2017.09.21

『コミック乱ツインズ』2017年10月号(その一)

 素晴らしいタッチのかどたひろし『勘定吟味役異聞』を中心に、『軍鶏侍』『仕掛人藤枝梅安』『鬼役』と原作付き作品四作品の主人公が配された、えらく男臭い表紙の「コミック乱ツインズ」2017年10月号。内容の方もこの四作品を中心に素晴らしい充実ぶりであります。

 以下、印象に残った作品を一作ずつ紹介いたします。

『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 来月単行本第1巻・第2巻が同時発売することとなった武村版梅安は巻頭カラー。小杉十五郎の初登場編である「梅安蟻地獄」の後編であります。

 仕掛けの相手である宗伯と見間違えたことで梅安と知り合うこととなった小杉。一方、梅安の仕掛け相手であった伊豆屋長兵衛は宗伯の兄であったことから、協力することとなった二人ですが、相手の側も小杉を返り討ちしようと刺客を放って……
 というわけで梅安・彦次郎・小杉揃い踏みとなった今回。本作では彦さんがかなり若く描かれているだけに、正直小杉さんとの違いはどうなるのかな……と思いましたが、三人が揃って見ると、彦さんはタレ目で細眉のイケメン、小杉さんは眉の太い正統派熱血漢という描き分けで一安心(?)であります。

 などというのはさておき、今回のハイライトは、橋の上で梅安が長兵衛を仕掛けるシーンでしょう。ダイナミックな動きからの針の一撃を描いた見開きシーンは、まさに武村版ならではのものであると感じます。


『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 連載第2回となった今回は最初のエピソード「軍鶏侍」の後編。園瀬藩内の暗闘に巻き込まれた隠居侍・岩倉源太夫が、江戸の藩主のもとに家老の行状を記した告発状を届けることになって――というわけで、当然ながら源太夫の前に刺客が立ちふさがることになるのですが、ここで一捻りがあります。

 家老方に雇われた、いかにもなビジュアルの三人の刺客――と思いきや、仲間割れからそのうちの年長の一人が残る二人を斬殺! 実はこの刺客と源太夫の間にはある因縁が……
 と、この辺りは定番の展開ではありますが、しかし既に老境に近づいた源太夫たちの姿をしみじみと描く筆致はさすがと言うべきでしょう。
 物語を終えてのもの悲しくもどこか爽やかな後味も、この描写あってのこと。隠居侍が再起する物語として、相応しいファーストエピソードであったかと思います。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 今回からは幻の豪華列車を巡るエピソード。鉄道技術者として活躍し、九州鉄道の社長を務めた仙石貢が、物語の中心となります。

 ある日、島と雨宮のもとに仙石から舞い込んできた依頼。それは仙石が九州鉄道の社長時代にアメリカに発注した豪華車両のお披露目運転でした。
 輸送力増強のために奔走する島から見れば、豪華列車は仙石が趣味で買ったような代物。そんなものをごり押しで、しかも高速で走らせようとする仙石に反発する島ですが……

 前編で状況の説明と事件の発生を描き、後編でその背後の事情や解決を描くスタイルが定着してきた本作。その点からすれば、次回のキーとなるのは、「豪華さ」と「スピード」の両立を追求する仙石の真意であることは間違いありません。
 主人公が島であることを考えれば、何となくその先はわかるように思えますが――さて。


 以下、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年10月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年10月号 [雑誌]


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2017.09.10

谷治宇『さなとりょう』 龍馬暗殺の向こうの「公」と「私」

 「さな」と「りょう」――坂本龍馬の許嫁であった千葉さなと、坂本龍馬の妻だった楢崎龍の二人を主人公としたバディものとして、大いに話題となった作品であります。しかもその二人が挑むのは、共に愛した男――坂本龍馬暗殺の謎だというのですから、これは期待しないわけにはいきません。

 舞台となるのは明治6年の秋――いまや門人もいない江戸桶町の千葉道場に一人暮らすさなの前に、りょうが突然現れたことから物語は始まります。

 江戸で暮らしていた頃の龍馬と婚約を交わしつつも、その後龍馬と二度と会うことなく、彼への想いを胸に暮らしてきたさな。しかしそんな彼女にとって、龍馬の妻だったというりょうの存在は青天の霹靂であります。
 しかもそのりょうは、いかにも武家の娘然としたお堅いさなとは正反対の、マイペースで下品でだらしない女性なのですから……

 とはいえ兄・重太郎を頼ってきたというりょうを追い出すわけにもいかず、仕方なく居候させるさな。しかしりょうが行く先々で奇怪な剣の遣い手が跳梁し、次々と人死にが出ることになります。
 実はりょうが龍馬の死に関わる人間を訪ねて歩いていたことを知るさなですが、しかしりょうは肝心なことを語らない上に、一連の事件には政府から圧力がかかっている様子。

 仕方なくりょうと行動を共にすることになったさなは、旧知の勝海舟や山岡鉄舟の力を借りつつ、謎に迫っていくのですが……


 幕末史上おそらくは最大の謎として名高い龍馬暗殺。その実行犯についてはある程度判明しているようですが、しかしその理由までも含めれば今なお諸説紛々で、フィクションの格好の題材と言えます。

