2018.11.14

室井大資『レイリ』第5巻 修羅場を超え、彼女が知った意味


 武田勝頼の嫡男・信勝の影武者となった死にたがりの少女・レイリを描く物語も、これではや第5巻であります。織田方による高天神城攻めに対し、命の恩人を救うために単身城に潜入したレイリ。そこで彼女は、若い城兵たちを逃すため決死の任務に挑むことになるのですが……

 信長の命により高天神城を攻める家康軍に対し、救援の兵を送らぬと決めた武田家。しかし城の守将は足軽たちに家族を殺された自分を救い育ててくれた岡部丹波守、恩人を見殺しにすることはできない――と、レイリは単身城に潜入し、丹波守と再会することになります。
 しかしもちろん、如何にレイリが類希なる戦闘力の持ち主といっても、ただ一人で戦況を覆せるわけがありません。そこで丹波守はレイリに対し、若い城兵たちを連れて人一人が通るのがやっとの尾根道・犬戻り猿戻りからの脱出を命じるのでした。

 というわけで、前巻ラストから引き続いてこの巻の前半で描かれるのは高天神城からの脱出作戦。しかし尾根道といっても敵がこれを見逃すはずもなく、味方を逃がす間の時間稼ぎが必要なわけですが――これこそがもちろんレイリの出番であります。

 単身出撃すると、待ち受ける敵兵をある時は刀で、ある時は弓で斃し、そして馬が鉄砲で撃たれればその亡骸を壁代わりにして敵兵をスナイプしていくという恐るべき戦いぶりを見せるレイリ。
 が、しかしそれも所詮は時間稼ぎ、ついに城が落城し、前方だけでなく、後方からも敵兵に挟み撃ちされることとなった彼女は、城兵たちを連れて逃れるものの、文字通り刀折れ矢尽きる形で、雑兵たちに取り囲まれて……


 と、文字通りの修羅場が続いた前半に対し、後半は表向き平和な甲府を中心に、武田家中を舞台とした物語が展開いたします。

 武田を根絶やしにせんとする信長に対し、如何に負けず戦い抜くか――信勝はその策としてなんと籠城を発案、その場として小山田信茂の守る岩殿山をレイリと共に視察することになります。
 ここで信茂の前で信勝が語る策が、ある意味実に壮大で面白いのですが――その合間合間に信勝やレイリが見せる若者としての素の表情もまた面白い。

 本作は戦国ものでありつつも、「派手な」場面はむしろ少な目(来るときはドッと来ますが)という印象ですが、それ以外のいわば「平時」で描かれる人々の姿もまた魅力的であると、今更ながらに再確認させられます。
 もっとも、その「平時」がそう長くは続かないことを、我々は知っているのですが……


 しかしその「平時」を望まない――「死にたがり」だったレイリに、大きな心境の変化が訪れたことが、この後半において示されることになります。

 かつて己の眼前で、自分を庇った家族が惨殺されたのを目の当たりにして以来、早く戦いの中で殺されて家族のもとへと行くことを望むようになったレイリ。
 この主人公の強烈な設定こそが、本作の大きな特徴だったわけですが――しかしここでレイリは、その「死にたがり」を、自らの口から否定するのであります。

 彼らは何のために死んだのか、そして人は何のため戦い、生きるのか――その意味をついに彼女が知った、と文字で書くのは簡単です。しかし恩人である丹波守の死を経験した彼女が語る言葉は、どこまでも重く、そして同時に清々しく感じられるのです。


 そして結末においては、全く思わぬ形で、レイリにもう一つの重大な転機が訪れることになるのですが――死にたがりを止め、そして一つの役目を終えた彼女が、この先如何にして新たな生を生きることになるのか。
 いや、この先の生があるとは限りません。いよいよ信長が武田家殲滅を決定、最後の戦いがいよいよ始まろうとしているのですから……

 おそらくはこの物語もあとわずか、少なくともその時までにレイリが如何に生きるのか、見届けたいと思います。


『レイリ』第5巻(室井大資&岩明均 秋田書店少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)

レイリ 第5巻 (少年チャンピオン・コミックスエクストラ)

室井大資 岩明均 秋田書店 2018-11-08
売り上げランキング : 161
by ヨメレバ

関連記事
 室井大資&岩明均『レイリ』第1巻・第2巻 死にたがり少女と武田の未来と
 室井大資&岩明均『レイリ』第3巻 レイリの初陣、信勝の初陣
 室井大資『レイリ』第4巻 死にたがりの彼女の、犬死にが許されぬ戦い

| | トラックバック (0)

2018.11.12

賀来ゆうじ『地獄楽』第4巻 画眉丸の、人間たちの再起の時!


 不老不死の仙薬を求め、謎の孤島に送り込まれた十人の死罪人と十人の山田浅ェ門が繰り広げる戦いもいよいよ佳境。この島を支配する天仙たちの恐るべき正体とは、そして彼らに手も足も出ずに敗れ去った画眉丸たちの再起のチャンスは……?

 無罪放免を条件に送り込まれた死罪人の一人・画眉丸と山田浅ェ門佐切のコンビ。死罪人たちや怪物たちとの戦いの末、謎の少女・めいと奇怪な木人・ほうこと出会った二人は、ほうこから、この島が仙薬を持つ天仙なる存在に支配されていることを聞かされるのでした。
 そして仙薬を求めて単身動いた画眉丸は、件の天仙と対峙することになるのですが……

 しかし異常な回復力を持ち、不可視の奇怪な攻撃を放つ天仙にさしもの画眉丸も大苦戦。持てる力を振り絞ってようやく倒せたかと思いきや、奇怪な怪物となって復活した天仙の圧倒的な力にあわやのところまで追い詰められることになります。
 そして時をほぼ同じくして、他の死罪人、他の浅ェ門たちの前にも天仙が出現、次々と犠牲者が出ることになるのであります。


 ……と、思わぬ強敵の前に、惨敗することとなった画眉丸たち。如何に規格外の戦闘力と生命力を持つ彼らであったとしても所詮は人間、紛れもなく人外の天仙の力とは比べるべくもありません。

 この巻の冒頭で、めいの不思議な力によって辛うじて天仙から逃れた画眉丸の前に現れたのは、死罪人の中でもおそらくは最強の剣の使い手・民谷巌鉄斎。
 しかし人間としてはほとんど頂上レベルの画眉丸と巌鉄斎(対峙した際に、壮絶な読み合い=一種のイメトレを繰り広げるのが実に面白い)であっても、やはり天仙の前には及ぶべくもないのであります。……今は。

