2017.09.17

『風雲ライオン丸』を見終えて(後編)

 『風雲ライオン丸』の全編を通じての印象の後半であります。決して悪い作品ではない、むしろ評価できる点も多い本作。しかし……

 それでは本作が手放しで絶賛できる作品かといえば、しかし否という必要があるのでしょう。
 残念ながらあまり評価できないのは、むしろ物語構成や人物配置における迷走ぶり(というのは言葉が強すぎるかもしれませんが)というべきもの――ライバルキャラとして登場したはずの黒影豹馬のあっさりした退場、そして代わって登場した虎錠之助のキャラの弱さに代表される部分であります。

 特に虎錠之助/タイガージョーJrは、言うまでもなく前作の人気キャラクターである虎錠之介/タイガージョーの再来を狙ったキャラですが、作中では出自不明(はいいとして)で目的不明、今ひとつ立場がはっきりしないというキャラクター。
 終盤は出番が少なく、最終決戦にも参加しない――いやそれ以前に、初期は錠之介なのか錠之進なのか錠之助なのか、名前が固まらなかったというのは、ある意味このキャラの立ち位置を雄弁に物語っていると感じます。

 そのほかにも、外したり被ったり(さらに言えば、外した次の回にはまた被っていたり)のライオン丸の兜や、突然再登場して前作との関係性をさらにややこしくした快傑ライオン丸、何よりもヒロインの父であり旅する理由であった勘介の作中での扱いなど……
 色々と画面の外での混乱や試行錯誤が窺われる部分が、結果として本作の完成度を削ぐ結果となっているのは、やはり残念と言わざるを得ません。


 結局のところ本作は、言われているほど悪くない、いや瞬間最大風速的には前作を上回る点もありつつも、残念な点も少なくなかった、という評価になるのかもしれません。
 しかしここには本作ならではの、本作でしか見れないものが――傑作であった前作にもないものがあった――それは間違いないと感じます。

 その最たるものは、舞台となる戦国という時代の一つの有り様が、物語から痛いほど伝わってくる点であります。

 前作の敵・大魔王ゴースンに比べれば、その正体等で謎の点も非常に多いだったマントルゴッド。
 もちろんビジュアルインパクトではゴースンに勝るとも劣らない(というより特撮史上に残る)存在だったなのですが、それはさておき、僕はこのマントルゴッドの、マントル地下帝国の正体不明ぶりこそ、この本作の魅力の一つが現れていると感じます。

 ただひたすらに強大で恐ろしく、非情な存在――それを前にした人々は恐れ惑い死んでいくか、あるいは膝を屈してその一部になるしかない存在。
 それはもちろんヒーローに対する悪というものの定番の描写でありますが、本作においてはその正体不明の悪意に満ちた力こそが、舞台となる戦国時代の――個人の力ではどうにもできぬ巨大な時代の流れの象徴、一つの顕れとして感じられるのです。

 そしてまた、獅子丸が戦ってきた相手は、マントル一族だけではありませんでした。彼の前に立ち塞がったのは、同じ人間の無理解や悪意、利己心など――戦国という時代の隙間から吹き出してきた人間の業とも言うべきものもまた、彼を強く悩ませてきたのです。
 マントル一族がなければ、人々が犠牲になることはなかったのか――その数は減ることはあれど、しかしその答えが否であることを、本作の物語は雄弁に語ります。

 今なお語り草である本作の結末――勝ったと叫びながらも笑顔一つなく消えていく獅子丸の姿には、自分が倒したものはこの時代と世界を象徴する「悪」の一つに過ぎなかったことに気付いてしまった(気付かざるを得なかった)者の苦悩を感じる……
 というのは牽強付会に過ぎるかもしれませんが、そこには時代という壁にぶつかったヒーローの姿が確かにあることは間違いありません。

 その意味で本作は、前作でも至らなかった境地に達してしまった、希有の特撮ヒーロー時代劇であったと言えるのではないでしょうか。


 ついつい熱が入りすぎて妙なところまで入り込んでしまった感もありますが、これがそれが僕の大げさな物言いであるかどうか、ぜひとも機会を見つけてご確認いただきたいと、心から願う次第です。


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2017.09.16

『風雲ライオン丸』を見終えて(前編)

 これまで全25話の紹介をさせていただいた『風雲ライオン丸』。その全編を通じての印象のまとめであります。

 特撮ヒーロー時代劇屈指の名作であることは誰もが認めるであろう『快傑ライオン丸』の後番組である本作。しかしライオン丸の名を冠し、主人公「獅子丸」を演じるのは前作と同じく潮哲也――でありつつも、前作の続編というわけではないという少々ややこしい立場の作品です。
 そのためか、本作は前作とは大きく異なる趣向を導入することになります。そう、「西部劇」のテイストを。

 ポンチョ風のコスチュームをまとった主人公、舞台の多くは延々と続く荒野、ライフルや幌馬車といった小道具等々……
 しかしそれが裏目に出て、視聴者や出演者にも違和感を感じさせた、という逸話は、それはそれで納得できるのですが、しかし今回見直してみて、個人的には言われているほど違和感があると感じなかったのは、一つの発見でした。

 そもそも時代劇と西部劇の組み合わせに親和性が高いのは、『用心棒』が『荒野の用心棒』に翻案されたり、その用心棒を思わせるキャラを主人公とした(本作の前後に放映された)三船プロの素浪人ものがあるのを上げるまでもないお話。
 それよりも時折登場する現代的な「超科学」の方がよほど違和感が――というのはさておき、本作の狙い自体は悪くはなかったと感じます。
(そもそも前作終盤にガンマン怪人たちが登場しているわけで……)

