2016.01.01

あけましておめでとうございます

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 昨年はこのブログを毎日更新し始めてから十周年を迎えることができました。もちろんこれは通過点に過ぎませんが、これからも一歩一歩着実に積み重ねていきたいと思います。
 その一方で、昨年はちょっと優等生的な視点を意識してしまい、我ながら少々不完全燃焼のところもありました。本年は「自分が面白いと思う作品が(自分にとっては)一番面白い」という初心に返って、自分の好きなものを好きなように好きと言っていきたいと思います。
 まずはその第一歩……というわけではありませんが、本年こそは「入門者向け時代伝奇小説五十選」をアップデートし、「入門者向け時代伝奇小説百選」を公開したいと思います。(と、実は一年前も同じことを言っていたのですが……)
 何はともあれ、本年もよろしくご愛顧のほどお願いいたします。



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2014.01.21

「文庫書き下ろし時代小説」の定義についてあれこれ考えたメモ

 いわゆる「文庫書き下ろし時代小説的な作品」とは何か、というものについて考えてみたいと思います。と、いきなり大上段に振りかぶりましたが、これから述べるのは、きちんとしたデータに基づくものではなく、あれこれ頭を捻っている間に浮かんだイメージを、忘れぬうちにメモしたものであります。

 今では完全に定着し、時代小説シーンで決して無視できぬ存在となった「文庫書き下ろし時代小説」でありますが、その名が示すように、元々は単なる刊行形態を示すものであることは言うまでもありません。そして最近ではその内容も相当に多様化し、私が好んで取り上げるような時代怪異譚で、この形態で刊行されるものも幾つもあります。

 にもかかわらず、「文庫書き下ろし時代小説」(以下、文庫書き下ろしと略します)と言った場合、我々の頭の中には、ある程度共通的なイメージがあるように感じます。
 それは何か――共通的と言いつつ曖昧模糊としたものを掴むために、その中心となるべき主人公のキャラクター…というよりその身分に目を向けてみましょう。

 冒頭で断ったとおり、これはあくまでも私の持っている印象でありますが、文庫書き下ろしの主人公の身分で飛び抜けて多いのは、浪人と町方同心ではありますまいか。

 たとえば書店の文庫書き下ろしが置かれた一角に行って書名を見てみれば、「○○兵衛△△剣」や、「□□同心××帖」というものが――一時期よりは減ったとはいえ――数多く目に付きましょう。
 これはそんな印象に基づくイメージに過ぎませんが――しかしこの両者には、実は二つの共通点があります。

 その一つは、彼らが江戸に(あるいは他の都市に)暮らし、それだけではなく、そこに暮らす庶民の目線に極めて近しい目線を持っていること。
 そしてもう一つは――これは当たり前じゃないかと言われるかもしれませんが――あくまでも彼らが武士という身分であること。この二つであります。

 まとめて言えば、文庫書き下ろしに多い――言い換えれば、多くの読者に受け入れられ、憧れの対象となっているのは、多くの読者がそうであるであろう庶民の目線を持ち、庶民の味方でありつつも、庶民より少し上の(しかし厳然と離れた)階級の人間なのです。

 そこにいるのは、ただ己の気の赴くままに己が殺人剣を振るい美女を抱く超人的な剣豪ではなく、天下の経世のために小を切り捨てても大を取る辣腕を振るう幕吏ではなく、ただ謎を解く快味に退屈を紛らわせることを求める天才的な探偵ではなく――自分たちと近くてちょっと遠い(ちょっと上の)人間なのです。


 閑話休題、文庫書き下ろしの一般的なイメージとは、彼らのような江戸市井に暮らす武士の(戦う力を持ち、身分も上の)主人公たちが、様々な事件を解決する物語…ということになりましょうか。

 もちろん、繰り返し申し上げているように、これはあくまでも私のイメージをまとめたものであって、穴は数多くあることは認めます(特に、決して少なくない職人・料理人・芸術家といったタイプの主人公がここからは漏れています)。

