2017.08.17

『コミック乱ツインズ』2017年9月号(その二)

 「乱ツインズ」誌9月号の紹介、後半戦であります。

『仕掛人 藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)
 今回から『梅安蟻地獄』がスタート。往診の帰りに凄まじい殺気を放つ侍に襲われ、背後を探る梅安。自分が人違いで襲われたことを知った彼は、その相手が山崎宗伯なる男であること、そして町人姿のその兄が伊豆屋長兵衛という豪商であることを探り出します。

 そしていかなる因縁か、自分に対して長兵衛の仕掛けの依頼が回ってきたことをきっかけに、宗伯を狙う侍に接近する梅安。そして侍の名は……

 というわけで、彦次郎に並ぶ梅安の親友かつ「仕事」仲間となる小杉十五郎がついに登場。どこか哀しげな目をした好漢といった印象のその姿は、いかにもこの作画者らしいビジュアルであります。
 しかし本作の場合、ちょっと彦さんとかぶってるような気もするのですが――何はともあれ、この先の彼の活躍に期待であります。


『エイトドッグス 忍法八犬伝』(山口譲司&山田風太郎)
 来月再来月と単行本が連続刊行される本作、里見の八犬士と服部のくノ一の死闘もいよいよ決着間近であります。
 里見家が八玉を将軍に献上する時――すなわち里見家取り潰しの時が間近に迫る中、本多佐渡守邸では、半蔵やくノ一たちを巻き込んで、歌舞伎踊りの一座による乱痴気騒ぎが繰り広げられて……

 と、ある意味非常に本作らしいバトルステージで行われる最後の戦い。己の忍法を繰り出し、そして己の命を燃やす角太郎に、壮助に、さしもの服部半蔵も追い詰められることになります。
 ちなみに本作の半蔵には原作とも史実とも異なる展開が待っているのですが、しかしその一方で原作以上に奮戦したイメージがあるのが面白いところであります。すっとぼけた八犬士との対比でしょうか。

 そして残るは敵味方一人ずつ。最後の戦いの行方は……


『鬼切丸伝』(楠桂)
 信長鬼の血肉を喰らって死後に鬼と化した武将たちの死闘が描かれる鬼神転生編も三話目。各地で暴走する鬼たちに戦いを挑んだ鈴鹿と鬼切丸の少年ですが、通常の鬼とは大きく異なる力と妄念を持つ鬼四天王に大苦戦して……

 と、今回描かれるのは、鬼切丸の少年vs丹羽長秀、鈴鹿vs豊臣秀吉・前田利家のバトル。死してなお秀吉に従う利家、秀吉に強い怨恨を抱く長秀、女人に自分の子を生ませることに執着する秀吉――と、最後だけベクトルが異なりますが、しかし鬼と化しても、いや化したからこそ生前の執着が剥き出しとなった彼らの姿は、これまでの鬼以上に印象に残ります。

 その中でも最もインパクトがあるのはやはり秀吉。こともあろうに鈴鹿の着物を引っぺがし、何だか別の作品みたいな台詞を吐いて襲いかかりますが――しかし彼女も鬼の中の鬼。
 鬼同士の壮絶な潰し合いの前には、さすがに少年の影も霞みがちですが、さてこの潰し合い、どこまで続くのか……


 その他、『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)は、今月も伊達軍vsと佐竹義重らの連合軍の死闘が続く中、景綱が一世一代の(?)大活躍。
 また、『鬼役』(橋本孤蔵&坂岡真)は、こちらもまだまだ家慶の日光社参の大行列が続き、次々と騒動が勃発。その中で八瀬童子の猿彦、八王子千人同心の松岡と、これまで物語に登場したキャラクターが再登場して主人公を支えるのも、盛り上がります。


 と、いつにも増して読みどころの多いこの9月号でありました。


『コミック乱ツインズ』2017年9月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年9月号 [雑誌]


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2017.08.15

樹なつみ『一の食卓』第5巻 斎藤一の誕生、そして物語は再び明治へ

 明治時代、築地の外国人居留地のパン屋に身を寄せる藤田五郎(斎藤一)と、パン職人の少女・明を主人公に描く本作、この第5巻の前半で描かれるのは、前の巻から引き続き、新選組に加わる前の斎藤の物語。明治の彼に至る前に何があったのか――その一端が描かれることになります。

 築地のパン屋・フェリパン舎に、ある日ふらりと現れた藤田。今は新政府の密偵として働く彼は、フェリパン舎を起点にして様々な事件を解決、一方、明も謎めいた藤田に惹かれつつ、パン職人として懸命に奮闘する毎日を送ることに……
 という本作ですが、第4巻のラストから展開しているのは藤田の――すなわち斎藤一の過去編。いや、ここで描かれているのは彼がまだ山口一だった時代、いわば斎藤一誕生編とも言うべき物語であります。


 貧乏御家人の次男坊として鬱屈した毎日を送る山口一は、退屈しのぎに破落戸から賭場の借金の取り立てを請け負い、とある道場に向かうことに。そこで彼は、売り言葉に買い言葉の末に、生意気な少年と立ち会うことになります。

 一方、その頃、山口の父親のもとを訪れる会津藩の人間。実は会津藩の人間であった父親は、不始末から藩を抜け、それを見逃される代わりに会津藩の「草」として御家人となっていたのであります!
 そして会津藩が京都守護職を任じられたことから、新たな「草」として山口家の人間を京都に送り込もうとする藩の意向を受け、父親が白羽の矢を立てたのは……


