2018.11.09

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第6話「毒手の誇り」

 解毒薬によって復活した殤不患に圧倒される蠍瓔珞と嘯狂狷。蠍瓔珞は嘯狂狷の裏切りによって傷を受けて逃れ、嘯狂狷もその場に現れた鬼鳥(凜雪鴉)の仲裁で撤退する。逃げた蠍瓔珞を追う殤不患と浪巫謠だが、その前に諦空が現れる。諦空と問答を交わした末、不意に襲いかかる浪巫謠だが……

 前回ラスト、浪巫謠と凜雪鴉が不運な竜から奪ってきた角から作られた解毒薬を口にした殤不患。普通こういう薬は効くまで時間がかかるような気がしますが、飲んだと思いきや何かスゴい光ったりしてものすごい勢いで殤不患は回復、毒を調合した蠍瓔珞も、自分でも解毒の方法を知らないのに――と愕然としております(それはそれでどうなのか)。
 しかし同時に、これが蠍瓔珞の魂に火をつけることになります。自分には毒しかない、毒だけに全てを打ち込んできた。その毒を否定されては――と悪役は悪役なりの矜持があることを見せてくれた蠍瓔珞ですが、彼女が放った奥義・毒蠱驟来(毒ガス殺法)も、高速で刀を回転させる殤不患の拙劍無式・黄塵万丈で無効化されてしまいます。さらに卑怯にも後ろから嘯狂狷に鞭でブン殴られて喪月之夜を奪われ、心身ともにボロボロの蠍瓔珞は蹌踉とその場から消えるのでした。

 そして残る嘯狂狷は、殤不患に町人虐殺の濡れ衣を着せて指名手配にしてやったもんね、と煽るものの、殤不患はそれがどうしたと平気の平左。そういえばこの人は好漢にとって大事な面子や名利といったものに、一向に無頓着なのでした――が、結構つきあいは長そうなのにその辺りが全くわかっていなかった、というより自分の物差しでしか人を測れない嘯狂狷には、そんな彼の姿は不可解極まりないのでしょう。
 蠍瓔珞といい、普通に振る舞っているだけで相手の心をへし折る殤不患は、ある意味凜雪鴉なみに厄介な人間なのかも――と思っていたら、そこに思いっきり棒読みで割って入ったのはその凜雪鴉、いや鬼鳥。鬼鳥として嘯狂狷にこの場は退けと語りかける凜雪鴉の姿に悟っちゃった殤不患は、「可哀想に……」という感じで嘯狂狷を見るのでした。

 さて、嘯狂狷は放っておくとしても、魔剣をまだ手にしている(かもしれない)蠍瓔珞を見逃すわけにはいきません。彼女の後を追う殤不患と浪巫謠ですが――その前に飄然と現れたのは、謎の行脚僧・諦空であります。彼に蠍瓔珞の行き先を聞く二人ですが、諦空は例によってそれに何の意味があるのかと問答を開始。諦空がいちいち相手の行動に意味を問うのは、自分自身にとってこの世の何物も意味を持たないからと聞かされた浪巫謠は――次の瞬間、では死ね! と剣モードの聆牙で斬りかかるのでした。

 さすがの殤不患も相棒の突然の凶行にびっくり仰天、さすがに放っておけないと剣を抜いて割って入り、その間に諦空はその場から立ち去ります。そして相棒の行動を問いつめる殤不患ですが――あいつは悪だ、とだけ語る浪巫謠。代わって聆牙が説明するのは諦空の危険性――彼がいま全てに意味を見出せないとして、とんでもない悪事に意味を見出してしまったとしたら? と。なるほど、そうでなくとも彼は、意味さえ聞かされれば、深手を負った蠍瓔珞の行き先を語りかねない雰囲気もありました。何よりも、全てに意味を見出せないということは、善悪の価値基準を持たないということでもあるのでしょう。
 そして倒れた蠍瓔珞を、いつもの納屋に連れてきた諦空。あんなことがあっても相変わらず平然として――いや、己の目的のために戦い、殺し合う蠍瓔珞らがキラキラ輝いてて羨ましい(意訳)とすら語る諦空に引いたのか、あるいは己の来し方行く末に悩んでいるのか、微妙な雰囲気の蠍瓔珞ですが……

 さて刑部に戻ってきた嘯狂狷は、刑部のおじさん官僚に何気ない態で掠風竊塵とは何者なのか尋ねます(殤不患が鬼鳥に何気なく僧呼びかけたのを聞いたのか?)。と、その質問に、刑部のおじさんがあからさまに不自然すぎるオーバーアクトでワナワナ震えるという謎の場面(この辺り、武侠ドラマらしいと言えばらしい)で次回に続きます。


 折り返し地点を過ぎたものの、相変わらず物語の落としどころがわからない本作。既に悪役二人は小者扱いな状況で誰が敵となるのか(やはり諦空……か?)、そして何を以て物語の終わりとするのか。魔剣たった二本を取り戻して終わり、というのは(少なくとも見た目では)あまりにもスケールが……

 という余計な心配をさて置けば、久々の殤不患の活躍が実に痛快だった今回。凜雪鴉との妙な通じ合いも、二人の腐れ縁を感じさせて実に愉快でした。
 そしてそれ以上に印象に残ったのは、己の矜持を粉砕されて嘆き悲しむ蠍瓔珞の姿。『生死一劍』の殺無生が嘆く場面にも思いましたが、派手なアクション以上に人形で感情の表れ――特に悲しみを表現するのは難しいはずで、それをしっかりと見せてくれたのには驚かされました。台湾布袋劇の奥深さを改めて感じさせられた次第です。

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2018.11.02

睦月れい『空海 KU-KAI』 元作品の構造を再確認させてくれた漫画版


 一昨日ご紹介いたしました映画『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』の公開前後に刊行された、睦月れいによる全二巻のコミカライズであります。原作小説を漫画化したものではなく、原作小説を映画化したものの漫画化という立ち位置の作品であります。