 想像を絶する強敵を前に手を組み、再び戦いを挑もうとする画眉丸と巌鉄斎ですが、しかし休む間もなく、天仙たちが差し向けた、島を徘徊する怪物たちの上位存在――知性を持ち、そして何よりも天仙と同様の力を操る「道士」が画眉丸たちに襲いかかることになります。
 そして彼らの口から、これまでその存在の一切が謎に包まれていためいの正体が明らかになるのですが……

 ここで語られるめいの正体から浮かび上がるのは、天仙がこの島で行っている所業の一端であり、何よりもめいがそこで背負わされた役割。そしてその悍ましさたるや、これに不快感を感じ、怒らなければ人間ではないというべき、というほどのものであります。
 この誰もが共感できる理由と想いが、非情の忍びであった画眉丸の魂にも(いや彼だからこそ)火をつけ、彼が立ち上がる場面は、間違いなくこの巻のクライマックス、本作きっての名場面と言うべきでしょう。

 が、怒りだけでパワーアップできるのであれば苦労はありません。道士の力に翻弄される画眉丸たちに対して、めいの口から、道士の、天仙の操る力の秘密が語られるのですが――その力は、画眉丸とはある意味正反対のものであることが明らかになります。
 同じ力を、同じ力の使い方を得れば、画眉丸にも勝機があるはずですが、しかし――いや、彼にもその力はあった!

 その力の詳細は伏せますが、画眉丸の中にある――彼の中に佐切が見出した――もの、彼の秘められた人間性を描くと思われたものが(それも物語の初期で描かれた)ものが、ここでパワーアップに繋がっていくのが実に熱い。
 この舞台設定(物語を貫く法則)と、キャラクターの精神的成長、そして物理的なパワーアップが直結する構造の巧みさには、ただ感心するほかありません。


 そして画眉丸とはまた異なる形でパワーアップを(あるいはその萌芽を)見せる死罪人と浅ェ門たち。さらに以前から登場が仄めかされていた者たちの参戦と新たなる浅ェ門の登場……
 と、ここに来て一気に「人間」側が盛り返してきた展開ですが、しかしこれでようやく天仙たちと戦うことが可能になった、というレベルでしかないのでしょう。

 この巻のラストではまた思わぬ展開が待ち受けているのですが、さてそこから物語がどう転がっていくのか――まだまだ予測不能の物語は続きます。

『地獄楽』第4巻(賀来ゆうじ 集英社ジャンプコミックス)

地獄楽 4 (ジャンプコミックス)

賀来 ゆうじ 集英社 2018-11-02
売り上げランキング : 517
by ヨメレバ

関連記事
 賀来ゆうじ『地獄楽』第1巻 デスゲームの先にある表裏一体の生と死
 賀来ゆうじ『地獄楽』第2巻 地獄に立つ弱くて強い人間二人
 賀来ゆうじ『地獄楽』第3巻 明かされゆく島の秘密、そして真の敵!?

| | トラックバック (0)

2018.11.09

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第6話「毒手の誇り」

 解毒薬によって復活した殤不患に圧倒される蠍瓔珞と嘯狂狷。蠍瓔珞は嘯狂狷の裏切りによって傷を受けて逃れ、嘯狂狷もその場に現れた鬼鳥(凜雪鴉)の仲裁で撤退する。逃げた蠍瓔珞を追う殤不患と浪巫謠だが、その前に諦空が現れる。諦空と問答を交わした末、不意に襲いかかる浪巫謠だが……

 前回ラスト、浪巫謠と凜雪鴉が不運な竜から奪ってきた角から作られた解毒薬を口にした殤不患。普通こういう薬は効くまで時間がかかるような気がしますが、飲んだと思いきや何かスゴい光ったりしてものすごい勢いで殤不患は回復、毒を調合した蠍瓔珞も、自分でも解毒の方法を知らないのに――と愕然としております(それはそれでどうなのか)。
 しかし同時に、これが蠍瓔珞の魂に火をつけることになります。自分には毒しかない、毒だけに全てを打ち込んできた。その毒を否定されては――と悪役は悪役なりの矜持があることを見せてくれた蠍瓔珞ですが、彼女が放った奥義・毒蠱驟来(毒ガス殺法)も、高速で刀を回転させる殤不患の拙劍無式・黄塵万丈で無効化されてしまいます。さらに卑怯にも後ろから嘯狂狷に鞭でブン殴られて喪月之夜を奪われ、心身ともにボロボロの蠍瓔珞は蹌踉とその場から消えるのでした。

 そして残る嘯狂狷は、殤不患に町人虐殺の濡れ衣を着せて指名手配にしてやったもんね、と煽るものの、殤不患はそれがどうしたと平気の平左。そういえばこの人は好漢にとって大事な面子や名利といったものに、一向に無頓着なのでした――が、結構つきあいは長そうなのにその辺りが全くわかっていなかった、というより自分の物差しでしか人を測れない嘯狂狷には、そんな彼の姿は不可解極まりないのでしょう。
 蠍瓔珞といい、普通に振る舞っているだけで相手の心をへし折る殤不患は、ある意味凜雪鴉なみに厄介な人間なのかも――と思っていたら、そこに思いっきり棒読みで割って入ったのはその凜雪鴉、いや鬼鳥。鬼鳥として嘯狂狷にこの場は退けと語りかける凜雪鴉の姿に悟っちゃった殤不患は、「可哀想に……」という感じで嘯狂狷を見るのでした。

 さて、嘯狂狷は放っておくとしても、魔剣をまだ手にしている(かもしれない)蠍瓔珞を見逃すわけにはいきません。彼女の後を追う殤不患と浪巫謠ですが――その前に飄然と現れたのは、謎の行脚僧・諦空であります。彼に蠍瓔珞の行き先を聞く二人ですが、諦空は例によってそれに何の意味があるのかと問答を開始。諦空がいちいち相手の行動に意味を問うのは、自分自身にとってこの世の何物も意味を持たないからと聞かされた浪巫謠は――次の瞬間、では死ね! と剣モードの聆牙で斬りかかるのでした。