 フィクションの世界などではすっかりこの時代の有名人ながら、特に新選組参加以前の経歴は今ひとつはっきりしない斎藤一。
 試衛館組とは江戸にいたころから交流がありつつも、浪士組募集には参加せず、京で合流するという少々変わったルートを辿っていたり、そもそもその頃には旗本を斬って江戸から京に逃げていたりと、なかなかドラマチックな前半生であります。

 この江戸編では、その「史実」をベースに、本編ではほとんど完成された人格である――明からは仰ぎ見られる存在である――斎藤の、悩める青年時代を描き出します。
 自分の未来が、居場所が、やるべきことが見いだせず、ただ焦燥感に駆られるばかりの毎日。そんな誰にでも経験のありそうな青春の姿を、本作は瑞々しくも微笑ましく、そして物悲しく描くのであります。

 もちろんそれだけでなく、斎藤の父にに関する伝奇的秘密を絡めることで、その後の斎藤の人生にも関わる物語を垣間見せ、そして件の「旗本斬り」についても、本作ならではの切ないドラマを用意してみせる点など、とにかく物語運びの巧さが光ります。
 江戸編が前後編できっちりと終わるのも、明治の物語を食わず、良い意味の物足りなさを感じさせるという、何とも心憎いところであります。


 そして後半では、再び舞台は明治に戻り、一話完結のスタイルで、明を主人公とする物語が描かれることとなります。
 一つ目のエピソードは、通詞を目指して築地の外国人による英語塾の門を叩いた男装の少女の物語。実家が横浜で外国人相手の商人を営む彼女と意気投合した明ですが、しかしまだまだ夢は遠く……

 「女だてらに」という言葉が、当たり前に使われていたこの時代。明と彼女は、その言葉の対象にされるという共通点を持ちます。
 そんな二人の姿と、それを見守る藤田という構図は、これまで描かれてきた物語の延長線上ではありますが、その一方で、明が決して一人ではない、ということを別の方向から描いた物語と言えるかもしれません。

 そして二つ目のエピソードでは、とある大店から大口の注文が舞い込み、フェリパン舎は他店の職人も加わって大わらわの状況に。
 実は大店の跡取り息子は、藤田のことを知っているようなのですが、藤田は彼のことを無視。そんな中パンに異物が混入して――という大事件が発生して……

 と、ストーリー的にはある程度読めるのですが、明の物語と藤田の物語が平行して描かれ、相互作用することでポジティブな方向に変わっていくのが、実に本作らしい展開であるこのエピソード。
 特に物語冒頭から繰り返し描かれてきた悩みを、今回の経験を踏まえて明が乗り越える姿が、実に気持ちの良い展開であります。


 というわけで江戸から明治に戻って続く物語。いまだ遠景ではありますが廃刀令や不平士族の動きも描かれ、藤田と明の関係性に加え、この時代のこれからがそこにどのように絡むのか、気になるところであります。


『一の食卓』第5巻(樹なつみ 白泉社花とゆめCOMICS) Amazon
一の食卓 5 (花とゆめCOMICS)


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2017.08.11

武村勇治『天威無法 武蔵坊弁慶』第9巻 一気呵成の激闘の末に選ばれた道

 六韜により超絶の力を得た者たちによる源平合戦の物語もついにこの巻にて完結。藤原秀衡vs平清盛、そして源義仲vs平教経の決戦を皮切りに、次々と激突する英傑たちの戦いの行方は、そしてその中で弁慶の、義経の、遮那の戦いの意味は……

 日本に混乱をもたらすため、宋国皇帝の命を受けた鬼一法眼により持ち込まれた六韜。それを手にした清盛、秀衡、義仲、教経、後白河法皇、源頼朝は、頼朝を除いてその力に心を蝕まれ、我こそが天下を取らんと激しく相争うこととなります。
 一方、六韜の力を激しく求める義経、そして唯一六韜に抗する力を持つ傀韜の力を持つ弁慶もまた、それぞれの思惑を秘めて六韜の戦いに割って入らんといたします。

 そして積年の因縁がついに爆発した清盛と秀衡の決戦に参戦する二人ですが――その中でついに義経は怨敵・清盛を討って六韜を手にする一方で、弁慶は傀韜の力を暴走させて完全に鬼と化すことに。
 遮那の存在により辛うじて弁慶は力を抑えたものの、その間に六韜の力を得た義経は次々と六韜の持ち主を襲い、兄・頼朝までも手に掛けるのでした。

 かくて、六韜を三本ずつ手にした教経と「頼朝」の間で繰り広げられる源平の合戦。「頼朝」に力を貸すこととなった「義経」と弁慶もまた、その戦いに加わるのですが……


 さて、この巻を手にする前に、どうにも気になってならないことが二つありました。その一つは「あと1冊で全ての物語に――六韜を巡る物語と、弁慶と義経の物語に――決着をつけることができるのか?」ということ。
 そしてもう一つは「決着がつくとして、それは史実の枠内で終わるのか(完全にパラレルな歴史となってしまうのではないか)?」ということであります。

 何しろこの巻の冒頭の時点で六韜の持ち主はほぼ健在、そして史実に照らせば、まだ義仲が挙兵したばかりと、源平の合戦は始まったばかり。その一方で清盛と秀衡が史実にない正面衝突を繰り広げた末に、清盛が義経に討たれるのですから……

 しかしそれは杞憂でありました。実に本作は、この1巻を以てきっちりと完結し、そしてそれは史実の枠の中にほぼ収まっているのですから。(上で述べた秀衡や清盛については、まあ「経過」としてフォロー可能と言うことで……)

 そしてそれだけではありません。本作は壇ノ浦のその先、すなわち、義経と弁慶の物語の「結末」まで描いてみせるのです。
 本作ならではの設定――ふたり義経とも言うべき、義経と遮那の存在にもきっちりと意味を与えてみせた上で。