 あの時代に馬車や爆弾がゴロゴロしていたかと言えばまあアレなのですが、しかしひたすら砂と埃と岩が続く世界観は、人々の剥き出しのエゴが描かれ、人の命があっさりと奪われていく物語に、実によく似合う。
 さらにまた、第7話「最後の砦」のように、西部劇要素を時代劇に巧みに落とし込んでみせたエピソードもあることを考えれば、これは一種のアクセントとして認めるべきではないか――というのはやはり過大評価かもしれませんが。

 ちなみにある意味「超科学」であり、本作を語る際にネタ的に扱われる弾丸変身ですが、確かにロケットで天高く舞い上がり、戻ってくると変身しているというのは、悪い意味でインパクトが大きいのは否めません。
 しかし作中では精密機器ゆえロケットが故障して危機に陥るエピソードや、ロケットを利用して窮地を脱出する(洞窟からの水平脱出、変身しながらの空中の敵への一撃等)等、バンクシーンだけで終わらせない工夫が印象に残ります。

 特に印象に残るのは、数々の強烈な演出が飛び出した第19話「よみがえれ弾丸変身!!」でのシーンでしょう。苦悩の末に谷底に身を投げたかに見えた獅子丸が、落下途中で変身、大反転して宙高く舞うことでその精神の復活をも高らかに宣言してみせるくだりは、変身シークエンスと物語の盛り上がりを完璧に融合させたものとして、ヒーロー史上に残る変身シーン――あ、これも過大評価ですか。

 いずれにせよネタ的に(ネガティブな点から)取り上げられることも少なくない本作の趣向は、決してそれだけで終わるものではなく、一つ一つの場面、そして何よりも物語と有機的に結びつくことで大きな効果を上げている(ことも少なくない)ことは声を大にして申し上げてもよいでしょう。

 そしてそれが本作のハードな物語展開と噛み合った時、最大限の効果を発揮するものであり――そこに生まれたものは、前作から繋がる豊かなドラマ性を、さらに押し進めてみせたものと言えるでしょう。
 もちろんそれを曇り方面に押し進めすぎたきらいは否めませんが……


 それでは本作が手放しで絶賛できる作品かといえば――以下、次回に続きます。


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2017.09.14

『風雲ライオン丸』 第25話「マントル地下帝国最後の日!!」

 ライオン丸に最強の怪人マントルテロスを差し向けるマントルゴッド。三吉と志乃を人質に取られつつも、錠之助の助けでマントルテロスを打ち倒した獅子丸は、ただ一人マントルゴッドを倒すことを決意する。死んでいった者たちの面影を胸に、地下帝国に乗り込む獅子丸を待つものは……

 ついに最終回、既にアグダーや勘介を失い、獅子丸に本拠地を知られて後がないマントルゴッドは、自分の分身だという怪人マントルテロス(分身のわりにはマントルゴッドに敬語を使っているのはデボノバのような立場だから?)を放つのでした。

 その頃、ただ一人本拠地に向かう獅子丸ですが――しかし彼を追いかけてきたのは故郷に帰ったはずの志乃の馬車。父の仇を討つと一人戻ってしまったという三吉を追って、二人は先を急ぎます。と、案の定襲われていた三吉は、手に持っていた手製の爆薬(なにげに剣呑この上ない)で地虫を蹴散らしながら逃げますが、追い詰められたところに現れたのは、本当に久々のタイガージョーJr! どこに行っていたんだお前。
 一方、獅子丸は現れたマントルテロスの攻撃に苦戦中のところ、志乃を地虫たちに攫われてしまうのですが――駆けつけた錠之助が救出。形勢不利とマントルテロスはさっさと逃げ出すのでした。

 そして改めて地下帝国に乗り込もうという獅子丸ですが、なんとここで同行しようという錠之助を拒絶。確かに上から目線でかき回しながら、ここのところ大事なエピソードは欠席していたから――ではたぶんなく、自分一人の力でマントルゴッドを倒したいという獅子丸の強い決意に、錠之助も志乃も三吉も、ただ彼を見送るしかないのでした。
 そして行く手に再び立ち塞がったマントルテロスと激闘を繰り広げた獅子丸は、怪人の吐くガスで左腕の自由を奪われながらもテロスを倒すのでした。(一回しか斬ってないのに五体バラバラになったテロス――と思いきや、獅子丸が行った後に再生!)

 兄・影之進、豹馬、虹之助、そして――ええと、第12話の地獄党の雷之介!? を脳裏に思い浮かべながら地下帝国に足を踏み入れる獅子丸。が、早速扉が締り、閉じ込められた獅子丸に地虫、地雷、ガスetc.が襲いかかります。そしてそれをなんとかくぐり抜けたと思いきや足元が崩れ、下のフロアに落ちた獅子丸は、檻に閉じ込められることに……
 その前に三度現れるのは再生したマントルテロス。闘志に燃える獅子丸は、何と地底の、檻の中で強引にロケット変身! マントルテロスと激突します。延々と続く死闘の果てに、マントルテロスが何かを守っていることを気づいた獅子丸は、その物体(冒頭にマントルゴッドが言っていた命の泉?)に一撃!

 それこそはマントルゴッドの急所、地面の巨大な目から口から火花を、炎を吹き出すという、そのビジュアルにふさわしいインパクト満点の断末魔を見せるマントルゴッドは、お前も道連れだ的なことを言い残すのですが、地底帝国が崩れ落ちる中、獅子丸は「俺は勝ったんだーッ!」と絶叫するのでした。
 そして戦い終わり、無事に脱出したらしい獅子丸を見送る志乃と三吉、錠之助。しかし獅子丸は、念願を果たしたヒーローのそれとは思えぬ表情――虚しさとも疲れとも諦めともつかぬものを浮かべ、夕陽の中に消えていくのでした(おわり)。


 というわけで、それ以前に死んだわけでもないライバルキャラが最終決戦に参加しないという、前代未聞の、しかしなんとなく本作らしい最終回である今回。突然出てきた上にそれほど強くない最強怪人マントルテロス、その巨大さのわりには一発で倒されたマントルゴッドなど、突っ込みどころはあれど、しかし情念が込められまくった獅子丸の姿を見ていればそんな気持ちは吹き飛びます。

