2018.05.26

宇野比呂士『天空の覇者Z』第5巻 激突! 新生Zvs第三の超兵器

 ギヌメールの犠牲により、要塞島から脱出した天馬たち。彼らのもたらしたT鉱により、ネオ・カイザーツェッペリン号がついに起動する。しかしそこに襲いかかるベイルマン局長率いる第三の超兵器「聖なる道(ヴィア・サクラ)」。戦闘を優位に進めるZだが、ベイルマンは諸共に自爆を狙っていた……

 イタリア要塞島でのT鉱奪取作戦(実は陽動作戦)を成功裏に終え、飛行機で無事に要塞島を脱出した天馬・アンジェリーナ・J・ギヌメール隊長――と思いきや、そこに追いすがる数十機の敵機。そこで隊長は「ここは俺に任せて先に行け」をやり、姿を消すことに……
 悲しみを堪えてZのドックに向かう途中、ドイツ艦に遭遇したかと思えば、それはT鉱を奪取したネモの乗艦。ギヌメールの犠牲を一顧だにしないネモに怒りを燃やしながらも、天馬たちはネモと共にT鉱を積んで先に急ぐことになります。

 一方、Zのドックでは、ウェルの総指揮により生まれ変わったいわばZ(これまでのZは飛行試験も済ませていなかったプロトタイプ)がT鉱の到着を待っていたのですが――そこに突如襲いかかったのは、ベイルマン局長が指揮する要塞島に隠されていた第三の超兵器――「聖なる道」(ヴィア・サクラ)!
 カエサル(つまり第一帝国皇帝)が凱旋した街道を名に冠するこの艦こそは、ルフトバッフェ空中艦隊構想において高速戦闘巡洋艦の役割を果たす双胴の巨艦――居住性や艦載機等の代わりに、装甲と火力、機動性に全振りした戦闘艦であります。

 折角改修されたZも、発進前の猛攻には風前の灯火ですが、そこに駆けつけた天馬の機体は、凄まじい弾幕をくぐり抜け、ついにT鉱を届けることに成功します。しかし上空で待ち構える「聖なる道」はT鉱弾――ロケット弾の先にT鉱を取り付けたいわば小型のZ砲を発射。ドックもろともZは消滅――と思いきや、完全気密により水中から脱出したZは、天馬の操縦によりその姿を現すのでした(ちなみに天馬、前巻受けた重傷のため手術を受けた直後だというのにこの不死身っぷり)。
 しかしベイルマンもさるもの、雲の中に隠れて浮遊機雷でZの動きを封じ込め、さらにT鉱弾を発射! しかしネモの機転によりエーテルガスを放出したZはT鉱弾を逸らすと同時に機雷を跳ね飛ばし、一転攻勢で「聖なる道」に火力を集中。さしもの巨艦も大打撃を受けるのですが……

 しかしヒトラーへの愛、というより強烈な執着からZ打倒、そしてアンジェリーナ抹殺に燃えるベイルマンは最後の手段としてZと強制的に武装強化合体を実行、Zに対して白兵戦を挑むのですが――しかしこれが真の目的ではないと気付いた男がいました。それはギヌメール――撃墜されて捕らえられた彼は、ベイルマンの下に連行され、その戦いぶりを目の当たりにする中で、彼女がZもろとも自爆するつもりであることを見抜いたのです。
 しかしそこで容赦なくギヌメールを貫くベイルマンの弾丸。しかしその重傷の身を押して彼は銃座に向かい、射撃でもってモールス信号を送り、力尽きるのでした。

 そのメッセージを受け取ったネモの命で「聖なる道」にウェルとともに向かう天馬ですが、向かった先の敵のエンジンルームでは既に操作を終えたベイルマンが操作盤を爆破し、エンジンを止めることは不可能に。それならばエンジンを切り離して放棄を、と思えば、既に臨界近くなったT鉱の反重力現象により投下は失敗に終わってしまいます。
 そんな中、ギヌメールの無惨な姿を発見した天馬は、怒りに燃えて流星の剣をベイルマンに向けるのですが――しかしギヌメールの言葉が天馬を止めます(不死身か!)

 一方、敵の白兵戦力に突入されたZは苦戦中。特にその中の一人――到底常人と思えぬ怪力と耐久力を持つ巨漢の前に、次々と兵士は倒されていきます。ついに出陣したJのブーメラン剣でも倒せぬ強敵ですが、しかし突然何かを察知したかのように「聖なる道」に戻っていきます。
 その頃、その「聖なる道」では、ギヌメールの言葉に自分が為すべきことを思い出した天馬が、Zと敵艦を繋ぐアームを両断せんと構えるのですが――そこに割って入ったのはあの巨漢。天馬の刃が割ったヘルメットの下から現れたのは、かつてZ奪取の際に死んだはずの――というところで次巻に続きます。


 予想もしなかった第三の超兵器の存在に驚かされ、その相手をものともせぬネオZのパワーに驚き、そしてさらにそれをひっくり返す敵の攻撃に手に汗握り――と逆転また逆転の展開が非常に盛り上がるこの巻。それを飾る、脂の乗りきった作者の筆も素晴らしく、特にこの巻の天馬の気迫に満ちた表情・姿は絶品であります。

 あと、ギヌメール隊長の不死身っぷりには、リアルタイムで読んでいた時に本当に驚きましたね――立ち位置的にヤバいかと思っていたら、もう。


『天空の覇者Z』第5巻(宇野比呂士 講談社少年マガジンコミックス) Amazon
天空の覇者Z 5 (少年マガジンコミックス)


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2018.05.25

君塚祥『ホムンクルスの娘』 兵器として作り出された者たちの向かう先に

 昭和9年、軍の秘密機関・洩矢機関への所属を突然命じられた青年・羽田九二郎。未来を予言するという宗教団体に潜入することとなった彼は、そこで水中の中で眠る少女・月子と出会う。かつて洩矢機関から奪い去られた「呪物」の一つ、ホムンクルスであった月子を守りつつ、怪事件に挑む九二郎だが……

