2017.03.26

山田秋太郎『墓場の七人』第2巻 出るも守るも続く地獄絵図

 七人の侍vsゾンビというコンセプトで度肝を抜いてくれた『墓場の七人』、待望の第2巻であります。生ける死者「屍人」から墓場村を守るために集められた七人の猛者。村に立て籠もった人々を守る七人ですが、しかし想像を絶する敵の能力と生態は彼らと村の人々を窮地に陥れることに――

 屍人に包囲された墓場村を救うため、用心棒を求めて各地に散った七人姉弟。末っ子の七平太も幾多の苦難を乗り越え、凄腕の剣士・一色を見つけて帰還、駆けつけた六人の用心棒とともに屍人の襲撃から村を救うことに成功します。

 集結した「墓場の七人」、その顔ぶれは――
 相手を百の肉片に挽くことからかつては百挽と呼ばれた男・一色
 この世の「腐れ」を好む剣呑極まりない体術使いの美女・邪魅羅
 僧侶にして医者でもある生真面目な青年・暮威
 華奢な美少年ながら、砂などの鉄分を自在に操る由利丸
 その由利丸とコンビを組む、大槍を持った寡黙な巨漢・百山
 金目の話に目がない商人にして、絡繰り使いの男・千両箱
 そして今なおその力を見せぬ壮漢・椿團十郎

 一色と邪魅羅以外は第1巻ラストが初登場というのは、集結過程をじっくり見せるのが定番の「○○の七人」ものからすれば異色ですが、しかし彼らの外連味の効きまくったビジュアルと能力を見れば、それも小さい拘りと思わされるほどの、堂々たる顔ぶれであります。


 さて、こうして集結した墓場の七人の任務は、十日のあいだ村を守ること。かつて行われた最大の合戦地(関ヶ原?)の死者を祀るために公儀によって作られたこの村を守るため、十日の後には公儀の援兵が到着するというのであります。
 しかしバリケードに隠れて守りを固めようとしてもそうもいかず……というのはゾンビものの定番。ほとんど休む間もなく村に襲撃を仕掛けてきた桁外れの巨体を持つ屍人「がしゃどくろ」の攻撃で防壁を破壊された村は、外敵に対して丸裸も同然。

 早くも総力戦を強いられることとなった墓場村ですが、しかし村人が手にする武器はありません(なるほど、時代背景を考えれば尤もな話ではあります)。
 ここで一色たちが藁をも掴む思いで頼ることとなったのは、物語の冒頭に登場した悪旗本が集めていた(のを邪魅羅がちょろまかして隠した)武器。そしてその中には、一色の家に代々伝わる退魔の刀が――

 かくて隠し場所に向かうのは、一色・邪魅羅・千両箱と七平太の二人の姉。しかし隠し場所は遠く、そこまでは無数の屍人が蠢く地を横断することになります。
 一方、村に残ることとなった七平太は、がしゃどくろの死体を調査した暮威から、屍人にまつわる恐るべき事実を知ることに――


 非力な人々が暮らす村を守るために戦うというのも「七人」ものの定番ですが、しかし守るだけの戦い、それも数もわからなければ文字通り不死身の体を持つ相手を向こうに回しての戦いは、一歩間違えれば単調になりかねぬものであります。
 本作はそこに十日間というタイムリミットを設けるとともに、一色たちが一度村を離れなければならない状況を設定することで、幾重にも捻った展開を用意してくれるのが嬉しいところです。

 しかしもちろん、村を出るも守るも、そこにあるのは屍人が蠢く地獄絵図。
 特に墓場村を襲った危機は、これまたゾンビものでは定番のものなのですが、しかし江戸時代の人間がそれを知るはずもないことから、惨劇が広がっていくというのが、なかなかいい。


 この先どれだけの惨劇が待つのか、そして素直に十日後に戦いは終わるのか……そして七人は生き残ることができるのか。
 まだまだ先の読めぬゾンビ時代劇のたどり着く先に期待であります。


『墓場の七人』第2巻(山田秋太郎 集英社画楽コミックス) Amazon
墓場の七人 2 (画楽コミックス愛蔵版コミックス)


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2017.03.25

野田サトル『ゴールデンカムイ』第10巻 白石脱走大作戦と彼女の言葉と

 ついに単行本も二桁の大台に突入した『ゴールデンカムイ』。思わぬ成り行きから手を組んだ杉元一味と土方一味ですが、脱獄王・白石が第七師団に囚われたことで、思わぬ道草を食うことに……

 鶴見一派がニセの刺青人皮を手に入れたことをきっかけに、一時休戦することとなった杉元と土方。贋作を見破る術を知る可能性がある贋作師・熊岸長庵と会うため、樺戸集治監に向かう一行は、チームをシャッフルして二手に分かれるのですが……もちろんその先でも騒動に巻き込まれることになります。

 アイヌになりすましていた脱獄囚一味と大乱戦を繰り広げた末、そのリーダーであり刺青人皮の持ち主である詐欺師・鈴川聖弘を捕らえた杉元チーム。
 一方、土方チームでは白石が第七師団と遭遇、捕らえられたことから、土方とキロランケという渋すぎるコンビが救出に向かうのですが……しかし白石のポンコツぶりと、彼自身が杉元に内通がバレることを恐れていたことから失敗に終わるのでした。