 本作もそうした龍馬暗殺の謎を追う時代ミステリですが、もちろん最大の特徴はこれまで縷々述べてきたように、探偵役がさなとりょうである点であることは言うまでもありません。
 ともに龍馬とは縁浅からぬ(どころではない)関係である上に、後世に伝わる人物像においても大きく異なる二人。そんな二人を、本作はさらにユニークにデコレートしてみせるのです。

 「鬼小町」の異名通り、剣を取れば並みの男では及びも付かぬさなと、拳銃の腕前は龍馬以上だったというりょう。
 静と動、剣と銃、水と油――全く正反対にキャラの立った二人が、激しく反目し合いながらも共に愛した男のために冒険を繰り広げる姿を、本作は興趣たっぷりに、しかし地に足の付いた文章で描き出します。
(本作の新人離れした筆致には感心させられますが、しかし予想通りであれば、この名前では初めてでも、以前に数作作者は発表しているはず……)


 とはいえ――正直な印象を申し上げれば、事件の真相自体は、そこまで独創的というわけではないようにも感じられます。
 もちろん、幾重にも入り組んだ仕掛け、一つの謎が解けてもさらにその奥が、という構造は実に面白いのですが、しかし、予想の範囲内ではあった、と初めは感じられました。

 何よりも、探偵役がさなとりょうでなくとも成立した内容なのでは――などと思ってしまった僕の浅はかさは、しかし終盤において完膚なきまでに打ち砕かれることになります。
 そう、終盤で明かされる龍馬暗殺の動機――維新の巨星が語るその理由こそは、まさしく本作ならではのものなのですから。

 その内容に踏み込まずに評するのはなかなか難しいのですが、ここに描かれるものは、「公」という大義名分の下に他人をそして自分までも利用し、打ち捨てて顧みない者たちに対して、自分の愛する者を護り、共に在りたいと願う「私」の姿であると言えるでしょう。
 そんないつの時代にも存在するその両者のうち、本作における「公」の代表が、維新において暗躍してきた、そして明治政府で権力の座に就いた者たちであり、そしてそれに対して強烈なカウンターを食らわせるのが「私」の代表たるさなとりょうであると――そう述べることは許されるかと思います。

 そして結末に待ち受ける「最後の一撃」、あまりに美しく切ないその真実は、その公と私のせめぎ合いに傷つけられた本作最大の犠牲者に対する、最高の救いであったと言うべきでしょう。

 人物の意外な取り合わせと巧みな描写、ストーリー構成の妙、一本筋の通った問題意識――そのどれもが高水準でありつつも、僕が本作を最も好ましく感じるのは、このラストに込められた眼差しなのであります。

『さなとりょう』(谷治宇 太田出版) Amazon
さなとりょう

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2017.08.17

『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その二)

 「乱ツインズ」誌9月号の紹介、後半戦であります。

『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 今回から『梅安蟻地獄』がスタート。往診の帰りに凄まじい殺気を放つ侍に襲われ、背後を探る梅安。自分が人違いで襲われたことを知った彼は、その相手が山崎宗伯なる男であること、そして町人姿のその兄が伊豆屋長兵衛という豪商であることを探り出します。

 そしていかなる因縁か、自分に対して長兵衛の仕掛けの依頼が回ってきたことをきっかけに、宗伯を狙う侍に接近する梅安。そして侍の名は……

 というわけで、彦次郎に並ぶ梅安の親友かつ「仕事」仲間となる小杉十五郎がついに登場。どこか哀しげな目をした好漢といった印象のその姿は、いかにもこの作画者らしいビジュアルであります。
 しかし本作の場合、ちょっと彦さんとかぶってるような気もするのですが――何はともあれ、この先の彼の活躍に期待であります。


『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 来月再来月と単行本が連続刊行される本作、里見の八犬士と服部のくノ一の死闘もいよいよ決着間近であります。
 里見家が八玉を将軍に献上する時――すなわち里見家取り潰しの時が間近に迫る中、本多佐渡守邸では、半蔵やくノ一たちを巻き込んで、歌舞伎踊りの一座による乱痴気騒ぎが繰り広げられて……

 と、ある意味非常に本作らしいバトルステージで行われる最後の戦い。己の忍法を繰り出し、そして己の命を燃やす角太郎に、壮助に、さしもの服部半蔵も追い詰められることになります。
 ちなみに本作の半蔵には原作とも史実とも異なる展開が待っているのですが、しかしその一方で原作以上に奮戦したイメージがあるのが面白いところであります。すっとぼけた八犬士との対比でしょうか。

 そして残るは敵味方一人ずつ。最後の戦いの行方は……


『鬼切丸伝』(楠桂)
 信長鬼の血肉を喰らって死後に鬼と化した武将たちの死闘が描かれる鬼神転生編も三話目。各地で暴走する鬼たちに戦いを挑んだ鈴鹿と鬼切丸の少年ですが、通常の鬼とは大きく異なる力と妄念を持つ鬼四天王に大苦戦して……

 と、今回描かれるのは、鬼切丸の少年vs丹羽長秀、鈴鹿vs豊臣秀吉・前田利家のバトル。死してなお秀吉に従う利家、秀吉に強い怨恨を抱く長秀、女人に自分の子を生ませることに執着する秀吉――と、最後だけベクトルが異なりますが、しかし鬼と化しても、いや化したからこそ生前の執着が剥き出しとなった彼らの姿は、これまでの鬼以上に印象に残ります。

