2017.10.21

山口譲司『エイトドッグス 忍法八犬伝』第2巻 見事完結、もう一つの忍法八犬伝

 山口譲司が山田風太郎の『忍法八犬伝』を漫画化した本作も、この第2巻で完結。服部半蔵配下の八人のくノ一に奪われた里見家の秘宝・伏姫の八玉奪還のため立ち上がった当代の八犬士たちの戦いがついに決着することになります。

 本多正信と結ぶ服部半蔵の命により、里見家から八玉を奪い、偽物にすり替えた八人のくノ一。この八玉は将軍秀忠の嫡男・竹千代に献上を約束したもの、紛失したとあればただではすまされません。
 そんな里見家お取り潰しの危機に、甲賀で修行した(経験もある)当代の八犬士はお家のため――ではなく、密かに恋い慕う当主の奥方・村雨姫のために立ち上がり、伊賀のくノ一たちと忍法勝負を繰り広げることに……

 という本作、第1巻では乞食の小文吾、盗賊の毛野、香具師の道節が、くノ一らとの死闘の末に壮絶に散っていったものの、まだ八玉の大半は敵の手中にある状態。
 そしてくノ一たちに追われた村雨姫と女(装)芸人の信乃は、吉原の女衒の現八に匿われて吉原に潜り込むことに――と、いきなりトリッキーな展開から始まることになります。

 そして軍学者の角太郎、六法者の親兵衛、女歌舞伎の振付師の荘助と、残る八犬士たちもこれまた正道を外れたような連中。そんな連中が、腕利きのくノ一たち――それも幕府の最高権力者をバックにした――にいかにに立ち向かうか、というお話の面白さは、もちろん原作の時点で保証済みであります。

 そこで本作ならではの魅力は、といえば、やはり作者ならではの絵――はっきり言ってしまえば作者の絵のエロティシズムによるところが大であることは間違いありません。
 特にこの間の冒頭に収められた現八と二人のくノ一の「対戦」は、山風忍法帖ではある意味おなじみのシチュエーションではありますが、それを正面から絵にしてみせるのは、これはもうこの作者ならではでしょう。
(単行本では、思わずドキリとするような描き下ろしページがあるのも印象的)

 その一方で、たった一人の、それも目の前にいても決して手の届かぬ女性のために、無頼放題に生きてきた八犬士たちが散っていくというロマンチシズム、リリシズムもしっかりと描き出されているのもいい。
 第1巻冒頭のあるキャラクターのモノローグが、この巻のラストに繋がり、そして原作でも印象的だった結末の文章が引用されて終わるその美しさは、強く心に残るのです。


 ……実は本作、物語の基本的な流れ自体は原作とはほぼ同じであるものの、全2巻というボリュームもあってか、細部はかなりアレンジ(省略や取捨選択)が為されているというのは、第1巻の紹介時に触れたとおりであります。
 特にこの第2巻の終盤、残った3人の犬士が乾坤一擲の大勝負に出るクライマックスなど、シチュエーションは重なるものの、細部は全く似て非なるものとなっている状況。それゆえ冷静になって読んでみると、かぶき踊りの女たちの存在や服部半蔵の処理など、いささか無理がある点は否めません。

 しかしそれでも本作が紛うかたなき『忍法八犬伝』として感じられるのは、上に述べたような点で、本作が押さえるべきを押さえ、そして見たいものを見せてくれたから――そう感じます。

 本作のラストバトル、原作とは全く異なる最後の八犬士と最後のくノ一の対決など、ちょっぴり元祖八犬伝の芳流閣の決闘を連想させるシチュエーションである上に、本作の冒頭の対決シーンをもなぞらえていて、実に心憎いのであります。
(漫画的には、このラストバトルの方がより盛り上がる――というのは言いすぎでしょうか)


 何はともあれ、原作の大筋は踏まえつつも大胆なアレンジを加え、それでいてツボを心得た描写できっちりと『忍法八犬伝』のコミカライズを成立してみせた本作。
 ぜひ、次なる山風忍法帖を――と期待してしまうのであります。


『エイトドッグス 忍法八犬伝』第2巻(山口譲司 リイド社SPコミックス) Amazon
エイトドッグス 忍法八犬伝 2 (SPコミックス)


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2017.10.20

『コミック乱ツインズ』2017年11月号

 「コミック乱ツインズ」11月号の表紙&巻頭カラーは、単行本第1巻・第2巻が同時発売となった『仕掛人藤枝梅安』。作家こそ違え、「コミック乱ツインズ」の顔が帰ってきたという気持ちもいたします。今回も、特に印象に残った作品を取り上げて紹介します。

『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 今回から「梅安初時雨」がスタート。浪々の身の上であった小杉さんを迎え入れ、厚遇してくれた老道場主が、死の間際に小杉さんを後継者に指名したことで起きる波乱に、梅安も巻き込まれることになります。

 逆恨みして襲ってきた旗本のバカ息子たちを討ち漏らしたことから窮地に陥った小杉さん。ちょうど、大坂の白子屋菊右衛門から招かれていた梅安は、江戸を売る小杉さんに同道することに。しかし思わぬことから二人の行き先が旗本たちにばれて……
 と、本作ならではの好漢っぷりを見せつつも、早速(?)不幸な目に遭う小杉さんが印象に残る今回。白子屋の名も登場し、この先の展開がいよいよ気になります。


