2019.05.21

「コミック乱ツインズ」2019年6月号


 元号が改まって最初の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙と巻頭カラーが橋本孤蔵『鬼役』。その他、叶精作『はんなり半次郎』が連載再開、原秀則『桜桃小町』が最終回であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 新年早々、宿敵・紀伊国屋文左衛門の訪問を受けた聡四郎。後ろ盾の新井白石と袂を分かった不安、自分の振るった剣で多くの者が主家から放逐されたことなどを突かれた上、自分と組んで天下を取ろうなどと突拍子もない揺さぶりを受けるのですが――そんな紀文の精神攻撃の前に、彼が帰った後も悩みっぱなし。ジト目の紅さんのツッコミを受けるほどでありますす(このコマが妙におかしい)。

 その一方で紀文は、その聡四郎に敗れたおかげで尾張藩を追われた当のリストラ武士団の皆さんに資金投下して煽りを入れたり暗躍に余念がありません。聡四郎が悩みあぐねている間に、主役級の活躍ですが――その上田作品名物・使い捨て武士団に下された命というのは、次期将軍の暗殺であります。これはどうにも藪蛇感が漂う展開ですが――さて。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明)
 大橋家から失われた七冊の初代宗桂の棋譜を求めてはるばる長崎まで向かった宗桂と仲間たち。ようやく二冊まで手に入れた一行は更なる手掛かりを求めて長崎の古道具屋に辿り着くのですが――そこで待ち受けるは、インスマス面の店主による心理試験で……

 と、将棋要素は、心理試験に使われるのが異国の将棋の駒というくらいの今回。むしろ今回は長崎編のエピローグといったところで、旅の仲間たちが、楽しかった旅を終えてそれぞれ家に帰ってみれば、その家に縛られ、自分の行くべき道を自分で選ぶこともできない姿が印象に残ります。
 そんな中、ある意味一番家に縛られている宗桂が見つけたものは――というところで、次回から新展開の模様です。


『カムヤライド』(久正人)
 難波の湊に出現した国津神の前に立ちふさがり、相手の攻撃を受けて受けて受けまくるという心意気の末に国津神を粉砕した新ヒーロー、オトタチバナ・メタル。しかし戦いを終えた彼女に対し、不満げにモンコは突っかかっていって……
 と、早くも二大ヒーロー揃い踏みの今回、オトタチバナ・メタルとすれ違いざまにカムヤライドに変身するモンコの姿が非常に格好良いのですが、傍若無人なまでのオトタチバナのパワーの前に、文字通り彼も悶絶することになります。

 ヒーロー同士が誤解や立場の違いから衝突する、というのは特撮ヒーローものの一つの定番ですが、しかし気のせいか最近のモンコはいいとこなしの印象。そしてガチムチ女性がタイプだったらしいヤマトタケルは、その彼女に後ろから抱きつかれて――いや、この展開はさすがにない、という目に遭わされることになります。
 そして緊縛要員の彼のみならず、モンコまで縛られ、二人の運命は――というピンチなんだけど何だかコメントに困る展開で次回に続くのでした。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 今回は「かまいたち愛」編の後編――江戸でとある大店に用心棒として雇われた三人ですが、夏海が心惹かれた店の女中・おりんは、実は極悪非道な盗賊・かまいたちの首領の女で……。と、夏海にとってはショッキングな展開で終わった前回を受けて、今回はさらに重くハードな物語が展開します。

 おりんの口から、そのあまりに過酷な半生を聞かされた夏海。かまいたちにしばられた彼女を救うため、店を狙うかまいたちを倒し、おりんが愛する男と結ばれるのを助けようとする夏海ですが――しかし物語はここから二転三転していくことになります。
 薄幸の女・おりんを巡る幾人もの男。その中で彼女を真に愛していたのは誰か、そして彼女の選択は……

 本作名物の剣戟シーンは抑えめですが、クライマックスである人物が見せる「目」の表情が圧巻の今回。無常しかない結末ですが、これを見せられれば、これ以外のものはない――そう思わされるのであります。


 その他、今回最終回の『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)は、江戸を騒がす火付けの濡れ衣を着せられた友人の許婚を救うため、桃香が活躍するお話。絵は良いけれども何か物足りない――という作品の印象は変わらず、やはり「公儀隠密」という桃香の立ち位置が最後まですっきりしなかった印象は否めません。


「コミック乱ツインズ」2019年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年6月号[雑誌]


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2019.05.17

室井大資『レイリ』第6巻 武田家滅亡の先に彼女が掴んだもの


 武田勝頼の嫡男・信勝の影武者となった少女の戦いを描く『レイリ』もいよいよ最終巻。信長の勢いに抗することができず、ついに武田家が滅亡に瀕する中、レイリを待つ運命とは、そしてその果てにレイリが選んだ道とは……

 戦に巻き込まれて家族を皆殺しにされた末に、岡部丹波守に拾われ、そして信勝の影武者となったレイリ。高天神城の戦いで援軍のない中戦い続ける丹波守を救いに向かったレイリは、しかし生き残りの城兵脱出を託され、丹波守と永遠の別れを告げることになります。
 その悲しみを背負いつつも、家族を失って以来取り憑かれていた死への誘惑を振り払ったレイリ。しかし信長の攻勢は続き、武田家最後の希望たる信勝の秘策も空しく、武田家の運命はもはや風前の灯火となります。