 とはいえ、たとえばこうして大衆小説の主人公像の最新モデルを見ることでその変遷を考えたり、また時代小説史を考える際に文庫書き下ろしの源流が奈辺にあるか考えたりするヒントにはなるのではないか…と考えています。
 そして何よりも、(身も蓋もない言い方をすれば)、今あるいは少し前まで、どのような作品が売れ筋であったのか、そしてそれは何故かということを考えることができるのではないかと感じます。

 いずれにせよ、折に触れてこのメモは見直してみたいと思います。



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2014.01.01

本年もよろしくお願いいたします

 あけましておめでとうございます。
 昨年一年については昨日、一昨日と長々と書かせていただきましたが、色々あったようななかったような…手応えがなかったなどとは間違っても申しませんが、まだまだなにかできたのではないかと考えさせられた一年でした。
 自分が何をしたいのか、自分に何ができるのか、時に原点に戻って考えつつ、前に進んでいきたいと思います。
 まあ、原点というのはただ一つ、少しでも多くの伝奇時代劇を紹介し、伝奇時代劇の楽しさを皆さんと共有することなのですが――
 伝奇時代劇アジテーターとして今年も頑張ります。まずは毎日の更新から…本年もどうぞよろしくお願いいたします。

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2013.01.01

あけましておめでとうございます

 新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 昨年も文庫書き下ろし時代小説の人気が衰える様子もなく、毎月大変な点数の作品が刊行されました。
 しかし、相変わらずのブームの一方で、徐々に変化が始まっているように感じられます。
 おそらくはこれまでと同様の作品、これまでと同様の内容というだけで売れるものはごく一部となり、クオリティの高さはもちろんのこと、その作品ならではという個性がこれまで以上に重要になるのではないか――そう感じている次第です。

 そしてその流れが先に具体化しているのは、文庫書き下ろし以外の、私が個人的にソフトカバー時代小説と呼んでいるスタイルの作品――若い層をターゲットとした、ライトでエンターテイメント色の強い作品――のように感じます。
 もちろん読者層が異なることもあり、全く同じ道を辿るとは申しませんが、少なくとも文庫書き下ろし時代小説の中にも、同様の作品が増えつつあることは間違いありません。


 と、一見堅そうなことを書きましたが、要するに来年はもう少し時代伝奇ものが増えないかなあ…と思っているだけなのですが、いずれにせよ、本年も毎日このブログで古今東西、メディアを問わず時代伝奇ものを紹介していきたいと思います。


 ちなみに昨年は、小杉健治「独り身同心 縁談」の解説、「この時代小説がすごい 文庫書き下ろし版」「忍城合戦の真実」掲載の作品紹介など、商業メディアでの仕事を担当することができました。
 可能であれば本年も、こちらの分野でも活動させていただければ…と考えているところです。


 それでは、本年も毎日このブログでお会いしましょう!

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2011.01.01

あけましておめでとうございます

 あけましておめでとうございます。昨年もこのブログをご覧になっている皆様のおかげで完走できました。
 本年も一日一日欠かすことなく頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 時代小説界では、昨年も文庫書き下ろし時代小説が相変わらずの人気であった一方で、若い層でも手に取りやすい内容・装幀のソフトカバー時代小説が増えてきました。

 この辺りに一つの希望があるようにも思いますが、まだまだ寂しいところ。
 口はばったいようですが、伝奇時代劇アジテーターとして、ここが頑張りどころと感じている次第です。

 今年も、少しでも伝奇時代劇の楽しさを知っていただくために、自分にできることは何でもブチ込んで頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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2010.01.06

坂本龍馬 声優リスト

 今日は「龍馬伝」放送開始(本当は「PEACE MAKER」ドラマ化)記念の小ネタであります。
 先日の「龍馬伝」放送開始により、龍馬俳優に福山雅治氏が加わったわけですが、さて、それでは龍馬声優はどんな顔ぶれなのだろう? とtwitter上で話題が出たので、wikipediaを中心にちょちょっと調べてみました。
 以下、アニメ・ゲーム等で坂本龍馬を演じた声優のリストです。

