2017.11.15

入門者向け時代伝奇小説百選 中国もの

 入門者向け時代小説百選、ラストはちょっと趣向を変えて日本人作家による中国ものを紹介いたします。どの作品もユニークな趣向に満ちた快作揃いであります。
96.『僕僕先生』(仁木英之)
97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都)
98.『琅邪の鬼』(丸山天寿)
99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬)
100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州)

96.『僕僕先生』(仁木英之) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 唐の時代、働きもせずに親の財産頼みで暮らす無気力な青年・王弁。ある日出会った美少女姿の仙人・僕僕に気に入られて弟子となった王弁は、彼女とともに旅に出ることになります。世界はおろか、天地を超えた世界で王弁が見たものは……

 実際に中国に残る説話を題材としつつも、それをニート青年とボクっ娘仙人という非常にキャッチーな内容に生まれ変わらせてみせた本作。現代の我々には馴染みが薄い神仙の世界をコミカルにアレンジしてみせた面白さもさることながら、旅の中で異郷の事物に触れた王弁が次第に成長していく姿も印象に残ります。
 作者の代表作にして、その後シリーズ化さえて10年以上に渡り書き続けられることとなったのも納得の名作です。

(その他おすすめ)
『薄妃の恋 僕僕先生』(仁木英之) Amazon
『千里伝』(仁木英之) Amazon


97.『双子幻綺行 洛陽城推理譚』(森福都) 【ミステリ】 Amazon
 デビュー以来、中国を舞台とした歴史ミステリを次々と発表してきた作者が、唐の則天武后の時代を舞台に描く連作ミステリです。

 則天武后の洛陽城に宦官として献上された怜悧な美少年・馮九郎と、天真爛漫な双子の妹・香連。九郎は複雑怪奇な権力闘争が繰り広げられる宮中で、次々と起きる奇怪な事件を持ち前の推理力で解決していくのですが、権力の魔手はやがて二人の周囲にも……

 探偵役が宦官という、ユニークな設定の本作。収録された物語が、いずれもミステリとして魅力的なのはもちろんですが、則天武后の存在が事件の数々に、そして主人公たちの動きに密接に関わってくるのが実に面白い。結末で明かされる、史実との意外なリンクにも見所であります。

(その他おすすめ)
『十八面の骰子』(森福都) Amazon
『漆黒泉』(森福都) Amazon


98.『琅邪の鬼』(丸山天寿) 【ミステリ】 Amazon
 中国史上初の皇帝である秦の始皇帝。本作は、その始皇帝の命で不老不死の研究を行った人物・徐福の弟子たちが奇怪な事件に挑む物語であります。

 徐福が住む港町・琅邪で次々と起きる怪事件。鬼に盗まれた家宝・甦って走る死体・連続する不可解な自死・一夜にして消失する屋敷・棺の中で成長する美女――超自然の鬼(幽霊)によるとしか思えない事件の数々に挑むのは、医術・易占・方術・房中術・剣術と、徐福の弟子たちはそれぞれの特技を活かして挑むことになります。

 とにかく起きる事件の異常さと、登場人物の個性が楽しい本作。本当に合理的に解けるのかと心配になるほどの謎を鮮やかに解き明かす人物の正体が明かされるラストも仰天必至の作品です。

(その他おすすめ)
『琅邪の虎』(丸山天寿) Amazon
『邯鄲の誓 始皇帝と戦った者たち』(丸山天寿) Amazon


99.『もろこし銀侠伝』(秋梨惟喬) 【ミステリ】 Amazon
 遙かな昔、黄帝が悪を滅するために地上に下したという「銀牌」。本作は、様々な時代に登場する銀牌を持つ者=銀牌侠たちが、江湖(官に対する民の世界)で起きる怪事件の数々に挑む武侠ミステリであります。

 本書に収録された四つの物語で描かれるのは、武術の奥義による殺人事件の謎。日本の剣豪小説同様、中国の武侠小説でも達人の奥義の存在と、それを如何に破るかというのは作品の大きな魅力ですが、本作ではそれがそのまま謎解きとなっているのが、実にユニークであります。

 そしてもう一つ、ラストの中編『悪銭滅身』の主人公が浪子燕青――「水滸伝」の豪傑百八星の一人なのにも注目。水滸伝ファンの作者らしい、気の利いた趣向です。

(その他おすすめ)
『もろこし紅游録』(秋梨惟喬) Amazon
『黄石斎真報』(秋梨惟喬) Amazon


100.『文学少年と書を喰う少女』(渡辺仙州) 【児童】【怪奇・妖怪】 Amazon
 時代伝奇小説の遠い祖先とも言える中国四大奇書。その一つ「西遊記」の作者――とも言われる呉承恩を主人公とした奇譚です。

 父との旅の途中、みすぼらしい少女・玉策に出会って食べ物を恵もうとした作家志望の少年・承恩。しかし玉策の食べ物は何と書物――実は彼女は、泰山山頂の金篋から転がり落ちた、人の運命を見抜く力を持つ存在だったのです。
 玉策の力を狙う者たちを相手に、承恩は思わぬ冒険に巻き込まれることに……

 「西遊記」などの中国の古典を児童向けに(しかし大人も唸る完成度で)リライトしてきた作者。本作もやはり本格派かつ個性的な味わいを持った物語ですが、同時に物語の持つ力や意味を描くのが素晴らしい、「物語の物語」であります。

(その他おすすめ)
『封魔鬼譚』シリーズ(渡辺仙州) Amazon



今回紹介した本
僕僕先生 (新潮文庫)双子幻綺行―洛陽城推理譚琅邪の鬼 (講談社文庫)もろこし銀侠伝 (創元推理文庫)(P[わ]2-1)文学少年と書を喰う少女 (ポプラ文庫ピュアフル)


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 入門者向け時代伝奇小説百選

 「僕僕先生」
 「双子幻綺行 洛陽城推理譚」(その一) 事件に浮かぶ人の世の美と醜
 「琅邪の鬼」 徐福の弟子たち、怪事件に挑む
 「もろこし銀侠伝」(その一) 武侠世界ならではのミステリ
 渡辺仙州『文学少年と運命の書』 物語の力を描く物語

