2019.05.22

『どろろ』 第十九話「天邪鬼の巻」

 折られた刀を打ち直してもらうため、刀鍛治・宗綱のもとを訪れた百鬼丸とどろろ。そこで宗綱の娘・おこわに気に入られ、熱烈な求愛を受ける百鬼丸だが、彼はそれを受け入れると言いだし、驚くどろろの口から出るのも二人を祝福する言葉だった。果たしておかしな現象の背後にあるものは……

 前回、多宝丸に刀を折られ、刀鍛冶を訪ねて旅をしてきた百鬼丸とどろろ。前回いきなりのおでこコツンムーブに驚かされましたが、百鬼丸的にはマイブームらしく、道ばたの馬にまでコツンし始める有様ですが――そんなこんなで旅を続けて、ようやく宗綱という腕利きの鍛冶がいる村を訪れた二人。村の若い男に宗綱のことを訪ねてみれば、宗綱の研いだ刃物は切れないし、娘はひねくれ者で器量も悪いというのですが――どろろが試してみればその刃物はスゴい切れ味なのですからおかしな話であります。

 それはともかく、宗綱の元を訪ねた二人の前に現れたのは、その娘・おこわ。器量云々などとんでもない、本作に登場するには違和感の方が大きい美少女なのですが――ここでよせばいいのにまた百鬼丸がおでこコツンをしたことで、後々大問題となります。
 さて、そこに現れた娘とは大違いの激シブな壮漢・宗綱は、何を見たのか、百鬼丸の刀を見るなり、まず供養をすると言い出します。そして四人で毘沙門天を祀る(伏線)村の寺を訪れるのですが――寺の屋根に潜んでいた奇怪な男が、何やら怪しい手振りをすると、同様の光で縁取られる百鬼丸の体。しかし彼を含めて、誰もそれに気づかず……

 さて、刀が打ちあがるまで村の宿屋に逗留することになった百鬼丸とどろろですが、そこに現れたのは、おでこコツンに完全に勘違いして、「百さま」とデレて食べ物まで持っておこわであります。何ともチョロいおこわですが――しかしハードボイルドの極みのはずの百鬼丸は、おこわと一緒になる、刀も体も要らない、と言い出すではありませんか。
 当然、あまりのことに動転し、激怒するどろろですが、百鬼丸は淡々と同じことを繰り返すばかり。それだけならまだしも、今度はどろろまでも、本心とは正反対に、百鬼丸がおこわと一緒になるのが嬉しい、お似合いだと言い出すようになってしまうのでした。

 そして話はとんとん拍子に進み、祝言を上げることになった二人。そんな二人に、村人たちは祝福――にはほど遠い暴言の連発をぶつけるのですが、それを誰も気にする様子もありません。再び二人の前に殴り込んだどろろも、口を開けば出てくるのはお祝いの言葉ばかり。ただ一人、冒頭登場した若者だけは、素直に祝福の言葉をかけるのですが……
 そしてその晩、百鬼丸がこんな調子だったら、おいらが刀を盗んでやると宗綱の元に忍び込んだどろろ。あっさり見つかってしまったどろろは、宗綱と刀のこと、百鬼丸のことを語るうちに、力の使い道を間違えさせないためにも、やはり百鬼丸の傍にいたいと語るのですが――あれ、言葉が元に戻ってる!?

 そこで自分たちの行動を振り返ってみて、おかしくなったのがあの寺参りからだと気付き、寺に向かうどろろ。そこで屋根の上の奇怪な小男を見つけ、石をぶつけてたたき落とすのですが――折悪しくそこに現れたのは、挙式のためにおこわに引きずられる形で寺に連れてこられた百鬼丸。小男に操られるまま、百鬼丸はどろろにのしかかると首を絞め始めるのでした。が――そこで小男の後ろから現れた宗綱が、小男を殴り倒してジエンド。術が解けて抱きしめてくる百鬼丸にどろろも別の意味で大弱りであります。

 さて、騒動のタネとなった小男の正体こそは、寺の仏像に踏みつけられていた天邪鬼(の像)。仏像の位置を直せば天邪鬼も消え、皆も術が解けて一件落着。かわいそうなのはおこわですが、明るく村人たちに頭を下げていると、そこにあの若者が現れて彼女に求婚、彼女もあっさり受け入れて……
 何はともあれ、刀も復活して嬉しそうな百鬼丸は村を旅立ちます。もちろんどろろと一緒に……


 非常にハードだった前回(というかいつも)が何だったのか、というギャグ回の今回。自分の思いとは正反対の言動を取らされて――というのは一種の定番ネタではありますが、その状態になるのが鉄面皮の(それでいて最近少しずつ喜怒哀楽が芽生えてきた)百鬼丸というのは愉快ではあります。
 しかし、百鬼丸とどろろは自分たちの言動に違和感を感じているのに村人はそうでもなさそうだったり、おこわには術の効果が全くない上に周囲の言動に疑問を持ってなかったり――と、妙に感じられる部分も多く、今一つノレなかった、というのが正直なところであります。

 もちろん色々考えれば理屈はつくのですが、しかし妙にわかりにくいのがかなり損をしていると感じます。結局、どろろならずとも「なんだこれ」という印象の今回でした。


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2019.05.21

「コミック乱ツインズ」2019年6月号


 元号が改まって最初の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙と巻頭カラーが橋本孤蔵『鬼役』。その他、叶精作『はんなり半次郎』が連載再開、原秀則『桜桃小町』が最終回であります。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 新年早々、宿敵・紀伊国屋文左衛門の訪問を受けた聡四郎。後ろ盾の新井白石と袂を分かった不安、自分の振るった剣で多くの者が主家から放逐されたことなどを突かれた上、自分と組んで天下を取ろうなどと突拍子もない揺さぶりを受けるのですが――そんな紀文の精神攻撃の前に、彼が帰った後も悩みっぱなし。ジト目の紅さんのツッコミを受けるほどでありますす(このコマが妙におかしい)。