『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)
 まだまだまだ続く将軍家慶日光社参編――というよりついに家慶と大御所家斉との全面戦争編に突入した感がある本作。
 将軍復位を狙い、家慶が日光に向かっている間に江戸をほぼ占拠し、西の刺客・静原冠者と結んで家慶の命を狙う家斉派との戦いはいよいよヒートアップすることになります。

 繰り返される襲撃の前に分断された家斉一行は甲府城に籠城することを決断。甲府勤番衆を味方につけ、甲府城の防備を進め、さらにギリギリまで日和見を続けていた水野忠邦を援軍として動かすことに成功するのですが……

 しかしこの盛り上がりに対し、作画が所々大荒れ(ほとんど下書き状態)なのは何としたことか。一種の演出かとも思いましたが、しかしそのわりには妙なところで入るのも不思議で、折この辺りは素直に残念、と言うべきなのでしょう。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 最近は戦国時代末期を中心として展開する本作、今回はついに関ヶ原の戦。そして今回鬼と化すのは大谷吉継であります。

 若き日より秀吉を支えてきたものの、しかし業病によってその面貌が「鬼」の如きものに変わった吉継。自分を忌避する周囲の者たちに激しい怨念を抱いた彼は、ついにその身を鬼と変えるのですが――しかし彼をあくまでも人間に繋ぎとめる者がありました。それは彼の親友・石田三成で……
 というわけで、身は鬼と化したものの、心は人間のままという状態となった吉継と対峙した鬼切丸の少年。彼は背三成のために人間として関が原に向かうという吉継の行方を見届けることを決意するのです。

 と、鬼と人間の狭間で揺れる者たちの姿を描いてきた本作らしい切り口で関ヶ原を描く今回のエピソード。おそらくは前後編となるのではないかと思いますが、どう決着をつけてくれるのか、楽しみであります。
 ……が、今回の吉継の描写は、数年前に問題になった某ゲームの初期設定とさして変わらないわけで、その点は引っかからない、と言えば嘘になります。


『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今回は『そば屋幻庵』と同時掲載となった本作。幕府財政立て直しのために吉原に手を入れることを決意した新井白石と、彼を守る聡四郎に対し、吉原名主衆が送った刺客たちが襲いかかる――という今回は、ストーリーの展開より、とにかくアクション重視で魅せるエピソードであります。

 浪人(刀)、鳶(手鉤)、僧侶(錫杖)、町娘(簪(暗器))と、それぞれ異なる得物を手にした四人を同時に敵に回し、しかも戦いはド素人の白石を守りながら、如何に生き延びるか――ギリギリの状況で展開されるこの戦いは見応え十分(刺客たちの顔が、眼だけ光ったシルエットとして描かれているのもまた印象的)。ラストには謎の強敵まで登場するという心憎い展開であります。

 そんな苦闘をくぐり抜けた聡四郎の前に、無手斎の道場で現れたのはあの男――あ、こういうビジュアルになるのかと思いつつ、原作読者としては今後の活躍が楽しみになる引きであります。
 そして本当に毎回言っていて恐縮なのですが、短い出番で喜怒哀楽をはっきりと見せまくる紅さんは今回も素敵でした。


 ……そういえば今回、『軍鶏侍』は掲載されていなかったのですね。


『コミック乱ツインズ』2017年11月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年11月号 [雑誌]


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2017.10.13

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第8巻 柱の強さ、人間の強さ

 相変わらず絶好調の『鬼滅の刃』最新巻であります。夢を操る鬼との死闘をくぐり抜けた炭治郎たちの前に立ち塞がる新たな強敵。それに挑む「柱」の真の強さとは――本作屈指の名場面が描かれることになります。

 汽車に網を張り、人間たちを覚めない夢の世界に引きずり込む力を持つ鬼・魘夢。鬼の中でも十二人のトップクラスの実力者(が、そのうち半分近くが既に粛正)の一人・下弦の壱である彼によって悪夢に囚われた炭治郎たちは大いに苦しむことになります。
 ようやく夢の世界を脱したものの、既に魘夢は汽車と一体化。内部の二百人の乗客を守りつつ魘夢を倒すという困難な戦いを、何とか炭治郎たちはやり遂げたのですが……

 これはこれで実に見応えがある戦いだったのですが、しかし少々残念な点が一つ。それは炭治郎のいわば上官としてこの戦いに加わっていた、鬼殺隊最強の九人である「柱」の一人、炎柱・煉獄杏寿郎が、その全力を発揮していないことであります。
 その奇抜なビジュアルと言動で、登場しただけで強烈なインパクトを残す杏寿郎。しかし車内では早速魘夢の術中に落ち、その後は的確な指示で炭治郎たちを動かし、見事二百人の乗客を守り切ったものの、やはりもっと活躍して欲しかった――と思いきや!

 死闘の末にほとんど力を使い果たした炭治郎に突如襲いかかる影と、それを切り裂く炎。鬼殺隊抹殺に現れた上弦の参・猗窩座が炭治郎を狙い、そして杏寿郎に阻まれたのです。
 下弦とは桁外れの戦闘力を持ち、かつて幾人もの柱を屠ったという猗窩座。弱い者を見下し命を奪おうとする猗窩座に対し、炭治郎の強さを認める杏寿郎がついにその全力を見せることに……!


