2017.03.24

『風雲ライオン丸』 第10話「うなる大砲 怪人ズク」

 オランダ渡りの巨砲を奪い、途中で虐殺を繰り返しながら目標である堺に向かうズク。後を追う獅子丸は、対決を望んでマントル側についた豹馬を一蹴して先に進む。なおも獅子丸の後を追う途中、ズクの非道を目の当たりにした豹馬の心に去来したものは。そして巨砲の標的となった獅子丸の運命は……

 オランダ渡りの巨砲を家老と名乗る男に引き渡すため輸送してきた武士の一団。しかし家老は身の証を求めた武士の目に斬りつけ、残る武士たちも、地虫忍者の正体を現した配下に皆殺しにされるのでした。この家老に変身していたのは怪人ズク。アグダーに巨砲で堺の町を吹き飛ばすことを命じられたズクは、途中ライフル魔状態で人々を虐殺しながら堺に向かいます。

 一方、目を斬られた武士を助けた志乃と三吉に知らせを受けた獅子丸は早速ズクを追おうとするのですが……その前に現れたのは、相変わらず獅子丸との決闘を望む、空気が読めない豹馬。自分を相手にせず先に進む獅子丸に歯がみする豹馬ですが――
 やがてズクの一行に追いついた獅子丸。迎え撃つ地虫を蹴散らしていく彼の前に最後に残った地虫の仮面の下から現れた顔は……豹馬! 獅子丸と対決するためであればマントルにも付く豹馬にさすがの獅子丸も怒り爆発、ついに変身して対決するのですが……獅子丸の腕を傷つけ、満を持して豹馬が繰り出した必殺のジャガーつばめ落としはあっさり躱され、峰打ちで胴を抜かれるのでした。

 傷の手当てもそこそこにズクの後を追う獅子丸。なおもその後を追う豹馬ですが、その彼が出会ったのはズクによる虐殺の後で、「豹馬」の名を呼ぶ女性。骸となった自分の息子「豹馬」を見つけ、悲痛な声で嘆き悲しむ女性の姿を目の当たりにした豹馬は――
 死地が待っていることを知りつつ、巨砲を追ってきた獅子丸に対し、爆薬を仕掛けた谷に巨砲を撃ち込もうとするズク。しかし豹馬は巨砲を守っていた地虫を倒し、獅子丸を救います。

 ついに獅子丸と肩を並べ、巨砲による爆発を躱しながら駆ける豹馬。地虫を蹴散らしながらズクに迫る二人ですが、ライフル銃の連射に身動きが取れなくなります。あと五発玉が残っていると勝ち誇るズクですが、その場に現れたのは冒頭でズクに斬られた武士。自らを盾にして五発を消費させ息絶えた武士の想いに応えるように変身した獅子丸は、豹馬が地虫を相手にしている間、ズクと最後の戦いを繰り広げます。
 空からの攻撃を仕掛けるズクですが、獅子丸はこれを撥ね除け、逆にズクの目を斬ると、ライオン風返しで巨砲もろともズクを吹き飛ばすのでした。


 ここ数回出番のなかった豹馬が、ようやく獅子丸の味方として立ち上がる今回。金に汚かったり、功名心から獅子丸に戦いを挑んでも相手にされなかったりと今ひとつ小者感があった彼は、獅子丸と戦うためにマントルに与するところまで堕ちるのですが――
 しかし、自分と同じ名の子供の死を嘆く母親の叫びをきっかけに改心するというのは、なかなかグッとくる展開であります。

 ただ、この展開だったらラストで活躍するのは豹馬のはずが、乱戦の中で彼はフェードアウト、代わって獅子丸を身を挺して助けたのが、巨砲を奪われた武士というのは、話としての平仄は合うものの、ちょっとどうなのかしら……という気はいたします。

 それにしてもローク車や亀甲車などのオーバーテクノロジーを保有するマントル帝国でも、大砲の技術はオランダには及ばないのか……


今回のマントル怪人
ズク

 ライフルと刀を武器とするミミズクの怪人。オランダ渡りの巨砲を奪い、堺の街を狙った。残忍な性格で、相手の目だけを斬ったり、無関係の人々をライフルで射殺していくなどの凶行を働いたが、ライオン丸には敵わず、逆に目を斬られた末に巨砲もろとも吹き飛んだ。


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2017.03.19

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)

 今月もやってきました『コミック乱ツインズ』。今月号の表紙&新連載は、叶精作の『はんなり半次郎』であります。

『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
 というわけで京は御所近くの古道具屋「求善賈堂」を舞台とする本作。タイトルロールの半次郎はその店主、男名前ですが代々継がれている名であり、当代の半次郎は三十路半ばの女性であります。

 その求善賈堂に半次郎を訪ねてきた盲目の少年・幸吉。同じ古道具屋であった親を押し込み強盗に殺され、自分も視力を奪われた彼は、店から奪われた品物が求善賈堂に出たと聞いて、江戸からはるばるやってきたのであります。
 残念ながらその品は既に売れた後だったものの、事情を聞いた半次郎は幸吉に対してある行動に出るのですが……

 古道具の目利きにしてしたたかな商売人、剣の達人にして腕利きの蘭方医、そしてもちろん美女、といささか盛りすぎにも見える半次郎。
 しかしこの第1話では、銘刀を売りに来た武士とのやりとり、そして幸吉の目の治療と、流れるようにその特徴の数々を示してみせ、終盤にちょっとしたどんでん返しも挟んでみせるのは、さすが、としか言いようがありません。