 もちろん、さすがに物語展開が駆け足となっていることは否めません。ここで描かれる数々の戦い、そして何よりも個々のキャラクターの描写については、もう少し余裕があれば……と思わないでもありません(特に久々に、それも思わぬ「正体」を与えられた上で登場したあのキャラなど勿体ない)。

 しかし、六韜による超常の力のぶつかり合いは、これくらのスピード感が相応しい、とも感じます。その時代もの・歴史もの離れしたパワーの前には、小さな描写の積み重ねはむしろ足かせになりかねない――ただ一気呵成に突き進むことが正解ではないか、と。
 そしてそれはもちろん、これまでの物語の積み重ねがあってこそ描けるものであることも間違いないのですが……

 その一方で本作は、描くべきものは――本作の常に中心にあった弁慶、義経、遮那の物語は――決して省くことなく、きっちりと描き切ってみせたと言うことができます。
 平家打倒という目的は共通しながらも、その背負ったもの、目指すところは大きく異なる三人。そんな彼らが、戦いの先に何を見出すのか、見出すべきなのか――その答えは、間違いなく描かれるべきものでしょう。

 そして本作はそこにはっきりと答えを出しました。地獄のような生の中で、修羅のような戦いの中で、なおも選ぶべき道、人の道を……


 さらにまた、最後の最後で「あっ、そういえば義経は……」と思わせるような展開を用意しているのも実に心憎く、そのダイナミックな結末は、本作に真に相応しいものであったと感じます。

 「天威無法」の名に相応しい、希有壮大にして豪快無比の物語を、最後の最後まで楽しませていただきました。満足、の一言です。


『天威無法 武蔵坊弁慶』第9巻(武村勇治&義凡 小学館クリエイティブヒーローズコミックス) Amazon
天威無法-武蔵坊弁慶(9) 完 (ヒーローズコミックス)


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2017.08.09

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第7巻 走る密室の怪に挑む心の強さ

 単行本累計150万部突破と、既にジャンプ人気作品の一角を占めることとなった『鬼滅の刃』単行本最新巻であります。戦いの傷も癒え、新たな力を手にした炭治郎たちが、「柱」の一人・煉獄杏寿郎とともに挑む戦いの舞台は、何と疾走する列車の中……!

 炭治郎が蜘蛛鬼との死闘の最中に、かつて父が舞ったヒノカミ神楽の記憶から繰り出した火の呼吸。その謎を知る可能性のある「炎柱」の煉獄と会うため、そして新たな任務のため、炭治郎・善逸・伊之助(と禰豆子)は、新たな任務の地に向かうことになります。
 その任務の地とは、鉄道――行方不明者が多発し、鬼殺隊の隊士も次々と消息を絶ったという、鬼の存在が疑われる地だったのであります。

 ヒノカミ神楽も火の呼吸も全く知らないとあっさり煉獄に告げられた炭治郎ですが、鬼の攻撃は、彼らも気づかぬ間に始まっていて……


 というわけで新章の舞台は鉄道。大正時代を舞台としつつ、正直なところそれらしいところはこれまであまりなかった本作ですが、なるほど、鉄道というのはなかなか面白い。

 鉄道=文明開化という印象がありますが、鉄道の敷設が全国に広がり始めたのは明治中頃、日本のほぼ全域に路線網が引かれた(といっても全線合わせて1万キロ未満なのですが)のが明治末期、東京駅開業が大正3年と、鉄道がポピュラーになってきたのは、明治かなり遅くとなります。

 そう考えると炭治郎や伊之助が鉄道を目の前にしてのリアクションもそれなりにアリかと思いますが、いずれにせよ、珍しくもそれなりに作中で好きなように扱える程度には普及してきたという意味で、うまいチョイスだと思います。

 そして動く密室とも言うべき鉄道内で繰り広げられるのは、それにふさわしい奇怪な攻撃。鉄道に巣食った十二鬼月最後の下弦・魘夢の能力は、その名の通り「夢」の中に相手を閉じ込めるというもの。
 さらに、好きな夢を見せるという甘言で仲間に引き入れた人間を用いて、夢の中の炭治郎たちを襲わせるという、陰険に陰険を重ねたような手段であります。
(人が多数集まり、それでいて一定時間外部からの干渉がないという点で、魘夢の能力と鉄道は相性がいいと、ここでも感心)

 かくてそれぞれ夢の中に囚われた炭治郎たち四人ですが――ここでも本作ならではの構成のうまさが光ります。
 まず、ほぼ予想通りというか期待通りにコミカルさ全開で善逸と伊之助の夢を描いておいて、次にほぼ初登場に近い煉獄の夢を通じて彼の過去を描いてみせるのには感心させられました。

 列車内で登場するなり「うまい」連呼で弁当を食いまくるシーンのように「豪快」「空気読まない」印象の強かった煉獄。
 しかしこの夢――過去の中で描かれるのは、彼が柱になった直後の、彼と父との哀しい記憶であり、そしてその中でも弟を鼓舞し、前向きに進もうとする、極めて好もしい人間としての彼の姿なのであります。

 そして炭治郎ですが――物語の冒頭で無惨に奪われた彼の母と弟・妹たちとの平和な暮らしが描かれるというのが、その平穏さ故に、我々読者の精神にもダメージを与えます。
 この手の精神攻撃は(本作においては攻撃準備の時間稼ぎ的な面も大きいものの)、対象に、現実に背を向けて虚構の世界に埋没したいという想いを植え付けるものが大半ですが、これはその中でも最強のものでしょう。