 さすがの殤不患も相棒の突然の凶行にびっくり仰天、さすがに放っておけないと剣を抜いて割って入り、その間に諦空はその場から立ち去ります。そして相棒の行動を問いつめる殤不患ですが――あいつは悪だ、とだけ語る浪巫謠。代わって聆牙が説明するのは諦空の危険性――彼がいま全てに意味を見出せないとして、とんでもない悪事に意味を見出してしまったとしたら? と。なるほど、そうでなくとも彼は、意味さえ聞かされれば、深手を負った蠍瓔珞の行き先を語りかねない雰囲気もありました。何よりも、全てに意味を見出せないということは、善悪の価値基準を持たないということでもあるのでしょう。
 そして倒れた蠍瓔珞を、いつもの納屋に連れてきた諦空。あんなことがあっても相変わらず平然として――いや、己の目的のために戦い、殺し合う蠍瓔珞らがキラキラ輝いてて羨ましい(意訳)とすら語る諦空に引いたのか、あるいは己の来し方行く末に悩んでいるのか、微妙な雰囲気の蠍瓔珞ですが……

 さて刑部に戻ってきた嘯狂狷は、刑部のおじさん官僚に何気ない態で掠風竊塵とは何者なのか尋ねます(殤不患が鬼鳥に何気なく僧呼びかけたのを聞いたのか?)。と、その質問に、刑部のおじさんがあからさまに不自然すぎるオーバーアクトでワナワナ震えるという謎の場面(この辺り、武侠ドラマらしいと言えばらしい)で次回に続きます。


 折り返し地点を過ぎたものの、相変わらず物語の落としどころがわからない本作。既に悪役二人は小者扱いな状況で誰が敵となるのか(やはり諦空……か?)、そして何を以て物語の終わりとするのか。魔剣たった二本を取り戻して終わり、というのは(少なくとも見た目では)あまりにもスケールが……

 という余計な心配をさて置けば、久々の殤不患の活躍が実に痛快だった今回。凜雪鴉との妙な通じ合いも、二人の腐れ縁を感じさせて実に愉快でした。
 そしてそれ以上に印象に残ったのは、己の矜持を粉砕されて嘆き悲しむ蠍瓔珞の姿。『生死一劍』の殺無生が嘆く場面にも思いましたが、派手なアクション以上に人形で感情の表れ――特に悲しみを表現するのは難しいはずで、それをしっかりと見せてくれたのには驚かされました。台湾布袋劇の奥深さを改めて感じさせられた次第です。

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』第2巻(アニプレックス) Amazon
Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2 2(完全生産限定版) [Blu-ray]


関連サイト
 公式サイト


関連記事
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第1話「仙鎮城」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第2話「奪われた魔剣」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第3話「蝕心毒姫」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第4話「親近敵人」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第5話「業火の谷」

 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第1話「雨傘の義理」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第2話「襲来! 玄鬼宗」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第3話「夜魔の森の女」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第4話「迴靈笛のゆくえ」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第5話「剣鬼、殺無生」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第6話「七人同舟」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第7話「魔脊山」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第8話「掠風竊塵」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第9話「剣の神髄」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第10話「盗賊の矜恃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第11話「誇り高き命」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第12話「切れざる刃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その一)
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その二) と全編を通じて
 『Thunderbolt Fantasy 生死一劍』 剣鬼と好漢を描く前日譚と後日譚

| | トラックバック (0)

2018.11.08

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第13巻 物語を彩る二つのテクニック、そして明らかになる過去


 刀鍛冶の里編もいよいよバトルが本格化し、佳境に入った『鬼滅の刃』。里を襲撃する上弦の鬼2体を迎え撃つ炭治郎、禰豆子、無一郎、そして玄弥ですが、上弦たちの奇怪な能力の前に窮地に立たされることに……

 日輪刀を打つ刀鍛冶たちが住まう刀鍛冶の里。厳重に秘匿されたその里で、慌ただしくもそれなりに平和(?)な時間を過ごしていた炭治郎ですが、そこに上弦の伍・玉壺と上弦の肆・半天狗の二人が出現したことで、里には血風が吹き荒れることになります。
 そして突如現れた半天狗と対決することになった炭治郎。一見非力ながら、斬られるたびに、空喜・積怒・哀絶・可楽と名乗るそれぞれ異なる能力を持った四人に分裂する半天狗を前に、炭治郎、そして鬼と化して参戦した禰豆子は大苦戦を強いられるのでした。

 と、そこに現れたのは、炭治郎の同期最後の一人である不死川玄弥。短期間のうちに体格が急激に変化したり、抜けた歯がいつの間にか生えていたり、何よりも炭治郎に異常に敵意を燃やしたりと不審な点も多い玄弥ですが、二連のショットガンという本作では珍しい武器を用いて半天狗と戦う姿はなかなかに頼もしいものがあります。
 かくて戦いは炭治郎vs空喜、玄弥vs哀絶、禰豆子vs可楽という団体戦の様相を呈することになる一方、霞柱・時透無一郎は、奇怪な魚(?)を操り、里の刀鍛冶たちを惨殺していく玉壺と対峙することになって……


 と、これまで嫌というほど強豪ぶりを見せつけてきた上弦の鬼が二人も出現という絶望的な状況でのバトルが描かれるこの巻。
 半天狗は「ヒィィィィ」と悲鳴を上げてばかりの老人のような姿、玉壺は壺から現れる無数の短い手を生やした蛇のような体の持ち主と、奇怪なデザインの敵が多い本作においても屈指の異形ですが、それだけに――というべきか、その能力のトリッキーさも群を抜いたものがあります。

 そしてその敵を相手に繰り広げられるのは、上で述べたように半天狗と玉壺、それぞれを相手に炭治郎たちが繰り広げる二元中継――いや、三元四元中継のバトル。
 敵も味方それぞれの特徴的な能力が入り乱れる戦いは一歩間違えるととっ散らかりかねないところですが、そこをギリギリのところ(半天狗の分身たちは結構見分けがつきにくい)で捌いてみせるのは、口で言うのは簡単ですが、相当なテクニックであります。

 いわばこの巻で繰り広げられるのは、登場キャラクターたちのテクニックと作者自身のテクニック、その双方の競演というべきものでしょうか。


 そして本作の最大の魅力と言うべき、そのバトルの中で浮かび上がるキャラクターたちの人間性の描写ももちろん健在であります。

 この巻でスポットライトが当てられるのは、登場自体は相当前だったものの、ほとんど新キャラに近い(名前がわかったのもごく最近という)存在である不死川玄弥。
 上で述べたように不審な行動も多い上に、バトルの中では明らかに常人ではない――というより人間ではない回復力を見せる彼は、一歩間違えれば悪役にも見えかねないキャラクターなのですが、今回描かれるその過去が、その印象を完全にひっくり返すことになります。

