2018.10.22

『つくもがみ貸します』 最終幕「蘇芳」(その二) そしてアニメ版を見終えて

 アニメ版『つくもがみ貸します』の最終幕の紹介の後半と、アニメ版全体のまとめであります。江戸に帰ってきたものの行方不明になった佐太郎を、つくもがみや友人たちの協力でようやく見つけだしたかに見えた清次ですが、思わぬ一撃を喰らって……

 と、意識を取り戻してみればどこかの座敷、そこには佐太郎と叔父もいます。聞いてみれば清次を殴ったのはこの質屋の主人、彼を賊と勘違いしてとのことであります。清次には完全にとばっちりですが、これがきっかけで店を訪れた際に誤って倉に閉じこめられ、誰にも気づかれていなかった二人も助かって一件落着、ではありますが……

 もちろん清次とお紅と佐太郎の関係はまだ解決していません。佐太郎などは、もうこれでお紅とは結ばれたものと有頂天になっていますが――そこに当のお紅が駆けつけます。清次が殴られた際に、急を告げるべく出雲屋へ急いだ野鉄から知らせを聞いたお紅ですが、彼女が飛び込んだのは――清次の腕の中。涙ながらに清次の無事を喜ぶ彼女の耳には、後ろから呼びかける佐太郎の声など入るべくもなかったのでした。

 かくて本当に一件落着した物語。勝三郎と早苗は無事に婚礼を挙げ、幸之助とお花もまあ公認の間柄となり――そして佐太郎はお紅にどうしても七曜を受け取ってもらえず、結局叔父が間に入って七曜を半額の40両で買い取り、それを清次たちに渡す、ということになります。その金で件の借金も完済し、めでたしめでたしであります(佐太郎以外は)。

 そして変わらぬ日々を迎える出雲屋。にぎやかに騒ぎ回るつくもがみを捕まえ、商売に向かう清次ですが、一つだけ変わったことがあります。そう、それは清次がお紅を「姉さん」ではなく、「お紅」と名前で呼ぶようになったこと――そしてお紅の簪を褒める清次の言葉に、お紅も嬉しそうに微笑むのでした。


 というわけでめでたく大団円を迎えた、このアニメ版『つくもがみ貸します』。これまでの紹介のなかでも何度も述べて参りましたが、このアニメ版は、原作のキャラクターや設定、物語を踏まえつつも、そのかなりの部分において、オリジナルの物語、オリジナルのキャラクターが描かれてきました。
 これは言うまでもなく、原作が全5話しかなかったことによるものかと思いますが、しかし原作に極めて忠実な内容の、原作そのままと言ってよいようなアニメがほとんどの昨今を考えれば極めて珍しいことで、むしろ快挙と言ってもよいのではないでしょうか。
(もっとも、原作者のアイディアに拠る部分もあるようですが……)

 もっとも原作ファンの目から見ると、人間とつくもがみの一筋縄ではいかない関係性をベースとした時代ミステリ、という原作の構造からは外れるようなエピソードもあり、ちょっとどうかなあ――と思う点は、正直なところ少なくありませんでした。
 しかしその一方で、このオリジナル展開によって、わずか5話だった――それもその半分以上が蘇芳にまつわる物語であった――原作の世界観を大きく広げて見せてくれたのは、非常に大きな意味があったと感じます。
(以前も書きましたが、半助のキャラクターなど、オリジナルでありつつも、非常に原作的な味わいを出していたと感じます。)

 そしてそんな本作の魅力が最も良い形で結実したのが、この最終幕であることは言うまでもありません。人間とつくもがみ(そしてもちろん人間と人間)の関係性が、最もポジティブな形で昇華したクライマックスの展開は、これまでその関係性を様々な形で描いてきた本作だからこそ描けたものであることは間違いないのですから……
 ちなみにもう一つ嬉しかったのは、清次のお紅の名前呼びが最後の最後であったこと。実は原作ではちょっと違うタイミングだったので、上のつくもがみとの関係性も含めて、よりドラマチックな展開となっていたのは、これは個人的には大いに嬉しかったところであります。


 さて、本作はここでめでたく完結ですが、原作には続編『つくもがみ、遊ぼうよ』が存在します(そして第三作も連載中)。
 清次とお紅の子供(!)世代が主人公となるこの続編では、人間と一線を画していたつくもがみたちもすっかり丸くなり、より賑やかな物語となるのですが――こちらもいつかアニメで観てみたいなあ、と願っているところであります。


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2018.10.21

『つくもがみ貸します』 最終幕「蘇芳」(その一)

 佐太郎が江戸に戻ってきたことを知った清次とお紅。しかし佐太郎は翌日からまた姿を消してしまったという。清次は佐太郎が探しているのが蘇芳の兄弟の香炉・七曜であることに気付くが、そのことを聞いたお紅は清次に怒りをぶつける。果たして佐太郎はどこに消えたのか、お紅の想いはどこに……

 いよいよ最終幕の今回、アバンで出雲屋に姿を現したのは佐太郎の母。しかし突然佐太郎の行方を尋ねる彼女に、清次もお紅も当惑するほかありません。彼女が語るには、佐太郎は大坂で叔父を頼り、米相場で一山当てて自分の店を持ったとか――そして叔父とともに江戸に帰ってきたのですが、その翌日から姿を消してしまったというのであります。

 さて、佐太郎の帰還に心中穏やかではないものの、何だかんだで佐太郎の行方を捜して奔走した清次は、佐太郎が探しているものが、蘇芳と一緒に焼かれた香炉の残る一つ・七曜であることに思い当たります。
 同じ職人により三つ作られた香炉のうち、蘇芳は行方不明となり(前回発見されましたが)、以前にお紅が佐太郎のために80両で購った三曜は佐太郎が壊し、残るは七曜のみ。佐太郎は過去のけじめをつけるために七曜を探し出し、それを手にしてお紅に会いに来るに違いない! と、お紅に話す清次ですが――そこでお紅の平手打ちが一閃!

