なんと太平洋戦争を舞台とするミリタリーアクション。といっても、主人公は日本刀を片手に太腿丸出しで戦う戦闘美少女というのが、ある意味本誌らしいのかもしれません。
 作者のかたやままこと(片山誠)は、ここしばらくはミリタリーものを中心に活動していたのようですが、個人的には何と言っても會川昇原作の時代伝奇アクション『狼人同心』が――というのはさておき。

 物語は、江戸時代に流刑島であった孤島に上陸した日本軍を単身壊滅させた少女・ダキニが、唯一心を開いた老軍人・亀岡とともに、ニュージョージア島からの友軍撤退作戦に参加することに――という内容。
 銃弾をも躱す美少女が、日本刀で米軍をバッサバサというのは、今日日ウケる題材かもしれませんが、ダキニが異常なおじいちゃん子というのは、それが狙いの一つとは思いつつも、あまりにアンバランスで乗れなかったというのが正直なところであります。
(見間違いしたかと思うような無意味な特攻描写にも悪い意味で驚かされました)


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 日本の鉄道の広軌化を目指す中で、現場の技術者たちとの軋轢を深めることとなってしまった島。それでも現状を打開し、未来にも役立てるための新たな加熱装置を求め、島はドイツに渡ったものの……

 という今回、主人公が二年もの長きに渡り日本を、すなわち物語の表舞台を離れるということになってしまいましたが、後任が汚職役人で――という展開。
 これを期に雨宮たち現場の技術者も島の存在の大きさを再確認する――という意味はあるのですが、あまりに身も蓋もない汚職役人の告白にはひっくり返りました。

 そして未来に夢の超高速鉄道を開発することになる少年も色々と屈託を抱えているようで、こちらも気になるところであります。


 長くなりましたので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2018年1月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年 01 月号 [雑誌]


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2017.12.17

紅玉いづき『大正箱娘 怪人カシオペイヤ』 怪人と箱娘の間にある「秘密」

 新米新聞記者と「開けぬ箱もなく、閉じれぬ箱もない」という謎の箱娘が、様々な事件に挑む大正ミステリの第2弾であります。今回のメインとなるのは、サブタイトルのとおり隠された悪事を暴き立てる怪人カシオペイヤの謎。その正体とは、そして箱娘との関わりとは……

 帝京新聞の新米記者・英田紺が、ある日先輩記者の紹介で訪れた神楽坂の謎めいた屋敷で出会った、箱娘と呼ばれる浮世離れした美少女・回向院うらら。
 謎めいたうららの知遇を得た紺は、「箱」絡みの事件に次々と巻き込まれ、そしてうららの助けを得て、事件を解決し、そこに秘められた真実を明らかにしていくことに……

 そんな設定を踏まえて展開する第2弾は、全3話構成の物語であります。
 万病に効くと評判の「箱薬」を求める異国の血を引く少年と出会った紺が、箱薬を巡る狂奔に巻き込まれる第1話。
 怪人カシオペイヤからの予告状が届いた伯爵邸に居合わせた紺が、そこで起きた猟奇殺人事件と、悍ましい真実に対峙する第2話。
 怪人カシオペイヤに狙われているという新薬の発表パーティーに潜入した紺の眼前で薬の開発者が怪死。怪人の犯行が疑われる中、ついにカシオペイヤの正体の一端が明かされる第3話。

 そしてこれらの物語の中心となるのが、冒頭で述べた怪人カシオペイヤの存在です。
 前作の第3話にも登場したこの怪人、予告状を送りつけて世を騒がす一種の劇場型犯罪者ですが、彼が奪うのは金銀財宝ではなく秘密――それも悪事の秘密。その目的も正体も、一切が謎に包まれた仮面の怪人なのです。

 そして世の新聞記者同様、紺もその動向と正体を追っているのですが、本作でに彼女はついにその謎の一端に迫ることになります。
 それは時村子爵の三男・燕也――前作の同じく第3話に登場し、ある事件を巡って紺と激しくぶつかり合った青年。傲岸不遜で、その力を他人に振るうことを躊躇わない彼が、再び、いや三度、カシオペイヤの影のあるところに現れるのであります。

 果たして彼がカシオペイヤなのか? 紺は彼に翻弄されながらも、謎に近づいていくのですが――その最中に彼女は、横暴な燕也の隠された側面を知ることになるのです。


 と、前作が「市井の怪事件」を中心としていたのに対して、より大仕掛けな――後述のある描写によってその印象はさらに強まるのですが――連続物語となった感のある本作。
 キャラクターの方も、前作では厭な奴という印象の強かった燕也が様々な形で活躍したり、うららは一歩下がった出番となったり(もっともそれが彼女らしいのですが)物語の印象は前作から少しく変わったようにも感じられます。

 しかし、本作で描かれるのが、「箱」に秘められたものであることは、前作から変わるところではありません。それが前作の「女」から、「出自」に変わったとしても。
 そう、本作の物語の背景には「出自」にまつわる様々な人の想いがあります。生まれつき変えられぬ肉体的特徴、生まれつき変わらぬ身分――そんな持って生まれてしまったものを厭い、離れ、変えたいと願う人の想いが、物語を動かしていくのです。

 そしてしばしば秘め隠されるその想いは、「秘密」として怪人カシオペイヤの標的となるものであります。そして、「箱」を開く箱娘と「秘密」を暴く怪人カシオペイヤ――紺を挟んで、その両者がある種合わせ鏡のように存在しているのは、何とも興味深いことではありませんか。
 しかしもちろん、両者の目指すところは大きく異なると感じられます。本作で語られたカシオペイヤのそれは、ある種極めて現世的なものであり、浮き世離れした箱娘とは対極のものなのですから。

 しかしそれではその「世界」とは何なのか? 実はこの点において本作は、とんでもない「秘密」の存在をほのめかすことになります。そんなものがあるとは全く予想もしていなかったようなものを……
(それが、近現代を舞台とした作品にはよくある措置によるものだと思っていたものに絡めて語られるとは!)


 カシオペイヤがその「出自」にまつわる「秘密」を暴く側にあるとすれば、それと対する側と縁浅からぬように見える箱娘とは何者なのか――ここに来て一気にその姿を変貌させてきたようにも感じさせられる本作。

 そしてその物語の中で、紺はいかなる位置を占めることになるのか――それが彼女と彼女の「箱」に如何なる意味を持つのか。先が全く見えないだけに、大いに気になる物語となってきました。


『大正箱娘 怪人カシオペイヤ』(紅玉いづき 講談社タイガ) Amazon
大正箱娘 怪人カシオペイヤ (講談社タイガ)


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