 というわけで、夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』をベースとした映画を、ほぼ忠実に漫画化した本作。
 すなわち、入唐した沙門空海が皇帝が不可解な死を目撃したのをきっかけに、白居易とともに跳梁する妖猫と対峙し、そしてその陰に潜む楊貴妃の死を巡る謎に迫っていく――その物語を、本作は上下巻で描いています(上巻は空海と白居易が阿倍仲麻呂の日記を読み始めるところまでを収録)。

 冒頭こそ、空海の「皇帝の死因はショック死です」という台詞に驚かされますが(これはおそらく作者の責任ではないのだろうなあと想像しますが)、基本的に物語を丹念に再現してみせた本作。
 スケール感は流石に映画に一歩譲りますが、適度に漫画的表現を織り交ぜた画作りはなかなか巧みで、特に下巻冒頭で描かれる「極楽之宴」の場面は、個人的には映画よりも良かった――と感じます。

 また、これは映画ではなかったように記憶していますが(記憶違いであれば申し訳ありません)、極楽之宴で李白が池に筆を投げ捨てたというエピソードを踏まえ、それを見ることができたのは誰であったかと空海が推理する場面など、随所で物語を補強する箇所があるのも嬉しい。
 もちろん、史実に対する言及も映画よりも豊富で――映像の情報量・質と書籍(漫画も含めた)のそれはもちろん異なるところではありますが、本作はその後者の長所を上手く活かしている印象があります。

 さらに言えば、本作は物語の結末――空海が大青龍寺である人物と出会う場面から始まっており、ある意味原作読者ほど結末のインパクトが大きい仕掛けとなっているのも、なかなか面白いところであります。


 その一方、映画のある意味最大の特長ともいえる猫の活躍については、本作はそれほどでもないのですが――と言いつつ、終盤で見せる泣き顔がえらくグッとくるのですが――ある意味、そのために物語の構造がかえってスッキリと見えてくるのも面白い。

 そう、本作は、登場人物のほとんどが過去の幻想に魅入られ囚われていたものが、それにただ一人囚われなかった(いやもう一人、全てを知る人物がいますが)空海の導きによってその先の真実を知り、それを受け容れる物語――その構造が、本作においては明確に感じられるのです。

 そしてまた、その真実は必ずしも客観的なものではなく、時に主観的なものであるにもかかわらず、それだからこそ、そこにその者にとっての真実が含まれる――本作の持つ、そんな一種逆説的な視点もまた明確になっているのもいい。
 この視点こそがある意味仏教的であり――その意味では、上に述べたように幻想に囚われなかったのが空海ともう一人というのは実に象徴的であると、今更ながらに感じさせられました。


 映像作品のコミカライズは、特にそれが元の作品に忠実であればあるほど隔靴掻痒のきらいがあるものです。
 しかし本作は元の作品に忠実でありつつも、そうした不満を感じさせない――それどころか元の作品の描こうとしていたものを再確認させてくれた、なかなかによく出来た作品であると感じた次第です。


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2018.11.01

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第5話「業火の谷」

 業火の谷を訪れた凜雪鴉と浪巫謠の前に現れた龍・歿王。その火炎に苦戦する二人だが、凜雪鴉の口車と浪巫謠の絶技により、無事龍の角を得る。しかし解毒薬の製法を聞いた浪巫謠は意外な行動に出るのだった。一方、隠れ場所を知られた殤不患は、嘯狂狷率いる捕吏の包囲に窮地に陥るが……

 蠍瓔珞の毒に苦しむ殤不患を救うため、はるばる鬼歿之地にやってきた凜雪鴉と浪巫謠。目指す龍がいるという業火の谷に到着した二人の前に龍が現れますが――微妙にサイズが小さい。あっさり凜雪鴉に撃退される龍ですが、その時、巨大な影が現れ、龍を文字通り叩き潰してしまうのでした。
 その影こそは、オープニングに登場していた謎の怪獣――確かに片翼状態の龍であります。何と人語を喋るこの龍、自らを歿王を名乗り、この小龍を食うからお前らは失せろと親切にも二人に語りかけますが――もちろん二人が引くはずもありません。それどころかいけしゃあしゃあとその角が欲しいと言い出した凜雪鴉にもちろん歿王はエキサイト。グワーとひらいた口から炎、あたり一面焼け野原であります。

 もちろん周囲に散在する石柱に隠れてこの攻撃を躱す二人ですが、炎をはき続ける歿王に接近するのはほとんど不可能。さらに凜雪鴉が、お前の片翼を斬った男のために力を貸して欲しいなどとまたもや歿王のヒートを煽るのですが――凜雪鴉は浪巫謠に対し、龍の火炎は気息(ブレス)、すなわち声だから、お前の魔性の声で太刀打ちできるのではないかと無茶振りをするのでした。
 これに応えた浪巫謠は、歿王を前にオープニングのサビを熱唱! 浪巫謠の歌エネルギーは何と歿王の炎を圧倒、炎を出せなくなったところに挑発をかましてきた凜雪鴉を襲おうとして歿王は石柱に激突、そのまま下敷きに。そしてその隙に剣モードの聆牙を手に背中を駆け上がった浪巫謠は、見事に角を切り取るのでした。石柱に押し潰されてジタバタしながらも、二人に対して呪いの言葉を吐く歿王ですが、再登場はあるのかなあ……

 何はともあれ龍の角を手に入れ、凜雪鴉から解毒薬の製法も聞いた浪巫謠。これであとは殤不患のもとに戻るだけ――と思いきや、突如凜雪鴉に音撃を食らわせる浪巫謠。お前は殤不患のためにはならん、お前は悪だ、生かしておいては世に災いをなすのためにならない奴と見た、だからコロス! ――と、実は最初から凜雪鴉を斬るつもりだった浪巫謠の理屈は、好漢的に正しいのか間違っているのか悩ましいところではあります。が、こういう行動に出るところを見ると、浪巫謠は殤不患よりは頭が固い、というか生真面目なのかもしれません。
 もちろん凜雪鴉がここで倒されるはずもなく、魑翼でその場を去るのですが――この展開を彼が予想できなかったとは思えないわけで、それでは今回の行動はなんのためのものであったか、気になるところではあります。