 その中でも最もインパクトがあるのはやはり秀吉。こともあろうに鈴鹿の着物を引っぺがし、何だか別の作品みたいな台詞を吐いて襲いかかりますが――しかし彼女も鬼の中の鬼。
 鬼同士の壮絶な潰し合いの前には、さすがに少年の影も霞みがちですが、さてこの潰し合い、どこまで続くのか……


 その他、『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)は、今月も伊達軍vsと佐竹義重らの連合軍の死闘が続く中、景綱が一世一代の(?)大活躍。
 また、『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)は、こちらもまだまだ家慶の日光社参の大行列が続き、次々と騒動が勃発。その中で八瀬童子の猿彦、八王子千人同心の松岡と、これまで物語に登場したキャラクターが再登場して主人公を支えるのも、盛り上がります。


 と、いつにも増して読みどころの多いこの9月号でありました。


『コミック乱ツインズ』2017年9月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年9月号 [雑誌]


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2017.08.16

『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その一)

 「乱ツインズ」誌9月号は、野口卓原作の『軍鶏侍』が連載スタート。表紙は季節感とは無縁の『鬼役』が飾りますが、その隅に、『勘定吟味役異聞』のヒロイン・紅さんがスイカを手にニッコリしているカットが配されているのが夏らしくて愉快であります。今回も印象に残った作品を取り上げます。

『軍鶏侍』(山本康人&野口卓)
 というわけで新連載の本作は、原作者のデビュー作にして、現在第6作まで刊行されている出世作の漫画化。
 原作は南国の架空の小藩・園瀬藩を舞台に、秘剣「蹴殺し」を会得した隠居剣士・岩倉源太夫が活躍する連作シリーズですが、12月号で池波正太郎の『元禄一刀流』を見事に漫画化した山本康人が作画を担当しています。

 第1話は、藩内で対立する家老派と中老派の暗闘に巻き込まれながらも、政の世界に嫌気がさして逃げていた主人公が、自分の隠居の背後にあるある事情を知り、ついに剣士として立つことを決意して――という展開。
 どう見ても家老派が悪人だったり、よくいえば親しみやすい、厳しくいえば既視感のある物語という印象ですが、家老の爬虫類的な厭らしさを感じさせる描写などはさすがに巧みなで、今回は名前のみ登場の秘剣「蹴殺し」が如何に描かれるか、次回も期待です。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 新展開第2話の今回は、敵サイドの描写にが印象に残る展開。吉原に潜み、荻原重秀の意向を受けて新井白石の命を狙わんとする紀伊国屋文左衛門、白石に御用金下賜を阻まれ、その走狗と見て聡四郎の命を狙う本多家、そしてそれらの動きの背後に潜んで糸を引く柳沢吉保――と、相変わらずの聡四郎の四面楚歌っぷりが際立ちます。

 そのおかげで(?)、奉行所の同心に絡まれるわ、刺客に襲われるわ、紅さんにむくれられるわと大変な聡四郎ですが、紅さん以外には脅しつけたり煽ったりとふてぶてしく対応しているのを見ると、彼も成長しているのだなあ――と思わされるのでした。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 北海道編の後編。広大な北海道に新たな、理想の鉄道を敷設するために視察に訪れた島と雨宮。そこで鉄道に激しい敵意を燃やし、列車強盗を繰り返す少女率いる先住民たちと雨宮は出会うことになります。

 そして今回は、先住民の殲滅を狙う地元の鉄道員たちが、島が同乗する列車を囮に彼女たちを誘き寄せようと企みを巡らせることに。それに気付いた雨宮は、一か八かの行動に出るものの、それが意外な結果を招くことになるのですが……

 各地の鉄道を訪れた雨宮が、現地の鉄道員たちとの軋轢を経験しつつ、その優れた運転の腕でトラブルを切り抜け、鉄道の明日に道を繋げていく――というパターンが生まれつつあるように感じられる本作。しかしこの北海道編で描かれるものは、一つのトラブルを解決したとしても、大勢を変えることは到底出来ぬほど、根深い問題であります。

 そんな中で描かれる結末は、さすがに理想的に過ぎるようにも感じますが――その一方で、島に対する雨宮の「自分でも気付かないうちに北海道を特別視していませんか?」という言葉、すなわち島の中にも北海道を「未開の地」、自分たちが好きなように扱える地と見なしている部分があるという指摘には唸らされるのであります。


 長くなりましたので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年9月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年9月号 [雑誌]


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2017.08.10

入門者向け時代伝奇小説百選 鎌倉-室町

 初心者向け時代伝奇小説、今回は日本の中世である鎌倉・室町時代。特に室町は最近人気だけに要チェックです。
56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子)
57.『彷徨える帝』(安部龍太郎)
58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵)
59.『妖怪』(司馬遼太郎)
60.『ぬばたま一休』(朝松健)

56.『幻の神器 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子) 【ミステリ】 Amazon
 鎌倉時代の京を舞台に、「新古今和歌集」の歌人・藤原定家と、藤原頼長の孫・長覚が古今伝授の謎に挑む時代ミステリであります。
 古今伝授は「古今和歌集」の解釈に纏わる秘伝ですが、本作で描かれるのは、その中に隠された天下を動かす大秘事。父から古今伝授を受けるための三つの御題を出された定家がその謎に挑み、そこに様々な陰謀が絡むことになるのですが……
 ここで定家はむしろワトソン役で、美貌で頭脳明晰、しかし毒舌の長覚がホームズ役なのが面白い。時に極めて重い物語の中で、二人のやり取りは一服の清涼剤ともなっています。