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2017.11.01

入門者向け時代伝奇小説百選 幕末-明治(その二)

 入門者向け時代伝奇小説百選、幕末-明治のその2は、箱館戦争から西南戦争という、武士たちの最後を飾る戦いを題材とした作品が並びます。

86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎)
87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健)
88.『警視庁草紙』(山田風太郎)
89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄)
90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健)


86.『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』(富樫倫太郎) Amazon
 近年、幾つもの土方歳三を主人公とした作品を発表してきた作者が、極めてユニークな視点から箱館戦争を描くのが本作です。

 プロシア人ガルトネルが蝦夷共和国と結ぶこととなった土地の租借契約。その背後には、ロシア秘密警察工作員の恐るべき陰謀がありました。この契約に疑問を抱いた土方は、在野の軍学者、箱館政府に抗するレジスタンス戦士らと呉越同舟、陰謀を阻むたの戦いを挑むことに……

 実際に明治時代に大問題となったガルトネル事件を背景とした本作。その背後に国際的陰謀を描いてみせるのは如何にも作者らしい趣向ですが、それに挑む土方の武士としての美意識を持った人物像が実にいい。
 終盤の不可能ミッション的な展開も手に汗握る快作です。

(その他おすすめ)
『神威の矢 土方歳三蝦夷討伐奇譚』(富樫倫太郎) Amazon


87.『旋風伝 レラ=シウ』(朝松健) 【怪奇・妖怪】 Amazon
 幕末最後の戦いというべき五稜郭の戦。本作はその戦の終わりから始まる新たな戦いを描く雄編です。

 五稜郭の戦に敗れ、敗残兵となった少年・志波新之介。新政府軍の追っ手や賞金稼ぎたちと死闘を繰り広げつつ、生き延びるための旅を続ける彼の前に現れるのは、和人の過酷な弾圧に苦しむアイヌの人々、そして大自然の化身たる蝦夷地の神々や妖魔たち。
 出会いと別れを繰り返しつつ、北へ、北へと向かう新之介を待つものは……

 和製マカロニウェスタンと言うべき壮絶なガンアクションが次から次へと展開される本作。それと同時に描かれる蝦夷地の神秘は、どこか消えゆく古きものへの哀惜の念を感じさせます。
 一つの時代の終焉を激しく、哀しく描いた物語です。

(その他おすすめ)
『地の果ての獄』(山田風太郎) Amazon


88.『警視庁草紙』(山田風太郎) 【ミステリ】 Amazon
 作者にとって忍法帖と並び称されるのが、明治ものと呼ばれる伝奇小説群。本作はその記念すべき第一作であります。

 川路大警視をトップに新政府に設立された警視庁。その鼻を明かすため、元同心・千羽兵四郎ら江戸町奉行所の残党たちは、市井の怪事件をネタに知恵比べを挑むことに……

 漱石・露伴・鴎外・円朝・鉄舟・次郎長など、豪華かつ意外な顔ぶれが、正史の合間を縫って次々と登場し物語を彩る本作。そんな明治もの全体に共通する意外史的趣向に加え、ミステリとしても超一級のエピソードが並びます。
 そしてそれと同時に、江戸の生き残りと言うべき人々の痛快な反撃の姿を通じて明治以降の日本に対する異議申し立てを描いてみせた名作であります。

(その他おすすめ)
『明治断頭台』(山田風太郎) Amazon
『参議暗殺』(翔田寛) Amazon


89.『西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄) 【ミステリ】 Amazon
 北辰一刀流の達人にして、維新後は写真師として暮らす元幕臣・志村悠之介。西南戦争勃発直前、西郷隆盛の顔写真を撮るという依頼を受けた彼は、一人鹿児島に潜入することになります。
 そこで彼を待つのは、西郷の写真を撮らせようとする者と、撮らせまいとする者――いずれも曰くありげな者たちの間で繰り広げられる暗闘に巻き込まれた悠之介の運命は……

 文庫書き下ろし時代小説界で大活躍中の作者が最初期に発表した三部作の第一作である本作。
 知られているようで謎に包まれている西郷の「素顔」を、写真という最先端の機器を通じて描くという趣向もさることながら、その物語を敗者や弱者の視点から描いてみせるという、実に作者らしさに満ちた物語です。


(その他おすすめ)
『鹿鳴館盗撮 剣豪写真師・志村悠之介』(風野真知雄) Amazon
『黒牛と妖怪』(風野真知雄) Amazon


90.『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』(新美健) Amazon
 西南戦争終盤、警視隊の藤田五郎をはじめ曲者揃いのメンバーとともに、西郷を救出せよという密命を下された村田経芳。
 しかしメンバー集合前に隊長が何者かに暗殺され、それ以降も次々と彼らを危機が襲うことになります。誰が味方で誰が敵か、そしてこの依頼の背後に何があるのか。銃豪と剣豪が旅の果てに見たものは……

 期待の新星のデビュー作である本作は、優れた時代伝奇冒険小説というべき作品。
 後に初の国産小銃である村田銃を開発する「銃豪」村田経芳を主人公として、いわゆる不可能ミッションものの王道を行くような物語を描くと同時に、その中で、時代の境目に生きる人々が抱えた複雑な屈託と、その解放を描いてみせるのが印象に残ります。



今回紹介した本
箱館売ります(上) - 土方歳三 蝦夷血風録 (中公文庫)旋風伝 レラ=シウ(1)警視庁草紙 上  山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)西郷盗撮 剣豪写真師・志村悠之介 (角川文庫)明治剣狼伝―西郷暗殺指令 (時代小説文庫)


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 富樫倫太郎『箱館売ります 土方歳三蝦夷血風録』上巻 箱館に迫る異国の大陰謀
 「西郷盗撮 剣豪写真師志村悠之介 明治秘帳」 写真の中の叫びと希望
 新美健『明治剣狼伝 西郷暗殺指令』 銃豪・剣豪たちの屈託の果てに