 が、このコンビだと……と思った通り、間に入るサービスシーンが強引すぎて、いやいやいや、いくらなんでも! とツッコミを入れざるを得ません。それも期待されているのだとは思いますが、いかがなものかなあ。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治を舞台に日本の鉄道の曙を描く本作も、はや第3話。関西鉄道から官営鉄道に移籍することを決意した島安次郎は、同じ関西鉄道の凄腕機関手・雨宮にも移籍を持ちかけるのですが……もちろんというべきか、職人気質の雨宮が肯んじるわけがありません。
 そして時は流れ、いよいよ私鉄国有化の流れが決定的になった中、引退を目前とした雨宮の前に現れた島は――

 島と雨宮、管理運行側と現場という立場の違いはあれど、それぞれの立場から鉄道に深い愛情を注ぐ二人の交流を中心に描いてきた本作。
 島が雨宮を口説き落とせるかが今回の眼目ですが、ある意味お約束とも言える展開ながら、二人の真っ直ぐな想いが交錯し、そして合流する様はやはり胸を熱くさせるものがあります。

 雨宮の後継者たちの成長を示す描写も見事で、回を追うごとに楽しみになってきた作品です(そして今回もおまけページが愉快。確かにそれは難題だと思いますが……)。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 よく見たら表紙に「全10回」と記載されていた本作、今回は第8回ですので、ラスト3回ということになります。

 今回はまさしく決戦前夜といったところ、柳沢吉保・荻原重秀側からは絡め手の引き込みが、新井白石からは温かみの欠片もない命令と板挟みの状況を一挙に打開すべく、自ら虎口に飛び込むことを決意した聡四郎。
 しかしその聡四郎の役に立ちたいと無謀にも敵方の牢人の跡を付けた紅が――

 と、決戦に向けてどんどん盛り上がっていく……というより聡四郎が追い込まれていく状況。
 しかしこうして改めて見ると、紅の行動は今日日嫌われるヒロインのそれ以外のなにものではないのですが、不快感を感じないのは、これは画の力――有り体に言えば、紅が非常に可愛らしく描けているからに他ならないと感じます。

 改めて画の力というものを感じた次第です。


 以降、長くなりますので、次回に続きます。


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コミック乱ツインズ 2017年4月号 [雑誌]


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2017.03.15

『風雲ライオン丸』 第9話「蛇ヶ谷にライオン丸を見た」

 村の水車小屋に毒を仕掛け、毒水を流すガムジン。獅子丸は地虫忍者の一人を捕らえ、ガムジンに家族を殺されて連れ去られた赤ん坊の芳松を追う。その途中でロケットを破壊され変身ができず、太刀を折られて危機に陥る獅子丸。そこに天馬に乗って駆け付けたのは快傑ライオン丸だった!

 水車に毒薬の袋を仕掛け、人間どもは皆殺し云々と大笑するガムジン……の背後に現れて誰何する村の老人。当然老人は殺され、その直後に現れたその娘も殺され、その娘の子・芳松はガムジンに連れ去られることに――
 村にライオン丸姿で駆け付けた獅子丸は地虫忍者を一人を残して蹴散らしますが、そこに現れた村人たちは、地虫は俺たちが殺る! と引き渡しを求めます。しかし獅子丸は芳松救出のために地虫に案内させようと村人を制止。と、そこで真っ青な水を飲んだ村人が死亡、祟りじゃ! と村人たちはいきなり関わりを持つことを拒否するのでした。

 件の地虫を案内役に芳松救出に向かう獅子丸ですが、地虫に文字通り足を掬われて馬から転落、背中のロケットが破損、水筒を奪われ逃げられるという体たらく。ようやく追いついたと思ったら、水筒は空っぽ……地虫を殴打、ついには手裏剣まで抜いてギリギリで思い留まるほどの怒りを見せる獅子丸でした。
 フラフラになりながらも殺風景な谷を進む二人ですが、その前にガムジンと地虫が出現。しかしロケットが壊れていて変身できない獅子丸は追い詰められ、刀を折られてしまいます。一方、囚われていた地虫は喜んで駆け寄った仲間から銃を向けられることに。必死で地虫を守って逃げる獅子丸ですが、追い詰められて二人とも崖下に転落――

 意識を失って倒れた二人に迫る地虫の群れ。そこに白い天馬にまたがって駆け付けたのは……快傑ライオン丸! 地虫を一蹴したライオン丸は、未だに意識を失ったままの獅子丸を叱咤激励、彼の太刀が折れているのを知ると、自らの金砂地の太刀を与え、再び天に去っていくのでした。が、快傑の方も潮哲也の声なので、何だか自分で自分を励ます多重人格者めいた味わいが――

 なおも旅を続ける二人は、焚き火を囲んでようやく距離を縮めるのですが、その翌朝に地虫は背中に手裏剣を刺されて事切れているという容赦ない展開。しかも水に毒がという地虫のダイイングメッセージにも関わらず、獅子丸の叫びも虚しく、馬は毒水を飲んで迫真の悶絶をみせるのでした。
 それでも徒歩でやってきた獅子丸は、前夜修理しておいたロケットで今度こそ変身するのですが……しかし芳松を人質に取られて武装解除、芳松ともども館に閉じ込められ、火をつけられることになります。自らの館に火をつけてどうするんだ、という気もしますが、ガムジンは地虫とともに浮かれ踊る大騒ぎ。その間に獅子丸はロケット噴射で手を縛った縄を焼き切るという捨て身の行動で自由を取り戻すと、芳松を背負って脱出、その前に立ちふさがったガムジンと最後の対決に臨みます。

 そのガムジンとの斬り合いは、背中の芳松の顔の近くまで刃が近づいてハラハラさせられる展開。しかしガムジンがそんな芳松に気を取られた瞬間、獅子丸が手裏剣でその胸をえぐり、ガムジンは倒れるのでした。
 そして芳松を連れて村に帰ってきた獅子丸ですが、村人たちはなおも後難を恐れて物陰から陰気な目で窺うばかり。獅子丸は寺に芳松を置き、強い男になれと願いながら、一人去っていくことに――