 合流した両チームは、鈴川の変装術を頼りに、大胆にも第七師団の本拠である軍都・旭川に潜入。首尾良く白石のところまでたどり着いた鈴川と杉元ですが、そこに鶴見中尉の懐刀の薩摩隼人・鯉登少尉が現れ――


 というわけで、白石救出作戦がメインとなったため、本筋はほとんど進まなかった今回。そのため……というわけではまさかないと思いますが、変態キャラの登場も少なく(登場しないとは言っていない)、比較的落ち着いた内容ではあります。

 しかしもちろん、それが面白くないということとイコールではないことは、言うまでもありません。
 相変わらずのテンションの高いギャグ(そして唐突に挿入される小ネタ)、アイヌグルメにアイヌ知識、陸海空(陸水空)に展開される派手なアクションetc.本作の魅力はここでもこれでもか、とばかりに詰め込まれているのですから。

 特に、白石救出作戦の中核として前巻で登場した鈴川の驚くべき変装スキル&詐欺師ならではの人心掌握術が展開されるくだりは、本作の隠れた(?)魅力であるサスペンス味が実に良く出た展開。
 それを迎え撃つ新キャラ・鯉登少尉も、まだまだ顔見せに近い出番ではありますが、精悍な見かけによらぬ一筋縄ではいかない面白キャラぶりを予感させ、今後の展開に期待を持たせます。

 そしてまた、主人公サイドだけでない数多くのキャラクターが入り乱れる本作の楽しさは、この巻でももちろん健在であります。

 今回は比較的動きが静かな鶴見中尉の前には、銃器開発の天才・有坂成蔵中将が登場。言うまでもなく有坂成章がモデルの人物かと思いますが、漫画版ゲッターロボの敷島博士の如きキャラ造形には――登場エピソードがこの巻屈指の異常なテンションであったことも相俟って――少ない出番が強烈に印象に残ります。

 さらに杉元たちを追う谷垣・インカラマッ・チカパシの前には、千里眼の超能力者・三船千鶴子が登場。
 こちらはもちろん御船千鶴子がモデルですが(ご丁寧に彼女のマネージャー的立場だった義兄・清原ならぬ青原というキャラも登場)、同じ千里眼持ちのインカラマッとの絡みは、思わぬ変化球で驚かせてくれます。
(それにしても有坂も御船も、モデルを容易に連想させつつも、あくまでも架空の人物という扱いなのは、色々と苦労が窺われます)


 しかしそんな中でもきっちりとラストを締めるのは、記念すべきこの巻の表紙・裏表紙を飾った杉元とアシリパであります。

 前の巻で、アシリパを守るためとはいえ、その彼女自身がドン引きするような大殺戮をやらかした杉元……その後も、いやそれ以前にも、普段の好青年ぶりとは裏腹の非情かつ狂気に満ちた表情を見せてきた彼に、アシリパがかけた言葉とは――

 杉元・鶴見・土方……彼らに共通するのは、戦争の狂気の中で己を輝かせ、そして戦争が終わった後もなお、その戦争に囚われ、己を見失ったことであります。
 だとすれば彼らは、杉元はもう戻ってくることはできないのか? その哀しい問いかけに対する一つの答えとして、アシリパの言葉は響きます。

 本作の最大の魅力……それは、どれほど極端な描写があろうとも、その奥に息づく人間性の存在と、それを描く筆の確かさであると、改めて確認させられた次第です。


『ゴールデンカムイ』第10巻(野田サトル 集英社ヤングジャンプコミックス) Amazon
ゴールデンカムイ 10 (ヤングジャンプコミックス)


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2017.03.23

唐々煙『曇天に笑う 外伝』下巻 完結、三兄弟の物語 しかし……

 アニメ化、舞台化、実写映画化と、本編終了から時間が経ってなおも盛り上がる『曇天に笑う』。その外伝である本作もアニメ化が決定とのことですが、物語はこの巻でいよいよ完結となります。。大蛇(オロチ)が滅んでもなおその力を弄ぶ人間たちに対して、曇三兄弟が最後の戦いを挑むことになります。

 かつて政府によって極秘裏に研究されてきた大蛇細胞。大蛇が倒されて以来、破却されたはずの研究が、今なお続けられている……人体実験の被験者と遭遇したことで、この忌まわしい事実を知ってしまった空丸と武田。
 兄・天火のような犠牲者を出さないため、実験施設の存在を探った二人は、そこで自分たちの上司であった「犲」の隊長・安倍蒼世をはじめとするメンバーが企てに関わっていたのを知ることになります。

 大蛇と戦うために存在してきた、そして誰よりも大蛇の脅威を知る蒼世たちの、裏切りにも等しい行為に衝撃を受ける二人。そんな二人と、同行する宙太郎と錦に襲いかかるのは、被験者の最後の生き残りである凶暴な男・虎。
 そして妃子とともに旅を続けていた天火も、(意外な人物から)一連の事件を聞かされ、空丸たちに合流すべく急ぐのですが――


 本編終了後に描かれる前日譚や後日譚という、文字通りの「外伝」としてスタートした本作。その後、中巻辺りから本作はその様相を変え、むしろもう一つの本編、「続編」とも言えるような内容で展開してきました。