 突然のことに目を白黒させる清次に、「急にぶちたくなったから」と言い放つお紅。さらに、いつまで私を姉さんと言ってるの! と激しく追撃をかけてきます。一見とばっちりに思えますが、しかし、江戸に帰ってきたにもかかわらず過去の約束に拘泥して香炉探しを優先する佐太郎も、そんな佐太郎への引け目か遠慮か、お紅を慕いながらも姉と呼ぶ清次も、己の想いに浸っているばかりで肝心のお紅の気持ちは考えないという点では同様と言えるでしょう。
 この辺り、男性視聴者はむしろ佐太郎たちの方に感情移入していたのではないかと思うのですが――そこに思い切り冷や水を浴びせかけるのは、さすがというべきでしょうか。

 それはさておき、当惑が隠せない清次は一度退散すると、お花の茶屋ですっかり顔なじみとなった面々――勝三郎・早苗・幸之助・お花・半助相手に嘆き節ですが、尋常でないニブチンの幸之助を除けば、皆には清次のお紅への気持ちも、お紅が怒っている理由もバレバレ。挙げ句の果てには勝三郎から、第1話でアドバイスした「綺麗だと言っておあげなさい」という言葉を返される始末……
 と、そこに駆けつけた権平から、佐太郎の母が奉行所に届けたことで大事となってしまったと聞かされる清次。しかしなおも佐太郎の手がかりはなし――と、そこで清次とお紅は閃きます。

 それはこれまでの物語で何度も繰り返されてきたこと――つくもがみたちを貸し出しての情報収集。しかし今までと異なるのは、初めて二人がつくもがみに力を貸して欲しいと頼んだこと――そしてつくもがみたちもまた、人間である二人に話しかけられたのを無視せず、手を貸すと答えたことであります。
 そしてそのつくもがみをあちこちに貸し出すように頼まれたのは、先ほど茶店で会っていた面々。二つ返事で引き受けた彼らの手により、つくもがみたちは江戸の方々へ……

 というこのくだり、実に最終回らしく良い展開であります。実はこの清次とお紅がつくもがみに直接語りかけるというのは原作通りですが、しかしそちらではむしろお紅は飴と鞭でつくもがみを動かそうという展開で、つくもがみたちも意気に感じたりせず、表向きは無視したままという形でした。そしてつくもがみたちを貸し出すのも、清次とお紅自身の手で――と、これはオリジナルキャラが大半なことを考えると当然かもしれませんが、しかし大きな違いと言えるでしょう。
 そう、ここで描かれたのは、本作において清次とお紅がこれまで培ってきた絆が生み出したもの。人であれつくもがみであれ、これまでの二人の想いと言葉に応えて、皆が動いてくれたということにほかならないのであります。

 そしてつくもがみたちの聞き込みで、とある質屋の倉に七曜があることを知った清次は、一緒に行くというお紅を留め、連絡係の野鉄(いつも嫌がっているのが、今回はやる気になっているのもいい)とともに質屋に急ぎます。そして倉まで来た清次は、中から助けを求める佐太郎の声を聞くのですが――そこで後ろから何者かの一撃を受け、意識を失ってしまうことに……


 と、Aパート終了のこの場面で、長くなってしまったので次回に続かせていただきます。


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2018.10.09

『つくもがみ貸します』 第十一幕「似せ紫」

 早苗の周りにかつての男の影があるのではと心配する勝三郎に相談された清次。弱った清次は半助に相談し、半助は勝三郎と早苗、さらに幸之助やお花を招いて茶会を開く。その席で男女の間には心の平静を保つことが一番必要と説く半助の話に閃いた清次は、ついに消えた蘇芳の在処を見つけだすことに……

 台風で一週放送延期となったためでもないでしょうが、月夜見が貸し出された先のつくもがみ・猫神に本作の基本設定を語るアバンから始まる今回、その場にもう一人、佐太郎が主人だったというつくもがみ・黄君が現れて――という場面から変わり、またもや勝三郎の相談を受ける清次が描かれます。
 勝三郎との縁談の前、心を寄せた男性がいた早苗。その男性は既に他の女性と結婚したのですが、最近、勝三郎は早苗の屋敷の近くでその姿をみかけてしまったのであります。もしやまだ二人の間に何かが――と気が気ではない勝三郎ですが、それを相談される清次こそいい面の皮。お紅に話しても、早苗と仲の良い彼女に一喝され、弱った清次は第八幕に登場した半助に相談するのでした。

 なるほど、女性の心も男性の心もわかり、恋愛については過去に色々あった半助は適任ですが、彼は清次の相談を二つ返事で引き受けると、勝三郎と早苗、さらに幸之助やお花を招いて茶会を開くことになるのですが――幸之助とお花を呼んでいいの、と気遣う清次に、今は幸之助を鍛えるのが楽しくて仕方ないというようなことを答える半助はまじ神様のような人であります。

 さて清次が出雲屋に帰ってみれば、貸し出されていた品川から帰ってきた月夜見が、黄君から聞いた過去の出来事を語ります。かつて婚約者のお加乃から贈られた蘇芳の香炉が消え、彼女と結婚せざるを得ない立場に追い込まれた佐太郎。そんな彼のために、お紅はかつて佐太郎の母から託された櫛を元手に(清次が懸命にわらしべ長者戦法で)稼いだ80両で、蘇芳と同じ作者の同型の香炉を買い、それを持って帰るように告げたのでした。
 しかしそれは同時に、お紅が佐太郎の母の試験に不合格になるということでもあります。それを受け入れられぬ佐太郎は、二人の目の前でその香炉を割り(当然清次は激高しますがそれもごもっとも)、一旗揚げて帰ってくるので待っていてほしいと告げて、一人江戸を去ったのです。そこから先、佐太郎がどうなったのか――それは路銀を作るために品川で売られてしまった黄君には預かり知らぬことであります。