 昭和初期という時代、そして軍という組織には、何があってもおかしくないというムードがあるのでしょうか、しばしば伝奇ものの題材となっている印象があります。
 まさにその直球ど真ん中である本作に登場するのは、第11帝国陸軍技術部研究所特務・洩矢機関。様々なオカルト的な存在「呪物」を収集し、その軍事利用を目指すという、実に怪しげな秘密機関であります。

 そんな本作の舞台は、浅草に浅草十三階が聳える(!)昭和9年。その浅草で破落戸同然の暮らしを送っていた青年・羽田九二郎が、その洩矢機関にスカウトされたことから、この物語は始まります。
 何もわからぬまま、ほとんど拉致同然に突然機関に加わることとなった九二郎。彼の運命は、初任務である宗教団体への潜入でホムンクルスの娘・月子と出会ったことで、大きく動き出すことになるのであります。

 ホムンクルス――科学や呪術によって作り出された人造人間。科学者であった九二郎の祖父・九太郎によって作り出されたという月子は、かつて何者かの手によって他の「呪物」同様に機関より奪い去られていたのです。
 機関のトップシークレットでありその記憶と力の一部を失なった月子を、地霊を操る鬼道使い・火ノ島、古の水神の血を引く阿曇ら機関の先輩たちとともに守ることとなった九二郎。やがて彼らは、呪物を奪い、様々な能力者を集めて奇怪な事件を次々と引き起こす怪人党なる一団と対峙することになります。

 月子を執拗に狙う怪人党の真の狙いは何か。失われた月子の記憶の正体は。そして何の能力もないにもかかわらず、何故九二郎は洩矢機関にスカウトされたのか。
 数々の謎を秘めた物語は、やがて浅草十三階でカタストロフィを迎えることになるのであります。

 予言者やくだん、帝都地下の大空洞といったガジェットの数々、そして様々な異能を持つ能力者を散りばめて展開する本作。
 九二郎・月子・火ノ島・阿曇の四人が異能を武器に怪事件に挑むその様は、一種の特殊チームものとも言えますが、物語そのものの背景となるのが、彼らの母体である洩矢機関であることは言うまでもありません。

 しかしそこに所属する主人公たちが、人々を苦しめる怪事件解決のために活躍するとはいえ、やはり「呪物」の軍事利用というのは如何にも怪しく、そのためには人体実験、さらにはホムンクルスの製造までを行っていたといれば、到底「正義」の機関とは思えません。
 そもそも九二郎は破落戸同然だったとはいえ、一本気で正義感の強い、昔気質の若者。成り行きから機関に加わり、月子を守ることになった彼が、機関の本来の行動に賛同するはずもないのであります。

 もっともそのあたりの相克が意外と表に出てこないのが少々残念ではありますが、しかし物語が、機関に作り出された存在同士――兵器として作り出され、利用されてきた者たち同士の戦いとなるのはある意味当然の帰結と言えるでしょう。
 そして最終的に、その最たるものとも言うべき月子を中心として物語が展開するのもまた……

 果たして「その時」九二郎が何を語り、何を選ぶのか――そこで本作のタイトルを今一度振り返る時、何ともいえない想いが湧き上がるのであります。

 単行本全2巻と、正直なところ分量としては多くない本作。呪物等の題材は様々にあったであろうことを考えると、もっともっと描けたのではないかと、いささかもったいなく感じます。
 しかし、戦争・軍隊と伝奇というある意味マクロな題材を描きつつ、「人間」とは何か、その幸せとは何かというミクロな物語を織り上げてみせた結末としては、これ以外のものはないでしょう。

 解放感とある種の切なさを残す結末の味わいは、なかなかに得難いものがあったと感じます。

『ホムンクルスの娘』(君塚祥 一迅社ZERO-SUMコミックス全2巻) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
ホムンクルスの娘: 1 (ZERO-SUMコミックス)ホムンクルスの娘: 2 (ZERO-SUMコミックス)

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2018.05.24

朝日曼耀『戦国新撰組』第3巻 彼らが選び、撰んだ道の先に


 新撰組が突如戦国時代、それも桶狭間の戦直前にタイムスリップしてしまうという、とてつもないシチュエーションから始まった本作もこの第3巻で完結。既に変わり始めた歴史の行き着く先は、そしてその中で新撰組の面々の向かう先は……

 突然、新撰組屯所から戦国時代にタイムスリップし、織田と今川の激突寸前の戦場に現れた新撰組。幕末では最強を誇る彼らも、戦が日常であった時代では分が悪く、初めは追いつめられるものの、大乱戦の中で主人公・三浦啓之助が信長を射殺したことで、大きく状況は変わることになります。

 その中で、織田家に士官しようとしていた木下藤吉郎と結んだ新撰組。しかし戦いの中で深手を負った近藤は、後事を土方に託し、壮烈な最期を遂げることになります。
 近藤の遺志を継ぎ、信長の跡を継いだ濃姫に仕えることになった土方と新撰組。初めは今川方についていた山南・沖田・藤堂も合流し、戦力を増したものの、しかし濃姫の近くに控える明智光秀の正体は、同じくタイムスリップした桂小五郎であることが判明し……


 と、戦国と幕末、それぞれの人物が入り乱れる上に、その生死が史実と変わっていくことにより、向かう先が見えない本作。
 何しろ史実通り今川義元を討ったものの、信長亡き後の織田家が極めて不安定な状況にあることは言うまでもありません。そんな状況だからこそ、新参の藤吉郎、そして新撰組にも台頭の余地があるのですが――さて濃姫の、そして光秀(桂)の次なるターゲットは美濃であります。

 信長が道三亡き後の美濃を攻略したのは史実にあるとおりですが、しかし繰り返しになりますが、本作はその信長も亡き状態。しかも美濃斎藤家――正確には竹中半兵衛の下には、行方不明となっていた最後の新撰組隊長コンビ、原田左之助と永倉新八の姿があるではありませんか。
 しかし史実では最終的に近藤らと袂を分かったこの二人が、戦国時代でおとなしくしているわけがありません。案の定、二人は未来の(幕末の)兵器までも持ち込んでいて……