 果たしてその中からどうやって脱出するのか――それを、多分に偶然(とギャグ)の要素を含みつつも、炭治郎の強さ(そして主人公としての資格)の源と言うべき、彼の心の強さを改めて強調しつつ、そして十二分の説得力を以って描くのには唸らされるばかりです。
(この巻の冒頭で、彼が感情を見せない同期の少女に「心の強さ」を語っていたのを考えればなおさら)


 かくて夢から覚醒した炭治郎と仲間たち。ここから始まる主人公サイド五人がそれぞれの特性を発揮しての、変形のチームバトルも盛り上がり(特にこういう時に猛烈に頼もしい伊之助)、一挙に逆転、といきたいところですが――さて、このままうまくいくでしょうか。
 随所に「らしさ」を見せつつも、また本領を発揮していない煉獄の真価も含め、まだまだ油断はできない物語であります。


『鬼滅の刃』第7巻 (吾峠呼世晴 集英社少年ジャンプコミックス) Amazon
鬼滅の刃 7 (ジャンプコミックス)


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2017.08.08

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第6巻 緊迫の裁判と、脱力の特訓と!?

 家族を殺した「鬼」と戦うため、「鬼殺隊」に加わった少年・竈門炭治郎の死闘を描く本作も、めでたく連載一周年を突破しました。今回紹介する第6巻では、その作品世界がより広がる展開が描かれることになります。鬼殺隊最強のメンバー、「柱」の登場によって……

 那田蜘蛛山に潜む鬼との死闘を辛くも生き延びた炭治郎と禰豆子。しかし、「鬼」である禰豆子と、彼女を庇う(そして他の鬼にも哀れみの念を抱く)炭治郎に対し、疑念を抱く者たちにより、二人は鬼殺隊の本部に連行されることになります。

 そこで二人を待つのは、鬼殺隊最強の戦力、鬼側最強の十二鬼月を討つ力を持つ九人――水・蟲・炎・音・恋・岩・霞・蛇・風の流派を代表する「柱」たちであります。
 しかし、炭治郎と禰豆子を襲った最初の悲劇の時から面識を持ち、炭治郎が鬼殺隊に加わるきっかけを作るなど、浅からぬ縁を持つ水柱の冨岡は格別、その他の柱にとっては二人は鬼とそれを庇う異端分子に過ぎません。

 かくて、二人は鬼殺隊柱合裁判にかけられることに……


 主人公が組織に所属する戦士である少年漫画の場合、しばしば登場する、それよりもランクが上の戦士集団の存在。
 彼らは主人公にとっては頼もしい先輩にもあれば乗り越えるべき最強の敵にもなるわけですが――鬼という明確な敵が存在する本作において後者のパターンはないかなと思えば、なるほどこの手があったか、と感心いたします。

 それにしてもこの九人の柱、これまで登場した冨岡と蟲柱のしのぶは普通の人間だった一方で、新登場の面子はビジュアル的にも言動的にもキャラが立ちすぎていて、ちょっと不安になるくらいだったのですが……

 ちょっとした描写で、そのキャラクターの印象を変えたり、深みを与えたり――という本作のキャラ描写と造形の巧みさはこれまで同様で、一歩間違えれば嫌味な先輩集団になりかねないところに、きっちりと(ギャグを交えつつ)人間味を与えているのには感心させられます。


 そしてこの巻の後半、何とか鬼殺隊に改めて迎えられた炭治郎たちを待つのは、傷の治療と特訓――と言いつつ、その地味そうな印象とは裏腹に、半ばギャグパートになっているのが面白い。
 少しの間出番のなかった善逸と伊之助が再登場するも、二人とも戦いのダメージは深刻で――と、本来であれば洒落にならないところに、強引に笑いを突っ込んでくるのも、実に本作らしいところであります。

 それでいて、これまで鬼に対して情を見せる炭治郎に対して否定的な態度を見せてきたしのぶが、その慇懃かつ冷徹な仮面の下に秘めてきた過去と、炭治郎への希望を語るくだりなど、ドラマとしても、キャラクターの肉付けとしても、実と面白い。
 前巻までの蜘蛛鬼との死闘、この巻前半の柱との対面、そしてこの後半と――静と動、戦いと笑いなど、緩急の付け方が実に巧みとしか言いようがありません。


 そして静の展開が続けば、次に来るのは動――鬼との死闘。傷が癒え、新たな力を得た炭治郎たちを待つものは――次の巻の紹介にて。


『鬼滅の刃』第6巻 (吾峠呼世晴 集英社少年ジャンプコミックス) Amazon
鬼滅の刃 6 (ジャンプコミックス)


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2017.08.06

せがわまさき『十 忍法魔界転生』第11巻 浅ましき「敵」との戦いの末に

 原作通りの天草四郎のあっけない最期と、原作にはない意外なゲストキャラの登場が描かれた前巻。しかし四郎の残した呪いの言葉に衝撃を受けた十兵衛を含め、プレイヤーが入り乱れた状態で道中双六はなおも続きます。そしての果てに待つのは、その十兵衛の最も恐れる相手であります。

 粉河寺での決闘の末、お品を喪い、そして四郎を倒した十兵衛。しかし四郎が今際の際に十兵衛に告げたのは、残りの転生衆の中に、彼の父・宗矩がいることでした。
 仮に父が加わっているとすれば、紀州大納言・頼宣の陰謀を明らかにするわけにはいかない。悩んだ末に十兵衛は、密書を託した弥太郎を柳生十人衆の二人に追わせ、自分たちは、なおもお雛を捕らえた頼宣一行を追うことになります。