 この巻のサブタイトルは「上弦の力・柱の力」。いわば両陣営でのトップクラスの実力者同士の戦い――炭治郎たちとは一段も二段も上の者たちが、ここで激突することになります。
 凄まじい速度で驚異的な破壊力の拳を繰り出す猗窩座に一歩も引かぬ杏寿郎。その戦いは、野性の男・伊之助ですら(いや野性の男だからこそ)身動きを許さぬものであります。

 しかし哀しいかな、どれだけ猗窩座に痛撃を与えようとも、鬼の――それも上弦の鬼の再生力は尋常ではありません。死力を尽くした戦いの果て、唯一の勝機を見出した杏寿郎の見せた行動は、そしてそれがもたらした先にあるものは……
 この先は是非とも作品に当たっていただきたいので詳細は伏せさせていただきますが、ここで描かれたものは、杏寿郎にとっての強さ、人間としての強さと言うべきものにほかならないでしょう。

 猗窩座の強さが相手を傷つけ、叩き潰す――その一方で、己が認めた強者である杏寿郎を鬼にスカウトしようとする奇妙な律儀さもあるのですが――ものであるのに対し、杏寿郎の強さは誰かを守ろうとする心から生まれる力。
 それこそが圧倒的に不利な状況下においても杏寿郎が、そして炭治郎たちが鬼に戦いを挑む原動力であり、同時に鬼殺隊員の資格と言うべきものなのでしょう。
(かつて真っ先に炭治郎と禰豆子の処刑を主張した杏寿郎が、二人を認める言葉にグッとくる……)

 もちろん、一人の強さには限界があるかもしれません。しかしその強さは、強くあろうとする心は、人から人に受け継がれ、さらなる強さを生み出す――杏寿郎の言葉は、それを力強く語るのであります。
 そしてそれを真っ先に受け止めたのが、人の心というものに疎かった伊之助だというのがまた泣かせるではありませんか。

 その後も様々な波紋を残した杏寿郎ですが、しかし彼の勇姿は、言葉は、炭治郎たちはもちろんのこと、煉獄家の人の心をも必ず動かす――そう信じられるのであります。

(しかし、そんな感動的な展開の直後に、間髪入れずに包丁を振りかざす37歳を投入してくるという鬼のような緩急のつけぶりもまた、本作の真骨頂でしょう)


 そして戦いは新章へ突入します。メイクに宝石ジャラジャラの傲岸不遜なマッチョという、これまたキャラの立ちすぎた派手柱――いや音柱・宇髄天元(何と元忍び)とともに炭治郎・善逸・伊之助が向かうのは、何と色街!

 およそ彼らには似合わぬ場で炭治郎たち三人を待つ任務は――何となく予想が付いてしまうのですが、さてどうなることか。またもやとんでもない展開になりそうな雲行きであります。


『鬼滅の刃』第8巻(吾峠呼世晴 集英社少年ジャンプコミックス) Amazon
鬼滅の刃 8 (ジャンプコミックス)


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2017.10.12

玉井雪雄『本阿弥ストラット』第2巻 落ちこぼれチームのレース始まる!?

 最近は時代漫画家としての活躍が目立つ作者の新作もこれで第2巻。本阿弥光悦の玄孫・本阿弥光健を中心に据え、全く先の読めない形で始まった物語も、新酒番船を巡るレースという明確な目的が設定されたものの――そこに至るまでの道はまだまだ波瀾万丈であります。

 女郎屋の代金を踏み倒したために、人買い商人の奴隷船に叩き売られた光健。彼と一緒に閉じ込められていたのは、あらゆる共同体から捨てられて人別を失い、自分たちも希望や気力を失った「棄人」たちのみという最低最悪の状況でしたが……
 しかし自分の「目利き」に絶対の自信を持つ彼は、その力で棄人たちを奮起させ――その過程で想像外の出来事も多々あったものの――人買い商人一味から棄人たちを解放したのでした。

 ところが物語はここから意外な方向に向かいます。棄人の一人・とっつぁん――かつては凄腕の船頭として知られた男・桐下は、棄人たちを率いて、新酒番船に参戦することを宣言したのであります。

 この新酒番船とは、一言でいえば新酒の輸送レース。毎年、上方の新酒を積んだ廻船を大坂や西宮の問屋14軒がそれぞれ仕立て、西宮-江戸間の競争を行ったものです。
 通常で5日ほど、最高記録は2日半という通常では考えられない過酷なこのレースは、それだけに海の男たちの誇りと技術の粋を結集した一大イベント。どうやら本作では裏の顔もあったようですがそれはさておき……

 しかし、桐下を除けばド素人だらけの面子でこのレースに参戦するのは無謀の一言。そもそも、参加のためには参加権が必要で――というわけで桐下と光健は、かつて桐下を裏切り、全てを奪ってのし上がった男が作った廻船問屋・海老屋を最初のターゲットにすることになります。
 その跡取りの器を見極め、揺さぶりをかける光健ですが、それが思わぬ結果をもたらすことに……
(ちなみにここで桐下の後ろ盾になるのが、史実の上でも色々と曰くのある兵庫の北風家なのが実に面白い)


 と、第1巻の時点では人買い船の上が舞台と、全く先が読めなかった本作ですが、この巻ではだいぶその向かう先が見えてきた印象があります。
 それは言うなれば落ちこぼれチームもの――世間からはみ出した連中が、能力的にも立場的にも圧倒的に上の相手に、特技とチームワークで立ち向かっていくという、スポーツものなどによくあるパターンであります。