井上和彦 「機巧奇傳ヒヲウ戦記」「新撰組異聞 蒼き狼たちの神話」(ドラマCD)
井上真樹夫 「浮浪雲」
江原正士 「PEACE MAKER鐵」
遠藤章史 「修羅の刻」
小野大輔 「風雲幕末伝」「剣豪ZERO」(いずれもゲーム)
櫻井孝宏 「新選組群狼伝」「カオスウォーズ」(いずれもゲーム)
佐々木望 「サムライガン」
関俊彦 「お~い! 竜馬」(青年期)
高山みなみ 「お~い! 竜馬」(幼年期)
三木眞一郎 「The Time Walkers 2 坂本龍馬」(朗読CD)
山寺宏一 「幕末機関説 いろはにほへと」
若本紀昭 「まんが日本史」

 ざっと十数名、人数として多いか少ないかは意見がわかれるかと思いますが、なかなか興味深い顔ぶれかと思います。

 まことに恥ずかしながら、私も全作品を実際耳にしてチェックしてみたわけではないですが、私の耳にした範囲で、また顔ぶれを見た上で考えると、一種最大公約数的な龍馬像が浮かんでくるように感じます。

 特に、井上和彦、江原正士、関俊彦、山寺宏一の、各作品で主役級(レギュラーキャラ)の龍馬を演じた各氏を見るとそれは顕著なのですが、声質的に
・穏やかさ
・飄々とした味わい
を感じさせるという共通点があるのは、実に面白い。
 確かに、龍馬という人物には、武士でありながら武張ったところがなく、どこか人より遠くを見ているような印象がありますから――

 もちろん絵や音は付くとはいえ、基本的に声のみでその人物を表現しなければいけない声優だからこそ、よりその人物のイメージが凝縮されて現れる…というのは言い過ぎかとは思いますが、後世の人間が、歴史上の人物をどう見ているかという一つの表れとして考えることができるのではないでしょうか。

 アニメはどうかわかりませんが、おそらく今年はゲーム・CDなどで龍馬関連作品が出るのではと予想しています。これからどのような龍馬声優が登場するのか、楽しみにしているところです。


 ちなみに若本紀昭というのは、若本規夫氏の昔の芸名。まあ、時期的にはヒロ兄やシャピロをやっていた頃ではありますが…

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2010.01.01

明けましておめでとうございます

 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 昨年は「歴女」が新語・流行語大賞のトップテン入りしたことに象徴されるように戦国もの・歴史ものに脚光があたりました。
 また、時代小説では昨年も文庫書き下ろし時代小説ブームが続き、驚くほどの点数が刊行されました。

 しかしながら、伝奇時代劇については昨年も厳しい状況が続き、特に時代小説では、上記の文庫書き下ろし時代小説ブームと表裏一体の伝奇不作の状態であります。

 正直に言って、この状況は今年も続くかと思いますが、そういう時だからこそ、面白い作品を探し出し、紹介するのがこのブログの務め。
 漫画では相変わらずイキの良い作品が次々と登場していますし、映像・舞台・ゲームの世界でも、伝奇ものはまだまだ元気です。

 小説の方でも、たとえ新作が少なくても、まだまだ紹介できていない過去の名作は山のようにありますし、今年も色々と楽しい作品を紹介できると思います…いや、ご紹介します。

 こんな時期だからこそ、今年はもっともっとアンテナを高くして、できるだけタイミング良く、面白い作品をキャッチして、紹介していきたいと思います。


 本年も毎日更新で頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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2008.07.06

香席体験講座で源氏香を楽しむこと

 こういうサイトをやってるからにゃ、和モノの文化にできるだけ親しんでおかなくちゃ…というわけでもないのですが、東京都と銀座の専門店「香十」主催の香席体験講座に昨日行ってきました。

