2019.05.21

「コミック乱ツインズ」2019年6月号


 元号が改まって最初の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙と巻頭カラーが橋本孤蔵『鬼役』。その他、叶精作『はんなり半次郎』が連載再開、原秀則『桜桃小町』が最終回であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 新年早々、宿敵・紀伊国屋文左衛門の訪問を受けた聡四郎。後ろ盾の新井白石と袂を分かった不安、自分の振るった剣で多くの者が主家から放逐されたことなどを突かれた上、自分と組んで天下を取ろうなどと突拍子もない揺さぶりを受けるのですが――そんな紀文の精神攻撃の前に、彼が帰った後も悩みっぱなし。ジト目の紅さんのツッコミを受けるほどでありますす(このコマが妙におかしい)。

 その一方で紀文は、その聡四郎に敗れたおかげで尾張藩を追われた当のリストラ武士団の皆さんに資金投下して煽りを入れたり暗躍に余念がありません。聡四郎が悩みあぐねている間に、主役級の活躍ですが――その上田作品名物・使い捨て武士団に下された命というのは、次期将軍の暗殺であります。これはどうにも藪蛇感が漂う展開ですが――さて。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明)
 大橋家から失われた七冊の初代宗桂の棋譜を求めてはるばる長崎まで向かった宗桂と仲間たち。ようやく二冊まで手に入れた一行は更なる手掛かりを求めて長崎の古道具屋に辿り着くのですが――そこで待ち受けるは、インスマス面の店主による心理試験で……

 と、将棋要素は、心理試験に使われるのが異国の将棋の駒というくらいの今回。むしろ今回は長崎編のエピローグといったところで、旅の仲間たちが、楽しかった旅を終えてそれぞれ家に帰ってみれば、その家に縛られ、自分の行くべき道を自分で選ぶこともできない姿が印象に残ります。
 そんな中、ある意味一番家に縛られている宗桂が見つけたものは――というところで、次回から新展開の模様です。


『カムヤライド』(久正人)
 難波の湊に出現した国津神の前に立ちふさがり、相手の攻撃を受けて受けて受けまくるという心意気の末に国津神を粉砕した新ヒーロー、オトタチバナ・メタル。しかし戦いを終えた彼女に対し、不満げにモンコは突っかかっていって……
 と、早くも二大ヒーロー揃い踏みの今回、オトタチバナ・メタルとすれ違いざまにカムヤライドに変身するモンコの姿が非常に格好良いのですが、傍若無人なまでのオトタチバナのパワーの前に、文字通り彼も悶絶することになります。

 ヒーロー同士が誤解や立場の違いから衝突する、というのは特撮ヒーローものの一つの定番ですが、しかし気のせいか最近のモンコはいいとこなしの印象。そしてガチムチ女性がタイプだったらしいヤマトタケルは、その彼女に後ろから抱きつかれて――いや、この展開はさすがにない、という目に遭わされることになります。
 そして緊縛要員の彼のみならず、モンコまで縛られ、二人の運命は――というピンチなんだけど何だかコメントに困る展開で次回に続くのでした。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 今回は「かまいたち愛」編の後編――江戸でとある大店に用心棒として雇われた三人ですが、夏海が心惹かれた店の女中・おりんは、実は極悪非道な盗賊・かまいたちの首領の女で……。と、夏海にとってはショッキングな展開で終わった前回を受けて、今回はさらに重くハードな物語が展開します。

 おりんの口から、そのあまりに過酷な半生を聞かされた夏海。かまいたちにしばられた彼女を救うため、店を狙うかまいたちを倒し、おりんが愛する男と結ばれるのを助けようとする夏海ですが――しかし物語はここから二転三転していくことになります。
 薄幸の女・おりんを巡る幾人もの男。その中で彼女を真に愛していたのは誰か、そして彼女の選択は……

 本作名物の剣戟シーンは抑えめですが、クライマックスである人物が見せる「目」の表情が圧巻の今回。無常しかない結末ですが、これを見せられれば、これ以外のものはない――そう思わされるのであります。


 その他、今回最終回の『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)は、江戸を騒がす火付けの濡れ衣を着せられた友人の許婚を救うため、桃香が活躍するお話。絵は良いけれども何か物足りない――という作品の印象は変わらず、やはり「公儀隠密」という桃香の立ち位置が最後まですっきりしなかった印象は否めません。


「コミック乱ツインズ」2019年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年6月号[雑誌]


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2019.05.20

『鬼滅の刃』 第七話「鬼舞辻無慘」

 三体の沼の鬼のうち、一体を禰豆子に任せて自ら沼に飛び込み、二体を倒した炭治郎。残る一体に鬼舞辻無惨のことを問い詰める炭治郎だが、怯える鬼は答えず、刃の前に散るのだった。そして新たな任務で浅草に向かった炭治郎は、そこで家に残っていた匂いを嗅ぐ。鬼舞辻無惨の匂いを……

 前回ラスト、箱の中から強烈な蹴りとともに飛び出してきた禰豆子。そのまま冷静に考えたらちょっとマズいアングルで痛烈なかかと落としを放って鬼を牽制、沼からの不意打ちも軽々と避けて、身体能力の高さを見せつけます。
 その禰豆子の姿に、和巳とトキエを任せ、自分は攻撃に専念することを決意した炭治郎。自ら沼に呑まれるという思い切った手段に出た彼が飛び込んだのは、犠牲者の遺品が漂うほの暗い水の中。炭治郎は一見不利な水中という環境をもものともせず、襲いかかる鬼(歯ぎしり鬼とたぶん冷静鬼)に対し、「水」の呼吸の利点を生かしたともいえる陸ノ型・ねじれ渦で二匹まとめて粉砕するのでした。

