2018.11.12

賀来ゆうじ『地獄楽』第4巻 画眉丸の、人間たちの再起の時!


 不老不死の仙薬を求め、謎の孤島に送り込まれた十人の死罪人と十人の山田浅ェ門が繰り広げる戦いもいよいよ佳境。この島を支配する天仙たちの恐るべき正体とは、そして彼らに手も足も出ずに敗れ去った画眉丸たちの再起のチャンスは……?

 無罪放免を条件に送り込まれた死罪人の一人・画眉丸と山田浅ェ門佐切のコンビ。死罪人たちや怪物たちとの戦いの末、謎の少女・めいと奇怪な木人・ほうこと出会った二人は、ほうこから、この島が仙薬を持つ天仙なる存在に支配されていることを聞かされるのでした。
 そして仙薬を求めて単身動いた画眉丸は、件の天仙と対峙することになるのですが……

 しかし異常な回復力を持ち、不可視の奇怪な攻撃を放つ天仙にさしもの画眉丸も大苦戦。持てる力を振り絞ってようやく倒せたかと思いきや、奇怪な怪物となって復活した天仙の圧倒的な力にあわやのところまで追い詰められることになります。
 そして時をほぼ同じくして、他の死罪人、他の浅ェ門たちの前にも天仙が出現、次々と犠牲者が出ることになるのであります。


 ……と、思わぬ強敵の前に、惨敗することとなった画眉丸たち。如何に規格外の戦闘力と生命力を持つ彼らであったとしても所詮は人間、紛れもなく人外の天仙の力とは比べるべくもありません。

 この巻の冒頭で、めいの不思議な力によって辛うじて天仙から逃れた画眉丸の前に現れたのは、死罪人の中でもおそらくは最強の剣の使い手・民谷巌鉄斎。
 しかし人間としてはほとんど頂上レベルの画眉丸と巌鉄斎(対峙した際に、壮絶な読み合い=一種のイメトレを繰り広げるのが実に面白い)であっても、やはり天仙の前には及ぶべくもないのであります。……今は。

 想像を絶する強敵を前に手を組み、再び戦いを挑もうとする画眉丸と巌鉄斎ですが、しかし休む間もなく、天仙たちが差し向けた、島を徘徊する怪物たちの上位存在――知性を持ち、そして何よりも天仙と同様の力を操る「道士」が画眉丸たちに襲いかかることになります。
 そして彼らの口から、これまでその存在の一切が謎に包まれていためいの正体が明らかになるのですが……

 ここで語られるめいの正体から浮かび上がるのは、天仙がこの島で行っている所業の一端であり、何よりもめいがそこで背負わされた役割。そしてその悍ましさたるや、これに不快感を感じ、怒らなければ人間ではないというべき、というほどのものであります。
 この誰もが共感できる理由と想いが、非情の忍びであった画眉丸の魂にも(いや彼だからこそ)火をつけ、彼が立ち上がる場面は、間違いなくこの巻のクライマックス、本作きっての名場面と言うべきでしょう。

 が、怒りだけでパワーアップできるのであれば苦労はありません。道士の力に翻弄される画眉丸たちに対して、めいの口から、道士の、天仙の操る力の秘密が語られるのですが――その力は、画眉丸とはある意味正反対のものであることが明らかになります。
 同じ力を、同じ力の使い方を得れば、画眉丸にも勝機があるはずですが、しかし――いや、彼にもその力はあった!

 その力の詳細は伏せますが、画眉丸の中にある――彼の中に佐切が見出した――もの、彼の秘められた人間性を描くと思われたものが(それも物語の初期で描かれた)ものが、ここでパワーアップに繋がっていくのが実に熱い。
 この舞台設定(物語を貫く法則)と、キャラクターの精神的成長、そして物理的なパワーアップが直結する構造の巧みさには、ただ感心するほかありません。


 そして画眉丸とはまた異なる形でパワーアップを(あるいはその萌芽を)見せる死罪人と浅ェ門たち。さらに以前から登場が仄めかされていた者たちの参戦と新たなる浅ェ門の登場……
 と、ここに来て一気に「人間」側が盛り返してきた展開ですが、しかしこれでようやく天仙たちと戦うことが可能になった、というレベルでしかないのでしょう。

 この巻のラストではまた思わぬ展開が待ち受けているのですが、さてそこから物語がどう転がっていくのか――まだまだ予測不能の物語は続きます。

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2018.11.09

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第6話「毒手の誇り」

 解毒薬によって復活した殤不患に圧倒される蠍瓔珞と嘯狂狷。蠍瓔珞は嘯狂狷の裏切りによって傷を受けて逃れ、嘯狂狷もその場に現れた鬼鳥(凜雪鴉)の仲裁で撤退する。逃げた蠍瓔珞を追う殤不患と浪巫謠だが、その前に諦空が現れる。諦空と問答を交わした末、不意に襲いかかる浪巫謠だが……

 前回ラスト、浪巫謠と凜雪鴉が不運な竜から奪ってきた角から作られた解毒薬を口にした殤不患。普通こういう薬は効くまで時間がかかるような気がしますが、飲んだと思いきや何かスゴい光ったりしてものすごい勢いで殤不患は回復、毒を調合した蠍瓔珞も、自分でも解毒の方法を知らないのに――と愕然としております(それはそれでどうなのか)。
 しかし同時に、これが蠍瓔珞の魂に火をつけることになります。自分には毒しかない、毒だけに全てを打ち込んできた。その毒を否定されては――と悪役は悪役なりの矜持があることを見せてくれた蠍瓔珞ですが、彼女が放った奥義・毒蠱驟来(毒ガス殺法)も、高速で刀を回転させる殤不患の拙劍無式・黄塵万丈で無効化されてしまいます。さらに卑怯にも後ろから嘯狂狷に鞭でブン殴られて喪月之夜を奪われ、心身ともにボロボロの蠍瓔珞は蹌踉とその場から消えるのでした。