 今回行われたのは、香道の組香の中でも源氏香と呼ばれるもの。簡単に説明すれば、香5種を5包ずつ、合わせて25包の中からランダムに取り出した5包を順に聞いて、どれとどれが同じかを当てるというルールであります。
 その5包の組合せが52通り、それが源氏物語全54帖の初めの「桐壺」と終りの「夢浮橋」を除いた数に等しいため、残る52帖の各巻名を当てはめて回答するという…いや、昔の方はうまいことを考えたものです。

 本来は組香は主客合わせて10人で行うらしいのですが、今日は参加者だけで20人以上と相当な人数だったため、進行は基本的に全て略式。それでも5回香を聞いて味わって、どの香とどの香が同じか頭の中で吟味して…と、香席の気分はしっかり味わうことはできたかと思います。
 …まあ、肝心の成績の方は、5点満点で1点。どうも最初の回の聞き方が悪かったようで――想像以上に幽き香りで、ちょっとミスしただけで香りは飛んでしまうように思えます。

 ちなみに、一時間半の講座の最初30分は、香十代表の香道史…のみならず我が国における香りの文化史の講義だったのですが、ここでうちのサイト的に考えさせられてしまったのは、香道が――いやそれだけでなく華道や茶道といった芸道が――ほぼ同じ室町時代に成立したという事実。
 香りを楽しむ文化自体は、講座でも例に挙がった源氏物語に描かれているように、香道成立以前から存在したわけですが、それが数百年後の室町時代に初めて道として、言い換えれば思想とシステムを備えるに至ったのは何故か。文化の成熟度という点でいえば、より以前に成立していてもおかしくないものが…
 これは素人の勝手な想像ですが、社会的にはかなり流動的であった時代、それまでの規範が崩壊、新生した時期であったからこそ、室町期に複数の社会階層に適用可能な「道」が生まれたのではないか…私はそう感じます。

 と、ここでも一つうちのサイトらしいことを書けば、聞香、しかも源氏香とくれば、やっぱり真っ先に浮かぶのは「鵺」なわけで…この作品で源氏香のルールを覚えた身としては、ちょっと感慨深いものが(ってバカですか三田さん)。


 と、随分横道にずれましたが、これまで知識としてしか、漠然としか知らなかったものに直に触れることができたのは、良い刺激となりましたし、何より純粋に実に楽しい経験でした。幽き香りを一心に感じ取ろうとしている時には、日常のあれやこれやは頭から消えてなくなった…というのはこれは本当の話。
 香十の本店では定期的に聞香の講座を開催しているとのことですし、いずれまた、きちんとした形で香道を学んでみたいと考えているところです。

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2008.01.02

ネズミと伝奇時代もののお話

 さて、今年はネズミ年ということで、ネズミにまつわるお話を少々。
 ネズミと言えば、やはり家に住みついて食べ物を齧る厄介者、という印象。特に基本は農耕民族の日本人にとっては、ネズミの害というのは、やはり相当に恐ろしいものだったのだろうと容易に想像できます(というか今家にネズミが出没するので身を持って感じてます)。

 が、その一方で、七福神で田の神様でもある大黒様の遣わしめはネズミですし、多産であるネズミを豊かさのシンボルとするなど、ポジティブな捉え方もあるのが面白いところです。
 この大黒様とネズミの関係はどうも「古事記」で大国主神が野火に囲まれた際に、ネズミが地下の空洞を教えたことにより難を逃れて以来の付き合い(?)のようですが、この辺りからネズミは地中異界の住人というイメージがついて回っている様子。昔話の「おむすびころりん」も、この流れですね。

 と、前置きがずいぶん長くなってしまいましたが、時代伝奇・怪奇方面でネズミといえば、すぐに思いつくのは二人の怪人です。

 まず一人は頼豪阿闍梨。白河天皇の皇子誕生を祈祷し成功したものの、恩賞を延暦寺の横槍でフイにされ、恨みを呑んで死んだ果てに、怪鼠と化して延暦寺の経巻を食い破ったという人物です。
 このお話、「平家物語」をはじめとして様々な書物に記されていますが、高僧とネズミの妖魔という組み合わせが面白いのか、フィクションの世界でも、山東京伝の「昔話稲妻表紙」や馬琴の「頼豪阿闍梨怪鼠伝」に、頼豪本人あるいはモデルとしたキャラクターが登場しています。
 最近の作品にはあまり出番がないのが残念(?)ではありますが、これはやはり山門寺門の対立を知らないとその怨念の背景が今一つわかりにくいためなのかもしれません…(もっとも、その妖怪化した姿は「鉄鼠」として京極夏彦先生の作品で知られることとなりましたが――)