 そしてラストシーン――自らの命を犠牲としつつも、正義のヒーローとしての運命を全うした快傑ライオン丸に比べれば――いや他のどんなヒーローと比べても(タイガーセブンは除く?)その異様さは際立つものがあります。
 しかしそれもまた、弾獅子丸が己の道を全うした果てのことであり、本作の結末としてふさわしいものであるとも感じられます。少なくとも、見た者の心に強く強く残る結末であることは間違いないでしょう。
(本作全体を通しては、別途まとめ記事を書く予定です)


今回のマントル怪人
マントルテロス

 マントルゴッドの分身であり、地下帝国を守る最後の切り札。先が二又に分かれた槍を獲物とする。槍に巻いた赤い綱で首を締めたり、投げた槍を自在に操るほか、口から相手の動きを封じる白いガスを、左手首からは火花を放つ。マントルゴッドが生きている限り不死身の再生能力を持つが、マントルゴッドの急所を刺されて共に滅んだ。


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2017.09.05

瀬川貴次『百鬼一歌 月下の死美女』 凸凹コンビが追う闇と謎

 ユニークなラインナップが並ぶ講談社タイガに、平安京を舞台とした作品を得意とする瀬川貴次が参戦しました。舞台となるのは長い戦乱が終わったばかりの京の都。和歌狂いの青年貴族と、怪異譚を集める少女が、その都の闇に蠢く怪異と謎を追う物語の開幕であります。

 源平の合戦が終わって数年、世情騒然たる京の都。そんなまだまだ物騒な京の闇の中を開幕早々吟行していたのが、本作の主人公の一人である青年貴族の希家であります。
 和歌をよくする家に生まれ、自らも和歌をこよなく愛する彼は、闇を怖れるでもなく、ひたすら詩作に没頭していたのですが――そんな彼がとある路地で出くわしたのは、花に囲まれた美しい女性の死体だったのです。

 ほどなく彼女を殺した下手人は判明したものの、話に尾ひれが付いて、たちまち怪談めいた物語の目撃者扱いとなってしまった希家。
 その「犯人」は、まだ幼い帝のもとに入内したばかりの中宮に仕える山出しの少女・陽羽。彼女は、中宮が帝の心を掴むために、市井の怪異譚を集めて回っていたのであります。

 そんな中、御所で夜ごと響く不気味な鵺の声。さらに中宮の女房が烏帽子姿の亡霊を目撃し、ついには希家の同僚が何者かに噛み殺される事件までもが発生。
 帝をはじめとする皆が恐怖におののく中、何とか事態を打開すべく、希家と陽羽は一計を案じるのですが……


 『暗夜鬼譚』『鬼舞』といった陰陽師もの、さらには現在も刊行が続く『ばけもの好む中将』など、平安の都を舞台としたコミカルでちょっと恐ろしい物語を得意としてきた作者。
 本作もその流れに属する作品ではありますが、面白いのは場所は平安の都でありつつも、時代は平安ではなく、鎌倉初頭の物語であるという点でしょう。

 源氏と平氏の激しい戦いは終わったものの、国の政の中心は東国に移り、その一方で帝がおわす都でもう一つの政が行われていた時代。
 殺伐とした空気と雅な空気がブレンドされた、何があっても不思議ではない混沌とした時代――本作はそんな世界で繰り広げられる物語なのです。

 そしてその主人公となる希家と陽羽の凸凹コンビなのですが――この希家の和歌狂い、というより和歌バカなキャラクターがまず楽しい。
 副題である月下の死美女を前にして和歌解釈に夢中になっているうちに検非違使にしょっ引かれ、そこでも講釈を続けるうちに、犯人が勝手に恐れ入って自白してしまう――という物語冒頭など、これぞ瀬川節! と言いたくなるような展開なのであります。

 そしてバディとなる陽羽は、まだ都に出て日が浅い下働きながら、バイタリティに溢れる元気少女。敬愛する中宮のためとはいえ、怪異の出そうなところに積極的に突撃していくのは、なかなか将来が楽しみなキャラクターであります。
 そして、実は○○○の孫という出自も伝奇ファン的には大いに魅力的なのです。


 そんな二人が挑むのが御所の鵺騒動。単なる怪異譚かと思いきや、人死にはでるわ中宮の将来にも関わるわとどんどん広がっていく中で唸らされたのは、事件の鍵となる、ある人物の造形であります。
 その詳細は読んでのお楽しみですが、これが作者の作品も含め、これまでほとんど目にしたことのないようなキャラクター(××好きは以前にも強烈なのがいましたが……)。

 描き方によっては面白おかしい扱いになりそうなところ、しかし本作は決して色物として扱うことなく丁寧に、ある種の現代性すら感じさせる人物として描き出します。
 この辺りは、これまでもエキセントリックな趣向の中に叙情性を織り交ぜた物語を描いてきた作者ならでは――と大いに唸らされた次第です。

 そしてこの人物が抱いてきた切ない夢が、思わぬ形で死者を生んでいく皮肉さ、残酷さにも……


 しかしその一方で主人公コンビはやや地味な印象で、もう少し弾けても良かったのではないかな、という部分も正直なところあります(特に希家は思ったよりも常識人なのが……)。

 もちろん舞台となる時代と場所を踏まえつつ、笑いと怪異と謎を織り交ぜ、そしてさらにはそこに関わる人々の想いを掘り下げてみせる点には見るべき点が多いのも間違いありません。
 まだ完全には明かされていない謎、何よりもドキリとさせられるような結末の描写もあり、おそらくは刊行されるであろう今後の物語を、大いに楽しみにしたいところです。