 というわけで美濃攻めがメインとなるこの第3巻。既に史実とはブレ始めた歴史の中、しかも新撰組同士が激突する戦場で、この戦がどのような結末を迎えるのか、というのが眼目であることは言うまでもありませんが――しかし実はそれ以上に印象に残るのは、新撰組隊士それぞれが辿る運命の結末なのです。

 既に近藤が志半ばにして斃れるという意外な展開となったわけですが、しかし考えてみれば史実においても近藤はやはり志半ばで散ったことに違いはありません。
 だとすれば、他の隊士たちも? というこちらの予感を裏付けるように、生き残った隊士たちも一人、また一人と、あたかも本来の歴史をなぞるかのように……

 これぞ歴史の修正力――というよりは見立ての面白さと言うべきでしょうか。史実での運命をこういう形でアレンジしてみせるか、とニヤリとさせられるような展開を用意してみせるのは、これはやはり原作者のセンスというべきでしょう。
 しかしそうだとすれば、一人、気になる人物が存在します。そう、本作の主人公たる三浦啓之助が。

 史実では新撰組隊士とは名ばかりに適当に歴史の荒波をやり過ごし、実につまらぬ最期を迎えた啓之助。その彼は、この物語においてどのような運命を辿るのか?
 それをここで語るわけにはいきませんが、なるほど、ここでこの違いを使ってくるか! と一捻り(更に漫画ならではのキャラデザインを逆手にとってもう一捻り)した上で、ある種の希望を見せてくれる結末は、大団円と言うべきでしょう。


 正直なところを申し上げれば、歴史の流れを描く上でも、新撰組隊士の運命を描く上でも、もう一巻欲しかった、という印象は強くあります(無情なまでの呆気なさもまた、本作の味わいかもしれませんが……)。
 特に本作においてジョーカーとなるべきある人物が、あまりに呆気なく、便利に使われた感があるのは、勿体ない限りであります。

 それでもなお、新撰組+戦国という、ある意味身も蓋もない取り合わせを、二つの歴史を巧みに摺り合わせながらも再構成し、一つの物語として描き直してみせた本作は、もう一つの新撰組を語る物語として、見事に結末を迎えたと言うことができるでしょう。

 どれほど流されたように見えても、彼らは史実同様に自らの道を選び、撰んだのだと――そしてその先に確かに道は繋がっていたと、本作は描いてみせたのですから。


『戦国新撰組』第3巻(朝日曼耀&富沢義彦 小学館サンデーGXコミックス) Amazon
戦国新撰組 3 (サンデーGXコミックス)


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 ことだま屋本舗EXステージ『戦国新撰組』

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2018.05.22

梶川卓郎『信長のシェフ』第21巻 極秘ミッション!? 織田から武田、上杉の遠い道のり


 その過去も明かされ、西洋料理の封印も解かれて、戦国生活も新たな段階に入ったケン。信長も最前線に出ることもなくなりましたが、まだまだ彼とケンの行方は波瀾万丈であります。この巻では、ついに動き出した謙信に対し、直接の会見を望んだ信長のため、ケンは決死の試みに出ることに……

 というわけで、「わしは謙信に会ってみようと思う」「よっておぬし(ケン)武田勝頼に捕まってこい」と、いきなり衝撃的なことを言い出した信長。
 久々に(?)人の一歩も二歩も先を行く信長の命令が飛び出した印象ですが、突然命令されてしまったケンも、それを聞いてしまった柴田勝家も面食らうどころではありません。

 しかし勝家がツッコんだように、これから合戦中の大将同士が会談するなどという前代未聞な試みを行うのであれば、正規ルートで話を通せるはずもありません。
 そもそも、織田軍は上杉方に攻められる七尾城救援のため、能登を目指している状況。一方、七尾城が陥落すれば、上杉軍は織田軍と対決するために一気に南下を始めることになります。そしてその七尾城では、親上杉方が力を持ち、落城は目前の状況……

 そんな中で、仮に大将同士が会談を望んだとしてもそれが円満に進むはずもありません。そして密使を送ろうにも伝手がなく、また地理的にも潜入は難しい――というわけでケンの出番となるわけであります。
 武将でも官僚でもなく、しかし信長の意を最も良く知るケン。その彼を、上杉とは現在同盟関係にある武田に捕らえさせ、陣中見舞いの名目で上杉に送らせる――いやはや、無茶苦茶ですが、実に本作らしい作戦でしょう。

 そしてそのための細い細い伝手が、以前ケンが協力した織田信忠と勝頼の妹・松姫の恋仲。この無茶な案のために使えるものは何でも使おうという信長の中に、謙信であれば自分の目指すところを理解できるのではないか――と期待する信長の孤独を見て、ケンが協力を決意するという展開も、また本作らしくて良いのであります。


 しかし考えれば考えるほど無茶なこの作戦、そもそも信忠と松姫の仲は秘密である上に、そこから勝頼との面談に持っていく手段がない。
 そして仮に勝頼と対面したとしても、ケンとはやたらに因縁のある彼が、素直に頼みを聞いて上杉に送ってくれるとは限らない。そして上杉に入ったとしても、どうやって謙信と対面し、彼だけに信長の意を伝えて納得させるのか……

 いやはや、あまりの不可能ミッションぶりに、こうして挙げていて逆に楽しくなってきましたが、この難題の数々を料理の力でクリアしていくのこそ本作の真骨頂。
 前巻ではケンの料理シーンが少なかったのが少々不満でしたが、この巻の後半では材料も不十分な中で、機転とテクニックで次々と難関を乗り越えていくケンの姿が存分に味わえるのも嬉しいところであります。
(そして作中で妙に美味しそうに見えたあの料理が、巻末で紹介されているのにも納得)

 また、久々に対面したケンと勝頼の対話の面白さも、これまでの積み重ねがあってこそのものでしょう(勝頼の「おぬしに飯を作らせるとろくなことがない!!」の言には爆笑)。
 そしてその一方で男として、武将としての器を見せる勝頼の描写も良く、ある意味この巻の裏のMVPは勝頼なのではないか――としら感じた次第です。