 そして残る嘯狂狷は、殤不患に町人虐殺の濡れ衣を着せて指名手配にしてやったもんね、と煽るものの、殤不患はそれがどうしたと平気の平左。そういえばこの人は好漢にとって大事な面子や名利といったものに、一向に無頓着なのでした――が、結構つきあいは長そうなのにその辺りが全くわかっていなかった、というより自分の物差しでしか人を測れない嘯狂狷には、そんな彼の姿は不可解極まりないのでしょう。
 蠍瓔珞といい、普通に振る舞っているだけで相手の心をへし折る殤不患は、ある意味凜雪鴉なみに厄介な人間なのかも――と思っていたら、そこに思いっきり棒読みで割って入ったのはその凜雪鴉、いや鬼鳥。鬼鳥として嘯狂狷にこの場は退けと語りかける凜雪鴉の姿に悟っちゃった殤不患は、「可哀想に……」という感じで嘯狂狷を見るのでした。

 さて、嘯狂狷は放っておくとしても、魔剣をまだ手にしている(かもしれない)蠍瓔珞を見逃すわけにはいきません。彼女の後を追う殤不患と浪巫謠ですが――その前に飄然と現れたのは、謎の行脚僧・諦空であります。彼に蠍瓔珞の行き先を聞く二人ですが、諦空は例によってそれに何の意味があるのかと問答を開始。諦空がいちいち相手の行動に意味を問うのは、自分自身にとってこの世の何物も意味を持たないからと聞かされた浪巫謠は――次の瞬間、では死ね! と剣モードの聆牙で斬りかかるのでした。

 さすがの殤不患も相棒の突然の凶行にびっくり仰天、さすがに放っておけないと剣を抜いて割って入り、その間に諦空はその場から立ち去ります。そして相棒の行動を問いつめる殤不患ですが――あいつは悪だ、とだけ語る浪巫謠。代わって聆牙が説明するのは諦空の危険性――彼がいま全てに意味を見出せないとして、とんでもない悪事に意味を見出してしまったとしたら? と。なるほど、そうでなくとも彼は、意味さえ聞かされれば、深手を負った蠍瓔珞の行き先を語りかねない雰囲気もありました。何よりも、全てに意味を見出せないということは、善悪の価値基準を持たないということでもあるのでしょう。
 そして倒れた蠍瓔珞を、いつもの納屋に連れてきた諦空。あんなことがあっても相変わらず平然として――いや、己の目的のために戦い、殺し合う蠍瓔珞らがキラキラ輝いてて羨ましい(意訳)とすら語る諦空に引いたのか、あるいは己の来し方行く末に悩んでいるのか、微妙な雰囲気の蠍瓔珞ですが……

 さて刑部に戻ってきた嘯狂狷は、刑部のおじさん官僚に何気ない態で掠風竊塵とは何者なのか尋ねます(殤不患が鬼鳥に何気なく僧呼びかけたのを聞いたのか?)。と、その質問に、刑部のおじさんがあからさまに不自然すぎるオーバーアクトでワナワナ震えるという謎の場面(この辺り、武侠ドラマらしいと言えばらしい)で次回に続きます。


 折り返し地点を過ぎたものの、相変わらず物語の落としどころがわからない本作。既に悪役二人は小者扱いな状況で誰が敵となるのか(やはり諦空……か?)、そして何を以て物語の終わりとするのか。魔剣たった二本を取り戻して終わり、というのは(少なくとも見た目では)あまりにもスケールが……

 という余計な心配をさて置けば、久々の殤不患の活躍が実に痛快だった今回。凜雪鴉との妙な通じ合いも、二人の腐れ縁を感じさせて実に愉快でした。
 そしてそれ以上に印象に残ったのは、己の矜持を粉砕されて嘆き悲しむ蠍瓔珞の姿。『生死一劍』の殺無生が嘆く場面にも思いましたが、派手なアクション以上に人形で感情の表れ――特に悲しみを表現するのは難しいはずで、それをしっかりと見せてくれたのには驚かされました。台湾布袋劇の奥深さを改めて感じさせられた次第です。

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2018.11.01

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第5話「業火の谷」

 業火の谷を訪れた凜雪鴉と浪巫謠の前に現れた龍・歿王。その火炎に苦戦する二人だが、凜雪鴉の口車と浪巫謠の絶技により、無事龍の角を得る。しかし解毒薬の製法を聞いた浪巫謠は意外な行動に出るのだった。一方、隠れ場所を知られた殤不患は、嘯狂狷率いる捕吏の包囲に窮地に陥るが……

 蠍瓔珞の毒に苦しむ殤不患を救うため、はるばる鬼歿之地にやってきた凜雪鴉と浪巫謠。目指す龍がいるという業火の谷に到着した二人の前に龍が現れますが――微妙にサイズが小さい。あっさり凜雪鴉に撃退される龍ですが、その時、巨大な影が現れ、龍を文字通り叩き潰してしまうのでした。
 その影こそは、オープニングに登場していた謎の怪獣――確かに片翼状態の龍であります。何と人語を喋るこの龍、自らを歿王を名乗り、この小龍を食うからお前らは失せろと親切にも二人に語りかけますが――もちろん二人が引くはずもありません。それどころかいけしゃあしゃあとその角が欲しいと言い出した凜雪鴉にもちろん歿王はエキサイト。グワーとひらいた口から炎、あたり一面焼け野原であります。

 もちろん周囲に散在する石柱に隠れてこの攻撃を躱す二人ですが、炎をはき続ける歿王に接近するのはほとんど不可能。さらに凜雪鴉が、お前の片翼を斬った男のために力を貸して欲しいなどとまたもや歿王のヒートを煽るのですが――凜雪鴉は浪巫謠に対し、龍の火炎は気息(ブレス)、すなわち声だから、お前の魔性の声で太刀打ちできるのではないかと無茶振りをするのでした。
 これに応えた浪巫謠は、歿王を前にオープニングのサビを熱唱! 浪巫謠の歌エネルギーは何と歿王の炎を圧倒、炎を出せなくなったところに挑発をかましてきた凜雪鴉を襲おうとして歿王は石柱に激突、そのまま下敷きに。そしてその隙に剣モードの聆牙を手に背中を駆け上がった浪巫謠は、見事に角を切り取るのでした。石柱に押し潰されてジタバタしながらも、二人に対して呪いの言葉を吐く歿王ですが、再登場はあるのかなあ……