 その一方で紀文は、その聡四郎に敗れたおかげで尾張藩を追われた当のリストラ武士団の皆さんに資金投下して煽りを入れたり暗躍に余念がありません。聡四郎が悩みあぐねている間に、主役級の活躍ですが――その上田作品名物・使い捨て武士団に下された命というのは、次期将軍の暗殺であります。これはどうにも藪蛇感が漂う展開ですが――さて。


『宗桂 飛翔の譜』(星野泰視&渡辺明)
 大橋家から失われた七冊の初代宗桂の棋譜を求めてはるばる長崎まで向かった宗桂と仲間たち。ようやく二冊まで手に入れた一行は更なる手掛かりを求めて長崎の古道具屋に辿り着くのですが――そこで待ち受けるは、インスマス面の店主による心理試験で……

 と、将棋要素は、心理試験に使われるのが異国の将棋の駒というくらいの今回。むしろ今回は長崎編のエピローグといったところで、旅の仲間たちが、楽しかった旅を終えてそれぞれ家に帰ってみれば、その家に縛られ、自分の行くべき道を自分で選ぶこともできない姿が印象に残ります。
 そんな中、ある意味一番家に縛られている宗桂が見つけたものは――というところで、次回から新展開の模様です。


『カムヤライド』(久正人)
 難波の湊に出現した国津神の前に立ちふさがり、相手の攻撃を受けて受けて受けまくるという心意気の末に国津神を粉砕した新ヒーロー、オトタチバナ・メタル。しかし戦いを終えた彼女に対し、不満げにモンコは突っかかっていって……
 と、早くも二大ヒーロー揃い踏みの今回、オトタチバナ・メタルとすれ違いざまにカムヤライドに変身するモンコの姿が非常に格好良いのですが、傍若無人なまでのオトタチバナのパワーの前に、文字通り彼も悶絶することになります。

 ヒーロー同士が誤解や立場の違いから衝突する、というのは特撮ヒーローものの一つの定番ですが、しかし気のせいか最近のモンコはいいとこなしの印象。そしてガチムチ女性がタイプだったらしいヤマトタケルは、その彼女に後ろから抱きつかれて――いや、この展開はさすがにない、という目に遭わされることになります。
 そして緊縛要員の彼のみならず、モンコまで縛られ、二人の運命は――というピンチなんだけど何だかコメントに困る展開で次回に続くのでした。


『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 今回は「かまいたち愛」編の後編――江戸でとある大店に用心棒として雇われた三人ですが、夏海が心惹かれた店の女中・おりんは、実は極悪非道な盗賊・かまいたちの首領の女で……。と、夏海にとってはショッキングな展開で終わった前回を受けて、今回はさらに重くハードな物語が展開します。

 おりんの口から、そのあまりに過酷な半生を聞かされた夏海。かまいたちにしばられた彼女を救うため、店を狙うかまいたちを倒し、おりんが愛する男と結ばれるのを助けようとする夏海ですが――しかし物語はここから二転三転していくことになります。
 薄幸の女・おりんを巡る幾人もの男。その中で彼女を真に愛していたのは誰か、そして彼女の選択は……

 本作名物の剣戟シーンは抑えめですが、クライマックスである人物が見せる「目」の表情が圧巻の今回。無常しかない結末ですが、これを見せられれば、これ以外のものはない――そう思わされるのであります。


 その他、今回最終回の『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)は、江戸を騒がす火付けの濡れ衣を着せられた友人の許婚を救うため、桃香が活躍するお話。絵は良いけれども何か物足りない――という作品の印象は変わらず、やはり「公儀隠密」という桃香の立ち位置が最後まですっきりしなかった印象は否めません。


「コミック乱ツインズ」2019年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2019年6月号[雑誌]


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2019.05.20

『鬼滅の刃』 第七話「鬼舞辻無慘」

 三体の沼の鬼のうち、一体を禰豆子に任せて自ら沼に飛び込み、二体を倒した炭治郎。残る一体に鬼舞辻無惨のことを問い詰める炭治郎だが、怯える鬼は答えず、刃の前に散るのだった。そして新たな任務で浅草に向かった炭治郎は、そこで家に残っていた匂いを嗅ぐ。鬼舞辻無惨の匂いを……

 前回ラスト、箱の中から強烈な蹴りとともに飛び出してきた禰豆子。そのまま冷静に考えたらちょっとマズいアングルで痛烈なかかと落としを放って鬼を牽制、沼からの不意打ちも軽々と避けて、身体能力の高さを見せつけます。
 その禰豆子の姿に、和巳とトキエを任せ、自分は攻撃に専念することを決意した炭治郎。自ら沼に呑まれるという思い切った手段に出た彼が飛び込んだのは、犠牲者の遺品が漂うほの暗い水の中。炭治郎は一見不利な水中という環境をもものともせず、襲いかかる鬼(歯ぎしり鬼とたぶん冷静鬼)に対し、「水」の呼吸の利点を生かしたともいえる陸ノ型・ねじれ渦で二匹まとめて粉砕するのでした。