 しかし時代劇ではほとんど記憶にないこのパターンを、このような形でやってしまうとは――と大いに驚かされるのですが、本作の面白さはそれだけに留まりません。
 これがスポーツものであればスカウトマンでありコーチ役ともいえる光健――しかし第1巻の紹介でも触れたように、彼が行うのはあくまでも人物の器を「目利き」すること。その先、その器を相手がどう使うかまでは、彼のコントロールするところではないのです。

 この巻でも、海老屋の息子たちを彼が目利きしたことがきっかけで、とんでもない事態に発展するのですが――そのままならなさが実に面白いとしか言いようがありません。


 何はともあれ、光健も加わった棄人チームも参加して、ついに始まった新酒番船。
 海老屋だけでなく、ほかにも一癖も二癖もありそうな連中が参加したこのレースの行方はどうなるのか、そして光健は仲間たちの、そして自分自身の目利きをすることができるのか……

 いよいよ物語が走り出した今、その向かう先が楽しみでなりません。


『本阿弥ストラット』第2巻(玉井雪雄 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon
本阿弥ストラット(2) (ヤンマガKCスペシャル)


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2017.10.11

ほおのきソラ『戦国ヴァンプ』第5巻  急転直下、物語の行方は……

 現代からタイムスリップした女子高生・ひさきが出会った織田信長は吸血鬼だった――という奇想天外歴史漫画もいよいよクライマックス。入れ替わり、一人二役と史実との対応も混沌としてきた中、信長たちの運命を操るある悪意の存在とは……

 幼馴染みのはじめとともに戦国時代にタイムスリップし、吸血鬼の王たる三好長慶に庇護されたことから、思わぬ運命に投げ込まれることになったひさき。
 成り行きから長慶の股肱であった松永久秀と名乗ることとなった彼女は、彼女にぞっこんの信長とともに戦乱を収めようとするのですが、その最中、密かに惹かれ合っていた松永長頼は戦火に消えることに……

 という展開の本作、ここでネタバレまじりにこの巻冒頭の人物関係を整理すれば――
・ひさき→松永久秀
・織田信長(吸血鬼)
・豊臣秀吉(人狼)
・はじめ→徳川家康(本物は死亡)
・三好長慶→果心居士(死を装って改名)
・松永久秀(吸血鬼ハンター)
・松永長頼→明智光秀(死を装って改名)
と、何とも大変な状況であります。

 果心と真・久秀を除けば全ての矢印がひさきに向いているこの状況、ひさきの動向で天下の行方が決まる! と言いたいところですが、しかし意外な人物が、登場人物ほとんど全ての運命を左右していくことになります。
 その名は三好義継――吸血鬼と人間の間の子であり、真・久秀に一族を全て殺された三好一族の一人。彼は、復讐のため吸血鬼に関わる者たち――特に信長を苦しめるために、密かに暗躍を始めることになるのです。


 ここから物語は急展開、またたく間に信長の将軍義昭擁立から信長包囲網、浅井家滅亡から比叡山焼き討ち、そして本能寺へ――と歴史は突き進んでいくことになります。
 そもそも本作のスタートは1559年の信長上洛、この巻の冒頭で光秀(実は長頼)が信長に仕官して本能寺とくれば、1567年頃から1582年まで約15年間を一気に辿ったことなりますが――まあこの辺りは、異分子の闖入によって歴史の流れが加速したと思いましょう。
(吸血鬼だから年取らない、ということもあるかもしれませんが……)

 その辺りは目を瞑るとして、個人的に大いに引っかかってしまったのは、上で述べたように、この歴史の流れの大半が、ほとんどただ一人の登場人物――三好義継の手によって操られたという点であります。
 いや、違和感を感じたのは義継だから、というわけではなく、たった一人の思惑によって登場人物たちが右往左往し、歴史が動かされていったため。それが(厳しい言い方をすれば)物語の都合によるものを濃厚に感じさせるとすれば、なおさらであります。

 さらに言ってしまえばこの歴史の中で、主人公たるひさきの存在が、争いの火種役以上のものになっていないのが口惜しい。
 もちろん、これまでの物語で彼女は彼女なりの決意を固めてはいるのですが、しかしこの急展開の中ではその結果が見えない――また厳しいことを言えば、何も成長していないのが残念なのです(というか終盤の出番は……)。


 本能寺とくればわかるように、本作はこの第5巻にて完結。しかし上で触れたように、物語の流れはかなり性急であります。
 この辺りの事情はわかりませんが、これだけ急がなければ、あるいはこの辺りの印象は大きく変わったかもしれません。
 何はともあれ、前の巻まではその歴史アレンジぶりがなかなか楽しかっただけに(服部半蔵や濃姫など、味のあるキャラもいただけに)、この最終巻の展開は、何とも勿体なく感じられた次第です。

『戦国ヴァンプ』第5巻(ほおのきソラ 講談社KCx(ARIA)) Amazon
戦国ヴァンプ(5) (KCx)


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2017.10.08

『お江戸ねこぱんち 赤とんぼ編』(その二)

 『お江戸ねこぱんち』誌、リニューアル第三弾の作品紹介の後編であります。今回もなかなかバラエティに富んだ作品が並びます。

『ねこよめ』(下総國生)
 前号でも印象に残りましたが、今回も絵のうまさという点ではトップクラスの作者による本作は、物語の点でも印象に残る佳品であります。

 子供の頃から出入りしていた屋敷で、木から落ち掛けた猫を助けた植木職人の七蔵。翌朝、彼が一人暮らす長屋で目覚めてみれば、見覚えのない美しい娘が家事をしていたのであります。
 自分は助けてもらった猫の玉だと名乗る彼女の言葉に半信半疑でありつつも、いつしか惹かれていく七蔵ですが……