 政の中心が鎌倉に移ったことで見落とされがちな、この時代の京の政争を背景とするという着眼点も見事な作品であります。

(その他おすすめ)
『華やかなる弔歌 藤原定家謎合秘帖』(篠綾子) Amazon
『月蝕 在原業平歌解き譚』(篠綾子) Amazon


57.『彷徨える帝』(安部龍太郎) Amazon
 南北朝時代の終結後、天皇位が北朝方に独占されることに反発して吉野などに潜伏した南朝の遺臣――いわゆる後南朝は、時代伝奇ものにしばしば登場する存在です。
 本作はその後南朝方と幕府方が、幕府を崩壊させるほどの呪力を持つという三つの能面を求めて暗闘を繰り広げる物語であります。

 この能面が、真言立川流との関係でも知られる後醍醐天皇ゆかりの品というのもグッと来ますが、舞台が将軍義教の時代というのも実に面白い。
 ある意味極めて現実的な存在たる義教と、伝奇的な存在の後醍醐天皇を絡めることで、本作は剣戟あり、謎解きありの伝奇活劇としての面白さに加え、一種の国家論、天皇論にまで踏み込んだ骨太の物語として成立しているのです。

(その他おすすめ)
『妖櫻記』(皆川博子) Amazon
『吉野太平記』(武内涼) Amazon


58.『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』(仲町六絵) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 混沌・殺伐・荒廃という恐ろしい印象の強い室町時代。本作は、それとは一風異なる室町時代の姿を、妖術師と使用人のカップルを主人公に描く物語です。

 南都(奈良)で金貸しを営む青年・楠葉西忍こと天竺ムスル。その名が示すように異国人の血を引く彼には、妖術師としての顔がありました。そのムスルに、借金のカタとして仕えることになった少女・葉月は、風変わりな彼に振り回されて……

 「主人と使用人」もの――有能ながらも風変わりな主人と、彼に振り回されながらも惹かれていく使用人の少女というスタイルを踏まえた本作。
 それだけでなく、「墓所の法理」など、この時代ならではの要素を巧みに絡めて展開する、極めてユニークにして微笑ましくも楽しい作品であります。


59.『妖怪』(司馬遼太郎) Amazon
 室町時代の混沌の極みであり、そして続く戦国時代の扉を開いた応仁の乱。最近一躍脚光を浴びたその乱の前夜とも言うべき時代を描く作品です。

 熊野から京に出てきた足利義教の落胤を自称する青年・源四郎。そこで彼は、八代将軍義政を巡る正室・日野富子と側室・今参りの局の対立に巻き込まれることになります。それぞれ幻術師を味方につけた二人の争いの中で翻弄される源四郎の運命は……

 どこかユーモラスな筆致で、源四郎の運命の変転と、奇妙な幻術師たちの暗躍を描く本作。しかしそこから浮かび上がるのは、この時代の騒然とした空気そのもの。「妖怪」のように掴みどころのない運命に流されていく人々の姿が印象に残る、何とも不思議な感触の物語であります。


60.『ぬばたま一休』(朝松健) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 最近にわかに脚光を浴びている室町時代ですが、この20年ほど、伝奇という切り口で室町を描いてきたのが朝松健であり、その作品の多くで活躍するのが、一休宗純であります。

 とんち坊主として知られてきた一休。しかし作者は彼を、優れた禅僧にして明式杖術の達人、そして諧謔味と反骨精神に富んだ人物として、その生涯を通じて様々な姿で描き出します。

 悍ましい妖怪、妖術師の陰謀、奇怪な事件――室町の闇が凝ったようなモノたちに対するヒーローとして活躍してきた一休。
 その冒険は長編短編多岐に渡りますが、シリーズタイトルを冠した本書は、バラエティに富んだその作品世界の入門編にふさわしい短編集。室町の闇を集めた宝石箱のような一冊であります。

(その他おすすめ)
『一休破軍行』(朝松健) Amazon
『金閣寺の首』(朝松健) Amazon



今回紹介した本
藤原定家●謎合秘帖 幻の神器 (角川文庫)彷徨える帝〈上〉 (角川文庫)南都あやかし帖 ~君よ知るや、ファールスの地~ (メディアワークス文庫)新装版 妖怪(上) (講談社文庫)完本・ぬばたま一休


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 仲町六絵『南都あやかし帖 君よ知るや、ファールスの地』 室町の混沌と豊穣を行く青年妖術師
 「ぬばたま一休」 100冊の成果、室町伝奇の精華

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2017.08.06

せがわまさき『十 忍法魔界転生』第11巻 浅ましき「敵」との戦いの末に

 原作通りの天草四郎のあっけない最期と、原作にはない意外なゲストキャラの登場が描かれた前巻。しかし四郎の残した呪いの言葉に衝撃を受けた十兵衛を含め、プレイヤーが入り乱れた状態で道中双六はなおも続きます。そしての果てに待つのは、その十兵衛の最も恐れる相手であります。