 そんな中、レイリを襲う最後の悲劇。影武者としての最後の勤めの末、土屋惣三の子を託されたレイリは、武田家を去るのですが……


 長篠の戦に巻き込まれて父母と弟を殺されたことをきっかけに、ひたすらに腕を磨き、戦って戦って戦い抜いた末に自らも死ぬことを長きに渡り望んできたレイリ。その想いは、信勝や惣三との生活、そして何よりも丹波守との別れによって、ようやくぬぐい去られました。
……しかし武田家を、彼女が影武者を務める信勝を待つ運命は、歴史が示すとおりであります。個人としては群を抜いた(あわや歴史を変えかねないほどの)戦闘力を持つレイリであったとしても、としても、できることには限りがあるのです。

 そう、彼女にできることはただ、信勝を――天才を自認する傲岸不遜な少年でありながらも、誰よりも繊細で、父の愛に飢えていた主を――辱める者を討つこと程度(このくだりの人間描写の真っ黒さは、さすがはこの原作者と言うべきでしょうか)。
 歴史の流れを変えることなどできるはずもなく、ただ親しい人々の死を見送ることだけ、せいぜいがただ一人の命を守ることくらいが、彼女にできることなのであります。

 その意味では、最後の策が遅効性の毒として宿敵を滅びに追いやった信勝の方が、大きく歴史を動かしたと言えるでしょう。
 その策が動き出す場面の背後で、勝頼と信勝が初めて通じ合うイメージが描かれるのがまた泣かせるのですが……


 しかし――それでは彼女は結局何もできなかったのでしょうか。武田家で彼女が送った時間は無意味だったのでしょうか? その答えが否であることは、この最終巻を読めば瞭然でしょう。
 それは一つには、武田家を滅亡に追いやった者への復讐の完遂であることは間違いありません。しかしある意味伝奇的なその復讐以上に、本作において大きな意味を持つものが、物語の最後に描かれるのであります。

 かつて親の側を離れないように、という意味を込めて名付けられたレイリ(零里)。その名の通り――と言ってよいかはわかりませんが、彼女は親の死に囚われ、そして第二の生を、武田信勝という勝手には脱げない他人の仮面をかぶって送ることとなりました。
 いわば一カ所に己を縛り、縛られていた彼女が、そこから解放されて選んだ道は――それを象徴する彼女の言葉、ラストシーンに描かれたものは、決して明るいものではなかったこの物語に、素晴らしく爽やかな風を吹かせてくれたのです。


 全6巻という、決して多くはない分量の本作。しかしそこでは、歴史の中に生きた人間、生きる人間、生きていく人間の姿を、豊かに描かれました。
 そしてその中で彼女が掴んだもの――一言で表せば「自由」の姿は、最後まで物語を読み通した我々の胸を熱くしてくれるのであります。


『レイリ』第6巻(室井大資&岩明均 秋田書店少年チャンピオン・コミックス・エクストラ) Amazon
レイリ(6)(少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)


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2019.04.27

『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第12巻 史記から一歩、いや大跳躍の鴻門の会


 項羽とのデッドヒートを制し、ついに秦を滅ぼした劉邦。しかし劉邦の愚策によって項羽は激怒、劉邦の命はもはや風前の灯であります。この窮地を逃れるため、劉邦と張良の乾坤一擲の勝負の行方は――『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第12巻を丸々使って描かれるのは、かの「鴻門の会」であります。

 張良の奇策に次ぐ奇策でもって、ついに先に関中に入り、そして秦皇帝を降伏させた劉邦。悲願であった秦を滅ぼし、さしもの張良も気が緩んだところに、思わぬ事態が発生します。
 小人の献策を取り入れ、項羽を締め出して敵視するような対応を取ってしまった劉邦。これに激怒した項羽は劉邦抹殺の決意を固めるのですが――かつて張良に命を救われた項伯の急報によって事態を知った張良は、劉邦に命懸けの策を授けるのでした。

 項伯の取りなしによって、項羽と対面し、釈明する――一歩間違えれば、いやかなりの確率でその場で項羽に討たれてもおかしくないこの策に望みを託し、劉邦と張良は鴻門に向かうことに……


 かくてこの巻で描かれるのは、史上名高い鴻門の会。形の上は劉邦を許した項羽によって開かれた宴席で、幾度にも渡り劉邦に命の危険が迫る――という故事であります。

 この見せ場の固まりのような鴻門の会ですが、しかし冷静に考えるとビジュアル的にはかなり地味。項羽と劉邦、范増と張良、そして項伯の男五人だけで酒を酌み交わすという華のない(軍営の中なのですから当たり前なのですが)場なのですが――しかしここで繰り広げられるのは、どんな戦いよりも激しい、一進一退の攻防なのです。

 劉邦が項羽に対して(文字通り)必死の釈明を試みるのに対し、何としても項羽に劉邦を討たせようとする范増。そしてそれが叶わないと知り、范増は項羽の従兄弟の項荘に剣舞を舞わせ、劉邦を斬らせようとするのですが――そこで項伯が命懸けのブロックに出ることになります。
 それでもなお続く危機に、張良が呼び寄せたのは――と、この巻の前半では、鴻門の会での攻防が、史記を踏まえて描かれることになります。

 この辺り、かなり史記に忠実なのですが、しかしこれまで10巻以上にわたって描かれてきたキャラクターたちのやりとりは、それだけでも十分以上に濃厚な味わい。そしてそれだけでなく、諸処に挟まれるアレンジがまた、実に良いのであります。
 その最たるものが、張良が呼んだあの男の言動でしょう。史記で描かれたそれよりもさらに単刀直入に項羽に迫り、命という名の盾となって劉邦を守ろうとするその姿は、あの項羽をして「壮士」と呼ばせるのに十分な迫力で、実に痛快であります。

