2019.05.19

硝音あや『憑き神とぼんぼん』第1巻 おばけ絵師、自分の作品に振り回される!?


 浮世絵師を主人公にした作品は数多くあります。そして妖と縁を持つ浮世絵師の物語も、それなりの数があります。本作『憑き神とぼんぼん』もそんな物語の一つですが、しかし本作の主人公は、絵から妖を生み出すその力をコントロールできない、ちょっとしまらない「おばけ絵師」で……

 江戸の人々の噂にのぼる「おばけ絵師」――描いた絵からおばけが抜け出ていった、絵の中のものが動いた云々、悪評ばかりが高まるその正体は、新米絵師・来川ウタであります。
 新米ゆえ腕がイマイチなだけでなく、描いた絵から勝手に訳の分からないモノが出てくるという、ある意味絵師としては致命的な自分の力に悩むウタですが――それでも彼が絵を描き続ける、描き続けなければいけないのには一つの理由があります。

 それは彼の同居人の美青年・月の存在――実は彼こそはウタに憑いている「神」、ウタは月とのある約定のため、絵を描き続け、その腕を上げなければならないのであります。その約定を果たせなかった時には……


 と、冒頭に触れたように、妖と絵師の物語――それも妖を描き、生み出す力を持つ絵師の物語は決して少ないわけではないのですが、しかし本作がユニークであるのはなのは、主人公が今ひとつその力をコントロールできていないことであります。
 単純に主人公が絵の力で妖絡みの事件を解決するのではなく、むしろ主人公がその力に振り回され、事件の発端になりかねない――その最たるものが、自分が描いた神・月に憑かれ、脅かされていることなのですが――というのは、可哀想ではあるのですがユーモラスで、なかなか好感が持てるところであります。
(そしてウタにもどうにもならない事態となった時、月が力を発揮して事を収めるという展開も、お約束ながら楽しい)

 そんな本作の第1巻に収録されているのは全3話。
 奥座敷の掛け軸から夜な夜なおかしなモノが現れるという帯問屋に絵の引き取りを依頼されたウタがおばけと対峙する第1話、突然仕事場に「オナカイタイ」と現れた猫(?)のようなおばけにウタが振り回される第2話、流行の菓子屋に招かれて襖絵を描くことになったウタが思わぬ騒動に巻き込まれる第3話――と、なかなかバラエティに富んだ構成であります。


 ……しかしながら、本作から受けるイメージが今ひとつはっきりとしないのは、本作を構成する様々な要素――浮世絵、妖、バディ、職人、人情等々――が、あまり有機的に結びついているように感じられないためでしょうか。
 それぞれの要素はなかなか面白いものの、それらが物語に盛り込まれた時、一つの流れとして感じにくい点が、何とももったいないと思います。
(個人的には、あとがきでバーチャル江戸と断言されているために、史実のリンクにも期待できないのが苦しい)

 第3話のラストでは、本作のタイトルである「ぼんぼん」の意味が明かされ(それはそれでまた他と大きく異なる新しい要素なのですが)、それがさすがに予想できなかったような内容なのですが――さて、ここからどのように物語が広がっていくのか。
 本作のユニークな設定を生かした物語が描かれることを期待したいところです。


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2019.05.16

『どろろ』 第十八話「無常岬の巻」

 イタチたちが財宝を探しに出た間に、鬼神と化した二郎丸に襲われるどろろ。間一髪駆けつけ、二郎丸を倒した百鬼丸は左足を取り戻す。しかしそこに多宝丸率いる醍醐の兵が襲来、盗賊たちは次々と斃れていく。そんな状況でも財宝に執念を燃やすイタチと、多宝丸と激突する百鬼丸。そしてどろろは……

 中一回おいて、再び舞台は白骨岬に戻った今回。前々回、どろろの秘密を知ったイタチはついに二つの地図を手に入れ、配下の盗賊たちと岬の上を目指します。残されたどろろは海辺の樹に縛り付けられたままですが――そこでどろろが目撃したのは、しらぬいの呼びかけに答え、二郎丸がその姿を変えていく様でありました。体色は白く変わり、手足と幾つもの角を生やした怪物と化した二郎丸は、手始めにどろろに食らいつく――のは体の小ささが幸いして避けたどろろですが、追いつめられるのは時間の問題です。
 が、そこに飄然と現れたのは、見覚えのある急拵えの義足――どろろを追ってきた百鬼丸であります。って、前回ラストの流れから、新しい義足をもらったものとばかり思っていたら、「おかあちゃん」呼びにデレただけか!? というのはさておき、そんな身でも陸に上がった鮫には負けない百鬼丸。突進を躱して平成ウルトラ怪獣チックに生えた角に刀を突き刺してその身によじ登ると、脳天に一撃――二郎丸を案外あっさりと倒すのでした。

 しかし、再会を喜ぶまもなく、真の敵が現れます。それは百鬼丸を追ってきた多宝丸と陸奥・兵庫、そして数多くの醍醐兵――よくこれだけの舟を持っていたものだとも思いますが、この場にいるものは一人残らず討ち取れと言う多宝丸の下知に、次々と上陸した醍醐兵が盗賊たちに襲いかかります。不意を突かれた上に数にも勝る相手を前に、次々と殺されていく盗賊たち。そんな中、ようやく地図の場所にたどり着いたイタチは、しかし仕掛けられた罠にも怖じ気付くことなく、財宝を探し始めます。
 その一方で、再び多宝丸と対峙することとなった百鬼丸。以前とは異なり、明確に百鬼丸を醍醐の敵と見なし、襲いかかる多宝丸を迎え撃つ百鬼丸ですが、しかしそれに加えて大力の兵庫と、遠距離から弓を放ってくる陸奥には、さしもの百鬼丸も大苦戦。ついに片手の刃をへし折られてしまうのでありました。