 さて、そんな状況とは知る由もない殤不患は、不眠不休で調息を続けることで毒を抑えてきましたが、常人を遙かに越える内功を持つ彼でもこれは無茶というもの。ほとんど限界寸前の状況ですが――悪いことに、そこに蠍瓔珞と嘯狂狷、さらに彼の部下たちが近付いてきます。自分の作った毒であれば匂いで察知できる――と、蠍の一匹を探知機代わりに使う蠍瓔珞の前には、浪巫謠のカムフラージュ策も通じず、急いで洞窟から逃れる殤不患ですが、しかし弱った身体で遠くまでいけるはずもありません。
 捕吏たちに見つかり、たちまち追いつめられる殤不患。いくつもの傷を負いつつも、その場から何とか逃れようとする彼の姿は、大侠らしからぬものがあるかもしれませんが――しかし自分のために仲間たちが命を賭けている時に、自分が倒されるわけにはいかないという彼の意地は、やはり好漢のそれと言うほかありません。
(そんな殤不患の――江湖の好漢の行動原理をあざ笑う嘯狂狷は、やはり江湖に対する官の側の人間なのだと感じます)

 しかしそんな殤不患の心意気を理解できぬ蠍瓔珞と嘯狂狷は、それぞれ調子に乗った悪役そのものの、余裕こいて油断しきった台詞を吐くのですが――そこに空から駆けつけたのは浪巫謠! しっかり解毒薬を完成させていた浪巫謠から薬を受け取った殤不患が思い切って飲み込むと――何かスゴい光とか飛び出して、一瞬のうちに毒はおろかダメージも回復した様子。さあ、今度は殤不患のターンだ! というところで次回に続きます。


 OP映像を見た時はてっきりラスボスかと思ったら、単なる素材の元だった龍との対決が描かれた今回。その対決の模様や、その後の思わぬ仲間割れなどそれなりに楽しめたのですが、やはり物語は前に進んでいない印象であります。
 そろそろ物語は折り返し地点にさしかかりますが、物語の向かう先がまだ見えないのは、正直に言って不安なところです。


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2018.10.31

『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』 名作原作の大作映画、そして健気な猫


 チェン・カイコー監督、染谷将太&ホアン・シュアン主演の大作――というよりこのブログ的には夢枕獏『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』の映画化作品であります。日本では吹替版のみの劇場公開でしたが、ソフト版では字幕版も収録。私も字幕版で拝見しました。

 唐の時代――病気平癒の祈祷を依頼され、宮廷を訪れたものの、その眼前で皇帝が悶死するのを目の当たりにすることとなった空海。役人たちが死因を風邪とするのに違和感を感じた記録係の白居易(白楽天)は、空海にこの場で起きたことの真実を訪ねますが、彼はその場にいるはずのない猫がいたことを示すのでした。

 一方、宮中を守る金吾衛の陳雲樵の屋敷には、言葉を喋る黒猫が出没。妓楼で遊ぶ雲樵の前に現れた猫は、居合わせた空海と白楽天の目の前で雲樵の取り巻きたちを襲撃し、その場は阿鼻叫喚の惨状となります。
 さらに妓楼で雲樵に付いていた娘が蠱毒に倒れ、これを治療した空海。その腕を見込んだ雲樵の依頼を受けた空海は白楽天とともに彼の屋敷に向かうのですが――そこに現れたのは、猫に取り憑かれ、李白の詩を口ずさむ雲樵の妻でした。

 その詩が、かつて玄宗が楊貴妃のために開いた「極楽の宴」で李白が楊貴妃を詠んだ詩であることに強い関心を惹かれる白楽天。そして二人の前に現れた猫は、自分がかつて玄宗に飼われた猫であり、安史の乱の混乱の中、雲樵の父に生き埋めにされたことから、彼の家に祟ると語って姿を消すのでした。
 しかしなおも怪事は続き、犠牲者が相次ぐ中、玄宗と楊貴妃の過去にこそ事件の鍵があると推理する空海。そして極楽の宴に阿倍仲麻呂の姿があったことを知った空海は、その日記を紐解くのですが……


 冒頭に述べたとおり、『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』を原作とする本作。原作は単行本全4巻の大作ですが、本作はその骨格をかなり忠実に踏まえつつも2時間強にまとめており、原作での空海の相棒である橘逸勢の存在がそれはもう完璧にオミットされたことを除けば、印象としてかなり原作に沿ったものを感じさせます。
 妖猫の跳梁と宮中にまで繋がる怪異、阿倍仲麻呂も巻き込んで語られる楊貴妃にまつわる大秘事――と、原作の要諦は踏まえつつ、オープンセットの長安に代表されるうような中国の大作映画特有のパワーで一気に走り抜けてみせた作品、という印象であります。

 あまり空海が活躍していない、と感じる方も多いかと思いますが、原作でも空海の活躍はそれなりだったわけで、個人的には許容範囲という印象(尤も、タイトルがタイトルなので期待外れに感じた方が多かったのもわかります)。
 日本側のキャストが中国語の台詞を自分で喋っている(らしい)のも好印象であります。(とはいえ、これは上で述べたとおり、ソフトで初めて確認できるのですが)


 にも関わらず、一本の映画としてみるとちょっとどうかな――と感じさせられる部分も少なくないのが本作。
 なぜ妖猫が今頃活動を始めたのかが今一つ腑に落ちないように感じたり(以前から活動していたとしても、もっと早く関係者を根絶やしにできたのでは)、そもそも一介の沙門に過ぎぬ空海がなぜ冒頭で祈祷に招かれたのか等、入り組んだ物語だけに、細かい点が気になってしまったのは残念なところであります。

 それでも本作が愛すべき作品と感じられるのは――これはある意味原作から最も大きく改変された点と密接に繋がっているのですが――本作における妖猫の大活躍、いや大奮闘に依るところが大きいと言わざるを得ません。
 原作とは異なり、最後までほとんど出ずっぱりの妖猫。本作においては怪異の中心であり、いわば悪役である猫なのですが――その姿が実に泣かせてくれるのであります。