 史記の描写を愚直なまでに踏まえつつ、しかしそれだけに終わらない一歩を踏み出してみせる。これまで幾度も見せてくれた本作ならではの魅力は、ここでも健在なのです。


 と――上で述べたように鴻門の会が描かれるのはこの巻の前半部分。劉邦は項羽の手から脱し、死地を逃れるのですが――しかし本作は、その先を描いてみせるのです。

 劉邦に対する殺意を失い、彼を赦した項羽。しかしこの機に劉邦を除くことに固執する范増は、密かに項荘を呼び、軍を率いて劉邦を討つように命じるのでした。
 襲われて敗れればもちろん命はない。いや、襲われて反撃したとしても、敵意ありとして結局は項羽に討たれることとなる――この絶対の死地に対して、張良が取った一手とは。そして覚悟を決めた張良に迫る項荘の前に立ちはだかったのは、もちろん――!

 と、ここから繰り広げられるのは、一種の神経戦であった鴻門の会とはある意味正反対の、ド派手でフィジカルな戦い。そしてその戦いの中心に立つのは、本作のフィクションの部分を支えてきたあの男であります。
 いやはや、一歩どころではない大跳躍ですが、しかし史記の表を描き、その隙間を埋めるだけでなく、その裏で自由に、豪快に奇想を遊ばせてこそ、本作らしいと言えるでしょう。

 そしてそんな豪快な展開の一方で、韓信の帰順や陳平との因縁を織り込んでみせたり、史記ではほとんど剣舞のためだけに登場した項荘のその後を描いたりと、構成としても抜群にうまいこの展開には、さすがは――と感心するほかないのであります。


 そしていよいよ新たな道を歩むことになる劉邦と項羽。二人の、そして張良の先に待つものは――ある意味、ここからが物語の本当の始まりであります。


『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第12巻(川原正敏 講談社月刊少年マガジンコミックス) Amazon
龍帥の翼 史記・留侯世家異伝(12) (講談社コミックス月刊マガジン)


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2019.04.14

響ワタル『琉球のユウナ』第3巻 ややこしい琉球の、ややこしい人間関係


 15世紀の琉球、後に伝説の王となる尚真王・真加戸の若き日を題材に、不可思議な力を持つ朱色の髪の少女・ユウナの成長を描く『琉球のユウナ』の第3巻であります。互いに惹かれ合いながらも、何かと邪魔が入るユウナと真加戸の前に現れた新たなるキャラクターとは、そしてユウナの想いの行方は……

 その力のために忌避されてきた自分を受け入れてくれた真加戸に思慕の念を抱くユウナと、若き王としての孤独感を受け止めてくれたユウナに惹かれる真加戸と――ほとんど両思い状態の二人の前に現れた思わぬ障害。
 それは、真加戸の父である第二尚氏の初代王によって王位を簒奪された、先代王家・第一尚氏の生き残りを名乗る男・ティダでありました。

 ユウナと同じ、いや彼女を遙かに上回る力を持つ謎の男・白澤とともに、第二尚氏への復讐を企むティダの手に落ちたユウナ。決して悪人ではないにもかかわらず、しかし真加戸とは決して相容れないティダを前にして、彼女の心は千千に乱れることになります。

 ティダの手からは、真加戸とシーサーたちの奮闘によって救い出されたユウナですが――しかし相変わらずコミュ障気味の彼女は、妙に意識してしまって真加戸との間もぎこちなくなるばかり。
 そんなところに、真加戸の許嫁だという破天荒な先王の娘・居仁が登場し、いよいよますますユウナの気まずさは増すことになります。

 そんな中で明らかになる琉球の聖地・琉球開闢七御嶽の異変。御嶽の力が失われたことは、すなわち王家にその資格がないとされかねない状況で、御嶽のことを調べようとするユウナは、思わぬ形でティダと再会することに……


 (薩摩に攻められるまでは)平和な王国というイメージがあるものの、決してそんなことはない琉球王国。
 真加戸が王の座を次いだ第二尚氏は、第一尚氏の王位を簒奪したものであり、そして真加戸自身、先王であった叔父を結果として追い落とす形で王となったものであり――古今東西を問わず、何処の国でも変わらぬ、権力を巡る争いがそこにあります。

 そしてそんな第二尚氏の王国も決して一枚岩ではなく、なおも王に服さぬ諸侯たちの存在が――と、これはいずれもこれまでの物語で描かれてきたことではありますが、いずれも若い二人の微笑ましさとは対極にあるような、血なまぐさく生々しい状況であることは間違いありません。
 そしてその状況を象徴するように、第二尚氏の真加戸、第一尚氏のティダに加えて真加戸に追われた先王の娘・居仁まで登場して――と、この巻ではそんな琉球のややこしい状況が、そのまま人間関係に落とし込まれたような展開が描かれることになります。

 この辺りのシチュエーションは、よく考えてみれば(韓流・華流のドラマではお馴染みの)歴史ロマンスの定番中の定番であります。
 しかし本作においては、純情すぎる、そして不安定な力を持ったユウナを中心に置くことで、不思議なバランス感を生み出しているのが面白いところでしょう。