 一方、残る一体と戦っていた禰豆子は、その身体能力で鬼を追い詰めるものの、初陣の経験不足が祟って反撃を受けることに――と思いきや、そこに炭治郎が帰還。鬼の犠牲者を辱めるようなクソ発言にブチ切れた炭治郎は、相手の両手を落として拷いや尋問モードで鬼舞辻無惨のことを問い詰めるのですが――その名を聞いた途端、鬼はこれまでの態度が嘘のように鬼は我を忘れて怯え出すのでした。
 結局、自棄になったように襲いかかってきた鬼の首を斬って戦いを終えることになった炭治郎。和巳に、俺たちは無様に生き続けるしか無いんですよ(違う……けどまあだいたい合ってる)と声をかけた炭治郎は、激高した和巳の手を握り返すと、哀しくも優しい笑みとともに犠牲者の遺品を託し、去って行くのでした。

 ――が、そこですぐに次の依頼が舞い込んでくるのが鬼殺隊の恐ろしいところ。鎹鴉の指令で、早速浅草に向かうことになった炭治郎ですが、鬼が潜んでいる噂、というアバウトな指令に行く宛もなく彷徨う炭治郎は、テリブル東京を前にして右往左往するばかり。うどんの屋台を見つけてそこで一息ついた炭治郎は、非常にうまそうな山かけうどんを食べようとするのですが――しかしそこで嗅ぎ憶えのある匂いが!
 無情にも器ごとうどんを地面に叩き落とし、禰豆子をもその場に残して突っ走る炭治郎。なぜならその匂いこそは、惨劇の現場に残されていた忘れもしない家族の仇・鬼舞辻無惨の匂いだったのですから……

 そして人混みをかき分け、ついに肩に手をかけたその相手は、額に縮れた髪を垂らした小洒落た洋装の伊達男。しかし、その瞳は鬼のそれ――人混みにもかかわらず刀を抜きかけた炭治郎の腕を止めたのは、男が抱いていた小さな少女でありました。そして後ろから現れたのはその母親――夫と呼び父と呼ぶ相手が人喰い鬼の首魁であることも気付かぬ、紛れもなく人間の母親と娘の姿に、炭治郎はショックを受けるほかありません。
 そしてその間に、無惨が自分の傍らを歩いていただけの男の首筋に何気ない風で自らの爪を振るうと、男は鬼に変わって……


 今回もまた、きっちり原作2話分を消化したこのアニメ版。原作でも、沼の鬼との激闘の後にいきなり浅草に行かされるというのは違和感があったのですが、今回1話の中で描かれることでその印象が強調された気もいたします。
 もっとも、相変わらず原作で描かれていない部分、省略されている部分を補う描写は面白く、特に後半の浅草の場面は、当時の浅草の華やかさを様々な形で描いて、文字通り山出しの炭治郎が右往左往する姿をより強調していたのが、楽しいくだりでありました。
(その一方で省かれたのは、最後の沼の鬼を問い詰める炭治郎のホラー顔――精神世界の中の善逸のような顔は、作品初期ならではの描写で、これは忠実に描かなくて正解でしょう)

 そして毎回驚くほどゲスト声優が豪華な本作ですが(今回も岩田光央と皆口裕子が……)、鬼舞辻無惨は関俊彦と、実に納得のキャスティング。この声でパワハラされたら、それはいかな鬼畜でも恐縮するほかありませんから……


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2019.05.14

『鬼滅の刃』 第六話「鬼を連れた剣士」

 禰豆子を連れ、初の任務に向かう炭治郎。毎夜娘たちが消える町で、恋人を攫われた青年・和巳と出会った炭治郎は、町に残った鬼の匂いを追い、新たに娘を攫った鬼と対峙する。しかし作り出した沼の中から自在に攻撃し、しかも三体に分身した鬼に炭治郎が苦戦する中、禰豆子が割って入る……

 前回ラストの指令を受けて、ついに隊服に身を包んだ炭治郎。隊服の機能やら黒い日輪刀にまつわる噂やら、非常に説明的な台詞(いや説明ですが)で教えてくれた鱗滝は、禰豆子を入れる箱もプレゼント、炭治郎は「軽い」とえらく喜ぶのでした。
 そして布団から直に箱に潜り込んだ禰豆子に、これからはいつも一緒だよと微妙にサイコパスっぽいことを言いながら旅立つ炭治郎。鱗滝は炭治郎の襟元を直して無意味に頷いたり、肩をポンポンしてやったりと、もはや師匠というよりお祖父さん状態であります(箱プレゼントもランドセル的な……)。

 しかし正確な位置を知らされていないらしく、いまいちアバウトな感じで歩いて大きな川の近くの町にやってきた炭治郎。そこで早速、モブに半分後ろ指を指される感じで噂される青年・和巳と出会った炭治郎は、前回ラストで恋人を鬼に攫われ、彼女の父親には無駄に凄惨に鉄拳制裁されて踏んだり蹴ったりの彼から話を聞き、鬼の追跡を始めるのでした。その追跡方法がいきなり地面の匂いを嗅ぎ始めるというのは完全に不審者ですが、しかし赤い煙のようなエフェクトで描かれる匂いの描写はなかなかユニークであります。

 そんなこんなで日も暮れ、かなり大きなお屋敷の中では、家の娘・トキエが眠りに就こうとしていたのですが――何と布団の下から黒い染みが浮き出し、瞬く間に広がると、突き出た腕が布団から彼女を「下」に引きずり込むではありませんか!
 この何ともホラーな展開を察知して走り出した炭治郎は、屋敷の外にまで駆けつけると、FPS視点で刀を構えるのですが――そこだ! と刀を突き刺したのは地面。そう、今回の敵は異能の鬼、地面や壁など堅い面に沼を自在に作り出し、その中から襲ってくる血鬼術の遣い手なのであります。