 楊貴妃の最期にまつわる因縁を抱え、ある人物の怨念と絶望を背負い、数十年にわたり跳梁を続ける猫。その姿は恐ろしくもあるのですが――それ以上に可愛い、あ、いや、健気としか言いようがありません。
 これはCGが良くできているため(極楽の宴のCGはかなり微妙だったのに……)ももちろんあるかと思いますが、それ以上に猫にグイグイ感情移入させるドラマ作りの賜物でもあるのでしょう。

 物語の構造がわかってから考えてみれば、本作は往年の怪猫映画的な味わいもあって――特に妓楼での大暴れはまさにそれで――ある意味、史上最もお金のかかった怪猫映画と呼べるのかもしれません。
 もちろんそれは、ある意味非常におかしく、失礼な評価なのですが――本作を観た方は、大いに頷いて下さるのではないかなあ、と感じる次第であります。


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2018.10.24

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第4話「親近敵人」

 毒に苦しむ殤不患の前に現れた凜雪鴉。相変わらずの調子の良さに呆れる殤不患だが、凜雪鴉は治療を申し出ると、解毒には龍の角が必要と診断を下し、浪巫謠とともに鬼歿之地へ向かう。一方、蠍瓔珞の前に現れた嘯狂狷は、彼女に手を組むことを持ちかけ、彼女もそれを受け容れるが……

 蠍瓔珞の毒を受け、辛うじて内功で抑えてはいるものの行動不能状態の殤不患。彼と浪巫謠が潜む洞窟に、突然凜雪鴉が顔を出して――というある意味一触即発の場面から始まった今回。(嘯狂狷のことはおくびにも出さず)殤不患を探すために刑部に潜り込んでいたという凜雪鴉に露骨にイヤな顔を見せる殤不患ですが、もちろん凜雪鴉が気にするはずもなく、グイグイと懐に飛び込んできます。
 友だから手を借りる→以前お前には散々手を借りた→だからお前は私の友 という謎の逆ジャイアン理論で強引に友人面をする凜雪鴉ですが、何と殤不患の毒を解毒しようと言い出すのは何の企みがあってか……。なるほど、彼も煙管からの幻惑香を操る身、その辺りの知識が豊富でも不思議はないのですが。

 そして殤不患の血を吸わせた布に、様々な種類の毒を垂らしてその反応を見る――という化学実験のような調べの末に、毒は陸に棲む獣の牙からにじみ出るもの、と見抜いた凜雪鴉。細かい種類を調べるよりも、同類でより霊格の高い動物――たとえば龍の力を体内に取り入れて制する方が早いという凜雪鴉ですが、龍なぞそうそう簡単にいるはずがありません。怪物犇めく鬼歿之地ならいざ知らず……
 と、その鬼歿之地を通って東離に来る途中、片翼の龍を目撃したという浪巫謠。片翼ゆえ、簡単に躱すことができたというのですが――実はこれは殤不患の仕業。西幽から東離へと鬼歿之地を通っての旅の途中に、空から狙ってくるのが鬱陶しいのでやっちゃったということですが――その他にも食人鬼の村を壊滅させたりと色々とやってくれたおかげで、鬼歿之地もずいぶんと通りやすくなった模様であります。そのおかげで追っ手たちもまた東離に来やすくなってしまったのは、皮肉以外のなにものでもありませんが……

 と、その追っ手である蠍瓔珞は、森で毒草採集の最中に、禍世螟蝗一党の召集の狼煙を目撃することになります。こんなところで一体誰が――といぶかしみながら向かった彼女の前に現れたのは何と嘯狂狷。捕吏であらば悪党の合図を知っていても不思議ではないと嘯く彼は、同じ殤不患を狙う身として、手を組もうと言い出すのでした。
 彼の目的は殤不患の首、蠍瓔珞の目的は魔剣目録――東離にあるよりも、たとえ禍世螟蝗の手にあったとしても魔剣目録は西幽にあった方が良い、自分の管轄で取り返さないと手柄にならないから――と役人の悪い面を固めたような嘯狂狷の言い草に呆れつつも、蠍瓔珞も手を組むことに合意するのでした。

 さて、龍の方ですが――居所はわかったとはいえどうするのかと思ったら、殤不患を東離に残し、素材ゲットのためにわざわざ鬼歿之地までやってきた浪巫謠と凜雪鴉。浪巫謠はともかく、凜雪鴉が自ら足を運んでくるとは、怪しい以外の何物でもありませんが――何はともあれ、彼の操る魑翼(前作で手に入れたのがよっぽど気に入った様子)で鬼歿之地の入り口辺りまで一っ飛びであります。
 そして龍のエリアまで行こうとする二人ですが――そこに立ちふさがるのは、鬼歿之地の瘴気によってゾンビと化した皆さん。容赦無用の相手に、特撮ヒーローのアイテムチックに聆牙を琵琶から剣に変形させて立ち向かう浪巫謠と、彼に煽られつつも、煙管からの火炎放射で攻撃する(すなわち真の実力は見せない)凜雪鴉と、二人は互いの名刺交換代わりに大立ち回りを繰り広げるのでした。

 一方、再び東離で隠れ家にしている納屋に戻ってきた蠍瓔珞ですが――その納屋に運悪く雨宿りに入ってきたのは、前回登場した謎の行脚僧・諦空。口封じのためと楽しそうに諦空の命を奪おうとする蠍瓔珞ですが、諦空は命を差し出すのはやぶさかではないと言いつつ、今回もまたその行為の意味を問います。もちろん蠍瓔珞がそれに満足に答えるはずもないのですが――だとしたら諦空もまた彼女に従うはずもありません。前回受けた毒はどこかへ消えたのか、蠍瓔珞の攻撃を軽々といなし、諦空は消えるのでした。屈辱に震える蠍瓔珞を残して……


 というわけで、今回も話が動いたような動いていないような展開ですが、やはり凜雪鴉と殤不患の絡みは抜群に面白い。全く以て油断のできない凜雪鴉ですが、浪巫謠とまさかのコンビを組んでの鬼歿之地という展開にはさすがに驚かされました。
 一方、ある意味殤不患以上に色々なキャラと絡んでいる印象もある蠍瓔珞は、悪役としての貫目の足りなさがここに来て露呈した印象。さて、そろそろ彼女はあの魔剣の魔力の前に屈してしまう気もしますが――冷静に考えれば(嘯狂狷を除けば)ただ一人の悪役らしい悪役を務めるだけに、まだまだ彼女の苦労は続きそうであります。