 その姓を見ればわかるように、風柱・不死川実弥の弟である玄弥。しかし実弥は俺に弟などいないと言っているという情報が前巻で語られ、複雑な事情が窺われた兄弟ですが――この巻で描かれた彼らの過去は凄絶と言うほかありません。
 そしてそのある意味炭治郎と禰豆子と対になる過去の悲劇を見れば、玄弥が、さらに言えば実弥がこれまで何故あのような行動を取ってきたのか、その一端が明らかになるとともに、これまで憎々しい存在に見えてきた彼らに、一瞬のうちに感情移入させられてしまうのです。

 これまで何度も、登場キャラクターたち――それもつい先程まで戦っていた人食いの鬼たちですら――の人間性をほんの僅かなページ数の中で描き出し、印象を一変させてきた本作ですが、今回もやられた! と大いに唸らされた次第です。

 そしてもう一人、前巻で炭治郎をして「すごく嫌!!」と言わしめた冷徹さが描かれた無一郎も、その人間性の一端を見せ始めた印象。さらに恋柱・甘露寺蜜璃も参戦し、いよいよ激化するバトルの決着はどうなるのか――気になるところだらけであります。


 そして毎回意外な事実が明らかになるおまけページ、今回は柱の中でも異様な存在感を持つ悲鳴嶼行冥の意外すぎる姿が……(一瞬、キメツ学園の方の設定かと)


『鬼滅の刃』第13巻(吾峠呼世晴 集英社ジャンプコミックス)

鬼滅の刃 13 (ジャンプコミックス)

吾峠 呼世晴 集英社 2018-11-02
売り上げランキング : 177
by ヨメレバ


関連記事
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第1巻 残酷に挑む少年の刃
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第2巻 バディであり弱点であり戦う理由である者
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第3巻 ついに登場、初めての仲間……?
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第4巻 尖って歪んだ少年活劇
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第5巻 化け物か、生き物か
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第6巻 緊迫の裁判と、脱力の特訓と!?
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第7巻 走る密室の怪に挑む心の強さ
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第8巻 柱の強さ、人間の強さ
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第9巻 吉原に舞う鬼と神!(と三人組)
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第10巻 有情の忍、鬼に挑む!
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第11巻 遊郭編決着! その先の哀しみと優しさ
 吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第12巻 新章突入、刀鍛冶の里での出会い

| | トラックバック (0)

2018.11.06

石川優吾『BABEL』第2巻 第一の犬士誕生の時、そして新たなる舞台へ


 原典を踏まえつつ、その華麗な画でもって新たな伝奇物語を描いてみせる新釈八犬伝、待望の第2巻であります。辛うじて恐るべき玉梓と闇の力を退けた信乃たち。しかしその犠牲は決して小さなものではなく、そしてすぐに魔の手は再び彼らを襲うことになります。窮地の信乃に救いの手はあるのか……?

 奇怪な魔の力を味方につけた山下定包に攻められ風前の灯火の里見家を救うべく、比叡山に神の犬・八房と丶大法師を頼った里見の姫・伏姫。
 里見に向かう彼女たちを山下の兵から助けた信乃と額蔵の二人は、一度は八房に討たれながらも里見義実に取り憑いた魔女・玉梓の闇の力を目の当たりにすることになります。

 その義実が伏姫に刃を振り下ろした時、彼女の身につけた数珠の不思議な力により、一度は退散した闇。しかし数珠の八つの玉はいずこかへと飛び去り、伏姫は生とも死ともつかぬ不思議な状態のまま、八房ともども眠りにつくのでした。

 ……と、我々の知る八犬伝とはある部分で重なり、ある部分で大きく異なる本作。その第1巻を受けたこの巻の前半では、再び信乃を襲う闇の猛威が描かれることになります。

 昏睡状態の伏姫たちをひとまず比叡山に迎えることとなった丶大一行。しかし額蔵は己の無力さに絶望して彼らのもとを離れ、そして信乃は、山下に取って代わった安西景連が村の人々を人質に取って自分を捜していると知り、単身村に取って返すのでした。
 しかし非道にも信乃の目の前で磔にされた人々を処刑する安西軍。怒りに燃える信乃は、ただ一人残された少女を守るため、獅子奮迅の活躍を見せるのですが――しかし多勢に無勢の上、その前に再びあの玉梓が立ち塞がることになります。

 自分の体を奪おうとする玉梓に対し、闇の力に奪われるくらいならばと一度は自刃を考えた信乃ですが、その時、思わぬ援軍が出現。しかし一度は形勢逆転したものの、闇の力が生み出した不死の軍勢を前に、今度こそ絶体絶命となったその時……

 と、早くも絶体絶命の窮地に陥った信乃。原典でも冒頭から辛い目に遭いまくる信乃ですが、本作ではそれとは全く異なるベクトルでボロボロにされていくことになります。しかし苦しい時に彼らを助けるものは――というわけで、いよいよここで待望の場面が描かれるのであります。

 その様は如何にも本作らしく、美しくも外連みに溢れたものですが――それは新たな八犬士の誕生に相応しいものといえるでしょう。そう、本作はここまでが序章、これからが本当の戦いの始まりと言ってよいのではないか、と感じます。


 そしてこの巻の後半では、仲間たちを求めて旅立つことになった信乃と丶大、そして信乃に救われた少女(その名は――ここで登場するのか! と感心)が、不思議な犬たちに導かれて関東管領・扇谷定正の佐倉城を訪れることになります。
 しかし佐倉城はスラムと迷宮と要塞を混淆したような奇怪な城、そしてそこでは城兵が人狩りを行い、犠牲者を闘技場に連行していたのであります。そして人間同士が闘技場で殺し合う姿を喜びながら見つめる奇怪な巨漢こそが定正、そしてその傍らにはまたもや死んだはずの玉梓の姿が……!

 と、ここに来て、別の作品になったかのようにいきなりリアリティレベルが下がる本作(特に定正。史実ではとうに亡くなっている人物ではありますが……)。この辺りは、正直に申し上げて非常に違和感がありますが――しかしここで注目すべきは、闘技場に現れた一人の男の存在でしょう。
 手にした鎌で無表情に対戦相手を斃していく寡黙な男――その名は現八、犬飼現八!