『百鬼一歌 月下の死美女』(瀬川貴次 講談社タイガ) Amazon
百鬼一歌 月下の死美女 (講談社タイガ)

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2017.09.04

『風雲ライオン丸』 第24話「悲運!! 父との再会!」

 マントルの本拠である播磨に向かう獅子丸一行。地虫に捕らえられた虹之助が残した目印を追って敵の本拠地に近づく一行だが、その前に現れた黒衣の男は虹之助を人間大砲の砲弾にして彼らを狙う。大砲から打ち出される直前、黒衣の男の正体を見破る虹之助。それこそは志乃と三吉の父だった……

 春夏秋冬のアイテムを揃え、ついに手に入ったマントルの秘密――絵図面に記されたマントル一族の本拠地に向かう獅子丸。一方マントルゴッドはアグダーに次ぐ指揮官として謎の黒衣の男を指名し、地虫に人々を襲わせます。一行と離れ、一人地虫たちと戦う獅子丸ですが、その間に志乃たちの馬車を襲う怪人アブ。密かに用意していた虹之助は、ライオン丸の扮装でアブに立ち向かうも捕らえられ、基地に連行されてしまうのでした。
 しかしその間に虹之助が目印として落としていったマキビを追って本拠地に迫る獅子丸。一方、黒衣の男と対面した虹之助は、彼が人間であることを見破りますが、男によって人間大砲の砲弾にされてしまうのでした。

 本拠地に近づき、アブと戦う獅子丸の間近で爆発する砲弾(この後しばらくアブが登場しないのでこれで死んだものかと……)。大砲の威力を誇示しながら現れた黒衣の男は、次は虹之助を撃ち出すと告げます。珍妙な三角帽っぽいものを被せられた虹之助は、死を目前としながらも男の正体が志乃と三吉の父・勘介だと見破ります。
 虹之助に、自分が狙っている中に志乃と三吉がいると告げられ、激しく動揺する勘介ですがそのまま大砲を発射。虹之助は最後の力で砲弾の軌道を変え、地虫たちの中に突っ込み、壮絶な爆死を遂げるのでした(嗚呼……)

 この惨劇の文字通り引き金を引いたのが探し求めてきた父であると知り、愕然とする志乃と三吉。一度は覚悟を決めて大砲を撃った勘介も、二人の非難に衝撃を隠せないのですが――しかしもちろん二人が許すはずもありません。志乃は会いたくなかったと正面から詰り、三吉はあんな奴は父さんじゃないと走り去ってしまうのでした(そして三吉を見守る獅子丸)。

 さすがに娘の面罵が応えたのか、本拠地の地図を志乃に託して去ったという勘介。それを聞いた獅子丸は、勘介が死ぬ気であることを悟ります。果たして(早速)磔にされ、処刑執行される勘介。そこに駆けつけた獅子丸は怒りに燃えて(洞窟の中だけれども画面の外で)変身、アブを一蹴します。
 そのままマントルゴッドを求めて奥に進みますが、落石や花火いや火花、そして吹き出すマグマに阻まれ、やむなくライオンジェット反転(以前どん底に落ちた回で谷底に飛び降りながら変身した時のやつ?)で基地から脱出するのでした。

 父の死を受け止め、故郷に帰るという志乃と三吉に別れを告げ、いよいよ獅子丸はマントルゴッドと最後の対決に望む決意を……


 後半に入ってから獅子丸たちの頼もしい味方として活躍してきた七色虹之助がここに来て爆死という展開に絶句させられるラスト一話前。言われるほどギャグキャラではなかったようにも思える虹之助ですが、重くなりがちだった物語をほんのちょっと明るくしてくれた彼をここまで容赦なく惨殺するというのは、本作らしいというかなんというか……

 そして本作全編を貫く謎的に扱われてきた志乃と三吉の父の行方もついに判明。それが敵の幹部、それも虹之助をほぼ直接殺害した上に、自分たちも殺そうとしたという容赦のなさであります。
 しかし、父の登場にいきなり感が否めないのは事実。その点をそれを補うための虹之助惨殺だとは思いますが、それだけやっておいて、いきなり改心→処刑という慌ただしさも、またある意味で本作らしいと感じます。

 それにしても、彼がなぜマントルという悪魔に魂を売ったのかが一切語られないというのは、これはこれで色々と想像させてくれて嫌いではありません。十年前に志乃の前から姿を消したようですが、物心ついた時からマントル帝国で育てられた志津がいたということは、おそらくはその前からマントルと接触があったということなのでしょう。
(あるいはこれまで登場した超兵器の数々は彼の手になるものだったのか……)

 そして一般の(?)マントル怪人としてはラストのアブ。もうひねるつもりもないネーミングですが、造形はかなり良い……とうより不気味で迫力があります。


今回のマントル怪人
アブ

 勘介の命で人間たちを襲うアブの怪人。細身の直刀と棘付きの鞘を武器とし、空を飛んで口から吐き出す七色の紙テープで相手の動きを封じる。ライオン丸と一度目の対決で弱点の角を斬られ、勘介を処刑した後の二度目の対決であっさり倒される。


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2017.08.29

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』 人間と魔法使いの間に

 1926年、ニューヨークを訪れた魔法生物学者のニュートは、人間の男・ジェイコブと鞄を取り違え、中の魔法生物を街中に逃がしてしまう。折しも街中では建物などが何者かに破壊される謎の現象が続発。その犯人として追われる身となったニュートは潔白を示し、魔法生物たちを捕まえることができるのか……

 今なお人気の衰えることのない『ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフとして、本編開始の数十年前を舞台として描かれる物語であります。
 主人公は、シリーズにも登場する魔法生物学書の著者であるイギリスの魔法使いニュート・スキャマンダー。ちょっと頼りない彼が、本作においては異国であるアメリカはニューヨーク――すなわち人間界を舞台に奔走することとなります。

