「モノノ怪」 第十二話「化猫 大詰め」
楽しかった三ヶ月間もあっという間に過ぎ去り、遂に「モノノ怪」も最終回。「化猫」の大詰めは、かつての「化猫」と全く異なる物語の全貌を明らかにしますが…
全ての乗客が消えたかに見えた中、ただ一人帰ってきた新聞記者・森谷。彼の記憶を辿り、明かされた市川節子の死の真実――それは、男性社会の中で這い上がろうとしていた節子が掴んできた、地下鉄建設を巡る市長の汚職事件にやはり端を発していました。
汚職の証拠を掴んだ節子に一人記事を書かせておいて、森谷は密かに市長と結び、節子の記事を闇に葬ろうと画策。そして完成した節子の記事を巡ってあの鉄橋でもみ合ううち、節子は線路に転落、という結果となります。
そして節子が列車に轢かれるその直前まで感じていた、怒り・恨み・恐怖――その思いが、その場を通りかかった猫と結びついてモノノケと化した…というのが化猫の真でありました(この節子の死の直前のシーンがまた実に迫真の描写で…)。
その後、二ノ幕で描かれたように節子の死は、偶然事件に関わり合った人々の様々な思惑が結びついた果てに自殺として処理され、単なる不幸な事件として忘れ去ろうとしていた中、因縁の地下鉄が開通して、そこに化猫の復讐の顎が開かれた――それが化猫の理、ということになるのでしょうか。
さてこの真と理、旧「化猫」やこれまでの「モノノ怪」のエピソードに比べると、正直なところ、良く言えばストレート、悪く言えば意外性に乏しい内容であったかと思います。事件の真相については、二ノ幕までの情報でほぼ予想できる内容でしたし…
また、今回のエピソードの被害者たる市川節子嬢のキャラクターも、上昇志向が強く、いささか生臭い面もあって(旅館の仲居さんを見下したり)、こうした点なども含めて、ネットで見る感想は、否定的なものが多いかな、という印象があります。
僕個人としても、良くも悪くもあまりに綺麗に収まってしまった感があって、あれっというのが第一印象だったのですが、見返すうちに、これはこれで良いのかな…という気持ちもしてきました。
ある人間の明確に邪悪な意志に端を発した行為が、モノノケを生み、惨劇を招いた旧「化猫」に対し、個個人のちょっとした、小さなボタンの掛け違いが、積もり積もって惨劇を招いたこちらの「化猫」。
こちらのエピソードのスタイルからすれば、被害者だけが純粋無垢というのは、かえって不自然というべきかもしれません(少なくとも、あれだけ上昇志向がなければ、これほど強力なモノノケにはならなかったのでは…)し、この二つの「化猫」の物語の構造の違いは、なにやら近世と近代の、人間精神のありかたに起因するようにも思えてきます。
また――ラストに現れた無数の猫たちの姿は、いつまた、人の心のありようによって、新たなる思いを背負った「化猫」が、すなわちモノノケが生まれてもおかしくない、ということなのでしょう。そういった意味では、旧「化猫」とこちらの「化猫」は、一種の環を描いているようにも思えます。
そしてそれこそが、あえてこの番組のラストに「化猫」というエピソードを、背景となる時代を変えながら、登場人物のビジュアルを前作からほとんど変えずに描いた理由ではないかと、これはいささか牽強付会かも知れませんが、感じた次第です
何はともあれ、今期おそらく最高のクオリティで描かれた薬売りの変身シーン(良く見ると後ろにモノノケと化した節子さんの恐ろしい姿が映っていますが…)にはため息が出ましたし、空間全てがモノノ怪、という化猫の壮絶なビジュアルにも感心いたしました。
途中、森谷への審判(だったのでしょう、あれは)が挟まったためにアクションのテンポが崩れたと感じている方も多いかと思いますが、個人的にはその前の一連のシーケンスが神懸っていただけに、十分満足してしまいました。
(…あ、思わぬところに小田島様が。これじゃあモボ島様というよりモブ島様だなあ)
そしてラスト、EDに被せて描かれる後日談は甘甘ではありますが、しかし残された人々――それも一度は彼女の死を黙殺するのに手を貸した人々――の心に節子の存在が残ったということは、何よりの鎮魂となるのでしょう。
また、結局、後日談で不正が暴かれたことを考えると、モノノケの意志は、市長と森谷に復讐するだけでなく――復讐だけであれば、関係者を集めて証言させるまでもなく、あの二人を殺害すればよいだけの話ですから――、不正を明るみに出すこともあったのかなと感じたことです。
さて、最後に一つ、蛇足を承知で言えば、人が人である限り、モノノケが不滅であるのであれば、それを斬る剣も、またその剣を操る者もまた、薬売りの言葉にあるように、同様に存在し続けるのでしょう。
つまりここで「モノノ怪」という物語が一旦終わったとしても、退魔の剣を手にした薬売りの物語は、まだまだ続くということ。
薬売りとの二度目の再会を祈りつつ――「モノノ怪」の感想をここに終えさせていただきます。
いや、本当に楽しい三カ月間でした。
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