 それはさておき、半助主催の茶会は終始和やかなムードで進み、半助は清次のフリに答え、男女の仲を壊さぬための大事な方法について、知り合いの話という態で、かつての自分が経験した出来事を引いて語り始めます。
 かつて遊女から煙管(五位)を贈られた男(半助の夫)。妻(半助)からその煙管を隠していた男ですが、いつの間にか煙管はそこから消え、それを知った遊女から男は責められることになります。ついには事を明らかにされたくなければと、半ば脅される形で男は妻と離縁し、遊女と一緒になったのですが――と、何だかどこかで聞いたようなシチュエーションですが……
 実はこの一件、煙管を隠し場所から盗んだのは遊女自身という恐ろしい真実があったのですが、このことから半助は、男女の間で最も大事なのは心の平静を保ち、伝えるべきことを伝えることだと説きます。男を手に入れるために自作自演の挙に出た遊女も、秘密の存在を脅されて離縁に至ってしまった男も、平静さが足りなかった――と、笑って語る半助はもの凄い平静さの持ち主だと思いますが(そしてその言葉を聞いて突然お花に告白する幸之助は相変わらず平静さゼロ)。

 何はともあれ、勝三郎も早苗に平静に問いかけ、向こうの男の独り相撲だと確認して一件落着ですが――ここで清次が閃きます。
 先ほどの半助の話が、平静さを失った女性の自作自演がきっかけだとすれば、蘇芳の件も――と、お加乃の実家に向かった彼は、第九幕に登場した権平の協力で、店の倉から箱が無く袱紗に直接包まれたモノを見つけだします。はたしてそれは佐太郎のもとから箱だけ残して消え失せた蘇芳ではありませんか! そしてその場に現れたお加乃から、佐太郎のもとを訪れた彼女が蘇芳を持ち出し、乳母に密かに持って帰らせていたことが語られ、かつての謎は解けたのであります。

 そしてその晩、料理屋・鶴屋には二人の客が。うち年長の男は、もう一人の若い男を佐太郎と呼んで……


 予告を見ればオリジナルエピソードかと思いきや、実は本作最大の謎である蘇芳消失の謎解き回でもあった今回。本作の裏テーマとも言うべき男女の間柄に絡めて清次が真相に気づくのは面白いのですが、実は原作ではもう一ひねりしてあったトリックが、ここでは非常に単純なものになっていたのが、何とも残念なところではあります(原作ではそこに哀しい人間心理が絡んでいただけになおさら……)。


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2018.09.26

平谷美樹『伝説の不死者 鉄の王』 伝説再臨 鉄を巡る驚愕の伝奇SF開幕


 昨年刊行され、作者ならではの鉄を巡る壮大な伝奇世界を描いてみせた『鉄の王 流星の小柄』。本作はその外伝にして前日譚、そして新たなる物語の始まり――前作に登場した謎の女、歩き蹈鞴衆の多霧の少女時代の冒険を描く、驚天動地の時代伝奇SFであります。

 歩き蹈鞴衆の一つ、橘衆の村下(頭)の長女である多霧。鉄を求めて一人山中を探索していた彼女は、越後山野領の山中で、別の蹈鞴衆が何者かに虐殺された現場に遭遇することになります。
 その場で生き延びていたのは、瀕死の深手を追った青年一人のみ。必死に青年の手当をする多霧ですが、しかし目を離した隙に、動ける状態でなかったはずの青年は「俺に関わるな」の言葉を残して姿を消してしまったのでした。

 消えた青年の身を案じながらも、一族のもとに帰った多霧。しかしそれを機に、橘衆は謎の武士たちの監視を受けることとなります。そしてついに始まる武士たちの襲撃――その混乱の中で、多霧は母と兄の一人を喪うこととなります。
 家族の仇を討つべく、怒りに燃えて城下に潜入した多霧。やがて彼女は、全てが伝説の不死の者・無明衆を求めての企てであることを知るのでした。

 そして生き残った橘衆たちとともに、仇の武士たちに決戦を挑む多霧。しかしその最中に、事態は全く予想もしなかった方向に動き出すことになります。
 山野領を揺るがす大異変の正体とは……


 前作においては、鉄と蹈鞴衆にまつわる陰謀を追う浪人・鉄澤重兵衛の前に現れ、彼を時に助け、時に導く形で暗躍した多霧と橘衆。
 その約10年前を舞台とする本作は、まだ多霧が13歳の少女であった時代――鼻っ柱は強く、負けず嫌いでありながら、まだ本当の修羅場を知らない多霧の姿が描かれることになります。

 実は作者の作品には、女性が主人公の作品、女性が活躍する作品が少なくないのですが、本作の多霧もその系譜に属するキャラクターであることは間違いありません。

 決して恵まれた生まれや暮らしでなくとも、その身に誇りを持ち、己の想いに真っ正直に生きる多霧。その姿は紛うことなき平谷ヒロインといえます。
 そんな彼女の活躍は、決して明るいばかりではない――それどころか、もしかすれば作者の作品でも屈指の量の血が流れる――本作に、大きな躍動感を与えていると言えるでしょう。
(もっとも、その少女時代の一つの終わりもまた、本作は描くのですが……)


 しかし本作はそれ以上に、凄まじいまでのスケールを持つ時代伝奇、いや伝奇SFでもあります。

 多霧たち蹈鞴衆――すなわち、製鉄の技を継ぐ者の間に語り継がれる伝説。それはかつて高天原から転がり落ちた神の鉄に触れて鉄の秘密と不老不死の体を手に入れ、人々に鉄を授けたという無明衆の伝説でありました。
(前作において、傷の治りが異常に早い重兵衛に、多霧が大きく心を動かす場面があるのですが、なるほど――と感心)