 そんな各所で繰り広げられる死闘の最中、イタチのもとにたどり着いたどろろ。醍醐兵の猛攻に盗賊たちは皆やられってしまった中、偶然、岬の中腹のお地蔵様に仕掛けられていた罠を作動させて醍醐兵に打撃を与えたどろろですが、しかし頼みの綱の百鬼丸も多宝丸たちに追いつめられている状況では、どろろもイタチも、その命は風前の灯であります。
 が――そこで思わぬ者が状況をひっくり返すことになります。それは三郎丸、そして二郎丸を殺されたしらぬい――自棄になってこの場に集まった者たちを皆殺しにしようとした彼は、自分が吹き飛ぶのも構わず、積み上げられた火薬に点火! 大爆発と土砂崩れに皆が巻き込まれてはもはや戦いどころではなく、多宝丸は撤退を宣言――いつの間にか爆発の中で深手を負っていた兵庫を連れて去って行くのでした。

 ……やがて爆発の瞬間にイタチに庇われたどろろが意識を取り戻した時、目の前にあったのは爆発で露わとなった洞窟の所狭しと積み上げられた財宝の数々――自分が探し求めてきた財宝を目の当たりにしたイタチは、喜悦の笑みを浮かべたまま、息を引き取るのでした。
 そして迎えにやってきた百鬼丸とともに、その場を離れるどろろ。この財宝をどのように使えばいいのか、財宝が自分にとってこの先どのような意味を持つかはわかりませんが――いまはここに残して、再び百鬼丸と旅に出ようと、どろろは心に誓うのでした(まあ、ちょっぴり懐に収めましたが……)


 中盤のクライマックスにふさわしい激しい戦いが繰り広げられた今回、波乱が予想された二郎丸との戦いに序盤であっさりと決着が着いたのには少々驚きましたが、その後に待ち受ける多宝丸主従との戦いは迫力十分であり――そしてそれだけに、理不尽に追いつめられる百鬼丸の叫びが胸に響きます。
 もっとも、それもこれもヤケを起こした猟奇サメ男の自爆テロで水入りとなってしまうのですが……(しかしこの調子だと醍醐を滅ぼす戦犯はサメ男なのでは)

 そしてやはり今回最も印象に残ったのはイタチの姿でしょう。初登場以来、悪党ながらどこか憎めない姿を見せてきた彼もついに退場することになりますが――最後まで改心するわけでもなく財宝への執着を見せつけ、しかし爆発の瞬間にどろろを庇う姿は、誰よりも「人間」臭かったと言えます。

 そんな「人間」たち一人一人が必死に生きようとした末に引き起こされた戦いと、その結末――ここに描かれたものは、まさに無常と言うべきでしょうか。


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2019.05.08

『どろろ』 第十七話「問答の巻」

 死人の欠損した部位を作り続ける寿海の前に現れた百鬼丸。百鬼丸の成長を喜ぶ寿海だが、戦いのために義足を欲しいという言葉に顔を曇らせる。戦い続ければ傍らには誰もいなくなるのではないかと恐れる寿海に、既にいると答える百鬼丸。一方、景光は多宝丸に百鬼丸討伐を命じていた……

 どろろの方は一休みして、百鬼丸側の物語が描かれる今回。予想通り重苦しい内容となりましたが、ある意味本作のテーマを問い直したともいえる、重要なエピソードであります。

 百鬼丸を送り出した後も、ただ一人、死人の欠損した部位を補っては弔い続けている寿海。戦場荒しの人々の言葉によれば、生きている人間の治療よりも死人を優先しているようですが――そこに突如現れ、人々に襲いかかった獣のような妖は、何故か寿海には襲いかかろうともしない様子を見せます
 と、そこに現れて妖を叩き斬ったのは百鬼丸。しばらく離れていた間に幾つもの体の部位、聴覚や声を取り戻し、笑みさえ浮かべることができるようになった百鬼丸を大歓迎する寿海ですが、戦いのために義足が欲しいという言葉には複雑な表情を見せます。そんな寿海に問われ、旅の中で知った自分の出生の秘密と家族の存在を語る百鬼丸ですが――あまりの無惨な宿命に驚き悲しむ寿海は、戦いの中で百鬼丸が妖だけでなく人も殺めたことを見抜き、足はやれないと答えるのでした。

 自分にはお前を救えぬと、百鬼丸にとっての地雷ワードを口にする寿海と、それでも頑なに足を求める百鬼丸。理由を尋ねる寿海に、百鬼丸は体が欲しいと答え、何故欲しいのかとさらに問われると、俺のものだから、鬼神は全部殺すと答えます。それはある意味もっともとしても、しかし戦い続けた果てに、百鬼丸の周囲には屍のみが在るのではないかと危惧する寿海に――誰とは言わぬまでも――百鬼丸は既にいる、と答えるのでした。
 そんな中、合戦場に生えた樹木の変化・屍木の実から無数に現れる冒頭の妖たち。それを容赦なく叩き斬る百鬼丸の姿に、寿海は川から彼を拾い上げ、体を与えたつもりになっていた自分も、結局は彼を修羅の川に流した鬼神と同じだったと嘆じるのですが――しかし戦いを終えて旅立つ百鬼丸は、いまだに名乗らぬままであった寿海に対し、「おっかちゃん」と呼びかけるのでした。

 一方、醍醐領では、自分の母・縫の方が昏睡状態から目覚めたにもかかわらず郊外に現れた妖怪退治を優先する多宝丸。そこで待ち受けていた、屋敷の人間たちを餌に子供たちを育てる鼠の妖を倒した多宝丸は、非情にも親を慕う子もろとも妖たちを焼き払うように命じるのでした。
 そしてどろろの行方を突き止めた父の命により、軍勢を率いて出立する多宝丸。もう二度と剣を情で鈍らせないと誓う多宝丸と百鬼丸、そしてどろろたちの運命は白骨岬で交錯することに……