 とはいえ、そんな状況の中でユウナに何ができるのか――というところで、琉球開闢七御嶽の存在が描かれるのもまた面白い。少年漫画であれば、一カ所ずつ巡って番人を倒していく展開になりそうですが、もちろんそうなるはずもなく、本作では思わぬ形でユウナと絡んでいくことになるのですが……


 この巻から登場する居仁も、単純な恋敵などではなく、むしろ真加戸を実力でぶちのめして自由になろうとする男前だったり、琉球音楽史上伝説の人物・赤犬子が思わぬ形で登場したりと、新キャラクターたちの造形も楽しい本作『琉球のユウナ』。
 決して馴染み深い題材というわけではありませんが、それだけに、このややこしい状況を、如何にユウナと真加戸が乗り越えるのかが楽しみになる――そんな物語であります。


『琉球のユウナ』第3巻(響ワタル 白泉社花とゆめコミックス) Amazon
琉球のユウナ 3 (花とゆめCOMICS)


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2019.04.13

黒史郎『ムー民俗奇譚 妖怪補遺々々』 妖怪馬鹿必読、強い熱意に満ちた妖怪譚


 妖怪が出没したのは圧倒的に近世以前が多いわけで、必然的に妖怪譚は時代怪談の色彩を濃く帯びることになります。しかし最近はあまり新鮮な妖怪譚がなくて――などと思っていたところに現れたのがこの『妖怪補遺々々』。その名前に相応しく、余所でお目にかかれないような妖怪に出会える一冊です。

 古今様々な書物に記され、あるいは語り継がれてきた妖怪たち。しかし元々が(姿が見えない現象に名前が付いていたりと)よくわからない存在であるところに、このようなある種伝言ゲーム状態で伝承されれば、後世から見れば何だかわからないような存在になってしまうことも少なくありません。

 いきなり【ナカネコゾウ】なる、名前だけ残った謎の妖怪探求から始まる本書は、そんな正体不明になってしまった妖怪、あるいはあまり有名でない、ほとんど知られていない妖怪譚ばかりを集めたもの。
 忘れられかけた、そもそも妖怪なのかわからない――しかしそれだからこそ実に「らしい」妖怪たちの姿が集められた一冊であります。

 元々がweb連載ということもあり、一つ当たり10ページ前後の、エッセイ的な妖怪譚が約40話収録されている本書。
 そこで語られる中には、耳袋の【首吊り狸】や宿直草の化け物寺(化け物問答)のようなメジャーどころ(?)も含まれてはいるのですが――しかし圧倒的に多いのは、冒頭の【ナカネコゾウ】のような、ほとんど初耳の妖怪たちであります。

 いやそれどころか、水木しげるの子供向け妖怪本から、ジャガーバックスの佐藤有文の『日本妖怪辞典』(伝説の【びろーん】が!)まで……と、本書がカバーする領域は、一歩間違えれば反則状態。
 それが妖怪か、と目くじらを立てる向きもあるかと思いますが、しかしそれも含めて妖怪なんだ、という本書の――特別企画の京極夏彦との対談に最もそれがよく現れた――姿勢には、大いに共感できるところであります。


 と、話が脱線してしまいましたが、本書には、時代怪談・時代怪異譚としても、類話のないような、実に興味深いものが幾つも収録されているのも紛れもない事実であります。

 たとえば、近隣を荒らし回る大盗賊を斬首した男が、度重なる生首にまつわる怪異に襲われた末に、不可解な死を遂げる土佐の怪異談。
 奄美で、江戸時代から昭和に至るまで語ることすらタブーとされてきた、ある女性にまつわる陰惨な怨念と呪いの物語。

 あるいは『魔岳秘帖 谷川岳全遭難の記録』なる、ほとんど伝奇時代小説のような題名の(しかし性格は副題の方が表している)書籍に記された、清水峠のトンネル開通工事の背後で繰り広げられた作業員200人vs化け猫との死闘。
 そして、都市伝説やフィクションではなしに、本当に存在した【牛の首】の怪談……

 いやはや、これらの怪異譚を知ることができただけでも、本書を手にした甲斐があったと感じます。
(個人的には、天から降ってきたとされる、上下左右に開いて【八つの顔になる面】の奇瑞譚が、面の存在自体の不可解さもあって印象に残りました)


 それにしても感心させられるのは(子供向け妖怪本の話題はともかく)本書に収録された妖怪譚が、すべて丹念な調査に基づき、実際に怪談集や民俗誌に収録されたもののみを扱っていることでしょう。
 曖昧なものを曖昧なまま愛し、それでいて確たるものに従って記録する――タイトルの「補遺」という言葉に込められた強い熱意が感じられる、妖怪馬鹿必読の一冊であります。


『ムー民俗奇譚 妖怪補遺々々』(黒史郎 学研プラス) Amazon
ムー民俗奇譚 妖怪補遺々々 (ムー・スーパーミステリー・ブックス)

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2019.03.29

東村アキコ『雪花の虎』第7巻 終結、第一次川中島の戦 そして新たなイケメン四人衆


 女長尾景虎(上杉謙信)伝『雪花の虎』第7巻は、いよいよ川中島の戦がスタート――しかしなかなか直接対決に至らぬ中で、景虎は自分なりに川中島で戦う理由を見いだすことになります。そして物語は新たなる舞台へ……

 最愛の兄・晴景を失いながらも、長尾家を背負って戦い続ける景虎。その姿は、混沌の戦国の中で敗軍の将たちを惹きつけていくことになります。その一人、村上義清の求めに応じて、景虎はついに武田晴信と川中島で対峙することとなります。