 と、沼から顔を出したと思ったら、高速言語みたいな勢いで歯ぎしりをする沼の鬼(人間の頃からの癖だそうです)。炭治郎は和巳にトキエを預けると、匂い頼りに鬼を追うのですが――沼から出現したのは、同じ姿の三人の鬼! さすがの炭治郎も三人相手は勝手が違い、いくら技を放っても浅手を追わせるのがやっとの炭治郎は窮地に陥ることになります。
 さて、ここで現れた三人の沼の鬼はそれぞれ個性に違いがあるらしく、短気な奴・冷静な奴・歯ぎしりしかしない奴とそれぞれなのですが(今見てみると半天狗の原型みたいですな)、うち冷静な奴が、戦利品として喰った相手の身に着けていたもの――残念ながら和巳の恋人のものもその中に――を見せつけたことが炭治郎の逆鱗に触れることになります。

 が、冷静さを欠いた炭治郎に鬼の一人が背後から攻撃を仕掛けたとき――箱の蓋がはじけ飛び、強烈な蹴り一閃! それはもちろん箱の中から現れた禰豆子ですが――彼女は鬼に襲いかかる前に、和巳とトキエを慈しむように、二人の頬にそっと長い爪を生やした手を当てるのでした。
 実は彼女に、人間は皆家族、鬼は敵だという暗示を与えていた鱗滝。炭治郎に剣を教えるよりも凄いことをやった気がするこの暗示に背を押されるように、禰豆子参戦……


 またもや原作の2話分を、ほとんど忠実にアニメ化した今回。きっちりAパートとBパートで1話ずつ消化しなくても――とは思いますが、鬼殺隊としての炭治郎の初陣ということで丁寧に描いたと思いましょう。
 そして今回も原作に忠実な分、冒頭の鱗滝の細かな動きや炭治郎のリアクション、鬼に不安を抱く町の様子やトキエ襲撃の描写等、原作で描かれなかった――あるいは一コマ二コマで処理されていたものを丁寧に描いているのはやはり好感が持てます。

 映画化分が終わったことで少々心配していたクオリティの方も上々で、意味が分からないアップでの鬼の独白や、ベタなBGMの流し方などひっかかる部分はあるものの、まずは安心して楽しむことが出来る内容でした。


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2019.05.06

木下昌輝『炯眼に候』 信長が暴くトリックと、人間が切り拓く歴史の姿


 戦国時代で合理的――といえば、頭にまず浮かぶのは織田信長の名ではないでしょうか。本作『炯眼に候』は、信長の周囲の人々の視点から、その合理性を描く物語――信長の事績の陰に隠された謎の一つ一つを明るみに出していく、ミステリ風味の連作短編集であります。

 桶狭間や長篠をはじめ、生涯数々の戦で驚くべき戦果を上げ、実にドラマチックな生を送った信長。本作はその最も信頼のおける記録である『信長公記』を踏まえつつも、その記述の隙間をクローズアップし、秘められた真実を解き明かす、全7話から構成される物語であります。

 常に命知らずの戦いを繰り広げてきた馬廻衆・荒川新八郎から戦意を奪った、首から上が映らない姿見の井戸の謎を解く『水鏡』
 桶狭間の合戦で今川義元の首を取った毛利新介の意外な出自と、首を巡る記録の矛盾から、その背後の逆転劇を描く『偽首』
 信長を狙撃し、後に無惨に処刑された鉄砲名人・杉谷善住坊に狙撃を依頼した黒幕の驚くべき正体とその動機を描いた『弾丸』
 信長の快進撃を支えた軍師「山中の猿」――源平合戦から続く呪われた一族の末裔であり、天候を予知する軍師の真実『軍師』
 本願寺の決戦に向けて信長から鉄甲船の建造を命じられ、苦心を重ねる九鬼嘉隆に対して秀吉が授けた驚くべき策『鉄船』
 土岐家復興のために暗躍する光秀に対し、武田家との決戦に向けた騎馬武者圧倒のための鉄砲運用法を命じた信長の真意『鉄砲』
 数奇な運命の果てに日本に渡り、信長に仕えることとなった黒人・弥助のみが知る信長最期の策と、その首の行方を描く『首級』


 以上、信長の天下布武の始まりから終わりまでを題材とした7話で描かれるのは、その信長の活躍にまつわる謎の数々。謎を信長が解くこともあれば、あるいは信長が臣下に謎をかけることもありますが、クライマックスで描かれる信長の「炯眼」による謎解きは、一種のミステリとしての興趣に満ちています。

 例えば『鉄船』――信長のテクノロジー重視の姿勢の現れとして語られる鉄甲船ですが、記録に記されたその姿は、実は大きさも形もまちまちという奇妙な事実があります。
 それは人の目の不確かさによるものかもしれませんが、しかしその他にも、当時の技術レベルから考えれば考えられないほどのサイズであったこと、そして何よりも、その後の歴史で鉄甲船が活躍していないことを考えれば、奇妙というべきでしょう。

 ある意味オーパーツというべきこの鉄甲船に対して、その建造を命じられた当の九鬼嘉隆が実現に頭を悩ませるという本作の構図がまず面白いのですが――しかし、終盤で明かされるその正体たるや!
 嘉隆をフォローするのが秀吉というのが実は――なのですが、しかしこの「トリック」には脱帽するしかありません。


 その他、敵の首にまつわる戦国時代特有の風習をベースに、義元の首争奪戦を巡る逆転劇を描く『偽首』、知性という点では信長にも負けぬ光秀の計算ではどうしても覆せぬ戦力差を覆す鉄砲戦術を描く『鉄砲』など、本作では「トリック」の面白さ、意外性がまず印象に残ります。