 粉河寺での決闘の末、お品を喪い、そして四郎を倒した十兵衛。しかし四郎が今際の際に十兵衛に告げたのは、残りの転生衆の中に、彼の父・宗矩がいることでした。
 仮に父が加わっているとすれば、紀州大納言・頼宣の陰謀を明らかにするわけにはいかない。悩んだ末に十兵衛は、密書を託した弥太郎を柳生十人衆の二人に追わせ、自分たちは、なおもお雛を捕らえた頼宣一行を追うことになります。

 というわけで、和歌山から柳生にかけて入り乱れる敵味方は、
・十兵衛と柳生十人衆(いわば本隊)
・頼宣一党と転生衆三名
・弥太郎
・弥太郎を追う十人衆
・弥太郎を追う根来衆
となかなかにややこしい状況。

 幸いと言うべきか、この辺りの状況はテンポよく展開していくのですが……ついに柳生に弥太郎がたどり着き、これはこれで一大事――となったところに出現したのはかつての柳生の主・宗矩。
 かつての家臣を、門人たちを無惨に斬り捨て、捕らえた弥太郎を責め苛む宗矩に対し、十兵衛は(自分たちが望んだとはいえ)お縫、おひろをただ二人で敵陣に遣わすという非情の奇策を取るのでした。

 それこそは父・宗矩おびき出しの策。宗矩の父、自分にとっては祖父たる石舟斎が遺した、新陰流正統の秘奥書と三人娘の引き替えを持ちかける十兵衛ですが、しかし魔人と化した宗矩が、それを黙って受け入れるはずもありません。
 かくて、皮肉にも宗矩の墓のある法徳寺を舞台に、父子の禁断の決闘が始まることに……


 というわけで、毎回クライマックスの本作でも特に山場とも言うべき十兵衛と宗矩の決闘。
 同門対決という点では既に如雲斎とのそれが描かれていますが、しかし今回のそれは、それ以上に父と子というより大きな要素が加わっていることで、非常に重いことは言うまでもありません(深作版ではラストバトルなのもむべなるかな)。

 ……が、そのドラマ性も、当の宗矩が変態ツインテじじいとなってしまったことで、だいぶ薄れてしまった印象は否めません。
 確かに漫画的には、精神の怪物性を示す意味でも必要なデコレーションなのだとは思いますが、しかしそれによって、「父と子」が死闘を繰り広げるという悲劇性は薄まり、「ヒーローと敵」の戦いの色がより強くなってしまったようにも感じられます。

 とはいえ、謹厳実直を絵に描いたような人物が、かような変態めいた姿になり、幽冥の境を越えての再会を喜ぶどころか、青筋立てて相伝書をよこせと迫る姿は、ただ浅ましいとしか言いようがありません。
 そんな父を目の当たりにした十兵衛の心中を思えば、胸が塞がるばかりで、決着の後に彼の隻眼に光るものがあったことは、これはもう当然というほかありません。
(それでもなお、一種の「ゲーム」をここで仕掛けるしかなかった非情!)


 しかしそれでもなお、魔界転生衆との戦いは続きます。三人娘奪還は果たせず、心に深い傷を負った十兵衛に何ができるのか。彼女たちに頼宣の毒牙が迫る中、それを止めることができる者はいるのか……

 残る転生衆は荒木又右衛門と宮本武蔵の両巨頭。いよいよクライマックスも近づいてきたと言うべきでしょうか。


 そして頼宣といえば、この第11巻の表紙は頼宣。この巻では魔界転生は不要とすら言い放つ頼宣ですが、彼もまた転生衆並みのビジュアルゆえ、それに妙なおかしみが沸いてしまうのは、これはもちろん個人の感想ですが……

 しかし偶然とはいえ、冒頭とラストの両方で落花狼藉に及ぼうとする姿が描かれるのも、なんとも。


『十 忍法魔界転生』第11巻(せがわまさき&山田風太郎 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon
十 ~忍法魔界転生~(11) (ヤングマガジンコミックス)


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2017.07.30

石ノ森章太郎『新変身忍者嵐』 もう一つの恐るべき結末

 石ノ森章太郎の漫画版『変身忍者嵐』紹介、今回はいわゆる『希望の友』版、約20年前に『新変身忍者嵐』のタイトルで単行本化された作品です。先日2回にわたってご紹介した『週刊少年マガジン』連載版に比べるとはるかにTV版に近い内容ですが、しかしこちらも衝撃の結末が……

 父・嵐鬼十の編み出した化身忍者の法を悪用し、父を殺した血車党を滅ぼすため、同じ法を用いて嵐に変身する青年・ハヤテの戦いを描く本作。
 設定的には本作やTV版と同一ながら完全に独自路線を行ったハードな変身ヒーローものであった少年マガジン版に比べれば、本作は遥かにTV版に近い内容と言えます。

 少年マガジン版では冒頭しか登場しなかったタツマキ親子は、レギュラーとして約半数のエピソードに登場。ハヤテやタツマキ親子のコスチュームもほぼTV版と同じものとなっています(映像では……だった格好が漫画で見ると全く印象が変わるのに感心)。

 何よりも、こちらでは1エピソードを除き嵐がきちんと(?)登場。TV版の変身台詞の「吹けよ嵐、嵐」や秘剣影うつしも、一度だけではありますが(「吹け嵐 嵐よ」とちょっと異同はありますが)しっかり登場し、変身しないエピソードも作中で一回のみと、まずはヒーロー漫画と呼んで違和感のない内容です。