 この大蛇細胞実験のエピソードに加え、さらに比良裏と三兄弟の前から姿を消した牡丹のエピソードまで並行して展開し、果たしてあと1巻で完結するのか……と中巻を読んだ時には感じたのですが、中巻よりも約100ページ増量となったものの、ここに大蛇細胞を巡る物語は完結することになります。。

 天火と蒼世との対決、空丸と蒼世との対決、空丸たちと黒幕の対決、空丸と虎の対決……バトルに次ぐバトルの果てに描き出されたのは、天火の跡を継ぎ、曇家の当主として、そして一人の剣士として空丸が立つ姿であります。

 この『曇天に笑う』という物語の本編において、曇家と大蛇の長きに渡る因縁には決着がつきました。その中で空丸の成長も描かれてはきたのですが――
 なるほど、空丸の天火超え、蒼世超えは明確には描かれなかったことを思えば、この外伝は「曇家と大蛇」の物語を踏まえたものでありつつも、「曇家の三兄弟」の物語、特に曇空丸の物語であったと言うべきなのでしょう。

 この巻に入ってからのバトルの釣瓶撃ちはまさにこれを描くためのものであった……そう感じます。

 もっとも、その中で描かれた空丸のある種異常な、危険なまでの捨身ぶり、さらにいえば宙太郎の強さへの想いについては、その先が描かれずに終わった感もあります。
 しかしそれは『曇天に笑う』とはまた別の――大蛇との戦いを描く物語とは離れた――三兄弟自身の物語ということになると思えばいいのでしょう。

 何はともあれ外伝も大団円。これまでの三兄弟の、周囲の人々の過去を振り返りつつ、その先の未来にも希望の光を感じさせる美しいエピローグとともに、本作は完結したのであります。
(以下、本作のある意味核心に踏み込みます)


 ――いや、比良裏と牡丹はどこへ行った?

 そう、本作において牡丹を探す比良裏は、この下巻冒頭でフェードアウト。物語が終盤に近づくにつれ、その不存在が気になって仕方がなかったのですが……まさかそのまま終わるとは。

 これは一体どういうことなのかしら……とさすがに考え込んでしまったのですが、どうやら二人の物語は、『泡沫に笑う』として完結する様子。
 外伝の外伝というのはちょっと驚かされましたが、大蛇に対する存在として、曇家に並んで比良裏と牡丹のカップルが存在することを思えば、この複線化はありえることなのかもしれません。
(この辺り、『煉獄に笑う』では両者の関係をうまくアレンジしていると思いますが)

 何はともあれ、ファンとしては最後までついていくしかありません。長きに渡る物語の最後の最後に何が描かれるのか……それが笑顔であることを疑わず、待ちたいと思います。

『曇天に笑う 外伝』下巻(唐々煙 マッグガーデンビーツコミックス) Amazon
曇天に笑う 外伝 下 (マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)


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 唐々煙『曇天に笑う 外伝』中巻 急展開、「その先」の物語

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2017.03.20

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その二)

 『コミック乱ツインズ』4月号の掲載作品の紹介の後編であります。今回も印象に残った作品を一つずつ取り上げます。

『エイトドッグス 忍法発見伝』(山口譲司&山田風太郎)
 木は森に、の例えの如く、現八が用心棒を務める吉原西田屋に隠れることとなった村雨姫と信乃。しかし敵もさるもの、半蔵配下のくノ一のうち、椿と牡丹が遊女志願を装って西田屋に現れます。
 現八はこれを単身迎え撃つことに――

 といってもここで繰り広げられるのは閨の中での睦み合い。しかしそれが武器を取っての殺し合い以上に凄惨なものとなりえるのは、忍法帖読者であればよくご存知でしょう。
 かくて今回繰り広げられるのは、椿の「忍法天女貝」、現八の「忍法蔭武者」、牡丹の「忍法袈裟御前」と、いずれ劣らぬ忍法合戦。詳細は書くと色々とマズいので省きますが、この辺りの描写は、まさにこの作画者のためにあったかのように感じられます。

 そして壮絶な戦いの果てに倒れる現八。原作を読んだ時は男としてあまりに恐ろしすぎる運命に慄然とさせられたこのくだり、あまり真正面から描くと、ギャグになってしまう恐れもありますが……
 しかし本作においては、前回語られたように村雨姫にいいところを見せるために戦いながらも、決して彼女には見せられない姿で死んでいくという悲しさを漂わせた画となっているのに、何とも唸らされた次第です。


『鬼切丸伝』(楠桂)
 時代と場所を次々と変えて描かれる本作ですが、今回のエピソードは前回から続き、本能寺の変の最中からスタート。蘭丸を失った悲しみから鬼と化した信長は、変を生き残り(と言ってよいものか?)自我を失うことなく、怨みと怒りを漲らせながら、光秀とその血族に襲いかかることになります。
 それを阻むべく信長の後を追う、鬼斬丸の少年ですが、さしもの彼も鬼と化した信長には苦戦を強いられて――

 これまではどんな人物であっても、一度鬼と化せば理性を失い、人間を襲ってその血肉を喰らうしかない姿が描かれてきた本作。そんな中で、言動はまさしく「鬼」のそれであっても、明確に己の意志で動く信長はさすがというべきでしょうか。
 そして生前の彼を、この世に鬼を呼び込む怪物と見て弑逆に走った光秀もまた、その本質を正しく見抜いていたと言えますが……しかしそんな彼であっても、信長に家族が襲われるという煩悶から鬼となりかけるというのが哀しい。