 何はともあれ龍の角を手に入れ、凜雪鴉から解毒薬の製法も聞いた浪巫謠。これであとは殤不患のもとに戻るだけ――と思いきや、突如凜雪鴉に音撃を食らわせる浪巫謠。お前は殤不患のためにはならん、お前は悪だ、生かしておいては世に災いをなすのためにならない奴と見た、だからコロス! ――と、実は最初から凜雪鴉を斬るつもりだった浪巫謠の理屈は、好漢的に正しいのか間違っているのか悩ましいところではあります。が、こういう行動に出るところを見ると、浪巫謠は殤不患よりは頭が固い、というか生真面目なのかもしれません。
 もちろん凜雪鴉がここで倒されるはずもなく、魑翼でその場を去るのですが――この展開を彼が予想できなかったとは思えないわけで、それでは今回の行動はなんのためのものであったか、気になるところではあります。

 さて、そんな状況とは知る由もない殤不患は、不眠不休で調息を続けることで毒を抑えてきましたが、常人を遙かに越える内功を持つ彼でもこれは無茶というもの。ほとんど限界寸前の状況ですが――悪いことに、そこに蠍瓔珞と嘯狂狷、さらに彼の部下たちが近付いてきます。自分の作った毒であれば匂いで察知できる――と、蠍の一匹を探知機代わりに使う蠍瓔珞の前には、浪巫謠のカムフラージュ策も通じず、急いで洞窟から逃れる殤不患ですが、しかし弱った身体で遠くまでいけるはずもありません。
 捕吏たちに見つかり、たちまち追いつめられる殤不患。いくつもの傷を負いつつも、その場から何とか逃れようとする彼の姿は、大侠らしからぬものがあるかもしれませんが――しかし自分のために仲間たちが命を賭けている時に、自分が倒されるわけにはいかないという彼の意地は、やはり好漢のそれと言うほかありません。
(そんな殤不患の――江湖の好漢の行動原理をあざ笑う嘯狂狷は、やはり江湖に対する官の側の人間なのだと感じます)

 しかしそんな殤不患の心意気を理解できぬ蠍瓔珞と嘯狂狷は、それぞれ調子に乗った悪役そのものの、余裕こいて油断しきった台詞を吐くのですが――そこに空から駆けつけたのは浪巫謠! しっかり解毒薬を完成させていた浪巫謠から薬を受け取った殤不患が思い切って飲み込むと――何かスゴい光とか飛び出して、一瞬のうちに毒はおろかダメージも回復した様子。さあ、今度は殤不患のターンだ! というところで次回に続きます。


 OP映像を見た時はてっきりラスボスかと思ったら、単なる素材の元だった龍との対決が描かれた今回。その対決の模様や、その後の思わぬ仲間割れなどそれなりに楽しめたのですが、やはり物語は前に進んでいない印象であります。
 そろそろ物語は折り返し地点にさしかかりますが、物語の向かう先がまだ見えないのは、正直に言って不安なところです。


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2018.10.29

野口賢『幕末転生伝 新選組リベリオン』第2巻 新選組のかつての未来、現在という過去


 斎藤一の転生である(と思われる)現代の高校生・幸田ヒロユキが、幕末にタイムスリップして新選組の仲間たちとともに再び戦い始めるという極めてユニークな新選組漫画の第2巻であります。ヒロユキが戸惑いながら戦いを始める一方、彼と同時にタイムスリップしてしまった女性教師・奥山の運命は……

 超高校生級の空手の実力を持ちながらも、その力を持て余していたヒロユキ。ある日突然幕末にタイムスリップしてしまった彼は、かつて街角でやり合ったMMA使いの菊池――今は藤堂平助と名乗る彼から斎藤一と名を呼ばれることとなります。

 わけのわからぬまま、彦根鬼忍衆なる忍者たちとの文字通り真剣勝負に巻き込まれたヒロユキは、試衛館に集う若者たち――近藤・沖田・山南・原田・永倉らとともに鬼忍衆を撃退したのですが――その頃、八王子の山中にタイムスリップしていたのは、ヒロユキの担任の奥山先生。
 山賊に襲われても、大の男に一歩も引かぬ武術の腕で渡り合う彼女ですが、しかし記憶喪失にもなってしまったという状況下で、苦戦を強いられることになります。

 そんな彼女の窮地に現れたのは、坂本龍馬と名乗る男、そして八王子千人同心・井上源三郎。奥山先生を救った二人は、今この時代が幕末であることを語るのですが――彼女を一目で未来人と見抜いた源さんは何者なのか?(そして未来人云々の話に平然とついていっている龍馬も謎だらけですが……)


 と、この巻も冒頭から色々な意味で驚かされ展開の連続ですが、続いて描かれるのは――そしてこの巻のメインとも言える部分は――ヒロユキと沖田総司の対決。
 幕末に来た己にとって唯一の武器ともいうべき空手の鍛錬に励むヒロユキに対し、山南はその技を否定し、総司との無手での三本勝負を命じるのであります。

 言うまでもなく総司は剣士、無手での戦いについての記録は見たことがありませんが、しかし剣の達人が無手であっても強い、というのはそれなりに説得力がありますし――何よりも格好良い。かくて始まった三本勝負、沖田はこちらの期待通りと言うべきか、得意の突き技でヒロユキを圧倒することになります。

 この辺りのアクション描写は、少年ジャンプ時代から空手を題材とし、本人もかなりの腕だという作者ならでは、というべきですが――なにはともあれ、戦いの経験値という点では分が悪いヒロユキは総司に追い込まれることとなります。
 そんな彼に対し、その場に現れた近藤は、ヒロユキにある言葉をかけるのですが――いやはや、これが新選組漫画では空前絶後のアドバイス。というより、本作でなければ絶対出てこないもの凄いセリフであります。

 そもそも本作の近藤は、あの後世のイメージとは全く異なり、剣術はおろかスポーツにも疎そうな、むしろ将棋部にでもいそうな黒縁メガネの青年。
 そんなビジュアルの彼が、幕末の人間であれば絶対に言わないようなことを言うということは、彼もまた未来から来た人間なのだろうとは思いますが――しかしそれはここではまだ明かされず、その代わりに(?)描かれるのは、総司の「未来の記憶」であります。