 寿海という本作では常識人の部類に入る――しかし極めて悩み多き人物の目を通じて、百鬼丸が戦う理由と、その是非を問い直した今回。
 奪われたものを取り返すのはもっともであり、そして彼に国一つを背負わせた責は景光が負うべきと考えながらも、しかし戦い続けることで百鬼丸が鬼神に――屍山血河を往くだけの存在になってしまうことを恐れる寿海の悩みは、醍醐家の人々とは別のベクトルで、百鬼丸の戦いの危険性を語っていると言えるでしょう。
(同様のことは琵琶丸も以前語っているのですが、親代わりである寿海の方がより切実に感じられます)

 しかし少なくとも百鬼丸が孤独ではないことを我々はよく知っています。そして彼が決して戦うだけの存在でもないこともまた。
 今回のラスト、百鬼丸の言葉が、寿海自身気づかぬままに失われかけていた彼の人間性を甦らせるのは、その現れというべきでしょう(これが冒頭、自分が百鬼丸の何なのか悩む寿海の言葉に対する答えにもなっているのが実に心憎い)。

 そしてその一方で、百鬼丸と対照的に心を失っていくように見える多宝丸。人を喰らう妖とはいえ、何のためらいもなしに親子を(その情を利用するような形で)葬ったのは、その象徴というほかありません。
 その多宝丸と百鬼丸が再びぶつかる時、何が起こるのか。以前は最悪の状況だけは避けられましたが、さて今度は――次回も大いに気になるところであります。


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2019.05.02

士貴智志『どろろと百鬼丸伝』第1巻 忠実で、そして大きなアレンジを加えた名作リメイク


 現在TVアニメが好調に放送中の『どろろ』ですが、ほぼ時を同じくして「チャンピオンRED」誌上で連載されているのがこの『どろろと百鬼丸伝』。しかし本作はアニメの漫画化ではなく、原作漫画のリメイクというべき作品――原作の内容を忠実に踏まえつつも、本作独自の要素も加えてみせた作品です。

 殺伐とした室町の荒野の中を一人流離う非情の剣士・百鬼丸と、泥棒として強かに生きるも意外と人のよいどろろ。そんな二人が偶然出会い、化物に挑む……
 本作は、様々な媒体・バージョンの違いこそあれど、原作以降ほとんどの版で共通するこの要素を、もしかしたら最も忠実に踏まえて描かれる作品であります。

 もちろん、作者の画風の違いから、本作の百鬼丸はかなりワイルドで大人びている――というより年齢的にも原作よりも上を想定しているとのことですが――という見た目の違いはあるのですが、それを除けば、現代描かれる作品として、順当なアップデートを重ねた作品、という印象があります。
 そして構成的には、この第1巻で描かれているのは原作の「百鬼丸の巻」の前半部分と、「金小僧の巻」「万代の巻」「人面疽の巻」(の前半)に当たる部分。どろろと百鬼丸の出会いと泥状の死霊との対決、そして金小僧との遭遇と万代の村での怪物との激突、万代の正体……と描かれていくことになります。

 ここで原作の熱心な読者であれば、上記で抜けている部分に共通点があることに気付かれるかもしれません。そう、本作のこの第1巻では、百鬼丸の過去編――彼の生まれと背負った宿命、死霊たちと戦う理由、そして哀しい過去の出会い――が丸々省かれているのであります。
 もちろんそれがこの先描かれないはずはないことを思えば、この構成は計算の上なのでしょう。この先、どのような形でこの過去編が描かれることになるのか、気になるところです。


 と、いきなり結論めいた話から入ってしまいましたが、大きく本作の独自性が出ているのは、この巻の後半、万代にまつわるエピソードの部分であります。
 野宿の最中、不気味な金小僧に出会った百鬼丸たちが、それがきっかけで女領主・万代が治める村で村人たちに捕らえられ、不気味な怪物に襲われる――その物語の流れ自体は変わりませんが、後半部分で語られる万代の真実に、大きなアレンジが加えられているのであります。

 その内容の詳細に触れるのは伏せますが、原作で描かれていた人間の無情さや身勝手さというものを、ある人物の存在を新たに加えることで、より強調してみせるのは、なかなか面白い試みであり、本作ならではの独自性と言えるでしょう。
 そしてそれが同時に、どろろの中の情と百鬼丸の中の人間らしさをも浮かび上がらせてみせるのもまた……


 その他にも、このエピソードで琵琶法師がほとんど出ずっぱり(しかもチラッと描かれたところによれば何やら大きな秘密がありそうな……)だったりと、アレンジの存在とその意味を考えてみるのも面白い本作。

 ちょっと展開のペースが遅めなのがもったいないところですが、この先どのような独自性を見せてくれるのか、気になるところであります。


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2019.04.30

『どろろ』 第十六話「しらぬいの巻」

 父が白骨岬に隠した財宝を狙うイタチ一味に捕らわれたどろろ。岬に向かうため、しらぬいという少年に舟を頼むイタチだが、しらぬいはイタチたちを舟を引く鮫・二郎丸と三郎丸の餌にしようとする。イタチと協力して三郎丸を倒し、上陸したどろろだが、ついに背中の秘密を知られてしまい……

 前回のラスト、百鬼丸についていけないものを感じて離れたところで、父・火袋のかつての部下・イタチとその配下に見つかってしまったどろろ。火袋を裏切って侍になったはずが、結局合戦で捨て駒にされてしまったイタチは、野盗に戻ると決め、以前から怪しいと思っていた火袋の隠し財産を見つけようとしていたのです。
 しかしその地図の半分は、今は亡きどろろの母・お自夜の背中にあったはず――と思いきや、墓を暴いて背中を見たというのですからひどい話。その地図から財宝が白骨岬に埋められていることを知ったイタチは、その先の在処を知るどろろを捕らえて強引に岬に行こうとするのでした。