 その一方で『弾丸』や『軍師』など、トリックの点ではかなり分かり易い作品もあるのですが――しかし本作は決して、その意外性のみに頼った作品ではないことは強調しておくべきでしょう。
 本作の真の魅力、そして物語の中でトリックを意味あるものとしているもの――それは本作のストーリーテリングの妙であり、そしてそれを支える周囲の人々、各話の主人公たちの姿であると感じます。

 そのトリックや謎が、信長の生涯において、そして歴史の中でいかなる意味を持つか――本作のエピソードは、いずれもそれを丹念に描き、同時に物語としての盛り上がりを設定することにより、そのインパクトのみに頼らない、歴史小説としての面白さを生み出します。
 そして明察神の如き「炯眼」を持つ信長自身を主人公とするのではなく、彼に仕えた、あるいは彼に敵対した人々の視点からそれを描くことにより、無味乾燥な史実の羅列でも、冷徹な論理の連続でもなく、人間(もちろんその中に信長も含まれるのですが)が人間として切り拓く歴史の姿を浮かび上がらせることに成功しているのです。


 信長の論理と凡人たちの人間性と――その両者から生まれる歴史を、ミステリの味付けでもってドラマチックに描いてみせた本作。
 作者ならではのアイディアに満ちたユニークな歴史小説であります。


『炯眼に候』(木下昌輝 文藝春秋) Amazon
炯眼に候

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2019.05.05

『鬼滅の刃』 第五話「己の鋼」

 異形の鬼を倒し、最終選抜の七日間をくぐり抜けた炭治郎。最終選抜を突破した炭治郎を含む四人は、日輪刀を造るための玉鋼を選ぶように告げられる。そして鱗滝と禰豆子のもとに炭治郎が帰って15日後、炭治郎の日輪刀を手に刀鍛治の鋼鐵塚が現れる……

 水の呼吸の壱ノ型 水面斬りで異形の鬼・手鬼の首を断った炭治郎。その瞬間、手鬼の脳裏をよぎったのは、47年前に鱗滝に敗れた瞬間であり、そして鬼になったばかりの自分の姿――誰よりも慕っていた兄を食い殺してしまった自分の姿でありました。その末期の悔恨の中身まではわからぬものの、兄に手を差し伸べたような形で事切れた手鬼から悲しい匂いを感じ取った炭治郎は、その手を握ると、後生の安らかならんことを祈るのでした。

 と、その後も数々の鬼との戦い(その中で禰豆子を元に戻す方法を聞くも収穫なし)をくぐり抜け、「切り抜けた……」と犬塚信乃のようなことを言いながら七日目の夜明けを迎えた炭治郎。そして藤の花が咲き乱れるスタート地点に戻った彼が見たものは、あの双子と自分以外の三人の少年少女――無言で蝶々と戯れる美少女と、異常にネガティブなことをブツブツ呟く金髪と、異常に目つきと態度の悪いモヒカンのみでありました。
 この四人の最終選抜合格者に対して、淡々と新人向けの業務連絡を行う双子ですが、ここでモヒカンの態度の悪さが大爆発、刀を今すぐよこせと、双子の一人を殴りつけて凄むのでした。が、ここで蛮行を見過ごせないのが長男気質の炭治郎――今すぐ手を離せ、さもなくば折る、というこれはこれでハードな二択を突きつけると、応じない相手の手首をバキッと握りつぶすお仕置きを食らわせるのでした(家で弟たちにどのようなしつけをしていたのか……)。

 しかしその騒ぎも流した双子は、一同に刀のための玉鋼を選ぶように命じます。唯一鬼の首を滅することが出来る武器・日輪刀の原材料となる玉鋼ですが、いきなり鉱石の段階で選べと言われてもわけがわからない中、それでも炭治郎は自分の鼻を頼りに一つの鉱石に手を伸ばすのでした。
 さて、日輪刀の仕上がりは約10から15日後ということでその場は注文のみ、文字通り這々の体で狭霧山に帰ってきた炭治郎ですが――到着してみればすでに日も暮れた中で彼を出迎えたのは、よくわからないうちに目覚めた禰豆子と鱗滝であります。涙ながらに彼を出迎えた鱗滝から、炭治郎は、禰豆子が人を喰う代わりに眠ることで体力を回復しているのかもしれないと聞かされるのですが……

 それはさておき、15日後に炭治郎を尋ねてきたのは、三度笠の回りに幾つもの風鈴をぶら下げた異様な風体の男。しかも傘の下の顔はほっかむりとひょっとこの面! と、初登場の時点からインパクト満点の三十七歳児・鋼鐵塚の登場であります。ビジュアルの異常さとは裏腹に非常なイケボの鋼鐵塚ですが、全く相手の言うことを聞かずに一方的に自分の言いたいことだけをまくしたてるというマニア特有のナニっぷりを発揮、空気を読まないことでは結構負けない炭治郎を圧倒いたします。
 何はともあれ、その別名「色変わりの刀」のとおり、持ち主によって色が変わるという日輪刀が炭治郎の手でどのような色に変わるのか、固唾を呑んで見つめる炭治郎・鱗滝・鋼鐵塚の三人ですが――その変わった刀身の色は漆黒でありました。刀身が鮮やかな赤になると思っていたのに、と理不尽な怒りを爆発させてウザ絡みする三十七歳児に辟易していた炭治郎ですが、そこに突如飛び込んできたのは、山崎たくみの声で喋る鴉。北西の町で毎夜毎夜少女が消えているという事件の調査を命じられた炭治郎は、鬼狩りとして最初の仕事に挑むことに……