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2018.10.10

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第2話「奪われた魔剣」

 殤不患から魔剣目録の一部を奪い、その中から二振りの魔剣を呼び出した蠍瓔珞。一方、西幽の捕吏・嘯狂狷は、四方御使を名乗る鬼鳥と手を組み、仙鎮城を訪れる。そうとは知らぬ殤不患と浪巫謠の前に、魔剣・喪月之夜を手にした蠍瓔珞が現れる。喪月之夜の恐るべき能力に翻弄される殤不患の運命は……

 はるばる西幽から殤不患を追ってきた陰険メガネ君こと嘯狂狷の前に現れた謎の男()鬼鳥。朝廷から派遣された査察官・四方御使だという彼は、殤不患が西幽の宮廷の宝物庫を荒した逆賊だという嘯狂狷の言葉に、協力を申し出ます。
 東離では特段手配もされていない殤不患ですが、玄鬼宗を壊滅させたという噂(誰が流したのか)もある殤不患を放ってはおけないという鬼鳥ですが、その真意は……

 さて、その殤不患は前回蠍瓔珞に魔剣目録の一部を持ち去られたわけですが――ごく一部とはいえその影響は大きく、魔剣目録の中身を見ることができなくなってしまったのでした。殤不患曰く、これは術を使えない彼でも使えるように巻物の形こそしているものの、その実、一種の宇宙とも言うべき存在。それが一部を切り取られた――巻物の形を失ったことで、その機能そのものが失われてしまったと、わかるようなわからないような理屈ですが……
 と、その一部を持ち去った蠍瓔珞は、どこぞの納屋のような場所に身を隠し、怪しげな魔術を用いて、奪った部分から魔剣を呼び出そうという真っ最中。そしてそこから現れたのは、なんか魂を喰らう剣っぽい有機的なデザインの魔剣・喪月之夜と、豪華な鞘に収められた謎の魔剣ですが――後者の剣は意志があるらしく、危うく蠍瓔珞もそれに支配されかかったものの、ギリギリで手を離すことに成功、その魔剣を雑に放り出してその場を去るのでした(どう考えても後で面倒なことになる予感しかしません)。

 一方、殤不患を追う嘯狂狷と鬼鳥が訪れたのは、前回蠍瓔珞に荒らされた仙鎮城。病床の伯陽侯と言葉を交わす二人ですが、前回殤不患に命を救われた伯陽侯が、どれだけ嘯狂狷が殤不患を悪し様に言おうと、容易に信じるはずがありません。が、そこで口を挟んだのは鬼鳥。丹翡からの紹介状があったと聞けば、丹翡は若輩で未熟者、海千山千の曲者に容易に騙されてもおかしくない――と、なんだかものすっっごく説得力のある言葉で伯陽侯に語りかけます。その結果、ついに伯陽侯は、前回の戦いは殤不患と蠍瓔珞が仕組んだ狂言だと信じ込むことに……

 そんな大変なことになっているとは露知らず、町の宿屋の一室で、一生懸命に糊と紙で魔剣目録を修理している殤不患。この辺りを人形で見せるのはちょっと驚きではあるものの、そんなアバウトな修理でいいのかなあ――と思いきや、大事なのは形らしく、魔剣目録はその機能を取り戻します。そしてそこで初めて喪月之夜が奪われたことを知った殤不患は、屋根の上で待っていた浪巫謠に対して、血相変えて町から出るよう促します。
 というのもこの魔剣の力は――と、時すでに遅し。その場に現れた蠍瓔珞が魔剣で町の人々に次々と襲いかかると、斬られた人々は「喪」の字が描かれた覆面を被ったような姿で立ち上がり、殤不患たちに襲いかかるではありませんか。そう、この魔剣によって斬られた者は、肉も骨も傷つけられぬ代わりに、精神を乗っ取られ、持ち主の思うがままに操られてしまうのであります。

 言ってみればゾンビに襲われるようなものですが、ゾンビと違うのは相手が無辜の生きた市民であること。剣侠たる殤不患としては、相手を殴り倒すくらいはできても、斬り捨てることもできず、無数の敵に取り巻かれて大苦戦を強いられます。とはいえ相手は動きが鈍い上に素人、浪巫謠がマップ兵器的に放った衝撃波で武器を取り落とした隙に、殤不患は蠍瓔珞を探すのですが――そこで目に入ったのは、ただ一人魔剣の犠牲になることなくその場に居合わせた少女の姿であります。
 もちろんこれを見過ごすことはできず、少女を助ける殤不患ですが――どう考えても不自然に見えたこの少女は蠍瓔珞の変身。不意打ちで猛毒の爪を受けて苦しむ殤不患に、トドメの一撃を食らわせようと蠍瓔珞が襲いかかって――と、武侠ドラマにあるまじきキリのいいところで次回に続きます。


 前作同様、本作でも貧乏くじを引きまくる予感しかしない殤不患。誤解と濡れ衣は武侠の華ですが、その上に毒まで喰らうという状態で、この上失恋でもすれば武侠ものの不幸の数え役満状態ですが、さすがにこの方面は大丈夫(?)かな……
 しかしその不幸の原因の一端は、確実に鬼鳥を名乗るアイツにありますが――さて二人がいつ出会うのか、出会った時に何が起こるのか、それが今一番気になることは間違いありません。


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2018.10.03

『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀2』 第1話「仙鎮城」

 魔剣目録の隠し場所を求め、護印師の砦・仙鎮城を訪れた殤不患。城主・伯陽侯に目録を預けて城を離れた殤不患だが、その前に西幽での旧友・浪巫謠が現れ、仇敵の配下・蠍瓔珞が東離に潜入したと警告する。急ぎ引き返した殤不患だが、既に城内には無数の恐るべき蠍が待ち受けていた……