 そして岬に行くには舟が必要と、海辺の村を訪れた一行ですが――しかし村は何者かに襲われ、至る所に血しぶきが飛び散った見るも無惨な有様。もやっていた舟も全て壊されていたのですが――そこに舟を持っているという片腕の少年・しらぬいが現れます。何やら異様な雰囲気をまとったしらぬいに警戒心を抱くどろろですが、イタチはいざとなれば斬ればいいと、どろろを連れ、手下たちとともに二艘の舟に乗ってしまうのでした。
 しかししらぬいは一人、しかも片腕の彼が、どうやって二艘の舟を漕ぐのか――と思いきや、彼が二郎丸・三郎丸と呼ぶ二匹の巨大な鮫が、水中から舟を引くというではありませんか。異様なシチュエーションに引く一行ですが、しらぬいはそこで自分が(原作と違い)片腕の理由を、二郎丸と三郎丸に餌としてやってしまったからだと語ります。おかげで人肉の味を覚えてしまったという鮫たちに、女子供を攫ったり、村を――そう、先ほどの惨劇の村を――襲ったりして人を食わせてきたというしらぬい。相手が完璧にシリアルキラーのサイコパスだったことに気付いた時には既に遅く、イタチの子分たちが乗った舟は鮫に襲撃され、無惨にも餌食にされるのでした。

 と、一度にたくさん食わせると腹を壊すと、三郎丸を見張りに残し、自分は二郎丸とともにその場を離れるしらぬい。しかし舟を漕ぐ手段はなく、そして海中の鮫を攻撃する手段もない状況で、さすがに海千山千のイタチも絶望に沈むのですが――そこで立ち上がったのはどろろであります。自分は両親を亡くしてたった一人になっても、決して諦めずに生きてきたのに、大の男たちが何やってやがる! と、あたかも火袋写しの叱咤が、イタチたちの魂に火をつけます。
 さらに自ら海中に飛び込み、囮になるどろろ。どろろを追って海面に現れた三郎丸に、待ち受けていたイタチたちが一斉に刀を突き込み、さしもの巨大鮫も海を血に染めて浮かび上がります。そしてこういう時はさすがは野盗と言うべきでしょうか――イタチは三郎丸の死体を囮にしらぬいを誘き出し、捕らえて袋叩きにかけるのでした。

 しらぬいを見逃すように制止するどろろ。しかし今度はどろろの方が、イタチに財宝の在処を問い詰められることになります。そして体のどこかに隠しているんだろうと服を引っぺがされるどろろですが――そこで初めてどろろが女だと知るイタチ(てっきり知っていたものかと……)。非常に嫌な感じの絵面ですが、前を押さえてうずくまった彼女の背中が焚き火で温められて地図が浮かび上がったことで、ついにイタチは財宝の在処を知ることになります。
 翌朝、意気揚々と財宝を掘り出しに向かうイタチ一行。その一方でボロボロになった状態で、残った二郎丸に復讐を誓うしらぬい。その言葉に応えるように、黒く輝く二郎丸の目――それこそは妖の証であります。

 その頃、消えたどろろを追う百鬼丸ですが、前回義足を破壊された状態で歩くのもやっと。と、苦労しいしい歩く彼を見かけた僧が、百鬼丸に声をかけます。失われた体の一部を与えてくれる医師がいると……


 百鬼丸は冒頭とラストのみの登場の、実質どろろ主役回なのですが――ほとんど『悪魔の沼』状態のしらぬいの強烈なインパクトがほとんど全て持っていった印象の今回。原作で描かれた過去のあれこれ抜きに、いきなり自分の片腕を鮫に食わせるというサイコパスっぷりにはドン引きであります。
 あるいはしらぬいの過去は今後描かれるのかもしれませんが、次回はどうやら百鬼丸と寿海の再会が描かれる様子。相変わらず悩み多そうな寿海が今の百鬼丸を見てどう思うか、また重い内容になりそうであります。


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2019.04.24

『どろろ』 第十五話「地獄変の巻」

 一夜明け、百鬼丸が鯖目を見張る間に村に聞き込みに出かけるどろろ。しかし村の倉に忍び込んだどろろは村人に捕らえられ、幼虫たちの犇めく地下に落とされてしまう。一方、この村を守るために鬼神を受け入れたという鯖目に対し怒りを爆発させた百鬼丸は、襲いかかるマイマイオンバに挑むが……

 一夜が明けて、お互い何事もなかったかのように朝餉の膳を囲むどろろ・百鬼丸と鯖目。鯖目を見張るという百鬼丸を残し、村に聞き込みに出かけたどろろは、これまでに登場した貧しく殺伐とした村とは正反対の、物だけでなく心も豊かな――ちょっと過剰なくらいに和気藹々と暮らす――人々の姿でした。
 見ず知らずの自分にまで団子を振る舞ってくれる老婆に感心するどろろですが、しかしあの廃寺について尋ねた途端に老婆の態度はよそよそしくなり、周囲の村人たちも剣呑な視線を向けてくるようになります。そんな中で更に奧に足を踏み入れたどろろは、村はずれの林の中に蔵を見つけて忍び込むのでした。