 さて、何とか上杉の陣中に入り込み、謙信の前で料理を作ったものの、やっぱり窮地に陥ったケン。
 その一方で織田軍の中では、唯一信長の真意を知る勝家と他の将の軋轢が深まり、ついに秀吉は勝頼と対立した末に離陣――のふりをして、独自に状況を探り始めることになります(なるほど、あの史実をこのように使うか、と感心)。

 そしてこの先に待ち受けているのは、手取川の戦い――謙信が織田軍を圧倒したと言われる合戦ですが、実はその規模や結果については諸説あり、不明な点も多いこの合戦を、本作がどのように扱うのでしょうか。
 前巻辺りからクローズアップしてきた、史実との整合性――歴史は変わってしまうのか否か?――も含めて、先が大いに気になるところであります。


『信長のシェフ』第21巻(梶川卓郎 芳文社コミックス) Amazon
信長のシェフ 21 (芳文社コミックス)


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 『信長のシェフ』第11巻 ケン、料理で家族を引き裂く!?
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 梶川卓郎『信長のシェフ』第13巻 突かれたケンの弱点!?
 梶川卓郎『信長のシェフ』第14巻 長篠への前哨戦
 梶川卓郎『信長のシェフ』第15巻 決戦、長篠の戦い!
 梶川卓郎『信長のシェフ』第16巻 後継披露 信忠のシェフ!?
 梶川卓郎『信長のシェフ』第17巻 天王寺の戦いに交錯する現代人たちの想い
 梶川卓郎『信長のシェフ』第18巻 歴史になかった危機に挑め!
 梶川卓郎『信長のシェフ』第19巻 二人の「未来人」との別れ、そして
 梶川卓郎『信長のシェフ』第20巻 ケン、「安心」できない歴史の世界へ!?

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2018.05.21

道雪葵『女子漫画編集者と蔦屋さん』 逆ハーレム? 江戸の出版界の変人たち


 お仕事ものというべきか、有名人ギャグというべきか――なんと現代の漫画編集者の女性が江戸時代にタイムスリップ、出版社の元祖ともいうべき蔦屋の下で、様々な浮世絵師・戯作者たちと賑やかな毎日を繰り広げるという四コマ漫画であります。

 祖父の家で、漫画の原点ともいうべき黄表紙を手にした途端、江戸時代にタイムスリップしてしまった女子漫画編集者の千代子。そこで当時飛ぶ鳥を落とす勢いの出版人・蔦屋重三郎と出会った彼女は、なりゆきから彼の店で働くことになります。
 現代でも過去でも変わらぬ(?)編集者の仕事をこなすなかで、後世に名を残す文化人たちと出会う千代子ですが、彼らはいずれもイケメンながらどこかヘンで……

 と、問答無用でタイムスリップした現代の女子編集者(同人経験アリの腐女子)が、江戸の出版界に飛び込んで――というと真面目な(?)お仕事もの、あるいは逆ハーレムものに見えるかもしれませんが、本作の眼目は登場する文化人のエキセントリックなキャラクターであります。

 何しろ、メインキャラたちがこんな調子なのですから――
蔦屋重三郎:人の心に無頓着な根っからの商売人
喜多川歌麿:重三郎にベッタリのオネエ浮世絵師
葛飾北斎:仕事に打ち込むと周囲が見えない浮世絵馬鹿
東洲斎写楽:常に能面を被った超引っ込み思案
曲亭馬琴:上から目線の俺様ドS
山東京伝:何事も体験してみないと気が済まない天然

 いずれもタイプの異なるイケメンなのはお約束ですが、こんな面子とラブい展開になるはずもなく、唯一の現代人かつ常識人である千代子が、彼らの行動にツッコミを入れる――というのが、毎回の定番であります。

 しかし上で述べた文化人たちのキャラクターは、本作独自のキャラ付けも多いものの、しかしその背景となっているのはきっちりと史実通りなのが、本作の最大の魅力であります。
(たとえば馬琴が蔦屋に奉公する前に、武士が商家に奉公できるかとわざわざ名を変えたエピソードなど)。

 また作中で取り上げられる(ネタにされる)作品も、馬琴の「尽用而二分狂言」や京伝の「江戸生艶気樺焼」など、もちろん実在の作品。
 江戸の黄表紙のユニークさ――というよりぶっ飛び具合は、時にネット上で話題になることもありますが、本作でも漫画らしくデフォルメされているものの、描かれる内容はなるほど原典通り。そこに千代子がツッコミを入れることで、さらにおかしみが増してくる、その塩梅も実に良いのであります。

 細かいことを言えば、黄表紙を漫画の先祖として強調するあまり、馬琴や京伝が現代でいう漫画業界の人間のような描写になっている点は気にならないでもありません。
 また馬琴が手代になった時期と京伝が手鎖くらった時期は逆ではないかな、など史実の上でのツッコミもありますが、それはさすがに野暮というものでしょう。

 基本的に(これ大事)史実を踏まえつつ、ギャグでデフォルメすることでその人物の存在やその作品の楽しさ、意義を描いてみせるというのは、これはやはり愛があって初めて為せるものであることは、間違いないのですから……

 ちなみに本作の舞台は寛政年間(1790年代初頭)。寛政といえば松平定信によって出版界が規制された寛政の改革ですが、本作のラストエピソードでこの改革が登場人物たちに与えた影響もきっちり描かれることとなります。
 もっともそれも笑い飛ばすのが本作、ラストは本当にギリギリのひどい(ほめ言葉)オチで終わるのですが……

 もちろんこの後もまだまだ元気な江戸の出版人。ここで終わるなんてもったいない、まだまだ愉快でパワフルな彼らの姿を見せてもらいたいところであります。

『女子漫画編集者と蔦屋さん』(道雪葵 一迅社ZERO-SUMコミックス) Amazon
女子漫画編集者と蔦屋さん (ZERO-SUMコミックス)