 世を騒がした恐るべき魔剣妖剣邪剣の数々を集め、封印した魔剣目録。封印されたその数実に36本――から1本減って今は35本ですが、その剣の数々を封印し、それが悪人の手に渡らぬように手に遠く西幽の地から東離までやって来た剣侠こそが本作の主人公の一人・殤不患であります。
 この魔剣目録を封じる場所を求めていま彼が訪れたのは、護印師の一人・伯陽侯が治める仙鎮城。難攻不落と謳われるだけに、門番に早速誰何される殤不患ですが、同じ護印師にして前作で殤不患に助けられた丹翡の紹介状でそこはクリアであります。

 見るからに厳めしい伯陽侯も、さすがに魔剣目録の存在には半信半疑であるものの、しかしここでも丹翡の紹介状がものを言って、殤不患の頼みを聞き入れるのですが――どうも事態を甘く見ている感があるのが気になります。そもそもこういう話で難攻不落を謳うのはフラグであって――というのはさておき、殤不患までもあっさり魔剣目録を預けて去ったのはいかにも油断であります。

 何はともあれ重荷を手放して城を出た殤不患ですが、その前に現れたのは紅蓮の装束をまとった謎の美青年。その手には奇怪な顔のついた琵琶が――と、その姿を目にした殤不患は驚きの表情を見せます。
 そう、この美青年こそは西幽で殤不患の相棒であった吟遊詩人・浪巫謠。極端に口数が少ない(プロの声優さんではないから)のを、手にした喋る琵琶・聆牙が補うという、なかなか愉快な人物であります。

 しかし久闊を叙する間もなく浪巫謠が告げたのは恐るべき知らせ――西幽で殤不患の仇敵であった禍世螟蝗の配下・蠍瓔珞が、彼らより一足早く東離に入ったというではありませんか。蠍瓔珞といえば、毒と忍びの名手と解説してくれながら、一人城に馳せ戻る殤不患ですが――もちろん時既に遅し。
 門番たちが気がつく間もなく、蠍瓔珞の操る恐るべき蠍――一刺しで犠牲者を硬直させ、その命を奪う――の前に城の守備はたやすく破られ、伯陽侯も無数の蠍に囲まれ、その命は風前の灯火であります。

 一歩遅く一刺しを受けた伯陽侯に荒っぽい応急処置をした殤不患ですが、そこに現れたのは真の敵たる蠍瓔珞。無数の蠍を奪って巻物を奪った彼女の術を見破り、相手が美女であろうがかまわず一撃を食らわせる殤不患ですが、力では劣っても、技や奸智では上回るのはこの手のキャラの定番であります。
 隙をついて窓から外に飛び出した蠍瓔珞を追う殤不患の眼前で、目録を開いてみせた蠍瓔珞。明言はされていないと思いますが、おそらくは厳重に術が施され、殤不患以外は魔剣を解放できないと思われた目録の封印をあっさりと破られた殤不患は、さすがに驚きを隠せません。

 が、勝ち誇る蠍瓔珞に後ろから絶技を放つのは駆けつけた浪巫謠。琵琶をかき鳴らすことで衝撃波を叩きつけるという荒技に追いつめられた蠍瓔珞に一撃を放つ殤不患ですが――それが目録を二つに裂いた! やっぱり巻物争奪戦は巻物が破けないと! と喜ぶ一部の視聴者は放っておくとして、敢えて短い方の巻物を取った蠍瓔珞は、その場から消え失せるのでした。

 と、場所は変わって東離の衙門(役所)。ここで東離の役人を前に熱弁を振るうのは、西幽から精鋭を率いてやってきたという眼鏡の青年・嘯狂狷であります。西幽の捕吏である彼は、いかなる理由によってか、殤不患を鬼畜外道の大悪人、残虐非情にして怜悧狡猾な希代の奸賊と呼び、彼を捕らえるために協力を要請するのですが――そこに平然と現れたのは本当の大悪人にして希代の奸賊、本作のもう一人の主人公・凜雪鴉!
 大盗賊が衙門で何をやっているの、と言いたくなるところですが、ちゃっかりと中央より視察にやってきた役人・鬼鳥を名乗る彼は、何食わぬ顔で嘯狂狷との話に加わって――ああ、かわいそうな眼鏡君、と前作からの視聴者が皆思ったところで次回に続きます。


 というわけで始まった、武侠ファンタジー人形劇約2年ぶりの待望の続編。前作では巻き込まれた風来坊という態だった殤不患ですが、本作では彼が台風の目となる様子で、第1話に登場する新キャラが全て彼絡みというのが、今後の展開を期待させてくれます。
 もっとも、前作終盤で呆れるほどの強さ・格好良さを見せてくれた彼にしては、今回はいささか迂闊な場面が多かったような気もしますが――それもまたらしいといえばらしい。ラストに顔を見せただけでその場をさらっていった凜雪鴉ともども、本作での痛快な暴れっぷりに期待するばかりであります。


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2018.02.18

ドラマ版『荒神』 名作怪獣時代劇を見事に映像化 しかし……

 宮部みゆきの『荒神』が、BSプレミアムのスーパープレミアムドラマとしてドラマ化されました。原作は東北の小藩を舞台に謎の怪物の脅威に立ち向かう人々の姿を描いた怪獣時代小説の傑作、それを映像化するのはかなり難しいのではないかと思っていましたが、それを実現してのけた力作であります。

 東北の永津野藩家老・曽谷弾正の妹・朱音が暮らす名賀村での祭りの最中、深手を負い、旅の浪人・榊田宗栄によって担ぎ込まれた少年・蓑吉。朱音の屋敷に運び込まれた蓑吉は、住んでいた隣の香山藩の山村が、怪物に襲われて壊滅したと語ります。
 国境の砦に警告に向かう朱音と宗栄ですが、時既に遅く、怪物の襲撃を受けて砦は全滅。名賀村の人々は生き延びていた蓑吉の祖父とともに怪物を迎え撃とうと防備を固めます。