 人が鬼を生み、鬼が鬼を生む地獄絵図の中、人がどうなっても構わぬと明言しつつも、その行動が結果的に人を救うことになる少年の皮肉も、これまで以上に印象的に映ります。
 そして物語はさらに続くことに――


『政宗さまと景綱くん』(重野なおき)
 父・輝宗を殺され、怒りに逸るままに力押しを仕掛けて失敗した政宗。今回はそんな彼が己を取り戻すまでが描かれることとなります。

 悲しみのあまりとはいえ、景綱ですら止められぬほどに我を忘れて暴走する政宗。その怒りは、必死に彼を止めようとする愛姫にまで向けられ……と、姫に刀を向ける姿にはさすがに引きますが、しかし何となく「ああ、政宗だからなあ……」と納得してしまうのがちょっと可笑しい。

 もちろんこの辺りの描写にふんだんにギャグが散りばめられていることもあるのですが、変にフォローが入らない方が、かえって人物への好感を失わないものだな、と再確認しました。


 その他もう一つの新連載は『よりそうゴハン』(鈴木あつむ)。長屋に妻と暮らす絵師が料理をする姿を通じて描く人情もののようですが、展開はベタながら、今回の料理である焼き大根、確かにおいしそうでありました。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年4月号 [雑誌]


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2017.03.19

『コミック乱ツインズ』 2017年4月号(その一)

 今月もやってきました『コミック乱ツインズ』。今月号の表紙&新連載は、叶精作の『はんなり半次郎』であります。

『はんなり半次郎』(叶精作&篁千夏)
 というわけで京は御所近くの古道具屋「求善賈堂」を舞台とする本作。タイトルロールの半次郎はその店主、男名前ですが代々継がれている名であり、当代の半次郎は三十路半ばの女性であります。

 その求善賈堂に半次郎を訪ねてきた盲目の少年・幸吉。同じ古道具屋であった親を押し込み強盗に殺され、自分も視力を奪われた彼は、店から奪われた品物が求善賈堂に出たと聞いて、江戸からはるばるやってきたのであります。
 残念ながらその品は既に売れた後だったものの、事情を聞いた半次郎は幸吉に対してある行動に出るのですが……

 古道具の目利きにしてしたたかな商売人、剣の達人にして腕利きの蘭方医、そしてもちろん美女、といささか盛りすぎにも見える半次郎。
 しかしこの第1話では、銘刀を売りに来た武士とのやりとり、そして幸吉の目の治療と、流れるようにその特徴の数々を示してみせ、終盤にちょっとしたどんでん返しも挟んでみせるのは、さすが、としか言いようがありません。

 が、このコンビだと……と思った通り、間に入るサービスシーンが強引すぎて、いやいやいや、いくらなんでも! とツッコミを入れざるを得ません。それも期待されているのだとは思いますが、いかがなものかなあ。


『エンジニール 鉄道に挑んだ男たち』(池田邦彦)
 明治を舞台に日本の鉄道の曙を描く本作も、はや第3話。関西鉄道から官営鉄道に移籍することを決意した島安次郎は、同じ関西鉄道の凄腕機関手・雨宮にも移籍を持ちかけるのですが……もちろんというべきか、職人気質の雨宮が肯んじるわけがありません。
 そして時は流れ、いよいよ私鉄国有化の流れが決定的になった中、引退を目前とした雨宮の前に現れた島は――

 島と雨宮、管理運行側と現場という立場の違いはあれど、それぞれの立場から鉄道に深い愛情を注ぐ二人の交流を中心に描いてきた本作。
 島が雨宮を口説き落とせるかが今回の眼目ですが、ある意味お約束とも言える展開ながら、二人の真っ直ぐな想いが交錯し、そして合流する様はやはり胸を熱くさせるものがあります。

 雨宮の後継者たちの成長を示す描写も見事で、回を追うごとに楽しみになってきた作品です(そして今回もおまけページが愉快。確かにそれは難題だと思いますが……)。


『勘定吟味役異聞 破斬』(かどたひろし&上田秀人)
 よく見たら表紙に「全10回」と記載されていた本作、今回は第8回ですので、ラスト3回ということになります。

 今回はまさしく決戦前夜といったところ、柳沢吉保・荻原重秀側からは絡め手の引き込みが、新井白石からは温かみの欠片もない命令と板挟みの状況を一挙に打開すべく、自ら虎口に飛び込むことを決意した聡四郎。
 しかしその聡四郎の役に立ちたいと無謀にも敵方の牢人の跡を付けた紅が――

 と、決戦に向けてどんどん盛り上がっていく……というより聡四郎が追い込まれていく状況。
 しかしこうして改めて見ると、紅の行動は今日日嫌われるヒロインのそれ以外のなにものではないのですが、不快感を感じないのは、これは画の力――有り体に言えば、紅が非常に可愛らしく描けているからに他ならないと感じます。

 改めて画の力というものを感じた次第です。


 以降、長くなりますので、次回に続きます。


『コミック乱ツインズ』2017年4月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2017年4月号 [雑誌]