 「かつて」病に倒れ、仲間たちからおいていかれることとなった「未来」の総司。そこで彼は引き留めようとする斎藤と立ち合おうとしていたのであります。いわば「現在」のヒロユキとの立ち合いは、その「未来」の再戦と言うべきもので――と、実に時制がややこしいのですが、しかしそのややこしさこそが、本作独自の魅力であることは言うまでもありません。

 副題にあるとおり、転生ものであると同時に、タイムスリップものである本作。ヒロユキの存在を見れば、(第1巻の紹介でも書いたとおり)どうやら幕末に倒れた新選組の面々が現代に一度転生し、そして幕末にタイムスリップして戻ってきているようなのですが――さて本作に登場する新選組隊士(になる面々)が全員そうであるのか?
 それはまだまだわかりませんが、この点こそが本作の物語の中核を為す秘密であることは間違いありません。


 そしてこの巻の終盤では、残る最後の試衛館組である土方が登場。薬屋と言いつつ、スパイか大泥棒のようなアクションを見せる彼が、第1巻に登場した勅諚を巡り、鬼忍衆と対決することになるのですが――さて本筋とも言うべきこの展開がどこに向かうのか。

 正直に申し上げれば、漫画的には――絵的にも構成的にも――どうかなあ、という部分が多々あるのですが、この唯一無二の物語がこの先どこに向かうかは、大いに気になるところではあります。


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2018.10.25

門井慶喜『新選組の料理人』 人間になった狼の終焉、武士の時代の終焉


 幕末きっての武闘集団である新選組。しかし彼らも飯を食わなければやっていけない――というわけで、成り行きから新選組の賄方(料理人)となってしまった運の悪い男・菅沼鉢四郎の視点から新選組の興亡を描いた、極めてユニークな作品であります。

 禁門の変によって発生した大火――どんどん焼けによって、住んでいた長屋を焼かれた浪人・菅沼鉢四郎。妻子ともはぐれた彼は、偶然口にした会津藩の炊き出しを「まずい」と言ったことがきっかけで、新選組に引っ張り込まれることになります。
 というのもその炊き出しを担当していたのは新選組の十番隊組長・原田左之助。その左之助に見込まれてしまった鉢四郎は、唯一の取り柄である料理の腕を振るい、会津の炊き出しは大評判となるのですが……

 という第一話の展開を見れば――そして作品の題名をみれば――本作は鉢四郎がその料理の腕を活かして、新選組に降りかかる難題を解決していくのだな、と思ってしまうところですが、さにあらず。
 第一話でも、良かれと思って行った炊き出しの工夫が、彼の全く預かり知らぬところで大問題となり、文字通り詰め腹を切らされる寸前までいくことに――と、万事彼は貧乏くじを引く役回りなのであります。

 料理の腕以外は、侍としてはからっきしの鉢四郎。そんな彼は、左之助ら新選組の面々に振り回され、面倒に巻き込まれるばかり。
 ぜんざい屋事件、寺田屋事件、天満屋事件――そんな新選組と幕末の京阪で起きた事件の数々を、鉢四郎はそんな中で目撃していくことになるのであります。

 そしてその鉢四郎が目の当たりにする新選組の姿なのですが、これが良くも悪くも――いや主に後者の意味で――実に生々しい。
 政治家として隊士を駒のように動かす近藤(彼が坂本竜馬と対面した時の一手には仰天!)、剣の腕はいまいちだが内務の鬼の土方、女と酒にだらしない左之助、そんな左之助を軽蔑し対立する斎藤一……

 どれもお馴染みの新選組像から少し(悪い方向に)はずれつつ、それでいて妙に説得ある描写は、新選組ファンとしては実にツラいものがあるのですが、しかしその一方で妙に目を引き寄せられるものがあります。

 それは鉢四郎というある種の局外者の存在を通して描かれる点が大と思われますが、本作においては、そんな鉢四郎とは対になる、もう一人の主人公とも言うべき存在がいます。
 それが原田左之助――ある意味最も新選組隊士らしい男であります。

 先に述べたように、悪い意味で体育会系のキャラクターとして鉢四郎を大いに振り回す役どころの左之助。しかし本作はそれだけでなく、彼のある特徴に注目して物語を描いていくことになります。
 他の誰にもない、左之助のある特徴――それは彼が妻子持ちであることであります。

 いやもちろん、彼のほかに妻(というか愛人)がいる隊士は幾人もいます。作中で言及されるように、近藤には多摩に娘がいるわけですが――しかし京に妻と子を置いていたのは、なるほど左之助くらいのものであります。
 常在戦場は武士の習いですが、幕末においてそれを最も体現していたのは新選組でしょう。そんな状況で、さすがに同居はしていないものの、ごく身近に妻と子を置いている左之助は、ある意味士道不覚悟と言えます。

 士道と縁遠い鉢四郎ですら、成り行きとはいえ妻子と引き離されているという状況で、左之助の姿を面白くないと感じる者も少なくありません。
 そしてそれがやがて、決定的な事件を引き起こすのですが――なるほど、左之助を描くにこういう視点があったか、と感心させられるところですが、しかし本作はさらにその先を描いていくこととなります。

 戦場に生きる武士が一度家族を持ち、その温もりを知った時どうなるか。本作は左之助の姿を通じて、それを容赦なく剔抉するのであります。
 そしてさらにその武士から人間への――他の作品で描かれるのとはある意味逆のベクトルの――変化は、一人左之助だけのものではなく、新選組全体を覆うものであることが、終盤において明らかになるのです。

 しかし、そんな人間になってしまった新選組隊士たちから、その人間性を奪うかのような、二重に皮肉な結末をどう解すべきか――その変化を前にした鉢四郎と左之助の、ある意味逆転した姿は強く印象に残ります。


 料理という題材との食い合わせについては首を傾げる部分はありますが、「新選組」の、武士の時代の終焉を描く、ひどくシニカルで残酷な物語として、珍重すべき作品というべきでしょうか。


『新選組の料理人』(門井慶喜 光文社)