 一方、残る一体と戦っていた禰豆子は、その身体能力で鬼を追い詰めるものの、初陣の経験不足が祟って反撃を受けることに――と思いきや、そこに炭治郎が帰還。鬼の犠牲者を辱めるようなクソ発言にブチ切れた炭治郎は、相手の両手を落として拷いや尋問モードで鬼舞辻無惨のことを問い詰めるのですが――その名を聞いた途端、鬼はこれまでの態度が嘘のように鬼は我を忘れて怯え出すのでした。
 結局、自棄になったように襲いかかってきた鬼の首を斬って戦いを終えることになった炭治郎。和巳に、俺たちは無様に生き続けるしか無いんですよ(違う……けどまあだいたい合ってる)と声をかけた炭治郎は、激高した和巳の手を握り返すと、哀しくも優しい笑みとともに犠牲者の遺品を託し、去って行くのでした。

 ――が、そこですぐに次の依頼が舞い込んでくるのが鬼殺隊の恐ろしいところ。鎹鴉の指令で、早速浅草に向かうことになった炭治郎ですが、鬼が潜んでいる噂、というアバウトな指令に行く宛もなく彷徨う炭治郎は、テリブル東京を前にして右往左往するばかり。うどんの屋台を見つけてそこで一息ついた炭治郎は、非常にうまそうな山かけうどんを食べようとするのですが――しかしそこで嗅ぎ憶えのある匂いが!
 無情にも器ごとうどんを地面に叩き落とし、禰豆子をもその場に残して突っ走る炭治郎。なぜならその匂いこそは、惨劇の現場に残されていた忘れもしない家族の仇・鬼舞辻無惨の匂いだったのですから……

 そして人混みをかき分け、ついに肩に手をかけたその相手は、額に縮れた髪を垂らした小洒落た洋装の伊達男。しかし、その瞳は鬼のそれ――人混みにもかかわらず刀を抜きかけた炭治郎の腕を止めたのは、男が抱いていた小さな少女でありました。そして後ろから現れたのはその母親――夫と呼び父と呼ぶ相手が人喰い鬼の首魁であることも気付かぬ、紛れもなく人間の母親と娘の姿に、炭治郎はショックを受けるほかありません。
 そしてその間に、無惨が自分の傍らを歩いていただけの男の首筋に何気ない風で自らの爪を振るうと、男は鬼に変わって……


 今回もまた、きっちり原作2話分を消化したこのアニメ版。原作でも、沼の鬼との激闘の後にいきなり浅草に行かされるというのは違和感があったのですが、今回1話の中で描かれることでその印象が強調された気もいたします。
 もっとも、相変わらず原作で描かれていない部分、省略されている部分を補う描写は面白く、特に後半の浅草の場面は、当時の浅草の華やかさを様々な形で描いて、文字通り山出しの炭治郎が右往左往する姿をより強調していたのが、楽しいくだりでありました。
(その一方で省かれたのは、最後の沼の鬼を問い詰める炭治郎のホラー顔――精神世界の中の善逸のような顔は、作品初期ならではの描写で、これは忠実に描かなくて正解でしょう)

 そして毎回驚くほどゲスト声優が豪華な本作ですが(今回も岩田光央と皆口裕子が……)、鬼舞辻無惨は関俊彦と、実に納得のキャスティング。この声でパワハラされたら、それはいかな鬼畜でも恐縮するほかありませんから……


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 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第2巻 バディであり弱点であり戦う理由である者

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2019.05.19

硝音あや『憑き神とぼんぼん』第1巻 おばけ絵師、自分の作品に振り回される!?


 浮世絵師を主人公にした作品は数多くあります。そして妖と縁を持つ浮世絵師の物語も、それなりの数があります。本作『憑き神とぼんぼん』もそんな物語の一つですが、しかし本作の主人公は、絵から妖を生み出すその力をコントロールできない、ちょっとしまらない「おばけ絵師」で……

 江戸の人々の噂にのぼる「おばけ絵師」――描いた絵からおばけが抜け出ていった、絵の中のものが動いた云々、悪評ばかりが高まるその正体は、新米絵師・来川ウタであります。
 新米ゆえ腕がイマイチなだけでなく、描いた絵から勝手に訳の分からないモノが出てくるという、ある意味絵師としては致命的な自分の力に悩むウタですが――それでも彼が絵を描き続ける、描き続けなければいけないのには一つの理由があります。

 それは彼の同居人の美青年・月の存在――実は彼こそはウタに憑いている「神」、ウタは月とのある約定のため、絵を描き続け、その腕を上げなければならないのであります。その約定を果たせなかった時には……


 と、冒頭に触れたように、妖と絵師の物語――それも妖を描き、生み出す力を持つ絵師の物語は決して少ないわけではないのですが、しかし本作がユニークであるのはなのは、主人公が今ひとつその力をコントロールできていないことであります。
 単純に主人公が絵の力で妖絡みの事件を解決するのではなく、むしろ主人公がその力に振り回され、事件の発端になりかねない――その最たるものが、自分が描いた神・月に憑かれ、脅かされていることなのですが――というのは、可哀想ではあるのですがユーモラスで、なかなか好感が持てるところであります。
(そしてウタにもどうにもならない事態となった時、月が力を発揮して事を収めるという展開も、お約束ながら楽しい)

 そんな本作の第1巻に収録されているのは全3話。
 奥座敷の掛け軸から夜な夜なおかしなモノが現れるという帯問屋に絵の引き取りを依頼されたウタがおばけと対峙する第1話、突然仕事場に「オナカイタイ」と現れた猫(?)のようなおばけにウタが振り回される第2話、流行の菓子屋に招かれて襖絵を描くことになったウタが思わぬ騒動に巻き込まれる第3話――と、なかなかバラエティに富んだ構成であります。