 というわけで、謙信と信玄といえばこの戦い、というべき川中島。しかしこの巻で描かれるのは、12年にわたって都合5回繰り広げられた戦いの、最初の1回であります。
 この戦いにおいては晴信は景虎側の動きを窺い、積極的には動かぬ籠城戦を選択、結果として引き分けとなったのですが――本作はその背後に、一つのドラマを描くことになります。

 景虎が自分に面影の似た青年・シロを影武者に立て、密かに兵を二手に分けた奇襲をかけんとすれば、晴信はこれを見抜いて牽制を仕掛ける――そんな戦いの末に、数週間に及ぶ膠着状態に陥った戦線。もちろん合戦ではこうした状況も珍しくありませんが――しかしそれが景虎にダメージを与えます。
 そう、若い女性であれば避けられない現象でもって。

 月に一度の体調の不良に苦しみ、シロを残して戦場を離れることとなった景虎。その途中、弱った彼女が出会ったのは、川中島近くの善光寺の門前の薬屋の娘でありました。
 彼女から、善光寺が女性のための寺、この時代には珍しい女性の参拝を拒まぬ寺であったことを知った景虎は、一つの決意を固めることになります。

 女性のための寺であれば、当然、その門前には女性が集まることになる。いわば女性のための一種のアジールである善光寺が武田方の手に落ちれば、そのアジールは喪われることでしょう。
 それを守るため、景虎は戦うことを決意したのであります。

 もちろんこれは本作ならではの一つの極端な見方ではあります(もっとも、川中島が善光寺を巡る戦いでもあったというのは、本作のみの視点ではありませんが)。しかし本作であれば、本作の景虎であれば、こう決意しなければおかしい――それもまた、間違いのないことでしょう。
 自分自身のために戦う理由を見つけた景虎の川中島は、これからも続いていくのであります。
(ちなみに、ここでシロが思わぬ人物の前身であることが語られるのですが、これはさすがに吃驚)


 しかし、ここで景虎の物語は、新たな舞台に移ることになります。その舞台とは京都――位階の叙任御礼のために上洛することになった彼女の姿を描く、京都上洛編がここから始まることになります。
 そしてそこに登場するのは新たなイケメン――それも四人! 足利義藤(義輝)、近衛晴嗣(前久)、細川藤孝、進士藤延――都を追われ、朽木谷に暮らす将軍と、彼と志を一にする貴族、そして将軍の忠実な家臣であります。

 体育会系の義藤、いかにも育ちの良さげな晴嗣、優美な藤孝に忠実かつ温厚な藤延。いやはや、それぞれにタイプの異なる四人の美形の設定には驚いた――というのはさておき、後世から見ればとんでもないメンバーですが、しかし彼らがここに存在したことも、景虎と交誼を結ぶこともまた史実であります。

 景虎というと、越後のみが活動範囲であったような印象がありますが、それを巧みにひっくり返した上に、「中央」の動きと絡めてくる――それも実に本作らしい形で――とは、着眼点の面白さに唸らされます。


 そしてこの四人の中で、もっとも虎と縁を結ぶことになりそうな、意味ありげな描写が為されているのが進士藤延であります。

 正直に申し上げれば、この人物のことはこれまで知らなかったのですが――作中で義藤たちのために料理を作る描写が多かったのも道理、進士家は、代々将軍の食膳を司る家とのこと。
 なるほどそれで――と納得しつつ、これも作中でちらりと描かれたように、彼は決してただの料理人ではない、歴とした武士でもあります。

 藤延については、とんでもない奇説があるようですがそれは今はさておき、この先、この一風変わった武士が景虎といかに絡むことになるのか――京都上洛編、早くも気になる展開であります。


『雪花の虎』第7巻(東村アキコ 小学館ビッグコミックス) Amazon
雪花の虎 (7) (ビッグコミックススペシャル)


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2019.03.26

唐々煙『煉獄に笑う』第9巻 彼らの刃の下の心 天正伊賀の乱終結


 戦国時代を舞台に、呪大蛇の復活を巡る死闘を描く『煉獄に笑う』第9巻で描かれるのは、単行本3巻の長きに渡って繰り広げられてきた第二次天正伊賀の乱の終幕。佐吉の前に現れた信長の意外な素顔とは、破れ逃れる伊賀の人々を待つ運命とは、そして彼らを前にした芭恋の、阿国の想いの行方は……

 伊賀を舞台に、激しく激突する織田軍と伊賀の忍びたち。その中で引き裂かれる形となった曇の双子、そして大蛇の候補者たちは、ある者は傷つき、ある者は斃れ――と、敵味方入り乱れた壮絶な戦いが展開していくことになります。
 そんな中で佐吉は信長の小姓として従軍することになるのですが――それは言い換えれば、信長の近くから離れられないことを意味します。その佐吉を呼び出した信長は、しかし義手の持ち主で……

 と、冒頭から思わずひっくり返るような展開が待っている本書。いやはや、確かに本作の信長はどう見ても比良裏その人、呪大蛇を巡る戦いの中で幾度も転生することを運命づけられている彼だけに、この時代ではこういう人間なのか、と思ってみれば――これが!
 転生ネタを逆手に使ったような(というのは勝手なこちらの思いこみなのですが)ミスリードにはただ仰天、そして何となく安心いたしました。

 そして晴れて(?)戦場と化した伊賀に向かう佐吉ですが――しかしそこで惑うのは、「兄弟」として契りを交わした曇の双子であります。
 自分の出生の秘密を知り、一度は伊賀の将としてその才を発揮しながらも、小を殺して大を生かす戦場の非情を知り、心乱れる芭恋。その芭恋の変心が理解できず、殺戮の嵐吹き荒れる戦場で孤独に怯える阿国。