 この雑誌にはしばしば登場しますが、猫が美女に化けて恩返しにやってくるなどということは、現実世界ではあり得ないお話であります。七蔵もそれを十分に理解した上で、玉が最近姿を見せない屋敷の一人娘と睨み、敢えて突き放すのですが――そこからの一ひねりが、もの悲しくも何とも切ない。
 七蔵の視点からすっぽりと抜け落ちていた存在が悲しくも大きな意味を持って立ち上がってくる結末を読んでから、もう一度タイトルページを見れば、その切なさがさらに強く立ち上がってくる――そんな作品であります。


『のら赤』(桐村海丸)
 すっかり定着した感のある、遊び人の赤助ののんべんだらりとした日常を描くシリーズである本作。しかし、今回描かれるのはなんと赤助の過去であります。

 実は歴とした武士、虹藤家の五男坊だった赤助。その頃から変わらず、のら猫のようにあっちこっちにほっつき歩いていた赤助ですが、ある日、家が藩命で解散(という表現はどうなのかしら)することになって……

 切ない物語も、さらりと良い意味で軽く描く本シリーズらしく、今回も良い意味で物語があるようなないようなエピソードであります。
 そんな中で、赤助と他家に養子に出る兄との会話、そして現在、赤助を可愛がる養父の言葉に、何とも言えぬ味わいがあります。赤助はこれまでも、これからも変わらないのだろうな――そんなことを苦笑まじりに考えさせられるお話。


『猫鬼の死にぞこない』(晏芸嘉三)
 『物見の文士』シリーズを手がけてきた作者の新作は、一種の変身ヒーローもの(!?)とも言うべき異形の主人公の活躍を描く物語の開幕編であります。

 半年前、任務中に猫を助けて爆発に巻き込まれ、片手片足が不具となった元隠密・彪真。若隠居状態の暮らしを退屈混じりに過ごす彪真ですが、そんな彼には不可解な記憶がありました。
 爆発の直後、本来であればとても助からないはずの深手を負っていた彪真。そんな彼の前に現れた猫鬼を名乗る美女・芙蓉は彼にしたのは……

 そんなある日、近所の子供を襲う謎の怪物。子供を救うため、怪物と対峙して窮地に陥った彪馬の中で、異形の力が目覚めることになります。

 突然現れた怪物の正体は、そしてその秘密をも知るらしい芙蓉は何者なのか――第1話ということもあって、冷静に考えるとわからないことだらけの今回。
 それでも、クライマックスで彪馬が見せる姿――異形でありつつも、それでいて人から離れないそのビジュアルなどなかなか格好良く、今後の展開に期待させられます。本誌には珍しい方向性の作品だけに特に……


 というわけで最近では一番の充実度が感じられた今号の『お江戸ねこぱんち』。
 次号の発売は2月1日とのことで少々先ではありますが、逆にいえばそれだけ待てば次の号が読めるということ。その日まで楽しみに待ちたいと思います。


『お江戸ねこぱんち 赤とんぼ編』(少年画報社にゃんCOMI廉価版コミック) Amazon
お江戸ねこぱんち赤とんぼ編 (にゃんCOMI廉価版コミック)


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2017.10.07

『お江戸ねこぱんち 赤とんぼ編』(その一)

 めでたくリニューアル第三弾を迎えた『お江戸ねこぱんち』誌。今回も数多くの作品が収録されていますが、ファンタジー色の強い作品も少なからず含まれているのが嬉しいところであります。ファンタジーも非ファンタジーも魅力的な作品の多い今回ですが、特に印象に残った作品を取り上げます。

『平賀源内の猫』(栗城祥子)
 かの平賀源内とその身の回りをする赤毛の少女・文緒、猫の「えれきてる」が様々な事件に挑む連作――今回は源内とは旧知の大奥御年寄・玉沢の強引な依頼で、源内と文緒は大奥に潜入捜査をする羽目になります。
 その依頼とは、大奥の薬棚から盗まれた毒薬とその犯人捜し。周囲から赤毛をからかわれながらも、えれきてるに助けられて大奥で働く文緒ですが……

 正直に申し上げれば、本作には時代ものとして見ればかなり乱暴なところがあります(文緒が源内への人質として大奥に連れ去られ、源内が謎を解けなければ大奥に一生奉公させられるという設定はさすがに……)。
 それでも本作が面白いのは、この大奥での毒薬探しというメインエピソードに、源内が売り出そうとしていたびいどろの鏡、文緒のコンプレックス、そして玉沢の過去と人生哲学といった要素が有機的に結びついて、一つの物語として成立しているからでしょう。前回同様、話作りの巧みさが光る作品です。


『猫ノ目夜話』(ほしのなつみ)
 気がつけば『お江戸猫ぱんち』最古参の本作。剣術道場の跡取りの青年・榛馬と黒猫の夜刀、眼帯(包帯)美少女の輝久のトリオのもののけ退治が今回も描かれることになります。