 ヒーローが赤ん坊を置き去りにする回として名高い今回ですが、むしろ印象に残るのは獅子丸と地虫のハードな道中。戦闘員を人質にし、その戦闘員を守らざるをえないヒーローという物語は他の作品でも絶無ではないと思いますが、ここでは乾いたタッチと相まって、本作ならではの味わいが生まれています(背中のロケットを効果的に使った展開もいい)。
 繋がりが強いようでいて、しかしそれは自分たちを守る範囲に限るという村人たちの描写も厭になるくらいリアルで、赤ん坊の置き去りもその文脈で理解するべきでしょう。

 しかし弱ってしまうのは、突然現れる快傑ライオン丸。風雲と快傑で揃い踏みするわけでもなく、金砂地の太刀が逆転の切り札になるわけでもなく、なくても全く支障がない展開で……どうやら本当にギリギリに押し込まれた展開らしいのようなので納得といえば納得ではあります。


今回のマントル怪人
ガムジン

 巨大な青龍刀を手にした怪人。水に毒を投入し、村人を皆殺しする作戦を指揮する。獅子丸を何度も追い詰めるが、鍔迫り合いの最中、胸に手裏剣を刺されてあっさり死ぬ。


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2017.03.13

大西実生子『僕僕先生』第3巻 世界の有り様、世界の広大さを描いて

 美少女仙人・僕僕とニート青年・王弁が広大な天地を旅する姿を描く漫画版『僕僕先生』もこれで第3巻。原作小説の方はラスト直前ですが、こちらの方も、のんびりと、しかし着実に物語の終わりに向かっています。

 僕僕に誘われるまま、当てどない(ように見える)旅へと出た王弁。長安の王宮での冒険を経て北方に向かった二人は、そこでどうみても駄馬にしか見えぬ天馬・吉良を手に入れ、なおも旅を続けます。
 そして二人が向かったのはなんとこの星から遠く離れた天の向こうの星星の世界。そこで僕僕とはぐれ、この世界の創造主たる帝江と出会った王弁ですが、吉良ともども、恐るべき「闇」である渾沌に飲み込まれることになります。

 悪意ある闇とも言うべき渾沌の中は、文目も分かぬという表現では生ぬるすぎるような真の暗闇、そこで正気を失ったものは渾沌に溶け込んでしまうという、恐るべき存在であります。
 どうにか吉良と出会った王弁ですが、しかし星星を渡るほどの吉良の脚力でも抜け出せぬほど、渾沌の中は果てがなく――

 というわけで文字通り神話クラスの存在に出会って大ピンチの王弁。それも中国の始原神話に登場するほどの存在ですから、凡人たる彼の手に余るというレベルではないのですが……しかしここで渾沌にまつわる過去の逸話を吉良から聞いた彼のリアクションが、実に彼らしくも微笑ましい。
 神話の中の神に対して、自分たち人間と同様のリアクションを想像してしまうのは、彼の凡人たる所以かもしれませんが、しかしそれは裏を返せば、彼が人間とそれ以外を分かたないということでもあります。

 そんな王弁の一種のおおらかさは、この先の物語に大きな意味を持つのですが……それはさておき。

 何とか元の世界に戻り、僕僕と再会した王弁(この辺りの何ともこそばゆい僕僕とのやりとりがまた実にイイ)ですが、次に彼らを待っていたのは、蝗害という大いなる災い。天を覆うほど大発生し山東地方を襲う蝗を、自らの力を貸して追い払おうとする僕僕ですが、しかしここで人間の側に意外な動きが起きることに――


 原作第1巻の漫画化である本作も、この第3巻で後半部分に入り、冒頭に述べたとおり王弁の旅も終盤にさしかかってきました。
 ここで描かれる物語は、基本的に原作のそれを大きく離れたものではなく、原作に忠実な漫画化ではあるのですが、しかしそこで示される絵が、これまで同様、これが本当に素晴らしいのであります。

 それは僕僕や王弁たちのキャラクター描写の妙にも表れていることは言うまでもないのですが、しかしこの第3巻で改めて感じ入ったのは、この物語の中で描かれる世界の広大さを見事に絵として表している点なのです。

 その広大さとは、渾沌に代表されるような中国の神仙世界の野放図とも言えるほどの壮大さに代表されるものですが、しかしそこにのみあるものではありません。
 それは、王弁が旅の途中で出会う様々な人々、各地の文化といったなどに示されるものであり、そして王弁の隣で謎めいた態度を見せる僕僕の心の中にもあるもの……一人の人間では到底全てを知ることがかなわないような一種の多様性であり、不可解さであります。

 思えば本作は、王弁から見た、世界の有り様というものを描く物語でした。引きこもりのニートであった彼が、僕僕という他者と出会い、その導きで外の世界を知る……その過程を描く物語であります。
 だとすれば、その彼が知ることになる世界を克明に絵として描くことが、その世界の広大さを、我々読者に示すことこそが、大げさに言えばこの漫画版の使命でしょう。そして本作は、それに見事に成功していると感じます。

 我々はこの漫画を通じて、僕僕が王弁に見せようとしているものを、同時に見ているのだと、そんな想いを抱かせるほどに――


 しかしその世界に存在するものは、決して我々に、彼らに好意的なものばかりではありません。
 この巻のラストで描かれたものは、そんな不穏なものの到来を予感させるものですが……さてそれが王弁と僕僕の旅の果てに何をもたらすのか。

 おそらくは次の巻で完結となるであろうこの漫画版がその果てに描くものを楽しみにしましょう。


『僕僕先生』第3巻(大西実生子&仁木英之 朝日新聞出版Nemuki+コミックス) Amazon
僕僕先生 3 (Nemuki+コミックス)