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2017.10.30

黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第13巻 無双、宇都宮城 そして束の間の……

 まだまだ続く地獄道、『PEACE MAKER鐵』の第13巻は、前巻に続き宇都宮城の戦いが描かれることとなります。近藤を救うため、宇都宮城を包囲する新政府軍と決死の思いで激闘を繰り広げる土方。その一方で、新政府軍の陣を脱出して逃避行を繰り広げる当の近藤の向かう先は――

 新政府軍の伊地知に捕らえられた近藤を救うために勝の力を借りる交換条件として、大鳥圭介率いる伝習隊と行動を共にすることとなった土方。しかし宇都宮城で新政府軍と交戦することになった土方は、多勢を前に殿として戦い、窮地に陥いることになります。
 と、そこで土方のもとに駆けつけたのは、なんとなんと袂を分かったはずの原田左之助! 土方の剣に原田の槍、さらには辰之助の銃も加わり、一騎当千の大暴れを繰り広げることとなります。

 一方、野村利三郎の活躍(というより彼に引っ張られて)伊地知の陣を脱出した近藤は、伊地知の放った熊(!)の追跡をかわしながらも必死の逃避行を続けることに……


 というわけで、原田参戦、近藤脱出と、一見史実と異なるルートに入ったかに見える本作。それはいかがなものか、という方もいらっしゃるかもしれませんが、ここのところの鬱展開の中で見えた一筋の光明にすがりたいのがファン心理というものであります。

 そしてそんな気持ちに応えるかのように、この巻の冒頭で繰り広げられる土方&原田&辰之助の大暴れは実に気持ちがいい。
 敵兵を当たると幸いなぎ倒す、まさしく無双状態の彼らは、こんな新選組が見たかった! と言いたくなるような痛快さであります。
(ここに丸太を担いだ島田も加わってもう大騒ぎ)

 と、そんな中でも不気味な冷静さを保っているのが辰之助。目からハイライトが消えた彼は、ここのところ狙撃手として急成長――と思いきや、成長しすぎて何だかスゴい感じの面白ガンマンキャラとして参戦することになります。

 ロングコートを思わせる羽織の下に死神めいた支持架(?)を装着した彼は、ロングライフルと自作の携帯用ダブルガトリングガンを手に、手のつけられない死神(あっ)ぶりを発揮するのですから驚くほかありません。

 この巻で宇都宮城を包囲するのは、大鳥の教え子である薩摩藩士・大山弥助。言うまでもなく後の大山巌――西郷隆盛の従兄弟にして、日本陸軍を率いて日清・日露の両戦争を戦い抜いた豪傑であります。
 その大山が持ち込んだ最新鋭の連発砲台を相手に、単身辰之助がガンバトルを繰り広げるのがこの巻の前半の山場とも言うべき展開なのですからもうたまりません。


 しかしこの巻の真の山場は、この先にあります。白兵戦での奮闘ももむなしく、圧倒的な物量の前に押される新選組勢。大山軍の一斉砲火の前に目も霞み、立ち上がるのがやっとの土方の前に現れ、彼をかばって火砲の前に立った男とは……

 それが誰であるかはここでは述べますまい。しかし、それが、ここで土方が最も会いたかった男である――と申し上げれば十分でしょう。
 あくまでも一瞬の出会い、あまりに皮肉すぎるすれ違いではありますが――しかし、ここで男が土方にかけた言葉に込められた無限の想いには、もう胸を熱くするほかありません。(そしてその言葉の意味するところも……)

 ここまでの史実を離れた展開は、このシーンのためであったか! と大いに納得したと同時に、新選組ファンにとっての大きな不満、あるいは無念をこんな形で晴らしてくれるとは――と作者の粋な計らいに頭が下がるばかりであります。

 もちろん、この場面があったからこそ、この先がますます辛くなるのもまた真実なのですが……


 意外な出会いを経て、土方の戦いはどこに向かうのか。そしてやはり歴史は変わらないのか。
 今回はほとんど出番のなかった鉄之助の役割も気になるところ、やはり先を早く読みたいような読みたくないような――そんな物語であります。


『PEACE MAKER鐵』第13巻(黒乃奈々絵 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
PEACE MAKER 鐵 13 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第8巻 史実の悲劇と虚構の悲劇と
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第9巻 数々の新事実、そして去りゆくあの男
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第10巻 なおも戦い続ける「新撰組」の男たち
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第11巻 残酷な史実とその影の「真実」
 黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第12巻 逃げる近藤 斬る土方 そして駆けつけた男

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2017.10.26

若林不二吾『風雲ライオン丸』 第三の、時代劇画としての風雲ライオン丸

 漫画版『風雲ライオン丸』は、先日紹介した一峰大二版だけではありません。本作はうしおそうじが若林不二吾のペンネームで執筆した作品――TV版の設定・ストーリーを踏まえつつ、繊細かつ迫力あるタッチで描かれた、もう一つの漫画版であります。

 現在ではピープロ社長として語られることがほとんどであるものの(かく言う私もこちらの知識しかなかったのですが)、元々は漫画家として大活躍していたうしおそうじ。
 本作はそのうしおそうじが自らの手で自作を漫画化した作品であります。

 連載媒体はサンケイ新聞、一回一ページという新聞連載漫画にはままある形態ですが、しかし本作のような内容の作品をこの形で描けるのか……? という疑問は、本作を前にすれば愚問であることがわかります。
 毎回一ページをフルに使ってテンポ良く物語を展開させると思えば、時に思い切った大ゴマで決めてみせる。緩急自在に描かれる物語は、今読んでみても実に面白いのであります。

 そして繊細で、かつきっちりと細部まで描き込まれた絵柄は、太い描線の一峰作品とは全く異なる味わい。
 変身ヒーローものである以上に、時代劇画としての空気を色濃く漂わせる画は、こういうコミカライズが見たかった、という気持ちにさせられます。


 さて、そんな本作ですが、先に述べたようなスタイルの連載であるためTV版の忠実な漫画化とは当然いきません。必然的にダイジェストとなります。

 現在、角川書店版の『快傑ライオン丸』第2巻に収録されている前半部分は、TV版の第1話(ネズマ)と第3話(ドカゲ)の物語のミックスに第2話の豹馬登場を絡めてライオン丸誕生を描く内容。
 同じく『風雲ライオン丸』に収録の後半は、第11話(ザグロ)の物語をベースに豹馬の死を描き、並行して第15話のゾリラが最強怪人として開発される様が描かれ、そこから一気に最終話に突入――という展開です。