 そこに収められていたのは米俵(さりげなくルパン三世のようなことを言うどろろ)だけかと思いきや、床に隠し扉を見つけてその中を覗き込んだどろろ。その彼を待ち構えていた村人たちは下に突き落とし、閉じ込めてしまうのでした。そして闇の中に取り残されたどろろの周囲に無数に光る、あの巨大な幼虫たちの赤い目。襲いかかる幼虫たちから必死に逃げ出すどろろですが――しかしついに追い詰められて絶体絶命のその時、妖しげな光とともに現れたのは――あの妖怪小僧!
 どろろは自分に優しくしてくれたから助けるという妖怪小僧の頭が割れると、そこから飛び出したのは、幾人もの子供の姿をした光。幼虫たちを抑えるその光の一人を通じて、どろろはあの寺で起きた出来事を知ることになります。尼僧は鯖目によって殺された末に寺は焼かれ、そしてマイマイオンバの餌にされた子供たち。無惨な過去に涙するどろろは、やけに説明口調で語る子供の霊に導かれて、地下からの出口に向かうのでした。

 一方、館を出て村を見下ろす高台に向かった鯖目を追う百鬼丸。彼を待ち受けていた鯖目は自分のことを語り出します。祖先が代々守ってきたこの地に生まれ、今に至るまで、この村の中で生きてきた鯖目にとってはこの村が全てであること。しかし戦乱の中で落ち武者や獣たちに荒らされ、村が無惨な状態となったこと。そして村に現れたマイマイオンバの言葉に従い、彼女とその眷属が村に居着くことを許し、外敵は彼女たちの餌食となり、村は平和と豊かさを取り戻したことを(そしてマイマイオンバと結ばれたことを)。
 そして村を守るためと、羽化したばかりのマイマイオンバの眷属を百鬼丸にけしかける鯖目。しかし鬼神に縋り周囲を犠牲にして生きる鯖目の姿が、醍醐景光や多宝丸、母の姿と重なり、思い切りトラウマを刺激された百鬼丸の怒りが爆発します。次々と眷属を叩き斬る百鬼丸は、邪魔だと鯖目を山から蹴り落とし、自分を捕らえて飛び上がったマイマイオンバ(の眷属?)にも斬りつけるのですが――百鬼丸を落として飛び去ったその一匹が、夕刻迫る中、櫓の上で見張る村人の松明に直撃し、櫓は大炎上。そのままよくわからないくらいの勢い(どろろが油の壺をひっくり返しておいたせい、ではないか……)で村に火は燃え移っていくのでした。そして業火の中に村の繁栄が消え去っていく中、呆然と立ち尽くす鯖目の前で、あれほど和気藹々としていた村人たちは醜い争いを始めるのでした。

 そんな村を置いて、どろろが子供の霊から聞いたマイマイオンバの居所――湖に単身向かう百鬼丸。水中から出現し、自分を掴んで飛び上がったマイマイオンバに対し、百鬼丸は壊れた自分の片足に仕込んだ油の袋から放った油に火をつけ、マイマイオンバを焼き払うのでした。
 そして百鬼丸は背骨を取り戻すのですが――しかしその代償に焼け落ちた村の惨状に心を痛め、自分たちのせいではないかと悩むどろろと、関係ないと言い放つ百鬼丸。そんな百鬼丸と文字通り距離を置いてしまったどろろの前には、あのイタチが現れます。どろろの持つ宝の地図を見せろと言いながら……


 子供たちを生贄にして自分たちの繁栄を望む村と、その繁栄が失われた途端に本性を剥き出しにして争う人々。まさに「地獄変」と呼ぶに相応しいものが描かれた今回ですが――しかし結局プチ醍醐景光、プチ醍醐領が描かれただけという印象がないでもありません。
 もちろん、醍醐領では状況を客観的に見れなかった二人が、同様の場所である鯖目の村を訪れその顛末を目にすることで、改めて百鬼丸の所業の是非を問うという意味はあるのですが――その分、鯖目とマイマイオンバの(異常な)関係性がスルーされてしまったのはちょっと惜しいな、という気がします。

 また、鬼神に子供たちを生贄にした村人たちに怒っていたと思ったら、その鬼神を滅ぼしたことで村をも滅ぼしてしまった百鬼丸に怒るどろろも、何だかすっきりしないところであります。これはこれで非常に人間らしいといえばその通りなのですが……


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2019.04.21

『どろろ』 第十四話「鯖目の巻」

 自分の背中に隠された秘密を知り、複雑な心境での旅の途中、幽霊に巨大な赤子の妖怪を押しつけられたどろろ。途中、焼け落ちた寺の跡で赤子は消え、そこで二人はこの辺りを治める鯖目に声をかけられる。誘われるまま彼の屋敷の客となった二人に、その晩、奇怪な怪物が襲いかかる……

 前回、温泉に入ったどろろの背中に浮かび上がった地図のようなもの。どろろの体温が上がった時に浮かび上がるそれは、父・火袋が蓄えた、貧しい人々が立ち上がる時のための隠し金の在処を記したものだったのであります。お自夜の背中と半分ずつ描かれたものが合わされば、おそらくは莫大な金が見つかるはず――しかし母の背中のそれはどろろの記憶にしかなく、どろろは自分の背中を見られない(そしてその存在を知る百鬼丸と琵琶丸は目が見えない)。
 よく考えられたものですが、琵琶丸はその金が世を動かす大きな力の源になるかもしれないと、微妙に不穏なことを言い出すのでした(初めから見ていないと、どう考えても黒幕な言動の琵琶丸であります)。

 そんな琵琶丸と別れ、また鬼神退治の旅に出る二人ですが、その途中、人気のない道で聞こえてきたのは、買うて下され、という声。そこに現れたのは、巨大な赤子めいた妖怪を連れた、不気味な尼のような姿の幽霊であります。鬼神ではないとスルーの百鬼丸ですが、何故か妖怪小僧にピカピカした感じの声で「まんままんま」と懐かれた彼は、妖怪をおぶって――いや妖怪に抱えられて旅を続ける羽目になります。