 彼らこそは本作のタイトルである「伝説の不死者」、本作の全ては、すなわち多霧の戦いは、その力を手に入れんとした者たちの暴挙から始まったと言えるのですが――しかし物語後半で、本作は驚くべき真実を描き出すことになります。
 その詳細はさすがにここで述べるわけにはいかないのですが、しかし登場人物たちのほとんどが、そしてもちろん我々読者が、真実のごく一端しか見ていなかったことを示す展開は驚天動地の一言。終盤のカタストロフィは、ここまでやるか!? と言いたくなってしまうほどのスケールであります。

 前作を紹介した際に作者のサイエンス・テクノロジー志向/嗜好について触れましたが、本作で描かれるのはSF作家としてスタートした作者が、その初期作品で描いてきたものに繋がるものである――そう言ってもよいのではないでしょうか。


 少女の成長と痛快な活劇(多霧の父が橘衆の根城を「梁山泊」と評するのにもニヤリ)、そして壮大な世界観――紛れもなく作者の作品でありながら、さらに新しい段階に踏み込んだことを感じさせる、壮大な物語の始まりであります。


『伝説の不死者 鉄の王』(平谷美樹 徳間文庫) Amazon
伝説の不死者: 鉄の王 (徳間時代小説文庫)


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2018.09.25

『つくもがみ貸します』 第十幕「檳榔子染」

 実は20両もの借金があった出雲屋。清次が一ヶ月後に迫った返済期限に頭を悩ます中、うさぎの櫛をどんな高値でもいいから売って欲しいという侍が現れた。借金の存在を知ったつくもがみたちは、うさぎが売られてしまうのではないかと色めき立つが、そこにおかしな霊媒師が現れて……

 いきなり怖そうなおっさん相手に頭を下げている清次。どうやら清次は父の知り合いだというこの越中島の網元に借金をしているようですが――その額なんと20両というからかなりのものであります。店の品物を売ってはどうかという網元の言葉に首を縦に振らず、頼みに頼んで来月まで待ってもらうことになった清次ですが、網元ももう次はないと最後通牒の状態です。
 清次がそんなことになっているとは知らず、店にうさぎの櫛を返しに来た早苗と楽しく語らっていたお紅。ところがその櫛を目にした一人の侍が、お紅と清次に思わぬ提案をしてくるのでした。

 その侍――高田藩の勤番武士である上川は、故郷に残してきた娘が買い与えた櫛をなくして悲しんでいると知り、土産にうさぎの櫛を買いたいと言ってきたのであります。しかし金に糸目はつけないと言われても、店の品物を、特につくもがみの品を売れるはずもない二人。特にうさぎの櫛は、先ほど早苗が三両で買うと言っても断ったほどなのですが――よほど欲しかったのか、上川は自分の脇差しと交換しても良いと言い出します。
 上川は8両と言っていた脇差しですが、清次の目利きでは15両もの値がつくという品。清次にしてみれば渡りに船の話ですが――お紅に借金のことを切り出すことができません。

 そんな清次の様子を訝しんだお紅は、うさぎの櫛(と、いつものことながら、つくもがみ代表として後をつけることとなった野鉄)を身に着けて外出。お紅は、独り言の態で、先日つくもがみたちが話していた佐太郎との過去の出来事の続きを語りだします。
 蘇芳の香炉が亡くなる直前、大火で店を失い、父親も喪ったお紅。そんな彼女を助けるため、佐太郎が蘇芳の香炉を売ってその代金を与えたのではないか――という疑いのことは以前も語られましたが、そのことを、佐太郎自身がお紅に語っていたのであります。お紅への想いもあってどうしてもお加乃との縁談を受け容れられないが、しかし蘇芳の香炉を紛失したために断るわけにはいかない――板挟みとなった彼は、江戸を出ると彼女に告げたのでした。

 お紅は、清次がわらしべ長者作戦で手に入れた80両のかんざしを売り、蘇芳と同じ作者の香炉を買って佐太郎に渡そうと考えるのですが――いやいや、いくらその前に清次がお紅の望むことに使っていいと言ったからといって、さすがにそれはどうなのかと思いますが、それでもOKを出す清次はマジいい人と言うほかありません。

 そんな清次が自分に隠し事をするなんて――と、冷静に考えれば酷いことを言うお紅。そんな彼女のために清次の隠し事を調べたいといううさぎの願いに応え、つくもがみたちは調べに当たります。そしてついにあの借金のことがバレてしまったのですが――最初1両だったのが20両になっていたとは、網元もとんだ鬼畜野郎であります。
 何はともあれ、清次が借金返済のためにうさぎを売るつもりだと思った野鉄はエキサイト、しかしうさぎはつくもがみである前に櫛でありたいと、悲壮な決意を固めるのでした。

 そしてその翌日、出雲屋を訪れる上川。しかしその傍らには、数日前から店を窺っていた霊媒師を自称する男がついていました。この男、上川やお紅から怪しい気配を感じて店に訪れたというのですから、それなりの能力を持つのでしょうが――激怒したうさぎたちの攻撃を受けてあっさりKOされるのでした。
 事ここに至り、上川につくもがみのことを打ち明ける清次。つくもがみはとても大切な隣人だ、だから櫛は売れないと語る清次に、上川は家族と離れるのは辛いことだろうと快く納得、秘密を守ると語るのでした。

 しかし借金は相変わらず――さてどうするのか、というところで以下次回であります。


 過去話を除いてはオリジナルエピソードだった今回、本作ではこれが定番のスタイルとなった感がありますが、あと今回を除いて残り2話で完結するのか、少々心配になってきました(次回もオリジナルのようですし)。