 現代ほど人間界と魔法界が融和しておらず、その危うい均衡も、悪名高き闇の魔法使いグリンデルバルドの数々の悪事で崩される寸前だった時代。
 ある目的のためにアメリカを訪れたニュートは、ちょっとしたトラブルからスーツケースの中の空間で保護していた魔法生物たちをニューヨーク中にばらまくことになってしまいます。

 魔法生物たちを再び保護するために奔走する彼を助けるのは、パン屋を開くことが夢の人間の男・ジェイコブ。さらに初めは彼らを誤解して追いかけていた元・闇祓いの女性ティナとその妹・クイニーらの助けにより、次々と魔法生物を取り戻すニュートですが……

 しかしニューヨークでは、目に見えぬ奇怪な力により、街中の建物や道路が破壊されていく現象が頻発。さらにその現象によって上院議員が殺され、この事態を重く見た合衆国魔法議会から、ニュートたちは一連の事件の犯人として追われることとなります。

 かくて、ニュートたちの魔法生物探しと、街を騒がす謎の存在――無関係に見えた二つの事件は、意外な形で交わることに……


 この世界に重なるようにして存在する魔法界の住人、魔法族(魔法使い)たちが繰り広げる物語を描いてきたシリーズ本編。しかし本作には、過去の時代を描く以上に、本編とは大きく異なる要素があります。
 それは現実世界が、人間界が舞台となること――ジェイコブのように魔法の存在も知らない人間がほとんどで、魔法使いたちも人間たちの間で姿を潜めている世界が、本作の舞台であるということです。

 これは全く個人的な感想ですが、シリーズ本編(の映画で)不満だったのは、舞台のほとんどが魔法界であり、そして魔法界と人間界の関係性がほとんど描かれないように感じられる点でした。
 もちろんこれはない物ねだり、本編ではさして重要ではない要素だったわけですが、しかし伝奇者としては、異なる二つの世界がクロスオーバーする姿が、そこから生まれる物語が観たい、と強く感じていたのです。

 そしてその願いは、半分が本作で叶うことになりました。ニュートが魔法生物(これがまた、可愛いものから危険な奴、不思議な奴と様々で実に楽しい)をニューヨークにばらまいたことで、彼らが街中で暴れ回るというシチュエーションが堪能できたのですから。
 さらにクライマックスには、怪物による街の大破壊もありと、至れり尽くせり(?)の展開であります。

 この辺りは本当に楽しい作品だったのですが――しかし、魔法使いと人間、二つの世界の住人の関係性は、期待したほどには描かれなかったと感じます。

 もちろんこれは、作中でも描かれているように、未だ(少なくともアメリカでは)魔法使いと人間が没交渉であったという設定によりますが、しかし折角人間界が舞台なのだから、その関係性が変化していく様を観たかった――というのも正直なところです。
 確かにそれはニュートとジェイコブの友情、ジェイコブとクイニーの愛情を通じて、パーソナルな部分では描かれているのですが――しかしジェイコブが終盤ほとんど活躍がなかった(これは本作最大の問題では)こともあって、それ以上の発展はなかったのが残念なところではあります。

 もちろん、本作の終盤で真の黒幕が語るように、ポジティブであれネガティブであれ、この関係性こそが、この先あと4本予定されているという本シリーズの鍵となるのではないかと思えるのですが……


 何はともあれ、大ヒットシリーズのスピンオフにして新シリーズ開幕編という重責はきっちりこなしてみせた本作。
 この先、面倒くさい伝奇ファンも喜ばせてくれるような展開になることを期待したいと思います。


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2017.08.26

『風雲ライオン丸』 第23話「ライオン丸アグダーを斬る!!」

 冬の太刀を奪うため、各地で刀狩りを行うトビゲラ。一方、太刀の打ち直しを刀鍛冶・小吉に依頼した獅子丸は、代わりの太刀を与えられるが、小吉は地虫たちの襲撃を受けてしまう。瀕死の小吉を看取った志乃たちは、獅子丸が小吉から借りた太刀こそが冬の太刀であることを知るが……

 気がつけば本作も今回を入れてわずか3回。ここ数回を引っ張ってきた春夏秋冬のアイテム探しも、ここにラストのアイテムが(あっさり)登場することになります。その正体は太刀――その太刀を奪還せんと、アグダーはトビゲラに命じ、各地で刀狩りを実行させるのでした。……何という泥縄感。
 そうとは知らず、各地で蛮行を働く地虫たちと戦ううちに刃毀れしてきた太刀を打ち直してもらうために、刀鍛冶のもとを訪れた獅子丸。その彼の人品骨柄を見ていた刀鍛冶・小吉は、何やら意味ありげに代太刀(?)として一本の太刀を獅子丸に預けるのでした。

 そして自ら獅子丸のたちの打ち直しに当たる小吉ですが、そこに襲いかかる地虫たち。太刀は奪われて弟子たちは殺され、自らも深手を負いつつも、小吉は唯一隠しおおせた獅子丸の太刀を必死に打ち直すのでした。
 そして志乃と三吉が鍛冶場の近くを偶然通りかかった時、太刀を手によろよろと歩み出る小吉。と、何という因縁か、小吉は二人の父・勘介の相弟子――小吉は二人に獅子丸の太刀を託し、獅子丸に冬の太刀を預けたこと、そして「冬は春と触れ合うとき、稲妻を呼ぶ」という言葉を残して息を引き取ります。

 そうとは知らない獅子丸ですが、襲ってきたトビゲラがご丁寧に説明。そして冬の太刀を奪うべく襲いかかってくるのですが――トビゲラは後が詰まっているせいか、驚くくらいあっさりと敗北。そして追いかけてきた志乃たちと合流する獅子丸ですが――アイテムは4つ揃ったものの何も起きず、そして秘密の正体もわからずと手詰まりになった獅子丸は、とりあえずアイテムを取り返しに敵が来るのを待つことにしたのでした。
 が、ここで父に会いたい気持ち余って、冬の太刀を持ち去ってしまう三吉。といってもただ海岸をブラブラするだけなのですが……(そしてそれを陰から見守る獅子丸