 もっとも、TV版の完全なコミカライズというわけではなく、物語は完全にオリジナル。
 基本的には旅を続けるハヤテらに襲いかかる化身忍者の戦い、あるいは化身忍者の陰謀を砕くためにハヤテが戦いを挑むという展開ですが、登場する化身忍者も、かまいたち以外は皆漫画オリジナルの存在であります。

 また、他の版ではあまり詳しくは述べられなかった印象のある化身忍者の法も、脳に針を打ち込むことでその一部を異常に活性化させるという説明が行われるのも興味深いところです。(そしてラストでこれが思わぬ意味を……)

 内容の方も怪奇性強めで、文字通り人間の皮を被った化身忍者が登場したり、人間が無数の虫に襲われて骨のみを残して食い殺されたりとインパクトの大きなシーンも少なくありません。
 特に後者が登場するエピソード『虫愛ずる姫』は、その「敵」の正体の悲劇性とおぞましさ、救いのなさで、作中屈指であります。

 ちなみにTV版の方は、幾度となく大きな路線変更が行われ、戦う敵も変わったりもしましたが、本作はもちろん(?)それはなし。
 しかし後半にタツマキ親子が登場しなくなったり、狼男やミイラ男などが登場するようになったのは、TV版の影響があるのかもしれません。(ちなみにこちらの狼男やミイラ男は国産で、時代劇としての設定を崩さずに登場させているのに感心いたします)


 しかし本作の最大の独自性は、最終話『さらば変身一族』で明かされる化身忍者の正体、物語の核心に関わる大ドンデン返しであることは間違いでしょう。
(以下、物語の核心に触れますのでご寛恕下さい)

 ある晩、天を過ぎった流れ星を追い、ある山を訪れたハヤテ。その山に潜んでいた化身忍者たちを蹴散らし山頂に向かったハヤテの前に現れたがいこつ丸は、流れ星の正体が空飛ぶ円盤であったことを明かします。

 それだけでも驚く展開ですが、しかし真に驚かされるのはここからであります。実は化身忍者たちは宇宙から地球にやってきた一族、20年ほど前に円盤が故障して地球に着陸し、円盤を修理するために人間社会に潜伏し、力を蓄えていたというのです。
 そして嵐鬼十が編み出した化身の法も、人間を他の生物に化身させるのではなく、元々化身する能力を持つ彼らを人間の姿に留めておくためであったと……

 いやはや、ハヤテでなくとも唖然とするほかない展開、化身忍者の設定については、冷静に考えると色々と首を傾げる点があるのですが、しかしここで一気に世界観を覆してみせる豪腕には驚くほかありません。
(あるいはTV版に登場した空飛ぶ円盤からの連想か?)

 物語を通じて変身ヒーローと怪人の戦いを同族殺しとして描き、最終回でそれを救いようのない形で明確化してみせた少年マガジン版に比べれば、これは確かに唐突な印象は否めません。
 しかしここで描かれる、化身忍者こそが彼らの真の姿であったという価値観の逆転もまた、同様に変身ヒーローものに対する強烈なカウンターとして記憶すべきものと言えるのではないでしょうか。

 いや、どうかなあ……


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新変身忍者嵐 (秋田文庫 (5-36))


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2017.07.23

朝日曼耀『戦国新撰組』第2巻 新撰組、いよいよ本領発揮!?

 戦国へのタイムスリップはもはや定番ネタ……というのは言い過ぎかもしれませんが、しかしその中でもユニークさでは屈指の一作、あの新撰組が、こともあろうに桶狭間の戦直前にタイムスリップして大暴れする物語の第2巻であります。第1巻の衝撃の結末を経て、事態はいよいよややこしいことに……

 いかなる理由によるものか、突然、壬生の屯所から戦国時代の桶狭間周辺に放り出された新撰組。その一人である三浦啓之助は、土方、島田らとともに木下藤吉郎と蜂須賀小六に捕らえられ、信長の前に引き出されることになります。
 そこに乱入してきた近藤、井上、斎藤らにより、一時は形成逆転したかに見えた新撰組サイドですが、柴田勝家をはじめとする怪物めいた戦国武者たちの前には分が悪い。近藤が、島田が深手を負う中で、啓之助は思いも寄らぬ行動に出ることに――


 と、啓之助によって信長が○○されるという、まさしく「何してくれてんだ!」というしかない衝撃の展開を受けて始まるこの第2巻。
 自分たちの命を守り、未来の天下人を救うためとはいえ、豪快に歴史を変えてしまった啓之助ですが(この辺りのあっけらかんぶりがまた彼らしい)、藤吉郎もそれに乗ってしまうのがまた面白い。

 主君と仰ごうとしていた人間を……というのにこの行動というのは、一見不条理に見えるかもしれませんが、まだ本格仕官前というこのタイミング、そして彼の合理的のようでいて博打好きな性格を考えれば、この選択はアリでしょう。
 その後も大きな犠牲を払いつつ、藤吉郎と新撰組は、こともあろうに織田家の懐に飛び込むという奇策に出るのですが……


 しかし大混乱の中で忘れそうになりますが、桶狭間の戦がなし崩し的に消滅してしまったことで、いまだ今川義元の軍は健在。そしてそこには、やはりタイムスリップしていた山南、沖田、藤堂の姿が……