 物語の冒頭から――それが実は一種の虚勢と諦めに過ぎなかったにしても――傲岸不遜な態度を見せ、佐吉を翻弄してきた二人ですが、ここでそれぞれに描かれるのは、そんな二人の人間らしい弱さと悩みであります。
 その闇の中から二人を救い出せるものは――もちろん佐吉以外おりません。相変わらず正論ど真ん中、空気を読まずにぶつけてくる熱い思いが二人を動かす姿は実に気持ちが良く――ここにめでたく「石田三成」復活であります。


 しかし、いかに三人が再び揃ったからといって、それだけで全てが解決するわけではもちろんありません。彼らがいるのは相変わらず戦場――それも、もはや織田軍(というよりほとんどファンタジーものの蛮族状態の森長可軍)によって一方的に伊賀が蹂躙されていく地獄なのですから。
 その地獄の中で、一人でも多くを救うべく奮闘する三人なのですが――しかしここで彼ら以上にクローズアップされるのは、八咫烏たちなのであります。

 百地丹波の忠実かつ凄腕の八人の配下である八咫烏。その存在は、当初はいわゆる敵の○人衆――要するに強めの敵集団という印象でした。
 正直なことを申し上げれば、ただでさえ登場人物の多い本作で、これ以上キャラを増やしてどうするのか、と思ったものですが――しかし、その存在は、物語の中でどんどんと膨らんでいくことになります。

 当初は単なる敵――それも非情な、すなわち個人の情を持たない敵に見えた八咫烏。しかし自分たちの本拠であり故郷である伊賀を舞台とした戦いの中で、彼らは自分たち自身の情を――抱いた想いを、そして戦う理由を見せていくのであります。

 それはあるいは、この巻で丹波が八咫烏の一人を断じたように、忍び失格なのかもしれません。
 しかしこの忍びの故郷が滅ぶこととなった戦いの果てに、そんな刃の下の心が露わになったことは、それはこの先の伊賀にとって、一つの希望と言えるのではないか――と思ってしまうのは、センチメンタルな感傷でしょうか。


 もちろん、戦いの爪痕は浅くはありません。いや、芭恋や阿国、八咫烏にとっては、極めて深いといえるでしょう。そしてその痛みは、これから激しく彼らを苦しめることは間違いありません。
 その中で彼らの心が、力となるのか鎖となるのか――前者であることを祈りたいと思わされる、そんな天正伊賀の乱の結末であります。


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煉獄に笑う 9 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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2019.03.24

「コミック乱ツインズ」2019年4月号


 一号間が開いてしまいましたが、「コミック乱ツインズ」4月号の紹介であります。今月の表紙はどどんと大きな海老天が目印の『そば屋幻庵』、巻頭カラーは『宗桂 飛翔の譜』。今回も、印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『土忍記 砂塵と血風』(小島剛夕)
 小島剛夕の名作を再録する「名作復活特別企画」第八回は、前号にも掲載された『土忍記』シリーズの一編。刺客に追われながら諸国をさすらう抜け忍たちの姿を描く短編集であります。
 風と砂塵の中、とある村にやってきた旅の侍・平八。破落戸に襲われていた土地の豪農の娘・八重を助けた平八は、請われて彼女の屋敷に滞在することになります。
 父を亡くした後、隣の土地の郷士に嫌がらせを受け続けている八重と土地の者を助けるため、荒れ果てた地の開墾を始める平八。八重に慕われる平八に、彼女に仕える青年・助次郎は敵意を燃やすのですが……

 流れ者が苦しむ弱者を救い、また去って行くという定型に忠実な本作。タイトルのとおり、アクションシーンのバックに吹いている風の激しさ、厳しさが印象に残る物語であります。
 が、内容的にはちょっと驚くくらいストレートで、実はこちらの方が抜け忍なのでは――と思った方が本当にただの人間だったのはちょっと吃驚。いや、こちらが勝手に深読みしただけなのですが……


『カムヤライド』(久正人)
 今号から新章突入の本作、国津神を覚醒させる男・ウズメと対決したものの傷を負わされ、取り逃がしてしまったモンコとヤマトタケルは難波を訪れることになります。
 折しも湊には百済からの交易船が到着し、ヤマトの精鋭部隊・黒盾隊が警備を行っていたのですが――そこに出現したのは毒霧と強靱なハサミを操る国津神。さしもの黒盾隊も苦戦する中、現れた彼らのお頭の力とは……

 というわけで、いきなり登場したごっつい連中・黒盾隊。その名の通り、巨大な盾を用いたアクションがユニークなチームなのですが――しかしそんな彼らでも国津神には敵わない、という時に現れた彼らの隊長は、腹筋シックスパックの女傑、その名はオトタチバナ……!!!
 いつかは登場するだろうと思っていた人物ですが、あまりに意外なビジュアルに驚いていれば、ラストにはさらなる驚きが。「魂遷(ダウン)」なるかけ声の下に巨大な盾の中から現れたその姿は、メタルヒーロー……?(何となく女バトルコップを連想)

 ついに登場した第二の変身能力者。ヤマトに属する彼女は味方なのか、そして一体何者なのか――大いに気になるヒキであります。
(ただし、絵はちょっと荒れ気味だった印象が……)