 と、そこにもう後がなくなったアグダーの六能陣車が飛来。獅子丸が変身しようとした瞬間、磁力か何かで二本の太刀を奪ってしまいます。変身できずに(太刀がないと変身できないのかしら……)苦しむ獅子丸ですが、しかしそこに駆けつけた志乃が投じた春の短刀を、思わずアグダーが冬の太刀で弾いた時、そこに激しく稲妻が……
 その隙に太刀無し(何故か「変身 ライオン丸」のかけ声で)変身を敢行した獅子丸は、そのままロケットで六能陣車に突撃して二本の太刀を奪還。アグダーも空中から連発銃、バリア、砲撃と様々な攻撃で獅子丸を苦しめるのですが、獅子丸は再度突撃して陣車を破壊、車椅子でなおも宙に浮かぶアグダーの首を叩っ斬り、風返しで爆破するのでした。

 そしてついに秘密――「マントル帝国怪人生産地の図を手に入れた獅子丸。限られた場所でしか生きられない(らしい)マントル怪人の生産拠点、そしてマントルゴッドが潜む(らしい)地を知った獅子丸は、決着をつけることを誓うのでした。


 幹部アグダーとの決着、そしてアイテムが揃い秘密が判明と大きく話が動くものの、演出的にはどこか淡々としていて、何となくイベントを進めただけという印象の今回。錠之助も虹之助も登場しないのも寂しいところです(錠之助、登場した頃はアグダーを狙え狙えと言っていたのに……)
 そして今回退場となった車椅子に乗る幹部という悪之宮博士に先立つキャラだったアグダーは、六能陣車の万能っぷりは面白かったものの、しかしその「動けなさ」が祟って、あっさり倒された印象なのが残念なところではあります。

 一方、今回ついに判明した秘密(結構アバウトな日本地図)は怪人の生産拠点という、微妙に現実的なもので、マントル一族が破滅するほどの秘密かどうかはともかく、ここを潰されたら後がないのはまあ確かでしょう。しかしマントルゴッドの居場所は、先日獅子丸も突入した、志津のいた地下要塞ではなかったのかしら……
 それにしてもわかりにくかったのはこの地図の出どころ。どうやら春の短刀と冬の太刀がぶつかった時、そこから地図の一部がそれぞれ飛び出したようですが――だとしたら夏と秋の立場は(春と冬がぶつかればこちらも地図を吐き出すようになっていたのかしら)。


今回のマントル怪人
トビゲラ

 冬の太刀奪還のための刀狩りを指揮する怪人。四枚刃の槍を武器にする。獅子丸に戦いを挑むが、空を飛んで襲撃してみせたほかは特に芸も無くあっさりと敗北。トビケラモチーフの怪人はほとんど唯一――のはず。


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2017.08.20

『風雲ライオン丸』 第22話「南蛮寺の秘密」

 旅の途中に訪れた教会で神父と浪人、少年と出会う獅子丸。翌朝、実は強盗殺人犯だった少年を追って役人が現れ、浪人はライオン丸の名を騙って少年を突き出す。が、教会をヒトデロと地虫たちが襲撃、獅子丸によって一度は撃退されるが、既に教会は包囲されていた。その中で人々は次々と本性を現し……

 志乃たちとは別行動を取ったのか、一人旅の途中に教会の戸を叩く獅子丸。それに応えて中から現れた神父(を演じるの)は――大月ウルフ! この時点でもう厭な予感が濃厚に漂います(案の定、秋の十字架のことを尋ねようとした獅子丸に、露骨に怪しい素振りを見せる)。ここで浪人と少年と共に一夜の宿を借りることになった獅子丸ですが――翌朝、教会に役人たちが訪れます。
 この近くで人を殺し、金を奪って逃げた少年を探しているという役人に対し、あからさまに不審な態度を取る少年。その少年を捕らえて役人に突き出した浪人は、役人から名を問われ、自慢げにライオン丸と名乗るのでした(ここでエッと思っても口に出さない獅子丸の奥ゆかしさ)。

 浪人たちを口汚く罵りながら連行されていく少年ですが――次の瞬間役人たちの悲鳴が響き、よろめきながら教会に戻ってきた役人たちの顔には不気味なヒトデが! 続いて押し入ってきたのは、アグダーからの命で教会を襲撃した怪人ヒトデロ。猛然と獅子丸はこれを迎え撃って教会の外に追い払い、陰でライオン丸に変身してヒトデロと対決します。
 吸血ヒトデを両目に食らって苦しむ獅子丸に襲いかかりながらも、一発食らっただけで逃げ出すヒトデロ。隠れていただけの浪人はそれを自分の手柄のように誇るのでした。

 ひとまず危機を脱した教会ですが、敵はまた戻ってくると、逃げることを促す獅子丸の言葉を神父は拒み、浪人に護衛を頼みます。一方、獅子丸は少年の縛めを解き、その身の上を訪ねますが、返ってくるのは、自分の家族が飢えで苦しんでいる時に見殺しにした大人たちの怨嗟の言葉のみでした。
 と、そこに飛び込んできた矢に背中を刺される神父。やはり始まった地虫たちの総攻撃に対し、逃げるように促す獅子丸ですが、神父は礼拝堂から離れるのを拒み、浪人は少年から金を奪い、ついでにそこに置かれていた獅子丸のロケットを掴んで教会から逃げ出すのですが、あっさりと殺されるのでした。