 そんな中、焼け落ちた寺の廃墟にたどり着いた二人。そこで百鬼丸は尼の幽霊に導かれて油が撒かれた跡を見つけ、どろろは相変わらず妖怪小僧にまとわりつかれていたのですが――そこで突然妖怪は姿を消してしまいます。と、そこに現れたのは、ここには夜になると妖が出ると語る鯖目と名乗る男――その名の通り、魚のように丸く、瞬きをしない鯖目に厭な印象を受けるどろろですが、この辺りの村を治めているという彼の屋敷に招かれ、歓待を受けることになります。

 その宴席で、あの焼け跡はかつて孤児を集めては牛馬のように働かせた末に人買いに売っていた尼僧の寺であり、ある日雷が落ちて尼僧や子供もろとも焼け落ちてしまったのだ、と語る鯖目。しかしそれであればあの油の跡は、とどろろは疑念を抱くのでした。
 何はともあれ、その晩は屋敷の広い部屋にただ二人泊まることとなったどろろと百鬼丸。相変わらず鉄面皮の百鬼丸に、微妙に怖がってるどろろと、何となく微笑ましいムードの二人ですが、その時、天井の梁に蠢く不気味な影が――それは、人間以上の大きさの芋虫に、人間の手を四本生やしたようなおぞましい怪物!

 二人めがけて襲いかかってきた芋虫を迎え撃ち、芋虫の放つネバ糸に刀を封じられたりはしたものの、すぐに振り払って芋虫を叩き斬った百鬼丸。が、倒したかに思われた芋虫が咆吼を上げたとき、外の戸が激しい風とともに吹き飛び、現れたのは巨大な蛾の鬼神――マイマイオンバであります。その羽ばたきから放たれる鱗粉に二人がたじろいだ隙に、マイマイオンバは芋虫を連れて姿を消すのですが――人間の女に変じた鬼神は、屋敷の外で待っていた鯖目のもとに現れます。どうやら鯖目は彼女の正体を知った上で側に置き、誘い込んだ人間を餌として与えていたようですが……


 これまでで一番ホラームードが強かった今回、妖怪小僧を連れて現れる尼僧の幽霊の、ねじれ細ったような異形ぶりもコワいのですが、夜中に天井から襲ってくる人間大の芋虫というのは、実に実に厭なシチュエーションであります。その一方で、異形ながら赤子の要素を多く持つ妖怪小僧は、見ているうちにだんだん可愛くなってくるのですが……

 それはさておき、どろろたちが先に出会った妖怪が実は敵ではなく、そしてその妖怪を悪役に仕立てようとする人間の側が、実は鬼神と繋がっている――というのは、万代様とシチュエーション的に被るお話。もっとも今回の場合、鯖目とマイマイオンバの間に恋愛感情があるようですが、これはこれで以前に絡新婦の話があります。
 これらのエピソードとどのように差別化してみせるのか――おそらくそれは、マイマイオンバに子供がいるということに繋がるものなのでしょう。そしてそれはどろろと母の関係に重ねられるのでは――という気がしますが、さて。


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 『どろろ』 第十三話「白面不動の巻」

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2019.04.11

『どろろ』 第十三話「白面不動の巻」

 醍醐領を離れ、妖怪狩りの旅を続ける百鬼丸とどろろ。滝の裏にそびえ立つ巨大な不動明王像の近くで、おかかという女の家に厄介になった二人だが、どろろは彼女に母の匂いを感じる。しかし彼女は二人に薬を盛ると、百鬼丸の顔を不動明王――顔を持たない妖怪・白面不動に捧げようとするのだが……

 滝の裏に彫られた巨大な不動明王像の下に、一人の女によって引きずられていく男。抵抗空しく像の下に引き据えられた男に対し、像が手にした巨大な剣が動き出し、振り下ろされると、哀れ男の顔のみがそぎ落とされて……
 と、そんな惨劇も知らずに今日も旅を続ける百鬼丸とどろろ。鬼神・九尾を倒したにもかかわらず体の一部が戻ってこなかったのはともかく、実の親兄弟とのあまりに酷い出会いと別れは、百鬼丸の心を深く傷つけたか、百鬼丸はこれまで以上に妖怪との戦いに没頭している様子であります。そんな彼の姿に心を痛めたどろろは、彼を温泉に連れて行こうとするのですが――その途中、滝の近くの小屋で出会ったのは、そこに住むという、おかかという女性であります。

 滝にやってくる行者たちの世話をして暮らしているというおかかに食事を振る舞われ、二人はこの滝にまつわる話を聞かされることになります。かつて腕は良かったものの世に容れられず、何とか世の人を唸らせる不動明王像を彫ろうと思い定め、滝の裏に不動像を彫ったという仏師。しかし仏師はどうしてもその顔を満足いくように彫ることができず、失意のうちに亡くなったというのです。
 そんな恐ろしくも哀しい話を聞かされながらも、おかかの姿形や声に、亡き母の姿を感じてしまったどろろは、彼女をおっかちゃんと呼んで甘えるのですが……

 しかし食事の中に入れられていた薬によって眠りこけているうちに、おかかに縛り上げられ、不動の下に引きずられていく百鬼丸。縛られなかったどろろは、遅れて意識を取り戻すと、よろめきながらも二人を追うことになります。そして不動の下でようやく追いついたどろろに、真実を語るおかか。実は彼女は、妖怪が取り付いた不動像――白面不動によって蘇らされた仏師その人。見る相手によって姿を変える彼女は、白面不動に顔を与えるため犠牲者を連れてきていたのです。
 衝撃を受けながらも、おかかのことを止め、百鬼丸を救おうとするどろろ。その間に何とか戒めから抜け出した百鬼丸は、白面不動に挑みかかります。それを阻むべく、再び妖術によって百鬼丸を捕らえるおかかですが、しかしどろろの訴えの前に、とどめをさすことができなくなるのでした。