 これを見ればわかるように、ライオン丸登場までを非常に丹念に描くのが本作の特徴の一つであります。
 開幕しばらく描かれるのは、TV版第1話で描かれた獅子丸の兄・弾影之進の苦闘と敗北。実に獅子丸の登場は開幕20ページほどを過ぎてからというペースなのですから(志乃・三吉兄弟と出会うのは影之進の方が先)。

 そしてライオン丸登場は70ページを過ぎた頃(これまた変身はブラックジャガー(本作ではジャガーマン)の方が早い)。
 上に述べた連載形式のことを思えば、実に二ヶ月以上経ってからの変身というのはずいぶんと思い切ったものですが、そこに至るまでの丹念な描写の積み重ねが、大きなカタルシスを呼ぶのであります。

 そして後半はTV版の内容を踏まえつつも、かなりの部分でオリジナルの展開を用意しているのが嬉しいところです。
 特に、豹馬を斃した後、相棒のズクを獅子丸に倒されて本拠に逃げ帰ったザグロ(ここでアグダーに愛想を尽かされて放置されるのがおかしい)が、怪人軍団を率いて獅子丸に挑むも、アグダーから謀反人扱いされて――というオリジナル展開が面白い。

 一方でその後のゾリラやアグダーとの決戦以降は驚くほど駆け足なのが残念ですが、TV版とは異なるアグダーの真の狙いや、志乃と三吉の父の行方を絡めての結末は悪くありません。特に最終回、一ページぶち抜きで描かれる志乃の美しい姿は強く印象に残ります。


 そんなわけで、総じて『風雲ライオン丸』という物語を再構成して、時代劇画として再構成してみせたという印象の強い本作。
 『風雲ライオン丸』という作品の様々などぎつさを巧みに薄めつつ、しかしその美しく迫力ある画で補ってみせた、第三の『風雲ライオン丸』として満足できる作品です。

 もっとも、この漫画版でも錠之助の印象は薄く、豹馬と立ち会って片目を潰されるという展開は面白いものの、やはり突然出てきた正体不明の男、という印象は否めないのが残念なところ。
 TV版とは異なり、最終決戦に参加できたのが救いですが……(ちなみにこの時、何故か両目が揃っている)


 ちなみに、本作、冒頭のマントルゴッドとアグダーの会話の中で、マントル一族が虫の生命力と人間の知恵を混ぜ合わせて(誰が?)生まれた存在と語られているのが興味深い。
 また、獅子丸のポンチョが母の形見で、ライオン丸もポンチョの導きが作用しているように感じられる描写もあり、サラリと気になる内容が盛り込まれている作品でもあります。

『風雲ライオン丸』(若林不二吾&うしおそうじ カドカワデジタルコミックス『快傑ライオン丸』第2巻・『風雲ライオン丸』所収)
快傑ライオン丸(2) (カドカワデジタルコミックス)風雲ライオン丸 (カドカワデジタルコミックス)


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2017.10.12

玉井雪雄『本阿弥ストラット』第2巻 落ちこぼれチームのレース始まる!?

 最近は時代漫画家としての活躍が目立つ作者の新作もこれで第2巻。本阿弥光悦の玄孫・本阿弥光健を中心に据え、全く先の読めない形で始まった物語も、新酒番船を巡るレースという明確な目的が設定されたものの――そこに至るまでの道はまだまだ波瀾万丈であります。

 女郎屋の代金を踏み倒したために、人買い商人の奴隷船に叩き売られた光健。彼と一緒に閉じ込められていたのは、あらゆる共同体から捨てられて人別を失い、自分たちも希望や気力を失った「棄人」たちのみという最低最悪の状況でしたが……
 しかし自分の「目利き」に絶対の自信を持つ彼は、その力で棄人たちを奮起させ――その過程で想像外の出来事も多々あったものの――人買い商人一味から棄人たちを解放したのでした。

 ところが物語はここから意外な方向に向かいます。棄人の一人・とっつぁん――かつては凄腕の船頭として知られた男・桐下は、棄人たちを率いて、新酒番船に参戦することを宣言したのであります。

 この新酒番船とは、一言でいえば新酒の輸送レース。毎年、上方の新酒を積んだ廻船を大坂や西宮の問屋14軒がそれぞれ仕立て、西宮-江戸間の競争を行ったものです。
 通常で5日ほど、最高記録は2日半という通常では考えられない過酷なこのレースは、それだけに海の男たちの誇りと技術の粋を結集した一大イベント。どうやら本作では裏の顔もあったようですがそれはさておき……

 しかし、桐下を除けばド素人だらけの面子でこのレースに参戦するのは無謀の一言。そもそも、参加のためには参加権が必要で――というわけで桐下と光健は、かつて桐下を裏切り、全てを奪ってのし上がった男が作った廻船問屋・海老屋を最初のターゲットにすることになります。
 その跡取りの器を見極め、揺さぶりをかける光健ですが、それが思わぬ結果をもたらすことに……
(ちなみにここで桐下の後ろ盾になるのが、史実の上でも色々と曰くのある兵庫の北風家なのが実に面白い)


 と、第1巻の時点では人買い船の上が舞台と、全く先が読めなかった本作ですが、この巻ではだいぶその向かう先が見えてきた印象があります。
 それは言うなれば落ちこぼれチームもの――世間からはみ出した連中が、能力的にも立場的にも圧倒的に上の相手に、特技とチームワークで立ち向かっていくという、スポーツものなどによくあるパターンであります。

 しかし時代劇ではほとんど記憶にないこのパターンを、このような形でやってしまうとは――と大いに驚かされるのですが、本作の面白さはそれだけに留まりません。
 これがスポーツものであればスカウトマンでありコーチ役ともいえる光健――しかし第1巻の紹介でも触れたように、彼が行うのはあくまでも人物の器を「目利き」すること。その先、その器を相手がどう使うかまでは、彼のコントロールするところではないのです。