 少年も浪人の懐からこぼれ落ちた金を取り戻そうとして地虫に襲われ、大人たちに呪いの言葉を残して絶命。地虫たちと外で戦っていた獅子丸は、後から現れた虹之助に教会を任せるとロケットを取り戻して変身、ヒトデロに挑みます。
 しかし今回も弱いヒトデロは、刀を取り落としたライオン丸に素手でも圧倒される始末。一瞬の隙を突いて再び吸血ヒトデでライオン丸の目と口を塞ぎ、ブーツに隠していたナイフで襲いかかるヒトデロですが――ライオン丸の刃に身を抉られ倒れるのでした。

 戦いが終わり、教会に戻った獅子丸を待っていたのは瀕死の神父。神父は、やはり秋の十字架だった黄金の十字架に執着を抱き「誰にも渡さないネ! ノォ! ノォーッ!」と逃げなかったのです。「人間というのは己の欲でしか動けんもんだ。結局あんたは一人でもがいてくんだな。ざまあみろ!」と、獅子丸に呪いの言葉を吐いて息絶える神父……
 「話を聞くと、ここには人間のクズばかりが集まっていたみたいでごわすな」とさすがに呆れ顔の虹之助を前に、「金、欲――そんなもののためにしか人間は生きることができんのか!!」と、獅子丸は苦い顔で絶叫することしかできないのでした。


 閉鎖空間に閉じ込められ、追い詰められた人間たちが醜い本性を剥き出しにして――という物語は枚挙に暇がありませんが、それを特撮ヒーローものでやってしまうのが本作。ゲストキャラ全員がどうしようもない人間の業――という言葉も生ぬるい、剥き出しの欲を出して死んでいくのには、鬱とか曇りというより、むしろ暗黒という言葉が似合います。
 その中でももちろん最強の暗黒キャラが大月ウルフ演じる神父だったのですが――見た目は怪しくも、言動は唯一マトモだった彼が、ラストに突然呪いの言葉を無駄に獅子丸に叩きつけて死んでいくラストにはただ絶句で、獅子丸の心にはまた深刻なダメージが……

 そしてそんなエピソードに対して、モミアゲ周辺のみ残った禿頭にカエル口、道化師みたいな衣装というどうしようもないデザインのヒトデロがむしろ癒やしに――アグダーに特に命じられた割りに異常に弱かったし。


今回のマントル怪人
ヒトデロ

 アグダーから教会に隠された金奪還を命じられたヒトデの怪人。幅広の剣と、手裏剣のように投げつけて相手の目や口を塞ぐ吸血ヒトデが武器。ライオン丸の目をヒトデで塞ぎ、隠し持っていたナイフを手に躍りかかるが、逆にライオン丸の刀に貫かれる。


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2017.08.15

樹なつみ『一の食卓』第5巻 斎藤一の誕生、そして物語は再び明治へ

 明治時代、築地の外国人居留地のパン屋に身を寄せる藤田五郎(斎藤一)と、パン職人の少女・明を主人公に描く本作、この第5巻の前半で描かれるのは、前の巻から引き続き、新選組に加わる前の斎藤の物語。明治の彼に至る前に何があったのか――その一端が描かれることになります。

 築地のパン屋・フェリパン舎に、ある日ふらりと現れた藤田。今は新政府の密偵として働く彼は、フェリパン舎を起点にして様々な事件を解決、一方、明も謎めいた藤田に惹かれつつ、パン職人として懸命に奮闘する毎日を送ることに……
 という本作ですが、第4巻のラストから展開しているのは藤田の――すなわち斎藤一の過去編。いや、ここで描かれているのは彼がまだ山口一だった時代、いわば斎藤一誕生編とも言うべき物語であります。


 貧乏御家人の次男坊として鬱屈した毎日を送る山口一は、退屈しのぎに破落戸から賭場の借金の取り立てを請け負い、とある道場に向かうことに。そこで彼は、売り言葉に買い言葉の末に、生意気な少年と立ち会うことになります。

 一方、その頃、山口の父親のもとを訪れる会津藩の人間。実は会津藩の人間であった父親は、不始末から藩を抜け、それを見逃される代わりに会津藩の「草」として御家人となっていたのであります!
 そして会津藩が京都守護職を任じられたことから、新たな「草」として山口家の人間を京都に送り込もうとする藩の意向を受け、父親が白羽の矢を立てたのは……


 フィクションの世界などではすっかりこの時代の有名人ながら、特に新選組参加以前の経歴は今ひとつはっきりしない斎藤一。
 試衛館組とは江戸にいたころから交流がありつつも、浪士組募集には参加せず、京で合流するという少々変わったルートを辿っていたり、そもそもその頃には旗本を斬って江戸から京に逃げていたりと、なかなかドラマチックな前半生であります。

 この江戸編では、その「史実」をベースに、本編ではほとんど完成された人格である――明からは仰ぎ見られる存在である――斎藤の、悩める青年時代を描き出します。
 自分の未来が、居場所が、やるべきことが見いだせず、ただ焦燥感に駆られるばかりの毎日。そんな誰にでも経験のありそうな青春の姿を、本作は瑞々しくも微笑ましく、そして物悲しく描くのであります。

 もちろんそれだけでなく、斎藤の父にに関する伝奇的秘密を絡めることで、その後の斎藤の人生にも関わる物語を垣間見せ、そして件の「旗本斬り」についても、本作ならではの切ないドラマを用意してみせる点など、とにかく物語運びの巧さが光ります。
 江戸編が前後編できっちりと終わるのも、明治の物語を食わず、良い意味の物足りなさを感じさせるという、何とも心憎いところであります。


 そして後半では、再び舞台は明治に戻り、一話完結のスタイルで、明を主人公とする物語が描かれることとなります。
 一つ目のエピソードは、通詞を目指して築地の外国人による英語塾の門を叩いた男装の少女の物語。実家が横浜で外国人相手の商人を営む彼女と意気投合した明ですが、しかしまだまだ夢は遠く……