 そんな彼女を制裁するように振り下ろされる白面不動の剣。その隙に不動の顔まで駆け上った百鬼丸の刃、そして彼を狙ったものの躱された自分の剣を受けて、白面不動は滅びるのでした。
 再びの死の間際に、人間の心を取り戻して逝くおかか。そんなどろろの想いを汲んでか、百鬼丸の心も、少し和らいだように見えます。そしてようやく本来の目的地であった温泉にたどり着いた二人は、そこで(また先回りしていた琵琶丸と出会ったりしながら)ようやくお湯に浸かることができた二人。久々にゆっくりとした時間を過ごす二人ですが、一緒に入っていた土地の子供が、どろろの背中を見て声を上げます。どろろの背中に、地図が書かれていると……


 いよいよ今回からOPEDも変わって後半戦、登場するのは原作でも印象深かった妖怪・白面不動であります。巨大な仏像が実は怪物、自分では動かずに獲物を配下に集めさせる、そして何よりも自分の顔を持たず、それ故に人を襲う――と、実にキャラの立った白面不動ですが、今回はちょっと今一つの印象。
 原作では普通に(?)死人の女だったおかかが、今回は仏師の変じたものであったというのがどうにもすっきりしないところで(別に女仏師というわけでもなさそうですし)、肝心の白面不動も、黒バックに一部しか攻撃できない/攻撃しない巨体と、何だかファミコン時代のアクションゲームの巨大ボスのような存在感でありました。
(そして毒に強そうな割りにはあっさり薬を盛られて捕まる百鬼丸……メンタル不調とはいえ)

 そんな中で取って付けたように温泉シーンが――と思いきや、ここで描かれるどろろの背中。果たして本作でも同様の秘密が隠されているのか、だとしたらそれが本作で持つ意味は、原作以上に大きいのではないか――などと考えてしまうのはもちろん気が早すぎるのですが、やはり楽しみな展開であることは間違いありません。


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2019.04.10

小松エメル『一鬼夜行 つくも神会議』(その二) 渦巻く情念と、互いに寄り添うことと


 『一鬼夜行』シリーズのわき役たちを主人公とした作品を中心に収録した短編集『つくも神会議』の紹介の後編であります。今回は、本書の中でも特に印象に残る二つの作品を紹介します。

『姫たちの城』
 荻の屋の付喪神たちの中でも一番口うるさい前差櫛姫。小さな姫の姿を取る彼女はその名のとおり櫛の付喪神であります。
 その彼女は、元々はさる名人の手によって生み出されて早くに妖力を発揮し、ある姫君の元に買われていった時に付喪神として目覚めたのですが――しかしその姫君・お正は、あばら屋のような家に、老女と少女のわずか二人の供と住んでいたのであります。

 そのお正の前で正体を顕してしまい、彼女の身の上話を聞くことになった前差櫛姫。何とお正は、さる殿様の側室を母に持ちながらも、不義の子と噂された上、母がしでかしたとんでもない不始末の罪を償うため、このような暮らしをしているというのですが……

 付喪神たちの中でも、サイズは小さいながらも人間の女性姿で、物好きにも喜蔵に熱い想いを寄せる前差櫛姫。その、良くも悪くも女性へのある種のイメージを誇張したようなキャラクターは、付喪神たちの中でも一際印象的であります。
 そしてその前差櫛姫を主人公とする物語は、彼女の目を通じて、姫たち――すなわち女性たちの姿を描き出すのであります。

 お正をはじめ、本作に登場するのは、いずれも望まぬ環境に置かれ、己の想いとは裏腹の生を送ることを強いられた女性たち。
 舞台となるのが、今以上に女性が暮らしやすくない時代だったとはいえ――彼女たちは運命の悪戯から哀しい境遇に追い込まれ、自らをすり減らしていくことになります。

 ……いや、それがは正確ではありません。それが単なる運命の悪戯であれば、まだ救いがあったかもしれません。しかし本作の女性たちは、自ら道を選んでしまった――それ以外の道が目に入らない状況であったとしても、しかし、選んではならない道を選んでしまったのであります。

 本作は、前差櫛姫というある意味信頼できない語り手の口を通じて語ることにより、その哀しみを幾重にも強めることになります。一つの真実が語られた末に、それをひっくり返して新たな真実が語られ、そしてその先にもまた新たな真実が――と。
 そしてその度に心臓を掴まれたような気分になりながら、最後に我々が知るのは、途方もなく哀しく、そして美しい真実――かもしれないものであります。

 個性的なキャラクターの愉快なやりとりが印象に残る作者の作品ですが、しかしその背後には、極めて濃厚な情念が渦巻いている――そしてそれでいて、いやそれだからこそ、それがひどく魅力的に感じられる。
 そんなことを再確認させられる本作は、個人的には本書でベストの作品であります。


『化々学校のいっとうぼし』
 最後に収録されたのは、本書ではようやく登場したともいえる小春を主人公とした物語。しかし本作で彼が対峙するのは、本シリーズではおそらく初の相手なのであります。

 お目付役の青鬼の命で、旧知の妖怪・このつきとっこうのもとに向かうことになった小春。以前から何かを学び、教えることに異常な情熱を持っていたこのつきとっこうは、昔からの夢である、妖怪たちが通う「化々学校」を開設していたのであります。
 そこでこのつきとっこうから、最近生徒たちの間で噂になっている、品川はずれの港に出没する得体の知れない者の正体を突き止めて欲しいと頼まれた小春。不承不承引き受けた小春の前に現れたのは、何と蝙蝠の魔物を連れた西洋の「魔女」で……