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2017.03.17

重野なおき『信長の忍び』第11巻 泥沼の戦いと千鳥の覚悟、しかし……

 アニメも二期決定と好調の『信長の忍び』、朝倉義景・浅井長政を滅ぼし、包囲網をついに突破した信長ですが、しかし意外なところで越前の戦いは本願寺と結びつき、泥沼の戦いが始まることとなります。そしてその果てに信長が取った戦略に対し、千鳥は……

 武田信玄が志半ばに斃れ、そして信長により朝倉・浅井が滅ぼされたことにより瓦解した信長包囲網。ここに信長の生涯最大の危機の一つが去ったことになりますが、しかしもちろん、それで彼を取り巻く脅威の全てがなくなったわけではありません。

 信玄の跡を継いだ勝頼による高天神城攻めにおいては家康に援軍を出せず、ようやく獲ったはずの越前国では一向一揆が勃発し混乱は深まるばかり。そして一向一揆の中枢ともいうべき本願寺が、最大の敵として立ちふさがるのであります。

 そしてその背後には越前と本願寺を繋ぐ存在が。そう、朝倉義景の娘であり、本願寺顕如の教如の妻となった三位殿の暗躍が……

 と、思わぬ暗黒ヒロイン・三位殿の登場に引っ掻き回されることとなるこの第11巻。
 主人公はもちろんのこと、これまで様々なヒロインが登場した本作ですが、復讐のために明確な悪意を持って政治を動かし、周囲を引っ掻き回していくキャラクターは彼女が初めてでしょう。

 もちろんそれは本作のオリジナル、そもそも史実に残っている部分が少ない人物だけに自由に脚色したというところで、ちょっと引っかかるのですが……(この辺りは後述)

 そして本願寺との緊張が極限までに高まった末に始まるのは長島一向一揆との戦いであります。
 信長の自領である伊勢・尾張両国にまたがる長島で起きたこの一向一揆を率いるのが下間頼タン、いや頼旦――強大な武力と優れた戦略眼、そして右に出る者はいない隠し芸の数々で、信長軍は、そして千鳥は大いに苦しめられることになります。

 ん、隠し芸!? となりますが、本当なのだから仕方ない。本来であればドシリアスな局面に、こんなキャラを投入してくるのが本作の面白恐ろしいところであります。
 いやはやこの頼タン、今まで登場してこなかったのが勿体ないほどの面白キャラ。特に偵察のために潜入した千鳥との絡みなど、それほど多くないボリュームでも、このキャラの存在感・魅力をきっちりとアピールしてくれるのは、作者ならではの技でしょう。


 が……呑気に楽しんでいられなくなるのがこの巻の後半の展開。そう、長島一向一揆において信長が何をしたのか――それは歴史が示すとおりであります。
 鉄壁の防御を誇る長島城に篭り、信長軍を寄せ付けぬ下間頼旦らに対し、兵糧攻めを仕掛ける信長軍。それはいいとして、城の者たちの助命を条件に開城・降伏した頼旦に対して、彼をはじめとする無数の門徒の命を、信長は騙し討ちで奪ったのですから。

 この信長の行動に対しては、その他の戦におけるそれと同様、様々な評価があるでしょう。しかし本作の主人公である千鳥は、信長の判断を疑わず、その命ずるままに動くことを宣言いたします。
 いやはや、どう言葉を飾っても騙し討ち(しかも相手の多くは自分の領民)でしかないものを、取り繕おうともしないのはある意味天晴というべきかもしれませんが、しかしそれを天下布武のために必要な犠牲と切り捨てるのは、やはり居心地の悪いものがあります。

 特に本作の場合、先に述べた三位殿が本願寺サイドで陰険に暗躍する姿を示すことで、信長の側が(どちらかと言えば)正しい、やむを得ないという印象を与える作劇となっているのは違和感が残ります。

 いや、そこまでは仕方ないとしても、覚悟を固めている千鳥を結果的に殲滅戦に参加させず、ラストの美談めいたオチにのみ参加させるのはいかがなものでしょうか。
(その美談も、よりによって本作でもフォロー困難なあの人物絡みという……)


 既に比叡山の焼き討ちという地獄をくぐり抜けた千鳥。その彼女がこうした覚悟を決めるのはむしろ当然であるかもしれません。そしてある意味信長の分身的存在であることを考えればなおさら。
 しかし一人の人間として、それで良いのか。信長を絶賛するだけでよいのか……その違和感の答えは、あるいはこの巻のラストで暗示されるある戦いにおいて示されるのかもしれません。

 その時はまだ先ですが……さて。


『信長の忍び』第11巻(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
信長の忍び 11 (ヤングアニマルコミックス)


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2017.03.16

片山陽介『仁王 金色の侍』第2巻 彼が来る理由、彼が去る理由

 コーエーテクモの時代アクションゲームを原作とした漫画版『仁王』の第2巻であります。大事な「家族」を奪った男を追ってこの国にやってきた金色の侍ことウィリアム・アダムスの冒険は続き、ついに彼は徳川家康との対面を果たすことになるのですが――

 1600年、日本に漂着した異国船リーフデ号に乗っていた男、ウィリアム・アダムス。折しもこの国の各地に出没する魑魅魍魎を唯一倒す力を持つ彼は、服部半蔵正就に誘われて中津城を襲った魑魅魍魎と戦う中、自分の「家族」である精霊シアーシャを奪った男・ケリーの手がかりの一端を掴むことに……