 というわけで、和歌山から柳生にかけて入り乱れる敵味方は、
・十兵衛と柳生十人衆(いわば本隊)
・頼宣一党と転生衆三名
・弥太郎
・弥太郎を追う十人衆
・弥太郎を追う根来衆
となかなかにややこしい状況。

 幸いと言うべきか、この辺りの状況はテンポよく展開していくのですが……ついに柳生に弥太郎がたどり着き、これはこれで一大事――となったところに出現したのはかつての柳生の主・宗矩。
 かつての家臣を、門人たちを無惨に斬り捨て、捕らえた弥太郎を責め苛む宗矩に対し、十兵衛は(自分たちが望んだとはいえ)お縫、おひろをただ二人で敵陣に遣わすという非情の奇策を取るのでした。

 それこそは父・宗矩おびき出しの策。宗矩の父、自分にとっては祖父たる石舟斎が遺した、新陰流正統の秘奥書と三人娘の引き替えを持ちかける十兵衛ですが、しかし魔人と化した宗矩が、それを黙って受け入れるはずもありません。
 かくて、皮肉にも宗矩の墓のある法徳寺を舞台に、父子の禁断の決闘が始まることに……


 というわけで、毎回クライマックスの本作でも特に山場とも言うべき十兵衛と宗矩の決闘。
 同門対決という点では既に如雲斎とのそれが描かれていますが、しかし今回のそれは、それ以上に父と子というより大きな要素が加わっていることで、非常に重いことは言うまでもありません(深作版ではラストバトルなのもむべなるかな)。

 ……が、そのドラマ性も、当の宗矩が変態ツインテじじいとなってしまったことで、だいぶ薄れてしまった印象は否めません。
 確かに漫画的には、精神の怪物性を示す意味でも必要なデコレーションなのだとは思いますが、しかしそれによって、「父と子」が死闘を繰り広げるという悲劇性は薄まり、「ヒーローと敵」の戦いの色がより強くなってしまったようにも感じられます。

 とはいえ、謹厳実直を絵に描いたような人物が、かような変態めいた姿になり、幽冥の境を越えての再会を喜ぶどころか、青筋立てて相伝書をよこせと迫る姿は、ただ浅ましいとしか言いようがありません。
 そんな父を目の当たりにした十兵衛の心中を思えば、胸が塞がるばかりで、決着の後に彼の隻眼に光るものがあったことは、これはもう当然というほかありません。
(それでもなお、一種の「ゲーム」をここで仕掛けるしかなかった非情!)


 しかしそれでもなお、魔界転生衆との戦いは続きます。三人娘奪還は果たせず、心に深い傷を負った十兵衛に何ができるのか。彼女たちに頼宣の毒牙が迫る中、それを止めることができる者はいるのか……

 残る転生衆は荒木又右衛門と宮本武蔵の両巨頭。いよいよクライマックスも近づいてきたと言うべきでしょうか。


 そして頼宣といえば、この第11巻の表紙は頼宣。この巻では魔界転生は不要とすら言い放つ頼宣ですが、彼もまた転生衆並みのビジュアルゆえ、それに妙なおかしみが沸いてしまうのは、これはもちろん個人の感想ですが……

 しかし偶然とはいえ、冒頭とラストの両方で落花狼藉に及ぼうとする姿が描かれるのも、なんとも。


『十 忍法魔界転生』第11巻(せがわまさき&山田風太郎 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon
十 ~忍法魔界転生~(11) (ヤングマガジンコミックス)


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2017.08.03

皆川亮二『海王ダンテ』第3巻 植民地の過酷な現実と、人々の融和の姿と

 超古代文明の力を秘めた本と魔導器を持つ若き英国海軍人、ダンテ・ホレイショ・ネルソンの冒険を描く本作、新たなるエピソードは英国の植民地たるアメリカを舞台とした冒険であります。英国陸軍と前首相の息子を護衛しての任務は次々と意外な方向に転がり、その中で彼が見たものとは……

 この世界を構成する分子を自らの意思で組替え、自分の体の一部を触媒に物理的な力に変える力を持つ古代の書『要素』と魔導器を持つ少年ダンテ。海軍に入隊した彼はインドで大冒険を繰り広げ、その功績もあって晴れて士官候補生に仲間入りであります。

 そんな彼らの次なる任務は、ボストン茶会事件の余波で揺れる新大陸アメリカに向かう英国陸軍の船団を、そして現地の視察を行う英国前首相ウィリアム・ピット――の同名の次男を護衛すること。
 わがままで世間知らずのウィリアム少年に手を焼きつつ、新たにジャックとトビーの二人の黒人水夫を仲間に迎えたダンテたちの船は、快調に新大陸に向かうのですが……

 しかしアメリカが目前となった頃、気さくだったジャックが豹変、ダンテの本を狙う死人海賊、海の最強の殺し屋オルカとしての正体を露わにします。
 そしてウィリアムを人質に船を占拠した彼が向かう先は、逃亡した黒人奴隷たちが作り上げた海岸の集落。しかしそこをフランス軍に扇動された先住民が襲撃し、さらにダンテたちを巻き込んでの大混戦の中、ウィリアムとトビーが行方不明となって……


 今回のゲストキャラ、そして物語の中心人物の一人であるウィリアム少年は、絵に描いたような高慢ちきで我が儘の、皆川作品ではお馴染みの造形のキャラクター。
 なるほど、今回は彼が冒険の中で、ダンテたちと触れ合ううちに成長していく物語なのだな――と思いきや、それは当たってはいたものの、こちらの想像を超える形で描かれることになります。