 というわけで、初の西洋妖怪のお目見えとなった本作。もちろん本作に登場する「魔女」アルは日本征服にやってきたわけでなく、あるよんどころない事情があってやって来のですが――こういう時に放っておけないのが小春であります。

 アルを連れて東京を駆けめぐる小春ですが、やがて意外な、そして残酷な真実を知ることになって――と、やはりここでもまた、ギョッとするくらい生々しい情念の存在が描かれる本作。
 ここでもまた、あまりにも大きなやりきれなさの存在に胸が塞がるのですが――しかしそれでも自らの決めた道を貫くのが、小春の小春たる所以であります。

 シリーズで繰り返し描かれてきた、誰かと誰かが寄り添うこと――そこから生まれる、様々な垣根を乗り越える小さな希望の姿を描いてみせる本作は、小春が活躍するというだけでなく、やはり本書の掉尾を飾るに相応しい物語だと感じるのです。


『一鬼夜行 つくも神会議』(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル) Amazon
(P[こ]3-12)一鬼夜行 つくも神会議 (ポプラ文庫ピュアフル)


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2019.04.09

小松エメル『一鬼夜行 つくも神会議』(その一) 交錯する妖情と人情


 昨年『鬼の嫁取り』によってめでたく第二部が完結した『一鬼夜行』シリーズ。その番外編ともいうべき一冊が本書『つくも神会議』――主人公たる喜蔵と小春の出番は少な目に、脇役である妖たちを中心とした短編が6話収録された短編集であります。以下、一作品ずつご紹介いたしましょう。

『付喪神会議』
 実質的に本書の表題作である本作の主人公は、喜蔵が営む古道具屋・荻の屋に住みついた付喪神たち。硯の精、前差櫛姫、小太鼓太郎、堂々薬缶といったお馴染みの面々が、思いも寄らぬ対決に望むことになります。

 浅草界隈の付喪神たちが集まってはああだこうだと騒ぐ付喪神会議。今夜も荻の屋で喜蔵の目を盗んで開催されていた会議に、同じ町内の骨董屋・今屋の付喪神五妖が現れたことから、事態はおかしな方向に転がっていくことになります。
 かねてより喜蔵を敵視する店主同様、何かと衝突してきた骨董品の付喪神たちの上から目線に、ついに怒りを爆発させた荻の屋の付喪神。彼らは、どちらが上か決めるため五対五の対決を挑むことになったのであります。

 かくてその勝負に巻き込まれる形となった喜蔵は、審判役として大家のもとに、正体を隠した付喪神たち十妖を持ち込むと、この中から五品を選んで欲しいと頼むのですが……

 シリーズのほとんどの作品の冒頭部分、荻の屋の日常を描くくだりに登場しては賑やかに騒ぎ回り、喜蔵や小春に一喝されるのがお馴染みの付喪神たち。
 シリーズに欠かせない名脇役たちですが、それだけに物語の中心になかなかなれない彼らが今回は大暴れ――と言いたいところですが、物語は思わぬ方向に転がっていくことになります。そこで描かれる意外な人情、いや妖情も楽しい一編であります。


『かりそめの家』
 過去にタイムスリップしてしまった多聞とできぼしが奇怪な箱庭に引きずり込まれる本作は、以前アンソロジー『となりのもののけさん』に収録された際に紹介しておりますので、そちらをご覧いただければと思います。


『山笑う』
 幼い頃に天狗に拾われ、その天狗を祖父と慕って成長した少年・つむじ。しかし祖父は山を去り、代わって現れたのは、祖父から山を託されたという天狗・花信とその配下たちでありました。
 つむじに甘い配下たちとは対照的に冷たい態度を崩さず、山を下りて人間の世界に戻れと告げる花信。何としても天狗になると言い張るつむじですが……

 シリーズ当初から小春の宿敵として登場し、特に前々作『鬼姫と流れる星々』では深雪と絡んで大きな役割を果たした天狗・花信。
 そこでの言動を見ればわかるように、普段小春を甘いとか言っているわりには結構情が深い花信ですが、さて、天狗になりたいという風変わりな人間の少年を前に何を想うか?

 情に人も妖もない――いやそれどころか、人よりも妖の方がよほど情に厚かったりするのは、本シリーズでしばしば描かれてきたところであります。そんな人と妖の交流を描いた本作は、やはり本シリーズの一作と呼ぶに相応しい物語です。


『緑の手』
 水の世界を支配する大妖怪・須万の僕として、相手の魂を奪うその手の力をもって、妖たちの魂を集めていた妖・岬。ある日、河童の弥々子に出会った彼は、彼女に強く惹かれ、その魂を狙いつつも、彼女にまとわりついて暮らすようになります。
 そんな中、海に現れた伝説の妖怪・アマビエ。須万からアマビエの魂を奪うよう命じられた岬は、妖たちが繰り広げるアマビエ争奪戦の中に潜り込むのですが……

 『鬼の嫁取り』の山場の一つであったアマビエ争奪戦。水妖たちが群れをなしてアマビエを追い、妖神と戦う中に、本作の主人公・この岬も登場したのですが――そこでは脇役の一人という印象でしかなかった彼が抱えた、複雑怪奇な事情が本作では描かれます。
 複雑な(本当に複雑な)出生により、須万に使われ、魂を集めてきた岬。陰の中で暮らす妖たちの中でも、一際濃い陰の中に在る彼にとって、弥々子が、アマビエがどのように映ったか――輝く者たちを前にした日陰者の屈託が、痛いほど刺さります。

 一つの巨大な戦いの陰で繰り広げられた、小さなしかし激しい戦いの結果、彼が得たものは何であったか――自分だけの妖生に一歩を踏み出した岬の姿が印象に残ります。


 長くなりましたので次回に続きます。


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