 ……しかしながら、本作から受けるイメージが今ひとつはっきりとしないのは、本作を構成する様々な要素――浮世絵、妖、バディ、職人、人情等々――が、あまり有機的に結びついているように感じられないためでしょうか。
 それぞれの要素はなかなか面白いものの、それらが物語に盛り込まれた時、一つの流れとして感じにくい点が、何とももったいないと思います。
(個人的には、あとがきでバーチャル江戸と断言されているために、史実のリンクにも期待できないのが苦しい)

 第3話のラストでは、本作のタイトルである「ぼんぼん」の意味が明かされ(それはそれでまた他と大きく異なる新しい要素なのですが)、それがさすがに予想できなかったような内容なのですが――さて、ここからどのように物語が広がっていくのか。
 本作のユニークな設定を生かした物語が描かれることを期待したいところです。


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2019.05.18

山口貴由『衛府の七忍』第7巻 好青年・総司と、舌なき者らの声を聴く鬼と


 タイムスリップまで飛び出して、いよいよノってきた印象の『衛府の七忍』、第7巻をほとんど丸々使って描かれるのは、「魔剣豪鬼譚」沖田総司編――タイムスリップで元和の世に現れた総司の姿であります。新たな生き方を模索する総司の前に現れる柳生宗矩、そして新たな鬼との戦いの行方は……

 壬生狼として幕末の京で恐れられながらも、今は病を得て江戸で療養中の沖田総司。しかし突如愛刀・菊一文字とともに元和元年の江戸にタイムスリップした彼は、来て早々に旗本狩りを行う鬼と遭遇することになります。
 鬼の口から「今」が幕末ではないことを知り、行く当てもなく放浪する総司。今度は柳生宗矩と遭遇してしまった彼は、売り言葉に買い言葉で宗矩と刃を交えることとなります。

 宗矩の勝手な納得でその場はなんとか収まり、町道場に転がり込むこととなった総司。町道場といえば総司にとっては馴染みの場、そこで師範代となった彼は、道場の一人娘と結ばれ、新たな生を生きることを決めるのですが……


 前巻の後半から登場した沖田総司。江戸時代初期の物語に幕末の総司が!? という違和感がほとんどゼロなのは、変身ヒーローから巨大ロボットまで何でもありの世界観ゆえ――というのは確かですが、しかしそれ以上にその人物造形による点が大きいと感じます。

 そんな本作の総司を一言で表せば「イマドキの好青年」。敵とみれば全く容赦せずに冷徹に叩きのめすその姿は鬼より怖い壬生の狼そのものですが、しかしその性格は純粋で物怖じせず、そして良い意味で武士らしさを持たない実に気持ち良い青年であります。
 その物腰は柔らかく明るく(軽く)、女性に対しては紳士的。そして何かといえばモノローグで「土方さん、総司○○です」と語りかける姿は何とも微笑ましいものがあります。

 特にこの巻の冒頭、行き場をなくした総司が、河原で暮らす夜鷹たちの中に紛れ込んで彼女たちと仲良く言葉を交わす姿は、夜鷹を人間扱いしないこの時代の武士たちとは全く対照的な、彼の人物像を示す名場面でしょう。
 個人的には一つのエピソードがあまり長いのは苦手なのですが、この総司であればもっと長く見ていたい――という気分になるのであります。


 しかし、本作は総司の青春、いや凄春記ではなく、あくまでも「鬼」を巡る物語であります。
 このエピソードで登場する鬼は旗本狩りの鬼・霓鬼――その正体は刀剣御試役・谷衛成。あらゆる体勢から、あらゆる太刀で相手を斬る丹波流試刀術の達人である彼もまた、夜鷹たちから慕われる武士らしくない武士ですが――しかし皿を割っただけで無惨な仕置きを受けた少女・雀を御試の名目で斬らされた際に、鬼に変じた彼女とともに怨身し、「舌なき者らの声」を聴く鬼と化したのであります。

 あるいは人間として出会えば、肝胆相照らす仲になったかもしれない総司と衛成ですが、しかし夜鷹たちに対する幕府のあまりの非道に対して雀が行った報復が、今度は総司の――と、怨念が怨念を呼び、総司と衛成いや霓鬼はついに激突することに……(そして巻き込まれる宗矩)

 幕府の非道に対するのが衛府の鬼たちであるとすれば、彼らと敵対する者たちは、すなわち非道の手先――というのがこの『衛府の七忍』の基本フォーマットであります。
 しかし作品中作品ともいうべき「魔剣豪鬼譚」で描かれるのは、その衛府の鬼たちに対して、己の信念と戦う理由を持って戦う剣豪の姿。どちらが単純な悪というわけではなく、むしろどちらも正しい――その姿は、弱者の復讐譚というべき『衛府の七忍』の、ある種のバランス感覚、内側からの強烈なアンチテーゼとして感じられます。


 何はともあれ、どちらも負けて欲しくない戦いがここに始まったのですが――しかし少々気になるのは、総司の徳川家康とその元和偃武への、あまりに無邪気な信頼感であります。
 それは新選組隊士としてはある意味当然のものなのかもしれませんが、しかしそれこそが鬼を生み出していると知った時、総司はそこに「誠」を見出すことができるのか――霓鬼との決着以上に、その点が大いに気になるところなのです。