 何しろアメリカ到着早々に始まるのが、黒人奴隷と先住民の戦い。さらにそこに英国軍まで加わって……という展開には、思わず天を仰ぎたくなりました。そこまで容赦ない展開を描くのか、と。

 そう、冒頭で触れたとおり、この時代のアメリカは英国の植民地。そしてそれは先住民の住む地を追い、そして黒人奴隷を牛馬の如く使って得られたものであります。
 ダンテも知らなかったその現実(「現在」のことは『要素』も知らず、ダンテが自分で学ぶしかないという設定がまた見事)を、しかしお説教ぽくならずに如何に描くか? その難題に対し、本作はダンテの、オルカの、そしてウィリアムズの姿を通じて、過酷な現実を生々しく描き出すのです。(後半に描かれる奴隷の闇市に関するエピソードはただ絶句……)

 しかし本作はそれだけでは終わりません。これまで人間という存在が根源的に持つ邪悪さを描きつつも、それに対峙する人間一人ひとりが持つ善き心を描いてきた皆川作品――その構図は、本作においても健在なのです。

 刻一刻と状況が変わっていく中、立ち位置を変えていくキャラクターたち。その一人ひとりが対立を超え、少しずつ歩み寄っていく姿を、本作は丹念に、自然に、それでいてエモーショナルに描き出します。
 特にクライマックスのナポリオとの対決は、ダンテの能力ゆえのピンチの打開に、人々の融和の姿を重ねて見せるという展開に、ただ唸らされるばかりなのです。

 もっともここで、ナポリオが「便利な敵」という一種の装置になってしまった印象は否めませんが、この点は、この時代とそこに生きる人々を描く狂言回しとして、ナポリオが(そしてダンテも)機能していると見るべきかもしれません。
 このあたりの展開は、あるいは本作の今後の方向性を示しているのかもしれない……というのは穿った見方かもしれませんが。


 何はともあれ――この巻を読み終えた後、その後の史実を紐解いてみれば、そこに我々はある事実を見出すことになります。

 ネルソン率いる英国艦隊がナポレオンの海軍に決戦を挑んだトラファルガー海戦時の英国首相の名が、ウィリアム・ピット――俗に言う小ピットであったことを。
 そして彼が、その生涯を通じて、奴隷貿易廃止のために尽力したことを。

 その背後に、彼の少年時代の経験があったとしたら――それはセンチメンタルではありますが、幸福な妄想でしょう。


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2017.08.02

にわのまこと『変身忍者嵐Χ』第1巻 新たなる嵐、見たかった嵐、見参!

 あのにわのまことが、あの石ノ森章太郎の『変身忍者嵐』をベースに新たな嵐の世界を描く、ファンであれば見逃せない作品の第1巻であります。舞台を戦国時代に移して描かれる本作、まだ序章とも言うべき印象ながら、ファンの期待を裏切らない内容です。

 時は1600年、徳川家康と石田三成が、関ヶ原で激突を目前としていた頃――徳川軍本隊を率いて西へ向かう徳川秀忠の前に現れた正体不明の青年・風のハヤテ。
 優れた忍びの技を持ちながら過去の記憶を持たず、しかし自分と同じく父の存在に屈託を抱えるらしいハヤテに、秀忠は不思議な親しみを覚えるのでした。

 そしてその晩、徳川の陣に現れた奇怪な怪物。人間から巨大なオオサンショウオに変化したその怪物――化身忍者ハンザキは、秀忠を攫うと徳川の陣から脱出。追いすがる伊賀忍者・タツマキの攻撃をものともせず、その目的を達したかに見えたのですが……
 その場に現れた謎の鳥人が二人を救い、深手を負いつつもハンザキを撃退、そして鳥人は、二人の前でハヤテの姿に戻るのでした。

 秀忠とタツマキの命で、ハヤテの看護に当たるカスミ。目を覚ましたハヤテは、同時に自分が何者であるか、自分の身に何が起きたのかを思い出します。
 そんなハヤテを再び襲撃するハンザキ。記憶を取り戻したハヤテは、父から授けられた愛刀を手に印を結び……「変身忍者嵐見参!」


 という最初のエピソードは、嵐ファンであれば感涙ものの格好良さ。
 設定、登場人物は石ノ森章太郎の漫画版をベースとしているものの(骸骨丸でではなく骨餓身丸が登場)、原作のデザインを踏まえつつも、作者らしいスタイルでリライトされた嵐は、実に精悍でいいのです。(嵐のデザインは、特にその大きな目など、一歩間違えるとかなり気の抜けた印象になるので……)

 しかし何よりも盛り上がるのは、その初変身シーンであります。

 襲いかかるハンザキと下忍たちを前に、すっくと立って印を結ぶハヤテ。その脳裏によぎるのは父の言葉――ケダモノに化けるのではなく、人の心を持って身が変わる。そう、化身忍者ではなく、変身忍者! 
 そして「吹けよ嵐、嵐、嵐!」のかけ声とともに天空高く舞い、地に降り立つや高々と天に刀を掲げ、名乗る姿の格好良さ!。

 そう来たか! と膝を打ちたくなるような解釈(鬼十とハヤテは風一族の出身で、そこから「風を超えて嵐となれ」という嵐のネーミングもいい)からの、雷鳴をバックの秘剣影うつしも見事で、見たかった嵐、理想の嵐を見せていただいた気持ちであります。

 ちなみにここで、変身の口上も秘剣影写しも、石ノ森章太郎の漫画版には登場してないのでは……と半可通的にイヤラシイ感想も頭によぎったのですが、大丈夫。

 確かに少年マガジン版には登場していませんが(「忍法影うつし」は登場)、希望の友版には登場しております。
 この辺り、うまく配慮(?)しつつ、一番嵐らしさを感じさせる、そして何よりも格好良い嵐を描いているのは、ヒーローマニアの作者らしい描写と感心いたします。