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2018.05.20

「コミック乱ツインズ」2018年6月号


 今月の「コミック乱ツインズ」誌は、表紙&巻頭カラーが『用心棒稼業』(やまさき拓味)。レギュラー陣に加え、『はんなり半次郎』(叶精作)、『粧 天七捕物控』(樹生ナト)が掲載されています。今回も印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『用心棒稼業』(やまさき拓味)
 先月に続いて鬼輪こと夏海が主人公の今回は、前後編の後編とも言うべき内容です。
 旅の途中、とある窯元の一家に厄介になった夏海。彼らのもとで生まれて初めて心の安らぎを得た彼は、用心棒稼業を抜けて彼らと暮らすことを選ぶのですが――鬼輪番としての過去が彼を縛ることになります。

 夏海の設定を考えれば(いささか意地の悪いことを言えば)この先どうなるかは二つに一つ――という予想が当たってしまう今回。そういう意味では意外性はありませんが、夏海の血塗られた過去と、悲しみに沈む心を象徴するように、雨の夜(今回もあえて描きにくそうなシチュエーション……)に展開する剣戟が実に素晴らしい。
 駆けつけた坐望と雷音の「用心棒」としての啖呵も実に格好良く印象に残ります。

 それにしても最終ページに「終」とあるのが気になりますが……

『桜桃小町』(原秀則&三冬恋)
 隠密(トラブルシューター)の裏の顔を持つ漢方医・桃香を主人公とした本作、今回の題材は子供ばかりを狙った人攫い。彼女の顔見知りの母子家庭の娘が、人攫いに遭いながらも何故か戻された一件から、桃香は事件の背後の闇に迫るのですが――その闇があまりにも深く、非道なものなのに仰天します。
 この世界のどこかで起きているある出来事を時代劇に翻案したかのような展開はほとんど類例がなく、驚かされます。

 一方、娘を攫った犯人が人間の心を蘇らせる様を(色っぽいシーンを入れつつ)巧みに描いた上で、ラストに桃香の心意気を見せるのも心憎い。前後編の前編ですが、後編で幸せな結末となることを祈ります。

『勘定吟味役異聞』(かどたひろし&上田秀人)
 今回から原作第3巻『秋霜の撃』に突入した本作。六代将軍家宣が没し、後ろ盾を失ったことで一気に江戸城内での地位が低下した新井白石と、新たな権力者となった間部越前守の狐と狸の化かし合いが始まります。
 その一方、白石がそんな状態であるだけに自分も微妙な立場となった聡四郎は、人違いで謎の武士たちの襲撃を受けるもこれを撃退。しかし相手の流派は柳生新陰流で……

 と第1回から不穏な空気しかない新展開ですが、聡四郎を完全に喰っているのは、白石のくどいビジュアルと俗物感溢れる暗躍ぶり(キャラのビジュアル化の巧みさは、本当にこの漫画版の収穫だと思います)。
 そんな暑苦しくもジメジメした展開の中で、聡四郎を想って愁いに沈んだり笑ったりと百面相を見せる紅さんはまさに一服の清涼剤であります。

『鬼切丸伝』(楠桂)
 今回はぐっと時代は下って江戸時代前期、尾張での切支丹迫害(おそらくは濃尾崩れ)を描くエピソードの前編。幕府や大名により切支丹が無残に拷問され、処刑されていく中、その怨念から切支丹の鬼が生まれることになります。
 切支丹であれ鬼を滅することができるのは鬼切丸のみ――のはずが、その慈愛と赦しで鬼になりかけた者を救った伴天連と出会った鬼切丸の少年。それから数十年後、再び切支丹の鬼と対峙した少年は、その鬼を滅する盲目の尼僧・華蓮尼と出会うこととなります。

 鬼が生まれる理由もその力も様々であれば、その鬼と対する者も様々であることを描いてきた本作。今回は日本の鬼除けの札も通じない(以前は日本の鬼に切支丹の祈りは通じませんでしたが)弾圧された切支丹の怨念が生んだ鬼が登場しますが、それでも斬ることができるのが鬼切丸の恐ろしさであります。
 しかし今回の中心となるのは、少年と華蓮尼の対話でしょう。己の母もまた尼僧であったことから、その尼僧に複雑な感情を抱く少年に対し、彼の鬼を斬るのみの生をも許すと告げる華蓮ですが……

 しかし鬼から人々を救った尼僧の正体は、金髪碧眼の少女――頭巾で金髪を、目を閉じて碧眼を隠してきた(これはこれで豪快だなあ)彼女は、役人に囚われることに……
 禁忌に産まれたと語る尼僧の過去――は何となく予想がつきますが、さて彼女がどのような運命を辿ることになるのか? いつものことながら後編を読むのが怖い作品です。

 その他、今号では『カムヤライド』(久正人)、『仕掛人藤枝梅安』(武村勇治&池波正太郎)が印象に残ったところです。

「コミック乱ツインズ」2018年6月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 2018年6月号 [雑誌]

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2018.05.19

宇野比呂士『天空の覇者Z』第4巻 流星の剣の目覚めるとき

 真のヒトラーと対面した天馬は、彼が両親の仇であったことを思い出す。しかし彼の剣は通じず、その場を辛うじて逃れるのだった。そしてT鉱を求めてイタリアの要塞島に潜入する天馬たちだが、罠にはまり分断されてしまう。そこに現れた蜘蛛の能力を持つ獣人に苦戦する天馬だが、その時流星の剣が……

 ムッソリーニの館でついに真のヒトラーと対面した天馬とアンジェリーナ。その顔を見るや問答無用で斬りかかるという彼らしくもない行動に出た天馬ですが、それは彼の赤子の頃の記憶ゆえ――彼は両親をヒトラーに殺され、自らも殺されるところを剣の師に救われたのであります。
 しかしその際に痛撃を与えた陸奥守流星も、天馬では真の力を発揮することはできずヒトラーの体をすり抜けるのみ。絶体絶命の天馬を救うため、自らを差し出すアンジェリーナですが、あわやのところで駆けつけたJと天馬がヒトラーに連撃! が、それすら通じず、ヒトラーは彼らの攻撃に免じてその場は退くと告げ、(どこかで見たようなアングルで)アンジェリーナの唇を奪って去るのでした。