 「女だてらに」という言葉が、当たり前に使われていたこの時代。明と彼女は、その言葉の対象にされるという共通点を持ちます。
 そんな二人の姿と、それを見守る藤田という構図は、これまで描かれてきた物語の延長線上ではありますが、その一方で、明が決して一人ではない、ということを別の方向から描いた物語と言えるかもしれません。

 そして二つ目のエピソードでは、とある大店から大口の注文が舞い込み、フェリパン舎は他店の職人も加わって大わらわの状況に。
 実は大店の跡取り息子は、藤田のことを知っているようなのですが、藤田は彼のことを無視。そんな中パンに異物が混入して――という大事件が発生して……

 と、ストーリー的にはある程度読めるのですが、明の物語と藤田の物語が平行して描かれ、相互作用することでポジティブな方向に変わっていくのが、実に本作らしい展開であるこのエピソード。
 特に物語冒頭から繰り返し描かれてきた悩みを、今回の経験を踏まえて明が乗り越える姿が、実に気持ちの良い展開であります。


 というわけで江戸から明治に戻って続く物語。いまだ遠景ではありますが廃刀令や不平士族の動きも描かれ、藤田と明の関係性に加え、この時代のこれからがそこにどのように絡むのか、気になるところであります。


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2017.08.14

山村竜也『幕末武士の京都グルメ日記 「伊庭八郎征西日記」を読む』 泰平と動乱の境目に立っていた青年の姿

 幕末に勇名を馳せた剣客・伊庭八郎の京都行きの日記全文を書き下し文で収録し、解説を付した、タイトルにも負けないユニークな新書であります。その内容そのものもさることながら、『新選組!』などの時代考証で知られる著者による詳細な解説が、面白さや興趣を幾倍にも増してくれる一冊です。

 最近では岡田屋鉄蔵『MUJIN 無尽』などでも知られる「伊庭の小天狗」こと伊庭八郎。その彼の日記に、グルメなどという言葉を付すとは――と、本書の題名だけを見て憤慨される方もいるかもしれません。
 が、実はこの題名は正鵠を射たもの。実はこの「征西日記」、勇ましい題名とは裏腹の内容で、一部で有名な日記なのです。

 この日記は、元治元年(1864年)に時の将軍家茂が上洛した際、その一行に随行した八郎が、その年の1月から6月まで163日間分を記したもの。
 この家茂上洛は、基本的に無事に終わったイベント。それゆえこの日記に記されているのも、八郎ら随行の侍たちの勤務ぶりと、毎日の食事や、非番の時に出かけた場所など、ある意味「普通」の内容にすぎません。

 ……が、それが実に面白い。(上洛という特殊事態とはいえ)ここに記されているのは、この当時の幕臣の日常的な勤務や生活の状況であり、それが垣間見られるだけでも、歴史好きには相当興味深いものです。

 しかしそれにも増して面白いのは、それ以外の部分であります。
 もちろん八郎らしく(?)、勤務の傍ら、毎日のように剣術の稽古に参加していたことも記されているのですが、この日記で圧倒的に目に付くのは、彼がうまいものを食べ、暇さえあれば観光地に出かける姿なのですから。

 好物の鰻やお汁粉に舌鼓を打ち(八郎は甘いもの好きでもあったのが窺われるのがまた楽しい)、お馴染みの観光地を巡り――ここで描かれるのは、後の剣士としての活躍とは裏腹の、我々とほとんど全く変わらない、等身大の人間像。そしてそれがまた、実に微笑ましく、魅力的に観じられるのです。


 そして、そんな等身大の八郎の日記を楽しむのを助け、そしてその楽しさを大いに増しているのが、著者による解説であります。

 日記というものは――この八郎の日記に限らず――その人物の日常を記すもの。それはその人物にとっては当たり前のことであり、特別なことでもなければ、内容にわざわざ説明が付すようなものではありません。
 しかし、彼にとって当たり前でも、記されているのは約150年も前の出来事。さらに八郎の周囲の人間関係なども、我々がその内容を知る由もありません。

 その当たり前だけにスルーされていることの一つ一つを、本書は拾い上げ、解説してみせるのです。日記に登場する言葉は何を指しているのか。姓のみ、名のみ登場する人物は何者なのか……
 時に別の記録と照合しつつ、丹念に解説することで、我々はいささかの違和感なく、まるで昨日記されたもののように八郎の日記を、彼の生活を楽しむことができるのです。

 言葉にすれば当たり前のようでいて、これがどれだけ難しいことか……


 それにしても八郎が戊辰戦争に参加し、その命を散らしたのはこのわずか5年後。ここに記された日常の姿と、5年後の非常の姿と、どちらが本当の彼の姿だったのか……本書を読んでみれば、つくづく考えさせられます。
 あるいはこの日記に描かれているのは、泰平の江戸時代と、動乱の幕末の境目に立っていた八郎の、一人の青年武士の姿と言うべきかもしれません。

 そしてそれを象徴するように感じられるのが、日記の終盤に記された、ある出来事であります。

 江戸に帰還途中の八郎のもとに飛び込んできた報せ――それは、幕末ファンであれば知らぬものとてない、ある超有名な事件の発生を告げるものであります。
 それまで「幕末」らしさとはほとんど無縁な、平和な日常を記したこの日記。そこに唐突にこの事件の報が飛び込み、そして八郎をも巻き込んでいく様は、まさしく「事実は小説より奇なり」と言うほかありません。

 が、この事件が彼にとってはほとんどニアミス状態で終わるのが、また「らしい」ところでなのですが……

 しかしここは、この日記があくまでも泰平を楽しむ伊庭八郎の姿を描いて終わってくれることに、感謝すべきなのかもしれません。
 本書の中の伊庭八郎は、いつまでも平穏な日常を楽しむ、一人の青年としての姿を留めているのですから。


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幕末武士の京都グルメ日記 「伊庭八郎征西日記」を読む (幻冬舎新書)

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