 と、ビジュアルや演出にばかり触れてしまいましたが、本作の最大の特徴かつ相違点が舞台設定であることは間違いありません。

 (明確に年代が登場したのは少年マガジン版のみであったものの)江戸時代前期を舞台としてきた原作に対して、本作の舞台は関ヶ原の戦と、戦国時代末期。
 しかも最初のエピソードから秀忠ら実在の有名人たちが登場と、史実とはほとんど関わってこなかった原作に比して大きくそのスタンスを変えてきた印象があります。

 その意図が、意味が奈辺にあるかこの時点ではまだわかりませんが、これまで人知れず行われてきた嵐と血車党の戦いが、本作においては、表の歴史と大きく関わる形で展開していくことは間違いないでしょう。
 そして泰平の時代ではなく、戦乱の時代を舞台とすることで、その規模と内容も激しくなることも……

 この第1巻に収録された後半のエピソードでは、この時に秀忠ら徳川軍と戦い、散々に翻弄してみせた真田昌幸・幸村父子が登場。
 そこに化身忍者マシラ(ちなみハンザキ、マシラともに少年マガジン版の第1話に登場した化身忍者)が忍び寄り、いかなる史実との絡みが生じることになるのか……早くも波乱含みの展開となります。

 その中で新たな嵐が如何なる活躍を見せるのか……期待に胸躍るではありませんか。


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2017.07.30

石ノ森章太郎『新変身忍者嵐』 もう一つの恐るべき結末

 石ノ森章太郎の漫画版『変身忍者嵐』紹介、今回はいわゆる『希望の友』版、約20年前に『新変身忍者嵐』のタイトルで単行本化された作品です。先日2回にわたってご紹介した『週刊少年マガジン』連載版に比べるとはるかにTV版に近い内容ですが、しかしこちらも衝撃の結末が……

 父・嵐鬼十の編み出した化身忍者の法を悪用し、父を殺した血車党を滅ぼすため、同じ法を用いて嵐に変身する青年・ハヤテの戦いを描く本作。
 設定的には本作やTV版と同一ながら完全に独自路線を行ったハードな変身ヒーローものであった少年マガジン版に比べれば、本作は遥かにTV版に近い内容と言えます。

 少年マガジン版では冒頭しか登場しなかったタツマキ親子は、レギュラーとして約半数のエピソードに登場。ハヤテやタツマキ親子のコスチュームもほぼTV版と同じものとなっています(映像では……だった格好が漫画で見ると全く印象が変わるのに感心)。

 何よりも、こちらでは1エピソードを除き嵐がきちんと(?)登場。TV版の変身台詞の「吹けよ嵐、嵐」や秘剣影うつしも、一度だけではありますが(「吹け嵐 嵐よ」とちょっと異同はありますが)しっかり登場し、変身しないエピソードも作中で一回のみと、まずはヒーロー漫画と呼んで違和感のない内容です。

 もっとも、TV版の完全なコミカライズというわけではなく、物語は完全にオリジナル。
 基本的には旅を続けるハヤテらに襲いかかる化身忍者の戦い、あるいは化身忍者の陰謀を砕くためにハヤテが戦いを挑むという展開ですが、登場する化身忍者も、かまいたち以外は皆漫画オリジナルの存在であります。

 また、他の版ではあまり詳しくは述べられなかった印象のある化身忍者の法も、脳に針を打ち込むことでその一部を異常に活性化させるという説明が行われるのも興味深いところです。(そしてラストでこれが思わぬ意味を……)

 内容の方も怪奇性強めで、文字通り人間の皮を被った化身忍者が登場したり、人間が無数の虫に襲われて骨のみを残して食い殺されたりとインパクトの大きなシーンも少なくありません。
 特に後者が登場するエピソード『虫愛ずる姫』は、その「敵」の正体の悲劇性とおぞましさ、救いのなさで、作中屈指であります。

 ちなみにTV版の方は、幾度となく大きな路線変更が行われ、戦う敵も変わったりもしましたが、本作はもちろん(?)それはなし。
 しかし後半にタツマキ親子が登場しなくなったり、狼男やミイラ男などが登場するようになったのは、TV版の影響があるのかもしれません。(ちなみにこちらの狼男やミイラ男は国産で、時代劇としての設定を崩さずに登場させているのに感心いたします)


 しかし本作の最大の独自性は、最終話『さらば変身一族』で明かされる化身忍者の正体、物語の核心に関わる大ドンデン返しであることは間違いでしょう。
(以下、物語の核心に触れますのでご寛恕下さい)

 ある晩、天を過ぎった流れ星を追い、ある山を訪れたハヤテ。その山に潜んでいた化身忍者たちを蹴散らし山頂に向かったハヤテの前に現れたがいこつ丸は、流れ星の正体が空飛ぶ円盤であったことを明かします。

 それだけでも驚く展開ですが、しかし真に驚かされるのはここからであります。実は化身忍者たちは宇宙から地球にやってきた一族、20年ほど前に円盤が故障して地球に着陸し、円盤を修理するために人間社会に潜伏し、力を蓄えていたというのです。
 そして嵐鬼十が編み出した化身の法も、人間を他の生物に化身させるのではなく、元々化身する能力を持つ彼らを人間の姿に留めておくためであったと……

 いやはや、ハヤテでなくとも唖然とするほかない展開、化身忍者の設定については、冷静に考えると色々と首を傾げる点があるのですが、しかしここで一気に世界観を覆してみせる豪腕には驚くほかありません。
(あるいはTV版に登場した空飛ぶ円盤からの連想か?)