 この巻でも、海老屋の息子たちを彼が目利きしたことがきっかけで、とんでもない事態に発展するのですが――そのままならなさが実に面白いとしか言いようがありません。


 何はともあれ、光健も加わった棄人チームも参加して、ついに始まった新酒番船。
 海老屋だけでなく、ほかにも一癖も二癖もありそうな連中が参加したこのレースの行方はどうなるのか、そして光健は仲間たちの、そして自分自身の目利きをすることができるのか……

 いよいよ物語が走り出した今、その向かう先が楽しみでなりません。


『本阿弥ストラット』第2巻(玉井雪雄 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon
本阿弥ストラット(2) (ヤンマガKCスペシャル)


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2017.10.09

入門者向け時代伝奇小説百選 江戸(その一)

 入門者向け時代伝奇小説百選、今回は本丸ともいうべき江戸時代を舞台とした作品のその一であります。

71.『蛍丸伝奇』(えとう乱星)
72.『吉原御免状』(隆慶一郎)
73.『かげろう絵図』(松本清張)
74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人)
75.『魔岩伝説』(荒山徹)


71.『蛍丸伝奇』(えとう乱星) 【剣豪】 Amazon
 最近の名刀ブームで俄かに知名度の上がった名刀・蛍丸。本作はその蛍丸を巡り、幾多の剣豪たちが激突する物語です。

 勤王の象徴である螢丸を所望した後水尾上皇の動きを警戒する幕府。上皇を抑えるために西国に向かうことになったのは、沢庵和尚の弟子であり、上皇の異母弟である青年僧・化龍でした。しかし彼の前には、柳生一門、宮本武蔵、そして松山主水がそれぞれの思惑を秘めて立ち塞がることに……

 名刀を巡る剣豪バトルロイヤルが展開される本作。しかしそれと同時に、そこでは化龍をはじめとする登場人物たちが抱えた哀しみの存在と、その浄化をも描き出します。派手な伝奇活劇と、切なく暖かい群像劇を得意とする作者ならではの作品です。


72.『吉原御免状』(隆慶一郎) 【剣豪】 Amazon
 その作家としての活動期間の短さにもかかわらず、今なお多くの読者を魅了して止まぬ作者のデビュー作であります。
 宮本武蔵に育てられ、師の遺言に従って吉原に現れた好青年・松永誠一郎。彼はそこで吉原に隠された神君家康の御免状を狙う柳生一門と対峙することになります。そしてそれはやがて彼自身の出生の秘密にも関わっていくことに……

 吉原に秘められた秘密、幕府と天皇家の激しい暗闘と、娯楽性の高さは言うまでもないことながら、無縁・公界など網野善彦の歴史学の成果をも取り込んだ、一種アカデミックな伝奇世界を作り出した本作。
 その一方で、一人の無垢な青年の成長を描く青春小説としても第一級の作品であります。

(その他おすすめ)
『かくれさと苦界行』(隆慶一郎) Amazon
『死ぬことと見つけたり』(隆慶一郎) Amazon


73.『かげろう絵図』(松本清張) 【ミステリ】 Amazon
 言うまでもなく社会派ミステリの巨匠である作者が天保期を舞台に、権力に群がる人々の姿を描いた大作です。

 大御所家斉や大奥と結び、権勢をほしいままにする中野石翁。寺社奉行・脇坂淡路守が大奥の腐敗を暴かんとする中、淡路守派の旗本の甥・島田新之助もこの暗闘に巻き込まれていくことになります。敵味方を問わず次々と犠牲者が出る中、新之助が見たものは……

 政治を牛耳る巨悪という如何にも作者らしい題材を描きつつも(下山事件を思わせる展開も……)、単純な善悪の戦いに留まらず、人々の現世的な欲望の世界を描いた本作。
 ヒーローの立場にありつつも、超然とした視点から人々の右往左往する様を見る新之助の存在が強く印象に残ります。


74.『竜門の衛 将軍家見聞役元八郎』(上田秀人) Amazon
 いまや文庫書き下ろし時代小説界の代表選手の一人となった作者のデビュー作にして、作者の魅力が色濃く現れた快作です。

 八代将軍吉宗の時代、将軍嗣子・家重暗殺の企みに巻き込まれた南町同心・三田村元八郎。その功績を買われて抜擢された彼は、将軍宣下を巡る陰謀を探るため、京に向かうことに。暗闘が帝の身辺にも及ぶ中、元八郎の宝蔵院一刀流が唸る……!

 その作品の多くで、権力を巡る幕閣たちの暗闘と、それに巻き込まれた剣の達人の苦闘、そしてその背後の伝奇的秘密を描いてきた作者。そんな特徴は、第一作である本作の時点で、はっきりと現れています。
 巨大な権力を前にしても己を失わない主人公の活躍が爽快な名作です。

(その他おすすめ)
『幻影の天守閣』(上田秀人) Amazon
『奥右筆秘帳』シリーズ(上田秀人) Amazon


75.『魔岩伝説』(荒山徹) Amazon
 日本と朝鮮の交流史を背景に、奇想天外な作品を次々に発表してきた作者。その作者の魅力が最もストレートに現れた作品です。

 50年ぶりの朝鮮通信使来日を控えた頃、対馬藩江戸屋敷に出現した怪人。この騒動に巻き込まれたことから、若き日の遠山景元は、朝鮮の美少女・春香とともに海を越え、通信使に秘められた秘密を追うことになります。しかし二人の後を追い、若き日の鳥居耀蔵、剣豪・柳生卍兵衛も朝鮮に向かうことに……

 徳川幕府と李氏朝鮮の間に隠された巨大すぎる秘密の存在を朝鮮妖術を絡めつつ描く本作。本作はそんな伝奇活劇と同時に、権力に屈せぬ人々の姿、そして戦いの中で成長する青年の姿を描いていきます。美しいラストも必見!