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2018.10.24

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第4話「親近敵人」

 毒に苦しむ殤不患の前に現れた凜雪鴉。相変わらずの調子の良さに呆れる殤不患だが、凜雪鴉は治療を申し出ると、解毒には龍の角が必要と診断を下し、浪巫謠とともに鬼歿之地へ向かう。一方、蠍瓔珞の前に現れた嘯狂狷は、彼女に手を組むことを持ちかけ、彼女もそれを受け容れるが……

 蠍瓔珞の毒を受け、辛うじて内功で抑えてはいるものの行動不能状態の殤不患。彼と浪巫謠が潜む洞窟に、突然凜雪鴉が顔を出して――というある意味一触即発の場面から始まった今回。(嘯狂狷のことはおくびにも出さず)殤不患を探すために刑部に潜り込んでいたという凜雪鴉に露骨にイヤな顔を見せる殤不患ですが、もちろん凜雪鴉が気にするはずもなく、グイグイと懐に飛び込んできます。
 友だから手を借りる→以前お前には散々手を借りた→だからお前は私の友 という謎の逆ジャイアン理論で強引に友人面をする凜雪鴉ですが、何と殤不患の毒を解毒しようと言い出すのは何の企みがあってか……。なるほど、彼も煙管からの幻惑香を操る身、その辺りの知識が豊富でも不思議はないのですが。

 そして殤不患の血を吸わせた布に、様々な種類の毒を垂らしてその反応を見る――という化学実験のような調べの末に、毒は陸に棲む獣の牙からにじみ出るもの、と見抜いた凜雪鴉。細かい種類を調べるよりも、同類でより霊格の高い動物――たとえば龍の力を体内に取り入れて制する方が早いという凜雪鴉ですが、龍なぞそうそう簡単にいるはずがありません。怪物犇めく鬼歿之地ならいざ知らず……
 と、その鬼歿之地を通って東離に来る途中、片翼の龍を目撃したという浪巫謠。片翼ゆえ、簡単に躱すことができたというのですが――実はこれは殤不患の仕業。西幽から東離へと鬼歿之地を通っての旅の途中に、空から狙ってくるのが鬱陶しいのでやっちゃったということですが――その他にも食人鬼の村を壊滅させたりと色々とやってくれたおかげで、鬼歿之地もずいぶんと通りやすくなった模様であります。そのおかげで追っ手たちもまた東離に来やすくなってしまったのは、皮肉以外のなにものでもありませんが……

 と、その追っ手である蠍瓔珞は、森で毒草採集の最中に、禍世螟蝗一党の召集の狼煙を目撃することになります。こんなところで一体誰が――といぶかしみながら向かった彼女の前に現れたのは何と嘯狂狷。捕吏であらば悪党の合図を知っていても不思議ではないと嘯く彼は、同じ殤不患を狙う身として、手を組もうと言い出すのでした。
 彼の目的は殤不患の首、蠍瓔珞の目的は魔剣目録――東離にあるよりも、たとえ禍世螟蝗の手にあったとしても魔剣目録は西幽にあった方が良い、自分の管轄で取り返さないと手柄にならないから――と役人の悪い面を固めたような嘯狂狷の言い草に呆れつつも、蠍瓔珞も手を組むことに合意するのでした。

 さて、龍の方ですが――居所はわかったとはいえどうするのかと思ったら、殤不患を東離に残し、素材ゲットのためにわざわざ鬼歿之地までやってきた浪巫謠と凜雪鴉。浪巫謠はともかく、凜雪鴉が自ら足を運んでくるとは、怪しい以外の何物でもありませんが――何はともあれ、彼の操る魑翼(前作で手に入れたのがよっぽど気に入った様子)で鬼歿之地の入り口辺りまで一っ飛びであります。
 そして龍のエリアまで行こうとする二人ですが――そこに立ちふさがるのは、鬼歿之地の瘴気によってゾンビと化した皆さん。容赦無用の相手に、特撮ヒーローのアイテムチックに聆牙を琵琶から剣に変形させて立ち向かう浪巫謠と、彼に煽られつつも、煙管からの火炎放射で攻撃する(すなわち真の実力は見せない)凜雪鴉と、二人は互いの名刺交換代わりに大立ち回りを繰り広げるのでした。

 一方、再び東離で隠れ家にしている納屋に戻ってきた蠍瓔珞ですが――その納屋に運悪く雨宿りに入ってきたのは、前回登場した謎の行脚僧・諦空。口封じのためと楽しそうに諦空の命を奪おうとする蠍瓔珞ですが、諦空は命を差し出すのはやぶさかではないと言いつつ、今回もまたその行為の意味を問います。もちろん蠍瓔珞がそれに満足に答えるはずもないのですが――だとしたら諦空もまた彼女に従うはずもありません。前回受けた毒はどこかへ消えたのか、蠍瓔珞の攻撃を軽々といなし、諦空は消えるのでした。屈辱に震える蠍瓔珞を残して……


 というわけで、今回も話が動いたような動いていないような展開ですが、やはり凜雪鴉と殤不患の絡みは抜群に面白い。全く以て油断のできない凜雪鴉ですが、浪巫謠とまさかのコンビを組んでの鬼歿之地という展開にはさすがに驚かされました。
 一方、ある意味殤不患以上に色々なキャラと絡んでいる印象もある蠍瓔珞は、悪役としての貫目の足りなさがここに来て露呈した印象。さて、そろそろ彼女はあの魔剣の魔力の前に屈してしまう気もしますが――冷静に考えれば(嘯狂狷を除けば)ただ一人の悪役らしい悪役を務めるだけに、まだまだ彼女の苦労は続きそうであります。


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2018.10.18

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第3話「蝕心毒姫」

 蠍瓔珞の毒を受けた上、魔剣・喪月之夜の力で操られる人々に苦戦する殤不患。浪巫謠の力によりその場を逃れた殤不患だが、そこに現れた嘯狂狷は人々を平然と犠牲にし、蠍瓔珞も撤退を余儀なくされる。一方、いまだ毒に苦しむ伯陽侯の前に、強力な力を持つ謎の僧・諦空が現れるが……