 そんな第1巻を受けて物語も本題に入った印象もある本作ですが、ウィリアム――人呼んで「按針」――の戦いはまだまだ前途多難。石田方に助勢し、家康を狙うケリーと対峙する胃べく家康の元に向かうウィリアムですが、半蔵の口添えがあるとはいえ、家康に対面することは容易いことではありません。
 そしてここでウィリアムの人物を見極めるために現れたのは、家康に古くから仕える老将・鳥居元忠であります。

 1600年に鳥居元忠といえば、浮かぶのはただ一つの史実ですが、ウィリアムと元忠が出会ったのは6月の時点。しかし彼はこの先の運命を知るかのごとく、ウィリアムに対してビシビシと稽古をつけることになります。
 そしてその果てにようやく家康と対面したウィリアムですが、やがてついに開戦する東軍と西軍の決戦。そのいわば囮となった元忠を救うため、ウィリアムは伏見城へ急ぐのですが――


 というわけで、もっと史実に構わずガンガンいくのかな、と思いきや、意外と史実を押さえてきた展開の第2巻。
 そんなこの巻の陰の主役は、何と言っても鳥居元忠であるわけですが、家康との心の通じ合い方など、ベタではあるものの、味のあるキャラクターとなっている印象です。

 そしてここでのウィリアムとの交流が、彼を伏見城に向かわせる理由、そして彼を伏見城から退去させる理由として機能しているのも、堅実ながら好印象。
 そしてそれが、家康の側にいる必要はあるものの極端なことをいえば他人事、異国の戦である関ヶ原において、彼を戦わせる大きな理由付けとなっているのは巧みなところです。


 しかしこうした展開がしっかりしていると、逆に本作オリジナルの部分――というよりゲーム由来であろう部分が浮いてしまうのも事実。例えば物語の途中、信貴山城や本能寺といった地を舞台とした魑魅魍魎との戦いが入りますが、「ああ、ゲームのステージなんだなあ……」と感じてしまうところはあります。
 また、伏見城戦も人間との戦いがメインとなっているため、魑魅魍魎はもういらないんじゃないかな、という印象もなくはないのは痛し痒しですが……

 こうした点はゲームの漫画化としてプラスなのかマイナスなのかは悩ましいところですが、この辺りも含めて、いよいよ関ヶ原の決戦に突入する次の巻にも期待するとしましょう。


『仁王 金色の侍』第2巻(片山陽介&コーエーテクモゲームス 講談社週刊少年マガジンKC) Amazon
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2017.03.13

大西実生子『僕僕先生』第3巻 世界の有り様、世界の広大さを描いて

 美少女仙人・僕僕とニート青年・王弁が広大な天地を旅する姿を描く漫画版『僕僕先生』もこれで第3巻。原作小説の方はラスト直前ですが、こちらの方も、のんびりと、しかし着実に物語の終わりに向かっています。

 僕僕に誘われるまま、当てどない(ように見える)旅へと出た王弁。長安の王宮での冒険を経て北方に向かった二人は、そこでどうみても駄馬にしか見えぬ天馬・吉良を手に入れ、なおも旅を続けます。
 そして二人が向かったのはなんとこの星から遠く離れた天の向こうの星星の世界。そこで僕僕とはぐれ、この世界の創造主たる帝江と出会った王弁ですが、吉良ともども、恐るべき「闇」である渾沌に飲み込まれることになります。

 悪意ある闇とも言うべき渾沌の中は、文目も分かぬという表現では生ぬるすぎるような真の暗闇、そこで正気を失ったものは渾沌に溶け込んでしまうという、恐るべき存在であります。
 どうにか吉良と出会った王弁ですが、しかし星星を渡るほどの吉良の脚力でも抜け出せぬほど、渾沌の中は果てがなく――

 というわけで文字通り神話クラスの存在に出会って大ピンチの王弁。それも中国の始原神話に登場するほどの存在ですから、凡人たる彼の手に余るというレベルではないのですが……しかしここで渾沌にまつわる過去の逸話を吉良から聞いた彼のリアクションが、実に彼らしくも微笑ましい。
 神話の中の神に対して、自分たち人間と同様のリアクションを想像してしまうのは、彼の凡人たる所以かもしれませんが、しかしそれは裏を返せば、彼が人間とそれ以外を分かたないということでもあります。

 そんな王弁の一種のおおらかさは、この先の物語に大きな意味を持つのですが……それはさておき。

 何とか元の世界に戻り、僕僕と再会した王弁(この辺りの何ともこそばゆい僕僕とのやりとりがまた実にイイ)ですが、次に彼らを待っていたのは、蝗害という大いなる災い。天を覆うほど大発生し山東地方を襲う蝗を、自らの力を貸して追い払おうとする僕僕ですが、しかしここで人間の側に意外な動きが起きることに――


 原作第1巻の漫画化である本作も、この第3巻で後半部分に入り、冒頭に述べたとおり王弁の旅も終盤にさしかかってきました。
 ここで描かれる物語は、基本的に原作のそれを大きく離れたものではなく、原作に忠実な漫画化ではあるのですが、しかしそこで示される絵が、これまで同様、これが本当に素晴らしいのであります。