(その他おすすめ)
『高麗秘帖』(荒山徹) Amazon
『鳳凰の黙示録』(荒山徹) Amazon



今回紹介した本
螢丸伝奇吉原御免状 (新潮文庫)かげろう絵図〈上〉 (文春文庫)将軍家見聞役 元八郎 一  竜門の衛<新装版> (徳間文庫)魔岩伝説 (祥伝社文庫)


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2017.10.06

一峰大二『風雲ライオン丸』 巧みなチョイスによる名コミカライズ

 ピープロ作品のコミカライズはこの人、とも言うべき一峰大二による漫画版『風雲ライオン丸』であります。「冒険王」誌及び「別冊冒険王映画テレビマガジン」誌に掲載されたもの(及びサンケイ新聞に連載された若林不二吾版)を収録した角川書店版の単行本をベースに紹介いたします。

 マントルゴッドの地下帝国に兄を殺された弾獅子丸。彼は兄の遺言を胸に、背のロケット噴射でライオン丸に変身、父を探して旅する志乃と三吉姉弟とともに、マントル一族に戦いを挑む……

 というTV版の内容は基本的にそのままに描かれるこの漫画版二作。
 どちらも月刊誌で半年間の連載ということで各6話構成、それぞれ内容はパラレルということも考慮に入れても、全25話のTV版の全話再現は当然不可能なのですが――しかし巧みなエピソードチョイスで、TV版とも独立した作品として楽しめるのはさすがと言うべきでしょう。

 「冒険王」版で描かれるのは、バラチとネズマ(TV版では第1・2話(以下同))/シャゴン(第4話)/ズク(第10話)/ザグロ(第11話)/ズガング(第18話)/トビゲラ(第23話)。
 一方、「別冊冒険王」版ではネズマ(第1話)/ガー(第5話)/ガン(第12話)/ゾリラ(第15話)/ヤゴ(第16話)/トビゲラ(第23話)と、冒頭とラストは仕方がないとはいえ(しかし何故トビゲラかぶり……)、結果としてバラエティに富んだ内容であります。

 この2バージョンのうち、「別冊冒険王」版は、一話あたり約20ページと少なめなこともあり、内容的にはかなりシンプル(黒影豹馬も登場しない)なのですが、第4回までの冒頭8ページを飾るカラーページの迫力が素晴らしい。
 特に第1回の真っ赤な夕日を背景に荒野を走る幌馬車、第2回のガーの鱗粉で溶けていく森、第3回のガンの弾丸で溶かされる老人と家など、凄まじいインパクトであります。

 そしてシンプルと言いつつも、ヤゴの回はTV版を相当忠実に再現。掟のために死んでいく忍者たちを目の当たりにしつつ、恥ずかしくても苦しくても生きていくことが大事なんだと語る獅子丸の姿は、TV版同様、強く印象に残ります。


 一方、「冒険王」版は、一話あたり約30から40ページということもあり、各回の物語の充実度はかなりのもの。内容的にはドラマよりも怪人との攻防戦がメインなのですが、そのアクション描写が実にいい。
 ロケット噴射で軽快な立体機動アクションを見せる獅子丸、岩をぶち破りながら怪人二人をまとめて叩き斬るライオン丸など、TV版では技術的な制約で描けなかった描写が、きっちり格好良いのです(あの微妙だったズガングの逆立ち鎖鎌まで……)。

 その迫力ある描写が最大限に発揮された場面の一つが、ブラックジャガー(漫画版ではジャガーマン)の最期でしょう。TV版同様、ザグロに挑んで倒されるのですが――こちらでは矛のような巨大な刃が脳天に半ばまで食い込んだ上に、散弾攻撃で五体バラバラになるというインパクト満点の最期。
 いやはや、これを読んだ後でTV版を観ると、ずいぶんあっさりと感じられてしまうのが恐ろしいところです。

 そしてもう一つ、この漫画版ならではの迫力ある展開が楽しめるのは最終回であります。
 ついに地下帝国の本拠に突入し、マントルゴッドと対決する獅子丸。宙を舞いながらマントルゴッドの火球を躱す、次第に追い詰められていく獅子丸に、囚われの謎の男の助言で春の短刀と冬の太刀を合わせればほとばしる稲妻!

 そして稲妻による洞窟の崩落を利用してのライオン千じん落としがガーンとモロにマントルゴッドの顔面に炸裂! これ、映像でも観たかった! と言いたくなる、実に痛快なフィニッシュなのです。
 ちなみに囚われの謎の男は志乃と三吉の父。こちらではマントルの秘密を隠していたために捕らえられていたということで
悪魔に魂を売ってはいないようであります。


 この最終回の内容や上記のチョイスからもわかるように、実はこの一峰版はTV版の曇りエピソードをほとんど外しているために、TV版とはまた異なる印象になっているのは事実ではあります。
 それでも『風雲ライオン丸』としての独特の味わいはしっかり残っているのはのは、コミカライズの名手ならではの妙技でしょう。

 TV版の破天荒な世界観と作者の野太い描線がマッチした、名コミカライズであります。


『風雲ライオン丸』(一峰大二 カドカワデジタルコミックス) Amazon
風雲ライオン丸 (カドカワデジタルコミックス)


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2017.10.02

入門者向け時代伝奇小説百選 戦国(その二)

 入門者向け伝奇時代小説百選の戦国ものその二であります。今回は戦国ものの中でも近年の作品、フレッシュな魅力に溢れる作品を紹介いたします。

66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希)
67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男)
68.『覇王の贄』(矢野隆)
69.『三人孫市』(谷津矢車)
70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴)


66.『桃山ビート・トライブ』(天野純希) Amazon
 次世代の歴史小説家の中で先頭集団を行く作者のデビュー作である本作は、安土桃山時代の京を舞台にロック魂が炸裂する、破天荒な作品であります。

 流れ流れて芸能の中心地・京の五条河原に集った四人の若者。既成の音楽に飽き足らない四人は、型破りな演奏と言動で一気に民衆の支持を集めるものの、やがて武士による芸人への締め付けが強まっていくこととなります。さらに豊臣秀次と石田三成の政争に巻き込まれることとなった彼らは……

 いわゆるバンドものの基本を踏まえつつ、それをこの時代ならではの物語として見事に再生してみせた本作。新しい芸能と古い時代のせめぎ合いの中に自由な精神への希望を描く爽快な作品です。