 一方、怪物の出現を知った弾正は、怪物が永津野藩主の血筋を狙うことを知り、藩主の娘である自分の妻を生贄にして怪物をおびき寄せんと、名賀村に現れ、朱音と再会するのでした。
 果たして怪物は何者なのか、何故今現れたのか。そして怪物と弾正・朱音の因縁とは……


 というわけで、文庫本で700ページ近い大作を2時間弱に収めるということで随所にアレンジが施されているものの、基本的な設定と物語展開は原作を踏まえたものであるドラマ版。

 放送前に何よりも気になったのは「怪物」の存在とその暴れぶりですが、これが想像以上に、いや想像を遥かに上回る露出で大暴れしたのが実に嬉しい。ビジュアル的にはいささかイメージと異なる部分もあったように思いますが、昼日中から出現して大暴れするその姿は迫力満点、大満足であります。

 特に村を舞台に暴れまわる場面は、対象物があまりない中で迫力を見せるのは難しいのでは――というこちらの予想を嬉しい形で裏切っての問答無用の大殺戮。地上波ではないとはいえ、老いも若きも容赦なく殺し、喰らう様をここまできっちりと見せてくれるとは思いませんでした。

 キャストの方も好印象で、特にこのドラマ版の二人の主人公とも言うべき朱音と弾正をそれぞれ演じた内田有紀と平岳大はまさにはまり役。優しさと凛とした部分を(そして同時にある陰も)併せ持つ朱音、そして野望と執念の男である弾正を、二人は見事に演じていたと思います。


 そんなこのドラマ版において、原作と比べての一番大きく印象に残る変更は、香山藩側の若侍である小日向直弥とやじの存在がバッサリとカットされたことでしょうか。
 直弥のキャラはおそらく宗栄に反映されている(そのため、原作ではもっと世慣れた人物であったのが随分と若い印象に)のかと思いますが、弾正とはまた異なる武家社会の側面を浮き彫りにするキャラクターだっただけに残念ではあります。

 そしてこの改変に象徴されるように、このドラマ版は永津野側に――そして何よりも弾正と朱音側に大きくウェイトを置いて描く形となっています。
 これはこれで限られた時間で描くためには仕方ないものかと思いますが、これによって、怪物に託して人間そのものの「業」を描いていた物語が、二人のそれを描くものにスケールダウンされてしまった印象は否めません(さすがに原作に秘められているであろう、あるモチーフを描くのは無理だとしても)。

 上に述べたように二人の好演はあるものの、それ故に(そして弾正の妻役の前田亜季のリキの入った演技もあり)二人の過去のエピソードが妙に生々しいものとして浮いてしまった感はありますし、そのために宗栄のキャラクターが浮いてしまったのが勿体無い。

 さらに言えば宗栄が終盤に朱音にかける言葉が、原作では非常に美しくも物哀しい、そして朱音に対する一つの救いを与えるものであったのが、全く趣もひねりもないもの(そもそもこの時代にない言葉だろう、というのはさておき)であったのは、個人的にはこのドラマ版最大の不満点でありました。

(も一つ、原作にはあった怪物の○○○○がなかったのも残念ですが、これはなくても話はまあ通るので……)


 と、厳しいことも書いてしまいましたが、BSとはいえプライムタイムに本作のような怪獣時代劇が、それも相当のクオリティを以て描かれたことは、やはり快挙であると言うべきでしょう。
 怪獣とはいわないまでも、今後も本作のような個性的な作品が映像化されることに希望の持てるドラマ化であったことは間違いありません。



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2018.02.01

『グレートウォール』 ハリウッド+中国の伝奇怪獣映画!?

 黒色火薬を求めて放浪する傭兵ウィリアムと相棒は、夜営中に謎の怪物に襲われ辛くも生き延びる。翌日、万里の長城の禁軍に捕らえられた二人は、襲ってきたのが怪物・饕餮であること、まもなくその大群が襲いかかることを知るのだった。果たして始まった襲撃の中、禁軍に助太刀するウィリアムだが……

 莫大な資金を投じて怪獣映画を次々と送り出してくれる、私のような人間には大変ありがたいレジェンダリーが、こともあろうに巨匠チャン・イーモウを監督に迎えて製作した伝奇怪獣映画――万里の長城は、実は怪物・饕餮の群れを阻むためのものだった、という途方もないアイディアを大真面目に映像化した作品であります。

 饕餮とは、中国の古代神話に描かれる四凶の一つ――牛のような体に角と牙、人のような顔を持った怪物のこと。古代の青銅器の、獣を正面から開きにしたような独特の紋様・饕餮紋のモチーフとして知られる存在です。
 それを本作においては、太古に北の地に落ちた隕石を起源とし、六十年に一度出現しては大地を埋め尽くす怪物――女王を中心に行動し、現れる度に知恵を付ける強大な怪物として描くのであります。
(しかし北方から来るのであれば、遼や女真はどうしていたのか……)

 主人公は、西方から流れてきた弓の達人の傭兵・ウィリアム(マット・デイモン)。
 長城での宋禁軍と饕餮の攻防戦に巻き込まれた彼が、女武人・リン(ジン・ティエン――『キングコング 髑髏島の巨神』や『パシフィックリム』の続編など、もうレジェンダリーの怪獣映画常連女優さん)やワン軍師(アンディ・ラウ)とともに必死の戦いを繰り広げることになります。

 しかし相手はあくまでも大群――一匹二匹は自慢の矢で倒せても(ウィリアムの矢、作中の他の兵器に比べても異様に強い)キリがありません。そこで古文書に残された饕餮たちの弱点、すなわち磁石が近くにあると女王の指令が届かず、行動が停止するという現象を利用して、ウィリアムたちは反撃に転じようとするのですが……


 というわけで、怪獣の猛威と人類の奮戦・苦戦、そして怪獣の弱点を突いての決死の逆転作戦と、ある意味怪獣ものの定番展開が繰り広げられる本作。
 実質中国映画らしく、凄まじい物量を感じさせる画面や、次々と繰り出される武侠ものライクな面白武器など、期待していたものはまず観れたように思います。