 それはさておき、今回は清次の本心を探るという展開――借金のことは途中まで伏せておいた方が効果的だったような気もしますが、清次の態度に悩むお紅が、うさぎ(と野鉄)に問わず語りに話す場面は、人間とつくもがみが馴れ合わない本作だからこその味わいがあった、なかなかの名場面だったと思います。

 しかし冷静に見れば、清次に対してお紅は酷いことばかり言ったりしたりしている印象は否めないのですが――さて。


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2018.09.21

『つくもがみ貸します』 第九幕「秘色」

 蘇芳の香炉を探す人物と鶴屋で出会ったつくもがみたち。かつて蘇芳は佐太郎のもとから失われ、彼が蘇芳を売り払って焼け出されたお紅に与えたのではないかと噂が流れたが、彼はお紅の前からも姿を消してしまったのだ。お紅の頼みでその人物を探す清次は、蘇芳が失われた時の模様を知るのだが……

 今回も原作由来のエピソード。物語冒頭から言及されていた蘇芳の香炉にまつわる因縁が、ようやく明かされることになります。

 以前登場した鶴屋に貸し出されたお姫と月夜見。そこで二人は浅川屋の主人と梅川屋の若旦那の会話を聞くことになります。その会話は、お紅も探してきた蘇芳の香炉にまつわるもの。梅川屋もまた、蘇芳の行方を探しているというのですが――
 出雲屋に帰ってきて、小芝居で蘇芳の香炉にまつわる因縁を説明し始めるつくもがみたち。以前、蘇芳の香炉は飯田屋の長男・佐太郎の許嫁であった住吉屋のお加乃から彼に贈られたものであったものの、佐太郎はお紅に熱を上げるばかり。佐太郎の母から、佐太郎の嫁になりたくば櫛から大金を作ってみせろと言われたお紅は、お加乃への意地もあって(清次が)奮闘することに……

 と、櫛の話はさておき、佐太郎のもとから消えてしまったという蘇芳。折しも大火で店を焼け出されたお紅に対して、佐太郎は蘇芳を売り払った代金を与えたのではないか――と噂が流れ、佐太郎の母(何故か五位が演じるのがおかしい)はお加乃との縁談を急いだものの、今度は佐太郎が消えてしまったというのであります。
 世間では佐太郎とお紅が駆け落ちしたのではないかと噂したものの、もちろん真実はそうではなく、お紅は蘇芳と佐太郎の行方を探していたというのであります。今頃になってまたその話を聞かされたお紅は、梅島屋の若旦那こそが佐太郎ではないかと、清次に調べるように頼むのですが、もちろん清次の心中が穏やかなわけがありません。

 何はともあれ鶴屋を訪ねた清次ですが、梅川屋は初めて来た客とのことで鶴屋もわからない。そこで浅川屋を訪ねた清次ですが、佐太郎の名を聞いて顔色を変えた浅川屋は、居合わせた青年・権平を呼び、清次を梅川屋に案内するように申しつけます。そこで梅川屋を訪ねた清次ですが、番頭に訪ねてみれば、若旦那は確かに飯田屋の出身だと言うではありませんか。
 ここで飯田屋にも顔が利くという権平
(有能)に引っ張られて今度は飯田屋に向かう清次ですが、そこでわかったのは、飯田屋の息子は息子でも、梅川屋に行ったのは次男の方。佐太郎に弟がいたのか、と驚く清次ですが、佐太郎の名はいまだに飯田屋ではタブーとなっている様子であります。

 これではとても佐太郎のことは聞き出せそうにないと落ち込む清次ですが、何故か親身に手伝ってくれる権平と話す間に、いつもの手でいこうと思いつきます――そう、無料貸し出しセールでつくもがみを潜入させて情報を集めようと。
 そして早速情報を集めてきたつくもがみたちですが――蘇芳がなくなった日、お加乃が佐太郎を訪ねてきたものの、彼女が来る前には蘇芳は確かに箱に収められていたとのこと。そしてその後、お加乃が訪れた時に佐太郎は部屋におらず、庭に案内された彼女が佐太郎とともに部屋に戻ってみれば、その時には蘇芳は消えていたというのであります。
 ちなみに二人が庭にいる間、佐太郎の部屋から煙草を拝借しようと忍び込んだ使用人の証言によれば、その時には既に蘇芳はなかったというのですが――わかったのはそれだけ、であります。

 その後、出雲屋を訪ねてきた権平から、彼が住吉屋の――すなわちお加乃の実家の――番頭であると聞かされる清次とお紅。お加乃はいまだに佐太郎のことを引きずっており、大叔父に当たる浅川屋から頼まれて、権平が佐太郎を探していたというのですが――同病相哀れむ清次はそれだけではないと見抜きます。権平がお加乃を想っていると……

 結局過去の真相は全くわからず、さすがのお紅も清次たちに無理をさせてばかりと反省。そして清次も、自分は謎解きができると思っていたがそれはうぬぼれに過ぎなかったとこれまた反省。湿っぽいムードのまま、今回は終わります。


 冒頭に述べたとおり原作ベースのエピソードである今回、内容はほとんど原作に忠実ながら、なんと原作の謎解き部分まで今回は描かないという、ちょっと意外なアレンジ(?)であります。原作ではこの謎が物語中盤で解明されるのですが、アニメでは終盤まで引っ張るのでしょう。
 それにしても飯田屋に浅川屋に梅田屋に住吉屋と、○○屋ばかりでかなりややこしい……


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 「つくもがみ貸します」 人と妖、男と女の間に
 畠中恵『つくもがみ貸します』(つばさ文庫版) 児童書版で読み返す名作