 化け猫が出没するという噂の空き家にやってきた二人と一匹。しかし夜刀が早速謎の妖に攫われ、後を追った二人は長屋の地下の異空間で、怪事の正体と出会うことに……

 と、書きようによってはかなり怖い話になりそうな展開ですが、登場するもののけがまた実に可愛い。
 結末は予想できるものの、妖の正体にも一ひねりあり、安定の一作です
(ただ、化け猫屋敷ネタは以前にもあったような……)


『猫と召しませ古着市』(須田翔子)
 柳原土手に立ち並ぶ古着屋の中で、猫の紬と一緒に店を続けてきたお染婆さん。いよいよ明日には店を畳もうという彼女が出会ったのは、奉公先のお嬢さんの着物を汚して怒られ、泣いていた少女で……

 と、古着をテーマにした人情ものである本作。満足なものを着ることができず、穴だらけの着物を着た少女に、古着の良さを教えるとお染婆さんがツギを当てて――という物語自体はシンプルなのですが、古着一つ一つに込められた元の持ち主の物語が、少女に元気を与えるという展開が気持ちいい。

 何よりも、穴だらけだった着物が、色とりどりの様々な端切れが当てられた――様々な人々の想いが詰まった着物になっていく様を、ビジュアルとして描いてみせるのが実に良いのです。
 これは漫画でしか見せられない物語、漫画だからこその表現と言うべきでしょう。

 柳原は今で言えば万世橋から浅草橋までの辺り。江戸時代は本作のように古着屋が並んでいたそこが、今では繊維街となっているという事実の陰には、本作のような物語があったのかもしれないと思えば、何だか楽しくなってくるではありませんか。


『お江戸むらさき料理帖』(さかきしん)
 嫁入りすることになったが花嫁修業は全くのキヨ。家代々のならわしで、母からお目付役の猫・むらさきをつけられた彼女ですが、突然むらさきが喋りだし……

 漫画・小説を問わず最近では定番の料理ものの本作ですが、ユニークなのは主人公に料理指南をするのが喋る猫であること。
 わずか8ページの作品のため、内容的にはあっさりとしていますが、絵柄の可愛らしさもあって、妙に印象に残る作品です。


 今回はかなりの充実ぶりのため、残りは次回紹介させていただきます。


『お江戸ねこぱんち 赤とんぼ編』(少年画報社にゃんCOMI廉価版コミック) Amazon
お江戸ねこぱんち赤とんぼ編 (にゃんCOMI廉価版コミック)


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2017.10.06

一峰大二『風雲ライオン丸』 巧みなチョイスによる名コミカライズ

 ピープロ作品のコミカライズはこの人、とも言うべき一峰大二による漫画版『風雲ライオン丸』であります。「冒険王」誌及び「別冊冒険王映画テレビマガジン」誌に掲載されたもの(及びサンケイ新聞に連載された若林不二吾版)を収録した角川書店版の単行本をベースに紹介いたします。

 マントルゴッドの地下帝国に兄を殺された弾獅子丸。彼は兄の遺言を胸に、背のロケット噴射でライオン丸に変身、父を探して旅する志乃と三吉姉弟とともに、マントル一族に戦いを挑む……

 というTV版の内容は基本的にそのままに描かれるこの漫画版二作。
 どちらも月刊誌で半年間の連載ということで各6話構成、それぞれ内容はパラレルということも考慮に入れても、全25話のTV版の全話再現は当然不可能なのですが――しかし巧みなエピソードチョイスで、TV版とも独立した作品として楽しめるのはさすがと言うべきでしょう。

 「冒険王」版で描かれるのは、バラチとネズマ(TV版では第1・2話(以下同))/シャゴン(第4話)/ズク(第10話)/ザグロ(第11話)/ズガング(第18話)/トビゲラ(第23話)。
 一方、「別冊冒険王」版ではネズマ(第1話)/ガー(第5話)/ガン(第12話)/ゾリラ(第15話)/ヤゴ(第16話)/トビゲラ(第23話)と、冒頭とラストは仕方がないとはいえ(しかし何故トビゲラかぶり……)、結果としてバラエティに富んだ内容であります。

 この2バージョンのうち、「別冊冒険王」版は、一話あたり約20ページと少なめなこともあり、内容的にはかなりシンプル(黒影豹馬も登場しない)なのですが、第4回までの冒頭8ページを飾るカラーページの迫力が素晴らしい。
 特に第1回の真っ赤な夕日を背景に荒野を走る幌馬車、第2回のガーの鱗粉で溶けていく森、第3回のガンの弾丸で溶かされる老人と家など、凄まじいインパクトであります。

 そしてシンプルと言いつつも、ヤゴの回はTV版を相当忠実に再現。掟のために死んでいく忍者たちを目の当たりにしつつ、恥ずかしくても苦しくても生きていくことが大事なんだと語る獅子丸の姿は、TV版同様、強く印象に残ります。


 一方、「冒険王」版は、一話あたり約30から40ページということもあり、各回の物語の充実度はかなりのもの。内容的にはドラマよりも怪人との攻防戦がメインなのですが、そのアクション描写が実にいい。
 ロケット噴射で軽快な立体機動アクションを見せる獅子丸、岩をぶち破りながら怪人二人をまとめて叩き斬るライオン丸など、TV版では技術的な制約で描けなかった描写が、きっちり格好良いのです(あの微妙だったズガングの逆立ち鎖鎌まで……)。

 その迫力ある描写が最大限に発揮された場面の一つが、ブラックジャガー(漫画版ではジャガーマン)の最期でしょう。TV版同様、ザグロに挑んで倒されるのですが――こちらでは矛のような巨大な刃が脳天に半ばまで食い込んだ上に、散弾攻撃で五体バラバラになるというインパクト満点の最期。
 いやはや、これを読んだ後でTV版を観ると、ずいぶんあっさりと感じられてしまうのが恐ろしいところです。

 そしてもう一つ、この漫画版ならではの迫力ある展開が楽しめるのは最終回であります。
 ついに地下帝国の本拠に突入し、マントルゴッドと対決する獅子丸。宙を舞いながらマントルゴッドの火球を躱す、次第に追い詰められていく獅子丸に、囚われの謎の男の助言で春の短刀と冬の太刀を合わせればほとばしる稲妻!