 物語を通じて変身ヒーローと怪人の戦いを同族殺しとして描き、最終回でそれを救いようのない形で明確化してみせた少年マガジン版に比べれば、これは確かに唐突な印象は否めません。
 しかしここで描かれる、化身忍者こそが彼らの真の姿であったという価値観の逆転もまた、同様に変身ヒーローものに対する強烈なカウンターとして記憶すべきものと言えるのではないでしょうか。

 いや、どうかなあ……


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新変身忍者嵐 (秋田文庫 (5-36))


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2017.07.28

石ノ森章太郎『変身忍者嵐』第2巻 ヒーローと怪人という「同族」

 石ノ森章太郎による漫画版『変身忍者嵐』の紹介の後編であります。一人孤独に血車党の化身忍者を屠っていくハヤテ。非情に徹した旅の果てに彼を待つ伝説の結末とは……

 というわけで大都社版単行本第2巻の冒頭は第6話『蜜蜂の羽音は地獄の子守唄』。孕み女が次々とさらわれていく事件を追うハヤテが出会ったのは、蜂の力を持つ奇怪な女……
 なのですが、自在に蜜蜂を操ったり蜜蝋で目を潰したりという能力以上に、奪った子供たちを蜂のように変えて操ったり、何よりもハヤテを自分の子にしておかあさんと呼ばせるという、歪んだキャラクターが恐ろしい。

 ここでハヤテは自分の「兄弟」を蹴散らし、母「親」を斬るのですが……この時点で、結末は予告されていたのかもしれません。

 続く第7話『菩薩の牙が霧を裂く』は、ハヤテが珍しく女性の美しさに心を動かされるという描写が登場するものの、内容的にはあまり特筆すべきところはない印象。しかし登場する化身忍者はインパクト絶大です。
 そして第8話『獺祭りの雷太鼓』は、大坂城の火薬庫爆発という、本作には珍しく史実と絡めたエピソード。展開的には先を読みやすいものの、敵を滅ぼすためであれば、他者(幕府という権力)がどうなっても何とも思わない、もはやヒーローとは言い難いハヤテの言動が強烈な印象を残します。(それでいて久々に嵐に変身するのがまた面白い)

 続く3話は、三部構成の連続エピソードというべき内容。まず第9話『虎落笛の遠い夏』は、江戸に出没して人々を惨殺していく虎の化身忍者との対決篇であります。

 この相手の名が李徴子というのはどうかと思いますが(しかしそこに国姓爺伝説が絡むのは面白い)、注目すべきは彼が幼い頃のハヤテとは兄弟同然に育った人物という点。
 家族同然の相手との死闘というのは忍者ものの定番ではありますが、ここでまたもや「兄弟」との戦いを強いられるハヤテは心に大きな傷を負い、それが物語の結末に繋がっていくことになります。

 続く第10話『呪いの孔雀曼陀羅』は、江戸で人々の心を操らんとする血車党の邪教集団の尼僧との対決と、久々に(?)真っ当なアクションものという印象。
 この尼僧たちは基本的には「敵」以上のキャラクターではないのですが、化身忍者に女性が多い理由と、その弱点が、ここである意味ロジカルに描かれるのが面白い。冷静に考えれば女性の孔雀って……という点を逆手に取ったような展開もユニークです。

 そして第11話『血車がゆく、餓鬼阿弥の道』は実質的に血車党との最終決戦。第1話に登場し、唯一生き残った梅雨道軒も再登場、骨餓身丸との死闘も決着と、ラストらしい内容なのですが――しかしこの回は骨餓身丸の存在が全て。
 TV版ではビジュアルこそ奇怪なものの、単なる粗暴な悪役であった彼に悲痛な過去を与え、そしてそれと密接に絡み合った化身忍者としての能力を与えてみせる。その上で描かれるいい意味で後味の悪い結末には、ただ唸らされるのみなのです。


 それでも己の心を殺すように骨餓身丸を倒し、血車党の陰謀を粉砕したハヤテですが――しかし最終話『犬神の里に吠える』の冒頭で描かれるのは、復讐と贖罪という目的を果たしてしまった虚しいハヤテの心の内。
 自分のしてきたことは何だったのか、と鬱々と考えていたところに現れた血車魔神斎の姿に、闘志を奮い立たせるハヤテですが……

 しかし魔神斎を追うハヤテの前に現れたのは、人とも獣ともつかぬ子供たちの群れと、彼らが犬神の子だと告げる裸女。どこかまでも歪んだ世界の中で最後の対決に臨んだハヤテが知った真実とは……
 無情とも無常とも、あるいは無惨とも言うべき結末は(私はあまり好きな表現ではありませんが)屈指のバッドエンドと今なお語り草なのも宜なるかな、であります。

 そしてこの結末は、上で述べてきたように、これまでのハヤテの戦いが同族殺し――それも兄弟や母親を含めた――であったことを考えれば、ある意味当然の結末と言うべきかもしれません。

 さらに言えばそれは、変身(改造人間)ものにおけるヒーローと怪人は本質的に同じものではないか――言いかえれば正義と悪の違いは奈辺にあるのかという問いかけの、究極の答えではないでしょうか(ハヤテが嵐に変身して魔神斎と対決するのがまた象徴的)

 そしてそれを、上に述べたように同門との対決というのは忍者ものの定番の中で昇華してみせたのにも痺れる本作。
 変身ヒーローものとして、忍者ものとして……やはり名作というほかない作品と再確認した次第です。


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変身忍者嵐 (2) (St comics)

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