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2018.09.16

『つくもがみ貸します』 第八幕「江戸紫」

 近江屋の幸之助から、海苔問屋の淡路屋半助のことを調べて欲しいと頼まれた清次。商売は巧みで容姿端麗、人当たりも良い半助だが、何故か幸之助に良くしてくれるのだという。そこで調べてみれば、海苔問屋を始める5年前より前の経歴は謎に包まれている半助。しかし思わぬところからその手がかりが……

 もう完全にレギュラーになった感のある幸之助から、海苔問屋・淡路屋の主である半助のことを調べて欲しいと依頼された清次。丁度損料屋を探していた半助に出雲屋を紹介してくれたということで、早速半助と対面することになる清次ですが――これがいかにも本作らしい面白デザインのキャラながら、お姫やうさぎ、お紅までも頬を赤らめてしまうほどの美形であります。が、そこで五位だけは、怪訝そうな顔で半助を見つめるのですが……

 それはさておき、今度旦那衆で川下りの遊びをする際に、扮装をするための衣装や小道具を貸して欲しいという半助(現代でいうハロウィンパーティーのようなもの、というナレーションの解説がおかしい)。さらに半助は幸之助と仲の良い清次たちも川下りに誘います。そして綺麗どころを集めて賑やかに始まる川下り、花魁(?)姿のお花、盗人姿のお紅の姿が実に可愛い――というのはともかく、自分を「お大尽」と呼ばせてにこやかに遊ぶ半助は、確かにその名に相応しい姿です。
 その川下りの途中、千住名物だというおばけ櫓――角度によって4つの櫓が2つに見えたり3つに見えたりというどこかで聞いたようなもの――が好きだと語る半助に、何気なく五位のキセルを渡す清次。しかし半助はその模様を見て明らかに表情を変えるのでした。

 そんなことはあったものの、その日は楽しく終わり、清次にも相場の倍の価を気前よく支払う半助。こんなにいただくわけにはいかないと、代わりに店の品物を貸すことにした清次ですが――その中にはつくもがみたちが混じっていることは言うまでもありません。そして情報を聞き込んできたつくもがみたちですが――そこには半助の過去の話は一つもなく、聞こえてくるのは今現在の話ばかり。どこから来たのか、これまで何をやっていたのか、親類縁者の話なども何一つないというのであります。
 5年前に浅草に身一つで現れ、海苔を売り始めて瞬く間に身上を築いたという半助。しかしまるで過去がないように、誰もそれ以前のことを知らない――そんな半助が自分に、自分と縁のあった清次にまで非常に良くしてくれることに幸之助が困惑したことが、今回の依頼のきっかけだったのであります。

 そんな中、つくもがみたちに過去の苦い思い出を語る五位。ある芸者に買われた五位は、彼女が懸想していた妻ある男に贈られ、男は妻を捨てて芸者のもとに走る結果になりました。しかし一時の情熱が冷めた頃、男はかつての妻が食卓に出していた海苔が、どれだけ精魂込めて焼いてあったか気付いたと……
 その出来事が5年と少し前のこと、そして妻の行方は誰も知らないと聞いた清次は、何かに気付いたように、五位を手に半助のもとを訪れます。そしてこのキセルに覚えがあるのではないか、と問う清次を、半助は二人きりで川下りに誘うのでした。

 船の上で、自分が女――あの五位の昔話の夫に去られた妻であることを認める半助。親類縁者に合わせる顔がないと姿を隠し、髪を落として男を装った彼女は、生計のために海苔を売り始めたのであります。しかし親が海苔漁師であったためか商売は大当たり、そんな中で幸之助と出会った彼女は、彼に恋してしまった……
 清次に真実を語った半助は、しかしこの先も半助として生きていくと語ります。半助と清次が見つめるお化け櫓の姿は、その時々で様々に姿を変える半助の姿なのか、あるいは人生の有為転変を映したものか……


 オリジナルエピソードだったものの、全く過去がないというちょっとゾッとさせられるような人物や、その人物が抱えた哀しい過去と屈託の存在など、ある意味これまでで最も原作――というか原作者のテイストが感じられる内容だった今回。
 半助のその後の姿が描かれることなく、二人が黙って川を下る姿で終わるのも、何とも言えぬ余韻を感じさせてくれます。

 しかし、いかに海苔に親しんでいたとはいえ、素人が5年で大店の主にというのはやはり違和感が大きいですし、何よりも今回の物語の象徴であるお化け櫓が、あからさまにお化け煙突――すなわちこの時代に存在しないもの、というのは残念ではありますが……

 ちなみにどう聞いても美青年の声にしか聞こえない半助役は、美青年を演じたら右に出る者がいない女性声優・斎賀みつき。なるほど、と納得するとともに、ある意味ネタバレ的キャストなのがちょっと面白いところです。


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 畠中恵『つくもがみ貸します』(つばさ文庫版) 児童書版で読み返す名作

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2018.09.15

畠中恵『つくもがみ貸します』(つばさ文庫版) 児童書版で読み返す名作


 現在アニメ放送中の『つくもがみ貸します』、アニメ紹介のためには原作も再読しなければ――と思ったのですが、以前紹介した作品をただ再読してもつまらない、というわけで、角川つばさ文庫版を再読いたしました。

 角川つばさ文庫はKADOKAWAの児童文学レーベル――他社の児童文庫同様、新書サイズの書籍に大きめのフォントとふりがなの本文、豊富なイラストというスタイルのレーベル。オリジナルの作品だけでなく、過去に一般向けに刊行されたSF・推理小説、ライトノベルのリライトも数多く(個人的な感覚では他社の児童文庫よりも多い印象)収録されています。
 それだけにこの『つくもがみ貸します』の収録も特に意外ではないのですが、しかし物語的には男女の関係の機微が中心にあるだけに、大丈夫なのかな――と思えば、ほとんどそのままの内容となっていたのには好感が持てました。(ちなみに対象年齢は「小学校高学年から」)