 自らが流星の剣を活かせていなかったことに衝撃を受けるものの、しかしこれ以上ヒトラーに大切な人を奪われまいと――アンジェリーナを守ろうと闘志を燃やす天馬。そしてムッソリーニ邸から奪取した地図を手に、天馬・アンジェリーナ・J・ギヌメールは要塞島――T鉱がナチスによって運び込まれた秘密基地に潜入することになります(その巻き添えで真のヒトラーの顔を見てしまったため殺されたムッソリーニ……)。
 そしてウェルの発明品を使って首尾よく要塞島に潜入した一行。しかし床の崩落に巻き込まれたアンジェリーナを追って天馬は地下に消え、ギヌメールとJのみが先に進むことになります。一方、天馬たちが落下した先は島の地下に広がる古代遺跡――そこに待ち受けるはヒトラーに蜘蛛の獣性腫瘍を与えられた獣人・シュタイナー中佐であります。

 しかしシュタイナーに向けたアンジェリーナの銃口は反転し、避ける間もなく撃たれる天馬。ヒトラーの口づけがアンジェリーナを操ったのか!? ……と思いきや、懐のゴーグルで致命傷は避けた天馬は、それが蜘蛛の糸によって操り人形されていたと見抜き、剣の一閃で彼女を解放するのですが――しかし無数の石柱が存在する遺跡内では数々の蜘蛛糸を操るシュタイナーが有利であります。
 苦し紛れに水中に飛び込んだ天馬ですが、しかし銃創の影響と、ミズグモの能力すら取り込んだ相手の力の前に絶体絶命に……

 と、生と死の境で、流星の剣の真の力に目覚めた天馬。そも流星の剣とは、戦国時代に降ってきた隕石を鍛えた水晶の如き透き通った外見と兜をも砕く強さを持つ刀――やがて千葉周作の手に渡り、北辰一刀流の伝承者の証になったと言われる刀であります。
 その力を十全に発揮すればこの世において斬れぬものなしという流星刀を手に、天馬は一撃で敵もろとも水面を真っ二つに割るという離れ業を見せ、勝利を収めるのでした。

 が、出血多量で意識を失った天馬。アンジェリーナは天馬を背負い、全く道標もない地下遺跡から脱出しようと歩み出すことに……

 一方、残されたギヌメールとJはT鉱の保管所に潜入するもののそこはもぬけの殻。奪取作戦を察知したナチスは、既にT鉱を移送していたのであります。しかしそれこそはネモの策――ギヌメールたちを囮に使ってT鉱をいぶり出すという作戦は当たり、輸送船を鹵獲して見事T鉱確保に成功するのでした。
 しかし元軍人のギヌメールはともかく、駒に使われて怒り心頭のJ。天馬を探すという彼の前に現れたのは――当の天馬とアンジェリーナ。なんと地下遺跡を踏破したアンジェリーナはその後も神がかった感覚を発揮し、一行を水上機の格納庫にまで導きます。

 そこでしぶとく襲ってきたシュタイナーは手加減をしらないJが一蹴し、ようやく要塞島から脱出成功か!? というところで次巻に続きます。


 本作には珍しく、全く空中戦が登場しなかったこの巻。代わって天馬と流星の剣の因縁を中心に、等身大戦が存分に描かれることとなります。
 なんとヒトラーは天馬の親の仇、そして天馬の持つ流星の剣こそがヒトラーを倒すことができる(らしい)というのはいささか出来過ぎた因縁のようにも感じられますが、その辺りはまたこの先に描かれることになります。

 そして因縁といえば天馬とアンジェリーナ。天馬がアンジェリーナに一目惚れしたことから始まったともいえる本作ですが、その二人の運命的な結びつきは、この巻でクローズアップされることになります。
 しかし無敵にすら見えるヒトラーが何故アンジェリーナに目をつけたのか――それもまた、今後のお楽しみであります。


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2018.05.15

渡千枝『黒き海 月の裏』第1-2巻 千里眼少女を襲う運命の荒波


 ホラー漫画で活躍してきた作者が、大正時代を舞台に、千里眼の少女と彼女を取り巻く人々の辿る数奇な運命を描いた異色のサスペンスロマン――細谷正充の『少女マンガ歴史・時代ロマン決定版全100作ガイド』で取り上げられた名作の一つであります。

 大正時代の熱海で、芸者の母と暮らす少女・夕里。彼女は生まれつきほとんど盲目ながら、幼いころから人には見えぬものが見え、透視や未来予知すら行う千里眼の持ち主でありました。
 ある日、その力がきっかけで大病院の娘・環とその兄・隆太郎、そして貿易商の息子・俊樹と知り合い、友人となる夕里ですが、母は身分違いだといい顔をせず――特に隆太郎と環に近づくことを強く禁じるのでした。

 しかしその母が、殺人の疑いをかけられ、何故か抗弁もせずに牢に繋がれたことから、母を助けるために念写を使うこととなった夕里。さらに病に倒れた母を救うため、超能力に強い興味を持つ隆太郎の手引きで夕里は東京に出るのですが――そこで彼女は何者かに命を狙われることになります。
 ついには誘拐されて横浜のカフェに売り飛ばされる夕里。しかしそこでも優しさを失わず生きる彼女に、周囲の人々は心を開いていくことになります。

 やがて隆太郎と再会する夕里ですが、しかし彼は以前と打って変わってよそよそしい態度を見せることに。そして環は俊樹に気遣われる夕里に複雑な感情を抱くようになります。
 そんな中、幼い頃から悩まされてきた幻覚――ひたひたと迫る真っ黒な海と廃墟と化した街――がいよいよ強くなるのを感じた夕里は、ついには荒れ果てた街の写真を念写するのですが……