 そして稲妻による洞窟の崩落を利用してのライオン千じん落としがガーンとモロにマントルゴッドの顔面に炸裂! これ、映像でも観たかった! と言いたくなる、実に痛快なフィニッシュなのです。
 ちなみに囚われの謎の男は志乃と三吉の父。こちらではマントルの秘密を隠していたために捕らえられていたということで
悪魔に魂を売ってはいないようであります。


 この最終回の内容や上記のチョイスからもわかるように、実はこの一峰版はTV版の曇りエピソードをほとんど外しているために、TV版とはまた異なる印象になっているのは事実ではあります。
 それでも『風雲ライオン丸』としての独特の味わいはしっかり残っているのはのは、コミカライズの名手ならではの妙技でしょう。

 TV版の破天荒な世界観と作者の野太い描線がマッチした、名コミカライズであります。


『風雲ライオン丸』(一峰大二 カドカワデジタルコミックス) Amazon
風雲ライオン丸 (カドカワデジタルコミックス)


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2017.10.05

北崎拓『ますらお 秘本義経記 波弦、屋島』第2巻 義経の正室、そのキャラは……

 前の巻の発売から丁度2年が経ってしまいましたが、『ますらお 秘本義経記』の約20年ぶりの続編の第2巻であります。三日平氏の乱平定に当たる義経に単身襲いかかる那須与一との戦い。そしてその先に義経の前に現れる思わぬ人物とは……

 平氏との戦いが続く中、義経の前に現れた男・那須与一。相手の心の中を察知することができる異形の右目と人並み優れた弓矢の腕を持つ彼は、かつて淡い想いを交わし合い、己に「与一」の名を与えてくれた那須家の姫に報いるため、義経を狙っていたのであります。

 共に武士として卓越した力を持ちつつも、心の中に埋めようもない虚無を抱え、憑かれたように戦う二人。しかし執念という点では与一が勝ったか、さしもの義経もあわやというところまで追いつめられるのですが……
 それでも何とか窮地を脱した義経ですが、しかしその先に待つのは、彼の思いも寄らぬ事態。都落ちした平氏を追わんと逸る義経を阻むように、貴族たちは彼に検非違使の位を与え、都を守護させんとしたのです。

 ……この検非違使任官は、後に頼朝が義経を難詰する理由の一つとなったことで後世に知られる出来事。それを本作においては、巷説とはまた異なる、奇怪な政治力学にその原因を求めます。
 ある意味極めて純粋な義経には思いも寄らぬような周囲の動きに翻弄される姿は、どこまでも痛ましいのですが(そしてそこでどうしようもないヤンデレぶりを発揮する頼朝)――それが新たな事態を招くことになります。

 義経にいわば足枷として頼朝が打った策。それは婚姻――そう、義経を有力武士の娘と娶せることによって、彼を縛り付けようというのであります。
 そしてここで初登場となるのが、後に義経の正室・郷御前と呼ばれる河越重頼の娘なのですが――冷静に考えると、フィクションにおいて義経の正室にスポットが当たるのは実はかなり珍しいように思います。

 何しろ義経には静御前がいる。特に本作においては、その物語の始まりから、義経と静は運命を共にしてきたのですから、正室の出番がなくとも不思議はありません。
 しかし本作は、その正室をきっちりと登場させてみせるのです。それもある意味、静に匹敵するポテンシャルを持つ存在として。


 本作で描かれる義経の正室、史実では本名不明となっているその名は萌子。
 当時では不美人の象徴であるくせっ毛を持ち、楽しみは絵を描くこととという彼女は、降って沸いたような義経との縁談に驚きつつも、初めて目の当たりにした義経の「たふとし」外見にぼうっっとなって……

 いやはや、登場する作品を間違えたのではないか、と思ってしまうような萌子のキャラクター(にしても名前の直球ぶりがすごい)。殺伐とした人間関係が続く本作において、明らかに異彩を放つ人物ですが――しかし彼女が現れたことで生じる波乱が、思わぬアクセントとして作用するのであります。

 何しろ義経は、戦では軍神の化身のような活躍ぶりを見せるものの、普段は人情――特に女心の機微にはまったく疎い青年。そんな彼ゆえに、萌子の輿入れも意外なほどあっさりと受け入れてしまうのですが……
 それで収まるはずがないのがもちろん静。今回、義経との間の意外な事情(この辺りの事情は実はヘビーなのですが……)も明らかになり、思わぬ三角関係が勃発することになるのであります。