 蠍瓔珞が奪った魔剣目録の切れ端から呼び出された魔剣・喪月之夜――斬られた者は身体に傷を負う代わりに精神を支配されるその力でゾンビ状態となった町の人々に取り囲まれ、苦戦を強いられる殤不患と浪巫謠。しかも殤不患は少女に化けた蠍瓔珞の不意打ちで猛毒状態であります。
 この窮地に、浪巫謠は少々骨を折られるのは仕方ないと、積極的に町の人々に打撃攻撃を開始、その隙をついて何とか殤不患ともども包囲を突破することに成功するのでした。

 と、ほとんど入れ違いに蠍瓔珞の前に現れたのは、配下を連れた嘯狂狷。捕吏であるからには蠍瓔珞とは不倶戴天の間であるはずながら、小物には構っていられないという態度を取る嘯狂狷ですが――蠍瓔珞が黙っているはずがありません。同じ獲物を狙う者同士、激突する両者ですが――しかし嘯狂狷と配下は、操られているだけの町の人々を、容赦なく斬り捨てていくのでした。

 これは殤不患が奪われた魔剣によるもの、ならば殤不患の罪だと言い放ち、むしろ嬉々として無辜の民を惨殺していく嘯狂狷は、陰険眼鏡というより鬼t――いや外道眼鏡。むしろ蠍瓔珞の方がドン引きする有様で、追いつめられた彼女はひとまずその場を逃れ去るのでした。
 そして惨劇が終わった後にノコノコ現れたのは鬼鳥。彼は嘯狂狷を咎めるでも、もちろん無実の罪を着せられた殤不患をかばうでもなく、自分の見ているところではこういうことはしてくれるなと、見るからに事なかれ主義の役人的なことを言うのですが……

 一方、再び潜伏先の納屋(?)に戻った蠍瓔珞は、不首尾に歯噛みせんばかりですが、そんな彼女に甘く語りかけるのは、前回放り出されたもう一本の魔剣――殤不患たちも恐れるその名も七殺天凌であります。己の意志を持ち、手にした相手を支配する力を持つようですが――本当にギリギリのところまでいきつつも、今回も何とか蠍瓔珞は魔剣の魅了の力を撥ね除けるのでした。

 そしてその彼女の毒の後遺症に未だ苦しむ仙鎮城の伯陽侯は、完璧に殤不患が黒幕と思いこんで、恨みの念を高めるばかり。そんな城主を救うべく、仙鎮城の護印師たちは医師を求めて奔走するのですが、先ほどの嘯狂狷らの凶行もあり、町はそれどころではありません。
 と、そんな彼らが出会ったのは、毒に苦しむらしい老農夫に、無償で気功による治療を行う一人の青年。ビジュアル的にとてもそうは見えないものの――一応数珠を持ち、髪はやたら塊の大きな螺髪ですが――僧侶である青年・諦空を、護印師たちは喜んで仙鎮城に連れ帰るのでした。
(しかしこの人たち、もう少し人を疑うべきだと思います)

 さっそく伯陽侯の治療を依頼する護印師たちですが、諦空はその理由は何かと突然拒絶とも思える態度を見せます。相手は仏僧、しかも農夫を無償で治療するほどの相手であれば当然――と思っていたところに突然の問いかけに憤然とする護印師たちですが、そんな彼らの態度と言葉に納得したものか、諦空は伯陽侯に治療を施すことに同意します。
 が、諦空の力は毒を消すものではありません。彼は伯陽侯の毒を自らの体内に移すという(彼自身にとっての)荒療治をやってのけるのですが、さてその行動は慈悲の心から来ているのか、それとも……

 しかしいま一番治療してもらいたいのは殤不患。洞窟に身を潜めた彼は、気の運息によって体内の毒を一カ所に集めて安静を保っていたのですが――しかしそれ以上の行動はほとんど不可能の状態(瀉血はできないのかしら……)。浪巫謠も手を着けかねているその状況に、突如胡散臭い声が響きます。こういう時は友を頼るべきとかなんとか調子のいいことを言いながら顔を出したのは、もちろん鬼鳥こと凜雪鴉……


 放映開始前に公表されていたキャラのうち、まだ姿を見せていなかった諦空が登場した今回。敵か味方か、その正体は全くわかりませんが、色々な意味でただものではない人物であることは間違いありません。

 しかし新キャラも登場した一方で、前作に比べると少々物語のスピードが遅いようにも感じられるのが気になるところ。前作なんて第1話からネームドキャラが盛大に死んだのに――というのはともかく、まだ物語の向かう先がわからないだけに、早く全力疾走していただきたいという印象はあります。


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2018.10.16

谷津矢車『しょったれ半蔵』 戦国にもがく半端者たちの物語

 忍びの生き方に反発して家を飛び出し、武士としての立身を目指す服部正成。しかし初陣で再会した父・服部半蔵保長は、謎の忍び・梟に討たれてしまう。心ならずも父の跡を継ぐことになった正成は、武士にも忍びにもなりきれない半端者(しょったれ)ながら、家康を助けて東奔西走するが……

 服部半蔵正成といえば、忍者の代名詞のように思われる人物。しかし史実を見てみれば、確かに伊賀甲賀を束ねていたものの、その活躍は武将としてのものと感じられます。
 本作はそんな半蔵正成の虚名と実像――その間を題材に描く、半端者「たち」の物語であります。

 幼い頃から服部半蔵保長の嫡子として育てられながらも、後ろ暗い仕事ばかりを担わされ、周囲の武士たちから見下されることに嫌気がさしていた正成。
 ある日、初の任務として親友の渡辺守綱(後の槍半蔵)暗殺を命じられた正成はこれに反発し、守綱の郎党として武士としての立身を目指すことを決意します。

 そして守綱と、幼馴染みの稲葉軍兵衛と三人、桶狭間の戦直後で揺れる松平家を扶けるべく奮闘する正成。
 しかし初陣である鵜殿長照の上ノ城攻めの最中、任務を妨害する怪忍・梟によって父・保長が討たれ、正成は全く望まぬまま、服部半蔵の名を継ぐことを余儀なくされるのでした。