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 前号から続くエピソード「雲助の楽」の後編である今回、とある宿場の雲助・楽と出会った用心棒三人組とみかんですが、楽は自分の息子とその嫁、お腹の子供を面白半分に殺した大名を殺すために雲助となった男だったのです。
 その楽の想いに共鳴し、命を捨てて大名行列を襲おうとする雲助たち、そして彼らに雇われた三人組――というわけで、この後編で描かれるのは、楽と雲助たちの復讐戦の有様であります。

 いかに雲助たちが多数とはいえ、相手は鉄砲隊も備えて完全武装した、いわば軍隊。三人組の助太刀があったとしても、普通であれば到底敵うはずもないのですが――しかし降りしきる雪の中、文字通り決死の覚悟で襲いかかる楽と雲助たちの姿は壮絶の一言、さしもの三人組も一歩譲った感があります。
 そしてその復讐戦の中心はいうまでもなく楽――普段は実に「いい」顔つきの中年男性である彼が、鎌一丁片手に大名行列に阿修羅の如く突っ込む様はただただ凄まじく、クライマックスの5ページ余りは、自分が何を見ているのかわからなくなるほどのドドドド迫力でありました。

 雷音のしみじみとした述懐もどこか空々しく聞こえる、ただただ凄まじい、怒濤の如き回でありました。


 さて、次号からは『勘定吟味役異聞』が再開。これは以前からの予定通りですが、「コミック乱」の方で連載されていた『いちげき』が移籍というのはちょっと吃驚であります。


「コミック乱ツインズ」2019年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年 04 月号 [雑誌]


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2019.02.19

岩崎陽子『ルパン・エチュード』第3巻 運命の二人の恋、すれ違う二人の想い


 ラウールとルパン、二つの魂を持つ「アルセーヌ・ルパン」を主人公とする、全く新しいアルセーヌ・ルパン伝たる本作もこれで第3巻、『カリオストロ伯爵夫人』編の2巻目であります。クラリスと恋に落ちたラウールと、カリオストロ伯爵夫人ことジョジーヌを愛するルパン、二人の運命の行方は……

 天真爛漫な青年ラウール・ダンドレジーと、普段は彼の中に眠り、周囲の悪意を感じた時にのみ現れるアルセーヌ・ルパン――奇妙な共存関係にある「二人」。彼らの運命は、ラウールが美しき男爵令嬢クラリス・デティーグと出会い、恋に落ちたことで大きく動き出すことになります。

 周囲の悪意を退ける強い善意を持つクラリス。ルパンにとっては天敵に等しい彼女ですが、彼女の純粋な魂に触れたルパンはその恋を祝福し、ラウールとの仲を応援することを誓うことになります。
 そのためにデティーグ男爵に接近する中、彼が怪しげな一団に加わっていることを知ったルパン。一団が謎の美女ジョゼフィーヌ(ジョジーヌ)・バルサモに私刑を下そうとしていた場面に遭遇し、彼女を救い出したルパンですが――ジョジーヌは、クラリスとは逆にラウールの出現を抑える力を持っていたことを知るのでした。

 これこそ運命の出会いと、ジョジーヌ、そして謎の一団が追う「七本枝の燭台争奪戦」に乗り込んでいくルパン。彼の熱意にほだされたジョジーヌもこれに応え、二人は結ばれるのですが……


 というわけで、数百年前から変わらぬ美貌を誇ると言われるカリオストロ伯爵夫人ことジョジーヌと運命の恋に落ちたルパン。クラリスが強い善意を持つとすれば、それと正反対の力を持つジョジーヌは――ということになりますが、はたしてジョジーヌは屈強な男たちを顎で使う一種の怪人物であります。
 しかしそんな彼女を相棒、そして師匠として、怪盗紳士としての修行を積んでいくルパン。一見順風満帆のようですが――ここで本作ならではの設定が活きることになります。

 完全に心を許したジョジーヌに対し、自分とラウールの関係を語るルパン。しかし彼女はそれを彼の冗談としか理解せず、あくまでも彼を「ラウール」として遇するのであります。そう、ルパンではなくラウールとして。
 もちろん彼女もルパンの名を知っているのですが、それはあくまでもラウールの偽名として。たとえ本人に語られたとしても、彼女にとって「ルパン」が別の人格であるなどとは思いもよらないことなのであります。

 しかし自分自身の存在を満天下に知らしめるために活動するルパンにとって、愛する女性が自分の存在を認めない――これほどの不幸があるでしょうか?
(実はジョジーヌも、「カリオストロ伯爵夫人」の仮面の下に本当の自分を隠さざるを得ないという点で、ルパンと同様の存在なのですが――だからこそ、このすれ違いが切ない)

 もちろんこれは表面上は見えないすれ違いではあります。この後も二人は、燭台争奪戦のパートナーとして支え合うことになるのですが――しかしこの時、二人の間に初めて、そして深いヒビが入ったというべきでしょう。
 本作の物語展開は、表面上は原作にかなり忠実であります。しかしその内面においては、本作ならではの物語が描かれている、本作ならではの感情が荒れ狂っている――そう申し上げてよいかと思います。

 そしてまた、その本作ならではの点を、二人の感情の外面のわずかな表れ――つまり表情を捉えて克明に描いてみせる画の力が素晴らしい。
 ほんの僅かな口元の角度、視線の行方といったものだけで、その想いの在処を浮き上がらせてみせるのは、近年はハーレクインのコミカライズでも活躍している作者ならでは――と強く感じます。