 さて今一人は歌舞伎の「伽羅先代萩」に登場する仁木弾正。お家壟断を目論む奸臣にして、大ネズミに変化する妖術師というユニークなキャラクターであります。
 元々、この物語は伊達騒動の舞台化であり、仁木弾正にも原田甲斐というモデルがいるのですが、もちろん現実の原田甲斐は(たぶん)妖術とは無縁の人物。それが何故、妖術師に、それもネズミの妖術を…というのは、恥ずかしながら不勉強ゆえ謎なのですが、花道のスッポンからドロドロと登場する姿は実に格好良く、強烈に印象に残ります。
 この人物を扱った作品としては、山風の「忍者仁木弾正」がありますが、しかし最もユニークなのは朝松健の「妖術先代萩」でしょう。妖術師・仁木弾正を、モデルである原田甲斐と真っ正面から絡ませた上で、あっと驚く正体まで用意してみせた本作は、古体な怪人を見事に現代に蘇らせてみせた隠れた快作であります。

 と、時代ものでネズミといえばもう一人――そう、鼠小僧次郎吉です。この希代の怪盗を主人公とした作品、あるいは脇役とした作品には枚挙に暇がありませんが、私個人として一つあげるとすれば、山風の「お江戸英雄坂」でしょうか。
 津軽藩主を襲撃とした下斗米秀之進、後の南町奉行・鳥居耀蔵、そしてケチな盗賊・鼠小僧…現代に英雄としてその名を残したのは誰か、という作者の皮肉が強く印象に残ります。


 さて――とりとめもなくネズミをネタに書いて参りましたが、最後に時代ものに登場したネズミで最も私の印象に残ったものを挙げるとすれば、それは「忍者武芸帳」に登場した地走りであります。
 さしもの影一族ですら逃走する、躱すしかなかったあの鼠禍こそ、時代もの最強のネズミじゃないかなあ…

 と、新年の幕開けに全くふさわしくないオチで申し訳ありませんが、ネズミのお話はこれでおしまい。

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2007.10.02

京都に行ってきました(もちろん時代もの関連) その二

 京都旅行話の続き。というか本題の「国際クロスメディアシンポジウム 歴史創作の魅力を探る~アジアンエンタテインメントの展望~」のお話であります。
 さて、このシンポジウムの(私ら的)メインは、何と言っても特別招聘講演たる、金庸先生の基調講演だったのですが、ここでアクシデント発生。

 何と、前日(前々日)の深夜になって、金庸先生来日中止のお知らせが――どうも体調を崩されていたようで、直前でドクターストップがかかったとのことですが、いやはやさすがに色々な意味でショックでした(香港から日本まで大した距離ではないですが、それでもいかんとなると、やはり心配にもなります)。
 もちろん、ここで丸々講演に穴が空いてしまうというわけにもいかず、金庸先生の片腕という話の孫立川氏が、金庸先生が事前に書いていたという原稿を朗読することとなり、さらにあの岡崎由美先生が孫立川氏と対談するという、これはこれで結構な内容となりました。

 で、その結果ですが――ううむ、残念ながらちょっと…という印象。「歴史創作、武侠、人のこころ」というタイトルから、大いに楽しみにしていたのですが、ちょっと期待していたものとは違っていたかな、というところでした。
 「中国と同様、日本の時代ものでも公平と正義が重んじられた結果、信長を裏切った光秀は日本ではいつも悪役」とか、「大デュマやウォルタァ・スコットなど西洋の歴史小説は真面目すぎてあまり面白くない」といったあたりは、まあ認識の相違とかサンプリングのナニということでまあ良いのですが、中国での金庸読者層を、他国、特に日本にそのまま当てはめているように話されていたのが非常に気になりました。