 冒頭の回想シーンでの鱗滝と手鬼の対決を除けば、アクションシーンはほとんどなしの今回。物語の動きとしては静かでしたが、鬼殺隊の階級や伝達役の鎹鴉などのシステムや日輪刀の説明、血鬼術の解説など、本作独自の様々な概念が説明された回であります。
 そしてキャラクターの方も、まだまだ顔見せ的な扱いではありますが、徐々に各人の個性が表れてきたという印象。三十七歳児はいきなりフルスロットルでしたが……

 ちなみに今回は原作の第8話・9話に該当する内容ですが、上で述べた鱗滝と手鬼の対決、その後の炭治郎と鬼たちの戦い、玉鋼を匂いで選ぶくだり(あと、何気に三十七歳児のウザ絡みを力づくで外す炭治郎)など、原作にないオリジナルシーンが少しずつ追加されているのが面白いところ。原作の流れさえ踏まえていれば、細かいアレンジや補足は大歓迎なので、この調子で進めていただきたいものです。
 もっとも、個人的にはもっとスピードアップしてもよいとは思いますが……

 ちなみに今回までが『兄妹の絆』で劇場公開された部分。この先、作品のクオリティがどうなるか、少々気になるところではあります。


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2019.05.03

久正人『カムヤライド』第1巻 見参、古代日本の特撮ヒーロー


 ヤマト朝廷による統一が進む時代に復活した国津神を人の世から放逐するヒーローの活躍を描く特撮風味濃厚の古代変身アクション『カムヤライド』の第1巻であります。「コミック乱ツインズ」の紹介の中で毎回触れてきたので今更の感もありますが、作品単体として、一度きちんと紹介いたします。

 時は4世紀――ヤマト朝廷が畿内を中心として列島の支配を進めつつも、しかし周辺各地にはまつろわぬ者もいまだ多く、反乱が続発していた時代。そんな反乱の一つである九州を騒がす熊襲の王・カワカミタケルの討伐に向かうヤマトの皇子・オウスは、途中、奇妙な男・モンコと出会うことになります。

 自分が作った埴輪なるものを広めるために旅しているというモンコから、埴輪を手渡されたオウス。その出会いから一週間後、カワカミタケルと対峙したオウスは、常人とは思えぬ力を前に配下を皆殺しにされた末、異形の化け物と化した相手に襲われるのですが――その時、モンコの埴輪に触れた化け物は、粉々に吹き飛ぶのでした。
 そこに現れ、カワカミタケルは力を与えられて人の境をはみ出した存在・土蜘蛛と化したこと、彼に力を与えたのがこの地に眠る国津神であることを語るモンコ。そして姿を現した巨大な国津神を前に、モンコは足元の土を身にまとい、鎧姿の戦士へとその身を変えます。戦士――人と神の境で門を閉じる者・神逐人(カムヤライド)に!


 ……というわけで、日本が誇る特撮変身ヒーローの世界を、古代を舞台に漫画の世界に巧みに移植してみせた本作。

 移植といっても、一歩間違えれば単なるもどきに終わりかねない特撮変身ヒーロー「風」キャラの漫画化ですが、しかし本作はまずデザインの時点で、最初のハードルをクリア(作者は近年スーパー戦隊もののデザインに参加しているので、ある意味当然かもしれませんが)。
 それだけでなく、変身直後の「俺の立つここが境界線だ!」や、国津神に必殺技を決めての「ここより人の世 神様立ち入り禁止だ」といった決め台詞の格好良さ、そしてその必殺技のギミックなど、ヒーローものとしてのフォーマットの存在が、実に「らしい」のが素晴らしいところであります。

 そしてそれらの要素が、ヤマトタケルという古代の超有名人の事績と結びつけて語られることによって、絶妙なバランスをもって一つの物語として成立している点にも注目すべきでしょう。
 一種(どころではなく)混沌とした世界観を、作者ならではのスタイリッシュな絵と、「史実」の事物を自身の作品世界に取り込む一種の伝奇センスによって、豪快に成立させてみせる――そんな作品構造は、実に作者らしいというほかありません。


 そしてそうした派手な部分だけでなく、唯一国津神を封印する力を持つ謎めいたモンコと対比される副主人公として、ヤマトタケルが配置されているのもまた巧みといえます。

 先に述べた通り、古代日本の最大のヒーローであるヤマトタケル。そのヒロイックな神話の内容とは裏腹に、本作の彼は、ヤマトの皇子という身分でありながら、いささか頼りない少年として登場します。
 しかし、そんな彼だからこそ、神話の怪物たちを前に、一人の人間として無力感を味わい、そしてその中で成長していく姿が、実にヒロイックに感じられます。既に完成されたヒーローであるモンコに対して、未完成のヤマトタケルもまた、異なる形のヒーローに感じられるのです。

 そう、本作はモンコとヤマトタケルと、虚実(?)二人の「ヒーロー」もの。古代という半ば神話というファンタジーのベールに包まれた世界を、特撮という現代のファンタジーと掛け合わせることによって、新たなヒーロー物語を生み出してみせたのが本作なのであります。


 そしてこの巻の終盤では、神話に登場するもう一人の「タケル」であるイズモタケルが登場。その物語が本作でどのようにアレンジされるのか――請うご期待であります。
(そして雑誌連載の方では、ヤマトタケルとは切っても切れないあの人物が、とんでもないアレンジで登場して……いやはや、どこまでいくのでしょうか)


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2019.04.29

『鬼滅の刃』 第四話「最終選別」

 鱗滝に送り出され、最終選別が行われる藤襲山に向かう炭治郎。鬼たちが幽閉されている山で七日間生き延びるという試験に挑む炭治郎は、早速自分の技が鬼に通じることを確かめるが、さらに無数の手を持つ巨大な鬼と遭遇することになる。鱗滝に恨みを持つ鬼は、錆兎と真菰を喰ったと語る……