 それは僕僕や王弁たちのキャラクター描写の妙にも表れていることは言うまでもないのですが、しかしこの第3巻で改めて感じ入ったのは、この物語の中で描かれる世界の広大さを見事に絵として表している点なのです。

 その広大さとは、渾沌に代表されるような中国の神仙世界の野放図とも言えるほどの壮大さに代表されるものですが、しかしそこにのみあるものではありません。
 それは、王弁が旅の途中で出会う様々な人々、各地の文化といったなどに示されるものであり、そして王弁の隣で謎めいた態度を見せる僕僕の心の中にもあるもの……一人の人間では到底全てを知ることがかなわないような一種の多様性であり、不可解さであります。

 思えば本作は、王弁から見た、世界の有り様というものを描く物語でした。引きこもりのニートであった彼が、僕僕という他者と出会い、その導きで外の世界を知る……その過程を描く物語であります。
 だとすれば、その彼が知ることになる世界を克明に絵として描くことが、その世界の広大さを、我々読者に示すことこそが、大げさに言えばこの漫画版の使命でしょう。そして本作は、それに見事に成功していると感じます。

 我々はこの漫画を通じて、僕僕が王弁に見せようとしているものを、同時に見ているのだと、そんな想いを抱かせるほどに――


 しかしその世界に存在するものは、決して我々に、彼らに好意的なものばかりではありません。
 この巻のラストで描かれたものは、そんな不穏なものの到来を予感させるものですが……さてそれが王弁と僕僕の旅の果てに何をもたらすのか。

 おそらくは次の巻で完結となるであろうこの漫画版がその果てに描くものを楽しみにしましょう。


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 「薄妃の恋 僕僕先生」
 「胡蝶の失くし物 僕僕先生」
 「さびしい女神 僕僕先生」
 「先生の隠しごと 僕僕先生」 光と影の向こうの希望
 「鋼の魂 僕僕先生」 真の鋼人は何処に
 「童子の輪舞曲 僕僕先生」 短編で様々に切り取るシリーズの魅力
 『仙丹の契り 僕僕先生』 交わりよりも大きな意味を持つもの
 仁木英之『恋せよ魂魄 僕僕先生』 人を生かす者と殺す者の生の交わるところに
 仁木英之『神仙の告白 僕僕先生 旅路の果てに』 十年、十巻が積み上げてきたもの

 『僕僕先生 零』 逆サイドから見た人と神仙の物語
 仁木英之『王の厨房 僕僕先生 零』 飢えないこと、食べること、生きること

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2017.03.09

山田秋太郎『墓場の七人』第1巻 屍人に挑む男と少年の生きざま

 別に専門家になったわけではないのですが、結果的にゾンビ時代劇の大半を取り上げているのではないかという気もするこのブログ。それだけゾンビ時代劇が増えているということかと思いますが、その中に新たな作品が加わりました。ありそうでなかった、七人の侍vsゾンビという作品が……

 突如として甦った生ける死者・屍人の群れの襲撃を受けた墓場村から、助っ人を探すという使命を背負って脱出した子供の一人・七平太。しかし彼は、町でトラブルに巻き込まれ、悪旗本の屋敷の牢に捕らわれの身に。
 そこで出会ったのは、腕は立つものの、あまりの残忍さで恐れられる人斬り――斬った相手の肉体を百の肉片に挽くことから百挽と呼ばれる男。初めは七平太を相手にしていなかった百挽ですが、しかし七平太が探しているのが屍人相手の用心棒であることを知り、そして旗本を前に必死の気迫を示した彼を認めて用心棒となることを肯います。かくて旗本屋敷を脱出した七平太と百挽改め一色は、墓場村への道を急ぐのですが――


 というわけで、冒頭にも述べたとおり、一言で表せば「七人の侍vsゾンビ」というシチュエーションの本作。考えてみれば野武士をゾンビに入れ替えたわけですが、しかしこれはコロンブスの卵というべきでしょう。決して少なくないゾンビ時代劇、そして七人の侍をベースとした「○○の七人」もの(?)にも、この趣向はほとんど初ではないかと思います。

 しかし本作は、野武士をゾンビに単純に代えただけの作品ではありません。その本作ならではの要素の一つ……それは一色と屍人の因縁であります。

 子供の頃、七平太同様、村を屍人の群れに襲われた一色。両親に隠されて辛うじてその場は助かったものの、村は全滅、そして屍人を率いる謎の男の前に、彼も深手を負わされたのであります。
 以来、屍人を追って旅しながらもその行方もわからず、彼は己の無力さを味わう中で荒れ、堕ち、人斬り「百挽」として恐れられるようになって――

 と、「○○の七人」ものは、あくまでも雇われただけの七人が、弱き者を守るために命を張るのが良いのであって、敵との因縁があるのはいかがなものか……という向きはあるかと思いますが、ここはどん底まで堕ちた男の復活劇であると見るべきでしょう(そもそも七人ものの最新作からして……)。


 そしてもう一つ、本作は少年の成長物語としての要素を持っています。

 用心棒を呼ぶために村から送り出された七平太。それは裏を返せば、彼自身にその場に残って戦うだけの力がないことにほかなりません。
 そして旅に出た先でもあっさりと捕らえられ、生と死ギリギリの選択を迫られることになるのですが……それでも屈しない彼の心が、一色を動かし、そして屍人との戦いを大きく動かしていくことになるのです。