 キャラクター面でも、リンのゲームから抜け出してきたようなビジュアルは素晴らしく、この辺りを正面から映像化してしまうのも、さすがと言うべきでしょう。
(それにしても、あのバンジージャンプ的アタックは命が鴻毛より軽すぎるかと)

 ただ残念だったのは、肝心の饕餮があまり魅力的ではなかったことで――饕餮紋をモチーフにしたデザインは面白いのですが、あまりに数が多すぎる(そして種類が少なすぎる)ために、かえって緊迫感が薄れた印象があります。
 これは『髑髏島の巨神』もそうでしたが、ある意味野獣の群れとさして変わらないように感じられてしまう、とでも言えばよいでしょうか……

 さらに言えば肝心の弱点が早々にわかってしまうのも少々盛り上がりに欠けるところで、終盤の展開もいささか無理がある(あれだけ大きな国なのだから磁石くらい幾らでもあるでしょう)と、減点法で見るとかなり厳しくなってしまう作品ではあります。
(ツイ・ハークのディー判事ものだったら、この辺りは伏せた物語作りをしていたと思う――というのはさておき)

 戦場に生まれてただ金のために戦うことしか知らなかったウィリアムが信の想いを知る――すなわち人間性を獲得していく姿が、ただ命じるままに戦うしかない饕餮と対比されているであろう点はなかなか面白いとは思いますが……


 しかしこれだけの規模で、大真面目に時代伝奇怪獣映画を作ってくれたのはやはり嬉しいお話。

 こうなったらモンスターバースに繋げて、更なる続編を――というのは無茶な希望ですが、この路線の作品もまだまだみたいなあ、と強く感じた次第です。

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2018.01.06

『ワンダーウーマン』 彼女が第一次世界大戦を戦った理由

 舞台は1918年だから、という屁理屈で、このブログで取り上げさせていただきます。昨年世界中で大ヒットを収めたDCコミックス原作の映画――ガル・ガドットがダイアナ=ワンダーウーマンを演じた、初の女性スーパーヒーローを主人公とした映画であります。

 神話の時代から女性だけで構成されたアマゾン族が住む外界から隔絶された島・セミッシラで、戦士となることを夢見て鍛錬を重ねてきたダイアナ。
 ある日、ドイツ軍に追われて島に現れた連合国の諜報員スティーブ・トレバーと出会ったことから外界のことを知った彼女が、トレバーとともに島を出て、人間の世界とのギャップを経験する……

 という、ある意味『ローマの休日』の変奏曲(ちゃんとアイスに舌鼓を打ちますし)といった味わいもある本作ですが、もちろんその主な舞台は戦争。
 ドクター・ポイズンが開発した新型の毒ガスによって劣勢となった状況を逆転し、さらなる戦いを続けようとする狂的なドイツ軍人ルーデンドルフを止めるため、ダイアナはトレバーと彼が集めた独立愚連隊的な面々とともに、欧州の戦場を行くことになります。

 しかし外界とは隔絶した世界で暮らしていたダイアナにとって、この戦いは人ごととも言えるはず。それなのにこの戦いに加わったのは、その背後に、アマゾン族の宿敵であり、世界中に戦火を広げんとする戦いの神アレスの存在を察知したためであります。
 ルーデンドルフこそがアレスであり、彼を倒せば戦いが終わると考えたダイアナは、トレバーの制止も振り切って、ルーデンドルフに挑むのですが……


 元々は1941年という第二次世界大戦期に生まれたヒーローの物語を、それよりも早い時代――第一次大戦末期に移し替えた本作。
 そのオフィシャルな理由を私は存じ上げないのですが、おそらくはその最大の理由は、第一次大戦が、人類にとっての最初の世界戦争であったことではないでしょうか。

 一つの地方や国、大陸に留まらず、世界中に戦火を広げた第一次世界大戦。
 この世界大戦においては、本作にも登場した飛行機や戦車、そして毒ガスといった兵器の登場が戦場と被害を広げ、そして大規模化した戦いを支えるために「総力戦」――まさに本作のルーデンドルフのモデルであろうエーリヒ・ルーデンドルフが著書の題名に据えた――が展開されることとなりました。

 いわば戦いが戦士のものに留まらず、銃後の人々までも巻き込むこととなった初めての戦い――そこに無辜の民を守り、戦いの元凶を終わらせるために戦うというヒーローが登場する余地と必然性があると感じるのです。


 もっとも(大方の予想通り)ルーデンドルフはただの邪悪な人間であり、彼を倒しても戦いは終わりません。そして彼をはじめ、戦いを始め、終えることができない人類の愚劣さに。彼女も一度は絶望を経験することとなります。
 そんな、人類を救うための戦いに挫折したヒーローの心を、ただの一人の人間の行為が救うという展開は、定番とはいえやはり素晴らしい。いや、ここで初めて彼女は神話を信じる愚直な戦士から、人間を守るヒーローとなったと言えるでしょう。

 ヒーローはヒーローに生まれるのではなく、ヒーローになるのだと私は常々思っています。本作のクライマックスで描かれたものは、まさにこのヒーロー誕生の瞬間であり、ワンダーウーマンのオリジンを描く物語として相応しい内容であったと思います。


 もちろん、そこに至るまでの彼女の思考があまりに単純に見えるのは事実ですし、その後に本物のアレスが出現してしまうのも、物語的に仕方ないとはいえ、引っかかるところではあります。
 それ以上に、アレスを倒したらやっぱり戦争が終わった(ように見える)のは、いかがなものかと思わなくもありません。
(さらに言えば、女性映画的な視点がほとんどなかったのも残念でしたが、本作にその立場を期待すること自体が差別的な視点かもしれないと反省)

 それでもなお、世界最初の大戦争において人類を救うために戦い、その中で戦士からヒーローとして生まれ変わったワンダーウーマン(そして一人の人間として戦い抜いたトレバー)を描いた本作は、現代的な意味と魅力を持つスーパーヒーロー映画であったと、この文章を書いて、改めて感じた次第です。

(なお現代的といえば、ダイアナの外界での最初の戦いが難民を救うためというシチュエーションは『アイアンマン』と重なるのですが――これが現代における明確な正義のアイコンなのかな、と興味深く感じた次第)


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