 ただ一箇所すぐ気付いたところでは、第1話に登場する深川の遊女・おきのの説明が「深川の旅籠で働いている女性」となっていた辺りは、苦労というか限界というかを感じましたが……


 さて、そんなわけで内容的には原著と全く変更のない本書。すなわち、深川の損料屋兼古道具屋・出雲屋を営むお紅と清次の姉弟が、店の気難しくも好奇心旺盛なつくもがみたちとともに、つくもがみや古道具絡みの事件に挑む以下の全5話が収録されています。

 格上の家に婿入りすることになった武士から、先方より譲られた根付けが足を生やして逃げ出したという事件の背後に潜む人の情を描く「利休鼠」
 料理屋を開こうとする男が居抜きで買った家に出没する幽霊。出雲屋のつくもがみ・裏葉柳は、その幽霊が自分の恋人ではないかと言い出して……「裏葉柳」
 お紅に想いを寄せる若旦那・佐太郎が別の女性から譲られたものの、いつの間にか消え失せ、佐太郎がお紅のために売ったと噂になった蘇芳の香炉。その手掛かりを掴んだ清次が、かつての謎を解く「秘色」
 かつて嫁入りしたくば佐太郎に贈られた櫛を使って大店を立て直すほどの金を用意してみせろと、佐太郎の母に挑まれたお紅。お紅と助ける清次、佐太郎の過去が語られる「似せ紫」
 四年ぶりに江戸に帰ってきたものの、お紅の前に現れず、行方不明となった佐太郎を探す清次。煮え切らない男たちに対するお紅の想いの行方が明かされる最終話「蘇芳」

 いずれのエピソードも、人間の起こした事件につくもがみが関わり、そして清次がつくもがみを利用してそれを解決するミステリ仕立ての内容。
 しかし清次とつくもがみが、単純な友人関係ではなく、ましてや使役される間柄でもないというのが、読み返してみても実に面白いところであります。

 あくまでも人間は人間、つくもがみはつくもがみ――両者は厳然と分かたれているものの、しかし同じ世界に住む隣人同士。面倒な間柄をどうクリアして事件の謎を解くか、という関係性の面白さは、そのまま清次とお紅という人間同士、いや男と女の関係性に重なっていくというのが、本作の何よりの魅力でしょう。

 もちろんこの児童文庫版の読者がその構図をストレートに読みとれるかはわかりません。
 しかし単純に妖怪ものとして見ても、身の回りの(もちろん江戸時代の、という限定付きですが)品物がつくもがみとなって動き、話し出すというのはやはり楽しく、一種マスコット的なつくもがみたちのキャラクターを見ているだけで、十分以上に楽しめるのではないでしょうか。

 少なくとも、大の妖怪好きだった(これは現在進行形ですが)子供の頃の自分が読んだらさぞかし夢中になったに違いない――そう感じます。


 ちなみに、本作は全5話のうち、半分以上の3話が、佐太郎と蘇芳の香炉にまつわるエピソード。第2話のラストから蘇芳が登場することを考えれば、物語の大半がこのエピソードに繋がることになります。
 これはもちろん、本作がそういう作品であるということであり、初読の時は全く気にならなかったのですが、今読み返してみると、それだけで終わるには勿体ない設定とキャラクターであったと感じます。

 現在放送中のアニメ版は、かなりのエピソードがオリジナルなのですが、原作の話数が少ないという以上に、原作の可能性を広げるという意味で、これも正しい方向性だな――と再確認した次第です。


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つくもがみ貸します (角川つばさ文庫)

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2018.09.12

芦辺拓『帝都探偵大戦』(その三) 探偵たちの本質と存在の意味を描いた集大成


 芦辺拓による夢の探偵クロスオーバーの紹介の第三回、最終回であります。探偵小説ファンであれば垂涎の内容である一方で、個人的には不満点もあった本作、しかし本作にはそれを上回る魅力が……

 と、前回は私にはしては珍しく色々と厳しいことを申し上げましたが、しかしそれでもなお、本作が魅力的な、そして何よりも時代性というものを濃厚に漂わせた作品であることは間違いありません。
 いわゆるクロスオーバーものとしての楽しさに留まるものではない本作の魅力、本作の真に優れたる点――それは、こうした数々の探偵たちの活躍を通じて、その時代ごとの探偵の概念、その存在する意味を問い直している点にこそあると、私は感じます。

 科学捜査の概念も、それどころか近代的な法も警察制度もなかった時代に、目に見えぬ真実を解き明かすことによって悪事を暴き、正義を行う存在として登場する「黎明篇」。
 個人の犯罪は表向き存在しないこととなり、探偵が国事に関わることによってのみ認められる時代に、その国家による巨大な犯罪とも言うべき行為に最後の反抗を見せる黄昏の存在として描かれる「戦前篇」。
 輝かしい民主主義と自由の象徴、そして戦後の新たな時代の象徴であると同時に、その時代の光に取り残され、闇の中に苦しむ人々を救う存在として、復活した勇姿を見せる「戦後篇」。

 同じ「探偵」と呼ばれる存在であり、推理によって謎を解き、悪と戦う姿は同じであっても、その立ち位置――社会との関わりは、このように大きく異なります。
 先に同じような構成が続くと文句を言った舌の根も乾かぬうちに恐縮ですが、実にこの構成の繰り返しは、この差異をこそ描くためのものではなかったか、というのは言い過ぎかもしれませんが……

 そして、こうした探偵の姿は、時代時代における「理性」の――より巨大な存在に対する人間個人を支えるものとしての――存在を象徴するものであると感じられます。

 現代的な合理精神が生まれる前の萌芽の姿、全てが巨大な時代の狂気の前に押し潰されていく中で懸命に抗う姿、そして輝かしい新たな時代の中で再生し、時代を切り開く姿……
 探偵は推理によって謎を、すなわち一種の理不尽を解決する存在であると同時に、歴史の中の理不尽に挑む人間の理性の象徴、さらに言えば証明であると、本作は高らかに歌い上げていると――そう感じます。