 自分の刀を存分に振るえる時代にテンションのあがりまくった沖田によってさらに歴史が変わっていく中、織田攻めの先方を命じられた松平元康。
 彼こそは言うまでもなく後の徳川家康、新撰組が忠誠を誓った徳川幕府の祖を守るため、山南たちも大きな役割を果たすことになるのであります。

 主人公の敵サイドにも未来人(主人公の同時代人)が!? というのは、タイムスリップものでは定番の展開の一つではあります。
 しかしそれがかなり早い段階で登場、しかもその「敵」が、(少なくともこの時点では)鉄の結束を誇っていた新撰組の同志とは……これには驚き、テンションが上がりました。

 しかしそれ以上にテンションを上げてくれるのは、この沖田の、そしてこの巻から本格的に活躍する斎藤の「強さ」であります。


 実は第1巻の時点で個人的に不満に感じたのは、新撰組があまり活躍していないというか、強くない点でした。

 過去にタイムスリップといえば、(女子高生主人公を除けば)未来の知識や技術でチートして大活躍、というのが定番。
 しかし本作の場合、いきなり新撰組は野武士に蹴散らされ、土方も蜂須賀小六に一騎打ちで敵わず――といきなりピンチの連続。

 もちろん冷静に考えれば、戦が数十年続いてきた時代にテクノロジーレベルが少々高い時代の人間がタイムスリップしても、さほどアドバンテージにはならないのはむしろ当然なのかもしれません。
 しかし折角(?)タイムスリップしたのだから、戦国時代での新撰組の無双の活躍を見たい――それも人情でしょう。

 そしてその気持ちは、上で述べた沖田を、そしてさらに本多忠勝と一騎打ちを演じた斎藤を通じて満たされることになるのです。
(そしてその斎藤の活躍に至るまでに、土方の巧みな指揮があったというのも嬉しい)


 ついに戦国の世で本領を発揮することとなった新撰組。しかし彼らの存在によって、戦国の世の混迷は一層深まり――歴史の歯車の狂いはいよいよ大きくなることになります。
 さらに「もう一人」(いや二人?)がこの状況に絡むことにより、歴史はどこに向かうことになるのか。そしてその中で新撰組は、啓之助はいかなる役割を果たすことになるのか?

 新撰組隊士の中でまだ登場していないあの男とあの男の行方も含めて、まだまだ先が読めない物語であります。


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2017.07.18

かたやま和華 『されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記』 彼の奮闘の意味と努力の行方と

 猫股の祟りで等身大の白猫になってしまった青年・近山宗太郎が、人間の姿に戻るべく善行を重ねるため、よろず請け負い屋として活躍するシリーズも、早いもので第4作目。今回彼が出くわすのは、千里通の福犬がきっかけの犬猫合戦に、五匹の黒猫と暮らす浪人の謎であります。

 ふとしたことから猫股の長老の怒りを買い、気がついてみれば正真正銘の猫侍になってしまった宗太郎。父に迷惑をかけてはならじと家を出た彼は、百の善行を重ねて人間に戻るため、裏長屋で猫の手を貸すよろず請け負い業を開業いたします。
 江戸の人々からは、人間になる途中の猫股と思い込まれている宗太郎、猫山猫太郎という周囲の呼び間違いを律儀に訂正しつつ、今日も猫の手屋として奔走することに……


 という本シリーズですが、本作に収録されているのは三編二話のエピソードであります。
 一話目の『犬猫合戦』で描かれるのは、猫と並んで人間の友として長年親しまれてきた犬を巡る騒動。
 ある日、犬を連れて江戸に現れた一人の老婆。福犬だというその犬・大丸からのお告げを語る老婆は、あらゆるものを見通すかのようなその正確さから、(特に犬党の間に)瞬く間に信奉者を集めていくことになります。

 それだけならばまだしも、老婆は怪しげな厄除けの護符を売り始め、さらに宗太郎の存在が化け猫の祟りをもたらすと予言したことから、江戸の犬党と猫党の間が一触即発に。
 自分の存在が争いの原因となったことに悩む宗太郎は、普段からまとわりついてくる役者の中村雁也の力を借りて、老婆の正体を暴くべく一芝居打とうとするのですが……

 「伊勢屋、稲荷に犬の糞」と言われたように、江戸には数多くいた犬。そんな犬たちがこれまで本作にほとんど登場しなかったのは、言うまでもなく主人公をはじめとして猫サイド(?)であったためかと思いますが、しかしこの時代に犬党の人間が少なくなかったであろうことは容易に想像がつきます。
 このエピソードは、犬だ猫だと異なる好みの人々の間で、ちょっとしたきっかけで争いが起こる怖さを描いた物語でもありますが、同時に、これまで宗太郎が出会った人々が次々と登場し、彼を支えてくれるという内容であるのも楽しいところです。

 猫の手屋としての彼の奮闘の意味を今一度確認させてくれる、なんともホッとさせられるエピソードであります。


 そして後半の『宵のぞき』『すばる』は、本シリーズには比較的珍しい、重たくも切なく、そして感動的なエピソード。

 町のあちこちから烏猫(黒猫)を集めている謎の浪人がいるとの知らせに、浪人のことを密かに探ることになった宗太郎。吉原裏の浅草田んぼで五匹の烏猫と暮らすその浪人を見つけた宗太郎ですが、浪人はかつて彼が人間であった頃の道場の先輩・羽鳥晋次郎だったのです。
 剣の腕も、人となりも優れた人物であった晋次郎が労咳を病み、周囲に迷惑をかけないように一人家を出たと知る宗太郎。晋次郎が烏猫を集めていたのも、烏猫が労咳に効くとの俗信によるものだったのであります。