 玉梓の魔力によって早くも正体が露見して逃げる信乃は、この現八に追われることになるのですが――追われた末に信乃が向かう建物の名が芳流閣とくれば、もうニヤニヤが止まりません。


 果たして信乃と現八の戦いの行方は、そして二番目の仲間はどのような形で誕生するのか。上に述べたように、違和感を感じる部分もあるものの、それを吹き飛ばす物語に期待したいと思います。


『BABEL』第2巻(石川優吾 小学館ビッグコミックス)

BABEL (2) (ビッグコミックス)

石川 優吾 小学館 2018-10-30
売り上げランキング : 10325
by ヨメレバ


関連記事
 石川優吾『BABEL』第1巻 我々が良く知る、そして初めて見る八犬伝

| | トラックバック (0)

2018.11.02

睦月れい『空海 KU-KAI』 元作品の構造を再確認させてくれた漫画版


 一昨日ご紹介いたしました映画『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』の公開前後に刊行された、睦月れいによる全二巻のコミカライズであります。原作小説を漫画化したものではなく、原作小説を映画化したものの漫画化という立ち位置の作品であります。

 というわけで、夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』をベースとした映画を、ほぼ忠実に漫画化した本作。
 すなわち、入唐した沙門空海が皇帝が不可解な死を目撃したのをきっかけに、白居易とともに跳梁する妖猫と対峙し、そしてその陰に潜む楊貴妃の死を巡る謎に迫っていく――その物語を、本作は上下巻で描いています(上巻は空海と白居易が阿倍仲麻呂の日記を読み始めるところまでを収録)。

 冒頭こそ、空海の「皇帝の死因はショック死です」という台詞に驚かされますが(これはおそらく作者の責任ではないのだろうなあと想像しますが)、基本的に物語を丹念に再現してみせた本作。
 スケール感は流石に映画に一歩譲りますが、適度に漫画的表現を織り交ぜた画作りはなかなか巧みで、特に下巻冒頭で描かれる「極楽之宴」の場面は、個人的には映画よりも良かった――と感じます。

 また、これは映画ではなかったように記憶していますが(記憶違いであれば申し訳ありません)、極楽之宴で李白が池に筆を投げ捨てたというエピソードを踏まえ、それを見ることができたのは誰であったかと空海が推理する場面など、随所で物語を補強する箇所があるのも嬉しい。
 もちろん、史実に対する言及も映画よりも豊富で――映像の情報量・質と書籍(漫画も含めた)のそれはもちろん異なるところではありますが、本作はその後者の長所を上手く活かしている印象があります。

 さらに言えば、本作は物語の結末――空海が大青龍寺である人物と出会う場面から始まっており、ある意味原作読者ほど結末のインパクトが大きい仕掛けとなっているのも、なかなか面白いところであります。


 その一方、映画のある意味最大の特長ともいえる猫の活躍については、本作はそれほどでもないのですが――と言いつつ、終盤で見せる泣き顔がえらくグッとくるのですが――ある意味、そのために物語の構造がかえってスッキリと見えてくるのも面白い。

 そう、本作は、登場人物のほとんどが過去の幻想に魅入られ囚われていたものが、それにただ一人囚われなかった(いやもう一人、全てを知る人物がいますが)空海の導きによってその先の真実を知り、それを受け容れる物語――その構造が、本作においては明確に感じられるのです。

 そしてまた、その真実は必ずしも客観的なものではなく、時に主観的なものであるにもかかわらず、それだからこそ、そこにその者にとっての真実が含まれる――本作の持つ、そんな一種逆説的な視点もまた明確になっているのもいい。
 この視点こそがある意味仏教的であり――その意味では、上に述べたように幻想に囚われなかったのが空海ともう一人というのは実に象徴的であると、今更ながらに感じさせられました。


 映像作品のコミカライズは、特にそれが元の作品に忠実であればあるほど隔靴掻痒のきらいがあるものです。
 しかし本作は元の作品に忠実でありつつも、そうした不満を感じさせない――それどころか元の作品の描こうとしていたものを再確認させてくれた、なかなかによく出来た作品であると感じた次第です。


『空海 KU-KAI』(睦月れい&夢枕獏 KADOKAWA単行本コミックス全2巻)

空海 -KU-KAI- 上巻 (単行本コミックス)

睦月 れい KADOKAWA 2018-02-10
売り上げランキング : 123162
by ヨメレバ

空海 -KU-KAI- 下巻 (単行本コミックス)

睦月 れい KADOKAWA 2018-08-09
売り上げランキング : 81821
by ヨメレバ

関連記事
 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第一巻 たまらぬ伝奇世界のはじまり
 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第二巻 伝奇小説の知的快感
 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第三巻 尽きぬ恨みを哀しみを
 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第四巻 肯定という救いの姿

 『幻想神空海 沙門空海唐の国にて鬼と宴す』 原作を昇華したもう一つの「沙門空海」

 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」第1巻 再び始まる空海と逸勢の冒険

| | トラックバック (0)

2018.11.01

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第5話「業火の谷」

 業火の谷を訪れた凜雪鴉と浪巫謠の前に現れた龍・歿王。その火炎に苦戦する二人だが、凜雪鴉の口車と浪巫謠の絶技により、無事龍の角を得る。しかし解毒薬の製法を聞いた浪巫謠は意外な行動に出るのだった。一方、隠れ場所を知られた殤不患は、嘯狂狷率いる捕吏の包囲に窮地に陥るが……

 蠍瓔珞の毒に苦しむ殤不患を救うため、はるばる鬼歿之地にやってきた凜雪鴉と浪巫謠。目指す龍がいるという業火の谷に到着した二人の前に龍が現れますが――微妙にサイズが小さい。あっさり凜雪鴉に撃退される龍ですが、その時、巨大な影が現れ、龍を文字通り叩き潰してしまうのでした。
 その影こそは、オープニングに登場していた謎の怪獣――確かに片翼状態の龍であります。何と人語を喋るこの龍、自らを歿王を名乗り、この小龍を食うからお前らは失せろと親切にも二人に語りかけますが――もちろん二人が引くはずもありません。それどころかいけしゃあしゃあとその角が欲しいと言い出した凜雪鴉にもちろん歿王はエキサイト。グワーとひらいた口から炎、あたり一面焼け野原であります。