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2019.05.17

室井大資『レイリ』第6巻 武田家滅亡の先に彼女が掴んだもの


 武田勝頼の嫡男・信勝の影武者となった少女の戦いを描く『レイリ』もいよいよ最終巻。信長の勢いに抗することができず、ついに武田家が滅亡に瀕する中、レイリを待つ運命とは、そしてその果てにレイリが選んだ道とは……

 戦に巻き込まれて家族を皆殺しにされた末に、岡部丹波守に拾われ、そして信勝の影武者となったレイリ。高天神城の戦いで援軍のない中戦い続ける丹波守を救いに向かったレイリは、しかし生き残りの城兵脱出を託され、丹波守と永遠の別れを告げることになります。
 その悲しみを背負いつつも、家族を失って以来取り憑かれていた死への誘惑を振り払ったレイリ。しかし信長の攻勢は続き、武田家最後の希望たる信勝の秘策も空しく、武田家の運命はもはや風前の灯火となります。

 そんな中、レイリを襲う最後の悲劇。影武者としての最後の勤めの末、土屋惣三の子を託されたレイリは、武田家を去るのですが……


 長篠の戦に巻き込まれて父母と弟を殺されたことをきっかけに、ひたすらに腕を磨き、戦って戦って戦い抜いた末に自らも死ぬことを長きに渡り望んできたレイリ。その想いは、信勝や惣三との生活、そして何よりも丹波守との別れによって、ようやくぬぐい去られました。
……しかし武田家を、彼女が影武者を務める信勝を待つ運命は、歴史が示すとおりであります。個人としては群を抜いた(あわや歴史を変えかねないほどの)戦闘力を持つレイリであったとしても、としても、できることには限りがあるのです。

 そう、彼女にできることはただ、信勝を――天才を自認する傲岸不遜な少年でありながらも、誰よりも繊細で、父の愛に飢えていた主を――辱める者を討つこと程度(このくだりの人間描写の真っ黒さは、さすがはこの原作者と言うべきでしょうか)。
 歴史の流れを変えることなどできるはずもなく、ただ親しい人々の死を見送ることだけ、せいぜいがただ一人の命を守ることくらいが、彼女にできることなのであります。

 その意味では、最後の策が遅効性の毒として宿敵を滅びに追いやった信勝の方が、大きく歴史を動かしたと言えるでしょう。
 その策が動き出す場面の背後で、勝頼と信勝が初めて通じ合うイメージが描かれるのがまた泣かせるのですが……


 しかし――それでは彼女は結局何もできなかったのでしょうか。武田家で彼女が送った時間は無意味だったのでしょうか? その答えが否であることは、この最終巻を読めば瞭然でしょう。
 それは一つには、武田家を滅亡に追いやった者への復讐の完遂であることは間違いありません。しかしある意味伝奇的なその復讐以上に、本作において大きな意味を持つものが、物語の最後に描かれるのであります。

 かつて親の側を離れないように、という意味を込めて名付けられたレイリ(零里)。その名の通り――と言ってよいかはわかりませんが、彼女は親の死に囚われ、そして第二の生を、武田信勝という勝手には脱げない他人の仮面をかぶって送ることとなりました。
 いわば一カ所に己を縛り、縛られていた彼女が、そこから解放されて選んだ道は――それを象徴する彼女の言葉、ラストシーンに描かれたものは、決して明るいものではなかったこの物語に、素晴らしく爽やかな風を吹かせてくれたのです。


 全6巻という、決して多くはない分量の本作。しかしそこでは、歴史の中に生きた人間、生きる人間、生きていく人間の姿を、豊かに描かれました。
 そしてその中で彼女が掴んだもの――一言で表せば「自由」の姿は、最後まで物語を読み通した我々の胸を熱くしてくれるのであります。


『レイリ』第6巻(室井大資&岩明均 秋田書店少年チャンピオン・コミックス・エクストラ) Amazon
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2019.05.16

『どろろ』 第十八話「無常岬の巻」

 イタチたちが財宝を探しに出た間に、鬼神と化した二郎丸に襲われるどろろ。間一髪駆けつけ、二郎丸を倒した百鬼丸は左足を取り戻す。しかしそこに多宝丸率いる醍醐の兵が襲来、盗賊たちは次々と斃れていく。そんな状況でも財宝に執念を燃やすイタチと、多宝丸と激突する百鬼丸。そしてどろろは……

 中一回おいて、再び舞台は白骨岬に戻った今回。前々回、どろろの秘密を知ったイタチはついに二つの地図を手に入れ、配下の盗賊たちと岬の上を目指します。残されたどろろは海辺の樹に縛り付けられたままですが――そこでどろろが目撃したのは、しらぬいの呼びかけに答え、二郎丸がその姿を変えていく様でありました。体色は白く変わり、手足と幾つもの角を生やした怪物と化した二郎丸は、手始めにどろろに食らいつく――のは体の小ささが幸いして避けたどろろですが、追いつめられるのは時間の問題です。
 が、そこに飄然と現れたのは、見覚えのある急拵えの義足――どろろを追ってきた百鬼丸であります。って、前回ラストの流れから、新しい義足をもらったものとばかり思っていたら、「おかあちゃん」呼びにデレただけか!? というのはさておき、そんな身でも陸に上がった鮫には負けない百鬼丸。突進を躱して平成ウルトラ怪獣チックに生えた角に刀を突き刺してその身によじ登ると、脳天に一撃――二郎丸を案外あっさりと倒すのでした。