 この第1巻のラスト、ついに村を襲った屍人の群れに、一度は絶望しかけた彼が、折れた刀を手に叫ぶ言葉……それは「七人」の雇い主として、真に敵と戦う者としてまことに相応しく熱い言葉。
 そしてその言葉に応えて……! というラストシーンには、こちらもただただ燃えるほかないのであります。


 もっとも、このラストシーンには、えっいきなり!? という印象を持つ方もいるかもしれませんが、私としては、いや、ここまで来たらこれしかなかろう、と答えるほかありません。

 男の復活劇と少年の成長物語――いわば二人の生きざまの発露が交錯した時に生まれた奇跡が、如何にして死者との戦いに道を切り開いていくのか。
 実は連載の方は次回で完結という状況、おそらくは本作は全3巻程度になるのではないかと思いますが、最後まで一気呵成に駆け抜けて欲しいと思います。


 それにしても中盤で一色が見せたとんでもなくメタな技(?)、漫画的には最強ではないでしょうか……いやすげえ。


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2017.03.06

横山仁『幕末ゾンビ』第3巻 死闘決着! 人のみが持つ力

 突如現れたゾンビにより大混乱となった戊辰戦争の最中、将軍・慶喜を守り北へ向かう永倉新八らの死闘もクライマックス。ゾンビの襲撃に、そして薩摩の追撃の前に次々と味方が倒れる中、なおも闘志を失わない新八は、真の敵の存在を知ることに……

 慶喜を守ってからくも大坂を脱出し、幕府逆転の秘策が眠る蝦夷地へ向かう永倉・原田・大石・市村ら新選組を中心とするメンバー。
 しかし無限に進化を続け、次々と仲間を増やすゾンビたちの前に原田は半ゾンビと化し、さらに薩摩が放った刺客・村田経芳により大石が討たれることに……


 と、地を駆け空を飛び、雨からも感染するゾンビのみならず、同じ人間をも敵に回すこととなった永倉。
 いや、元々敵は人間だったところにゾンビが乱入してきたのですがそれはさておき、こんな非常時でも追跡を諦めぬだけに、相手もただ者ではありません。

 村田経芳といえば、薩摩一の射撃の名手として知られ、後に日本初の国産小銃を開発した銃の申し子。鳥羽・伏見から東北まで、戊辰戦争で活躍した人物ですので、ここで登場するのは史実にも適っているのですが……

 しかし本作の村田は、不気味な能面に顔を隠し、超人的な射撃スキルによって永倉を追いつめるスナイパーとして登場。いや、たとえ距離を詰めたとしても、短銃でも恐るべき戦闘力を発揮する一種の怪物であります。
 そんな相手に刀一丁で挑む永倉も永倉ですが、ゾンビまでもが乱入する中で繰り広げる二人の死闘(日本刀と小銃でメキシカン・スタンドオフをやるとは!)は、この巻前半の名場面といえるでしょう。


 しかし、二人の戦いが激しければ激しいほど、そして名勝負というべきものに昇華されていくほど、一つの想いが強くなっていくことになります。ここまでゾンビ禍が広がる中で、人間同士がこんな戦いを続ける必要があるのか……と。

 その想いを受けるかのように、この巻の後半では、物語は大きな転換を迎えることとなります。
 村田との死闘の末、この戦いを終えるために、ある選択を決意する永倉、そして慶喜。そんな彼らに合流した勝海舟は、このゾンビ禍の真実を語ることになります。ゾンビの跳梁を終わらせる手段と、そして何より、ゾンビが出現した理由を――

 この辺り、どう考えても絶望しかない戦いを終わらせるには(物語的には)なるほどこの手しかないかと思いますし、真の敵の存在も、これまで伏線が張られていたことを考えれば納得なのですが……しかし前半までに比べれば、急激に物語が進みすぎた印象はあります。
(あの老人の文字通り決死の決意も有耶無耶になった感がありますし、そういえば沖田と土方はどこへ……)

 この辺り、予定よりも早く物語を完結させる必要が生じたのだろうなあ……と邪推してしまうのですが、もう本当に八方塞がりな状況が続いていただけに、そしてそれでもブチ抜いて見せるであろう面子が揃っていただけに、勿体ないという印象は否めません。


 しかしそれでも、限られた時間の中で、本作は描くべきは描いてみせた、というのもまた正直な印象であります。

 ついに正体を現した真の敵の猛攻に始まり、それに対して「人間として」挑む永倉たちの大反撃、そしてゾンビとは異なる形で死後の生を生きてきたあの男との決着ときて、そして! という感じのラストまで――
 個人的には「悪いのは全部○○」という展開は好みではありませんが、ええい、ここまで来たからにはやってしまえ! という勢いには、愛すべきものを感じます。

 ゾンビとの死闘を通じ、人の果てなき底力を描いてみせた『戦国ゾンビ』。それに対し、本作はその先の、人のみが持つ心が生む、一つの可能性を描いてみせた……と表すのは、綺麗すぎるでしょうか。


 それにしても……徳川幕府の影の守護者の活躍、見てみたかった。


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幕末ゾンビ  (3) (バーズコミックス)


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