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 「僕僕先生」
 「薄妃の恋 僕僕先生」
 「胡蝶の失くし物 僕僕先生」
 「さびしい女神 僕僕先生」
 「先生の隠しごと 僕僕先生」 光と影の向こうの希望
 「鋼の魂 僕僕先生」 真の鋼人は何処に
 「童子の輪舞曲 僕僕先生」 短編で様々に切り取るシリーズの魅力
 『仙丹の契り 僕僕先生』 交わりよりも大きな意味を持つもの
 仁木英之『恋せよ魂魄 僕僕先生』 人を生かす者と殺す者の生の交わるところに
 仁木英之『神仙の告白 僕僕先生 旅路の果てに』 十年、十巻が積み上げてきたもの

 『僕僕先生 零』 逆サイドから見た人と神仙の物語
 仁木英之『王の厨房 僕僕先生 零』 飢えないこと、食べること、生きること

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2017.03.12

入門者向け時代伝奇小説百選 忍者もの(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、忍者ものの紹介の後編は、忍者ものに新風を吹き込む5作品を取り上げます。
21.『風魔』(宮本昌孝)
22.『忍びの森』(武内涼)
23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎)
24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道 龍一朗)
25.『嶽神』(長谷川卓)

21.『風魔』(宮本昌孝) 【戦国】【江戸】 Amazon
 後世にその名を知られた忍者の一人である風魔小太郎。本作は、颯爽とした男たちの物語を描いたら右に出る者がいない作者による痛快無比な忍者活劇であります。

 小田原の北条家に仕え、常人離れした巨躯と技で恐れられたという小太郎。本作はその逸話を踏まえつつ、しかしその後の物語を描き出します。
 何しろ本作においては北条家は早々に滅亡。野に放たれた小太郎は、豊臣と徳川が天下を巡って暗闘を繰り広げる中、自由のための戦いを繰り広げるのです。

 戦国が終わり、戦いの中に暮らしてきた者たちの生きる場がなくなっていく中、果たして小太郎たちはどこに向かうのか? 誰に縛られることなく、そして誰を傷つけることなく生き抜く彼の姿が本作の最大の魅力です。


22.『忍びの森』(武内涼) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 発表した作品の大半が忍者ものという、当代切っての忍者作家のデビュー作である本作は、もちろん忍者もの……それも忍者vs妖怪のトーナメントバトルという、極め付きにユニークな作品であります。

 信長に滅ぼされた伊賀から脱出した八人の忍者。脱出の途中、彼らが一夜の宿を借りた山中の廃寺こそは、強大な力を持つ五体の妖怪が封じられた地だったのです。
 空間歪曲により寺から出られなくなった八人は、持てる力の全てを振り絞って文字通り決死の戦いに挑むことになります。

 忍者の鍛え抜かれた忍術が勝つか、妖怪の奇怪な妖術が勝つか? 敵の能力の正体もわからぬ中、果たして人間に勝利はあるのか……空前絶後の忍者活劇であります。

(その他おすすめ)
『戦都の陰陽師』(武内涼) Amazon


23.『塞の巫女 甲州忍び秘伝』(乾緑郎) 【戦国】【怪異・妖怪】 Amazon
 映画化された『完全なる首長竜の日』になど、SF作家・ミステリ作家として知られる作者は、同時に奇想に富んだ時代小説の書き手でもあります。

 川中島の戦で召喚され、多大な死をもたらしたという兇神・御左口神。武田の歩き巫女・小梅は、謎の忍者・加藤段蔵に襲われたことをきっかけに、自分がこの兇神と深い関わりを持つことを知ります。
 武田の武士・武藤喜兵衛(後の真田昌幸)とともに、小梅は兇神を狙う段蔵の野望に挑むことに……

 初時代小説である『忍び外伝』も驚くべきSF的展開を披露した作者ですが、本作も実は時代小説にとどまらない内容の作品。果たして御左口神の正体とは……これは「あの世界」の物語だったのか!? と驚愕必至であります。

(その他おすすめ)
『忍び外伝』(乾緑郎) Amazon


24.『悪忍 加藤段蔵無頼伝』(海道龍一朗) 【戦国】 Amazon
 忍者が活躍した戦国時代において、一際奇怪な存在として知られる飛び加藤こと加藤段蔵。本作はその段蔵を、悪人ならぬ悪忍として描いたピカレスクロマンであります。

 伊賀と甲賀の秘技を極めながらも、その双方を敵に回し、自分自身の力のみで戦国を渡り歩く段蔵。一向一揆で揺れる北陸を次の仕事場に選んだ段蔵は、朝倉家に潜り込むことになります。
 そこで段蔵の前に現れるのは、名うての武将、武芸者、そして忍者たち。そして段蔵にも隠された過去と目的が――

 強大な力を持つ者たちを向こうに回して暴れ回る段蔵の活躍が善悪を超えた痛快さを生み出す本作。ラストで明かされる、思わず唖然とさせられるほどの豪快な真実に驚け!