 しかし、再会を喜ぶまもなく、真の敵が現れます。それは百鬼丸を追ってきた多宝丸と陸奥・兵庫、そして数多くの醍醐兵――よくこれだけの舟を持っていたものだとも思いますが、この場にいるものは一人残らず討ち取れと言う多宝丸の下知に、次々と上陸した醍醐兵が盗賊たちに襲いかかります。不意を突かれた上に数にも勝る相手を前に、次々と殺されていく盗賊たち。そんな中、ようやく地図の場所にたどり着いたイタチは、しかし仕掛けられた罠にも怖じ気付くことなく、財宝を探し始めます。
 その一方で、再び多宝丸と対峙することとなった百鬼丸。以前とは異なり、明確に百鬼丸を醍醐の敵と見なし、襲いかかる多宝丸を迎え撃つ百鬼丸ですが、しかしそれに加えて大力の兵庫と、遠距離から弓を放ってくる陸奥には、さしもの百鬼丸も大苦戦。ついに片手の刃をへし折られてしまうのでありました。

 そんな各所で繰り広げられる死闘の最中、イタチのもとにたどり着いたどろろ。醍醐兵の猛攻に盗賊たちは皆やられってしまった中、偶然、岬の中腹のお地蔵様に仕掛けられていた罠を作動させて醍醐兵に打撃を与えたどろろですが、しかし頼みの綱の百鬼丸も多宝丸たちに追いつめられている状況では、どろろもイタチも、その命は風前の灯であります。
 が――そこで思わぬ者が状況をひっくり返すことになります。それは三郎丸、そして二郎丸を殺されたしらぬい――自棄になってこの場に集まった者たちを皆殺しにしようとした彼は、自分が吹き飛ぶのも構わず、積み上げられた火薬に点火! 大爆発と土砂崩れに皆が巻き込まれてはもはや戦いどころではなく、多宝丸は撤退を宣言――いつの間にか爆発の中で深手を負っていた兵庫を連れて去って行くのでした。

 ……やがて爆発の瞬間にイタチに庇われたどろろが意識を取り戻した時、目の前にあったのは爆発で露わとなった洞窟の所狭しと積み上げられた財宝の数々――自分が探し求めてきた財宝を目の当たりにしたイタチは、喜悦の笑みを浮かべたまま、息を引き取るのでした。
 そして迎えにやってきた百鬼丸とともに、その場を離れるどろろ。この財宝をどのように使えばいいのか、財宝が自分にとってこの先どのような意味を持つかはわかりませんが――いまはここに残して、再び百鬼丸と旅に出ようと、どろろは心に誓うのでした(まあ、ちょっぴり懐に収めましたが……)


 中盤のクライマックスにふさわしい激しい戦いが繰り広げられた今回、波乱が予想された二郎丸との戦いに序盤であっさりと決着が着いたのには少々驚きましたが、その後に待ち受ける多宝丸主従との戦いは迫力十分であり――そしてそれだけに、理不尽に追いつめられる百鬼丸の叫びが胸に響きます。
 もっとも、それもこれもヤケを起こした猟奇サメ男の自爆テロで水入りとなってしまうのですが……(しかしこの調子だと醍醐を滅ぼす戦犯はサメ男なのでは)

 そしてやはり今回最も印象に残ったのはイタチの姿でしょう。初登場以来、悪党ながらどこか憎めない姿を見せてきた彼もついに退場することになりますが――最後まで改心するわけでもなく財宝への執着を見せつけ、しかし爆発の瞬間にどろろを庇う姿は、誰よりも「人間」臭かったと言えます。

 そんな「人間」たち一人一人が必死に生きようとした末に引き起こされた戦いと、その結末――ここに描かれたものは、まさに無常と言うべきでしょうか。


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2019.05.15

百地元『黒狼』第2巻 「馬賊」原田左之助、本格始動?


 あの新選組の原田左之助が、上野戦争から40年後にタイムスリップ、中国大陸で大馬賊・張作霖と出会って――という奇想天外な大活劇『黒狼』待望の第2巻であります。紆余曲折の果てに作霖の下で馬賊に加わった左之助ですが、しかしまだ見習い扱い。そんな中で始まった敵との戦いの中で左之助は……

 上野寛永寺で新政府軍と死闘を繰り広げた末、壮絶に散った――と思いきや、意識を取り戻してみれば40年後の満州にいた原田左之助。
 そこで訳が分からぬまま、伝説の宝玉「龍の瞳」の欠片争奪戦に巻き込まれた左之助は、なりゆきで欠片の一つを飲み込んだことから、満州に覇を唱える大馬賊・張作霖に拾われることになります。

 その破天荒な暴れぶりを気に入ったのか、左之助を馬賊に加えた作霖。左之助もまた、今の日本には未練はないと、不思議なカリスマを持つ作霖一党に身を投じるのですが――しかし馬賊は超身分社会、まだまだ見習いの左之助は、彼を快く思わない幹部にこき使われる羽目に……

 というわけでついに本格的に始まった左之助の馬賊生活――なのですが、見習いの彼がやることといえば馬の世話や雑用ばかり。
 それでも、元々が中間出身の上に規律が厳格だった新選組にいたためか(?)、意外にも早々に見習い生活に馴染む左之助ですが、しかしいざ戦いにという時に加われないのは、彼にとっては苦痛でしかありません。

 折しも作霖のライバルであり、左之助とも因縁がある大馬賊・金寿山の一党が、作林の武器庫を襲撃。やりたい放題の狼藉を働いたことで、ついに作霖は全面対決を決意することになります。
 しかし、そこに加わることを許されない左之助。そんな彼に、作霖配下の小隊長・トカゲは、戦いに加わる手段があることを語ります。しかしそれは文字通り決死の任務で……