 中国での金庸読者層が、老若男女ほぼあらゆる層にわたって非常に広いのはよくわかるのですが、日本における読者層は――あまり言いたくないのですが――正直に言って極めて狭いとしか思えません。
 私の見たところでは、時代小説ファン層とも、ライトノベルファン層ともまた異なる(もちろん重なる部分は色々とありますが)、まさに武侠ファン層としか言えない層が日本における読者なのではないかと、強く感じているところです(さすがに岡崎先生はその点は認識されていると思いますが…対談でもその辺りは特に触れられず)

 金庸の作品と、いや武侠小説に比されるものは、日本においてはやはり時代小説・歴史小説と見えるのでありましょうし、それにはおおむね同意できるのですが、やはりそれぞれの特質を考慮に入れずに同質のものと考えるのは、やはり危険なのではないかな、と愚考した次第です。
(いつか、日本の時代伝奇小説と中国の武侠小説、さらには欧米の伝奇小説を比較して論じてみたいのですが、それにはまだまだ私は勉強不足です)


 さて、そしてイベントの第二部のシンポジウムなのですが、これも何というか微妙な味わい。
 出席者は、司会である細井立命館大学教授のほか、坂上東映常務、若泉NHKチーフ・プロデューサー、松原コーエー代表取締役で、まずこのお三方のプレゼンテーションがあったのですが、これがそれぞれの業務紹介の域を出なかったのが何とも…(それどころか単なる繰り言を延々と言ってる方もいましたが、敢えて名は伏せます)。
 「歴史創作」(というネーミングについても出席者は違和感を持っていたようですが)についてはさておき、「クロスメディア」という魅力的な概念について、ほとんど全くプレゼンの中で考慮されていなかったのが、残念でなりません(が、これはおそらく、主催者側の責任でしょう。というより、敢えて狙ったものかしら?)。

 一方、その後のパネルディスカッションについては、それなりに充実した内容であったかと思います。
 「歴史創作」の魅力、それを現代においても行い続けることの意味…一部、あまりにも司会のまとめ方がうますぎて、かえって議論が深まらないという部分もありましたが(ある意味珍現象ですなこれは)、こちらについては、ほぼこちらの聞きたかったことを聞くことができたかな、という印象であります。

 特に――これは全く私が意識していなかったことなのですが、現在様々なジャンルでクロスメディアが行われている中で、そのほぼ唯一の成功例がこの「歴史創作」という指摘は、大いに蒙を啓かれた思いです。
(ちなみにこのシンポジウム中では、その理由については明確には述べられなかったのですが、これはまず間違いなく、「歴史創作」の根底に、変えることのできない現実、すなわち史実があるという点から来ているのでしょう)。


 …と、全般的に厳し目の感想となってしまいましたが、「クロスメディア」というまだまだ馴染みの薄い概念を中心にしたシンポジウムとしては、うまくまとまった部類ではないかと思います。
 もちろん、上でも少し触れましたが、出席者それぞれに、「クロスメディア」に対する意識――それがいかなるものであれ――は持っていただきたかったところではありますが、それがあまりない、というのも現時点の答えではあるのでしょう。

 普段、小説・漫画・ゲーム・映像等々ごたまぜに扱っているうちのようなサイトとしては、やはり「歴史創作」と「クロスメディア」の関係は非常に気になるところでありまして、今後とも是非この関係を探る試みは続けていただきたいと願っているところです(個人的には、もう一回り二回り若い層のクリエイターの意見をうかがったみたいところなのですが)。


 と、わかったようなわからんようなイベント感想記おしまい。

 最後に、ほとんど初対面だった私に大変良くして下さった武侠ファンの方々に厚く御礼申し上げます。そして、今後ともよろしくお願いいたします――


 …今頃になって気づいた。正子公也先生のブースに行きそびれた――!

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