 そしてその中で、そんな探偵を、理性を押し潰していく時代と社会のあり方に、強く批判的な眼差しを向ける骨っぽい「社会派」(という表現は怒られるかもしれませんが)ぶりが浮き彫りとなっているのも、好ましいところであります。


 作者の愛する探偵たちをこれでもかと集め、そして作者一流の技でもって探偵たちを生き生きと動かし、そしてそれを通じて探偵たちの本質を、存在の意味を描く。
 もちろん賑やかで豪華なお祭り騒ぎであることは間違いありませんが、しかし決してそれだけでは終わるものではなく、本作は極めて作者らしい、意欲的で挑戦的な作品なのであります。
(というより、探偵の本質を描くためのサンプルとしても、これだけの探偵の数が必要だったのではないか――とも感じます)

 先に述べたように個人的に不満な点はあるものの、それらも含めて、現時点の――作家生活30年も間近となった――作者の集大成と言うべき作品であることは間違いありません。


『帝都探偵大戦』(芦辺拓 創元クライム・クラブ) Amazon
帝都探偵大戦 (創元クライム・クラブ)

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2018.09.11

芦辺拓『帝都探偵大戦』(その二) 野暮を承知で気になる点が……


 登場探偵数50人の夢のクロスオーバーの紹介の第二回であります。作者ならではの魅力に溢れた物語ではありますが、しかし……

 しかし、いささか厳しいことを申し上げれば、賞賛すべき点だけではないのもまた、事実ではあります。

 例えば、物語の構成。次々と登場する探偵たちがそれぞれ謎と怪事件に遭遇し、その次の探偵が、そのまた次の探偵が――と連鎖を続け、終盤になってそれが一つの巨大な事件の姿を現し、探偵たちが悪と対決して真相を明らかにする……
 その構成が三つの物語でほとんど全く変わらないのは――もちろんその内容は様々であり、そして複数回繰り返されるのを除けば、この展開自体が探偵ものの定番ということを差し引いても――続けて読んだとき特に、厳しいものがあると言わざるを得ません。
(しかしこの構造こそが――というのは後ほどお話いたします)

 そしてこれはクロスオーバーものの宿命ではありますが、登場する探偵のチョイスにも、いささか首を傾げるところがあります。

 まず気になるのは横溝作品の少なさ。金田一耕助はこれまで幾度も活躍してきたから良いとしても、その分ほかの横溝探偵が登場してもよいのではないかと思います。例えば何故か五大捕物帖で唯一登場しなかった人形佐七、もう一人の横溝探偵たる由利先生と三津木俊助……
 特に後者は、「戦後篇」で大きな位置を占める少年探偵役として御子柴進もいるだけに、登場しなかったのが残念でなりません(山村正夫のリライトネタも入れられるのに……)。

 そしてまた、本作で「戦争」が大きな意味を持つのであれば、坂口安吾は欠かせなかったのでは、と個人的には思います。結城新十郎は時代設定が合わないとしても、巨勢博士などキャラクター的にも、他の探偵と絡めれば実に面白かったのでは、と感じます。
 もちろんこの辺りは許可の関係など色々と事情があることは容易に想像ができるところであり、素人が軽々に口を出せるものではないところではありますが……


 が、野暮を承知で個人的に最もひっかかったのは(そして言わないわけにはいかないのは)黎明篇の顔ぶれです。
 ここに登場した探偵たちの大半は江戸時代後期から幕末にかけて活躍した捕物帖ヒーローなのですが、その中でむっつり右門のみは江戸時代前期で、これはどうしても重ならない。銭形平次のような例があるので一概には言えませんが、やはり矛盾ではあります。

 これが五大捕物帖の主人公を揃えるため、というのであれば納得ですが、上述の通り人形佐七がいないわけで、これはやはり大いに首を傾げてしまうところであります。
(これはあとがきにある「キャラクターと時代との関係をシャーロッキアン的に厳密には詰めないということ」とは、その例示を見れば別の次元の問題とわかります)

 正直なところ、これが他の作家であれば、ああお祭り騒ぎだから――とスルーしてしまうのですが、ここでネチネチと絡むのは、作者であれば何か理由があるに違いない! とこちらが期待していたゆえ。
 何しろ異次元でもスチームパンクでもロストワールドでも、きっちりと整合性をつけてくれたのだからきっと――と勝手に思いこまれたのは、これは作者にとっては災難かもしれませんが……

 しかし本来であれば異なる世界に属する者たちが集うクロスオーバーものにおいては、その世界観と設定、すなわち元の作品の「現実」との整合性が大きな意味を持つ――その意味でクロスオーバーものは時代伝奇的である、というのはここではおいておくとして――のは間違いない話。
 何よりも一連の金田一VS明智ものでそれを体現してきた作者であれば、そこは実現して欲しかった、というのは強く感じます。

 もっともこの辺りは、文字通り「黎明」の語が示すとおり、いまだ「推理」も「探偵」も明確に存在しない、現代の探偵たちの時代と対比しての近代以前のプレ探偵時代として、一括りにしているのだということはよくわかります。
(江戸時代前期が舞台だからミステリとしての構造が甘く、幕末だからしっかりしている、というわけではもちろんないわけであります)

 また、発表年代と作中年代が極めて近い、いわばリアルタイムの作品であった戦前篇と戦後篇の原典とは異なり、黎明篇の作品は、明確に過去を振り返る物語であり、その点では等しい世界に存在しているとも言えるのですが……


 と、言いたい放題のところで恐縮ですが、次回に続きます。


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帝都探偵大戦 (創元クライム・クラブ)

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