 と、左之助を通じて、前半は馬賊の普段の(?)生活を描き、そして後半は馬賊流の苛烈な戦いを描く第2巻。その落差には驚くほどですが――しかしその両方にきっちりと違和感なく適応してみせるのが、左之助という男であります。
 いやもちろん、それはあくまでも「左之助」という人物に我々が抱くイメージに過ぎないのですが、しかしそのイメージを忠実に、いやそれ以上に魅力的に描いているのですから、それに文句があろうはずがありません。

 特にこの巻のクライマックス、「ナニ物めずらしくもねぇ 要は○○だろ」(○○は敢えて伏せさせていただきます)と平然と死地に踏み込んでいく姿には、こちらはもうニコニコするしかないのであります。
 それでこそ左之助、と……

 そしてそんな左之助が、その美しい容貌とは裏腹に――あるいはそれに相応しく――冷酷非情な作霖にある表情を浮かべさせるのも、また痛快・爽快なのです。


 しかしここで白状すれば終盤のある描写には、ちょっと引くものがあったのも事実であります
 これは全く個人的な趣味の問題ではありますが、実は第1巻の時点で、非常に苦手だったあるある台詞。よりによってこの巻ではそれがよりクローズアップされ、その上、終盤では何だか想像を絶する展開に繋がっていくのですから、いやもうこれは一体――と大いに混乱させられました。

 しかし――そこからさらにひっくり返し、汚濁の極みから至純の愛の形を描いてみせるのが、本作の凄まじいところであります。
 ここに至るまでの数々の悪趣味な描写は、このためであったか!? と舌を巻くようなこの展開は、あたかも美と醜の間を行き来し、その間に君臨する作霖のよう――というのはさすがに言い過ぎかと思いますが、些かならず唸らされた次第です。
(犬と猫の違いがもう少しはっきり描かれてもよかったような気もしますが、それはそれで……)


 何はともあれ、並行して描かれる直情な左之助の活躍と、複雑な作霖の暗躍の姿が何ともユニークな本作。伝奇的な題材のみならず、この先の展開が気になる物語なのであります。


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2019.05.14

『鬼滅の刃』 第六話「鬼を連れた剣士」

 禰豆子を連れ、初の任務に向かう炭治郎。毎夜娘たちが消える町で、恋人を攫われた青年・和巳と出会った炭治郎は、町に残った鬼の匂いを追い、新たに娘を攫った鬼と対峙する。しかし作り出した沼の中から自在に攻撃し、しかも三体に分身した鬼に炭治郎が苦戦する中、禰豆子が割って入る……

 前回ラストの指令を受けて、ついに隊服に身を包んだ炭治郎。隊服の機能やら黒い日輪刀にまつわる噂やら、非常に説明的な台詞(いや説明ですが)で教えてくれた鱗滝は、禰豆子を入れる箱もプレゼント、炭治郎は「軽い」とえらく喜ぶのでした。
 そして布団から直に箱に潜り込んだ禰豆子に、これからはいつも一緒だよと微妙にサイコパスっぽいことを言いながら旅立つ炭治郎。鱗滝は炭治郎の襟元を直して無意味に頷いたり、肩をポンポンしてやったりと、もはや師匠というよりお祖父さん状態であります(箱プレゼントもランドセル的な……)。

 しかし正確な位置を知らされていないらしく、いまいちアバウトな感じで歩いて大きな川の近くの町にやってきた炭治郎。そこで早速、モブに半分後ろ指を指される感じで噂される青年・和巳と出会った炭治郎は、前回ラストで恋人を鬼に攫われ、彼女の父親には無駄に凄惨に鉄拳制裁されて踏んだり蹴ったりの彼から話を聞き、鬼の追跡を始めるのでした。その追跡方法がいきなり地面の匂いを嗅ぎ始めるというのは完全に不審者ですが、しかし赤い煙のようなエフェクトで描かれる匂いの描写はなかなかユニークであります。

 そんなこんなで日も暮れ、かなり大きなお屋敷の中では、家の娘・トキエが眠りに就こうとしていたのですが――何と布団の下から黒い染みが浮き出し、瞬く間に広がると、突き出た腕が布団から彼女を「下」に引きずり込むではありませんか!
 この何ともホラーな展開を察知して走り出した炭治郎は、屋敷の外にまで駆けつけると、FPS視点で刀を構えるのですが――そこだ! と刀を突き刺したのは地面。そう、今回の敵は異能の鬼、地面や壁など堅い面に沼を自在に作り出し、その中から襲ってくる血鬼術の遣い手なのであります。

 と、沼から顔を出したと思ったら、高速言語みたいな勢いで歯ぎしりをする沼の鬼(人間の頃からの癖だそうです)。炭治郎は和巳にトキエを預けると、匂い頼りに鬼を追うのですが――沼から出現したのは、同じ姿の三人の鬼! さすがの炭治郎も三人相手は勝手が違い、いくら技を放っても浅手を追わせるのがやっとの炭治郎は窮地に陥ることになります。
 さて、ここで現れた三人の沼の鬼はそれぞれ個性に違いがあるらしく、短気な奴・冷静な奴・歯ぎしりしかしない奴とそれぞれなのですが(今見てみると半天狗の原型みたいですな)、うち冷静な奴が、戦利品として喰った相手の身に着けていたもの――残念ながら和巳の恋人のものもその中に――を見せつけたことが炭治郎の逆鱗に触れることになります。