 かくて、「志能備」の末裔だという幼馴染みの冷徹な女忍・霧に叱咤されつつ、半蔵は松平家――徳川家を襲う数々の難事に立ち向かっていくのですが……


 という設定で、全八話の連作形式で半蔵の半生と徳川家の興隆を描いていく本作。
 上に述べた第一話に続き、三河一向一揆、掛川城の戦い(の後始末)、姉川の戦い、三方ヶ原の戦い、徳川信康の切腹、本能寺の変から神君伊賀越えと、戦国期の徳川家を揺るがした戦いや事件――そしてそこに関わった半蔵の活躍(?)が本作では描かれることとなります。

 と、ここで活躍(?)と書いたのは、本作における半蔵は、武士としても忍びとしても、いや人間としても、どうにも半端者であるからにほかなりません。
 忍びの修行を途中で放り出して武士になり、槍一つで身を立てようとしつつも、厄介事にばかり巻き込まれてなかなか思うに任せない。おまけに極度に緊張すれば喘息の発作に襲われる――そんな有様なのであります。

 それでも、父や周囲から押しつけられた生き方ではなく、自分自身の生き方を確立すべく、周囲に翻弄されまくりつつも懸命に生きる半端者・半蔵の姿は、これは実に作者らしい物語として実に魅力的であります。
 しかし――本作で描かれる半端者は、一人彼のみではありません。

 本作の各話に登場するゲストキャラクターたち――市場殿(家康の異母妹)、今川氏真、徳川信康、さらには徳川家康も含めて、いずれも己の置かれた立場に悩み、何とかして自分自身の生を掴もうとあがく者として描かれます。
 そう、彼らもまた、自己を確立できない半端者たちなのであります(そして終盤において、強烈な形でもう一人の半端者の存在が明かされるのですが……)

 デビュー以来ほとんど一貫して、時代に――自分の周囲の環境に翻弄されつつ、自己らしく生きるため、自分らしさを見つけるために奮闘する人々の姿を、「今の我々」に重ねる形で描いてきた作者。
 本作は半蔵という若者だけでなく、その周囲の人々の奮闘も描くことによって、より豊かな形でその物語を描くことに成功していると言えるでしょう。


 尤も、忍者ってそういう存在なのかしら――という設定と描写には首を傾げざるを得ないのですが、これもまた、一つの象徴と言うべきでしょうか。

 何よりも、徳川家康が今川家から、そして織田家の下から離れた時を以て、同時に半蔵のモラトリアムの終わりを告げる構成は心憎く、作者ならではの忍者小説と表すべき作品であることは間違いないのですから……


 ちなみに作者のファンにとって嬉しいのはヒロイン(?)の霧の存在であります。

 作者の『ふたり十兵衛』に登場する女忍と同名にして同様の性格のキャラクターである彼女は、所謂スターシステムのファンサービスかと思いきや――という設定に驚かされつつ、同時にそれが変わろうとする半蔵の存在と対になるものともなっているのには、ただ脱帽であります。


『しょったれ半蔵』(谷津矢車 小学館)

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2018.10.15

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第4章の5『白狐』、第4章の6『猿田毘古』


 北からやって来た盲目の美少女イタコが付喪神に挑む時代伝奇ミステリ『百夜・百鬼夜行帖』シリーズの第4章も今回紹介する2話で完結。この章は、付喪神だけでなく神とも対峙することが多かった百夜ですが、今回もまた……

『白狐』
 日暮里の外れの村で祖父母と暮らす少女・おけい。彼女が数ヶ月前から狐憑きとなり、大の男が数人がかりでようやく押さえつけられるほどの力で暴れて弱っている――という依頼を受けた百夜。
 左吉、桔梗といつものトリオで出かけた百夜ですが、彼女には何かの目算がある様子。はたして、彼女が対面したおけいの周囲には、何体もの狐の霊と、一人の男の亡霊が居たのであります。

 果たして男の霊の正体は、そしておけいの狐憑きの真相とは――事件の背後の思わぬ絡繰りを百夜が解き明かすことになります。


 古今の怪異譚ではお馴染みの――というよりお馴染み過ぎて逆に最近ではお目にかかるのが難しい――狐憑き。その狐憑きの少女が、大の男三人を薙ぎ倒す姿から始まる本作ですが、もちろんただの狐憑きが登場するはずがありません。

 冒頭で描かれるおけいの暴れっぷりを男たちから聞き、その中のある行動からこの狐憑きが尋常でないことを見破る百夜ですが――この辺りの謎解きが実に楽しい。
 この尋常でない狐憑きの正体についても、百夜だからこそ見破ることができるものなのも面白く、お話的には比較的シンプルながら、一ひねりの効いた内容の作品です。

 ちなみに本当に珍しく、左吉の推理が的中したエピソードでもあったり……


『猿田毘古』
 かつて『義士の太鼓』事件(文庫第2巻『慚愧の赤鬼』所収)で百夜と対決した不良武士集団・紅柄党の頭目・宮口大学。宮口家の所領である多摩群大平村の別宅を訪れた彼は、その晩、この世のものならぬ怪異と遭遇することになります。
 金属が鳴るような音と共に奥座敷に現れたモノ――それは奇妙な面を被り高下駄を履いた、伝承に言う猿田毘古神そのままの姿をしていたのであります。

 大学の一刀によって面を割わられ、姿を消した猿田毘古ですが、その下から溢れ出したのは強烈な光と熱。翌日、村の神社の宝物庫に収められていた猿田毘古の面が両断されていたことを知った大学は、百夜のもとを訪れることになります。
 不在の彼女に代わり大平村に向かった桔梗は、再び現れた猿田毘古と対決し、これが神だと断じるのですが……


 斜に構えた不良侍ながら、一本筋の通った言動と、百夜と互角以上の剣の腕を持つ大学。先の対決では彼女の仕込みの刃をへし折り、その刃を前差に仕立て直して腰に差しているという、癪に障るほどのカッコイイキャラクターであります。
 しかしそんな彼でも今回の怪異には手を焼いて――という展開となりますが、なるほど今回の怪異も大物。何しろ猿田毘古といえば、紀記の天孫降臨のくだりに登場した由緒ある神なのですから。