 美しい心と容姿を持ちながらも、貧しくハンディキャップを背負った少女が、苦境に負けず強く生きる――というのはロマンスの一つの定番。
 本作もその一つと言うべきですが――しかしむしろ、その内容と展開には、懐かしの大映ドラマ的な味わいを感じさせる、波瀾万丈過ぎるものがあります。

 幼くして父を失い、母は濡れ衣で投獄されてさらに結核となり、金策のためにカジノに行けばそこで火事に巻き込まれることに。
 さらに執拗につきまとう悪徳探偵に誘拐されて横浜のカフェに売られ、千里眼を見せ物にすることになり、そこでも殺人事件と横領事件に巻き込まれて拉致監禁される羽目に……

 と、次から次へと苦難と不幸に襲われる夕里。そんな彼女の支えになるのが隆太郎と俊樹、そして環たちなのですが――(大体予想がつくように)やがてその中で三角四角と愛憎が入り乱れ、夕里はさらに苦しむことになります。
 その苦しみの何割かは、彼女と母を次々と苦しめ、夕里の命すら狙う隆太郎と環の祖母によるものなのです、しかし何故に夕里はそこまで敵視されなければならないのか……

 この辺り、何となく先の展開は予想できるものの、物語の浮き沈みの激しさと登場人物の運命の触れ幅の大きさを前にすれば、こちらはもう感情を鷲掴みにされ、そして思い切り振り回されるほかありません。(ここまで振り回されればむしろ快感に!)

 そしてそんな物語を引っ張り、動かし、アクセントとなっているのが、夕里の千里眼であることは言うまでもありません。人の未来を見通し(死期を悟り)、隠された物を見通し、遙か離れた地の出来事を知る――そんな千里眼の力は、目の見えない夕里にとって強い武器とも言えます。
 しかしそれは同時に周囲に知られてはならない秘密であり、盲目以上のハンディキャップでもあります。千里眼の女性がその能力の真贋を疑われて命を絶ったのも記憶に新しい中、彼女が千里眼だと知られれば、周囲の好奇の目に晒され、より不幸な目に遭うことは容易に想像できるのですから。

 そしてサスペンス色、ミステリ色の強い本作においては、彼女の能力は、普通であればわからぬことを明るみに出して物語を引っ張っていくものであり、そして同時に知ってはならぬことを知ることで新たなドラマを生み出すものでもあります。
 この千里眼という本作ならではの特色を様々に生かすことで、物語はより予測できない方向に転がり、否応なしに盛り上がるのであります。

 しかし――その物語の先に待つものは何であるのか、その答えこそが「黒き海」なのでしょう。
 夕里が予知したそのビジョンが何を指すのか、それは時代背景を考えれば容易に察せられるところですが――さてそのカタストロフを前に、彼女は、周囲の人々はどのような運命をたどるのか。更なる波乱が待つ後半2巻も近日中にご紹介いたします。

『黒き海 月の裏』(渡千枝 ぶんか社まんがグリム童話) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
黒き海 月の裏 (1) (まんがグリム童話)黒き海 月の裏 (2) (まんがグリム童話)

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2018.05.13

夏乃あゆみ『暁の闇』第4-5巻 過去と対峙し、乗り越えた先の結末


 その才気で知られながらも、故あって朝廷を追われた悲劇の皇子と、幼い頃の才を失い、皇子と再会することで力を取り戻した陰陽師の姿を描く平安ファンタジーのラスト2巻であります。現世・幽世双方において朝廷に不穏な空気が漂う中、封印された二つの真実がついに明らかにされることに……

 かつて宮中で乱行に及び、一度は流刑に処され、今は洛外で逼塞する惟喬親王。ふとしたことから親王の屋敷を訪れた陰陽師の青年・加茂依亨は、その出会いをきっかけにかつての力の一端を取り戻し、親王の復権を願う人々の一人として動くことを決意します。

 その一環として疫神調伏を行うことになった依亨は、奇怪な双子陰陽師の妨害に遭って術が暴走。親王の力により、辛うじて己を取り戻すことに成功します。
 そして依亨らの奔走もあって、ついに宮中に返り咲くこととなった親王。しかし今上帝を背後から操る左大臣一派は親王を除くために暗躍し、一方、その左大臣に追われて比叡山に上った最延法親王も、親王を支えつつも何ごとかを企む様子であります。

 そんな中、疫神調伏妨害の証拠を掴んだ親王たちに対し、ついに実力行使に出る左大臣一派。さらに法親王も延暦寺の僧兵を動かす混乱の中、宮中から「鏡」が消えるという変事が発生することになります。
 鏡の消失ことは大異変の前触れであることを知り、自分自身の力が暴走することも構わず、鏡を取り戻そうと異界に赴く依亨。そしてついに親王と依亨、二人の封印された過去が明らかになるのですが……


 史実では皇位を継ぐことができず、隠棲のうちにその生涯を終えたという惟喬親王。本作はその親王をモチーフにして(と述べる理由は後述)、その復権を巡る人々の動きを、政治の世界と陰陽道の世界――すなわち此岸と彼岸の双方に軸足を置いて描く物語であります。
 その構造はこの終盤においても変わることなく、そのそれぞれを代表するとも言うべき二人の主人公――親王と依亨は、それぞれの前に立ち塞がる試練と対峙し、そして同時に、自分たちが封印してきた/されてきた過去に向き合うことになります。

 物語冒頭から仄めかされてきた二人の秘められた過去――宮中で忌まわしい乱行に及び、それがために廃太子され、配流という厳しい罰を受けた親王。幼い頃は強大な霊力を持ち、将来を嘱望されていたのが、いつしかその力を全て失ってしまった依亨。
 本作は、共にこうした過去を背負った二人が出会い、支え合い、成長していく物語と言うことができますが――だとすれば、その結末はその過去を乗り越えた先にあるのはむしろ当然でしょう。

 もちろんそれには大きな痛みを伴うことになります。知らなければ苦しむこともなかった過去、知ったとしてももう取り戻せない過去――その過去と向き合わなければならないのですから。
 それでもなお、その痛みを受け入れつつも過去を乗り越え、その先に進む二人の姿を描く結末は、哀しくも清々しいものを感じさせてくれます。