 よく考えてみれば作者は恋愛ものの名手、むしろ本作の方が異色作なのですが、しかしここでこうした変化球を織り交ぜてくるとは、予想だにしていませんでした。
 しかしこれもおそらくは、いや間違いなく、『ますらお』という義経の物語を描く上で不可欠なものなのでしょう。そのことは、萌子の思わぬ能力が招く義経との交感の姿を見れば、十分感じ取れるのではないでしょうか。

 思えば萌子、すなわち郷御前は、静よりも長く、その最期の刻まで義経と行動を共にした人物。その彼女をあえて登場させる以上、ただの賑やかしで終わるはずもない――これまでの物語を思い返せば、そう思えるのです。


 さて、そんな思わぬ人物の登場でちょっと後ろに下がった感のある与一ですが、後半では意外な人物と絡むことになります。
 『ますらお』無印からの時間の流れを感じさせるその人物――いささかステロタイプにも見えますが――と与一との出会いが、彼だけでなく、義経の今後にも影響を及ぼすであろうことは、想像に難くありません。

 いよいよ佳境の物語、続巻はあまり待たせないで欲しい――そう切に願う次第です。


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2017.10.03

伊藤勢『天竺熱風録』第2巻 熱い大地を行く混蛋(バカ)二人!

 田中芳樹が唐代に実在した快男児を主人公に描いた物語を、伊藤勢が独自の視点で漫画化した第2巻であります。摩伽陀国を簒奪した暴君に理不尽に仲間ともども捕らえられた唐の外交使節・王玄策の冒険は、いよいよここから本格的に始まることになります。

 唐の外交使節団の正史として、久方ぶりに摩伽陀国を訪れた王玄策。しかし摩伽陀国の王・ハルシャ王は謎めいた死を遂げ、その後を継いだと称するアルジュナの命により、玄策と使節団数十名は、無法にも捕らえられ、獄に繋がれることとなります。
 牢獄の中で出会った怪老人・那羅延娑婆寐から、抜け道の存在を教えられる玄策。しかしそこから全員が抜け出しても逃げ切れるはずもありません。

 かくて悩んだ末に、玄策は自分と副使の蒋師仁の二人のみで密かに牢を脱出し、ネパール・カトマンドゥからの援兵を連れて悪王を討つという道を選ぶのですが……


 というわけで、牢から脱出したところから始まるこの第2巻。ひとまずは自由の身となった玄策と師仁ですが、しかしその自由はあくまでもかりそめのもの。自分を信じて送り出してくれた仲間たちを救い出すためのものであります。
 そのためには一刻も早く摩伽陀国を脱出しなければならないのですが――しかし早くも襲いかかるオリジナル展開!

 折悪しく、アルジュナ配下の奇怪な仮面の怪人に見つかってしまった二人。ここで見つかれば全てが水の泡と、怪人に挑む二人ですが、魔神めいた複数の腕を持つ怪人に多大な苦戦を強いられることに……
 上で述べたようにこの辺りはオリジナル展開なのですが、ビジュアルといい正体といい、いかにも伊藤勢らしい趣味の怪人と、これまた伊藤勢らしいダイナミックな活劇が実に楽しいのであります。

 そしてそんな強敵を辛くも撃破したものの一文無しの二人。先立つものがなければと、覚悟を決めてある屋敷に潜入してみれば、そこは……
 と、ここで描かれるのは、おそらくは前半の山場であろう、玄策と先王の妹・ラージャシュリー、そして彼女に仕える少女・ヤスミナとの出会いであります。

 民に慕われ、ひとまずは身の安全を保証されながらも、完全に軟禁状態におかれ、本人は視力を失ったラージャシュリー。
 一歩間違えればアルジュナ以上に摩伽陀国にとっては害となりかねぬ玄策の考えを見抜きつつも、あえて力を貸すラージャシュリーの助けで、なんとか玄策と師仁は城を脱出しようとするのですが……

 この辺りの展開はほぼ原作同様ではありますが、しかし玄策とラージャシュリーの間で語られる内容――摩伽陀国を巡る状況やアルジュナの正体を巡る会話のディテールの細かさは、これはこの漫画版ならではの内容と言うべきでしょうか。

 そして漫画版ならではといえば、この後に描かれる玄策たちの王都・曲女城脱出劇もまた、実にそれらしい。
 ヤスミナの先導で城門に向かう二人。城兵に誰何されて危機一髪、というところで彼らを助けたのは――というのも原作通りですが、ここでの助っ人たちの活躍ぶり、というよりも彼らの造形が実にまたイイのであります。
(きっといつか出て来るだろうと思いきや、やっぱりスターシステムで登場した彼女)

 イイといえば何よりもヤスミナもいい。外見は凛とした美人ながらも、内面は威勢と気風の良いという、いかにも伊藤勢らしいヒロインぶりで、冷静に考えれば出番はそれほど多くないのですが、実に印象的なキャラクターであります。


 そして彼女たちの想いを受けて、男たちは荒野に足を踏み出します。その中で「天竺」とそこに住む人々への、己の想いを確かめつつ……(というか、このあたりは完全に作者の想いだとは思いますが)

 そんな想いを抱きつつも、仲間たちを救うため、無謀というも愚かな絶望的な任務に挑む混蛋(バカ)二人。
 ラストには何とも気になる新キャラクターが登場し、まだまだ波乱含み、いや波乱しかない物語は続きます。


『天竺熱風録』第2巻(伊藤勢&田中芳樹 白泉社ヤングアニマルコミックス) Amazon
天竺熱風録 2 (ヤングアニマルコミックス)


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