 前回大岩を真っ二つにしたことで、鱗滝から認められた炭治郎。岩を斬れると思っていなかったと何気なく酷いことをいう鱗滝ですが、儂がしてやれるのはここまでと、炭治郎に心づくしの具だくさんの鍋と魚を振る舞う姿には、心から炭治郎を案じていることが窺えます。修行中は粗食だったのか、その鍋をご馳走だと嬉しそうにがっつく炭治郎ですが、食べれば食べるだけ力になる成長期の炭治郎を見ながら、鬼も人を食えば食うほど強くなり、様々な術を操るようになると語る鱗滝さんは何気にデリカシーがないと思います。
 そして炭治郎に呪いの――いや厄除の狐面を与える鱗滝。さらに自分とお揃いの羽織を着せてやり、炭治郎を送り出すのですが――別れ際に炭治郎が錆兎と真菰のことを口にするのにギョッとする鱗滝なのでした(一緒の山にいて気付いてなかったのか……)

 さて、無数の非常に美しい藤の花が狂い咲く、その名も藤襲山にやってきた炭治郎。そこには、茫洋とした雰囲気の美少女やら目つきが異常に険しいモヒカンとか、頬っぺたを晴らした金髪やら、いかにも一癖も二癖もありそうな少年少女が集まっております。
 そしてそこに現れたのは、揃いの着物を着た瓜二つの――髪の色のみが白と黒で異なるだけの――二人の子供。彼/彼女は、弱点である藤の花で鬼を閉じ込めたこの山で、七日間サバイバルすることが鬼殺隊入隊のための最終選別であることを告げるのでした。

 まずは最初の晩を生き延びるため、最も早く陽が当たる東側(そういうものか……?)を目指す炭治郎ですが、しかし早速二匹の鬼に遭遇。これは俺の獲物だと争いながら同時に襲ってくる鬼たちを迎え撃つ炭治郎は、初お目見えの水の呼吸の太刀一閃――鱗滝に渡された日輪刀の一撃は、鬼を一瞬のうちに塵に変えるのでした。
 が、己の修行の成果を確認したのも束の間、凄まじい悪臭とともに現れたのは、人間の倍以上の巨体から無数の腕を生やした異形の鬼であります。既に一人犠牲になり、もう一人があわやというところに駆けつけた炭治郎は、鬼の腕の何本かを切り落とすのですが――鬼の方は、炭治郎が身に着けた厄除の面に見覚えがある様子であります。

 実はこの鬼こそは、今を去ること47年前の慶応年間(ということは本作の舞台は大正のごく初期か)に鱗滝に捕らえられた鬼。本来であれば小物の鬼しか入れられず、しかも選別の中で倒される鬼も少なくないだろうこの山で、桁外れの長寿――というよりどう考えても鬼殺隊の不手際としか思えない存在です。
 が、最大の問題は、この鬼が50人は選別に来た子供たちを喰っていることであり――そして何よりも、そのうちの実に14人が鱗滝門下であることであります。さらに頼まれもしないのに、特に印象に残っているのは、宍色の髪の少年と花柄の着物の少女――錆兎と真菰だと言い出す鬼。厄除の面こそが鬼にとっての目印であったというのは皮肉どころではない大問題――というのはさておき、その言葉に炭治郎が怒らぬはずはありません。

 が――怒りに冷静さを欠いた炭治郎は鬼の腕の攻撃をもろにくらって一瞬失神。さらに鬼の手が襲いかかる中、幻なのか亡魂か、死んだ弟の呼びかけで意識を取り戻した炭治郎は、辛うじてこれを躱すことに成功します。そして反撃を開始した炭治郎は、土の中から奇襲をかけてきた腕もジャンプ一番躱すと、文字通り手を尽くしてしまった肉薄。しかし首の周りに幾重にも腕を巻き付けた鬼のガードは、かつて錆兎すら刀を折られた鉄壁なのですが――しかし炭治郎の全集中はその隙を見抜き、壱ノ型 水面斬りが鬼の首を切り裂くのでした。


 原作の第6話・第7話をベースとした今回は、これまで同様に基本的に原作に忠実な内容ながら、諸所にオリジナル――というより原作を補完する要素が描かれた回。その最たるものが冒頭の炭治郎に鍋を振る舞う鱗滝で、その後の揃いの羽織を用意してやるのも合わせて、彼の優しさが窺われる場面であります。
 また、今回初めて本格的に描かれた(炭治郎の)水の呼吸の太刀も、波のエフェクトを絡めた刀の動きが美しく、なるほど動くとこうなるのか、と改めて感心。これは今回のアクションシーン全般に言えることですが、原作初期の比較的書き込みの薄い時期を、きっちりと映像として補完してくれたという印象があり、これまでで最も見応えのあった回だと、素直に思います。

(ちなみに手鬼が喰った鱗滝の弟子の数を勘定するシーン、原作だとそこまで妙には見えないのですが、アニメだとわけのわからない指の出し方をしていて、それがまた逆に異常性が出ていて感心いたしました)



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2019.04.28

冬目景『黒鉄・改 KUROGANE-KAI』第2巻 裏切りと罠と家庭の事情と 巻き込まれ続ける迅鉄の旅


 鉄面の渡世人と喋る刀の新たなる物語――『黒鉄・改』の第2巻であります。旅の途中、それぞれ何やら怪しげな一団に襲われることとなった迅鉄と丹。曰くありげな連中と道連れになったり戦ったり、次から次へと面倒に巻き込まれる彼らの運命は――