(その他おすすめ)
『乱世疾走 禁中御庭者綺譚』(海道龍一朗) Amazon


25.『嶽神』(長谷川卓) 【戦国】 Amazon
 奉行所ものなどでも活躍する作者の原点が、「山の民」ものというべき作品群――里の人々とは異なる独自の掟と生活様式を持ち、山中の自然と共に暮らす人々の活躍を描く物語であります。

 そして本作はその代表ともいうべき作品。掟を破って追放された山の民・多十が、武田勝頼の遺児と、一族を虐殺された金堀衆の少女を連れ、逃避行に復讐に宝探しにと奮闘する大活劇です。
 殺戮のプロとも言うべき追っ手の忍者集団を向こうに回し、母なる大自然を武器として戦いを挑む多十。山の民殺法とも言うべき技の数々は、本作ならではの豪快な魅力に溢れています。

 様々な欲望が剥き出しとなる戦国に、ただ信義のために命を賭ける多十の姿も熱い名品です。

(その他おすすめ)
『嶽神伝』シリーズ(長谷川卓) Amazon


今回紹介した本
風魔(上) (祥伝社文庫)忍びの森 (角川文庫)塞の巫女 甲州忍び秘伝 (朝日文庫)悪忍 加藤段蔵無頼伝(双葉文庫)嶽神(上) 白銀渡り (講談社文庫)


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 「風魔」 小太郎が往く自由の中道
 「忍びの森」 忍びと妖怪、八対五
 「忍び秘伝」 兇神と人、悪意と善意
 「悪忍 加藤段蔵無頼伝」 無頼の悪党、戦国を行く

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2017.03.09

山田秋太郎『墓場の七人』第1巻 屍人に挑む男と少年の生きざま

 別に専門家になったわけではないのですが、結果的にゾンビ時代劇の大半を取り上げているのではないかという気もするこのブログ。それだけゾンビ時代劇が増えているということかと思いますが、その中に新たな作品が加わりました。ありそうでなかった、七人の侍vsゾンビという作品が……

 突如として甦った生ける死者・屍人の群れの襲撃を受けた墓場村から、助っ人を探すという使命を背負って脱出した子供の一人・七平太。しかし彼は、町でトラブルに巻き込まれ、悪旗本の屋敷の牢に捕らわれの身に。
 そこで出会ったのは、腕は立つものの、あまりの残忍さで恐れられる人斬り――斬った相手の肉体を百の肉片に挽くことから百挽と呼ばれる男。初めは七平太を相手にしていなかった百挽ですが、しかし七平太が探しているのが屍人相手の用心棒であることを知り、そして旗本を前に必死の気迫を示した彼を認めて用心棒となることを肯います。かくて旗本屋敷を脱出した七平太と百挽改め一色は、墓場村への道を急ぐのですが――


 というわけで、冒頭にも述べたとおり、一言で表せば「七人の侍vsゾンビ」というシチュエーションの本作。考えてみれば野武士をゾンビに入れ替えたわけですが、しかしこれはコロンブスの卵というべきでしょう。決して少なくないゾンビ時代劇、そして七人の侍をベースとした「○○の七人」もの(?)にも、この趣向はほとんど初ではないかと思います。

 しかし本作は、野武士をゾンビに単純に代えただけの作品ではありません。その本作ならではの要素の一つ……それは一色と屍人の因縁であります。

 子供の頃、七平太同様、村を屍人の群れに襲われた一色。両親に隠されて辛うじてその場は助かったものの、村は全滅、そして屍人を率いる謎の男の前に、彼も深手を負わされたのであります。
 以来、屍人を追って旅しながらもその行方もわからず、彼は己の無力さを味わう中で荒れ、堕ち、人斬り「百挽」として恐れられるようになって――

 と、「○○の七人」ものは、あくまでも雇われただけの七人が、弱き者を守るために命を張るのが良いのであって、敵との因縁があるのはいかがなものか……という向きはあるかと思いますが、ここはどん底まで堕ちた男の復活劇であると見るべきでしょう(そもそも七人ものの最新作からして……)。


 そしてもう一つ、本作は少年の成長物語としての要素を持っています。

 用心棒を呼ぶために村から送り出された七平太。それは裏を返せば、彼自身にその場に残って戦うだけの力がないことにほかなりません。
 そして旅に出た先でもあっさりと捕らえられ、生と死ギリギリの選択を迫られることになるのですが……それでも屈しない彼の心が、一色を動かし、そして屍人との戦いを大きく動かしていくことになるのです。

 この第1巻のラスト、ついに村を襲った屍人の群れに、一度は絶望しかけた彼が、折れた刀を手に叫ぶ言葉……それは「七人」の雇い主として、真に敵と戦う者としてまことに相応しく熱い言葉。
 そしてその言葉に応えて……! というラストシーンには、こちらもただただ燃えるほかないのであります。


 もっとも、このラストシーンには、えっいきなり!? という印象を持つ方もいるかもしれませんが、私としては、いや、ここまで来たらこれしかなかろう、と答えるほかありません。

 男の復活劇と少年の成長物語――いわば二人の生きざまの発露が交錯した時に生まれた奇跡が、如何にして死者との戦いに道を切り開いていくのか。
 実は連載の方は次回で完結という状況、おそらくは本作は全3巻程度になるのではないかと思いますが、最後まで一気呵成に駆け抜けて欲しいと思います。


 それにしても中盤で一色が見せたとんでもなくメタな技(?)、漫画的には最強ではないでしょうか……いやすげえ。


『墓場の七人』第1巻(山田秋太郎 集英社画楽コミックス) Amazon
墓場の七人 1 (画楽コミックス愛蔵版コミックス)

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2017.03.08

『風雲ライオン丸』 第8話「謎の新兵器 ローク車」

 新兵器ローク車に乗った三色仮面を率いて各地を襲撃するガズラー。獅子丸は次にガズラーが狙う日の出村で、村人に協力を呼びかける。しかし村人たちは獅子丸を置いて逃げ出し、残されたのは身重の妻を抱えた伊三だけだった。偶然村を訪れた志乃に伊三の妻を任せ、獅子丸は一人村のために戦う。

 地虫忍者の精鋭・三色仮面に与えられた新兵器ローク車――蒸気の力で動き、スピードとパワーを兼ね備えたその力で、彼らは村々を襲撃しては人々を追い詰め、短銃の連射で死体の山を積み上げていきます。
 偶然、三色仮面の凶行の後に村を訪れた獅子丸は、無残に殺された母子の死体を見つけ、怒りとともに子供が最期まで握っていた人形を手に取るのでした。