 猫姿の宗太郎をかつての後輩と知らずに接する晋次郎を助けるべく、小屋に通うこととなった宗太郎。しかし彼の力も病には及ばず、晋次郎は彼にある頼みをするのでした。
 それは介錯――既に治る見込みもない病によって見苦しい姿で死んでいくのであれば、せめて武士らしく自裁したいという晋次郎を前に、宗太郎は……

 これまで、宗太郎自身の努力と、周囲の助けによって、猫の手屋として、様々な難事を解決してきた宗太郎。しかしそんな彼の力でも、どうにもならないことは確かにこの世にあります。
 このエピソードで描かれるのはその一つ――ただ命を消耗していくばかりの相手に何ができるのか。本当に武士として介錯することが正しいのか――本作はそこに、実に彼らしい見事な答えを描いてみせるのです(特に、彼の語る武士のあり方には感心!)

 もちろんそれはある種の慰めにすぎないのかもしれません。結局は彼も周囲も踊らされただけで、結末は変わらないのかもしれません。それでもなお貫いてみせた宗太郎の努力が決して無駄でないことは、可笑しくも美しい一つの奇跡を描く結末に表れています。


 果たしていつ終わるともしれぬ宗太郎の猫の手屋稼業。しかし彼の奮闘が報われる日はいつか必ず来る――そしてその時そこにいるのは、かつてとは比べものにならないほどに成長した人間・近山宗太郎の姿でしょう。
 いささか気が早いことながら、そんなことを想像してしまう本作でありました。


『されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記』(かたやま和華 集英社文庫) Amazon
されど、化け猫は踊る 猫の手屋繁盛記 (集英社文庫)


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2017.07.11

ほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第4巻 混迷する少女久秀と世界の運命

 タイムスリップ女子高生ものと、人外信長もの――時代ものでは比較的メジャーな(本当に?)二つを合体させたら大変なことになってしまった本作、松永久秀になってしまった主人公・ひさきと、彼女を愛する吸血鬼・信長が織りなす歴史は、様々な横やりのおかげで混迷を極めることとなります。

 何者かの手によって戦国時代に招かれた現代の女子高生・ひさきと、彼女を庇護した吸血鬼の王・三好長慶によって、瀕死となったところを救われ、吸血鬼となった信長。
 長慶によって、今は行方不明の腹心・松永久秀の名を与えられたひさきは、久秀の実の弟・長頼に支えられながら都で暮らすことになります。

 そんな中、実は戦国のヴァンパイアハンターであった真・久秀によって、三好一族は次々と斃される事件が発生。長慶はいずこに姿を消してしまい、残された吸血鬼と人間のハーフ・三好義継が大暴走して将軍義輝を襲撃、ひさきはその罪を着せられ、そして長頼は瀕死の深手を負うことに……


 と、大筋は合っているにもかかわらず、ディテールでは本当に大変なことになっている本作。

 大変な中でもひさきラブの信長は吸血鬼の瞬間移動能力で彼女にまとわりつき、ひさきと一緒にタイムスリップして家康役になってしまった幼なじみのはじめは、歴オタの知識を活用して彼女を支え……
 と、役に立っているのかいないのか微妙な男どもはさておき、ひさきはこの世界で生き抜き、少しでも犠牲を減らすために、今日も戦いを続けることになります。

 しかしそんな決意を胸にした彼女が演じるのが、よりによって松永久秀というのは運命の皮肉、というより悪意。東大寺での戦いに引きずり込まれた彼女は、歴史通りに大仏を焼いた人間という汚名を着せられることになってしまうのです。
(そんな中で、大仏消火よりも人命救助を優先したり、結果として大仏がなくなって大ショックを受けたりする彼女の姿は、それはそれである種のリアリティがあるかも……と妙な感心をさせられます)

 しかしこの世界を支配する運命は、さらに彼女を、そして信長をはじめとするこの時代の人々を振り回します。
 物語から一度は退場したあの人物この人物が、異なる名を得て再び歴史の表舞台に登場。さらに舞台は近畿と東海だけかと思いきや甲州にも広がり、あの超大物が、妖魔と手を組んで暗躍。そして信長の忠臣かと思われた秀吉もまた……

 と、異形の戦国ものとしても楽しくなってきてしまった本作。
 終盤では長慶改め○○○○が、この手の作品では本当に禁句なことを言い出して「おいっ!」とツッコミたくなりましたが、この辺りの成り行きも含め、想像以上に本作の世界は(もちろん面白い方向に)広がってきたと言わざるを得ません。

 その一方でラストには、そういえばこの人のことを完璧に忘れていた――な濃姫が登場。ひさきと信長との三角関係も気になるところで、本当にあらゆるところで先の読めない、先が楽しみな作品なのです。


 ちなみにこの巻で初登場したキャラクターの一人が、かの服部半蔵。しかしこの半蔵、一応常人ながらキャラの濃さが半端ではなく、こちらも要チェックであります。


『戦国ヴァンプ』第4巻(ほおのきソラ 講談社KCx(ARIA)) Amazon
戦国ヴァンプ(4) (KCx)


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