 と、それなりに盛り上がった本作ですが、個人的にどうしても残念な点が二つ。

 一つは、結局左大臣が全ての悪事の源ということで収まってしまったこと――それ自体はさておき、左大臣が親王と対峙するには魅力のない悪役のための悪役であったのがもったいない。
 おかげで終盤は親王側の一方的な勝ち戦的ムードもあり(まさかあのキャラまでも味方になるとは……)、逆転のカタルシスに欠けた点は否めません。

 そしてもう一つは、ラストで親王が○○したことで、完全に歴史が変わってしまったことであります。
 これは物語の流れ的にこれ以外の結末はないことは早い段階で予想できましたが、やっぱり歴史上の人物の名を使うのであれば、もうちょっと――というのは、完全に僕の趣味の問題ではあるかもしれませんが。


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2018.05.12

宇野比呂士『天空の覇者Z』第3巻 激突、巨大空中兵器の死闘!

 アンジェリーナを救出し、Zに合流した天馬一行。しかしそこにクブリック提督が指揮する巨大空中戦艦「G」が襲いかかる。これまでに多大な被害を受けていたZは苦戦するが、ネモの奇策によって逆転、Gの撃退に成功する。そしてT鉱奪取のためムッソリーニ邸に潜入した天馬の前にあの男が現れる……

 流星の剣の一撃で獣化したゲシュタポ将校を斃した天馬。獣人とはいえ人を斬ったことを悔やむ天馬ですが、その暇もなく次々と襲いかかる鉤十字騎士団をJとの抜群のコンビネーションで蹴散らし、救援に現れたZに何とか合流に成功します。
 そしてアンジェリーナの協力により、既に獣性腫瘍が危険な状態となったルーの手術も始まるのですが、そこに現れたのは巨大な敵影――Zと並びルフトバッフェ空中艦隊構想の中核を成す超巨人機・G!!

 Z計画責任者であり、今はヒトラーの命でZを追うインゲ・ベイルマン局長と、誇り高き荒鷲の異名を持つエーリッヒ・フォン・クブリック提督が乗り込んだG。スチームに紛れての接近からドリル付きのワイヤーを打ち込んで動きを止め、さらにガス管を打ち込んでそこから神経ガスを注入、最小の労力でZを制圧せんとするクブリックの策の前に、Zの運命は風前の灯火に……
 と、そこでネモの命を受けて飛び出したのは、タイガー号に乗ったJと天馬。Jのブーメラン剣でパイロットを斬るという無茶を駆使して敵機を抜き、そしてガス管に対して天馬の刀が一閃! ついにZへのガス注入を止めることに成功いたします。

 しかしまだZはGに捕らえられたまま、そして傷ついたZには再度のZ砲発射に耐えられるだけの耐久度はない――が、ワイヤーで固定されたことを逆用してZ砲充填を開始するネモ。さしものGも至近距離からのZ砲をくらってはひとたまりもない――はずですが、何とクブリックは左右時間差でワイヤーを外すことで機体を回転、Z砲を外してみせるという離れ業をみせます。
 ついに万策尽きたかに見えたZ。しかしネモの真の狙いはアルプスの山、Z砲を食らって破壊された山塊はZの上に位置したGを直撃、さしものGも耐えきれずに撤退を余儀なくされるのでした。

 ついにアルプスを越えたZ。ルーの手術も、アンジェリーナの持つ獣性細胞への抗体によって成功し、JたちもZと別れを告げるのですが――しかしただ一機、こんな大きなお宝を見逃す手はないなどとツンデレなことを言いながら戻ってきたJ。Jとエリカを加え、Zはイタリアに向かうことになります。

 そしてイタリアに極秘裏に作られたドックで改修・改造を施されるZですが、しかし命とも言うべきZ鉱は既に艦内には残っておらず、外部からの調達が必要な状態であります。かくてかつての戦友の依頼を受けて、ドイツからイタリアに運び込まれたZ鉱の行方を追うことになったギヌメール隊長。
 その矢先に脱走して上陸したものの隊長に捕まったアンジェリーナと天馬は、ムッソリーニ亭の仮面舞踏会に潜入することになるのですが――成り行きからムッソリーニ、そして謎の仮面の青年とポーカーをプレイすることになります。ゲームは白熱し、ついにサシの勝負となった仮面の青年に対し、天馬は自分の愛刀を賭ける代わりに、その仮面を外すことを賭けるように迫ります。

 大勝負に自ら負けるように仕向け、仮面を外す青年。その下の素顔は真のヒトラー――しかし初対面のはずのヒトラーの顔を見た天馬に戦慄が走ります。かつて何故か日本を離れ、ボロボロになった末にギヌメール隊長に拾われた天馬。ヒトラーこそは、その「何故」と密接に関わる者だったのですから……


 第2巻の後半からこの巻の中盤にかけて、アルプスを舞台に目まぐるしく展開してきた本作。その中でJ、エリカ、クブリックと、後々まで物語で重要な位置を占めるキャラが登場しますが、これほど早くの登場であったかと、今読んでみると驚かされます。

 そしてこの巻ではついにZとG、二つの巨大空中兵器が激突。第2巻の紹介で申し上げたように、本作のバトルは三つのレイヤーが存在するのですが――一つは等身大戦、二つ目は戦闘機による空中戦、そして三つ目がこの空中戦艦同士なのであります。
 ここで本格的に登場したこの三つ目の戦いは、互いが強大な攻撃力を持つ(そして小回りが効かない)中で如何に相手に大打撃を与えるか、という観点で展開されるのが実に面白く、エキサイティング。何よりもそのプレイヤーたるネモとクブリック、二人の名将の読み合いが実に面白くで、本作ならではのバトルの醍醐味がここにはあります。

 そしてもう一つ、この巻の冒頭で描かれた天馬の過去の謎の一端が、巻末の展開に直結していく構成にも、やはり唸らされるところでありますが――その詳細は次巻で描かれることになります。


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