 さて、その三色仮面を預けられたガズラーの次のターゲットである日の出村を訪れた獅子丸ですが、村人たちは今にも村を捨てて逃げ出そうという様子。獅子丸は前回のように村人の協力を得て戦おうとしますが、今回の村人はやる気がない。ローク車を引っ掛けるためであろう綱の端を持っているだけでいいから、と頼み込んでようやく協力を得ることができたと思えば……あっさりと獅子丸を見捨てて逃げる村人。

 ある意味ピープロイズム溢れる展開に苦戦を強いられ、谷を転がり落ちた獅子丸。傷だらけで村に戻ってきた彼の前に現れたのは、村に残っていた男・伊三であります。
 臨月の妻・ハルを抱えて逃げられない彼は、獅子丸に協力を申し出るのですが、さしもの獅子丸も、今にも生まれそうなハルを前に困惑を隠せず……と思いきや、どこかで聴いたような馬車の音を耳にした獅子丸は、第1話以来ではないかというくらいの笑みを浮かべるのでした。

 というわけで巻き込まれた志乃は頼りない男たちを尻目にテキパキと出産の準備を進め、獅子丸は伊三が作っていた油を利用、三吉製のポンプであらかじめ油を村の周囲に巻いて迎撃の準備を整えます。そしてやってきた地虫忍者たちに対し、何気に得意技の手裏剣連打で着火! 第一陣を撃破しますが、しかしローク車に亀甲車まで連れたガズラーの本隊が攻撃開始。ハルたちを逃がし、獅子丸は単身これに立ち向かいます。

 地虫忍者たちがパッと消えたかと思うと顔だけになって迫ってくるという謎の攻撃を切り抜け、ライオン丸に変身した獅子丸ですが、三色仮面はローク車で彼の周囲を回りながら短銃を連射。このままでは前作のタイガージョーのようなことに……とハラハラさせられましたが、よほど腕が悪いのか傷を与えるのがやっとであります。
 よせばいいのに一列になって突っ込んできた三色仮面に対し、獅子丸は宙を舞うや次々と斬りつけて撃破。残るガズラーも、巨大な樹に変身して倒れ込んでくる攻撃(らしいのですが、単に樹が何度もアップになる謎演出にしか見えない)をかわされ、胸に刀を投げつけられて倒れるのでした。

 そして赤ん坊も無事に生まれ、ほっと一息の獅子丸。その前に現れたのは、戻ってきた村人たちですが……先程までの態度からコロッと変わり、しばらく村にいてくれないかという村人たちにはさすがの獅子丸も仏頂面。冒頭で拾った子供の人形を赤子に渡してほしいと三吉に託し(微妙に不吉)、さっさと去っていくのでした。


 村人たちとともに籠城戦を繰り広げて勝利した前回とはあたかも表裏一体のような今回。それでもたった二人のために戦う獅子丸が泣かせるのですが……やはりリアクションに困るのはローク車であります。
 これまたピープロ名物の、ガワを被せた乗り物(バイク)なのですが、ただでさえデザイン的にも微妙なところに話のムードからも浮きまくり、しかも荒れ地でアクションをすると転びそうで別の意味で手に汗握るという……少なくとも籠城戦の回に出す敵ではなかったなあ、と思います。


今回のマントル怪人
ガズラー

 三色仮面を率いて村々を襲う怪人。巨大なポールアックスを持ち、巨大な樹に化けて倒れ込むという奥の手を持つ(らしい)。三色仮面を撃破され、奥の手で戦うも及ばず、獅子丸の投じた刀に貫かれる。

三色仮面
 新兵器ローク車を与えられた赤・青・白の三人から成る地虫忍者の精鋭。その機動力で相手を追い詰めて短銃で射殺、凶行の後には自分の色の狼煙を上げる。ガズラーとともに獅子丸を苦しめたが、詰めが甘く、獅子丸の逆襲にあっさりと壊滅した。


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2017.03.06

横山仁『幕末ゾンビ』第3巻 死闘決着! 人のみが持つ力

 突如現れたゾンビにより大混乱となった戊辰戦争の最中、将軍・慶喜を守り北へ向かう永倉新八らの死闘もクライマックス。ゾンビの襲撃に、そして薩摩の追撃の前に次々と味方が倒れる中、なおも闘志を失わない新八は、真の敵の存在を知ることに……

 慶喜を守ってからくも大坂を脱出し、幕府逆転の秘策が眠る蝦夷地へ向かう永倉・原田・大石・市村ら新選組を中心とするメンバー。
 しかし無限に進化を続け、次々と仲間を増やすゾンビたちの前に原田は半ゾンビと化し、さらに薩摩が放った刺客・村田経芳により大石が討たれることに……


 と、地を駆け空を飛び、雨からも感染するゾンビのみならず、同じ人間をも敵に回すこととなった永倉。
 いや、元々敵は人間だったところにゾンビが乱入してきたのですがそれはさておき、こんな非常時でも追跡を諦めぬだけに、相手もただ者ではありません。

 村田経芳といえば、薩摩一の射撃の名手として知られ、後に日本初の国産小銃を開発した銃の申し子。鳥羽・伏見から東北まで、戊辰戦争で活躍した人物ですので、ここで登場するのは史実にも適っているのですが……

 しかし本作の村田は、不気味な能面に顔を隠し、超人的な射撃スキルによって永倉を追いつめるスナイパーとして登場。いや、たとえ距離を詰めたとしても、短銃でも恐るべき戦闘力を発揮する一種の怪物であります。
 そんな相手に刀一丁で挑む永倉も永倉ですが、ゾンビまでもが乱入する中で繰り広げる二人の死闘(日本刀と小銃でメキシカン・スタンドオフをやるとは!)は、この巻前半の名場面といえるでしょう。