(その他おすすめ)
『青嵐の譜』(天野純希) Amazon
『風吹く谷の守人』(天野純希) Amazon


67.『秀吉の暗号 太閤の復活祭』(中見利男) 【忍者】 Amazon
 作者のシリーズキャラクターである肥満体の暗号師・蒼海と、隻腕の少年忍者・友海の凸凹コンビが、日本消滅の危機に挑む奇想天外な物語であります。

 家康と三成の間の対立が深まる中で流行する手まり歌。天下分け目の大戦に太閤秀吉が甦るという奇怪なその歌の秘密を求めて様々な勢力の間で繰り広げられる暗闘に、蒼海と友海は巻き込まれることになります。
 そして死闘の末、大坂城で開催される暗号競会「太閤の復活祭」。そこで明かされる恐るべき秘事とは――

 時代伝奇小説数ある中でも、破天荒さと意外性では屈指の本作。バトルと暗号解読がこれでもかと散りばめられた末に明かされるスケールの大きすぎる真相は必見であります。


(その他おすすめ)
『官兵衛の陰謀 忍者八門』(中見利男) Amazon


68.『覇王の贄』(矢野隆) 【剣豪】 Amazon
 天下統一を目前とした覇王・信長が配下の武将たちに下した命。自慢の武芸者・新免無二斎を一対一で殺せる者を連れてこいという信長に対し、六人の武将たちは、悩みつつもそれぞれ「贄」を選ぶことに……

 無双の強さを誇る無二斎を倒せる者はいるのか? そして信長の真意はどこにあるのか? 本作で描かれるのは、無二斎と武芸者たちの決闘はもちろんのこと、信長と配下の武将たちの心理戦であります。
 デビュー以来ほぼ一貫して、命を賭けた戦いと、その中で己の生の意味を見いだす者たちを描いてきた作者。その作者が、武芸者たちと武将たちと、二重のバトルを通じて武将たちの生き様を浮き彫りにしてみせた名品です。

(その他おすすめ)
『蛇衆』(矢野隆) Amazon


69.『三人孫市』(谷津矢車) Amazon
 デビュー以来「二十代最強の歴史作家」と呼ばれてきた作者が、鉄砲術でその名を轟かせた雑賀孫市を、タイトルのとおり三人の、それも血の繋がった三兄弟として描き出した物語であります。
 体は弱いものの鉄砲用兵に精通した長男・義方、鉄砲と金砕棒を自在に操る剛勇の次男・重秀、無口無表情ながら凄腕の狙撃手である三男・重朝。この三兄弟を擁することで無双の傭兵集団となった雑賀衆は、やがて信長の軍と対峙することになるのですが……

 同じ孫市の名を得ながらも、三人三様の道を選んだ兄弟たち。意外性に富んだ物語の面白さのみならず、作者の作品に通底するする「個」と「時代」の相剋を、より先鋭化して描いてみせた名品です。

(その他おすすめ)
『曽呂利!』(谷津矢車) Amazon


70.『真田十勇士』シリーズ(松尾清貴) 【忍者】【児童文学】 Amazon
 いつの時代も衰えぬ人気を持つ真田幸村と十勇士。本作はその十勇士を描く、最も新しく、最も独創的な物語であります。

 上田の地を守るため、天下人の間で独自の戦いを続ける真田幸村と十勇士。彼らはその戦いの中で、天下人たちの背後に潜む存在を知ります。その名は百地三太夫――荼枳尼天の法を用い、時空を超えた力を振るう三太夫に対し十勇士は戦いを挑むのですが……

 そんな壮大な伝奇活劇を展開させつつ、本作は「天下」という概念を「人間」個人の存在を否定するものとして描写。天下を窺う三太夫との戦いは、人間性を否定された過去を持つ十勇士たちにとって人間性回復の戦いでもある――そんな構図の独創性に唸らされるのです。

(その他おすすめ)
『真田十勇士(小学館文庫版)』(松尾清貴) Amazon



今回紹介した本
桃山ビート・トライブ (集英社文庫)秀吉の暗号 太閤の復活祭〈一〉 (ハルキ文庫 な 7-3)覇王の贄(にえ)三人孫市真田十勇士〈1〉忍術使い


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 「秀吉の暗号 太閤の復活祭」第1巻 恐るべき暗号トーナメント
 矢野隆『覇王の贄』 二重のバトルが描き出す信長とその時代
 谷津矢車『三人孫市』 三人の「個」と「時代」の対峙の姿
 松尾清貴『真田十勇士 1 忍術使い』(その一) 容赦なき勇士たちの過去

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2017.09.17

『風雲ライオン丸』を見終えて(後編)

 『風雲ライオン丸』の全編を通じての印象の後半であります。決して悪い作品ではない、むしろ評価できる点も多い本作。しかし……

 それでは本作が手放しで絶賛できる作品かといえば、しかし否という必要があるのでしょう。
 残念ながらあまり評価できないのは、むしろ物語構成や人物配置における迷走ぶり(というのは言葉が強すぎるかもしれませんが)というべきもの――ライバルキャラとして登場したはずの黒影豹馬のあっさりした退場、そして代わって登場した虎錠之助のキャラの弱さに代表される部分であります。

 特に虎錠之助/タイガージョーJrは、言うまでもなく前作の人気キャラクターである虎錠之介/タイガージョーの再来を狙ったキャラですが、作中では出自不明(はいいとして)で目的不明、今ひとつ立場がはっきりしないというキャラクター。
 終盤は出番が少なく、最終決戦にも参加しない――いやそれ以前に、初期は錠之介なのか錠之進なのか錠之助なのか、名前が固まらなかったというのは、ある意味このキャラの立ち位置を雄弁に物語っていると感じます。

 そのほかにも、外したり被ったり(さらに言えば、外した次の回にはまた被っていたり)のライオン丸の兜や、突然再登場して前作との関係性をさらにややこしくした快傑ライオン丸、何よりもヒロインの父であり旅する理由であった勘介の作中での扱いなど……
 色々と画面の外での混乱や試行錯誤が窺われる部分が、結果として本作の完成度を削ぐ結果となっているのは、やはり残念と言わざるを得ません。