 これまで何故か付喪神絡みの事件ばかりに遭遇する百夜ですが、冒頭に述べたように、この第4章においては、何故か神絡みの事件に遭遇することになります。
 それはこの章から桔梗のせいではないか――などと口の悪い左吉は言うわけですがそれはさておくとして、しかしこの怪異、そうそう単純な正体ではないというのがまた本作らしいところであります。

 高い鼻に赤く光り輝く目をもつという何とも謎めいた存在である猿田毘古。
 ここで百夜が語るその解釈は、何やら作者の最近の作品に繋がるものもあって興味深いのですが、百夜の存在こそが……という、大げさにいえば後期クイーン的問題を思わせるひねりも印象に残ります。。

 さほど活躍しないまま桔梗が一端退場というのは残念ですが、この章の掉尾を飾るにはまず相応しい内容だったと言うべきでしょうか。


『百夜・百鬼夜行帖 23 白狐』『百夜・百鬼夜行帖 24 猿田毘古』(平谷美樹 小学館)

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2018.10.10

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第2話「奪われた魔剣」

 殤不患から魔剣目録の一部を奪い、その中から二振りの魔剣を呼び出した蠍瓔珞。一方、西幽の捕吏・嘯狂狷は、四方御使を名乗る鬼鳥と手を組み、仙鎮城を訪れる。そうとは知らぬ殤不患と浪巫謠の前に、魔剣・喪月之夜を手にした蠍瓔珞が現れる。喪月之夜の恐るべき能力に翻弄される殤不患の運命は……

 はるばる西幽から殤不患を追ってきた陰険メガネ君こと嘯狂狷の前に現れた謎の男()鬼鳥。朝廷から派遣された査察官・四方御使だという彼は、殤不患が西幽の宮廷の宝物庫を荒した逆賊だという嘯狂狷の言葉に、協力を申し出ます。
 東離では特段手配もされていない殤不患ですが、玄鬼宗を壊滅させたという噂(誰が流したのか)もある殤不患を放ってはおけないという鬼鳥ですが、その真意は……

 さて、その殤不患は前回蠍瓔珞に魔剣目録の一部を持ち去られたわけですが――ごく一部とはいえその影響は大きく、魔剣目録の中身を見ることができなくなってしまったのでした。殤不患曰く、これは術を使えない彼でも使えるように巻物の形こそしているものの、その実、一種の宇宙とも言うべき存在。それが一部を切り取られた――巻物の形を失ったことで、その機能そのものが失われてしまったと、わかるようなわからないような理屈ですが……
 と、その一部を持ち去った蠍瓔珞は、どこぞの納屋のような場所に身を隠し、怪しげな魔術を用いて、奪った部分から魔剣を呼び出そうという真っ最中。そしてそこから現れたのは、なんか魂を喰らう剣っぽい有機的なデザインの魔剣・喪月之夜と、豪華な鞘に収められた謎の魔剣ですが――後者の剣は意志があるらしく、危うく蠍瓔珞もそれに支配されかかったものの、ギリギリで手を離すことに成功、その魔剣を雑に放り出してその場を去るのでした(どう考えても後で面倒なことになる予感しかしません)。

 一方、殤不患を追う嘯狂狷と鬼鳥が訪れたのは、前回蠍瓔珞に荒らされた仙鎮城。病床の伯陽侯と言葉を交わす二人ですが、前回殤不患に命を救われた伯陽侯が、どれだけ嘯狂狷が殤不患を悪し様に言おうと、容易に信じるはずがありません。が、そこで口を挟んだのは鬼鳥。丹翡からの紹介状があったと聞けば、丹翡は若輩で未熟者、海千山千の曲者に容易に騙されてもおかしくない――と、なんだかものすっっごく説得力のある言葉で伯陽侯に語りかけます。その結果、ついに伯陽侯は、前回の戦いは殤不患と蠍瓔珞が仕組んだ狂言だと信じ込むことに……

 そんな大変なことになっているとは露知らず、町の宿屋の一室で、一生懸命に糊と紙で魔剣目録を修理している殤不患。この辺りを人形で見せるのはちょっと驚きではあるものの、そんなアバウトな修理でいいのかなあ――と思いきや、大事なのは形らしく、魔剣目録はその機能を取り戻します。そしてそこで初めて喪月之夜が奪われたことを知った殤不患は、屋根の上で待っていた浪巫謠に対して、血相変えて町から出るよう促します。
 というのもこの魔剣の力は――と、時すでに遅し。その場に現れた蠍瓔珞が魔剣で町の人々に次々と襲いかかると、斬られた人々は「喪」の字が描かれた覆面を被ったような姿で立ち上がり、殤不患たちに襲いかかるではありませんか。そう、この魔剣によって斬られた者は、肉も骨も傷つけられぬ代わりに、精神を乗っ取られ、持ち主の思うがままに操られてしまうのであります。

 言ってみればゾンビに襲われるようなものですが、ゾンビと違うのは相手が無辜の生きた市民であること。剣侠たる殤不患としては、相手を殴り倒すくらいはできても、斬り捨てることもできず、無数の敵に取り巻かれて大苦戦を強いられます。とはいえ相手は動きが鈍い上に素人、浪巫謠がマップ兵器的に放った衝撃波で武器を取り落とした隙に、殤不患は蠍瓔珞を探すのですが――そこで目に入ったのは、ただ一人魔剣の犠牲になることなくその場に居合わせた少女の姿であります。
 もちろんこれを見過ごすことはできず、少女を助ける殤不患ですが――どう考えても不自然に見えたこの少女は蠍瓔珞の変身。不意打ちで猛毒の爪を受けて苦しむ殤不患に、トドメの一撃を食らわせようと蠍瓔珞が襲いかかって――と、武侠ドラマにあるまじきキリのいいところで次回に続きます。


 前作同様、本作でも貧乏くじを引きまくる予感しかしない殤不患。誤解と濡れ衣は武侠の華ですが、その上に毒まで喰らうという状態で、この上失恋でもすれば武侠ものの不幸の数え役満状態ですが、さすがにこの方面は大丈夫(?)かな……
 しかしその不幸の原因の一端は、確実に鬼鳥を名乗るアイツにありますが――さて二人がいつ出会うのか、出会った時に何が起こるのか、それが今一番気になることは間違いありません。


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