 しかし、二人の戦いが激しければ激しいほど、そして名勝負というべきものに昇華されていくほど、一つの想いが強くなっていくことになります。ここまでゾンビ禍が広がる中で、人間同士がこんな戦いを続ける必要があるのか……と。

 その想いを受けるかのように、この巻の後半では、物語は大きな転換を迎えることとなります。
 村田との死闘の末、この戦いを終えるために、ある選択を決意する永倉、そして慶喜。そんな彼らに合流した勝海舟は、このゾンビ禍の真実を語ることになります。ゾンビの跳梁を終わらせる手段と、そして何より、ゾンビが出現した理由を――

 この辺り、どう考えても絶望しかない戦いを終わらせるには(物語的には)なるほどこの手しかないかと思いますし、真の敵の存在も、これまで伏線が張られていたことを考えれば納得なのですが……しかし前半までに比べれば、急激に物語が進みすぎた印象はあります。
(あの老人の文字通り決死の決意も有耶無耶になった感がありますし、そういえば沖田と土方はどこへ……)

 この辺り、予定よりも早く物語を完結させる必要が生じたのだろうなあ……と邪推してしまうのですが、もう本当に八方塞がりな状況が続いていただけに、そしてそれでもブチ抜いて見せるであろう面子が揃っていただけに、勿体ないという印象は否めません。


 しかしそれでも、限られた時間の中で、本作は描くべきは描いてみせた、というのもまた正直な印象であります。

 ついに正体を現した真の敵の猛攻に始まり、それに対して「人間として」挑む永倉たちの大反撃、そしてゾンビとは異なる形で死後の生を生きてきたあの男との決着ときて、そして! という感じのラストまで――
 個人的には「悪いのは全部○○」という展開は好みではありませんが、ええい、ここまで来たからにはやってしまえ! という勢いには、愛すべきものを感じます。

 ゾンビとの死闘を通じ、人の果てなき底力を描いてみせた『戦国ゾンビ』。それに対し、本作はその先の、人のみが持つ心が生む、一つの可能性を描いてみせた……と表すのは、綺麗すぎるでしょうか。


 それにしても……徳川幕府の影の守護者の活躍、見てみたかった。


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2017.03.02

『風雲ライオン丸』 第7話『最後の砦』

 不作と野盗の襲撃に苦しむ美濃国を手中に収めんとするマジンは、亀甲車を用いて周辺の村々を次々と襲撃。次の標的の真尾村には、村に残った五人の村人と、志乃と三吉の父の弟子・佐八がいた。獅子丸の指揮で奮戦し、一度は敵を撃退した村人たち。しかしなおも攻撃が続く中、三吉が囚われの身に……

 不作と野盗の襲撃というダブルパンチで滅亡寸前の機に乗じて美濃国を奪取しようという悪魔のようなことを企むアグダー。関東への前線基地にする目的のようですが、ちょっと遠くないか……と思いつつも、史実で美濃国を取った信長の躍進を考えれば、あながちおかしなことではないかもしれません。
 それはさておき、その命を受けた怪人マジンは、地虫忍者と亀甲車を率いてヒャッハーと村々を地道に焼き払っていきます。そして今回も運悪く志乃と三吉はそこに出くわすことに……

 駆けつけた獅子丸が足止めをしている間、次の襲撃予定地である真尾村に向かう志乃たち。しかし村では怖い物知らずの五人の村人が迎え撃とうとしていたのでした。が、敵の正体を全く理解していなかった模様……
 そしてそんな彼らに武器を(そしてさりげなく火薬まで)提供していた男・佐八は、実は志乃たちの父の愛弟子でありました。名のある刀鍛冶だった父は、いかなる理由か数年前に二人の子を捨てて佐八とともに旅立ち、そしてすぐに佐八とも別れてそれっきりだというのであります。

 その父が後にあんなことになるなんて……というのはさておき、獅子丸も村に到着、マントルハンターとして名を知られているらしい獅子丸の合流に村人も表情を明るくします(その一方でマントル側はいまいち彼の存在をわかっていないようなのが……)。
 そして獅子丸の指導の下、防御を固めた村についに襲い来る地虫と亀甲車。真っ正面から門をブチ抜いてきた地虫たちに、村人たちは微妙な投石器で迎え撃ちます。さらに巧みに亀甲車を小屋に誘導→仕掛けた火薬で爆破など、意外な村人たちの健闘、そしてもちろん獅子丸の活躍に地虫たちも一時撤退するのでした。

 が、勝利に沸いている油断をついて再び襲撃してきた地虫たちに素人の哀しさから浮き足立つ村人たち。さっきまでの勢いはどこへやら、負け犬モードに入りかけた彼らを叱咤して奮い立たせるのはもちろんマントル絶対殺すマンの獅子丸であります。
 その激に立ち上がった村人たちは、多勢を相手にしても力を合わせて果敢に反撃。その姿に自分も……と据わった目で考える三吉ですが、しかし活躍する間もなく、マジンによって人質とされてしまうのでした。

 しかしそこでも屈しない獅子丸は、ロケット変身の勢いで三吉を奪還。見かけ倒しのマジンを一騎打ちで粉砕すると、格好良い挿入歌「さすらいの誓い」をバックに新たな旅に出るのでした。


 本作、そして後番組の『鉄人タイガーセブン』でヘビーな展開を連発、視聴者に多大なトラウマを与えたことで知られる脚本家・高際和雄の初登板回である今回。
 しかし今回は本作らしい西部劇的な「砦」に立て籠もっての攻防戦を描きつつも、アラモのように全員玉砕ということはなく、晴れて全員揃っての大勝利という爽やかな回でありました。これまで違和感が目立った西部劇タッチを、巧みに時代劇に落とし込んでいたのも見事と言うべきでしょう。
(本当に砦が登場するわけではなく、村が自分たちにとっての「最後の砦」という村人の台詞から来たタイトルもうまい)