 人斬りに次ぐ人斬りの果てに命を落とし、ある蘭学者の手により、失った体の一部をカラクリで、失った言葉を喋る妖刀・鋼丸で補って甦った「鋼の迅鉄」。
 渡世人としてのあてどない旅の途中、迅鉄そして彼とは腐れ縁の少女渡世人・紅雀の丹は、奇妙な刺青を入れた三度笠の一団に襲われることになります。どうやら三度笠は丹が偶然手に入れた書状を狙っているようですが――なんとか敵を撃退した二人は、それぞれの道を行くのでした。

 が、二人は再び厄介事に巻き込まれることになります。旅の途中で何者かの仕掛けた罠によって傷を負い、偶然出会った旅芸人の姉妹に匿われた迅鉄。再び三度笠の一団に襲われたところを、怪しげな学者・狩野久作に救われた(?)丹。
 それぞれ新たな道連れとともに旅する二人ですが、その道連れたちもまた、腹に一物ある連中であったことから、裏切りと罠と家庭の事情(?)と――迅鉄たちはややこしい状況に巻き込まれることになるのでした。

 そして二人の前に立ちはだかる思わぬ強敵。苦戦する迅鉄と丹の運命は……


 前巻のラストから続くエピソード「底根國の天探女」が描かれるこの第2巻。『黒鉄・改』として作品がリブートされてから続く、謎の書状を巡る三度笠の一団との戦いは、この巻でも展開されることになります。
 ……といっても戦いだけでなく、旅の道連れになった人々の人間模様、彼女たちとの迅鉄の交流が並行して描かれるのが、人情ものとしての要素も色濃い本作らしいところであります。

 この巻のゲストである旅芸人の少女・月等と、彼女の「姉さん」である月百――傷を負った迅鉄を助けた彼女たちには、実は思わぬ顔があるのですが、しかしそれと同時に、月等には月等なりの事情があることが描かれることになります。
 それは書状の秘密に比べれば遙かに普通の、言ってしまえばよくある話ではあるのですが――しかしそれだからこそその切実さは、何だかんだいって人の良い迅鉄や丹を動かすのであります。

 その一方で、思わぬ強敵として登場する鎖鎌使いの浪人も、実に面白いキャラクターであります。
 罠にかかって必ずしも本調子ではないとはいえ、真っ正面から一対一で迅鉄を圧倒するほどの強豪でありながらも、その言動はいい加減で人間臭い――というよりせこい。特にこの迅鉄との戦いの最中、あるキャラと口でやりあう姿は何とも愉快なのであります。
(これだけキャラが立っていて、結局名無しのおっさんなのが、またなんとも)


 その一方で、謎が謎呼ぶばかりで、物語的にはほとんど全く進展が見られないのは、やはりちょっと苦しいところではあります。
 確かに個々のシチュエーションやキャラは面白いものの、こう進展がないと、迅鉄と丹が一方的に巻き込まれてばかり――そう見えてしまうのであります。

 もちろん、それが迅鉄であり、彼の物語らしいといえばらしいのですが――そろそろ大きく物語が動いて欲しいかな、というのも、正直な印象なのです。


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2019.04.25

さいとうちほ『輝夜伝』第2巻 月詠とかぐや、二人の少女の意思のゆくえ

 かぐや姫伝説を巡り、様々な人々の思惑が絡み合う『輝夜伝』の第2巻では、いよいよかぐや姫が帝のもとに入内。かぐや姫から特に警護のために指名された月詠は、様々な危険に晒されることになります。そしてかぐや姫が語る、驚愕の真実とは……

 謎の「血の十五夜」事件で兄を喪い、真相を知るために男を装い、帝を守る滝口の武者の見習いとなった少女・月詠。彼女が女だと知る滝口の先輩・大神ととも事件の謎を追う月詠は、都で話題のかぐや姫の入内のために、姫のもとに赴くことになります。
 そして自分を求めるのであれば天の羽衣が欲しいと語るかぐや姫を満足させるため、帝の命で、羽衣を探し求めることになった滝口たち。月詠もその中で奔走するのですが、そこに謎の西面の武者・梟が接近してきて……


 「血の十五夜」の謎と、かぐや姫の謎と――二つの謎が織りなす物語である本作。その待望の続刊であるこの第2巻では、前者はひとまず置いて、かぐや姫を巡る物語が展開していくことになります。
 その絶世の美で世の男たちを引きつけながらも決して靡かず、帝に対しても不遜とすらいえる態度を見せるかぐや姫。彼女はしかし、瞬間移動能力を持ち、そして月詠と共鳴して体から光を放つなど、常人とは思えぬ異能の持ち主であります。

 果たして彼女は何者なのか、果たして伝説のとおり天から来たのか――それはまだわかりませんが、伝説とは大きく異なるのは、単に求婚者を阻むだけでなく、一人の人間として自分の意志をはっきりと示すことでしょう。
 帝であれ上皇であれ決して折れず、不敵なまでの自由奔放さを見せる。そんな彼女の素顔は、帝との思わぬ因縁の中でも描かれるのですが――しかし今のところ彼女に最も近い場所にいるのは、月詠であります。

 上で何度か述べたように、かぐや姫とは不思議な共鳴現象を起こした月詠。それ以外にも、不可思議な共通点を持つ月詠のことを、かぐや姫は自分と同類と呼びます。
 なるほど、その名前をはじめとして、月とは不思議な因縁を持つ月詠。正直なところ、本人が登場するまでは、彼女こそがかぐや姫なのでは、という印象もあっただけに、それも頷けるところではあります。

 しかしかぐや姫とは(おそらく)異なるのは、月詠が兄や師から十五夜の月を見ることを禁じられていること。
 月を見上げて涙をこぼしたという伝説のかぐや姫とはむしろ正反対の姿ですが――それは果たして何故なのか、それがこの巻においてついに描かれることになります。