 もちろん周囲に散在する石柱に隠れてこの攻撃を躱す二人ですが、炎をはき続ける歿王に接近するのはほとんど不可能。さらに凜雪鴉が、お前の片翼を斬った男のために力を貸して欲しいなどとまたもや歿王のヒートを煽るのですが――凜雪鴉は浪巫謠に対し、龍の火炎は気息(ブレス)、すなわち声だから、お前の魔性の声で太刀打ちできるのではないかと無茶振りをするのでした。
 これに応えた浪巫謠は、歿王を前にオープニングのサビを熱唱! 浪巫謠の歌エネルギーは何と歿王の炎を圧倒、炎を出せなくなったところに挑発をかましてきた凜雪鴉を襲おうとして歿王は石柱に激突、そのまま下敷きに。そしてその隙に剣モードの聆牙を手に背中を駆け上がった浪巫謠は、見事に角を切り取るのでした。石柱に押し潰されてジタバタしながらも、二人に対して呪いの言葉を吐く歿王ですが、再登場はあるのかなあ……

 何はともあれ龍の角を手に入れ、凜雪鴉から解毒薬の製法も聞いた浪巫謠。これであとは殤不患のもとに戻るだけ――と思いきや、突如凜雪鴉に音撃を食らわせる浪巫謠。お前は殤不患のためにはならん、お前は悪だ、生かしておいては世に災いをなすのためにならない奴と見た、だからコロス! ――と、実は最初から凜雪鴉を斬るつもりだった浪巫謠の理屈は、好漢的に正しいのか間違っているのか悩ましいところではあります。が、こういう行動に出るところを見ると、浪巫謠は殤不患よりは頭が固い、というか生真面目なのかもしれません。
 もちろん凜雪鴉がここで倒されるはずもなく、魑翼でその場を去るのですが――この展開を彼が予想できなかったとは思えないわけで、それでは今回の行動はなんのためのものであったか、気になるところではあります。

 さて、そんな状況とは知る由もない殤不患は、不眠不休で調息を続けることで毒を抑えてきましたが、常人を遙かに越える内功を持つ彼でもこれは無茶というもの。ほとんど限界寸前の状況ですが――悪いことに、そこに蠍瓔珞と嘯狂狷、さらに彼の部下たちが近付いてきます。自分の作った毒であれば匂いで察知できる――と、蠍の一匹を探知機代わりに使う蠍瓔珞の前には、浪巫謠のカムフラージュ策も通じず、急いで洞窟から逃れる殤不患ですが、しかし弱った身体で遠くまでいけるはずもありません。
 捕吏たちに見つかり、たちまち追いつめられる殤不患。いくつもの傷を負いつつも、その場から何とか逃れようとする彼の姿は、大侠らしからぬものがあるかもしれませんが――しかし自分のために仲間たちが命を賭けている時に、自分が倒されるわけにはいかないという彼の意地は、やはり好漢のそれと言うほかありません。
(そんな殤不患の――江湖の好漢の行動原理をあざ笑う嘯狂狷は、やはり江湖に対する官の側の人間なのだと感じます)

 しかしそんな殤不患の心意気を理解できぬ蠍瓔珞と嘯狂狷は、それぞれ調子に乗った悪役そのものの、余裕こいて油断しきった台詞を吐くのですが――そこに空から駆けつけたのは浪巫謠! しっかり解毒薬を完成させていた浪巫謠から薬を受け取った殤不患が思い切って飲み込むと――何かスゴい光とか飛び出して、一瞬のうちに毒はおろかダメージも回復した様子。さあ、今度は殤不患のターンだ! というところで次回に続きます。


 OP映像を見た時はてっきりラスボスかと思ったら、単なる素材の元だった龍との対決が描かれた今回。その対決の模様や、その後の思わぬ仲間割れなどそれなりに楽しめたのですが、やはり物語は前に進んでいない印象であります。
 そろそろ物語は折り返し地点にさしかかりますが、物語の向かう先がまだ見えないのは、正直に言って不安なところです。


『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』第2巻(アニプレックス) Amazon
Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2 2(完全生産限定版) [Blu-ray]


関連サイト
 公式サイト


関連記事
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第1話「仙鎮城」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第2話「奪われた魔剣」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第3話「蝕心毒姫」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第4話「親近敵人」

 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第1話「雨傘の義理」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第2話「襲来! 玄鬼宗」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第3話「夜魔の森の女」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第4話「迴靈笛のゆくえ」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第5話「剣鬼、殺無生」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第6話「七人同舟」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第7話「魔脊山」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第8話「掠風竊塵」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第9話「剣の神髄」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第10話「盗賊の矜恃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第11話「誇り高き命」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第12話「切れざる刃」
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その一)
 『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』 第13話「新たなる使命」(その二) と全編を通じて
 『Thunderbolt Fantasy 生死一劍』 剣鬼と好漢を描く前日譚と後日譚

| | トラックバック (0)

2018.10.30

瀬下猛『ハーン 草と鉄と羊』第3巻・第4巻 テムジン、危機から危機への八艘跳び状態


 生き延びた源義経が海を渡り、ユーラシア大陸でテムジンを名乗って大陸制覇に乗り出す――そんな古典的な伝説を題材にしつつ、新たな物語を生み出してみせる『ハーン 草と鉄と羊』の第3巻&第4巻であります。いきなりの挫折からモンゴルに逃れたテムジン。そこから立ち上がる術は……

 兄・頼朝の手の者に追い詰められた末、ただ一人海を渡り、大陸に辿り着いた義経。そこで謎の男・ジャムカと盟友(アンダ)となった彼は、北方の3強の一つ・ケレイトのオン・ハーンの下に身を寄せるのですが――その首を狙った企てはあっさりと失敗、逃亡の果てにモンゴルに辿り着きます。
 そこでお調子者ながら、天下を夢見る青年・ボオルチュと出会い、彼の紹介で、今は亡きキャト氏の族長・イェスゲイの未亡人であるホエルンのもとに身を寄せた二人。しかし敵対するタイチウト族と二人が事を構えたことで、一族全体が危機に晒されることに……

 というわけで、これまで個人レベルの戦いは描かれていたものの、ついに集団レベルの――すなわち、兵を率いての戦いを経験することとなったテムジン。
 多勢に対して少数で策を巡らせて勝利する、というのはというのは定番中の定番ではありますが、源平合戦でも先進的過ぎる(と言われている)戦を繰り広げた男が戦うのですから、負けるはずはありません。