 が、冷静さを欠いた炭治郎に鬼の一人が背後から攻撃を仕掛けたとき――箱の蓋がはじけ飛び、強烈な蹴り一閃! それはもちろん箱の中から現れた禰豆子ですが――彼女は鬼に襲いかかる前に、和巳とトキエを慈しむように、二人の頬にそっと長い爪を生やした手を当てるのでした。
 実は彼女に、人間は皆家族、鬼は敵だという暗示を与えていた鱗滝。炭治郎に剣を教えるよりも凄いことをやった気がするこの暗示に背を押されるように、禰豆子参戦……


 またもや原作の2話分を、ほとんど忠実にアニメ化した今回。きっちりAパートとBパートで1話ずつ消化しなくても――とは思いますが、鬼殺隊としての炭治郎の初陣ということで丁寧に描いたと思いましょう。
 そして今回も原作に忠実な分、冒頭の鱗滝の細かな動きや炭治郎のリアクション、鬼に不安を抱く町の様子やトキエ襲撃の描写等、原作で描かれなかった――あるいは一コマ二コマで処理されていたものを丁寧に描いているのはやはり好感が持てます。

 映画化分が終わったことで少々心配していたクオリティの方も上々で、意味が分からないアップでの鬼の独白や、ベタなBGMの流し方などひっかかる部分はあるものの、まずは安心して楽しむことが出来る内容でした。


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 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第2巻 バディであり弱点であり戦う理由である者

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2019.05.11

碧也ぴんく『星のとりで 箱館新戦記』第3巻 「平時」の五稜郭と揺れる少年の心


 北の大地に希望を求めた土方歳三ら、旧幕府軍の男たちを描く『星のとりで』も巻を重ね、これで第3巻であります。松前藩を打倒し、箱館を占領した旧幕府軍。一時の安らぎを取り戻した中、土方の傍らでその戦いを目撃してきた幼い新選組隊士も運命の岐路を迎えることに……

 新政府側との苦闘の末、ついに蝦夷地に上陸した旧幕府軍の面々。しかしそこに至るまでの犠牲は決して少なくはありません。

 北に向かう旅の途中で交誼を結んだ元唐津藩の若君・胖は戦死し、そして旅の当初からの仲間であった良蔵が病で脱落、そして今度は馬之丞が何者かに捕らわれ――と、数々の別れを経験することになった市村鉄之助と田村銀之助。
 戦いの現実や、政治の力学――決して甘くはない現実と否応なしに直面せざるを得ない少年たちですが、それでも刻一刻と状況は変化していくことになります。

 ついに五稜郭に入り、蝦夷地に新国家を樹立した旧幕府の面々。軍ではなく(事実上の、というただし書き付きとはいえ)国家になったということは、とりもなおさず戦い以外に行うべきことが幾つもできたということであり――陸軍奉行並とはいえ、土方もまた、戦場とは別の場所で力を振るうことになります。
 そして彼に小姓として仕えてきた鉄之助と銀之助もまた。

 自分から離れて新たな道を歩めという土方の言葉を受け容れる銀之助と、困惑する鉄之助。それでも土方の近くに在ろうとする鉄之助の決断は……


 物語の始まりから、土方たち「大人」の戦いの姿を、鉄之助や銀之助たち「少年」の視点から描いてきた本作。ある意味その戦いも一段落したこの巻においては、その視点も、新たなものに向けられることになります。

 それは言ってみれば「平時」の五稜郭の姿。その最期の姿があまりに鮮烈であっただけに、戦時の印象ばかりが残りますが、かつて蝦夷地に生まれたもう一つの国が、どのように国であろうとしたのか――少年の視点で描かれたその姿は、我々が見ても新鮮に映ります。

 もちろん、その大きな変化に対して、ついていけない者がいるのも事実ではあります。例えば前の巻で鮮烈な印象を残した胖の唐津藩のように、藩としての立場からこの戦いに参加した者たちにとって、新たな国は決して居心地が良いものではなかった――というのはなかなか興味深い視点であります。

 そしてその流れに巻き込まれた者に対する土方の言葉がまた実に格好良いのですが――しかしその土方の言葉を持ってしても、なかなか納得できないのが少年の純情というもの。なんとか土方を翻意させようとする鉄之助ですが、そこに思わぬ助っ人が現れて……


 というところで満を持して(?)登場するのが、あの隻腕の美剣士・伊庭八郎であります。
 本作においては、土方と伊庭は旧知の仲という設定。まだ江戸で暮らしていた時分につるんでバカをやっていた二人が、全く別の道を辿りながらそれぞれの節を曲げずに戦いを続けた末に五稜郭で再会する――というのは実にグッとくる展開です。

 そして本作の伊庭は、(期待通りに)明るく捌けた江戸っ子ではありますが、しかしそれだけに、彼が語る、これまで戦いを続けてきた理由は実に胸に迫るものがあります。
 そんな伊庭と鉄之助の会話の中で、それぞれにとっての「砦」の意味が語られるのが、個人的にはこの巻のクライマックスである――そう感じます。


 そしてこの巻の巻末には、その伊庭八郎と、親友である本山小太郎の姿を描く短編が収録されています。
 片腕を失い、江戸に潜伏しながらいまだ戦意を失わない伊庭と、そんな伊庭を案じる本山と――やはり「星のとりで」に集った綺羅星の一つである伊庭と、そんな星を振り仰ぎながらもついていこうとする本山の姿が印象に残る好編であります。


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