 その一方でこれまでの物語で少しずつ語られてきた志乃と三吉の父の存在がクローズアップされるなど、連続ストーリーの要素もきっちりと拾っているのもいいのです。
 ラストには獅子丸がバックパックをメンテする(燃料のカートリッジを入れ替える)珍しいシーンもあり、色々な意味で楽しめるエピソードでした。

 ちなみに今回のマジンは、武装は西洋の中世的なのに顔は隈取り的と妙な取り合わせながら、なかなか精悍なスタイルが印象的な怪人。しかし特殊能力があるわけでなく、あっさりと倒されたのが残念であります。


今回のマントル怪人
マジン

 青銅のマジンと呼ばれる鎧姿の怪人。ハルバードと大盾、剣を武器とする。美濃国奪取のために村々を襲撃するが獅子丸らの抵抗を受け、三吉を人質に取るも失敗。ライオン丸に奪われたハルバードで胸を刺され、すれ違いざまに斬られて絶命した。


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2017.02.27

木原敏江『白妖の娘』第2巻 復讐という「意思」、それぞれの「意思」

 塚に封印されていた白い妖狐を巡り、復讐のために妖狐にその身を差し出した少女・十鴇と、妖狐を倒すために陰陽師となった青年・葛城直を中心に描かれる時代ロマンの続巻であります。妖狐の力で貴族たちの間に食い込んでいく十鴇がついに見つけた憎き仇。それは姉を弄んだ貴族で――

 都の貴族に捨てられた姉が首を吊り、父も悲憤のうちに亡くなった少女・十鴇。生きる気力を無くした彼女を救うため、直はかつて先祖が禁足地の塚に封じた妖狐「お塚様」の封印を解き、お塚様は十鴇の身に宿ることになります。

 妖狐に身を差し出す代わりにその力を借りて復讐を誓う十鴇と、妖狐を復活させたことを悔い、封印するために術道の修行に励む直。
 ともに惹かれ合い、想い合いながらも、敵対することとなった二人は、それぞれ京に向かうことになって――

 と、美しき復讐鬼として男たちを手玉に取っていく十鴇と、陰陽師として内に眠る力に目覚めていく直と、二人の主人公がそれぞれ京で本格的に動き出したこの第2巻。

 第1巻の紹介でも触れましたが、妖狐に憑かれた少女と陰陽師の若者を中心とする本作の物語のベースにあるのは、岡本綺堂の『玉藻の前』だと思われます。
 しかし本作は、この第2巻から決定的にそちらと異なる要素の存在を前面にしていくこととなります。その要素とは復讐――姉を奪った貴族と、そんな貴族たちによる社会に対する十鴇の復讐であります。


 お塚様の手引きで京に出るや、名門の御曹司である五葉織草を魅了し、貴族の世界への第一歩を歩み出した十鴇。宮中に出仕することとなった彼女が出会ったのは、憎き姉の仇・雲居小路内麿でありました。

 名門の出身であることを鼻にかけた放蕩三昧、咎められれば自慢の美しい涙でごまかしてしまう内麿(あの悪左府・頼長すら煙に巻いてしまうのだからすごい)。
 しかし、姉が養っていた少女・螢から、内麿の涙の秘密を知った十鴇は素性を隠して内麿に接近。織草、螢の力を借りて、恐るべき復讐を遂行することに――

 宮中での出世物語&復讐譚というのは、古今東西のエンターテイメントで枚挙がありません。その意味ではこの第2巻での展開も(そのあまりに鮮やかな復讐は、痛快ですらあるほど見事なものなのですが)、こうした物語の系譜に属する物語ではあります。

 しかし、ここで注目すべきは、十鴇の復讐という強烈な「意志」であります。そう、彼女はお塚様に憑かれながらも、あくまでも自分の意志を持って復讐しようとしているのです。

 実は、先に挙げた『玉藻の前』においては、ヒロインの意志は妖狐に奪われ(あるいは乗っ取られ)、ほとんど消滅した状態にありました。
 しかし本作の十鴇とお塚様は、明確に別の人格として存在し、互いを利用する関係にあります。すなわち、十鴇は単純に妖狐の哀れな犠牲者というわけではないのです。

 そしてその明確な「意志」の存在は、ひとり十鴇だけのことではありません。十鴇=妖狐を知りつつも彼女に寄り添い続ける織草、彼女に仕える螢――彼らもみな、自分たちの意思を持って、妖狐と接しているのです。
 彼女たちの意志の存在が、本作において希望なのか絶望なのか……それはまだわかりませんが、物語の方向性を左右する要素となるだろう、と言うことはできるでしょう。

 そして、彼女たちに意志があるということは、彼女たちが様々な過去を背負い、そこから生まれた想いを抱いた、「生きた」存在であることをも意味します。
 それはまた、彼女たち妖狐サイドの登場人物に限るものではありません。直はもちろんのこと、彼の後ろ盾であり織草の友人でもある藤原玄雪、そして内麿にすら、それぞれの人生の存在が浮かび上がるのです。

 それが本作の物語に、一層の陰影と魅力を与えていることは言うまでもありません。


 内麿への復讐を果たした十鴇。しかしそれは実はまだ始まりにすぎません。彼女の復讐の対象は、彼のような貴族の横暴を許す貴族社会そのものなのですから。
 己の意志でもってそれを為そうとする十鴇と、それを止めようとする直、そしてそれを見つめるお塚様……三者の物語はどこに向かうのでしょうか。

 「妖狐の物語」ではなく、「妖狐と人間の物語」としての姿をはっきりと見せた本作からは、もう目が離せません。


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