 ……と言いたいところですが、この戦いを収めたのは彼の力だけでなく、介入してきたケレイト軍の力あってこそ。しかしケレイトといえば、テムジンはその長の暗殺未遂犯であります。この時はごまかせたものの、いつかテムジンの存在がばれた暁には、ただで済むはずがありません。
 もちろん、テムジンも座して待つだけの男では当然なく、この戦いで勝ち得た名声をはじめ、使えるものは全て使って自分の勢力を広げるべく動き出すことになります。

 そんなテムジンにボオルチュは「あんたは俺のハーンだ」と語り、そしていまやオン・ハーンの義子となり、モンゴルで一番勢いがあると言われるジャムカも再登場。テムジンとジャムカ、二人のどちらかが高原を統一し、大陸を西進しようと希有壮大な誓いを交わすのでありました。
 しかしその前に、テムジンの首を狙い、ジャムカを追い落とそうとするケレイトの隊長・ダイルが立ち塞がります。そしてさらに、モンゴルにはオン・ハーンその人までもが姿を見せて……


 というわけで、危機から危機への八艘跳び状態のテムジン。普通の国盗り、普通ののし上がりだけでも大変なところですが、そこにテムジンとしての過去、義経としての過去が重なるのですから、さらにややこしい状況であります。しかしそれはもちろん、物語がそれだけ面白くなるということであることは言うまでもありません。
 第3巻のクライマックスがボオルチュと、そしてジャムカと大望を語るテムジンの姿であったとすれば、第4巻のクライマックスは、これは間違いなくテムジンとオン・ハーンの再会でしょう。

 かつて自分を殺そうとした男をオン・ハーンはどう遇するのか、そしてテムジンはそれにどう応ずるのか。
 実はこの二人の再会は、第3巻での次巻予告に取り上げられているのですが、そこで黒塗りにされていたテムジンの台詞にはさすがに仰天。あまりのテムジンの鉄面皮と、それを飲み込むオン・ハーンの腹芸にはただ唸るほかなく、二人のキャラクターが良く出た名場面と呼んでもよいのではないでしょうか。


 しかし、まだまだテムジンの向かう先には前途多難という言葉も生ぬるい困難が続きます。第4巻の終盤においては、テムジンと互いに関心を寄せ合っていたコンギラト族の娘・ボルテがメルキト武の変態じみた長に奪われ、テムジンは単身救出に向かうことになるのですが……

 第2巻に意味ありげに顔を見せたホラズム・シャー朝の少年のドラマも本格的に動きだし、こちらがテムジンの物語とどう交わるのか、それも気になるところであります。


『ハーン 草と鉄と羊』第3巻・第4巻(瀬下猛 講談社モーニングコミックス)

ハーン ‐草と鉄と羊‐(3) (モーニング KC)

瀬下 猛 講談社 2018-08-23
売り上げランキング : 28301
by ヨメレバ

ハーン ‐草と鉄と羊‐(4) (モーニング KC)

瀬下 猛 講談社 2018-10-23
売り上げランキング : 3793
by ヨメレバ

関連記事
 瀬下猛『ハーン 草と鉄と羊』第1-2巻 英雄・義経の目を通して描かれる異郷の歴史

| | トラックバック (0)

2018.10.29

野口賢『幕末転生伝 新選組リベリオン』第2巻 新選組のかつての未来、現在という過去


 斎藤一の転生である(と思われる)現代の高校生・幸田ヒロユキが、幕末にタイムスリップして新選組の仲間たちとともに再び戦い始めるという極めてユニークな新選組漫画の第2巻であります。ヒロユキが戸惑いながら戦いを始める一方、彼と同時にタイムスリップしてしまった女性教師・奥山の運命は……

 超高校生級の空手の実力を持ちながらも、その力を持て余していたヒロユキ。ある日突然幕末にタイムスリップしてしまった彼は、かつて街角でやり合ったMMA使いの菊池――今は藤堂平助と名乗る彼から斎藤一と名を呼ばれることとなります。

 わけのわからぬまま、彦根鬼忍衆なる忍者たちとの文字通り真剣勝負に巻き込まれたヒロユキは、試衛館に集う若者たち――近藤・沖田・山南・原田・永倉らとともに鬼忍衆を撃退したのですが――その頃、八王子の山中にタイムスリップしていたのは、ヒロユキの担任の奥山先生。
 山賊に襲われても、大の男に一歩も引かぬ武術の腕で渡り合う彼女ですが、しかし記憶喪失にもなってしまったという状況下で、苦戦を強いられることになります。

 そんな彼女の窮地に現れたのは、坂本龍馬と名乗る男、そして八王子千人同心・井上源三郎。奥山先生を救った二人は、今この時代が幕末であることを語るのですが――彼女を一目で未来人と見抜いた源さんは何者なのか?(そして未来人云々の話に平然とついていっている龍馬も謎だらけですが……)


 と、この巻も冒頭から色々な意味で驚かされ展開の連続ですが、続いて描かれるのは――そしてこの巻のメインとも言える部分は――ヒロユキと沖田総司の対決。
 幕末に来た己にとって唯一の武器ともいうべき空手の鍛錬に励むヒロユキに対し、山南はその技を否定し、総司との無手での三本勝負を命じるのであります。

 言うまでもなく総司は剣士、無手での戦いについての記録は見たことがありませんが、しかし剣の達人が無手であっても強い、というのはそれなりに説得力がありますし――何よりも格好良い。かくて始まった三本勝負、沖田はこちらの期待通りと言うべきか、得意の突き技でヒロユキを圧倒することになります。

 この辺りのアクション描写は、少年ジャンプ時代から空手を題材とし、本人もかなりの腕だという作者ならでは、というべきですが――なにはともあれ、戦いの経験値という点では分が悪いヒロユキは総司に追い込まれることとなります。
 そんな彼に対し、その場に現れた近藤は、ヒロユキにある言葉をかけるのですが――いやはや、これが新選組漫画では空前絶後のアドバイス。というより、本作でなければ絶対出てこないもの凄いセリフであります。

 そもそも本作の近藤は、あの後世のイメージとは全く異なり、剣術はおろかスポーツにも疎そうな、むしろ将棋部にでもいそうな黒縁メガネの青年。
 そんなビジュアルの彼が、幕末の人間であれば絶対に言わないようなことを言うということは、彼もまた未来から来た人間なのだろうとは思いますが――しかしそれはここではまだ明かされず、その代わりに(?)描かれるのは、総司の「未来の記憶」であります。