 さて、二人の内面のすれ違いのことばかり触れてしまいましたが、その間も、中世修道院の財宝の行方を秘めるという七本枝の燭台を巡る物語は進行していきます。

 ジョジーヌと自分の決定的な方向性を自覚したルパンが彼女と袂を分かったことで、三つ巴の様相を呈することとなった争奪戦の行方はいよいよ佳境に突入するのですが……
 しかし三つ巴といえば、ルパン/ラウールとジョジーヌ、クラリスの関係もまさにそれ。この巻のラストでは、ついに一堂に会した三人の想いがぶつかり合うという緊迫した場面が描かれることになります。

 おそらくこの物語の結末は原作通りでしょう。しかしその下の感情を本作がいかに描くのか――それはまだわかりませんが、我々がよく知る、しかし全く知らないルパン譚の面目躍如たるものになることだけは間違いないと、これは今から断言してしまいましょう。


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ルパン・エチュード(3) (プリンセス・コミックス)


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 モーリス・ルブラン『カリオストロ伯爵夫人』 最初の冒険で描かれたルパンのルパンたる部分

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2019.02.12

和月伸宏『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第2巻 劍客兵器の正体と来たるべき「未来」


 明治16年の北海道を舞台に描かれる、流浪人の新たな物語、待望の第2巻であります。思わぬ運命の悪戯から妻・薫の父の生存を知り、北海道に渡ることになった剣心一行。しかしその頃函館山には謎の敵・劍客兵器が出現、この巻ではついに剣心と彼らが対峙することになるのですが……

 薫との間に一子・剣路をもうけ、平和に暮らしていた剣心。しかし故あって神谷道場に引き取った少年・明日郎が町で悶着を起こした相手が残した荷物の中に、死んだはずの薫の父が函館山を背景に映っていたことから、剣心一家は明日郎たちとともに、函館に向かうことになります。

 しかし剣心たちは知らぬことながら、その函館山ではとんでもない事態が進行中。突然山に現れて占拠したわずか五人の男たちに、警察が、いや軍隊までもが壊滅させられたのです。自分たちを「劍客兵器」と呼ぶ彼らの一人・凍座白也に対し、あの斎藤一が単身挑むのですが……


 そんな第1巻の内容を受けて展開するこの巻は、いよいよバトルにギャグにと、るろ剣の本領発揮という印象であります。

 函館到着早々に明日郎が起こした騒動の中に飄然と現れたあの男――に対する剣心のひどすぎるギャグ(しかもその直前に彼のことを語っておいてというのが実に可笑しい)あり、懐かしの人物との再会あり、そして劍客兵器と斎藤一の死闘あり……
 と、次から次へと展開していく物語にこちらは嬉しくなるばかり。内容やテンポ的にはこれでもまだ序の口という気もしますが、それでも出し惜しみなし、という印象であります。

 そして出し惜しみなし、といえばこの巻で描かれる剣心と凍座との対峙を通じて、早くも謎の存在であった劍客兵器たちの正体と目的が明らかになるのには驚かされます。

 その詳細はここでは伏せておきますが、思わぬ歴史を背景にしたスケールの大きさに驚かされるとともに、なるほど、こういう連中であれば、これまで作中で繰り広げられた戦いに登場しなかったのも納得できるわい、と納得であります。
 その来歴など、もちろんトンデモないと言えばそれまでなのですが――そんな印象すら「真偽の程はもはや儂等でも確かめようがない」と凍座に語らせることで煙幕を張ってしまうのは、実にうまい描き方と感心させられます。

 そして感心といえば、そんな彼らの目的であります。
 彼ら劍客兵器の行動は、常人から見れば明らかに目的と手段が転倒していると感じられます。しかし他の作品にあるような、とにかく戦争が大好きなウォーモンガーでも、強い相手と戦いだけというバトルマニアでもなく、これまでにあまりないものとなっているのが実にうまい、と言うべきでしょう。

 そしてそんな彼らの正体と目的は、おそらくは物語内容と同じくらい、本作の時代背景と密接に結びついていくことになるのでしょう。文明開化の一方で、富国強兵により、これまでにない外国との戦争に足を踏み入れていく日本の姿に……


 そんな「未来」の姿も予感させるこの巻の内容ですが、少々残念だったのは、その未来の象徴である明日郎たち三人の少年少女の立ち位置がまだはっきりとしない点でしょうか。
 もちろん、これだけの大物たちが次々と登場する中で存在感を急に発揮しろというのも難しい話ですが(先輩である弥彦ですら身を引いたこともあり……)、おそらく物語の中で大きな存在となるであろう彼らの活躍には期待したいところです。

 そしてもちろん期待するといえば、前作のキャラの再登場も楽しみなところ。この巻では、北海道編スタートから気になっていたあの男がチラリと姿を見せてくれた(ある意味ニアミス状態なのが心憎い!)のに、グッときたところであります。
 そしてある意味過去キャラというべきか――恥ずかしながら名前が変わっていたので気付くのが遅れましたが――北海道といえばあの男がいた! という人物までも姿を見せ、心は躍るばかりであります。

 そしてさらなる劍客兵器までもが登場、これがまた実にるろ剣らしいビジュアルと技にニコニコさせられて――と、楽しみばかりな本作。この先いかなる戦いを、そしていかなる未来を見せてくれるのか、期待は膨らみます。


『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚・北海道編』第2巻(和月伸宏 集英社ジャンプコミックス) Amazon
るろうに剣心─明治剣客浪漫譚・北海道編─ 2 (ジャンプコミックス)


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