 そしてそんな彼女につきまとい――いやむしろ、彼女を見守るような行動を取るのは、帝と対立する怪人・治天の君こと上皇の忠実な配下と思われた仮面の男・梟。
 あたかも月詠の正体を知り、そして彼女を大切に想っているかにかに見えるその言動からは、やはりその正体は――と想わされるのですが、それはまだ早計と言うべきかもしれません。

 かぐや姫、月詠、治天の君、そして梟と、本作はまだまだ正体不明の人物だらけなのですから……


 そんな非常にシリアスな物語が展開していく一方で、月詠と梟と大神の関係が、端から見ると男が男を取り合ってるように見えたり(そして妙に理解のある大神の親友の凄王)、かぐや姫の愛犬・太郎丸が可愛いらしい上に大活躍したり……
 と、緩急の付け具合も非常に楽しい本作。先に述べたようにかぐや姫が、そしてもちろん月詠が、謎の渦中にありながらも決して流されない、強い意志を持った女性であるのも好感が持てます。

 しかしそんな月詠も、自分自身に秘められた秘密を知った時、どうなるのか――いよいよ先が気になる物語であります。


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2019.04.22

『鬼滅の刃』 第三話『錆兎と真菰』

 鱗滝の下で鬼殺隊入隊のための修行を始める炭治郎。厳しい修行の末、もう教えることはないと鱗滝は告げ、巨大な岩を刀で斬るよう命じる。岩を斬れず悩む炭治郎だが、その前に、狐面をつけた少年・錆兎と不思議な少女・真菰が現れる。二人との修行の末、ついに炭治郎と錆兎、最後の対決の日が……

 冒頭、鱗滝の声で説明される鬼殺隊の存在と鬼の生態(柱たちがシルエットになっているのは格好良いのですが、漫画の方ではそれなりに目立っていたのにかえって目立たなくなったしのぶと小芭内)。
 冷静に考えると作中で鬼殺隊の内容がしっかりと説明されるのはここが初めてなのですが、鱗滝の声で、鬼殺隊を率いる者も、鬼を創り出した者も不明と語るのはちょっと違和感が……

 それはさておき、日記をつける炭治郎のモノローグという態で展開していく今回。山下りや刀の素振りといった地道な基礎訓練から、鱗滝による稽古、呼吸法と型の指導、さらには「水」の剣士らしく、水に一体になるための滝行――と、最後の描写はアニメオリジナル。水と一つになるのだ、と滝壺に叩き落とされ、滝に打たれる――とかなり無茶な修行であります。

 そして修行開始から瞬く間に時間は過ぎて一年後、もう教えることはない、と言い出す鱗滝。もちろんこれで免許皆伝ではなく、あとは実践、とばかりに鱗滝が炭治郎を連れていったのは、古びた注連縄がかけられた、二抱えはありそうな巨大な岩――この岩を斬れたならば、鬼殺隊士への最終選別に行くのを許可するというのであります。
 何だかこれを斬ったら悪いものの封印が解けそうで心配――というのはどうでもいいとして、岩なんて斬れるわけがないし刀が折れる、三十七歳児が殺しにやってくる(のはまだ先)という炭治郎の困惑をよそに、鱗滝は一切指導をすることなく、炭治郎は独力で岩に挑んだものの、虚しく半年が過ぎるのでした。

 それでも全く岩は斬れず、自分を奮い立たせるためにガンガン頭を岩に叩きつける炭治郎の前に、うるさい! と非常にもっともなツッコミとともにあらわれたのは、口元から右頬にかけて傷のついた狐面を被った宍色(黄色がかった赤)の髪を持った少年・錆兎であります。
 鼻でも匂いを感じ取れず、突如として現れた錆兎に驚く炭治郎ですが、「男なら」「男に生まれたなら」と、やたらと「男」を連呼する錆兎はいきなり木刀で斬りかかってくるのでさらに困惑。自分は真剣を持っているのに――と躊躇う炭治郎を一笑に付す錆兎は、木刀でもって炭治郎を圧倒、凄まじい打上げで炭治郎の顎を痛打してKOするのでした。

 そして意識を取り戻した炭治郎の前に現れたのは、狐面を横被りした少女・真菰。堅物の炭治郎が頬を赤らめるほどの可愛らしい真菰が語る内容は、炭治郎の動きや呼吸法に対する指摘であります。実践、いや実戦第一の錆兎と、言葉で適切な指示を与える真菰(しかし全集中の呼吸の説明で、結局死ぬほど鍛えるしかない、というあたりは実にアバウト――いや、結局真実だったのですが)の指導を受け、また半年が過ぎることに……
 しかしその中で腕を上げ、ついに真剣を抜いた錆兎と対峙した炭治郎。二人の勝負は一瞬、炭治郎の刃が真っ正面から錆兎の面を打ち、狐面を斬り――そしてなんとも言えぬ笑みとともに錆兎は、そして真菰は消え、そこに残ったのは真っ二つとなった岩だったのでした。


 原作の第4話・第5話を、またもや非常に忠実にアニメ化した今回。しかし細かい修行のディテールはかなり補われていた印象(しかし型の指導、鱗滝さんが何も教えてないのに適当にやらせているように見えてしまう……)ですし、上で述べたように、アニメオリジナルの修行として「水」の流派らしいものが加わっていたのも面白いところであります。
 そして今回のタイトルロールである錆兎と真菰ですが――特に印象に残ったのは錆兎の存在感。原作では炭治郎と比較的年齢が近い印象だったのですが、こちらでは完全に彼よりも上に感じられたのは、これはもう演じた梶裕貴の力によるものではないかと思います。

 しかし冒頭で述べたように日記形式であったから仕方ないとはいえ、錆兎が最後に浮かべた笑顔は、まさにそのものの表情が描けていただけに、言葉での説明は要らなかったのではないかなあ――とは思います。



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