 「かつて」病に倒れ、仲間たちからおいていかれることとなった「未来」の総司。そこで彼は引き留めようとする斎藤と立ち合おうとしていたのであります。いわば「現在」のヒロユキとの立ち合いは、その「未来」の再戦と言うべきもので――と、実に時制がややこしいのですが、しかしそのややこしさこそが、本作独自の魅力であることは言うまでもありません。

 副題にあるとおり、転生ものであると同時に、タイムスリップものである本作。ヒロユキの存在を見れば、(第1巻の紹介でも書いたとおり)どうやら幕末に倒れた新選組の面々が現代に一度転生し、そして幕末にタイムスリップして戻ってきているようなのですが――さて本作に登場する新選組隊士(になる面々)が全員そうであるのか?
 それはまだまだわかりませんが、この点こそが本作の物語の中核を為す秘密であることは間違いありません。


 そしてこの巻の終盤では、残る最後の試衛館組である土方が登場。薬屋と言いつつ、スパイか大泥棒のようなアクションを見せる彼が、第1巻に登場した勅諚を巡り、鬼忍衆と対決することになるのですが――さて本筋とも言うべきこの展開がどこに向かうのか。

 正直に申し上げれば、漫画的には――絵的にも構成的にも――どうかなあ、という部分が多々あるのですが、この唯一無二の物語がこの先どこに向かうかは、大いに気になるところではあります。


『幕末転生伝 新選組リベリオン』第2巻(野口賢 秋田書店ヤングチャンピオン・コミックス)

幕末転生伝新選組リベリオン 2 (ヤングチャンピオンコミックス)

野口賢 秋田書店 2018-10-19
売り上げランキング : 15073
by ヨメレバ

関連記事
 野口賢『幕末転生伝 新選組リベリオン』第1巻 転生+タイムスリップの新選組奇譚!?

| | トラックバック (0)

2018.10.27

川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第10巻 最終決戦目前! 素顔の張良と仲間たちの絆


 抗秦の戦いもいよいよ佳境、単行本もついに二桁に突入した本作。この巻では項羽サイドはほとんど(ただし、極めて重要な場面を除いて)描かれることなく、その全てで劉邦の、すなわち張良の戦いが描かれることとなります。関中を目前とした劉邦軍の行く手に待ち受けるものは……

 先に関中に入り、咸陽を落としたものが天下の王となる――そんな構図の下、再び合流した張良の策により天下の険たる函谷関を避け、武関を目指す劉邦軍。途中、調子に乗った劉邦のチョンボによって窮地に陥るも、張良の機転によって事なきを得た一行は、ついに武関を目前とすることになります。
 しかしここから先は秦の地、兵糧もさることながら兵の志気も考慮に入れることを進言する張良ですが――ここに状況を一変させるような報が入ります。

 そう、なんと秦軍を率いて項羽に真っ向から抗していた章邯が降伏し、これによって関中への障害がなくなった項羽は、一気に西進を始めることとなったのであります。

 これもまた張良の予想通りではあります。しかしこの報を受けて彼の中にたぎるのは、他人の手ではなくこの手で――すなわち項羽軍ではなく劉邦軍が秦を滅せねば気がすまないという強い想い。
 万事冷静さを崩さぬ彼にしては珍しく感情的な姿を見せる場面ではありますが――しかしそんなある意味素顔の彼を理解し、支える窮奇と黄石の姿が実にいい。そして二人の想いに応え、これが「私戦」だと――己の名が地に墜ちても本望と思い定める張良の姿もまた熱いのであります。

 そしてある意味箍を外した張良の策によって武関、そして嶢関攻めが行われることになりますが――ここで武関の将が金に汚いことをついてこれを宝物で落とす張良。
 そして武関の兵とともに嶢関に進軍する張良ですが、彼が珍しく気を緩める姿に不安感を覚えてみれば――いやはやこう来たか、と唸らされる展開が描かれることになります。

 なるほど、史実からすればこの展開以外はないのですが(尤も、あとがきによればこの辺りも作者の苦慮が窺われるのですが……)、しかしこの辺りの盛り上げ方の巧さは、これはやはり作者の業というものでしょう。


 そしてついに関中に入った劉邦と張良ですが――ここで描かれるのは秦国内の混乱と、二世皇帝・胡亥を傀儡とする宦官・趙高の専横の姿。あの有名な馬鹿(うましか)の故事もここで描かれることとなりますが――その後の国を売って己の身を長らえようとする姿といい、いやはや、権力者の醜悪さは古今東西を問わず変わらぬものと見えます。

 それはさておき、その趙高の誘いに対し、毅然と断ってみせる張良の姿もまた格好良いのですが――真に盛り上がるのはここからであります。
 混乱の中にあるとはいえまだまだ秦の国力は強大、正面から咸陽を落とすのは不可能。だとすればどうすればよいのか――ここで秦の「心を折る」策を進言、いや宣言する張良と、劉邦を始めとする仲間たちが張良を信頼する姿は、ほとんど最終決戦直前のような盛り上がりなのです。


 いや、まさしくこれが秦との最終決戦。張良が、劉邦が、窮奇が、そして黄石までもが己の命を賭けて挑む戦いの行方は、劉邦軍優位に進むのですが、ここである事件によって秦軍の志気が一気に高まることに……
 前には秦軍が立ちふさがり、後ろには項羽が迫る中、果たして劉邦と張良の戦いの行方は――心憎いほど先が気になるヒキで終わる第10巻であります。

『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第10巻(川原正敏 講談社月刊少年マガジンコミックス)

龍帥の翼 史記・留侯世家異伝(10) (講談社コミックス月刊マガジン)

川原 正敏 講談社 2018-10-17
売り上げランキング : 929
by ヨメレバ

関連記事
 川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』 第1-3巻 史実と伝説の狭間を埋めるフィクション
 川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第4巻 史実の将星たちと虚構の二人の化学反応
 川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第5巻 激突、大力の士vs西楚の覇王!
 川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第6巻 覇王覚醒!? 複雑なる項羽の貌
 川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第7巻 覇王の「狂」、戦場を圧する
 川原正敏『龍帥の翼 史記・留侯世家異伝』第8-9巻 劉邦を囲む人々、劉邦の戦の流儀

| | トラックバック (0)

より以前の記事一覧