 結局のところ本作は、言われているほど悪くない、いや瞬間最大風速的には前作を上回る点もありつつも、残念な点も少なくなかった、という評価になるのかもしれません。
 しかしここには本作ならではの、本作でしか見れないものが――傑作であった前作にもないものがあった――それは間違いないと感じます。

 その最たるものは、舞台となる戦国という時代の一つの有り様が、物語から痛いほど伝わってくる点であります。

 前作の敵・大魔王ゴースンに比べれば、その正体等で謎の点も非常に多いだったマントルゴッド。
 もちろんビジュアルインパクトではゴースンに勝るとも劣らない(というより特撮史上に残る)存在だったなのですが、それはさておき、僕はこのマントルゴッドの、マントル地下帝国の正体不明ぶりこそ、この本作の魅力の一つが現れていると感じます。

 ただひたすらに強大で恐ろしく、非情な存在――それを前にした人々は恐れ惑い死んでいくか、あるいは膝を屈してその一部になるしかない存在。
 それはもちろんヒーローに対する悪というものの定番の描写でありますが、本作においてはその正体不明の悪意に満ちた力こそが、舞台となる戦国時代の――個人の力ではどうにもできぬ巨大な時代の流れの象徴、一つの顕れとして感じられるのです。

 そしてまた、獅子丸が戦ってきた相手は、マントル一族だけではありませんでした。彼の前に立ち塞がったのは、同じ人間の無理解や悪意、利己心など――戦国という時代の隙間から吹き出してきた人間の業とも言うべきものもまた、彼を強く悩ませてきたのです。
 マントル一族がなければ、人々が犠牲になることはなかったのか――その数は減ることはあれど、しかしその答えが否であることを、本作の物語は雄弁に語ります。

 今なお語り草である本作の結末――勝ったと叫びながらも笑顔一つなく消えていく獅子丸の姿には、自分が倒したものはこの時代と世界を象徴する「悪」の一つに過ぎなかったことに気付いてしまった(気付かざるを得なかった)者の苦悩を感じる……
 というのは牽強付会に過ぎるかもしれませんが、そこには時代という壁にぶつかったヒーローの姿が確かにあることは間違いありません。

 その意味で本作は、前作でも至らなかった境地に達してしまった、希有の特撮ヒーロー時代劇であったと言えるのではないでしょうか。


 ついつい熱が入りすぎて妙なところまで入り込んでしまった感もありますが、これがそれが僕の大げさな物言いであるかどうか、ぜひとも機会を見つけてご確認いただきたいと、心から願う次第です。


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2017.09.16

『風雲ライオン丸』を見終えて(前編)

 これまで全25話の紹介をさせていただいた『風雲ライオン丸』。その全編を通じての印象のまとめであります。

 特撮ヒーロー時代劇屈指の名作であることは誰もが認めるであろう『快傑ライオン丸』の後番組である本作。しかしライオン丸の名を冠し、主人公「獅子丸」を演じるのは前作と同じく潮哲也――でありつつも、前作の続編というわけではないという少々ややこしい立場の作品です。
 そのためか、本作は前作とは大きく異なる趣向を導入することになります。そう、「西部劇」のテイストを。

 ポンチョ風のコスチュームをまとった主人公、舞台の多くは延々と続く荒野、ライフルや幌馬車といった小道具等々……
 しかしそれが裏目に出て、視聴者や出演者にも違和感を感じさせた、という逸話は、それはそれで納得できるのですが、しかし今回見直してみて、個人的には言われているほど違和感があると感じなかったのは、一つの発見でした。

 そもそも時代劇と西部劇の組み合わせに親和性が高いのは、『用心棒』が『荒野の用心棒』に翻案されたり、その用心棒を思わせるキャラを主人公とした(本作の前後に放映された)三船プロの素浪人ものがあるのを上げるまでもないお話。
 それよりも時折登場する現代的な「超科学」の方がよほど違和感が――というのはさておき、本作の狙い自体は悪くはなかったと感じます。
(そもそも前作終盤にガンマン怪人たちが登場しているわけで……)

 あの時代に馬車や爆弾がゴロゴロしていたかと言えばまあアレなのですが、しかしひたすら砂と埃と岩が続く世界観は、人々の剥き出しのエゴが描かれ、人の命があっさりと奪われていく物語に、実によく似合う。
 さらにまた、第7話「最後の砦」のように、西部劇要素を時代劇に巧みに落とし込んでみせたエピソードもあることを考えれば、これは一種のアクセントとして認めるべきではないか――というのはやはり過大評価かもしれませんが。

 ちなみにある意味「超科学」であり、本作を語る際にネタ的に扱われる弾丸変身ですが、確かにロケットで天高く舞い上がり、戻ってくると変身しているというのは、悪い意味でインパクトが大きいのは否めません。
 しかし作中では精密機器ゆえロケットが故障して危機に陥るエピソードや、ロケットを利用して窮地を脱出する(洞窟からの水平脱出、変身しながらの空中の敵への一撃等)等、バンクシーンだけで終わらせない工夫が印象に残ります。

 特に印象に残るのは、数々の強烈な演出が飛び出した第19話「よみがえれ弾丸変身!!」でのシーンでしょう。苦悩の末に谷底に身を投げたかに見えた獅子丸が、落下途中で変身、大反転して宙高く舞うことでその精神の復活をも高らかに宣言してみせるくだりは、変身シークエンスと物語の盛り上がりを完璧に融合させたものとして、ヒーロー史上に残る変身シーン――あ、これも過大評価ですか。

 いずれにせよネタ的に(ネガティブな点から)取り上げられることも少なくない本作の趣向は、決してそれだけで終わるものではなく、一つ一つの場面、そして何よりも物語と有機的に結びつくことで大きな効果を上げている(ことも少なくない)ことは声を大にして申し上げてもよいでしょう。

 そしてそれが本作のハードな物語展開と噛み合った時、最大限の効果を発揮するものであり――そこに生まれたものは、前作から繋がる豊かなドラマ性を、さらに押し進めてみせたものと言えるでしょう。
 もちろんそれを曇り方面に押し進めすぎたきらいは否めませんが……


 それでは本作が手放しで絶賛できる作品かといえば――以下、次回に続きます。


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